説明

抗癌剤の併用による癌治療方法

【課題】良好な抗腫瘍効果を有する併用剤を提供する。
【解決手段】本発明は、医薬、殊に、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含み、カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドキソルビシン及びダカルバジンからなる群から選択される1以上の抗癌剤、若しくは、リツキシマブ含有併用療法であるR-DHAPと併用して適用する治療用組成物に関する。本発明組成物は、全ての固形癌及びリンパ腫、好ましくは、皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵癌、腎癌、胃癌などの治療に有用である。特に、他の抗癌剤に対して抵抗性の癌に対する治療剤として期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊に、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含む他の抗癌剤との併用のための癌治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サバイビンはアポトーシスを制御するIAPファミリータンパク質であり、主要な癌種で過剰発現している。サバイビンは、胎盤、精巣及びCD34+骨髄幹細胞等の急速に分裂する細胞には存在するが、殆どの正常な分化細胞では検出されていない。癌におけるサバイビンの過剰発現が、非小細胞肺癌の患者の生存率が低いことと関係していることが報告されている(非特許文献1)。サバイビンの抑制は癌のアポトーシスを誘導し、正常な細胞サイクル制御に対し敏感な細胞にする(非特許文献2〜4)。癌細胞中で選択的な発現、癌細胞のアポトーシスを阻止し癌細胞増殖を制御する能力、そしてその低い生存率との相関関係を考慮すると、サバイビンは癌治療における新しいターゲットとして注目されている。
サバイビンのアンチセンスやsiRNA等を用いてサバイビンの発現を抑制すると各種抗癌剤の感受性があがることが報告されている(非特許文献7〜13)。
【0003】
良好な抗腫瘍活性を有し、低毒性で安全域の広い縮合イミダゾリウム誘導体が国際公開01/60803号ならびに国際公開2004/092160号(特許文献5及び6)に開示されている。中でも、下式で示される、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウム(以下、YM155と略記する)は、良好なin vivoにおける癌増殖阻害活性を有し、しかも低毒性であることから抗癌剤として期待されることが開示されている。
【化1】

YM155はサバイビンを選択的に抑制することが見出された最初の化合物であり、ヒトホルモン抵抗性前立腺癌(HRPC)移植モデル(非特許文献14)、ヒトNSCLC移植モデル(非特許文献15)、更に、進行性固形癌や非ホジキンスリンパ腫(NHL)の患者において(非特許文献16及び17)、良好な抗癌作用を示した。YM155は時間依存性の抗癌作用を示し、YM155の7日間連続点滴投与によりNSCLC移植モデルで癌退縮が誘導された(非特許文献15)。YM155は、パクリタキセル、シスプラチンやドキソルビシンの治療で頻繁に観察される体重減少や血液毒性のような副作用は少ない(非特許文献16及び17)。
【0004】
一般に、腫瘍、特に悪性腫瘍の化学療法においては抗腫瘍剤を単独で投与する場合、副作用等の点からその効果には限界があり十分な抗腫瘍効果が得られることは稀である。そのため、臨床の場では作用機序の異なった2剤あるいは3剤以上を組み合わせた多剤併用療法が行われている。この併用療法は、作用機序の異なった抗腫瘍剤を組み合わせることにより、1)非感受性細胞集団を減少させる、2)薬剤耐性出現を予防あるいは遅延させる、3)毒性の異なる薬剤の組み合わせにより毒性を分散させるなど、副作用の軽減や抗腫瘍作用の増強を目的としている。しかしながら作用機序の異なる抗腫瘍剤を漫然と組み合わせて併用療法を行っても必ずしも抗腫瘍作用の増強効果が得られるとは限らず、より高い抗腫瘍作用を示す抗腫瘍剤の組み合わせが検討されている。
代表的な併用剤としては、例えば、肺癌ではシスプラチンとゲムシタビン、並びにカルボプラチンとパクリタキセル等の併用が標準療法として知られている(非特許文献18及び19)。リンパ腫患者を対象とした併用療法として、R-ICE(リツキシマブ、イフォスファミド、カルボプラチン及びエトポシド)及びR-DHAP(リツキシマブ、アラ-C(シタラビン)及びシスプラチン)の無作為第三相臨床試験等が進行中である(非特許文献20、21及び22)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献5】国際公開01/60803号
【特許文献6】国際公開2004/092160号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Monzo M, et al., J Clin Oncol 1999;17:2100-4.
【非特許文献2】Giodini A, et al., Cancer Res 2002;62:2462-7.
【非特許文献3】Mesri M, et al., Am J Pathol 2001;158:1757-65.
【非特許文献4】Yamamoto T, et al., Med Electron Microsc 2001;34:207-12.
【非特許文献7】J Cell Mol Med. 9, 2, 360-72 (2005)
【非特許文献8】Zhonghua Wei Chang Wai Ke Za Zhi. 2005 Sep;8(5):455-8
【非特許文献9】Cancer Lett. 2006 Feb 8;232(2):243-54
【非特許文献10】Blood. 2006 Feb 15;107(4):1555-63. Epub 2005 Oct 27
【非特許文献11】J Clin Invest. 2001 Oct;108(7):981-90.
【非特許文献12】Prostate 65,10-19 (2005)
【非特許文献13】The Prostate 64:293-302 (2005)
【非特許文献14】Proceedings AACR-NCI-EORTC 2005, Abstract #B203.
