説明

抗腫瘍剤としてのイソホスホルアミドマスタードの塩及びその類似物

本発明はイソホスホルアミドマスタード及びイソホスホルアミドマスタード類似物の塩及び組成物に関する。一実施形態において、該塩は次式(式中、A+は塩基性アミノ酸、複素環式アミン、置換及び非置換ピリジン、グアニジン並びにアミジンといったプロトン化(共役酸)又は4級化した脂肪族アミン及び芳香族アミンから選択されるアンモニウム種を表し、X及びYは独立して脱離基を表す。)で表すことができる。該化合物の製造方法及びその医薬組成物の処方方法も開示する。本発明に係る化合物を患者、特に過増殖性疾患の患者、に投与する方法も開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利についての陳述
本発明は国立癌研究所により与えられた許可番号5R44CA083552-03の下で政府の支援によりなされた。政府は本発明について一定の権利を有する。
技術分野
本開示はイソホスホルアミドマスタードの塩及びその類似物に関する。また、過増殖性疾患を治療するための医薬組成物及び該組成物の使用方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
第一次世界大戦中にマスタードガスによって死んだ兵士を検死した結果、硫黄マスタード化合物が急速に分裂する細胞に対して不均化効果を有することが示され、抗腫瘍効果を有するかもしれないことが示唆された。実際に、初期の研究者は硫黄マスタードを腫瘍に直接注入することにより癌を治療しようと試みた。この研究は硫黄マスタード化合物の極度の毒性により制限され、メクロレタミンのような窒素マスタード類似物がより毒性の低い代替物として調査された。
【化1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、マスタード化合物はグアニン残基のN−7位のようなところにあるDNAをアルキル化することにより細胞毒性効果を発揮する。マスタード化合物によるアルキル化の機構をスキーム1に示す。スキーム1を参照すると、マスタード化合物は、メクロレタミンの場合について示すように、アジリジニウム中間体を形成することによって塩素置換を支援する内部求核体を有する。メクロレタミンは2個の脱離基を有しているので、スキーム1に記載の求核性置換機構は反復することができ、DNA又は蛋白質−DNAの架橋を生じさせる。
【化2】

【0004】
メクロレタミンは反応性が非常に高く、結果的に非選択的である。メクロレタミンをモデルとして用いて数千のアルキル化剤が設計及び調製されてきた。しかしながら、これらの化合物の内でメクロレタミンに比べて治験を認可するのに充分な治療上の優位性を示すものはほとんどなかった。
【0005】
大部分のメクロレタミン類似物は選択性を欠いているため、新生細胞中に存在する高濃度のホスホルアミダーゼにより活性化され得るホスホルアミド化合物のようなプロドラッグが検討されてきた。2種類のホスホルアミドアルキル化剤、すなわちシクロホスファミド(CPA)及びその異性体化合物であるイホスファミド(Ifos)が特に効果的であることが分かった。
【化3】

【0006】
CPAの代謝経路はIfosのそれと似ており(Ifosの代謝を図1に示す。)、この2種類の化合物は共通の欠点を有している。おそらく、最も重要なのは出血性膀胱炎を引き起こす毒性のために用量が規制されることである。出血性膀胱炎はCPA及びIfosの活性化中にアクロレインが産生することにより誘発されると考えられている。アクロレインは生理学的条件下でチオールと反応する活性な親電子体であり、グルタチオン枯渇の形で肝臓毒の原因となり得る。最終的に、アクロレインはテラトゲン及び強い突然変異原であることが示されており、このことがCPAによる治療と膀胱癌及び他の悪性腫瘍といった重大な副作用を関係付けていると考えられる。
【0007】
図1を参照すると、イソホスホルアミド(IPM)はCPA及びIfosに共通の代謝産物である。IPMはCPA及びIfosによって示される抗腫瘍活性の少なくとも一部を担っていると考えられる。抗腫瘍剤としてIPMを直接使用するための努力は該化合物の不安定性等により成功しなかった。IPMを合成し、該化合物の予備的な生物学的評価を行ったが、残念なことに、IPMは単離してヒトの治療に使用するにはあまりにも不安定である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次式:
【化4】

(式中、A+は塩基性アミノ酸、複素環式アミン、置換及び非置換ピリジン、グアニジン並びにアミジンといったプロトン化(共役酸)又は4級化した脂肪族アミン及び芳香族アミンから選択されるアンモニウム種を表し、X及びYは独立して脱離基を表す。)
で表される化合物を開示する。
【0009】
一実施形態においては、上記化合物を1種又は2種以上含有する医薬組成物を開示する。本実施形態の一側面においては、該組成物は併用療法に使用するために上記式で表される治療薬以外の1種又は2種以上の治療薬を含有することができる。
【0010】
別の一実施形態においては、過増殖性疾患に罹患している哺乳類の患者(例:ヒト)を治療する方法を開示する。該方法においては上述の化合物及び組成物の1種又は2種以上を利用することができる。
【0011】
別の側面においては、次式:
【化5】

