抗癌剤のスクリーニング方法
【課題】新たな抗癌剤および新たな抗癌剤のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、および該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。特定の配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
【解決手段】TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、および該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。特定の配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな抗癌剤のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、TACC3またはTACC1タンパク質に基づく新規の抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有糸分裂において、間期細胞中の微小管の広範なネットワークが解体されて、双極紡錘体が再構成される。核膜崩壊に際して、一対の中心体が微小管の放射状配列の核を形成し、そのプラス端は動原体によって捕捉されそして安定化される。このプラス端探索および捕捉のモデルに加えて、紡錘体形成が中心体の非存在下で起こり得、これは無中心体紡錘体と呼ばれる。このモデルにおいて、微小管の核形成は染色体近傍で起こり、そして動原体に結合した微小管(K線維)は最終的に星状紡錘体に組み込まれる。この微小管の動的形成は、キネシンおよびダイニンモータータンパク質ならびに微小管調節タンパク質を含む様々なクラスのタンパク質の包括的かつ局所的な調節によって協調されている。
【0003】
腫瘍細胞の紡錘体は癌化学療法の分子標的となっている(非特許文献1)。現在、ビンカアルカロイドやタキサンのような、紡錘体を構成する微小管を標的とした薬物が臨床的に使用されている。これらのうち、ビンカアルカロイドであるビンブラスチンおよびビンクリスチンは微小管を不安定化し、一方、タキサンであるパクリタキセルは微小管を安定化する。腫瘍細胞に対するその抗有糸分裂効果は、微小管の動的不安定性の抑制に起因すると考えられている。しかし、微小管を標的とした薬物は非分裂細胞における微小管機能も阻害し、その結果、末梢神経の軸索輸送の妨害による末梢性ニューロパシーのような重篤な副作用が生じるという問題があった。
【0004】
この問題を克服するために、非分裂細胞における微小管に影響を及ぼすことなしに紡錘体を阻害する、非紡錘体有糸分裂タンパク質を標的とした新たな薬剤の開発が検討されていた(非特許文献2)。紡錘体の形成は種々の微小管調節タンパク質によって協調されている。機能的に保存された基本的な機構とは対照的に、いくつかの微小管調節タンパク質は、他の細胞における紡錘体形成に影響を及ぼすことなしに特定の体細胞においてのみ中枢的な役割を果たし得る。腫瘍細胞における紡錘体形成に関与し、一方、正常細胞においては機能しないような微小管調節タンパク質を分子標的として利用すれば、腫瘍細胞に特異的または選択的に作用する新たな癌化学療法を開発できる可能性がある。しかし、現在までにそのようなタンパク質は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jordan, M.A. et al., Nat. Rev. Cancer, 4:253-265 (2004)
【非特許文献2】Wood, K.W. et al., Curr. Opin. Pharmacol., 1:370-377 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新たな抗癌剤のスクリーニング方法および抗癌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を阻害または枯渇させることにより、腫瘍細胞においては、有糸分裂の際に異常紡錘体が生じ、有糸分裂が停止し、細胞死が生じること、一方、正常細胞においては、影響がないことを見出した。よって、TACC3および/またはTACC1タンパク質を標的とした抗癌剤は、副作用の無い抗癌剤になり得る。
【0008】
本発明は、
[1]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[2]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[3]
抗癌剤が、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、[1]または[2]に記載の方法;
[4]
抗癌剤が、胸腺リンパ腫、血管肉腫、小腸腫瘍、盲腸腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、[1]または[2]に記載の方法;
[5]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、リンパ腫細胞、血管肉腫細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞、消化管腫瘍細胞および卵巣癌細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[6]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞、血管肉腫細胞およびApc欠損動物から得られる消化管腫瘍細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[7]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞SKOV3株、OVCAR3株、ヒトバーキットリンパ腫細胞およびヒトT細胞急性リンパ性白血病細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[8]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[9]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[10]
抗癌剤が、卵巣癌に対するものである、[8]または[9]に記載の方法;
[11]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞である、[8]〜[10]のいずれか1つに記載の方法;
[12]
配列番号3〜5からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
[13]
配列番号12の配列を標的とするTACC1に対するshRNAまたはsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
[14]
TACC3に対する、配列番号6、配列番号7のshRNA、配列番号9、10のsiRNAからなる群から選択される少なくとも1つを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
[15]
TACC1に対する、配列番号13のshRNAまたは配列番号14のsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法が提供される。また、TACC3またはTACC1タンパク質に基づく新たな抗癌剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】図1は、TACC3の破壊がインビボにおいて胸腺リンパ腫の退縮を導くことを示す図である。図1aは、p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)の4OHT投与のスケジュール(上)、胸腺リンパ腫組織のMRI画像(中央)および腫瘍量(下)を示す。図1a中央の図において、胸腺リンパ腫をアスタリスク(*)で示す。図1a下のグラフにおいて、灰色棒および黒色棒はそれぞれp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)における腫瘍量の変化を示す。
【図1b】図1bは、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスの4OHT投与のスケジュール(上)、胸腺リンパ腫組織のMRI画像(中央)および腫瘍量(下)を示す。図1b中央の図において、胸腺リンパ腫をアスタリスク(*)で示す。
【図1c】図1cは、腫瘍量の応答のまとめを示す。図1cにおいて、黒色棒および灰色棒はそれぞれ、4OHT処置p53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D 4OHT(+))、および4OHT未処置p53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D 4OHT(−))または4OHT処置p53−/−;TACC3S/W;CreERT2(TACC3S/W 4OHT(+))マウスにおける腫瘍量の変化を示す。
【図2a】図2は、TACC3の枯渇が、異常な紡錘体および有糸分裂停止、それに続くアポトーシスの迅速な誘導を導くことを示す図である。図2aは、p53−/−;TACC3S/W;CreERT2(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D)マウス由来の胸腺リンパ腫細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、そしてTACC3タンパク質の発現をイムノブロットによって経時的に分析した結果を示す。グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をローディングコントロールとして示す。
【図2b】図2bは、細胞増殖アッセイの結果を示す。表示するアレル(TACC3S/WまたはTACC3S/D)を有するリンパ腫細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、そして生存細胞を計数した。
【図2c】図2cは、FACS分析の結果を示す。細胞を図2bに関して記載したように処理し、ヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。
【図2d】図2dは、有糸分裂指数の増加を示す。細胞を図2bに関して記載したように処理し、固定し、そして有糸分裂細胞を抗MPM−2抗体で免疫染色することによって同定した。TACC3陰性細胞および陽性細胞をそれぞれ黒色棒および灰色棒で示す。
【図2e】図2eは、TACC3枯渇リンパ腫細胞における多極紡錘体の誘導を示す。p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、固定し、そして染色した(図2e)。
【図2f】図2fは、TACC3枯渇リンパ腫細胞における多極紡錘体の誘導を示す。p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)またはp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)由来の細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、固定し、そして染色した。正常な双極紡錘体(濃灰色棒および斜線棒)および多極紡錘体(黒色棒および淡灰色棒)を含む細胞の百分率を3回の独立した実験において少なくとも50個の有糸分裂細胞を計数することによって決定した。TACC3陽性および陰性細胞をそれぞれ、濃灰色棒および黒色棒、ならびに斜線棒および淡灰色棒で示す。
【図2g】図2gは、TACC3枯渇リンパ腫細胞の細胞運命分析を示す。有糸分裂の間の細胞の染色体挙動をH2B−GFP発現細胞の低速度撮影によって検討した。核膜崩壊の時点を0:00として定義する。
【図2h】図2hは、TACC3枯渇リンパ腫細胞の細胞運命分析を示す。正常有糸分裂を濃灰色菱形で示す。有糸分裂および有糸分裂スリッページ(mitotic slippage)後の死滅をそれぞれ白色三角および黒色丸で示す(図2h)。
【図3a】図3は、TACC3の枯渇がヒトリンパ腫細胞におけるアポトーシスを導くことを示す図である。図3aは、ヒトリンパ腫におけるTACC3タンパク質の発現を示す。TACC3の免疫組織化学をヒトリンパ腫組織アレイを使用して行った。表示する腫瘍組織の代表的な図を示す。挿入図は、より低い倍率での結果を示す。
【図3b】図3bは、TACC3の枯渇を示す。1つのコントロール(C)および2つのTACC3 shRNA(sh1(配列番号7)およびsh2(配列番号8)を表示する細胞に導入し、そしてTACC3の発現をイムノブロット分析によって検討した。NADPHをローディングコントロールとして示す。
【図3c】図3cは、アポトーシスの誘導を示す。コントロール(配列番号18)またはTACC3 shRNA(sh1、sh2)形質導入細胞のアポトーシスをアネキシンV染色およびそれに続くFACS分析によって検討した。
【図3d】図3dは、TACC3枯渇ヒトリンパ腫細胞の生存率を示す。TACC3枯渇後の相対的細胞生存率をMTTアッセイによって決定した。コントロールshRNA形質導入細胞の生存率を1.0として定義した。
【図3e】図3eは、有糸分裂指数の増加を示す。有糸分裂指数を抗MPM−2抗体での免疫染色によって決定した。
【図3f】図3fは、多極紡錘体の誘導を示す細胞を表示する。shRNAを用いて形質導入し、固定し、そして免疫蛍光によって分析した。Jurkat細胞の代表的な図を示す。
【図3g】図3gは、多極紡錘体の誘導を示す細胞を表示する。shRNAを用いて形質導入し、固定し、そして免疫蛍光によって分析した。多極紡錘体を含む細胞の百分率を3回の独立した実験において少なくとも50個の有糸分裂細胞を計数することによって決定した。
【図4】図4aは、TACC3siRNA(配列番号9)で処理した子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)におけるTACC3タンパク質のイムノブロットを示す。(+)はTACC3siRNA処理を示し、(−)はコントロールのsiRNA(配列番号19)での処理を示す。Anti-TACC3は、第一抗体として抗TACC3抗体を用いたことを示し、anti-GAPDHは、第一抗体として抗GAPDH抗体(コントロール)を用いたことを示す。図4bは、TACC3siRNAで処理した子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)における有糸分裂指数を示す。有糸分裂指数は、少なくとも50個の細胞中の有糸分裂細胞の割合を3回の独立した実験において計数することによって決定した。図4cは、TACC3siRNAで処理した細胞の紡錘体の形態(Normal、bipolar-misalinged、multipolar、monopolar)を示す写真である。図4dは、TACC3siRNAで処理した卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)の紡錘体異常のまとめである。Controlは、コントロールsiRNAで処理したSKOV3およびOVCAR3を示し、TACC3は、TACC3siRNAで処理したSKOV3およびOVCAR3を示す。紡錘体形態(%)は、少なくとも50個の有糸分裂を示す細胞中の、Normal、bipolar-misalinged、multipolarまたはmonopolar形態の紡錘体を有する細胞の割合を3回の独立した実験において計数することによって決定した。
【図5】図5aは、卵巣がん細胞SKOV3をNOD-scidマウスに移植後の腫瘍サイズの変化を示す。#1 ctrl、#2 ctrlおよび#3 ctrlは、コントロールshRNA(配列番号18)を含むベクターで処理した卵巣がん細胞SKOV3を移植したマウス(コントロール)を示し、#1 exp、#2 expおよび#3 expは、shRNA(配列番号7)を有するベクターで処理した卵巣がん細胞SKOV3を移植したマウスを示す。卵巣がん細胞SKOV3を移植した日を1日目とする。図5(b-1)は、111日目の#1 ctrlのマウスの移植部位の写真である。図(b-2)は、111日目の#1 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍の写真である。腫瘍量は4878.4m3であった。図5(c-1)は、70日目の#2 ctrlのマウスの移植部位の写真である。70日目の#2 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍量は389.8m3であった。図(d-1)は、111日目の#3 ctrlのマウスの移植部位の写真である。図(d-2)は、111日目の#3 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍の写真である。腫瘍量は4854.4m3であった。
【図6】図6aは、TACC3、TACC1またはTACC2のsiRNAで処理した卵巣がん細胞SKOV3における有糸分裂停止を示す。有糸分裂指数は、少なくとも50個の細胞中の有糸分裂細胞の割合を示す(n=3)。Controlは、コントロールsiRNA、TACC1は、配列番号14のsiRNA、TACC2は、配列番号12のsiRNA、TACC3は配列番号9のsiRNAで処理したことを示す。図6bは、TACC3、TACC1またはTACC2のsiRNAで処理した卵巣がん細胞SK−OV3の紡錘体形態のまとめである。Normal、bipolar-misalingedまたはMultipola-Aはそれぞれ、少なくとも50個の有糸分裂を示す細胞中、Normal、bipolar-misalingedまたはmultipolar-A形態の紡錘体を有する細胞の割合を示す(n=3)。Multipolar-Aは、多数の紡錘体極のうち2極のみに中心体がある形態を指す。
【図7】図7は、Apc580SマウスにおいてTACC3の枯渇がインビボにおいて腫瘍数の減少を導くことを示す図である。W/Wは、Tacc3W/W、ApcS/W、Villin-Cre(+)のマウスを示し、S/Dは、Tacc3S/D、ApcS/W、Villin-Cre(+)のマウスを示す。1匹のマウスあたりの小腸および大腸癌数の合計の平均数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「TACC3」(「Tacc3」とも記載する)および「TACC1」(「Tacc1」とも記載する)は、TACC(transforming acidic coiled-coil containing)ファミリーに属するタンパク質の1種である。哺乳動物においては、TACC1、TACC2、TACC3の3種のTACCファミリーに属するタンパク質が同定されている。本明細書において使用する用語「TACC3」および「TACC1」は、哺乳動物のTACC3およびTACC1タンパク質を指す。哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、ヒトなど任意の哺乳動物であり得る。好ましくは、哺乳動物はヒトである。TACC3、TACC1をコードする遺伝子のヌクレオチド配列およびTACC3、TACC1タンパク質のアミノ酸配列はデータベースから入手可能である(それぞれGenBankアクセッション番号NM_006342.1(配列番号1)、NM_006283(配列番号2)、UniProtアクセッション番号Q9Y6A5、O75410-1の配列が好ましい)。
【0012】
本発明は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を標的とした抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法によって同定される物質を抗癌剤として使用して処置される癌は、任意の癌である。下記のように、TACC3は種々のヒト癌において異常発現されていることが示されていたが、TACC3の阻害または枯渇によって腫瘍が退縮され得ることをインビボで示したのは本発明者らが最初である。1つの実施態様において、前記癌は、リンパ腫または肉腫から選択される。「リンパ腫」は、リンパ系組織の任意の腫瘍をいい、「肉腫」は、結合組織の任意の腫瘍をいう。1つの実施態様において、リンパ腫は、リンパ系組織の1つである胸腺から発生する腫瘍である胸腺リンパ腫である。別の実施態様において、肉腫は、血管由来の腫瘍である血管肉腫である。TACC3は、MoMuLV−ts1レトロウイルスの挿入によって生じるマウスのリンパ腫において発現が亢進した遺伝子の1つとして報告されているが(Chakraborty, J. et al., Virology, 377:100-109 (2008))、この報告はTACC3タンパク質を標的としてリンパ腫が処置され得ることを示唆するものではない。TACC3と肉腫との関連について記載された例はない。
