説明

抗糖尿病剤、およびその利用

【課題】糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する新規な抗糖尿病剤を提供する。
【解決手段】6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシドを有効成分として含有する抗糖尿病剤を提供する。該抗糖尿病剤は、高いα−グルコシダーゼ阻害活性及び/又は抑制活性を有することにより、食事により摂取された糖の消化・吸収を阻害し、その結果、食後の過血糖状態を抑制することにより、糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖尿病剤に関する。より詳しくは、優れた抗糖尿病活性を有するフラボノイド配糖体である6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、摂取カロリーの過多が生活習慣病の原因となっていることから、摂取カロリーの制限が求められている。代表的な生活習慣病のうち、我が国において最も患者数が多い生活習慣病の一つが、糖尿病である。糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの分泌低下、インスリン抵抗性などにより、慢性的に血液中のブドウ糖が増加した状態になる代謝性疾患である。
【0003】
インスリンは、血液中のブドウ糖の利用と蓄積などに関与し、血糖値のコントロールに重要な役割を果たす。健常人においては、食事により炭水化物が摂取され、該炭水化物由来の糖分が消化管から吸収されて血糖が上昇すると、膵臓から十分なインスリンが分泌され、血糖値の急激な上昇を防止する。しかし、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊されることによるインスリン枯渇(I型糖尿病)や、インスリン分泌能の低下、インスリン抵抗性(II型糖尿病)などにより、インスリンがうまく作動しないと、慢性的に血糖値が高くなる。
【0004】
糖尿病の治療には、様々な治療方法が用いられている。例えば、インスリンの分泌促進を目的とするスルホニル尿素(SU)剤、糖の消化・吸収阻害を目的とするα−グルコシダーゼ阻害剤、糖の代謝促進を目的とするビグアナイト(BG)剤、などを1種又は2種以上併用する薬物療法、インスリン療法、などがある。この中でもα−グルコシダーゼ阻害剤を用いた薬物療法は、初期の糖尿病患者の食後の高血糖の防止を初め、他の治療剤により空腹時の血糖値は維持されているものの食後の高血糖によるヘモグロビンA1C高値患者、更に、インスリン療法を行うI型糖尿病患者への有効性も認められ、非常に注目されている。
【0005】
ここで、本発明に関連のある事項として、配糖体について、以下説明する。配糖体は、様々な効能を持つ化合物として、古くから多くの薬剤や食品等に用いられている。例えば、心筋に特異的に作用し、強心配糖体と呼ばれるステロイド配糖体などが代表的である。その他、酵素阻害作用、抗菌作用、抗酸化作用などを有する配糖体も多く知られている。
【0006】
配糖体は、非糖成分であるアグリコンと、糖などが脱水縮合してできた物質であるが、この配糖体を構成する「アグリコン」が同一であっても、「糖」が異なることにより、その性質は全く異なる。例えば、非特許文献1および2に記載されているように、イソクエルシトリンとルチンは、両者共アグリコンはケルセチンと同一であるが、「糖」がグルコースとルチノースという違いがあるために、その性質が全く異なっている。「糖」がグルコースであるイソクエルシトリンは、小腸上皮細胞の酵素により分解されて吸収・代謝されるのに対し、「糖」がルチノースであるルチンは、小腸では分解されず、そのまま通過して、大腸内の腸内細菌によって加水分解を受けなければ、吸収・代謝されないことが分かっている。
【0007】
このように、配糖体は、その構造の違いにより、様々な性質を示すことから、新たな機能を持つ配糖体の研究開発が進められているが、まだまだ、未知の機能を有する配糖体が存在するのが現状である。
【0008】
次に、本発明に特に関連のある6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)について、以下説明する。
【0009】
6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(6-hydroxykaempferol-3-O-rutinoside)は、化学式C212916のフラボノイド配糖体であり、ケンフェロール(kaempferol;3,4',5,7-tetrahydroxyflavonol)の6位に水酸基を有する化合物、いわゆる6−ヒドロキシケンフェロール(6-hydroxykaempferol)の3位にルチノースが結合した配糖体である。
【0010】
6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)に関して、例えば、以下の文献がある。
【0011】
非特許文献3では、植物(Marrubium velutinumとMarrubium cylleneum)から単離された6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)が、チロシナーゼ阻害活性を示すと報告されている。非特許文献4では、植物(Chimarrhis turbinata)の葉から単離された6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)が、抗酸化活性を示すフラボノイド配糖体として報告されている。非特許文献5には、ベニバナ花弁中のフラボノイド配糖体の例示があり、その一成分として6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)が報告されている。非特許文献6には、抗酸化活性を示す植物、牛耳楓(Daphniphyllum calycinum Benth)の活性成分として、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)が報告されている。非特許文献7には、中国で民間伝承的に使われているトウダイグサ科の植物、牛耳楓(Daphniphyllum calycinum Benth)の葉から単離された6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)が、抗酸化活性を示すフラボノイド配糖体として報告されている。
【0012】
