説明

抗肥満剤

【課題】新たな抗肥満剤の提供。
【解決手段】本発明は、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する抗肥満剤を提供するものである。また、本発明は、肥満が、内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満である前記記載の抗肥満剤を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性(以下、SOD活性という)を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する抗肥満剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病などの生活習慣病は、内臓に脂肪が蓄積した内臓脂肪型肥満が原因で引き起こされることが多く、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態を、メタボリックシンドロームとされている。メタボリックシンドロームの多くは、放置しておくと動脈硬化を進行させ、ひいては心臓病や脳卒中につながる。それゆえ、メタボリックシンドロームを予防する事は重要である。
メタボリックシンドロームは、体重減量、とくに内臓脂肪減量によりその予防が期待できるといわれており、抗肥満剤や抗肥満効果を有するものが求められている。
【0003】
茶による抗肥満や脂肪吸収抑制については、例えば、後発酵茶であるプーアル茶抽出成分またはジャスミン茶抽出成分を用いたダイエット後のリバウンド抑制効果を有する茶飲料及び脂肪吸収抑制剤(特許文献1)が知られている。また、茶に起源を発するリパーゼ阻害活性を有する新規ポリフェノール化合物を含み、食事由来の脂肪の吸収を抑制し、血中中性脂肪の上昇を抑える飲食料を提供する(特許文献2)ものが知られている。
【0004】
エネルギー消費の自立的調節に関与する物質として、UCP(Uncoupling Protein:ミトコンドリア脱共役タンパク質)が着目されており、UCPはミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させ、エネルギーを熱として散逸する機能を持っている。具体的には、多食しても肥満しない動物はUCP1(褐色脂肪組織中のUCP)が多い、人為的にUCP1の発現を低下させたマウスは肥満し、高発現させたマウスはやせる、などの事実が知られている(非特許文献1)。それゆえ、UCPを高発現させれば抗肥満効果が期待できる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−278478号公報
【特許文献2】特開2006−001909号公報
【非特許文献1】斎藤昌之、「第124回日本医学会シンポジウム記録集 肥満の科学」、日本医学会、p.62−70、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
茶による抗肥満や脂肪吸収抑制については、プーアル茶に代表される従来の後発酵茶の抗肥満効果は十分でなく、より強い抗肥満効果を有する植物由来の成分が望まれていた。
従って、本発明は、安全性が高い植物成分由来であって、より薬理作用の優れた抗肥満剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、後発酵茶に着目して種々検討し、ある特定量の水分を茶に含浸させ、糸状菌を接種して生育させたところ、SOD活性が著しく高い後発酵茶が得られた。そして、当該SOD活性の高い後発酵茶を用いて肥満モデルにおける肥満抑制効果を検討したところ、この後発酵茶を投与すれば、強力な肥満抑制効果が得られることを見出し、本発明を完成した。また、この後発酵茶を投与すれば、UCPの発現を促進することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismut
ase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する抗肥満剤を提供するものである。また、本発明は、肥満が、内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満である前記記載の抗肥満剤を提供するものである。さらに、本発明は、UCPの発現を促進するものである前記記載の抗肥満剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の後発酵茶又はその抽出物の抗肥満効果は強力であり、特に、肥満が内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満に有効である。また、本発明の後発酵茶又はその抽出物はUCPの発現を促進し、抗肥満効果を示すものである。また、本発明で用いる後発酵茶又はその抽出物は安全性が高く、長期間飲用又は服用が可能であることから、特に肥満への移行の防止又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる後発酵茶の原料としての茶は、Camellia sinensis種であれば、特に品種等には限定されない。また、収穫直後の生茶葉、青殺後の茶葉、粗揉後の茶葉、揉捻後の茶葉、中揉後の茶葉、精揉後の茶葉、荒茶等の緑茶であっても、茶茎、茶花及びこれらの粉末品等の加工品等であっても、さらに半発酵茶、完全発酵茶も使用可能であり、原料となる茶は後発酵茶の用途により、適宜選択可能である。このうち、不発酵茶を用いることが、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から好ましい。
