説明

抗置換硬質金組成物

【課題】電気コネクタのような、ニッケル含有基体上に硬質金をスポットめっきする際、めっき箇所以外に金が置換めっきされるのを抑制するメッキ液組成物を提供する。
【解決手段】金イオン源と、コバルト塩またはニッケル塩を含む金属イオン源と、下記式で示されるメルカプトテトラゾールまたはその塩を含む組成物。


(式中、R1は、水素、C1−C20)炭化水素基、(C8−C20)アルアルキル、フェニル、ナフチル、アミンまたはカルボキシル基;Xは水素、(C1−C2)アルキル、またはアルカリ金属、カルシウム、アンモニウムまたは第四級アミンのような好適な対イオンである)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2009年9月25日に出願された米国仮出願第61/277,503号についての、35U.S.C.119(e)の下での優先権の利益を主張し、この仮出願の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は抗置換硬質金(anti−displacement hard gold)組成物に関する。より具体的には、本発明は、硬質金でめっきされている基体から、金イオンがニッケルを置換するのを妨げる化合物を含む、抗置換硬質金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質金またはコバルトおよびニッケルの金合金は、高信頼性用途のための電気コネクタの接点材料として広く使用されてきた。硬質金末端層を有するコネクタは多くの場合、銅上にめっきされたニッケルのようなニッケル基体上に電気めっきされる。一般に、スポットめっきのような選択的めっき技術は、金および他の貴金属、例えば、パラジウムおよびパラジウムニッケル合金のめっき領域を限定することにより、コネクタの材料コストを有意に低減させる。
【0003】
金および他の貴金属をめっきするコストを低減させるために特定の点に焦点を合わせるスポットめっきはかなり新しいタイプの電気めっきである。スポットめっきは、機能的に必要とされる場所のみに貴金属を提供するために使用される。スポットめっきは貴金属を接点界面に適用するために主として使用されてきた。この方法は、貴金属を節約するだけでなく、堆積物を正確に配置して性能も最適化する。スポットめっきは、特定のコネクタ部分に特異的に構築され設計された工具を必要とする。この工具は、標準的なめっき装置よりもかなり高機能のめっき装置において機能する。
【0004】
連続スポットめっき、すなわち、ステップおよび繰り返しについては、小さな充分に特定された丸いまたは矩形の複数のスポットが生産させる。正確な位置にスポットを得るために、あらかじめ孔あけされたガイドホールが使用される。これは、部品が、ストリップ上を連続的にプレめっきセクションおよびポストめっきセクションを通って動くのを可能にする。典型的には、60センチメートルのセクションが物質のそれぞれの移動についてインデックス付けされる。この種のめっきは、正確な位置の充分に特定された別個のめっきスポットを提供する。
【0005】
スポットめっき装置は、貴金属の配置をピンポイントで行い、コストのかかる廃棄物を低減させる。その装置は、2種以上の異なる種類の金属めっきを、同じ水平面において可能にし、新たな接点デザインのためのベース金属使用量およびダイ幅を有意に低減させる。高生産速度で10ミリメートルの小ささの領域に対して、ほとんど全ての形状が正確に適用されうる。貴金属の節約は、従来のめっき方法に対して70%以下と推定される。
【0006】
スポットめっきは貴金属めっきを改良してきたが、硬質金スポットめっきに関して作業者によって頻繁に報告される問題は金置換または「ブリード」である。金置換は、電気コネクタのような、ニッケル含有基体上にめっきされる基体の望まれない領域における金の堆積である。基体の望まれない領域における硬質金の堆積は、作業者がこのような領域から金を除去することを必要にし、結果的に、スポットめっき方法が対処するように設計されている硬質金の損失をもたらす。金が除去されなければならない領域が小さいせいで、過剰な金を選択的に除去するのに必要とされるステップは非常に困難であり、コストがかかり、時間がかかる。このことは、結局、全体的な製造プロセスの効率を低減させる。金が除去されない場合には、基体における欠陥は結果的に欠陥のある最終製品をもたらす。置換反応は以下のように起こると考えられる:
【化1】

