説明

抗真菌剤の合成用の中間体を調製する方法

【課題】大過剰の鏡像異性体でキラルヒドロキシエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ジオールを無水イソ酪酸で立体選択的にアシル化することにより、下式の結晶性キラルヒドロキシエステルを調製する方法。この方法は、適切な有機溶媒(例えば、アセトニトリル)中にて、低温で、ジオールと無水イソ酪酸およびリパーゼ酵素とを反応させることを包含する。この反応を合理的な速度で進行させて、ジエステルの形成を最小に保ちつつ、このキラルヒドロキシエステルを形成するために、充分な量の酵素および無水イソ酪酸が使用される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
1995年4月4日に発行された特許文献1、および1994年11月10日に公開された特許文献2は、抗真菌剤の合成用の中間体を製造する方法を開示している。次式の化合物:
【0002】
【化3】

は、酵素(最も好ましくは、Novo SP435)の存在下にて、適切な溶媒(例えば、トルエンまたはCHCN)中で、0℃〜35℃(好ましくは、約25℃)にて、穏やかなアシル化剤、好ましくは、式R-C(O)-OR(ここで、Rは、C〜Cアルキル、アリールまたは-(CH)COHであり、ここで、nは、1、2、3または4であり、そしてRは、トリフルオロエチル、C-CアルキルまたはC-Cアルケニルである)のエステル、最も好ましくは、酢酸ビニルで処理されて、次式のキラルヒドロキシエステルを形成できることが開示されている:
【0003】
【化4】

ここで、上式のXおよびXは、独立して、FまたはClである。
【特許文献1】米国特許第5,403,937号明細書
【特許文献2】国際公開第94/25452号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大過剰の鏡像異性体でキラルヒドロキシエステルを得るのが重要なことを考えると、このようなエステルを得る方法は、当該技術分野への好ましい貢献となる。本明細書中で記述の発明は、まさに、このような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明により、以下が提供される。
(項目1) 次式の結晶性キラルヒドロキシエステルを製造する方法であって:
【0006】
【化5】

該方法は、適切な有機溶媒中にて、次式のジオールと、有効量の無水イソ酪酸および有効触媒量のリパーゼ酵素とを反応させることを包含し:
【0007】
【化6】

該反応は、低温で行われ、ここで、XおよびXは、それぞれ独立して、FまたはClから選択される、方法。
(項目2) XおよびXが、Fである、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記無水イソ酪酸が、約1.05Meq〜約1.1Meqの量で使用される、項目1に記載の方法。
(項目4) 使用された前記酵素が、NOVO SP435である、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約3重量%〜約5重量%の量で使用される、項目4に記載の方法。
(項目6) 前記有機溶媒が、アセトニトリルである、項目1に記載の方法。
(項目7) 前記反応が、約−15℃〜約+5℃の温度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目8) 前記反応が、約−15℃〜約0℃の温度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目9) 使用された前記酵素が、NOVO SP435であり、そして前記反応が、約−15℃〜約+5℃の温度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約3重量%〜約7重量%の量で使用され、そして無水イソ酪酸が、約1.05Meq〜約1.1Meqの量で使用される、項目9に記載の方法。
(項目11) 前記有機溶媒が、アセトニトリルである、項目10に記載の方法。
(項目12) 前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約5重量%の量で使用される、項目11に記載の方法。
(項目13) 前記反応が、約−15℃〜約0℃の温度で行われる、項目12に記載の方法。
(項目14) XおよびXが、Fである、項目10に記載の方法。
(項目15) XおよびXが、Fである、項目11に記載の方法。
(項目16) XおよびXが、Fである、項目12に記載の方法。
(項目17) XおよびXが、Fである、項目13に記載の方法。
【0008】
本発明は、式2.0のジオールを無水イソ酪酸で立体選択的にアシル化することにより、式1.0の結晶性キラルヒドロキシエステルを調製する方法を提供する。この方法は、適切な有機溶媒(例えば、アセトニトリル)中にて、低温で、式2.0のジオールと無水イソ酪酸およびリパーゼ酵素とを反応させることを包含する。この反応を合理的な速度で進行させて、ジエステルの形成を最小に保ちつつ、このキラルヒドロキシエステルを形成するために、充分な量の酵素および無水イソ酪酸が使用される。
【0009】
それゆえ、本発明は、次式の結晶性キラルヒドロキシエステルを調製する方法に関し:
【0010】
【化7】

