説明

抗癌性を有する植物起源のタンパク質ヘテロカルピン

本発明は、抗癌性を有する植物由来のタンパク質であってヒト成長ホルモン放出ホルモン(hGHRH)を結合するタンパク質に関する。植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から得られる前記のタンパク質は、特に成長が成長因子GHRHに依存する癌の治療用の医薬の製造、特に小細胞肺癌及び乳癌を含めた癌の治療用の医薬の製造に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌性を有する植物起源のヒトGHRH(ヒト成長ホルモン放出ホルモン)結合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
成長ホルモン(“GH”)は、インスリン様増殖因子I(IGF-I)などの多数の成長因子の産生を刺激し且つ多数の組織(骨格、結合組織、筋肉及び内臓)の成長の引き金を引く191個のアミノ酸を有するタンパク質である。GHはまた、核酸、タンパク質の合成及び脂肪分解を高め同時に尿分泌を低下させる生理学的活性を有する〔Frohman L.A. & Kineman, R.D., Handbook of Physiology, Hormonal Control of Growth, edited by Kostyo, J.L. & Goodman, H.M. (Oxford Univ. Press, New York, 1999), p.189-221〕。
【0003】
GHの合成は、視床下部によって分泌されるポジティブ又はネガティブな作用を有する因子により調節される。GHの産生を制御する主な因子は、“成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)”すなわちヒトにおいて44個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0004】
GH及びGHRHは、多数の病気に関与する。これら病気の中で、次の病気、特に癌(特に前立腺癌又は肺癌)、先端巨大症、糖尿病性網膜症及び腎症が挙げられる;これらの病気については、GHRH拮抗薬を用いた治療が必要である。潜在的に関係する病気の数により、業界ではGHRH拮抗薬が研究し続けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本出願人は、ヒトGHRHを結合する性質を有する植物起源の新規タンパク質を単離した。
【0006】
従って、本発明の第一の主題は、植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から抽出することによって得ることができる単離タンパク質であって、約90.9 kDaの分子量を有し且つ配列番号1、配列番号2及び配列番号3のペプチド配列の断片を含有することを特徴とし;またグリコシル化された形又はグリコシル化されていない形で提供できる単離タンパク質である。以下の記載を単純化することを目的として、このタンパク質を以下“ヘテロカルピン”と呼ぶ。
【0007】
前記の配列番号1、配列番号2及び配列番号3の配列は、下記の通りである:
配列番号1: KLIGARYFDK
配列番号2: YGEDIIVGVIDSGV
配列番号3: PESESY
前記のペプチドを定義するために(本出願明細書の残りにおけるように)上記で使用した命名法は、“IUPAC-IUB生化学命名委員会”によって指定された命名法であり、その標準的表現に従ってN末端アミノ酸(アミノ基)は左側に表示され且つC末端アミノ酸(カルボキシル基)は右側に表示される。“天然アミノ酸”という用語は、天然タンパク質中に認められる天然L-アミノ酸:Gly、Ala、Val、Leu、He、Ser、Thr、Lys、Arg、Asp、Asn、Glu、Gin、Cys、Met、Phe、Tyr、Pro、Trp及びHisの一つを示す。
【0008】
タンパク質は、その元の環境から取り出される場合に“単離された”と呼ばれる。特に、天然タンパク質は、天然系に共存する生物物質から分離される場合に単離される。
【0009】
本発明は、好ましくはグリコシル化されていない形のヘテロカルピンに関する。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記ヘテロカルピンは、生体外で培養された植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)の細胞の抽出物から得られる。
【0011】
また、本発明の主題は、ヘテロカルピンを特異的に結合するモノクロナール抗体、又はその抗原結合断片である。
【0012】
