説明

抗老化剤及び老化防止用皮膚外用剤

【課題】優れた線維芽細胞増殖促進作用、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有する物質を見出し、それを有効成分とする線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤を提供する。
【解決手段】線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤の有効成分として、ダビジゲニンを含有させる。また、老化防止用皮膚外用剤に、ダビジゲニンを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗老化剤、及び老化防止用皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、線維芽細胞及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン、コラーゲン等の細胞外マトリックスにより構成されている。若い皮膚においては線維芽細胞の増殖は活発であり、線維芽細胞、コラーゲン等の皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことにより水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0003】
ところが、紫外線、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、線維芽細胞の増殖が遅くなり皮膚の保湿機能や弾力性が低下する。そして、皮膚は張りや艶を失い、荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。そのため、線維芽細胞の増殖を促進することにより皮膚の老化を予防又は改善することができると考えられる。
【0004】
また、線維芽細胞は、外傷や火傷等の創傷の治癒過程において重要な役割を果たしているほか、皮膚疾患(例えば,褥瘡,熱傷潰瘍,糖尿病性潰瘍等の皮膚潰瘍)の治癒過程にも重要である。そのため、線維芽細胞の増殖を促進することにより創傷や皮膚疾患を治療することができると考えられる。さらに、再生医療の分野において、自己治癒が困難な創傷(重度の熱傷等)を負った患者の治療法として、患者自身の皮膚断片から皮膚細胞を培養・増殖させ、これを患者に移植する方法が知られているが、細胞増殖促進剤の使用により皮膚細胞の培養期間短縮が期待される。
【0005】
従来、線維芽細胞増殖促進作用を有するものとして、クスノハガシワ抽出物(特許文献1参照)等が提案されている。
【0006】
また、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、細胞外マトリックスの主要構成成分であるエラスチンが分解・変質し、また、コラーゲンの産生量が減少するとともに架橋による弾力性低下を引き起こす。その結果、皮膚の保湿機能や弾力性が低下し、角質の異常剥離が生じるため、肌は張りや艶を失い、肌荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。このように、皮膚の老化に伴う変化、すなわち、シワ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等には、コラーゲン、エラスチン等の真皮マトリックス成分の減少・変性等が関与している。
【0007】
近年、皮膚の老化に伴う変化を誘導する因子として、マトリックスメタロプロテアーゼMMPs;Matrix metalloproteinases)の関与が指摘されている。このMMPsの中でも、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)は、皮膚の真皮細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンを分解する酵素として知られているが、その発現は紫外線の照射により大きく増加し、コラーゲンの減少・変性の一因となり、皮膚のシワの形成、弾力性の低下等の大きな要因となると考えられている。したがって、MMP−1の活性を阻害することは、皮膚の老化症状を予防・改善する上で重要である。
【0008】
また、MMP−1の活性が亢進すると、細胞外マトリックスが破壊される。細胞外マトリックスの破壊は、癌の浸潤・転移、関節リュウマチ、変形性膝関節症、歯周病、加齢黄斑変性症等、様々な疾患と関連することが知られている。そのため、MMP−1の活性を阻害することにより、細胞外マトリックスの破壊と関連する疾患等を治療・予防することができると考えられる。
【0009】
このようなMMP−1活性阻害作用を有するものとしては、例えば、ヒマラヤザクラからの抽出物(特許文献2参照)、ショウガ科ジンギバーカッサムナー又はクワ科フィカスネリフォリアからの抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【0010】
また、上述の細胞外マトリックス成分のうち、エラスチンは、皮膚組織に弾力性を与える線維であり、加齢等に伴ってエラスチンが分解されると皮膚の張りが失われるとともに、弾力性が低下する。エラスチンを分解する酵素であるエラスターゼは、紫外線の照射により活性化され、これによりエラスチンの分解が加速する。そのため、エラスターゼの活性を阻害することによりエラスチンの分解が抑制され、張りの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防・改善できると考えられる。
【0011】
また、喫煙等によって生体内でのエラスターゼの活性が亢進することが知られている。そして、肺の基質は、コラーゲンとエラスチンとから構成されているため、喫煙等によってエラスターゼの活性が亢進すると、肺胞壁を破壊して肺気腫等を招くおそれがあると考えられる。さらに、エラスターゼの活性の亢進により肺毛細血管が破壊され、肺水腫等の急性呼吸促進症候群(ARDS)を招くおそれがあると考えられる。そのため、生体内でのエラスターゼの活性を阻害することができれば、肺気腫、肺水腫等の呼吸器系疾患を予防・治療することができるものと考えられる。
【0012】
従来、エラスターゼ活性阻害作用を有するものとして、例えば、スターフルーツ果実抽出物等が知られている(特許文献4参照)。
【0013】
