抗肥満物質のスクリーニング方法
【課題】 肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質(食材や薬剤)に対して発現量が有意に変化し、肥満改善及び/又は脂質代謝促進の指標となりうる遺伝子を見出し、これらの遺伝子を利用して抗肥満物質を高感度にかつ短期間にスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】 次の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(1) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(2) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(3) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(4) 上記(2)で測定した発現量が、上記(3)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【解決手段】 次の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(1) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(2) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(3) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(4) 上記(2)で測定した発現量が、上記(3)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満物質のスクリーニング方法、詳しくは小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子の発現変動を指標とする抗肥満物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、過剰な脂質エネルギーの摂取に代表される食生活の欧米化や、運動不足などの社会環境の変化により、肥満人口が増加し、社会問題となっている。肥満は、食物由来のエネルギーが、脂肪細胞に中性脂肪(トリアシルグリセロール)として過剰に蓄積された結果である。
【0003】
肥満は、しばしば、糖尿病、高血圧、高脂血症等の生活習慣病を合併し、動脈硬化症の発症の原因となる。そのため、肥満の予防・改善は、生活習慣病のリスクを低減する上で極めて重要であると考えられ、これまでに、肥満及び肥満に関連する脂質代謝異常の予防・改善のために種々の方法が提案されている。例えば、運動、カロリー制限、生活習慣の改善などの方法は、一般には、肥満予防・改善に有効とされているが、これらの方法のみでは大抵の場合十分な効果が得られないことが多い。最近ではダイエット食品としてL−カルニチン、カプサイシン、共役リノール酸、ヒドロキシクエン酸、ギムネマ、ガルシニア等様々な化合物を配合したものが開発されている。これらの作用機構は十分明らかとはなっていないが、脂質代謝の活性化、糖吸収の抑制、脂肪合成の抑制等が考えられている。また一方で、多くの肥満改善剤や脂質代謝促進剤の開発がなされ、薬理学的な介入も試みられ、これまでに、栄養成分の吸収、空腹感及び満腹感を制御するホルモンの産生、エネルギーの消費を対象とする薬剤が開発されてきた。その中でもエネルギーの消費を対象とする薬剤の評価は、一般にその薬剤が肝臓、筋肉の脂質燃焼を促進するか否か、あるいは、肝臓や脂肪組織等への脂肪蓄積を抑制するか否かを検討することにより行われる。これまで、脂質燃焼の促進を評価する際の分子指標としては、ペルオキシソームβ酸化酵素であるAcyl-Coenzyem A oxidase (ACO) (非特許文献1、非特許文献2参照)、ミトコンドリアβ酸化酵素であるmedium-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase (MCAD)(非特許文献2参照)、脂質等のエネルギーを熱に変換し体外に放出する働きを有するuncoupling protein-2 (UCP-2) (非特許文献3参照)、β酸化と関連する脂肪酸輸送タンパクfatty acid binding protein 1 (FABP1)(非特許文献4参照)等の分子が広く用いられている。
【0004】
しかしながら、これらの一般に用いられるACO、MCAD、UCP-2、FABP1等の分子指標の遺伝子発現は、肥満改善や脂質代謝促進効果を有する既存の食材、薬剤によっても、鋭敏には変化しないことから、感度的にも限界があった。また、肝臓、筋肉、脂肪組織における脂質代謝を指標としたin vivo評価は、大抵の場合、1ヶ月以上の長い評価期間を必要とする。従って、肥満改善や脂質代謝促進をより高感度で短期間に評価できる指標が望まれるところである。
【0005】
【非特許文献1】Roglans Nら, J. Pharmacol. Exp Ther., 2002, 302, 232-239.
【非特許文献2】Egawa T ら, Lipids, 2003, 38, 519-523.
【非特許文献3】Tsuboyama-Kasaoka Nら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 1990, 257, 879-885.
【非特許文献4】Brandes Rら, Biochim. Biophys. Acta., 1990, 1034, 53-61.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質(食材や薬剤)に対して発現量が有意に変動し、肥満改善及び/又は脂質代謝促進の新たな指標となりうる遺伝子を見出し、これらの遺伝子を利用して抗肥満物質を高感度にかつ短期間にスクリーニングする手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、小腸における特定の脂質代謝関連酵素遺伝子が、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質の存在により有意に増加することを見出した。さらに、これらの脂質代謝関連酵素遺伝子、又はその遺伝子産物であるタンパク質は、これまで用いられてきた肥満改善及び/又は脂質代謝促進の指標よりも発現変動が鋭敏であり、抗肥満物質をスクリーニングするのに有効であることが確認された。本発明はかかる知見をもとに完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0009】
(2) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0010】
(3) 脂質代謝関連酵素遺伝子が、下記のポリヌクレオチドのうち、少なくとも1種以上のポリヌクレオチドである、(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0011】
(4) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0012】
(5) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0013】
(6) 脂質代謝関連酵素タンパク質が、下記のポリペプチドのうち、少なくとも1種以上のポリペプチドである、(4)又は(5)に記載のスクリーニング方法。
(a) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するポリペプチド
【0014】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質を有効成分して含有する、肥満症び肥満が原因となる疾患の予防及び/治療のための医薬組成物。
(8) (1)から(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質を含有する、肥満防止及び/又は改善用食品。
【0015】
(9) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット。
(10) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ。
【0016】
(11) (10)に記載のプローブを固定化した固定化担体。
(12) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体。
【0017】
(13) 下記の(i)又は(ii)の少なくとも1種を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
(i) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット
(ii) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ
【0018】
(14) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体と該抗体に対する二次抗体を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質の存在によって小腸において有意に発現量が変動する脂質代謝酵素遺伝子を用いた抗肥満物質のスクリーニング方法が提供される。本発明において用いる脂質代謝酵素遺伝子は、従来の肥満改善及び/又は脂質代謝促進の指標とされていたものより、より高感度にかつ短期間に、抗肥満物質をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、抗肥満物質をスクリーニングする方法であって、小腸における特定の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定し、対照の対応する遺伝子発現量と比較して、上記遺伝子の発現量を増加させる物質を、抗肥満物質として選択することを特徴とする。
【0021】
本発明のスクリーニング方法は、in vitroで行うことも、in vivoで行うこともできる。
【0022】
本発明のin vitroでのスクリーニング方法は、例えば、以下の工程により行うことができる。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
また、本発明のin vivoでのスクリーニング方法は、例えば、以下の工程により行うことができる。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
本発明のスクリーニング方法に用いる脂質代謝関連酵素遺伝子はいずれも公知であり、それぞれの塩基配列情報も入手可能である。
【0023】
具体的には、脂質代謝関連酵素遺伝子として、配列番号1に示す塩基配列を有するリンゴ酸酵素(Malic Enzyme:ME)遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を有するピルビン酸デヒロゲナーゼキナーゼ アイソザイム4(Pyruvate dehydrogenase kinase, isozyme 4:PDK4)遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を有するミトコンドリア アシル-CoA チオエステラーゼ1(Mitochondrial acyl-CoA thioesterase 1:MTE-1)遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を有するサイトソル アシル-CoAチオエステラーゼ1(Cytosolic acyl-CoA thioesterase 1:CTE-1)遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を有する3-ケトアシル-CoAチオラーゼB(3-Ketoacyl-CoA thiolase B:THIO)遺伝子、配列番号11に示す塩基配列を有する3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA シンターゼ2(3-Hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase 2:HMGCS2)遺伝子、配列番号13に示す塩基配列を有する脂肪酸トランスロカーゼ(Fatty acid translocase:FAT)遺伝子、配列番号15に示す塩基配列を有するチトクロームP450A(Cytochorome P450A:CYP4A)遺伝子が挙げられる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法は、上記の脂質代謝関連酵素遺伝子と、該遺伝子によりコードされるタンパク質を基礎とするものである。
【0025】
なお、本発明において、「ポリヌクレオチド」とは、プリン又はピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;又はdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が100個以上結合した分子をいい。「オリゴヌクレオチド」とは2-99個連結した分子を言う。また、「ポリ(オリゴ)ヌクレオチド」は、DNA及びRNAのいずれも含み、合成されたものであったも、天然のものであってもよい。また、「タンパク質」及び「(ポリ)ペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。
【0026】
本発明のスクリーニング方法に用いる上記の脂質代謝関連酵素遺伝子(以下、「指標遺伝子」という)は、実質的に同一の機能・活性を有する限り、変異遺伝子であってもよい。例えば、変異遺伝子としては、配列番号1、3、5、7、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0027】
ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件、例えば、高い相同性(相同性が80%以上、好ましくは90%以上)を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、例えば、0.5〜1.0 M 程度の NaClを含むハイブリダイゼーション溶液中、60℃〜68℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度で0.11〜1×SSC中(1×SSC: 150mM NaCl, 15mMクエン酸ナトリウムからなる)で1時間洗浄する条件をいう。
【0028】
また、上記の「脂質代謝促進物質に応答して発現が増加する」とは、脂質代謝促進物質(例えばDHAなど)の存在下における遺伝子発現量が非存在下における遺伝子発現量より有意に増加することをいい、その増加程度が、上記各塩基配列で示されるポリヌクレチドが有する活性と実質的に同等であることをいう。
【0029】
上記変異遺伝子の機能確認は、例えば該変異遺伝子を含む組換えベクター作成し、これを適当な宿主細胞に導入して、公知の脂質代謝促進物質存在下または非存在下で培養し、培養後の細胞内における遺伝子発現量を比較することによって確認できる。なお、遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0030】
スクリーニング(in vitro)に用いる小腸培養組織又は細胞としては、前記の指標遺伝子のいずれかを発現する哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞を用いることができ、例えば、小腸培養細胞としては、Caco-2細胞、IEC-6 細胞、IEC-18細胞などが挙げられる。哺乳動物としては、特に限定されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ等が好ましく、その中でもマウスが好ましい。
【0031】
また、スクリーニング(in vivo)に用いる被験動物としては、非ヒト哺乳動物であればよく、肥満モデル動物または健常動物のいずれでもよい。肥満モデル動物としては、肥満責任遺伝子として同定されているob遺伝子、db遺伝子、tub遺伝子、Avy遺伝子、fat遺伝子をホモで有する非ヒト肥満モデル動物、例えば、ob/obマウス、db/dbマウス、Wistar fattyラット、Zucker fattyラット、あるいは非ヒト糖尿病モデル動物を用いることができる。
【0032】
このような非ヒト肥満及び/又は糖尿病モデル動物として、具体的には、C57BL/6J ob/obマウス、C57BL/6J Ham Slc-Ayマウス、Crj:(ZUC)-fa/faラット、Slc:Zucker-fa/faラット、Hos:Zucker-fa/faラット、SHR/NDmc-cpラット、KK-Ay/Ta Jclマウス、B6.V-Lepob/Jマウス、C57BL/6J Ham Slc-Lepobマウス、BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jclマウス、NSYマウス、ZDF/Gmi-fa/faラット等を挙げることができ、これらはいずれも市販されている。
【0033】
遺伝子の発現量は、遺伝子の転写物であるmRNAの量、該mRNAから逆転写したcDNAの量のいずれを測定してもよい。小腸培養組織又は細胞からのRNAの抽出は、当該技術分野において通常用いられる手法、例えば、グアニジン/塩化セシウム法、グアニジン/チオシアネート法(グアニジン/セシウムTFA法)、塩化リチウム/尿素法、ホットフェノール法、AGPC法(アシッドグアニジウム−フェノール−クロロホルム法)などに従って行うことができる。RNA抽出に際しては、RNeasy等の市販のRNA抽出用キットに添付される抽出プロトコルを改良した独自のプロトコルに従って行うことが好ましい。mRNAの調製は、得られた全RNA画分をオリゴ(dT)セルロースカラムやセファロース2Bを担体とするポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により処理することによって行う。また、cDNAの調製は、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRnaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成することにより行う。
【0034】
本発明において、遺伝子の発現量の測定は、公知の遺伝子発現解析方法に従って行うこができる。例えば、上記の指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法、又は指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとした遺伝子増幅法等を利用することができる。具体的には、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、RT-PCR法、Real−Time PCR法、DNAマイクロアレイ法などが挙げられる。
【0035】
本発明には上記測定に用いられるプローブ又はプライマー(セット)をも包含する。
プライマー(セット)は、前記の指標遺伝子の各塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングが可能とするために、15〜40塩基、好ましくは20〜30塩基である。プライマーの設計は、センス鎖(5'末端側)とアンチセンス鎖(3'末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量を約50%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55〜65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜1μMになるよう調整する等を留意することも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。
【0036】
本発明における上記の各指標遺伝子を増幅できるプライマーとして、具体的には後記実施例に示す配列番号17〜38、41〜46に示す塩基配列を有するプライマーが例示できる。
【0037】
また、プローブとしては、指標遺伝子の塩基配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド、あるいは、指標遺伝子の塩基配列に対する相補配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片が用いられる。プローブの長さは特に限定されないが、例えば15塩基以上、好ましくは20塩基以上であれば目的とする遺伝子の間で特異的なハイブリッドを形成できる。上記ヌクレオチド断片は、例えば、各塩基配列を有するポリヌクレオチド(cDNA)を適当な制限酵素で切断するか、あるいは、周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。
【0038】
上記ヌクレオチド断片をプローブとして使用する場合、標識物質により標識化する。標識物質は、特に限定はされないが、例えば、蛍光物質、放射性同位体、酵素、アビジン若しくはビオチンなどを用いることができる。蛍光物質としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRIC)、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、アセチルアミノフルオレン(AFF)などが挙げられ、酵素としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどが挙げられ、放射性同位体としては、125Iや3Hなどが挙げられる。
【0039】
上記のプローブとして用いるポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片は、前記指標遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることを特徴とする。ここで、ストリンジェントな条件とは、前記指標遺伝子とポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片との選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件によって定義される。ストリンジェンシーは、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによって増加する。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、NaCl約750 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約75mM以下、より好ましくはNaCl約500 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約50 mM以下、最も好ましくはNaCl約250 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約25 mM以下である。ストリンジェントな有機溶媒濃度は、ホルムアミド約35%以上、好ましくは約50%以上である。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上、好ましくは約37℃以上、より好ましくは約42℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、及びキャリアーDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。
【0040】
また、プローブはマイクロアレイなどの固定化担体に固定化して用いてもよい。マイクロアレイの形成方法は特に限定されず、当業者が利用可能ないかなる方法を用いてもよく、例えば、固相担体表面で直接プローブを合成する方法(オン・チップ法)、又は予め調製したプローブを固相担体表面に結合する方法などがある。固相担体表面で直接プローブを合成する場合には、光照射で選択的に除去される保護基を用い、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術及び固相合成技術を組み合わせて所定の微少なマトリックス領域でのオリゴヌクレオチドの選択的な合成を行う方法が一般的である。一方、予めプローブを調製して固相担体表面に結合する方法では、プローブ核酸の種類や固相担体の種類に応じて、スポッタ装置によりポリ陽イオン化合物やアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤などで表面処理した固相担体の表面に点着する方法、反応活性基を導入したプローブ核酸を合成し、予め反応性基を形成させるように表面処理した固相担体表面に該プローブ核酸を点着して該プローブ核酸を固相担体表面に共有結合により結合固定させる方法などが利用できる。
【0041】
また本発明スクリーニング方法の別の態様として、指標遺伝子によりコードされるタンパク質(以下、指標タンパク質という)の検出することにより行うこともできる。
【0042】
かかる指標タンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するリンゴ酸酵素(Malic Enzyme:ME)、配列番号4に示すアミノ酸を有するピルビン酸デヒロゲナーゼキナーゼ アイソザイム4(Pyruvate dehydrogenase kinase, isozyme 4:PDK4)、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するミトコンドリア アシル-CoA チオエステラーゼ1(Mitochondrial acyl-CoA thioesterase 1:MTE-1)、配列番号8に示すアミノ酸配列を有するサイトソル アシル-CoAチオエステラーゼ1(Cytosolic acyl-CoA thioesterase 1:CTE-1)、配列番号10に示すアミノ酸配列を有する3-ケトアシル-CoAチオラーゼB(3-Ketoacyl-CoA thiolase B:THIO)、配列番号12に示すアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA シンターゼ2(3-Hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase 2:HMGCS2)、配列番号14に示すアミノ酸配列を有する脂肪酸トランスロカーゼ(Fatty acid translocase:FAT)、配列番号16に示すアミノ酸配列を有するチトクロームP450A(Cytochorome P450A:CYP4A)が挙げられる。
【0043】
本発明のスクリーニング方法に用いる上記の指標タンパク質は、実質的に同一の機能・活性を有する限り、変異タンパク質であってもよい。例えば、変異タンパク質としては、配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び18のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答した発現活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、1若しくは数個とは、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個をいう。
【0044】
本発明において、指標タンパク質の発現量の測定は、公知のタンパク質発現解析方法に従って行うことができる。例えば、該指標タンパクに結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、酵素免疫測定法 (ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)、放射線免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)、蛍光抗体法、免疫細胞染色等が挙げられる。
【0045】
上記測定に用いられる指標タンパク質に対する抗体は、当業者に周知の方法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体のいずれであってもよい。また、抗体としては、抗体の活性フラグメントであってもよい。活性フラグメントとしては、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなどが挙げられる。