ヘテロカルピンは、ヒトGHRHを結合する性質を有する。生体外で、ヘテロカルピンは、ヒトGHRHを結合し、このようにしてその受容体にヒトGHRHを結合する間に誘導されるサイクリックAMPの合成を阻害する。生体内で、ラットにおいて、ヘテロカルピン/ヒトGHRH複合体は、血液画分中で形成され、用量に依存した方法でモル対モルの比で10μgのヒトGHRHにより誘導されるGH合成を阻害する。ヘテロカルピンは、ヒトGHRHを結合する性質を有する。
【0013】
これらの性質は、本発明の化合物を医薬用途に適合させる。従って、本発明の主題はまた、医薬としての、グリコシル化された形又はグリコシル化されていない形のヘテロカルピンである。本発明はまた、有効成分としてグリコシル化された形又はグリコシル化されていない形のヘテロカルピンを含有する医薬組成物に関する。該組成物はまた、1種又はそれ以上の製薬学的に許容し得る賦形剤も含有する。別の主題は、GHRHの効果を拮抗する医薬、増殖性の病気(特に癌)を治療する医薬、先端巨大症を治療する医薬又は糖尿病性網膜症及び腎症を治療する医薬を製造するための、グリコシル化された形又はグリコシル化されていない形のヘテロカルピンの使用である。癌に関して、ヘテロカルピンは、カルチノイド及び膵臓腫瘍、視床下部下垂体神経節細胞種、気管支癌、腸癌及び肝癌、交感神経副腎腫瘍、褐色細胞腫、下垂体アデノーマ及び甲状腺癌を治療する医薬を製造するのに特に適している。ヘテロカルピンは、増殖が成長因子GHRHに依存している癌を治療する医薬を製造するのに特に適しており、特に小細胞肺癌及び乳癌から選択される癌(特に小細胞肺癌)を治療する医薬を製造するのに特に適している。
【0014】
また、本発明の主題は、医薬としての、ヘテロカルピンを特異的に結合するモノクロナール抗体又はその抗原断片である。また、本発明は、ヘテロカルピンを特異的に結合するモノクロナール抗体又はその抗原断片を有効成分として含有する医薬組成物に関する。前記組成物はまた、1種又はそれ以上の製薬学的に許容し得る賦形剤を含有する。さらにまた、本発明は、ヘテロカルピンを特異的に結合するモノクロナール抗体又はその抗原断片の使用であって、GHRHの効果を拮抗する医薬、増殖性の病気(特に癌)を治療する医薬、先端巨大症を治療する医薬又は糖尿病性網膜症及び腎症を治療する医薬を製造するための使用に関する。癌に関して、前記のモノクロナール抗体又はその抗原結合断片は、カルチノイド及び膵臓腫瘍、視床下部下垂体神経節細胞種、気管支癌、腸癌及び肝癌、交感神経副腎腫瘍、褐色細胞腫、下垂体アデノーマ及び甲状腺癌を治療する医薬を製造するのに特に適している。
【0015】
また、本発明は、GHRHの徐放用の医薬組成物における賦形剤としてのヘテロカルピンの使用に関する。また、本発明は、GHRH、ヘテロカルピン及び1種又はそれ以上の製薬学的に許容し得る賦形剤を含有してなる医薬組成物に関する。
【0016】
最後に、本発明の別の主題は、植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)の細胞からヘテロカルピンを抽出し且つ単離することを可能にする方法である。前記細胞は生体外培養物由来のものであることが好ましい。前記の方法は、本質的に植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から細胞を水で0〜50℃、好ましくは4〜25℃の温度で抽出する工程を含む。前記の抽出工程は、その後にピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞からヘテロカルピンに富む濾液を分離するための濾過工程及び植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から抽出されたその他の成分からヘテロカルピンを分離する1つ又はそれ以上の工程が続く。
【0017】
第一の態様によれば、これらの抽出及び単離方法は、本質的に下記の連続する工程を含む:
a) 植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から細胞を、水で0〜50℃、好ましくは4〜25℃の温度で抽出する工程。該抽出工程の後には、ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞からヘテロカルピンに富む濾液を分離する濾過工程が続く;
b) 抽出したタンパク質を、例えば硫酸アンモニウムを加えることにより沈殿させる工程、次いで沈殿物を分離する(濾過によって又は好ましくは遠心分離によって)工程;
c) 工程b)で回収した沈殿物を水に溶解する工程;及び
d) 前記溶液のその他の成分からからヘテロカルピンを分離するためのゲル濾過クロマトグラフィー工程。
