説明

抗癌剤としてのメルカプトプリン誘導体

本発明は、式x−s−s−yの新規なメルカプトプリン誘導体、例えば、S−アリルチオ−6−メルカプトプリン及びS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシド、並びにその医薬品組成物を提供する。これらの化合物は、非常に効率的な抗増殖薬であり、したがって、様々な疾患又は障害、特に増殖性、炎症性、皮膚、及び免疫性の疾患又は障害の治療に役立てることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なメルカプトプリン誘導体、及びその医薬品組成物に関する。メルカプト誘導体は、様々な疾患又は障害、特に、増殖性、炎症性、皮膚、及び自己免疫性の疾患又は障害の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
Elion他(1952)によって最初に合成された6−メルカプトプリン(6−MP)、並びにこれと代謝的に関係のある化合物、例えばアザチオプリン、6−メルカプトプリンリボシド(6−MPR、チオイノシンとしても知られる)、6−チオ尿酸、6−メチルメルカプトプリン(6−MMP)、6−メチル−チオイノシン5’−モノホスフェート、及び6−チオグアニン(6−TG)などは、アデニン及びグアニンの構造的類似体であり、したがって、この種類の化合物の治療的な、特に抗増殖的な性質が、長い間認識されてきた。
【0003】
事実、6−MP及び6−MPRは、デオキシチオGTPの直接置換により複製後のさらなる修飾及びミスマッチを引き起こすことによって、又はde novoプリン生合成の阻害によって、核酸合成を妨げる、細胞毒性プロドラッグである(Karran、2006)。
【0004】
これらの化合物の中で、6−MP、アザチオプリン、及び6−MPRは、最も卓越した治療薬であり、したがって現在、癌(特に白血病)、炎症性腸疾患(特に、クローン病及び潰瘍性大腸炎)、乾癬性関節炎、乾癬、ライター症候群、ベーチェット病、多発性筋炎、全身性エリテマトーデス、及び全身性血管炎などの様々な病状の治療に使用されている。アザチオプリンはさらに、臓器移植後の拒絶反応の予防に使用される(Carroll他、2003;Watters及びMcLeod、2003;Dubinsky、2004)。
【0005】
メルカプトプリンの様々な類似体が考案されてきたが、これらには主に治療上の欠点があり、特に、用量規定毒性という欠点がある。特に、これらの類似体の投与が行われる治療は、出生異常の高い発生率、及び長期間にわたって使用する場合には、骨髄抑制、肝臓障害、薬剤性肺炎及び膵炎などの有害な副作用をしばしば伴う。
【0006】
チオプリンは、3つの競合的酵素経路によって酵素的に変換されたプロドラッグであり:その第1のキサンチンオキシダーゼは、6−MPの酸化を触媒して生物学的に不活性な代謝産物、チオ尿酸にし;第2のヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)は、6−チオイノシンモノホスフェートの形成を触媒し、これをさらに、細胞性酵素によってチオグアニンヌクレオチドへと変換してもよく、次いでポリメラーゼによってDNAに直接組み込んでもよいものであり;第3のチオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)は、6−MP及び6−チオイノシンモノホスフェートから6−メチルメルカプトプリン(MeMP)及びS−メチル−チオイノシン5’−モノホスフェート(MeTIMP)へのS−メチル化をそれぞれ触媒する。後者は、ホスホリボシルピロホスフェートアミドトランスフェラーゼ、de novoプリン生合成の第1のステップの強力な阻害剤であり、それによって、プリン欠乏が引き起こされる(Karran、2006;Coulthard及びHogarth、2005;Krynetski及びEvans、1999;Cara他、2004)。
【0007】
このように、6−MP、6−MPR、及びこれらの様々な誘導体は、特に増殖性及び炎症性の疾患及び障害の分野において、並外れた治療可能性を有するが、これらの実施は、主に上述のようなそれらの細胞毒性及び/又は不十分な薬物動態が原因で、しばしば制限される。このように、メルカプトプリンの生物活性を保有する可能性があり且つそれと同時に様々な治療でのこれら化合物の使用に伴う制限を回避することができる、新規な治療薬の必要性が広く認識されており且つそのような治療薬を有することが非常に有利と考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明によれば、メルカプトプリン誘導体、例えばS−アリルチオ−6−メルカプトプリン及びS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシドは、6−メルカプトプリン及び6−メルカプトプリンリボシドの場合とそれぞれ同等の又は優れているDNA合成阻害作用を有すると共に、後者のそれぞれの単独での投与に関連した制限をさらに回避する、非常に効率的な抗増殖薬であることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって一態様では、本発明は、一般式
X−S−S−Y
の化合物、及び医薬品として許容されるその塩に関する
(上式で、Xは、下記の一般式のプリン残基であり:
【化1】


式中、RからRは、それぞれ独立に、共有結合、又はH、ハロゲン、SH、NR、O−ヒドロカルビル、S−ヒドロカルビル、ヘテロアリール、非置換ヒドロカルビル、ハロゲン、CN、SCN、NO、OR、SR、NR、若しくはヘテロアリールによって置換されたヒドロカルビル、又は炭水化物残基から選択され、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており、但し、R、R、及びRの1つは共有結合であることを条件とするものであり;
は、H、アルキル、炭水化物残基、又はNRであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており;
Yは、ヘテロアリール、非置換ヒドロカルビル、又はハロゲン、CN、SCN、NO、OR、SR、NR、若しくはヘテロアリールによって置換されたヒドロカルビルであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており;
破線は、8位の炭素原子と7位の窒素原子又は9位の窒素原子との間の二重結合を示し、但し、二重結合が8位の炭素原子と7位の窒素原子との間にある場合、Rは9位にあり、二重結合が8位の炭素原子と9位の窒素原子との間にある場合、Rは7位にあることを条件とするものである)。
【0010】
別の態様では、本発明は、上記で定義された化合物、又は医薬品として許容されるその塩、及び医薬品として許容される担体を含む、医薬品組成物に関する。
【0011】
本発明の化合物及び医薬品組成物は、増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された、疾患若しくは障害の治療に使用してよい。
【0012】
したがって、別の態様では、本発明は、増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された、疾患若しくは障害の治療のための、上記で定義された化合物又は医薬品として許容されるその塩の使用に関する。
【0013】
本発明はさらに、増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された、疾患若しくは障害を治療するための方法を提供し、前記方法は、上記で定義された化合物又は医薬品として許容されるその塩の治療有効量を、必要がある個体に投与するステップを含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】エタノール中でのS−アリルチオ−6−メルカプトプリン(以下、SA−6MP)のスペクトル分析を示す図である。図中の挿入図は、SA−6MPのHPLC溶出パターンを示す。吸光度は、210nmでモニタした。
【図1B】エタノール中でのS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシド(以下、SA−6MPR)のスペクトル分析を示す図である。図中の挿入図は、SA−6MPRのHPLC溶出パターンを示す。吸光度は、210nmでモニタした。
【図2A】[H]チミジンの組込みによって決定された、異なる濃度(0〜200μMの6MP又はSA−6MP)で処理したDaudi細胞の増殖を示す図である。未処理細胞は、対照として使用した(100%)。細胞は、37℃で16時間処理した。示される値は、平均±SEMである。
【図2B】[H]チミジンの組込みによって決定された、異なる濃度(0〜200μMの6MP又はSA−6MP)で処理したHela細胞の増殖を示す図である。未処理細胞は、対照として使用した(100%)。細胞は、37℃で16時間処理した。示される値は、平均±SEMである。
【図2C】[H]チミジンの組込みによって決定された、異なる濃度(0〜200μMの6MP又はSA−6MP)で処理したN87細胞の増殖を示す図である。未処理細胞は、対照として使用した(100%)。細胞は、37℃で16時間処理した。示される値は、平均±SEMである。
