説明

抗腫瘍剤の治療効果予測方法、抗腫瘍剤の治療効果予測キットおよび抗腫瘍剤

【課題】本発明の目的は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の予測方法を提供することにある。
【解決手段】前記課題は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の腫瘍に対する治療効果を予測する抗腫瘍剤の治療効果予測方法であって、対象となる腫瘍のNKG2Dリガンドの発現を分析するリガンド発現分析工程を含む抗腫瘍剤の治療効果予測方法によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤の治療効果予測方法に関し、特には、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カワラタケから抽出される蛋白多糖体は、抗腫瘍活性などを示す。例えば、特開昭60−45533号公報(特許文献1)には、カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分とする抗腫瘍剤などが記載されている。このような蛋白多糖体のなかで、カワラタケ由来の蛋白多糖体の一種であるPSK(登録商標)(商品名「クレスチン」(登録商標))は、皮内投与や静脈内投与だけでなく、経口投与によっても抗腫瘍活性を示すことが特長であり、臨床的にも経口投与製剤として用いられている。
【0003】
PSKは、約18〜38%の蛋白質を含む蛋白多糖体であり、5000以上(ゲル濾過法)の分子量、例えば5000〜300000(ゲル濾過法)の分子量を有するものである。主要画分の糖部分はβ−D−グルカンで、このグルカン部分の構造は、1→3、1→4及び1→6結合を含む分枝構造である。
【0004】
最近、腫瘍に対する抗腫瘍剤の治療効果又は治療の予後を予測することにより、最適な抗腫瘍剤の選択、抗腫瘍剤の投与量の調節などを行い、抗腫瘍剤の治療効果を上昇させる試みが行われている。
【0005】
例えば、特許文献2には、抗癌剤投与後の患者の予後と正の相関を示す8つの遺伝子群と、負の相関を示す8つの遺伝子群の発現データ基づいた、大腸癌組織における抗腫瘍剤投与後の患者の予後予測手法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、p160ファミリー分子群の発現量とSP110ファミリー発現量とを比較することによる肝臓癌におけるRAR−α作動薬の治療効果予測手法が開示されている。
【0007】
更に、特許文献4には、乳癌細胞の核内のメニンの発現に基づいた乳癌における抗腫瘍剤の選択手法が開示されている。具体的には、特許文献4では、メニンが陽性の場合には、エストロゲンレセプターを遮断するタモキシフェンなどの治療薬を避けて、エストロゲン合成そのものを阻害するLH−RHアナログか、又はアロマターゼ阻害剤を用いるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−45533号公報
【特許文献2】特開2007−37409号公報
【特許文献3】国際公開2007/049542号
【特許文献4】特開2004−101356号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「イミュノロジー(Immunology)」(英国)2007年、第121巻、p.439−447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、PSKの治療効果の予測に関しても、患者の免疫系と治療効果との関連から、細胞性免疫活性、血清IAP及びシアル酸値、SI値及びG/L比、サイトカイン産生能、並びにHLAタイピングなどが予測因子として有用であるかについて、検討されてきている。しかしながら、現在までのところ、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤では、治療効果を予測(評価)するためのマーカーは見出されていない。
【0011】
そのため、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤では、用いた際の治療効果を事前に予測することができないという問題を有している。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、PSKに代表されるようなカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、腫瘍移植モデルマウスを用いカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の研究を行ったところ、移植された腫瘍の種類によって、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が顕著に異なることを見出した。そこで、本発明者らは、腫瘍細胞にカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の差異を規定する要因があると仮定し、その要因を特定することにより、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測することが可能であると考えた。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、抗腫瘍剤の治療効果が低い腫瘍細胞においては、NKG2Dリガンドの発現が多いのに対して、抗腫瘍剤の治療効果が高い腫瘍細胞においては、NKG2Dリガンドの発現がないか、又はNKG2Dリガンドの発現が低いことを見出した。
【0015】
更に、本発明者らは、抗腫瘍剤の治療効果が高い腫瘍細胞を有する対象(癌患者)においては、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高いことを見出した。すなわち、本発明者らは、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い対象(癌患者)においては、PSKなどのカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が高く、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が低い対象(癌患者)においては、PSKなどのカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が低いことを見出した。
【0016】
本発明は、係る新たな知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
【0017】
本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の腫瘍に対する治療効果を予測する抗腫瘍剤の治療効果予測方法であって、対象となる腫瘍のNKG2Dリガンドの発現を分析するリガンド発現分析工程を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、腫瘍のNKG2Dリガンドの発現を分析することにより、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測している。
【0019】
これは、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が、対象(癌患者)の腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現量に応じて変化するためである。
【0020】
このように、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、対象(癌患者)の腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現量を測定することによって、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測することができる。
【0021】