【非特許文献15】Proc Amer Assoc Cancer Res 2006; 47:[Abstract #5671]
【非特許文献16】Annals of Oncology, 2006; 17(Suppl. 3):23, Abstract #O.403.
【非特許文献17】Journal of Clinical Pncoclogy, 2006:ASCO Annual Meeting Proceedings Part I. Vol. 24, No. 18S (June 20 Supplement), Abstract #3014.
【非特許文献18】Cancer, 1996, 77:2458-63.
【非特許文献19】Cancer, 2000, 89:1714-9.
【非特許文献20】Annals of Oncology, 2006; 17(Suppl. 4):iv31-2.
【非特許文献21】Blood. 2006 May 15;103(10):3684-8. Epub 2004 Jan 22.
【非特許文献22】Leukemia & Lymphoma 2007 May ;48(5):897-904.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の抗癌剤を併用する場合は、抗腫瘍効果と共に副作用も増大する場合が多く、二種以上の抗癌剤を組み合わせることは容易ではない。副作用を増大させることなく、相乗的な抗腫瘍作用により癌を顕著に縮小させ、更には完全に消失させて完治させることをも可能とする新たな抗癌剤の組み合わせが切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、意外にも、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウム(YM155)を、既存の抗癌剤と併用することにより、抗腫瘍効果が増強されることを見出し、殊に、ドセタキセルやリツキシマブとの併用において顕著な抗腫瘍作用増強が達成されることを知見して本発明を完成した。
即ち、本発明は、i)カルボプラチン(carboplatin : CBDCA)、シスプラチン(cisplatin : CDDP)、パクリタキセル(paclitaxel : TXL)、ビノレルビン(vinorelbine : VIN)、ゲムシタビン(gemcitabine : GEM)、イリノテカン(irinotecan : CPT-11)、ドセタキセル(docetaxel : TXT)、ドキソルビシン(doxorubicin : DXR)、ダカルバジン(Dacarbazine : DTIC)及びリツキシマブ(rituximab : RTX)からなる群から選択される1以上の抗癌剤、または、ii)R-ICE(リツキシマブ、イフォスファミド、カルボプラチン及びエトポシドからなる)及びR-DHAP(抗癌剤としてリツキシマブ、シタラビン及びシスプラチンからなる)から選択されるリツキシマブ含有併用療法のいずれかとの併用投与用である、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含有する癌治療用組成物に関する。
なお、R-DHAPは、通常、上記抗癌剤に加えて、化学療法により誘発される吐き気・嘔吐の治療剤としてデキサメタゾンを包含する。
【0009】
本発明の好ましい態様としては、以下の通りである。
(1) ドセタキセル又はパクリタキセルと組み合わせるものである前記組成物。
(2) ドセタキセルと組み合わせるものである(1)の組成物。
(3) ホルモン抵抗性前立腺癌治療用である(2)の組成物。
(4) 肺癌治療用であり、ドセタキセル、パクリタキセル、カルボプラチン、シスプラチン及びゲムシタビンから選択される1種以上の抗癌剤と組み合わせるものである前記組成物。
(5) リツキシマブと組み合わせるものである前記組成物。
(6) R-ICE若しくはR-DHAPから選択される併用療法と組み合わせるものである前記組成物。
(7) R-ICEと組み合わせるものである(6)の組成物。
(8) リンパ腫治療用である(5)若しくは(6)の組成物。
(9) 臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを、1〜10mg/m2/dayの投与量で静脈内に4日〜14日間持続的に点滴投与するための製剤である前記組成物。
(10) 臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウム、3〜8mg/m2/dayを7日間持続的に点滴投与し、その後14日間休薬する投与サイクルを1サイクルとして、症状に応じてこれを繰り返す投与方法に適用するための製剤である(9)の組成物。
【0010】
また、本願発明は以下の発明にも関する。
(11) i)カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダカルバジン及びリツキシマブからなる群から選択される1以上の抗癌剤、又は、ii)R-ICE若しくはR-DHAPからなる併用療法と、組み合わせて投与することを特徴とする癌治療用医薬を製造するための、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムの使用。
(12) i)カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダカルバジン及びリツキシマブからなる群から選択される1以上の抗癌剤、または、ii)R-ICE及びR-DHAPから選択されるリツキシマブ含有併用療法と、組合せて投与することを特徴とする、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含有する癌治療剤。
(13) 臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含有する、i)カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダカルバジン及びリツキシマブからなる群から選択される1以上の抗癌剤の、または
ii)R-ICE若しくはR-DHAPから選択されるリツキシマブ含有併用療法の、
抗癌作用増強剤。
(14)少なくとも1サイクル投与分の、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムと、i)カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダカルバジン及びリツキシマブからなる群から選択される1以上の抗癌剤、または、ii)R-ICE及びR-DHAPから選択されるリツキシマブ含有併用療法剤を、組み合わせて包含するキット。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、YM155とドセタキセルを併用投与した実施例1〜2の結果を示すグラフである。(a)〜(c)は、実施例1、実施例2B)及び実施例2A)における、腫瘍容量(Tumor Volume)(mm3)を、(d)〜(f)は、実施例1、実施例2B)及び実施例2A)における、体重(Body weight) (g)をそれぞれ示すグラフである。