【図3A】MDR HT−29細胞に対する6−MP及びSA−6MPの致死効果を示す図である。細胞を、プロドラッグと共に37℃で16時間インキュベートし、トリパンブルー及びプロピジウムヨウ素(PI)で染色した。トリパンブルー排除試験後に細胞をカウントし、生存細胞のパーセンテージを計算した。或いは、生存可能なPI染色細胞のパーセンテージを、FACS分析によって決定した。示される値は、平均±SDである。生存率の値は、未処理の細胞()とは著しく異なっている(p<0.05)。
【図3B】Hella細胞に対する6−MP及びSA−6MPの致死効果を示す図である。細胞を、プロドラッグと共に37℃で16時間インキュベートし、トリパンブルー及びプロピジウムヨウ素(PI)で染色した。トリパンブルー排除試験後に細胞をカウントし、生存細胞のパーセンテージを計算した。或いは、生存可能なPI染色細胞のパーセンテージを、FACS分析によって決定した。示される値は、平均±SDである。生存率の値は、未処理の細胞()とは著しく異なっている(p<0.05)。
【図3C】Dauli細胞に対する6−MP及びSA−6MPの致死効果を示す図である。細胞を、プロドラッグと共に37℃で16時間インキュベートし、トリパンブルー及びプロピジウムヨウ素(PI)で染色した。トリパンブルー排除試験後に細胞をカウントし、生存細胞のパーセンテージを計算した。或いは、生存可能なPI染色細胞のパーセンテージを、FACS分析によって決定した。示される値は、平均±SDである。生存率の値は、未処理の細胞()とは著しく異なっている(p<0.05)。
【図3D】B−CLL細胞に対する6−MP及びSA−6MPの致死効果を示す図である。細胞を、プロドラッグと共に37℃で16時間インキュベートし、トリパンブルー及びプロピジウムヨウ素(PI)で染色した。トリパンブルー排除試験後に細胞をカウントし、生存細胞のパーセンテージを計算した。或いは、生存可能なPI染色細胞のパーセンテージを、FACS分析によって決定した。示される値は、平均±SDである。生存率の値は、未処理の細胞()とは著しく異なっている(p<0.05)。
【図4】PI染色を使用した、細胞死の評価を示す図である。MDR HT−29細胞を、6−MP又はSA−6MP(150μM)の存在下、37℃で16時間培養し、プロピジウムヨウ素(PI)で染色した。処理済み細胞の画像を、位相差顕微鏡法により観察して、通常の成長パターン(T、上部パネル)及びPIで染色された死細胞を示す処理済み細胞の蛍光画像(F、下部パネル)を決定した。
【図5A】未処理の細胞である、慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図5B】未処理の細胞に対して、50μMの6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図5C】未処理の細胞に対して、100μMの6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図5D】未処理の細胞に対して、150μMの6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図5E】未処理の細胞に対して、50μMのSA−6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図5F】未処理の細胞に対して、100μMのSA−6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)の、蛍光活性化細胞分別(FACS)分析を示す図である。細胞を、アネキシン−Cy5で染色し、FACSにより分析した。様々な薬物濃度でのアポトーシス細胞のパーセンテージを、分析結果の右上部分に重ね合わせた。
【図6A】種々の濃度(0〜150μM)の6−MP又はSA−6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)における、アポトーシス細胞のパーセンテージを示す図である。アポトーシス細胞は、アネキシンによるFACS分析を使用して測定し、細胞死は、トリパンブルー試験を使用して測定した。
【図6B】種々の濃度(0〜150μM)の6−MP又はSA−6MPにより37℃で16時間処理した慢性リンパ球性白血病B細胞(B−CLL)における、死細胞のパーセンテージを示す図である。アポトーシス細胞は、アネキシンによるFACS分析を使用して測定し、細胞死は、トリパンブルー試験を使用して測定した。
【図7A】Daudi細胞系における細胞増殖に対する、6−MP、6−MPR、SA−6MP、及びSA−6MPRの影響を示す図である。細胞を、種々の濃度(0〜150μM)のプロドラッグと共に、37℃で16時間インキュベートし、抗増殖作用について、XTTアッセイを使用して評価した。示される値は、平均±SEMである。
【図7B】N87細胞系における細胞増殖に対する、6−MP、6−MPR、SA−6MP、及びSA−6MPRの影響を示す図である。細胞を、種々の濃度(0〜150μM)のプロドラッグと共に、37℃で16時間インキュベートし、抗増殖作用について、XTTアッセイを使用して評価した。示される値は、平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、一態様では、上記で定義された一般式X−S−S−Yの、メルカプトプリン誘導体に関する。
【0016】
上記で論じたように、様々なメルカプトプリンはこれまで、特に抗増殖薬として、有益な治療活性をもたらすことが示されている。これらのメルカプトプリンは、プリン様骨格及びそこに結合する、例えば骨格の炭素原子に結合する1個又は複数の遊離チオール基を有するなど、共通の構造的特徴を共有する。
【0017】
本明細書で使用される「プリン様」骨格という句は、互いに縮合するピリミジン環及びイミダゾール環からなる構造、並びにその類似体を指す。プリン様類似体の例には、ピリミジン環の代わりにピラジン、ピリジン又はフェニル環を用いた、並びに/或いはイミダゾール環の代わりにフラン環及びピロール環などを用いた構造が含まれる。
【0018】
メルカプトプリンに関して本明細書で使用される「類似体」という用語は、メルカプトプリンの化学的及び/又は構造的特徴を共有し、したがって例えば、体内での核酸合成を阻止することが可能な化合物を指す。
【0019】
「誘導体」という用語は、その主な構造的特徴を維持しながら化学的修飾を受けている化合物について記述する。そのような化学的修飾には、例えば、1個若しくは複数の置換基及び/又は1個若しくは複数の官能性部分の置換が含まれる。
【0020】
本明細書で使用される「ハロゲン」という用語には、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードが含まれ、好ましくはクロロである。
【0021】
異なる基RからRの定義のいずれかにおける「ヒドロカルビル」という用語は、飽和又は不飽和でよく、直鎖状又は分岐状でよく、環状又は非環状でよく、又は芳香族でもよい炭素及び水素原子のみを含有する基を指し、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20シクロアルケニル、C〜C14アリール、(C〜C20)アルキル(C〜C14)アリール、及び(C〜C14)アリール(C〜C20)アルキルを含む。
【0022】
「C〜C20アルキル」という用語は、典型的には、1〜20個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状の炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、及びn−オクチルなどを含む。C〜Cアルキル基が好ましく、メチル及びエチルが最も好ましい。「C〜C20アルケニル」及び「C〜C20アルキニル」という用語は、典型的には、2〜20個の炭素原子及び1つの二重又は三重結合をそれぞれ有する直鎖状又は分岐状の炭化水素基を意味し、エテニル、プロペニル、3−ブテン−1−イル、2−エテニルブチル、及び3−オクテン−1−イルなどと、プロピニル、2−ブチン−1−イル、及び3−ペンチン−1−イルなどを含む。C〜Cアルケニル基が好ましい。「C〜C20シクロアルキル」という用語は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、及びビシクロ[2.2.1]ヘプチルなどの環式又は二環式ヒドロカルビル基を意味する。「C〜C14アリール」という用語は、フェニルやナフチルなどの炭素環式芳香族基を示し、「アル(C〜C20)アルキル」という用語は、ベンジルやフェネチルなどのアリールアルキル基を示す。
【0023】
基RからRの1個又は複数が、O−ヒドロカルビル若しくはS−ヒドロカルビルであり、又はOR若しくはSRによって置換されたヒドロカルビルであり、但し、Rがヒドロカルビルである場合、前記ヒドロカルビルのそれぞれは、好ましくはC〜Cアルキル、最も好ましくはメチル若しくはエチルであり、又はアリール、最も好ましくはフェニルであり、又はアラルキル、最も好ましくはベンジル基である。
【0024】
基Yが、OR又はSR基によって置換されたヒドロカルビルであり、但し、Rがヒドロカルビルである場合、前記ヒドロカルビルのそれぞれは、好ましくはC〜Cアルケニル又はアルキニルであり、より好ましくはC〜Cアルケニル又はアルキニルであり、最も好ましくはアリル又はプロパルギル基である。