【0046】
例えば、指標タンパク質に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物(例えば、ウサギ、ラット、マウスなど)から血液を採取し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞など)を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
【0047】
抗原に用いるタンパク質もしくはその部分ペプチドは、例えば前記の塩基配列を有する標的遺伝子又はその部分遺伝子を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作成し、該形質転換体を培養して組み換えタンパク質を発現させ、発現させた組み換えタンパク質を培養体又は培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、これらの遺伝子によってコードされるアミノ酸配列、あるいは全長cDNAによってコードされるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。
【0048】
指標タンパク質の検出には、これらの抗体を適宜標識すればよい。標識物質は、前記の酵素、放射性同位体、蛍光色素を使用することができる。また、抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。
【0049】
さらに、タンパク質の発現量は、該タンパク質の酵素活性の測定により行ってもよい。本発明における指標タンパク質の酵素活性測定方法(例えば、後記実施例に示すβ酸化活性、リンゴ酸酵素(ME)活性)は、公知である。
【0050】
発現量の比較は、通常、被験物質が存在しない状態における前記指標遺伝子(タンパク質)の発現量を対照値として行う。本発明における指標遺伝子(タンパク質)は、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果を有する物質(後記実施例に示す魚油、DHAなど)の存在下で有意量が上昇する。従って、被験物質存在下における該指標遺伝子(タンパク質)の発現量が、対照値の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上の場合、その被験物質は、肥満を抑制し、または肥満を改善する作用を有していると評価できる。また、被験物質存在下における該指標遺伝子(タンパク質)の発現量が、上記の範囲に満たない場合又は対照値より減少した場合は、肥満改善効果がない、または肥満を増進する作用を有していると評価できる。
【0051】
本発明において遺伝子の発現量を増加させる物質とは、遺伝子の転写、翻訳、タンパク質の活性発現のいずれかのステップに対して促進作用を持つ物質である。このような物質には、指標遺伝子の転写活性を増加させる作用、指標遺伝子の転写産物からの翻訳を増加させる作用、指標遺伝子の翻訳産物の活性を促進する作用、指標遺伝子の転写産物の安定化を促進または分解を抑制する作用等を有する物質が含まれ得る。
【0052】
指標遺伝子(タンパク質)の発現量は、公知の方法によって補正することが好ましい。測定値の補正には、小腸に発現し、かつ細胞の状態に関わらず発現レベルが大きく変動しない遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値を用いればよい。
【0053】
本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品;天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー、ペプチドライブラリーなどが挙げられる。
【0054】
in vitroでは、小腸培養組織又は細胞への被験物質との接触は、被験物質を添加した培地で小腸培養組織又は細胞を培養することにより行う。
【0055】
in vivoでは、被験物質の動物への投与は、例えば、被験物質を含有する飼料を与えて飼育する、あるいは、被験物質を含有する溶液を経口投与することにより行う。
【0056】
被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。また、被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。
【0057】
本発明によるスクリーニング方法において指標遺伝子(指標タンパク質)の発現量を測定するための試薬を予め組み合わせてキット化することもできる。例えば、キットには、前記のプライマー、プローブとして用いるポリ(オリゴ)ヌクレオチド又は抗体のいずれかを少なくとも含んでいればよい。また、該キットには、固定化担体、細胞株、モデル動物を含んでいてもよく、さらに、標識物質、標識の検出に用いられる基質化合物、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、キットの使用方法を記載した指示書等を含めることもできる。
【0058】
本発明のスクリーニング方法によって選択される抗肥満物質は、脂肪細胞における脂肪蓄積の抑制、脂質代謝促進効果を有する。従って、該抗肥満物質は、肥満(内臓脂肪の増大や体脂肪増大)、肥満に伴う各種疾患、例えば糖尿病、高グリセリド血症、高脂血症、高血圧症、動脈硬化、心臓病、脂肪肝等の治療及び/又は予防用医薬組成物や、食品(特に特定保健用食品)などの有効成分として利用できる。かかる医薬組成物は、選択された抗肥満物質と通常の製剤担体を用い、常法により製造できる。例えば、経口用製剤を調製する場合は、必要に応じて結合剤、崩壊剤、潤滑剤、着色剤などを加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。非経口用製剤を調製する場合は、必要によりPH調節剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により注射剤とする。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1) 魚油食摂取後の小腸及び肝臓における遺伝子発現変動解析
肥満モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(db/dbマウス))に、下記表1に示すコントロール食(10% TG)、又は魚油食(6%TG+4%FO)を与えて飼育した。
【0061】
【表1】
【0062】
2週間後、ジエチルエーテルによる麻酔下でマウスを開腹し、小腸及び肝臓を採取した。さらに、採取した小腸及び肝臓よりRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、リアルタイムPCR解析法により、脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4A)と一般の脂質代謝促進の指標として用いられる遺伝子(ACO、MCAD、UCP-2)の発現量を測定した。
【0063】
なお、各遺伝子のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
ME遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CTATCCTCCTTTGAATACCATTCGA(配列番号17)
3'側:CTTCTGCAGGCCACGGATAACAATC(配列番号18)
PDK4遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GATCAGGGCAGTGACTTTCACAG(配列番号19)
3'側:TCAGAGCTGAAATTTCAATGGAAAC(配列番号20)
MTE-1遺伝子増幅用プライマー:
5'側:AGTGCCTATGAAGGACTGAGGA(配列番号21)
3'側:GGCAGAAAGCACCTTTACCA(配列番号22)
CTE-1遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GGCTGGGAATGGAGTTTCAT(配列番号23)
3'側:CCTGGCACTTTTCTTGGATAGC(配列番号24)
HMGCS2遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TGTCCCCTGAGGAATTCACAGAA(配列番号25)
3'側:CGATGCATCTCATCCACTCGTT(配列番号26)
THIO遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TAATTGCAGCATGGGTACACGT(配列番号27)
3'側:ACCGTCCCACAGAAATGAATGT(配列番号28)
FAT遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GCAAAGAAGGAAAGCCTGTGT(配列番号29)
3'側:GCCACAGTATAGGTACAATGT(配列番号30)
CYP4A遺伝子増幅用プライマー:
5'側:AAAGCTCCAAGATAGTTTTCCCATC(配列番号31)
3'側:CAATGATGTTCAGGCCTTGGAT(配列番号32)
ACO遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CTCTCTATGGGATCAGCCAGAA(配列番号33)
3'側:CCACTCAAACAAGTTTTCATACACA(配列番号34)
MCAD遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TGCTCGCAGAAATGGCGATGA(配列番号35)
3'側:CAATGTGCTCACGAGCTATGA(配列番号36)
UCP-2遺伝子増幅用プライマー:
5'側: TCTCCTGAAAGCCAACCTCAT(配列番号37)
3'側:GCTGCTCATAGGTGACAAACAT(配列番号38)
【0064】
また、それぞれの遺伝子発現量は、CTGATCATCCAGCAGGTGTT(配列番号39)とCCAGGAAGGCCTTGACCTTT(配列番号40)をプライマーとして用いたリアルタイムPCR解析で調べた36B4の発現量を基準として補正を行い比較した。
【0065】
2週間飼育後のマウス(db/dbマウス)の小腸における遺伝子の変化を図1に、肝臓における遺伝子の変化を図2に示す。また、肝臓における脂質(TG)蓄積量を図3に示す。
【0066】
図1に示すように、従来指標としてきたACO、MCAD、UCP-2の発現は魚油食摂取により変化しないのに対し、ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT 、CYP4Aの発現量は、魚油食摂取により有意に増加し、敏感に反応することが確認された。
【0067】
また、肝臓では魚油食摂取により脂肪蓄積の抑制効果が認められたが(図3)、ME、PDK4、MTE-1、HMGCS2、THIOの発現量は増加しないことがわかった(図2)。
【0068】
魚油は従来から肥満改善・脂質代謝促進効果を有する油脂であることが知られている。従って、上記試験において、小腸における上記脂質代謝関連酵素遺伝子が魚油食摂取に応答して発現量が増加することが示されたことから、これらの遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができるといえる。
【0069】
(実施例2) 魚油食摂取後の小腸における遺伝子発現変動解析と酵素活性測定
食餌依存性肥満モデルマウス (C57BL/6、雄性、6週齢)に、前記表1に示すコントロール食(10% TG)、又は魚油食(6%TG+4%FO)を与えて飼育した。
【0070】
2週間後、実施例1と同様にして、小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4A)と一般の脂質代謝促進の指標として用いられる遺伝子(ACO、MCAD、UCP-2)の発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。プライマーは実施例1に示したものと同じものを使用した。
【0071】
また、小腸粘膜におけるβ酸化活性、リンゴ酸酵素(ME)活性を測定した。まず、幽門から15cmの部分の小腸粘膜に、粘膜100mg当り800μlのシュークロースバッファー(0.25M シュークロース、 2mM HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)、0.1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム)を含む)を加え、ガラス製ホモジナイザーで細胞を破砕した。このホモジナイズ液を600xg、10分間遠心分離し、核を沈殿させて取り除いた後、得られた上清を12,500xg、20分間遠心分離して、ミトコンドリアを沈殿させた。こうして得られたミトコンドリア画分をβ酸化活性測定に用いた。また、前記12,500xg、20分間の遠心分離により得られた上清をさらに100,000xg、30分間遠心分離を行い、その上清を細胞質画分としてME活性測定に使用した。上記の遠心分離操作は全て4℃で行った。β酸化活性の測定は、Aoyamaらの方法(J. Biol. Chem. 1998, 5678-5684)、また、ME活性は、Biegniewskaらの方法(Comp. Biochem. Physiol. 1987, 86B, 731-735) に従って行った。
【0072】
2週間飼育後のマウス(C57BL/6マウス)の小腸における遺伝子の変化を図4に、小腸粘膜におけるβ酸化活性及びME活性を、それぞれ図5及び図6に示す。
【0073】
図4に示すように、本実施例に示した条件下において、従来から脂質代謝促進の指標とされているACO、MCAD、UCP-2の発現亢進は、1.2倍程度の微弱なものであった。また、飼育期間を5ヶ月間継続した場合においても、ACO、MCAD、UCP-2の発現亢進は、それぞれ、1.2、1.2、1.3倍の微弱なものであった。これに対し、ME、PDK-4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4Aの発現量は、魚油食摂取により有意に増加し、敏感に反応することが確認された。