式中、貴金属である金は、貴金属でないニッケルと自然に置換する。
【0007】
金置換は、めっき装置の設計を改良することにより低減されうるが、このことは、典型的には、特に、スポットめっき装置は従来のものではなく高機能化されているので、再設計し次いで新たな部品を製造する、装置製造の部分についてのコストのかかる出費を必要とする。多くの場合、スポットめっき装置のために1つの構成部品が再設計される場合には、さらに、構成部品の全てが一緒に機能するように別の部品が改変を必要とする。このことは、結局、スポットめっき装置を使用する電子部品製造者および最終的に電子部品の消費者のコストを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金置換の問題に対処するための、よりコストの低い、より効率的な方法は未だ開発されていなかった。金置換の問題を解決するための、より効率的なアプローチは、実質的に金置換を抑制する硬質金めっき浴であろう。しかし、今日まで、めっき産業界は、このような硬質金めっき浴を開発してこなかった。よって、硬質金置換を抑制する方法についての必要性が未だ存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一形態においては、組成物は、1種以上の金イオン源と、コバルト塩またはニッケル塩を含む1種以上の合金形成金属イオン源と、1種以上のメルカプトテトラゾールおよびその塩とを含む。
別の形態においては、方法は、a)1種以上の金イオン源と、コバルト塩またはニッケル塩を含む1種以上の合金形成金属イオン源と、1種以上のメルカプトテトラゾールまたはその塩とを含む組成物を提供し;b)前記組成物を基体と接触させ;並びにc)基体のニッケルまたはニッケル合金上に、金コバルトまたは金ニッケル合金を選択的に堆積させる;ことを含む。
【発明の効果】
【0010】
硬質金めっき組成物へのメルカプトテトラゾールの添加は、ニッケルおよびニッケル合金基体上での硬質金置換を抑制する。1種以上のメルカプトテトラゾールを含む硬質金電気めっき組成物は、具体的に設計されたおよび高機能化されたスポットめっき装置の改変についての必要性なしに、望まれない金置換反応の問題に対処する。よって、硬質金電気めっき組成物は、従来の方法よりもコスト効率的な、金置換に対処する方法を提供する。さらに、接触抵抗および硬度のような硬質金合金の機能特性は悪化しない。接触抵抗は所望の低い水準に維持され、金合金は電子素子のための市販の電気接点のために充分に硬質である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、硬質金堆積物の接触抵抗(ミリオーム)対接触力(センチニュートン)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書を通じて使用される場合、文脈が他に明示しない限りは次の略語は以下の意味を有する:℃=摂氏度;g=グラム;mg=ミリグラム;L=リットル;mL=ミリリットル;cm=センチメートル;mm=ミリメートル;μm=ミクロン=マイクロメートル;cN=センチニュートン=ニュートンの1/100;ニュートン=メートル・キログラム・秒;mΩ=ミリオーム=オームの1/1000;オーム=SIおよびMKS系における電気抵抗の基本単位、1ボルトの起電力が1アンペアの電流を維持する回路の抵抗に等しい;ASD=アンペア/平方デシメートル=A/dm;psi=ポンド/平方インチ=0.06805気圧=1.01325×10ダイン/cm;およびASTM=米国標準試験方法(American Standard Testing Method)。
【0013】
用語「堆積」および「めっき」は本明細書を通じて交換可能に使用される。他に示されない限りは、2以上の置換基を有する芳香族化合物はオルト−、メタ−およびパラ−置換を含む。
全てのパーセンテージは他に示されなければ重量基準である。全ての数値範囲は境界値を含み、かつこのような数値範囲が合計で100%になることに制約されることが論理的である場合を除いて、任意に組み合わせ可能である。
【0014】
組成物は、硬質金を基体上に堆積させるために、1種以上の金イオン源、コバルト塩またはニッケル塩の1種以上の合金形成金属源、並びに1種以上のメルカプトテトラゾールを含む。
【0015】
金(I)イオンを提供する1種以上の金塩が使用されうる。このような金(I)イオン源には、これに限定されないが、シアン化金アルカリ化合物、例えば、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウムおよびシアン化金アンモニウム、金チオ硫酸アルカリ化合物、例えば、金チオ硫酸三ナトリウムおよび金チオ硫酸三カリウム、亜硫酸金アルカリ化合物、例えば、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウムおよび亜硫酸金アンモニウム、並びに金(I)および金(III)ハロゲン化物、例えば、塩化金(I)および塩化金(III)が挙げられる。典型的には、シアン化金カリウムのようなシアン化金アルカリ化合物が使用される。
【0016】
1種以上の金化合物の量は、1g/L〜50g/L、または例えば5g/L〜30g/L、または例えば10g/L〜20g/Lである。このような金化合物は、概して、様々な供給者から市販されており、または当該技術分野において周知の方法によって製造されうる。
【0017】
場合によっては、様々な金錯化剤が組成物中に含まれうる。好適な金錯化剤には、これに限定されないが、アルカリ金属シアン化物、例えば、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムおよびシアン化アンモニウム、チオ硫酸、チオ硫酸塩、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、ソルビン酸カリウムおよびチオ硫酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、イミド二酢酸並びにニトリロ三酢酸が挙げられる。
【0018】
1種以上の錯化剤は従来の量で、または例えば1g/L〜100g/L、または例えば10g/L〜50g/Lの量で添加されうる。1種以上の錯化剤は一般的に商業的に入手可能であり、または当該技術分野において周知の方法で製造されうる。
【0019】
1種以上のコバルト化合物が使用されうる。好適なコバルト化合物には、これに限定されないが、炭酸コバルト、硫酸コバルト、グルコン酸コバルト、シアン化コバルトカリウム、臭化コバルトおよび塩化コバルトが挙げられる。
【0020】
1種以上のコバルト化合物の量は0.001g/L〜5g/L、または例えば0.05g/L〜1g/Lである。このようなコバルト化合物は一般的に商業的に入手可能であり、または当該技術分野において周知の方法で製造されうる。
【0021】
1種以上のニッケル化合物が使用されうる。好適なニッケル化合物には、これに限定されないが、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、酒石酸ニッケル、リン酸ニッケルおよび硝酸ニッケルが挙げられる。
【0022】
1種以上のニッケル化合物の全量は0.001g/L〜5g/L、または例えば0.05g/L〜1g/Lである。このようなニッケル化合物は一般的に商業的に入手可能であり、または当該技術分野において周知の方法で製造されうる。
【0023】
硬質金めっき組成物に含まれるメルカプトテトラゾール化合物は窒素含有五員複素環式化合物およびその塩である。このようなメルカプトテトラゾールは、テトラゾリウム化合物のようなメソイオン性化合物も含む。
【0024】
メルカプトテトラゾールの例は式:
【化2】

