説明

抗糖尿病用組成物

【課題】日常の食生活において容易に入手および摂取でき、それにより食後の過血糖状態を抑制して、糖尿病の発症予防や症状の緩和に有効な、安全性が高く、安価な天然植物由来の有効成分を含む抗糖尿病用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物を有効成分として含有する糖尿病の予防及び治療剤、健康食品。又はベニバナ花弁に含まれる黄色色素サフラワーイエロー類、紅色色素カルタミン、サフロミンAを含有する糖尿病の予防及び治療剤、健康食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖尿病用組成物に関し、より詳細には、キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物を有効成分として含有する糖尿病の予防及び治療剤、健康食品に関する。又、本発明は、ベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミン、黄色色素サフラワーイエロー類、サフロミンAを有効成分として含有する糖尿病の予防及び治療剤、健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な経済成長と生活水準の向上、西欧化により青少年の身体発達では非常に好ましい成果を示している半面、成人の場合は過多な高カロリー食品の摂取、運動不足及び複雑な産業社会により生じるストレスのため疾病もだんだん西欧化されつつある。
代表的な成人病の例としては高血圧、糖尿病、肥満症、高脂血症(高コレステロール血症)などが挙げられ、特に糖尿病は全ての慢性血管疾患の原因と考えられている。糖尿病は、我が国において最も患者数が多い生活習慣病の一つである。
糖尿病の特徴は、食事により摂取された炭水化物由来の糖分が消化管から吸収されて血中に入ったときに、血糖値が高すぎたり、高血糖状態が持続することである。糖尿病はしばしば、肥満を伴い、「糖尿病予備群」と称される軽微な血糖の上昇期を経て発症する。糖尿病の中でも、インシュリン非依存性のII型糖尿病が近年増加している。II型糖尿病は、運動不足や不規則な食生活などに起因して発症することが多い。治療には、インシュリンの分泌を促すスルフォニウムウレア系製剤、食後の過血糖を抑制するα−グルコシダーゼ阻害剤、あるいは最近ではインシュリン抵抗性を改善するチアゾリジン系製剤が用いられるが、これら医療用合成製剤は、処方箋を必要とするため、簡易には入手できないばかりか、製剤の投与または服用により種々の副作用を伴うことがある。α−グルコシダーゼ阻害剤をはじめとする糖尿病治療剤は、最近になって重篤な肝障害の発生が報告されるなど、その使用にあたっては医師の厳格な管理・指導が必要とされる。従って、入手が容易でかつ副作用ができるだけ少ないものが求められている。
【0003】
入手が容易で副作用の少ないものとしては、有効成分に天然物起源の機能性物質を使用した、いわゆる健康食品が挙げられる。このような健康食品の例としては、小腸からの吸収糖質量を減少させる作用を有する難消化性デキストリンを天然物起源の機能性物質として配合させた食品があり、これは「特定保健用食品」としての承認を得ている。
また、α−グルコシダーゼ阻害作用を有する植物サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)を有効成分として含む食品や植物グアバ(Psidium guajava L.)の葉の有効成分ポリフェノールを含む「特定保健用食品」も存在する。
このような天然物起源物質を配合した食品は、処方箋を必要とせずに必要時に容易に入手できることから、規則的な食事と組み合わせて摂取でき、糖尿病の早期治療に有効である。
その他に、糖尿病を防ぐ目的での植物由来の成分を含む健康食品の特許報告も散見される。例えば、特許文献1には、タデ科植物に属する藍由来の抗糖尿病剤、特許文献2には、マメ科植物ファネラ・リングア由来の抗糖尿病剤、特許文献3には、ユリ科ツクバネソウ属植物由来の糖尿病の予防及び治療剤などが開示されている。健康食品として、抗糖尿病効果を標榜したものが多数認められるが、有効性に疑問のあるものが多く、具体的に生体での効能、効果が証明されたものはほとんど認められない。
【特許文献1】特開2002−179587号公報
【特許文献2】特開2002−332239号公報