【0018】
別の態様によれば、前記の抽出及び単離方法は、本質的に下記の連続する工程を含む:
a) 植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から細胞を、水で0〜50℃、好ましくは4〜25℃の温度で抽出する工程。該抽出工程の後に、ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞からヘテロカルピンに富む濾液を分離する濾過工程が続く;
b) 工程a)で得られた溶液を、非酸化性の酸(例えば、塩酸、硫酸又はリン酸)を加えることにより酸性化し、好ましくは2〜4のpHで、液−液抽出を使用して(好ましくは、有機溶媒、例えばジクロロメタン、ヘプタン、ヘキサン又はシクロヘキサンを使用することにより)脱脂する工程;
c) 工程b)で得られた脱脂溶液をポリビニルピロリドン(又はナイロン66)と接触させ、次いで大きな細孔をもつ樹脂〔好ましくは樹脂ダイアイオン(登録商標)HP-20などのポリスチレン基材の樹脂〕を用いて濾過することによるタンニン類の除去工程;
d) 工程c)の後に得られた濾液を、塩基、例えば水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを加えることによって、アルカリ性pH(好ましくはpH9〜11)に調節する工程;
e) 陰イオン交換樹脂を用いて1回又はそれ以上濾過する工程、この1回の濾過工程又はそれ以上の濾過工程の溶出液は、ヘテロカルピンを前記溶液のその他成分から分離するためにpH9〜11を有し且つ場合によっては塩(例えば、塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウム)の濃度勾配を有していてもよい緩衝溶液であることが好ましい;及び
f) 工程e)で得られた溶液をその分子量に基づいて混合物の各成分を分離する樹脂〔例えば、樹脂Sephadex(登録商標) G25又はSuperdex(登録商標) 200HR〕に通し且つこの混合物の溶出液を、水を用いて前記の樹脂に通して溶出るすことからなる脱塩工程。
【0019】
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、固体の形、例えば散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、リポソーム、ゼラチンカプセル剤又は坐薬であり得る。丸剤、錠剤又はゼラチンカプセル剤は、この組成物が患者の小腸に消化されないで到達することを可能にするのに十分な時間、胃酸又は患者の胃の酵素の作用から該組成物を保護することができる物質で被覆することができる。本発明の化合物はまた、例えば腫瘍の実際の部位に局部投与することもできる。本発明の化合物はまた、徐放方法に従って(例えば、徐放性組成物又は潅流ポンプを使用することによって)投与することもできる。適当な固形支持体は、例えば、リンカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、タルク、糖類、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリジン及びワックスであり得る。
【0020】
また、本発明の化合物を含有する医薬組成物は、液状で、例えば、溶液、乳濁液、懸濁液又は徐放性製剤で提供し得る。適当な液状支持体は、例えば、水、有機溶媒、例えばグリセロール又はポリエチレングリコールなどのグリコール類、及びこれらの水との種々の割合の混合物であり得る。
【0021】
本発明の医薬の投与は、局所経路、経口経路、非経口経路、筋肉内注射などで行うことができる。
【0022】
前記の病気又は疾患を治療するために提供されるべき本発明の化合物の用量は、投与方法、治療すべき患者の年齢及び体重、並びに患者の状態に応じて変化し且つ最終的には主治医又は獣医によって決定されるであろう。主治医又は獣医によって決定されるこのような量は、本明細書では“治療有効量”と呼ぶ。
【0023】
本発明に従って、ヘテロカルピンは以下に記載の方法で製造することができる。
【0024】
ヘテロカルピンの製造
本発明の好ましい態様によれば、前記植物の種々の組織から得られるカルス又は細胞懸濁物の生体外培養が行われる。半固体培地又は液体培地で培養した前記の組織は、生物学的性質を有する化合物を生合成することができる。
【0025】
“カルス”とは、本明細書では半固体栄養培地の培養液中の植物の未分化細胞の肉眼で見えるクラスターを意味する。本明細書では“未分化細胞”という用語は、ある一定の条件下で形態形成現象なしでカルス又は細胞懸濁物の形で増殖する傾向をもつ細胞を示す。最後に、“細胞懸濁物”とは、液体栄養培地中の培養液中で肉眼で見えるクラスターを形成することができる未分化細胞を意味する。