(式中、X及びYは独立して脱離基を表す。)
で表される化合物又はその製薬上許容される塩の除菌された医薬組成物を開示する。無菌の抗菌フィルターを使用することによって該組成物を除菌することを含む該組成物の製造する方法も開示する。ある実施形態においては、濾過は活性成分の分解率が10%未満、好ましくは5%、2%、更には1%未満となるように実施することができる。
【0012】
また、上式の化合物を含有する凍結乾燥物の製造方法も開示する。一実施形態においては、本方法は、水の存在下で、イソホスホルアミドマスタード又はその類似物をアミン塩基に接触させ、得られた混合物を凍結乾燥することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の用語の説明と実施例は、本化合物、組成物及び方法をより良く記述するため、及び本発明の分野における通常の知識を有する物に指針を提供するためのものである。本開示において使用する用語法は特定の実施形態及び実施例を記述することを目的とし、本発明の限定を意図しないことも理解すべきである。
【0014】
範囲は、“約”のある特定値から、及び/又は“約”の別のある特定値までとして表現され得る。斯かる範囲が示されるとき、別の一実施形態はこのある特定値から及び/又はこの別のある特定値までを包含する。同様に、先行詞“約”によって数値が近似値で表現されるとき、この特定の数値は別の実施形態を形成することが理解されよう。各範囲の終点は他の終点との関係において意義を有し、及び他の終点とは無関係に意義を有することが更に理解されよう。
【0015】
本明細書及び添付の特許請求の範囲においては、幾つかの用語が使用されるがそれらは以下の意味を有するものとして理解される。
“随意的な”又は“随意に”はこれに続いて記載される事象又は現象が必要ではないが起こり得ることを意味し、該記載は前記事象又は現象が起こる場合と起こらない場合を包含する。
“アミノ酸”は天然及び非天然のアミノ酸(α−アミノ酸を含む)の両方を指し、キラルアミノ酸についてはそれらのD及びL立体異性体の形態にあるものを含む。塩基性アミノ酸残基の例としてはアミノ基やグアニジノ基といった塩基性側鎖を有するものが挙げられる。塩基性アミノ酸残基としては、限定的ではないが、アルギニン、ヒスチジン、ホモアルギニン、リジン、ホモリジン及びオルニチンが挙げられる。
【0016】
“抗体”は免疫グロブリンを意味し、天然であっても又は全部若しくは一部が合成されたものであってもよい。特異的結合能力を維持するそのすべての誘導体も該用語に包含される。該用語は免疫グロブリン結合ドメインに相同な又は大部分が相同な結合ドメインを有する任意の蛋白質をも包含する。それらの蛋白質は天然源から誘導することができ、又は部分的若しくは全体的に合成されたものでもよい。本発明で使用される抗体はモノクローナルでもポリクローナルでもよい。
本発明においては、“脂肪族アミン”とは式NR123(式中、R1-3の少なくとも1つは脂肪族基である。)の化合物を指す。
“非環式脂肪族アミン”とは脂肪族基の少なくとも1つが非環式である上記脂肪族アミンを指す。
“複素環式アミン”とは式NR123(式中、R1-3の少なくとも1つは複素環基であるか、R1、R2及び/又はR3はそれらに共通の窒素原子と一緒に環を形成する。)の化合物を指す。
【0017】
I.IPMの塩及びIPM類似物
本発明に係る化合物及び組成物には1当量以上の塩基と共に処方されるIPM及びIPM類似物が含まれる。IPM及びその類似物は酸分解性であり酸性なので、ここで開示する化合物は優れた安定性及びその他の利点を与える。合成、安定性及び生物学的利用率の観点における本開示に係る処方物の利点は本開示から当業者に明らかであろう。
【0018】
一実施形態においては、本開示に係る化合物は1以上の陽イオンを有するイソホスホルアミドマスタード又はイソホスホルアミドマスタード類似物の塩である。一実施形態においては、陽イオンはアミン塩基の共役酸とすることができ、又は第4級アンモニウム陽イオンとすることができる。イソホスホルアミドマスタード及びその類似物に対する好適な対イオンには塩基性アミノ酸、脂肪族アミン、複素環式アミン、芳香族アミン、ピリジン、グアニジン、及びアミジン等の塩基の共役酸(本明細書においては、文脈上遊離アミンを意図することを明示しない限り、アミンを指す語にはその共役酸を包含するものとして理解すべきである。)が挙げられる。脂肪族アミンの中では、非環式脂肪族アミン、環式及び非環式のジ−及びトリ−アルキルアミンが本開示に係る化合物において特に好適である。更に、第4級アンモニウム対イオンは使用できる好適な対イオンの例である。
【0019】
本化合物において使用するのに好適なアミン塩基(及び対応するアンモニウムイオン)の具体例には、限定的ではないが、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、N−メチル−N−エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、モノ−,ビス−若しくはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミン、2−ヒドロキシ−t−ブチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、N,N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)アミン及びN−メチル−D−グルカミンが挙げられる。
【0020】
更なる実施形態においては、上記の塩は第二のアミン又はアンモニウム基を含有することができる。一実施形態においては、本開示に係る化合物は1当量のイソホスホルアミドマスタード又はイソホスホルアミドマスタード類似物に対して1当量を超えるアミンを含有する。そのような実施形態にはイソホスホルアミドマスタード又はイソホスホルアミドマスタード類似物に対するアミンが非整数比である実施形態が含まれる。幾つかの実施形態においては、化合物はイソホスホルアミドマスタード又はイソホスホルアミドマスタード類似物に対するアミンの比が2又は3である。実施例においては、イソホスホルアミドマスタード1当量に対してアミン塩基2当量を含有する塩を製造した。一実施形態においては、イソホスホルアミドマスタード及びイソホスホルアミドマスタード類似物の塩を作るのに使用するアミン塩基は2以上のアミノ基を有し、そのような塩基は“多塩基性”と名付けることができる。より具体的には、使用できる多塩基性塩基の幾つかの例は2個のアミノ基を有し、そのような塩基は“二塩基性”と呼ぶことができる。例えば、好適な二塩基性分子はN,N−ジメチルアミノピリジンであり、これは2個の塩基性アミノ基を有する。本開示に係る化合物の特定の実施形態においては、化合物はイソホスホルアミドマスタード又はイソホスホルアミドマスタード類似物及び1当量の二塩基性アミンを含有する。
【0021】
一実施形態においては、本開示に係る化合物は1以上の双性イオンを有する。そのような塩基の例には生理学的pHにおいて双性である塩基性アミノ酸が挙げられる。
【0022】
一実施形態においては、本開示に係る塩はイソホスホルアミドマスタード及びイソホスホルアミドマスタード類似物よりも安定である。例えば、イソホスホルアミドマスタードは、その純粋化合物の凍結乾燥の後、−20℃で3ヶ月間保存中に40%近くが分解する。これに対して、IPMのリジン塩は、同様の保存条件下で10か月経過した後でさえ、測定し得る如何なる分解も示さない。
【0023】
幾つかの実施形態においては、本開示に係る化合物は安定化したイソホスホルアミドマスタードの塩又は安定化したイソホスホルアミドマスタードの塩の類似物であり、これらの塩は水の存在下における室温(例:約23℃)での半減期は水の存在下における同一条件でのイソホスホルアミドマスタードの半減期よりも長い。斯かる実施形態の好ましいものでは、イソホスホルアミドマスタードの塩は水の存在下においてイソホスホルアミドマスタードと比べて半減期が2倍以上であり、より好ましくは5倍以上である。
【0024】
幾つかの実施形態においては、本開示に係る化合物の凍結乾燥物はイソホスホルアミドマスタードの凍結乾燥物よりも安定である。斯かる実施形態の好ましいものでは、本開示に係る化合物の凍結乾燥物はイソホスホルアミドマスタード自体の凍結乾燥体と比べて貯蔵寿命が長く、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは5倍以上である。
【0025】
幾つかの実施形態においては、IPM又はその類似物の製薬上許容される塩(例えば上式の化合物)の医薬組成物は、同一条件下において、イソホスホルアミドマスタード自体を用いた他は同一の組成物(すなわち塩形態ではない)よりも安定である。斯かる実施形態の好ましいものでは、本開示に係る組成物はイソホスホルアミドマスタード自体を用いた組成物と比べて貯蔵寿命が長く、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは5倍以上である。
【0026】
本開示に係る幾つかのイソホスホルアミドマスタード及びイソホスホルアミドマスタードの類似物の化合物は2個の脱離基を有する。理論によって制限されることはないが、2個の脱離基は生体内で生体分子の求核体(例えば核酸及び蛋白質)に置換され、これによって生体分子同士を架橋すると考えられる。“脱離基”とは求核体により置換され得る基のことを指す。本開示に係る化合物に関しては、脱離基とは置換されてアジリジニウム中間体を形成することのできる基、又は生体分子の求核体(例えば核酸求核体)により直接置換されて例えば7−アルキル化グアニジウム種を形成することのできる基を指す。好適な脱離基の例にはハロゲン及びスルホネート(−SO2R)が挙げられる。本開示に係るイソホスホルアミドの類似物の塩の一実施形態においては、化合物は2種類の脱離基(例えばハロゲンとスルホネート、又は臭素と塩素といった2種類のハロゲン)を有する“混合”脱離基化合物である。ストラックの米国特許第6,197,760号ではそのような混合脱離基化合物の製造方法を教示している。
【0027】
本開示の一実施形態は、次式:
【化6】

で表される抗過増殖剤に関する。
式中、Bは各nについて独立に選択される塩基性分子である。該式の一実施形態においては、Bは塩基性アミノ酸、非環式脂肪族アミン、ジ−及びトリ−アルキルアミン、複素環式脂肪族アミン、芳香族アミン、置換及び非置換のピリジン、環式及び非環式のグアニジン、並びに環式及び非環式のアミジンから選択することができる。典型的には、nは1〜約3(該式が異なる塩基性分子を含むように)である。また、式中、X及びYは脱離基である。当業者であれば図示したイソホスホルアミドマスタード構造が酸性プロトンを有し、生理学的pH及びBのような塩基の存在下においては、優勢的にその共役塩基として存在することを理解するだろう。同様に、塩基性基であるBは、生理学的pH及びイソホスホルアミドマスタード及びイソホスホルアミドマスタードの類似物の存在下においては、優勢的にその共役酸として存在する。本開示に係る化合物の具体例をTable1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
更なる一実施形態においては、本開示に係る化合物にはイソホスホルアミドマスタードの塩が含まれる。そのようなイソホスホルアミドマスタードの塩の幾つかの例は次式:
【化7】

で表すことができる。
式中、Bは任意の塩基性基、とりわけアミンとすることができる。上式は対応する塩として優勢的に存在し、次式で表される化合物を包含するであろうことが理解されるべきである。
【化8】

式中、該化合物は1当量以上の付加的なアミン又はアンモニウム種を含有することもできる。そのような化合物は次式:
【化9】

(式中、Gは第二のアンモニウム又はアミン種である。)
で表すことができる。特定の実施形態においては、Gは塩基性アミノ酸であり、BH+は同一の又は異なる塩基性アミノ酸の共役酸を表す。
【0030】
一実施形態においては、BH+はGの共役酸である。一実施形態においては、本開示に係るイソホスホルアミドマスタードの塩は次式:
【化10】

(式中、Bはアミンであり、BH+はその共役酸である。)
で表すことができる。
【0031】
一実施形態においては、本開示に係る化合物はアルカリ金属陽イオンのような金属陽イオンを有する。そのような陽イオンの例にはLi+、Na+、K+、Rb+及びCs+が挙げられる。一側面において、そのような例は次式:
【化11】