該方法は、適切な有機溶媒中にて、次式のジオールと、効果的な量の無水イソ酪酸および効果的な触媒量のリパーゼ酵素とを反応させることを包含し、該反応は、低温で行われ、ここで、XおよびXは、それぞれ独立して、FまたはClから選択される:
【0011】
【化8】


【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
ジオール(2.0)と無水イソ酪酸およびリパーゼ酵素との反応は、好ましくは、不活性雰囲気(例えば、窒素)下にて、行われる。また、この反応は、無水条件下にて行うのが、好ましい。
【0013】
式1.0および2.0の化合物では、XおよびXは、それぞれ、好ましくは、Fである。
【0014】
式2.0のジオールは、1995年4月4日に発行された米国特許第5,403,937号、および1994年11月10日に公開されたWO/94/25452に記述の方法に従って、調製できる;それぞれの開示内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0015】
この無水酪酸(以下、「無水物」と言う)は、有効量、すなわち、ジエステルの形成を回避しつつ、式1.0のモノキラルヒドロキシエステルを効果的に得る量で、使用される。不充分な量の無水物を使用すると、所望の鏡像異性体過剰(以下、「e.e.」と言う)が得られない。クエンチされていない(unquenched)過剰の無水物を使用すると、多量のジエステルが形成される。
【0016】
一般に、少なくとも約1モル当量(Meq)の無水物が使用され、約1Meq〜約1.1Meqが好ましく、約1.05Meq〜約1.1Meqはさらに好ましく、約1.1Meqは最も好ましい。
【0017】
過剰の(すなわち、1.1Meqより多い量の)無水物は、使用できるが、但し、所望のe.e.が得られるとすぐに、この反応混合物に、適切なクエンチ試薬が添加される。このクエンチ試薬は、残留する無水物と反応することにより、この反応を停止する。それゆえ、この無水物は、約1Meq〜約3Meqの量で使用できるが、但し、1.1Meqより多い量を使用するとき、所望のe.e.が得られるとすぐに(すなわち、約97%〜約100%のe.e.が得られるとすぐに)、この反応混合物に、適切なクエンチ試薬が添加される。このクエンチ試薬は、この反応を停止するために、残留無水物と反応する(すなわち、これを消費する)のに充分な量で、添加される。適切な反応停止試薬には、水およびアルコール(例えば、C〜Cアルカノール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
使用されるリパーゼ酵素は、単一キラルヒドロキシエステル(例えば、式1.0)が高いe.e.で形成されるように、対称的なプロキラルジオール(例えば、式2.0)のエステル化を触媒できるものである。そのS-モノエステルを生成するのに好ましい酵素試料は、NOVO SP435(Candida antartica、Novo NordiskのNovozym 435)の製品名称で市販されている。当業者は、これが、固定化形状のCandida antarticaであることを理解する。この酵素は、トリアシルグリセロール加水分解酵素(E.C. no. 3.1.1.3)であると報告されており、同時に、効果的なカルボキシルエステル分解酵素として作用する。
【0019】
この酵素は、有効な触媒量、すなわち、式2.0のジオールの式1.0のヒドロキシエステルへのエステル化を合理的な反応速度で効果的に触媒する量で、使用される。当業者は、この触媒が、(ジオール2.0の充填量に対して)、約1重量%〜約100重量%の量で使用できることを理解する。一般に、この酵素は、約1重量%〜約25重量%の量で使用され、約1重量%〜約10重量%が好ましく、約3重量%〜約7重量%はさらに好ましく、約5重量%は最も好ましい。
【0020】
適切な有機溶媒には、THF(テトラヒドロフラン)、酢酸エチル、アセトニトリル、トルエンおよび塩化メチレンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、アセトニトリルが使用される。当業者は、この溶媒が、これらの反応物を効果的に溶解しかつこの反応を合理的な速度で進行させる量で使用されることを理解する。例えば、アセトニトリルのような溶媒は、少なくとも約5wt容量(すなわち、ジオール2.0の量の少なくとも5倍(5X)過剰の容量)の量で使用でき、約5wt容量が好ましい。
【0021】
アセトニトリルは、この無水物と反応できる残留水(例えば、約0.03%〜約0.05%)を含有していてもよい。使用する無水物の量は、このアセトニトリル中に存在し得るいずれかの水を考慮する。例えば、1.1Meqの無水物の使用は、約0.05Meqの無水物とアセトニトリル中の残留水との反応、および約1.05Meqの無水物とジオール2.0との反応を考慮している。
【0022】
この反応は、不要な副生成物の形成を低減するのに充分に低い温度ではあるが、過度に長い反応時間を要する程に低くはない温度で、行われる。適切な温度は、約−15℃〜約+5℃であり、約−15℃〜約0℃が好ましい。
【0023】
望ましいなら、ヒドロキシエステル1.0は、当業者に周知の方法により、単離できる。例えば、単離は、重炭酸塩水溶液および水での処理に続いて、真空中でのヘプタンによる溶媒置換を用いて、達成できる。
【0024】
次の実施例は、本発明を例示することを意図しており、本開示または本発明を限定するものとして解釈するべきではない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
【0026】
【化9】