【0026】
栄養培地、ホルモン、培養条件の選択は、本発明の必須部分並びにこれらの生体外培養物からの抽出及び抽出物の分析を形成する。
【0027】
ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)の種子由来の細胞は、例えば下記の方法に従って懸濁培養することができる。
【0028】
前記器官は、培養の前に通常の方法に従って汚染除去される。生体外植物器官もまた、前もって滅菌を必要とすることなくカロゲネシス(callogenesis)出発原料としても働く。好ましい基本栄養培地は、生体外培養に常用される培地の一つである:これはGamborgの培地である〔Gamborg et al., Nutrient requirements of suspension cultures of Soybean root cells, Exp. Cell Res., (1968), 50(1), 151-158に記載されている〕。炭素源はショ糖であるが、グルコースもまた1〜120 g/l、好ましくは約30 g/lの濃度で使用できる。多量要素含有量もまた、2つの因子によって減少させ得る。オーキシン類又はオーキシン及びサイトカイニンが培地に添加され、二つのホルモンの組合せ、一般に2,4-ジクロロフェノキシ酢酸とカイネチンの組合せが好ましいが、α-ナフタレン酢酸(NAA)、β-インドール酢酸(IAA)、β-インドールブタン酸(IBA)又はピクロラムを、カイネチン又はベンジルアミノプリン(BAP)と組み合わせることもできる。濃度は、オーキシンについては0.1 mg/lから10 mg/lまで変化させることができ(例えば、1 mg/lを選択できる)、またサイトカイニンについては0.01 mg/1から2 mg/1まで変化させることができる(例えば、0.06 mg/lを選択できる)。ビタミン類は、種々の基本培地に関連したものである。培養は光の中で又は暗中で行われる。温度は10℃から33℃まで変化させ得るが、約23℃が好ましい。培地のpHは4〜6.5の間であり、滅菌前に5.8に調節されることが好ましい。また、寒天は、培地に加えてもよいし、又は加えなくてもよい。
【0029】
一次カルスは、培養の数日後に生じ且つこの場合寒天半固形培地(管又はペトリ皿で)で約1ヵ月培養された後に元の移植物から分離され、取り出され且つ4〜8週間、好ましくは6週間の間隔で継代培養され、このようにしてカルスを新規培地上で連続継代培養によって数年間維持できる。カルスはまた、攪拌した液体培養培地(三角フラスコ又はバイオリアクター)で継代培養物を用いて2〜6週間、好ましくは3週間継代培養することもできる。
【0030】
得られた株は、その遺伝起源、培養条件、外観及び形態形成の欠如によって区別される。
【0031】
凍結乾燥ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞を、0〜50℃、好ましくは4〜25℃の温度で、水で抽出される。このようにして得られた抽出物を凍結乾燥し、その後に適当な濃度(例えば、約30%の乾燥物)で再溶解される。硫酸アンモニウムの濃厚溶液(例えば飽和濃度の70〜90%に相当する濃度で)を添加することによって沈殿したタンパク質を、最小量の水に溶解し、不溶物を遠心分離により回収する。次いで、得られたタンパク質をカラムクロマトグラフィー(溶出液は水であることが好ましい)で分離し、次いでヘテロカルピン(その分子量約90.9 kDaにより同定できる)を回収できる。
【0032】
ヘテロカルピンを特異的に結合する抗体の製造
本発明は、ヘテロカルピンを特異的に結合する抗体のような結合剤を提供する。このような薬剤は、前記タンパク質と(例えば、ELIS試験により)検出可能なレベルで反応し且つ他のタンパク質と検出できるほど反応しない場合には、タンパク質を“特異的に結合する”と呼ばれる。“結合”とは、複合体を形成するような2個の別々の分子同士の間の非共有会合をいう。結合能は、例えば複合体を形成するための結合定数を測定することによって評価することができる。結合定数は、複合体濃度の値を、複合化されてない時の成分の濃度の各々の値の積で割った場合に得られる値である。2つの生成物は、結合定数が103 l/モルに達する場合に“結合された”と呼ばれる。結合定数は当業者に周知の方法を使用して測定することができる。
【0033】
上記の基準を満たすことができる薬剤は、結合剤とみなすことができる。
【0034】