(式中、M+はアルカリ金属陽イオンを表し、Bは上で定義したとおり。)
【0032】
II.組成物及び方法
本開示の別の一側面は患者へ投与するために調製される医薬組成物、好ましくは除菌された医薬組成物を包含する。該医薬組成物は治療上有効量の本開示に係る化合物を1種以上含有する。該除菌された組成物はIPMの塩又はその類似物の溶液を無菌の抗菌フィルターで濾過することにより調製することができる。リン酸及びその塩並びに置換エチルアミンのような分解副生成物の存在を分析により測定して、該除菌された組成物は本発明の活性成分を10%未満の分解率、好ましくは5%、2%、更には1%未満の分解率で含むのが好ましい。
【0033】
本開示に係る化合物は経口的、局所的、経皮的、非経口的、吸入又は噴霧により投与することができ、慣例の非毒性の製薬上許容される担体、助剤及び溶剤(ビークル)を含有する単回用量の処方物の形態で投与することができる。
【0034】
典型的には、本開示に係るイソホスホルアミドマスタードの塩及びその類似物の注射による非経口投与が好ましい。当業者であれば理解することであるが、病気の種類、患者の状態、化合物の毒性及びその他の要因に応じて、単回投与により又は慢性的に該阻害剤を供給してもよい。
【0035】
投与される単一又は複数の化合物の治療上有効量は、望まれる効果及び上記要因によって変化し得る。
【0036】
患者に投与するための医薬組成物は選択された分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤等を含有することができる。医薬組成物は抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬等の付加的な活性成分を1種以上含有することもできる。医薬組成物は担体のような付加的な成分を含有することができる。該組成物に有用な製薬上許容される担体は慣用されている。「Remington's Pharmaceutical Sciences, by E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 19th Edition (1995)」には本開示に係る化合物の薬物送達に好適な組成物及び処方物が記載されている。
【0037】
一般に、担体の種類は採用される具体的な投与形態による。例えば、非経口投与の処方物は注射可能な流体を含有するのが通常である。そのような流体には、溶剤(ビークル)としての水、生理食塩水、平衡塩溶液、水性デキストロース、グリセロール等の製薬上及び生理学上許容される流体が包含される。固形組成物(例えば粉末、丸剤、錠剤、カプセル)については、慣例の非毒性の固体担体には例えば製薬グレードのマンニトール、ラクトース、澱粉、又はステアリン酸マグネシウムが挙げられる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は湿潤剤又は乳化剤、保存剤、及びpH緩衝剤等の非毒性補助物質、例えば酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウレートを少量含有することができる。
【0038】
一実施形態において、本開示に係る化合物はヒトの患者に投与するために処方される。本実施形態の一側面においては、医薬組成物は約0.1mg/mL〜約250mg/mL、例えば約20〜約100mg/mLのイソホスホルアミドマスタードの塩又はその類似物の化合物を含有する。
【0039】
一側面において、医薬組成物の幾つかの実施形態は単回投与の剤形に処方される。例えば、単回投与の剤形は単回投与当たり約100mg〜約1500mg、例えば約200mg〜約1500mgの本開示に係るイソホスホルアミドマスタードの塩又はその類似物を含有する。
【0040】
ある実施形態においては、本化合物は注入及び/又は埋植された薬物の貯蔵所を介して送達されることが具体的に企図される。該貯蔵所は例えばDepoFoam (SkyePharma, Inc, サンジエゴ, カルフォルニア州) (例えば、「Chamberlain et al. Arch. Neuro. 1993, 50, 261264」、「Katri et al. J. Pharm. Sci. 1998, 87, 13411346」、「Ye et al., J. Control Release 2000, 64, 155166」及び「Howell, Cancer J. 2001, 7, 219227」参照) のような多胞性リポソームである。
【0041】
本明細書で開示する方法は、本開示に係る化合物及び組成物の1種以上を患者に投与することによって、異常又は病的な増殖活動又は新組織形成により特徴付けられる症状を治療する方法である。“新組織形成”とは、異常で且つ無制限な細胞増殖の過程のことを指す。新組織形成は増殖性疾患の一例である。新組織形成の産物は新生物(腫瘍)であり、過剰な細胞分裂に起因する組織の異常増殖である。転移しない腫瘍を“良性”と呼ぶ。周囲組織に浸潤する及び/又は転移可能な腫瘍は“悪性”と呼ぶ。
【0042】
本開示に係る方法に従って治療可能な症状には異常な細胞の増殖及び/又は分化により特徴付けられるもの、例えば癌及びその他の新形成性の症状が含まれる。本開示に係る化合物及び組成物を用いて治療可能な増殖性疾患の典型例を以下に列挙する。
【0043】
本開示に係る化合物及び組成物を使用して治療することのできる血液学的腫瘍の例には白血病、その中には急性白血病(例えば急性リンパ球性白血病、骨髄性白血病、急性顆粒球性白血病、骨髄芽球性白血病、前骨髄細胞白血病、骨髄性単球性白血病、単球性白血病及び赤白血病)、慢性白血病(例えば慢性骨髄性(顆粒性)白血病、慢性顆粒球性白血病及び慢性リンパ球性白血病)が含まれる、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性且つ高度の形態)、多発性骨髄腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、H鎖病、骨髄異形成症候群、毛様細胞性白血病及び脊髄異形成が挙げられる。
【0044】
本開示に係る化合物及び組成物を使用して治療することのできる症状の更なる例には、肉腫及び癌腫のような充実性腫瘍、例えば繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、その他の肉腫、滑膜性腫瘍、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、ハブドミオ肉腫(habdomyosarcoma)、結腸癌、リンパ性悪性腫瘍、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭状癌、甲状腺乳頭癌、髄様癌、肺門部型肺癌、腎細胞腫、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫、子宮頸癌、睾丸癌、膀胱癌、及びCNS腫瘍(例えば神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、脳室上皮腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏枝神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽腫)が挙げられる。
【0045】
一実施形態においては、本開示に係る化合物はCPAに耐性がある腫瘍増殖に対してCPA又はIfos単独よりも優れている。従って、本開示に係る方法の一側面にはCPAに耐性のある新生物形成症をもつ患者を本開示に係るイソホスホルアミドマスタードの塩又はその類似物で治療することが含まれる。
【0046】
本方法の一実施形態においては、患者は約0.2mg/kg/日〜約20mg/kg/日の本開示に係るイソホスホルアミドマスタード塩又はその類似物を投与される。例えば、約0.5〜10mg/kg/日、約1〜約7.5mg/kg/日の本開示に係る化合物を患者に投与することができる。
【0047】
本方法の別の一実施形態においては、患者は約10〜約700mg/m2/日、例えばの約20〜約400mg/m2/日又は約100〜約500mg/m2/日の本開示に係る化合物を投与される。例えば、約30〜約100mg/m2/日、約40〜約90mg/m2/日の本開示に係る化合物を投与する。
【0048】
本開示に係る過増殖性疾患の治療方法の一実施形態においては、本開示に係る化合物が複数日にわたる投薬計画で患者に投与される。一実施形態においては、化合物が二日以上投与され、更には5日間にわたって投与される。複数日にわたる投薬計画の一側面においては、本化合物は毎日連続して、例えば2〜5日間連続して患者に投与される。
【0049】
本方法の一実施形態においては、本開示に係る化合物及び組成物に加えて、1種以上の付加的な治療薬を患者に投与する。例えば、使用可能な付加的な治療薬には微小管結合剤、DNA割込剤又は架橋剤、DNA合成阻害剤、DNA及び/又はRNA転写阻害剤、抗体、酵素、酵素阻害剤、遺伝子制御剤、及び/又は血管形成阻害剤が挙げられる。
【0050】
“微小管結合剤”とは、チュービュリンと相互作用して微小管形成を安定化又は不安定化させ、これによって細胞分裂を阻害する薬剤を指す。本開示に係るイソホスホルアミドマスタード塩及びその類似物と共に使用可能な微小管結合剤の例には、限定的ではないが、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン(ナベルビン)、エポシロン、コルヒチン、ドラスタチン15、ノコダゾール、ポドフィロトキシン及びリゾキシンが挙げられる。該化合物の類似物及び誘導体も使用可能であり、当業者に知られているであろう。例えば、本発明に係る化合物へ組み込むのに好適なエポシロン及びエポシロン類似物は国際公開第2004/018478号パンフレットに記載されており、その内容を本明細書に援用する。パクリタキセル及びドセタキセルのようなタキソイドは本開示に係る化合物において特に有用な治療剤であると現在考えられている。付加的な有用なタキソイド(パクリタキセルの類似物を含む)の例がHoltonの米国特許第6,610,860号,Gurram等の同第5,530,020号及びWittman等の同第5,912,264号に教示されている。これらの特許をそれぞれ本明細書に援用する。
【0051】
本開示に係る化合物と組み合わせて使用するのに好適なDNA及び/又はRNA転写制御剤には、限定的ではないが、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、ドキソルビシン並びにこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
本開示に係る化合物組み込むことのできるDNA割込剤又は架橋剤には、限定的ではないが、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、マイトマイシン(例えばマイトマイシンC)、ブレオマイシン、クロラムブチル、シクロホスファミド並びにこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
【0052】
治療剤として使用するのに好適なDNA合成阻害剤には、限定的ではないが、メトトレキサート、5−フルオロ−5’−デオキシウリジン、5−フルオロウラシル及びその類似物が挙げられる。
【0053】
本開示に係る化合物と組み合わせて使用するのに好適な酵素阻害剤の例には、限定的ではないが、カンプトセシン、エトポシド、フォルメスタン、トリコスタチン並びこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
【0054】
本開示に係る化合物と一緒に使用するのに遺伝子調節に影響を与える好適な治療剤には1以上の遺伝子の発現を増加又は減少させる結果を生じる薬剤、例えば、限定的ではないが、ラロキシフェン、5−アザシチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ミフェプリストン並びこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
【0055】
本明細書において“血管形成阻害剤”とは、限定的ではないが、血管成長を阻害する機能を持つペプチド、蛋白質、酵素、多糖類、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、組み換えベクター及び小分子のような生体分子を含めた分子を意味する。血管形成は幾つかの病理学的過程、例えば糖尿病性網膜症、慢性炎症性疾患、慢性関節リウマチ、皮膚炎、乾癬、胃潰瘍、及び大部分のヒトの充実性腫瘍のような疾患が関わる病理学的過程に関係する。
【0056】
血管形成阻害剤は当業者に知られており、好適な血管形成阻害剤には、限定的ではないが、アンジオスタチンK1-3、スタウロスポリン、ゲニステイン、フマギリン、メドロキシプロゲステロン、スラミン、インターフェロンα、金属タンパク質分解酵素阻害剤、血小板第4因子、ソマトスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、サリドマイド並びこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
【0057】
上記分類の1以上に属する又は属しないその他の治療剤(特に抗腫瘍剤)も、本開示に係る化合物と組み合わせた投与にも適している。例示的には、そのような薬剤にはアドリアマイシン、アピゲニン、ラパマイシン、ゼブラリン、シメチジン並びこれらの誘導体及び類似物が挙げられる。
【実施例】
【0058】
III.実施例
本発明を、以下の非限定的な実施例により更に説明する。
【0059】
実施例1
本実施例では下記スキームに従ってIPMのフェニルエステルを合成する。
【化12】