また、特許文献1には、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)とは「糖」部分が異なっている、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−グリコシドに関して、α−グルコシダーゼ阻害活性と、血糖値上昇抑制効果について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−231101
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Environ. Mutagen Res., 26: 241-246 (2004)
【非特許文献2】特定保健用食品評価書 燕龍茶レベルケア 2006年3月 食品安全委員会 新開発食品専門調査会発行
【非特許文献3】Bioorganic & Medicinal Chemistry (2007), 15(7), 2708-2714
【非特許文献4】Journal of the Brazilian Chemical Society (2005), 16(6B), 1353-1359
【非特許文献5】Foods & Food Ingred. J. Jpn (2000), No.189, 5-14
【非特許文献6】Combinatorial Chemistry and High Throughput Screening (1998), 1(1), 35-46
【非特許文献7】Journal of Natural Products (1998), 61(5), 706-708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の通り、生活習慣病として増加の一途をたどる糖尿病の治療薬として、様々な種類の薬剤が開発されつつあるが、糖尿病患者は、高血圧症や高脂血症などを合併することが多く、あらゆる薬剤との併用や副作用の問題が付きまとうのが現状である。そのため、糖尿病の治療または予防に用いることのできる薬剤の選択肢を増やすこと、および副作用の少ない薬剤を見出すことが非常に重要視されている。
【0016】
そこで、本発明では、糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する新規な抗糖尿病剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、抗糖尿病剤を副作用の少ない天然植物から得るため、種々の未知の植物を探索し、各種評価を行なった。その結果、キク科植物ベニバナ(学名「Carthamus tinctorius L.」、以下同じ)の花弁粗抽出物に抗糖尿病作用があることを見出し、この花弁粗抽出物を吸着剤に接触させて精製し、抗糖尿病組成物を得た(WO2005/094858号公報参照)。この抗糖尿病組成物の有効成分は不明であったが、本発明者らは、抗糖尿病組成物中に含まれる種々の成分から有効成分を単離精製するため、ベニバナの花弁の抽出方法及び花弁粗抽出物の単離精製方法について鋭意検討を行った結果、ついに本発明において、その有効成分の単離に成功した。
【0018】
即ち、本発明では、まず、下記「化1」の化学式(1)で示される構造を有する6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有する抗糖尿病剤を提供する。
【化1】

本発明に係る抗糖尿病剤は、α−グルコシダーゼ阻害活性及び/又は抑制活性を有することにより、糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する。
本発明に係る抗糖尿病剤は、薬理学的に許容され得る添加剤を加え、糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬品組成物に用いることができる。
また、本発明に係る抗糖尿病剤は、薬理学的に許容され得る食品原料を加え、糖尿病の予防用及び/又は改善用食品組成物に用いることができる。
さらに、上記「化1」の化学式(1)で示される構造を有する6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)は、α−グルコシダーゼ阻害剤の有効成分として用いることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る抗糖尿病剤は、糖尿病の予防および/または治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で得られた6‐ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)のHPLCチャートを示す図面代用グラフである。
【図2】実施例1で得られた6‐ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)のUVチャートを示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0022】
<抗糖尿病剤>
本発明に係る抗糖尿病剤は、前記化学式で示される構造を有する6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有する。本発明に係る抗糖尿病剤は、α−グルコシダーゼ阻害活性及び/又は抑制活性を有することにより、糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する。即ち、高いα−グルコシダーゼ阻害活性及び/又は抑制活性を有することにより、食事により摂取された糖の消化・吸収を阻害し、その結果、食後の過血糖状態を抑制することにより、糖尿病の予防および/または治療に優れた効果を発揮する。
【0023】
本発明に係る抗糖尿病剤の適用量は、年齢、症状等によって自由に設定することが可能である。一例を挙げると、成人1回につき6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)1〜500mg程度が好ましく、5〜300mg程度がより好ましい。
【0024】
本発明に係る抗糖尿病剤に用いる前記6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)は、例えば、所定の植物から成分を抽出し、分離・精製することにより得ることができる。この化合物を含有する植物としては、例えば、ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)、Marrubium velutinum、Marrubium cylleneum、Chimarrhis turbinata、牛耳楓(Daphniphyllum calycinum Benth)、などが挙げられる。
