説明

抗真菌剤としてのエル・カゼイ亜種パラカゼイの使用

本発明は、発酵乳製品に抗真菌特性を付与するため、特に該製品中の子嚢菌綱のカビの成長を阻害するためのエル・カゼイ亜種パラカゼイの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カビの発育に対して乳製品を保護するためのラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
食品貯蔵の改善を目的とする選択された微生物の使用は、何千年にもわたって知られている。これら微生物として、ヒト食物又は動物飼料を意図する乳製品、肉製品又は植物起源の製品を保存するために広く用いられる乳酸菌が挙げられる。乳酸菌による食品貯蔵の改善は、かなりの部分、乳酸菌が、発酵の間に、乳酸その他の有機酸を産生する能力に基づく。乳酸その他の有機酸は、培地のpHを下げて培地を望ましくない微生物(細菌及びカビ)の成長に好ましくなくすることによりこれら微生物の成長を阻害し、及び/又はそれら微生物に対して直接の毒性効果を有する。これら有機酸に加え、過酸化水素、ジアセチル又はナイシンのような抗真菌物質及び/又は抗菌物質を生成する乳酸菌も存在する。
【0003】
欧州出願第0221499号は、ラクトバチルス・カゼイ亜種ラムノサス(Lactobacillus casei ssp. rhamnosus)NRRL-B-15972の抗真菌特性について記載している。この細菌は、キュウリ汁を補った寒天培地で培養すると、ケトミウム・オリバシウム(Chaetomium olivacium)の成長を完全に阻害することができ、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)及びバーティシリウム(Verticillium)種の成長を部分的に阻害することができる。一方、この条件下で、この細菌は、ペニシリウム・オキサリカム(Penicillium oxalicum)の成長には効果を有しない。しかし、この微生物に対する阻害効果は、3.7のオーダーのpHのキュウリ(cucumber)汁でこの細菌を培養すると観察される。
【0004】
欧州出願第0576780号は、ラクトバチルス・カゼイ亜種ラムノサスLC-705の抗真菌効果について記載している。カゼイン加水分解物及び酵母エキスを補った乳清ベースの培地で得られるこの細菌の培養物は、ペニシリウム、クラドスポリウム(Cladosporium)、フサリウム(Fusarium)及びカンジダ(Candida)の成長を阻害することができる。
【0005】
PCT出願WO 97/36603は、ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイ(Lactobacillus casei ssp. casei)N94/49432の抗真菌効果について記載している。酵母エキスを補った合成培地で得られるこの細菌の培養物は、アルテルナリア(Alternaria)、ケトミウム、クラドスポリウム、コレトトリカム(Colletotrichum)、クニングアメラ(Cunninghamella)、ドチオレラ(Dothiorella)、ゲオトリクム(Geotrichum)、フォーマ(Phoma)及びホモプシス(Phomopsis)に対する抗真菌効果を有する。
【0006】
欧州出願第1308506号は、プロピオニバクテリウム・ジェンセニイ(Propionibacterium jensenii)とラクトバチルス・カゼイ亜種パラカゼイ(Lactobacillus casei ssp. paracasei)のある株との組合せの抗真菌及び抗菌効果について記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今回、ラクトバチルス・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌が、単独で、すなわち他の抗真菌性細菌、特にプロピオニバクテリウム・ジェンセニイと組み合わせることなく用いたとき、特にペニシリウム属のカビに対し、抗真菌活性を有することを見出した。
【0008】
この抗真菌活性は、以下の特徴を示す:
この活性は、エル・カゼイを合成培地で培養すると発現しないが、エル・カゼイを乳、又は乳ベース培地で培養すると5時間の培養から出現し始める。活性は、発酵の24〜48時間後に最大に達する。
この活性はpH感受性である。活性は、pH4未満で消失するが、pHを4より高く戻すと再び現れる。
この活性は熱にも感受性である。活性は、60℃で1分間の熱処理後に消失する。
この活性は、更に、ソルビン酸、プロピオン酸又は安息香酸のような(抗真菌活性について知られている)有機酸の生成に関連せず、過酸化水素の生成にも関連しない。これら物質は、抗真菌特性を有するエル・カゼイ亜種パラカゼイの培養物中で検出できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主題は、発酵乳製品に抗真菌特性を付与するためのエル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の使用である。