【0060】
機械式撹拌機、500mLの滴下漏斗及び塩化カルシウムの乾燥チューブの付いた5Lの3首丸底フラスコに、2−クロロエチルアミン塩酸塩(116g;1.0mol)を1200mLの塩化メチレン中で懸濁させ、氷水浴中で撹拌した。温度が5℃に低下したときに、フェニルジクロロホスホネート(105.5g;0.5mol)(Aldrich、ミルウォーキー、ウィスコンシン州から市販)を加えた。トリエチルアミン(202g。2mol)を1滴/秒でゆっくりと滴下した。このとき、温度は5℃を超えなかった。該混合物を一晩撹拌した。翌日、200mLの濃塩酸(12M)を1800mLの水と共に混合した。該反応混合物に200mLの該酸溶液をゆっくりと加えた。混合物は透明になり、2Lの分離漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層を該酸溶液で抽出し(9×200mL)、その後に水で抽出した(1×200mL)。次いで、有機層を分離して硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過した。次いで、塩化メチレンを減圧下で蒸発させて、残渣油を40mLの酢酸エチルに溶解し、60mLのヘキサンをゆっくりと撹拌しながら加えた。これをパラフィルムで覆って、5℃の冷蔵庫内で一晩置いた。翌日、白色結晶を吸引濾過し、100mLの低温ヘキサンで洗浄し、その後に空気乾燥した。母液を冷蔵庫内に9時間置いて第二の結晶産物を生成させ、これらを空気乾燥した。第二の結晶産物らの母液を一晩冷蔵すると第三の結晶産物が生成し、これを空気乾燥した。これらの産物は全体として117.3g(0.39mol)の収量であった。収率82%; 融点5355℃; C10H15Cl2N2O2P (F.W. 297.13)に対する計算値C, 40.44%; H, 5.09%; N, 9.43%; 実測値C, 39.7%; H4.97%; N, 9.00%.
【0061】
実施例2
本実施例では実施例1に記載のIPMフェニルエステルからIPM(N,N’−ジ(2−クロロエチル)ホスホロジアミド酸)を合成する。
【化13】

【0062】
実施例1の白色固体エステル(0.39mol)を100mLの95%エタノールに溶解し、Parr社のフラスコに入れて2.5gのPtO2を加えた。懸濁液を50PSIで水素化した。2時間後、水素化を止めて2.5gのPtO2を撹拌しながら慎重に加えた。水素化を50PSIで2時間再度行った。停止後、常圧に戻してホットプレート上で磁気撹拌しながら加熱した。懸濁液が沸騰したとき、2枚の濾紙を用いて5.5cmの吸引漏斗により速やかに吸引濾過し、上澄みを2時間5℃で保存した。触媒を残してParr社のフラスコに加え、冷蔵庫で一晩保管した。生成した白色固体を9cmの吸引漏斗により吸引濾過し、無農薬の釜内に保管した。母液をParr社のフラスコに入れて、1.25gのPtO2を加え、50PSIで2時間水素化した。先と同様に停止、加熱及び濾過を行い、母液を一晩冷蔵庫内に置いた。生成した白色固体を吸引濾過し、第一産物と混ぜ合わせた。母液を使用済み触媒と共にParr社のフラスコに集めて、1.25gのPtO2を更に添加し、水素化を50PSIで2時間再度行った。停止後、加熱及び濾過すると第三の産物が得られる。これを第一及び第二の産物と混ぜ合わせた。混ぜ合わせた産物を150mLのアセトン中で30分間撹拌した後、2時間5℃で保存した。濾過後、真空乾燥器内で2時間保存した。収量は38g(0.17mol)であった。収率44%; 融点(corr) 112114℃. C4H11N2O2PCl2 (F.W. 221.11)に対する計算値C, 21.73%; H, 5.01%; N, 12.67%; 実測値C, 22.12%; H 5.02%; N, 12.23%
【0063】
実施例3
本実施例では実施例2により製造したIPMからIPMリジン塩を調製する。L−リジンを秤量し(26.4g)、水を正確に計った(6L)。このL−リジンをこの水に撹拌しながら2〜8℃で加えた。原薬であるIPMを秤量し(20g)、このリジン溶液に撹拌しながら2〜8℃でゆっくりと加えた。
2〜8℃で溶解すると、該溶液は無菌の抗菌フィルター(0.22μm)を通過した。溶液を2〜8℃に維持し、無菌条件下でバイアル中に分散させた。
【0064】
溶解した生成物を下記の条件で凍結乾燥した。
【表2】

【0065】
代替的に、溶解した生成物を下記の条件で凍結乾燥してもよい。
【表3】

【0066】
標準的操作手順に従って無菌条件下でバイアルにキャップをした。凍結乾燥したIPMリジン塩をクリンプゴムの密閉キャップを用いて無印刷のガラス瓶に詰めた。この容器/密閉系はライナーを含まない。陰イオンエレクトロスプレー質量分析計によってIPM(LYS)2に特徴的なピークをM=219.0,441.0(二量体)及び662.7(三量体)の質量単位のところに確認した。D2O中のIPM(LYS)2の1H NMR及び13C NMRスペクトルを図2〜4に示す。
【0067】
IPMのシクロヘキシルアミン及びアンモニウム塩をリジン塩について上述した通りに調製した。これら塩の各々を単離するとアミン:IPM=2:1の化学量論を有していた。
【0068】
実施例4
本実施例ではマウスに埋植した数種の癌細胞系に対するIPMの評価を実施する。マウスは各実験においてIPMによる腹膜内(IP)及び静脈内(IV)治療に対する耐容性性を充分にもっていた。検死によって観察された唯一の毒性物質は、人工癌に関連する器官病変であった。
まず、マウスに埋植した2種類のL1210変異体であるL1210/0及びL1210/CPA細胞系に対してIPMをIfosとの比較により評価した。IPMの用量はIfosの50%とした。L1210/0の治療グループにおいては、ILSが3種類の薬剤のすべてにおいて観察された。しかしながら、L1210/CPAモデルに対しては、IPMによる治療が他の2種類の薬剤(Ifos及びCPA)よりも優れていた。CPA耐性腫瘍系においては、IPMで治療した動物の生存率が2倍となり、腫瘍量の減少が7となった。L1210/0腫瘍モデルに対しては、IPMは少ない用量でCPA及びIfosと同等の活性を有する。この結果は、CPA耐性細胞はIPMに対して交叉耐性ではないことを示している。結果をTable2に示す。
【表4】

【0069】
第2の実験はルイス肺癌腫瘍を埋植されたマウスにおけるIPMによるルイス肺癌の阻害を例証する。ルイス肺癌を罹患しているマウスに対してCPA、Ifos、PM及びIPMを2日目にIP単回投与した場合、腫瘍をもたないマウスの比率がIPMは6/10であるのに対して、等毒性の同等の用量においてIfosは7/10、CPAは5/10であった。各薬剤について単回投与すると、活性(T−C)は4種類の薬剤間で同等であった。
本実験の結果をTable3に示す。IPMがルイス肺癌に対して有効であることが示される。
【0070】
【表5】