【0074】
また、図5及び図6に示すように、魚油食摂取により小腸β酸化活性及びME活性の増加が確認された。
【0075】
以上の結果から、C57BL/6を用いる系においても、実施例1と同様に、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は魚油食摂取に応答して発現量が増加し、肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【0076】
(実施例3)ベザフィブラート投与による小腸における遺伝子発現変動解析と酵素活性測定
肥満抵抗性健常マウス (A/Jマウス、雄性、12週齢)に、水と固形飼料を与えて飼育した。このマウスに1.25% ベザフィブラート(シグマ社製)、1.67% ウシ血清アルブミン、0.1%タウロコール酸ナトリウム、3.5%植物油を含む脂質エマルジョン溶液(フィブラート溶液)、又は、上記エマルジョン溶液の組成物の内、ベザフィブラートを含まない脂質エマルジョン溶液(コントロール)を1日につき400μl、5日間経口投与した(ぞれぞれ、フィブラート投与群、コントロール群)。各群のマウスについて、最後の経口投与の6時間後に、ジエチルエーテルによる麻酔下で開腹し、小腸を採取した。
【0077】
実施例1と同様にして、小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK-4、MTE-1、HMGCS2、THIO、CYP4A)の発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。プライマーは実施例1に示したものと同じものを使用した。
【0078】
さらに、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性を測定した。β酸化活性、ME活性の測定に使用する画分の採取、及び測定は実施例2に記載の方法と同様にして行った。また、CYP4A活性(ω酸化活性)の測定には、ミトコンドリア沈殿採取後の上清に対する遠心分離(100,000xg、30分間)により得られた沈殿(ミクロソーム画分)を用いた。また、CYP4A活性の測定は、Gieraらの方法(Fundam. Appl. Toxicol. 1991, 16, 348-355)に従って行った。
【0079】
上記マウス(A/Jマウス)の小腸における遺伝子の変化を図7に示す。また、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性それぞれ図8、図9、図10に示す。
【0080】
図7に示すように、ベザフィブラートの投与群において、ME、PDK-4、MTE-1、HMGCS2、THIO、CYP4Aの発現量は有意に増加していることが確認された。また、図8、9、10に示すように、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性の増加がそれぞれ確認された。
【0081】
従来の研究において、ベザフィブラート等のフィブラート系化合物は、肥満改善・脂質代謝促進効果を有することが示されている(J. Biol. Chem., 275, 16638-16642, 2000; Mol. Cell Biochem., 216, 71-78, 2001)。従って、上記試験において、小腸における上記脂質代謝関連酵素遺伝子はベザフィブラート投与に応答して発現量が増加することが示されたことから、これらの遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができるといえる。
【0082】
(実施例4) DHA存在下で培養した小腸培養組織片を用いた遺伝子発現解析
水及び固形飼料を自由に与えて飼育したC57BL/6マウス(9週齢、雄性)を用い、Mallordyらの方法(Mol. Cell. Biochem. 1993, 123, 85-92)に準じた器官培養法により、小腸脂質代謝活性評価を実施した。15時間絶食させたマウスをジエチルエーテルによる麻酔下で開腹し、空腸部(幽門より10-11,11-12,12-13 cm)の小腸片を採取した。得られた小腸片は、縦方向に切り開き、実体顕微鏡を使って漿膜を取り除いた後、粘膜を上にした状態でアルミメッシュの上に広げた。器官培養ディッシュ(イワキ株式会社製)の内側のウェルに、小腸片をのせたアルミメッシュをセットし、組織が浸る程度(0.9 ml) の培地を添加して、80% O2, 5% CO2存在下で培養した。外側のウェルには、乾燥防止のため、PBSを適当量加えた。培地には、600 μM ドコサヘキサエン酸 (DHA)又は600 μM オレイン酸と、250 μM 脂肪酸不含ウシ血清アルブミン、10% NCTC-135(シグマ社製)、10%ウシ胎児血清、0.1% Fungizone、0.1mg/ml Gentamycin、25mM HEPES (2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid; pH7.5)を含むDulbecco's Modified Eagle Medium培地を用いた。
【0083】
18時間培養後、小腸片からRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、実施例1に記載の方法に従い、脂質代謝関連酵素遺伝子としてME、MTE-1、HMGCS2、CYP4Aの発現をリアルタイムPCR解析法により測定した。
【0084】
図11に示すように、DHAの存在下で培養した場合は、オレイン酸の存在下で培養した場合と比較して、上記遺伝子の発現が有意に上昇していることが確認された。
【0085】
以上の結果から、小腸培養組織片を用いた試験系においても、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【0086】
(実施例5)DHA存在下で培養した小腸培養細胞における遺伝子発現量解析
12ウェルプレートに、ウェル当たり3x106個のヒト由来小腸様培養細胞Caco-2細胞(American Type Culture Collection HTB37)を播種し、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、2mMグルタミン酸を含むMEMアール液体培地中で培養した。細胞がコンフレントに達した後、14日間培養を行い、小腸様細胞に分化したCaco-2細胞を評価に使用した。
【0087】
上記の分化誘導されたCaco-2細胞を、200 μM DHA又は200μM オレイン酸と、250 μM 脂肪酸不含ウシ血清アルブミン、1%非必須アミノ酸、2mMグルタミン酸を含むMEMアール液体培地で培養した。24時間培養後、Caco-2細胞よりRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、実施例1に記載の方法に従い、脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、HMGCS2)の発現をリアルタイムPCR解析法により測定した。
【0088】
なお、各遺伝子のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
ME遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GTTATTCTTGGCCTGAAGAGGTG(配列番号41)
3'側:AGGCAAAGTGAAGCAAAATTGTC(配列番号42)
PDK4遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GGTGGCCTAGTGTTGTGGTG(配列番号43)
3'側:ATCAGAAATG CATGAGCTGG ACTC(配列番号44)
HMGCS2遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CGTCCCGTCTAAAGGTGTTCT(配列番号45)
3'側:CGCTAGAGATGGCTCCTCACT(配列番号46)
【0089】
それぞれの遺伝子発現量は、CTGATCATCCAGCAGGTGTT(配列番号39)とCCAGGAAGGCCTTGACCTTT(配列番号40)をプライマーとして用いたリアルタイムPCR解析で調べた36B4の発現量を基準として補正を行い比較した。
【0090】
図12に示すように、DHAの存在下で培養した場合は、オレイン酸の存在下で培養した場合と比較して、上記遺伝子の発現が有意に上昇していることが確認された。
【0091】
以上の結果から、小腸培養細胞を用いた試験系においても、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の方法によれば、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質を高感度にかつ短期間で簡便にスクリーニングすることができる。従って、肥満や脂質代謝異常が原因となっている各種疾患の予防及び/又は治療用の医薬や食品の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図2】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の肝臓における遺伝子発現変化を示す。
【図3】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の肝臓脂質(TG)含量変化を示す。
【図4】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図5】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸β酸化活性変化を示す。
【図6】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸ME活性変化を示す。
【図7】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図8】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸β酸化活性変化を示す。
【図9】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸ME活性変化を示す。
【図10】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸CYP4A活性変化を示す。
【図11】DHAと培養したマウス(db/dbマウス)由来の小腸組織片における遺伝子発現変化を示す。
【図12】DHAと培養した小腸培養細胞(Caco-2細胞)における遺伝子発現変化を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満物質のスクリーニング方法、詳しくは小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子の発現変動を指標とする抗肥満物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、過剰な脂質エネルギーの摂取に代表される食生活の欧米化や、運動不足などの社会環境の変化により、肥満人口が増加し、社会問題となっている。肥満は、食物由来のエネルギーが、脂肪細胞に中性脂肪(トリアシルグリセロール)として過剰に蓄積された結果である。
【0003】
肥満は、しばしば、糖尿病、高血圧、高脂血症等の生活習慣病を合併し、動脈硬化症の発症の原因となる。そのため、肥満の予防・改善は、生活習慣病のリスクを低減する上で極めて重要であると考えられ、これまでに、肥満及び肥満に関連する脂質代謝異常の予防・改善のために種々の方法が提案されている。例えば、運動、カロリー制限、生活習慣の改善などの方法は、一般には、肥満予防・改善に有効とされているが、これらの方法のみでは大抵の場合十分な効果が得られないことが多い。最近ではダイエット食品としてL−カルニチン、カプサイシン、共役リノール酸、ヒドロキシクエン酸、ギムネマ、ガルシニア等様々な化合物を配合したものが開発されている。これらの作用機構は十分明らかとはなっていないが、脂質代謝の活性化、糖吸収の抑制、脂肪合成の抑制等が考えられている。また一方で、多くの肥満改善剤や脂質代謝促進剤の開発がなされ、薬理学的な介入も試みられ、これまでに、栄養成分の吸収、空腹感及び満腹感を制御するホルモンの産生、エネルギーの消費を対象とする薬剤が開発されてきた。その中でもエネルギーの消費を対象とする薬剤の評価は、一般にその薬剤が肝臓、筋肉の脂質燃焼を促進するか否か、あるいは、肝臓や脂肪組織等への脂肪蓄積を抑制するか否かを検討することにより行われる。これまで、脂質燃焼の促進を評価する際の分子指標としては、ペルオキシソームβ酸化酵素であるAcyl-Coenzyem A oxidase (ACO) (非特許文献1、非特許文献2参照)、ミトコンドリアβ酸化酵素であるmedium-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase (MCAD)(非特許文献2参照)、脂質等のエネルギーを熱に変換し体外に放出する働きを有するuncoupling protein-2 (UCP-2) (非特許文献3参照)、β酸化と関連する脂肪酸輸送タンパクfatty acid binding protein 1 (FABP1)(非特許文献4参照)等の分子が広く用いられている。
【0004】
しかしながら、これらの一般に用いられるACO、MCAD、UCP-2、FABP1等の分子指標の遺伝子発現は、肥満改善や脂質代謝促進効果を有する既存の食材、薬剤によっても、鋭敏には変化しないことから、感度的にも限界があった。また、肝臓、筋肉、脂肪組織における脂質代謝を指標としたin vivo評価は、大抵の場合、1ヶ月以上の長い評価期間を必要とする。従って、肥満改善や脂質代謝促進をより高感度で短期間に評価できる指標が望まれるところである。
【0005】
【非特許文献1】Roglans Nら, J. Pharmacol. Exp Ther., 2002, 302, 232-239.
