説明

抗肥満剤

【課題】抗肥満作用に優れ、しかも、安全性の高い成分を有効成分とする抗肥満剤の提供。
【解決手段】マンゴー種子抽出物を有効成分とする抗肥満剤。マンゴーは、ウルシ科マンゴー属に分類される植物であり、世界に200種類程度存在するとされており、例えば、メキシコ産アップルマンゴーとして、オロ、トミーアトキン、ヘイデン、ケント、ケイトなどが知られるほか、オーストラリア産ケンジントン種、タイ産ナンドクマイ種なども知られているが、該抗肥満剤の原料としては、特に限定されず、いずれを用いても良い。該抗肥満剤は、例えば、医薬、医薬部外品、健康食品などに好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満剤に関する。さらに詳しくは、マンゴー種子抽出物を有効成分とする抗肥満剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肥満症、特に、腹腔内に脂肪が蓄積するハイリスク肥満症であるメタボリックシンドロームが世界的に増加している。メタボリックシンドロームは、肥満を基礎疾患とする高血圧、2型糖尿病、脂質異常症を併発しやすい動脈硬化易発症状態であり、心疾患や脳卒中の主因となっている。本邦においても、40〜70歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドロームが強く疑われる者またはその予備軍であると報告されている。このように近年深刻化してきている肥満症を改善するため、種々の抗肥満剤が検討されてきているが、特に、抗肥満作用とともに、安全性の高いものが求められている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−292368号公報
【特許文献2】特開2007−186427号公報
【特許文献3】特開2009−132634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、抗肥満作用に優れ、しかも、安全性の高い成分を有効成分とする抗肥満剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、抗肥満効果をもつ成分をスクリーニングするため、抗肥満効果をもつと推測される種々の成分について、その効果の有無の検証を繰り返した結果、マンゴー種子抽出物が、強い抗肥満効果を示し、しかも、安全性も高いことを見出した。
マンゴー抽出物の利用については、これまで、頭髪・頭皮化粧料および損傷毛の修復(特開平09−208435号公報参照)、抗酸化性組成物(特開平09−216836号公報参照)、静菌および抗菌剤(特開平10−324610号公報参照)、保湿性を利用した化粧料(特開2001−039823号公報参照)、滑らかで官能に優れ、微香性による精神的安定感を与え、安全性の高い皮膚外用剤(特開2002−322074号公報参照)、線維芽細胞賦活剤(特開2006−249051号公報参照)、アクネ用皮膚外用剤(特開2006−298814号公報参照)、美白作用成分やアルコール性肝線維症治癒促進成分としての利用(特開2009−215235号公報参照)など、種々の提案がなされてきたが、抗肥満効果については、全く知られていなかった。
【0006】
本発明は、マンゴー種子抽出物が抗肥満効果を有し、しかも、安全性も高いという上述の新規な知見に基づき、完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる抗肥満剤は、マンゴー種子抽出物を有効成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗肥満剤は、マンゴー種子抽出物を有効成分としており、優れた抗肥満効果を有するとともに、安全性も高く、また、マンゴーは、食品加工における果肉の利用増大に伴い、大量の種子が産業廃棄物として処分されているが、本発明によれば、従来、産業廃棄物として処分されるしかなかったマンゴー種子を、抗肥満剤として有効に利用することができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例におけるTG蓄積量の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例におけるGPDH活性の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における細胞生存率の結果を示すグラフである。
【図4】参考例におけるTG蓄積量(エラグ酸)の結果を示すグラフである。
【図5】参考例におけるTG蓄積量(没食子酸)の結果を示すグラフである。
【図6】参考例におけるGPDH活性(エラグ酸)の結果を示すグラフである。
【図7】参考例におけるGPDH活性(没食子酸)の結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例におけるラットの体重増加量を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例におけるラットの腹腔内脂肪量を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例におけるラットの睾丸周囲脂肪量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔マンゴー〕
マンゴー(檬果、学名:Mangifera indica Linne)は、ウルシ科(Anacardiaceae)マンゴー属に分類される植物であり、世界に200種類程度存在するとされており、例えば、メキシコ産アップルマンゴーとして、オロ、トミーアトキン、ヘイデン、ケント、ケイトなどが知られるほか、オーストラリア産ケンジントン種、タイ産ナンドクマイ種なども知られている。本発明の抗肥満剤の原料となるマンゴー種は、特に限定されず、いずれを用いても良い。
〔マンゴー種子抽出物〕
マンゴー種子抽出物は、上記マンゴーの種子から抽出されるものであり、抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の条件で行うことができる。
【0010】
抽出を行う前に、マンゴー原料から不要物を除去したり洗浄したりしておくことができる。洗浄液には水のほか、酸、アルカリなどを使用することもできる。抽出を効率的に行うために、抽出原料となるマンゴーを乾燥、粉砕しておくことが好ましい。粉砕を行う場合の粉砕物の粒径としては、例えば、平均粒径を100〜2000μmとすることができる。
抽出方法には、抽出媒体に水を用いる水抽出技術、抽出媒体にアルコールなどの有機溶媒を用いる有機溶媒抽出技術、加熱を伴う熱抽出、圧力をかける加圧抽出、真空にする減圧抽出、酸抽出、アルカリ抽出など様々な抽出技術が知られており、これらの抽出技術を単独あるいは複数組み合わせて採用することができる。
【0011】
水抽出は、有機溶媒抽出よりも取り扱いが容易であり、抽出工程で廃棄される溶媒の処理や抽出物への溶媒残留の問題なども少ないという利点があり、特に、食品用途などにおいて経済性や安全性を重視する場合には、水抽出が好ましく採用できる。
前記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノールなどの高級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレンアルコール、グリセリンなどの多価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;n−ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどの炭化水素系溶媒などが挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
抽出溶媒として水を用いる場合、抽出温度としては常温〜374℃が好ましく、常温〜100℃がより好ましい。抽出時間としては30秒〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。抽出圧力としては1〜22MPaが好ましく、1〜6MPaがより好ましい。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いることもできる。特に、水と低級アルコールの混合溶媒が好ましい。最も好ましくは水とエタノールの混合溶媒である。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、その混合割合としては、体積基準で、水:有機溶媒=10:90〜90:10とすることが好ましく、30:70〜70:30とすることがより好ましい。抽出温度としては常温〜374℃が好ましく、常温〜100℃がより好ましい。抽出時間としては30秒〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。抽出圧力としては1〜22MPaが好ましく、1〜6MPaがより好ましい。
【0013】
抽出処理を行うことで、マンゴー種子からの抽出物を含む抽出液が得られる。抽出液に対しては、通常の抽出技術と同様に、各種の後処理を施すことができる。
抽出媒体に有機溶媒を用いている場合、有機溶媒を別の有機溶媒あるいは水に置換しておくこともできる。
抽出液に、濾過処理や遠心分離処理を施して、不要な固形物や不純物を除去しておくことができる。pH調整処理を行うこともできる。
抽出物は、抽出液のまま各種用途に適用しても良いし、凍結乾燥やスプレードライなどの処理を行って乾燥物として得たのちに各種用途に適用しても良い。
【0014】
〔抗肥満剤〕
本発明にかかる抗肥満剤は、上記マンゴー種子抽出物を有効成分とする。抗肥満剤として、例えば、医薬、医薬部外品、健康食品などに好適に利用することができる。
医薬品、医薬部外品としては、例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤など)、外用剤(例えば、経皮製剤、軟膏剤など)、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤など)、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤などの非経口剤が挙げられる。健康食品としては、例えば、液体または半固形、固形の製品、具体的には散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤などのほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅうなどの菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープなどの形態が挙げられる。
【0015】
上記マンゴー種子抽出物の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さなど、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢などによって適宣調整することができ、精製度や水分含量などによっても異なるが、例えば、成人1回につき、マンゴー種子抽出物を1mg〜20g使用することができる。