天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors;NMF)の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンが角質層内で分解されて産生される。このフィラグリンは、角質層直下の顆粒層に存在する表皮ケラチノサイトでプロフィラグリンとして発現する。その後、直ちにリン酸化し、ケラトヒアリン顆粒に蓄積され、脱リン酸,加水分解を経てフィラグリンへと分解され、角質層に移行して、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与することが知られている(非特許文献1参照)。
【0014】
近年、このフィラグリンが、皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥等の条件によってフィラグリンの合成力が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが知られている(非特許文献2参照)。
【0015】
したがって、表皮ケラチノサイトにおいて、プロフィラグリンmRNAの発現促進を通じて、フィラグリンの産生を促進し、それにより角質層内のアミノ酸量を増大させることで、角質層の水分環境を本質的に改善できることが期待される。
【0016】
このようなプロフィラグリン産生促進剤又はフィラグリン産生促進剤としては、例えば、カンゾウ抽出物(特許文献5参照)、天然植物中に含まれるフラバノン配糖体として知られるリクイリチン(特許文献6参照)、Citrus属に属する植物エキス又は酵母エキス(特許文献7参照)等が知られている。
【0017】
しかしながら、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有し、安価である線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤に対する消費者の要望は強く、さらなる新しい線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤の開発及び提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003−146837号公報
【特許文献2】特開2003−176232号公報
【特許文献3】特開2003−176230号公報
【特許文献4】特開2003−300893号公報
【特許文献5】特開2002−363054号公報
【特許文献6】特開2003−146886号公報
【特許文献7】特開2001−261568号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル臨時増刊」,2000年,Vol.17,p.14-19
【非特許文献2】「Arch. Dermatol. Res.」,1996,Vol.288,p.442-446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有する化合物を見出し、それを有効成分とする線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤若しくは抗老化剤、又は当該化合物を配合した老化防止用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする。また、本発明の老化防止用皮膚外用剤は、ダビジゲニンを配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、線維芽細胞増殖促進作用に優れた線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害作用に優れたMMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害作用に優れたエラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進作用に優れたプロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進作用に優れたフィラグリン産生促進剤、及び抗老化作用に優れた抗老化剤を提供することができる。また、本発明によれば、線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用に優れた老化防止用皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、下記式で表されるダビジゲニンを有効成分として含有するものである。また、本実施形態の老化防止用皮膚外用剤は、ダビジゲニンが配合されるものである。
【0024】
【化1】

【0025】
ダビジゲニンは、合成により製造することもできるし、ダビジゲニンを含有する植物の抽出物から単離・精製することにより製造することもできる。さらに、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン(イソリクイリチゲニン)を含有する植物の抽出物を還元処理し、当該抽出物に含まれる2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンをダビジゲニンに還元した後、単離・精製することにより製造することも可能である。
【0026】
ダビジゲニンを合成により製造する場合、公知の方法により合成することができる。例えば、p−ヒドロキシベンズアルデヒドと2,4−ジヒドロキシアセトフェノンとを塩基の存在化でアルドール縮合させ、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを得る。得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンにさらに水素を添加することによりダビジゲニンを得ることができる。
【0027】
アルドール縮合反応において使用し得る溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;n−ヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系有機溶媒;ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。また、アルドール縮合において触媒として使用し得る塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等が挙げられる。これらの塩基は、適宜溶媒に溶解して加えても良い。アルドール縮合における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。反応後、再結晶などの一般的な精製手法により、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを得ることができる。