【特許文献3】特開2003−81858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、日常の食生活において容易に入手および摂取でき、それにより食後の過血糖状態を抑制して、糖尿病の発症予防や症状の緩和に有効な、副作用の少ない天然植物由来の有効成分を含む抗糖尿病剤を提供することであって、その有効な作用(特に食後の血糖値上昇抑制作用を示すこと)が現在まで知られていなかった植物を有効成分として使用する、新規な抗糖尿病剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々の未知の植物を探索し、そしてそれらについて各種評価を行なった結果、キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物、又はベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミン、黄色色素サフラワーイエロー類に糖尿病の予防及び治療剤、健康食品としての有効性を見出した。
そして、ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物、又はベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミン、サフロミンAに代表される黄色色素サフラワーイエロー類に、in vivoで実施したラットの糖または澱粉負荷試験において、強い血糖値上昇抑制作用を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物、又はベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミン、黄色色素サフラワーイエロー類、サフロミンAを含有する抗糖尿病用組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、本発明のベニバナ花弁及び/又はその抽出物は、糖負荷時の血糖上昇抑制作用があることから、過食や偏食などに起因した飲食後の過血糖状態を抑制するのみならず、生活習慣病の代表とも言える糖尿病の治療剤としても有効に利用することができる。また、長い間の使用経験に基づく植物を起源とする天然薬物であることから、副作用等の心配がなく、安価に利用できるためダイエットや糖尿病予防にも有効である。しかも、本発明のベニバナ花弁の粉末及び/又は抽出物は、健康食品として摂取しやすい形態、例えば、菓子や飲料等の形態とすることができるため、容易に服用することができ、長期間に渡って、連続的に服用し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ベニバナはキク科のベニバナ属の1年から2年草の植物であり、その学名(Carthamus tinctorius L.)は、属名、種名のいずれも染色の意味を表し、日本では古くから、アイ、ムラサキとともに代表的な天然染料の材料として栽培されてきた。日本では特に山形県最上川流域で広く栽培されているが、最近では中国からのベニバナの輸入が行われている。ベニバナの花弁色素には、口紅やほほ紅などの化粧品材料として使用されている紅色色素カルタミンの他、食用色素としても利用可能な黄色のサフラワーイエロー類が含まれており、その利用範囲は多岐に渡っている。サフラワーイエロー類とはベニバナ黄色色素の総称で、サフラワーイエロー類には、サフロミンA、サフラワーイエローB、サフロミンC、プリカーサなどが含まれる。一方、ベニバナは薬草としても古くから使用されており、月経不順、冷え症、更年期障害、血行障害などに対する効果が注目され、近年において、その薬理作用が見直されている。
【0008】
山形衛研所報(21)9−1(1988)、生薬学雑誌(43)331−338(1989)、生薬学雑誌(45)306−310(1991)、浦上財団研究報告書(6)88−100(1998)、山形衛研所報(32)12−16(1999)、山形衛研所報(33)9−13(2000)、山形県公衆衛生学会講演集(27)45−46(2001)には、ベニバナのアルコール抽出物に、高コレステロールの上昇抑制効果、睡眠延長作用、スーパーオキシド消去活性、動脈硬化指数低下作用、血中脂質低下作用、抗炎症作用などの有効性が報告されている。
【0009】
また特許では、特開2001−346555には、紅花の子葉や茎の抽出エキスに活性酸素を効果的に減少させる効果が、特開2000−236838には、紅豆杉を主原料にベニバナ花弁乾燥粉末を加味した食品に産婦人科疾病の効果が、特開2001−506589には、冬虫夏草や紅花などの17種の天然薬物を含有する混合組成物に糖尿病治療用効果が、特開平7−322825には、オタネニンジンエキスに紅花もやしの緑化部分を使用したものを含む糖尿病などを防ぐ健康アイスクリームとして、特開平2−207023には、紅花の熱水抽出物にメントールを加えた湿布剤として報告されている。特開2003−40780には、ベニバナ花弁の紅色色素カルタミンに高コレステロール血症抑制の効果が開示されている。
【0010】