【図2】図2において、(a)は、実施例3の、YM155とカルボプラチン(CBDCA)の併用投与における平均腫瘍容量(Mean Tumor Volume) (mm3)を、そして(b)は平均体重(Mean Body weight) (g)をそれぞれ示す。(c)は、実施例3の、YM155とシスプラチン(CDDP)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(d)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【図3】図3において、(a)は、実施例3の、YM155とゲムシタビン(GEM)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(b)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。(c)は、実施例3の、YM155とビノレルビン(VIN)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(d)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【図4】図4において、(a)は、実施例3の、YM155とドキソルビシン(DXR)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(b)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。(c)は、実施例3の、YM155とイリノテカン(CPT-11)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(d)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【図5】図5において、(a)は、実施例3の、YM155とパクリタキセル(TXL)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(b)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【図6】図6において、(a)は、実施例4の、YM155とダカルバジン(DTIC)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(b)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【図7】図7において、(a)は、実施例5の、YM155とR-ICE(RICE)との併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(b)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。また、(c)は、YM155とリツキシマブ(RTX)の併用投与における平均腫瘍容量 (mm3)を、そして(d)は平均体重 (g)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のYM155は、国際公開01/60803号ならびに国際公開2004/092160号に開示される製造方法により容易に入手できる。
YM155は、経口もしくは非経口的に投与されるが、静脈内投与が好ましい。ここに、静脈内投与のための注射剤としては,無菌の水性又は非水性の液剤,懸濁剤,乳剤を含有するものが挙げられる。水性の溶剤としては,例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては,例えばプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,オリーブ油のような植物油,エタノールのようなアルコール類,ポリソルベート80(商品名)等がある。このような組成物は,さらに等張化剤、防腐剤,湿潤剤,乳化剤,分散剤,安定化剤,溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過,殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し,使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
【0013】
YM155が静脈内投与される場合、通常、0.1〜20mg/m2/day、好ましくは、1〜10mg/m2/dayが適当であり,これを1日1回乃至複数回に分けて投与するか、持続的に点滴投与する。好ましくは、3〜10mg/m2/dayを4日〜20日間、より好ましくは、4日〜14日間、又は、5日、7日、10日、若しくは14日間、更に好ましくは7日間持続的に点滴投与する。更に、継続して投与を行なう場合は、先の投与期間終了後、1日〜2ヶ月、好ましくは7日〜21日、更に好ましくは14日休薬する投与サイクルが採用される。特に好ましい態様としては、3〜8mg/m2/dayを7日間持続的に点滴投与し、その後14日間休薬する投与サイクルを1サイクルとして、症状に応じてこれを繰り返す投与方法が採用される。併用する抗癌剤に特定の投与サイクルがある場合は、増強作用が得られるようにYM155と当該抗癌剤の投与サイクルを設定することが好ましい。具体的な、投与頻度、投与量、点滴投与時間、投与サイクル等は、併用する抗癌剤、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0014】
本発明のYM155と併用可能な主な既存抗癌剤を、主な適応癌種とともに下表に示す。但し、本発明の併用治療において、これらの抗癌剤の適応癌種はこれらに限定されるものではない。
【表1】

【0015】
上記の抗癌剤は既に臨床的に使用されており、その投与経路、投与サイクル、投与量は当業者に明らかである。癌種や症状、併用する薬剤によって好適な用法・用量(Dosage and Administration)は異なり、これらの詳細な情報はFDAが提供する各種データベース、例えば、"Approved Oncology Drugs" (http://www.fda.gov/cder/cancer/approved.htm)、"Orange Book"(http://www.fda.gov/cder/orange/default.htm)や、日本の医薬品医薬機器情報提供ホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/)により容易に入手可能である。これらのデータベースにある各抗癌剤の情報は本願に組み込まれるものである。