特に、本発明の主題は、エル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の存在下で、乳基質における抗真菌活性の出現に充分な期間、該乳基質を発酵させることを含むことを特徴とする、発酵乳製品中の子嚢菌綱のカビ、特にペニシリウム属のカビの発育を阻害する方法である。この抗真菌活性は、万一発酵後に前記カビが発酵乳製品中に混入した場合に、該カビの発育を阻害する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
有利には、発酵用乳基質に接種するために用いられるエル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の量は、乳基質1グラムあたり少なくとも106 cfuであり、好ましくは少なくとも107 cfuであり、有利には107〜108 cfuの間である。
【0011】
本発明による方法の好ましい実施形態によると、乳基質の発酵は、少なくとも5時間、好ましくは少なくとも15時間、最も好ましくは24〜48時間行われる。短い発酵時間で抗真菌活性を得るためには、比較的大量のエル・カゼイ亜種パラカゼイを用いることが好ましい。例えば、乳基質の発酵の5時間後に抗真菌活性を観察するためには、接種は、乳基質1グラム当たり少なくとも107 cfuの割合で行う。
【0012】
本発明による方法の別の好ましい実施形態によると、その方法は、必要に応じて、発酵基質のpHを4より高く、好ましくは4〜6.5の間の値に調整することを含む。
有利には、エル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌は、CNCM I-1518株の細菌である。この株は、特に、欧州出願第0794707号に記載されている。この細菌は、ブダペスト条約の規定に従って、1994年12月30日にCNCM (Collection Nationale de Cultures de Microorganismes;25 rue du Docteur Roux, Paris)に寄託された。
【0013】
本発明は、エル・カゼイ亜種パラカゼイの株の抗真菌活性を説明する実施例に言及する下記のさらなる記載からより明確に理解される。
【実施例】
【0014】
実施例1:エル・カゼイ亜種パラカゼイの存在下での発酵乳製品の抗真菌活性の証明
エル・カゼイ亜種パラカゼイを含む発酵乳製品(Actimel (登録商標)、CNCM I-1518株をエス・サーモフィラス(S. thermophilus)及びエル・ブルガリカス(L. bulgaricus)との組合せで含む)と、エス・サーモフィラス及びエル・ブルガリカスを含む発酵乳製品(対照)とに、102胞子の割合で6種の真菌を接種した:ムコール・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)(2株を試験した);ムコール・プランベウス(Mucor plumbeus);ペニシリウム・エクスパンサム(Penicillium expansum);ペニシリウム・ロケフォルティ(Penicillium roqueforti);ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)。
これらの種は、生乳製品が通常遭遇する混入の代表例である。
【0015】
次いで、製品を10℃にてインキュベートし、7日ごとに真菌の成長葉状体(growth thalli)の出現について検査する。
【0016】
ムコール種のかなりの発育が、2つの製品で、Actimel (登録商標)の場合は14日後から、対照製品の場合は7日後から観察される。一方で、Actimel (登録商標)では40日のインキュベーション後に極端に低い成長(凝集体)のペニシリウム、又は目視可能な成長のないペニシリウムが観察され、他方、対照製品の表面には侵襲が僅か14日で観察される。
【0017】
第2シリーズの実験では、CNCM I-1518株の抗真菌活性を、アンチバイオグラム(antibiogram)技術から派生した技術により評価した。この技術は、試験製品を寒天中に混合し(製品80%+15g/lの寒天溶液20%)、この混合物をペトリ皿に注ぐことからなる。
3枚の滅菌ペーパーディスクを固化した培地上に置き、試験カビの胞子100個(ピー・エクスパンサムLMSA 00 083)をそのディスク上に播く。
ペトリ皿を25℃及び10℃にてインキュベートする。真菌葉状体の直径を定期的に測定する。
【0018】
試験した製品は次のものである:Actimel (登録商標);CNCM I-1518株を含まずエス・サーモフィラス及びエル・ブルガリカスを含むActimel (登録商標)の乳ミックス;CNCM I-1518株の存在下で24時間発酵させた、エス・サーモフィラスもエル・ブルガリカスも含まないActimel (登録商標)の乳ミックス。
試験した各条件についての2回の試験結果を下記の表Iに示す。
【0019】
【表1】