本発明において、結合剤は、抗体又はその断片であることが好ましい。抗体は、当業者が利用できる方法により調製できる(Harlow and Lane、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988参照)。一般的に、抗体は、細胞培養法、例えばモノクロナール抗体の産生によって又は細菌又は哺乳動物由来の宿主細胞に抗体遺伝子の移入によって組換え抗体を得ることによって製造できる。
その他の方法の中から、以下に記載の方法を使用することが好ましい。ヘテロカルピンを含有する免疫原を、一群の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ又はヤギ)に注射する。この段階で、ヘテロカルピンは、変性することなく免疫原として働く。また、ヘテロカルピンをウシ血清アルブミン又はカサガイヘモシアニンなどの輸送タンパク質と組み合わせた場合には、優れた免疫応答を誘導し得る。免疫原を、宿主動物に好ましくは所定のスケジュールに従って注射し、該動物から定期的に採血する。このようにしてヘテロカルピンに特異的なポリクロナール抗体を、かかる血清から、例えば適当な固体支持体に連結されたヘテロカルピンを使用するアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0035】
GHRHの放出用の医薬組成物:
これらの組成物は、特に、ヘテロカルピンとGHRHとからDe WolfとBrettによる機関誌、Phannacological Reviews (2000), 52, 207-236 及びその中に引用されている文献に記載の方法の一つに従って製造できる。
【0036】
特に明記しない限りは、本明細書で使用する技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する分野の通常の専門家によって通常に理解される意味と同じ意味を有する。同様に、本明細書で挙げた全ての刊行物、特許出願明細書、全ての特許明細書及び全ての他の文献は本明細書に参考として組み込まれる。
【0037】
以下の実施例は前記の方法を例証するために示すものであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0038】
ヘテロカルピンの取得法
実施例1:
細胞の生体外培養
ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)の種子を発芽させ、この発芽により生じた茎を取り出した。前記の茎を、30 g/1のショ糖、1mg/1の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸及び0.06mg/1のカイネチンを加えてあるGamborgの培地〔Gamborg et al., Nutrient requirements of suspension cultures of Soybean root cells, Exp. Cell Res., (1968), 50(1), 151-158〕中で培養した。培養は、管中で23℃の温度及び暗中で行った。継代培養を常用の条件下で6週間ごとに行った。外観が粒状である株は、ベージュ色の色素沈着を有していた。
バイオマス由来の新鮮で乾燥した物質の塊の増大に基づいた株の成長速度論(growth kinetic)を8週間にわたって行った。2つの管からカルスを一緒にし、週2回の収集とした。最初の収集は、時間0で行った。次いで、カルスとゲロース(gelose)を収集し、凍結乾燥した。増殖は、定常増殖期の出現前に6週間の培養まで指数的であることが認められた。
【0039】
細胞培養物の抽出:
25gの凍結乾燥ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞を水375mlに4℃で浸すことによって2回抽出し、4℃で一夜放置し、次いで水250mlに4℃で4時間浸し、最後に水125mlで4℃で洗浄した。このようにして得られたそれぞれの水溶液を、セライトを載せたガラス濾過器に通して減圧濾過して、水溶液から細胞砕片を分離した。次いで、このようにして一緒にした使用駅を凍結乾燥して、乾燥物9.4gを得た。次いで、凍結乾燥抽出物を水31mlに20℃で溶解して、30%の乾燥抽出物を含有する溶液を得た。硫酸アンモニウム17.4gを、一定の磁気攪拌をしながら、少量ずつ加えて、タンパク質画分を沈殿させた。次いで、タンパク質沈殿物を、3000rpmで20分間遠心分離することによって硫酸アンモニウム溶液から分離した。硫酸アンモニウム溶液を傾瀉し、沈殿したタンパク質を22mlの水に溶解し、再度遠心分離し、次いで濾過して不溶粒子を除去した。
【0040】