【非特許文献2】Egawa T ら, Lipids, 2003, 38, 519-523.
【非特許文献3】Tsuboyama-Kasaoka Nら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 1990, 257, 879-885.
【非特許文献4】Brandes Rら, Biochim. Biophys. Acta., 1990, 1034, 53-61.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質(食材や薬剤)に対して発現量が有意に変動し、肥満改善及び/又は脂質代謝促進の新たな指標となりうる遺伝子を見出し、これらの遺伝子を利用して抗肥満物質を高感度にかつ短期間にスクリーニングする手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、小腸における特定の脂質代謝関連酵素遺伝子が、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質の存在により有意に増加することを見出した。さらに、これらの脂質代謝関連酵素遺伝子、又はその遺伝子産物であるタンパク質は、これまで用いられてきた肥満改善及び/又は脂質代謝促進の指標よりも発現変動が鋭敏であり、抗肥満物質をスクリーニングするのに有効であることが確認された。本発明はかかる知見をもとに完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0009】
(2) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0010】
(3) 脂質代謝関連酵素遺伝子が、下記のポリヌクレオチドのうち、少なくとも1種以上のポリヌクレオチドである、(1)又は(2)に記載のスクリーニング方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0011】
(4) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0012】
(5) 次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【0013】
(6) 脂質代謝関連酵素タンパク質が、下記のポリペプチドのうち、少なくとも1種以上のポリペプチドである、(4)又は(5)に記載のスクリーニング方法。
(a) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するポリペプチド
【0014】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質を有効成分して含有する、肥満症び肥満が原因となる疾患の予防及び/治療のための医薬組成物。
(8) (1)から(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質を含有する、肥満防止及び/又は改善用食品。
【0015】
(9) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット。
(10) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ。
【0016】
(11) (10)に記載のプローブを固定化した固定化担体。
(12) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体。
【0017】
(13) 下記の(i)又は(ii)の少なくとも1種を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
(i) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット
(ii) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ
【0018】
(14) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体と該抗体に対する二次抗体を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質の存在によって小腸において有意に発現量が変動する脂質代謝酵素遺伝子を用いた抗肥満物質のスクリーニング方法が提供される。本発明において用いる脂質代謝酵素遺伝子は、従来の肥満改善及び/又は脂質代謝促進の指標とされていたものより、より高感度にかつ短期間に、抗肥満物質をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、抗肥満物質をスクリーニングする方法であって、小腸における特定の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定し、対照の対応する遺伝子発現量と比較して、上記遺伝子の発現量を増加させる物質を、抗肥満物質として選択することを特徴とする。
【0021】
本発明のスクリーニング方法は、in vitroで行うことも、in vivoで行うこともできる。
【0022】
本発明のin vitroでのスクリーニング方法は、例えば、以下の工程により行うことができる。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
また、本発明のin vivoでのスクリーニング方法は、例えば、以下の工程により行うことができる。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
本発明のスクリーニング方法に用いる脂質代謝関連酵素遺伝子はいずれも公知であり、それぞれの塩基配列情報も入手可能である。
【0023】
具体的には、脂質代謝関連酵素遺伝子として、配列番号1に示す塩基配列を有するリンゴ酸酵素(Malic Enzyme:ME)遺伝子、配列番号3に示す塩基配列を有するピルビン酸デヒロゲナーゼキナーゼ アイソザイム4(Pyruvate dehydrogenase kinase, isozyme 4:PDK4)遺伝子、配列番号5に示す塩基配列を有するミトコンドリア アシル-CoA チオエステラーゼ1(Mitochondrial acyl-CoA thioesterase 1:MTE-1)遺伝子、配列番号7に示す塩基配列を有するサイトソル アシル-CoAチオエステラーゼ1(Cytosolic acyl-CoA thioesterase 1:CTE-1)遺伝子、配列番号9に示す塩基配列を有する3-ケトアシル-CoAチオラーゼB(3-Ketoacyl-CoA thiolase B:THIO)遺伝子、配列番号11に示す塩基配列を有する3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA シンターゼ2(3-Hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase 2:HMGCS2)遺伝子、配列番号13に示す塩基配列を有する脂肪酸トランスロカーゼ(Fatty acid translocase:FAT)遺伝子、配列番号15に示す塩基配列を有するチトクロームP450A(Cytochorome P450A:CYP4A)遺伝子が挙げられる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法は、上記の脂質代謝関連酵素遺伝子と、該遺伝子によりコードされるタンパク質を基礎とするものである。
【0025】
なお、本発明において、「ポリヌクレオチド」とは、プリン又はピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;又はdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が100個以上結合した分子をいい。「オリゴヌクレオチド」とは2-99個連結した分子を言う。また、「ポリ(オリゴ)ヌクレオチド」は、DNA及びRNAのいずれも含み、合成されたものであったも、天然のものであってもよい。また、「タンパク質」及び「(ポリ)ペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。
【0026】
本発明のスクリーニング方法に用いる上記の脂質代謝関連酵素遺伝子(以下、「指標遺伝子」という)は、実質的に同一の機能・活性を有する限り、変異遺伝子であってもよい。例えば、変異遺伝子としては、配列番号1、3、5、7、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0027】
ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件、例えば、高い相同性(相同性が80%以上、好ましくは90%以上)を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、例えば、0.5〜1.0 M 程度の NaClを含むハイブリダイゼーション溶液中、60℃〜68℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度で0.11〜1×SSC中(1×SSC: 150mM NaCl, 15mMクエン酸ナトリウムからなる)で1時間洗浄する条件をいう。
【0028】
また、上記の「脂質代謝促進物質に応答して発現が増加する」とは、脂質代謝促進物質(例えばDHAなど)の存在下における遺伝子発現量が非存在下における遺伝子発現量より有意に増加することをいい、その増加程度が、上記各塩基配列で示されるポリヌクレチドが有する活性と実質的に同等であることをいう。
【0029】
上記変異遺伝子の機能確認は、例えば該変異遺伝子を含む組換えベクター作成し、これを適当な宿主細胞に導入して、公知の脂質代謝促進物質存在下または非存在下で培養し、培養後の細胞内における遺伝子発現量を比較することによって確認できる。なお、遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0030】
スクリーニング(in vitro)に用いる小腸培養組織又は細胞としては、前記の指標遺伝子のいずれかを発現する哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞を用いることができ、例えば、小腸培養細胞としては、Caco-2細胞、IEC-6 細胞、IEC-18細胞などが挙げられる。哺乳動物としては、特に限定されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ等が好ましく、その中でもマウスが好ましい。
【0031】
また、スクリーニング(in vivo)に用いる被験動物としては、非ヒト哺乳動物であればよく、肥満モデル動物または健常動物のいずれでもよい。肥満モデル動物としては、肥満責任遺伝子として同定されているob遺伝子、db遺伝子、tub遺伝子、Avy遺伝子、fat遺伝子をホモで有する非ヒト肥満モデル動物、例えば、ob/obマウス、db/dbマウス、Wistar fattyラット、Zucker fattyラット、あるいは非ヒト糖尿病モデル動物を用いることができる。
【0032】
このような非ヒト肥満及び/又は糖尿病モデル動物として、具体的には、C57BL/6J ob/obマウス、C57BL/6J Ham Slc-Ayマウス、Crj:(ZUC)-fa/faラット、Slc:Zucker-fa/faラット、Hos:Zucker-fa/faラット、SHR/NDmc-cpラット、KK-Ay/Ta Jclマウス、B6.V-Lepob/Jマウス、C57BL/6J Ham Slc-Lepobマウス、BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jclマウス、NSYマウス、ZDF/Gmi-fa/faラット等を挙げることができ、これらはいずれも市販されている。
【0033】
遺伝子の発現量は、遺伝子の転写物であるmRNAの量、該mRNAから逆転写したcDNAの量のいずれを測定してもよい。小腸培養組織又は細胞からのRNAの抽出は、当該技術分野において通常用いられる手法、例えば、グアニジン/塩化セシウム法、グアニジン/チオシアネート法(グアニジン/セシウムTFA法)、塩化リチウム/尿素法、ホットフェノール法、AGPC法(アシッドグアニジウム−フェノール−クロロホルム法)などに従って行うことができる。RNA抽出に際しては、RNeasy等の市販のRNA抽出用キットに添付される抽出プロトコルを改良した独自のプロトコルに従って行うことが好ましい。mRNAの調製は、得られた全RNA画分をオリゴ(dT)セルロースカラムやセファロース2Bを担体とするポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により処理することによって行う。また、cDNAの調製は、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRnaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成することにより行う。
【0034】
本発明において、遺伝子の発現量の測定は、公知の遺伝子発現解析方法に従って行うこができる。例えば、上記の指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法、又は指標遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとした遺伝子増幅法等を利用することができる。具体的には、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、RT-PCR法、Real−Time PCR法、DNAマイクロアレイ法などが挙げられる。
【0035】