【0013】
卵巣癌は、卵巣に発生する癌を意味し、限定されないが、好ましくは、胚細胞腫瘍(好ましくは、未熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛がん、未分化胚細胞腫)、性索間質腫瘍(好ましくは、セルトリ・間質細胞腫瘍、線維肉腫、顆粒膜細胞腫)、表層上皮性・間質性腫瘍(好ましくは、漿液性腺がん、類内膜腫瘍、明細胞がん)である。
【0014】
消化管腫瘍は、消化管に発生する腫瘍を指し、好ましくは大腸癌、小腸癌である。大腸癌は、盲腸、結腸、直腸に発生する、盲腸癌、結腸癌、直腸癌を意味する。小腸癌は、十二指腸球部から回盲弁までの間に発生する、十二指腸腫瘍、空腸・回腸腫瘍を意味する。
【0015】
乳癌は乳房組織に発生する癌を意味する。限定されないが、好ましくは、腺癌である。非小細胞肺癌は、形態が小細胞ではない肺組織に発生する癌を意味する。限定されないが、好ましくは、腺癌、大細胞癌、扁平上皮癌である。
【0016】
本発明おいて、癌と腫瘍は交換可能に用いられる。
【0017】
本発明の抗癌剤のスクリーニング方法は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を発現する細胞と候補物質とを接触させる工程を含む。TACC3またはTACC1タンパク質を発現する細胞としては、候補物質の作用によりTACC3またはTACC1遺伝子、または、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能が低下するかまたは失われた結果生じる影響を観察することができる任意の細胞を使用することができる。1つの実施態様において、TACC3タンパク質を発現する細胞は、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞または肉腫細胞である。別の実施態様において、TACC3タンパク質を発現する細胞は、ヒトバーキットリンパ腫細胞またはヒトT細胞急性リンパ性白血病(T−ALL)細胞である。別の実施態様において、TACC3またはTACC1タンパク質を発現する細胞として、卵巣癌細胞、腸腫瘍細胞、乳癌細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞を使用することもできる。
【0018】
例えば、TACC3またはTACC1遺伝子またはTACC3またはTACC1タンパク質に対する候補物質の影響を、候補物質と接触させた細胞における多極紡錘体などの異常な紡錘体の形成の観察によって、あるいは、有糸分裂細胞の割合、有糸分裂期間の長さ、細胞死の程度などを測定することによって観察することができる。
【0019】
従来、細胞を用いた抗癌剤のスクリーニングを行う場合、一般に、候補物質と接触させた後の細胞の生存率を指標として用いていた。本発明者らは、TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇が、異常な紡錘体の形態(多極紡錘体など)を生じさせ、細胞運命に影響を及ぼすことを見出した。従って、これらを抗癌剤のスクリーニングに際して指標として使用することができる。例えば、α−チューブリンとレポーター遺伝子産物(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))との融合タンパク質の発現ベクターを標的細胞に導入して微小管を可視化し、候補物質と接触させた細胞を固定標本の蛍光染色、低速度撮影等により観察し、有糸分裂停止後に有糸分裂スリッページまたは有糸分裂において細胞が死滅するという細胞運命が示されることを指標として、抗癌剤を選択することができる。
【0020】
よって、1つの実施態様において、本発明の抗癌剤のスクリーニング方法(A)は、
癌細胞と候補物質とを接触させる工程;
有糸分裂細胞を計数する工程;および
該物質と接触させていない該細胞における有糸分裂細胞の割合と比較して、有糸分裂細胞の割合を増加させた該物質を選択する工程;
を含む方法であることができる。
【0021】
抗癌剤とは、癌を退縮させるまたは癌の増殖を遅延もしくは抑制する剤を意味する。
【0022】
候補物質は、限定されないが、好ましくは低分子化合物、核酸、タンパク質などである。候補物質は、天然由来であっても、人工合成物であっても良い。
【0023】
癌細胞は、TACC3またはTACC1を発現している癌細胞であれば限定されない。好ましくは、リンパ腫瘍細胞、血管肉瘍細胞、卵巣癌細胞、腸腫瘍細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞などである。癌細胞は、チューブリンなどの紡錘体に関係するタンパク質とレポーター遺伝子産物(例えば、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質遺伝子、ガラクトシダーゼなどの酵素遺伝子等)との融合遺伝子を導入し、発現している細胞でも良い。
【0024】
癌細胞と候補物質とを接触させるとは、細胞に候補物質を添加し、候補物質を癌細胞中のTACC3またはTACC1タンパク質と接触させることを意味する。
【0025】
癌細胞と候補物質との接触(インキュベーション)時間は、限定されないが、24時間〜72時間、好ましくは36時間〜60時間である。細胞は、限定されないが、マイクロチップ、マイクロプレートに播種されることが好ましい。細胞数は、スクリーニングの実施に適した数であれば限定されなくともよい。
【0026】
有糸分裂細胞の決定方法は、当業者に周知であり、限定されないが、細胞を固定後に顕微鏡で紡錘体の有無を観察することが好ましい。
【0027】
細胞の固定方法は、当業者に周知であり、限定されないが、有機溶媒、好ましくはメタノール、グルタルアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドを用いることができる。
【0028】
紡錘体の観察方法は、当業者に周知であり、限定されないが、抗チューブリン抗体などの紡錘体に関係するタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色を用いることが好ましい。
【0029】
免疫染色は、当業者に周知であり、FITC、Cy3などの蛍光標識、ルシフェラーゼなどの発光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素、放射性物質で標識された抗体を用いることが好ましい。蛍光標識の場合、直接蛍光を観察できるので好ましい。発光標識の場合、対応する基質と反応後、発光により観察することができる。酵素標識の場合、対応する基質と反応後、発色により観察することができる。また、標識されていない抗体を用いても良い。標識されていない抗体を第1抗体として用いた場合は、標識された第2抗体を用いて、上記のように標識に対応した方法で観察することができる。
【0030】
癌細胞が、チューブリンなどの紡錘体に関係するタンパク質とレポーター遺伝子産物(例えば、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質遺伝子、ガラクトシダーゼなどの酵素遺伝子等)との融合遺伝子の導入された細胞の場合、レポーター遺伝子産物を検出することで紡錘体を観察することができる。
【0031】
染色された紡錘体および細胞は、標識に対応した検出装置、画像取り込み装置を備えた顕微鏡を用いて観察することが好ましい。有糸分裂細胞の決定およびその計数は、目視で行っても、画像処理ソフトを用いて行っても良い。
【0032】
有糸分裂細胞の割合は、所定の細胞数(好ましくは50以上、より好ましくは50〜100)中の、紡錘体を有する細胞の百分率(%)を意味する。有糸分裂細胞の割合の増加とは、候補物質と接触させていない癌細胞における有糸分裂細胞の割合と比較して、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍の増加を意味する。
【0033】
さらに、有糸分裂細胞の正常紡錘体および異常紡錘体(bipolar-misalinged、multipolarまたはmonopolar)の割合を測定しても良い。異常紡錘体とは、紡錘体が双極を有し整列している状態(normal)ではない状態を意味し、双極であるが整列していない状態(bipolar-misalinged)、多極(multipolar)または単極(monopolar)などがある。正常及び異常紡錘体の決定およびその計数は、目視で行っても、画像処理ソフトを用いて行っても良い。
【0034】
異常紡錘体の割合は、所定の有糸分裂細胞数(好ましくは50以上、より好ましくは50〜100)中の異常紡錘体の百分率(%)を意味する。異常紡錘体の割合の増加とは、候補物質と接触させていない癌細胞における異常紡錘体の割合と比較して、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍の増加を意味する。
【0035】
候補物質がTACC3またはTACC1遺伝子、または、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能に影響することは、例えば、インビトロでの候補物質とTACC3またはTACC1タンパク質との結合、細胞中のTACC3またはTACC1遺伝子転写物、または、TACC3またはTACC1タンパク質の量(例えば、ノーザンブロッティング、RT−PCR、ウエスタンブロッティング、ELISA、TACC3またはTACC1タンパク質とレポーター遺伝子産物との融合タンパク質の産生の検出)、TACC3またはTACC1タンパク質の細胞内局在などを任意の公知の方法を使用して調べることによって確認することができる。
【0036】
よって、1つの実施態様において、本発明の抗癌剤のスクリーニング方法(B)は、
癌細胞と候補物質とを接触させる工程;
該細胞中のTACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程;および
該物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能と比較して、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能を減少させた該物質を選択する工程;
を含む方法であることができる。
【0037】
TACC3またはTACC1タンパク質の発現の減少は、候補物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の発現と比較して、TACC3またはTACC1タンパク質の発現が、少なくとも1/2以下、好ましくは少なくとも1/10以下、より好ましくは検出できないレベルに減少していることを意味する。また、TACC3またはTACC1タンパク質の機能の減少は、候補物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の細胞内局在性の変化であっても良い。
【0038】
上記(A)および(B)のスクリーニング方法を組み合わせても用いてもよい。さらに、従来の細胞生存率を指標とする抗癌剤のスクリーニング方法を、本発明の方法に加えても良い。
【0039】
本発明者らは、TACC3またはTACC1タンパク質が、非紡錘体有糸分裂タンパク質として、癌化学療法の標的となり得ることを最初に示した。ビンカアルカロイドやタキサンのような、紡錘体を構成する微小管を標的とした薬物による副作用を回避する目的で、Eg5、ポロ様キナーゼ、オーロラキナーゼなどの非紡錘体有糸分裂タンパク質が、癌化学療法の標的の潜在的な候補として期待されていた。しかし、これらを標的として癌が退縮された例はなかった。
【0040】
本発明者らは、TACC3の阻害または枯渇によって腫瘍が退縮され得ることをインビボで最初に示した。さらに、正常組織(TACC3タンパク質を発現する胸腺を含む)において明らかな異常は観察されなかった。また、腫瘍細胞においてTACC3と同じ紡錘体の異常がTACC1の枯渇によって生じることを見出した。従って、TACC3および/またはTACC1タンパク質を癌化学療法のための標的とする本発明のスクリーニング方法によって、正常組織に対する副作用を示さず、癌細胞に選択的または特異的に作用する抗癌剤を得ることができる。
【0041】
本発明者らは、p53欠損マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇は胸腺リンパ腫などのリンパ腫および血管肉腫などの肉腫の退縮を導くが、横紋筋肉腫細胞において異常はほとんど観察されないことを見出し、TACC3の機能は「細胞種依存性(cell context-dependent)」であることを示した。下記のように、本発明以前にはTACC3の機能は明らかではなかった。TACC3の有する細胞種依存性の機能は、その理由を説明すると考えられる。
【0042】
ツメガエル(Xenopus)のTACCホモログであるMaskinは紡錘体形成において重要であり、ショウジョウバエ(Drosophila)のTACCファミリーメンバーであるD−TACCは中心体微小管の安定性に影響を及ぼし、線虫(Caenorhabditis elegans)のTACCホモログであるTAC−1は初期胚形成における効果を有する。このように、TACCファミリーのタンパク質は広範な生物に存在し、有糸分裂における保存された役割を果たしていることが知られていた。
【0043】
一方、ヒトTACC3遺伝子は、多発性骨髄腫における転座切断点付近の4p16にマッピングされる癌関連遺伝子として元来単離され(Still, I.H. et al., Genomics, 58:165-170 (1999))、その後、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌などの種々のヒト癌において異常発現されていることが示され、腫瘍細胞においてTACC3タンパク質が重要な機能を有する可能性が示唆されていた(Lauffart, B. et al., BMC Women's Health, 5:8 (2005);Jung, C.K. et al., Pathol. Int., 56:503-509 (2006);Ma, X-.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:5974-5979 (2003);Jacquemier, J. et al., Cancer Res., 65:767-779 (2005))。
【0044】
HeLa細胞において、TACC3枯渇細胞は正しく構成された双極紡錘体を構築することが報告されている(Gergely, F. et al., Genes Dev., 17:336-341 (2003))。一方、本発明者らは以前に、TACC3タンパク質の枯渇により、卵巣癌細胞株において異常な紡錘体が形成され、有糸分裂停止が誘導され、有糸分裂スリッページまたは有糸分裂における細胞死が導かれることを見出して、TACC3タンパク質が卵巣癌細胞株の紡錘体形成における重要な役割を有することを示している(日本癌学会第68回学術総会(2009要旨集、第252頁、演題番号O−641)。また、NIH3T3細胞において、TACC3タンパク質の枯渇は有糸分裂進行を損なわないが、有糸分裂後p53−p21WAF経路を誘発し、可逆的な細胞周期停止を導くことが報告されている(Schneider, L. et al., Oncogene, 27:116-125 (2008))。
【0045】
本発明者らは、リンパ腫においてTACC3タンパク質を枯渇させると、紡錘体形成異常(多極紡錘体の形成)により紡錘体形成チェックポイント(SAC)が活性化され、有糸分裂停止が導かれ、その後腫瘍は、有糸分裂においてまたは有糸分裂スリッページの後にアポトーシスによる細胞死を受けることを示した。有糸分裂停止後の細胞運命は、2つの拮抗するネットワーク(一方はカスパーゼの活性化が関与するアポトーシスによる細胞死の経路であり、他方はサイクリンB1の分解からの保護である)によって左右されることが提唱されている(Gascoigne, K.E. et al., Cancer Cell, 14:111-122 (2008))。有糸分裂停止後の迅速なアポトーシスは、細胞中に強い内在性の細胞死シグナルが存在することを示唆する。有糸分裂スリッページ後の細胞死も同様に説明され得、有糸分裂停止の間に細胞がアポトーシスに拘束されており、そして細胞周期の進行後すぐに細胞死に至るものと考えられる。このことから、TACC3タンパク質のような非紡錘体有糸分裂タンパク質を標的とした癌化学療法の効力は、SACに対する細胞応答によって細胞種依存性に決定されることが示唆される。
【0046】
さらに、本発明者らは、p53欠損マウスおよびp53野生型マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇は胸腺リンパ腫のアポトーシスを誘導するが、正常胸腺はTACC3タンパク質の枯渇に際してアポトーシスの増加を示さないことを見出し、TACC3タンパク質の役割が「細胞系譜依存性」ではないことを示した。この特徴は、たとえ同じ細胞系譜の細胞であっても、正常細胞に対する副作用なしに、癌細胞を選択的または特異的に処置できる抗癌剤が開発できることを示す。
また、本発明者らは、Apc欠損マウスおよびApc野生型マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇が、消化管腫瘍発生を減少させ、正常細胞に対する副作用を生じないことを見出した。
【0047】
本発明の方法によって得られた抗癌剤は、リンパ腫および肉腫を含めて、TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇によって退縮または死滅させられる任意の癌に有効である可能性がある。広範な腫瘍型の中からTACC3またはTACC1タンパク質の枯渇に感受性のものを同定すれば、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした処置が有効であるさらなる癌を同定することができる。TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇は、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤、トランスジェニック動物におけるTACC3またはTACC1遺伝子の欠損、TACC3またはTACC1に対するshRNA、siRNA、リボザイム、アンチセンスDNAなど任意の公知の手段を使用することによって達成され得る。特に、本発明者らにより得られた、TACC3コンディショナルノックアウト動物は、TACC3の機能解析、TACC3枯渇に感受性の癌の研究等に有用である。なお、TACC3またはTACC1に対するshRNA、siRNA、リボザイム、アンチセンスDNAなどの核酸を抗癌剤として医薬組成物に使用することも可能である。
【0048】
TACC3に対するshRNAまたはsiRNAは、TACC3をサイレンシングするものであれば限定されないが、TACC3遺伝子(NM_006342.1)中の位置2000〜2024の配列:5'GACCTATAGTGGACCTGCTCCAGTA 3(配列番号3)、位置1905〜1925の配列:5'GCTTGTGGAGTTCGATTTCTT 3'(配列番号4)、または位置589〜609の配列:5'CCAGGAAGTTCTGAGAACCAA 3'(配列番号5)を標的配列とするものが好ましい。
【0049】
配列番号3の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号6:5'CCGGGACCUAUAGUGGACCUGCUCCAGUACUCGAGUACUGGAGCAGGUCCACUAUAGGUCUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0050】
