説明

抗癌剤としての3−ブロモ−2−オキソプロピオン酸プロピルおよび誘導体

本発明は、優先的に癌において解糖を阻害する組成物を対象としている。具体的には、これらの抗癌組成物は、3-ハロ-2-オキソプロピオナートおよびエステル誘導体などその誘導体を含む。しかしながら、特定の態様において、抗癌組成物は3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムなどの3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム、および炭酸などの安定剤である。特定の態様において、本発明の組成物は、正常細胞が代替エネルギー源のための経路において利用する代謝中間体をさらに含み、それによって正常細胞への保護を提供する。他の態様において、3-ハロ-2-オキソプロピオナートまたはそのエステル誘導体は、放射線および/または薬物など付加的な癌療法と組み合わせて使用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞生物学、薬理学、および癌療法の分野に関する。特に、本発明は、癌治療学のための解糖阻害物質の分野に関する。
【0002】
本発明は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2004年7月29日に出願された米国特許仮出願第60/591,643号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
正常細胞と比較すると、癌細胞は一般に解糖の増加を示し、かつエネルギー供給を維持するために、ATP生成のための代謝経路により強く依存している(ワールブルク効果として公知である)。解糖に対する依存性は、癌細胞におけるミトコンドリアDNAの突然変異および発癌性形質転換に関連するミトコンドリア機能不全(呼吸傷害)、ならびに腫瘍組織における低酸素状態に一部起因すると考えられている。一方、能力のあるミトコンドリアを有する正常細胞は、酸化的リン酸化(呼吸)を通じてATPを効率的に生成することができ、かつ解糖が阻害されている場合は代替エネルギー源を使用することができる。さらに、大半の固形腫瘍を含む多くのヒト癌は、酸素供給が極度に制限された、または酸素供給を欠いた組織環境、すなわち血液供給が相対的に制限されている大型の腫瘍塊に一部起因する低酸素として公知の状態において増殖する。低酸素状態下では、癌細胞は、酸素を使用せずにATPを生成する解糖経路を使用する。この代謝適応によってさらに、癌細胞はそのエネルギー所要量を満たすために解糖に依存的になっている。したがって、ミトコンドリアの欠陥または低酸素環境のいずれかに起因する、エネルギー代謝および解糖への依存性における正常細胞と癌細胞の差異により、解糖の阻害によって癌細胞を優先的に死滅させるための生化学的原理が提供される。
【0004】
本発明は、一般に、解糖の阻害物質を用いて癌細胞を効果的に処置することを目標とする組成物および方法に関する。例示的な解糖阻害物質には、ピルビン酸に関連する組成物が含まれる。例えば、特に、神経変性障害、脳卒中、心筋虚血、喘息など酸化的ストレスを特徴とする状態を処置するためのピルビン酸誘導体が、米国特許出願公開US2003/0013656(特許文献1)、US2003/0013847(特許文献2)、US2003/0013657(特許文献3)、およびUS2003/0013846(特許文献4)に記載されている。
【0005】
3-ブロモピルバートによる脳グルタミン酸デカルボキシラーゼの不活性化は、TunnicliffおよびNgo(1978)(非特許文献1)によって説明された。
【0006】
腫瘍を処置するための脂肪酸合成の阻害は、EP0651636 B1(特許文献5)に記載されている。
【0007】
米国特許第4,935,450号(特許文献6)は、悪性細胞の代謝を支援するために利用可能なATPエネルギーの全体比率を制限するためにATP利用能抑制物質を投与することによる悪性細胞の処置に関する。
【0008】
米国特許第6,472,378号(特許文献7)は、癌を含むミトコンドリア疾患の処置のための、ピルビルウリジン化合物などのピリミジンヌクレオチド前駆体に関連する。
【0009】
WO 02/45720(特許文献8)、WO 03/105862(特許文献9)、および米国特許出願公開US2003/0139331(特許文献10)は、特に、癌細胞においてATPレベルを正常レベルの少なくとも15%に激減させる濃度のATP枯渇剤;ピリミジンアンタゴニスト;および治療対象の癌が感受性を示す抗癌剤の組合せを投与することによって、細胞内エネルギーおよびピリミジンを減少させることによる癌治療に関する。
【0010】
Koら(2001年)(非特許文献2)は、3-ブロモピルバートで処置した肝臓癌細胞に関して、インビトロでの解糖速度および細胞死の阻害を実証している。Geschwindら(2002年)(非特許文献3)ならびにHarrisonおよびDi Bisceglie(2003年)(非特許文献4)は、ウサギにおける肝臓癌の処置および転移性肺腫瘍の抑制のための3-ブロモピルバートの全身的送達を説明している。
【0011】
米国特許出願公開US2003/0087961(特許文献11)では、3-ブロモピルバートを含むATP産生の阻害物質を用いた、腫瘍の治療方法を記載している。特定の態様において、この阻害物質は、化学療法剤またはスカベンジャー化合物など第2の作用物質と共に投与される。
【0012】
米国特許出願公開US2003/0181393(特許文献12)は、3-ハロ-ピルバートを含む、癌治療用の解糖阻害物質に関連する。
【0013】
米国特許第6,670,330号(特許文献13)は、特に化学療法および放射線療法の治療計画の有効性を高めるための、腫瘍治療用の6種のカテゴリーの解糖阻害物質に関係する。特定の態様において、3-ハロピルバートが利用され得る。
【0014】
癌療法の提供が継続的に必要とされていることを考慮すると、解糖阻害の効果的な癌特異的標的を特に対象とする、付加的な化学療法剤が必要とされている。本明細書において説明する組成物および方法によって、この必要が満たされる。
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開US2003/0013656
【特許文献2】米国特許出願公開US2003/0013847
【特許文献3】米国特許出願公開US2003/0013657
【特許文献4】米国特許出願公開US2003/0013846
【特許文献5】EP0651636 B1
【特許文献6】米国特許第4,935,450号
【特許文献7】米国特許第6,472,378号
【特許文献8】WO 02/45720
【特許文献9】WO 03/105862
【特許文献10】米国特許出願公開US2003/0139331
【特許文献11】米国特許出願公開US2003/0087961
【特許文献12】米国特許出願公開US2003/0181393
【特許文献13】米国特許第6,670,330号
【非特許文献1】TunnicliffおよびNgo(1978)
【非特許文献2】Koら(2001年)
【非特許文献3】Geschwindら(2002年)
【非特許文献4】HarrisonおよびDi Bisceglie(2003年)
【発明の開示】
【0016】
発明の簡単な概要
本発明は、癌細胞がそのエネルギー供給を維持するためにATP生成のための解糖に依拠する要求を活用する、新規な抗癌組成物に関連する系および方法を対象としている。本発明の特定の局面において、抗癌組成物はグリコリシン(Glycolycin)であり、これは、エステル誘導体(3-ハロピルビン酸エステルとも呼ばれる)または炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素ナトリウムなどの安定剤によって安定化された、3-ハロ-2オキソプロピオン酸の塩(3-ハロピルビン酸ナトリウムとも呼ばれる3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムなど)など、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸の誘導体を含む。特定の局面において、グリコリシン組成物は、アルコールによる3-ハロ-2-オキソプロピオナートの適切なエステル化によって、または炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素ナトリウムを用いた3-ハロ-2-オキソプロピオナートの安定化によって合成される。3-ハロ-2-オキソプロピオン酸のエステルは、例えば、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸プロピル(本明細書においてはグリコリシンと呼ばれ得、また3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステルまたは3-ブロモピルビン酸プロピルとも呼ばれ得る)であるが、3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル;3-クロロ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル;3-ヨード-2-オキソプロピオン酸プロピルエステルでもよい。
【0017】
3-ハロ-2-オキソプロピオナートのエステルはまた、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル(本明細書においてはE-グリコリシンと呼ばれ得、また3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸エチルもしくは3-ブロモピルビン酸エチルとも呼ばれ得る);3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル;3-クロロ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル;または3-ヨード-2-オキソプロピオン酸エチルエステルでもよい。3-ハロ-2-オキソプロピオナートのエステルはまた、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル(本明細書においてはM-グリコリシンと呼ばれ得、また3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸メチルもしくは3-ブロモピルビン酸メチルとも呼ばれ得る);3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル;3-クロロ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル;または3-ヨード-2-オキソプロピオン酸メチルエステルでもよい。3-ハロ-2-オキソプロピオナートのエステルはまた、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ペンチルエステル(本明細書においてはP-グリコリシンと呼んでよい)でもよい。表1では、個々の例示的なグリコリシン化合物のリストを提供する。
【0018】
(表1)グリコリシンおよび例示的な誘導体化合物

【0019】
本発明の特定の局面において、3-ハロ-2-オキソプロピオナートとエステルを形成する化学物質の一般的クラスには、様々な炭素およびヒドロキシル基のアルコールが含まれるが、ただしこれは、それらが3-ハロ-2-オキソプロピオナートのカルボキシルと反応してエステルを形成することができ、次いでそのエステルが、生物学的系中のエステラーゼによって加水分解されて細胞内に活性な3-ハロ-2-オキソプロピオナートを遊離することができる限りにおいてである。代替の態様において、エステラーゼは、標的細胞に送達され得る組成物と共に提供され得る。特定の細胞への標的化は、癌を認識する抗体を用いるなど当技術分野における任意の適切な手段によって実現され得る。グリコリシン組成物およびエステラーゼの投与は任意の様式で実施され得るが、特定の態様において、逐次的にまたは個別投与によって実施される。
【0020】
本発明の特定の局面において、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムは、例えば3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム(3-ブロモピルビン酸ナトリウムとも呼ばれる)であるが、特定の態様において、3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム、3-クロロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム、または3-ヨード-2-オキソプロピオン酸ナトリウムでもよい。安定剤は炭酸を含み得るが、炭酸に加えてまたはその代わりに、代替の安定剤が使用され得る。例えば、最終的に炭酸を生成するならば、炭酸水素ナトリウムが利用され得る。
【0021】
本発明者らは、グリコリシンおよびその誘導体/類似体が、他の解糖阻害物質と比べて優れた薬学的諸特性を有すること、ならびに低酸素環境における、またはミトコンドリアの呼吸が欠陥を有している場合における、解糖への依存性が増した癌細胞において特に、解糖を効果的に妨害し、かつ細胞ATPプールの極度の枯渇および大量の細胞死を引き起こすことができることを示す。本発明の他の特定の局面において、グリコリシンは、正常細胞が解糖の阻害された事象において細胞生存のために適切なエネルギー所要量を維持する能力を増強するための代替エネルギー源を直接的にまたは間接的に提供する、1種または複数種の成分をさらに含む。この代替エネルギー源は任意の種類のものでよいが、本発明の特定の局面において、これは、エネルギー、例えばATPを生成する経路を正常細胞が利用するのを容易にするものなどの代謝中間体である。代替エネルギー源のためのこれらの経路は、例えばTCAサイクルおよびミトコンドリア呼吸でよい。さらに、代替エネルギー源は、これらの経路の利用を増進するように、これらの経路の代謝中間体またはその前駆体でよい。
【0022】
代謝中間体の具体例には、グルタミン、ピルバート、脂肪酸、および/またはそれらの混合物が含まれる。したがって、グリコリシンの作用メカニズムおよび癌細胞と正常細胞のエネルギー代謝の差異に基づき、グリコリシンの抗癌活性を著しく損なうことなくその毒性から正常細胞を保護するために、適切な成分を添加することができる。本発明のこの局面は、治療選択性の高い薬物製剤の態様を包含し、かつ本明細書において説明するグリコリシン誘導体のうちの任意のものがこのような様式で利用され得る。特に、本発明者らは、本明細書においてグリコリシン-G(グリコリシンおよびグルタミン)ならびにグリコリシン-P(グリコリシンおよびピルバート)と呼ぶ、このような例示的メカニズムに基づいた2種の製剤を設計した。
【0023】
本発明の特定の局面において、グリコリシンおよびその誘導体を作製するための方法が提供される。これらの作製方法は、以下の化学反応原理に基づいている:

式中、R1はハロゲン(例えばF、Cl、Br、またはI)であり、かつR2は、水素原子(H)、または直鎖構造(例えば-CH3もしくは-CH2-CH3、または-CH2-CH2-CH3)もしくは環構造(例えばベンゾール誘導体)中の多炭素基でよい。触媒は、例えば塩酸(HCl)または硫酸(H2SO4)などの濃酸である。これらの作製方法は、いくつかの態様において、かつ例に過ぎないが、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸(3-ブロモピルバートとも呼ばれる)、1-プロパノール、塩酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および2回蒸留水などの水を含む出発原料を含む。具体的には、塩酸の存在下、かつ適切な温度での1-プロパノールおよび3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸の化学反応により、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル(グリコリシンとも呼ばれる)が生成される。他の態様において、エタノールもしくはメタノールなどの代替アルコール、または反応性ヒドロキシルを有する別の化合物が、それぞれの3-ハロピルビン酸エステルを作製するために利用される。
【0024】
3-フルオロピルバート、3-ヨードピルバート、または3-クロロピルバートなどの代替の3-ハロピルバートを作製方法に利用し、それによって、例えば3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル、3-クロロ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル、3-ヨード-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル(E-グリコリシン)、3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル、3-クロロ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル、3-ヨード-2-オキソプロピオン酸エチルエステル、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル、3-フルオロ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル(M-グリコリシン)、3-クロロ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル、または3-ヨード-2-オキソプロピオン酸メチルエステルを生成してもよい。本発明のさらに別の局面において、3-ブロモピルバート、3-フルオロピルバート、3-ヨードピルバート、または3-クロロピルバートなどの3-ハロピルバートを、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムで安定化させることにより、それぞれ、3-ブロモピルビン酸ナトリウム(S-グリコリシン)、3-フルオロピルビン酸ナトリウム、3-ヨードピルビン酸ナトリウム、または3-クロロピルビン酸ナトリウムが生成され、かつ特定の態様において、これらの化合物は3-ブロモピルバートに対する場合と同様に安定剤から利益を受ける。
【0025】
本発明のいくつかの局面において、グリコリシン組成物は、所望の成分比率の所望の複合生成物を化学的に生成する方法によって調製されるが、他の態様において、グリコリシン組成物は代替の様式によって作製される。例えば、グリコリシンの成分は、商業的手段によって得ることができ、かつ所望の比率で混合して、グリコリシンの生成をもたらす化学反応を発生させることができる。所望の比率は、治療的効果を提供するような任意の種類のものでよい。特定の態様において、この比率は、好ましくは、アルコール(例えば1-プロパノール)のモル量が3-ハロピルバートに対して過剰であり、都合の良い収率でのグリコリシン生成をもたらす化学反応を発生させるような比率である。特に、1-プロパノール:3-ブロモピルバートに対して3:1または2:1のモル比率は、充分な化学反応を引き起こし、かつ触媒として濃塩酸(HCl)を用いることにより、グリコリシンを生成することが見出される。化学反応が完了した後、過剰なアルコール(例えば1-プロパノール)は、低温、低圧(適切な減圧)下で蒸発させることによって、容易に除去することができる。他の特定の態様において、炭酸成分は、抗癌活性を含む3-ブロモ-2-オキソプロピオナート成分に安定性を与える。治療上の利益は、少なくとも1つの癌細胞の破壊から、ある個体において癌の1種または複数種の症状に改善をもたらすことまでを含み得る。本発明の特定の局面において、3-ハロピルビン酸ナトリウムと安定剤の比率はそれぞれ約2:1である。
【0026】
本発明の特定の局面において、トリカルボン酸サイクル(TCA)経路、ミトコンドリア呼吸、または双方に由来する代謝中間体など1種または複数種の代替エネルギー物質を含むグリコリシン組成物が調製される。代替エネルギー物質は、グリコリシンを作製するための反応基質と混合されてもよく、またはそれらは、作製後に混合されてもよい。
【0027】
本発明の一つの特定の局面において、細胞にグリコリシンを送達することによって、任意の細胞における解糖を阻害するための方法がある。特定の局面において、この方法は、細胞においてアポトーシスおよび/またはネクローシスを誘導すること、または細胞の増殖を阻害することとしてさらに定義される。アポトーシスが誘導される態様において、このアポトーシスは任意の種類のものであり得るが、特定の態様において、これは、BAD、すなわちアポトーシスおよび解糖の統合に関与する分子の脱リン酸によって媒介される。アポトーシス細胞はまた、ミトコンドリア膜の透過性、サイトゾルへのチトクロムcの放出、および/またはカスパーゼの活性化の変化も示すことがある。ネクローシスが誘導される他の態様において、この形態の細胞死は、グリコリシンによって誘導される様々な生化学的変化および分子変化により引き起こされ得るが、特定の態様において、これは、細胞ATPの枯渇によって媒介される。さらなる局面において、解糖が阻害されている細胞は、癌細胞である。さらに、グリコリシンが特に有用となり得る細胞は、癌細胞において高頻度に発生する、ミトコンドリアDNA中の1種または複数種の変異に起因するミトコンドリアの1種または複数種の欠陥を有するものである。
【0028】
本発明の別の重要な局面において、グリコリシンが特に有用となり得る癌細胞は、低酸素環境、すなわち多くのヒト癌、特に固形腫瘍において頻繁に存在する状態にあるものである。低酸素状態下では、放射線治療およびある種の抗癌剤に対する癌細胞の感受性がより低くなることは、当技術分野において公知である。特定の態様において、グリコリシンは、低酸素状態における癌の処置に特に有用であり、かつさらなる態様において、低酸素状態に関連するものなど薬物耐性および放射線耐性に打ち勝つのに特に有用である。
【0029】
本発明のさらに別の局面において、グリコリシンが特に有用である癌細胞は、ATPをエネルギー源として使用して薬物分子を細胞外へ汲み出し、かつ多剤耐性表現型を与える、MDRおよびMRPなどの多剤耐性タンパク質を発現するものである。グリコリシンによる解糖の阻害および細胞ATPの枯渇は、ATP依存性の薬物ポンプのためのエネルギー源を癌細胞から奪い、したがって癌細胞を抗癌剤に対して再び感受性にする。特定の局面において、本発明者らは、多剤耐性の表現型を有する例示的なヒト白血病細胞株がグリコリシンに対して感受性のままであることを実証した。
【0030】
本明細書において説明する組成物および方法は、任意のタイプの癌に対して企図される。例えば、本発明は、脳の癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、卵巣癌、肝臓癌、骨癌、食道癌、結腸癌、頭部および頸部の癌、白血病、リンパ腫、黒色腫、脾臓癌、子宮頸癌、腎臓癌、ならびに/または咽頭癌のために利用され得る。本発明の特定の局面において、本発明者らは、グリコリシンが例えばヒト白血病細胞および固形腫瘍細胞に対して有効であることを実証した。このインビトロの治療活性は、培養細胞株および患者から単離された初代癌細胞の双方において実証され、かつ特定の態様において、インビボの治療目的用に企図される。
【0031】
本発明の特定の局面において、グリコリシンまたは代謝中間体と組み合わせたグリコリシンが、癌を処置するため、および/または癌の薬物耐性に打ち勝つために利用され、かつ特定の態様において、それは、別の癌療法と併用してまたはその後で利用される。本発明者らは、本明細書において、グリコリシンが、他の抗癌剤に耐性を示す癌細胞に対してその活性を維持することを実証する。より具体的には、他の抗癌剤または抗癌療法と組み合わせたグリコリシンが治療的な活性および選択性を高めることが企図される。解糖を介したATP生成が癌細胞にとって不可欠であるという状況から、癌細胞がグリコリシンに対する耐性を持つようになる可能性は低い。
【0032】
本発明の別の局面において、グリコリシンは、癌細胞を死滅させるための電離放射線と組み合わせて利用される。放射線は、細胞DNAを損傷することによって癌細胞を死滅させる。しかしながら、十分なATP供給がある場合は、細胞はDNA損傷を修復し得、かつ少なくともある程度まで放射線に耐え得る。本発明のいくつかの態様において、グリコリシス(Glycolysis)は、解糖の阻害および細胞ATPの枯渇により、放射線療法と組み合わせて効果的に癌を処置するのに特に有用である。インビトロで癌細胞を死滅させる際のこのような都合の良い組合せ効果が、本発明者らによって実証された。
【0033】
本発明のさらに別の局面において、グリコリシンは、癌細胞を死滅させる有効性を高めるために、DNAを損傷する性質を有する他の抗癌剤と組み合わせて利用される。癌細胞は、抗癌剤によって誘発されたDNA損傷を修復するために様々なメカニズムを使用することが公知である。これらのDNA修復プロセスは、生化学的反応用のエネルギー源としてのATPの存在に大きく依存している。不十分なATP供給は、DNA修復を妨げ、したがってDNA損傷性物質の細胞障害効果を高めると思われる。本発明は、グリコリシンによる解糖阻害が細胞ATPの枯渇をもたらし、したがって例えばドキソルビシン、シスプラスチン、シクロフォスファミド、およびヌクレオシド類似体などのDNA損傷性抗癌剤と組み合わせると、特に有用となり得ることを提供する。インビトロで都合の良い抗癌活性を有するこのような薬物の組合せが、本発明者らによって実証された。
