説明

抗癌化合物

癌の治療における使用のための、一般式I:


(式中、R1-R11は許容される意味を有する)の抗癌化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗癌化合物、これを含む製薬組成物、及び抗癌剤としてのこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
環状デプシペプチドは、海洋生物由来の生物活性化合物の非常に重要な種類となっている。これらの環状デプシペプチドには、細胞毒性、抗ウイルス、及び/または抗菌特性を有することを開示されているものがある。とりわけ、カリペルチンAが、海綿Callipelta sp及びLatrunculia spから単離されること(Zampella et al. J. Am. Chem. Soc. 1996, 1 18(26), 6202-6209; Zampella et al. Tetrahedron Letters, 2002, 43, 6163-6166)、及び、カリペルチンBが、Callipelta spから単離されること(D’Auria et al. Tetrahedron, 1996, 52(28), 9589-9596)が開示された。
【0003】
【化1】

カリペルチンA R=A
カリペルチンB R=B
【0004】
Zampellaらは、カリペルチンAが抗ウイルス及び抗菌活性を有することを報告した。とりわけ、この化合物の抗ウイルス活性は、HIV-I(Lai株)に感染したCEM4リンパ球細胞株で測定された。この化合物が、0.29μg/mLのCD50及び0.01μg/mLのED50を示し、29の選択指数(SI、CD50/ED50の比)をもたらすことが判明した。さらに、カリペルチンAの抗菌活性を、カンジダ・アルビカンスに対して測定したところ、その成長は、100μg/ディスク(6 mm)にて、30mmの阻害をもって阻害された(Zampella et al. J. Am. Chem. Soc. 1996, 1 18(26), 6202-6209)。
【0005】
D’Auriaらもまた、カリペルチンAとBとのいずれもが、様々なヒト癌細胞に対してイン・ビトロで細胞毒性であることを報告した。とりわけ、どちらの化合物の細胞毒性も、NSCLC-N6(ヒト気管支肺非小細胞肺癌)、E39(ヒト腎臓癌)、P388 (マウス白血病)、及びM96(ヒト黒色腫)腫瘍細胞に対して評価され、カリペルチンAが、1.1未満から30μg/mL超のIC50を示し、カリペルチンBが、1.3から30μg/mL超のIC50を示すことが判明した(D’Auria et al. Tetrahedron, 1996, 52(28), 9589-9596)。更に、カリペルチンAは、モルモットの心房における陽性変力剤であり、Na+/Ca2+交換体の選択的且つ強力な阻害剤である(Trevisi et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000, 279(1), 219-222)。
【0006】
1999年に、Fordらは、パプアミドA、B、C、及びDと名付けた、4つの新規な環状デプシペプチドの、Theonella mirabilis及びTheonella swinhoeiなる海綿からの単離を開示した。更に、パプアミドAのジアセテート誘導体の合成が開示された(Ford et al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121 (25), 5899-5909)。
【0007】
【化2】

【0008】
パプアミドA及びBが、HIV-1RFによるヒトTリンパ球系細胞株の感染を、イン・ビトロにて、およそ4ng/mLのEC50で、阻害することが判明した。更に、パプアミドAは、ヒト癌細胞株のパネルに対して、75ng/mLの平均IC50で細胞毒性であることが判明した。
【0009】
パプアミド群の更なる環状デプシペプチド、Ratnayakeらによって開示された。特に、海綿Theonella swinhoeiからのテオパプアミドの単離が開示されており、これは、CEM-TART(HIV-1のtat及びrevをいずれも発現するCEM T細胞)及びHCT-116(ヒト結腸腫瘍)細胞系列に対する細胞毒性活性を、それぞれ0.5μM及び0.9μMのEC50値で示した(Ratnayake et al. J. Nat. Prod. 2006, 69(11), 1582-1586)。
【0010】
【化3】

テオパプアミド
【0011】
最後に、Okuらもまた、抗ウイルス活性を有する環状デプシペプチドの新たな一群を報告している。彼らは特に、海綿Neamphius huxleyiから、ネアンファミドAを単離したが、これは、HIV-1感染に対する潜在的細胞保護活性を、およそ28nMのEC50値で示した(Oku et al. J. Nat. Prod. 2004, 67(8), 1407-1411)。
【0012】
【化4】

ネアンファミドA
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Zampella et al. J. Am. Chem. Soc. 1996, 1 18(26), 6202-6209
【非特許文献2】Zampella et al. Tetrahedron Letters, 2002, 43, 6163-6166
【非特許文献3】D’Auria et al. Tetrahedron, 1996, 52(28), 9589-9596
【非特許文献4】Trevisi et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000, 279(1), 219-222
【非特許文献5】Ford et al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121(25), 5899-5909
【非特許文献6】Ratnayake et al. J. Nat. Prod. 2006, 69(11), 1582-1586
【非特許文献7】Oku et al. J. Nat. Prod. 2004, 67(8), 1407-1411
【非特許文献8】"Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed.(Donald J. Abraham ed.、 2001 、 Wiley)
【非特許文献9】"Design and Applications of Prodrugs"(H. Bundgaard ed.、 1985、 Harwood Academic Publishers)
【非特許文献10】Wuts, P. G. M.及びGreene T.W., Protecting groups in Organic Synthesis, 4th Ed. Wiley-Interscience
【非特許文献11】Kocienski P.J., Protecting Groups, 3rd Ed. Georg Thieme Verlag
【非特許文献12】March’s Advanced Organic Chemistry 6th Edition 2007、 Wiley Interscience
【非特許文献13】E. W. Martinによる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 1995
【非特許文献14】P. Marfey, Carlsberg Res. Commun. 1984, 49, 591-596
【非特許文献15】A. Zampella et al. Org. Lett., 7(16), 3585-3588
【非特許文献16】Skehan et al. J. Natl. Cancer lnst. 1990, 82, 1107-1112
【非特許文献17】Faircloth et al. Methods in Cell Science, 1988, 11(4), 201-205
【非特許文献18】Mosmann et al, Journal of Immunological Methods, 1983, 65(1-2), 55-63
【非特許文献19】Boyd MR and Paull KD. Drug Dev. Res. 1995, 34, 91-104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
癌は動物及びヒトにおける死の主原因であることから、癌に罹患した患者に実施して活性且つ安全な抗癌療法を得るために、これまでにも、また現在も、様々な努力が成されている。本発明によって解決される課題は、癌の治療に有効な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1つの態様においては、本発明は、一般式I:
【化5】