配列番号4の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号7(TRCN0000062026):5'CCGGGCUUGUGGAGUUCGAUUUCUUCUCGAGAAGAAAUCGAACUCCACAAGCUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0051】
配列番号5の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号8(TRCN0000062027):5'CCGGCCAGGAAGUUCUGAGAACCAACUCGAGUUGGUUCUCAGAACUUCCUGGUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0052】
配列番号3の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号9(TACC3-HSS116027):5' UACUGGAGCAGGUCCACUAUAGGUC 3'の配列を有するものが好ましい。
【0053】
配列番号4の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号10:5'AAGAAAUCGAACUCCACAAGC 3'の配列を有するものが好ましい。
【0054】
配列番号5の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号11:5' UUGGUUCUCAGAACUUCCUGG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0055】
TACC1に対するshRNAまたはsiRNAは、TACC1をサイレンシングするものであれば限定されないが、TACC1遺伝子(NM_006283)中の位置2448〜2522の配列:5’AAGAATGAAGAAGCCTTGAAGAAAT 3’(配列番号12)の相補配列を標的するものが好ましい。
【0056】
配列番号12の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号13:5'CCGGAAGAAUGAAGAAGCCUUGAAGAAAUCUCGAGAUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACUUUUUUG3'の配列を有するものが好ましい。
【0057】
配列番号12の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号14(TACC1-HSS186179):5’AUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACU 3’の配列を有するものが好ましい。
【0058】
siRNAの場合、さらに各鎖の3’末端に2塩基のオーバーハングを有していることが好ましい。より好ましいオーバーハングは、TTである。
【0059】
siRNAまたはshRNAは、DNAに基づいて細胞内で合成されてもよい。
【0060】
DNAに基づくshRNA合成は、ヘアピン配列を介して連結したセンス鎖とアンチセンス鎖を発現(転写)するベクターを細胞内に導入し、細胞内でヘアピン配列を介して連結したセンス鎖とアンチセンス鎖の1本鎖RNAを生産させ、センス鎖とアンチセンス鎖をヘアピンを介して自然に対形成させることによってできる。
【0061】
配列番号7で示される配列のshRNAは、プロモーターに連結した配列番号7(但し、配列中のUをTに置き換える)のDNAを有する発現ベクターから合成できる。同様にして、配列番号6、8または13で示される配列のshRNAも発現ベクターから合成できる。
【0062】
DNAに基づくsiRNA合成は、センス鎖とアンチセンス鎖のそれぞれを発現(転写)するベクターを細胞内に導入し、細胞内でセンス鎖およびアンチセンス鎖の2つを個別に産生させ、センス鎖とアンチセンス鎖の対を自然に形成させることによってできる。
【0063】
配列番号10で示される配列のsiRNAは、第1プロモーターに連結した配列番号10(但し、配列中のUをTに置き換える)および第2プロモーターに連結した配列番号10の相補配列(配列中のUをTに置き換える)のDNAを有する発現ベクターを細胞に導入することによって合成することができる。同様にして、配列番号9、11または14で示される配列のsiRNAも発現ベクターから合成できる。
【0064】
プロモーター、発現ベクターは、細胞においてRNA合成を可能とするものであれば限定されない。
【0065】
本発明者らは、p53欠損マウスにおいてTACC3タンパク質を枯渇させることによって、リンパ腫等のp53非依存的な細胞死が引き起こされることを示した。この知見は、NIH3T3細胞において観察された、TACC3タンパク質の枯渇が有糸分裂後p53−p21WAF経路を誘発し、細胞周期停止を導いた(すなわち、TACC3タンパク質の枯渇により細胞死が抑制された)という以前の知見とは対照的である(Schneider, L. et al., Oncogene, 27:116-125 (2008))。従って、限定するものではないが、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤は、p53遺伝子の変異が関与する広範な癌に特に有効である可能性がある。
【0066】
また、本発明者らはApc欠損マウスにおいてTACC3タンパク質を枯渇させることによって、消化管腫瘍発生が抑制されることを示した。従って、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤は、Apc遺伝子の変異が関与する癌に特に有効である可能性がある。
【0067】
1つの実施態様において、本発明は、抗癌剤の製造のための本発明の核酸、特にsiRNAまたはshRNAの使用を含むことができる。また、本発明の抗癌剤の有効量を癌患者に投与する治療方法を含むことができる。
【0068】
本発明の抗癌剤は、発現ベクターの形態を含む。発現ベクターは、本発明のsiRNAまたはshRNAを発現できるものであれば、限定されないが、ウイルスベクターまたはプラスミドが好ましい。また、裸のDNAとして導入してもよい。
【0069】
本発明の抗癌剤は、対象者への投与に適した生理的に許容されるビヒクル、賦形剤、担体、もしくは希釈剤と共に、またはその組合せを含むことが好ましい。
本発明の抗癌剤は、限定されないが、好ましくは腫瘍部位の局所に、1日に1回または数回投与できる。投与期間は、年齢、症状に応じて任意に定めることができる。例えば、数日間の規則的な間隔で、2〜10日間で投与できる。また全身投与してもよい。製剤の例としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。
【0070】
本発明の抗癌剤の有効量または投与量は、特に制限されないが、投与形態、年齢、体重、症状に応じて適宜選択すればよい。局所投与の場合、局所1回当り約1〜約1000μg、好ましくは約10〜約500μgのsiRNAまたはshRNAを含むことができる。発現ベクターの形態の場合、約0.05〜約10μg、好ましくは約0.1〜約1μgの発現ベクターを含むことができる。全身投与の場合には、成人1回当り1〜200mg/kg、好ましくは2から25mg/kgのsiRNAまたはshRNAを含むことができる。発現ベクターの形態の場合、約0.01〜約10mg/kg、好ましくは約0.1〜約1mg/kgの発現ベクターを含むことができる。
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
材料および方法
抗体およびTUNELアッセイ
マウスTACC3に対する抗体を以前に記載のように生成した(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))。ヒトTACC3に対する抗体を、ヒトTACC3のアミノ酸213〜224に対応するペプチドでウサギを免疫することによって生成し、そしてこれをペプチド結合免疫親和性カラムを使用して精製した。抗PCNA抗体(CBL407)および抗GADPH抗体(sc-25778)をそれぞれChemiconおよびSanta Cruzから購入した。α−チューブリンに対する抗体(DM1A)およびγ−チューブリンに対する抗体(GTU-88)をSigmaから入手した。図2に示す三重染色のために、FITC結合抗α−チューブリン(Sigma)抗体およびCy3結合抗γ−チューブリン抗体(Sigma)を、Alexa Flour 647(Molecula Probe)で標識した抗ヒトTACC3抗体とともに使用した。抗ホスホ−ヒストンH3(ser10)抗体および抗MPM−2抗体をそれぞれCell SignalingおよびNovusから購入した。TUNELアッセイを、ApoTag PLUS Fluorescein In Situ Apoptosis Detection kit(Chemicon)を製造業者の説明書に従って使用して行った。
【0073】
マウス腫瘍細胞
胸腺リンパ腫および横紋筋肉腫からマウス細胞株を生成するために、腫瘍をカミソリで細かく切断し、70μmフィルターを通して濾過し、そしてGIT培地(胸腺リンパ腫細胞)または10%仔ウシ血清を補充したDME培地(横紋筋肉腫細胞)中にプレーティングした。DNA含量を決定するために、細胞を氷冷メタノール中で固定し、ヨウ化プロピジウムで染色し、そしてFACS caliber(Becton Dickinson)を用いて分析した。
【0074】
ヒトリンパ腫細胞のTACC3ノックダウンおよび細胞生存能アッセイ
細胞を、TRC shRNA LibraryからのpLKO.1puroレンチウイルスshRNAベクターを用いて形質導入した(TRC0000062023-27、Open Biosystems)。レンチウイルス粒子を、lipofectamine 2000(Invitrogen)を使用したpLKO.1構築物(Open Biosystems)ならびにpMD2.G(Open biosystems)およびpsPAX2(Open biosystems)プラスミドを用いる293T細胞の同時トランスフェクションによって産生し、そして上清をトランスフェクションの48時間後および72時間後に回収した。細胞を6μg/mlポリブレン(Sigma)の存在下で24時間レンチウイルス上清とともにインキュベートし、そして感染細胞を2μg/ml(Daudi、JurkatおよびCCRF−CEM)または4μg/ml(Raji)のピューロマイシンを用いて選択した。イムノブロット分析を感染の48時間後に行った。生存細胞数を4日連続でMTTアッセイ(Roche)を用いて決定した。アネキシンV染色を感染の72時間後にAnnexin-V-FLUOS staining kit(Roche)を製造業者の説明書に従って使用して行った。
【0075】
イムノブロット
全細胞溶解物を1%NP−40緩衝液(1%NP−40、50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaClおよび10%グリセロール)中で調製した。等量のタンパク質をSDS−PAGEによって分離し、そしてニトロセルロースにトランスファーした。ブロットを一次抗体とともにインキュベートし、続いてペルオキシダーゼ結合二次抗体とともにインキュベートし、そしてECL detection system(GE Healthcare)を使用して可視化した。定量のために、ブロットをスキャンし、そして全ピクセル強度をImageJ1.42aソフトウェアを使用して計数した。
【0076】
免疫蛍光
細胞を3.7%PFA中で固定し、PBS中0.2%Triton−X100中で透過処理し、そして一次抗体とともにインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、次いでFITC結合抗マウスIgGおよび/またはCy3結合ウサギIgG(Chemicon)とともにインキュベートした。DNAを4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を使用して検出した。画像処理を×100/1.40-0.70 PlanApo対物レンズおよびZ-projectionsを装備したLeica DM6000B顕微鏡を使用して行った。
【0077】
低速度撮影
マウスリンパ腫細胞を60mmガラス底プレート(Iwaki)上にプレーティングし、蛍光画像を毎分Leica AF6000および×40/1.40-0.70 PlanApo対物レンズを使用して得た。細胞運命決定のために、画像を10分毎に集め、そして細胞運命をImageJ1.42aソフトウェアを使用して手動で決定した。
【0078】
組織アレイ
2つのホルマリン固定ヒトリンパ腫組織アレイ(NHL401(BioMax)およびA224(AccuMax))を、製造業者のプロトコルに従って脱パラフィン処理し、水和した。0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)中でマイクロ波を使用して抗原を賦活化した後、切片を4℃で一晩ヒトTACC3抗体(×500)とともにインキュベートした。比色検出を、ヒストンシンプルステインMAX-PO(R)(ニチレイ)およびperoxidase substrate kit(Vector)を使用して行った。
【0079】
実施例1
腫瘍組織におけるTACC3の機能を探求するために、最初に、p53欠損マウスにおいて発症した種々のマウス腫瘍におけるTACC3タンパク質の発現を検討し、TACC3が種々の腫瘍において発現されていることを見出した。とりわけ、胸腺リンパ腫細胞がTACC3タンパク質の高発現を示した。
【0080】
インビボにおけるTACC3の機能をさらに研究するために、TACC3コンディショナルノックアウトマウスを利用した(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))。このマウスをp53欠損マウス(Jacks, T. et al., Curr. Biol., 4:1-7 (1994))およびR26−CreERT2マウス(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007);Tyler Jacks博士より入手した)と交配して、TACC3サイレント/ヌルおよびCreERT2アレルを保有するp53ホモ接合型変異マウス(p53−/−;TACC3S/D;CreERT2)およびコントロールとしてのTACC3サイレント/野生型およびCreERT2アレルを保有するp53ホモ接合型変異マウス(p53−/−;TACC3S/W;CreERT2)を生成した。これらは129Sv/JおよびC57/B6の混合遺伝的背景を有する。TACC3の機能的な遺伝子を欠いたノックアウトマウスは妊娠中後期で死亡することが本発明者らの以前の研究によって示されていた。4−ヒドロキシタモキシフェン(4OHT)をこれらのマウスに投与してCre−loxP組換え系を誘導することによって、p53欠損腫瘍においてTACC3のサイレント(S)アレルを欠失させることができる。皮下(SC)注射が、腹腔内(IP)注射よりも効率的に組換えを誘導することが見出されたので、4OHTの投与をSC注射によって行った(トウモロコシ油中10mg/mlの溶液100μl)。
【0081】
これらの動物を定期的に磁気共鳴画像法(MRI)に供し、腫瘍を保有するマウスを4OHTで処置し、次いで様々な時点で再び調べた。4OHTで処置したp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウスにおける胸腺リンパ腫の腫瘍量は3日で156%、10日で368%に増加し(図1a)、これは以前の報告と一致した(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007))。対照的に、4OHTでの同じ処置は、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスにおいて胸腺リンパ腫の退縮を引き起こした。腫瘍量は3日および10日でそれぞれ元の量の96%および26%へ減少した。
【0082】
上記の結果が腫瘍の個体差に起因する可能性を排除するために、4OHT処置なしで腫瘍量を検討し、次いで同一の腫瘍を4OHTで処置した(図1b)。処置なしでは、腫瘍量は7日で600%に増加し、4OHT処置によりその57%への退縮が同一の腫瘍において誘導された。全体で、4匹のコントロールマウス(4OHTで処置した2匹のp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウスおよび4OHT処置なしの2匹のp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス)はその腫瘍量を189%〜607%の範囲で増加させた。一方、4OHTで処置した4匹のp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスは96%から26%の範囲の胸腺リンパ腫の退縮を示した(図1c)。これらの結果は、TACC3がp53欠損マウスの胸腺リンパ腫の進行および維持における重要な役割を果たしており、そしてその破壊が迅速な退縮を引き起こすことを明らかに実証する。
【0083】
実施例2
次に、正常組織におけるTACC3の役割を検討した。ヘマトキシリンおよびエオシン(HE)での染色により、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスへの4OHTの投与が正常組織において肉眼的な変化を引き起こさないことが示された。4OHTで処置したTACC3S/WまたはTACC3S/D遺伝子型を有するマウスの胸腺リンパ腫に対する、抗TACC3抗体、TUNELおよび4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いる免疫蛍光研究により、TACC3の破壊によって引き起こされる胸腺リンパ腫の退縮が大量のアポトーシスを伴うことが示された。
【0084】
対照的に、TACC3タンパク質の高発現および活発な増殖にかかわらず、正常胸腺はアポトーシスの有意な増加を示さず、そして細胞増殖はTACC3の枯渇による影響を受けなかった。これはp53野生型マウスについても同様であった。このことはアポトーシスの欠如が単にp53機能の喪失に起因するのではないことを示す。これらの結果は、胸腺リンパ腫細胞の増殖におけるTACC3機能の要求が細胞系譜依存性ではないことを示す。
【0085】
高レベルのTACC3タンパク質を発現する2つのさらなる正常組織も検討した。TACC3は腸のTA(transit amplifying)細胞において高発現されており、4OHT処置はこれらの細胞における組換えを効果的に可能にした。しかし、これらの細胞はアポトーシスの誘導も細胞増殖の阻害も示さなかった。同様に、毛包のマトリックス細胞は高レベルのTACC3タンパク質を発現していたが、Cre−loxP組換え系によるTACC3遺伝子座の欠失によって、2年より長い間明らかな変化は示されず、増殖細胞核抗原(PCNA)染色により示されるこれらの細胞の増殖は影響されなかった。これらの結果は、TACC3がリンパ腫細胞においては重要な機能を有するが、リンパ球、腸TA細胞および毛包マトリックス細胞を含む正常細胞では重要な機能を有しないことを実証する。
【0086】
実施例3
胸腺リンパ腫の退縮を担う機構を研究するために、4つの細胞株(p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス由来の2株およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の2株)を樹立した。マウスリンパ腫細胞株をペニシリン/ストレプトマイシンを補充したGIT培地(日本製薬)中で培養した。4OHT(Sigma)をエタノール中で25mMの濃度に希釈し、最終濃度1μMで使用した。同一の遺伝子型を有する各々の細胞株が本質的に同じ結果を示したので、各々の遺伝子型由来の1つの細胞株のデータを提示した。
【0087】
