説明

抗真菌組成物

【課題】薬物の抗真菌効力を高めた、治療効果の高い抗真菌組成物、および白癬症治療用抗真菌組成物の提供。
【解決手段】ベンジルアミン系抗真菌剤と、殺菌剤クロロブタノールとを含む抗真菌組成物および白癬症治療用抗真菌組成物。該ベンジルアミン系抗真菌剤としては、ブテナフィンまたはその塩であることが好ましい。角質貯留性、角質親和性、殺菌力に優れた抗真菌剤であるベンジルアミン系抗真菌剤に、クロロブタノールを配合することによって、抗真菌活性が格段に向上する効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールとを有効成分として含む抗真菌組成物に関し、特に白癬菌が皮膚に寄生して発病する表在性真菌症(足白癬、体部白癬、股部白癬など)に対し優れた治療効果を奏する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
表在性真菌症において、その原因となる真菌は主として皮膚角質層に侵入して増殖するので、抗真菌剤が表在性真菌症に対して優れた薬効を発揮するためには、薬物自体が強い抗真菌活性を有すること、感染部位への高い親和性を有することが必要である。近年、このような条件を満たすべく、優れた抗真菌活性と角質親和性を合わせ持つベンジルアミン系抗真菌剤が実用化されている。この抗真菌剤としては、ブテナフィンおよびその塩などが知られており、これらはいずれも単独使用で優れた作用を示すものであるが、副作用の軽減、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の改善、主薬原末コストの低減などを目的として、より強力な活性を示す抗真菌組成物の開発が望まれている。
【0003】
従来、ベンジルアミン系抗真菌剤を有効成分として含む抗真菌組成物として、塩酸ブテナフィン抗真菌剤に、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、クロタミトン、ハッカ油および1−メントールから選ばれる少なくとも1つを配合した角質貯留型抗真菌組成物(特許文献1)、および、ブテナフィンに、抗ヒスタミン剤、テルペン類化合物および尿素を配合した抗真菌組成物(特許文献2)が知られている。しかしながら、特許文献1および2の抗真菌組成物は、いずれも抗真菌剤の皮膚浸透性を向上させようというものであり、薬物自体の殺菌性を高めることを意図したものではなく、満足のできるレベルのものではなかった。
【0004】
また、ピロールニトリンと、ブテナフィンまたはその塩を含む抗真菌組成物が提案されている(特許文献3)。これは各単品に比べて強力な抗真菌効果を有し、白癬、渦状癬、黄癬、深在性白癬などの皮膚糸状菌症、皮膚粘膜カンジダ症、深在性カンジダ症などの真菌感染症の治療に有用であり、さらに副作用の軽減や患者のコンプライアンス改善などの点からも有用であると述べられている。しかしながら、この抗真菌組成物は上述した特定抗真菌剤同士を組合せた場合に殺菌活性が相乗的に向上するというものであり、汎用性が低く、コスト低減効果も低いという難点がある。
【0005】
一方、アリルアミン系抗真菌剤、ベンジルアミン系抗真菌剤およびモルホリン系抗真菌剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、塩酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノールおよび第4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む抗真菌組成物が提案されている(特許文献4)。しかしながら、ベンジルアミン系抗真菌剤とクロロブタノールの組み合わせについては、開示すらされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−20527号公報
【特許文献2】特開2002−284702号公報
【特許文献3】国際公開第00/62776号パンフレット
【特許文献4】特開2005−104915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、薬物の抗真菌効力を高め、治療効果の高い抗真菌組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、角質貯留性、角質親和性、殺菌力に優れた抗真菌剤であるベンジルアミン系抗真菌剤に、クロロブタノールを配合すると、上記薬物の抗真菌活性が格段に向上することを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールとを含む抗真菌組成物に関する。
【0010】
該ベンジルアミン系抗真菌剤が、ブテナフィンまたはその塩であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールを含む白癬症治療用抗真菌組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベンジルアミン系抗真菌剤の抗真菌効力を高め、特に白癬症に対する治療効果の高い製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗真菌組成物は、ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールとを含む。
【0014】
本発明で用いられるベンジルアミン系抗真菌剤の代表例は、ブテナフィンまたはその塩である。塩としては、特に限定されないが、塩酸塩のような薬理上許容できる無機塩であることが好ましい。
【0015】
本発明の抗真菌組成物中に含まれるベンジルアミン系抗真菌剤の含有割合は、特に限定されないが、組成物全量中0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2.5重量%である。抗真菌成分の含有割合が少な過ぎると、十分な抗真菌効果が発揮されないが、本発明の抗真菌組成物においては、この程度の含有割合でもクロロブタノールと組合せることで十分に高い抗真菌効力を有する。
【0016】