[式中、
R1は、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択され、
R2、R7、及びR11のそれぞれが、独立に、水素、CORa、COORa、CONRaRb、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R3及びR4のそれぞれが、独立に、水素、CORa、COORa、CONRaRb、SO2Ra、SO3Ra、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R5及びR6のそれぞれが、水素、CORa、COORa、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R8、R9、及びR10のそれぞれが、独立に、水素、ORc、CORa、COORa、CONRaRb、CN、NRaRb、ハロゲン、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択され;
Rcは、水素、CORa、COORa、CONRaRb、SO2Ra、SO3Ra、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、及び置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;更に
Ra及びRbのそれぞれが、独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択される]
の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体に関する。
【0016】
別の態様においては、本発明は、薬剤としての、特に、癌の治療のための薬剤としての使用のための、式Iの化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体に関する。
【0017】
更に別の態様においては、本発明は、癌の治療における、あるいは薬剤の調製、好ましくは癌の治療のための薬剤の調製における、式Iの化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体の使用にも関する。本発明の別の態様は、治療方法、並びにこれらの方法における使用のための化合物である。したがって、本発明は、癌に罹患した患者、とりわけ、ヒトの治療方法であって、以上に定義される化合物の治療的有効量を、これを必要とする前記の罹患した個体に投与する工程を含む方法を更に提供する。
【0018】
更に別の態様においては、本発明は、抗癌剤としての使用のための、式Iの化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体にも関する。
【0019】
別の態様においては、本発明は、式Iの化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体、並びに製薬品として許容される担体または希釈剤を含む、製薬組成物に関する。
【0020】
本発明はまた、Ancorinidae科、Ecionemia族、Ecionemia種のAcervus Bowerbank 1864の海綿からの、式Iの化合物の単離、並びに単離された化合物からの誘導体の形成にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、以上に定義される一般式Iの化合物に関する。
【0022】
これらの化合物中では、官能基は下記の指標にしたがって選択することができる。
アルキル基は、分枝状または非分枝状であってよく、好ましくは、1乃至約12の炭素原子を有する。より好ましいアルキル基の一群は、1乃至約6の炭素原子を有する。更により好ましいのは、1、2、3、または4の炭素原子を有するアルキル基である。メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、並びに、n-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びiso-ブチルを含むブチルが、本発明の化合物において、特に好ましいアルキル基である。アルキル基の別の好ましい一群は、8乃至約12の炭素原子、更に好ましくは9、10、または11の炭素原子を有する。本明細書中に使用されるアルキルなる語は、環式基であれば少なくとも3つの環形成炭素を含むことになるが、特記のない限り、環式基及び非環式基の両方を意味する。
【0023】
本発明の化合物中の好ましいアルケニル基及びアルキニル基は、分枝状もしくは非分枝状であってよく、1つもしくは複数の不飽和結合及び2乃至約12の炭素原子を有する。アルケニル基及びアルキニル基の1つもしくは複数の好ましい群は、2乃至約6の炭素原子を有する。更に好ましいのは、2、3、または4の炭素原子を有するアルケニル基及びアルキニル基である。アルケニル基及びアルキニル基の別の好ましい一群は、8乃至約12の炭素原子を有し、更に好ましくは9、10、または11の炭素原子を有する。本明細書中に使用されるアルケニル及びアルキニルなる語は、環式基であれば少なくとも3つの環形成炭素を含むことになるが、環式基及び非環式の両方の基を意味する。
【0024】
本発明の化合物中の適切なアリール基は、単環式及び多環式の化合物を含み、別々の及び/または縮合したアリール基を含む多環式化合物を含む。典型的なアリール基は、1乃至3の別々のまたは縮合した環及び6乃至約10の炭素環原子を含む。特に好ましいアリール基は、置換もしくは無置換のフェニル、置換もしくは無置換のナフチル、置換もしくは無置換のビフェニル、置換もしくは無置換のフェナントリル、及び置換もしくは無置換のアントリルを含む。
【0025】
適切な複素環基には、1乃至3の別々の及び/または縮合した環及び5乃至約18の環原子を含む、複素芳香環基及び複素脂環基が含まれる。好ましくは、複素芳香環基及び複素脂環基には、5乃至約10の環原子が含まれる。本発明の化合物中の適切な複素芳香環基には、N、O、またはS原子から選択される1、2、または3のヘテロ原子が含まれ、例えば、8-クマリニルを含むクマリニル、8-キノリルを含むキノリル、イソキノリル、ピリジル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリミジニル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イソキサゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、インドリジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、ピリダジニル、トリアジニル、シンノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾフラザニル、ベンゾチエニル、ベンゾチアゾリル、ベンズオキサゾリル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル、及びフロピリジニルが含まれる。本発明の化合物中の適切な複素脂環基には、N、O、またはS原子から選択される1、2、または3のヘテロ原子が含まれ、例えば、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、ジヒドロフリル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオキサニル、ピペラジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ホモピペリジニル、オキセパニル、チエパニル、オキサゼピニル、ジアゼピニル、チアゼピニル、1,2,3,6-テトラヒドロピリジル、2-ピロリニル、3-ピロリニル、インドリニル、2H-ピラニル、4H-ピラニル、ジオキサニル、1,3-ジオキソラニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキシル、3-アザビシクロ[4.1.0]ヘプチル、3H-インドリル、及びキノリジニルを含む。