TACC3タンパク質の有意な低下が4OHT処理の2日後からTACC3S/D細胞において観察され、これらの細胞の細胞増殖は同時に抑制された(図2aおよびb、TACC3S/D 4OHT(+))。TACC3S/W細胞において4OHT処理後に増殖の変化は検出されなかった。さらに、FACS分析により、4OHTの投与がサブG1細胞集団の有意な増加を導くことが示された(図2c)。
【0088】
以前の報告と同様に(Gergely, F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:14352-14357 (2000);Piekorz, R.P. et al., EMBO J., 21:653-664 (2002))、TACC3は有糸分裂期に蓄積され、マウスリンパ腫細胞において紡錘体および中心体に局在化しており、このことは、TACC3が有糸分裂における役割を果たしていることを示唆する。この考えに一致して、4OHT処理によるTACC3の破壊は有糸分裂指数の増加を導いた(図2d)。
【0089】
TACC3の破壊によって誘導される有糸分裂欠陥を理解するために、免疫蛍光分析によって有糸分裂細胞を検討し、そしてTACC3欠失細胞が多極紡錘体を含むことを見出した(図2e)。4OHT投与の3日後に、細胞の90.9%においてTACC3の発現は失われており、そしてその57.9%が多極紡錘体を含んでいた(図2f)。これらの結果は、HeLa細胞やNIH3T3細胞とは異なり、胸腺リンパ腫細胞においてTACC3が適正な双極紡錘体の形成に必要とされることを実証する。紡錘体欠陥は紡錘体形成チェックポイント(SAC)を活性化し、有糸分裂停止を導く。長期の停止の後、細胞は有糸分裂において死滅するかまたは有糸分裂から退避する(この現象は有糸分裂スリッページと呼ばれる)。FACS分析により、TACC3の破壊は、アポトーシス細胞集団の顕著な増加を導くが、四倍体細胞集団の変化はほとんど観察されないことが示された(図2c)。この結果は、リンパ腫細胞が有糸分裂細胞死を受けることを示唆する。あるいは、これらの細胞は、有糸分裂スリッページの後迅速にアポトーシスを受ける。
【0090】
これらの可能性を単細胞ベースのアッセイによって試験した(図2gおよびh)。ヒストンH2B−GFPを発現する胸腺リンパ腫細胞を樹立し、そして有糸分裂の間の染色体の挙動を低速度撮影によって検討した。H2B−GFPを発現する安定クローンをpLenti4/V5−DESTベクター(Invitrogen)を使用したレンチウイルス形質導入によって得、感染細胞をピューロマイシンおよびそれに続くFACSAria(Becton Dickinson)を使用するFACSソーティングによって選択した。核膜崩壊(NEB)の後、TACC3S/W細胞は有糸分裂を完了して、4OHTの非存在下および存在下でそれぞれ53.8±8.9分および60.0±13.19分で娘細胞を生成した。同様に、TACC3S/D細胞は4OHTの非存在下で59.6±15.3分で有糸分裂を完了した。対照的に、4OHTの投与によって大部分の細胞は死滅した。TACC3S/D細胞の17.6%は有糸分裂において死滅し、そして細胞の70.6%は有糸分裂スリッページを受け、その後の間期において細胞死した。細胞死を誘導するために必要とされた時間は、以前に報告された肺癌および結腸癌(有糸分裂において死滅した細胞およびその後の間期において死滅した細胞について116.7±16.1分および155.4±39.6分)に比較して短い(Gascoigne, K.E. et al., Cancer Cell, 14:111-122 (2008))。これらの結果は、リンパ腫細胞において、TACC3機能の喪失が異常な紡錘体を導き、これが有糸分裂停止およびそれに続く迅速な細胞死を引き起こすことを実証する。
【0091】
実施例4
胸腺リンパ腫に加えて、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の3つの肉腫を分析した。4OHT処置は、2つの肉腫の退縮を引き起こし、そして免疫組織化学分析によってこれらが血管肉腫であることが示された。これらの一方は迅速に退縮し(10日で80.5%)、他方は比較的ゆっくりと破裂したが(7日で14.3%、14日で37.0%)、残存する組織は壊死組織の大きな塊を含んでおり、このことはこれらの腫瘍が進行および維持のためにTACC3を必要とすることを示唆する。
【0092】
対照的に、4OHTの投与にかかわらず、第3の肉腫は腫瘍量を7日で247%、14日で350%増加させた。この進行はTACC3遺伝子座の組換えの失敗に起因するのではない。なぜなら、サザンブロット分析により約25%のTACC3SアレルがTACC3Dアレルに変換されたことが実証されたからである。免疫組織化学分析により、この肉腫はデスミンを発現していることが示され、そしてこれは横紋筋肉腫であると同定された。胸腺リンパ腫とは対照的に、TACC3の枯渇はこの腫瘍において広範な大量のアポトーシスを誘導しなかった。
【0093】
横紋筋肉腫におけるTACC3の役割を検討するために、横紋筋肉腫細胞株をp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(+)マウスおよびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(−)マウスから樹立した。胸腺リンパ腫細胞と同様に、TACC3は横紋筋肉腫細胞において紡錘体および中心体に局在化した。しかし、効率的な組換えにかからわず、細胞増殖のわずかな抑制が4OHT処理に応答して観察され、そして有糸分裂指数の有意な増加は観察されなかった。
【0094】
免疫蛍光分析により紡錘極数の増加は示されなかった。しかし、細胞の53.1%は中期において非整列染色体を含んでおり、そして間期細胞において多くの微小核が検出された。このことは細胞増殖の弱い抑制を説明し得る。従って、TACC3の破壊は横紋筋肉腫細胞において紡錘体形成を妨害しなかったが、TACC3は染色体整列に必要とされるようである。これらの観察は、横紋筋肉腫の腫瘍退縮には、TACC3の長期の阻害またはTACC3機能の異常が、他の化学療法剤とともに必要とされ得る可能性を提起する。
【0095】
実施例5
上記の結果は、TACC3がマウスリンパ腫細胞の増殖のために必要とされることを実証するので、次にヒトリンパ腫細胞におけるTACC3の役割を検討した。ヒトタンパク質アトラスデータベース(http://www.proteinatlas.org)は悪性リンパ腫がTACC3タンパク質を最も高発現している癌組織の1つであることを示した。ヒトリンパ腫組織におけるTACC3タンパク質の発現をさらに探求するために、組織アレイ中の25個のT細胞リンパ腫、35個のB細胞リンパ腫、5個の骨髄腫および6個の未分化大細胞ならびに9個の非腫瘍組織を検討した(図3a)。TACC3は非腫瘍組織を含む全ての組織において発現されていた。Tリンパ腫、Bリンパ腫、骨髄腫、未分化大細胞および正常組織においてそれぞれ組織の76.0%、85.7%、60.0%、85.7%および75.0%がTACC3タンパク質を高い割合で(75%超の陽性)発現していた。
【0096】
次に、ヒトリンパ腫細胞におけるTACC3の役割を検討するために、2つのバーキットリンパ腫細胞株(DaudiおよびRaji)ならびに2つのT細胞性急性リンパ腫白血病(T−ALL)細胞株(JurkatおよびCCRF−CEM)において、レンチウイルス媒介shRNA感染を使用してTACC3タンパク質を枯渇させた。ヒトリンパ腫細胞株を10%仔ウシ血清を補充したRPMI1640培地(Gibco)中で培養した。TACC3を枯渇させるために、human pLKO.1 lentivirus shRNA target gene setを使用し、そして2つのクローンTRCN0000062026(図3中sh1、配列番号7)およびTRCN0000062027(図3中sh2、配列番号8)をそれらの効率的な枯渇の故に使用した(それぞれのクローンについての詳細な情報はThe RNAi Consortiumのウェブサイト(http://www.broadinstitute.org/rnai/public/)から入手可能である)。
【0097】
2つの独立したshRNAはTACC3発現を有意に低下させた(図3b)。TACC3の低下はアネキシンV染色によって示されるアポトーシスおよび細胞生存率の抑制をT−ALLのみならずバーキットリンパ腫細胞においても誘導した(図3cおよびd)。さらに、マウスリンパ腫細胞において観察されたのと同様に、これらの細胞は有糸分裂指数の有意な増加を示し(図3e)、そして多極紡錘体を含む細胞の百分率は有意に増加した(図3fおよびg)。これらの結果は、マウスリンパ腫細胞に加えて、TACC3がヒトリンパ腫細胞の生存能に不可欠であることを実証する。
【0098】
一方、配列番号15(TRCN0000062023):5' CCGGCCACGGAGCCGCUGUCCCCGCCUCGAGGCGGGGACAGCGGCUCCGUGGUUUUUG 3'、配列番号16(TRCN0000062024):5' CCGGGCAGUCCUUAUACCUCAAGUUCUCGAGAACUUGAGGUAUAAGGACUGCUUUUUG 3'、配列番号17(TRCN0000062025):5' CCGGCGCACAGGAUUCUAAGUCCUACUCGAGUAGGACUUAGAAUCCUGUGCGUUUUUG 3'、配列番号18(コントロール):(5' CCGGACCGGUCCGCAGGUAUGCACGCGUGAAUUCCUCGAGGAAUUCACGCGUGCAUACCUGCGGACCGGUUUUUUG 3')のshRNAは、TACC3の枯渇、細胞生存率の抑制および有糸分裂指数の増加を示さなかった。
【0099】
実施例6
卵巣がん細胞および子宮頸がん細胞におけるTACC3による有糸分裂停止の誘導
【0100】
材料と方法
子宮頸がん細胞(Helaおよび2種の卵巣がん細胞(SKOV3、OVCAR3)を8ウェルチャンバースライドに播種(1x105/mlで100ul/ウェル)し、Invitorgen社のLipofectamineTM RNAiMAXを用い、その指示書に従って配列番号9のTACC3 siRNA (Invitrogen TACC3-HSS116027)、配列番号20のTACC3 siRNA (Invitrogen TACC3-HSS116026)、配列番号21のTACC3 siRNA (Invitrogen)をトランスフェクションし、48時間後に、細胞を回収し前記と同様にイムノブロットを行った。また、細胞を3.7%PFAで固定し、ホスホヒストンH3(pH3)抗体(Cell Signaling社)を用いた免疫染色によりM期で停止している細胞を目視で同定した。ホスホヒストンH3(pH3)抗体染色後の細胞は、さらに、FITC結合α-tubulin抗体(sigma)を用いて染色し、有糸分裂停止細胞の紡錘体の形態を目視により観察した。
【0101】
配列番号20(TACC3-HSS116026):5'AUAAGGACUGCUUCCUCAAGGCCGA 3'のTACC3 siRNAは、位置1762〜1786の配列を標的とし、配列番号21(TACC3-HSS116028):5'UUUAGUCUUCUGCUCCACUGUCUUC 3'のTACC3 siRNAは位置2541〜2565の配列を標的とする。
【0102】
なお、配列番号9、20、21のsiRNAは、Invitorgen社に合成を依頼し入手した。
【0103】
結果
図4(a)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理により、子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)におけるTACC3タンパク質の枯渇が観察された。
【0104】
図4(b)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理により、卵巣がん細胞(SKOV3およびおよびOVCAR3)子宮頸がん細胞(Hela)において、有糸分裂停止の細胞の増加が認められた。驚くべきことに、有糸分裂停止の細胞の増加は、子宮頸がん細胞(Hela)と比較して卵巣がん細胞(SK−OV3およびOVCAR3)において顕著に高いものであった。
【0105】
図4(d)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理による有糸分裂停止している卵巣腫瘍細胞(SKOV3およびOVCAR3)の紡錘体の形態は、ほとんどが多極紡錘体(SKOV3で約75%、OVCAR3で約60%)であった。
【0106】
一方、配列番号20および21のsiRNAはこれらの効果を示さなかった(データは示していない)。
【0107】
実施例7
腫瘍細胞におけるTACC3の枯渇による効果をin vivoで検討した。
【0108】
材料と方法
SKOV3細胞1.0X107個をNOD-scidマウス(日本チャールズリバー)の背側皮下に移植し、腫瘍の長さ(W)と幅(W)をノギスで測定し、腫瘍量(TV(tumor volume)=LxWxW/2)を経時的に計測した。前記のとおり、コントロール群(Ctrl)では、TRCN-control (発現ベクターpShag Magic Version 2.0(pSM2)にコントロール用のshRNA 配列(配列番号18)を挿入したベクター(open biosystem社製品、(株)フナコシより入手))を用いて作製した組換えレンチウイルス、実験群(exp)群では配列番号7(open biosystems社製品、(株)フナコシより入手)を用いて作製した組換えレンチウイルスをSKOV3細胞に感染後、puromycinで非感染細胞を除去し、接種した。
【0109】
SKOV3細胞でも、リンパ腫瘍の場合と同じく5つの配列(配列番号7、8、15〜17)を用いたが、リンパ腫瘍の場合と異なり配列番号7のみがイムノブロットで顕著なTACC3の枯渇を示した(データは示していない)。そのため、in vivo実験には、配列番号7のみを用いた。
【0110】
結果
図5aに示すとおり、3つのコントロール群(#1 ctrl、#2 ctrlおよび#3 ctrl:配列番号18)ではすべて接種60日頃以降に腫瘍量の顕著な増殖が認められたのに対し、3つの実験群(#1 exp、#2 expおよび#3 exp:配列番号7)では、腫瘍の増殖は認められなかった。これにより、配列番号7のshRNAのin vivoにおける卵巣腫瘍に対する抗がん効果が示された。
【0111】
実施例8
SKOV3卵巣がん細胞の有糸分裂に対するTACC3、TACC1、TACC2のsiRNAの効果を検討した。
【0112】
材料と方法
卵巣がん細胞(SKOV3)を8ウェルチャンバースライドに播種(1x105/mlで100ul/ウェル)し、TACC1 siRNA(配列番号14、Invitorgen)、TACC2(配列番号20、Invitorgen)もしくはTACC3 siRNA (配列番号9、Invitorgen)をトランスフェクションし、48時間後にmethanolで固定後、抗MPM2抗体(Novus社)を用いた免疫染色により分裂期の細胞を同定した。続いて、FITC結合α-tubulin抗体を用いて染色し、紡錘体の形態を観察した。
【0113】
siRNAの配列
配列番号19(Control):5' GAAUUCACGCGUGCAUACCUGCGGACCGGU 3'
配列番号14(TACC1-HSS186179):5’AUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACU 3’
配列番号20(TACC2-HSS116289):5’UACUCCUGCGCGCACAUCUCUUAACA 3’
これらのsiRNAは、Invitorgen社に合成を依頼し入手した。
【0114】
結果
TACC1(p=0.001)およびTACC3(p=0.0009)で有意な有糸分裂指数の上昇(図6a)および、紡錘体異常の増加(図6b)を認めた。一方、TACC2のsiRNAは、イムノブロットでTACC2の枯渇が認められた(データは示していない)にもかかわらず、有糸分裂指数に変化はなく、紡錘体異常の増加もほとんど認られなかった(図6aおよびb)。TACC2は、TACC1(p=0.001)およびTACC3と異なり、抗がん作用と関係しないことが示された。
なお、TACC1については、配列番号14(TACC1-HSS186179)の他に、異なる領域に対するsiRNA(TACC1-HSS186178およびTACC1-HSS186180)、またTACC2についても、配列番号20(TACC2-HSS116289)の他に、異なる領域に対するsiRNA(TACC2-HSS116287およびTACC2-HSS116288)を合成し試験したが、効果は認められなかった(データは示していない)。
【0115】
実施例9
TACC3およびApcコンディショナルノックアウトマウスApc580SにおけるTACC3の枯渇
【0116】
材料と方法
TACC3コンディショナルノックアウトマウス(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))をApcコンディショナルノックアウトマウス(Shibata et al. Science 278:120-3 (1997))およびVilin-Creマウス(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007);Tyler Jacks博士より入手した)と交配して、Tacc3W/W、ApcS/W、Villin-Cre(+)であるApc580Sマウス(W/W)およびTacc3S/D、ApcS/W、Villin-Cre(+)であるApc580Sマウス(S/D)を作製した。
【0117】
なお、APCは癌抑制遺伝子であり、Apcコンディショナルノックアウトマウスは、Apcをコンディショナルにノックアウトすることで加齢とともに、小腸、大腸(盲腸を含む)に腫瘍を発生させるマウスである。
【0118】
各マウスを飼育し、8週令(8.0W)に2匹のW/Wマウスおよび4匹のS/Dマウス、12週令(12.0W)に3匹のW/Wマウスおよび3匹のS/Dマウス、16週令(16.0W)に3匹のW/Wマウスおよび4匹のS/Dマウスを解剖し、小腸、大腸(盲腸を含む)に発生した腫瘍数を目視で計数した。
【0119】
結果
図7に示すとおり、W/W型のApc580Sマウス(ApcはノックアウトされるがTacc3は機能している)では、加齢と供に発生した腫瘍数は増加した。一方、S/D型のApc580Sマウス(ApcおよびTacc3供にノックアウトされる)では、12週においては、8週齢と比較して腫瘍数は増加したが、16週においては、12週齢と比較して減少した。そして、W/W型と比較して、腫瘍数ははるかに少ない。これは、TACC3を枯渇させることにより小腸、大腸および盲腸腫瘍を抑制できることを示しており、TACC3が、小腸、大腸および盲腸腫瘍に対する抗癌剤開発の標的となりえることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明により、TACC3タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法が提供される。また、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、新たな抗癌剤が提供される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな抗癌剤のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、TACC3またはTACC1タンパク質に基づく新規の抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有糸分裂において、間期細胞中の微小管の広範なネットワークが解体されて、双極紡錘体が再構成される。核膜崩壊に際して、一対の中心体が微小管の放射状配列の核を形成し、そのプラス端は動原体によって捕捉されそして安定化される。このプラス端探索および捕捉のモデルに加えて、紡錘体形成が中心体の非存在下で起こり得、これは無中心体紡錘体と呼ばれる。このモデルにおいて、微小管の核形成は染色体近傍で起こり、そして動原体に結合した微小管(K線維)は最終的に星状紡錘体に組み込まれる。この微小管の動的形成は、キネシンおよびダイニンモータータンパク質ならびに微小管調節タンパク質を含む様々なクラスのタンパク質の包括的かつ局所的な調節によって協調されている。
【0003】