【0025】
抽出に用いる溶媒も特に限定されず、通常、植物抽出に用いることができる溶媒を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノール及びプロパノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは水溶液として用いても良く、任意の2種または3種以上の混合溶媒として用いても良い。
【0026】
抽出方法も特に限定されず、通常、植物抽出で行う抽出方法を自由に選択して用いることができる。例えば、前記溶媒に前記植物の任意の部位を長時間浸漬した後に濾過する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、攪拌等しながら抽出した後に濾過する方法、などが挙げられる。
【0027】
抽出した各種植物抽出物は、更に、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマト法など)により活性の高い画分を分画・回収および精製することにより、前記6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を得ることができる。
【0028】
<糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬品組成物>
本発明に係る抗糖尿病剤は、その優れた糖尿病の予防および/または治療効果を利用して、医薬品組成物に好適に用いることができる。該医薬品組成物は、あらゆる剤型の医薬品に適用することができる。例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤、などの経口剤、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、などの外用剤、または注射剤に適用することができる。
【0029】
本発明に係る医薬品組成物には、薬理学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本発明に係る医薬品組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0030】
また、本発明に係る医薬品組成物を外用剤に適用させる場合、基剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、着色剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0031】
また、本発明に係る医薬品組成物を注射剤に適用させる場合、例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0032】
本発明に係る抗糖尿病剤は、その有効成分が植物由来の化合物であるため、多剤との併用を注意する必要性が低い。そのため、既存のあらゆる薬剤を1種または2種以上自由に選択して、合剤とすることもできる。例えば、冠血管拡張剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、ビタミン剤、性ホルモン剤、抗うつ剤、脳循環改善剤、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、麻酔剤、抗真菌剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、制吐剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。
【0033】
本発明に係る抗糖尿病剤は、経口投与、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、などにより全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは投与部位において、局所的に効果を発揮したりする。
【0034】
本発明に係る医薬品組成物において、抗糖尿病剤の含有量は特に限定されず、年齢、症状等の目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0035】
以上説明した本発明に係る医薬品組成物を用いた医薬品は、その有効成分が植物由来の化合物であるため、種々の疾患を罹患した患者に対しても安心して投与できる可能性も高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。
【0036】
<糖尿病の予防用及び/又は改善用食品組成物>
本発明に係る抗糖尿病剤は、その優れた糖尿病の予防および/または改善効果を利用して、食品に好適に含有させることができる。例えば、牛乳、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶などの飲料、醤油などの調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリームなどの冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類などの加工食品など、あらゆる飲食物に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品、飲料を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食にも用いることができる。あるいは、口中に一時的に含むもの、例えば、歯磨剤、染口剤、チューインガム等に含有させることもできる。更に、牛、馬、豚などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラなどの家禽類、爬虫類、鳥類あるいは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などの飼料にも使用することも可能である。
【0037】
本発明に係る食品組成物には、本発明に係る抗糖尿病剤に加え、通常食品に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0038】
また、本発明に係る抗糖尿病剤は、その有効成分が植物由来の化合物であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、食品組成物には、本発明に係る抗糖尿病剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0039】