【0028】
このようにして得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンに水素を添加する方法としては、接触還元を用いることができる。接触還元において使用する溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の混合溶媒として使用することができる。接触還元において使用し得る触媒としては、パラジウム、パラジウムカーボン、白金、酸化白金などが挙げられる。接触還元における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。反応後、再結晶などの一般的な精製手法により、ダビジゲニンを得ることができる。
【0029】
なお、上記の方法において、p−ヒドロキシベンズアルデヒドと2,4−ジヒドロキシアセトフェノンとに代えて、これらの化合物に存在する1又は2以上のヒドロキシル基を保護基によりあらかじめ保護した化合物を用いてアルドール縮合を行い、得られた縮合物を還元する前又は還元した後に脱保護を行うことにより、ダビジゲニンを得ることとしても良い。
【0030】
また、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物の抽出物を還元処理し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンをダビジゲニンに還元した後、単離・精製することにより製造する場合、以下の方法により製造することができる。この方法により、後述する好ましい生理作用を有するダビジゲニンを、天然物から安価にかつ大量に製造することが可能となる。
【0031】
2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物としては、例えば、甘草(Glychyrrhiza属)の植物が挙げられる。2’,4,4’−トリヒドロキシカルコンを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。例えば、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0032】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出溶媒に抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができ、得られた抽出液から溶媒を留去すると濃縮物が、さらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0033】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物に還元処理を行う方法としては、接触還元を用いることができる。接触還元において使用する溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。接触還元において使用し得る触媒としては、パラジウム、パラジウムカーボン、白金、酸化白金などが挙げられ、中でもパラジウムカーボンが好ましい。また、接触還元における反応温度は−10〜80℃であることが好ましい。
【0034】
以上のようにして還元処理を行った抽出物は、そのままダビジゲニンの単離・精製を行えば良い。なお、還元処理の前後に、酸又は塩基等を用いた加水分解処理を行うことで、ダビジゲニンの収量を高めてもよい。ダビジゲニンを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を、多孔質物質や多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付すことにより、ダビジゲニンを含有する画分として得ることができる。さらに、得られた画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0035】
[線維芽細胞増殖促進剤,MMP−1活性阻害剤,エラスターゼ活性阻害剤,プロフィラグリン産生促進剤,フィラグリン産生促進剤,抗老化剤]
以上のようにして得られるダビジゲニンは、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用及び抗老化作用を有しているため、線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤及び抗老化剤の有効成分として用いることができる。
【0036】
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、ダビジゲニンのみからなるものでもよいし、ダビジゲニンを製剤化したものでもよい。
【0037】
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、他の組成物(例えば,皮膚外用剤,美容用飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0038】
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤を製剤化した場合、ダビジゲニンの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0039】
なお、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、必要に応じて、線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有する他の天然抽出物等を、ダビジゲニンとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0040】
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0041】
また、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0042】