(式中、Rは、水素、直鎖もしくは分岐の、飽和もしくは不飽和の(C−C20)炭化水素基、(C−C20)アルアルキル、置換もしくは非置換のフェニル、ナフチル、アミンまたはカルボキシル基であり;Xは水素、(C−C)アルキル、または好適な対イオンであり、例えば、これに限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモニウムまたは第四級アミンが挙げられる)を有する。フェニル、ナフチルおよびアミン基上の置換基には、これに限定されないが、分岐または非分岐の(C−C20)アルキル、分岐または非分岐の(C−C20)アルキレン、分岐または非分岐の(C−C12)アルコキシ、ヒドロキシルおよびハロゲン、例えば、塩素および臭素が挙げられる。
【0025】
典型的には、Rは水素、直鎖の飽和もしくは不飽和の(C−C20)炭化水素基、置換もしくは非置換のフェニルまたは(C−C20)アルアルキルであり、Xは水素、ナトリウムまたはカリウムである。より典型的には、Rは水素、置換もしくは非置換のフェニルまたは(C−C20)アルアルキルであり、Xは水素である。最も典型的には、Rは置換もしくは非置換のフェニルであり、Xは水素である。
【0026】
このようなメルカプトテトラゾールの例は、5−(メチルチオ)−1H−テトラゾール、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、5−メルカプト−1−テトラゾール酢酸、5−(エチルチオ)−1H−テトラゾール、1−フェニル−1H−テトラゾール−5−チオール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾール−5−チオール、1−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−1H−テトラゾール−5−チオールおよびこれらの塩である。
【0027】
テトラゾリウム化合物の例は、式:
【化3】