腫瘍細胞の紡錘体は癌化学療法の分子標的となっている(非特許文献1)。現在、ビンカアルカロイドやタキサンのような、紡錘体を構成する微小管を標的とした薬物が臨床的に使用されている。これらのうち、ビンカアルカロイドであるビンブラスチンおよびビンクリスチンは微小管を不安定化し、一方、タキサンであるパクリタキセルは微小管を安定化する。腫瘍細胞に対するその抗有糸分裂効果は、微小管の動的不安定性の抑制に起因すると考えられている。しかし、微小管を標的とした薬物は非分裂細胞における微小管機能も阻害し、その結果、末梢神経の軸索輸送の妨害による末梢性ニューロパシーのような重篤な副作用が生じるという問題があった。
【0004】
この問題を克服するために、非分裂細胞における微小管に影響を及ぼすことなしに紡錘体を阻害する、非紡錘体有糸分裂タンパク質を標的とした新たな薬剤の開発が検討されていた(非特許文献2)。紡錘体の形成は種々の微小管調節タンパク質によって協調されている。機能的に保存された基本的な機構とは対照的に、いくつかの微小管調節タンパク質は、他の細胞における紡錘体形成に影響を及ぼすことなしに特定の体細胞においてのみ中枢的な役割を果たし得る。腫瘍細胞における紡錘体形成に関与し、一方、正常細胞においては機能しないような微小管調節タンパク質を分子標的として利用すれば、腫瘍細胞に特異的または選択的に作用する新たな癌化学療法を開発できる可能性がある。しかし、現在までにそのようなタンパク質は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jordan, M.A. et al., Nat. Rev. Cancer, 4:253-265 (2004)
【非特許文献2】Wood, K.W. et al., Curr. Opin. Pharmacol., 1:370-377 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新たな抗癌剤のスクリーニング方法および抗癌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を阻害または枯渇させることにより、腫瘍細胞においては、有糸分裂の際に異常紡錘体が生じ、有糸分裂が停止し、細胞死が生じること、一方、正常細胞においては、影響がないことを見出した。よって、TACC3および/またはTACC1タンパク質を標的とした抗癌剤は、副作用の無い抗癌剤になり得る。
【0008】
本発明は、
[1]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[2]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[3]
抗癌剤が、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、[1]または[2]に記載の方法;
[4]
抗癌剤が、胸腺リンパ腫、血管肉腫、小腸腫瘍、盲腸腫瘍からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、[1]または[2]に記載の方法;
[5]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、リンパ腫細胞、血管肉腫細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞、消化管腫瘍細胞および卵巣癌細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[6]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞、血管肉腫細胞およびApc欠損動物から得られる消化管腫瘍細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[7]
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞SKOV3株、OVCAR3株、ヒトバーキットリンパ腫細胞およびヒトT細胞急性リンパ性白血病細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[8]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[9]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法;
[10]
抗癌剤が、卵巣癌に対するものである、[8]または[9]に記載の方法;
[11]
TACC1タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞である、[8]〜[10]のいずれか1つに記載の方法;
[12]
配列番号3〜5からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
[13]
配列番号12の配列を標的とするTACC1に対するshRNAまたはsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
[14]
TACC3に対する、配列番号6、配列番号7のshRNA、配列番号9、10のsiRNAからなる群から選択される少なくとも1つを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
[15]
TACC1に対する、配列番号13のshRNAまたは配列番号14のsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法が提供される。また、TACC3またはTACC1タンパク質に基づく新たな抗癌剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】図1は、TACC3の破壊がインビボにおいて胸腺リンパ腫の退縮を導くことを示す図である。図1aは、p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)の4OHT投与のスケジュール(上)、胸腺リンパ腫組織のMRI画像(中央)および腫瘍量(下)を示す。図1a中央の図において、胸腺リンパ腫をアスタリスク(*)で示す。図1a下のグラフにおいて、灰色棒および黒色棒はそれぞれp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)における腫瘍量の変化を示す。
【図1b】図1bは、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスの4OHT投与のスケジュール(上)、胸腺リンパ腫組織のMRI画像(中央)および腫瘍量(下)を示す。図1b中央の図において、胸腺リンパ腫をアスタリスク(*)で示す。
【図1c】図1cは、腫瘍量の応答のまとめを示す。図1cにおいて、黒色棒および灰色棒はそれぞれ、4OHT処置p53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D 4OHT(+))、および4OHT未処置p53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D 4OHT(−))または4OHT処置p53−/−;TACC3S/W;CreERT2(TACC3S/W 4OHT(+))マウスにおける腫瘍量の変化を示す。
【図2a】図2は、TACC3の枯渇が、異常な紡錘体および有糸分裂停止、それに続くアポトーシスの迅速な誘導を導くことを示す図である。図2aは、p53−/−;TACC3S/W;CreERT2(TACC3S/W)およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(TACC3S/D)マウス由来の胸腺リンパ腫細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、そしてTACC3タンパク質の発現をイムノブロットによって経時的に分析した結果を示す。グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をローディングコントロールとして示す。
【図2b】図2bは、細胞増殖アッセイの結果を示す。表示するアレル(TACC3S/WまたはTACC3S/D)を有するリンパ腫細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、そして生存細胞を計数した。
【図2c】図2cは、FACS分析の結果を示す。細胞を図2bに関して記載したように処理し、ヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。
【図2d】図2dは、有糸分裂指数の増加を示す。細胞を図2bに関して記載したように処理し、固定し、そして有糸分裂細胞を抗MPM−2抗体で免疫染色することによって同定した。TACC3陰性細胞および陽性細胞をそれぞれ黒色棒および灰色棒で示す。
【図2e】図2eは、TACC3枯渇リンパ腫細胞における多極紡錘体の誘導を示す。p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、固定し、そして染色した(図2e)。
【図2f】図2fは、TACC3枯渇リンパ腫細胞における多極紡錘体の誘導を示す。p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス(TACC3S/W)またはp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス(TACC3S/D)由来の細胞を4OHTで処理するか(4OHT(+))または未処理のままにし(4OHT(−))、固定し、そして染色した。正常な双極紡錘体(濃灰色棒および斜線棒)および多極紡錘体(黒色棒および淡灰色棒)を含む細胞の百分率を3回の独立した実験において少なくとも50個の有糸分裂細胞を計数することによって決定した。TACC3陽性および陰性細胞をそれぞれ、濃灰色棒および黒色棒、ならびに斜線棒および淡灰色棒で示す。
【図2g】図2gは、TACC3枯渇リンパ腫細胞の細胞運命分析を示す。有糸分裂の間の細胞の染色体挙動をH2B−GFP発現細胞の低速度撮影によって検討した。核膜崩壊の時点を0:00として定義する。
【図2h】図2hは、TACC3枯渇リンパ腫細胞の細胞運命分析を示す。正常有糸分裂を濃灰色菱形で示す。有糸分裂および有糸分裂スリッページ(mitotic slippage)後の死滅をそれぞれ白色三角および黒色丸で示す(図2h)。
【図3a】図3は、TACC3の枯渇がヒトリンパ腫細胞におけるアポトーシスを導くことを示す図である。図3aは、ヒトリンパ腫におけるTACC3タンパク質の発現を示す。TACC3の免疫組織化学をヒトリンパ腫組織アレイを使用して行った。表示する腫瘍組織の代表的な図を示す。挿入図は、より低い倍率での結果を示す。
【図3b】図3bは、TACC3の枯渇を示す。1つのコントロール(C)および2つのTACC3 shRNA(sh1(配列番号7)およびsh2(配列番号8)を表示する細胞に導入し、そしてTACC3の発現をイムノブロット分析によって検討した。NADPHをローディングコントロールとして示す。
【図3c】図3cは、アポトーシスの誘導を示す。コントロール(配列番号18)またはTACC3 shRNA(sh1、sh2)形質導入細胞のアポトーシスをアネキシンV染色およびそれに続くFACS分析によって検討した。
【図3d】図3dは、TACC3枯渇ヒトリンパ腫細胞の生存率を示す。TACC3枯渇後の相対的細胞生存率をMTTアッセイによって決定した。コントロールshRNA形質導入細胞の生存率を1.0として定義した。
【図3e】図3eは、有糸分裂指数の増加を示す。有糸分裂指数を抗MPM−2抗体での免疫染色によって決定した。
【図3f】図3fは、多極紡錘体の誘導を示す細胞を表示する。shRNAを用いて形質導入し、固定し、そして免疫蛍光によって分析した。Jurkat細胞の代表的な図を示す。
【図3g】図3gは、多極紡錘体の誘導を示す細胞を表示する。shRNAを用いて形質導入し、固定し、そして免疫蛍光によって分析した。多極紡錘体を含む細胞の百分率を3回の独立した実験において少なくとも50個の有糸分裂細胞を計数することによって決定した。
【図4】図4aは、TACC3siRNA(配列番号9)で処理した子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)におけるTACC3タンパク質のイムノブロットを示す。(+)はTACC3siRNA処理を示し、(−)はコントロールのsiRNA(配列番号19)での処理を示す。Anti-TACC3は、第一抗体として抗TACC3抗体を用いたことを示し、anti-GAPDHは、第一抗体として抗GAPDH抗体(コントロール)を用いたことを示す。図4bは、TACC3siRNAで処理した子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)における有糸分裂指数を示す。有糸分裂指数は、少なくとも50個の細胞中の有糸分裂細胞の割合を3回の独立した実験において計数することによって決定した。図4cは、TACC3siRNAで処理した細胞の紡錘体の形態(Normal、bipolar-misalinged、multipolar、monopolar)を示す写真である。図4dは、TACC3siRNAで処理した卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)の紡錘体異常のまとめである。Controlは、コントロールsiRNAで処理したSKOV3およびOVCAR3を示し、TACC3は、TACC3siRNAで処理したSKOV3およびOVCAR3を示す。紡錘体形態(%)は、少なくとも50個の有糸分裂を示す細胞中の、Normal、bipolar-misalinged、multipolarまたはmonopolar形態の紡錘体を有する細胞の割合を3回の独立した実験において計数することによって決定した。
【図5】図5aは、卵巣がん細胞SKOV3をNOD-scidマウスに移植後の腫瘍サイズの変化を示す。#1 ctrl、#2 ctrlおよび#3 ctrlは、コントロールshRNA(配列番号18)を含むベクターで処理した卵巣がん細胞SKOV3を移植したマウス(コントロール)を示し、#1 exp、#2 expおよび#3 expは、shRNA(配列番号7)を有するベクターで処理した卵巣がん細胞SKOV3を移植したマウスを示す。卵巣がん細胞SKOV3を移植した日を1日目とする。図5(b-1)は、111日目の#1 ctrlのマウスの移植部位の写真である。図(b-2)は、111日目の#1 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍の写真である。腫瘍量は4878.4m3であった。図5(c-1)は、70日目の#2 ctrlのマウスの移植部位の写真である。70日目の#2 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍量は389.8m3であった。図(d-1)は、111日目の#3 ctrlのマウスの移植部位の写真である。図(d-2)は、111日目の#3 ctrlのマウスの移植部位から取り出した腫瘍の写真である。腫瘍量は4854.4m3であった。
【図6】図6aは、TACC3、TACC1またはTACC2のsiRNAで処理した卵巣がん細胞SKOV3における有糸分裂停止を示す。有糸分裂指数は、少なくとも50個の細胞中の有糸分裂細胞の割合を示す(n=3)。Controlは、コントロールsiRNA、TACC1は、配列番号14のsiRNA、TACC2は、配列番号12のsiRNA、TACC3は配列番号9のsiRNAで処理したことを示す。図6bは、TACC3、TACC1またはTACC2のsiRNAで処理した卵巣がん細胞SK−OV3の紡錘体形態のまとめである。Normal、bipolar-misalingedまたはMultipola-Aはそれぞれ、少なくとも50個の有糸分裂を示す細胞中、Normal、bipolar-misalingedまたはmultipolar-A形態の紡錘体を有する細胞の割合を示す(n=3)。Multipolar-Aは、多数の紡錘体極のうち2極のみに中心体がある形態を指す。
【図7】図7は、Apc580SマウスにおいてTACC3の枯渇がインビボにおいて腫瘍数の減少を導くことを示す図である。W/Wは、Tacc3W/W、ApcS/W、Villin-Cre(+)のマウスを示し、S/Dは、Tacc3S/D、ApcS/W、Villin-Cre(+)のマウスを示す。1匹のマウスあたりの小腸および大腸癌数の合計の平均数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「TACC3」(「Tacc3」とも記載する)および「TACC1」(「Tacc1」とも記載する)は、TACC(transforming acidic coiled-coil containing)ファミリーに属するタンパク質の1種である。哺乳動物においては、TACC1、TACC2、TACC3の3種のTACCファミリーに属するタンパク質が同定されている。本明細書において使用する用語「TACC3」および「TACC1」は、哺乳動物のTACC3およびTACC1タンパク質を指す。哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、ヒトなど任意の哺乳動物であり得る。好ましくは、哺乳動物はヒトである。TACC3、TACC1をコードする遺伝子のヌクレオチド配列およびTACC3、TACC1タンパク質のアミノ酸配列はデータベースから入手可能である(それぞれGenBankアクセッション番号NM_006342.1(配列番号1)、NM_006283(配列番号2)、UniProtアクセッション番号Q9Y6A5、O75410-1の配列が好ましい)。
【0012】
本発明は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を標的とした抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法によって同定される物質を抗癌剤として使用して処置される癌は、任意の癌である。下記のように、TACC3は種々のヒト癌において異常発現されていることが示されていたが、TACC3の阻害または枯渇によって腫瘍が退縮され得ることをインビボで示したのは本発明者らが最初である。1つの実施態様において、前記癌は、リンパ腫または肉腫から選択される。「リンパ腫」は、リンパ系組織の任意の腫瘍をいい、「肉腫」は、結合組織の任意の腫瘍をいう。1つの実施態様において、リンパ腫は、リンパ系組織の1つである胸腺から発生する腫瘍である胸腺リンパ腫である。別の実施態様において、肉腫は、血管由来の腫瘍である血管肉腫である。TACC3は、MoMuLV−ts1レトロウイルスの挿入によって生じるマウスのリンパ腫において発現が亢進した遺伝子の1つとして報告されているが(Chakraborty, J. et al., Virology, 377:100-109 (2008))、この報告はTACC3タンパク質を標的としてリンパ腫が処置され得ることを示唆するものではない。TACC3と肉腫との関連について記載された例はない。
【0013】
卵巣癌は、卵巣に発生する癌を意味し、限定されないが、好ましくは、胚細胞腫瘍(好ましくは、未熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛がん、未分化胚細胞腫)、性索間質腫瘍(好ましくは、セルトリ・間質細胞腫瘍、線維肉腫、顆粒膜細胞腫)、表層上皮性・間質性腫瘍(好ましくは、漿液性腺がん、類内膜腫瘍、明細胞がん)である。
【0014】
消化管腫瘍は、消化管に発生する腫瘍を指し、好ましくは大腸癌、小腸癌である。大腸癌は、盲腸、結腸、直腸に発生する、盲腸癌、結腸癌、直腸癌を意味する。小腸癌は、十二指腸球部から回盲弁までの間に発生する、十二指腸腫瘍、空腸・回腸腫瘍を意味する。
【0015】
乳癌は乳房組織に発生する癌を意味する。限定されないが、好ましくは、腺癌である。非小細胞肺癌は、形態が小細胞ではない肺組織に発生する癌を意味する。限定されないが、好ましくは、腺癌、大細胞癌、扁平上皮癌である。
【0016】
本発明おいて、癌と腫瘍は交換可能に用いられる。
【0017】