また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対して、マンゴー種子抽出物を1mg〜20gの範囲で添加することが適当である。
マンゴー種子抽出物を抗肥満剤の有効成分として各種用途に適用する際において、慣用の各種有機あるいは無機担体物質を併用することができ、例えば、固形形態の場合においては賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤を用いることができ、また、液状形態の場合においては溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、非水性賦形剤、保存剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などを用いることができる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの添加物を用いることもできる。
【0016】
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、デキストリン、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0017】
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂などが挙げられる。
乳化剤の好適な例としては、レシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴムなどが挙げられる。
【0018】
非水性賦形剤の好適な例としては、アーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチレングリコールのような油性エステルなどが挙げられる。
保存剤の好適な例としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルまたはソルビン酸などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビアなどが挙げられる。その他、必要に応じて香料などを添加してもよい。
【0019】
マンゴー種子抽出物を抗肥満剤の有効成分として各種用途に適用する際には、本発明の効果を害しないものであれば、例えば、特開2009−215235号公報の段落[0022]以下の(1)〜(44)に例示する成分や添加剤を任意に選択・併用して含有するものであってもよい。これにより、本発明の効果との相加的又は相乗的向上が期待できる。なお、前記成分や添加剤の含有量は、特に限定されないが、通常は、それぞれ組成物中0.0001〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下において、オイルレッドO、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、デキサメタゾン(DEX)およびインシュリン(INS)は和光純薬工業社販売のものを用いた。また、牛胎児血清(FBS)はイクィテック・バイオ社販売のものを用いた。本実施例で使用したその他の化学薬品は特級の市販品である。
〔実施例1〕
以下のようにして、マンゴー種子抽出物(50%エタノール抽出物)を調製した。
【0021】
すなわち、マンゴー種子仁を天日乾燥し、ミキサーにより1mm以下に粉砕した。前記粉砕物50.16gに対し、50%エタノール(水とエタノールの1:1混合溶液(体積基準))1000mlを加え、ウォーターバスにより70℃で1時間かけて抽出処理を行った。前記抽出後、放冷して40℃以下になったところで段階ろ過を行い、0.45μmフィルターで最終ろ過した。ろ過後に得られた抽出液を、エバポレーターによりエタノールを除去したのち、凍結乾燥して、粉末状のマンゴー種子抽出物24.4g(収率48.8%)を得た。これを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
〔実施例2〕
以下のようにして、マンゴー種子抽出物(水抽出物)を調製した。
【0022】
すなわち、マンゴー種子仁を天日乾燥し、ミキサーにより1mm以下に粉砕した。前記粉砕物1kgに対し、水20Lを加え、ウォーターバスにより60℃で3時間かけて抽出処理を行った。前記抽出後、放冷して40℃以下になったところで段階ろ過を行い、0.45μmフィルターで最終ろ過した。ろ過後に得られた抽出液を凍結乾燥して、粉末状のマンゴー種子抽出物137g(収率13.7%)を得た。これを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
〔細胞を用いた抗肥満効果の検証〕
以下のようにして、細胞培養および分化誘導を行った。
【0023】
すなわち、まず、3T3−L1前駆脂肪細胞をヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンクから得た。FBSを10%およびペニシリン−ストレプトマイシンを100U/ml含有するMEMダルベッコ培地(DMEM)で前記3T3−L1前駆脂肪細胞を細胞数1.0×10cellになるよう調整し、細胞がコンフルエント状態になるまで培養した。次に、脂肪細胞形態への分化は、FBSを10%、IBMXを0.5mM、DEXを0.25μMおよびINSを0.2μM含有するDMEM中で10個の細胞を2日間培養することにより誘導した。その後、FBSを10%およびINSを0.2μM含有するDMEM中で細胞をもう2日間培養した。その後、培地を通常の培地に変更し、2日毎に新しい培地に取り替えた。分化開始から8日後に細胞を回収した。細胞は、加湿されたCO5%の培養器中、37℃で培養した。