【0034】
癌細胞のエネルギー代謝に影響を与えるための別の戦略は、栄養素代謝に直接的にまたは間接的に関与しているタンパク質分子の発現または機能に影響を及ぼす調節メカニズムを標的とすることである。最近の研究により、mTOR(哺乳動物のラパマイシン標的タンパク質)経路が、栄養素の取込み、エネルギー代謝および細胞増殖の調節、ならびに癌細胞生存の促進において重要な役割を果たすことを示唆する、説得力のある証拠が生み出された。9-12。mTORの重要な機能は、研究団体および製薬会社の大きな注目を集め、mTOR経路を標的とするいくつかの新規な化合物の開発をもたらした。CCI-779、RAD001、およびAP-23573は、癌処置のために現在臨床試験中であるこのクラスの化合物の例である(Raymond et al., 2004;Panwalkar et al., 2004)。これらの新しい化合物は、それらの親化合物であるラパマイシンと同様に、mTORを直接標的とし、かつこの経路の機能に効果的に影響を及ぼし、細胞の代謝および生存のシグナル伝達に改変を引き起こす。したがって、特定の局面において、本発明は、グリコシンと、例えばラパマイシン、CCI-779、RAD001、およびAP-23573を含む哺乳動物のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路を阻害するもののような薬物との間の相乗効果のような効果を提供する。
【0035】
本発明の特定の局面において、グリコリシンは、ATP生成のための解糖への依存度を高めさせ、それによってグリコリシンの作用への感受性を高めさせる作用物質と組み合わせられる。例えば、ミトコンドリアの呼吸鎖の阻害物質がグリコリシンと組み合わせて使用され得、その結果、癌細胞はこのような阻害物質の影響下で、ATP生成のための解糖への依存度を高め、したがってグリコリシンの作用への感受性がより高くなる。癌の処置のためにグリコシンと組み合わせられ得る呼吸阻害物質の例には、ロテノンおよび三酸化ヒ素が含まれる。
【0036】
本発明の方法および組成物は、当技術分野において公知の組成物に勝る利点を提供する。グリコリシンは特有の化学的特徴を有し、例えばより良い安定性、細胞中への高い浸透性、合成の容易さ、および量産化製造のための費用対効果を含む、公知の組成物より優れた薬学的特性を有する。グリコリシンは類似した作用メカニズムを有する現在入手可能な解糖阻害物質よりもより安定で、かつ化学的に分極の程度がより低いこと、および細胞膜を容易に透過できることが特に有利である。例えば一旦細胞内部に入ると、例示的なグリコリシン誘導体は細胞酵素のエステラーゼによって切断されて、2種の加水分解生成物、すなわち3-ブロモピルバートおよび1-プロパノールを生成する。細胞内の3-ブロモピルバートは、解糖を阻害して、ATP枯渇および解糖に依拠する癌細胞の死滅をもたらす活性成分である。第2の加水分解生成物1-プロパノールは、アルコールデヒドロゲナーゼによってプロピオン酸にさらに変換され得、これは順にプロピオニルCoA、次いでスクシニルCoAに変換される。十分なミトコンドリア機能を有する正常細胞において、スクシニルCoAは、トリカルボン酸(TCA)サイクルに入り、かつミトコンドリアの酸化的リン酸化を通じてATPを生成することによって、エネルギー源として役立ち得る。この場合、プロピオン酸が細胞内で生成することにより、十分なミトコンドリア機能を有する細胞に代替エネルギー源が提供されることによって、正常細胞が保護され得る。スクシニルCoAはミトコンドリア呼吸が無い場合は有効なエネルギー源ではないため、この保護効果は、ミトコンドリア呼吸の欠陥を有する、または低酸素状態下の癌細胞には有用となり得ない。したがって、グリコリシンは、多様なヒト癌において至るところにある、呼吸傷害を伴う癌細胞を優先的に死滅させるための新規な生化学的メカニズムを提供し、したがっていくつかの態様において、治療選択性を改善する。
【0037】
また、本発明の組成物は、類似した作用メカニズムを含む他の解糖阻害物質より、(本明細書において提供される代表的なインビトロ研究において実証されるように)治療活性においてもより効果的である。特に、グリコリシンはより安定で、細胞ATPを枯渇させるのにより効果的であり、かつ類似した作用メカニズムを有する現在入手可能な解糖阻害物質より高いインビトロでの抗癌活性(IC50によって評価すると10〜20倍強力)を示す。さらに、動物(マウス)でのインビボの研究により、この化合物が十分に許容されることが示唆されている。例えば、試験された用量(S-グリコリシン、5mg/kgを週3回(月水金)静脈内投与、またはグリコリシン、6mg/kgを毎日3日間腹腔内投与、またはE-グリコリシン、5mg/kgを毎日5日間静脈内投与)で、マウスにおいて明らかな毒性は観察されなかった。
【0038】
本発明のグリコリシン組成物は、任意の様式で細胞に投与され得る。特定の態様において、組成物は、薬学的に許容される希釈剤中に含まれ得る。本発明のさらなる局面において、組成物は、担体中または担体と共に含まれる。担体は、意図した目的地への組成物の送達を容易にするのに適した任意の種類でよいが、特定の態様において、担体は徐放担体である。本発明において有用な担体の具体的な例には、リポソーム、ナノ粒子、または生分解性ポリマーが含まれる。
【0039】
本発明の一つの態様において、以下の一般式を含む組成物がある:

式中、Xはハロゲンであり、かつ組成物は以下のようにさらに特徴付けられる:(a)式中、Rは、任意の数の炭素が適し得るが、3つもしくはそれ以上の炭素原子のような、1つもしくは複数の炭素原子を含む共有結合されたアルキル基であり;または(b)式中、Rは金属イオンであり、かつ組成物は安定剤をさらに含む。特定の態様において、ハロゲンは臭素である。別の特定の場合において、アルキル基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブタノール基、またはペンタノール基、ヘキサノール基、ヘプタノール基、もしくはオクタノール基などの脂肪族基である。別の特定の態様において、アルキル基は、シクロアルカノール、ベンゼン誘導体、側鎖を有するステロイド基、または側鎖を有さないステロイド基を含むものような環構造体である。
【0040】
組成物が金属イオンを含む場合、任意の適切な金属イオンが使用され得るが、特定の態様において、金属イオンは、例えばナトリウムなどのアルカリ金属イオンとしてさらに定義される。
【0041】
特定の態様において、安定剤は炭酸を含む。さらに、上述した(a)の組成物は、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムとしてさらに定義され得、かつこの組成物は、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムと炭酸の間の水素結合を含み得る。さらに、(a)の組成物は、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムとしてさらに定義され、かつ3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤が、それぞれ約2:1の3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムと安定剤のような、所望の比率で存在する。
【0042】
特定の態様において、本明細書において説明する組成物は、例えばトリカルボン酸(TCA)サイクルにおける代謝中間体、ミトコンドリア呼吸における代謝中間体、TCAサイクルとミトコンドリア呼吸の双方における代謝中間体、TCAサイクルに対する前駆体、ミトコンドリア呼吸における代謝中間体の前駆体、またはTCAサイクルとミトコンドリア呼吸の双方における代謝中間体の前駆体を含む、例えば代謝中間体のような1種または複数種の代替エネルギー物質をさらに含む。特定の態様において、代謝中間体は、グルタミン、ピルバート、脂肪酸、またはそれらの組合せを含む。さらに特定の態様において、この脂肪酸は、二重結合を有さないアルキル鎖を含み、または1つもしくは複数の二重結合を有するアルキル鎖を含む。
【0043】
本発明の組成物は、薬学的製剤中に含まれ得る。
【0044】
本発明の別の態様において、本発明の組成物を細胞に送達する段階を含む、細胞における解糖を阻害するための方法がある。この方法は、該細胞においてアポトーシスもしくはネクローシスを誘導すること、または該細胞において増殖を阻害することとしてさらに定義され得、かつこの細胞は癌細胞でよい。癌細胞は、個体中、固形腫瘍中、または双方に含まれ得る。癌細胞は、白血病細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、結腸癌細胞、頭部癌および頸部癌の細胞、肝臓癌細胞、骨癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頸癌細胞、脾臓癌細胞、脳癌細胞、食道癌細胞、または皮膚癌細胞でよい。特定の態様において、癌細胞は薬物耐性癌細胞であり、かつ例えば白血病細胞でよい。特定の態様において、癌細胞は低酸素環境中にある。
【0045】
本発明のさらなる態様において、治療的有効量の本発明の組成物を個体に投与する段階を含む、個体において癌を処置する方法がある。この方法は、例えば放射線療法、化学療法、外科手術、遺伝子療法、免疫療法、ホルモン療法、またはそれらの組合せなど付加的な癌療法をその個体に施す段階もさらに含み得る。付加的な癌療法は、本発明の組成物を投与する前に、請求項1記載の組成物の投与と同時に、請求項1記載の組成物の投与の後に、またはそれらの組み合わせで、個体に施され得る。特定の態様において、個体の癌の少なくとも一部は、低酸素環境中に存在し、これは固形腫瘍でもよい。
【0046】
本発明の別の態様において、適切な容器中に収納された本発明の組成物を含むキットがある。特定の態様において、(a)の組成物は、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムを含み、かつこの3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤は、同じ容器中に、または別々の容器中に収納され得る。特定の態様において、この容器は、その空隙体積中に滅菌されたCO2ガスを含む。このキットは、薬学的に許容される希釈剤をさらに含み得る。
【0047】
本発明のさらなる態様において、(1)3-ハロ-2-オキソプロピオナートを提供する段階;(2)1〜約5個の炭素原子を有する脂肪族アルコールを提供する段階;および(3)酸性条件および加熱を提供する段階を含む、請求項1記載の組成物(b)を作製する方法であって、ここで、上述したように、3-ハロ-2-オキソプロピオナートのエステル誘導体が生成され、それによって組成物(b)を作製する方法がある。
【0048】
本発明のさらなる態様において、3-ハロピルバート;および炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、または双方を含む、3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび炭酸を含む組成物を作製するためのキットがある。このキットは、二酸化炭素ガス、水、または双方をさらに含んでもよい。特定の態様において、3-ハロピルバートは、3-ブロモピルバート、3-フルオロピルバート、3-ヨードピルバート、または3-クロロピルバートである。
【0049】
別の態様において、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸を提供する段階;炭酸ナトリウムを提供する段階;ならびに組成物を作製するのに効果的な比率で3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸および炭酸ナトリウムを混合する段階を含む、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび炭酸を含む組成物を作製するための方法がある。特定の態様において、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸および炭酸ナトリウムは、約2:1または約3:1の比率で混合される。さらに特定の態様において、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸、炭酸ナトリウム、または双方は、例えば水でもよい溶液中に含まれる。この方法は、組成物の溶液を作製することとしてさらに定義され得る。この方法は、溶液のpHを約7.0に調製する段階、および/または溶液をろ過する段階をさらに含み得る。
【0050】
前述した内容では、以下に記載する本発明の詳細な説明がより良く理解され得るようにするために、本発明の特徴および技術的利点をかなり広範に概説した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明の付加的な特徴および利点を、以下に記述する。開示される概念および特定の態様は、本発明の同じ目的を実施するために他の構造体を改変または設計するための原理として容易に利用され得ることが理解されるべきである。このような等価な構築物が添付の特許請求の範囲において説明される本発明から逸脱しないこともまた、認識されるべきである。さらなる目的および利点と共に、その構成および実施方法の双方に関する本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、添付図面と共に考察される場合に以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、各図面は例証および説明のためだけに提供され、本発明の制限の定義として意図されないことが明確に理解されるべきである。
【0051】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書において使用される場合、「a」または「an」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書の特許請求の範囲において使用されるように、「含む(comprising)」という単語と共に使用される場合、「a」または「an」という単語は1つまたは1つ以上を意味し得る。本明細書において使用される場合、「別の(another)」とは、少なくとも第2またはそれ以上を意味し得る。本発明のいくつかの態様は、1つもしくは複数の要素、方法の段階、および/または本発明の方法からなり得、または本質的になり得る。本明細書において説明する任意の方法または組成物は、本明細書において説明する他の任意の方法または組成物に関して実施され得ることが企図される。
【0052】
本明細書において使用される「脂肪族」という用語は、炭素-炭素の二重結合も三重結合も含まない基を指す。
【0053】
本明細書において使用される「アルキル」という用語は、飽和な炭素-炭素結合を有するもの、または1つもしくは複数の不飽和な炭素-炭素結合を有するものを含む、炭素ベースの基を指す。
【0054】
本明細書において使用される「代替エネルギー物質」という用語は、ATPの形態などでエネルギーを生成する経路のための基質または前駆体として、直接的にまたは間接的に利用され得る組成物を指す。この前駆体は、経路内に入るための直前の前駆体でよく、または経路内に入るための直前の前駆体からさらに上流のものでもよい。
【0055】
本明細書において使用される「グリコリシン組成物」という用語は、グリコリシン、その誘導体、またはグリコリシンの送達および/もしくは作用を容易にし、もしくは増大させるための別の成分と組み合わせたグリコリシンもしくはその誘導体を指す。グリコリシン作用の対象ではない細胞を保護するために、付加的な成分が利用され得る。特定の態様において、付加的な成分は、代謝中間体、例えば細胞中のエネルギー源経路における中間体であるものなどの代替エネルギー物質である。このような経路の例には、TCAサイクル、ミトコンドリア呼吸などが含まれる。
【0056】
本明細書において使用される「グリコリシン誘導体」という用語は、グリコシンの調製に関して、本明細書において説明する手順に類似したエステル化方法によって、3-ハロ-2-オキソプロピオナートから誘導される化学組成物を指し、ここで3-ハロゲン基はフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素でよく、かつエステル化のために使用されるアルコールは3つまたはそれ以上の炭素を含んでよい。グリコリシン誘導体は、解糖を機能的に阻害し、かつ細胞のエネルギー代謝を妨害すると考えられる。
【0057】
本明細書において使用される「代謝中間体」という用語は、TCAサイクルおよび/またはミトコンドリア呼吸など細胞中のエネルギー生成経路において直接的にまたは間接的に利用される組成物を指す。代謝中間体は、エネルギー生成経路用の基質でよく、またはこれは、その前駆体、すなわち直前の前駆体もしくはその経路からさらに上流の前駆体のいずれかでもよい。
【0058】
II.本発明
本発明は、解糖経路を特異的に標的とし、それによってエネルギー供給を優先的に枯渇させ、かつ癌細胞を選択的に死滅させる新規な化合物および治療戦略を開発するために、生化学的原理を利用することによって癌細胞と正常細胞の代謝の差異を活用する。本発明は、この代謝経路中の主要な酵素を標的とすることによって効果的に解糖経路を妨害することができる、新規な抗癌剤、すなわちグリコリシンおよびその誘導体に関連する組成物ならびに方法を使用する。本明細書において説明するように、インビトロの研究により、癌細胞において、特にミトコンドリアDNA中の変異に起因するミトコンドリアの欠陥を有する細胞において、または従来の抗癌剤および放射線に対して癌細胞を耐性にする低酸素状態下の癌細胞において、グリコリシンが細胞ATPプールの極度の枯渇および大量の細胞死を引き起こすことが実証された。この化合物による解糖の阻害はまた、アポトーシスおよび解糖の統合に関与している分子であるBADの脱リン酸によって媒介されるアポトーシスも誘導する。マウスなどの動物におけるグリコリシンの研究では、5mg/kgの投薬量での明らかな毒性は示されていない。
【0059】
さらに、類似した作用メカニズムを有する現在入手可能な化合物と比べて、グリコリシンは、より高い安定性、細胞透過性をより良くする低い分子極性、単純な合成手順、およびスケールアップした薬学的製造のための費用対効果を含む、優れた薬学的諸特性を有する。重要なことには、グリコリシンは、類似した作用メカニズムを有する他の化合物より顕著に高い抗癌活性をインビトロで示す。ワールブルク効果は多様なヒト癌において一般に認められるため、グリコリシンは様々な癌のタイプに対して有効であり、したがって広範な治療的適用を有する。さらに、低酸素状態は、大半の固形腫瘍において一般に存在し、かつ多くの抗癌剤および放射線療法に対する癌細胞の感受性を低くするため、グリコリシンが低酸素状態下の癌細胞を死滅させ、かつ/または他の作用物質および放射線の活性を高める注目すべき活性から、インビボの低酸素環境中の固形腫瘍を効果的に処置するためにグリコリシンを使用できることが示唆される。治療選択性を改善し、それによって非癌性細胞を実質的に保護する1種または複数種の付加的な成分を、グリコリシン組成物が含む本発明のさらなる態様に従って、メカニズムに基づく薬物の組合せもまた本明細書において提供される。本発明の付加的な局面において、グリコリシン組成物は、放射線および/または薬物をさらに含み、またはそれらと組み合わせて送達される。任意の適切な薬物が使用され得るが、特定の態様において、この薬物はラパマイシンまたは他の類似化合物などmTOR経路の阻害物質である。
【0060】
III.薬学的調製物
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体もしくは賦形剤中に、溶解または分散された、有効量の1つまたは複数の形態の本発明の組成物、およびいくつかの態様において付加的な作用物質を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、例えばヒトなどの動物に必要に応じて投与された場合に、有害反応も、アレルギー反応も、他の不適当な反応ももたらさない、分子単位および組成物を指す。少なくとも1種のグリコリシン組成物および/またはその誘導体、ならびにいくつかの態様において付加的な活性成分を含む薬学的組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990によって例示されるように、本発明の開示に照らして当業者には公知となるであろう。さらに、動物(例えばヒト)に投与する場合、調製物は、FDA Office of Biological Standardsにより要求される無菌性、発熱性、全般的安全、および純度の基準を満たさなくてはならない。
【0061】
当業者には公知と思われるが(例えば参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照されたい)、本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」には、任意およびすべての溶媒、分散媒、被覆剤、界面活性剤、抗酸化薬、保存剤(例えば抗菌薬、抗真菌薬)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、色素、同様の材料およびそれらの組合せが含まれる。任意の従来の担体が活性成分と不適合である場合を除いて、治療的または薬学的組成物におけるその使用が企図される。
【0062】
組成物は、それが固形形態、液状形態、またはエアロゾル形態で投与される予定であるかどうか、および注射剤のような投与経路のために無菌である必要があるかどうかに応じて、様々なタイプの担体を含み得る。本発明では、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、腟内に、直腸経由で、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、膀胱内に、経粘膜的に、心膜内に、経口的に、局所的に、局部的に、エアロゾル、注射、輸注、持続輸注、標的細胞を直接浸す局所的潅流を用いて、カテーテルを介して、洗浄によって、クリーム、洗口剤中で、脂質組成物(例えばリポソーム)中で、または当業者には公知と思われる(例えば参照により本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.Mack Printing Company, 1990を参照されたい)、他の方法もしくは前述のものの任意の組合せによって投与することができる。
【0063】
患者などの動物に投与される本発明の組成物の実際の投薬量は、体重、状態の重症度、処置される疾患のタイプ、以前または同時平行の治療的介入、患者の特発性疾患などの身体的および生理的因子によって、かつ投与経路に基づいて決定することができる。いずれにしても、投与を担当する実務者が、組成物中の1種または複数種の活性成分の濃度、および個々の対象に対して適切な1種または複数種の用量を決定する。
【0064】
特定の態様において、薬学的組成物は、例えば少なくとも約0.1%の活性化合物を含み得る。他の態様において、その活性化合物は、単位量の重量の約2%〜約75%の間、または例えば約25%〜約60%の間、およびその中で導き出せる任意の範囲を含み得る。他の非限定的な実施例において、用量は、投与1回当たり約1マイクログラム/kg/体重から、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約2ミリグラム/kg/体重、約3ミリグラム/kg/体重、約4ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約30ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、および約100ミリグラム/kg/体重またはそれ以上、ならびにその中で導き出せる任意の範囲を含み得る。本明細書において記載した数値から導き出せる範囲の非限定的な実施例において、前述の数値に基づいて、約1mg/kg/体重〜約10mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約100ミリグラム/kg/体重などの範囲が投与され得る。
【0065】
いかなる場合でも、組成物は、1種または複数種の成分の酸化を遅延させるための様々な抗酸化薬を含んでよい。さらに、微生物作用の予防は、限定されるわけではないが、パラベン(例えばメチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはそれらの組合せを含む、様々な抗菌剤および抗真菌剤などの保存剤によって実現され得る。
【0066】