【0026】
上述の基は、1つもしくは複数の適切な基、例えば、OR’、=O、SR’、SOR’、SO2R’、OSO2R’、OSO3R’、NO2、NHR’、N(R’)2、=N-R’、N(R’)COR’、N(COR’)2、N(R’)SO2R’、N(R’)C(=NR’)N(R’)R’、CN、ハロゲン、COR’、COOR’、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、CONHR’、CON(R’)2、CON(R’)OR’、CON(R’)SO2R’、PO(OR’)2、PO(OR’)R’、PO(OR’)(N(R’)R’)、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基であって、各R’基が、水素、OH、NO2、NH2、SH、CN、ハロゲン、COH、COアルキル、COOH、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から個別に選択されるものによって、1つもしくは複数の可能な位置で置換されていてよい。こうした基がそれ自体置換されている場合には、置換基は前述の列挙より選択されうる。
【0027】
本発明の化合物中の適切なハロゲン基または置換基は、F、Cl、Br、及びIを含む。
【0028】
「製薬品として許容される塩」なる語は、患者に投与されると本明細書中に記載される化合物を(直接的または間接的に)提供しうる、あらゆる塩を意味する。しかしながら、製薬品として許容されない塩も、製薬品として許容される塩の調製において有用でありうることから、本発明の範疇に入ることが理解されよう。塩の調製は、当業者に既知の方法で行うことができる。
【0029】
例えば、本明細書中に記載される化合物の製薬品として許容される塩は、塩基性または酸性の部分を含む親化合物から、従来の化学的方法によって合成される。一般的に、こうした塩は、例えば、これらの化合物の遊離の酸または塩基形態と、水中の適当な塩基または酸の化学量論量とを、水中または有機溶媒中で、あるいはこれらの混合物中で反応させることによって調製される。一般的に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、2-プロパノール、またはアセトニトリル等の非水性媒質が好ましい。酸付加塩の例には、鉱酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、並びに有機酸付加塩、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、及びp-トルエンスルホン酸塩が含まれる。アルカリ付加塩の例には、無機塩、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びアンモニウムの塩、並びに有機アルカリエン、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、並びに塩基性アミノ酸塩が含まれる。トリフルオロ酢酸塩は、本発明の化合物の中で、製薬品として許容される好ましい塩の1つである。
【0030】
本発明の化合物は、遊離の化合物または溶媒和物(例えば、水和物、アルコラート、特にメタノラート)として、結晶形態であってよく、いずれの形態も本発明の範疇に入ることが企図される。溶媒和法は、一般的に、当業者には既知である。本発明の化合物は、様々な多形形態で存在してもよく、本発明はこうした全ての形態を包含することを企図する。
【0031】
式Iの化合物のプロドラッグであるあらゆる化合物が、本発明の範疇に入る。「プロドラッグ」なる語は、最も広義で用いられ、本発明の化合物にイン・ビボで転化されるこうした誘導体を包含する。プロドラッグの例には、以下に限定されるものではないが、生物加水分解性部分を含む式Iの化合物の誘導体及び代謝物、例えば、生物加水分解性アミド類、生物加水分解性エステル類、生物加水分解性カルバメート類、生物加水分解性カーボネート類、生物加水分解性ウレイド類、及び生物加水分解性リン酸類似体を含む。好ましくは、カルボキシル官能基をもつ化合物のプロドラッグは、カルボン酸の低級アルキルエステルである。カルボン酸エステルは、従来、分子上に存在するカルボン酸部分のいずれかをエステル化することによって生成される。プロドラッグは、典型的には、周知の方法、例えば、Burgerによる、"Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed.(Donald J. Abraham ed., 2001, Wiley)及び"Design and Applications of Prodrugs"(H. Bundgaard ed., 1985, Harwood Academic Publishers)を用いて調製することができる。
【0032】
本明細書中に言及されるあらゆる化合物が、こうした特定化合物並びに所定の変形または形態を表す。特に、本明細書中に言及される化合物は、不斉中心を有してよく、然るに、別の鏡像異性体もしくはジアステレオ異性体形態が存在しうる。このように、本明細書中に言及されるあらゆる所与の化合物が、ラセミ体、1つもしくは複数の鏡像異性体、1つもしくは複数のジアステレオ異性体形態のいずれか、及びこれらの混合物を表すことを企図する。同様に、二重結合に関して立体異性または幾何異性体もまた可能であり、然るに、分子が(E)-異性体または(Z)-異性体(トランス及びシス異性体)として存在する場合もありうる。分子が幾つかの二重結合を含むならば、各二重結合はその独自の立体異性を有し、これはその分子の別の二重結合の立体異性と同一または相違しうる。更にまた、本明細書中に言及される化合物は、アトロプ異性体として存在してもよい。本明細書中に言及される化合物の、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、幾何異性体、及びアトロプ異性体、並びにこれらの混合物は、本発明の範疇内であると見なされる。
【0033】
さらにまた、本明細書中に言及されるあらゆる化合物は、互変異性体として存在してよい。とりわけ、「互変異性体」なる語は、平衡状態で存在して、一異性体から別の異性体に容易に転化する、化合物の二つもしくはそれ以上の構造異性体のうちの一つを意味する。一般的な互変異性体対は、アミン-イミン、アミド-イミド酸、ケト-エノール、ラクタム-ラクチム、等である。
【0034】
更に、本明細書中に言及される化合物は、同位体標識体、すなわち、1つもしくは複数の同位体濃縮原子の存在下で異なる化合物として存在してよい。例えば、少なくとも一つの水素原子の重水素またはトリチウムによる置換、少なくとも一つの炭素の13Cまたは14C濃縮炭素による置換、または少なくとも一つの窒素の15N濃縮窒素による置換以外は、本発明の構造を有する化合物は、本発明の範疇に入る。
【0035】