本発明の抗真菌組成物中に含まれるクロロブタノールの含有割合は、特に限定されないが、ベンジルアミン系抗真菌剤1重量部に対し、0.0002〜50重量部、好ましくは0.005〜20重量部、より好ましくは0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.002〜2重量部である。この範囲内であれば、ベンジルアミン系抗真菌剤と組合せることで、特に優れた抗真菌効力を有する抗真菌組成物とすることができる。
【0017】
本発明の抗真菌組成物には、ベンジルアミン系抗真菌剤およびクロロブタノール以外に、保存剤、有機・無機粉末、防腐剤、滑沢剤、キレート剤、香料、溶剤、溶解補助剤、pH調整剤、酸化防止剤、保湿剤、保型剤など(以下、「添加成分」という)や、他の抗真菌剤、殺菌剤、抗炎症剤、鎮痒剤、清涼化剤、収斂剤、血行促進剤、皮膚保護剤、組織修復剤など(以下、「他の有効成分」という)を必要に応じて配合してもよい。
【0018】
他の抗真菌剤としては、例えば、アリルアミン系抗真菌剤、モルホリン系抗真菌剤、イミダゾール系抗真菌剤などがあげられる。アリルアミン系抗真菌剤としては、テルビナフィン、ナフチチンおよびそれらの塩が、モルホリン系抗真菌剤としては、アモロルフィンおよびそれらの塩が、イミダゾール系抗真菌剤としては、イミダゾール、ミコナゾール、ネチコナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾールおよびそれらの塩などがあげられる。
【0019】
殺菌剤としては、塩酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、第四級アンモニウム塩などがあげられる。第四級アンモニウム塩とは、カチオン界面活性剤のうち第四級アンモニウム塩に属するものをいい、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウムなどがあげられる。
【0020】
抗炎症剤としては、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、アラントイン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、l−メントール、dl−メントール、dl−カンフルなどがあげられる。
【0021】
鎮痒剤としては、リドカイン、塩酸リドカイン、ジブカイン、塩酸ジブカイン、塩酸プロカイン、アミノ安息香酸エチル、オキシポリエントキシドデカン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、クロタミトンなどがあげられる。
【0022】
有機・無機粉末としては、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、カラミン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、カオリン、アエロジル、マイカ、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、二酸化ケイ素などがあげられる。
【0023】
本発明の抗真菌組成物は、皮膚疾患の治療に用いられる通常の剤形で用いられる。剤形の例としては、液剤、ゲル剤、軟膏剤(油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏)、リニメント剤、ローション剤、散剤、乳化・懸濁剤、チンキ剤、膣坐剤、エアゾール剤などがあげられ、好ましくは外用剤である。
【0024】
本発明による抗真菌組成物は、適当な基剤を用いて慣用の方法により上記の剤形に製剤化することができる。
【0025】
基剤の例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル、オレイン酸オレイル、アジピン酸ジイソプロピル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40,45,55、セバチン酸ジエチル、ソルビタン脂肪酸エステル、パルミチン酸イソプロピル、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタンなどの脂肪酸エステル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、マクロゴールなどの界面活性剤、カルボキシビニルポリマー、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの高分子、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、エチレングリコールなどのアルコール系溶剤、精製水など、液化可能な炭化水素、たとえば、プロパン、ブタン穎、ペンタン、イソペンタン、ネオペンタンなどやその混合物などからなる噴射剤やフェノール類などがあげられ、目的とする剤形に応じて適宜選択される。
【0026】
製剤の代表的なものは下記のように調製される。
【0027】
液剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどのアルコール系溶剤、精製水などの基剤に、ベンジルアミン系抗真菌剤、クロロブタノール、必要に応じて加えられる添加成分、および他の有効成分を均一に混合してなる。
【0028】
軟膏剤は、ワセリン、白ロウ、パラフィン、植物油、プラスチベース、ポリエチレングリコール、マクロゴールなどの基剤に、ベンジルアミン系抗真菌剤、クロロブタノール、必要に応じて加えられる添加成分、および他の有効成分を均一に混合してなる。
【0029】
ゲル剤は、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、精製水、低級アルコール、多価アルコール、ポリエチレングリコールなどの基剤に、ベンジルアミン系抗真菌剤、クロロブタノール、必要に応じて加えられる添加成分、および他の有効成分を均一に混合してなる。
【0030】
エアゾール剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、エチレングリコール等のアルコール系溶剤、精製水などの基剤に、ベンジルアミン系抗真菌剤、クロロブタノール、必要に応じて加えられる添加成分、および他の有効成分を均一に混合し、得られた混合物をバルブ、アクチュエータなどを備えた容器に液化可能な炭化水素、例えばプロパン、ブタン穎、ペンタン、イソペンタン、ネオペンタンなどやその混合物などの噴射剤とともに充填してなる。