【0024】
つぎに、オイルレッドOによるトリアシルグリセロール(TG)蓄積量の評価、および、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性の測定によるTG合成能の評価を行い、また、ニュートラルレッド法により細胞生存率を測定し、これらにより抗肥満効果を評価した。
以下、それぞれについて詳述する。
<オイルレッドOによるTG蓄積量の評価>
3T3−L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に上記実施例1または実施例2のマンゴー種子抽出物を、6.25μg/ml、12.5μg/mlまたは25μg/mlの濃度となるよう添加した。細胞を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した後、30秒間、70%エタノールで固定した。その後、オイルレッドOを99%イソプロピルアルコール中に飽和させた溶液で2時間培養した後、50%エタノールで3秒間洗浄後、脱イオン水で2回洗浄した。
【0025】
上記操作によれば、細胞内のTGが、オイルレッドOにより赤色に染色される。これによりTG蓄積量を評価した。
<GPDH活性の測定によるTG合成能の評価>
3T3−L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に上記実施例1または実施例2のマンゴー種子抽出物を、6.25μg/ml、12.5μg/mlまたは25μg/mlの濃度となるよう添加した。細胞を、氷冷PBSで2回、丹念に洗浄した後、100mMトリエタノールアミン/塩酸緩衝液、pH7.5、2.5mMのEDTAの300μl中にへらで掻き集めた。回収された細胞を、最大出力250WのDU−250バイオラプター(トウショウ電機社)中で10秒間、25超音波バーストで超音波洗浄した。その間、サンプルを氷冷した。4℃で5分間、13,000Gで遠心分離した後、上澄み液について、Wise and Green法(1979)によりそのGPDH活性を分析した。GPDH活性は、分光光度計(ベックマン・コールター社、DU530)中、ゼロオーダーの運動力学および最適な基質および共ファクター条件下、25℃で180秒間測定した。標準反応混合物は、100mMトリエタノールアミン/塩酸緩衝液(pH7.5)、2.5mMのEDTA、0.1mMの2−メルカプトエタノールおよび0.12mMのNADHを含有するものであった。0.2mMのジヒドロキシアセトンホスフェートを添加することにより反応を開始させ、NADH酸化速度を、340nmでの60秒間における吸光度の変化により測定した。
【0026】
GPDHは、TG合成の律速酵素であり、その活性が抑えられるほど、TGの合成が抑えられる。
<ニュートラルレッド法により細胞生存率の測定>
細胞生存率を、ニュートラルレッドのリソソーム取込に基づくニュートラルレッド取込評価により測定した。3T3−L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に上記実施例1のマンゴー種子抽出物を、6.25μg/ml、12.5μg/mlまたは25μg/mlの濃度となるよう添加した。その後、細胞培地にニュートラルレッド溶液(0.25mg/ml)を最終濃度が50μg/mlになるように添加した。細胞を37℃で2時間培養した後、ホルムアルデヒド1%(体積比)、塩化カルシウム1%(体積比)および蒸留水98%(体積比)からなる混合物で2回洗浄した。その後、酢酸1%(体積比)、エタノール50%(体積比)および蒸留水49%(体積比)からなる脱色緩衝液1mlを細胞に添加した後、細胞プレートを30分間放置した。溶出されたニュートラルレッドを、分光光度計で540nmにおける吸光度を測定することによって定量し、細胞生存率(%)を下式に基づき評価した。
【0027】
細胞生存率(%)=[(マンゴー種子抽出物を添加した場合の540nmでの吸光度) /(マンゴー種子抽出物未添加の場合の540nmでの吸光度)]
×100
<結果と考察>
図1にTG蓄積量、図2にGPDH活性、図3に細胞生存率の結果を示す。各グラフにおいて、数値は、マンゴー種子抽出物を添加しない場合(コントロール)を100とし、これに対する割合で規定したものである。
図1,2に見るように、TG蓄積量、GPDH活性のいずれもが、マンゴー種子抽出物の添加濃度に依存して有意に低下した。このとき、実施例1の50%エタノール抽出物、実施例2の水抽出物のいずれにおいても、濃度依存的な優れた抗肥満効果が認められることから、抽出溶媒として、50%エタノール、水のいずれの溶媒を用いても、抗肥満効果を与える物質が抽出されることが確認された。
【0028】
さらに、図3に見るように、マンゴー種子抽出物は、細胞生存率に影響を及ぼさず、安全性が高いことも確認された。
<参考試験>
マンゴー種子抽出物(50%エタノール抽出物)1mg中には、エラグ酸が2.7μg、没食子酸が110.5μg含まれている。また、マンゴー種子抽出物(水抽出物)1mg中には、エラグ酸が1.4μg、没食子酸が124.2μg含まれている。そこで、マンゴー種子抽出物中の含量と同等の濃度になるように、抽出における収率を考慮し、エラグ酸および没食子酸をそれぞれDMSOに溶解した。