より正確な説明を提供するために、本明細書中に記載される定量的表現には、「約」なる語は付随させない。「約」なる語が明確に使用されているか否かによらず、本明細書中に記載される各量は所与の実際の値を意味することを意図し、また、こうした所与の値についての実験及び/または測定条件に由来する同等値及び近似値を含む、当該分野の通常の知識に基づいて理論的に推測されるこうした所与の値の近似値を意味することも意図する。
【0036】
一般式Iの化合物においては、R1は、好ましくは、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル及び置換もしくは無置換のC2-C12アルケニルから選択され、分枝状もしくは非分枝状であってよい。より好ましいアルキル及びアルケニル基は、分枝状もしくは非分枝状であってよく、8乃至約12の炭素原子、更に好ましくは9、10、もしくは11の炭素原子を有するものである。アルキル及びアルケニル基が、1つもしくは複数の適切な置換基によって置換されていることが特に好ましく、前記置換基は、好ましくは、OR’、=O、SR’、SOR’、SO2R’、SO3R’、OSO2R’、OSO3R’、NO2、NHR’、N(R’)2、=N-R’、N(R’)COR’、N(COR’)2、N(R’)SO2R’、N(R’)C(=NR’)N(R’)R’、CN、ハロゲン、COR’、COOR’、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、CONHR’、CON(R’)2、CON(R’)OR’、CON(R’)SO2R’、PO(OR’)2、PO(OR’)R’、PO(OR’)(N(R’)R’)、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択され、ここで、各R’基は、水素、OH、NO2、NH2、SH、CN、ハロゲン、COH、COアルキル、COOH、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から個別に選択される。こうした基がそれ自体置換されている場合には、置換基は、前述の列挙の中から選択してよい。より好ましくは、上述のアルキル及びアルケニル基の置換基は、OR’、OSO2R’、OSO3R’、ハロゲン、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、CONHR’、及びCON(R’)2から選択され、ここで、各R’基は、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、置換もしくは無置換のC2-C6アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C6アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から個別に選択される。さらにいっそう好ましくは、置換基はOHである。最も好ましいR1は、9、10、もしくは11の炭素原子を有する置換アルケニル基であって、2-ヒドロキシ-5,7-ジメチルオクト-3-エニル及び2-ヒドロキシ-5-メチルオクト-3-エニルが最も好ましい。
【0037】
特に好ましいR2、R7、及びR11は、それぞれ独立に、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される。より好ましくは、R2、R7、及びR11は、それぞれ独立に、水素及び置換もしくは無置換のC1-C6アルキルから選択される。さらにより好ましくは、R2、R7、及びR11は、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、並びにn-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びiso-ブチルを含むブチルから選択され、水素がもっとも好ましい置換基である。好ましいR2、R7、及びR11は、本発明の化合物中で同じ意味を有する。
【0038】
特に好ましいR3及びR4は、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、ここで、Raは、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される。特に好ましいRaは、置換もしくは無置換のC1-C6アルキルであり、さらにより好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、並びにn-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びiso-ブチルを含むブチルである。より好ましいR3及びR4は、水素である。好ましくは、R3及びR4は、本発明の化合物中で同じ意味を有する。
【0039】
特に好ましいR5及びR6は、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、ここで、Raは、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される。特に好ましいRaは、置換もしくは無置換のC1-C6アルキルであり、さらにより好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、並びにn-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びiso-ブチルを含むブチルである。より好ましいR5及びR6は、水素である。
【0040】
特に好ましいR8及びR10は、それぞれ独立に、水素及びハロゲンから選択され、ここで、好ましいハロゲン基は、Br及びIである。より好ましくは、R8及びR10は、ハロゲンである。
【0041】
特に好ましいR9は、ORCであり、Rcが、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、ここでRaは、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される。特に好ましいRaは、置換もしくは無置換のC1-C6アルキルであり、さらにより好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、並びにn-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びiso-ブチルを含むブチルである。より好ましいRcは、水素である。
【0042】
更に好ましい実施態様では、様々な置換基について上述された好ましい選択肢が組み合わせられる。本発明はまた、上記式I中の好ましい置換基のこうした組み合わせにも関する。
【0043】
本発明の説明及び定義では、本発明の化合物中に幾つかのRa、Rb、またはRc基が存在する場合であって、特記のない限りにおいては、これらが、与えられた定義内でそれぞれ独立に相違してよいこと、すなわち、本発明の所与の化合物において、Ra基が必ずしも同一の基を同時に表わさないことが理解されるべきである。
【0044】
とりわけ、本発明は、一般式II:
【化6】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、及びR11は、上述の通りである。]
の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、またはプロドラッグを提供する。
【0045】
本発明の、特に好ましい化合物は、以下:
【化7】