例えば、ドセタキセルの用法・用量の例としては、日本の医薬品医薬機器情報提供ホームページのタキソテール注(登録商標:ドセタキセルの商品名)の添付文書には、「1.乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、頭頸部癌 ; 効能又は効果毎の用法及び用量 ; 1.通常、成人に1日1回、ドセタキセルとして60mg/m2を1時間以上かけて、3〜4週間間隔で点滴静注する。なお、症状により適宜増減すること、ただし、1回最高用量は70mg/m2とする」と記載される。また、リツキサン注(登録商標:リツキシマブの商品名)については、「効能又は効果 CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫; 用法又は用量 1.通常成人には、リツキシマブ(遺伝子組換え)として1回量375mg/m2を1週間間隔で点滴静注する。最大投与回数は8回とする」と記載される。
【0016】
以下に、"Approved Oncology Drugs"に開示される各抗がん剤に関する用法・用量(Dosage and Administration)の一部分を抜粋して記載する。実際の投与に当たっては、これらの完全な情報を参照する必要があることは当然理解されよう。
ドセタキセル(Docetaxel): 乳癌:タキソテールの推奨される用量としては、3週間間隔の、1時間以上かけての60〜100mg/m2点滴静注である。 非小細胞肺癌:タキソテールの推奨される用量としては、3週間間隔の、1時間以上かけての75mg/m2点滴静注である。
カルボプラチン(Carboplatin): 単剤治療:PARAPLATIN(カルボプラチンの商品名)を単剤として使用する場合は、再発卵巣癌患者に各4週の第1日目に360mg/m2を静脈内注射することが有効であることが示されている。
シスプラチン(Cisplatin): 進行性膀胱癌:先行する放射線治療及び/または化学療法の程度に応じて、PLATINOL-AQ(シスプラチン注の商品名)を単剤として、3〜4週サイクルに1回50-70 mg/m2 静脈内注射により投与する。
パクリタキセル(Paclitaxel): 既に化学療法治療を行なった卵巣癌患者に対する推奨投与量は、タキソール(パクリタキセルの商品名)の3週間間隔の、3時間以上かけての135 mg/m2 若しくは 175 mg/m2点滴静注である。転移の化学療法無効後若しくは補助化学療法6ヶ月以内再発の乳癌患者には、タキソールの3週間間隔の、3時間以上かけての175 mg/m2点滴静注が有効である。
ビノレルビン(Vinorelbine): 通常、NAVELBINE(ビノレルビンの商品名)の初期投与量 は週1回30 mg/m2である。推奨される投与方法は、6〜10分かけての静脈内注射である。
【0017】
ゲムシタビン(Gemcitabine): Gemzar (ゲムシタビンの商品名) は点滴静注で使用される。膵臓癌において、成人が単剤として用いる場合は、週1回、30分以上かけて1000 mg/m2を点滴静注する。上限は7週間(若しくは、毒性により減量若しくは保持を要するまで)であり、その後1週間休薬する。それに続くサイクルでは、4週間中3週連続で週1回の注入を行なう。
イリノテカン(Irinotecan): 開始用量及び週の投与スケジュール変更:CAMPTOSAR Injection(イリノテカン注の商品名)の、通常の推奨される開始用量は125 mg/m2である。骨盤/腹部照射とCAMPTOSAR治療により緩やかに上昇した血清総ビリルビンレベル(1.0 to 2.0 mg/dL) の履歴を有する患者においては、グレード3若しくは4の好中球減少症の実質的な増加可能性がある。投与は90分以上かけて点滴静注により行なわれる。推奨されるレジメ(治療コース)は4週間週1回治療し、2週間休薬である。
ドキソルビシン(Doxorubicin): 卵巣癌患者にDoxil(ドキソルビシン塩酸塩のリポソーム注の商品名)50 mg/m2(ドキソルビシン塩酸塩当量)を、注入によるリスクを最小にするために1 mg/分の初速度で静脈内投与する。注入に起因する有害事象が観察されない場合は、注入速度を1時間以上で薬剤を投与完了できる程度にまで増加することができる。患者に進展が無く、心毒性の証拠が見られない限り、4週間に1度投与され、治療に耐えられるまで継続される。臨床試験において反応までの中間タイムが4ヶ月であったので、少なくとも4コースの実施が推奨される。
【0018】
ダカルバジン(Dacarbazine): 悪性黒色腫:推奨される用量は2〜4.5mg/kg/dayの10日間投与である。治療は4週間間隔で繰り返される。他の推奨される用量は、1日あたり250mg/m2体表面の5日間の静脈注射である。治療は3週間間隔で繰り返される。
リツキシマブ(Rituximab): RITUXAN(リツキシマブの商品名)の推奨される投与量は375mg/m2を週1回で4回(1,8,15及び22日目)の点滴静注である。
イフォスファミド(Ifosfamide) : IFEX(イフォスファミドの商品名)は1日あたり1.2 g/m2 で5日間連続して投与される。
エトポシド(Etoposide) 小細胞肺癌における、他の承認された化学療法剤との併用におけるVePesid(エトポシドの商品名)注射の投与量は、通常、精巣癌において、他の認可された化学療法剤と組み合わせて、1日目から5日目まで通して35 mg/m2/dayの4日間投与乃至50 mg/m2/dayの5日間投与の範囲である。
シタラビン(Cytarabine)急性非リンパ性白血病の導入療法では、通常シタラビンを、他剤と併用して、100 mg/m2/dayで1日目から7日目まで連続して点滴静注するか、1日目から7日目まで12時間ごとに100 mg/m2静注する。
【0019】
R-ICE及びR-DHAP療法に関しては、以下の臨床試験に関する文献より詳細が理解されよう。
R-ICE(Blood. 2006 May 15;103(10):3684-8): リツキシマブ(375 mg/m2) は各サイクルの1日目、及びICE療法の最初のサイクル開始48時間前に投与される。ICE療法は入院患者に各サイクルの3日目から投与される。エトポシド(100 mg/m2)は、各サイクルの3〜5日目に3日間の点滴静注される。カルボプラチンは800mg上限で4日目に点滴静注される。イフォスファミド(5000 mg/m2)は同量のメスナ(mesna )と混合して、4日目から24時間以上かけて点滴静注される。
R-DHAP(Blood. 1988 Jan ;71:117-22, Leukemia & Lymphoma 2007 May ;48(5):897-904): リツキシマブ(375 mg/m2) は各サイクルの1日目、及びDHAP療法の最初のサイクル開始48時間前に投与される。シスプラチン(100 mg)は1日目から24時間以上かけて点滴静注される。シタラビン(2000 mg/m2)は2日目に1日2回点滴静注される。更に、化学療法誘導の吐き気、嘔吐のコントロールのために、デキサメタゾン(40 mg/m2) を1日目から4日目の3日間1日1回点滴静注される。
【0020】