【0011】
これらの茶の発酵に用いられる微生物は、高いSOD活性を有する後発酵茶を得る点から糸状菌であるのが好ましい。糸状菌としては、醸造食品や発酵食品等の食品に使用可能な糸状菌の中から選抜することが可能である。例えば、Aspergillus属、Eurotium属、Rhizopus属等を使用することができ、より好ましくはAspergillus oryzae、Aspergillus niger、Eurotium cristatum、Rhizopus oligosporusが挙げられ、さらには該糸状菌から誘導される変異株であっても使用することができる。これらを単独で若しくはそれらを組合せて使用してもよい。これらの菌株は、IFO、IAM、ATCC、NRRC等の菌株分譲機関、日本醸造協会や市販の種菌株販売会社等から入手することができる。
【0012】
本発明に用いる後発酵茶の製法においては、Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上、好ましくは150重量部以上、より好ましくは200重量部以上、最適には300〜400重量部の水を加える。ここでの水分量の調整は原料となる茶に、水を加え、馴染ませ、糸状菌が生育できる条件にすることを意味する。例えば、荒茶を使用した場合、該荒茶はすでに約3〜5重量%の水分を既に含んでおり、加える水分量は、茶が含んでいる水分を考慮して調整する必要がある。また、生茶葉のように水分を70〜80重量%含んでいるものについては、加水しなくても良い。上記の水分含量は、培養・発酵に用いる糸状菌が繁殖又は発酵可能な量であり、かつ本発明の高いSOD活性を有する後発酵茶を得るために重要である。該糸状菌を優先的に繁殖させることで、雑菌汚染をより防止することができる。該水分調整後に、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うことが挙げられる。該殺菌後は、冷却し、該茶を殺菌済み培養・発酵槽に移し、下記の植菌工程を行う。なお、該殺菌工程は、茶の水分量が変化しないように密閉系で行うのが好ましい。
【0013】
水分含量を調整した茶に、糸状菌を接種し、一般に20〜40℃で3〜30日間、好ましくは25〜37℃で3〜7日間培養・発酵する。ここで培養・発酵方法は、通常用いられる方法であれば、液体培養・発酵法、固体培養・発酵法等いずれの方法でも良い。次いで、殺菌工程を加えることが好ましい。該殺菌条件は、例えば、80〜100℃で30〜60分間、あるいは100〜121℃で15〜30分間等の条件で加熱殺菌を行うこと、又は、80〜120℃で加熱乾燥し該糸状菌を殺菌するとともに、水分含量を10重量%以下、好ましくは5重量%以下にする。これにより、本発明のSOD活性の高い後発酵茶が製造される。
【0014】
本発明の後発酵茶は、そのままの形態でも利用可能であるが、加熱、乾熱、マイクロ波等で殺菌を行い、さらに粉砕後、粉末、ペーストの形で、あるいは溶媒を用いて抽出し、後発酵茶抽出物として利用できる。さらに、当該後発酵茶抽出物を、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等を用いて乾燥し、粉末化を行うことで、後発酵茶抽出物末とすることができる。また、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0015】
上記抽出の際に用いる溶媒としては、水又は炭素数1〜6のアルコール類若しくはグリコール類を単独で若しくはこれら溶媒の2つ以上の組合せが使用でき、例えば水、エタノール、含水エタノール、1,3―ブチレングリコール、含水1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。好ましくは含水エタノール若しくは含水1,3−ブチレングリコール、より好ましくは水とエタノールの5〜95:95〜5の混合物(v/v)、水と1,3−ブチレングリコールの5〜95:95〜5の混合物(v/v)が使用できる。
抽出条件としては、約20〜70℃で0.1〜5時間抽出し、ろ過を行い、得られたろ液を80〜95℃で30分間の条件で加熱処理を行い冷却することが好ましい。
上記抽出物は、適宜、不活性な不純物を除去するため、例えば液々分液、固液分液、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂等の公知の分離・精製方法によって、さらに精製してもよい。具体的には、抽出物末を上記抽出溶媒を用いて再度抽出することが挙げられる。
【0016】