本発明には上記測定に用いられるプローブ又はプライマー(セット)をも包含する。
プライマー(セット)は、前記の指標遺伝子の各塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングが可能とするために、15〜40塩基、好ましくは20〜30塩基である。プライマーの設計は、センス鎖(5'末端側)とアンチセンス鎖(3'末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量を約50%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55〜65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜1μMになるよう調整する等を留意することも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。
【0036】
本発明における上記の各指標遺伝子を増幅できるプライマーとして、具体的には後記実施例に示す配列番号17〜38、41〜46に示す塩基配列を有するプライマーが例示できる。
【0037】
また、プローブとしては、指標遺伝子の塩基配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド、あるいは、指標遺伝子の塩基配列に対する相補配列の連続する部分配列からなるポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片が用いられる。プローブの長さは特に限定されないが、例えば15塩基以上、好ましくは20塩基以上であれば目的とする遺伝子の間で特異的なハイブリッドを形成できる。上記ヌクレオチド断片は、例えば、各塩基配列を有するポリヌクレオチド(cDNA)を適当な制限酵素で切断するか、あるいは、周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。
【0038】
上記ヌクレオチド断片をプローブとして使用する場合、標識物質により標識化する。標識物質は、特に限定はされないが、例えば、蛍光物質、放射性同位体、酵素、アビジン若しくはビオチンなどを用いることができる。蛍光物質としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRIC)、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、アセチルアミノフルオレン(AFF)などが挙げられ、酵素としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなどが挙げられ、放射性同位体としては、125Iや3Hなどが挙げられる。
【0039】
上記のプローブとして用いるポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片は、前記指標遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることを特徴とする。ここで、ストリンジェントな条件とは、前記指標遺伝子とポリ(オリゴ)ヌクレオチド断片との選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件によって定義される。ストリンジェンシーは、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによって増加する。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、NaCl約750 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約75mM以下、より好ましくはNaCl約500 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約50 mM以下、最も好ましくはNaCl約250 mM以下及びクエン酸三ナトリウム約25 mM以下である。ストリンジェントな有機溶媒濃度は、ホルムアミド約35%以上、好ましくは約50%以上である。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上、好ましくは約37℃以上、より好ましくは約42℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、及びキャリアーDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。
【0040】
また、プローブはマイクロアレイなどの固定化担体に固定化して用いてもよい。マイクロアレイの形成方法は特に限定されず、当業者が利用可能ないかなる方法を用いてもよく、例えば、固相担体表面で直接プローブを合成する方法(オン・チップ法)、又は予め調製したプローブを固相担体表面に結合する方法などがある。固相担体表面で直接プローブを合成する場合には、光照射で選択的に除去される保護基を用い、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術及び固相合成技術を組み合わせて所定の微少なマトリックス領域でのオリゴヌクレオチドの選択的な合成を行う方法が一般的である。一方、予めプローブを調製して固相担体表面に結合する方法では、プローブ核酸の種類や固相担体の種類に応じて、スポッタ装置によりポリ陽イオン化合物やアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤などで表面処理した固相担体の表面に点着する方法、反応活性基を導入したプローブ核酸を合成し、予め反応性基を形成させるように表面処理した固相担体表面に該プローブ核酸を点着して該プローブ核酸を固相担体表面に共有結合により結合固定させる方法などが利用できる。
【0041】
また本発明スクリーニング方法の別の態様として、指標遺伝子によりコードされるタンパク質(以下、指標タンパク質という)の検出することにより行うこともできる。
【0042】
かかる指標タンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するリンゴ酸酵素(Malic Enzyme:ME)、配列番号4に示すアミノ酸を有するピルビン酸デヒロゲナーゼキナーゼ アイソザイム4(Pyruvate dehydrogenase kinase, isozyme 4:PDK4)、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するミトコンドリア アシル-CoA チオエステラーゼ1(Mitochondrial acyl-CoA thioesterase 1:MTE-1)、配列番号8に示すアミノ酸配列を有するサイトソル アシル-CoAチオエステラーゼ1(Cytosolic acyl-CoA thioesterase 1:CTE-1)、配列番号10に示すアミノ酸配列を有する3-ケトアシル-CoAチオラーゼB(3-Ketoacyl-CoA thiolase B:THIO)、配列番号12に示すアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA シンターゼ2(3-Hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase 2:HMGCS2)、配列番号14に示すアミノ酸配列を有する脂肪酸トランスロカーゼ(Fatty acid translocase:FAT)、配列番号16に示すアミノ酸配列を有するチトクロームP450A(Cytochorome P450A:CYP4A)が挙げられる。
【0043】
本発明のスクリーニング方法に用いる上記の指標タンパク質は、実質的に同一の機能・活性を有する限り、変異タンパク質であってもよい。例えば、変異タンパク質としては、配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び18のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答した発現活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、1若しくは数個とは、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個をいう。
【0044】
本発明において、指標タンパク質の発現量の測定は、公知のタンパク質発現解析方法に従って行うことができる。例えば、該指標タンパクに結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、酵素免疫測定法 (ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)、放射線免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)、蛍光抗体法、免疫細胞染色等が挙げられる。
【0045】
上記測定に用いられる指標タンパク質に対する抗体は、当業者に周知の方法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体のいずれであってもよい。また、抗体としては、抗体の活性フラグメントであってもよい。活性フラグメントとしては、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなどが挙げられる。
【0046】
例えば、指標タンパク質に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物(例えば、ウサギ、ラット、マウスなど)から血液を採取し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞など)を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
【0047】
抗原に用いるタンパク質もしくはその部分ペプチドは、例えば前記の塩基配列を有する標的遺伝子又はその部分遺伝子を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作成し、該形質転換体を培養して組み換えタンパク質を発現させ、発現させた組み換えタンパク質を培養体又は培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、これらの遺伝子によってコードされるアミノ酸配列、あるいは全長cDNAによってコードされるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。
【0048】
指標タンパク質の検出には、これらの抗体を適宜標識すればよい。標識物質は、前記の酵素、放射性同位体、蛍光色素を使用することができる。また、抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。
【0049】
さらに、タンパク質の発現量は、該タンパク質の酵素活性の測定により行ってもよい。本発明における指標タンパク質の酵素活性測定方法(例えば、後記実施例に示すβ酸化活性、リンゴ酸酵素(ME)活性)は、公知である。
【0050】
発現量の比較は、通常、被験物質が存在しない状態における前記指標遺伝子(タンパク質)の発現量を対照値として行う。本発明における指標遺伝子(タンパク質)は、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果を有する物質(後記実施例に示す魚油、DHAなど)の存在下で有意量が上昇する。従って、被験物質存在下における該指標遺伝子(タンパク質)の発現量が、対照値の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上の場合、その被験物質は、肥満を抑制し、または肥満を改善する作用を有していると評価できる。また、被験物質存在下における該指標遺伝子(タンパク質)の発現量が、上記の範囲に満たない場合又は対照値より減少した場合は、肥満改善効果がない、または肥満を増進する作用を有していると評価できる。
【0051】
本発明において遺伝子の発現量を増加させる物質とは、遺伝子の転写、翻訳、タンパク質の活性発現のいずれかのステップに対して促進作用を持つ物質である。このような物質には、指標遺伝子の転写活性を増加させる作用、指標遺伝子の転写産物からの翻訳を増加させる作用、指標遺伝子の翻訳産物の活性を促進する作用、指標遺伝子の転写産物の安定化を促進または分解を抑制する作用等を有する物質が含まれ得る。
【0052】
指標遺伝子(タンパク質)の発現量は、公知の方法によって補正することが好ましい。測定値の補正には、小腸に発現し、かつ細胞の状態に関わらず発現レベルが大きく変動しない遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値を用いればよい。
【0053】
本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品;天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー、ペプチドライブラリーなどが挙げられる。
【0054】
in vitroでは、小腸培養組織又は細胞への被験物質との接触は、被験物質を添加した培地で小腸培養組織又は細胞を培養することにより行う。
【0055】
in vivoでは、被験物質の動物への投与は、例えば、被験物質を含有する飼料を与えて飼育する、あるいは、被験物質を含有する溶液を経口投与することにより行う。
【0056】
被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。また、被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。
【0057】