しかし、キク科植物のベニバナの花弁またはその抽出物は勿論のこと、ベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミンや黄色色素サフラワーイエロー類に関する抗糖尿病研究は過去に全く行われておらず、含有成分の抗糖尿病活性に関する報告は皆無であった。
【0011】
本発明の抗糖尿病組成物は、有効成分として、キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物、又はベニバナ花弁に含まれる紅色色素カルタミン、黄色色素サフラワーイエロー類を含有する。
本発明の糖尿病の予防及び治療剤に利用することができるベニバナは、生花でも乾燥花でもよく、例えば国産の「最上紅花」や中国産、イスラエル産、アメリカ産、インド産のベニバナなど挙げられるが、ベニバナの産地に限定されることなく、如何なる種類でもよい。さらには、すでに製品化されているベニバナ黄色色素製剤や紅色色素製剤を使用しても良い。ベニバナ花弁の種類、産地、仕入れ時期、保存状態など花弁のロットの相違によらず、高い血糖値上昇抑制作用剤を安定して提供することができる。
【0012】
市販の製品化されているベニバナ黄色色素製剤や紅色色素製剤の使用でなければ、前記有効成分は、一般に以下の方法で調製される。
先ず、原材料であるベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の生又は乾燥花弁を、一般的な粉砕手段を用いて粉砕物とする。ここで、粉砕は、特に微粉化するまで行なう必要はなく、ベニバナの花弁から有効な成分が十分に溶出し得る程度(例えば、約5mm以下の寸法)まで行なえばよい。この粉砕物をそのまま抗糖尿病用組成物の有効成分として用いても良いし、あるいはさらに粉砕して粉末形態にした花弁を有効成分として用いても良い。抽出物にするとき、この粉砕物を、溶媒に加え室温又は加温して抽出する。抽出溶媒としては、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜8のアルコール類、水、水と前記アルコール類との混合溶媒、酢酸エチル、そしてアセトンが挙げられる。特に抽出溶媒として、水やアルコール系溶媒を使用することが好ましく、最も好ましくは、水やメタノールおよびエタノールを使用する。抽出溶媒は、ベニバナの花弁に対して2〜100重量倍程度、好ましくは2〜50重量倍程度で使用することが適当である。また、25〜80℃程度に、1〜10時間程度加熱するか、5〜25℃程度の冷浸温度にて、振盪下又は非振盪下に、植物を1〜10日間程度浸漬することによって抽出物を調製することができる。
抽出温度および抽出時間は、使用される抽出溶媒によって変化してよく、例えば、抽出溶媒として含水メタノールを使用する場合、約30〜80℃の温度で約3〜24時間加熱抽出するのが好ましい。
抽出後、抽出溶媒を減圧下(例えば、約750mmHg以下)で蒸発させて残渣を濃縮固化することにより、有効成分としての抽出エキスが得られる。あるいは、水又は温水で抽出された抽出物は凍結乾燥による処理で粉状化して使用される。
【0013】
こうして調製される抽出エキス又は凍結乾燥品は、このまま使用することで強い血糖値上昇抑制作用を発揮し得るが、必要に応じて、更に精製することにより、これら活性および作用をより高めることも可能である。例えば、上記手順により得られるベニバナ花弁からの水抽出エキスを凍結乾燥して得られる調製品には黄色色素サフラワーイエロー類が含まれており、この調製品で血糖上昇抑制作用をより強く発揮することが出来る。また、このようにして得られた黄色色素サフラワーイエロー類から公知の方法でさらに精製される純度の高い黄色色素サフロミンAなども強い血糖値上昇抑制作用を発揮して糖尿病の予防及び治療剤、健康食品として使用できる。
【0014】
一方、ベニバナ花弁からの水抽出で得られた残りの水不溶分もしくはベニバナ花弁について、古来行われている木灰、重曹液などを用いて水性媒体中塩基性条件で処理後の液層部分を、醸造酢、酢酸、クエン酸などを用いて水性媒体中酸性条件で処理して得られた沈殿物には、紅色色素カルタミンが含まれており、血糖上昇抑制作用を強く発揮する。なお、ここで水性媒体とは、水、又は水に可溶な有機溶媒と水との混合溶媒を意味する。また、このようにして得られた紅色色素カルタミンを含む沈殿物から公知の方法でさらに精製される純度の高い紅色色素カルタミンには、強い血糖値上昇抑制作用を発揮して糖尿病の予防及び治療剤、健康食品として使用できる。精製処理方法としては、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、再結晶法等を単独又は組み合わせて使用する方法が挙げられる。