上記の製造方法により得られた後発酵茶又はその抽出物は、抗酸化活性の一つの指標であるSOD活性を、後発酵茶固形分1g当り2,000units以上、好ましくは8,000units以上、より好ましくは9,000units以上、さらに好ましくは9,000〜500,000units有する。例えば、原料としての茶に緑茶を、Aspergillus oryzaeを用いて本発明の製造方法にて製造した後発酵茶は、SOD活性を、後発酵茶固形分1g当り9,000units以上を有している。
【0017】
高いSOD活性を有する上記の後発酵茶又はその抽出物は、後記実施例に示すように、肥満モデルに対して優れた抗肥満効果を有する。具体的には、肥満の指標である体重推移、内臓脂肪量、レプチン値、アディポネクチン値等、これらの値を顕著に改善させた。さらに、高いSOD活性を有する上記の後発酵茶又はその抽出物は、UCPの発現を促進することを示し、特にUCP1の発現を促進することを示した。従って、前記後発酵茶又はその抽出物は、肥満の予防治療剤として有用である。
【0018】
本発明の抗肥満剤は、医薬として、また特定保健用食品、機能性食品等として使用することができる。これらの医薬の投与形態としては、経口、注射、外用等が挙げられるが、経口投与形態が好ましい。経口用医薬及び食品の形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、気泡等の他、各種食品中に配合することもできる。これらの組成物の調製にあたっては、賦形剤、結合剤、滑沢剤等を適宜配合することができる。これらの医薬及び食品への前記後発酵茶又はその抽出物の配合量は、固形分(乾燥重量)換算で0.0001〜20重量%、0.01〜10重量%が好ましく、特に0.01〜5重量%が好ましい。
【0019】
本発明の抗肥満剤の投与量は、特に制限されないが、成人1日あたり後発酵茶又はその抽出物の固形分(乾燥重量)として、10〜5,000mg、さらに50〜1,000mg、特に100〜500mgが好ましく、これらの量は1回又は数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0021】
[参考例1]
緑茶(荒茶)500gを100重量部としてそれぞれ0重量部、50重量部、70重量部、80重量部、100重量部、200重量部、300重量部、350重量部、400重量部、500重量部、700重量部の水を加え、混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶葉を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み5cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養した後、乾燥させ、後発酵茶を得た。該後発酵茶に5,000mLの50%(体積/体積)エタノールを添加し、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い、得られたろ液を固形分30%(重量/体積)まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶抽出物を得た。該後発酵茶抽出物に関して、SOD Assay Kit−WST(同仁化学社製)を用いてSOD活性を測定し、後発酵茶固形分当たりに換算した。結果を表1に示す。
【0022】
SOD活性の測定は以下の通り行った。まず、試料となる後発酵茶抽出物を蒸留水で希釈し、0.075mg/mL、0.0375mg/mL、0.0075mg/mL、及び0.00375mg/mLになるようにサンプル溶液を調製した。このサンプル溶液を96well プレートの各wellに20μLずつ分注した。次に、SOD Assay Kit−WSTに同封されているTechnical Informationに従い調製したWST working solutionを200μLずつ加えよく混合した。さらに、SOD Assay Kit−WSTに付属のTechnical Informationに従い調整したEnzyme working solutionを20μLずつマルチチャンネルピペットにて加え、プレートリーダー中で37℃、20分間インキュベートし、450nmの波長で吸光度を測定した。なお、各々にはEnzyme working solutionの代わりに付属のDilution bufferを用いたブランクを設けた。さらに、サンプル溶液の代わりに蒸留水を用いたコントロール及びそのブランクを設けた。測定した吸光度から、「スーパーオキシド」と「WST−1」から「WST−1 formazan」が生成される反応の阻害率を求め、さらにサンプルのIC50値(単位:g/mL)を算出した。
また、サンプル溶液の代わりにSOD標準品を用い、SOD濃度と阻害率の関数にて検量線を作成した。作成した検量線から、SODのIC50値(単位:units/mL)を算出した。
上記の「サンプルのIC50値」及び「SODのIC50値」からサンプルのSOD活性を算出した。計算式は以下の通りである。
(サンプルのSOD活性 単位:units/g)=(SODのIC50値)÷(サンプルのIC50値)
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、水添加量200〜500重量部の範囲で高いSOD活性を、300〜400重量部でより高いSOD活性を示すことがわかる。
【0025】