(式中、Xは上述のように特定され;Rは置換もしくは非置換の、1〜28の炭素原子を有する、アルキル、アルケニル、チオアルコキシまたはアルコキシカルボニル基;置換もしくは非置換の、3〜28の炭素原子を有するシクロアルキル基;置換もしくは非置換の、6〜33の炭素原子を有するアリール基;置換もしくは非置換の、1〜28の炭素原子および1以上のヘテロ原子、例えば、窒素、酸素、硫黄もしくはこれらの組み合わせを有する複素環式環;置換もしくは非置換の芳香族環に結合している、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルコキシアルキル、アリールまたはフェノキシ基;または、置換もしくは非置換の、1〜28の炭素原子および1以上のヘテロ原子、例えば、窒素、酸素、硫黄もしくはこれらの組み合わせを有する複素環式環に結合している、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルコキシアルキル、アリールまたはフェノキシ基であり;Rは、置換もしくは非置換の、0〜25の炭素原子、典型的には1〜8の炭素原子を有するアミン基;置換もしくは非置換の、1〜28の炭素原子を有するアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基;置換もしくは非置換の、3〜28の炭素原子を有するシクロアルキル基;置換もしくは非置換の、2〜25の炭素原子を有するアシルオキシ基;置換もしくは非置換の、6〜33の炭素原子を有するアリール基;置換もしくは非置換の、1〜28の炭素原子および1以上のヘテロ原子、例えば、窒素、酸素、硫黄もしくはこれらの組み合わせを有する複素環式環;置換もしくは非置換の芳香族環に結合しているアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルコキシアルキル、アリールまたはフェノキシ基;または、置換もしくは非置換の、1〜25の炭素原子および1以上のヘテロ原子、例えば、窒素、酸素、硫黄もしくはこれらの組み合わせを有する複素環式環に結合しているアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルコキシアルキル、アリールまたはフェノキシ基である)を有するメソイオン性化合物である。
【0028】
一般的には、テトラゾリウム化合物を含むメルカプトテトラゾールは、電解質組成物中に、1mg/L〜5g/L、または例えば10mg/L〜500mg/L、または例えば20mg/L〜80mg/Lの量で含まれる。このようなメルカプトテトラゾールは、一般的に、商業的に入手可能であり、または当該技術分野における周知の方法によって製造されうる。典型的には、メルカプトテトラゾールはめっき組成物中で使用される。
【0029】
場合によっては、硬質金めっき組成物は、ピリジンまたはキノリン化合物、例えば、置換ピリジンまたはキノリン化合物を含むことができる。このような化合物は1g/L〜10g/Lの量で含まれる。このような化合物は金合金めっきの堆積速度を増大させ、かつ堆積の均一性を向上させることができる。典型的には、これらの化合物はモノ−またはジ−カルボン酸、モノ−またはジチオール置換のピリジン、キノリン、ピリジン誘導体またはキノリン誘導体である。ピリジンまたはキノリン誘導体は、1以上の位置で置換されることができ、混合された置換基のものであることができる。
【0030】
典型的には、ピリジン環の3位置に置換基のあるピリジン誘導体が使用される。このようなピリジン誘導体の例には、ピリジンカルボン酸およびピリジンチオールが挙げられる。典型的に使用されるピリジンカルボン酸はエステルまたはアミドである。具体的な例はピリジン−3−カルボン酸、キノリン−3−カルボン酸、20または4−ピリジンカルボン酸、ニコチン酸メチルエステル、ニコチンアミド、ニコチン酸ジエチルアミド、ピリジン−2,3−ジカルボン酸、ピリジン−3,4−ジカルボン酸およびピリジン−4−チオ酢酸である。
【0031】
硬質金めっき組成物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸またはポリエチレンアミノ酢酸のような1種以上の有機または無機酸を含むことができる。このような酸は組成物のpHを2〜6の範囲に維持するのを助ける。典型的には、酸は1g/L〜200g/Lの量で含まれる。
【0032】
アルカリ化合物も、組成物のpHを所望のレベルに維持するために添加されうる。このようなアルカリ化合物には、これに限定されないが、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、および他の塩が挙げられる。例えば、KOH、KCO、NaCO、NaSO、MgSO、KHPO、NaHPO、NaPOおよびこれらの混合物が好適なアルカリ化合物である。典型的には、アルカリ物質は1g/L〜100g/Lの量で含まれる。
【0033】
組成物は1種以上の界面活性剤を含むこともできる。あらゆる好適な界面活性剤が組成物中で使用されうる。このような界面活性剤には、これに限定されないが、アルコキシアルキル硫酸塩(アルキルエーテル硫酸塩)およびアルコキシアルキルリン酸塩(アルキルエーテルリン酸塩)が挙げられる。アルキルおよびアルコキシ基は典型的には10〜20の炭素原子を含む。このような界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム、カプリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、C12−C18直鎖アルコールのエーテル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテルリン酸ナトリウムおよび対応するカリウム塩である。
【0034】
使用されうる他の好適な界面活性剤には、これに限定されないが、N−オキシド界面活性剤が挙げられる。このようなN−オキシド界面活性剤には、これに限定されないが、ココジメチルアミンN−オキシド、ラウリルジメチルアミンN−オキシド、オレイルジメチルアミンN−オキシド、ドデシルジメチルアミンN−オキシド、オクチルジメチルアミンN−オキシド、ビス−(ヒドロキシエチル)イソデシルオキシプロピルアミンN−オキシド、デシルジメチルアミンN−オキシド、コカミドプロピルジメチルアミンN−オキシド、ビス(ヒドロキシエチル)C12−C15アルコキシプロピルアミンN−オキシド、ラウラミンN−オキシド、ラウラミドプロピルジメチルアミンN−オキシド、C14−C16アルキルジメチルアミンN−オキシド、N,N−ジメチル(水素化タロウアルキル)アミンN−オキシド、イソステアラミドプロピルモルホリンN−オキシド、およびイソステアラミドプロピルピリジンN−オキシドが挙げられる。