例えば、クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のいずれか又はそれらを組み合わせて使用する方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。例えば、順相クロマトグラフィーの場合にはクロロホルムーメタノール系の溶媒、逆相クロマトグラフィーの場合には、水−メタノール系の溶媒を使用することができる。
また、イオン交換樹脂を使用する溶離法としては、得られた抽出液を、水又は低級アルコールに希釈/溶解させ、この溶液をイオン交換樹脂に接触させて吸着させた後、低級アルコール又は水で溶離する方法が挙げられる。この際に使用される低級アルコールは、上述した通りであり、なかでもメタノールが好ましい。イオン交換樹脂としては、通常、当該分野の精製処理に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、巨大網状構造で多孔性の架橋されたポリスチレン系樹脂、アンバーライト、セルロース等が挙げられる。また、ポリアミドカラムクロマトグラフィーも水溶液成分の有効な溶離法として使用される。
【0015】
本発明において、抗糖尿病組成物は、予防及び/又は治療剤として用いる場合、有効成分として、上記方法で得られるベニバナの花弁、その抽出物、又はそれから得られる紅色色素カルタミン其の物、サフラワーイエロー類其の物、サフロミンAを少なくとも、例えば成人の1回の服用量につき1〜200mg、好ましくは5〜100mgの量で含有する。本発明の抗糖尿病組成物は、その全重量に対し、キク科植物ベニバナの花弁からの抽出物又はそれから得られる紅色色素カルタミン其の物、又は黄色色素サフロミンAやサフラワーイエロー類其の物を少なくとも、固形分含量として1〜40重量%、好ましくは2〜20重量%含有する。
【0016】
ベニバナ花弁及び/又はその抽出物は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられる。また、そのまま煎じて茶剤としてもよい。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記粉末、抽出物等を混合又は塗布、噴霧などして添加して、健康食品とすることができる。本発明の健康食品は、抗糖尿病剤の有効成分であるベニバナの花弁からの抽出物又はそれから得られる紅色色素カルタミンを含む画分、あるいは紅色色素カルタミン其の物を、又は黄色色素サフラワーイエロー類を含む画分、あるいは黄色色素サフロミンA又はサフラワーイエロー類其の物を少なくとも、例えば成人の1回の服用量につき1〜500mg、好ましくは1〜200mgの量で含有する。本発明の健康食品は、その全重量に対し、ベニバナ花弁の抽出物又はそれから得られる紅色色素カルタミンを含む画分、あるいは紅色色素カルタミン其の物を、又は黄色色素サフラワーイエロー類を含む画分、あるいは黄色色素サフロミンA又はサフラワーイエロー類其の物を、固形分含量として0.1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%含有する。
【0017】
抗糖尿病剤中の前記有効成分以外に、医薬分野において常用される既知の他の化合物、および経口投与に適した形態に成型するのに必要な化合物、例えば、乳糖、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどを含有してよい。また、前記医薬組成物であるベニバナ花弁の粉末及び/又は抽出物は、医薬的に受容な塩、賦形剤、保存剤、着色剤、矯味剤等とともに、医薬品又は食品の製造分野において公知の方法によって、経口投与に適した形状、例えば、粉末、液剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の種々の形態で使用することができる。
【0018】
ベニバナ花弁の粉末及び/又は抽出物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、例えば、予防のために用いるには、成人1回につき粉末では10〜1000mg程度、好ましくは20〜300mg程度、抽出物では精製の度合いや水分含量等に応じて、1〜200mg程度、好ましくは5〜100mg程度が挙げられる。また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し、粉末及び抽出物の形態で、10〜1000mg程度の範囲で用いることが適当である。以下に、本発明の糖尿病の予防及び治療剤の実施例を以下に詳しく説明する。
【実施例1】
【0019】
(調製例1:ベニバナ花弁の粉末(1)の調製)
中国産ベニバナの乾燥花弁200gを粉砕し凍結乾燥処理を行い、次に、この凍結乾燥品を乳鉢を用いて200メッシュ位の粉末状にする。このようにして調製したベニバナ花弁の粉末(1)を、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例2】