【0071】
第三の実験ではIPMによるB16黒色腫増殖の阻害効果について評価する。この耐性動物モデルにおいては、150mgでIPMを単回投与した場合、IPMはCPAよりも若干劣っていたが、Ifosよりも優れていた。この3種類の治療薬間では%ILS応答の統計的な相違はなかった。
本実験の結果をTable4に示す。IPMが黒色腫に対して有効であることが示される。
【0072】
【表6】

【0073】
第四の実験ではIPMによるマウス中のP338白血病の阻害効果を評価する。この動物モデルでは、>log10殺細胞によって示されるように、IPMはIP埋植P388白血病に対してCPA及びIfosに匹敵する効果を有していた。但し、腫瘍をもたない生存マウスの数は少ない。しかしながら、P388/CPA腫瘍モデルにおいては、CPA及びIfosと比較してIPMは殺細胞及び%ILSが顕著に向上した。本実験の結果をTable5に示す。全データは統計的に意味があり、IPMがCPAに耐性のある又はCPAで治療した腫瘍に対して、更には他の薬剤で予め治療した患者に対して使用可能であることを示している。
【0074】
【表7】

【0075】
第5の実験ではマウス中に埋植したM5076肉腫のIPMによる阻害効果を評価する。18〜40mg/kgの用量のIPMを成長中の腫瘍に5日間毎日IP注射した(該化合物を11〜15日目にIP注射した。)。T−Cは40mg/kgで6.1日であった。用量は充分に耐量であり、顕著な向上を示した。マウスはIP治療に充分な耐性を有していた。検死によって観察された唯一の毒性物質は、人工癌に関連する器官病変であった。本実験の結果をTable6に示す。用量に依存する方法でIPMが肉腫に対して有効であることが示される。
【0076】
【表8】

【0077】
第6の実験ではマウス中に埋植した16/C乳癌の阻害効果を評価する。マウスに16/C乳癌を埋植し、腫瘍が触診/測定可能となったときに、CPA、Ifos及びIPMで各々治療した。CPA及びIfosはIPMに対する対照標準として使用した。腫瘍の埋植後7日目から始めて、薬剤を4日間30〜60mg/kg/日の用量でIP投与した。3種類の薬剤のすべての用量において、IPMはCPA及びIfosと比較して活性が統計的に向上した。進行マウス乳癌に対する同じ用量/日において、IPMはIfos及びCPAに比較して“4倍到達日数”及び“遅延日数(T−C)”が優れていた。すべての比率が信頼限界値内にあった。これらのデータ(Table7)は乳癌に対するIPMの効能を示しており、4日間の投与がIPMについての複数回投与の優位性を更に助成している。
【0078】
【表9】

【0079】
第7の実験ではIP埋植したヒトlox−IMVI黒色腫に対するIPMの阻害効果を評価する。ヌードマウスにヒトLox黒色腫をIP埋植し、CPA又はIPMで5日間治療した。用量は共に40mg/kg/日(IV)×5日間とした。%ILSはCPAが+121であり、IPMが+52であった。しかしながら、優れた応答が見られ、用量に対して充分な耐容性を示した。応答は信頼限界値内にあった。本実験の結果(Table8)はIPMのIV投与の効果を示すと共に、ヒト黒色腫に対するIPMの効果も示している。
【0080】
【表10】

【0081】
第8の実験ではヒトMX−1乳癌に対するIPMの阻害効果を評価する。(埋植後)12日目から始めて、CPA、Ifos又はIPMを40〜60mg/kgの用量で5日間毎日IP投与した場合について比較した。Table9のデータはIPMがヒト乳癌に対して活性を有することを示している。全比率は信頼限界値内にあった。
【0082】
【表11】

【0083】
実施例5
本実施例では種々の過増殖性細胞系に対するIPMの効果とIPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩の効果を比較する。
(埋植後)6日目から始めて、20〜125mg/kg/日の用量としてIP経路で5日間毎日投与したときの、マウスのルイス肺癌に対するIPM、IPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩の効果を比較した。IPM及びそのリジン塩は同等の活性を有しており、親薬剤よりもこの塩のMTD(mg/kg/投与)は2倍増加していた。全比率は信頼限界値内であった。マウスはこれら塩のIP投与に対して充分に耐容性を示した。検死によって観察された唯一の毒性物質は、人工癌に関連する器官病変であった。
本実験の結果(Table10)はIPM・(LYS)2塩がマウスのルイス肺癌に対してIPMと同等の効果を有することを示しており、そして、IPM・(NH42塩がマウスのルイス肺癌に対して効果的であることを示している。
【0084】
【表12】

【0085】
IPM、IPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩の第二の比較をMX−1乳癌の阻害について行った。本実験では、マウスにMX−1乳癌を埋植した後、12日目から始めて、20〜100mg/kg/日×5日間の用量としてIP投与したときの、IPM、IPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩の効果を比較した。同等の用量において、IPM・(LYS)2塩はIPMよりも8倍優れていた。リジン塩はMTDも高かった。全比率は信頼限界値内であった。マウスはIPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩のIP投与に対して充分に耐容性を示した。検死によって観察された唯一の毒性物質は、人工癌に関連する器官病変であった。
本実験の結果(Table11)はIPM・(LYS)2塩及びIPM・(NH42塩の双方がヒト乳癌細胞に対して顕著に優れた効果を有していることを示している。
【0086】
【表13】

【0087】
実施例6
本実施例では、毎日3日間マウスの静脈内(ボーラス)にイソホスホルアミドマスタードのリジン塩を注射した後の、急性毒性を評価する。本実験は二段階からなる。
【0088】
まず、用量薬範囲決定段階では、4種類の治療グループ(1匹のマウス/性別/グループ)が、100、200、400及び600mg/kgの各用量で1回/日として3日間連続でテスト品を投与される。溶剤(ビークル)はUSP(米国薬局方)の注射用0.9%塩化ナトリウムとし、すべての投与につき15mL/kgの一定値とした。投与後、動物を7日間観察した。7日間の観察期間後、10日目に生存しているすべてのマウスをこの報告の補遺Fに示している。200、400及び600mg/kgの用量範囲決定段階において示された死亡数を元にして、主たる実験のための用量は50、75、100、200、300、500及び600mg/kg(以下参照)を選択した。
【0089】
次に、主たる実験段階は8種類の治療群(5匹のマウス/性別/グループ)が、50、75、100、200、300、400、500及び600mg/kgの各用量で1回/日として3日間連続でテスト品を投与される。追加のグループ(5匹のマウス/性別)を親化合物の対照標準として用い、イソホスホルアミドマスタードの親化合物を150mg/kgで同様に投与する。溶剤(ビークル)はUSP(米国薬局方)の注射用0.9%塩化ナトリウムとし、すべての投与につき15mL/kgの一定値とした。3日間の投与後、動物を11日間観察した。
【0090】
死亡率、罹患率、並びに食物及び水の利用性の観察を全動物に対して毎日2回実施した。実験中、臨床的兆候の観察を毎日実施した(1、2及び3日目は投与してから概ね1及び4時間後。投与しない日は毎日1回。)。受け取ってから2日目に、ランダム化の前に、並びに1及び7日目に生存している全動物の体重を測定した。主たる実験段階において、14日目に生存している全動物の体重も測定した。検死により、主たる実験の各動物に対して顕微鏡評価を実施した(15日目)。
【0091】
動物の獲得及び順化
全部で62匹の雄と61匹の雌のCrl:CD−l(lCR)BRマウス(生後約6週間)をCharles River Laboratories(ポーテージ、ミシガン州)から2003年4月21日に受け取った。7〜16日間の順化期間中は、動物の性別を確認し、体重を量り、健康全般及び病気の兆候を毎日2度観察した。受領時は、自動給水システムに順化させるために3〜4匹/カゴに動物を収容した。受領の3日後、動物を個別に収容した。実験に選ぶ前に、すべての動物を詳細な臨床的観察を行った。
【0092】
ランダム化、実験への割り当て及び維持管理
実験に割り当てる前に、マウスの体重を量り、病気及びその他の身体的異常の有無を検査した。実験に割り当てられた動物は性別毎に平均体重の20%以内の体重を有していた。単純なランダム化手順を使用して、動物を治療グループに配置した。実験用に入手した余分の動物は二酸化炭素吸入により安楽死させて廃棄した。
【0093】
ランダム化した49匹の雄及び49匹の雌のマウス(それぞれ24.8〜29.1g及び21.5〜24.2gの体重)をTable12に特定した各治療グループに割り当てた。
【0094】
各動物に、Provantis(登録商標)に使用する動物番号を割り当て、固有の識別番号を有するマイクロチップを埋め込んだ。個々の動物番号、埋植番号、及び実験番号は各動物について固有のものである。カゴは動物番号、実験番号、グループ番号、及び性別により特定した。動物の特定は、データに示すように、実験の経過中に行った。
【0095】
動物はつり式ステンレス製ワイヤメッシュ型のカゴに個々に収容した。蛍光灯による光を、自動タイマーで制御し、一日当たり約12時間与えた。温度及び湿度を監視して毎日記録した。温度及び湿度は68〜74°F(20〜23.3℃)及び30〜68%に維持した。
【0096】
用量薬範囲決定段階のための用量は、従前の実験で得たデータを基礎として選択した。主たる実験段階のための用量は、用量薬範囲決定段階の結果を勘案して設定した。但し、150mg/kgとした親化合物は例外的に従前の実験で得たデータを基礎として選択した。
【0097】
【表14】