【0035】
他の好適な界面活性剤には、これに限定されないが、ベタインおよびアルコキシラート、例えば、エチレンオキシド/プロピレンオキシド(EO/PO)化合物が挙げられる。このような界面活性剤は当該技術分野において周知である。
【0036】
界面活性剤の多くは商業的に入手可能であるか、または文献に記載された方法によって製造されうる。典型的には、界面活性剤は、組成物中に0.1g/L〜20g/Lの量で含まれる。
【0037】
硬質金めっき組成物は、合金堆積プロセスを助けるために、光沢剤およびグレインリファイナー(grain refiner)のような、当該技術分野において知られている他の従来の添加剤を含むこともできる。このような添加剤は従来の量で含まれる。
【0038】
組成物の成分は、当該技術分野において知られている好適な方法によって一緒にされうる。典型的には、成分は任意の順序で混合され、充分な水を添加することにより組成物は所望の体積にされる。特定の組成物成分を可溶化させるために、幾分かの熱が必要な場合がある。
【0039】
金コバルトおよび金ニッケル合金は、当該技術分野において知られているスポットめっきプロセスおよび装置を用いて、組成物から基体上の正確な位置に選択的に電気めっきされうる。硬質金めっき組成物中のメルカプトテトラゾールは基体上のニッケルの金置換を抑制する。硬質金電気めっき組成物は、金置換が問題となるあらゆる基体上に硬質金をめっきするために使用されうる。典型的には、硬質金は、精密な金堆積が必要とされる電気コネクタの接触界面においてスポットめっきされる。
【0040】
一方法においては、硬質金はマスキング方法によって堆積されうる。この技術は、めっきが望まれる場所に孔をあらかじめあけることによって細工されている薄いマイラー(Mylar)テープまたはゴムマスクの使用を伴う。このマスクは、次いで、めっきセルを通過する際に、硬質金でめっきされるべきニッケルストリップに対して押し付けられる。ストリップの幅は0.02cmの狭さであり、直径0.5cmのスポットが許容差±0.01で生産されうる。典型的には5〜20のスポットが同時にめっきされる。
【0041】
別の方法においては、出口から好ましい距離に配置された所定のサイズのノズル開口部を有する少なくとも1つのジェット形成管状部材を含む固定された組立体の下で金属基体が支持され位置決めされるめっきステーションに、金属基体、例えば、銅上のニッケルからなる電気コネクタが供給されるときに、スポットめっき方法が始まる。ノズル直径は、具体的な装置に応じて変動しうる。一般的には、ノズル直径は10mm以下である。典型的には、複数のノズルを有する複数のジェット形成管状部材が使用される。めっきステーションにおいては、基体はカソード要素として電源に電気的に接続される。硬質金めっき組成物の流れは、液圧ヘッド圧力の力の下で電解質リザーバーから流れて、ノズルと流体連絡する状態にある。圧力は、具体的なスポットめっき装置に応じて、1psiの低さから100psiの高さ、またはそれより高い範囲であることができる。めっき組成物はアノード要素上を連続的に流れる。アノード要素は消耗電極であるか、または非消耗電極であることができる。このような電極は当該技術分野において周知である。あるスポットめっき装置においては、ノズル自体がアノードであり、この場合には、別のアノード部品が装置から除かれる。ノズルアノードはステンレス鋼からなるものであり得る。アノード要素とカソード要素との間に所定の電圧が適用され、硬質金のスポットまたはストリップで、基体を選択的にスポットめっきする。電圧は変動しうる。典型的には、カソードとアノードとの間の電圧は5ボルトから50ボルトの範囲である。硬質金のスポットまたはストリップはノズルの開口部とほぼ同じサイズである。スポットめっきによって堆積されるフィーチャーサイズは10mm以下、典型的には1mm〜5mmの幅または直径を有しうる。スポットめっきの方法および装置の例は米国特許第4,591,415号に開示されている。
【0042】
典型的には、使用される電流密度は0.05ASD〜100ASD、または例えば1ASD〜50ASDの範囲である。典型的には、電流密度は5ASD〜20ASDである。
めっき時間は変えることができる。その時間量は、基体上の金コバルトまたは金ニッケル合金の望まれる厚みに依存する。典型的には、合金の厚みが0.01ミクロン〜2ミクロン、または例えば0.1ミクロン〜1ミクロン、または例えば0.2ミクロン〜0.5ミクロンである。
【0043】
金コバルト合金は、一般的に、98重量%〜99.95重量%の金含量および0.01重量%〜2重量%のコバルト含量を有する。金ニッケル合金は、一般的に、98重量%〜99.95重量%の金含量および0.01重量%〜2重量%のニッケル含量を有する。
【0044】
1種以上のメルカプトテトラゾールの添加はニッケルの金置換を抑制し、同時に、金合金の外観を悪化させない。さらに、接触抵抗および硬度のような硬質金合金の機能特性も悪化させない。接触抵抗は望まれる低い水準、典型的には5ミリオーム以下に維持され、金合金は電子素子のための商業的な電気接点のために充分硬質である。1種以上のメルカプトテトラゾールを含む硬質金電気めっき組成物は、特別に設計され高性能化されたスポットめっき装置を改変する必要なしに、望まれない金置換反応の問題に対処する。よって、硬質金電気めっき組成物は、従来の方法よりもコスト効率的な金置換に対処する方法を提供する。
【0045】
硬質金をめっきする方法がスポットめっきおよび硬質金めっき電気コネクタを参照して説明されるが、めっき組成物は、他の従来の電気めっき方法によっておよび他の基体上に硬質金を堆積させるために使用されうることが意図される。このような方法および基体は当業者に知られている。
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1(比較)
以下の組成を有する水性硬質金電気めっき浴が調製された:
【表1】