組成物は、1-プロパノールもしくは他のアルコールを含むもしくは含まない遊離のエステル型、または中性型もしくは塩型の組成物に製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、酸付加塩、例えば塩酸もしくは硫酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、もしくはマンデル酸などの有機酸と共に形成されたものが含まれる。遊離のカルボキシル基と共に形成された塩はまた、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄などの無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、もしくはプロカインなどの有機塩基から誘導され得る。
【0067】
組成物が液状形態である態様において、担体は、限定されるわけではないが、水、エタノール、多価アルコール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えばトリグリセリド、植物油、リポソーム)、およびそれらの組合せを含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用によって;例えば液状の多価アルコールもしくは脂質などの担体中に分散させることにより必要とされる粒径を維持することによって;例えばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用によって;またはこのような方法の組合せによって維持することができる。多くの場合において、例えば糖、塩化ナトリウム、またはそれらの組合せなどの等張化剤を含むことが好ましいと考えられる。
【0068】
他の態様において、点眼薬、点鼻液剤もしくは点鼻用スプレー剤、洗口剤、エアロゾル、または吸入薬を本発明において使用し得る。このような組成物は、一般に、標的組織のタイプに適合するように設計される。非限定的な実施例において、点鼻液剤は通常、液滴またはスプレーとして鼻腔に投与されるように設計された水性液剤である。点鼻液剤は、正常な繊毛作用を維持するために、多くの点で鼻分泌液と類似するように調製される。したがって、好ましい態様において、点鼻用水性液剤は通常、等張性であり、またはpHを約5.5〜約6.5に維持するために若干緩衝化される。さらに、眼科用調製物において使用されるものに類似した抗菌性の保存剤、薬物、または適切な薬物安定剤が、必要に応じて製剤中に含まれ得る。例えば、様々な市販の経鼻調製物が公知であり、かつ抗生物質または抗ヒスタミン薬などの薬物を含む。
【0069】
特定の態様において、グリコシン組成物は、経口摂取などの経路による投与用に調製される。これらの態様において、固形組成物は、例えば液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば硬いもしくは軟らかい殻のゼラチンカプセル剤)、徐放製剤、口腔内用組成物、トローチ、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ、カシェ剤、またはそれらの組合せを含み得る。経口組成物は、直接、食餌の食品と混合してもよい。経口投与用の好ましい担体は、不活性な希釈剤、吸収可能な可食性担体、またはそれらの組合せを含む。本発明の他の局面において、経口組成物は、シロップまたはエリキシル剤として調製され得る。シロップまたはエリキシル剤は、例えば少なくとも1種の活性物質、甘味剤、保存剤、矯味剤、色素、保存剤、またはそれらの組合せを含み得る。
【0070】
特定の好ましい態様において、経口組成物は、1種または複数種の結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、およびそれらの組合せを含み得る。特定の態様において、組成物は、以下のうちの1種または複数種を含み得る:例えばトラガカントゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン、ゼラチン、もしくはそれらの組合せなどの結合剤;例えばリン酸二カルシウム、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウム、もしくはそれらの組合せなどの賦形剤;例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルギン酸、もしくはそれらの組合せなどの崩壊剤;例えばステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;例えばスクロース、ラクトース、サッカリン、もしくはそれらの組合せなどの甘味剤;例えばペパーミント、ヒメコウジ油、サクランボ香料、オレンジ香料などのような矯味剤;または前述のものの組合せ。単位剤形がカプセル剤である場合、上記のタイプの材料に加えて、液状担体などの担体も含み得る。他の様々な材料が、被覆剤として、または投薬単位の物理的形態を別の方法で改変するために存在し得る。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、セラック、糖、または双方でコーティングされ得る。
【0071】
他の投与形態に適したさらなる製剤には、坐剤が含まれる。坐剤は、直腸、腟、または尿道中への挿入用の、通常は薬物が混合された、様々な重量および形状の固形剤形である。挿入後、坐剤は、腔内の液体中で軟化、融解、または溶解する。一般に、坐剤の場合、従来の担体には、例えばポリアルキレングリコール、トリグリセリド、またはそれらの組合せが含まれ得る。特定の態様において、坐剤は、例えば約0.5%〜約10%、および好ましくは約1%〜約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成され得る。
【0072】
無菌注射液剤は、必要とされる量の活性化合物を適切な溶媒中で上記に列挙した他の様々な成分と必要に応じて混合し、続いてろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は、滅菌された様々な活性成分を、基本となる分散媒および/または他の成分を含む無菌ビヒクル中に混合することによって、調製される。無菌の注射液剤、懸濁剤、または乳剤を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分および先に滅菌ろ過されたその液状媒体に由来する任意の付加的な所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥または凍結乾燥技術である。液状媒体は、必要な場合には適切に緩衝化するべきであり、かつ液状希釈剤は、十分な生理食塩水またはマンニトールと共に注射される前に、最初に等張性にするべきである。直接注射用の高濃度の組成物の調製もまた企図され、この場合、溶媒として1-プロパノールを使用することにより急速な浸透がもたらされ、小さな領域に高濃度の活性物質を送達することが想定される。
【0073】
組成物は、製造および保管の条件下で安定でなければならず、かつ細菌および菌類などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。
【0074】
特定の態様において、注射用組成物の持続吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはそれらの組合せなど吸収を遅延させる作用物質を組成物中で使用することによって、実現され得る。
【0075】
IV.治療的適用
本発明の組成物および方法は、1種または複数種の治療的適用において使用するのに特に適する。一般に、グリコリシンおよび誘導体組成物の適用は、解糖が阻害されること、または少なくとも低減されることが治療効果を有するものである。解糖の阻害が治療効果を有する任意の適用が本発明に適するが、特定の態様において、治療的適用は、少なくとも1つの癌細胞の損傷または根絶を包含する。特定の態様において、癌細胞は、固形腫瘍など、低酸素環境を含む組織または細胞群中に存在する。特に、癌細胞は、本発明の直接的または間接的な結果として、アポトーシスまたはネクローシスに供される。特定の態様において、癌細胞は、哺乳動物、例えばヒトなどの動物中に存在する。いくつかの態様において、癌細胞の増殖は、少なくとも1種のグリコリシン組成物で処理した後、少なくとも低減される。したがって、本発明の好ましい態様は、その治療的適用として癌治療を含む。
【0076】
処置される癌は任意の種類の癌でよいが、特定の態様において、癌は、例えば結腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、卵巣癌、肝臓癌、骨癌、頭部および頸部の癌、白血病、リンパ腫、脳癌、黒色腫、脾臓癌、子宮頸癌、腎臓癌、咽頭癌、悪性の神経膠腫、膀胱癌、肉腫、または中皮腫である。
【0077】
グリコリシン組成物は、治療的有効量の組成物を提供する任意の様式で、治療的適用のために投与され得るが、特定の態様において、組成物は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、腟内に、直腸経由で、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、膀胱内に、経粘膜的に、心膜内に、経口的に、局所的に、局部的に、エアロゾル、注射、輸注、持続輸注、標的細胞を直接浸す局所的潅流を用いて、カテーテルを介して、洗浄によって、クリーム、洗口剤中で、脂質組成物(例えばリポソーム)中で、または当業者には公知と思われる、他の方法もしくは前述のものの任意の組合せによって投与される。少なくとも1つの処理された癌細胞が損傷または根絶される場合、この組成物は治療的に有効である。いくつかの態様において、治療される医学的状態の少なくとも1つの症状が改善される。
【0078】
治療的適用のためのグリコリシン組成物は、例えば、組成物が特定の細胞を標的とする能力を増強する付加的物質などその有効性を高めるため、望ましい細胞を保護するため、組成物の活性を増加させるため、組成物により高い安定性を与えるため、かつ/または組成物の送達を増大させるために付加的物質を含み得る。本発明の特定の態様において、癌治療を含む適用において非癌性細胞を保護するものなど、グリコリシンによる処置から細胞を保護する作用物質が利用される。これらの作用物質は、目的に適した任意の種類のものでよいが、特定の態様において、これらの作用物質は、解糖以外の代替エネルギー源を正常細胞に提供する代替エネルギー物質である。例えば、代替エネルギー物質は、TCAサイクル、ミトコンドリア呼吸、または双方など、解糖以外のエネルギー生成経路の細胞による使用を容易にし、増進し、または増加させる化合物でよい。これらの化合物は、グリコリシンと共に投与され得、またはそれらは、処置されている個体の細胞中に移行した際など、処置されている個体中に移行した際に、グリコリシンそれ自体の加工から誘導され得る。
【0079】
本発明の特定の局面において、代替エネルギー源は、解糖ではないエネルギー生成経路に対する代謝中間体および/または前駆体である。すなわち、代謝中間体は、エネルギー生成経路の本物の中間体でもよく、またはエネルギー生成経路に対する前駆体でもよい。中間体が、実際に1種または複数種のエネルギー生成経路に対する前駆体である事象において、これは、直前の前駆体でもよく、または経路のさらに上流にあるものなど、経路の直前の前駆体でないものでもよい。本発明の特定の態様において、適切なまたはさらに豊富な量の1種または複数種の中間体を提供することにより、このような代替エネルギー生成経路中への移行事象が増加する。具体的には、グルタミン、ピルバート、または脂肪酸が、本発明における適切な代謝中間体である。したがって、グリコリシン-Pまたはグリコリシン-Gなど代謝中間体を含むグリコリシン組成物が、癌治療の例示的な適用などこの様式における治療的適用に特に適している。
【0080】
本発明の特定の局面において、グリコリシンは、1種または複数種の低酸素組織環境中で増殖する癌の処置に特に応用できる。低酸素の腫瘍組織における酸素の欠乏または不足により、癌細胞はATP生成のために解糖に著しく依存し、かつ解糖阻害に対して最も脆弱になっている。固形腫瘍における低酸素状態はまた、薬物耐性の発達および放射線療法に対する感受性の低下も招く。解糖に対するグリコリシンの強力な阻害効果は、低酸素環境中の癌細胞の処置において非常に有用である。本発明者らは、グリコリシンが、例えば単独でまたは放射線との組み合わせのいずれかで、低酸素状態下の癌細胞培養物を死滅させるのに非常に効果的であることを実証した。
【0081】
V.低酸素
組織低酸素は、酸素の供給と消費の間に不均衡がある場合に生じる。低酸素は、指数関数的細胞増殖および非効率的な血管供給に起因する不十分な酸素供給の結果として固形腫瘍中で発生する。腫瘍低酸素は、癌療法、特に放射線療法および多くのタイプの化学療法に対する主要な制約であり、かつこれは、適用される治療様式に関わらず、望ましくない予後に関連付けられている。低酸素は、悪性進行、浸潤の増大、血管新生、および転移形成リスクの増加に関係する。特定の態様において、低酸素はさらに、アポトーシスに対する高い耐性を有する細胞を選択し、それによって間接的に治療耐性に寄与するストレッサーでもある。低酸素は、以下の側面を特徴とし得る:1)低酸素が抗腫瘍治療様式に直接干渉する;すなわち、電離放射線ならびに様々な細胞障害性薬物およびサイトカインの有効性は適切な酸素圧に直接的に依拠している;ならびに2)低酸素が、腫瘍細胞および間質細胞の生物学に対して著しく影響している。
【0082】
腫瘍細胞の生存を制御しているいくつかの遺伝子の発現は、低酸素によって調節されており、例えば新しい血管の形成を管理している増殖因子、および腫瘍細胞の生存を促進する遺伝子の発現を調整する低酸素応答性の転写因子がある。酸素の利用可能性の不足が直接原因となるもの、ならびにプロテオーム/ゲノムの改変、血管新生、およびpH変化が間接的に原因となるものなど、腫瘍低酸素により化学療法耐性が生じる原因となる様々な経路がある。
【0083】
本発明は、腫瘍代謝が低酸素に関連する分子プロセスを含み得ると仮定すると、低酸素状態が癌療法を提供するという難題と戦うために特に好適な新規な組成物および方法を提供する。
【0084】
VI.併用治療
グリコリシン組成物の有効性を高めるために、本発明のグリコリシン組成物を、抗癌剤など過剰増殖性疾患の処置に有効な1種または複数種の他の作用物質と組み合わせることが望ましい場合がある。「抗癌」剤は、例えば癌細胞を死滅させること、癌細胞においてアポトーシスおよび/もしくはネクローシスを誘導すること、癌細胞の増殖速度を低下させること、転移の発生率もしくは数を減少させること、腫瘍サイズを縮小すること、腫瘍増殖を阻害すること、腫瘍細胞もしくは癌細胞への血液供給を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を促進すること、癌の進行を防止もしくは抑制すること、または癌を罹患している対象の寿命を延長することによって、対象の癌に負の影響を及ぼすことができる、化学的または物理的治療様式(例えば放射線)である。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞を死滅させ、または細胞の増殖を阻害するのに有効な組合せ量で提供されるはずである。この方法は、同時にまたは逐次的に、細胞を1種もしくは複数種の作用物質、または1種もしくは複数種の因子に接触させる段階を含み得る。これは、双方の作用物質を含む単一のグリコリシン組成物もしくは薬理学的製剤に細胞を接触させることによって、または一方の組成物がグリコリシン組成物を含み、かつ他方が第2の作用物質を含む2種の異なる組成物もしくは製剤に、同時にもしくは逐次的に細胞を接触させることによって実現することができる。
【0085】
化学療法および放射線療法物質に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学における主要な問題である。現代の癌研究の1つの目標は、化学療法および放射線療法の有効性を、遺伝子療法など別の療法とそれを組み合わせることによって改善する方法を発見することである。例えば単純ヘルペスのチミジンキナーゼ(HS-tK)遺伝子は、レトロウイルスベクター系によって脳腫瘍に送達された場合、抗ウイルス剤ガンシクロビルに対する敏感性を首尾よく導入した(Culver et al., 1992)。本発明において、グリコリシン組成物は、他のアポトーシス誘導物質または細胞周期調節物質の他に、例えば化学療法的、放射線療法的、外科的、または免疫療法的介入と共に同様に使用され得ることが企図される。ドキソルビシン、ara-C、および放射線などの他の抗癌物質の活性を増大させるグリコリシンの能力が、本発明者らによってインビトロで実証された。
【0086】
または、遺伝子療法などの付加的または補足的療法が、数分間〜数週間の範囲の間隔をおいて、他の作用物質による処置の前または後に実施され得る。グリコリシン組成物ならびに他の作用物質および発現構築物が別々に細胞に適用される態様において、一般的に、グリコリシン組成物および他の作用物質が有利な複合効果を細胞に対して発揮することがなおできるように、有効な期間が各送達時期の間に終了しないよう徹底される。このような例において、互いの約12〜24時間以内、およびより好ましくは互いの約2〜12時間以内に、細胞を双方の治療様式に接触させ得ることが企図される。しかしながら、いくつかの状況においては、処置のための期間をかなり延長することが望ましいことがあり、その際、各投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0087】
グリコリシン組成物が「A」であり、かつ放射線療法もしくは化学療法などの第2の因子が「B」である場合など様々な組合せを使用することができ、例えば以下のものがある:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A。
【0088】
本発明の治療用組成物の患者への投与は、化学療法薬の投与用の一般的プロトコールに従う。必要に応じて治療サイクルが反復されるであろうことが予想される。様々な標準療法、ならびに外科的介入が、説明したグリコシンによる細胞療法と組み合わせて適用され得ることもまた企図される。
【0089】
A.化学療法
当業者は、細胞増殖を阻害し、または癌細胞を死滅させるための本発明によって包含されるグリコリシン組成物に加えて、他の化学療法剤も腫瘍性疾患の処置において有用であることを認識している。グリコリシンと併用することができるこのような化学療法剤の例を以下の表1に記載する。
(表1)腫瘍性疾患において有用な化学療法剤



【0090】
上記に挙げた化学療法剤に加えて、記載したものの任意の類似体または誘導体型が、グリコリシンと併用され得、これらは本発明の範囲内である。
【0091】
B.放射線療法
細胞増殖を阻害するための本明細書において説明するグリコリシン組成物の他に、放射線に基づく療法が有用である。すなわち、DNA損傷を引き起こし、かつ広く使用されてきた他の因子には、γ線、X線、高エネルギープロトン、もしくは電子ビームとして一般に公知であるもの、および/または腫瘍細胞に標的化された放射性同位体の送達が含まれる。マイクロ波および紫外線照射など他の形態のDNA損傷因子もまた、企図される。これらの因子のすべては、DNA、DNA前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の構築および維持に広範囲の損傷をもたらす可能性が高い。X線の線量の範囲は、長期間(3〜4週間)に及ぶ50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの1回線量まで変動する。放射性同位体の線量の範囲は広範囲に及び、かつ同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取込みに応じて変わる。DNA損傷の修復は、ATPの形態での十分なエネルギー供給を必要とする。本発明の一つの態様において、グリコリシンによる解糖阻害およびATP枯渇は、放射線によるDNA損傷を癌細胞が修復する能力を大幅に抑制することができ、したがって治療活性を顕著に高めることができることが企図される。
【0092】
細胞に適用される場合の「接触された」および「曝露された」という用語は、治療用構築物および化学療法剤もしくは放射線治療物質が標的細胞に送達される、または標的細胞に直接並べて配置されるプロセスを説明するために本明細書において使用される。細胞の死滅化または静止状態を実現するために、双方の作用物質が、細胞を死滅させ、または分裂を妨げるのに有効な組合せ量で細胞に送達される。
【0093】
C.免疫療法
一般に、免疫療法は、免疫エフェクター細胞および癌細胞を標的にし、かつ破壊するための分子の使用に依拠する。この免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞表面上の何らかのマーカーに対して特異的な抗体でよい。抗体は単独で、治療のエフェクターとして働いてもよく、または実際に細胞死滅化を実行する他の細胞を動員してもよい。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合され、ターゲティング物質として働くだけでもよい。または、エフェクターは、直接的にまたは間接的に腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球でもよい。様々なエフェクター細胞には細胞傷害性のT細胞およびNK細胞が含まれる。
【0094】
したがって、免疫療法は、グリコリシン療法と共に、併用療法の一環として使用され得る。併用療法のための一般的アプローチを以下に考察する。一般に、腫瘍細胞は、標的化に適する、すなわち他の細胞の大多数上には存在していない何らかのマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、かつこれらのうち任意のものが本発明における標的化に適し得る。一般的な腫瘍マーカーには、癌胎児性抗原、前立腺特異抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbB、およびp155が含まれる。
【0095】
D.遺伝子
さらに別の態様において、第2の処置は、治療用ポリヌクレオチドが本発明のグリコリシン組成物の前、後、または同時に投与される遺伝子療法である。以下の例示的な遺伝子産物のうちの1種をコードする少なくとも1つのベクターと共に本発明の組成物を送達することは、標的組織に対して複合的な抗過剰増殖効果を有すると考えられる。様々なタンパク質が本発明内に包含され、そのうちの一部を後述する。
【0096】
1.細胞増殖の誘導物質
細胞増殖を誘導するタンパク質は、機能に応じてさらに様々な部類に分かれる。これらのタンパク質すべての共通性は、細胞増殖を調節する能力である。例えば、PDGFの一形態であるsis癌遺伝子は、分泌型増殖因子である。増殖因子をコードする遺伝子から癌遺伝子が生じることは稀にしか無く、現時点では、sisは天然に存在する唯一の公知の発癌性増殖因子である。本発明の一つの態様において、細胞増殖の特定の誘導物質を対象とするアンチセンスmRNAを用いて細胞増殖の誘導物質の発現を妨げることが企図される。
【0097】
タンパク質FMS、ErbA、ErbB、およびneuは、増殖因子受容体である。これらの受容体の変異は、調節可能な機能の喪失をもたらす。例えば、Neu 受容体タンパク質の膜貫通ドメインに影響を及ぼす点突然変異により、neu癌遺伝子が生じる。erbA癌遺伝子は、甲状腺ホルモンの細胞内受容体に由来する。改変された発癌性ErbA受容体は、内在性の甲状腺ホルモン受容体と競合して、制御不能な増殖を引き起こすと考えられている。
【0098】
癌遺伝子の最大のクラスは、シグナル伝達タンパク質(例えばSrc、Ab1、およびRas)を含む。タンパク質Srcは、細胞質内のタンパク質チロシンキナーゼであり、かついくつかの場合では、癌原遺伝から癌遺伝子への形質転換は、527番チロシン残基における変異を介して生じる。一方、GTPアーゼタンパク質rasの癌原遺伝から癌遺伝子への形質転換は、一例では、配列中の12番アミノ酸におけるバリンからグリシンへの変異の結果として生じ、rasGTPアーゼの活性を低下させる。
【0099】
タンパク質Jun、Fos、およびMycは、転写因子として核機能に直接的に影響を及ぼすタンパク質である。
【0100】
2.細胞増殖の阻害因子
腫瘍抑制癌遺伝子は、過剰な細胞増殖を阻害するように機能する。これらの遺伝子の不活性化はそれらの阻害効果を消失させ、未制御の増殖をもたらす。腫瘍抑制因子p53、p16、およびC-CAMを後述する。
【0101】
高レベルの変異体p53が、化学発癌物質、紫外線照射、およびいくつかのウイルスによって形質転換された多くの細胞において発見された。p53遺伝子は、多種多様なヒト腫瘍において頻繁に変異的不活性化の標的となり、一般的なヒト癌において最も頻繁に変異した遺伝子であることが既に立証されている。これは、ヒトNSCLCの50%超(Hollstein et al., 1991)で、かつ他の多様な腫瘍において変異している。
【0102】
p53遺伝子は、ラージT抗原およびE1Bなどの宿主タンパク質と複合体を形成することができる、393アミノ酸からなるリンタンパク質をコードする。このタンパク質は、正常な組織および細胞中に存在するが、形質転換された細胞または腫瘍組織と比較すると微小な濃度である。