本発明の抗癌剤のスクリーニング方法は、TACC3および/またはTACC1タンパク質を発現する細胞と候補物質とを接触させる工程を含む。TACC3またはTACC1タンパク質を発現する細胞としては、候補物質の作用によりTACC3またはTACC1遺伝子、または、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能が低下するかまたは失われた結果生じる影響を観察することができる任意の細胞を使用することができる。1つの実施態様において、TACC3タンパク質を発現する細胞は、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞または肉腫細胞である。別の実施態様において、TACC3タンパク質を発現する細胞は、ヒトバーキットリンパ腫細胞またはヒトT細胞急性リンパ性白血病(T−ALL)細胞である。別の実施態様において、TACC3またはTACC1タンパク質を発現する細胞として、卵巣癌細胞、腸腫瘍細胞、乳癌細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞を使用することもできる。
【0018】
例えば、TACC3またはTACC1遺伝子またはTACC3またはTACC1タンパク質に対する候補物質の影響を、候補物質と接触させた細胞における多極紡錘体などの異常な紡錘体の形成の観察によって、あるいは、有糸分裂細胞の割合、有糸分裂期間の長さ、細胞死の程度などを測定することによって観察することができる。
【0019】
従来、細胞を用いた抗癌剤のスクリーニングを行う場合、一般に、候補物質と接触させた後の細胞の生存率を指標として用いていた。本発明者らは、TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇が、異常な紡錘体の形態(多極紡錘体など)を生じさせ、細胞運命に影響を及ぼすことを見出した。従って、これらを抗癌剤のスクリーニングに際して指標として使用することができる。例えば、α−チューブリンとレポーター遺伝子産物(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))との融合タンパク質の発現ベクターを標的細胞に導入して微小管を可視化し、候補物質と接触させた細胞を固定標本の蛍光染色、低速度撮影等により観察し、有糸分裂停止後に有糸分裂スリッページまたは有糸分裂において細胞が死滅するという細胞運命が示されることを指標として、抗癌剤を選択することができる。
【0020】
よって、1つの実施態様において、本発明の抗癌剤のスクリーニング方法(A)は、
癌細胞と候補物質とを接触させる工程;
有糸分裂細胞を計数する工程;および
該物質と接触させていない該細胞における有糸分裂細胞の割合と比較して、有糸分裂細胞の割合を増加させた該物質を選択する工程;
を含む方法であることができる。
【0021】
抗癌剤とは、癌を退縮させるまたは癌の増殖を遅延もしくは抑制する剤を意味する。
【0022】
候補物質は、限定されないが、好ましくは低分子化合物、核酸、タンパク質などである。候補物質は、天然由来であっても、人工合成物であっても良い。
【0023】
癌細胞は、TACC3またはTACC1を発現している癌細胞であれば限定されない。好ましくは、リンパ腫瘍細胞、血管肉瘍細胞、卵巣癌細胞、腸腫瘍細胞、非小細胞肺癌細胞、乳癌細胞などである。癌細胞は、チューブリンなどの紡錘体に関係するタンパク質とレポーター遺伝子産物(例えば、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質遺伝子、ガラクトシダーゼなどの酵素遺伝子等)との融合遺伝子を導入し、発現している細胞でも良い。
【0024】
癌細胞と候補物質とを接触させるとは、細胞に候補物質を添加し、候補物質を癌細胞中のTACC3またはTACC1タンパク質と接触させることを意味する。
【0025】
癌細胞と候補物質との接触(インキュベーション)時間は、限定されないが、24時間〜72時間、好ましくは36時間〜60時間である。細胞は、限定されないが、マイクロチップ、マイクロプレートに播種されることが好ましい。細胞数は、スクリーニングの実施に適した数であれば限定されなくともよい。
【0026】
有糸分裂細胞の決定方法は、当業者に周知であり、限定されないが、細胞を固定後に顕微鏡で紡錘体の有無を観察することが好ましい。
【0027】
細胞の固定方法は、当業者に周知であり、限定されないが、有機溶媒、好ましくはメタノール、グルタルアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドを用いることができる。
【0028】
紡錘体の観察方法は、当業者に周知であり、限定されないが、抗チューブリン抗体などの紡錘体に関係するタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色を用いることが好ましい。
【0029】
免疫染色は、当業者に周知であり、FITC、Cy3などの蛍光標識、ルシフェラーゼなどの発光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素、放射性物質で標識された抗体を用いることが好ましい。蛍光標識の場合、直接蛍光を観察できるので好ましい。発光標識の場合、対応する基質と反応後、発光により観察することができる。酵素標識の場合、対応する基質と反応後、発色により観察することができる。また、標識されていない抗体を用いても良い。標識されていない抗体を第1抗体として用いた場合は、標識された第2抗体を用いて、上記のように標識に対応した方法で観察することができる。
【0030】
癌細胞が、チューブリンなどの紡錘体に関係するタンパク質とレポーター遺伝子産物(例えば、GFP、DsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質遺伝子、ガラクトシダーゼなどの酵素遺伝子等)との融合遺伝子の導入された細胞の場合、レポーター遺伝子産物を検出することで紡錘体を観察することができる。
【0031】
染色された紡錘体および細胞は、標識に対応した検出装置、画像取り込み装置を備えた顕微鏡を用いて観察することが好ましい。有糸分裂細胞の決定およびその計数は、目視で行っても、画像処理ソフトを用いて行っても良い。
【0032】
有糸分裂細胞の割合は、所定の細胞数(好ましくは50以上、より好ましくは50〜100)中の、紡錘体を有する細胞の百分率(%)を意味する。有糸分裂細胞の割合の増加とは、候補物質と接触させていない癌細胞における有糸分裂細胞の割合と比較して、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍の増加を意味する。
【0033】
さらに、有糸分裂細胞の正常紡錘体および異常紡錘体(bipolar-misalinged、multipolarまたはmonopolar)の割合を測定しても良い。異常紡錘体とは、紡錘体が双極を有し整列している状態(normal)ではない状態を意味し、双極であるが整列していない状態(bipolar-misalinged)、多極(multipolar)または単極(monopolar)などがある。正常及び異常紡錘体の決定およびその計数は、目視で行っても、画像処理ソフトを用いて行っても良い。
【0034】
異常紡錘体の割合は、所定の有糸分裂細胞数(好ましくは50以上、より好ましくは50〜100)中の異常紡錘体の百分率(%)を意味する。異常紡錘体の割合の増加とは、候補物質と接触させていない癌細胞における異常紡錘体の割合と比較して、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍の増加を意味する。
【0035】
候補物質がTACC3またはTACC1遺伝子、または、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能に影響することは、例えば、インビトロでの候補物質とTACC3またはTACC1タンパク質との結合、細胞中のTACC3またはTACC1遺伝子転写物、または、TACC3またはTACC1タンパク質の量(例えば、ノーザンブロッティング、RT−PCR、ウエスタンブロッティング、ELISA、TACC3またはTACC1タンパク質とレポーター遺伝子産物との融合タンパク質の産生の検出)、TACC3またはTACC1タンパク質の細胞内局在などを任意の公知の方法を使用して調べることによって確認することができる。
【0036】
よって、1つの実施態様において、本発明の抗癌剤のスクリーニング方法(B)は、
癌細胞と候補物質とを接触させる工程;
該細胞中のTACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程;および
該物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能と比較して、TACC3またはTACC1タンパク質の発現または機能を減少させた該物質を選択する工程;
を含む方法であることができる。
【0037】
TACC3またはTACC1タンパク質の発現の減少は、候補物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の発現と比較して、TACC3またはTACC1タンパク質の発現が、少なくとも1/2以下、好ましくは少なくとも1/10以下、より好ましくは検出できないレベルに減少していることを意味する。また、TACC3またはTACC1タンパク質の機能の減少は、候補物質と接触させていない癌細胞におけるTACC3またはTACC1タンパク質の細胞内局在性の変化であっても良い。
【0038】
上記(A)および(B)のスクリーニング方法を組み合わせても用いてもよい。さらに、従来の細胞生存率を指標とする抗癌剤のスクリーニング方法を、本発明の方法に加えても良い。
【0039】
本発明者らは、TACC3またはTACC1タンパク質が、非紡錘体有糸分裂タンパク質として、癌化学療法の標的となり得ることを最初に示した。ビンカアルカロイドやタキサンのような、紡錘体を構成する微小管を標的とした薬物による副作用を回避する目的で、Eg5、ポロ様キナーゼ、オーロラキナーゼなどの非紡錘体有糸分裂タンパク質が、癌化学療法の標的の潜在的な候補として期待されていた。しかし、これらを標的として癌が退縮された例はなかった。
【0040】
本発明者らは、TACC3の阻害または枯渇によって腫瘍が退縮され得ることをインビボで最初に示した。さらに、正常組織(TACC3タンパク質を発現する胸腺を含む)において明らかな異常は観察されなかった。また、腫瘍細胞においてTACC3と同じ紡錘体の異常がTACC1の枯渇によって生じることを見出した。従って、TACC3および/またはTACC1タンパク質を癌化学療法のための標的とする本発明のスクリーニング方法によって、正常組織に対する副作用を示さず、癌細胞に選択的または特異的に作用する抗癌剤を得ることができる。
【0041】
本発明者らは、p53欠損マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇は胸腺リンパ腫などのリンパ腫および血管肉腫などの肉腫の退縮を導くが、横紋筋肉腫細胞において異常はほとんど観察されないことを見出し、TACC3の機能は「細胞種依存性(cell context-dependent)」であることを示した。下記のように、本発明以前にはTACC3の機能は明らかではなかった。TACC3の有する細胞種依存性の機能は、その理由を説明すると考えられる。
【0042】
ツメガエル(Xenopus)のTACCホモログであるMaskinは紡錘体形成において重要であり、ショウジョウバエ(Drosophila)のTACCファミリーメンバーであるD−TACCは中心体微小管の安定性に影響を及ぼし、線虫(Caenorhabditis elegans)のTACCホモログであるTAC−1は初期胚形成における効果を有する。このように、TACCファミリーのタンパク質は広範な生物に存在し、有糸分裂における保存された役割を果たしていることが知られていた。
【0043】
一方、ヒトTACC3遺伝子は、多発性骨髄腫における転座切断点付近の4p16にマッピングされる癌関連遺伝子として元来単離され(Still, I.H. et al., Genomics, 58:165-170 (1999))、その後、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌などの種々のヒト癌において異常発現されていることが示され、腫瘍細胞においてTACC3タンパク質が重要な機能を有する可能性が示唆されていた(Lauffart, B. et al., BMC Women's Health, 5:8 (2005);Jung, C.K. et al., Pathol. Int., 56:503-509 (2006);Ma, X-.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100:5974-5979 (2003);Jacquemier, J. et al., Cancer Res., 65:767-779 (2005))。
【0044】
HeLa細胞において、TACC3枯渇細胞は正しく構成された双極紡錘体を構築することが報告されている(Gergely, F. et al., Genes Dev., 17:336-341 (2003))。一方、本発明者らは以前に、TACC3タンパク質の枯渇により、卵巣癌細胞株において異常な紡錘体が形成され、有糸分裂停止が誘導され、有糸分裂スリッページまたは有糸分裂における細胞死が導かれることを見出して、TACC3タンパク質が卵巣癌細胞株の紡錘体形成における重要な役割を有することを示している(日本癌学会第68回学術総会(2009要旨集、第252頁、演題番号O−641)。また、NIH3T3細胞において、TACC3タンパク質の枯渇は有糸分裂進行を損なわないが、有糸分裂後p53−p21WAF経路を誘発し、可逆的な細胞周期停止を導くことが報告されている(Schneider, L. et al., Oncogene, 27:116-125 (2008))。
【0045】
本発明者らは、リンパ腫においてTACC3タンパク質を枯渇させると、紡錘体形成異常(多極紡錘体の形成)により紡錘体形成チェックポイント(SAC)が活性化され、有糸分裂停止が導かれ、その後腫瘍は、有糸分裂においてまたは有糸分裂スリッページの後にアポトーシスによる細胞死を受けることを示した。有糸分裂停止後の細胞運命は、2つの拮抗するネットワーク(一方はカスパーゼの活性化が関与するアポトーシスによる細胞死の経路であり、他方はサイクリンB1の分解からの保護である)によって左右されることが提唱されている(Gascoigne, K.E. et al., Cancer Cell, 14:111-122 (2008))。有糸分裂停止後の迅速なアポトーシスは、細胞中に強い内在性の細胞死シグナルが存在することを示唆する。有糸分裂スリッページ後の細胞死も同様に説明され得、有糸分裂停止の間に細胞がアポトーシスに拘束されており、そして細胞周期の進行後すぐに細胞死に至るものと考えられる。このことから、TACC3タンパク質のような非紡錘体有糸分裂タンパク質を標的とした癌化学療法の効力は、SACに対する細胞応答によって細胞種依存性に決定されることが示唆される。
【0046】
さらに、本発明者らは、p53欠損マウスおよびp53野生型マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇は胸腺リンパ腫のアポトーシスを誘導するが、正常胸腺はTACC3タンパク質の枯渇に際してアポトーシスの増加を示さないことを見出し、TACC3タンパク質の役割が「細胞系譜依存性」ではないことを示した。この特徴は、たとえ同じ細胞系譜の細胞であっても、正常細胞に対する副作用なしに、癌細胞を選択的または特異的に処置できる抗癌剤が開発できることを示す。
また、本発明者らは、Apc欠損マウスおよびApc野生型マウスにおいて、TACC3タンパク質の枯渇が、消化管腫瘍発生を減少させ、正常細胞に対する副作用を生じないことを見出した。
【0047】
本発明の方法によって得られた抗癌剤は、リンパ腫および肉腫を含めて、TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇によって退縮または死滅させられる任意の癌に有効である可能性がある。広範な腫瘍型の中からTACC3またはTACC1タンパク質の枯渇に感受性のものを同定すれば、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした処置が有効であるさらなる癌を同定することができる。TACC3またはTACC1タンパク質の枯渇は、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤、トランスジェニック動物におけるTACC3またはTACC1遺伝子の欠損、TACC3またはTACC1に対するshRNA、siRNA、リボザイム、アンチセンスDNAなど任意の公知の手段を使用することによって達成され得る。特に、本発明者らにより得られた、TACC3コンディショナルノックアウト動物は、TACC3の機能解析、TACC3枯渇に感受性の癌の研究等に有用である。なお、TACC3またはTACC1に対するshRNA、siRNA、リボザイム、アンチセンスDNAなどの核酸を抗癌剤として医薬組成物に使用することも可能である。
【0048】
TACC3に対するshRNAまたはsiRNAは、TACC3をサイレンシングするものであれば限定されないが、TACC3遺伝子(NM_006342.1)中の位置2000〜2024の配列:5'GACCTATAGTGGACCTGCTCCAGTA 3(配列番号3)、位置1905〜1925の配列:5'GCTTGTGGAGTTCGATTTCTT 3'(配列番号4)、または位置589〜609の配列:5'CCAGGAAGTTCTGAGAACCAA 3'(配列番号5)を標的配列とするものが好ましい。
【0049】
配列番号3の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号6:5'CCGGGACCUAUAGUGGACCUGCUCCAGUACUCGAGUACUGGAGCAGGUCCACUAUAGGUCUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0050】
配列番号4の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号7(TRCN0000062026):5'CCGGGCUUGUGGAGUUCGAUUUCUUCUCGAGAAGAAAUCGAACUCCACAAGCUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0051】
配列番号5の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号8(TRCN0000062027):5'CCGGCCAGGAAGUUCUGAGAACCAACUCGAGUUGGUUCUCAGAACUUCCUGGUUUUUG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0052】
配列番号3の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号9(TACC3-HSS116027):5' UACUGGAGCAGGUCCACUAUAGGUC 3'の配列を有するものが好ましい。
【0053】
配列番号4の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号10:5'AAGAAAUCGAACUCCACAAGC 3'の配列を有するものが好ましい。
【0054】
配列番号5の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号11:5' UUGGUUCUCAGAACUUCCUGG 3'の配列を有するものが好ましい。
【0055】
TACC1に対するshRNAまたはsiRNAは、TACC1をサイレンシングするものであれば限定されないが、TACC1遺伝子(NM_006283)中の位置2448〜2522の配列:5’AAGAATGAAGAAGCCTTGAAGAAAT 3’(配列番号12)の相補配列を標的するものが好ましい。
【0056】
配列番号12の配列を標的とするshRNAには、限定されないが、配列番号13:5'CCGGAAGAAUGAAGAAGCCUUGAAGAAAUCUCGAGAUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACUUUUUUG3'の配列を有するものが好ましい。