【0025】
これらの基とNR及びNRにおいて、RからRは、それぞれ独立にH若しくは上記で定義されたヒドロカルビルであり、又はこれらが結合するN原子と一緒になって、飽和した、好ましくは5若しくは6員複素環であって、任意選択で窒素、酸素、及び硫黄から選択された1若しくは2個のさらなるヘテロ原子を含有する複素環を形成する。そのような環は、例えば1個若しくは2個のC〜Cアルキル基で、又は1個のアリル若しくはヒドロキシアリル基で、その環の、例えばピペラジン環の第2の窒素原子の位置で置換されていてもよい。基NR及びNRの例には、限定するものではないがアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ、フェニルメチルアミノ、ピロリジノ、ピペリジノ、テトラヒドロピリジノ、ピペラジノ、エチルピペラジノ、ヒドロキシエチルピペラジノ、モルホリノ、チオモルホリノ、及びチアゾリノなどが含まれる。
【0026】
「ヘテロアリール」という用語は、芳香族の不飽和特性を有する、N、O、及びSからなる群から選択された1から3個のヘテロ原子を含有した単環式又は多環式の環から得られた基を指す。ヘテロアリールの非限定的な例には、ピロリル、フリル、チエニル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリルチアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、1,3−ベンゾジオキシニル、ピラジニル、ピリミジニル、1,3,4−トリアジニル、1,2,3−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、チアジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、インドリル、イミダゾ[1,2−a]ピリジル、ピリド[1,2−a]ピリミジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズオキサゾリルが含まれる。ヘテロアリール環は、置換されていてもよい。多環式ヘテロ芳香環が置換される場合、その置換は、ヘテロ環又は炭素環式環で行われてよいことを、理解すべきである。
【0027】
背景のセクションにおいて詳述したように、RNAのリボヌクレオチド構成ブロックに類似しているメルカプトプリンリボシドは、体内での核酸合成を妨げることができる。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、R〜Rの少なくとも1個は、炭水化物残基である。
【0028】
「炭水化物」という用語は、炭素、水素、及び酸素原子を含有する分子について記述する。炭水化物は、環状又は直鎖状であり、飽和又は不飽和であり、置換され又は置換されていなくてもよい。好ましくは炭水化物残基は、1個又は複数の糖残基を含む。
【0029】
本明細書で使用される「糖残基」という句は、単糖、オリゴ糖、及び多糖を含めた糖部分の任意の残基を包含する。或いは、糖は、グルコシド、エーテル、エステル、酸、及びアミノ糖などであるがこれらに限定することのない、糖誘導体にすることができる。
【0030】
単糖は、加水分解によってさらに分解することができない単一の糖分子からなる。単糖の例には、限定するものではないがペントースが含まれ、例えば限定するものではないがアラビノース、キシロース、及びリボースなどが含まれる。
【0031】
オリゴ糖は、糖単位からなる鎖である。当技術分野及び本明細書で一般に定義されるように、オリゴ糖は、最大9個の糖単位からなる。オリゴ糖の例には、限定するものではないがスクロース、マルトース、ラクトース、及びセロビオースなどの二糖;限定するものではないがマンノトリオース、ラフィノース、及びメレジトースなどの三糖;及びアミロペクチンやSyalyl Lewis X(SiaLex)などの四糖が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0032】
本明細書で使用される「多糖」という用語は、分子当たり少なくとも10個の糖単位及び最大で数百さらには数千もの単糖単位からなる化合物であって、グリコシド結合によって1つに保持され且つその分子量が約5000ダルトンから数百万ダルトンまでに及ぶものを指す。一般的な多糖単位の例には、限定するものではないが、デンプン、グリコーゲン、セルロース、アラビアガム、寒天、及びキチンが含まれる。
【0033】
一実施形態では、炭水化物残基は糖残基であり、好ましくは単糖残基であり、より好ましくは5又は6員単糖残基であり、最も好ましくはリボシド残基である。最も好ましい実施形態では、Rがリボシド残基であり、したがって本発明によるプリン残基はプリンリボヌクレオチドと同様の構造、即ちRNAの構成ブロックを有するようになるが、したがってRNA合成を妨げることができ、抗増殖作用を示すことができる。
【0034】
本発明によるプリン残基は、ピリミジン環の様々な位置で、即ち2、6、又は8位で、ジスルフィド結合を介して上記で定義されたYに結合していてもよい。
【0035】
一実施形態では、プリン残基は、ジスルフィド結合を介してピリミジン環の6位でYに結合し、即ちRは共有結合である。
【0036】
別の実施形態では、プリン残基は、ジスルフィド結合を介してピリミジン環の2位でYに結合し、即ちRは共有結合である。
【0037】
他の実施形態では、プリン残基は、ジスルフィド結合を介してメルカプトプリンの8位でYに結合し、即ちRは共有結合である。
【0038】
好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、RはH、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、RはH、SH、又はメチルであり、RはH又は5員単糖残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。より好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、R及びRはそれぞれHであり、RはH又はリボシド残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。
【0039】
その他の好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、RはH、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、RはH、SH、又はメチルであり、RはH又は5員単糖残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。より好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、R及びRはそれぞれHであり、RはH又はリボシド残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。
【0040】
他の好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、R及びRは、それぞれ独立に、H、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、RはH又は5員単糖残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。より好ましい実施形態では、Rが共有結合であり、R及びRはそれぞれHであり、RはH又はリボシド残基であり、Yはアリル又はプロパルギルである。
【0041】
最も好ましい実施形態では、本発明の化合物は6−メルカプトプリンから得られ、したがって、Rが共有結合の化合物である。これらの化合物の代表的な例には、限定するものではないが、R、R、及びRがそれぞれHであり、Yがアリルであり、即ち、本明細書ではSA−6MPとも省略されるS−アリルチオ−6−メルカプトプリンである化合物と;R及びRがそれぞれHであり、Rがリボシドであり、Yがアリルであり、即ち、本明細書ではSA−6MPRとも省略されるS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシドである化合物とが含まれる(以下のスキーム1参照)。
【0042】
アリシン、即ちニンニクから得られる生物学的に活性な化合物は、一かけらのニンニクを押し潰すことによって、したがって酵素アリイナーゼをその基質、アリイン(S−アリル−L−システインスルホキシド)に曝すことによって、生成される(Stoll及びSeebeck、1951)。アリシンは、多くの健康上有益な効果をもたらすことが知られており、その中でも抗菌、抗真菌、及び抗寄生虫活性(Koch及びLawson、1996)、抗高血圧活性(Elkayam他、2000)、心血管系危険因子に対する治療的な効果(Eilat他、1995;Abramovitz他、1999;Gonen他、2005)、抗炎症活性(Lang他、2004)、及び抗癌活性(Koch及びLawson、1996;Agarwal、1996;Hirsch他、2000;Miron他、2003;Arditti他、2005)をもたらすことが知られている。
【0043】