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、有効成分であるダビジゲニンが有する線維芽細胞増殖促進作用を通じて、皮膚のシワ形成、弾力性の低下等の老化症状を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、創傷治療や皮膚疾患の治療、さらには再生医療分野への応用等の用途にも使用することができる。ただし、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、これらの用途以外にも、線維芽細胞増殖促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0043】
本実施形態のMMP−1活性阻害剤は、有効成分であるダビジゲニンが有するMMP−1活性阻害作用を通じて、コラーゲンの減少・変性を抑制し、皮膚のシワの形成、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態のMMP−1活性阻害剤は、細胞外マトリックスの破壊が病態と関連していることが知られている疾患等の治療・予防の用途にも使用することが可能である。このような疾患として、癌の浸潤・転移、関節リュウマチ、変形性膝関節症、歯周病、加齢黄斑変性症等が挙げられる。ただし、本実施形態のMMP−1活性阻害剤は、これらの用途以外にも、MMP−1活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0044】
本実施形態のエラスターゼ活性阻害剤は、有効成分であるダビジゲニンが有するエラスターゼ活性阻害作用を通じて、エラスチンの分解を抑制し、皮膚の張りの消失、弾力性の低下等の老化症状を予防、治療又は改善することができる。また、本実施形態のエラスターゼ活性阻害剤は、エラスターゼの活性亢進に起因する疾患の予防・治療用医薬品又は医薬部外品の有効成分として用いることができる。このような疾患としては、例えば、肺気腫、肺水腫等の呼吸器疾患等が挙げられる。ただし、本実施形態のエラスターゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にも、エラスターゼ活性阻害作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0045】
本実施形態のプロフィラグリン産生促進剤は、ダビジゲニンが有するプロフィラグリン産生促進作用を通じて、細胞内でのプロフィラグリンの産生を促進し、プロフィラグリンの加水分解により得られるフィラグリン量を増加させ、皮膚の保湿能力を改善することができ、これにより、皮膚の弾力性を維持し、皮膚の老化、肌荒れ等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のプロフィラグリン産生促進剤は、これらの用途以外にもプロフィラグリン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0046】
本実施形態のフィラグリン産生促進剤は、ダビジゲニンが有するフィラグリン産生促進作用を通じて、細胞内でのフィラグリンの産生を促進し、皮膚の保湿能力を改善することができ、これにより、皮膚の弾力性を維持し、皮膚の老化、肌荒れ等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のフィラグリン産生促進剤は、これらの用途以外にもフィラグリン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0047】
本実施形態の抗老化剤は、ダビジゲニンが有する線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用及びフィラグリン産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、皮膚のシワの形成、弾力性の低下、保湿機能の低下等の皮膚の老化症状を予防、治療又は改善することができる。ただし、ダビジゲニンが有する抗老化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗老化作用に限定されるものではない。
【0048】
また、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有するため、例えば、老化防止用皮膚外用剤又は美容用飲食品に配合するのに好適である。ここで、老化防止用皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。また、美容用飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0049】
さらに、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤は、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を有するので、線維芽細胞や細胞外マトリックス等に関連する疾患の研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0050】
[老化防止用皮膚外用剤]
ダビジゲニンは、優れた線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用及び抗老化作用を有しているため、老化防止用皮膚外用剤に配合するのに好適である。
【0051】
この場合において、老化防止用皮膚外用剤には、ダビジゲニンをそのまま配合してもよいし、ダビジゲニンから製剤化した線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤又は抗老化剤を配合してもよい。
【0052】
ダビジゲニン、又は当該ダビジゲニンから製剤化した線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤若しくは抗老化剤を配合することにより、老化防止用皮膚外用剤に線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を付与することができる。
【0053】
ダビジゲニンを配合し得る老化防止用皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0054】
ダビジゲニンを老化防止用皮膚外用剤に配合する場合、その配合量は、老化防止用皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001〜10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001〜1質量%である。
【0055】