また、得られた後発酵茶抽出物を皮膚に塗布したところほとんど刺激性がなかった。また、味も渋味が低く良好であった。
【0026】
また、同様の方法で、従来から飲用されている後発酵茶のSOD活性を測定した結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、本発明の後発酵茶が、従来の後発酵茶に比べて高いSOD活性を有することがわかる。
【0029】
[参考例2]
緑茶(荒茶)500gに、1,750mLの水を加え混合後、密閉系で、80℃で60分間加熱殺菌を行った。30℃まで冷却後、該緑茶を、予め殺菌済みの培養・発酵槽に移し、厚み4cmになるように堆積し、Aspergillus oryzae IFO5238を植菌した。植菌後、30℃で7日間培養・発酵させた。培養・発酵完了後、送風乾燥機にて乾燥させ、本発明の後発酵茶486gを得た。次いで、該後発酵茶に、5,000mLの水を添加し、50℃で1時間、撹拌抽出を行った。ろ過により固液分離を行い、得られたろ液を固形分30%まで濃縮し、80℃で30分間加熱処理を行い冷却して、後発酵茶水抽出物を得た。得られた後発酵茶水抽出物をフリーズドライヤーにて乾燥することで、後発酵茶水抽出物末を得た(108g)。得られた後発酵茶水抽出物末に関して、SOD Assay Kit−WSTを用いSOD活性を測定した結果、後発酵茶固形分1g当たり、20,062units(後発酵茶水抽出物末1g当たり80,238units)であった。得られた抽出物末は、渋味もなく、苦味もなく、皮膚刺激性もなく、良好であった。
【0030】
[実施例1]
下記の実験により本発明である後発酵茶水抽出物のラットによる肥満抑制効果を評価した。
【0031】
(1)実験方法
実験動物として、8週齢Wistar系雄性ラット(体重188−226g/匹)を用いた。
動物はポリプロピレン不透明ケージ(W220×L320×H135)内で2〜3匹ずつ飼育した。飼育室は、湿度40〜50%、室温20〜25℃に維持し、12時間の明暗サイクル(点灯;AM8:00、消灯;PM8:00)に設定した。
【0032】
本実験は、ラットを各群6匹の4群に分け、表3の飼料、飲水を自由摂取させ、17週間飼育した。普通食投与群を(i)群とし、他の(ii)群、(iii)群、及び(iv)群には肥満を引き起こすために、普通食100重量部にラード30重量部を混合した高脂肪食を与えた。(ii)群を高脂肪食投与の対照とし、(iii)群と(iv)群とを高脂肪食投与における後発酵茶抽出物の飲水投与による評価群とした。飲水として、(i)群と(ii)群とには水道水を与え、(iii)群には、後発酵茶抽出物(参考例2で得た物)を1日当たり該ラット体重1kg換算で200mg投与となるように含有させた水道水を与え、(iv)群には、後発酵茶抽出物(参考例2で得た物)を1日当たり該ラット体重1kg換算で600mg投与となるように含有させた水道水を与えた。
各群の動物の体重、摂餌量、及び飲水量を毎日測定した。投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの内臓脂肪の重量測定、血液の生化学的検査、及びUCPの発現を調べた。
【0033】
上記普通食としては、オリエンタル酵母工業製の実験動物用飼料MFを用いた。その組成は、100g中、水分7.7g、粗蛋白質23.6g、粗脂質5.3g、粗灰分6.1g、粗繊維2.9g、可溶性無窒素物54.4gであった。

【0034】
【表3】

【0035】
全ての結果は、統計学的処理を行い、平均値±標準誤差で示した。得られたデータは一元配置分散分析(analysis of variance、ANOVA)後、Turkeyの多重比較検定法を用いて統計学的処理を行った。2群間の比較にはStudents t−testを用い、危険率5%以下を優位差有りと判定した。
【0036】
(2)実験結果
各群の動物の体重、摂餌量、及び飲水量を毎日測定し、毎週の平均とした結果を図1〜図3に示す。また、投与期間終了後、犠牲死させ、該ラットの内臓脂肪の重量測定、血液の生化学的検査、及びUCPの発現を調べた結果を以下に示す。
【0037】
図1において、飼育期間中の体重については、後発酵茶水抽出物投与の(iii)群と(iv)群は、高脂肪食投与の対照である(ii)群より小さな値を示し、体重増加を抑制することを示した。特に、(iv)群は、(ii)群と比較し、17週目には危険率1%で有意差がある事を示した。後発酵茶水抽出物は、体重増加抑制に優れ、顕著な肥満抑制効果を示した。
【0038】
図2及び図3では、飼育期間中での各群の平均摂餌量及び平均飲水量については、有意な差を示さなかった。各群それぞれの摂取エネルギー量及び本発明の後発酵茶の摂取量は設定通りであった。
【0039】