次いで、得られた濾液を、ゲル濾過クロマトグラフィーに供した。前記濾液を、超純水(Water's Milli-Q)を溶出液として使用して5ml/分の流量で使用する製造業者の提案に従って調製したSuperdex(登録商標) 200(Amersham Pharmacia Biotech、reference no. 17-1043-01;13μmの平均直径を有する粒子)を充填したカラム(Buchi N° 19678、L=230 m;内径=26 mm)に注入した。画分40mlをこのようにして集め、また活性タンパク質は第三画分と第四画分に認められた。これらの画分を凍結乾燥して約14.2mgの活性生成物を得た。
得られた生成物の純度を、ドデシル硫酸ナトリウムを含有する電気泳動ゲル(SDS PAGE)上で単一のバンドの出現によって明らかにした。このバンドに相当する生成物を、以下、ヘテロカルピンという。
【0041】
実施例2:
前記の実施例1に記載の方法と同じ方法に従って生体外で培養した細胞を、以下に記載の方法に従って抽出した。
【0042】
100gの凍結乾燥ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)細胞を、脱イオン水2リットルを使用して20℃で抽出した。混合物は攪拌下で一夜維持した。細胞と抽出物とをセライト層(予め酸で洗浄したもの;厚み1〜2cm)で覆ったフリットガラス濾過器(多孔度3、直径20cm)を用いて吸引濾過した。回収した細胞を脱イオン水400 mlで洗浄した後に除去した。次いで、得られた水性濾液を、18%塩酸を約10ml加えることによってpH3.0に酸性化した。次いで、酸性化した溶液を400 mlのジクロロメタンを使用して液−液抽出により脱脂した。得られたジクロロメタン層を傾瀉し、次いで除去した。得られた脱脂溶液をロータリーエバポレーターに供して、残留ジクロロメタンを除去した。次いで、脱脂溶液(pH約3.0)に約30gのポリビニルピロリドンを加え、混合物を約30分間攪拌して、タンニン類を除去した。混合物を25gのセライト(予め酸で洗浄したもの)と25gのポリビニルピロリドンとからなる混合層で覆われたフリットガラス濾過器(多孔度3、直径20cm)を用いて吸引することにより層に通して濾過した。次いで、濾液を製造業者の指示書に従って予め活性化した400mlのダイアイオン(登録商標)HP-20(三菱化学株式会社製)の層を通した。次いで、得られた濾液を、20%水酸化アンモニウム溶液を約60ml加えることによってアルカリ性(pH10)にした。30分静置した後に、僅かに沈殿が生じた。このアルカリ性溶液に1gのセライト(予め酸で洗浄したもの)を加え、次いで濾過膜(0.22μm)に通して吸引濾過した。次いで、濾液約2リットルを、Akta(登録商標)精製装置に取り付け、ピペラジン/HCl 0.1M緩衝液を用いてpH10.2で予め平衡化したHiPrep(登録商標)Q XL 16/10カラムに0.5ml/分の流量で通し〔HiPrep(登録商標)カラム及びAkta(登録商標)精製装置は、両方共にAmersham Biosciences社の製品である〕、次いでカラムを、pH10.2のカラム容量の6倍量の出発緩衝液、カラム容量の5倍量の同じ緩衝液であって0.2M濃度のNaClを含有する緩衝液;及びカラム容量の10倍量の同じ緩衝液であって1M濃度のNaClを含有する緩衝液を用いて連続的に洗浄した。大部分のヘテロカルピンが、1M濃度のNaClを含有する最初のカラム容量の3倍量の緩衝液中に回収された。活性画分を、Sephadex(登録商標)G25カラム(充填層容量:260ml)に溶出液として脱イオン水を使用して通して脱塩した。次いで、ホールドアップ(hold-up)容量に相当する最初のカラム容量に認められる活性画分を、凍結乾燥して170mgのヘテロカルピンを得た。このようにして得られたヘテロカルピンは、SDS PAGEゲル上で実質的に単一のバンドである。
【0043】
ヘテロカルピンの特定
分析及び微量配列決定:
試料を10%ポリアクリルアミドゲルに装填した。移動後、ゲルを固定化し、クーマシーブルーで染色した。
【0044】
トラック1、2、3、4及び5に対応する図3に示すゲルトラックは、それぞれ分子量標識(Amersham製)、0.5、1及び2μgの 実施例1で得られたような最終ヘテロカルピン画分の含有量、並びに分子量標識 (Amersham製)であった。当業者に周知の標準計算ツール(例えば、Viber Lourmat's Bio-Profil BiolD ソフトウエア)を使用する標準分子量標識グラフによる分子量の測定は、ヘテロカルピンが90.9キロダルトン(±1.6キロダルトン)の分子量を有することを明らかにすることを可能にする。
【0045】