食品組成物における抗糖尿病剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。これらの食品組成物には、必要に応じて、糖尿病の予防及び/又は改善に用いられるものである旨が表示される。
【0040】
以上説明した本発明に係る抗糖尿病剤を含む食品組成物は、その有効成分が植物由来の化合物であるため、安全性が高く、長期間、連続的な摂取が可能である。
【実施例1】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
実施例1では、本発明に係る抗糖尿病剤の調製を行った。
なお、本実施例では、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を含有する植物の一例として、ベニバナを用いた。
【0043】
<抽出・分離・精製>
まず、ベニバナ乾燥花弁の85%エタノール抽出物20gから、ヘキサン可溶部および酢酸エチル可溶部を取り除き、水可溶部を得た。これを、ポリアミドカラムで水溶出部、メタノール・エタノール溶出部、1%アンモニア/メタノール溶出部に順次分画し、水溶出部13.5g、メタノール・エタノール溶出部1.10gおよび1%アンモニア/メタノール溶出部2.10gを得た。
【0044】
前述の操作を繰り返すことで得られたメタノール・エタノール溶出部2.3gを、セファデックスLH−20カラムで、60%メタノール、80%メタノール、100%メタノールに順次展開溶媒を変えながら溶出させ、60%メタノールで溶出したHPLC保持時間12minの目的物(1)をHPLCで確認し濃縮した。さらにこのサンプルを、水で再結晶を行い、目的とする6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を15mg得た。
【0045】
HPLC測定とUV測定の結果を、それぞれ図1及び図2に示す。なお、測定条件は、それぞれ次の通りである。
【0046】
(1)HPLC測定条件
Column:Inertsil ODS-3 4.6mmφx250mm
Eluent:MeOH / H2O / AcOH=40 / 60 / 0.5
Oven:35℃
Flow rate : 1.0ml/min
Pomp:HITACHI L-7100
Detecter:HITACHI Diode Array L-7455
Detect:350nm
Sample inject Volume:10μl
【0047】
(2)UV測定条件
機種:HITACHI U-2010形分光光度計
Mode:Abs
Limts:0.0 to 2.0
WL scan speed:400nm/min
WL Limts:210.0 to 600.0nm
Back round:no
No. of Repeat:1
Cycle Time:0
Response:Medium
Lamp Chane:Auto
Recording:no
WL Scale:nm/cm
Line:Solid
Cell:石英ガラスセル10mm
【0048】
<構造決定>
次に、単離精製した6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)について、核磁気共鳴分光法(NMR)により構造を決定した。1H−核磁気共鳴スペクトル及び13C−核磁気共鳴スペクトルデータは以下の通りである。また、単離精製された6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)は、淡黄色結晶であり、融点は187〜189℃であった。高分解能エレクトロスプレー方式イオン化飛行時間型質量分析計(HR-ESI-TOF-MS、negativeモード)によりm/z 609.1460[M-H]-が観測され、その分子式はC272916(calcd. C272916 609.1456)であると示された。
【0049】
(1)1H−核磁気共鳴スペクトル
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6)δ:
6.52(1H,s)8-H
7.97(2H,dd,J=6.8Hz, 2.0Hz)2’-H,6’-H
6.87(2H,dd,J=6.8Hz, 2.0Hz)3’-H,5’-H
5.31(1H,d,J=7.6Hz) 3-O-Glc ,1-H
4.38(1H,bs) 6-O-Rha ,1-H
0.99(3H,d,J=6.3Hz) 6-O-Rha ,6-H
【0050】
(2)13C−核磁気共鳴スペクトル
13C-NMR(125MHz, DMSO-d6)δ:
156.63 (C-2)
132.73 (C-3)
177.29 (C-4)
146.31 (C-5)
128.88 (C-6)
153.47 (C-7)
93.48 (C-8)
148.92 (C-9)
104.17 (C-10)
121.02 (C-1’)
130.71 (C-2’)
114.91 (C-3’)
159.61 (C-4’)
114.91 (C-5’)
130.73 (C-6’)
101.35 (3-O-Glc ,C-1)
74.06 (3-O-Glc ,C-2)
75.56 (3-O-Glc ,C-3)
69.80 (3-O-Glc ,C-4)
76.25 (3-O-Glc ,C-5)
66.81 (3-O-Glc ,C-6)
100.66 (6-O-Rha ,C-1)
70.21 (6-O-Rha ,C-2)
70.46 (6-O-Rha ,C-3)
71.68 (6-O-Rha ,C-4)
68.14 (6-O-Rha ,C-5)
17.64 (6-O-Rha ,C-6)
【実施例2】
【0051】
実施例2では、本発明に係る抗糖尿病剤のα−グルコシダーゼ活性阻害効果の検討を行った。具体的には、実施例1で調製した6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を用いて、α−グルコシダーゼ活性阻害試験を行った。
【0052】
ラットアセトン粉末(SIGMA社製)に9倍量の0.05Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)を加え、超音波処理後、3000rpm・10分間遠心、上清を酵素液とした。マレイン酸緩衝液(pH6.0)に所定の濃度で溶解した試験物質50μLに、マレイン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した2%ショ糖50μLを加え、37℃・5分間プレインキュベートした。その後、マレイン酸緩衝液(pH6.0)で2倍希釈した酵素液を50μL加え、37℃・60分間反応させた。反応終了後、95℃・10分間で酵素を失活させ、15000rpm・10分間遠心後、上清中のグルコース量をシンクロンCX(ベックマン社製)にて測定した。