ステラトリドA
【化8】

ステラトリドB
のもの、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラック、または立体異性体である。
【0046】
ステラトリドAの特に好ましい立体化学は、以下:
【化9】

である。
【0047】
ステラトリドBの特に好ましい立体化学は、以下:
【化10】

である。
【0048】
ステラトリドA及びBは、Ancorinidae科、Ecionemia族、Ecionemia種のAcervus Bowerbank 1864の海綿から単離された。Ecionemia種のAcervus Bowerbank 1864の試料を、メキシコのthe Institute of Marine Sciences and Limnology of Universidad Nacional Autonomaに、参照コードTLAR-477で寄託した。この海綿を、マダガスカルのテュレアール(Tulear)(23°09.154’S / 43°33.042’E)で、12乃至29mの範囲の深さでスキューバダイビングを利用して手で回収した。
【0049】
この海綿は、平均でおよそ5cmの厚さで、直径6×2cmの、巨大で不規則な海綿であり、西太平洋、インド洋、インド洋-西太平洋、オーストラリア、及びニュージーランドに分布する。乾燥すれば、その色は褐色であり、以下によって特徴づけられる:
- 主大骨片(Megascleres):紡錘状オキセア(oxeas)、サイズ55-80μmの不規則に(abruptly)尖ったもの;サイズ50-84μmの棒状ストロンギレート(strongylate)を備えたオルトスリアエン(ortothriaenes);及びサイズ20-29μmの棒状体を備えたアナトリアエン(anatriaenes);
- 微小骨片(Microscleres):直径8-15μmの末端チロートアクチン(tylote actines)を備えたカイアスター(chiasters)、及びサイズ3μmのミクロ棒状体;
- 骨格配置:海綿表面に向けて骨片束がそこから放射状に生じているオキセアの中央凝縮(central condensation);海綿表面直下に位置するクラドーム(cladome)及び内部に向いた棒状体を備えたトリアエン。
【0050】
更に、本発明の化合物は、天然源から既に得られたものを変性させることによって、または既に変性させたものを様々な化学反応を用いて更に変性させることによって、得ることができる。したがって、ヒドロキシル基は、通常のカップリングまたはアシル化操作によって、例えば、ピリジン中の酢酸、塩化アセチル、無水酢酸等を使用することによって、アシル化することができる。カルバメートは、ヒドロキシル前駆体をイソシアネートと共に加熱することによって得られる。ヒドロキシル基は、ヨウ化物、臭化物、または塩化物へのスルホネート中間体を経て、またはフッ化物への硫黄トリフルオリドを直接使用して、ハロゲン基に変換させることができる。あるいはこれらは、スルホネート中間体の還元によって水素に還元することができる。ヒドロキシル基はまた、臭化アルキル、ヨウ化アルキル、もしくはスルホン化アルキルを使用するアルキル化によって、アルコキシ基に、あるいは、例えば、保護2-ブロモエチルアミンを使用することによってアミノ低級アルコキシ基に変換させることができる。アミド基は、標準的アルキル化またはアシル化操作によって、例えば、それぞれ、KH及びヨウ化メチルまたは塩化アセチルをピリジン中で用いる等して、アルキル化またはアシル化することができる。エステル基は、カルボン酸に加水分解するか、またはアルデヒドに、もしくはアルコールに還元することができる。カルボン酸は、通常のカップリングまたはアシル化操作によってアミンとカップリングしてアミドを提供することができる。必要により、適切な保護基を置換基に使用して、反応性基が影響を受けないことを確実にすることができる。これらの保護基は、当業者には周知である。有機化学における保護基の一般的な概説は、Wuts, P. G. M.及びGreene T.W.により、Protecting groups in Organic Synthesis, 4th Ed. Wiley-Interscienceに、また、Kocienski P.J.により、Protecting Groups, 3rd Ed. Georg Thieme Verlagに提供されている。これらすべての参考文献は、参照のためにその全体をここに援用することとする。
【0051】
これらの誘導体を調製するために必要とされる操作及び試薬は、当業者には既知であり、一般的な教科書、例えば、March’s Advanced Organic Chemistry 6th Edition 2007、 Wiley Interscience等に見られる。
【0052】
上述の式Iの化合物の重要な特徴は、その生物活性、特に、腫瘍細胞に対する細胞毒性である。
【0053】
本発明により、細胞毒性を有する一般式Iの化合物の製薬組成物並びに抗癌剤としてのその使用を提供する。したがって、本発明は、本発明の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体と、製薬品として許容される担体または希釈剤とを含む製薬組成物を、さらに提供する。
【0054】
「担体」なる語は、活性成分が共に投与される、アジュバント、賦形剤、または媒体を意味する。適切な製薬用担体は、E. W. Martinによる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 1995に記載されている。