本実施形態の老化防止用皮膚外用剤は、ダビジゲニンが有する線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用又は抗老化作用を妨げない限り、通常の老化防止用皮膚外用剤の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された上記成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた使用効果をもたらすことがある。
【0056】
本実施形態の老化防止用皮膚外用剤は、線維芽細胞増殖促進作用、MMP−1活性阻害作用、エラスターゼ活性阻害作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用及び抗老化作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、皮膚のシワ形成、弾力性の低下、保湿機能の低下等の老化症状;創傷、皮膚疾患等の線維芽細胞の増殖に関連するする各種疾患;肺気腫、肺水腫等の呼吸器疾患等のエラスターゼの活性亢進に起因する各種疾患;癌の浸潤・転移、関節リュウマチ、変形性膝関節症、歯周病、加齢黄斑変性症等の細胞外マトリックスの破壊に起因する各種疾患等を予防、治療又は改善することができる。
【0057】
なお、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗老化剤、及び老化防止用皮膚外用剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ、ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0059】
〔製造例1〕ダビジゲニンの製造−1
甘草の一種であるグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)の根茎部を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgをフラスコに取り、10Lの50容量%エタノール水溶液を加え、80℃で2時間抽出した後、ろ過した。得られたろ液を40℃以下の温度で減圧下濃縮した後、40℃で減圧乾燥を行い、黄褐色粉末である甘草根茎部50%エタノール抽出物(150g)を得た。
【0060】
このようにして得られた甘草根茎部50%エタノール抽出物10gに水25mLを加えて懸濁させ、次いでエタノール25mLおよび5質量%パラジウムカーボンを加えて撹拌し、室温にて懸濁液中に水素ガスを16時間吹き込んだ。次いで、ろ過により触媒を除去し、ろ液として甘草抽出物の還元処理物(10g)を得た。
【0061】
このようにして得られた甘草抽出物の還元処理物10gに95質量%硫酸5.0mLを加え、80℃で2時間反応させた。得られた反応液を多孔性樹脂(三菱化学社製,Diaion HP−20,500mL)上に付し、水2L、エタノール2Lの順で溶出させた。エタノール2Lで溶出させた画分からエタノールを留去し、エタノール溶出画分2.5gを得た。このエタノール溶出画分2.5gをメタノール:水=60:40(容量比)の混合液に溶解し、ODS(富士シリシア化学社製,クロマトレックスODS DM1020T)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、ODSに吸着させた。移動相としてメタノール:水=60:40(容量比)を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去し、ダビジゲニン濃縮液300mgを得た。得られたダビジゲニン濃縮液を、下記の条件で液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0062】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0063】
ここで、保持時間40分〜50分に溶出する画分をリサイクルHPLCにより精製を行い、精製物を得た(220mg)。得られた精製物について、13C−NMRにより分析した結果を以下に示す。
【0064】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
205.6(C=O),166.4(4’−C),166.3(2’−C),156.7(4−C),133.7(6’−C),133.2(1−C),130.4(2,5−C),116.2(3,5−C),114.1(1’−C),109.1(5’−C),103.7(3’−C),40.9(α−C),31.0(β−C)
【0065】
以上の結果から、甘草抽出物の還元処理物を多孔性樹脂により分画し、ODSにより分離し、さらに液体クロマトグラフィーにより精製して得られた精製物が、下記式で表されるダビジゲニン(試料1)であることが確認された。
【0066】
【化2】

【0067】
〔製造例2〕ダビジゲニンの製造−2
48%質量水酸化ナトリウム水溶液10mLにイオン交換水10mLを加えて希釈した。これを60℃に加熱し、撹拌しながらp−ヒドロキシベンズアルデヒド1.2gを加えて溶解し、次いで2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン1.5gを加えて溶解した。この反応液を60℃に加熱したまま24時間撹拌し、さらに加熱を止めて室温で48時間撹拌した。得られた反応液を氷浴上で冷却しながら、水80mLを用いて希釈した後、あらかじめ調製した10%硫酸水溶液40mLを加えて黄色結晶を析出させた。この懸濁液からろ紙を用いたろ過によって沈殿部をろ取した。ろ取した沈殿を40℃にて減圧乾燥し、2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン500mgを黄色結晶として得た。
【0068】
上記の反応を繰り返すことで得られた2’,4,4’−トリヒドロキシカルコン10gを、密封可能な反応容器内でエタノール50mLに溶解し、5質量%パラジウムカーボン1.0gを加えた。この懸濁液を激しく撹拌しながら、容器内を減圧しては水素ガスを吹き込む操作を数回繰り返し、容器内を水素ガスで充満させた。反応液を4時間激しく撹拌した後に、ろ過によって触媒を除去した。得られたろ液に水100mLを加えた。析出した白色結晶をろ紙ろ過によってろ取し、これを40℃にて減圧乾燥することで白色結晶を得た(9.5g)。
【0069】
得られた白色結晶を13C−NMRにより分析したところ、試料1の結果と一致し、得られた白色結晶がダビジゲニンであることが確認された。
【0070】
〔試験例1〕皮膚線維芽細胞増殖促進作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにして皮膚線維芽細胞増殖促進作用を試験した。