【0098】
投与
4種類の範囲決定治療グループ(1匹のマウス/性別/グループ)が、100、200、400及び600mg/kgの各用量で1回/日として3日間連続でテスト品を静脈内(ボーラス)注射により投与される。すべての投与は、直近の体重をベースとして、15mL/kgの一定値とした。
【0099】
8種類の主たる実験グループは、50、75、100、200、300、400、500及び600mg/kgの各用量で1回/日として3日間連続でテスト品を静脈内(ボーラス)注射により投与される。追加のグループ(5匹のマウス/性別)を親化合物の対照標準として用い、イソホスホルアミドマスタードの親化合物を150mg/kgで同様に投与する。すべての投与は、直近の体重をベースとして、15mL/kgの一定値とした。
【0100】
動物を拘束し、投与用の処方物を針を通して尾静脈へ投薬した。針の中心に血液の存在を観察し、針が静脈内に適切に配置されていることを確認した。1回分の用量を各動物に対して絶対投与体積で投薬した。
【0101】
観察及び検査
罹患率、死亡率、怪我、並びに食物及び水の利用性の観察を全マウスに対して毎日2回実施した。
【0102】
各動物の詳しい臨床検査を1、2及び3日目は投与してから1及び4時間後に実施し、投与しない日は1回実施した。観察は、限定的ではないが、皮膚、毛、目、耳、鼻、口腔、胸郭、腹部、外性器、四肢、足、呼吸及び循環系への影響、自律神経への影響(例:唾液分泌)、神経系への影響(例:振顫、痙攣、手で触れたときの反応、奇異な行動)を含む。
【0103】
受け取ってから2日目と、ランダム化の前と、1及び7日目とに、生存している全動物の体重を測定した。主たる実験段階において、14日目に生存している全動物の体重も測定した。受け取った後、ランダム化前に測定した体重は示していないが、実験ファイルに保存している。
【0104】
用量薬範囲決定段階の10日目に、生存しているすべての動物を安楽死させて廃棄した。投薬範囲決定用の動物に対しては検死は実施しなかった。主たる実験の動物に対しては獣医病理学者に承認された手順で完全な検死を実施した。実験終了時に、主たる実験段階で生存しているすべての動物を二酸化炭素吸入及び腹部大静脈からの放血により安楽死させた。
【0105】
質量等の外的異常については、各動物を慎重に検査を行った。皮膚を腹中線切開により開き、皮下の異常を特定し、生前の所見と相関させた。腹腔、胸腔及び頭蓋腔の異常を検査し、そして、組織を取り外して検査した。すべての異常を記録した。すべての組織及び死体を廃棄した。
【0106】
統計
適宜、SAS(登録商標)のプロビット法(SAS Institute社、SAS/STAT(登録商標)ユーザーズガイド、バージョン6、第4版、第2巻. Cary NC: SAS Institute; 1989) in SAS (main study treated groups)を使用してLD50及びLD10及び95%信頼限界値を算出した(主たる実験の治療グループ)。
本実験の実施中に使用したコンピュータシステムをTable13に示す。
【0107】
【表15】

【0108】
結果
下記のデータは主たる実験段階の最終的な結果である。
死亡率のまとめをTable14に示す。全体的には、死亡率の結果は典型的な投与−応答効果を示している。IPMリジン塩は雄よりも雌において若干毒性が強かった。IPM親化合物を投与した対照標準グループは予想通りの死亡率を示し、雄よりも雌において高い毒性であった。これは従前の実験から得られたデータと相関している。
【0109】
【表16】

【0110】
マウスにおいて、IPMリジン塩の静脈内LD10値は133mg/kg(65〜172mg/kgの95%信頼限界値)(両性混合)であり、静脈内LD50値は220mg/kg(184〜265mg/kgの95%信頼限界値)であった。
【0111】
雄及び雌に対するLD10値はそれぞれ140及び179mg/kg(雄について12〜199mg/kgの95%信頼限界値であり、雌については算出できなかった。)であり、雄及び雌に対するLD50値はそれぞれ247及び197mg/kg(雄について187〜330mg/kgの95%信頼限界値であり、雌については算出できなかった。)であった。
【0112】
死後観察において、肉眼で観察できる治療に関連した所見は何れの性別においても認められなかった。
【0113】
結論
全体として、死亡率の結果は典型的な投与−応答効果を示しており、IPMリジン塩は雄よりも雌において若干毒性が強かった。50又は75mg/kgでは1匹の動物も死ななかった。100mg/kgでは10匹中1匹の動物が死んだ。200mg/kgでは10匹中3匹の動物の動物が死んだ。300mg/kgでは10匹中9匹の動物の動物が死んだ。400、500及び600mg/kgではすべての動物が死んだ。IPM親化合物を投与した対照標準グループは予想通りの死亡率(10匹中5匹)を示し、雄よりも雌において高い毒性であった。これは従前の実験から得られたデータと相関している。実験による死亡の開始は若干遅れ、最初に死亡したのは6日目であり、最後に死亡したのは12日目であった。死ぬ前のマウスの悪化状態を一般に反映する臨床上の兆候が両性において観察された。該臨床上の兆候には、瀕死の状態となること、不活発化、腫脹(尾、鼻/鼻づら、及び/又は顔)、呼吸が早くなる/遅くなる/浅くなる/困難になる/呼吸音が大きくなる、振顫、皮膚の低温化、乱れた外観、うずくまった姿勢、手足の障害、背中及び/又は肛門性器の辺りの毛の脱色、糞便が少ない/ない、排尿が減少するといった兆候が挙げられる。治療に関連して平均体重の増加量の減少(多くは体重の減少)が7日目までに生存した動物に認められ、実験終了時まで生存した動物においては14日目までに少なくとも部分的に回復した。検死では治療に関連した顕微鏡による所見は認められなかった。
【0114】
本実験の条件及び知見によれば、IPMリジン塩の静脈内LD10値はマウスにおいて133mg/kg(65〜172mg/kgの95%信頼限界値)(両性混合)であり、静脈内LD50値は220mg/kg(184〜265mg/kgの95%信頼限界値)であった。
【0115】
実施例7
本実施例はIPM及びそのリジン塩の毒性に関する広範囲にわたる前臨床データの結果を総括する。本データはヒトの臨床試験に対する投与計画を作成するのに使用する。
【0116】
IPM及びそのリジン塩の毒性をマウス、ラット及びイヌを用いた前臨床の急性及び亜急性試験により調査した。経口、静脈内(IV)及び腹膜内(IP)経路でIPMをマウス及びラットに単回投与する実験を行った。マウス及びイヌに毎日複数回投与(IV及びIP)する実験を行った。マウス及びイヌの亜急性静脈内投与(3日間)から、毒性及び薬物障害に関する毒物学的/薬物動態学的情報が得られた。これはヒトへの投与及び用量計画を作成するのに利用した。IPMリジン塩を用いた亜急性IV(3日間)投与をマウスに実施した。
【0117】
用量範囲調査の結果、死に至らしめるには予想よりも多量のIPMの投与が必要であった。ラットについては、経口LD50値は4443mg/kg(雄)、2786mg/kg(雌)及び3560mg/kg(両性混合)と算出された。各ケースにおいて、95%の信頼限界値を算出することができた。
【0118】
マウスについては、経口LD50値は1014mg/kg(雄)(95%信頼限界値)、1962mg/kg(雌)(95%信頼限界値)及び1432mg/kg(両性混合)(1128〜2983mg/kgの95%信頼限界値)と算出された。
【0119】
ラットについては、静脈内への単回投与LD50値は567mg/kg(雄)、400mg/kg(雌)及び428mg/kg(両性混合)と算出された。各ケースにおいて、95%の信頼限界値を算出することができなかった。マウスについては、静脈内LD50値は929mg/kg(雄)(95%信頼限界値)、484mg/kg(雌)(72〜1364mg/kgの95%信頼限界値)及び688mg/kg(両性混合)(398〜1366mg/kgの95%信頼限界値)と算出された。
【0120】
IV及びIP経路によるIPMの投与はマウス、ラット及びイヌを急性死させた。マウス及びラットへの経口投与も評価し、LD50値はこれらの齧歯類に対して1.4〜3.5g/kgの範囲であることを見出した。マウス、ラット及びイヌにおいて、静脈内投与による急性中毒症状は食欲、下痢、不活発化及び死亡が挙げられる。
【0121】
3日間の投与実験から許容される用量は単回投与計画とは著しく異なった。骨髄、脾臓及び細尿管の機能に対する該薬物の影響を評価した。これらの器官に対するIPMの影響により、上記2種を死亡させる要因となると思われる。以下に総括する。
【0122】
マウスでのIPMの亜急性IV実験により、ヒトに生じ得るLD10値及び毒性に関する情報が得られた。死亡という結果は典型的な投与−応答効果を示し、IPMは雄よりも雌に対して毒性が若干高かった。
【0123】
IPMの静脈内LD10値はマウスにおいて119mg/kg(87〜134mg/kgの95%信頼限界値)(両性混合)と算出され、静脈内LD50値は149mg/kg(132〜169mg/kgの95%信頼限界値)と算出された。雄及び雌に対するLD10値はそれぞれ168及び125mg/kgであり、雄及び雌に対するLD50値はそれぞれ176及び132mg/kgであった。各ケースにおいて、95%の信頼限界値を算出することができなかった。
【0124】
亜急性IPMリジン塩に対する実験では体重が24.8〜29.1gである40匹の雄と、21.5〜24.2gである40匹の雌のマウス(Crl:CD−1(1CR)BR)が含まれ、ランダム化し、これらを50〜600mg/kg(IV)の用量で毎日3日間治療した。
【0125】
IPMリジン塩については、3日間のマウスの実験による静脈内LD10は〜133mg/kg(65〜172mg/kgの95%信頼限界値(両性混合))であり、静脈内LD50は220mg/kg(184〜265mg/kgの95%信頼限界値(両性混合))であった。雄及び雌に対するLD10値はそれぞれ140及び179mg/kgであり(雄に対して12〜199mg/kgの95%信頼限界値であり、雌に対しては算出できなかった。)、雄及び雌に対するLD50値はそれぞれ247及び197mg/kgであった(雄に対して187〜330mg/kgの95%信頼限界値であり、雌に対しては算出できなかった。)。
【0126】
IPMリジン塩は典型的な投薬−応答効果を示し、雌に対して若干毒性が高かった。59、75又は200mg/kgでは一匹のマウスも死ななかった。100mg/kgでは10匹中1匹の動物が死んだ。300mg/kgでは10匹中9匹の動物が死んだ、400、500及び600mg/kgではすべてのマウスが死んだ。親化合物であるIPMの対照標準グループは予想された死亡率を示し、雄よりも雌において毒性が高かった。これは従前の実験データと相関する。実験による死亡の開始は若干遅れ、最初に死亡したのは6日目であり、最後に死亡したのは12日目であった。死ぬ前のマウスの悪化状態を一般に反映する臨床上の兆候が両性において観察された。
【0127】
顕微鏡検査の結果から、IPM単独又はそのリジン塩を毎日3日間投与した結果、骨髄枯渇、腎臓細管壊死、又はそれらの両方が治療に関連して見出され、死因であると考えられた。IPMに関しては、激しい骨髄枯渇が雄においては178mg/kg以上、雌においては133mg/kg以上で見出された。腎臓細管壊死は雄においては237mg/kg以上で生じ、雌においては133mg/kgで生じた。更に、脾臓のリンパ枯渇が実験中に死亡した大部分の雄及びすべての雌に認められた。75mg/kgではいずれの性においても顕微鏡による明白な所見は認められなかった。実験終了まで生存したマウスには、状態悪化後、死亡する前に一般に起きる臨床上の兆候が観察されたが、体重への影響を示すはっきりとした証拠は見られなかった。
【0128】
毎日3日間投与されるイソホスホルアミドマスタード(IPM)及びそのリジン塩に対する静脈内LD10はそれぞれ119mg/kg及び133mg/kgと算出し、LD50はそれぞれ149mg/kg及び220mg/kgと算出した。
【0129】
齧歯類及びイヌにおいてIPM及びそのリジン塩を用いた急性及び亜急性毒性実験を行った。これらの実験は許容されるヒトの静脈内への初期用量を明らかにするのに使用した。IPMをIV投与したときの齧歯類及びイヌに対する毒性データのまとめをTable15に、IPM・(LYS)2をIV投与したときの齧歯類及びイヌに対する毒性データのまとめをTable16に示す。
【0130】
【表17】