本発明における併用治療に用いる場合は、通常投与される投与経路により、通常単独で投与される場合と同じ投与量若しくはそれより低用量(例えば、単独で投与した場合の最高投与量の0.10〜0.99倍)に設定することができる。一定の投与サイクルで投与される抗癌剤の場合は、YM155との併用に適するように投与サイクルを適宜調整することが好ましい。具体的な、投与頻度、投与量、点滴投与時間、投与サイクル等は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
YM155と抗癌剤を併用投与する場合の投与形態としては、それぞれに適した投与経路、投与頻度及び投与量を採用する限りは特に限定されず、例えば、(1)YM155と抗癌剤とを含有する組成物、即ち、単一の製剤としての投与、(2)YM155と抗癌剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)YM155と抗癌剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与(例えばYM155、抗癌剤の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)、(4)YM155と抗癌剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)YM155と抗癌剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えばYM155、抗癌剤の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。
本発明の併用投与における好ましい投与形態としては、YM155と抗癌剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤をそれぞれに適する投与経路並びに投与頻度で、同時(一部同時を含む)に、もしくは時間差をおいての投与する方法である。なお、時間差をおいての投与の場合、抗腫瘍効果を増強するに足る間隔で投与することが必要である。好ましくは、先の薬剤の投与終了から、2週間以内、より好ましくは7日間以内、更に好ましくは3日間以内である。YM155と抗癌剤の薬物相互作用が懸念される場合は、相互作用を回避するために必要な間隔を空けて投与することが好ましい。
【0021】
本願明細書の実施例に示すように、本願発明のYM155と既存抗癌剤の併用治療により、癌治療作用が増強されることが見出された。その効果は、YM155若しくは既存抗癌剤の単剤投与に比べて有意に腫瘍容量(tumor volume)を減少させることにより確認された。一方で、体重(body weight)は既存抗癌剤単剤投与時と同等であり、併用しても副作用に変化は無いことが推定された。よって、既存抗癌剤にYM155を併用することによって、抗癌作用が増強されるが副作用の悪化が無く、良好な癌治療効果が得られることが判明した。
また、驚くべきことに、YM155とタキサン系抗癌剤、殊にドセタキセルと併用投与した場合、格段に優れた癌縮小作用を有することが明らかになった。実施例に示した動物モデルでは癌の消失が達成されるほどの強力な抗癌作用が確認されている。ドセタキセルとの併用においては、試験を行なった動物の全部若しくは一部において癌の消失が観察され、全体としても35日経過時まで、腫瘍容量は殆ど0に近いところまで減少し、再び癌細胞が増殖する傾向は観察されなかった。この知見より、YM155によるサバイビンの発現抑制作用とドセタキセルの抗癌作用が、相乗的に作用して、格別優れた癌治療効果を達成したものと推定された。これは、実施例3に示される他の抗癌剤との併用では、投与後3週経過する頃から一旦減少した腫瘍容量が再び増加する傾向が観察されたことと比べても、格別顕著な作用である。
【0022】
他の癌種、例えば、前立腺癌(PC-3)を移植した動物モデルを用いた予備試験において、タキサン系抗癌剤のパクリタキセルとYM155を併用して投与したところ、その抗癌作用は各単剤投与時と比較して増強され、腫瘍容量が良好に減少する結果が得られた。これは、YM155の併用が、癌種を問わず、既存抗癌剤の抗癌作用を増強し、良好な癌治療作用を誘導することを示唆する。また、YM155自体が、サバイビンの関与する多様な癌種において良好な抗癌作用を有することが、先に引用した文献14〜17に開示される。これらの知見は、本発明のYM155と既存抗癌剤の併用投与による癌の治療方法によって、YM155のサバイビン発現抑制作用と既存抗癌剤の抗癌作用が相乗的に作用して、高い癌治療効果が得られるものであり、各種癌の治療に適用することができることを示すものである。殊に、YM155はサバイビン発現抑制作用という新しい機序を有することから、既存抗癌剤に耐性を示す癌種に対して、有用である。
【0023】
YM155と併用する抗癌剤は、好ましくは、目的とする癌種に通常用いられる抗癌剤、殊に標準療法に用いられる抗癌剤である。例えば、ホルモン抵抗性前立腺癌の場合はドセタキセル、メラノーマの場合はダカルバジン、肺癌の場合は、ドセタキセル、パクリタキセル、カルボプラチン、シスプラチン及びゲムシタビンから選択される1種以上の抗癌剤、リンパ腫の場合はR-ICE又はR-DHAPがそれぞれ挙げられる。これらの標準療法に使用される抗癌剤に加えて、YM155を併用することによって、目的とする癌種において増強された癌治療効果が期待される。
【実施例】
【0024】
本発明の併用使用の有用性を示す薬理試験結果を以下に示す。
実施例1
1) 被験物質
YM155の用量は単体(陽イオン部分)重量に換算して表示した。ドセタキセル水和物(Taxotere(商標)INJECTION)はSanofi-Aventis Pharma社(West Lavel,FRA) から購入し、ドセタキセルとして使用した。
2) 被験物質の調製
YM155は生理食塩液に溶解し投与液に希釈した(濃度:投与量x各群ごとの平均体重/1日あたりの放出量 より算出)。調整は浸透圧ポンプ(Alzet(商標) model 1007D Micro Pump, DURECT社)の試験動物への埋め込み直前に行ない、浸透圧ポンプに注入した。ドセタキセルは生理食塩液で2mg/mLに用時調製した。
3) 細胞
ヒト肺癌由来Calu 6 (HTB-56, Lot No 208280)はAmerican Type Culture Collection (VA, USA)より入手した。細胞は10%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS)が添加されたRPMI1640培地を用いて、37℃、5% CO2の条件で培養した。トリプシンを用いて回収した細胞をPBSで6x107 cells/mLに懸濁し、等量のMatrigel(商標) Basement Membrane Matrix (Becton Dickinson Co.製, Bedford, MA, USA)と混合した。
【0025】
4) 動物