【0047】
5枚の両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金コバルト合金めっき浴の500mLの浴中に12分間浸漬された。この浴は磁気攪拌機を用いて全12分間攪拌された。12分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられた。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析された。ヘルムートフィッシャー(Helmut Fischer)からのフィッシャースコープX線XDV装置が使用された。分析結果は、試験片のニッケル上に平均0.096ミクロンの金がめっきされたことを示した。
【0048】
実施例2
次の配合の水性硬質金めっき浴が調製される:
【表2】

【0049】
5枚の両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金コバルト合金めっき浴の500mLの浴中に12分間浸漬された。この浴は磁気攪拌機を用いて全12分間攪拌された。12分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられた。この試験片は、次いで、フィッシャースコープX線XDV装置を用いてX線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析された。分析結果は、試験片のニッケル上に平均でわずか0.005ミクロンのみの金がめっきされたことを示した。置換の量は、硬質金浴が1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプト−1,2,3,4−テトラゾールを含まない実施例1におけるよりも少なかった。
【0050】
実施例3
実施例1および2からの硬質金めっきサンプルの接触抵抗が試験され、抗置換化合物を含む組成物を用いてめっきされた硬質金サンプルと、この抗置換化合物を含まない硬質金めっき組成物でめっきされた硬質金サンプルとの間で、望まれる低い接触抵抗において有意な変化がなかったことを示した。それぞれの硬質金めっきされたサンプルは、10の異なる接触力で接触抵抗について試験され、それぞれの接触力について平均接触抵抗が記録された。電気コネクタについての産業において、異なる接触力または負荷についての接触抵抗について異なる標準が存在するので、接触抵抗を試験するために複数の接触力が使用された。接触抵抗はASTM667−97に従って、KOWI 3000システムを用いて測定された。以下の表は、適用された接触力および所定の接触力における平均接触抵抗を開示する。
【0051】
【表3】