【0131】
【表18】

【0132】
イヌに対するIPMのMTDは5mg/kg/日×3日であるから、対応するヒトへの開始用量を100mg/m2/日×3日とするのは安全であろう。IPM・(LYS)2については、マウスへの3日間の静脈内投与計画におけるLD10は〜133mg/kg/日×3日と算出された。IPM・(LYS)2は治療域が急な最小毒性のアルキル化剤であると考えられる。mg/kgベースでは、リジン塩についてのヒト中のMTD(mean toxic dose)はマウスの1/10、すなわち40mg/m2/日と見積もられる。
匹敵するヒトへのIV投与推定量をTable17に示す。
【0133】
【表19】

【0134】
実施例8
本実施例では転移性卵巣癌を罹患しているヒトの患者内の癌を治療する。
患者を静脈内点滴によりIPM500mg/m2で3日間連続して治療した。患者の血清電解質、例えばリン及び塩化物を補助的電解質で矯正し、7日後に中止した。RUN及びクレアチニンは正常値であった。
【0135】
実施例9
本実施例ではヒトの患者をIPM・(LYS)2で治療した結果を記載する。進行癌を罹患している4人の患者がIPM・(LYS)2の治療を受けた。
IPMリジン塩の初期用量を30mg/m2として3日間毎日静脈内投与した。一人の患者(コホート)については21〜28日毎に用量を増加させて、毒性が現れるのを観察した。深刻な中毒症状がない場合には用量を40%増加させた。4人の患者を―各用量で一人ずつ−30、42、59及び83mg/m2で3日間毎日IV投与して治療したところ、深刻な中毒症状はなかった。直腸癌の患者は、3日間毎日のIV投与により83mg/m2のIPM・(LYS)2を投与した後、病状が安定化した。
【0136】
実施例10
本実施例では転移・浸潤性の中程度に分化した腺癌へ進展した非小細胞肺癌を治療する。病状はCATスキャンにより確認することができる。
イソホスホルアミドマスタードリジン塩を毎日3日間静脈内に350mg/m2投与した。21日間の休息期間後、3日間の治療計画をもう一度繰り返した。治療期間中、血液流体化学及び血液学的検査の結果を毎日記録した。癌の状態をCATスキャンにより監視した。
【0137】
実施例11
本実施例では化合物の安定性に対するアミン塩の生成効果を示す。
凍結乾燥したイソホスホルアミドマスタード及びそのリジン塩を異なる条件下で保存し、純度を検査した。結果を下表に示す。
【表20】

【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】アクロレイン及びイソホスホルアミドマスタードの製造を含めたイホスファミドの代謝スキームを示す。
【図2】500MHzで測定したD2O中のIPM・(LYS)21H NMRスペクトルである。
【図3】図2のスペクトルの拡大部分である。
【図4】IPM・(LYS)213C NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:
【化1】

(式中、A+は4級化したアンモニウム、塩基性アミノ酸の共役酸、脂肪族アンモニウム、複素環式アンモニウム、芳香族アンモニウム、置換及び非置換ピリジニウム、グアニジウム、及びアミジニウムから選択されるアンモニウム種を表し、X及びYは独立して脱離基を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
+はBH+を表し、Bは塩基性アミノ酸、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、N−メチル−N−エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、モノ−,ビス−若しくはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミン、2−ヒドロキシ−t−ブチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、N,N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)アミン及びN−メチル−D−グルカミンから選択される請求項1記載の化合物。
【請求項3】
次式:
【化2】