【0031】
本発明による抗真菌組成物中のベンジルアミン系抗真菌剤の投与量は、剤形、クロロブタノール、他の有効成分などの含有量比率、真菌の種類や症状の程度などに応じて選択されるが、0.03〜10mg/日、好ましくは0.06〜5mg/日の範囲である。投与回数は1日に1回でよい。
【実施例】
【0032】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記実施例や処方例に限定されるものではない。
【0033】
試験検体の調製
以下の溶液(1)〜(7)をそれぞれ調製した。
溶液(1)塩酸ブテナフィン溶液
塩酸ブテナフィンの4重量%エタノール溶液
溶液(2)塩酸テルビナフィン溶液
塩酸テルビナフィンの4重量%エタノール溶液
溶液(3)塩酸アモロルフィン溶液
塩酸アモロルフィンの0.06重量%エタノール溶液
溶液(4)クロロブタノール溶液
クロロブタノールの4重量%エタノール溶液
溶液(5)塩化ベンザルコニウム溶液
塩化ベンザルコニウムの0.1重量%エタノール溶液
溶液(6)塩酸クロルヘキシジン溶液
塩酸クロルヘキシジンの2重量%エタノール溶液
溶液(7)IPMP溶液
イソプロピルメチルフェノール(IPMP)の6重量%エタノール溶液
【0034】
実施例1および比較例1〜14
調製した溶液(1)〜(7)、ジメチルスルホキシドおよび蒸留水を表1〜3に従い、混合し、試験検体を調製した。調製した試験検体を用いて、以下のとおり評価した。
【0035】
菌液の調製
真菌Tricophyton mentagrophytesをサブロー寒天培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)上に25℃で5〜10日間培養した後、日本薬局方 滅菌生理食塩水(大塚製薬社製)にTween80(片山化学社製)を0.05重量%配合した菌懸濁用液にて遊離させ、滅菌済みフィルター(100μm、セルストレイナー:FALCON社製)で濾過して、菌の懸濁液(菌数10〜10個/μl)を作製した。
【0036】
評価方法
複数列に並ぶ96個のウェルを有するマイクロプレートの各ウェルにSabraud Liquid Broth Modified Antibiotic Medium 13(BECTON DICKINSON社製)(溶解する精製水量を1/2量にしたもの)を100μlずつ分注した。
実施例1で調製した試験検体をマイクロプレートの1列目のウェルに100μlずつ分注し、よく懸濁させた。1列目のウェル中の懸濁液を2列目のウェルに移し、よく懸濁させた。この操作を3列目、4列目・・・と、次の隣接列の方向へ順次繰り返し、希釈系列を作製した。
【0037】
各ウェルに菌の懸濁液を5μlずつ接種し、菌を温度37℃で48時間培養し、さらに25℃で1週間培養を続けた後、目視で残存生菌の有無を判定した。
【0038】
こうして液体希釈法によりMIC(最小発育阻止濃度:μg/ml)値を測定した。比較例1〜14で調製した試験検体についても、上記と同様の操作を行い、MIC値を判定した。得られたMIC値を表1〜3に示す。また、各抗真菌剤を単独で使用した場合のMIC値(比較例1、比較例6、比較例11)を、各殺菌剤と組合せて使用した場合のMIC値を除算し、得られた「相対的抗真菌活性」も合わせて表1〜3に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3の結果から分かるように、抗真菌剤として塩酸アモロルフィンを使用した場合、クロロブタノールと併用すると(比較例10)、塩酸アモロルフィンを単独で使用した場合(比較例11)に比べて抗菌活性は低下した。また、塩酸テルビナフィンを使用した場合、クロロブタノールと併用すると(比較例5)、塩酸テルビナフィンを単独で使用した場合(比較例6)に比べて抗菌活性は向上するものの、その効果は15倍程度にとどまった。一方、抗真菌剤として塩酸ブテナフィンを使用した本願発明の場合には、クロロブタノールと併用すると(実施例1)、塩酸ブテナフィンを単独で使用した場合(比較例1)よりも抗菌活性が100倍以上の著しい向上効果がみられた。このような相乗効果は、クロロブタノールと併用した場合にのみ発現し、同様に殺菌剤、防腐剤としての用途が知られる塩化ベンザルコニウム(比較例2)、塩酸クロルヘキシジン(比較例3)、IPMP(比較例4)と併用した場合には観察できなかった。このように、抗真菌成分として一般に第3世代抗真菌剤といわれるもののなかでも、塩酸ブテナフィンを用いた場合のみ、クロロブタノールと併用することで高い抗真菌効果を示すことが分かる。また、Trichophyton ruburum及びCandida albicansに対しても同様の抗真菌効果を示した。
【0043】
以下の処方例に従い、各製剤を調製した。各製剤についても実施例と同様に優れた抗真菌効果を示した。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
【表7】

【0048】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の抗真菌組成物は、抗真菌活性が著しく高く、白癬菌が皮膚に寄生して発病する表在性真菌症(足白癬、体部白癬、股部白癬など)に対し好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールとを含む抗真菌組成物。
【請求項2】
該ベンジルアミン系抗真菌剤が、ブテナフィンまたはその塩である請求項1記載の抗真菌組成物。
【請求項3】
ベンジルアミン系抗真菌剤と、クロロブタノールを含む白癬症治療用抗真菌組成物。

【公開番号】特開2011−207835(P2011−207835A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78724(P2010−78724)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】