【0029】
上記において、マンゴー種子抽出物の代わりに、これら、エラグ酸、没食子酸を用いることにより、TG蓄積量、GPDH活性を評価した。
図4,5にTG蓄積量、図6,7にGPDH活性の結果を示す。各グラフにおいて、数値は、マンゴー種子抽出物を添加しない場合(コントロール)を100とし、これに対する割合で規定したものである。
図4〜7に示す結果から、マンゴー種子抽出物による抗肥満作用は、エラグ酸、没食子酸以外の成分によるものであることが示唆された。したがって、例えば、エラグ酸や没食子酸によって美白作用、アルコール性肝線維症治癒促進といった効果を得ている特開2009−215235記載の技術などとは作用機序が全く異なると考えられる。
【0030】
〔動物実験による抗肥満効果の検証〕
4週齢のSD系雄性ラットを1週間予備飼育したのち、ラットを4匹ずつ、表1に示す群に分けて、各実験食を30日間摂取させた。このとき、各群における摂食量の差は認められなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
上記表1において、高脂肪食+マンゴー種子抽出物添加群では、実施例2において凍結乾燥によって得られた粉末状のマンゴー種子抽出物(水抽出物)を、飼料全量に対して0.5%濃度の配合割合で用いた。また、表中の数値はg数を表す。
各実験食を30日間摂取させた各ラットについて、体重増加量、腹腔内脂肪量および睾丸周囲脂肪量を測定して各群ごとにその平均値を算出し、これを各群の測定結果とした。それぞれの結果を図8〜10に示す。
<結果と考察>
図8〜10に見るように、体重増加量、腹腔内脂肪量、睾丸周囲脂肪量は、いずれも、高脂肪食群、高脂肪食+マンゴー種子抽出物添加群ともに、コントロール食群に比べて有意に増加したが、さらに、両者を比較したとき、高脂肪食+マンゴー種子抽出物添加群のほうが、高脂肪食群に比べて減少傾向を示すことが確認された。
【0033】
〔処方例〕
上記マンゴー種子抽出物を抗肥満剤の有効成分として各用途に適用する際の処方例を示す。なお、以下の処方例では、上記実施例2で得られたマンゴー種子抽出物(水抽出物)を、凍結乾燥により粉末化する前の抽出液の状態で用いた。
〔処方例1:ドリンク〕(単位:%)
1.コラーゲンペプチド 23.0
2.濃縮リンゴ果汁 6.0
3.エリスリトール 6.0
4.アセスルファムKサネット(武田薬品工業社製) 0.02
5.アスパルテーム(味の素社製) 0.015
6.クエン酸(結晶) 1.5
7.アスコルビン酸 0.1
8.上記マンゴー種子抽出液 0.05
9.マスカットフレーバー(長谷川香料社製) 0.3
10.グループフルーツフレーバー(長谷川香料社製) 0.1
11.シトラステーストインプルーバー(長谷川香料社製) 0.15
12.保存料 0.15
13.オリザセラミドL(オリザ油化社製) 0.002
14.精製水 残余
合計 100.0%
〔処方例2:ドリンクゼリー〕(単位:%)
1.異性化糖液糖 8.0
2.パインフレーバーC(松谷化学工業社製) 4.0
3.FG−2309 0.9
4.ハーブエキス レモングラス 20.0
5.クエン酸ナトリウム 0.15
6.クエン酸(結晶) 0.30
7.ニンジンエキス(長谷川工業社製) 0.4
8.レモンフレーバー(長谷川工業社製) 0.05
9.上記マンゴー種子抽出液 0.5
10.精製水 残余
合計 100.0%
〔処方例3:ドリンクパウダー〕(単位:kg)
1.コラーゲンペプチド 6.0
2.コンドロイチン 1.0
3.アップルカジュウパウダー(長谷川工業社製) 0.30
4.ビタミンC 0.10
5.上記マンゴー種子抽出液 0.10
6.ヒアルロン酸 0.04
7.ニッサン N−セラミド(日本油脂社製) 0.02
8.クエン酸ナトリウム 0.05
9.クエン酸(結晶) 0.2
10.アセロラフレーバーパウダー(長谷川工業社製) 0.1
11.レッドカラーパウダー(長谷川工業社製) 0.05
12.グラニュー糖 5.04
合計 13.00kg
〔処方例4:タブレット〕(単位:%)
1.コラーゲンペプチド 45.0
2.アスコルビン酸 5.0
3.ミクロカルマグ(三井フーズ社製) 4.6
4.ビタミンミックス 1.0
5.パラチニット(新三井製糖社製) 18.8
6.結晶セルロース 10.0
7.DKエステル(第一工業製薬社製) 3.0
8.アスパルテーム(味の素社製) 0.5
9.発酵乳パウダー(大洋香料社製) 5.0
10.ヨーグルトフレーバー(長谷川工業社製) 1.1
11.クエン酸 1.0
12.上記マンゴー種子抽出液 5.0
合計 100.0%
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明にかかる抗肥満剤は、例えば、医薬、医薬部外品、健康食品などに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンゴー種子抽出物を有効成分とする、抗肥満剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−184351(P2011−184351A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50720(P2010−50720)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】