5週齢の雄性ヌードマウス(CAnN Cg-Foxn1nu/CrlCrlj(nu/nu))は日本チャールスリバー社(日本、神奈川)より購入した。動物は試験期間を通じて特定病原体未感染(SPF)条件下で標準的な飼料と飲水を与えて飼育した。培養した細胞を3x106 cells/0.1 mL/mouseで6週齢のヌードマウスの背部皮下に移植した。腫瘍容量(短径 x [長径]2 x 0.5)が97.3 から 182.7 mm3になったヌードマウスを群間および群内の腫瘍容量ばらつきが小さくなるようにSASを用いて群分けした。
5) 投与および測定
投与初日をDay0として評価はDay35まで行った。それぞれの群 (n=8)を以下の様に処理した。
対照(溶媒コントロール)群:生理食塩液
YM155 投与群:YM155 2 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
ドセタキセル投与群:ドセタキセル20 mg/kg/day (Day0,4及び8における静脈内ボーラス投与)
併用群:YM155 2 mg/kg/day + ドセタキセル 20 mg/kg/day
7日間皮下持続点滴投与のために、YM155若しくは生理食塩液を含む浸透圧ポンプを麻酔下マウス背部皮下に移植した。溶媒コントロール群にはday0から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与し、更にday0、4及び8に生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。YM155投与群にはYM155をday0から2 mg/kg/dayで7日間皮下持続点滴投与し、更にday0、4及び8には生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。ドセタキセル投与群にはday0から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与すると共に、day0、4及び8にドセタキセルを20 mg/10 mL/kgで静脈内ボーラス投与した。併用群には溶媒に代えて、YM155投与群及びドセタキセル投与群と同様に両方とも化合物を投与した。
3〜4日ごとに体重とキャリパーを使って腫瘍径を測定した。腫瘍容量は(短径 x [長径]2 x 0.5)の楕円体積の計算式より算出して決定した。抗腫瘍活性は各群の腫瘍増殖抑制率(%阻害)と、腫瘍退縮率(%退縮)として表した。day35における腫瘍増殖抑制率は各群ごとに、100 x [1-(各群のday 35における平均腫瘍容量−各群のday 0における平均腫瘍容量)/(対照群のday 35における平均腫瘍容量−対照群のday 0における平均腫瘍容量)]の式から算出した。腫瘍退縮作用が観察された群については腫瘍退縮率を、100 x [1-(各群のday 35における平均腫瘍容量/各群のday 0における平均腫瘍容量) ]から算出した。試験期間中、腫瘍の完全消失例についても観察を行い、触診限界以下を完全消失(CR)として判定した。
【0026】
6) 統計解析
結果は平均値(Mean)±標準誤差(SEM)で示した。Day 35における腫瘍容量および体重の実測値について、単独投与群と併用群で対応のない2群間の差の検定(Student's t-test)を行い、5%未満を有意差ありと判定した。データ処理にはSASを用いた。
7) 結果
YM155をドセタキセルと同時投与した時の抗腫瘍作用を検討した。YM155 2mg/kg/dayとドセタキセル20mg/kg/dayの同時併用はDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、全例で完全消失を示した(表2及び図1(a))。YM155単独投与ではDay35で99%の腫瘍増殖抑制作用を示した。ドセタキセル単独投与ではDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、52%の腫瘍退縮作用を示した。5週間の観察期間でYM155およびドセタキセルの単独投与によって投与開始後2週間は腫瘍退縮が示されたが、最後の数週間は腫瘍の再増殖が見られた。一方、YM155とドセタキセルの併用投与においては、全例で腫瘍は完全消失した。また併用群はドセタキセル投与群と比較して有意な体重減少は見られなかった(図1(d))。
【0027】
【表2】

結果は平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=8)。*: P<0.05は併用群をドセタキセル投与群と比較した時の有意差を示す。##: P<0.01、#: P<0.05は併用群をYM155投与群と比較した時の有意差を示す。N.S.: 併用群をドセタキセル投与群と比較した時に有意差がないことを示す (Student's t-test)。
8) 結論
YM155は体重減少を指標とした全身毒性を増強させることなく、ドセタキセルの抗腫瘍効果を有意に増強させることが示された。この結果はマウスにおけるYM155とドセタキセルの併用投与の忍容性を示し、がん治療に対して強い併用効果をもたらすことを示唆するものである。
【0028】
実施例2
試験は、投与時期を除き実施例1と同様の方法で行なった。
A) 投与初日をDay0として評価はDay35まで行った。それぞれの群(n=8)を以下の様に処理した。
対照(溶媒コントロール)群:生理食塩液
YM155 投与群:YM155 2 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
ドセタキセル投与群:ドセタキセル20 mg/kg/day (Day7,11及び15における静脈内ボーラス投与)
併用群:YM155 2 mg/kg/day → ドセタキセル 20 mg/kg/day
7日間皮下持続点滴投与のために、YM155若しくは生理食塩液を含む浸透圧ポンプを麻酔下マウス背部皮下に移植した。溶媒コントロール群にはday0から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与し、更にday7,11及び15に生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。YM155投与群にはYM155をday0から2 mg/kg/dayで7日間皮下持続点滴投与し、更にday7,11及び15には生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。ドセタキセル投与群にはday0から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与すると共に、day7,11及び15にドセタキセルを20 mg/10 mL/kgで静脈内ボーラス投与した。併用群には溶媒に代えて、YM155投与群及びドセタキセル投与群と同様に両方とも化合物を投与した。
結果