各群の17週後の体重及び内臓脂肪量の体重比率を表4に示す。体重は、平均値±標準偏差で示す。平均体重相対値は、(ii)群を100として各群の相対値で示す。内臓脂肪量の体重比率は、内臓周囲脂肪、腎臓周囲脂肪、及び精巣周囲脂肪の和を内臓脂肪量とし、体重に対する比率で示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4では、高脂肪食投与の対照である(ii)群に対して、後発酵茶水抽出物200mg/kg(体重)/日投与の(iii)群と後発酵茶水抽出物600mg/kg(体重)/日投与の(iv)群は、いずれも高脂肪食投与による体重増加抑制及び内臓脂肪増加抑制を示した。特に、(iv)群は(ii)群と比較し、体重増加抑制及び内臓脂肪増加抑制を示し、体重及び内臓脂肪量の体重比率については、危険率1%で有意差がある事を示した。また、(iv)群の内臓脂肪量の体重比率は、普通食投与の(i)群より小さな数値を示した。後発酵茶水抽出物は、体重増加抑制及び内臓脂肪増加抑制に優れ、顕著な肥満抑制効果を示した。
【0042】
各群の17週後における血液の生化学的検査結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5では、中性脂肪と血糖値については、後発酵茶水抽出物投与の(iii)群と(iv)群は、高脂肪食投与の対照である(ii)群より小さな値を示した。コレステロールについては、(iv)群は(ii)群より小さな値を示した。
レプチンは肥満遺伝子に由来するホルモンであり血中レプチン濃度は肥満に比例して上昇する、また、アディポネクチンはホルモンであり脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進しインスリン抵抗性を改善するとされている。
レプチンについては、(iii)群と(iv)群とも、(ii)群より小さな値を示した。特に、(iv)群は、(ii)群に対して有意差があることを示した。アディポネクチンについては、(iii)群と(iv)群とも、(ii)群より大きな値を示した。
従って、後発酵茶水抽出物は、血液の生化学的検査結果において顕著な肥満抑制効果を示した。
【0045】
UCPについて、褐色脂肪組織中のUCPであるUCP1の発現を調べた。まず各群個々の褐色脂肪組織を摘出、次いでそれら摘出組織よりタンパク質を抽出した後、ウエスタンブロット法でUCP1及びβ−アクチンのバンドを検出し、それらバンド濃度を、数値としてデンシトメーターで読み取り、β−アクチンの数値をコントロールとして相対値として示した。数値が大きいほどUCP1量が多い。
【0046】
各群の17週後における褐色脂肪組織中のUCP1量を表6に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
表6より、UCP1の発現については、後発酵茶水抽出物投与の(iii)群と(iv)群は、高脂肪食投与の対照である(ii)群、及び普通食投与の(i)群より大であり、用量依存的にUCP1が増加し、UCP1発現促進効果を示した。従って、本発明はUCP1発現促進効果を示し、肥満抑制効果を示すものである。
【0049】
各群の飼育期間中における、糞便を乾燥した後の糞便中の脂質含量を表7に示す。
【0050】
【表7】

【0051】
表7では、糞便を乾燥した後の糞便中の脂質含量は、高脂肪食投与の(ii)群、(iii)群、及び(iv)群は、普通食投与の(i)群より大きな値を示した。後発酵茶水抽出物投与の(iii)群と(iv)群は、少なくとも腸管における脂質の吸収阻害はないことを示した。
【0052】
[製剤例1]
次の処方により、顆粒を製造した。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 150
ヒドロキシプロピルセルロース 30
【0053】
[製剤例2]
次の処方により、湿式造粒し、打錠して錠剤を得た。
後発酵茶エキス末(参考例2) 350(質量部)
乳糖 470
結晶セルロース 140
ヒドロキシプロピルセルロース 30
ステアリン酸マグネシウム 1
タルク 9
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】各群の飼育期間中における体重変化を示す図である。
【図2】各群の飼育期間中における摂餌量の推移を示す図である。
【図3】各群の飼育期間中における飲水量の推移を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Camellia sinensis種由来の茶に、茶乾燥重量100重量部に対して110重量部以上の水を加え、糸状菌を接種して生育せしめることにより得られる、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase)活性を固形分換算で2,000units/g以上を有する後発酵茶又はその抽出物を含有する抗肥満剤。
【請求項2】
肥満が、内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満である請求項1記載の抗肥満剤。
【請求項3】
UCPの発現を促進するものである請求項1記載の抗肥満剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−100530(P2010−100530A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270432(P2008−270432)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000210067)池田食研株式会社 (35)
【Fターム(参考)】