【0055】
製薬組成物の例には、経口、局所、または非経口投与のための、あらゆる固体(錠剤、ピル、カプセル、顆粒等)または液体(溶液、懸濁液、またはエマルション)組成物が含まれる。
【0056】
本発明の化合物の投与は、あらゆる適切な方法によって、例えば、静脈内点滴、経口調剤、及び腹腔内及び静脈内投与によって行ってよい。上限24時間の点滴時間が採用されることが好ましく、1-12時間がより好ましく、1-6時間が最も好ましい。病院に一泊することなく治療を実行可能にする、短い点滴時間が、特に望ましい。しかしながら、点滴は、必要ならば、12乃至24時間、または更に長く行われてもよい。点滴は、例えば、1乃至4週間の適切な間隔で行ってよい。本発明の化合物を含む製薬組成物は、リポソームもしくはナノスフェアへのカプセル化によって遅延放出製剤とすることにより、あるいは、別の標準的送達手段によって、送達させてよい。
【0057】
化合物の正しい用量は、特定の製剤、適用の方法、及び特定の位置、治療しようとするホスト及び腫瘍によって異なる。年齢、体重、性別、食生活、投与の時間、排出の速度、ホストの状態、複合薬、反応感受性、及び疾患の重篤度等の別の要素を考慮すべきである。投与は、最大耐量内で連続的にまたは周期的に実行することができる。
【0058】
本明細書中で使用される通り、「治療する」及び「治療」なる語には、腫瘍あるいは、原発性、局所性、または転移性の癌細胞または組織の、撲滅、除去、変性、または制御、並びに、癌の拡大の最小化または遅延が含まれる。
【0059】
本発明の化合物は、以下に限定されるものではないが、肺癌、大腸癌、及び乳癌を含む、数タイプの癌に対して抗癌活性を有する。
【0060】
このように、本発明の別の実施態様では、以上に定義される式(I)の化合物を含む製薬組成物は、肺癌、大腸癌、または乳癌の治療用である。
【実施例】
【0061】
(実施例1:海洋生物及び採集箇所の説明)
Ecionemia種のAcervus Bowerbank 1864を、マダガスカルのテュレアール(23°09.154’S / 43°33.042’E)で、12乃至29mの範囲の深さでスキューバダイビングを利用して手で回収した。この動物試料は、ホセ・ルイス・カルバロ博士(Dr. Jose Luis Carballo)(Universidad Nacional Autonoma of Mexico)によって同定された。この種の試料は、メキシコのthe Institute of Marine Sciences and Limnology of Universidad Nacional Autonomaに、参照コードTLAR-477で寄託した。
【0062】
(実施例2:ステラトリドA及びBの単離)
実施例1(176g)の凍結試料を粉砕し、H2Oで(3×250mL)、その後CH3OH:CH2Cl2混合物で(50:50、3×250mL)、23℃にて抽出した。水性相を、ヘキサン、EtOAc、及びn-BuOHで分割した。トリフルオロ酢酸塩の形態で純粋ステラトリドA(6.2mg)が、反復半分取逆相HPLCによるEtOAc抽出物より得られた:Atlantis dC18、10μm、10×150mm、等張性H2O+0.1% TFA:CH3CN+0.1% TFA 95:5を5分間、次いで37%のCH3CN+0.1% TFAに傾斜させて1分間、次いで、等張性H2O+0.1% TFA:CH3CN+0.1% TFA 63:37を22分間、UV検出、流速3.8mL/分で6つのフラクションを得て(Hl乃至H6)、その後フラクションH2(保持時間16.5分)を、XTerra MS C18、5μm、10×150mm、等張性H2O+0.1% TFA:CH3CN+0.1% TFA 65:35に14分間で注入し、UV検出、3.8mL/分で3つのフラクション(H1乃至H3)を得て、最後にフラクションHl(保持時間10.4分)を、XTerra Phenyl、5μm、10×150mm、等張性H2O+0.1% TFA:CH3OH+0.1 % TFA 40:60に11分間で注入し、UV検出、流速3.5mL/分。トリフルオロ酢酸塩の形態でステラトリドB(1.7mg)が、分取逆相HPLC(Atlantis dC18、5μm、19×150mm、傾斜H2O+0.1% TFA:CH3CN+0.1% TFA(30乃至40% CH3CN)で20分間、UV検出、流速15.0mL/分)によるn-BuOH抽出物の部分(850mg)が単離された。
【0063】
ステラトリドA:アモルファス無色固体。(+)-HRMALDITOFMS m/z 1462.7764 [M+H]+(C66H108N15O22についての理論値、1462.7787)、742.8856[M+H+Na]2+(C66H108N15O22Naについての理論値、742.8840)、750.8687[M+H+K]2+(C66H108N15O22Kについての理論値、750.8709)、MS(ES)m/z 1463.6[M+H]+1H(500MHz)及び13C NMR(125MHz)。表1(CD3OD)及び表2(DMF-d7)参照のこと。
【0064】
ステラトリドB:アモルファス無色固体。MS(ES)m/z 1449.5[M+H]+、1471.4[M+Na]+1H(500MHz)及び13C NMR(125MHz)。表3参照のこと。
【0065】
表1:ステラトリドAの1H及び13C NMRデータ(CD3OD)*
【表1A】