アリシンは、遊離チオール基と素早く反応して生体膜に容易に浸透する(Rabinkov他、1998、2000;Miron他、2000)寿命の短い化合物であり、したがって、種々の代謝経路に影響を及ぼす点で効果を発揮する(Agarwal、1996)。しかし、アリシンは非常に不安定であるので、生体外でヒト血液中に投与した場合(Freeman及びKodera、1995)と生体内でラットに投与した場合(Lachmann他、1994)との両方において、それらの投与から数分で、血液中で素早く分解し、したがってその治療効果は、胃腸管に近い標的に限定される。
【0044】
先に開示したように、アリルメルカプトグルタチオン(GSSA)(Miron他、2000;Rabinkov他、2000)、S−アリルメルカプトシステイン(CSSA)、及びS−アリルメルカプトカプトプリル(CPSSA)(Miron他、2004)などのアリシン誘導体は、アリシンの場合と同様の抗酸化及びSH−修飾活性を保有するが、より穏やかである。特に、N87細胞(ヒト胃腺癌細胞系)及びCB2(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)の16時間のアリシン処理によって、用量に応答する手法でDNA合成及び細胞増殖が阻害され(Miron他、2003)、且つアリシンがB−CLL細胞にアポトーシスを誘発することが、開示された。
【0045】
以下の実施例1に示されるように、SA−6MP及びSA−6MPRは、以下のスキーム1に図示されるように、6−MP又は6−MPRをそれぞれ、水性溶媒中でアリシンと反応させることによって、容易に調製された。
【0046】
反応は、穏やかな塩基性条件下、例えば7.2〜8.5の範囲の塩基性pHを有する緩衝液の存在下で、行うことが好ましい。本発明の化合物を調製する方法は、さらに、得られた化合物を反応混合物から単離するステップと、任意選択で、知られている精製方法のいずれかによって、得られた化合物を精製するステップを含んでよい。実施例1で具体的に記述されるように、反応混合物からの化合物の単離は、反応混合物の冷却後に形成された沈殿物を収集することによって行われ;その沈殿物の収集は、水:エタノールの混合物からの再結晶によって行った。
【0047】
本発明による化合物は、同じチオール化反応を行うのでアリシンのアセチレノ(プロパルギル)類似体、ジプロパルギルジチオスルフィネートから調製することもできる。
【0048】
本発明の化合物はさらに、Antoniow及びWitt(2007)によって記述される、非対称ジスルフィドの調製に使用される任意のその他の調製方法によって調製してもよい。
【0049】
スキーム1:6−MP及び6−MPRとのアリシン反応
【化2】

【0050】
実施例2に示されるように、SA−6MP及びSA−6MPRの両方は、非常に効率的な抗増殖薬として作用することがわかった。具体的には、どちらの化合物も、非共役化合物、即ち6−MP、6−MPR、及びアリシンの場合と同等か又は優れているDNA合成阻害効果を発揮することが、示された。さらに、これらの化合物で様々な癌細胞を治療する間、SA−6MPで治療した細胞では、非共役メルカプトプリン6−MPで治療した癌細胞に比べ、高い致死効果及びアポトーシスB−CLL細胞のパーセンテージの著しい増加が観察された。B−CLL細胞でアポトーシスを誘発する本発明の化合物の高い効力は、これらの化合物が、白血病を治療する治療薬として非常に効率的であることを示す。これらの化合物の治療効力は、さらに、様々な癌細胞の代謝活性の阻害によって示され、これは癌細胞範囲の約90%であることがわかった。
【0051】
まとめると、2種の新たな6−MP類似体、SA−6MP及びSA−6MPRが、合成され特徴付けられた。いくつかの癌細胞系に対するこれら新たなプロドラッグの生物学的作用が評価され、XTTアッセイから得られたIC50値は、SA−6MP及びSA−6MPRに対する細胞の脆弱性を示す。様々なタイプの白血病細胞は、新しい薬物に対して高い感受性を示したが、接着細胞系はそれほど感受性が無かった。
【0052】
細胞の生存及び増殖に対するSA−6MP及びSA−6MPRの生物学的作用を、親反応体の場合と比較し、濃度依存性があることを見出した。SA−6MP及びSA−6MPRは共に、試験をした全ての細胞系に対し、当初のプロドラッグの場合よりも強力な悪影響を発揮することがわかったが、ほとんどの細胞系において、SA−6MPとSA−6MPRの抗増殖活性の間には、SA−6MPが有利であるが、ごく僅かな差があった。しかし、MOLT4及びジャーカット細胞は、試験がなされるその他の細胞系に比べ、6−MPよりも6−MPRに対してより感受性があった。6−MP耐性MOLT4細胞がメチルメルカプトプリンリボシド(meMPR)に対して高い感受性を示し(Fotoohi他、2006)、meMPRに関する明確な輸送経路及び6−MPの場合のバイパスの存在が示唆されることを考慮すると、「逆転した」感受性に関する可能性ある説明は、6−MP耐性メカニズムに在ると考えられる。耐性細胞は、非耐性細胞に比べ、de novoプリン合成に関わるいくつかのタンパク質をコード化するmRNAのレベル、並びにリボヌクレオシド三リン酸のレベルに関し、著しい低下を示した。
【0053】
6−メルカプトプリン及びアリシンを組み合わせた活性は、各親化合物に比べて新たな誘導体の抗増殖能力を増大させるが、おそらくはアリシン分子の二重の効力によってアリシンの抗増殖活性を超えないと予測された可能性がある。しかし、6−MP及び6−MPRの抗増殖特性は改善された。
【0054】
増大したSA−6MP及びSA−6MPRの効力は、親プロドラッグ、即ちそれぞれ6−MP及び6−MPRに比べ、3つの動作メカニズムに帰することができる:
(i)両方の部分を組み合わせた性質、即ち、核酸合成を妨げるヌクレオチド類似体であるメルカプトプリンと、アリシンから得られたアリルメルカプト残基とを組み合わせた性質は、細胞内の少ないグルタチオン及びその他の不可欠な遊離SH基の欠乏を引き起こし、それによってアポトーシスをもたらす(Miron他、2007)。両方の効果は、新しいプロドラッグによって発揮されることが示された;Daudi、Hela、及びN87細胞でのDNA合成の阻害と、アポトーシスB−CLL細胞の数の増加;
(ii)新しいプロドラッグの、より高い疎水性によって、親分子に比べてより良好な細胞内へ浸透が可能になる。その結果、より大量の6−MP又は6−MPRが、グルタチオンとアリルチオ−プロドラッグとの間の細胞内反応から放出される;
(iii)6−MP及び6−MPRは遊離SHを有し、これが酸化すると、S−S架橋によって接続された不活性ダイマー(プリン−S−S−プリン)を形成する(Goyal他、2001)。不活性6−MPダイマーは、確かに、6−MP処理細胞系の媒体中に見られたが、SA−6MP処理細胞の媒体中には見られなかった。チオプリン分子の一部のみがその活性形態で生ずるという事実は、高いプロドラッグ濃度が必要であることを説明している。新しい誘導体のアリルチオ部分は、遊離SHをそのような酸化から保護する。細胞減少環境に進入した後に初めて、混合ジスルフィドSA−6MPが切断され、それによって、より低い濃度でより高い効率がもたらされた。提案された、細胞内でのSA−6MPと遊離チオールとの反応に関するメカニズムを、以下のスキーム2に示す。
【0055】
試験がなされた全ての化合物の最も高い抗増殖活性は、アリシンによって生じた(Miron他、2003、2007;Arditti他、2005)。原位置でのアリシン生成による目標とされた死滅は、複雑な手順であり(Miron他、2003;Arditti他、2005)、またその他の投与手段には欠点があるので、その6−MP及び6−MPRとの組合せは、現在のところ最も実現可能な処理である。
【0056】
前述の事項に鑑み、本発明の化合物は、メルカプトプリンによって治療可能な病状の治療において、効率的に且つ有益に利用することができると結論付けられる。さらに、本発明の化合物が、ジスルフィド結合を介してアリル基に結合されたプリン残基である場合、本発明の化合物はさらに、アリシンによって治療可能な病状の治療で利用することができる。
【0057】
スキーム2:SA−6MPと遊離チオールとの反応に関して提案されたメカニズム
【化3】

【0058】
したがって別の態様では、本発明は、上記で定義された化合物、又は医薬品として許容されるその塩、及び医薬品として許容される担体を含む、医薬品組成物に関する。
【0059】
メルカプトプリンによって治療可能な現在知られている病状の例には、限定するものではないが、増殖性疾患及び障害、特に白血病、炎症性疾患及び障害、皮膚疾患及び障害、免疫疾患及び障害が含まれる。アリシンによって治療可能であることが現在知られている病状の例には、限定するものではないが、心血管疾患及び心血管危険因子、高血圧、癌などの増殖性疾患及び障害、細菌感染、ウイルス感染、寄生虫感染、及び真菌感染が含まれる。
【0060】
このように、一実施形態では、本発明の医薬品組成物は、増殖性疾患又は障害、炎症性疾患又は障害、皮膚疾患又は障害、或いは免疫疾患又は障害から選択された、疾患又は障害の治療のためのものである。そのような使用に好ましい化合物は、Rが共有結合であり、R及びRがそれぞれHであり、RがH又はリボシド残基であり、Yがアリルである化合物、即ちそれぞれSA−6MP又はSA−6MPR、又は医薬品として許容されるその塩である。
【0061】