YM155の前投与でドセタキセルと併用した時の抗腫瘍作用を検討した。YM155 2mg/kg/dayとドセタキセル20mg/kg/dayの併用はDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、99%の腫瘍退縮作用が見られた(表3及び図1(c))。YM155単独投与はDay35で99%の腫瘍増殖抑制作用を示した。ドセタキセル単独投与はDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、10%の腫瘍退縮作用が見られた。5週間の観察期間でYM155の単独投与によって投与開始後2週間は腫瘍退縮が示されたが、後半の数週間は腫瘍の再増殖が見られた。一方、YM155とドセタキセルの併用投与においては、全例において腫瘍の退縮が観察され、8例中7例で腫瘍は完全消失し、単独投与群と比較して有意な(P<0.01)抗腫瘍作用の増強が見られた。一方、併用群はドセタキセル投与群と比較して有意な体重減少は見られなかった(図1(f))。
【0029】
【表3】

結果は平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=8)。**: P<0.01、*: P<0.05は併用群をドセタキセル投与群と比較した時の有意差を示す。##: P<0.01、#: P<0.05は併用群をYM155投与群と比較した時の有意差を示す (Student's t-test)。
【0030】
B) 投与初日をDay0として評価はDay35まで行った。それぞれの群(n=8)を以下の様に処理した。
対照(溶媒コントロール)群:生理食塩液
YM155 投与群:YM155 2 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
ドセタキセル投与群:ドセタキセル20 mg/kg/day (Day0,4及び8における静脈内ボーラス投与)
併用群:ドセタキセル 20 mg/kg/day → YM155 2 mg/kg/day
7日間皮下持続点滴投与のために、YM155若しくは生理食塩液を含む浸透圧ポンプを麻酔下マウス背部皮下に移植した。溶媒コントロール群にはday8から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与し、更にday0、4及び8に生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。YM155投与群にはYM155をday8から2 mg/kg/dayで7日間皮下持続点滴投与し、更にday0、4及び8には生理食塩液を静脈内ボーラス投与した。ドセタキセル投与群にはday8から生理食塩液を7日間皮下持続点滴投与すると共に、day0、4及び8にドセタキセルを20 mg/10 mL/kgで静脈内ボーラス投与した。併用群には溶媒に代えて、YM155投与群及びドセタキセル投与群と同様に両方とも化合物を投与した。
結果
YM155の後投与でドセタキセルと併用した時の抗腫瘍作用を検討した。YM155 2mg/kg/dayとドセタキセル20mg/kg/dayの併用はDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、97%の腫瘍退縮作用が見られた(表4及び図1(b))。YM155単独投与はDay35で61%の腫瘍増殖抑制作用を示した。ドセタキセル単独投与はDay35で100%以上の完全な腫瘍増殖抑制作用を示し、68%の腫瘍退縮作用が見られた。YM155およびドセタキセル単独投与群は、5週間の観察期間で後半の数週間で腫瘍の再増殖が見られた。一方、YM155とドセタキセルの併用投与においては、3例で腫瘍は完全消失し、day35において単独投与群と比較して有意な(P<0.01)抗腫瘍作用の増強が見られた。また併用群はドセタキセル投与群と比較して有意な体重減少は見られなかった(図1(e))。
【0031】
【表4】

結果は平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=8)。**: P<0.01は併用群をドセタキセル投与群と比較した時の有意差を示す。##: P<0.01は併用群をYM155投与群と比較した時の有意差を示す。N.S.: 併用群をドセタキセル投与群或いはYM155投与群と比較した時に有意差がないことを示す (Student's t-test)。
【0032】
実施例3
試験は、実施例1と同様の方法で、但しドセタキセルの代わりに表5の薬剤を用い、以下に記載された投与方法に従って行なった。
【表5】

(表中、i.v.は静脈内投与を、例えば、(day0,1)は投与初日(day0)と1日目(day1)に1日1回投与することを、(day0-4)は投与初日(day0)から4日目(day4)まで1日1回投与することを、それぞれ意味する。)
結果を図2〜5に示す。結果は、平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=8)。**: P<0.01 vs 抗癌剤投与群、##: P<0.01 vs YM155投与群、#: P<0.05 vs YM155投与群、N.S.:YM155投与群及び抗癌剤投与群と有意差なし (Student's t-test)。
なお、各抗癌剤は市販品を購入し、その添付説明書の手順に従って調整し、試験に使用した。
【0033】
実施例4
試験は、実施例1と同様の方法で、但し、ドセタキセルの代わりにダカルバジンを用い、Calu 6細胞の代わりにA375細胞を用いて、下記の投与方法により行なった(n=8)。結果を図6に示す。
YM155 投与群:YM155 3 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
ダカルバジン(DTIC)投与群:ダカルバジン200 mg/kg/day, i.v.(day0-5)
併用群:YM155 3 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与) + ダカルバジン 200 mg/kg/day, i.v.(day0-5)
ダカルバジンは市販品を購入し、添付文書に基づいて調製し、試験に使用した。
【0034】
実施例5
試験は、実施例1と同様の方法で、但し、ドセタキセルの代わりにR-ICE(RICE)併用療法若しくはリツキシマブ(RTX)を用い、Calu 6細胞の代わりに悪性リンパ腫WSU-DLCL-2細胞を用いて、下記の投与方法により行なった(n=6)。
YM155 投与群:YM155 1 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
RICE投与群:RTX 50 mg/kg, i.v. (day 0) + (IFM 200 mg/kg + ETP 10 mg/kg), i.v (day 1, 2及び 3) + CBDCA 30 mg/kg, i.v. (day 1)
YM155とRICEの併用群:YM155 1 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与) + RTX 50 mg/kg, i.v. (day 0) + (IFM 200 mg/kg + ETP 10 mg/kg), i.v. (day 1, 2 及び 3) + CBDCA 30 mg/kg, i.v. (day 1).