【表1B】

a NH2の配置は交換可能
b-e 配置は交換可能
HDMN:(Z)-3-ヒドロキシ-6,8-ジメチル-4-ノネノイル
* NH及びNH2化学シフト及び多重度は、CD3OHの実験により測定された。
【0066】
表2:ステラトリドAの1H及び13C NMRデータ(DMF-d7
【表2A】

【表2B】

a NH2の配置は交換可能
b これらの位置&(δc:179.5、175.6、175.5、170.4、及び169.0ppm)のカルボニルシグナルは、1H-13C長距離結合性を得ることに失敗したため、配置決定されなかった
c-f 配置は交換可能
【0067】
【化11】

ステラトリドA
【0068】
表3:ステラトリドBの1H及び13C NMRデータ(CD3OH)&
【表3A】

【表3B】

a NH2の配置は交換可能
b-e 配置は交換可能
HMN:(Z)-3-ヒドロキシ-6-メチル-4-ノネノイル
* これらの位置のプロトンについての1H 化学シフト及び多重度は、CD3ODの実験により得られた。
& 13C化学シフトは、HSQC及びHMBC実験により決定された。
【0069】
【化12】

ステラトリドB
【0070】
(実施例3:ステラトリドA及びBのアミノ酸残基の絶対配置の部分測定)
Marfeyの分析(P. Marfey, Carlsberg Res. Commun. 1984, 49, 591-596)を利用して、ステラトリドA及びBの両方のアミノ酸残基の絶対立体化学を決定した。
0.2mgのステラトリドAを、0.5mLの6N HClに、密閉バイアル中で溶解させ、110℃に16時間に亘って加熱した。溶媒をN2気流下で蒸発させ、残渣を50μLの水に溶解させ、100μLのアセトン中のフルオロジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド(L-FDAA、Marfeyの試薬)0.5mg及び40μLの1N水性NaHCO3を加えた。生じた混合物を、40℃に1時間に亘って加熱し、室温に冷却した後、100μLの2N HClで中和した。最後に、この混合物を濾過し(45μmフィルター)、800μLの水で希釈してHPLC-MS分析を行った。
【0071】
ステラトリドA中に存在するアミノ酸残基の、2,3-ジメチルグルタミン(DiMeGln)以外の全ての可能な立体異性体の標準を、ペプチド加水分解物と同様の方法で誘導体化した。誘導体化加水分解物及び誘導体化アミノ酸標準の両方の未反応L-FDAAに対する相対保持時間を、逆相HPLC-MSによって決定した:対称性C18、5μm、4.6×150mm、傾斜H2O+0.04% TFA:CH3CN+0.04% TFA(20%乃至50%のCH3CN)+0.04% TFAで30分間、UV(215及び254nm)及びMS/ESI+ 検出、0.8mL/分。
【0072】
これら保持時間の比較により、L-Leu(S)、D-MeOSer(R)、D-allo-Thr(2R,3R)(いずれも残基)、(2S,3S)-NH2Thr、及び(2R,3S)-OHAsnのステラトリドA中の存在が明確に確認された。β-メトキシチロシン(βMeOTyr)が、酸性加水分解条件下での分解を受け、したがって、その絶対立体配置を決定するために、別の方法が用いられた。アミノ酸残基を、オゾン分解及び酸化的後処理によってまずβ-メトキシアスパラギン酸に転化させ、その後変性ペプチドに酸性加水分解、誘導体化、及びHPLC-MS分析を行った。これを行うために、O2中のオゾン気流をMeOH(0.5mL)中のステラトリドA(0.4mg)の冷却した溶液に、-78℃にて1時間に亘って通気した。過酸化水素(35%、4滴)を加え、反応混合物を室温に一晩置いた。溶媒を、N2の気流下で除去し、生じた残渣を、密閉バイアル中、0.5mLの6N HCl中で、160℃にて16時間加熱して加水分解した。室温に冷却した後、混合物をN2気流下で乾燥させ、即座に改良Marfey誘導体化操作を行った(A. Zampella et al. Org. Lett., 7(16), 3585-3588)。残渣をEt3N:MeCNの2:3溶液80μLに溶解させ、75μLのMeCN:アセトン(1:2)中、75μgのL-FDAAを加え、混合物を70℃にて1時間に亘り加熱し、室温に冷却し、50μLの2N HClで中和し、N2で乾燥させた。残渣を1mLのMeCN:H2O(1:1)に溶解させ、濾過して(0.45μm)HPLC-MS分析にかけた。四つ全てのアミノ酸標準を、同様の操作に従ってオゾン化し、誘導体化した。前述の条件で行ったHPLC-MSによって得られる、未反応L-FDAAに対する相対保持時間により、ステラトリドA中の残基が(2R,3R)-βMeOTyrであることが確認された。
【0073】
N-メチルグルタミン(MeGln)のD体及びL体並びに、N-メチルアラニン(MeAla)のD体及びL体のL-FDAA誘導体対の保持時間の重複のため、 これら二つのアミノ酸の絶対立体化学の決定のために、異なるクロマトグラフィー条件を用いた。
【0074】
対称性C18カラム(5μm、4.6×150mm、等張性H2O+0.04% TFA:CH3CN+0.04% TFA 90:10を20分間、その後、27%のCH3CN+0.04% TFAに傾斜させて45分間、UV(215及び254nm)及びMS/ESI+検出、0.8mL/分)により、ステラトリドA中のL-MeGlnの存在が決定された。
【0075】
N-メチルアラニン(MeAla)のL絶対配置が、以下のクロマトグラフィー条件を用いて確立された:対称性C18、5μm、4.6×150mm、傾斜H2O+0.1% TFA:CH3CH+0.1% TFA(45%乃至50%のCH3CH)+0.1% TFAで15分間、UV(215及び254nm)及びMS/ESI+ 検出、0.8mL/分。
【0076】
ステラトリドAについて記載されたものと同様の操作に従い、L-Leu(S)、D-MeOSer(R)、D-allo-Thr(2R,3R)(いずれも残基)、(2S,3S)-NH2Thr、及び(2R,3S)-OHAsn、(2R,3R)-βMeOTyr、L-MeGln、及びL-MeAlaの存在が、ステラトリドBにおいても明確に確認された。
【0077】
【化13】

ステラトリドA R=Me
ステラトリドB R-H
【0078】
(実施例4:抗腫瘍活性の検出のためのバイオアッセイ)
このアッセイの目的は、試験しようとする試料の、インビボ細胞増殖抑制活性(腫瘍細胞成長を遅延または停止させる能力)または細胞毒性(腫瘍細胞を死滅させる能力)を評価することである。
【0079】
細胞系列
【表4】