【0071】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10%FBS含有α−MEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を7.0×10cells/mLの細胞密度になるように5%FBS含有α−MEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0072】
培養終了後、5%FBS含有α−MEMで溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、3日間培養した。線維芽細胞増殖作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。
【0073】
培養終了後、各ウェルから100μLずつ培地を抜き、終濃度5mg/mLでPBS緩衝液に溶解したMTTを各ウェルに20μLずつ添加した。4.5時間培養した後に、10%SDSを溶解した0.01mol/Lの塩酸溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、一晩培養した後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。また、同様の方法で空試験を行い補正した。得られた結果から、下記の式により線維芽細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0074】
線維芽細胞増殖促進率(%)=(St−Sb)/(Ct−Cb)×100
式中、Stは「試料を添加した細胞での吸光度」を表し、Sbは「試料を添加した空試験の吸光度」を表し、Ctは「試料を添加しない細胞での吸光度」を表し、Cbは「試料を添加しない空試験の吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0075】
【表1】


【0076】
表1に示すように、ダビジゲニンは、優れた線維芽細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【0077】
〔試験例2〕MMP−1活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてMMP−1活性阻害作用を試験した。
【0078】
蓋付試験管にて20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/LのTris−HCl緩衝液(pH7.1)に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表2を参照)50μL、MMP−1溶液(Sigma社製,COLLAGENASE Type IV from Clostridium histolyticum)50μL、及びPzペプチド溶液(BACHEM Feinchemikalien AG社製,Pz−Pro−Leu−Gly−Pro−D−Arg−OH)400μLを混合し、37℃にて30分反応させた後、25mmol/Lのクエン酸溶液1mLを加え反応を停止した。
【0079】
その後、酢酸エチル5mLを加え、激しく振とうした。これを遠心(1600×g,10分)し、酢酸エチル層の波長320nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式によりMMP−1活性阻害率(%)を算出するとともに、MMP−1の活性を50%阻害する試料濃度IC50(μg/mL)を内挿法により求めた。
【0080】
MMP−1活性阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}×100
式中、Aは「試料無添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Dは、「試料添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表す。
結果を表2に示す。
【0081】
【表2】


【0082】
表2に示すように、ダビジゲニンは、優れたMMP−1活性阻害作用を有することが確認された。また、MMP−1活性阻害作用の程度は、ダビジゲニンの濃度によって調節できることが確認された。
【0083】
〔試験例3〕エラスターゼ活性阻害作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてエラスターゼ活性阻害作用を試験した。
【0084】
0.2mol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表3を参照)50μLと、エラスターゼ溶液(Sigma社製)50μLとを96ウェルプレートにて混合した。その後、0.2mol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に0.4514mg/mLとなるよう溶解した基質溶液(SIGMA社製,N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリド)100μLを添加し、25℃にて15分間反応させた。反応終了後、分光光度計(BIO-TEK INSTRUMENTS, INC社製)を用いて波長415nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式によりエラスターゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0085】
エラスターゼ活性阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
式中、Aは「試料添加・酵素添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料添加・酵素無添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料無添加・酵素添加時の波長415nmにおける吸光度」を表し、Dは「試料無添加・酵素無添加時の波長415nmにおける吸光度」を表す。
結果を表3に示す。
【0086】
【表3】


【0087】
表3に示すように、ダビジゲニンは、優れたエラスターゼ活性阻害作用を有することが確認された。
【0088】
〔試験例4〕プロフィラグリン・フィラグリン産生促進作用試験
製造例1で得られたダビジゲニン(試料1)について、以下のようにしてプロフィラグリン・フィラグリン産生促進作用を試験した。