本明細書で使用される「増殖性疾患又は障害」という用語は、増大した細胞増殖を特徴とする疾患又は障害を指す。本発明によって予防又は治療することができる細胞増殖状態には、例えば、癌などの悪性腫瘍及び良性腫瘍が含まれる。
【0062】
本発明の化合物で治療することができる増殖性疾患又は障害は、多形性膠芽腫、未分化星状細胞腫、星状細胞腫、上衣腫、乏突起膠腫、髄芽腫、髄膜腫、肉腫、血管芽細胞腫、及び松果体実質腫などの脳腫瘍;メラノーマ及びカポジ肉腫などの皮膚癌;パピローマ、ブラストグリオーマ、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、星状細胞腫、頭部癌、頚部癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、膵癌、胃癌、肝細胞癌、白血病、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、及びバーキットリンパ腫などの癌でよい。
【0063】
以下の実施例のセクションに示されるように、SA−6MP及びSA−6MPRは共に、癌性血液細胞の成長を阻害し且つ/又は死滅させるのに非常に効果的であり、したがってこれらの化合物は、白血病の治療に特に効果的であることがわかった。
【0064】
その他の非癌性増殖障害も、本発明の化合物を使用して治療可能である。そのような非癌性増殖障害には、例えば、狭窄、再狭窄、ステント内狭窄、血管移植片再狭窄、関節炎、リウマチ様関節炎、糖尿病性網膜症、血管形成、肺線維症、肝硬変、アテローム性動脈硬化症、糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、血栓性微小血管障害症候群、及び移植による拒絶反応が含まれる。
【0065】
本発明の化合物で治療することができる炎症性疾患又は障害には、例えば、多発筋炎、敗血性/毒素性ショック、急性呼吸不全症候群(ARDS)、喘息、全身性エリテマトーデス、皮膚炎(接触過敏症)、腹膜炎症、遅延型過敏反応、再灌流障害、火傷、移植による拒絶反応、慢性炎症性疾患、出血性外傷性ショック、転移などが含まれる。特に、本明細書に記述される複合体は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、ベーチェット病、多発筋炎、ライター症候群、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、及び脈管炎を含むがこれらに限定することのない、慢性炎症性疾患及び障害の治療に有用である。
【0066】
本発明の化合物で治療することができる皮膚疾患又は障害には、限定するものではないが、乾癬、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、及びその他の湿疹性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、扁平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡、表皮水疱症、蕁麻疹、血管性水腫、血管炎、紅斑、皮膚好酸球増加症、エリテマトーデス、及びにきびが含まれる。本明細書に記述される化合物は、特に、乾癬の治療に有用である。
【0067】
本明細書で使用される「免疫疾患又は障害」という用語は、免疫反応、細胞性若しくは体液性の免疫反応、又はその両方の発生に伴い、且つ/又は免疫系に影響を及ぼす、任意の疾患又は障害を指す。免疫疾患及び障害の例には、炎症性疾患及び障害、アレルギー及び自己免疫疾患が含まれる。
【0068】
免疫疾患の非限定的な例には、例えば多発性硬化、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、異染性白質萎縮症、炎症性脱髄多発神経根障害、ペリツェウス−メルツバッハー病、及びギラン−バレー症候群など、中枢神経系の脱髄プロセスを特徴とする脱髄疾患が含まれる。
【0069】
「自己免疫疾患」という用語は、一般に、罹患患者、例えば器官特異的自己免疫疾患(免疫応答は、例えば内分泌系、造血系、皮膚、心肺系、神経筋系、中枢神経系などを特に対象とする)、又は全身性自己免疫疾患、例えば全身性エリテマトーデス、リウマチ様関節炎、多発筋炎、移植による拒絶反応などの患者に通常は存在する抗原に対して、免疫応答が発生する免疫疾患を指す。本明細書に記述される化合物は、多発筋炎、全身性エリテマトーデス、又は臓器移植後の拒絶反応などの自己免疫疾患又は障害の治療に特に有用である。
【0070】
本発明によって提供される医薬品組成物は、従来の技法によって、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、1995に記載されているものによって、調製することができる。組成物は、固体、半固体、又は液体の形でよく、さらに、医薬品として許容される充填剤、担体、又は希釈剤と、その他の不活性成分、及び賦形剤を含んでよい。さらに、医薬品組成物は、複合体を持続放出させるために設計することができる。組成物は、任意の適切な経路によって、例えば静脈内、経口、非経口、経直腸、又は経皮的に投与することができる。投薬量は、患者の状態に依存することになり、施術者によって適切であると見なされるように決定されることになる。
【0071】
投与経路は、適切な又は所望の動作部位に活性化合物を効果的に輸送する任意の経路でよく、経口経路が好ましい。固体担体が経口投与に使用される場合、その製剤は、錠剤化してもよく、粉末若しくはペレットとして硬質ゼラチンカプセル内に入れてもよく、又はロゼンジの形にすることができる。液体担体を使用する場合、製剤は、シロップ、エマルジョン、又は軟質ゼラチンカプセルの形をとっても良い。タルク及び/又は炭水化物担体若しくは結合剤などを有する錠剤、糖衣丸、又はカプセルは、経口施用に特に適している。錠剤、糖衣丸、又はカプセルに好ましい担体には、ラクトース、コーンスターチ、及び/又はジャガイモデンプンが含まれる。
【0072】
このように、さらに別の態様では、本発明は、増殖性疾患又は障害、炎症性疾患又は障害、皮膚疾患又は障害、或いは免疫疾患又は障害から選択された疾患又は障害を治療するための、上記で定義された化合物又は医薬品として許容されるその塩の使用に関する。
【0073】
他の態様では、本発明は、増殖性疾患又は障害、炎症性疾患又は障害、皮膚疾患又は障害、或いは免疫疾患又は障害から選択された疾患又は障害を治療するための方法であって、上記で定義された化合物又は医薬品として許容されるその塩の治療有効量を、必要がある個体に投与するステップを含む方法を提供する。
【0074】
本発明の方法で使用される好ましい化合物は、SA−6MP及びSA−6MPR、又は医薬品として許容されるその塩である。
【0075】
次に本発明を、以下の非限定的な実施例により例示する。
【実施例】
【0076】
材料及び方法
材料及び概略的方法
2,3−ビス(2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホフェニル)−5−[(フェニルアミノ)カルボニル]−2H−テトラゾリウムヒドロキシド(XTT)、6−メルカプトプリン、6−メルカプトプリンリボシド、ジューテロコロロホルム(CDCl)、フェナジンメトスルフェート(PMS)、及びプロピジウムヨウ素(PI)を、Sigma(St Louis、MO)から得た。[メチル−H]チミジンは、Amersham(UK)から購入した。
【0077】
アリインを、前述のように合成した(Stoll及びSeebeck、1951)。アリシンは、固定化したアリイナーゼカラムに合成アリインを付着させることによって生成し(Miron他、2006)、濃度を前述のようにHPLCによって決定した(Miron他、2002)。2−ニトロ5−チオ−安息香酸(NTB)を、前述のように調製した(Miron他、1998)。
【0078】
質量スペクトルを、ESI−Electro Spray Ionization Modeを使用して、下記の条件でMicromass Platform LCZ 4000 Mass Spectrometer Instrmentで記録した:サンプルを5μl/分で直接注入し、窒素流を360リットル/時に維持し;使用した毛管は4.16KVであり;コーン電圧は43V、抽出器電圧は4Vであり;ソースブロック温度は100℃に維持し、脱溶媒温度は150℃に維持し;LM RES 14.4;HM RES 14.4;及びイオンエネルギー0.5であった。NMR実験は、Bruker Avance−500分光計で行った。SA−6MP及びSA−6MPRを、約5〜10mMでCDClに溶解した。これらの完全な割当ては、1D(H、13C、DEPT)及び2D(gs−COSY、gs−HSQC)NMR実験の組合せを使用して決定した。6−MP誘導体のHPLC分析は、流量が0.55ml/分である0.01%のトリフルオロ酢酸を含有する水に溶かしたメタノール(60%)を使用して、LiChrosorb RP−18(7μm)カラムで行い、その吸光度を210nmで検出した。純粋なS−アリルチオ−6−メルカプトプリン誘導体の濃度も、412nmでε14150M−1cm−1を使用して、NTBにより決定した(Miron他、1998)。
【0079】
細胞培養、細胞生存、及びアポトーシスアッセイ