本発明によるスクリーニング方法において指標遺伝子(指標タンパク質)の発現量を測定するための試薬を予め組み合わせてキット化することもできる。例えば、キットには、前記のプライマー、プローブとして用いるポリ(オリゴ)ヌクレオチド又は抗体のいずれかを少なくとも含んでいればよい。また、該キットには、固定化担体、細胞株、モデル動物を含んでいてもよく、さらに、標識物質、標識の検出に用いられる基質化合物、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、キットの使用方法を記載した指示書等を含めることもできる。
【0058】
本発明のスクリーニング方法によって選択される抗肥満物質は、脂肪細胞における脂肪蓄積の抑制、脂質代謝促進効果を有する。従って、該抗肥満物質は、肥満(内臓脂肪の増大や体脂肪増大)、肥満に伴う各種疾患、例えば糖尿病、高グリセリド血症、高脂血症、高血圧症、動脈硬化、心臓病、脂肪肝等の治療及び/又は予防用医薬組成物や、食品(特に特定保健用食品)などの有効成分として利用できる。かかる医薬組成物は、選択された抗肥満物質と通常の製剤担体を用い、常法により製造できる。例えば、経口用製剤を調製する場合は、必要に応じて結合剤、崩壊剤、潤滑剤、着色剤などを加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。非経口用製剤を調製する場合は、必要によりPH調節剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により注射剤とする。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1) 魚油食摂取後の小腸及び肝臓における遺伝子発現変動解析
肥満モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(db/dbマウス))に、下記表1に示すコントロール食(10% TG)、又は魚油食(6%TG+4%FO)を与えて飼育した。
【0061】
【表1】
【0062】
2週間後、ジエチルエーテルによる麻酔下でマウスを開腹し、小腸及び肝臓を採取した。さらに、採取した小腸及び肝臓よりRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、リアルタイムPCR解析法により、脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4A)と一般の脂質代謝促進の指標として用いられる遺伝子(ACO、MCAD、UCP-2)の発現量を測定した。
【0063】
なお、各遺伝子のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
ME遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CTATCCTCCTTTGAATACCATTCGA(配列番号17)
3'側:CTTCTGCAGGCCACGGATAACAATC(配列番号18)
PDK4遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GATCAGGGCAGTGACTTTCACAG(配列番号19)
3'側:TCAGAGCTGAAATTTCAATGGAAAC(配列番号20)
MTE-1遺伝子増幅用プライマー:
5'側:AGTGCCTATGAAGGACTGAGGA(配列番号21)
3'側:GGCAGAAAGCACCTTTACCA(配列番号22)
CTE-1遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GGCTGGGAATGGAGTTTCAT(配列番号23)
3'側:CCTGGCACTTTTCTTGGATAGC(配列番号24)
HMGCS2遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TGTCCCCTGAGGAATTCACAGAA(配列番号25)
3'側:CGATGCATCTCATCCACTCGTT(配列番号26)
THIO遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TAATTGCAGCATGGGTACACGT(配列番号27)
3'側:ACCGTCCCACAGAAATGAATGT(配列番号28)
FAT遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GCAAAGAAGGAAAGCCTGTGT(配列番号29)
3'側:GCCACAGTATAGGTACAATGT(配列番号30)
CYP4A遺伝子増幅用プライマー:
5'側:AAAGCTCCAAGATAGTTTTCCCATC(配列番号31)
3'側:CAATGATGTTCAGGCCTTGGAT(配列番号32)
ACO遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CTCTCTATGGGATCAGCCAGAA(配列番号33)
3'側:CCACTCAAACAAGTTTTCATACACA(配列番号34)
MCAD遺伝子増幅用プライマー:
5'側:TGCTCGCAGAAATGGCGATGA(配列番号35)
3'側:CAATGTGCTCACGAGCTATGA(配列番号36)
UCP-2遺伝子増幅用プライマー:
5'側: TCTCCTGAAAGCCAACCTCAT(配列番号37)
3'側:GCTGCTCATAGGTGACAAACAT(配列番号38)
【0064】
また、それぞれの遺伝子発現量は、CTGATCATCCAGCAGGTGTT(配列番号39)とCCAGGAAGGCCTTGACCTTT(配列番号40)をプライマーとして用いたリアルタイムPCR解析で調べた36B4の発現量を基準として補正を行い比較した。
【0065】
2週間飼育後のマウス(db/dbマウス)の小腸における遺伝子の変化を図1に、肝臓における遺伝子の変化を図2に示す。また、肝臓における脂質(TG)蓄積量を図3に示す。
【0066】
図1に示すように、従来指標としてきたACO、MCAD、UCP-2の発現は魚油食摂取により変化しないのに対し、ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT 、CYP4Aの発現量は、魚油食摂取により有意に増加し、敏感に反応することが確認された。
【0067】
また、肝臓では魚油食摂取により脂肪蓄積の抑制効果が認められたが(図3)、ME、PDK4、MTE-1、HMGCS2、THIOの発現量は増加しないことがわかった(図2)。
【0068】
魚油は従来から肥満改善・脂質代謝促進効果を有する油脂であることが知られている。従って、上記試験において、小腸における上記脂質代謝関連酵素遺伝子が魚油食摂取に応答して発現量が増加することが示されたことから、これらの遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができるといえる。
【0069】
(実施例2) 魚油食摂取後の小腸における遺伝子発現変動解析と酵素活性測定
食餌依存性肥満モデルマウス (C57BL/6、雄性、6週齢)に、前記表1に示すコントロール食(10% TG)、又は魚油食(6%TG+4%FO)を与えて飼育した。
【0070】
2週間後、実施例1と同様にして、小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4A)と一般の脂質代謝促進の指標として用いられる遺伝子(ACO、MCAD、UCP-2)の発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。プライマーは実施例1に示したものと同じものを使用した。
【0071】
また、小腸粘膜におけるβ酸化活性、リンゴ酸酵素(ME)活性を測定した。まず、幽門から15cmの部分の小腸粘膜に、粘膜100mg当り800μlのシュークロースバッファー(0.25M シュークロース、 2mM HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)、0.1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム)を含む)を加え、ガラス製ホモジナイザーで細胞を破砕した。このホモジナイズ液を600xg、10分間遠心分離し、核を沈殿させて取り除いた後、得られた上清を12,500xg、20分間遠心分離して、ミトコンドリアを沈殿させた。こうして得られたミトコンドリア画分をβ酸化活性測定に用いた。また、前記12,500xg、20分間の遠心分離により得られた上清をさらに100,000xg、30分間遠心分離を行い、その上清を細胞質画分としてME活性測定に使用した。上記の遠心分離操作は全て4℃で行った。β酸化活性の測定は、Aoyamaらの方法(J. Biol. Chem. 1998, 5678-5684)、また、ME活性は、Biegniewskaらの方法(Comp. Biochem. Physiol. 1987, 86B, 731-735) に従って行った。
【0072】
2週間飼育後のマウス(C57BL/6マウス)の小腸における遺伝子の変化を図4に、小腸粘膜におけるβ酸化活性及びME活性を、それぞれ図5及び図6に示す。
【0073】
図4に示すように、本実施例に示した条件下において、従来から脂質代謝促進の指標とされているACO、MCAD、UCP-2の発現亢進は、1.2倍程度の微弱なものであった。また、飼育期間を5ヶ月間継続した場合においても、ACO、MCAD、UCP-2の発現亢進は、それぞれ、1.2、1.2、1.3倍の微弱なものであった。これに対し、ME、PDK-4、MTE-1、CTE-1、HMGCS2、THIO、FAT、CYP4Aの発現量は、魚油食摂取により有意に増加し、敏感に反応することが確認された。
【0074】
また、図5及び図6に示すように、魚油食摂取により小腸β酸化活性及びME活性の増加が確認された。
【0075】
以上の結果から、C57BL/6を用いる系においても、実施例1と同様に、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は魚油食摂取に応答して発現量が増加し、肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【0076】
(実施例3)ベザフィブラート投与による小腸における遺伝子発現変動解析と酵素活性測定
肥満抵抗性健常マウス (A/Jマウス、雄性、12週齢)に、水と固形飼料を与えて飼育した。このマウスに1.25% ベザフィブラート(シグマ社製)、1.67% ウシ血清アルブミン、0.1%タウロコール酸ナトリウム、3.5%植物油を含む脂質エマルジョン溶液(フィブラート溶液)、又は、上記エマルジョン溶液の組成物の内、ベザフィブラートを含まない脂質エマルジョン溶液(コントロール)を1日につき400μl、5日間経口投与した(ぞれぞれ、フィブラート投与群、コントロール群)。各群のマウスについて、最後の経口投与の6時間後に、ジエチルエーテルによる麻酔下で開腹し、小腸を採取した。
【0077】
実施例1と同様にして、小腸における脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK-4、MTE-1、HMGCS2、THIO、CYP4A)の発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。プライマーは実施例1に示したものと同じものを使用した。
【0078】
さらに、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性を測定した。β酸化活性、ME活性の測定に使用する画分の採取、及び測定は実施例2に記載の方法と同様にして行った。また、CYP4A活性(ω酸化活性)の測定には、ミトコンドリア沈殿採取後の上清に対する遠心分離(100,000xg、30分間)により得られた沈殿(ミクロソーム画分)を用いた。また、CYP4A活性の測定は、Gieraらの方法(Fundam. Appl. Toxicol. 1991, 16, 348-355)に従って行った。
【0079】
上記マウス(A/Jマウス)の小腸における遺伝子の変化を図7に示す。また、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性それぞれ図8、図9、図10に示す。
【0080】
図7に示すように、ベザフィブラートの投与群において、ME、PDK-4、MTE-1、HMGCS2、THIO、CYP4Aの発現量は有意に増加していることが確認された。また、図8、9、10に示すように、小腸粘膜におけるβ酸化活性、ME活性、CYP4A活性の増加がそれぞれ確認された。
【0081】
従来の研究において、ベザフィブラート等のフィブラート系化合物は、肥満改善・脂質代謝促進効果を有することが示されている(J. Biol. Chem., 275, 16638-16642, 2000; Mol. Cell Biochem., 216, 71-78, 2001)。従って、上記試験において、小腸における上記脂質代謝関連酵素遺伝子はベザフィブラート投与に応答して発現量が増加することが示されたことから、これらの遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができるといえる。
【0082】
(実施例4) DHA存在下で培養した小腸培養組織片を用いた遺伝子発現解析