【0020】
(調製例2:ベニバナ花弁の水抽出物(2)の調製)
中国産ベニバナの乾燥花弁200gを粉砕し、2Lの蒸留水に一夜、冷浸漬した。得られた水抽出液を凍結乾燥にて処理し、87gの粉末状の凍結乾燥品(2)を得た。この粉末状凍結乾燥品は、HPLC分析の結果、黄色色素サフロミンAやサフラワーイエローBなどを含む混合物である。この水抽出物の凍結乾燥品(2)を、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例3】
【0021】
(調製例3:ベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(3)の調製)
中国産ベニバナの乾燥花弁200gを粉砕し、古来から行われてきたベニバナ花弁からの紅色色素カルタミンを調製する公知の方法に準じて、ベニバナ花弁の乾燥粉砕品を重曹水に懸濁し、ミキサーなどを用いて十分にかき混ぜる。その後、ミキサー処理品を6時間氷冷静置する。続いて、ミキサー処理品を濾過処理を行い濾過液を得る。この濾過液にクエン酸を加えて、pH4.5にして一夜氷冷静置する。析出した沈殿物を濾過分離する。続いて沈殿物を水に懸濁して凍結乾燥を行い、5gの凍結乾燥品(3)を得た。凍結乾燥品(3)は、HPLC分析の結果、紅色色素カルタミンを含む混合物である。この凍結乾燥品(3)を、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例4】
【0022】
(調製例4:ベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(4)の調製)
実施例2にある、中国産ベニバナの乾燥花弁200gを、2Lの蒸留水に一夜、冷浸漬する処理を行い、水に不溶な画分をグラスフィルターを用いて濾過して分離した。得られた水不溶分を、古来から行われてきたベニバナ花弁からの紅色色素カルタミンを調製する公知の方法に準じて、重曹水に懸濁し、ミキサーなどを用いて十分にかき混ぜる。その後、ミキサー処理品を6時間氷冷静置する。続いて、ミキサー処理品を濾過処理を行い濾過液を得る。この濾過液にクエン酸を加えて、pH4.5にして一夜氷冷静置する。析出した沈殿物を濾過分離する。続いて沈殿物を水に懸濁して凍結乾燥を行い、2.6gの凍結乾燥品(4)を得た。凍結乾燥品(4)は、HPLC分析の結果、紅色色素カルタミンを含む混合物である。この凍結乾燥品(4)を、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例5】
【0023】
(調製例5:黄色色素サフロミンAの調製)
生ベニバナ花弁10Kgをメタノールに1週間浸漬し、花弁を濾過して得られた抽出液を減圧で濃縮した。得られた残分を酢酸エチルで洗浄し、不溶物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで、n−ブタノール:水:酢酸=4:5:1の上層を用いて分離し、粗サフロミンAを40g得た。これをさらにSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーにより、メタノール−水混合溶媒を展開液として精製し、精製サフロミンAを30g得た。このようにして調製した精製サフロミンAを、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例6】
【0024】
(調製例6:紅色色素カルタミンの調製)
乾燥ベニバナの花弁210gを十分に水洗いし、5%炭酸ナトリウム水溶液1.3Lを加えて氷冷下6時間放置した。花弁を濾過して濾液にクエン酸を少しずつ加えpH4.5に調整した。一晩氷冷後、遠心分離を行い、得られた沈殿物を凍結乾燥して5gの赤色結晶を得た。ここで得られた粗カルタミンを粉末にしてアセトンを加え、一晩放置した後、残分をアセトン−水で再結晶を繰り返し、精製カルタミン200mgを得た。このようにして調製した精製カルタミンを、ラットを用いた食後血糖上昇抑制作用試験に使用する。
【実施例7】
【0025】
(食後血糖上昇抑制作用試験)
日本チャールズリバー(株)より購入したCrj:CD(SD)IGS 雄性ラットを使用した。
実験には一群3匹を用い、平均体重および平均血糖値が近似値を示すように、対照群および抽出物投与群に群分けした。抽出物投与群には、実施例3で調製したベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(3)と実施例4で調製したベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(4)を試験に供した。ラットを18時間絶食し、頚静脈より採血し、血糖値をSYNCHRON CX3Δ(BECKMAN社製)にて測定した。続いて、水不溶凍結乾燥品(3)及び水不溶凍結乾燥品(4)をそれぞれ精製水に懸濁し、凍結乾燥品としてそれぞれ表1の用量で強制経口投与し、15分後にグルコース2.5g/kgを強制経口投与した。グルコース投与後30分、60分および120分後に、頚静脈より採血し血糖値をSYNCHRON CX3Δ(BECKMAN社製)にて測定した。