【0052】
表中のデータは、接触抵抗対接触力の図に示されるようにプロットされた。このデータは、抗置換化合物を含む組成物からめっきされた硬質金堆積物の接触抵抗が、抗置換化合物を含まなかった組成物からめっきされた硬質金堆積物の接触抵抗と実質的に同じであったことを示した。よって、抗置換化合物の添加は、実施例2の硬質金堆積物の望まれる低い接触抵抗を悪化させなかった。
【0053】
実施例4
実施例1および2においてめっきされた硬質金サンプルが、その硬度について試験された。市販の接点についての許容されうる硬度範囲は、ASTM B578−87マイクロ硬度圧入試験方法を用いる、110HV〜170HVのビッカーズ(Vickers)硬度である。それぞれのめっきサンプルの硬度を試験するためにダイヤモンドピラミッドヘッドが使用された。実施例1および実施例2におけるサンプルについて、平均硬度が決定された。実施例1のサンプルについての平均硬度は、145HV±10であると決定され、実施例2のサンプルについての平均硬度は、140HV±10であると決定された。抗置換化合物を含む組成物を用いてめっきされた硬質金堆積物についての硬度と、抗置換化合物を含まなかった硬質金堆積物についての硬度との間には、実質的な差はなかった。さらに、抗置換化合物を含んでいた硬質金堆積物は、商業的な目的のために望まれる硬度範囲内にある硬度値を有していた。
【0054】
実施例5
実施例1および2においてめっきされた硬質金サンプルが、ASTM B735−06硝酸方法を用いて、その耐腐食性について試験された。実施例1および2からのそれぞれの硬質金めっきサンプルが密閉ドラフト内で60分間、硝酸蒸気に曝露された。このサンプルは24時間後取り出され、腐蝕の指標であるめっきサンプルの表面上の孔について目視で観察された。実施例1からの硬質金めっきサンプルは0〜3の観察可能な腐蝕点を有していた。抗置換化合物を含んでいた硬質金組成物を用いてめっきされた実施例2からのサンプルは、実施例1からのサンプルと実質的に同じ腐蝕結果を有していた。実施例1および2の硬質金堆積物間の腐蝕結果において実質的な違いはなかった。この抗置換化合物は実施例2の硬質金堆積物の耐腐食性を悪化させなかった。
【0055】
実施例6
次の配合を有する水性硬質金めっき浴が調製される:
【表4】

【0056】
両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金コバルト合金めっき浴の500mLの浴中に15分間浸漬される。この浴は磁気攪拌機を用いて全15分間攪拌される。15分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられる。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析される。分析結果は、試験片のニッケル上に0.01ミクロン未満の金がめっきされることを示すと予想される。
【0057】
実施例7
次の配合を有する水性硬質金めっき浴が調製される:
【表5】