【0080】
(SBR比色分析を用いる細胞毒性の評価)
比色分析を、スルホローダミンB(SRB)反応を使用して適合させて、細胞成長及び生存能力の定量的測定を行った(Skehan et al. J. Natl. Cancer lnst. 1990, 82, 1107-1112に記載の技術により)。
【0081】
この形態のアッセイは、SBS-標準 96-ウェル細胞培養用マイクロプレートを利用する(Faircloth et al. Methods in Cell Science, 1988, 11(4), 201-205;Mosmann et al, Journal of Immunological Methods, 1983, 65(1-2), 55-63)。この研究に使用された全ての細胞系列は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手され、ヒトの様々なタイプの癌由来である。
【0082】
細胞を、10%のウシ胎仔血清(FBS)、2mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、及び100U/mLのストレプトマイシンを補った、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、37℃にて、5%のCO2及び98%の湿度に維持した。実験のために、細胞を、トリプシン処理を用いて半集密的培養物から採取し、新たな培地に再懸濁させたのち、計数及び蒔種した。
【0083】
細胞を、96ウェルのマイクロタイタープレートに、150μLのアリコート中、ウェル毎に5×103-7.5×103細胞で播種し、薬剤を含まない媒質中でプレート表面に18時間(一晩)に亘って付着させておいた。その後、各細胞系列の一つのコントロール(未処理)プレートを(下記の通り)固定し、0時点の参照値として用いた。その後、培養プレートを、10度の段階希釈(濃度は10乃至0.00262μg/mLの範囲)及び三重培養(1%の最終DMSO濃度)を使用し、試験化合物(完全培養培地+4%のDMSO中の4倍ストック溶液の、50μLのアリコート)で処理した。72時間の処理の後、抗腫瘍効果を、SRB方法を用いて測定した:簡潔に説明すれば、細胞をPBSで二度洗浄し、1%のグルタルアルデヒド溶液中に室温にて15分間に亘って固定し、PBSで二度濯ぎ、0.4%のSRB溶液中に30分間に亘って室温にて濾し入れた。その後、細胞を、1%の酢酸溶液で数回濯ぎ、室温で空気乾燥させた。その後、SRBを、10mMのTrizmaベース溶液で抽出し、自動化分光測光プレートリーダーで490nmの吸収を測定した。細胞成長及び生存への効果を、NClアルゴリズムを適用することによって評価した(Boyd MR and Paull KD. Drug Dev. Res. 1995, 34, 91-104)。
【0084】
三重培養の平均±標準偏差を用い、非線形回帰分析を用いて用量反応曲線を自動生成させた。三つの参照パラメーターを、自動補間によって算出した(NCIアルゴリズム):GI50 = コントロール培養物と比べて50%の細胞成長抑制をもたらす化合物濃度;TGI = コントロール培養物と比べて完全細胞成長抑制(細胞静止作用)をもたらす化合物濃度;及びLC50 = 50%の最終細胞死滅(細胞毒性)をもたらす化合物濃度。
【0085】
表4は、本発明の化合物の生物活性についてのデータを示す。
表4:ステラトリドA及びBの細胞毒性アッセイ-活性データ(Molar)
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

[式中、
R1は、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択され、
R2、R7、及びR11のそれぞれが、独立に、水素、CORa、COORa、CONRaRb、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R3及びR4のそれぞれが、独立に、水素、CORa、COORa、CONRaRb、SO2Ra、SO3Ra、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R5及びR6のそれぞれが、水素、CORa、COORa、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;
R8、R9、及びR10のそれぞれが、独立に、水素、ORc、CORa、COORa、CONRaRb、CN、NRaRb、ハロゲン、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択され;
Rcは、水素、CORa、COORa、CONRaRb、SO2Ra、SO3Ra、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、及び置換もしくは無置換のC2-C12アルキニルから選択され;更に
Ra及びRbのそれぞれが、独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、置換もしくは無置換のC2-C12アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C12アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基から選択される]
の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体。
【請求項2】
R1が、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル及び置換もしくは無置換のC2-C12アルケニルから選択され、これらが分枝状または直鎖状であってよい、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1が、置換C8-C12アルキル及び置換C8-C12アルケニルから選択され、これらが、OR’、OSO2R’、OSO3R’、ハロゲン、OCOR’、OCOOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、CONHR’、及びCON(R’)2から選択される1つもしくは複数の置換基によって個別に置換され、各R’が、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、置換もしくは無置換のC2-C6アルケニル、置換もしくは無置換のC2-C6アルキニル、置換もしくは無置換のアリール、及び置換もしくは無置換の複素環基からなる群より個別に選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R1は、2-ヒドロキシ-5,7-ジメチルオクト-3-エニル及び2-ヒドロキシ-5-メチルオクト-3-エニルから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R2、R7、及びR11のそれぞれが、独立に、水素及び置換もしくは無置換のC1-C6アルキルから選択される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
R2、R7、及びR11が水素である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
R3及びR4のそれぞれが、独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、Raが、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
R3及びR4が水素である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
R5及びR6のそれぞれが、独立に、水素、置換もしくは無置換のC1-C12アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、Raが、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
R5及びR6が水素である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
R8及びR10が、個別に、水素及びハロゲンから選択される、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
R8及びR10が水素である、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
R9がORCであり、Rcが、水素、置換もしくは無置換のC1-C6アルキル、CORa、及びCOORaから選択され、Raが、水素及び置換もしくは無置換のC1-C12アルキルから選択される、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
Rcが水素である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
下式の構造:
【化2】

ステラトリドA、及び
【化3】

ステラトリドB
を有する、請求項1に記載の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体と、製薬品として許容される担体または希釈剤とを含む、製薬組成物。
【請求項17】
薬剤としての使用のための、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体。
【請求項18】
癌の治療のための薬剤の調製における、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬品として許容される塩、互変異性体、プロドラッグ、または立体異性体の使用。
【請求項19】
癌に罹患した患者の治療方法であって、請求項1乃至15のいずれか一項に定義される化合物の治療用有効量を、これを必要とする前記の罹患した個人に投与する工程を含む方法。

【公表番号】特表2011−528027(P2011−528027A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517941(P2011−517941)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059196
【国際公開番号】WO2010/007147
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(501440835)ファルマ・マール・ソシエダード・アノニマ (30)
【Fターム(参考)】