窒素下にて、ジオール2.1(80g)を、無水アセトニトリル400ml(5容量)に溶解した。この溶液に、重炭酸ナトリウム58.9gおよびNovozym SP 435(4.0g)を添加し、この混合物を、−10℃と−15℃の間の温度まで冷却した。この混合物を冷却したとき、この温度を維持しつつ、この撹拌溶液に、97%純度の無水イソ酪酸62.88gを充填した。等温で約20時間撹拌した後、約4%のジエステルレベルと共に、所望のe.e.%を得た。この反応物をセライトで濾過し、その濾過ケーキ(cake)を、アセトニトリル25ml部分で2回洗浄した。この溶液を、その最終pHが6.5と7との間になるまで、メチルt-ブチルエーテル800ml(10容量)で希釈し、次いで、5%重炭酸塩水溶液の600ml部分で連続的に3回洗浄し、そして脱イオン水600ml部分で連続的に2回洗浄した。この溶液を真空中で濃縮し、続いて、真空中で、ヘプタンで溶媒置換して、ヘプタン中の白色固形物スラリーを得た。その容量を、ヘプタンを用いて750ml(9容量)にした。この混合物を50℃〜60℃まで加熱して、溶液を得た。室温までゆっくりと冷却し、続いて、氷/アセトン浴で−12℃まで冷却することにより、濃厚スラリーを得た。30分間撹拌した後、真空濾過により生成物を単離し、そして−10℃ヘプタン80ml(1容量)で洗浄した。これにより、室温で真空乾燥した後、白色の針状物のヒドロキシエステル1.1(95.3g、理論値の91%)が得られ、これは、99%の純度および99.4%の補正e.e.%を有していた。補正e.e.%=(S-エステル%−R-エステル%)/(S-エステル%+R-エステル%+ジオール2.1)。濃縮および濾過により、その母液から、追加のヒドロキシエステル1.1(5g、理論値の5%、補正e.e.%=97.9%)を単離した。
1H-NMR(400 MHZ,CDCl3):δ7.53-7.47(m,1H),6.91-6.86(m,1H),6.83-6.78(m,1H),4.17-4.13(dd,1H),4.09-4.04(m,2H),3.87-3.84(dd,1H),3.69(s,2H),2.59-2.53(m,3H),2.19-2.2(dd,1H),1.17(s,3H),1.15(s,3H).
(実施例2)
【0027】
【化10】