【0058】
両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金コバルト合金めっき浴の500mLの浴中に15分間浸漬される。この浴は磁気攪拌機を用いて全15分間攪拌される。15分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられる。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析される。分析結果は、試験片のニッケル上に0.01ミクロン未満の金がめっきされることを示すと予想される。
【0059】
実施例8
次の配合を有する水性硬質金めっき浴が調製される:
【表6】

【0060】
両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金コバルト合金めっき浴の500mLの浴中に20分間浸漬される。この浴は磁気攪拌機を用いて全20分間攪拌される。20分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられる。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析される。分析結果は、試験片のニッケル上に0.01ミクロン未満の金がめっきされることを示すと予想される。
【0061】
実施例9
次の配合を有する水性硬質金めっき浴が調製される:
【表7】

【0062】
両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金ニッケル合金めっき浴の500mLの浴中に15分間浸漬される。この浴は磁気攪拌機を用いて全15分間攪拌される。15分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられる。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析される。分析結果は、試験片のニッケル上に0.01ミクロン未満の金がめっきされることを示すと予想される。
【0063】
実施例10
次の配合を有する水性硬質金めっき浴が調製される:
【表8】

【0064】
両面ニッケルプレめっき銅試験パネル(10×5mm)が金ニッケル合金めっき浴の500mLの浴中に15分間浸漬される。この浴は磁気攪拌機を用いて全15分間攪拌される。15分後、この試験片は浴から取り出され、脱イオン水ですすがれ、空気乾燥させられる。この試験片は、次いで、X線蛍光によって、試験片上のニッケルの金置換について分析される。分析結果は、試験片のニッケル上に0.01ミクロン未満の金がめっきされることを示すと予想される。
【0065】
実施例11
5つのニッケルコーティングされた電気コネクタが希硝酸で洗浄される。金コバルト合金電気めっき浴は上記実施例2に記載されたものである。充分な体積の金コバルト合金浴は、メコ−ホイール(Meco−Wheel)リールツーリール選択的めっきツール(メコイクイップメントエンジニアーズ(Meco Equipment Engineers)B.V.)の電解質リザーバーに入れられる。10ASDの電流で、回転するホイールと共にめっき液を通過するときに、各電気コネクタ上の接点界面に、金コバルト合金のスポットめっきが形成される。
それぞれの金コバルトめっきされた電気コネクタは、次いでX線蛍光によって、コネクタのスポットめっきされた先端に隣接する部分でのニッケルの金置換について分析される。この分析は、ニッケルの金置換を示さないと予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の金イオン源と、コバルト塩またはニッケル塩を含む1種以上の合金形成金属イオン源と、1種以上のメルカプトテトラゾールまたはその塩とを含む組成物。
【請求項2】
1種以上のメルカプトテトラゾールが式:
【化1】

(式中、Rは、水素、直鎖もしくは分岐の、飽和もしくは不飽和の(C−C20)炭化水素基、(C−C20)アルアルキル、置換もしくは非置換のフェニル、ナフチル、アミンまたはカルボキシル基であり;Xは水素、(C−C)アルキル、または好適な対イオンであり、例えば、これに限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモニウムまたは第四級アミンが挙げられる)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
メルカプトテトラゾールが組成物の1mg/L〜5g/Lを構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
有機酸および無機酸から選択される1種以上の酸をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
1種以上のアルカリ物質をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
1種以上のピリジン誘導体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
a.1種以上の金イオン源と、コバルト塩またはニッケル塩を含む1種以上の合金形成金属イオン源と、1種以上のメルカプトテトラゾールまたはその塩とを含む組成物を提供し;
b.前記組成物を基体と接触させ;並びに
c.基体上に、金コバルトまたは金ニッケル合金を選択的に堆積させる;
ことを含む方法。
【請求項8】
メルカプトテトラゾールが式:
【化2】

(式中、Rは、水素、直鎖もしくは分岐の、飽和もしくは不飽和の(C−C20)炭化水素基、(C−C20)アルアルキル、置換もしくは非置換のフェニル、ナフチル、アミンまたはカルボキシル基であり;Xは水素、(C−C)アルキル、または好適な対イオンであり、例えば、これに限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモニウムまたは第四級アミンが挙げられる)を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基体が電気コネクタである請求項7に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122236(P2011−122236A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−213061(P2010−213061)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】