【0057】
配列番号12の配列を標的とするsiRNAには、限定されないが、配列番号14(TACC1-HSS186179):5’AUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACU 3’の配列を有するものが好ましい。
【0058】
siRNAの場合、さらに各鎖の3’末端に2塩基のオーバーハングを有していることが好ましい。より好ましいオーバーハングは、TTである。
【0059】
siRNAまたはshRNAは、DNAに基づいて細胞内で合成されてもよい。
【0060】
DNAに基づくshRNA合成は、ヘアピン配列を介して連結したセンス鎖とアンチセンス鎖を発現(転写)するベクターを細胞内に導入し、細胞内でヘアピン配列を介して連結したセンス鎖とアンチセンス鎖の1本鎖RNAを生産させ、センス鎖とアンチセンス鎖をヘアピンを介して自然に対形成させることによってできる。
【0061】
配列番号7で示される配列のshRNAは、プロモーターに連結した配列番号7(但し、配列中のUをTに置き換える)のDNAを有する発現ベクターから合成できる。同様にして、配列番号6、8または13で示される配列のshRNAも発現ベクターから合成できる。
【0062】
DNAに基づくsiRNA合成は、センス鎖とアンチセンス鎖のそれぞれを発現(転写)するベクターを細胞内に導入し、細胞内でセンス鎖およびアンチセンス鎖の2つを個別に産生させ、センス鎖とアンチセンス鎖の対を自然に形成させることによってできる。
【0063】
配列番号10で示される配列のsiRNAは、第1プロモーターに連結した配列番号10(但し、配列中のUをTに置き換える)および第2プロモーターに連結した配列番号10の相補配列(配列中のUをTに置き換える)のDNAを有する発現ベクターを細胞に導入することによって合成することができる。同様にして、配列番号9、11または14で示される配列のsiRNAも発現ベクターから合成できる。
【0064】
プロモーター、発現ベクターは、細胞においてRNA合成を可能とするものであれば限定されない。
【0065】
本発明者らは、p53欠損マウスにおいてTACC3タンパク質を枯渇させることによって、リンパ腫等のp53非依存的な細胞死が引き起こされることを示した。この知見は、NIH3T3細胞において観察された、TACC3タンパク質の枯渇が有糸分裂後p53−p21WAF経路を誘発し、細胞周期停止を導いた(すなわち、TACC3タンパク質の枯渇により細胞死が抑制された)という以前の知見とは対照的である(Schneider, L. et al., Oncogene, 27:116-125 (2008))。従って、限定するものではないが、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤は、p53遺伝子の変異が関与する広範な癌に特に有効である可能性がある。
【0066】
また、本発明者らはApc欠損マウスにおいてTACC3タンパク質を枯渇させることによって、消化管腫瘍発生が抑制されることを示した。従って、本発明のスクリーニング方法によって得られた抗癌剤は、Apc遺伝子の変異が関与する癌に特に有効である可能性がある。
【0067】
1つの実施態様において、本発明は、抗癌剤の製造のための本発明の核酸、特にsiRNAまたはshRNAの使用を含むことができる。また、本発明の抗癌剤の有効量を癌患者に投与する治療方法を含むことができる。
【0068】
本発明の抗癌剤は、発現ベクターの形態を含む。発現ベクターは、本発明のsiRNAまたはshRNAを発現できるものであれば、限定されないが、ウイルスベクターまたはプラスミドが好ましい。また、裸のDNAとして導入してもよい。
【0069】
本発明の抗癌剤は、対象者への投与に適した生理的に許容されるビヒクル、賦形剤、担体、もしくは希釈剤と共に、またはその組合せを含むことが好ましい。
本発明の抗癌剤は、限定されないが、好ましくは腫瘍部位の局所に、1日に1回または数回投与できる。投与期間は、年齢、症状に応じて任意に定めることができる。例えば、数日間の規則的な間隔で、2〜10日間で投与できる。また全身投与してもよい。製剤の例としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。
【0070】
本発明の抗癌剤の有効量または投与量は、特に制限されないが、投与形態、年齢、体重、症状に応じて適宜選択すればよい。局所投与の場合、局所1回当り約1〜約1000μg、好ましくは約10〜約500μgのsiRNAまたはshRNAを含むことができる。発現ベクターの形態の場合、約0.05〜約10μg、好ましくは約0.1〜約1μgの発現ベクターを含むことができる。全身投与の場合には、成人1回当り1〜200mg/kg、好ましくは2から25mg/kgのsiRNAまたはshRNAを含むことができる。発現ベクターの形態の場合、約0.01〜約10mg/kg、好ましくは約0.1〜約1mg/kgの発現ベクターを含むことができる。
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
材料および方法
抗体およびTUNELアッセイ
マウスTACC3に対する抗体を以前に記載のように生成した(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))。ヒトTACC3に対する抗体を、ヒトTACC3のアミノ酸213〜224に対応するペプチドでウサギを免疫することによって生成し、そしてこれをペプチド結合免疫親和性カラムを使用して精製した。抗PCNA抗体(CBL407)および抗GADPH抗体(sc-25778)をそれぞれChemiconおよびSanta Cruzから購入した。α−チューブリンに対する抗体(DM1A)およびγ−チューブリンに対する抗体(GTU-88)をSigmaから入手した。図2に示す三重染色のために、FITC結合抗α−チューブリン(Sigma)抗体およびCy3結合抗γ−チューブリン抗体(Sigma)を、Alexa Flour 647(Molecula Probe)で標識した抗ヒトTACC3抗体とともに使用した。抗ホスホ−ヒストンH3(ser10)抗体および抗MPM−2抗体をそれぞれCell SignalingおよびNovusから購入した。TUNELアッセイを、ApoTag PLUS Fluorescein In Situ Apoptosis Detection kit(Chemicon)を製造業者の説明書に従って使用して行った。
【0073】
マウス腫瘍細胞
胸腺リンパ腫および横紋筋肉腫からマウス細胞株を生成するために、腫瘍をカミソリで細かく切断し、70μmフィルターを通して濾過し、そしてGIT培地(胸腺リンパ腫細胞)または10%仔ウシ血清を補充したDME培地(横紋筋肉腫細胞)中にプレーティングした。DNA含量を決定するために、細胞を氷冷メタノール中で固定し、ヨウ化プロピジウムで染色し、そしてFACS caliber(Becton Dickinson)を用いて分析した。
【0074】
ヒトリンパ腫細胞のTACC3ノックダウンおよび細胞生存能アッセイ
細胞を、TRC shRNA LibraryからのpLKO.1puroレンチウイルスshRNAベクターを用いて形質導入した(TRC0000062023-27、Open Biosystems)。レンチウイルス粒子を、lipofectamine 2000(Invitrogen)を使用したpLKO.1構築物(Open Biosystems)ならびにpMD2.G(Open biosystems)およびpsPAX2(Open biosystems)プラスミドを用いる293T細胞の同時トランスフェクションによって産生し、そして上清をトランスフェクションの48時間後および72時間後に回収した。細胞を6μg/mlポリブレン(Sigma)の存在下で24時間レンチウイルス上清とともにインキュベートし、そして感染細胞を2μg/ml(Daudi、JurkatおよびCCRF−CEM)または4μg/ml(Raji)のピューロマイシンを用いて選択した。イムノブロット分析を感染の48時間後に行った。生存細胞数を4日連続でMTTアッセイ(Roche)を用いて決定した。アネキシンV染色を感染の72時間後にAnnexin-V-FLUOS staining kit(Roche)を製造業者の説明書に従って使用して行った。
【0075】
イムノブロット
全細胞溶解物を1%NP−40緩衝液(1%NP−40、50mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaClおよび10%グリセロール)中で調製した。等量のタンパク質をSDS−PAGEによって分離し、そしてニトロセルロースにトランスファーした。ブロットを一次抗体とともにインキュベートし、続いてペルオキシダーゼ結合二次抗体とともにインキュベートし、そしてECL detection system(GE Healthcare)を使用して可視化した。定量のために、ブロットをスキャンし、そして全ピクセル強度をImageJ1.42aソフトウェアを使用して計数した。
【0076】
免疫蛍光
細胞を3.7%PFA中で固定し、PBS中0.2%Triton−X100中で透過処理し、そして一次抗体とともにインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、次いでFITC結合抗マウスIgGおよび/またはCy3結合ウサギIgG(Chemicon)とともにインキュベートした。DNAを4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を使用して検出した。画像処理を×100/1.40-0.70 PlanApo対物レンズおよびZ-projectionsを装備したLeica DM6000B顕微鏡を使用して行った。
【0077】
低速度撮影
マウスリンパ腫細胞を60mmガラス底プレート(Iwaki)上にプレーティングし、蛍光画像を毎分Leica AF6000および×40/1.40-0.70 PlanApo対物レンズを使用して得た。細胞運命決定のために、画像を10分毎に集め、そして細胞運命をImageJ1.42aソフトウェアを使用して手動で決定した。
【0078】
組織アレイ
2つのホルマリン固定ヒトリンパ腫組織アレイ(NHL401(BioMax)およびA224(AccuMax))を、製造業者のプロトコルに従って脱パラフィン処理し、水和した。0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)中でマイクロ波を使用して抗原を賦活化した後、切片を4℃で一晩ヒトTACC3抗体(×500)とともにインキュベートした。比色検出を、ヒストンシンプルステインMAX-PO(R)(ニチレイ)およびperoxidase substrate kit(Vector)を使用して行った。
【0079】
実施例1
腫瘍組織におけるTACC3の機能を探求するために、最初に、p53欠損マウスにおいて発症した種々のマウス腫瘍におけるTACC3タンパク質の発現を検討し、TACC3が種々の腫瘍において発現されていることを見出した。とりわけ、胸腺リンパ腫細胞がTACC3タンパク質の高発現を示した。
【0080】
インビボにおけるTACC3の機能をさらに研究するために、TACC3コンディショナルノックアウトマウスを利用した(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))。このマウスをp53欠損マウス(Jacks, T. et al., Curr. Biol., 4:1-7 (1994))およびR26−CreERT2マウス(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007);Tyler Jacks博士より入手した)と交配して、TACC3サイレント/ヌルおよびCreERT2アレルを保有するp53ホモ接合型変異マウス(p53−/−;TACC3S/D;CreERT2)およびコントロールとしてのTACC3サイレント/野生型およびCreERT2アレルを保有するp53ホモ接合型変異マウス(p53−/−;TACC3S/W;CreERT2)を生成した。これらは129Sv/JおよびC57/B6の混合遺伝的背景を有する。TACC3の機能的な遺伝子を欠いたノックアウトマウスは妊娠中後期で死亡することが本発明者らの以前の研究によって示されていた。4−ヒドロキシタモキシフェン(4OHT)をこれらのマウスに投与してCre−loxP組換え系を誘導することによって、p53欠損腫瘍においてTACC3のサイレント(S)アレルを欠失させることができる。皮下(SC)注射が、腹腔内(IP)注射よりも効率的に組換えを誘導することが見出されたので、4OHTの投与をSC注射によって行った(トウモロコシ油中10mg/mlの溶液100μl)。
【0081】
これらの動物を定期的に磁気共鳴画像法(MRI)に供し、腫瘍を保有するマウスを4OHTで処置し、次いで様々な時点で再び調べた。4OHTで処置したp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウスにおける胸腺リンパ腫の腫瘍量は3日で156%、10日で368%に増加し(図1a)、これは以前の報告と一致した(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007))。対照的に、4OHTでの同じ処置は、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスにおいて胸腺リンパ腫の退縮を引き起こした。腫瘍量は3日および10日でそれぞれ元の量の96%および26%へ減少した。
【0082】
上記の結果が腫瘍の個体差に起因する可能性を排除するために、4OHT処置なしで腫瘍量を検討し、次いで同一の腫瘍を4OHTで処置した(図1b)。処置なしでは、腫瘍量は7日で600%に増加し、4OHT処置によりその57%への退縮が同一の腫瘍において誘導された。全体で、4匹のコントロールマウス(4OHTで処置した2匹のp53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウスおよび4OHT処置なしの2匹のp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス)はその腫瘍量を189%〜607%の範囲で増加させた。一方、4OHTで処置した4匹のp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスは96%から26%の範囲の胸腺リンパ腫の退縮を示した(図1c)。これらの結果は、TACC3がp53欠損マウスの胸腺リンパ腫の進行および維持における重要な役割を果たしており、そしてその破壊が迅速な退縮を引き起こすことを明らかに実証する。
【0083】
実施例2
次に、正常組織におけるTACC3の役割を検討した。ヘマトキシリンおよびエオシン(HE)での染色により、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウスへの4OHTの投与が正常組織において肉眼的な変化を引き起こさないことが示された。4OHTで処置したTACC3S/WまたはTACC3S/D遺伝子型を有するマウスの胸腺リンパ腫に対する、抗TACC3抗体、TUNELおよび4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いる免疫蛍光研究により、TACC3の破壊によって引き起こされる胸腺リンパ腫の退縮が大量のアポトーシスを伴うことが示された。
【0084】
対照的に、TACC3タンパク質の高発現および活発な増殖にかかわらず、正常胸腺はアポトーシスの有意な増加を示さず、そして細胞増殖はTACC3の枯渇による影響を受けなかった。これはp53野生型マウスについても同様であった。このことはアポトーシスの欠如が単にp53機能の喪失に起因するのではないことを示す。これらの結果は、胸腺リンパ腫細胞の増殖におけるTACC3機能の要求が細胞系譜依存性ではないことを示す。
【0085】
高レベルのTACC3タンパク質を発現する2つのさらなる正常組織も検討した。TACC3は腸のTA(transit amplifying)細胞において高発現されており、4OHT処置はこれらの細胞における組換えを効果的に可能にした。しかし、これらの細胞はアポトーシスの誘導も細胞増殖の阻害も示さなかった。同様に、毛包のマトリックス細胞は高レベルのTACC3タンパク質を発現していたが、Cre−loxP組換え系によるTACC3遺伝子座の欠失によって、2年より長い間明らかな変化は示されず、増殖細胞核抗原(PCNA)染色により示されるこれらの細胞の増殖は影響されなかった。これらの結果は、TACC3がリンパ腫細胞においては重要な機能を有するが、リンパ球、腸TA細胞および毛包マトリックス細胞を含む正常細胞では重要な機能を有しないことを実証する。
【0086】
実施例3
胸腺リンパ腫の退縮を担う機構を研究するために、4つの細胞株(p53−/−;TACC3S/W;CreERT2マウス由来の2株およびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の2株)を樹立した。マウスリンパ腫細胞株をペニシリン/ストレプトマイシンを補充したGIT培地(日本製薬)中で培養した。4OHT(Sigma)をエタノール中で25mMの濃度に希釈し、最終濃度1μMで使用した。同一の遺伝子型を有する各々の細胞株が本質的に同じ結果を示したので、各々の遺伝子型由来の1つの細胞株のデータを提示した。
【0087】
TACC3タンパク質の有意な低下が4OHT処理の2日後からTACC3S/D細胞において観察され、これらの細胞の細胞増殖は同時に抑制された(図2aおよびb、TACC3S/D 4OHT(+))。TACC3S/W細胞において4OHT処理後に増殖の変化は検出されなかった。さらに、FACS分析により、4OHTの投与がサブG1細胞集団の有意な増加を導くことが示された(図2c)。
【0088】
以前の報告と同様に(Gergely, F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:14352-14357 (2000);Piekorz, R.P. et al., EMBO J., 21:653-664 (2002))、TACC3は有糸分裂期に蓄積され、マウスリンパ腫細胞において紡錘体および中心体に局在化しており、このことは、TACC3が有糸分裂における役割を果たしていることを示唆する。この考えに一致して、4OHT処理によるTACC3の破壊は有糸分裂指数の増加を導いた(図2d)。
【0089】
TACC3の破壊によって誘導される有糸分裂欠陥を理解するために、免疫蛍光分析によって有糸分裂細胞を検討し、そしてTACC3欠失細胞が多極紡錘体を含むことを見出した(図2e)。4OHT投与の3日後に、細胞の90.9%においてTACC3の発現は失われており、そしてその57.9%が多極紡錘体を含んでいた(図2f)。これらの結果は、HeLa細胞やNIH3T3細胞とは異なり、胸腺リンパ腫細胞においてTACC3が適正な双極紡錘体の形成に必要とされることを実証する。紡錘体欠陥は紡錘体形成チェックポイント(SAC)を活性化し、有糸分裂停止を導く。長期の停止の後、細胞は有糸分裂において死滅するかまたは有糸分裂から退避する(この現象は有糸分裂スリッページと呼ばれる)。FACS分析により、TACC3の破壊は、アポトーシス細胞集団の顕著な増加を導くが、四倍体細胞集団の変化はほとんど観察されないことが示された(図2c)。この結果は、リンパ腫細胞が有糸分裂細胞死を受けることを示唆する。あるいは、これらの細胞は、有糸分裂スリッページの後迅速にアポトーシスを受ける。
【0090】