以下の細胞系を使用した:N87、ヒト胃腺癌細胞系;Hela HtTA−1細胞、ヒト頚癌細胞系、結腸HtTA−1(Gossen及びBujard、1992)及びMDR HT−29、ヒト結腸腺癌細胞系。これらの細胞を、抗生物質及び10%熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)が補われたDulbecco修飾イーグル培地(DMEM)を使用して単層に成長させ;その他の細胞全てを懸濁液中で成長させ;その中でも、確立された細胞系は、HL60、ヒト白血球前骨髄球性白血病;U937、ヒト骨髄単核細胞:MOLT4、急性リンパ芽球性白血病から得られたT−リンパ芽球性細胞系;Jurkat、ヒトT細胞、リンパ芽球様細胞;Daudi、Burkittリンパ腫から得られたB−リンパ芽球様細胞系などである。B−CLL、抹消血単核細胞(PBMC)は、書面による同意書によるRaiステージIVの患者から引き出された、ヘパリン化全血から得た。血液細胞を、フィコール密度勾配遠心分離にかけ、単核細胞を所望の濃度に希釈した。懸濁液中の細胞を、2mM L−グルタミン、抗生物質、及び10%(v/v)熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)が補われたRPMI−1640中で維持した。
【0080】
細胞増殖を、生細胞による可溶生ホルマザン化合物へのテトラゾリウム塩の還元に基づき、96ウェルプレートで、XTT生死判別試験によって決定した。細胞(10000〜15000細胞/ウェル)を、96ウェルプレートに播いた。様々な濃度の6−MP、6−MPR、及びそれらのS−アリルチオ誘導体と共に16時間インキュベーションした後、50μlのXTT/PMS混合物(50μM PMS、0.1%XTT、培地中)を細胞に添加した。37℃で3〜4時間インキュベーションした後、サンプルの吸光度を、ELISAリーダで450nmで測定した。XTT/PMS溶液を添加する前に、SDS(1%、10μl/ウェル)を参照ウェルに添加した。
【0081】
DNA合成に対する6−MPの影響を、DNAへの[メチル−H]チミジンの組込みによって評価した。細胞を用いた実験の全ては、少なくとも3回ずつ実施した。接着細胞(N87、Hela HtTA−1、及びMDR HT−29)を、10000細胞/ウェル(96ウェルプレート)又は60000細胞/ウェル(24ウェルプレート)で播いた。懸濁液中の細胞(B−CLL、Daudi、HL−60、Jurkat、MOLT4、及びU937細胞)を、15000細胞/ウェル(96ウェルプレート)又は100000細胞/ウェル(24ウェルプレート)で播いた。接着細胞を、播いた後に37℃で6時間成長させ、その後、処理した。[メチル−H]チミジンの組込みの評価のために、細胞を、様々な濃度の6−MP誘導体で、37℃で16時間、[メチル−H]チミジン(0.8〜1.0μCi/ウェル)の存在下で処理した。次いで、プレートを凍結させた(−20℃、1時間)。接着細胞を、収集する前にトリプシン処理した。懸濁液中の細胞は、凍結細胞を解凍した後に直接収集した。
【0082】
種々の濃度の6−MP誘導体で処理した(16時間、37℃)B−CLL細胞でのアポトーシス分析は、FACS分析によって行った。B−CLL細胞を、FITC−CD19抗ヒト抗体(Becton Dickinson、NJ、USA)と共に、4℃で20分間インキュベートした。結合していない抗体を洗い落とした後、サンプルを、140mM NaCl及び2.5mM CaCl(HBS)を含有する10mMのHEPES pH7.4緩衝液中で、5μlのアネキシン−Cy5(Pharmingen、San Diego、CA、USA)と共に、室温で10分間インキュベートした。その後、結合していないアネキシンを洗い落とし、サンプルを、FACSアナライザ(Becton−Dickinson、NJ、USA)を使用して分析した。リンパ球をカウントし、前方及び側方散乱でそれらのサイズに応じてゲート制御した。
【0083】
細胞死は、トリパンブルー染料排除試験又はピロピジウムヨウ素(PI)の組込みによってモニタした。処理した細胞を、PI(2μg/ml)と共に37℃で20分間インキュベートし、HBSで洗浄し、蛍光顕微鏡で検査し、蛍光活性化細胞分別を使用するフローサイトメトリーで分析した(CellQuestソフトウェア(BD Bioscience、San Jose、CA)を使用する、Becton Dickinson FACScan Instrument)。単層細胞をトリプシン処理し、HBSで洗浄した後に、FACS分析を行った。
【0084】
統計分析
生存及び増殖の結果を、平均値±SD(n=3〜6)として表した。各細胞系ごとに、その結果を、二元配置分散分析(ANOVA)を使用して、その後、ボンフェローニ事後試験を使用して、使用した薬物の因子及びそれらの様々な濃度に関して分析し、p<0.05を有意と見なした。IC50値(平均±SEM)を、薬物濃度に対する生存度曲線の線形範囲から得た(XTTアッセイ)。
【0085】
(実施例1)
S−アリルチオ−6−メルカプトプリン(SA−6MP)及びS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシド(SA−6MPR)の合成
S−アリルチオ−6−メルカプトプリン(SA−6MP)を、上述のスキーム1に示したように、6−メルカプトプリン(6−MP)及びアリシンを反応させることによって調製した。6−MP(1ミリモル)をエタノール(100ml)に溶かした溶液を、室温で、アリシン(0.55ミリモル)の水溶液(55ml)に添加した。pHを、0.025Mまで(最終濃度)の固体のNaHCOを使用して、8.0〜8.4に調節した。反応速度を、6−MPがもはや検出されなくなるまで(約10時間)HPLC分析によってモニタした。エタノールを回転蒸発によって一部除去し、僅かに濁った溶液を4℃で保存した。結晶化した生成物、SA−6MPを、濾過によって収集し、冷水で洗浄し、乾燥した。濾液からエタノールを除去した後に、2回目の収集を行い、4℃で保存して沈殿させた。全体的な収率は80%であった。沈殿物をエタノール中に再度溶解し、水を添加した後に、再結晶を行った。
【0086】
S−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシド(SA−6MPR)を、上述のスキーム1に示したように、6−メルカプトプリンリボシド(6−MPR)及びアリシンを反応させることによって調製した。6−MPR(0.6ミリモル)を0.04Mリン酸緩衝液、pH7.2(40ml)に溶かした溶液を、アリシン(0.35ミリモル)を50%エタノール(10ml)の溶かした溶液に、室温で添加した。反応を4時間進行させ、4℃で保存した。反応速度をHPLC分析によりモニタした。生成物である白色沈殿物を濾過によって収集した。2回目の収集は、エタノールの除去後に行い、4℃で保存した。全体的な収率は85%であった。再結晶を、上述の通り行った。
【0087】
SA−6MP及びSA−6MPRの合成は、質量分析(エレクトロスプレーイオン化、ESI)及びNMRによって確認した。SA−6MP(分子量224)は、オフホワイトの結晶であり、エタノール中283nmで最大吸光度を示しており、E283は13780M−1cm−1であった。ESI−MS:m/z(%)=[M+H]=225.2(40);DMSO=79(100)。SA−6MPRは、白色結晶として現れ(ESI−MS:分子量356)、エタノール中での284nm E284でのその最大吸光度は、14240M−1cm−1であった。SA−6MP及びSA−6MPRのHPLC滞留時間は、図1Aから1Bに示されるようにそれぞれ8.7及び7.3分であった。NMR分析を、以下の表1に示す。ClogP値(疎水性分配係数)は、6−MP:0.823;SA−6MP:1.344;6−MPR:−1.191;SA−6MPR0.90であった。
【0088】
表1:CDClにおけるSA−6MP及びSA−6MPRのH及び13C NMR化学シフト
【表1】

【0089】
(実施例2)
細胞系におけるSA−6MP及びSA−6MPRの生物活性
様々な細胞系に対する6−MP及びSA−6MPの抗増殖効果を、DNA内への[H]チミジンの組込みを決定することによって評価した。0〜200μMの6−MP及びSA−6MPを、材料及び方法で記述したように、[H]チミジンの存在下、96ウェルプレートで培養したDaudi、Hela、及びN87細胞に添加した。図2A〜2Cに示されるように、SA−6MPは、6−MPよりも非常に高い効力でDNA合成を阻害し、試験が成された全ての細胞系では、処理によって、細胞増殖の用量依存性阻害をもたらした。さらに示されるように、プロドラッグの感受性は、細胞型依存性である。したがって、SA−6MPで処理したDaudi細胞では、N87細胞での100μM及びHela細胞での110μMに比べ、50%の阻害が約20μMで観察された。6−MPは、同じ濃度では増殖阻害を引き起こさなかった。
【0090】