【0103】
野生型p53は、多くの細胞型における重要な増殖調節因子として認識されている。ミスセンス変異はp53遺伝子にとって一般的であり、かつ癌遺伝子の形質転換能のために不可欠である。点突然変異により誘発された1つの遺伝的変化により、発癌性p53が作り出され得る。しかしながら、他の癌遺伝子とは異なり、p53点突然変異は少なくとも30種の異なるコドン中で発生し、ホモ接合性を減少させずに細胞表現型に変化を生じさせる優性アレルをしばしば作り出すことが公知である。さらに、これらの優性ネガティブなアレルの多くはその生物中で許容されるようであり、かつその生殖系列に伝播される。様々な変異アレルは、最小限の機能障害を有するものから強く浸透するものに及ぶ優性ネガティブアレルであるようである(Weinberg, 1991)。
【0104】
細胞増殖の別の阻害因子はp16である。真核細胞の細胞周期の主要な移行は、サイクリン依存性キナーゼまたはCDK群によって引き起こされる。1つのCDK、すなわちサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1期の間、進行を調節する。この酵素の活性は、G1後期にRbをリン酸化することであり得る。CDK4の活性は、活性化サブユニットであるD型サイクリンによって、および阻害性サブユニットであるp16INK4によって制御されており、このp16INK4は、CDK4に特異的に結合かつ阻害し、したがってRbリン酸化を調節することができるタンパク質として生化学的に特徴付けられている(Serrano et al., 1993;Serrano et al., 1995)。p16INK4タンパク質はCDK4阻害因子であるため(Serrano, 1993)、この遺伝子が欠失すると、CDK4の活性が増大し、Rbタンパク質の過剰リン酸化をもたらし得る。p16はまた、CDK6の機能を調節することも公知である。
【0105】
p16INK4は、CDK阻害タンパク質の新規に説明されたクラスに属し、このクラスはp16B、p19、p21Waf1/Cip1、およびp27KIP1も含む。p16INK4遺伝子は、多くの腫瘍型において頻繁に欠失している染色体領域に位置している。p16INK4遺伝子のホモ接合性の欠失および変異は、ヒト腫瘍細胞株において頻繁に存在する。この証拠は、p16INK4遺伝子が腫瘍抑制遺伝子であることを示唆する。しかしながら、この解釈は、p16INK4遺伝子改変の頻度が、培養細胞株より、最初の培養されていない腫瘍においてはるかに低いという観察によって異議を唱えられた(Caldas et al., 1994;Cheng et al., 1994;Hussussian et al., 1994;Kamb et al., 1994;Kamb et al., 1994;Mori et al., 1994;Okamoto et al., 1994;Nobori et al., 1995;Orlow et al., 1994;Arap et al., 1995)。プラスミド発現ベクターでのトランスフェクションにより野生型p16INK4機能を修復すると、一部のヒト癌細胞株によるコロニー形成が減少した(Okamoto, 1994;Arap, 1995)。
【0106】
本発明に従って使用され得る他の遺伝子には、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合物、Bik/p27融合物、抗血栓性遺伝子(例えばCOX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管新生に関与する遺伝子(例えばHIF-1、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはそれらの受容体)、およびMCCが含まれる。
【0107】
3.プログラム細胞死の調節因子
アポトーシスまたはプログラム細胞死は、正常な胚発生、成体組織における恒常性の維持、および発癌の抑制のために不可欠なプロセスである(Kerr et al., 1972)。Bcl-2ファミリーのタンパク質およびICE様プロテアーゼは、他の系におけるアポトーシスの重要な調節因子およびエフェクターであることが実証されている。濾胞性リンパ腫に関連して発見されたBcl-2タンパク質は、アポトーシスを制御する際、および様々なアポトーシス刺激に反応して細胞生存を増大させる際に顕著な役割を果たしている(Bakhshi et al., 1985;Cleary and Sklar, 1985;Cleary et al., 1986;Tsujimoto et al., 1985;Tsujimoto and Croce, 1986)。進化的に保存されているBcl-2タンパク質は現在、死滅アゴニストまたは死滅アンタゴニストとして分類され得る関連タンパク質のファミリーのメンバーであることが認識されている。
【0108】
発見に続いて、Bcl-2は様々な刺激によって引き起こされる細胞死を抑制する働きをすることが示された。同様に、共通の構造および配列の相同性を共有するBcl-2細胞死調節タンパク質のファミリーが存在することも現在明らかになっている。これらの様々なファミリーメンバーは、Bcl-2に類似した機能を有する(例えばBclXL、BclW、BclS、Mcl-1、A1、Bfl-1)、またはBcl-2機能を抑制し、細胞死を促進する(例えばBax、Bak、Bik、Bim、Bid、Bad、Harakiri)ことが示された。
【0109】
E.外科手術
癌罹患者の約60%が、予防的、診断的もしくは病期診断的、治療的、および姑息的手術を含む何らかのタイプの外科手術を受けると考えられる。治療的手術は、本発明のグリコリシン治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法など他の療法と共に使用され得る癌治療である。
【0110】
治療的手術には、癌組織のすべてまたは一部分を物理的に除去、摘出、および/または破壊する切除術が含まれる。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部分の物理的除去を意味する。腫瘍切除の他に、外科手術による処置には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡的に制御された手術(モース手術)が含まれる。本発明は、表在性癌、前癌、または付帯的な量の正常組織の除去と共に使用され得ることがさらに企図される。
【0111】
癌性の細胞、組織、または腫瘍の全体の一部分を摘出すると、体内に空洞が形成されることがある。付加的な抗癌療法を用いてその領域に還流、直接的な注射、または局所塗布を実施することによって、処置を達成してもよい。このような処置は、例えば1、2、3、4、5、6、もしくは7日毎、または1、2、3、4、および5週毎、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月毎に反復してもよい。これらの処置は、同様に、様々な投薬量であってもよい。
【0112】
F.他の作用物質
処置の治療有効性を改善するために、他の作用物質が本発明と組み合わせて使用され得ることが企図される。これらの付加的な作用物質には、例えば免疫調節物質、細胞表面受容体およびGAP結合の上方調節に影響を及ぼす作用物質、細胞増殖抑制物質および分化剤、細胞接着の阻害物質、または過剰増殖性細胞のアポトーシス誘導物質への感受性を高める作用物質が含まれる。免疫調節物質には、腫瘍壊死因子;インターフェロンα、β、およびγ;IL-2および他のサイトカイン;F42Kおよび他のサイトカイン類似体;またはMIP-1、MIP-1β、MCP-1、RANTES、および他のケモカインが含まれる。Fas/Fasリガンド、DR4またはDR5/TRAILなど細胞表面受容体またはそれらのリガンドを上方調節すると、過剰増殖性細胞に対するオートクリンまたはパラクリン作用の確立により、本発明のアポトーシス誘導能力が増強されるであろうことも、さらに企図される。GAP結合の数を増加させることにより細胞間シグナル伝達を増加させると、隣接した過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖効果が増大すると思われる。他の態様において、細胞増殖抑制物質および分化剤は、処置の抗過剰増殖性の有効性を改善するために、本発明と組み合わせて使用され得る。細胞接着の阻害物質は、本発明の有効性を改善することが予想される。細胞接着阻害物質の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害物質およびロバスタチンである。抗体c225など過剰増殖性細胞のアポトーシスへの感受性を高める他の作用物質が、治療有効性を改善するために本発明と組み合わせて使用され得ることも、さらに企図される。
【0113】
ホルモン療法もまた、本発明と共に、または以前に説明されている他の任意の癌療法と組み合わせて使用され得る。ホルモンの使用は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または子宮頸癌などある種の癌の処置において、テストステロンまたはエストロゲンなどのある種のホルモンのレベルを低下させ、またはその作用を妨害するために利用され得る。この処置は、しばしば、治療オプションとしてまたは転移のリスクを減少させるために少なくとも1種の他の癌療法と組み合わせて使用される。
【0114】
VII.脂質組成物
特定の態様において、本発明は、少なくとも1種のグリコリシン組成物と結合した1種または複数種の脂質を含む新規な組成物に関連する。脂質とは、特徴として水に不溶性であり、かつ有機溶媒で抽出可能な物質である。脂質には、例えば、細胞質中に天然に存在する脂肪性液滴を含む物質、ならびに脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドなど長鎖脂肪族炭化水素ならびにそれらの誘導体を含む、当業者には周知である化合物のクラスが含まれる。当然、当業者によって脂質として理解される、本明細書において具体的に説明するもの以外の化合物もまた、本発明の組成物および方法によって包含される。
【0115】
脂質は、天然に存在するもの、または合成のもの(すなわち人によって設計もしくは作製されたもの)でよい。しかしながら、脂質は、通常は生物学的物質である。生物学的脂質は当技術分野において周知であり、例えば中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテル結合型およびエステル結合型脂肪酸を有する脂質ならびに重合可能な脂質、ならびにそれらの組合せが含まれる。
【0116】
A.脂質のタイプ
中性脂肪は、グリセロールおよび脂肪酸を含み得る。典型的なグリセロールは、3個の炭素を有するアルコールである。脂肪酸は、一般に、鎖の末端に酸性部分(例えばカルボン酸)を有する炭素鎖を含む分子である。脂肪酸の炭素鎖は任意の長さのものでよいが、炭素鎖の長さは、約2から、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30またはそれ以上までの炭素原子、およびそれらの中で導き出せる任意の範囲のものであることが好ましい。しかしながら、好ましい範囲は、脂肪酸の鎖部分中に約14〜約24個の炭素原子であり、特定の態様において約16〜約18個の炭素原子が特に好ましい。特定の態様において、脂肪酸炭素鎖は奇数の炭素原子を含み得るが、鎖中に偶数の炭素原子があることが特定の態様において好ましいことがある。炭素鎖中に一重結合のみを含む脂肪酸は、飽和脂肪酸と呼ばれ、一方、少なくとも1つの二重結合を鎖中に含む脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれる。
【0117】
具体的な脂肪酸には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸リシノール酸、ツベルクロステアリン(tuberculosteric)酸、ラクトバシル酸が含まれるがこれらに限定されない。1つまたは複数の脂肪酸の酸性基は、グリセロールの1つまたは複数のヒドロキシル基に共有結合している。したがって、モノグリセリドは1つのグリセロールおよび1つの脂肪酸を含み、ジグリセリドは1つのグリセロールおよび2つの脂肪酸を含み、トリグリセリドは1つのグリセロールおよび3つの脂肪酸を含む。
【0118】
リン脂質は一般に、グリセロールまたはスフィンゴシン部分のいずれか、両親媒性化合物を生成するためのイオン性リン酸基、および1つもしくは複数の脂肪酸を含む。リン脂質のタイプには、例えば、リン酸基がジグリセリドのグリセロールの第1炭素に連結されているホスホグリセリド(phophoglyceride)、およびリン酸基がスフィンゴシンアミノアルコールにエステル化しているスフィンゴリン脂質(例えばスフィンゴミエリン)が含まれる。スフィンゴリン脂質の別の例は、分子を両親媒性にするイオン性硫酸基を含むスルファチドである。当然、リン脂質(phopholipid)は、例えばリン酸基に結合したアルコールなどさらなる化学基を含んでよい。このようなアルコール基の例には、セリン、エタノールアミン、コリン、グリセロール、およびイノシトールが含まれる。したがって、具体的なホスホグリセリドには、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、またはホスファチジル(phosphotidyl)イノシトールが含まれる。他のリン脂質には、ホスファチジン酸またはジアセチルホスフェートが含まれる。一つの局面において、ホスファチジルコリンは、ジオレオイルホスファチジルコリン(カルジオリピンとして知られている)、卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファリジコリン(phosphalidycholine)、モノミリストイルホスファチジルコリン、モノパルミトイルホスファチジルコリン、モノステアロイルホスファチジルコリン、モノオレオイルホスファチジルコリン、ジブトロイル(dibutroyl)ホスファチジルコリン、ジバレロイルホスファチジルコリン、ジカプロイルホスファチジルコリン、ジヘプタノイルホスファチジルコリン、ジカプリロイルホスファチジルコリン、またはジステアロイルホスファチジルコリンを含む。
【0119】
糖脂質は、スフィンゴリン脂質に関連しているが、スフィンゴシンの第1級ヒドロキシル基に結合した、リン酸基ではなく糖基を含む。セレブロシドと呼ばれる糖脂質のタイプは、第1級ヒドロキシル基に結合した1つの糖基(例えばグルコースまたはガラクトース)を含む。糖脂質の別の例は、第1級ヒドロキシル基に結合された、分枝鎖中に存在し得る約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個またはその程度の糖基を含むガングリオシド(例えばモノシアロガングリオシド、GM1)である。他の態様において、糖脂質はセラミド(例えばラクトシルセラミド)である。
【0120】
ステロイドは、フェナントレンの4員環系誘導体である。ステロイドは、細胞、組織、および生物における調節機能をしばしば有し、例えばプロゲスターゲン(例えばプロゲステロン)、糖質コルチコイド(glucocoricoid)(例えばコルチゾール)、鉱質コルチコイド(例えばアルドステロン)、アンドロゲン(例えばテストステロン)、およびエストロゲン(例えばエストロン)ファミリー中のホルモンおよび関連化合物が含まれる。コレステロールは、ステロイドの別の例であり、一般に、調節機能ではなく構造的機能を果たす。ビタミンDはステロールの別の例であり、腸からのカルシウム吸収に関与している。
【0121】
テルペンは、1つまたは複数の炭素5個のイソプレン基を含む脂質である。テルペンは様々な生物学的機能を有し、例えばビタミンA、コエンザイムQ、およびカロテノイド(例えばリコペンおよびβカロテン)が含まれる。
【0122】
B.荷電脂質組成物および中性脂質組成物
特定の態様において、組成物の脂質成分は非荷電または本質的に非荷電である。一つの態様において、組成物の脂質成分は、1種または複数種の中性脂質を含む。別の局面において、組成物の脂質成分は、ある種のリン脂質(例えばホスファチジルコリン)およびコレステロールなど、陰イオン性脂質および陽イオン性脂質を実質的に含まなくてよい。特定の局面において、非荷電または本質的に非荷電の脂質組成物の脂質成分は、電荷を持たない脂質、本質的に非荷電の脂質、および/または同じ数の正電荷および負電荷を有する脂質混合物を約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%含む。
【0123】
他の局面において、脂質組成物は、荷電していてもよい。例えば、荷電リン脂質は、本発明に従って脂質を調製するのに使用され得、かつ正味の正電荷または正味の負電荷を担うことができる。非限定的な実施例において、ジアセチルホスフェートを使用して脂質組成物に負電荷を与えることができ、かつステアリルアミンを用いて脂質組成物に正電荷を与えることができる。
【0124】
C.脂質の作製
脂質は、当業者には公知であるように、天然供給源、商業的供給業者から得ることができ、または化学合成することができる。例えばリン脂質は、卵または大豆のホスファチジルコリン、脳のホスファチジン酸、脳または植物のホスファチジルイノシトール、心臓のカルジオリピン、および植物または細菌のホスファチジルエタノールアミンなど天然供給源に由来し得る。別の実施例において、本発明に従って使用するのに適する脂質は、商業的供給業者から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma Chemical Co.,から得ることができ、リン酸ジセチル(「DCP」)は、K&K Laboratories(Plainview, NY)から得られ;コレステロール(「Chol」)はCalbiochem-Behringから得られ;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, Ala.)から得ることができる。特定の態様において、クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質原液は、約-20℃で保存され得る。クロロホルムはメタノールより容易に蒸発するため、好ましくはクロロホルムが唯一の溶媒として使用される。
【0125】
D.脂質組成物の構造
本発明の好ましい態様において、グリコリシン組成物は脂質と結合してよい。脂質と結合したグリコリシン組成物は、脂質を含む溶液中に分散され得、脂質で溶解され得、脂質で乳化され得、脂質と混合され得、脂質と組み合わされ得、脂質に共有結合し得、脂質中に懸濁液として含まれ得、ミセルもしくはリポソームに含まれもしくはそれらと複合され得、または別の方法で脂質もしくは脂質構造体に結合され得る。本発明の脂質または脂質/グリコリシン組成物は、いかなる特定の構造にも限定されない。例えば、これらは単に溶液中に散在して、ことによるとサイズまたは形状が均一ではない凝集体を形成しているだけでもよい。別の実施例では、これらは、ミセルとしての、または「折り畳まれた(collapsed)」構造を有する二重層構造体中に存在してもよい。
【0126】
特定の態様において、脂質組成物は、個々の脂質、脂質類(type)、または、薬物、タンパク質、糖、核酸、もしくは本明細書において開示される、もしくは当業者に公知であると思われる他の材料などの非脂質成分を、約1%、約2%、約3%、約4%約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約100%、またはその中で導き出せる任意の範囲で含み得る。非限定的な実施例において、脂質組成物は、約10%〜約20%の中性脂質、および約33%〜約34%のセレブロシド、および約1%のコレステロールを含み得る。別の非限定的な実施例において、リポソームは、約4%〜約12%のテルペン(ここで、ミセルの約1%は具体的にはリコペンであり、残りの約3%〜約11%のリポソームは他のテルペンを含む);および約10%〜約35%のホスファチジルコリン、ならびに約1%の薬物を含み得る。したがって、本発明の脂質組成物は、脂質、脂質類、または他の成分のうちの任意のものを任意の組合せまたは百分率範囲で含み得る。
【0127】
1.エマルジョン
脂質は、エマルジョン中に含まれ得る。脂質エマルジョンは、機械攪拌による、または乳化剤として公知の少量の付加的な物質による、通常は互いに溶解しない、2種またはそれ以上の液体の実質的に持続性の不均質な液体混合物である。脂質エマルジョンを調製し、付加的成分を添加するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Modern Pharmaceutics, 1990)。
【0128】
例えばエタノールもしくはクロロホルムまたは他の任意の適切な有機溶媒に1種または複数種の脂質を添加し、手動でまたは機械的技術によって攪拌する。次いで、この混合物から溶媒を蒸発させて、脂質の乾燥した光沢のある膜を残す。これらの脂質をリン酸緩衝化生理食塩水などの水性媒体に再懸濁して、エマルジョンを生じさせる。乳化された脂質のより均質なサイズ分布を実現するために、この混合物を従来の超音波処理技術を用いて超音波処理し、マイクロフルイダイゼーションによって(例えばMicrofluidizer, Newton, Mass.を用いて)さらに乳化し、かつ/またはExtruder Device(Lipex Biomembranes, Vancouver, Canada)を用いて高圧下(例えば600psiなど)で押し出してもよい。
【0129】
2.ミセル
脂質は、ミセル中に含まれ得る。ミセルは、一般に脂質単層の形態の、脂質化合物の集団または凝集体であり、当業者に公知である任意のミセル作製プロトコール(例えばそれぞれ参照により本明細書に組み入れられるCanfield et al., 1990;El- Gorab et al., 1973;Colloidal Surfactant, 1963;およびCatalysis in Micellar and Macromolecular Systems, 1975)を用いて調製され得る。例えば、典型的には1種または複数種の脂質を有機溶媒中で懸濁液にし、この溶媒を蒸発させ、この脂質を水性媒体中に再懸濁し、超音波処理し、次いで遠心分離する。
【0130】
E.リポソーム
特定の態様において、脂質はリポソームを含む。「リポソーム」は、囲われた脂質二重層または凝集体の生成によって形成される様々な単層および多重層の脂質運搬体を包含する一般的用語である。リポソームは、リン脂質を一般に含む、二分子膜を有する小胞構造体および水溶性組成物を一般に含む内側の媒体を有するものとして特徴付けることができる。
【0131】
多重層リポソームは、水性媒体によって分離された多数の脂質層を有する。これらは、リン脂質を含む脂質が過剰な水溶液中に懸濁された場合に自然発生的に形成する。脂質成分は、閉じた構造体を形成する前に自己再配列を経て、脂質二重層の間に水および溶解された溶質を閉じ込める(Ghosh and Bachhawat, 1991)。親油性分子または親油性領域を有する分子はまた、脂質二重層中に溶解し得、または結合し得る。
【0132】
最適ではない特定の態様において、卵または大豆のホスファチジルコリン、脳のホスファチジン酸、脳または植物のホスファチジルイノシトール、心臓のカルジオリピン、および植物または細菌のホスファチジルエタノールアミンなど天然供給源に由来するリン脂質は、結果として生じるリポソームが不安定かつ漏出性であるため、主要なリン脂質、すなわちリン脂質組成物全体またはリポソームの50%またはそれ以上を構成するものとして使用されないことが好ましい。
【0133】
特定の態様において、脂質および/またはグリコリシン組成物は、例えばリポソームの水溶性内部中に封入され得、リポソームの脂質二重層内部に散在し得、リポソームおよびグリコリシン組成物の双方に結合した連結分子を介してリポソームに結合し得、リポソーム中に閉じ込められ得、リポソームと複合体を形成するなどし得る。
【0134】
3.リポソームの作製
本発明に従って使用されるリポソームは、当業者には公知であるように、様々な方法によって作製することができる。リン脂質は、水に対する脂質のモル比に応じて、水中に分散された場合にリポソーム以外の様々な構造体を形成し得る。低い比率では、リポソームが好ましい構造体である。
【0135】
例えば、中性リン脂質ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)などの、例えばリン脂質(Avanti Polar Lipids, Alabaster, AL)を、tert-ブタノール中に溶解させる。次いで、これらの1種もしくは複数種の脂質を、グリコリシン組成物および/または1種もしくは複数種の他の成分と混合する。Tween20が組成物重量の約5%となるように、Tween20を脂質混合物に添加する。tert-ブタノールの体積が少なくとも95%となるように、過剰量のtert-ブタノールをこの混合物に添加する。この混合物をボルテックスし、ドライアイス/アセトン浴中で凍結させ、かつ一晩凍結乾燥させる。凍結乾燥させた調製物は-20℃で保存され、最長3ヶ月間まで使用することができる。必要な場合、凍結乾燥されたリポソームを0.9%生理食塩水中に溶解して元に戻す。グリコリシン組成物を封入するための、Tween20を用いて得られる粒子の平均径は、直径約0.7〜約1.0μmである。