これらの可能性を単細胞ベースのアッセイによって試験した(図2gおよびh)。ヒストンH2B−GFPを発現する胸腺リンパ腫細胞を樹立し、そして有糸分裂の間の染色体の挙動を低速度撮影によって検討した。H2B−GFPを発現する安定クローンをpLenti4/V5−DESTベクター(Invitrogen)を使用したレンチウイルス形質導入によって得、感染細胞をピューロマイシンおよびそれに続くFACSAria(Becton Dickinson)を使用するFACSソーティングによって選択した。核膜崩壊(NEB)の後、TACC3S/W細胞は有糸分裂を完了して、4OHTの非存在下および存在下でそれぞれ53.8±8.9分および60.0±13.19分で娘細胞を生成した。同様に、TACC3S/D細胞は4OHTの非存在下で59.6±15.3分で有糸分裂を完了した。対照的に、4OHTの投与によって大部分の細胞は死滅した。TACC3S/D細胞の17.6%は有糸分裂において死滅し、そして細胞の70.6%は有糸分裂スリッページを受け、その後の間期において細胞死した。細胞死を誘導するために必要とされた時間は、以前に報告された肺癌および結腸癌(有糸分裂において死滅した細胞およびその後の間期において死滅した細胞について116.7±16.1分および155.4±39.6分)に比較して短い(Gascoigne, K.E. et al., Cancer Cell, 14:111-122 (2008))。これらの結果は、リンパ腫細胞において、TACC3機能の喪失が異常な紡錘体を導き、これが有糸分裂停止およびそれに続く迅速な細胞死を引き起こすことを実証する。
【0091】
実施例4
胸腺リンパ腫に加えて、p53−/−;TACC3S/D;CreERT2マウス由来の3つの肉腫を分析した。4OHT処置は、2つの肉腫の退縮を引き起こし、そして免疫組織化学分析によってこれらが血管肉腫であることが示された。これらの一方は迅速に退縮し(10日で80.5%)、他方は比較的ゆっくりと破裂したが(7日で14.3%、14日で37.0%)、残存する組織は壊死組織の大きな塊を含んでおり、このことはこれらの腫瘍が進行および維持のためにTACC3を必要とすることを示唆する。
【0092】
対照的に、4OHTの投与にかかわらず、第3の肉腫は腫瘍量を7日で247%、14日で350%増加させた。この進行はTACC3遺伝子座の組換えの失敗に起因するのではない。なぜなら、サザンブロット分析により約25%のTACC3SアレルがTACC3Dアレルに変換されたことが実証されたからである。免疫組織化学分析により、この肉腫はデスミンを発現していることが示され、そしてこれは横紋筋肉腫であると同定された。胸腺リンパ腫とは対照的に、TACC3の枯渇はこの腫瘍において広範な大量のアポトーシスを誘導しなかった。
【0093】
横紋筋肉腫におけるTACC3の役割を検討するために、横紋筋肉腫細胞株をp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(+)マウスおよびp53−/−;TACC3S/D;CreERT2(−)マウスから樹立した。胸腺リンパ腫細胞と同様に、TACC3は横紋筋肉腫細胞において紡錘体および中心体に局在化した。しかし、効率的な組換えにかからわず、細胞増殖のわずかな抑制が4OHT処理に応答して観察され、そして有糸分裂指数の有意な増加は観察されなかった。
【0094】
免疫蛍光分析により紡錘極数の増加は示されなかった。しかし、細胞の53.1%は中期において非整列染色体を含んでおり、そして間期細胞において多くの微小核が検出された。このことは細胞増殖の弱い抑制を説明し得る。従って、TACC3の破壊は横紋筋肉腫細胞において紡錘体形成を妨害しなかったが、TACC3は染色体整列に必要とされるようである。これらの観察は、横紋筋肉腫の腫瘍退縮には、TACC3の長期の阻害またはTACC3機能の異常が、他の化学療法剤とともに必要とされ得る可能性を提起する。
【0095】
実施例5
上記の結果は、TACC3がマウスリンパ腫細胞の増殖のために必要とされることを実証するので、次にヒトリンパ腫細胞におけるTACC3の役割を検討した。ヒトタンパク質アトラスデータベース(http://www.proteinatlas.org)は悪性リンパ腫がTACC3タンパク質を最も高発現している癌組織の1つであることを示した。ヒトリンパ腫組織におけるTACC3タンパク質の発現をさらに探求するために、組織アレイ中の25個のT細胞リンパ腫、35個のB細胞リンパ腫、5個の骨髄腫および6個の未分化大細胞ならびに9個の非腫瘍組織を検討した(図3a)。TACC3は非腫瘍組織を含む全ての組織において発現されていた。Tリンパ腫、Bリンパ腫、骨髄腫、未分化大細胞および正常組織においてそれぞれ組織の76.0%、85.7%、60.0%、85.7%および75.0%がTACC3タンパク質を高い割合で(75%超の陽性)発現していた。
【0096】
次に、ヒトリンパ腫細胞におけるTACC3の役割を検討するために、2つのバーキットリンパ腫細胞株(DaudiおよびRaji)ならびに2つのT細胞性急性リンパ腫白血病(T−ALL)細胞株(JurkatおよびCCRF−CEM)において、レンチウイルス媒介shRNA感染を使用してTACC3タンパク質を枯渇させた。ヒトリンパ腫細胞株を10%仔ウシ血清を補充したRPMI1640培地(Gibco)中で培養した。TACC3を枯渇させるために、human pLKO.1 lentivirus shRNA target gene setを使用し、そして2つのクローンTRCN0000062026(図3中sh1、配列番号7)およびTRCN0000062027(図3中sh2、配列番号8)をそれらの効率的な枯渇の故に使用した(それぞれのクローンについての詳細な情報はThe RNAi Consortiumのウェブサイト(http://www.broadinstitute.org/rnai/public/)から入手可能である)。
【0097】
2つの独立したshRNAはTACC3発現を有意に低下させた(図3b)。TACC3の低下はアネキシンV染色によって示されるアポトーシスおよび細胞生存率の抑制をT−ALLのみならずバーキットリンパ腫細胞においても誘導した(図3cおよびd)。さらに、マウスリンパ腫細胞において観察されたのと同様に、これらの細胞は有糸分裂指数の有意な増加を示し(図3e)、そして多極紡錘体を含む細胞の百分率は有意に増加した(図3fおよびg)。これらの結果は、マウスリンパ腫細胞に加えて、TACC3がヒトリンパ腫細胞の生存能に不可欠であることを実証する。
【0098】
一方、配列番号15(TRCN0000062023):5' CCGGCCACGGAGCCGCUGUCCCCGCCUCGAGGCGGGGACAGCGGCUCCGUGGUUUUUG 3'、配列番号16(TRCN0000062024):5' CCGGGCAGUCCUUAUACCUCAAGUUCUCGAGAACUUGAGGUAUAAGGACUGCUUUUUG 3'、配列番号17(TRCN0000062025):5' CCGGCGCACAGGAUUCUAAGUCCUACUCGAGUAGGACUUAGAAUCCUGUGCGUUUUUG 3'、配列番号18(コントロール):(5' CCGGACCGGUCCGCAGGUAUGCACGCGUGAAUUCCUCGAGGAAUUCACGCGUGCAUACCUGCGGACCGGUUUUUUG 3')のshRNAは、TACC3の枯渇、細胞生存率の抑制および有糸分裂指数の増加を示さなかった。
【0099】
実施例6
卵巣がん細胞および子宮頸がん細胞におけるTACC3による有糸分裂停止の誘導
【0100】
材料と方法
子宮頸がん細胞(Helaおよび2種の卵巣がん細胞(SKOV3、OVCAR3)を8ウェルチャンバースライドに播種(1x105/mlで100ul/ウェル)し、Invitorgen社のLipofectamineTM RNAiMAXを用い、その指示書に従って配列番号9のTACC3 siRNA (Invitrogen TACC3-HSS116027)、配列番号20のTACC3 siRNA (Invitrogen TACC3-HSS116026)、配列番号21のTACC3 siRNA (Invitrogen)をトランスフェクションし、48時間後に、細胞を回収し前記と同様にイムノブロットを行った。また、細胞を3.7%PFAで固定し、ホスホヒストンH3(pH3)抗体(Cell Signaling社)を用いた免疫染色によりM期で停止している細胞を目視で同定した。ホスホヒストンH3(pH3)抗体染色後の細胞は、さらに、FITC結合α-tubulin抗体(sigma)を用いて染色し、有糸分裂停止細胞の紡錘体の形態を目視により観察した。
【0101】
配列番号20(TACC3-HSS116026):5'AUAAGGACUGCUUCCUCAAGGCCGA 3'のTACC3 siRNAは、位置1762〜1786の配列を標的とし、配列番号21(TACC3-HSS116028):5'UUUAGUCUUCUGCUCCACUGUCUUC 3'のTACC3 siRNAは位置2541〜2565の配列を標的とする。
【0102】
なお、配列番号9、20、21のsiRNAは、Invitorgen社に合成を依頼し入手した。
【0103】
結果
図4(a)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理により、子宮頸がん細胞(Hela)および卵巣がん細胞(SKOV3およびOVCAR3)におけるTACC3タンパク質の枯渇が観察された。
【0104】
図4(b)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理により、卵巣がん細胞(SKOV3およびおよびOVCAR3)子宮頸がん細胞(Hela)において、有糸分裂停止の細胞の増加が認められた。驚くべきことに、有糸分裂停止の細胞の増加は、子宮頸がん細胞(Hela)と比較して卵巣がん細胞(SK−OV3およびOVCAR3)において顕著に高いものであった。
【0105】
図4(d)に示すとおり、配列番号9のTACC3siRNA処理による有糸分裂停止している卵巣腫瘍細胞(SKOV3およびOVCAR3)の紡錘体の形態は、ほとんどが多極紡錘体(SKOV3で約75%、OVCAR3で約60%)であった。
【0106】
一方、配列番号20および21のsiRNAはこれらの効果を示さなかった(データは示していない)。
【0107】
実施例7
腫瘍細胞におけるTACC3の枯渇による効果をin vivoで検討した。
【0108】
材料と方法
SKOV3細胞1.0X107個をNOD-scidマウス(日本チャールズリバー)の背側皮下に移植し、腫瘍の長さ(W)と幅(W)をノギスで測定し、腫瘍量(TV(tumor volume)=LxWxW/2)を経時的に計測した。前記のとおり、コントロール群(Ctrl)では、TRCN-control (発現ベクターpShag Magic Version 2.0(pSM2)にコントロール用のshRNA 配列(配列番号18)を挿入したベクター(open biosystem社製品、(株)フナコシより入手))を用いて作製した組換えレンチウイルス、実験群(exp)群では配列番号7(open biosystems社製品、(株)フナコシより入手)を用いて作製した組換えレンチウイルスをSKOV3細胞に感染後、puromycinで非感染細胞を除去し、接種した。
【0109】
SKOV3細胞でも、リンパ腫瘍の場合と同じく5つの配列(配列番号7、8、15〜17)を用いたが、リンパ腫瘍の場合と異なり配列番号7のみがイムノブロットで顕著なTACC3の枯渇を示した(データは示していない)。そのため、in vivo実験には、配列番号7のみを用いた。
【0110】
結果
図5aに示すとおり、3つのコントロール群(#1 ctrl、#2 ctrlおよび#3 ctrl:配列番号18)ではすべて接種60日頃以降に腫瘍量の顕著な増殖が認められたのに対し、3つの実験群(#1 exp、#2 expおよび#3 exp:配列番号7)では、腫瘍の増殖は認められなかった。これにより、配列番号7のshRNAのin vivoにおける卵巣腫瘍に対する抗がん効果が示された。
【0111】
実施例8
SKOV3卵巣がん細胞の有糸分裂に対するTACC3、TACC1、TACC2のsiRNAの効果を検討した。
【0112】
材料と方法
卵巣がん細胞(SKOV3)を8ウェルチャンバースライドに播種(1x105/mlで100ul/ウェル)し、TACC1 siRNA(配列番号14、Invitorgen)、TACC2(配列番号20、Invitorgen)もしくはTACC3 siRNA (配列番号9、Invitorgen)をトランスフェクションし、48時間後にmethanolで固定後、抗MPM2抗体(Novus社)を用いた免疫染色により分裂期の細胞を同定した。続いて、FITC結合α-tubulin抗体を用いて染色し、紡錘体の形態を観察した。
【0113】
siRNAの配列
配列番号19(Control):5' GAAUUCACGCGUGCAUACCUGCGGACCGGU 3'
配列番号14(TACC1-HSS186179):5’AUUUCUUCAAGGCUUCUUCAGCAACU 3’
配列番号20(TACC2-HSS116289):5’UACUCCUGCGCGCACAUCUCUUAACA 3’
これらのsiRNAは、Invitorgen社に合成を依頼し入手した。
【0114】
結果
TACC1(p=0.001)およびTACC3(p=0.0009)で有意な有糸分裂指数の上昇(図6a)および、紡錘体異常の増加(図6b)を認めた。一方、TACC2のsiRNAは、イムノブロットでTACC2の枯渇が認められた(データは示していない)にもかかわらず、有糸分裂指数に変化はなく、紡錘体異常の増加もほとんど認られなかった(図6aおよびb)。TACC2は、TACC1(p=0.001)およびTACC3と異なり、抗がん作用と関係しないことが示された。
なお、TACC1については、配列番号14(TACC1-HSS186179)の他に、異なる領域に対するsiRNA(TACC1-HSS186178およびTACC1-HSS186180)、またTACC2についても、配列番号20(TACC2-HSS116289)の他に、異なる領域に対するsiRNA(TACC2-HSS116287およびTACC2-HSS116288)を合成し試験したが、効果は認められなかった(データは示していない)。
【0115】
実施例9
TACC3およびApcコンディショナルノックアウトマウスApc580SにおけるTACC3の枯渇
【0116】
材料と方法
TACC3コンディショナルノックアウトマウス(Yao, R. et al., Cancer Sci., 98:555-562 (2007))をApcコンディショナルノックアウトマウス(Shibata et al. Science 278:120-3 (1997))およびVilin-Creマウス(Ventura, A. et al., Nature, 445:661-665 (2007);Tyler Jacks博士より入手した)と交配して、Tacc3W/W、ApcS/W、Villin-Cre(+)であるApc580Sマウス(W/W)およびTacc3S/D、ApcS/W、Villin-Cre(+)であるApc580Sマウス(S/D)を作製した。
【0117】
なお、APCは癌抑制遺伝子であり、Apcコンディショナルノックアウトマウスは、Apcをコンディショナルにノックアウトすることで加齢とともに、小腸、大腸(盲腸を含む)に腫瘍を発生させるマウスである。
【0118】
各マウスを飼育し、8週令(8.0W)に2匹のW/Wマウスおよび4匹のS/Dマウス、12週令(12.0W)に3匹のW/Wマウスおよび3匹のS/Dマウス、16週令(16.0W)に3匹のW/Wマウスおよび4匹のS/Dマウスを解剖し、小腸、大腸(盲腸を含む)に発生した腫瘍数を目視で計数した。
【0119】
結果
図7に示すとおり、W/W型のApc580Sマウス(ApcはノックアウトされるがTacc3は機能している)では、加齢と供に発生した腫瘍数は増加した。一方、S/D型のApc580Sマウス(ApcおよびTacc3供にノックアウトされる)では、12週においては、8週齢と比較して腫瘍数は増加したが、16週においては、12週齢と比較して減少した。そして、W/W型と比較して、腫瘍数ははるかに少ない。これは、TACC3を枯渇させることにより小腸、大腸および盲腸腫瘍を抑制できることを示しており、TACC3が、小腸、大腸および盲腸腫瘍に対する抗癌剤開発の標的となりえることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明により、TACC3タンパク質を標的とした、抗癌剤のスクリーニング方法が提供される。また、TACC3またはTACC1タンパク質を標的とした、新たな抗癌剤が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
抗癌剤が、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞SKOV3株、OVCAR3株、ヒトバーキットリンパ腫細胞、ヒトT細胞急性リンパ性白血病細胞、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞および血管肉腫細胞、およびApc欠損動物から得られる消化管腫瘍細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
抗癌剤が、卵巣癌に対するものである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
配列番号3〜5からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
【請求項10】
配列番号12の配列を標的とするTACC1に対するshRNAまたはsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
【請求項1】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC3タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
抗癌剤が、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つの癌に対するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
TACC3タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞SKOV3株、OVCAR3株、ヒトバーキットリンパ腫細胞、ヒトT細胞急性リンパ性白血病細胞、p53欠損動物から得られるリンパ腫細胞および血管肉腫細胞、およびApc欠損動物から得られる消化管腫瘍細胞からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞における、有糸分裂細胞の割合を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞と候補物質とを接触させる工程、および
該物質と接触させた該細胞におけるTACC1タンパク質の発現または機能を測定する工程、
を含む、抗癌剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
抗癌剤が、卵巣癌に対するものである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
TACC1タンパク質を発現する癌細胞が、卵巣癌細胞である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
配列番号3〜5からなる群から選択される少なくとも1つの配列を標的とするTACC3に対するshRNAまたはsiRNAを含む、リンパ腫、血管肉腫、非小細胞肺癌、乳癌、消化管腫瘍および卵巣癌からなる群から選択される少なくとも1つに対する抗癌剤。
【請求項10】
配列番号12の配列を標的とするTACC1に対するshRNAまたはsiRNAを含む、卵巣癌に対する抗癌剤。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図3g】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図3g】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−5479(P2012−5479A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115608(P2011−115608)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000173588)公益財団法人がん研究会 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000173588)公益財団法人がん研究会 (34)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]