【0020】
CNCM I-1518株を含む2つの製品(Actimel (登録商標);及びエス・サーモフィラスもエル・ブルガリカスも含まずにエル・カゼイを用いて24時間発酵させたActimel (登録商標)の乳ミックス)は、CNCM I-1518株を含まない製品(エル・カゼイを含まないActimel (登録商標)の乳ミックス)とは異なり、抗真菌活性を示す。
【0021】
実施例2:エル・カゼイ亜種パラカゼイによる発酵の間の抗真菌活性の出現の動態
抗真菌活性試験を、2%グルコース及び6%乳タンパク質(通常の脱脂乳タンパク質)を補い、107 cfu/mlの凍結乾燥形態のCNCM I-1518株を接種した脱脂乳から作製したミックスを用いて行った。ミックス試料を、CNCM I-1518の接種の前後、並びに発酵の15時間後、24時間後、48時間後及び72時間後に採取した。細菌の発育を阻止し試験の間の細菌の発育及び代謝を妨げるために、抗真菌活性試験の前に、採取して凍結した試料に10kGで照射した。試験試料を融解した後、試料のpHを6.2に調整した(出発ミックスのpH)。試験を上記の実施例1に記載されるとおりに行った。
これら試験の結果(葉状体の直径の測定)を下記の表IIに示す。用語「ディスク上の葉状体」及び「凝集体」とは、ディスク上のみで観察される真菌成長の痕跡のことをいう。
【0022】
【表2】

【0023】
これら試験は、抗真菌活性の早期出現を示す。この活性は、接種の初期に弱く存在するように見えることもあるが、発酵の15時間以降になって初めて明確に出現し、24時間〜48時間の間に最大に到達する。この活性は、48時間後に依然として存在し、pHが4を超えていれば72時間後でさえ存在する。
【0024】
実施例3:抗真菌活性のpH感受性
抗真菌活性試験を、実施例2と同じ条件下で、試験前にpHを調整せずに行った。
結果を下記の表IIIに示す。
【0025】
【表3】

【0026】
これら結果は、pHが4未満であると抗真菌能力が損なわれることを示す。
しかし、pHが4を超える値に戻れば抗真菌能力は回復するので、この活性の損失は可逆性でありそうである。
【0027】
実施例4:抗真菌活性に対する発酵培地の影響
抗真菌活性が培養培地と関連するかを調べるために、培養培地として、第1として、実施例2に記載した乳ミックス、第2として、以下の組成:10g/Lペプトン;10g/l肉エキス;5g/L酵母エキス;2g/Lリン酸水素2カリウム;2g/Lクエン酸アンモニウム;0.1g/L硫酸マグネシウム;0.05g/L硫酸マンガン;20g/Lグルコース;Tween 80:1ml;1Lまでの脱イオン水を有する合成培地を用いて試験を行った。これら培地に、107cfu/mlの凍結乾燥形態のCNCM I-1518株を接種した。培養の24時間後及び48時間後に、実施例2に記載されるとおりに、25℃にて7日間及び10℃にて20日間、抗真菌活性を試験した。
【0028】
培養を乳ミックスで行った場合、試験の温度に関係なく、真菌成長の完全な阻害が観察される。一方、培養を合成培地で行った場合、等しい細菌集団について阻害が観察されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵乳製品に抗真菌特性を付与するためのエル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の使用。
【請求項2】
エル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の存在下で、乳基質における抗真菌活性の出現に充分な期間、該乳基質を発酵させることを含むことを特徴とする、発酵乳製品中の子嚢菌綱のカビの発育を阻害する方法。
【請求項3】
前記発酵用の乳基質に接種するために用いられるエル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の量が、乳基質1グラムあたり少なくとも106 cfuであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵用の乳基質に接種するために用いられるエル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌の量が、乳基質1グラムあたり少なくとも107 cfuであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記乳基質の発酵が少なくとも5時間行われることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
必要に応じて、発酵基質のpHを4より高い値に調整することを含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記エル・カゼイ亜種パラカゼイ種の細菌が、CNCM I-1518株の細菌であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記子嚢菌綱のカビがペニシリウム属に属することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−505162(P2011−505162A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536502(P2010−536502)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001679
【国際公開番号】WO2009/098411
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(500223925)
【氏名又は名称原語表記】COMPAGNIE GERVAIS DANONE
【Fターム(参考)】