水及び固形飼料を自由に与えて飼育したC57BL/6マウス(9週齢、雄性)を用い、Mallordyらの方法(Mol. Cell. Biochem. 1993, 123, 85-92)に準じた器官培養法により、小腸脂質代謝活性評価を実施した。15時間絶食させたマウスをジエチルエーテルによる麻酔下で開腹し、空腸部(幽門より10-11,11-12,12-13 cm)の小腸片を採取した。得られた小腸片は、縦方向に切り開き、実体顕微鏡を使って漿膜を取り除いた後、粘膜を上にした状態でアルミメッシュの上に広げた。器官培養ディッシュ(イワキ株式会社製)の内側のウェルに、小腸片をのせたアルミメッシュをセットし、組織が浸る程度(0.9 ml) の培地を添加して、80% O2, 5% CO2存在下で培養した。外側のウェルには、乾燥防止のため、PBSを適当量加えた。培地には、600 μM ドコサヘキサエン酸 (DHA)又は600 μM オレイン酸と、250 μM 脂肪酸不含ウシ血清アルブミン、10% NCTC-135(シグマ社製)、10%ウシ胎児血清、0.1% Fungizone、0.1mg/ml Gentamycin、25mM HEPES (2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid; pH7.5)を含むDulbecco's Modified Eagle Medium培地を用いた。
【0083】
18時間培養後、小腸片からRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、実施例1に記載の方法に従い、脂質代謝関連酵素遺伝子としてME、MTE-1、HMGCS2、CYP4Aの発現をリアルタイムPCR解析法により測定した。
【0084】
図11に示すように、DHAの存在下で培養した場合は、オレイン酸の存在下で培養した場合と比較して、上記遺伝子の発現が有意に上昇していることが確認された。
【0085】
以上の結果から、小腸培養組織片を用いた試験系においても、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【0086】
(実施例5)DHA存在下で培養した小腸培養細胞における遺伝子発現量解析
12ウェルプレートに、ウェル当たり3x106個のヒト由来小腸様培養細胞Caco-2細胞(American Type Culture Collection HTB37)を播種し、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、2mMグルタミン酸を含むMEMアール液体培地中で培養した。細胞がコンフレントに達した後、14日間培養を行い、小腸様細胞に分化したCaco-2細胞を評価に使用した。
【0087】
上記の分化誘導されたCaco-2細胞を、200 μM DHA又は200μM オレイン酸と、250 μM 脂肪酸不含ウシ血清アルブミン、1%非必須アミノ酸、2mMグルタミン酸を含むMEMアール液体培地で培養した。24時間培養後、Caco-2細胞よりRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出し、実施例1に記載の方法に従い、脂質代謝関連酵素遺伝子(ME、PDK4、HMGCS2)の発現をリアルタイムPCR解析法により測定した。
【0088】
なお、各遺伝子のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
ME遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GTTATTCTTGGCCTGAAGAGGTG(配列番号41)
3'側:AGGCAAAGTGAAGCAAAATTGTC(配列番号42)
PDK4遺伝子増幅用プライマー:
5'側:GGTGGCCTAGTGTTGTGGTG(配列番号43)
3'側:ATCAGAAATG CATGAGCTGG ACTC(配列番号44)
HMGCS2遺伝子増幅用プライマー:
5'側:CGTCCCGTCTAAAGGTGTTCT(配列番号45)
3'側:CGCTAGAGATGGCTCCTCACT(配列番号46)
【0089】
それぞれの遺伝子発現量は、CTGATCATCCAGCAGGTGTT(配列番号39)とCCAGGAAGGCCTTGACCTTT(配列番号40)をプライマーとして用いたリアルタイムPCR解析で調べた36B4の発現量を基準として補正を行い比較した。
【0090】
図12に示すように、DHAの存在下で培養した場合は、オレイン酸の存在下で培養した場合と比較して、上記遺伝子の発現が有意に上昇していることが確認された。
【0091】
以上の結果から、小腸培養細胞を用いた試験系においても、上記脂質代謝関連酵素遺伝子は肥満改善・脂質代謝促進の指標として用いることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の方法によれば、肥満改善及び/又は脂質代謝促進効果のある物質を高感度にかつ短期間で簡便にスクリーニングすることができる。従って、肥満や脂質代謝異常が原因となっている各種疾患の予防及び/又は治療用の医薬や食品の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図2】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の肝臓における遺伝子発現変化を示す。
【図3】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(db/dbマウス)の肝臓脂質(TG)含量変化を示す。
【図4】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図5】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸β酸化活性変化を示す。
【図6】魚油食又はコントロール食を摂取させたマウス(C57BL/6マウス)の小腸ME活性変化を示す。
【図7】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸における遺伝子発現変化を示す。
【図8】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸β酸化活性変化を示す。
【図9】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸ME活性変化を示す。
【図10】ベザフィブラートを投与したマウス(A/Jマウス)の小腸CYP4A活性変化を示す。
【図11】DHAと培養したマウス(db/dbマウス)由来の小腸組織片における遺伝子発現変化を示す。
【図12】DHAと培養した小腸培養細胞(Caco-2細胞)における遺伝子発現変化を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項2】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項3】
脂質代謝関連酵素遺伝子が、下記のポリヌクレオチドのうち、少なくとも1種以上のポリヌクレオチドである、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項4】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項5】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項6】
脂質代謝関連酵素タンパク質が、下記のポリペプチドのうち、少なくとも1種以上のポリペプチドである、請求項4又は5に記載のスクリーニング方法。
(a) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するポリペプチド
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項の記載のスクリーニング方法によって得られる物質を有効成分して含有する、肥満症及び肥満が原因となる疾患の予防及び/治療のための医薬。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項の記載のスクリーニング方法によって得られる物質を含有する、肥満防止及び/又は改善用食品。
【請求項9】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット。
【請求項10】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ。
【請求項11】
請求項10に記載のプローブを固定化した固定化担体。
【請求項12】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体。
【請求項13】
下記の(i)又は(ii)の少なくとも1種を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
(i) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット
(ii) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ
【請求項14】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体と該抗体に対する二次抗体を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
【請求項1】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項2】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素遺伝子の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項3】
脂質代謝関連酵素遺伝子が、下記のポリヌクレオチドのうち、少なくとも1種以上のポリヌクレオチドである、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項4】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞と接触させる工程
(b) 上記小腸培養組織又は細胞における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を接触させない哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項5】
次の(a)〜(d)の工程を含む、抗肥満物質のスクリーニング方法。
(a) 被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程
(b) 上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、少なくとも1種以上の脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(c) 被験物質を投与しない非ヒト哺乳動物から採取した小腸における、対応する脂質代謝関連酵素タンパク質の発現量を測定する工程
(d) 上記(b)で測定した発現量が、上記(c)で測定した発現量より増加した被験物質を選択する工程
【請求項6】
脂質代謝関連酵素タンパク質が、下記のポリペプチドのうち、少なくとも1種以上のポリペプチドである、請求項4又は5に記載のスクリーニング方法。
(a) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、脂質代謝促進物質に応答して発現が増加するポリペプチド
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項の記載のスクリーニング方法によって得られる物質を有効成分して含有する、肥満症及び肥満が原因となる疾患の予防及び/治療のための医薬。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項の記載のスクリーニング方法によって得られる物質を含有する、肥満防止及び/又は改善用食品。
【請求項9】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット。
【請求項10】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ。
【請求項11】
請求項10に記載のプローブを固定化した固定化担体。
【請求項12】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体。
【請求項13】
下記の(i)又は(ii)の少なくとも1種を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
(i) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列を増幅するための、15塩基から40塩基の長さを有するプライマーセット
(ii) 配列番号1、3、5、7、9、11、13、及び15のいずれかに示す塩基配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための少なくとも15塩基以上の長さを有するプローブ
【請求項14】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、及び16のいずれかに示すアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体と該抗体に対する二次抗体を含む、抗肥満物質のスクリーニング用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−180803(P2006−180803A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379042(P2004−379042)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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