【0136】
または、容器、例えばグラス、ナシ型フラスコ中の溶媒中に脂質を混合することによってリポソームを調製することもできる。この容器は、予測されるリポソーム懸濁液の体積より10倍大きな体積を有しているべきである。回転式エバポレーターを用いて、約40℃、陰圧下で溶媒を除去する。リポソームの所望の体積に応じて、通常は約5分〜2時間以内に溶媒を除去する。減圧下のデシケーター中でこの組成物をさらに乾燥させることができる。乾燥させた脂質は、時間とともに変質する傾向があるため、一般に約1週間後に廃棄される。
【0137】
乾燥させた脂質は、すべての脂質膜が再懸濁されるまで振とうすることによって、無菌のパイロジェンフリー水中に約25〜50mMリン脂質の濃度で水和させることができる。次いで、水溶性リポソームを一定量ずつに分け、各分取物をバイアルに入れ、凍結乾燥し、かつ真空下で密閉することができる。
【0138】
他の代替方法において、他の公知の実験手順に従ってリポソームを調製することができる(例えばそれぞれ関連する部分が参照により本明細書に組み入れられる、Bangham et al., 1965;Gregoriadis, 1979;Deamer and Uster 1983, Szoka and Papahadjopoulos, 1978を参照されたい)。これらの方法は、水溶性材料を閉じ込める個々の能力および個々の水溶性空間対脂質の比率において異なる。
【0139】
上述したようにして調製された乾燥脂質または凍結乾燥リポソームは、脱水し、かつ阻害性ペプチドの溶液中に溶解して復元し、適切な溶媒、例えばDPBSで適切な濃度に希釈することができる。次いで、この混合物をボルテックスミキサー中で勢いよく振とうする。限定されるわけではないがホルモン、薬物、核酸構築物などを含む作用物質など封入されていない付加的な材料を29,000×gで遠心分離することにより除去し、かつリポソームの沈殿物を洗浄する。洗浄したリポソームを適切なリン脂質合計濃度、例えば約50〜200mMで再懸濁する。封入された付加的な材料または活性物質の量は、標準の方法に従って測定することができる。リポソーム調製物中に封入された付加的な材料または活性物質の量を測定した後、これらのリポソームを適切な濃度に希釈し、使用するまで4℃で保存してよい。これらのリポソームを含む薬学的組成物は、通常、水または生理食塩水など無菌の薬学的に許容される担体または希釈剤を含む。
【0140】
リポソームのサイズは、合成方法に応じて変動する。本発明のリポソームは様々なサイズであり得る。特定の態様において、リポソームは、小型、例えば外径が約200nm、約100nm、約90nm、約80nm、約70nm、約60nm未満、または約50nm未満である。このようなリポソームを調製する際、本明細書において説明する、または当業者には公知であると思われる任意のプロトコールを使用してよい。リポソームを調製する非限定的なさらなる実施例は、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,728,578号、第4,728,575号、第4,737,323号、第4,533,254号、第4,162,282号、第4,310,505号、および第4,921,706号;国際出願PCT/US85/01161およびPCT/US89/05040;英国特許出願GB2193095A;Mayer et al., 1986;Hope et al., 1985;Mayhew et al 1987;Mayhew et al., 1984;Cheng et al., 1987;ならびにLiposome Technology, 1984に記載されている。
【0141】
水溶液中に懸濁されたリポソームは、一般に、1つまたは複数の同心層の脂質二重層分子を有する球形の小胞の形状である。各層は、式XY(式中、Xは親水性部分であり、かつYは疎水性部分である)によって示される、平行に配列した分子からなる。水性懸濁液中で、これらの同心層は、親水性部分が水性相に接触したままとなりやすく、かつ疎水性領域が自己会合しやすくなるように配列される。例えば水性相がリポソームの内部および外部の双方に存在する場合、これらの脂質分子は、XY-YXの配置を有する、ラメラとして公知の二重層を形成し得る。複数の脂質分子の親水性部分および疎水性部分が互いに会合する場合、脂質の凝集体を形成し得る。これらの凝集体のサイズおよび形状は、溶媒の性質および溶液中の他の化合物の存在など多くの様々な変動要素に依存すると考えられる。
【0142】
脂質調製物の作製は、しばしば、(I)逆相蒸発(II)脱水-再水和(III)界面活性剤透析、および(IV)薄膜水和の後に、リポソーム混合物を超音波処理または連続押出することによって達成される。一つの局面において、特定の態様においてリポソームを調製するための企図される方法は、加熱超音波処理し、かつ徐々にポアサイズが小さくなるフィルターまたはメンブレンから脂質を連続押出し、それによって小型で安定なリポソーム構造体を形成させることである。この調製により、構造的に安定で、かつ最大の活性を生じる、適切かつ均一なサイズのもののみからなるリポソーマル/O(liposomal/0)またはリポソームが生成する。このような技術は当業者には周知である(例えばMartin,1990を参照されたい)。
【0143】
作製後、脂質構造体を使用して、血液循環中で毒性(例えば化学療法薬)または不安定(例えば核酸)な化合物を封入することができる。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度、および/または2価陽イオンの存在に依存する。リポソームは、イオン性および/または極性の物質に対して低い透過性を示し得るが、高温では、その透過性を著しく改変する相転移を受け得る。相転移は、ゲル状態として公知の密に詰まった整列した構造体から、流動状態として公知の緩く詰まった整列度の低い構造体への変化を伴う。これは、特徴的な相転移温度で発生し、かつ/またはイオン、糖、および/もしくは薬物への透過性の増大をもたらす。リポソーム封入は、このような化合物に対してより低い毒性およびより長い血清半減期をもたらした(Gabizon et al., 1990)。
【0144】
リポソームは、細胞と相互に作用して、4種の異なるメカニズムを介して作用物質を送達する:マクロファージおよび/または好中球など細網内皮系の食細胞によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水的および/もしくは静電気的な力、ならびに/または細胞表面成分との特異的相互作用のいずれかによる、細胞表面への吸着;細胞質中へのリポソーム内容物の同時放出を伴う、形質膜中へのリポソーム脂質二重層の挿入による形質細胞膜との融合;ならびに/または、細胞膜および/もしくは細胞レベル下の膜へのリポソーム脂質の移行、および/もしくはその逆により、リポソーム内容物が全く関連しないもの。リポソームの処方を変更することにより、どのメカニズムが作動するかを改変することができるが、複数が同時に作動し得る。
【0145】
多数の疾患処置が、従来の療法を向上させ、または新規な療法、特に過剰増殖性疾患を処置するための療法を確立するために、脂質を用いた遺伝子導入戦略を使用している。リポソーム製剤の進歩により、インビボでの遺伝子導入の効率が改善され(Templeton et al., 1997)、リポソームはこれらの方法によって調製されることが企図される。核酸送達用の脂質ベースの製剤を調製する代替方法が記載されている(WO99/18933)。
【0146】
別のリポソーム製剤では、溶媒希釈マイクロキャリア(SDMC)と呼ばれる両親媒性運搬体が、脂質運搬体の二重層中に特定の分子を組み込むことを可能にしている(米国特許第5,879,703号)。SDMCは、リポ多糖、ポリペプチド、核酸などを送達するのに使用することができる。当然、本発明の所望のリポソーム製剤を得るために、リポソーム調製の他の任意の方法が当業者によって使用され得る。
【0147】
4.リポソーム標的化
グリコリシン組成物とリポソームが結合することにより、グリコリシン組成物の体内分布および他の諸特性が改善され得る。例えば、インビトロでのリポソームを介した核酸送達および外来DNAの発現は非常に好結果であった(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987)。培養されたニワトリ胚細胞、HeLa細胞、および肝癌細胞におけるリポソームを介した核酸送達および外来DNAの発現の実現可能性もまた、実証された(Wong et al., 1980)。静脈注射後のラットにおけるリポソームを介した遺伝子導入の成功もまた実現された(Nicolau et al., 1987)。
【0148】
リポソーム/グリコリシン組成物の組成物は、組織に送達するための付加的な材料を含み得ることが企図される。例えば、本発明の特定の態様において、脂質またはリポソームはセンダイウイルス(HVJ)と結合され得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、かつリポソーム封入されたDNAの細胞への侵入を促進することが示された(Kaneda et al., 1989)。別の例では、脂質またはリポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)との複合体を形成し得、またはそれらと併用され得る(Kato et al., 1991)。さらに別の態様において、脂質は、HVJおよびHMG-1の双方との複合体を形成し得、またはそれらと併用され得る。
【0149】
標的化送達は、これらのリポソームが多量のグリコリシン組成物を送達する能力を損なわないリガンドを添加することによって実現される。これにより特定の細胞、組織、および器官への送達が可能になることが予想される。リガンドに基づく送達系の標的特異性は、様々な細胞型表面のリガンド受容体の分布に基づいている。ターゲティングリガンドは、脂質複合体に非共有的にまたは共有的に結合され得、かつ様々な方法によってリポソームに結合させることができる。
【0150】
a.架橋剤
2価性の架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、種々の構造体の改変および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造研究を含む様々な目的のために広く使用されてきた。2つの同一の官能基を有するホモ2価性試薬は、同一および異なる高分子または高分子サブユニットの間に架橋を導入し、かつポリペプチドリガンドをそれらの特異的な結合部位に連結するのに極めて効率的であることが判明した。ヘテロ2価性試薬は、2つの異なる官能基を含む。2つの異なる官能基の示差的な反応性を利用することによって、選択的かつ逐次的に架橋を制御することができる。2価性架橋試薬は、それらの官能基、例えばアミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、カルボキシル特有の基の特異性に従って分類することができる。これらのうち、遊離アミノ基を対象とする試薬は、それらが市販されており、合成が容易であり、かつ穏やかな条件下で適用され得るため、特に人気となった。ヘテロ2価性架橋試薬の大多数は、第1級アミン反応性基およびチオール反応性基を含む。
【0151】
リポソームにリガンドを架橋させる例示的な方法は、それぞれその全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる、米国特許第5,603,872号および米国特許第5,401,511号に記載されている。アミン残基の架橋を介して、リポソーム表面に様々なリガンドを共有結合させることができる。リポソーム、特に、それぞれホスファチジルエタノールアミン(PE)を含む、微細乳化リポソーム(MEL)および大型単層リポソーム(LUVET)などの多重層小胞(MLV)または単層小胞は、確立された手順によって調製された。リポソーム中にPEを含めることにより、活性な官能性残基、すなわち第1級アミンが、架橋目的用のリポソーム表面上に提供される。上皮成長因子(EGF)などのリガンドが、PE-リポソームに成功裡に結合された。リガンドは、リポソーム表面上の別々の部位に共有結合される。これらの部位の数および表面密度は、リポソームの処方およびリポソームのタイプによって決定されると考えられる。リポソーム表面はまた、非共有結合のための部位も有し得る。リガンドおよびリポソームの共有結合体を形成するために、架橋試薬の有効性および生体適合性が研究された。架橋試薬には、グルタルアルデヒド(GAD)、2官能性オキシラン(OXR)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、および水溶性カルボジイミド、好ましくは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)が含まれる。複雑な架橋化学反応を通じて、認識物質のアミン残基とリポソームの結合が確立される。
【0152】
別の例では、ヘテロ2価性架橋試薬およびこれらの架橋試薬を使用する方法が記載されている(その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,889,155号)。これらの架橋試薬は、求核性のヒドラジド残基を求電子性のマレイミド残基と組み合わせて、一例では遊離のチオールへのアルデヒドの結合を可能にする。この架橋試薬は、様々な官能基を架橋するように改変することができ、したがってポリペプチドおよび糖を架橋するのに有用である。
【0153】
ある特定のポリペプチドが、所与の架橋試薬に適する配列をその天然の配列中に含まない場合は、一次配列中の保存的な遺伝子的または人工的なアミノ酸変化を利用することができる。
【0154】
b.ターゲティングリガンド
ターゲティングリガンドは、複合体の疎水性部分中に固定され得、または複合体の親水性部分の反応性末端基に結合され得る。ターゲティングリガンドは、反応性基への結合を介してリポソームに、例えば親水性ポリマーの遠位末端上に結合され得る。好ましい反応性基には、アミノ基、カルボキシル基、ヒドラジド基、およびチオール基が含まれる。親水性ポリマーへのターゲティングリガンドの連結は、当業者には公知である有機化学の標準的方法に従って実施することができる。特定の態様において、ターゲティングリガンドの全濃度は約0.01〜約10%molであり得る。
【0155】
ターゲティングリガンドは、標的とされる領域の特徴的な成分に対して特異的な任意のリガンドである。好ましいターゲティングリガンドには、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、抗体断片、もしくはキメラ抗体、酵素、またはホルモンなどのタンパク質、あるいは単糖類、オリゴ糖類、および多糖類などの糖が含まれる(Heath et al., Chem.Phys. Lipids 40:347(1986)を参照されたい)。例えばジシアロガングリオシドGD2は、神経芽細胞腫、黒色腫、小細胞肺癌、神経膠腫、およびある種の肉腫のような神経外胚葉起源の腫瘍で同定された腫瘍抗原である(Mujoo et al., 1986, Schulz et al., 1984)。抗ジシアロガングリオシドGD2モノクローナル抗体を含むリポソームが、腫瘍抗原を発現する細胞へのリポソームの標的化を助けるために使用された(Montaldo et al., 1999;Pagan et al., 1999)。別の非限定的な例において、乳癌および婦人科癌の抗原に特異的な抗体が、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,939,277号において記載されている。さらなる非限定的な例において、前立腺癌に特異的な抗体が、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,107,090号において開示されている。したがって、本明細書において説明される、または当業者には公知と思われる抗体が、本発明の組成物および方法と組み合わせて特定の組織型および細胞型を標的とするのに使用され得ることが企図される。本発明の特定の態様において、企図されるターゲティングリガンドは、インテグリン、プロテオグリカン、糖タンパク質、受容体、または輸送体と相互に作用する。適切なリガンドには、標的器官の細胞に対して、または腫瘍などの局所的病変の結果として血液循環に曝露された標的器官の構造体に対して特異的な任意のものが含まれる。
【0156】
本発明の特定の態様において、細胞の形質導入を増進するために、標的細胞の形質導入を増加させるために、または望まれない細胞の形質導入を制限するために、抗体または環状ペプチドを標的とする部分(リガンド)が脂質複合体に結合される。このような方法は当技術分野において公知である。例えば、哺乳動物の中枢神経系の細胞を特異的に標的とするリポソームがさらに説明された(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,786,214号)。これらのリポソームは、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、およびオレイン酸から本質的に構成され、ここで、神経膠に特異的なモノクローナル抗体がそれらのリポソームに結合されている。例えば脳、心臓、肺、肝臓など動物の特定の細胞、組織、または器官に標的化送達するために、モノクローナル抗体または抗体断片を使用し得ることが企図される。
【0157】
さらにまた、グリコリシン組成物は、受容体を介した送達および/または脂質もしくはリポソームを含むターゲティング運搬体を介して標的細胞に送達され得る。これらは、標的細胞中で起こっていると考えられる受容体を介したエンドサイトーシスによる高分子の選択的取込みを利用する。様々な受容体の細胞型に特異的な分布を考慮すると、この送達方法により、本発明に一段階高い特異性が加えられる。
【0158】
したがって、本発明の特定の局面において、リガンドは、標的細胞集団上で特異的に発現される受容体に対応するように選択される。細胞特異的なグリコリシン組成物送達および/またはターゲティング運搬体は、リポソームと組み合わせて、特異的に結合するリガンドを含み得る。送達されるべきグリコリシン組成物はリポソーム内部に収納され、かつ特異的結合リガンドはリポソーム膜中に機能的に組み込まれる。したがって、リポソームは標的細胞の1種または複数種の受容体に特異的に結合し、かつ細胞にその内容物を送達すると考えられる。例えば上皮成長因子(EGF)が、EGF受容体の上方調節を示す細胞への受容体を介した核酸送達において使用される系を用いて、このような系が機能的であることが示された。
【0159】
特定の態様において、受容体を介した送達および/またはターゲティング運搬体は、細胞受容体に特異的なリガンドおよびグリコリシン組成物結合物質を含む。その他のものは、送達されるべきグリコリシン組成物が機能的に結合された、細胞受容体に特異的なリガンドを含む。例えばいくつかのリガンドが、受容体を介した遺伝子導入のために使用され(Wu and Wu, 1987;Wagner et al., 1990;Perales et al., 1994;Myers, EPO 0273085)、この技術の実施可能性を証明している。別の例において、他の哺乳動物細胞型における特異的送達が記載された(参照により本明細書に組み入れられる、Wu and Wu, 1993)。
【0160】
さらに別の態様において、特異的結合リガンドは、細胞特異的な結合を指示する1種または複数種の脂質または糖タンパク質を含み得る。例えば、ラクトシルセラミドである、末端にガラクトースを有するアシアロガングリオシド(asialganglioside)がリポソーム中に組み込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取込みの増加が観察された(Nicolau et al., 1987)。末端にガラクトシル残基を含むアシアロ糖タンパク質のアシアロフェチュインもまた、リポソームを肝臓に標的化することが実証された(Spanjer and Scherphof, 1983;Hara et al., 1996)。糖のマンノシル、フコシル、またはN-アセチルグルコサミンは、ポリペプチドの主鎖に連結される場合、高親和性マンノース(manose)受容体に結合する(その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる、米国特許第5,432,260号)。本発明の細胞または組織に特異的な形質転換構築物は、同様の様式で標的の細胞または組織中に特異的に送達され得ることが企図される。
【0161】
別の例では、ラクトシルセラミド、およびアポリポタンパク質E3(「ApoE」)などのLDL受容体関連タンパク質を標的とするペプチドが肝臓にリポソームを標的化するのに有用であった(Spanjer and Scherphof, 1983;WO 98/0748)。
【0162】
葉酸および葉酸受容体もまた、細胞標的化のために有用と評された(米国特許第5,871,727号)。この例では、ビタミン葉酸が複合体に連結される。葉酸受容体はそのリガンドに対して高い親和性を有し、かつ肺、乳房、および脳の腫瘍を含むいくつかの悪性細胞株の表面上で過剰発現される。メトトレキサートなどの抗葉酸剤もまたターゲティングリガンドとして使用され得る。トランスフェリンを介した送達系は、トランスフェリン受容体を発現する様々な複製中の細胞を標的とする(Gilliland et al., 1980)。
【0163】
5.脂質投与
ある患者に投与される脂質組成物(例えばリポソーム-グリコリシン組成物)の実際の投薬量は、体重、状態の重症度、患者の特発性疾患などの身体的および生理的因子によって、かつ投与経路に基づいて決定することができる。これらの考慮すべき事柄を念頭に置いて、特定の対象に対する脂質組成物の投薬量および/または治療の方針を容易に決定することができる。
【0164】
本発明は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、腟内に、直腸経由で、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、膀胱内に、経粘膜的に、心膜内に、経口的に、局所的に、局部的に、かつ/またはエアロゾル、注射、輸注、持続輸注、標的細胞を直接浸す局所的潅流を用いて、またはカテーテルおよび/もしくは洗浄によって、投与することができる。
【0165】
実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、本発明者らによって発見された本発明の実施に際して良く機能する技術を示し、したがって、その実施のために好ましい態様に相当するとみなし得ることが当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、開示される個々の態様において多くの変更をし、かつ本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果をなお得ることができることを、本開示に照らして理解すべきである。
【0166】
実施例1 グリコリシン
(1)化学構造
グリコリシン(3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸プロピルもしくは3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸プロピルエステル、または3-ブロモピルビン酸プロピル)は、低分子量の抗癌剤である。これは、化学式C6O3H9Brを有し、分子量は209である。グリコリシンの化学構造を図1に示す。
【0167】
(2)化学合成および調製
グリコリシンを調製するための例示的な方法を図2に例示する。すべての出発原料は、例えば商業的供給業者から得ることができる。主要な成分には、3-ブロモ-2-オキソプロピオナート(3-ブロモピルバートとしても公知である)、1-プロパノール、濃塩酸(HCl)、および炭酸ナトリウム(Na2CO3、または炭酸水素ナトリウム、NaHCO3)が含まれる。原理の化学反応は、1-プロパノールによる3-ブロモ-2-オキソプロピオナートのエステル化である。グリコシンの調製には少なくとも5つの特定の段階がある:(1)反応チャンバー中に3-ブロモ-2-オキソプロピオナート固形物1モル(167グラム)を入れる。(2)純粋な1-プロパノール3モルを反応チャンバーに添加する。モル過剰量の1-プロパノールは、3-ブロモ-2-オキソプロピオナートを十分に利用する方向に化学反応を促進して、好ましい収率でグリコリシンを生成させる。(3)少量の濃塩酸をエステル化反応の触媒として添加し、チャンバーを40℃まで加熱し、かつ連続的攪拌下で反応を継続させる。60分後、30℃まで冷却し、かつ連続的に攪拌しながらさらに8時間反応を継続させる。(4)反応が完了した後、反応生成物を氷浴で0℃まで冷却し、添加されたHClを中和するのに十分なだけの量の固形Na2CO3(またはNaHCO3)を添加する。過剰なNa2CO3(もしくはNaHCO3)または水が存在するとグリコリシンの加水分解が容易になるため、過剰なNa2CO3(もしくはNaHCO3)を使用しても、水を添加してもならない。(5)加熱はせずに、適切な減圧による低圧下で過剰な1-プロパノールを蒸発させる。または、過剰な1-プロパノールと共に-20℃でグリコリシンを保存することもできる。1-プロパノールの存在は、加水分解を最低限に抑えることによってグリコリシンを安定させる。