YM155とRTXの併用群:YM155 1 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与) + RTX 50 mg/kg, i.v. (day 0)
リツキシマブ(RTX)、カルボプラチン(CBDCA)、イフォスファミド(IFM)及び エトポシド(ETP)は市販品を購入し、添付文書に基づいて調製し、試験に使用した。
結果を図7に示す。図中、結果は、平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=6)。**:P<0.01 vs RICEもしくはRTX投与群、*: P<0.05 vs RICEもしくはRTX投与群、##: P<0.01 vs YM155投与群、N.S.:YM155投与群及びRICEもしくはRTX投与群と有意差なし (Student’s t-test)。
YM155とRICEの併用群では1例で腫瘍消失を示し、YM155とRTXの併用群では2例で腫瘍消失を示した。
上記のYM155とRICEの併用群と同様にして、但し、RICE療法に代えてR-DHAP療法(リツキシマブ (50mg/kg i.v., day 0 and 2), シスプラチン (5mg/kg, i.v., day 2), シタラビン (70mg/kg, i.v., day 4)からなる)を用いて、予備的な試験を行なった。その結果、day18において、併用群はR-DHAP療法群に比べて優位(P<0.01)に腫瘍容量を減少させることが観察された。
【0035】
実施例6
試験は、実施例5と同様にして、但し、下記の投与方法により行なった。
YM155 投与群:YM155 2 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与)
RICE投与群:RTX 50 mg/kg, i.v. (day 6及び8) + (IFM 400 mg/kg + CBDCA 30 mg/kg), i.v (day 9) + ETP 10 mg/kg, i.v (day 8, 9 及び10)
YM155とRICEの併用群:2 mg/kg/day (7日間 皮下持続点滴投与) + RTX 50 mg/kg, i.v. (day 6及び8) + (IFM 400 mg/kg + CBDCA 30 mg/kg), i.v (day 9) + ETP 10 mg/kg, i.v (day 8, 9 及び10)
結果を表6に示す。表中、結果は、平均値(Mean)± 標準誤差(SEM)で示した(n=8, RICE投与群のみn=6)。**:P<0.01 vs RICE投与群、##: P<0.01 vs YM155投与群、N.S.: RICE投与群と有意差なし (Student’s t-test)。YM155とRICEの併用群では8例中6例で腫瘍消失を示した。
【0036】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の既存抗癌剤と併用投与されるYM155を有効成分として包含する癌治療用組成物は、YM155のサバイビン発現抑制作用と既存抗癌剤の抗癌作用が相乗的に作用して、高い癌治療効果が得られることから、既存の抗癌剤が適用されることが知られる各種癌の治療に有用である。従って、本発明の組成物は、癌、好ましくは全ての固形癌及びリンパ腫、特には、皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵癌、腎癌、胃癌などの治療に有用である。殊に、既存抗癌剤耐性を示す癌種の治療剤として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ドキソルビシン及びダカルバジンからなる群から選択される1以上の抗癌剤、または、ii)リツキシマブ含有併用療法R-DHAP(抗癌剤としてリツキシマブ、シタラビン及びシスプラチンからなる)と、組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを有効成分として含有する癌治療用組成物。
【請求項2】
パクリタキセルと組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、肺癌治療用であり、パクリタキセル、カルボプラチン、シスプラチン及びゲムシタビンから選択される1種以上の抗癌剤と組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
パクリタキセルと組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
カルボプラチンと組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項6】
R-DHAP併用療法と組み合わせて併用投与されるように用いられることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、リンパ腫治療用である請求項6記載の組成物。
【請求項8】
組成物が、臭化 1-(2-メトキシエチル)-2-メチル-4,9-ジオキソ-3-(ピラジン-2-イルメチル)-4,9-ジヒドロ-1H-ナフト[2,3-d]イミダゾール-3-イウムを、1〜10mg/m2/dayの投与量で静脈内に4日〜14日間持続的に点滴投与するための製剤である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−168619(P2011−168619A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121330(P2011−121330)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【分割の表示】特願2008−552180(P2008−552180)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】