タンパク質微量配列決定分析、すなわちタンパク質を含有するポリアクリルアミドのバンドを切り出し、50mM Tris (pH8.6)、0.03%ドデシル硫酸ナトリウムを含有する消化緩衝液300μl中で、0.4μgエンドリシン−C(Sigma製)の存在下で35℃で18時間消化した。得られたペプチドを、直径1mmのDEAE-C18直列カラムを用いてHPLCで分離した。分離濃度勾配は、アセトニトリル(2%から70%まで)と0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)との混合物に基づいている。次いで、Preciseシークエンサー(Applied Biosystem製)を用いて行った。このようにして、3個のピークが配列決定され、独特の方法でヘテロカルピンを特定することを可能にした。対応する配列は、本出願において、配列番号1、配列番号2及び配列番号3により特定された。
【0046】
糖タンパク質の分析は、SDS-PAGEゲルで分離した糖タンパク質の糖化構造を検出することにより行った。この検出装置は、“過ヨウ素酸-Schiff”法の変法であり、糖タンパク質(Sigma製)の証拠を示す赤紫色の出現をもたらす。実施例1で得られたようなヘテロカルピンについて、図4に示す結果が得られた。
【0047】
ヘテロカルピンの薬理学的性質
ヒトGHRH受容体(hGHRH-R)の安定な移入:
安定な方法でヒトGHRH受容体を発現するヒト胚腎細胞、HEK-293(Dr. Stuart Sealfon、Mount Sinai Medical School, New York, New Yorkによって開発された細胞系)を、Dr. Kelly Mayo(Northwestern University, Chicago, IL)から入手した。
【0048】
細胞培養及び膜調製:
前記のヒトGHRH受容体を安定な方法で移入したHEK-293細胞を、10%ウシ胎児血清及び4mM L-グルタミン(Life technologies製)の存在下で0.4mg/mlのG418(Life technologies製)を補足したDMEM(ダルベッコ変性イーグル培地、高グルコース含量;Life technologies製)中で培養した。50mM HEPES (pH7.4)、5mMの塩化マグネシウム (MgCl2)、2mMのエチレングリコール-ビス(2-アミノエチル)-N,N,N´,N´-四酢酸 (EGTA)及び50μg/mlのバシトラシンを含有する緩衝液A中で細胞をホモジナイズし、次いで同じ緩衝液A中で音波粉砕に供した。このようにしてホモジナイズにされた細胞を、4℃で、39,000gで10分間遠心分離し、緩衝液Aに懸濁し、再度4℃で、40,000gで10分間遠心分離した。全膜タンパク質をブラドフォード法で定量した。ペレット化した膜をこのようにして後で使用するために−80℃で保存した。
【0049】
hGHRH-Rに関する競合結合試験:
ヒトGHRH受容体を安定な方法で移入したHEK-293細胞の膜を、50mM HEPES(pH7.4)、5mM MgCl2 、2mM EGTA、50μg/mlのバシトラシン及び0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する反応緩衝液に100μg/mlの濃度まで希釈した。この膜を、0.05nMの[125I]GHRH(1-44アミド) (Amersham製)と共に、最終容量200μ1中で、ヘテロカルピンの濃度を高めながらヘテロカルピンの存在下で23℃で2時間インキュベートした。ポリエチレンイミンを予め0.1%装填した96ウエルGF/Cフィルターを用いて迅速に濾過することによって反応を停止させた。次いで、フィルターを、Packard 96ウエル濾過ステーション(station)を使用して50mM Tris (pH7.4)を含有する洗浄緩衝液で4℃で3回洗浄した。このようにして乾燥したフィルターを20μlのシンチレーション混合液(Microscint 0、Packard製) に浸し、Topcount counting (Packard製)に供した。非特異活性を100nMのhGHRHの存在下で測定した。容量応答曲線をhGHRH (0.001nM〜100nM) について作成し、得られた結果を図1に示す。
【0050】
サイクリックAMPの競合形成:
ヒトGHRH受容体を安定な方法で移入したHEK-293細胞を、48ウエル培養プレートに分配し、3日間培養した。次いで、培地を除去し、0.5%BSA、0.5mMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)の存在下で250μlのDMEM(ダルベッコ変性イーグル培地、高グルコース含量;Life technologies製)を含有する培地Bで置換し、37℃で5分間予備インキュベートした。予備インキュベーション時間の終わりに、ヘテロカルピンをさらに20分間試験した。観察された濃度を図に示す。100μlの0.1M HC1を加えることによりインキュベーションを停止させ、そのアリコートを、FlashPlateキット(New England Nuclear製)を使用してそのサイクリックAMP含有量について分析した。