【0168】
(3)代謝および薬物作用の機序
グリコリシンはエステルであり、かつ3-ブロモ-2-オキソプロピオナートより化学的に分極の程度がより低く、したがって細胞膜を容易に透過できる。細胞内に入ると、グリコリシンはエステラーゼよって切断されて、活性成分3-ブロモ-2-オキソプロピオナートおよび代謝基質1-プロパノールを生成する。細胞内の3-ブロモ-2-オキソプロピオナートが蓄積すると、解糖が効果的に阻害され、図4で示すように細胞ATPの極度の枯渇をもたらし、かつ図5〜8で例示されるように様々な組織に由来する癌細胞を大量に死滅させる。もう一方の加水分解生成物、すなわち1-プロパノールは、細胞における一連の代謝反応によってスクシニルCoAにさらに変換され得る。これらの例示的な代謝変換段階を図3に示す。十分なミトコンドリア機能を有する正常細胞において、スクシニルCoAは、トリカルボン酸(TCA)サイクルに入り、かつミトコンドリアの酸化的リン酸化を通じてATPを生成することによって、エネルギー源として役立ち得ることに留意すべきである。この場合、プロピオン酸の細胞内生成は、代替エネルギー源を提供することによってある程度は正常細胞を保護し得る。スクシニルCoAはミトコンドリア呼吸が無い場合は有効なエネルギー源ではないため、この保護効果は、ミトコンドリア呼吸の欠陥を有する、または低酸素状態下の癌細胞には有用となり得ない。したがって、グリコリシンの細胞内加水分解は、多様なヒト癌において、かつ低酸素状態下の固形腫瘍において至るところにある、呼吸欠陥を伴う癌細胞を優先的に死滅させるための新規な生化学的メカニズムを提供する。
【0169】
実施例2 E-グリコリシンおよびM-グリコリシン
E-グリコリシン(3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸エチル、または3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸エチルエステル)は、C5O3H7Brで表される化学式および分子量195を有し、一方、M-グリコリシン(3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸メチルまたは3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸メチルエステル)はC4O3H5Brで表される化学式および分子量181を有する。E-グリコリシンおよびM-グリコリシンの化学構造を図9に示す。
【0170】
図9はまた、E-グリコリシンおよびM-グリコリシンを調製するための例示的な方法も示す。すべての出発原料は、例えば商業的供給業者から得ることができる。主要な成分には、3-ブロモ-2-オキソプロピオナート、エタノール、メタノール、濃塩酸(HCl)、および炭酸ナトリウム(Na2CO3、または炭酸水素ナトリウムNaHCO3)が含まれる。グリコシンの調製と同様、E-グリコリシンまたはM-グリコリシンを調製するための主要な化学反応もまた、適切なアルコールによる3-ブロモ-2-オキソプロピオナートのエステル化である。エタノールによる3-ブロモ-2-オキソプロピオナートのエステル化によりE-グリコリシンが生成され、一方メタノールによる3-ブロモ-2-オキソプロピオナートのエステル化によりM-グリコリシンが生成される。E-グリコリシンまたはM-グリコリシンの調製にはそれぞれ少なくとも5つの特定の段階がある:(1)各反応チャンバー中に3-ブロモ-2-オキソプロピオナート固形物1モル(167グラム)を入れる;(2)純粋なエタノール(E-グリコリシン調製の場合)またはメタノール(M-グリコリシン調製の場合)2モルをそれぞれの反応チャンバーに添加する;モル過剰量のアルコールは、3-ブロモ-2-オキソプロピオナートを十分に利用する方向に化学反応を促進して、M-グリコリシンのE-グリコリシンの好ましい収量をもたらす;(3)少量の濃塩酸をエステル化反応の触媒として各チャンバーに添加し、チャンバーを40℃まで加熱し、かつ連続的攪拌下で反応を継続させる。60分後、30℃まで冷却し、かつ連続的に攪拌しながらさらに8時間反応を継続させる。(4)反応が完了した後、反応生成物を氷浴で0℃まで冷却し、添加されたHClを中和するのに十分なだけの量の固形Na2CO3(またはNaHCO3)を添加する。過剰なNa2CO3(もしくはNaHCO3)または水が存在するとエステル生成物の加水分解が容易になるため、過剰なNa2CO3(もしくはNaHCO3)を使用しても、水を添加してもならない。(5)加熱はせずに、適切な減圧による低圧下で余分なアルコールを蒸発させる。または、過剰なエタノールと共に-20℃でE-グリコリシンを保存する。
【0171】
E-グリコリシンおよびM-グリコリシンはエステルであり、かつ3-ブロモ-2-オキソプロピオナートより化学的に分極の程度がより低く、かつそれらは細胞膜を容易に透過できる。細胞内に入ると、それらはエステラーゼよって切断されて、活性成分3-ブロモ-2-オキソプロピオナートおよびそれぞれのアルコール(エタノールまたはメタノール)を生成し得る。細胞内の3-ブロモ-2-オキソプロピオナートが蓄積すると、解糖が効果的に阻害され、細胞ATPの極度の枯渇、ならびに図12〜14で例示されるようなアポトーシス誘導タンパク質BADの脱リン酸に関連した癌細胞の大量死滅をもたらす。
【0172】
実施例3 S-グリコリシン(l)化学的性質
S-グリコリシン(3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム・炭酸)は、以下の化学式:NaC3H3BrO3・H2CO3(式量:251)を有する。
【0173】
図10で例示されるように、水性(水)溶液中で、S-グリコリシンの成分、すなわち3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム(NaC3H3BrO3)および炭酸(H2CO3)は、水素結合を形成し得、かつ化合物を安定させ得る。炭酸の水素と3-ブロモ-2-オキソプロピオナートのハロゲンの相互作用により、Br-C3結合の加水分解が最小限に抑えられる。しかしながら、二酸化炭素(CO2)がグリコリシン溶液から放出され得、したがって3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム(NaC3H3BrO3)および炭酸(H2CO3)のモル比率が変化し得る。放出されるCO2の量は、容器内部の温度および空気圧(PCO2)に依存すると考えられる。
【0174】
本発明の特定の局面において、S-グリコリシンの3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム部分は、抗癌活性を担う成分であり、一方、グリコリシンの炭酸部分は、薬物の安定性および活性を高めるために重要である。本発明者らは、炭酸が無い場合、中性pHの溶液中で3-ブロモ-2-オキソプロピオナートが不安定になること、ならびに炭酸を伴わない3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウム(3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸およびNaOHの中和反応生成物)はグリコリシンより活性が著しく低いことを発見した。これらの化学的/生物学的諸特性の差異は、以下のセクション(II)および(III)でさらに説明する。したがって、S-グリコリシンは乾燥粉末(以下を参照されたい)として保存すべきであり、かつその溶液はCO2の放出を最小限に抑えるために密閉容器中で保管すべきである。
【0175】
(2)調製方法
いくつかの態様において、市販されている出発原料を用いてS-グリコリシンを調製することができる。本発明の特定の態様において、これらの出発原料には、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸(3-ブロモピルバート)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、滅菌されたCO2ガス、および2回蒸留水が含まれる。本発明者らは、S-グリコリシンを調製するための以下の方法を設計および試験した。これらの方法は、単純であり、薬学的製造のために量産化することが容易であり、かつ費用対効果が高いという利点を有する。
【0176】
方法1:
(1)3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸83.5グラムを2回蒸留水中に溶解する(最終体積、1000ml)。これにより、0.5Mの溶液が得られる(溶液A)。
(2)炭酸ナトリウム(Na2CO3)26.5グラムを2回蒸留水500ml中に溶解する。これにより、0.5MのNa2CO3溶液が得られる(溶液B)。
(3)溶液Aおよび溶液Bを体積比2:1(A:B)で混合して、図10で例示される反応を開始させる。反応完了時、生成物溶液のpHは、ほぼ中性であるはずである。
(4)前述したように、溶液A(初期pHが7.0より高い場合)または溶液B(初期pHが7.0より低い場合)を用いて、反応生成物をpH7.0に調整する。生成物は、0.33Mのグリコリシン溶液である。
(5)中和した生成物を直ちにろ過し、かつ滅菌された生成物を容器に移し、容器体積の90%を薬物溶液が占めるようにする。残りの10%の体積を滅菌されたCO2で充填し、次いでその容器を密閉する。
【0177】
この方法によってS-グリコリシンを作製するための代替手順は、以下のとおりである:
(1)容器中で3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸16.7グラムおよび炭酸ナトリウム(Na2CO3)5.3グラムを混合する。この粉末混合物は、乾燥容器中で保存し、かつ使用前に水に溶解して適切な濃度の溶液を調製することができる(以下を参照されたい)。
(2)2回蒸留水170mlをこの薬物粉末に加え、これらの化合物が溶解するまで攪拌する。
(3)溶液A(生成物溶液の初期pHが7.0より高い場合)または溶液B(初期pHが7.0より低い場合)を用いて、溶液のpHを7.0に調整する。2回蒸留水を加えて最終体積を200mlに調整する。生成物は、0.5Mのグリコリシン溶液である。
(4)中和した生成物を直ちにろ過し、かつ滅菌された生成物を即時使用するために容器に移す。
【0178】
S-グリコリシンを生成するためのさらなる例示的な方法は以下のとおりである:
(1)3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸83.5グラムを2回蒸留水1000ml中に溶解して0.5M溶液を作製する(溶液A)。
(2)炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)42.0グラムを2回蒸留水1000ml中に溶解する。これにより、0.5MのNaHCO3溶液が得られる(溶液C)。
(3)等体積の溶液Aおよび溶液Cを混合して反応を開始させる。
(4)溶液A(初期pHが7.0より高い場合)または溶液C(初期pHが7.0より低い場合)のいずれかを用いて、反応生成物のpHを7.0に調整する。生成物は、0.25Mのグリコリシン溶液である。
(5)中和した生成物を直ちにろ過し、かつ滅菌された生成物を容器中に移し、容器体積の90%を薬物溶液が占めるようにする。残りの10%の体積を滅菌されたCO2で充填した後、その容器を密閉する。
【0179】
この方法によってグリコリシンを生成させるための代替手順は以下の段階を含む:
(1)容器中で3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸16.7グラムおよび炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)8.4グラムを混合する。この粉末混合物は、乾燥容器中で保存し、かつ使用前に水に溶解して適切な濃度の溶液を調製することができる(以下を参照されたい)。
(2)2回蒸留水170mlをこの薬物粉末に添加し、これらの化合物が溶解するまで攪拌する。
(3)溶液A(初期pHが7.0より高い場合)または溶液C(初期pHが7.0より低い場合)を用いて、溶液のpHを7.0に調整する。2回蒸留水を加えて最終体積を200mlに調整する。生成物は、0.5Mのグリコリシン溶液である。
(4)中和した生成物を直ちにろ過し、かつ滅菌された生成物を即時使用するために容器に移す。
【0180】
(3)安定性
3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸(3-ブロモピルバート)の溶液、すなわちグリコリシンの最初の出発原料は極めて酸性度が高く、したがって臨床治療のための直接使用は制限される。本発明者らは、3-ブロモピルバート溶液を水酸化ナトリウム(NaOH)でpH7.0に単に中和することにより、不安定な生成物が生じることを発見した:
Br-CH2-CO-COOH + NaOH→Br-CH2-CO-COO-Na+ +H2O。
【0181】
中性pHにおいて、3-ブロモピルバートナトリウム塩(Br-CH2-CO-COO-Na+)の溶液は、おそらくはBr-C3結合の加水分解および不安定な臭素酸の生成が原因となって、調製後数時間以内に茶色がかった色/黄色を示す。この変色は、(4℃で保存されている場合でさえ)時間とともによりひどくなり、その細胞障害活性の著しい低下を伴う。少なくとも1日目および7日目に3-BrPAの変色がある。一方、グリコリシン溶液は4℃で保管された場合に安定であり、生物活性の著しい低下はない(図11および表1)。
【0182】
表1
4℃で3週間保存する前および後の、pH7.0におけるグリコリシンおよび3-ブロモピルビン酸ナトリウム(3-BrPA)のインビトロでの細胞障害活性の比較。同一条件下で(HL-60細胞;薬物と共に72時間インキュベーション;MTT試薬と共に4時間インキュベーション)、双方の化合物をMTTアッセイ法によって試験した。

【0183】
S-グリコリシンは、癌細胞を死滅させることにおいて3-ブロモピルバートより活性が高い。また、3-ブロモピルバート溶液を4℃で3週間保管した後、活性の相当な低下がみとめられた。グリコリシン溶液の活性は、少なくとも3週間の保存後でも安定なままであった。
【0184】
実施例4 S-グリコリシンおよび3-BRPAの解糖阻害および抗癌活性
S-グリコリシンのインビトロでの抗癌活性をその化学的前駆体である3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸(3-ブロモピルバート)と比べて特徴付けた。3-ブロモピルバートが、ピルビン酸デヒドロゲナーゼおよびヘキソキナーゼを含むいくつかの酵素を不活性化し、解糖を阻害するアルキル化剤であることは、20年を超える前から公知である(Tunnicliff et al., 1978;Lowe et al., 1984;Ko et al., 2001)。しかしながら、3-ブロモピルバートが不安定なため、臨床応用のための抗癌薬物としての使用は限定されている。一方、S-グリコリシンは、解糖を阻害し、かつ癌細胞からATPを優先的に奪うその能力を考慮すれば、大きく改善された安定性およびかなりより強力な抗癌活性を示す。S-グリコリシンおよび3-ブロモピルバートの作用メカニズムは類似(解糖の阻害および細胞ATPの枯渇)しているため、それらの活性を同時研究で評価した。関連するデータを以下の図面に示す。
【0185】
図15は、S-グリコリシンおよび3-ブロモピルバート(3-BrPA)による細胞ATPプールの枯渇を実証する。いくつかの指定された濃度のS-グリコリシンまたは3-BrPAと共に12時間、細胞をインキュベートした。細胞ATPを0.4N PCAによって抽出し、KOHで中和し、かつHPLC解析によって定量した。これらの結果は、ヒト白血病HL-60細胞株および呼吸が不完全なそのサブクローンHL-60/C6F細胞中のATPプールを枯渇させるにあたって、S-グリコリシンの方が3-ブロモピルバートより効果的であることを示唆する。0.03mM S-グリコリシンと共に細胞をインキュベートすると、双方の細胞株において細胞ATPが完全に枯渇したのに対し、同程度のATP枯渇を達成するには10倍高い濃度(0.3mM)の3-BrPAを要した。
【0186】
S-グリコリシンおよび3-ブロモピルバート(3-BrPA)によるアポトーシスの誘導を図16において実証する。いくつかの指定された濃度のS-グリコリシンまたは3-BrPAと共に、HL-60細胞を24時間インキュベートした。アネキシンVおよびPIによる二重染色とそれに続くフローサイトメトリー解析によってアポトーシスを測定した。データは、S-グリコリシンの方が、白血病細胞の死滅化において3-BrPAよりかなり強力であることを示唆する。30μMのS-グリコリシンと共にHL-60細胞をインキュベーションした場合、24時間で90%を超える細胞にアポトーシスを受けさせたのに対し、同じ濃度の3-BrPAは同じ期間内に細胞の20%未満しか死滅させなかった。
【0187】
図17は、アポトーシス誘導因子BADの発現およびそのリン酸化状態(Ser112)に対するS-グリコリシンおよび3-ブロモピルバートの効果を示す。いくつかの指定された濃度の各化合物と共に、HL-60細胞を3時間インキュベートした。BADおよびSer112でのそのリン酸化を、それぞれの抗体を用いてウエスタンブロット解析により測定した。タンパク質ローディングコントロールとしてβ-アクチンもブロットした。これらの結果は、ミトコンドリアからサイトゾルへのチトクロムCの放出、およびアポトーシスカスケードの活性化をもたらしたBADの脱リン酸を引き起こす際にS-グリコリシンの方が3-BrPAより効果的であることを示唆する。
【0188】
アポトーシス誘導因子BADの発現レベルおよびSer112におけるそのリン酸化に対する、S-グリコリシンの時間および用量に依存的な効果を図18に提供する。いくつかの指定された濃度のS-グリコリシンと共に、HL-60細胞を様々な期間インキュベートした。BADタンパク質全体およびSer112でのそのリン酸化を、それぞれの抗体を用いてウエスタンブロット解析により測定した。タンパク質ローディングコントロールとしてβ-アクチンもブロットした。10μMのS-グリコリシンはBADに有意な変化をまったく引き起こさなかったが、50μMの薬物はBADのほぼ全面的な脱リン酸を引き起こした。30〜50μMのS-グリコリシンによって極度のATP枯渇を誘導することができるが10μMではできないことに留意されたい(図15)。したがって、これは、S-グリコリシンがBADの脱リン酸を引き起こす能力は細胞ATPプールの枯渇に相関関係があることを示唆する。
【0189】
図19は、解糖の阻害が、呼吸欠陥を有する癌細胞のより効果的な死滅化をもたらすことを示す。最初の研究は、呼吸能力を有する白血病細胞(親HL-60)およびリンパ腫細胞(親Raji)の感受性を、呼吸が不完全なそれらのクローンのHL-c6/p0-C6FおよびRaji-C6と比較して試験するために実施された。ミトコンドリアに欠陥を有する細胞株は、本発明者らおよび他のもの(Pelicano et al., 2003)によって樹立された。いくつかの指定された濃度の3-BrPAと共に細胞をインキュベートし、かつ2種の異なるアッセイ法、すなわちアネキシンV/PI染色アッセイ法およびコロニー形成アッセイ法によって細胞傷害性を測定した。これらの結果は、ミトコンドリアに欠陥を有する細胞は、解糖への依存度が高まっていることが原因で、親細胞と比べて3-BrPAに対してより感受性が高いことを示した。
【0190】
慢性リンパ性白血病(CLL)の患者から単離された初代白血病細胞における、3-BrPAおよびS-グリコリシンによる細胞ATPの枯渇ならびにBAD脱リン酸の誘導を図20に示す。ATPのHPLC解析の例を図20A中の上の2つの囲み図に示す。一番上の囲み図はヌクレオチド3リン酸(NTP)の標準であり;中央の囲み図は対照のCLL細胞からの抽出物であり;下の囲み図は3-BrPAで処理されたCLL細胞からの抽出物である。ATPピークを赤色で示す。ウエスタンブロット解析により、初代CLL細胞においてBADの脱リン酸を引き起こすにあたってS-グリコリシンの方が3-BrPAより活性が高いことが実証された。MTTアッセイ法では、IC50値により測定されるように、CLL細胞を死滅させるにあたってS-グリコリシンが3-BrPAよりもより強力であることが示唆される。
【0191】
図21は、解糖の阻害および細胞ATPの枯渇による薬物耐性の克服を実証する。HL-60細胞株およびその薬物耐性クローンHL-60/ARを、いくつかの指定された濃度のドキソルビシン、ビンクリスチン、および3-BrPAと共に72時間インキュベートした。MTTアッセイ法によって、細胞傷害性を測定した。これらの結果は、HL-60/AR細胞が、親HL-60細胞と比べて100倍を超える耐性をドキソルビシンおよびビンクリスチンに対して有することを示す。しかしながら、双方の細胞株とも、3-BrPAに対して同等に感受性である。本明細書において提供される教示に基づいて、HL-60/AR細胞のグリコリシンに対する感受性を測定するために研究を実施することができる。図22は、3-BrPAをara-Cまたはドキソルビシンと組み合わせることにより、多剤耐性HL-60/AR細胞に対する細胞障害活性を顕著に高め得ることをさらに示す。
【0192】
実施例5 多剤耐性白血病細胞に対するS-グリコリシンの効果
ドキソルビシンおよびビンクリスチンに対する耐性が極めて高いヒト白血病細胞のサブクローンHL-60/ARを使用して、S-グリコリシンが多剤耐性細胞を死滅させる能力を親HL-60細胞と比べて試験した。白血病の最先端治療において一般に使用される薬物であるAra-Cを同時実験で使用した。MTTアッセイ法によって、細胞傷害性を測定した。図23に例示したように、これらの結果は、HL-60/AR細胞が、親HL-60細胞と比べて、ドキソルビシン(A)およびビンクリスチン(B)に対して極めて耐性が高く、かつara-C(C)に対して中程度の耐性を有することを示す。しかしながら、HL-60/AR細胞およびHL-60細胞の双方とも、S-グリコリシン(D)に対して同等に感受性である。
【0193】
実施例6 動物試験
以下の条件を用いて、動物試験をマウスにおいて実施した:動物:ヌードマウス、体重20〜30グラム(1)グリコリシン投薬量:グリコシン6mg/kg、1日1回3日間腹腔内投与。(2)E-グリコリシン用量:5mg/kgを1日1回5日間静脈内投与。(3)S-グリコリシン用量:S-グリコリシン5mg/kgを1週3回(月水金)静脈内投与。マウスの第2系統(C3H-Hej)にグリコリシンを注射した:10mg/kg/日、1日1回5日間静脈内投与。
【0194】
これらの条件下で明らかな急性毒性はまったく観察されなかった。これらの薬物投薬量は、少なくとも30μMの血漿薬物濃度をもたらすと予想され、この濃度は、インビトロで試験された癌細胞に対するグリコシンのIC50を上回る。
【0195】
実施例7 例示的な組合せ処方:グリコリシン-Pおよびグリコリシン-G
癌細胞と正常細胞の間のエネルギー代謝の差異により、グリコリシンの治療活性を改善し、かつ正常細胞に対するその毒性を低減させるための薬物の組合せ処方を設計するための生化学的基礎が提供される。癌細胞は呼吸傷害を有し、かつATPを生成するために解糖により強く依存する(ワールブルク効果)ため、グリコリシンによる解糖阻害は、癌細胞を効果的に死滅させると予想される。一方、十分なミトコンドリア呼吸を有する正常細胞は、解糖が阻害された場合にはATPを生成するためにアミノ酸、脂肪酸、および代謝中間体(例えばピルバート)などの代替エネルギー源を使用することができる。したがって、グリコリシンと組み合わせたこのような代謝中間体の補充は、正常細胞に対する保護を与え、したがって望まれない毒性を低減させることが予想される。すなわち、TCAサイクルおよびミトコンドリア呼吸を介してATPを生成するために指定された代謝中間体を利用する能力が寄与して、正常細胞は、このような代替エネルギー源が提供される場合には解糖阻害に高い寛容性を有する。このような薬物組合せの理論的根拠を図24に示す。
【0196】
(1)グリコリシン-Gは、適切なモル比率のグリコリシンまたはその誘導体およびグルタミンの組合せを含む。グルタミンは、以下の経路を介してエネルギー源として使用され得る:

【0197】
(2)グリコリシン-Pは、適切なモル比率のグリコリシンまたはその誘導体およびピルバートの組合せを含む。ピルバートは、以下の経路を介してエネルギー源として使用され得る:

【0198】
(3)他の組合せは、例えばグリコリシン+グルタミン+ピルバート;グリコリシン+脂肪酸;およびグリコリシン+脂肪酸+グルタミンを含む。
【0199】
実施例8 呼吸能力を有する細胞および呼吸に欠陥を有する細胞におけるS-グリコリシン細胞傷害性に対するグルタミンの影響