次式より血糖値上昇良抑制率を求めた。
血糖値上昇抑制率(%)={1-[(抽出物投与群血糖値-抽出物投与開始前の
抽出物投与群血糖値)/(対照群血糖値-抽出物投与開始前の対照群血糖値)]}×100
得られた結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

表1から、本発明の抽出物群は、優れた食後血糖上昇抑制作用を示すことがわかる。
【実施例8】
【0027】
(食後血糖上昇抑制作用試験)
日本チャールズリバー(株)より購入したCrj:CD(SD)IGS 雄性ラットを使用した。
実験には一群3匹を用い、平均体重および平均血糖値が近似値を示すように、対照群および抽出物投与群に群分けした。抽出物投与群には、実施例4で調製したベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(4)と実施例2で調製したベニバナ花弁の水抽出物(2)を試験に供した。ラットを18時間絶食し、頚静脈より採血し、血糖値をSYNCHRON CX3Δ(BECKMAN社製)にて測定した。続いて、ベニバナ花弁の水不溶凍結乾燥品(4)を20%硬化ヒマシ油水溶液に溶解した試料及びベニバナ花弁の水抽出物(2)を精製水に溶解した試料を調製し、それぞれ凍結乾燥品として表2の用量で強制経口投与し、15分後にグルコース2.5g/kgを強制経口投与した。グルコース投与後30分、60分および120分後に頚静脈より採血し血糖値をSYNCHRON CX3Δ(BECKMAN社製)にて測定した。
次式より血糖値上昇抑制率を求めた。
血糖値上昇抑制率(%)={1-[(抽出物投与群血糖値-抽出物投与開始前の
抽出物投与群血糖値)/(対照群血糖値-抽出物投与開始前の対照群血糖値)]}×100
得られた結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

表2から、本発明の抽出物群は優れた食後血糖上昇抑制作用を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁及び/又はその抽出物を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項2】
花弁が粉末形態である請求項1記載の抗糖尿病用組成物。
【請求項3】
抽出物が抽出エキスあるいは凍結乾燥品の形態である請求項1又は2に記載の抗糖尿病用組成物。
【請求項4】
炭素数1〜8のアルコール類、水、水と前記アルコール類との混合溶媒、酢酸エチルおよびアセトンからなる群より選択される抽出溶媒を用いて調製される請求項1又は3に記載の抗糖尿病用組成物。
【請求項5】
キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁に含まれる紅色色素カルタミンを有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項6】
キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁に含まれる黄色色素サフラワーイエロー類を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項7】
キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)の花弁に含まれる黄色色素サフロミンAを有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項8】
キク科植物ベニバナ(Carthamus tinctorius L.)花弁あるいはその水不溶分から、水性媒体中塩基性条件で処理して不溶分を除いた液層部分を、さらに水性媒体中酸性条件で処理して得られる沈殿物を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項9】
糖尿病の予防及び/又は治療剤である請求項1〜8のいずれかに記載の抗糖尿病用組成物。
【請求項10】
健康食品である請求項1〜8のいずれかに記載の抗糖尿病用組成物。


【公開番号】特開2007−63130(P2007−63130A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−105034(P2004−105034)
【出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】