並行して、細胞死を評価するために、トリパンブルー染料排除試験を使用した。特に、種々の濃度の6MP及びSA−6MPを、材料及び方法で記述したように、様々な細胞培養物(Daudi及びHela細胞、それぞれ30000細胞/ウェル)に添加した。細胞をトリパンブルーで染色して、いくつかの濃度の試験済み複合体の致死効果を、死細胞のパーセンテージとしてモニタした。図3A〜3Dに示されるように、6−MP及びSA−6MPによって誘発される細胞死は、共に濃度及び細胞型依存性であった。特に、MDR HT−29及びHela細胞などの単層細胞系は、100μMで16時間にわたる6−MP及びSA−6MP処理に対してほとんど非感受性であり;しかし、150μM SA−6MPで処理した両方の細胞培養物は、未処理の細胞に比べて低い生存度を示し、それぞれ40%及び65%であった(それぞれ、図3A〜3B参照)。200μMの6−MPによるHela細胞の処理は、僅かに低下した生存度(75%)をもたらした。50μMのSA−6MPで処理したDaudi細胞では、16時間後の残留生存度が約20%であったのに対し、100μMよりも高い濃度の6−MPは、細胞生存度に対して有意な効果は示さなかった(図3C)。B−CLL細胞は、6−MP処理(100〜200μM)に対してほとんど非感受性であった。150μMよりも高い濃度のSA−6MPは、残留生存度を75%まで低下させた(図3D)。
【0091】
多剤耐性細胞系に対する6−MP及びSA−6MPの毒性効果を決定するために、MDR HT−29細胞を、16時間にわたり150μMの6−MP又はSA−6MPで、16時間処理し、次いでPIで染色した。図4の上部パネルに示される位相差顕微鏡法から観察することができるように、上皮様成長は、SA−6MPで処理された細胞において阻害され、それに対して6−MP処理に関しては、阻害が観察されなかった。この発見は、図4の下部パネルで示される、PIで染色された細胞の蛍光顕微鏡法によってさらに裏付けられ、阻害が細胞死をもたらすことを示した。
【0092】
6−MP又はSA−6MPの存在下でインキュベーションした後の、B−CLLヒト抹消血単核細胞(PBMC)の生存度の僅かな低下について、さらに調査した。アポトーシスを受ける細胞をモニタするために、材料及び方法で述べたように、B−CLL細胞を様々な濃度の6−MP又はSA−6MPで処理し且つフローサイトメトリー分析にかけた。選別によれば、0〜150μMの間の範囲の6−MPで16時間処理したアポトーシス細胞のパーセント数に有意な増加はなく(図5A〜5D);しかし、50及び100μM SA−6MPで処理した場合、アポトーシス細胞のパーセント数は、それぞれ38及び95%に増加した(図5E〜5F)。
【0093】
図6A〜6Bに示されるように、6−MP及びSA−6MPによってB−CLL中で誘発されたアポトーシス(アネキシンによるFACS分析)及び細胞死(トリパンブルー試験)は、同時に生じなかった。
【0094】
Daudi白血病及び単層N87細胞に対する様々なプロドラッグの阻害効果を比較した。細胞を、96ウェルプレートに播き、次いで0〜150μMの6MP、6MPR、SA−6MP、又はSA−6MPRと共に、37℃で16時間インキュベートした。XTTを、37℃で3時間にわたりウェルに添加した。細胞生存度を、材料及び方法で述べたように、ELISAリーダを使用して、450nmでモニタした。
【0095】
図7A〜7Bに示されるように、6−MP又は6−MPR(0〜100μM)の存在下で成長させたDaudi細胞及びN87細胞は、細胞増殖の有意な損失が無いことを示した。僅かに低下した増殖が、150μMでN87細胞に関して観察された(6−MP約80%;6−MPR約75%、p<0.05)。6−MP及び6−MPRとは対照的に、SA−6MPは、Daudi細胞に対して非常に強力な抗増殖効果を有しており、その増殖を、50μMで15〜30%に低下させた。同じ濃度で処理したN87細胞では、残留増殖が50〜60%であった。50又は100μMのSA−6MPRで処理したDaudi細胞の残留増殖は、それぞれ60%及び25%であり、それに対して50又は100μMのSA−6MPRで処理したN87細胞では、残留生存度がそれぞれ約70%及び55%であった。150μMのSA−6MPRで処理したN87細胞の増殖には、完全な損失があった。
【0096】
細胞増殖に対する6−MP、6−MPR、SA−6MP、及びSA−6MPRの濃度効果(IC50値)を使用して、様々な細胞系での種々の薬物の効力について評価した。具体的には、懸濁液中の細胞、即ちDaudi、HL−60、U937、Molt−4、Jurkat、及びB−CLLを、0〜100μMのプロドラッグ濃度で試験し、単層細胞、即ちHela HtTA−1、MDR HT−29、及びN87は、0〜200μMのプロドラッグ濃度で試験した。どちらの場合も、細胞生存度は、トリパンブルー染料排除アッセイにより決定した。16時間6−MP誘導体で処理したものに関するデータを、以下の表2に示す。
【0097】
表2:癌細胞系における様々な6−MP誘導体の抗増殖濃度
【表2】


生存度の変化は検出されず
処理済み細胞の生存度は未処理よりも増加(+20%)
決定されず
【0098】
表2に示されるように、新しい誘導体、SA−6MP及びSA−6MPRは、細胞毒性の誘導に際し、親薬物、6−MP、6−MPRよりもさらにより効果的であることがわかった。さらに、SA−6MPは、SA−6MPRよりも良好な薬剤であった。特に、処理が成された白血病細胞系の中で、最も感受性が高いのはMolt−4細胞系であった。いずれもT細胞白血病細胞系であるMolt−4及びJurkat細胞は、試験をしたその他の細胞系に比べ、6MPよりも6−MPRに対してより感受性あがることは、注目すべきことである。SA−6MP又はSA−6MPRでの処理に対する白血病細胞系Daudi、HL−60、及びU937の感受性は、類似していた。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのB−CLL細胞は、この処理に対して非常に耐性があった。それにも関わらず、FACSの結果は、進行中のアポトーシスプロセスを示しており(図5E〜5F)、より長いインキュベーション時間によって細胞死をもたらすことができることを示唆している。試験をした単層細胞系は、懸濁液中の細胞よりも、SA−6MP及びSA−6MPRに対してそれほど感受性は高くない。
【0099】
表2に示されるように、試験をした細胞系のほとんどに関して計算された6−MPのIC50は、薬物に16時間曝したとき、200μMよりも高かった。これは、nM範囲で報告されたその他の結果に比べ、むしろ高い濃度であるように見えた。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)のT−細胞マイトジェン誘導芽球化に対する6−MPの生体外効果を示す、Sugiyama他(2003)によって先に開示されたように、アザチオプリン(AZ)又は6−MPで処理した4日後のIC50値は、それぞれ230.4±231.3及び149.5±124.9であった。その研究の処理済みの細胞は、この場合に使用されたものとは異なり、したがって曝された時間も異なるので、Sugiyama他によって開示された結果を表2に示される結果と比較することは不可能である。しかし、B−CLL細胞をアリシンで48時間処理したとき、アリシン誘導アポトーシスに関して計算されたIC50は20nMであり、それに対して16時間だけアリシンに曝した結果、約1000倍高いIC50が得られた(Arditti他、2005、図1)。
【0100】
(実施例3)
大腸炎の処理におけるメルカプトプリン誘導体の効力
この実験では、本発明の化合物の抗炎症活性を、大腸炎のモデルとして結腸の慢性炎症が誘発されたマウスを使用して生体内で試験した。具体的には、慢性炎症を、2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の直腸内投与(80mg/kg体重、0.9%NaCl中に溶解、30μl/マウス)によって、又はデキストランナトリウムスルフェート(DSS、2%w/v)を飲料水に溶かして5日間投与することによって誘発させる。
【0101】
マウスを、様々な量の6−MP若しくは本発明の化合物で、又は対照ビヒクルで処理し、炎症の発症は、大腸炎の誘導後7〜13日で生じた。大腸炎の発症は、体重及び便の硬さを測定することによって、毎日評価する。実験の終わりに、マウスを頚椎脱臼によって犠牲にする。結腸の長さ及び組織学的パラメータを使用して、様々な治療の効力を評価する。肉眼的病変分析を、前述のように行う(Wallace他、1989)。
(参考文献)








【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
X−S−S−Y
の化合物、及び医薬品として許容されるその塩
(上式で、Xは、下記の一般式のプリン残基であり:
【化1】


式中、
からRは、それぞれ独立に、共有結合、又はH、ハロゲン、SH、NR、O−ヒドロカルビル、S−ヒドロカルビル、ヘテロアリール、非置換ヒドロカルビル、置換されたヒドロカルビルであってハロゲン、CN、SCN、NO、OR、SR、NR、若しくはヘテロアリールによって置換されたヒドロカルビル、又は炭水化物残基から選択され、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており、但し、R、R、及びRの1つは共有結合であることを条件とするものであり;
は、H、アルキル、炭水化物残基、又はNRであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており;