本発明の特定の態様において、十分なミトコンドリア呼吸機能を有する細胞は、解糖が阻害されている場合にはATPを生成するためにアミノ酸、脂肪酸、および/または他の代謝中間体などの代替エネルギー源を利用する。グルタミンなどの代替エネルギー源を補充すると、正常なミトコンドリア機能を有する細胞に対するグリコリシンの細胞障害効果が減少するであろうことが予想される。一方、ミトコンドリアに欠陥を有する癌細胞は代替エネルギー源を効果的に使用する能力を持たないことが原因となって、このような栄養物の補充によっては保護されないと思われる。
【0200】
野生型HL-60細胞および呼吸が不完全なC6F細胞におけるS-グリコリシンの細胞障害活性に対するグルタミンの影響を比較した。1mMグルタミンの存在下または不在下で、いくつかの指定された濃度のS-グリコリシンと共に親HL-60細胞を2時間インキュベートし、洗浄し、かつ新鮮な培地中で再培養した。24時間目にアポトーシスを測定した。これらの結果は、細胞培養物にグルタミンを添加することにより、グリコリシンで処理した親HL-60細胞に対して部分的な保護が与えられた(図25)のに対し、呼吸が不完全なC6F細胞では保護はまったく観察されなかった(図26)ことを示す。図26では、1mMグルタミンの存在下または不在下で、いくつかの指定された濃度のS-グリコリシンと共に呼吸が不完全な細胞(HL-60-C6F)を2時間インキュベートし、洗浄し、かつ新鮮な培地中で再培養した。24時間目にアポトーシスを測定した。このように、グルタミンの補充により、十分なミトコンドリア機能を有する細胞に対してある程度の保護が与えられる。
【0201】
実施例9 ヒト結腸癌(HCT116)および脳腫瘍(U87MG)細胞に対するS-グリコリシンの細胞障害活性
ヒト結腸癌細胞(HCT116)およびヒト脳腫瘍細胞(U87MG)に対するグリコリシンの効果を、MTTアッセイ法を用いて、72時間インキュベーションして試験した。図27に示したように、HCT116はS-グリコリシンに対して感受性であり、IC50値は約5〜10μMであった。脳腫瘍U87MG細胞に対するS-グリコリシンのIC50値は約30μMである。S-グリコリシンがインビトロで固形腫瘍細胞を死滅させる能力は、インビボでの固形腫瘍の処置にグリコリシンが有用となり得ることを示唆する。さらに、個別の実験により、p53を発現しない結腸癌細胞が同様にS-グリコリシンに対して感受性であることが実証され、p53に欠陥を有する癌細胞を死滅させるのに解糖阻害が効果的であることが示唆された。ヒト癌の大半がp53機能に欠陥を有し、かつ放射線療法およびある種の抗癌剤に対して低い応答を示すため、このことは臨床的に意義がある。
【0202】
実施例10 BCL-2の過剰発現は、細胞をS-グリコリシンの細胞障害効果から保護しない
抗アポトーシス分子Bcl-2の発現増大は、癌細胞における薬物耐性と関連付けられている。HL-60細胞におけるBcl-2の過剰発現が、S-グリコリシンの細胞障害効果に対抗する保護を与えるかどうかを特徴付けた。図28に示す結果は、遺伝子トランスフェクション後の高いBcl-2発現を有する細胞がS-グリコリシンに対して感受性のままであることを、トランスフェクトされた対照(Neo)と比較して示す。Bcl-2をトランスフェクトされた細胞は、ara-Cおよびドキソルビシンに対して低い感受性を示す。したがって、グリコリシンは、Bcl-2過剰発現が原因の薬物耐性を克服するために使用され得る。
【0203】
実施例11 S-グリコリシンは、酸素正常状態下より低酸素状態下の方が、癌細胞の死滅化においてより効果的である
固形腫瘍中の癌細胞は、不十分な血液供給に起因する低酸素環境に適応しなければならない。低酸素状態下では、癌細胞は、酸素を消費せずにATPを生成する解糖経路を使用する。この代謝適応もまた、癌細胞を抗癌剤および放射線療法に対して比較的耐性に変え、この原因の一部はHIF-1αなどの細胞生存因子の発現の上方調節である。低酸素に起因する化学療法および放射線療法に対する感受性の低下は、癌の臨床治療における重要な問題を提起する。しかしながら、低酸素状態下では癌細胞はATP生成のために解糖に依存しているため、このような癌細胞はグリコリシンによる解糖阻害に脆弱であることが予想される。実際に、ヒトリンパ腫細胞(Raji)は、酸素正常状態下より低酸素状態下の方が、S-グリコリシンに対する感受性が顕著に高いことが本発明者らによって示された(図29)。同様に、ヒト結腸癌細胞(HCT116)もまた、酸素正常状態下より低酸素状態下の方が、3-BrPAによる解糖阻害に対して感受性が高い(図30)。一方、ドキソルビシンは低酸素状態下の方が効果が低い(図29〜30)。したがって、単一の作用物質としてまたは他の抗癌剤と組み合わせて、多くの固形腫瘍の効果的な処置のためにグリコリシンを使用できることが予見される。
【0204】
実施例12 電離放射線との組み合わせで低酸素状態下の癌細胞を効果的に死滅させるグリコリシン
一部には生存因子の発現の上方調節および酸素が無い場合のフリーラジカル生成の減少が原因となって、低酸素状態下では、放射線療法に対する癌細胞の感受性が低下することが当技術分野において公知である。しかしながら、低酸素状態下では、癌細胞は、放射線によって引き起こされるDNA損傷を修復するのに不可欠なエネルギー源であるATPを生成するために解糖に依存する。したがって、グリコリシンが低酸素状態下で細胞のATPプールを効果的に枯渇させ得、かつ放射線の治療活性を高め得ることが予想される。図31に例示したように、低酸素状態下のヒト結腸癌細胞(HCT116)は、γ放射線に対する感受性がはるかに低い(上の囲み図)。一方、低酸素状態における細胞は、グリコリシンに対する感受性がより高い(中央の囲み図)。グリコリシンおよび放射線を組み合わせると、播種された(最大200,000細胞/ウェル)細胞すべてをほぼ完全に死滅させた。したがって、グリコリシンは、放射線療法の有効性を高めるのに効果的な作用物質である。
【0205】
実施例13 例示的なグリコリシンエステル
本発明の例示的な態様において、図32で提供されるような例示的なグリコリシンエステルがあり、かつ図33は、P-グリコリシンとも呼ばれるこの化合物を調製するための例示的な方法を示す。具体的には、この方法は以下のとおりである:(1)反応チャンバー中に3-ブロモピルバート固形物1モルを入れる;(2)純粋な1-ペンタノール3モルを添加する;(3)少量の濃塩酸を触媒として添加し、チャンバーを40℃まで60分間加熱し、次いで30℃まで冷却し、かつ連続的に攪拌しながら8時間反応を継続させる。(4)反応生成物を0℃まで冷却し、HClを中和するために固形Na2CO3を添加する。(5)過剰な1-ペンタノールを蒸発させる。
【0206】
図34は、ヌードマウスにおける腫瘍成長に対するグリコリシンおよびP-グリコリシンの効果を示す。皮下接種によって、動物(マウス5匹/群)にヒト卵巣癌細胞(SKOV3)を接種した。腫瘍接種後11日目から始まる指定された用量計画を用いて、静脈注射によってグリコリシンおよびP-グリコリシンを投与した。
【0207】
実施例14 mTORおよび解糖の阻害は、リンパ腫および白血病細胞における相乗的な細胞傷害性をもたらす
mTOR経路は、細胞の栄養素代謝および細胞増殖の促進において重要な役割を果たし、かつPI3K/Akt経路の下流で細胞生存を増進するように機能するため、本発明者らは、mTORと癌細胞においてATP生成のための主要な代謝経路として役立つ解糖とを同時に阻害することは、細胞のエネルギー代謝に大きな影響を与え、かつ悪性細胞に対する強力な細胞障害効果を有するであろうと仮定した。この可能性を検証するために、mTORを阻害するための作用物質としてラパマイシンを使用し、かつ解糖を阻害するためにグリコリシン(3-ブロモ-2-オキソプロピオナート、本明細書において3-BrOPと略する)を使用した。3-BrOPは、加水分解されて糖分解酵素ヘキソキナーゼの強力な阻害物質である3-ブロモピルバートを遊離する細胞透過性エステルである(Xu et al., 2005;Geschwind et al., 2004;Ko et al., 2001;Ko et al., 2004)。図35Aに示したように、30μM 3-BrOPでヒトリンパ腫細胞(Raji)を処理した場合、細胞をアネキシンVおよびPIで二重染色した後にフローサイトメトリー解析によって測定すると、24時間目および48時間目にそれぞれ19%および49%のアポトーシスが生じた。それ自体だけでは顕著なアポトーシスを誘導しなかった(4.8%)100ng/mlラパマイシンと3-BrOPを組み合わせると、アポトーシスがかなり増加し、24時間目および48時間目にそれぞれ38%および79%のアポトーシス細胞が生じた。
【0208】
上記の観察結果に刺激されて、本発明者らは、ラパマイシンおよび3-BrOPが相乗効果を有するか判定するために正式な薬物組合せ解析を使用した。Raji細胞とHL-60白血病細胞の双方をこの研究のために使用した。定濃度のラパマイシン(100ng/ml)の存在下で24時間、様々な濃度の3-BrOPで細胞を処理し、かつアネキシンV/PI二重染色を用いて、フローサイトメトリー解析によってアポトーシス細胞のパーセンテージを定量した。図35Bおよび図35Cにおいて例示するように、非毒性濃度のラパマイシン(100ng/ml)は、双方の細胞株において試験された大半の濃度で、3-BrOPの細胞障害活性を顕著に増強した。次いで、ChouおよびTalalayによって説明された半有効量解析プログラムを使用して薬物の組合せ指数(CI)(Chou et al., 1996)を算出した。この解析では、相加作用であればCI値1を生じるのに対し、相乗作用および拮抗作用であれば、それぞれ1未満のCI値および1を超えるCI値を与えるはずである。図35Dで示すように、CI値は1.0未満であり、ラパマイシンおよびBrOPが一緒に使用された場合に相乗的な細胞傷害性を生じることが示唆された。
【0209】
次いで、異なるアッセイ法を使用して、ラパマイシンと3-BrOPの相乗作用をさらに確認した。30μM 3-BrOP、100ng/mlラパマイシン、またはそれらの組合せでRaji細胞を処理し、かつCoulter Z2 Particle Count & Size Analyzerを用いて、連続して3日間、細胞数を直接計測した。図36に示すように、3-BrOP単独またはラパマイシン単独のどちらも、これらの実験条件下で細胞増殖の中程度の遅延を引き起こし、それぞれ細胞数が約35%減少した。同濃度のラパマイシン(100ng/ml)はアポトーシスアッセイ法において急激な細胞死を引き起こさなかった(図35)が、細胞周期チェックポイント機能を維持している細胞におけるラパマイシンの細胞増殖抑制作用と一致して(Easton and Houghton, 2004;Huang et al., 2003)、細胞増殖の35%の減少を引き起こしたことは注目に値する。準毒性濃度のこれら2種の作用物質の組合せが、細胞増殖のほぼ完全な阻害を示した(図36)ことが重要であり、それらの相乗的な活性が確認された。
【0210】
実施例15 ラパマイシンは、Ara-Cの細胞障害活性に対して顕著な効果を示さない
次いで、ヒトリンパ腫および白血病細胞においてラパマイシンが3-BrOPの活性を増強する能力に基づいて、白血病およびいくつかのリンパ腫の臨床治療において広範に使用される効果的な作用物質であるara-Cの細胞障害活性を高めるのにラパマイシンを使用できるか試験した。フローサイトメトリー解析により、ラパマイシンはRaji細胞においてara-Cの細胞障害活性に顕著な影響を及ぼさないことが示された(図37A)。例えば、濃度範囲0.5〜1μMのara-Cは、20〜35%の細胞にアポトーシスを誘導した。100ng/mlラパマイシンを添加すると、同様のパーセントのアポトーシス細胞を生じた(図37)。これは、同濃度のラパマイシンがアポトーシスを19%から38%に増加させた(図35A)3-BrOPの実験結果と対照的である。したがって、ラパマイシンおよびara-Cの組合せは細胞の死滅化を顕著に増加させ得ないと思われる。この観察に基づき、研究の焦点をラパマイシンと3-BrOPとの組合せに合わせて、ATP代謝および関連する分子事象に関して考え得るメカニズムをさらに検討した。
【0211】
実施例16 ラパマイシンおよびグリコリシン(3-BROP)の組合せは、細胞ATPの相乗的な枯渇を引き起こす
次いで、ラパマイシンおよび3-BrOPの相乗的な活性の生化学的原理を理解するために、HPLC解析を使用して細胞ATPプールを測定した。ラパマイシン(100ng/ml)の存在下または不在下で、様々な濃度の3-BrOPで6時間Raji細胞を処理し、かつ本明細書の実施例で説明したように、HPLC解析によって細胞ATPおよび他のヌクレオチドプールを測定した。図38で例示したように、Raji細胞を3-BrOPで処理すると、細胞ATPプールの濃度依存的減少が生じた。注目すべきは、ATPプールの減少が3-BrOPと共のインキュベーション後6時間目に起こり、かつアポトーシス出現のかなり前であったことであり、これは、ATPプールの減少が細胞死の結果ではないことを示唆する。
【0212】
100ng/mlラパマイシンのみと共にRaji細胞を24時間インキュベートした場合は、細胞ATPプールに検出可能な変化はまったく引き起こさなかった(図38)。しかしながら、この濃度のラパマイシンと共にRaji細胞を18時間プレインキュベートし、続いて3-BrOPで6時間処理すると、細胞ATPの枯渇が顕著に増大した。このATP枯渇はアポトーシスが検出可能になる前に発生したため、ATP枯渇の増大は、ラパマイシンが3-BrOPの細胞障害効果を促進する生化学的メカニズムであり得るように思われる。このため、本発明者らはこのATPプール枯渇の増大の一因となる考え得るメカニズムをさらに捜し求めた。
【0213】
実施例17 ラパマイシンは、グリコリシン(3-BrOP)がグルコース取込みを阻害する能力を顕著に高める
最近の研究により、mTOR経路が細胞の栄養素取込みおよび細胞増殖の促進において重要な役割を果たし得ることが示唆されている(Bjornsti and Houghton, 2004;Edinger and Thompson, 2002)。特定の態様において、ラパマイシンは、mTORを阻害することにより、細胞のグルコース取込み能力を弱め得、それによって3-BrOPによるATP枯渇を増大させ得る。この考え得るメカニズムを試験するために、[3H]-デオキシグルコースを使用してグルコース取込みに対するBrOPおよびラパマイシンの効果を評価した。30μMおよび50μMの3-BrOPと共にRaji細胞を2時間インキュベーションすると、それぞれ33%および71%のグルコース取込みの減少を引き起こした(図39)。グルコース取込みのこの急激な阻害は、グルコースリン酸化の失敗およびそれに続く解糖経路中へのグルコースの流れの妨害をもたらす、3-BrPAによるヘキソキナーゼの直接的な阻害による可能性が高かった(Xu et al., 2005;Geschwind et al., 2004)。
【0214】
Raji細胞をラパマイシン(100ng/ml)で20時間処理した場合、グルコース取込みは少ししか減少せず(6%)(図39)、この化合物単独では、実験条件下で最小限のグルコース取込み妨害しか引き起こさないことが示唆された。しかしながら、細胞をラパマイシンで18時間前処理し、続いて3-BrOPと共に2時間インキュベーションした場合、グルコース取込みは大幅に阻害された。阻害の程度は、3-BrOP単独より顕著に大きかった(図39)。例えば、30μMの3-BrOP単独では33%の阻害であったのに対し、ラパマイシンの存在下では、30μMの3-BrOPは70%のグルコース取込み阻害を引き起こした。同様に、100ng/mlのラパマイシンおよび50μMの3-BrOPの組合せは94%のグルコース取込み阻害をもたらしたのに対し、50μMの3-BrOP単独では71%の阻害を引き起こした。特定の態様において、ラパマイシンによるmTORの阻害は、解糖経路が3-BrOPによって阻害された場合に、細胞がグルコースを取込む能力を弱めた。
【0215】
実施例18 mTOR下流の分子のリン酸化に対するラパマイシンおよびグリコリシン(3-BrOP)の効果
濃度100ng/mlのラパマイシン単独では前述の実験における生化学的エンドポイントに対する顕著な効果をまったく示さなかったため、この濃度のラパマイシンがRaji細胞においてその分子標的を阻害するかを試験する必要がある。p70S6Kおよび4E-BP1、すなわちmTORの2種の標的分子のリン酸化をmTOR阻害の指標として検査した。11,22。図40に示したように、100ng/mlのラパマイシンと共にRaji細胞をインキュベーションした場合、p70S6KのThr389におけるリン酸化は完全に消滅し、かつp70S6KのThr421/Ser424におけるリン酸化および4E-BP-1のSer65におけるリン酸化は減少した(レーン2)。これらのデータは、この濃度のラパマイシンがそれらの細胞においてその分子標的を実際に阻害したことを示唆する。興味深いことに、高濃度の3-BrOP(40μM、レーン4)もまた、P70S6KのThr389(ただしThr421/Ser424ではない)および4E-BP-1のSer65におけるリン酸化に対するいくらかの阻害を示した。ラパマイシンおよび3-BrOPの組合せは、Ser65における4E-BP-1のリン酸化のさらなる減少を引き起こし、P70S6KのThr421/Ser424では引き起こさないようであった。
【0216】
以前の研究において、解糖およびアポトーシスの統合において重要な役割を果たすBcl-2ファミリーのメンバーであるBADのリン酸化が、解糖阻害物質3-BrPAによって誘導されたアポトーシスの間、Ser112において顕著に減少することが示された(Xu et al., 2005)。3-BrOPで処理した細胞におけるBADリン酸化に対するラパマイシンの効果を検査した。図40で例示したように、準毒性濃度の3-BrOP(20μM)はSer112におけるBADリン酸化を減少させなかった(レーン3)のに対し、毒性濃度の3-BrOP(40μM)はBADリン酸化の実質的な減少を引き起こした(レーン4)。ラパマイシンの存在は、40μMの3-BrOPで処理した細胞におけるBADリン酸化を完全に消滅させ(レーン6)、これはこれら2種の化合物の相乗効果と一致した。
【0217】
要約すると、これらの研究により、ラパマイシンおよび3-BrOPの組合せがヒトリンパ腫および白血病細胞に対する相乗的な細胞障害効果をもたらすことが実証され、かつ解糖阻害を同時に行いながらmTOR経路を標的とすることが血液学的悪性腫瘍を処置するための効果的な治療戦略であることが示唆されている。濃度100ng/mlのラパマイシンはこれらの細胞において分子標的を阻害し、かつP70S6Kおよび4E-BP-1を含むmTOR下流の分子のリン酸化を十分に抑制することができたが、このようなmTOR経路の阻害のみでは、中程度の細胞増殖抑制効果しか生じず、顕著な細胞傷害性は生じなかった。一方、解糖経路を阻害すると、エネルギー供給のために解糖に著しく依存している癌細胞においてATP生成が顕著に妨害され、かつ細胞障害効果が生じた。mTOR経路は、細胞の栄養素取込み、細胞増殖および細胞生存を促進するにあたって重要な役割を果たすため、mTOR阻害および解糖妨害の組合せは、癌細胞のエネルギー代謝に大幅に影響を与え、かつ悪性細胞を効果的に死滅させるための、メカニズムに基づく戦略であるように思われる。実際に、データにより、ラパマイシンおよび3-BrOPの組合せがグルコース取込みを相乗的に抑制し、かつ細胞ATPプールを極度に枯渇させて、相乗的な細胞死滅化をもたらすことが示された。その一方で、ラパマイシンおよびara-Cの組合せは有効ではないと思われ、かつラパマイシンによるmTOR経路の阻害およびara-CによるDNA合成の抑制を同時に実施しても細胞死滅の増加をもたらし得ないことが示唆されている。この研究結果は、解糖阻害物質と組み合わせてCCI-779またはRAD001などのmTOR阻害物質を使用することが、有用な新しい治療戦略であり、かつ特定の態様において、白血病およびリンパ腫を含む癌の処置において重要な臨床的意義を有することを示す。
【0218】
実施例19 実施例14〜18のための材料および方法
本実施例は、本発明の特定の態様を実施するための示的な方法および試薬を提供する。当業者なら、本発明の範囲に影響を及ぼすことなく、これらの方法および試薬を改変し得ることを承知している。
【0219】
化学物質および試薬
ラパマイシンは、LC Laboratories(PKC Pharmaceutical, Inc.の一事業部、Woburn, MA)から購入した。3-ブロモ-2-オキソプロピオナートおよび1-プロパノールは、Sigma(St. Loius、MO)から購入した。3-ブロモ-2-オキソプロピオナートプロピルエステル(3-BrOP)は、酸性条件下、1:4のモル比率で3-ブロモ-2-オキソプロピオナートを1-プロパノールをエステル化して合成し、続いて炭酸ナトリウムで中和し、かつ過剰な1-プロパノールを減圧下で蒸発させた。[3H]-2-デオキシグルコースは、Amersham(Piscataway, NJ)から購入した。ウサギのリン酸化-p70S6K(Thr389)抗体、リン酸化-p70S6K(Thr421/Ser424)抗体、リン酸化-4E-BP1(Thr37/46)抗体、マウス抗pBAD(S112)、およびウサギポリクローナル抗BAD抗体は、Cell Signaling Technology, Inc(Beverly, MA)から購入した。
【0220】
細胞および細胞培養物
ヒトリンパ腫細胞株Rajiおよび白血病細胞株HL-60は、37℃、5%CO2を含む加湿雰囲気中の組織培養インキュベーター中で、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地中で常法通り維持した。培養された細胞は定期的に分割し、指数増殖期で維持した。細胞を新鮮な培養培地で希釈し、かつ実験で使用する前に一晩インキュベートした。
【0221】
細胞増殖および細胞傷害性のアッセイ法
細胞増殖の阻害は、ラパマイシン、3-BrOP、またはそれらの組合せで細胞を処理した後、細胞を直接計測することによって測定した。Coulter Z2 Particle Count & Size Analyzerを使用して、薬物とのインキュベーション後24時間目、48時間目、および72時間目に細胞の総数を測定した。アポトーシスは、アネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウム(PI)で染色した細胞のフローサイトメトリー解析によって測定した。細胞は、図の凡例において記載したような様々なインキュベーション条件下で、指定された化合物で処理した。これらの試料を採取し、冷PBSで洗浄し、次いでアネキシンV結合緩衝液中に懸濁させた。これらの細胞を室温で15分間、アネキシンV-FITCで染色し、洗浄し、次いでPIで染色した。これらの試料をCELLQuestProソフトウェアを搭載したFACSCaliburフローサイトメーター(Becton-Dicknson, San Jose, CA)を用いて解析した。
【0222】
グルコース取込みおよび細胞ATPプールの測定
所望の条件下で、ラパマイシンおよび3-BrOPで細胞を処理した後、0.2μCi/mlの[3H]-2-デオキシグルコース(比活性、40Ci/mmol)を含むグルコース非含有RPMI1640培地中で60分間これらの細胞をインキュベートすることによって、細胞のグルコース取込みを測定した。冷PBSで試料を3回洗浄した後、液体シンチレーション計数によって細胞ペレット中の放射能を定量した。細胞ATPプールに対する、薬物とのインキュベーションの効果を測定するために、指定された時間間隔の間、様々な濃度の3-BrOPおよび/またはラパマイシンと共に細胞をインキュベートした。氷浴中で10分間、0.4Nの過塩素酸(PCA)で処理して細胞内のヌクレオチドを細胞から抽出し、濃KOHで中和してpH7.0とし、かつ以前に記載されているようにして(Xu et al., 2005;Seymour et al., 1996)、HPLC解析によって解析した。同一のHPLC条件下で作成したATP検量線を用いて細胞内のATP含有量を算出し、かつ同じ細胞数に基づいて標準化した。相対的な細胞ATPレベルを、対照細胞に対するパーセントとして表した。
【0223】
ウエスタンブロット解析
対照細胞および薬物で処理した細胞からタンパク質溶解産物を調製し、かつ10%SDS-PAGE上に電気泳動によって分離させた。これらのタンパク質をニトロセルロース膜上に移した後、p-p70S6K(Thr389)、p-p70S6K(Thr421/Ser424)、p-4E-BP1(Thr37/46)、pBAD(S112)、およびBAD全体に対する特異的抗体を用いて、関心対象の分子に関してブロットした。これらの抗体は、別段の定めが無い限り1:1,000で希釈した。結合された一次抗体は、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合させた二次抗体を用いて検出し、続いてSuperSignal高感度ケミルミネセンスキット(Pierce, Rockford, IL)を用いて検出した。連続してブロッティングを実施するために、ストリッピング緩衝液(Pierce, Rockford, Illinois) を用いてこれらの膜から抗体除去し(stripped)、続いて適切な抗体で再度ブロッティングした。