【0089】
正常ヒト新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を75cmのフラスコで正常ヒト表皮角化細胞培地(KGM)にて37℃、5%CO−95%airの条件下で培養し、常法により細胞を集めた。得られた細胞を同培地にて1.5×10個/mLの細胞密度になるように調整し、2mLずつ6穴コラーゲンコートプレートに播種して37℃、5%CO−95%airの条件下で3日間培養した。培養後、培地を0.25%DMSOに溶解した試料(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を含むKGM2mLに交換し、37℃、5%CO−95%airの条件下で5日間培養した。培養終了後、常法により総タンパク質の調製を行った。
【0090】
10μg/列に調整したサンプルをSDS−PAGEにより展開し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルクを含むPBS緩衝液でブロッキングを行った後、抗ヒトフィラグリンモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)、ビオチン標識抗マウスIg(Amersham Biosciences社製,Whole Ab)及びストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体(CALBIOCHEM社製)を、0.1%Tween20、0.3%スキムミルクを含むPBS緩衝液で1000倍に希釈して順次反応させ、ECL Western blotting detection reagents(Amersham Biosciences社製)の発光によりプロフィラグリン及びフィラグリンを画像撮影装置(Bio-Rad Laboratories社製,ChemiDoc XRS Plus)を用いて検出した。検出したバンドをImage Lab Software version2.0(Bio-Rad Laboratories社製)にて定量的に測定した。
【0091】
結果は、試料添加及び無添加で培養した細胞のそれぞれから調製したタンパク質10μg中のプロフィラグリン及びフィラグリンのNet intensity(バンド強度)を合算した値を用いて、試料のプロフィラグリン産生促進作用を評価し、プロフィラグリン産生促進率(%)を下記式に基づいて算出した。
【0092】
プロフィラグリン/フィラグリン産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のNet intensity(プロフィラグリン及びフィラグリンの合計値)」を表し、Bは「試料無添加時(コントロール)のNet intensity」を表す。
結果を表4に示す。
【0093】
【表4】


【0094】
表4に示すように、ダビジゲニンは、10μg/mLにおいて優れたプロフィラグリン産生促進作用を有することが確認された。なお、フィラグリンは、生体内でプロフィラグリンの加水分解により産生されるものであることから、プロフィラグリン産生促進作用を有するダビジゲニンは、プロフィラグリンの産生を促進し、細胞内におけるプロフィラグリン量を増加させることで、フィラグリン量をも増加させることができ、結果としてフィラグリン産生促進作用を有するものと考えられる。
【0095】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.01g
ホホバオイル 4.0g
黄杞エキス 0.1g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 2.0g
グリチルレチン酸ステアリル 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
ヒノキチオール 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0096】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0097】
〔配合例3〕
下記組成の美容液を常法により製造した。
ダビジゲニン(製造例1) 0.01g
カミツレエキス 0.1g
ニンジンエキス 0.1g
キサンタンガム 0.3g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.1g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
グリセリン 2.0g
水酸化カリウム 0.25g
香料 0.01g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
エタノール 2.0g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の線維芽細胞増殖促進剤、MMP−1活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗老化剤、及び老化防止用皮膚外用剤は、皮膚の老化の予防又は改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項2】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)活性阻害剤。
【請求項3】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするエラスターゼ活性阻害剤。
【請求項4】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするプロフィラグリン産生促進剤。
【請求項5】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
【請求項6】
ダビジゲニンを有効成分として含有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項7】
ダビジゲニンを配合したことを特徴とする老化防止用皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−102040(P2012−102040A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251332(P2010−251332)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】