【0053】
コントロールとしては、前記試料溶液としてマレイン酸緩衝液(pH6.0)のみの溶液を使用したものを、ネガティブコントロールとして用いた。また、前記試料溶液として、α−グルコシダーゼ阻害薬であり食後過血糖改善薬として用いられるアカルボースの溶液を用い、ポジティブコントロールとした。
【0054】
結果を下記「表1」に示す。表1中の数値は、各酵素阻害活性を示す値(%)であり、各サンプルを用いた場合におけるグルコース量を、マレイン酸緩衝液を用いた場合(ネガティブコントロール)におけるグルコース量で除することにより算出した。
【0055】
【表1】

【0056】
前記「表1」に示す通り、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を0.2%添加した場合、α−グルコシダーゼ活性は15%に抑制された。また、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を2.0%添加した場合にあっては、α−グルコシダーゼ活性は8%と、顕著に抑制された。このことから、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有する本発明に係る抗糖尿病剤は、優れたα−グルコシダーゼ阻害活性を有することが示された。
【実施例3】
【0057】
実施例3では、本発明に係る抗糖尿病剤の血糖値上昇抑制効果の検討を行った。具体的には、実施例1で調製した6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を用いた。
【0058】
ラット(SD、雄、5週齢)を、オリエンタル酵母より購入し、1週間の馴化を行った。試験前日より17時間絶食させた後、体重測定を行った。また、尾静脈より採血し、血糖値をアントセンスII(バイエルメディカル社製)にて測定した。体重および血糖値が各群で均一になるように群分けを行い、1群あたり3匹とした。試験物質15mg/kg、ショ糖(和光純薬製)2g/kgを、ゾンデを用いて強制経口投与した。6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)は低溶解性の為、投与溶媒は40%DMSO、60%蒸留水とした。投与30分、60分後に尾静脈より採血し、血糖値をアントセンIIにて測定した。
【0059】
コントロールとしては、前記投与溶液の代わりに40%DMSO、60%蒸留水のみの溶液と、ショ糖(和光純薬製)2g/kgを投与して同様に測定した。また、前記特許文献1に記載された6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−グリコシドを比較例として用いた。
【0060】
投与後の血糖値の増加量(血糖上昇値(mg/dL))を、下記「数1」の式により求めた。また、下記「数2」の式により血糖値上昇抑制率(%)も求めた。
【0061】
【数1】

【0062】
【数2】

【0063】
投与後の血糖値の増加量(血糖上昇値(mg/dL))を下記「表2」に、また、下記表2の投与30分後の血糖上昇値から上記「数2」の式を用いて求めた30分後の血糖値上昇抑制率(%)を下記「表3」に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
前記「表2」に示す通り、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を投与したラットでは、投与後30分、60分において、コントロールおよび6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−グリコシドを投与したラットに比べ、血糖値の増加が抑えられた。また、前記「表3」に示す通り、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を投与したラットでは、30分後の血糖値上昇抑制率が、コントロールの0%に対して、62%になった。また、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−グリコシドを投与したラットの39%に比べても、30分後の血糖値上昇抑制率は、明らかに大きな値になった。以上より、6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有する本発明に係る抗糖尿病剤は、顕著な血糖値上昇抑制作用を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る抗糖尿病剤は、その有効成分が植物由来の化合物であるため、副作用等の心配が少なく、他剤との併用を注意する必要性も低く、長期間、連続的な投与が可能である。また、本発明に係る抗糖尿病剤を配合した医薬品組成物および食品組成物は、容易に服用または摂取することができ、安全性が高く、長期連続的な糖尿病の予防及び/又は改善への貢献が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される構造を有する6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有する抗糖尿病剤。

【請求項2】
α−グルコシダーゼ阻害活性及び/又は抑制活性を有する請求項1記載の抗糖尿病剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗糖尿病剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬品組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗糖尿病剤と、薬理学的に許容され得る食品原料と、を含有する糖尿病の予防用及び/又は改善用食品組成物。
【請求項5】
上記化学式(1)で示される構造を有する6−ヒドロキシケンフェロール−3−O−ルチノシド(1)を有効成分として含有するα−グルコシダーゼ阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248130(P2010−248130A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99609(P2009−99609)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】