【0224】
参考文献
本明細書において言及されるすべての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の技術者のレベルを表す。すべての特許および刊行物は、個々の刊行物それぞれが参照により組み入れられることを具体的かつ個別に示される場合と同程度に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0225】
特許および特許出願
米国特許第4,935,450号
米国特許第6,472,378号
米国特許第6,670,330号
米国特許出願公開US2003/0013656
米国特許出願公開US2003/0013657
米国特許出願公開US2003/0013846
米国特許出願公開US2003/0013847
米国特許出願公開US2003/0139331
米国特許出願公開US2003/0181393
米国特許出願公開US2003/0087961
WO 02/45720
WO 03/105862
EP 0273085
EP 0651636
【0226】
刊行物




【0227】
本発明およびその利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明から逸脱することなく、様々な変更、置換、および改変を本明細書において実施できることが理解されるべきである。さらに、本出願の範囲は、明細書中で説明されるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、および段階の特定の態様に限定されるものではない。本開示から容易に理解されるように、本明細書において説明する対応する態様と同じ機能を実質的に果たす、または同じ結果を実質的に達成する、現存するまたは後に開発されるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、または段階も利用され得る。したがって、添付の特許請求の範囲は、このようなプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、または段階をその範囲内に含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0228】
本発明をより完全に理解するために、添付図と組み合わせて示される以下の説明を次に参照する。
【図1】グリコリシンの化学式、分子量、および化学構造を示す。
【図2】グリコリシン調製の1つの例示的な方法を示す。すべての出発原料は、例えば商業的供給業者から得ることができる。グリコリシンの調製には5つの主要な段階がある。これらの手順は実施例1においてより詳細に説明される。
【図3】グリコリシンの細胞内代謝および治療選択性のための生化学的メカニズムを例示する。
【図4】ヒト白血病細胞におけるグリコリシンおよびS-グリコリシンによる細胞ATPの枯渇の例を示す。12時間目(顕著な細胞死が起こる前)の細胞から細胞ATPおよび他のヌクレオチドを抽出し、かつ高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって解析した。グリコリシンまたはS-グリコリシンによるATPの枯渇が、細胞中の他のヌクレオチドの二次的な枯渇も招くことに留意されたい。
【図5】ヒト白血病細胞の増殖に対するグリコリシンの阻害効果を3-ブロモピルバートと比較して示す。MTTアッセイ法によって細胞増殖の阻害を測定した。
【図6】ヒト白血病(HL-60)細胞におけるグリコリシンの強力な細胞障害活性を示す。アネキシンV/PI染色とそれに続くフローサイトメトリー解析によってアポトーシスを測定した。
【図7】慢性リンパ性白血病(CLL)の患者2名から単離された、初代白血病中のグリコリシンの細胞障害活性を示す。MTTアッセイ法(72時間インキュベーション)によってインビトロで細胞傷害性を測定した。
【図8】ヒト固形腫瘍細胞SKOV3(卵巣癌、A)およびU87MG(悪性脳腫瘍、B)に対するグリコリシンの細胞増殖阻害効果を示す。MTTアッセイ法(72時間インキュベーション)によってインビトロで細胞増殖阻害を測定した。
【図9】E-グリコリシンおよびM-グリコリシンの調製のための例示的な方法を示す。
【図10】S-グリコリシン調製の1つの例示的な方法および水溶液中のS-グリコリシンの1つの例示的な形態を示す。多数の水素結合によって結合された、4分子の3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび2分子の炭酸が例示されている。
【図11】調製後の様々な時点における、S-グリコリシンおよび炭酸を伴わない3-ブロモピルバートナトリウム塩(3-BrPA)の溶液を例示する(pH7.0、4℃で保存される)。
【図12】ヒト白血病HL-60細胞における、グリコリシン、E-グリコリシン、M-グリコリシン、S-グリコリシン、および親化合物3-ブロモピルバートの細胞増殖阻害効果の比較を示す(MTTアッセイ法、72時間)。
【図13】HL-60細胞におけるS-グリコリシン、E-グリコリシン、およびM-グリコリシンによるアポトーシスの誘導を例示する。アネキシンVおよびPIによる二重染色とそれに続くフローサイトメトリー解析によって、アポトーシスを検出した。
【図14】ヒト癌細胞におけるS-グリコリシン、E-グリコリシン、およびM-グリコリシンと共のインキュベーションによる、アポトーシス誘導タンパク質BADの脱リン酸を示す。
【図15】S-グリコリシンおよび3-ブロモピルバート(3-BrPA)による細胞ATPプールの枯渇を実証する。S-グリコリシンが3-BrPAよりもはるかに強力であることに留意されたい。
【図16】S-グリコリシンおよび3-ブロモピルバート(3-BrPA)によるアポトーシスの誘導を示す。いくつかの指定された濃度のグリコリシンまたは3-BrPAと共に、HL-60細胞を24時間インキュベートした。アネキシンVおよびPIによる二重染色とそれに続くフローサイトメトリー解析によってアポトーシスを測定した。
【図17】アポトーシス誘導因子BADの発現およびそのリン酸化状態(Ser112)に対するS-グリコリシンおよび3-ブロモピルバートの効果を示す。
【図18】アポトーシス誘導因子BADの発現レベルおよびSer112におけるそのリン酸化に対する、S-グリコリシンの時間および用量に依存的な効果を示す。
【図19】解糖の阻害が、呼吸に欠陥を有する癌細胞のより効果的な死滅化をもたらすことを示す。
【図20】慢性リンパ性白血病(CLL)の患者から単離された初代白血病細胞における、細胞ATPのHPLC解析(A)、3-BrPAによる細胞ATPの枯渇(B)、ならびに3-BrPAおよびS-グリコリシンによるBAD脱リン酸の誘導(C)を示す。
【図21】多剤(ドキソルビシンまたはアドリアマイシン、およびビンスクリチン(vinscritine))に対して耐性である細胞が、3-BrPAによる解糖の阻害および細胞ATPの枯渇に対して依然として感受性であることを実証する。
【図22】3-ブロモピルバートによって解糖を阻害することにより、多剤耐性(HL-60/AR)細胞におけるara-Cまたはドキソルビシンの細胞障害活性を顕著に高められることを示す(アネキシンV/PIアッセイ法、24時間)。
【図23】いくつかの指定された濃度のドキソルビシン、ビンクリスチン、ara-C、およびS-グリコリシンと共に72時間インキュベートされたHL-60親細胞株およびその多剤耐性クローンHL-60/ARの増殖阻害を示す。S-グリコリシンは、親細胞と多剤耐性細胞の双方を同じ効力で阻害した。
【図24】S-グリコリシンおよびいくつかの代謝中間体の適切な組合せによって正常細胞を保護するための生化学的メカニズムを示す。
【図25】グルタミンが、S-グリコリシンの細胞障害効果から呼吸能力を有する細胞をある程度保護することを実証する。
【図26】グルタミンが、呼吸が不完全な細胞をS-グリコリシンの細胞障害効果から保護しないことを示す。
【図27】ヒト結腸癌HCTl16細胞および悪性脳腫瘍U87MG細胞に対するS-グリコリシンの効果を示す。
【図28】Bcl-2を用いたトランスフェクションによるヒト白血病HL-60細胞におけるBcl-2タンパク質の過剰発現は、S-グリコリシンの細胞障害効果から細胞を保護しなかった(A)が、ara-C(C)およびドキソルビシン(D)に対する細胞の感受性を低くすることを実証する。MTTアッセイ法によって、細胞増殖の阻害を測定した。
【図29】ヒトリンパ腫細胞(Raji)は、酸素正常状態下より低酸素状態下の方がS-グリコリシン(40μM)に対する感受性が顕著に高いが、ドキソルビシン(0.3uM)に対する細胞感受性は低酸素状態下でわずかに低下していることを実証する。(アネキシンV/PIアッセイ法、24時間)。
【図30】ヒト結腸癌(HCT116)細胞は、酸素正常状態下より低酸素状態下の方が3-BrPAによる解糖阻害に対する感受性が顕著に高いが、ドキソルビシンに対する細胞感受性は低酸素状態下で低下していることを実証する(アネキシンV/PIアッセイ法)。
【図31】ヒト結腸癌(HTC116)細胞は、低酸素状態下および酸素正常状態下で放射線治療(6Gy)に対して耐性がより高いことを実証する。しかしながら、これらの結腸癌細胞は、低酸素状態下ではS-グリコリシンに対する感受性がより高い。S-グリコリシン(40μM)および放射線(6Gy)の組合せは、低酸素状態下の結腸癌細胞を効果的に死滅させる(コロニー形成の減少率は99.9%を超える)。これらの結果は、グリコリシンおよび放射線の組合せが、低酸素状態下の固形腫瘍に対する極めて効果的な処置となり得ることを示唆する。
【図32】P-グリコリシンの化学構造を提供する。
【図33】P-グリコリシンを調製するための方法を示す。
【図34】ヌードマウスにおける腫瘍成長に対するグリコリシンおよびP-グリコリシンの効果を実証する。皮下接種によって、動物(マウス5匹/群)にヒト卵巣癌細胞(SKOV3)を接種した。腫瘍摂取後11日目から始めて、指定された用量計画を用いて、静脈注射によってグリコリシンおよびP-グリコリシンを投与した。
【図35】図35A〜35Dは、ヒトリンパ腫および白血病細胞におけるラパマイシンおよびグリコリシン(3-BrOP)の相乗的な細胞障害効果を示す。図35Aでは、3-BrOP(30μM)、ラパマイシン(100ng/ml)、または図に示すそれらの組合せでヒトリンパ腫Raji細胞を処理し、かつ実施例で説明するようにアネキシンVおよびPIで細胞を二重染色した後、フローサイトメトリー解析によってアポトーシスを測定した。薬物を組み合わせる場合、ラパマイシンで18時間、細胞を最初に処理した後、3-BrOPを添加し、かつさらに24時間または48時間インキュベートした。図35Bでは、Raji細胞における、ラパマイシン(100ng/ml、24時間)の存在下または不在下での3-BrOPによる細胞生存率低下の濃度依存的な誘導を示す。アネキシンVおよびPIで細胞を二重染色した後、フローサイトメトリーで解析し、生細胞を対照に対する%として表した。ベタ塗りの棒は3-BrOPのみで処理した細胞であり、網掛けの棒は3-BrOPに加えてラパマイシンで処理した細胞である。データは、3回の独立した実験の平均値および標準偏差を示す。(*)は、3-BrOPのみで処理した試料と3-BrOPおよびラパマイシンと共にインキュベートした試料の間の統計学的に有意な差異を示す(p<0.05)。図35Cでは、HL-60細胞における、ラパマイシン(100ng/ml、24時間)の存在下または不在下での3-BrOPによるアポトーシスの濃度依存的な誘導を示す。細胞生存率は、前述したようにして測定した。図35Dでは、ChouおよびTalalay18による半有効量(Median Dose-Effect)プログラムにより、単一の作用物質のみでは90%を超える細胞死滅を引き起こさなかったすべてのデータポイントを用いて、HL-60細胞およびRaji細胞におけるラパマイシンおよび3-BrOPの組合せ指数(combination index)を算出した。
【図36】Raji細胞におけるラパマイシンおよび3-BrOPによる増殖阻害を示す。指数増殖期の細胞を時間0に100ng/mlラパマイシンで処理し、かつ18時間後に3-BrOP(30μM)を添加した。最大72時間、細胞培養を継続し、かつ全粒子数を測定するためのCoulter Z2 Particle Counter & Size Analyzerを用いて、指定された時間間隔で試料中の細胞数を直接計数した。
【図37】図37A〜37Bは、Raji細胞におけるアポトーシス応答に対するラパマイシンおよびara-Cの効果を示す。(a)単独または図に示すように組み合わせた、ラパマイシン(100ng/ml、48時間)およびara-C(0.5uMおよび1uM、30時間)でRaji細胞を処理した。薬物を組み合わせる場合、ラパマイシンで18時間、細胞を最初に処理した後、ara-Cを添加し、かつさらに30時間インキュベートした。実施例で説明するアネキシン/PIアッセイ法によってアポトーシスを解析した。代表的なフローサイトメトリー解析を図37Aに例示し、かつ定量的データを図37Bに示す。ベタ塗りの棒はara-Cのみで処理された細胞であり、網掛けの棒はara-Cに加えてラパマイシンで処理した細胞である。ara-Cのみで処理した細胞とara-Cおよびラパマイシンの組合せで処理した細胞において、アポトーシス率(%)の間に有意な統計学的差異はなかった。
【図38】グリコリシン(3-BrOP)およびラパマイシンの組合せがRaji細胞において極度のATP枯渇を引き起こしたことを実証する。ラパマイシン(100ng/ml)で18時間、細胞を最初に処理した後、次いでいくつかの指定された濃度の3-BrOPと共にさらに6時間インキュベートした。材料および方法の項目で説明するようにHPLC解析によって細胞ATPを測定し、対照に対する%として表した。対照細胞のATP含有量は、2.2±0.2nmol/106細胞である。3回の独立した実験の平均値±SDとして結果を表した。記号*は、有意な統計学的差異(p<0.05)を示す。
【図39】ラパマイシンおよびグリコリシン(3-BrOP)による、細胞のグルコース取込みの相乗的な阻害を提供する。ラパマイシン(100ng/ml)で18時間、細胞を最初に処理した後、次いでいくつかの指定された濃度の3-BrOPと共にさらに2時間インキュベートした。新鮮な温かい培地でこれらの試料を洗浄し、0.2μCi/mlの[3H]2-デオキシグルコースを含むRPMI1640培地(グルコース非含有)5ml中に5×106個の細胞を再懸濁し、かつ60分間インキュベートした。実施例で説明する液体シンチレーション計数によって、放射性2-デオキシグルコースの細胞取込みを測定した。グルコース取込みに対する薬物の効果を対照細胞に対する%として表す。対照試料中の放射性グルコース取込みは、5740±633CPM/106細胞であった。結果は、3回の独立した実験の平均値±SDである。記号*は、有意な統計学的差異(p<0.05)を示す。
【図40】mTOR下流の標的のリン酸化に対するラパマイシンおよびグリコリシン(3-BrOP)の効果を示す。ラパマイシン(100 ng/ml)で24時間、かつ/またはいくつかの指定された濃度の3-BrOPで6時間、Raji細胞を処理した。薬物を組み合わせる場合、最初にラパマイシンと共に18時間、次いで3-BrOPと共にさらに6時間、細胞をインキュベートした。等量の細胞タンパク質抽出物をSDS-PAGEによって分離し、かつp-p70S6K(Thr389)、p-p70S6K(Thr421/Ser424)、p-4E-BP-1(Ser65)、p-BAD(Ser112)、およびBADタンパク質全体をそれぞれの抗体を用いてブロットした。タンパク質ローディングコントロールとしてβ-アクチンもブロットした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式を含む組成物:

式中、Xはハロゲンであり、かつ組成物は以下のようにさらに特徴付けられる:
(a)式中、Rは、1〜8個の炭素原子を含む共有結合されたアルキル基であり;または
(b)式中、Rは金属イオンであり、かつ組成物は安定剤をさらに含む。
【請求項2】
ハロゲンが臭素である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アルキル基が脂肪族基である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
脂肪族基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブタノール基、またはペンタノール基、ヘキサノール基、ヘプタノール基、もしくはオクタノール基である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
アルキル基が環構造体である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
環構造体が、シクロアルカノール、ベンゼン誘導体、側鎖を有するステロイド基、または側鎖を有さないステロイド基を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
金属イオンがアルカリ金属イオンとしてさらに定義される、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
アルカリ金属イオンがナトリウムである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
安定剤が炭酸を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
(a)の組成物が3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムとしてさらに定義され、かつ該組成物が3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムと炭酸の間の水素結合を含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
(a)の組成物が3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムとしてさらに定義され、かつ3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤が所望の比率で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
所望の比率が、それぞれ約2:1の3-ハロ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
1種または複数種の代替エネルギー物質をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
代替エネルギー物質が代謝中間体としてさらに定義される、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
代謝中間体が、トリカルボン酸(TCA)サイクルにおける代謝中間体であり、ミトコンドリア呼吸における代謝中間体であり、TCAサイクルとミトコンドリア呼吸の双方における代謝中間体であり、TCAサイクルに対する前駆体であり、ミトコンドリア呼吸における代謝中間体の前駆体であり、またはTCAサイクルとミトコンドリア呼吸の双方における代謝中間体の前駆体である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
代謝中間体が、グルタミン、ピルバート、脂肪酸、またはそれらの組合せを含む、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
脂肪酸が二重結合を有さないアルキル鎖を含む、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
脂肪酸が1つまたは複数の二重結合を有するアルキル鎖を含む、請求項16記載の組成物。
【請求項19】
薬学的製剤中に含まれるものとしてさらに定義される、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項記載の組成物を細胞に送達する段階を含む、細胞における解糖を阻害するための方法。
【請求項21】
細胞においてアポトーシスもしくはネクローシスを誘導すること、または細胞において増殖を阻害することとしてさらに定義される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
細胞が癌細胞である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
癌細胞が個体中に含まれる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
癌細胞が固形腫瘍中にある、請求項22記載の方法。
【請求項25】
癌細胞が、白血病細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、結腸癌細胞、頭部癌および頸部癌の細胞、肝臓癌細胞、骨癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頸癌細胞、脾臓癌細胞、脳癌細胞、食道癌細胞、リンパ腫細胞、または皮膚癌細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
癌細胞が薬物耐性癌細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
薬物耐性癌細胞が白血病細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
癌細胞が低酸素環境中にある、請求項22記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜19のいずれか一項記載の組成物の治療的有効量を個体に投与する段階を含む、個体において癌を処置する方法。
【請求項30】
付加的な癌療法を個体に施す段階をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
付加的な癌療法が、放射線、化学療法、外科手術、遺伝子療法、免疫療法、ホルモン療法、またはそれらの組合せを含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
付加的な癌療法が放射線を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
付加的な癌療法が薬物を含む、請求項30記載の方法。
【請求項34】
薬物が、哺乳動物のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路の阻害物質である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
付加的な癌療法が、請求項1記載の組成物を投与する前に、請求項1記載の組成物の投与と同時に、請求項1記載の組成物の投与の後に、またはそれらを組み合わせて個体に投与される、請求項30記載の方法。
【請求項36】
個体の癌の少なくとも一部が低酸素環境中に存在する、請求項29記載の方法。
【請求項37】
低酸素環境が、固形腫瘍中にあるものとしてさらに定義される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
癌が白血病である、請求項29記載の方法。
【請求項39】
癌が、脳の癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、卵巣癌、肝臓癌、骨癌、胃癌、食道癌、結腸癌、頭部および頸部の癌、白血病、リンパ腫、黒色腫、脾臓癌、子宮頸癌、腎臓癌、または咽頭癌である、請求項29記載の方法。
【請求項40】
適切な容器中に収納された請求項1〜19のいずれか一項記載の組成物を含むキット。
【請求項41】
(a)の組成物が、3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムを含む、請求項40記載のキット。
【請求項42】
3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤が同じ容器中に収納される、請求項41記載のキット。
【請求項43】
3-ブロモ-2-オキソプロピオン酸ナトリウムおよび安定剤が別々の容器中に収納される、請求項41記載のキット。
【請求項44】
容器がその空隙体積中に滅菌されたCO2ガスを含む、請求項40記載のキット。
【請求項45】
薬学的に許容される希釈剤をさらに含む、請求項40記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公表番号】特表2008−508300(P2008−508300A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523790(P2007−523790)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/026702
【国際公開番号】WO2006/020403
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】