Yは、ヘテロアリール、非置換ヒドロカルビル、又は置換されたヒドロカルビルであってハロゲン、CN、SCN、NO、OR、SR、NR、若しくはヘテロアリールによって置換されたヒドロカルビルであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはヒドロカルビルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、及び硫黄からなる群から選択された1〜2個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する5又は6員飽和複素環を形成し、追加の窒素は、置換されておらず、又はハロゲン、ヒドロキシル、若しくはフェニルによって置換されたアルキルによって置換されており;
破線は、8位の炭素原子と7位の窒素原子又は9位の窒素原子との間の二重結合を示し、但し、二重結合が8位の炭素原子と7位の窒素原子との間にある場合、Rは9位にあり、二重結合が8位の炭素原子と9位の窒素原子との間にある場合、Rは7位にあることを条件とし;
「ヒドロカルビル」は、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20シクロアルケニル、C〜C14アリール、(C〜C20)アルキル(C〜C14)アリール、及び(C〜C14)アリール(C〜C20)アルキルから選択された、飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の、環式若しくは非環式の、又は芳香族基を意味し;
「ヘテロアリール」は、O、S、及びNからなる群から選択された1から3個のヘテロ原子を含有する、単環又は多環式ヘテロ芳香環から得られた基を意味するものである)。
【請求項2】
からRの1個が共有結合であり、RからRのその他の2個が、それぞれ独立に、H、SH、ハロゲン、ヒドロカルビル、O−ヒドロカルビル、又はS−ヒドロカルビルであり、但し、ヒドロカルビルは、C〜Cアルキル又はNRであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H若しくはC〜Cアルキルであり、又はR及びRは、これらが結合する窒素原子と一緒になって、酸素、窒素、又は硫黄から選択された1個のさらなるヘテロ原子を任意選択で含有する6員飽和複素環を形成し、RはH又は炭水化物残基であり、Yはヒドロカルビルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
からRの1個が共有結合であり、RからRのその他の2個が、それぞれ独立に、H、クロロ、SH、C〜Cアルキル、又は−NRであり、但し、R及びRは、それぞれ独立に、H又はC〜Cアルキルであり、RはH又は単糖残基であり、YはC〜Cアルケニル又はアルキニルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記単糖残基が5又は6員単糖残基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
からRの1個が共有結合であり、RからRのその他の2個が、それぞれ独立に、H、クロロ、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、RがH又はリボシド残基であり、YがCアルケニル又はアルキニルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
が共有結合である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
が共有結合である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
が共有結合である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
が共有結合であり、Rが、H、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、Rが、H、SH、又はメチルであり、RがH又は5員単糖残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
が共有結合であり、Rが、H、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、Rが、H、SH、又はメチルであり、RがH又は5員単糖残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項11】
が共有結合であり、R及びRが、それぞれ独立に、H、SH、メチル、又はジメチルアミノであり、RがH又は5員単糖残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項8に記載の化合物。
【請求項12】
が共有結合であり、R及びRがそれぞれHであり、RがH又はリボシド残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項9に記載の化合物。
【請求項13】
が共有結合であり、R及びRがそれぞれHであり、RがH又はリボシド残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項10に記載の化合物。
【請求項14】
が共有結合であり、R及びRがそれぞれHであり、RがH又はリボシド残基であり、Yがアリル又はプロパルギルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項15】
が共有結合であり、R、R、及びRがそれぞれHであり、Yがアリルである、S−アリルチオ−6−メルカプトプリン(以下、SA−6MPと呼ぶ)である、請求項12に記載の化合物、及び医薬品として許容されるその塩。
【請求項16】
が共有結合であり、R及びRがそれぞれHであり、Rがリボシド残基であり、Yがアリルである、S−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシド(以下、SA−6MPRと呼ぶ)である、請求項12に記載の化合物、及び医薬品として許容されるその塩。
【請求項17】
請求項1に記載の化合物、又は医薬品として許容されるその塩、及び医薬品として許容される担体を含む、医薬品組成物。
【請求項18】
増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された疾患又は障害を治療するための、請求項17に記載の医薬品組成物。
【請求項19】
前記増殖性疾患又は障害が癌である、請求項18に記載の医薬品組成物。
【請求項20】
前記癌が白血病である、請求項19に記載の医薬品組成物。
【請求項21】
前記炎症性疾患又は障害が、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、多発筋炎、ライター症候群、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、又は脈管炎から選択され;前記皮膚疾患又は障害が乾癬であり;前記免疫疾患又は障害が、多発筋炎、全身性エリテマトーデス、又は臓器移植後の拒絶反応から選択された自己免疫疾患又は障害である、請求項18に記載の医薬品組成物。
【請求項22】
前記化合物が、S−アリルチオ−6−メルカプトプリン又はS−アリルチオ−6−メルカプトプリン9−リボシドである、請求項17から21までのいずれか一項に記載の医薬品組成物。
【請求項23】
上記で定義された増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された疾患又は障害を治療するための、請求項1に記載の化合物又は医薬品として許容されるその塩の使用。
【請求項24】
増殖性疾患若しくは障害、炎症性疾患若しくは障害、皮膚疾患若しくは障害、又は免疫疾患若しくは障害から選択された疾患若しくは障害を治療するための方法であって、請求項1に記載の化合物又は医薬品として許容されるその塩の治療有効量を、必要がある個体に投与するステップを含む方法。
【請求項25】
前記増殖性疾患又は障害が癌である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記癌が白血病である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記炎症性疾患又は障害が、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、多発筋炎、ライター症候群、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、又は脈管炎から選択され;前記皮膚疾患又は障害が乾癬であり;前記免疫疾患又は障害が、多発筋炎、全身性エリテマトーデス、又は臓器移植後の拒絶反応から選択された自己免疫疾患若しくは障害である、請求項24に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2010−520194(P2010−520194A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551311(P2009−551311)
【出願日】平成20年3月2日(2008.3.2)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000268
【国際公開番号】WO2008/107873
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509245717)
【Fターム(参考)】