窒素下にて、ジオール(2.1)8Kgを、アセトニトリル40リットル(5×)に溶解した。得られた混合物は、カールフィッシャー分析により、水0.9%を含むことを示した。これは、8モル%の水に相当する。重炭酸ナトリウムUSP(5.6Kg)を充填し、この溶液を約−10℃まで冷却した。この冷却溶液に、Novozyme SP 435(400グラム)を充填した。無水イソ酪酸5.92Kg(1.1当量)を充填し、この反応混合物を約−10℃で一晩撹拌した。16時間後、この酵素アシル化により、混合物が得られ、これは、98.3%のe.e.%を有し、4%のジエステルおよび0.6%のジオール(2.1)を含有していた。
【0028】
Chiralpak ASカラム(4.6mm×250mm)、溶媒としてヘプタン中の5%エタノール、1mL/分の流速、および215nmの波長に設定した検出器を用いて、HPLC分析を行い、16時間で取り出した試料について、以下の結果を得た:0.4%の出発物質;3.9%のジエステル;94.8%のS-エステル;および0.8%のR-エステル。
【0029】
(実施例3)
(比較例)
【0030】
【化11】

窒素下にて、ジオール(2.1)33Kgを、アセトニトリル165リットルに溶解した。この溶液に、Novozyme SP 435(1.65Kg)を充填し、この反応混合物を約0℃と約5℃の間まで冷却した。この撹拌溶液に、酢酸ビニル19.8Kgを添加した。4.5時間後、スパークラーでの濾過により、この反応混合物から、この酵素を除去した。
【0031】
この反応は、Chiralpak ASカラム(4.6mm×250mm)、溶媒としてヘプタン中の5%エタノール、1mL/分の流速、および215nmの波長に設定した検出器を用いたHPLCにより、追跡した。4.5時間後、HPLCにより、以下の結果を得た:0.4%の出発物質;31.0%のジエステル;68.0%のS-エステル;0.5%のR-エステル;および98.4のe.e.%。
【0032】
本発明は、上で示した特定の実施態様に関連して記述したものの、それらの多くの代替物、改良および変形は、当業者に明らかである。このような代替物、改良および変形は、本発明の精神および範囲の中に入ることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の結晶性キラルヒドロキシエステルを製造する方法であって:
【化1】

該方法は、適切な有機溶媒中にて、次式のジオールと、有効量の無水イソ酪酸および有効触媒量のリパーゼ酵素とを反応させる工程を包含し:
【化2】

該反応は、低温で行われ、ここで、XおよびXは、それぞれ独立して、FまたはClから選択される、方法。
【請求項2】
およびXが、Fである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無水イソ酪酸が、約1.05Meq〜約1.1Meqの量で使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
使用された前記酵素が、NOVO SP435である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約3重量%〜約5重量%の量で使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が、約−15℃〜約+5℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が、約−15℃〜約0℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
使用された前記酵素が、NOVO SP435であり、そして前記反応が、約−15℃〜約+5℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約3重量%〜約7重量%の量で使用され、そして無水イソ酪酸が、約1.05Meq〜約1.1Meqの量で使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素が、前記ジオール2.0の充填量を基準にして、約5重量%の量で使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応が、約−15℃〜約0℃の温度で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
およびXが、Fである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
およびXが、Fである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
およびXが、Fである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
およびXが、Fである、請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2007−20573(P2007−20573A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223570(P2006−223570)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【分割の表示】特願平9−522850の分割
【原出願日】平成8年12月18日(1996.12.18)
【出願人】(596129215)シェーリング コーポレイション (785)
【氏名又は名称原語表記】Schering Corporation
【Fターム(参考)】