【0051】
ラットでのGHのアッセイ:
ラット(Sprague Dawley雄性ラット)でのGHレベルを 血液試料中で、Spi-Bio (Spi-Bio、France) によって開発された酵素免疫学試験により測定した。ラットに、ヘテロカルピンを用量を増やしながら(ビヒクル単独、1、3及び10nmol)静脈内注射し、次いで10分後に、10μg(3nmol)のhGHRHを静脈内注射することにより処置した。hGHRHの注射10分後に、前記の血液試料中で成長ホルモンの濃度を測定した。得られた結果を図5に示す。
【0052】
抗腫瘍活性の測定:
ヒト腫瘍細胞、特にH-69小細胞肺癌細胞を、胸腺欠損マウスの皮下に注射して、最初の移植後数10日後に約80mm3 のヒト腫瘍異種移植片を生じさせた。マウスを2日毎にヘテロカルピンを次第に増やした用量で(ビヒクル単独、2.5mg/kg、5mg/kg及び10mg/kg)静脈内注射することにより処置した。次いで、腫瘍の体積を処置の期間を通して4日毎に測定した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ヘテロカルピンの増大する濃度の関数としてヒトGHRH受容体に対するヒトGHRHの結合の阻害を表すグラフである。
【図2】ヘテロカルピンの増大する濃度の関数として安定的な方法で10nMのヒトGHRHの存在下で、ヒトGHRH受容体を移入した細胞中のサイクリックAMP生成の阻害を表すグラフである。
【図3】90.9 kDaの分子量を有するヘテロカルピンの存在を示すSDS-PAGEタンパク質ゲルプレートの再現である。
【図4】ヘテロカルピンが糖タンパク質である(パネルB)ことを示すSDS-PAGEタンパク質ゲルプレートの再現である。
【図5】ヘテロカルピンの増大する濃度の関数として10μgのヒトGHRHの存在下でラットにおけるGH合成の阻害を表すヒストグラムでの表示である。
【0054】
【配列表】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)から抽出することによって得ることができる単離タンパク質であって、約90.9 kDaの分子量を有し且つ配列番号1、配列番号2及び配列番号3のペプチド配列の断片を含有することを特徴とし;またグリコシル化された形又はグリコシル化されていない形で提供できる単離タンパク質の、増殖が成長因子GHRHに依存している癌の治療用の医薬を製造するための使用。
【請求項2】
前記タンパク質が生体外で培養された植物ピロカルパス・ヘテロフィルス(Pilocarpus heterophyllus)の細胞から抽出することによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
増殖が成長因子GHRHに依存している癌が小細胞肺癌及び乳癌の中から選択されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
増殖が成長因子GHRHに依存している癌が小細胞肺癌であることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
増殖が成長因子GHRHに依存している癌が乳癌であることを特徴とする請求項3に記載の使用。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2006−501229(P2006−501229A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530308(P2004−530308)
【出願日】平成15年8月25日(2003.8.25)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002570
【国際公開番号】WO2004/017987
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(591025473)ソシエテ・ド・コンセイユ・ド・ルシエルシエ・エ・ダアツプリカーション・シヤンテイフイツク・(エス.セー.エール.アー.エス) (1)
【氏名又は名称原語表記】SOCOETE DE CONSEILS DE RECHERCHES ET D’APPLICATIONS SCIENTIFIQUES(S.C.R.A.S.)
【Fターム(参考)】