(Gは第二のアンモニウム又はアミン種を表す。)
を有する化合物である請求項2記載の化合物。
【請求項4】
Bがリジン、ホモリジン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン、オルニチン及びこれらの組み合わせから選択される請求項2記載の化合物。
【請求項5】
Bがリジンである請求項2記載の化合物。
【請求項6】
X及びYが独立してハロゲン及びスルホネートより選択される請求項2記載の化合物。
【請求項7】
X及びYがハロゲンである請求項2記載の化合物。
【請求項8】
X及びYが塩素である請求項2記載の化合物。
【請求項9】
B及びGがリジンであり、X及びYが塩素である請求項3記載の化合物。
【請求項10】
イソホスホルアミドマスタードの陰イオンと、アミン及びアンモニウム陽イオンの少なくとも一方又は両方とを含有する化合物。
【請求項11】
第二のアミン又はアンモニウム陽イオンを更に含有する請求項10記載の化合物。
【請求項12】
アルカリ金属陽イオン又は第4級アンモニウム陽イオンを更に含有する請求項10記載の化合物。
【請求項13】
アンモニウム陽イオンがリジンである請求項10記載の化合物。
【請求項14】
請求項1記載の化合物及び製薬上許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項15】
X及びYが独立してハロゲン及びスルホネートより選択される請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
+がリジン、ホモリジン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン、オルニチン及びこれらの組み合わせから選択される請求項14記載の医薬組成物。
【請求項17】
X及びYがハロゲンである請求項14記載の医薬組成物。
【請求項18】
X及びYが塩素である請求項14記載の医薬組成物。
【請求項19】
ヒトの患者への投与用に処方された溶液を構成する組成物である請求項14記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記溶液が約0.1mg/mL〜約250mg/mLの前記化合物を含有する請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記溶液が約20mg/mL〜約100mg/mLの前記化合物を含有する請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記組成物が単回用量当たり約200mg〜約1500mgの前記化合物を含有する請求項14記載の医薬組成物。
【請求項23】
請求項3記載の化合物及び製薬上許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項24】
請求項9記載の化合物及び製薬上許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項25】
イソホスホルアミドマスタードと、アミン塩基又はアンモニウム対イオン又はその両方と、製薬上許容される担体とを含有する医薬組成物。
【請求項26】
イソホスホルアミドマスタード及びアミン塩基の塩と、製薬上許容される担体とを含有する医薬組成物。
【請求項27】
1当量のイソホスホルアミドマスタードに対して、2当量のアミン塩基、アンモニウム対イオン又はその両方を含有する請求項25記載の医薬組成物。
【請求項28】
アミン塩基、アンモニウム対イオン又はその両方が塩基性アミノ酸、脂肪族アミン、ジ−及びトリ−アルキルアミン、複素環式アミン、芳香族アミン、置換及び非置換ピリジン、グアニジン、並びにアミジンから選択される請求項25記載の医薬組成物。
【請求項29】
アミン塩基、アンモニウム対イオン又はその両方がリジン、ホモリジン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン、オルニチン及びこれらの組み合わせから選択される請求項25記載の医薬組成物。
【請求項30】
アミン塩基がリジンである請求項25記載の医薬組成物。
【請求項31】
過増殖性疾患に罹患している患者を治療する方法であって、該患者に請求項1記載の化合物を投与することを含む方法。
【請求項32】
約10mg/m2/日〜約700mg/m2/日の前記化合物を患者に投与することを含む請求項31記載の方法。
【請求項33】
約100mg/m2/日〜約500mg/m2/日の前記化合物を患者に投与することを含む請求項31記載の方法。
【請求項34】
第二の化合物を患者に投与することを更に含む請求項31記載の方法。
【請求項35】
第二の化合物が微小管結合剤、DNA割込体又は架橋体、DNA合成阻害剤、DNA及び/又はRNA転写阻害剤、酵素阻害剤、遺伝子制御剤、酵素、抗体及び脈管形成阻害剤から選択される請求項34記載の方法。
【請求項36】
第二の化合物がパクリタキセル、ドセタキセル、ダウノルビシン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、コルヒチン、ドラスタチン15、ノコダゾールポドフィルロトキシン、リゾキシン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン(ナベルビン)、エポシロン、マイトマイシン、ブレオマイシンクロランブシル、カルムスチン、メルファラン、ミトキサントロン−5−5’−デオキシウリジン、カンプトセシン、トポテカン、イリノテカントポシド、テノポシド、ゲルダナマイシン、メトトレキサート、アドリアマイシン、アクチノマイシンD、ミフェプリストン、ラロキシフェン、5−アザシチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、アピゲニン、ラパマイシン、アンジオスタチンK1−3、L−アスパラギナーゼ、スタウロスポリン、ゲニステイン、フマギリン、エンドスタチン、タリドマイド及びこれらの類似物から選択される請求項34記載の方法。
【請求項37】
微小管結合剤、DNA割込体又は架橋体、DNA合成阻害剤、DNA及び/又はRNA転写阻害剤、酵素阻害剤、遺伝子制御剤、酵素、抗体及び脈管形成阻害剤から選択される第三の化合物を患者に投与することを更に含む請求項34記載の方法。
【請求項38】
過増殖性疾患には乳癌、膀胱癌、骨癌、子宮癌、結腸癌、中枢神経癌、食道癌、胆嚢癌、胃腸癌、頭部及び頸部癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、喉頭癌、白血病、肺ガン、黒色腫、神経芽細胞腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、網膜芽腫、胃癌、睾丸癌又はウィルムス腫瘍が含まれる請求項31記載の方法。
【請求項39】
過増殖性疾患には腺癌、肉腫、白血病又はリンパ腫が含まれる請求項31記載の方法。
【請求項40】
過増殖性疾患には皮膚腫瘍が含まれる請求項31記載の方法。
【請求項41】
腫瘍が転移性である請求項40記載の方法。
【請求項42】
過増殖性疾患には黒色腫、肉腫又はその両方が含まれる請求項40記載の方法。
【請求項43】
過増殖性疾患には黒色腫が含まれる請求項42記載の方法。
【請求項44】
過増殖性疾患には卵巣癌、乳癌、前立腺癌又は直腸癌が含まれる請求項31記載の方法。
【請求項45】
肺癌は非小細胞又は小細胞癌である請求項44記載の方法。
【請求項46】
肺癌は非小細胞癌である請求項45記載の方法。
【請求項47】
過増殖性疾患に罹患している患者を治療する方法であって、請求項1記載の式を有する抗過増殖性剤を患者に投与することを含む方法。
【請求項48】
水の存在下で、次式:
【化3】

で表される化合物に、塩基性アミノ酸、脂肪族アミン、複素環式アミン、芳香族アミン、置換及び非置換ピリジニン、グアニジン、及びアミジンから選択されるアミン塩基を少なくとも1当量接触させ、得られた混合物を凍結乾燥することを含む、請求項1に記載の化合物を含有する凍結乾燥物を製造する方法。
【請求項49】
X及びYは塩素である請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記化合物にアミン塩基を少なくとも2当量接触させることを含む請求項48記載の方法。
【請求項51】
アミン塩基がリジンである請求項48記載の方法。
【請求項52】
請求項48記載の方法により製造された凍結乾燥物。
【請求項53】
次式:
【化4】

(式中、M+はアルカリ金属陽イオンを表し、Bはアミン塩基を表す。)
で表される化合物。
【請求項54】
抗過増殖性化合物である請求項2記載の化合物。
【請求項55】
マウスにおける静脈内LD50はイソホスホルアミドマスタードの静脈内LD50よりも高い請求項2記載の化合物。
【請求項56】
マウスにおける静脈内LD10はイソホスホルアミドマスタードの静脈内LD10よりも高い請求項2記載の化合物。
【請求項57】
マウスにおける静脈内LD50が約184〜約265mg/kgである請求項2記載の化合物。
【請求項58】
マウスにおける静脈内LD10が約65〜約172mg/kgである請求項2記載の化合物。
【請求項59】
ラットにおける静脈内LD50が約400〜約570mg/kgである請求項2記載の化合物。
【請求項60】
水の存在下における半減期が水の存在下におけるイソホスホルアミドマスタードの半減期よりも長い、安定化されたイソホスホルアミドマスタードの塩。
【請求項61】
イソホスホルアミドマスタードを凍結乾燥させたものよりも安定である請求項52記載の凍結乾燥物。
【請求項62】
CPA、Ifos又はその両方よりもCPA抵抗性腫瘍増殖に対して有効である請求項2記載の化合物。
【請求項63】
次式:
【化5】

(式中、S及びYは独立して脱離基を表す。)
で表される化合物又はその製薬上許容される塩を含有する除菌された組成物。
【請求項64】
前記化合物は化合物自体に対して分解率が10%未満で存在する請求項63記載の組成物。
【請求項65】
純粋なイソホスホルアミドマスタードの少なくとも2倍の貯蔵寿命を有する請求項63記載の組成物。
【請求項66】
過増殖性疾患に罹患している患者を治療する方法であって、請求項63に記載の組成物を患者に投与することを含む方法。
【請求項67】
次式:
【化6】

(式中、X及びYは独立して脱離基を表す。)
で表される化合物の塩を精製する方法であって、該化合物の溶液を無菌の抗菌フィルターで濾過し、精製された該化合物は濾過中に受ける分解率が10%未満である方法。
【請求項68】
精製された該化合物は濾過中に受ける分解率が5%未満である請求項67記載の方法。
【請求項69】
精製された該化合物は濾過中に受ける分解率が1%未満である請求項68記載の方法。
【請求項70】
請求項67に記載の方法により製造された医薬組成物。
【請求項71】
過増殖性疾患に罹患している患者を治療する方法であって、請求項70に記載の組成物を患者に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−517949(P2008−517949A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538185(P2007−538185)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/038523
【国際公開番号】WO2006/047575
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507135803)デック−テク インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】