また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記リガンド発現分析工程は、前記対象となる腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現、前記対象となる腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現、及び患者の体液中における可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在の少なくとも1つを分析する工程であることが好ましい。また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記腫瘍が、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病であることが好ましい。また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記リガンド発現分析工程において発現を分析するNKG2Dリガンドは、膜アンカー型NKG2Dリガンド、及び膜貫通型NKG2Dリガンドであることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記膜アンカー型NKG2Dリガンドが、ULBP1、ULBP2、及びULBP3であり、前記膜貫通型NKG2Dリガンドが、RAET1E、RAET1G、MICA、及びMICBであることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記リガンド発現分析工程におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現、及び可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在は、ULBP1、ULBP2、及びULBP3に結合する抗体、並びにRAET1E、RAET1G、MICA、及びMICBに結合する抗体を用いて分析することが好ましい。本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の腫瘍に対する治療効果を予測する抗腫瘍剤の治療効果予測方法であって、治療対象の免疫細胞におけるNKG2D受容体発現を分析する受容体発現分析工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、対象(癌患者)の免疫細胞のNKG2D受容体の発現を分析することにより、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測している。
【0025】
これは、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が、対象(癌患者)の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現量に応じて変化するためである。
【0026】
このように、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、対象(癌患者)の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現量を測定することによって、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測することができる。
【0027】
また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法では、前記受容体発現分析工程は、免疫細胞におけるNKG2D受容体のmRNAの発現、及び免疫細胞におけるNKG2D受容体のタンパク質の発現の少なくとも1つを分析する工程であることが好ましい。また、本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測キットは、上述の抗腫瘍剤の治療効果予測方法に用いる抗腫瘍剤の治療効果予測キットであって、NKG2Dリガンドのヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマー、NKG2Dリガンドに結合する抗体、NKG2D受容体のヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマー、及びNKG2D受容体に結合する抗体、からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を効果的に予測することができる治療効果予測キットを提供することができる。
【0029】
なお、本発明は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分として含む抗腫瘍剤であって、対象となる腫瘍細胞が膜アンカー型NKG2Dリガンド、及び膜貫通型NKG2Dリガンドの少なくとも一方を発現していない場合に投与する抗腫瘍剤、および、
カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分として含む抗腫瘍剤であって、治療対象の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い場合に投与する抗腫瘍剤についても包含する。
【0030】
本発明に係る抗腫瘍剤は、治療効果の高い腫瘍を有する対象(癌患者)を選択して、投与されるため、高い治療効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法によれば、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を、予め正確に予測することが可能である。これによって、治療効果の得られないと予測される患者に対しては、事前に他の抗腫瘍剤の使用を選択するようにすることができる。
【0032】
また、中程度の治療効果が得られると予測される患者に対しては、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の投与量を増加させることにより、治療効果を高めることができる。なお、治療効果が高いと予測される患者に対しては、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の投与量を減らすことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ヒト及びマウスのNKG2Dリガンドを示す模式図である。
【図2】腫瘍細胞(MethA細胞、B16F10細胞、4T1細胞、K−Balb細胞、S180細胞、ISOS−1細胞、及びCT26細胞)におけるNKG2Dリガンド(Rae−1 family及びH60)の発現をフローサイトメトリーで測定したグラフである。
【図3】MethA細胞(Rae−1 family及びH60が非発現)、4T1細胞(Rae−1 family発現、H60非発現)、K−Balb細胞(Rae−1 family及びH60が発現)に対するPSKの抗腫瘍効果を示す図である。
【図4】MethA細胞又はK−Balb細胞を移植したマウスにおけるNKG2D受容体の発現(A)と細胞内IFN−γの産生(B)を示すグラフである。
【図5】MethA細胞又はK−Balb細胞を移植したマウスにPSKを投与した際の細胞内IFN−γの産生への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法、抗腫瘍剤の治療効果予測キットおよび抗腫瘍剤の一実施形態について、以下に説明する。
【0035】
本明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、本明細書等)において「分析」とは、分析対象物質の量を定量的又は半定量的に決定する「測定」と、分析対象物質の存在の有無を判定する「検出」との両方の意味が含まれる意味で用いている。
【0036】
また、本明細書等における「および/または」は、少なくともいずれか一方であることを意味している。すなわち、「Aおよび/またはB」と表記した場合は、AおよびBの少なくともいずれか一方であることを意味している。
【0037】
[1]抗腫瘍剤の治療効果予測方法
(抗腫瘍剤)
本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法における抗腫瘍剤は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤であり、例としてPSKを挙げることができる。PSKは、商品名「クレスチン」の名称で販売されており、カワラタケ菌CM101株〔FERM−P2412(ATCC20547)〕の菌糸体を水系溶媒、例えば、熱水又はアルカリ溶液(例えば、アルカリ金属の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液)で抽出し、精製した後に乾燥して得ることができる。主要画分の糖部分はβ−D−グルカンで、このグルカン部分の構造はβ1→3、β1→4及びβ1→6結合を含む分枝構造である。主な構成単糖はグルコースやマンノースであり、約18〜38%のタンパク質を含む。
【0038】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤は、抗腫瘍活性を有するものであれば、限定されるものではない。例えば、クレスチン、並びにクレスチンのジェネリック医薬品であるアスクレ(日医工)、クレチール末(沢井製薬)、チオレスチン散(長生堂)、チオレスチン散(田辺製薬販売)、カルボクリン末(大洋薬品工業)、及びカルボクリン末(日本ケミファ)であってもよい。従って、これらのジェネリック医薬品であっても、本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法を用いることによって、治療効果を予測することが可能である。
【0039】
(NKG2Dリガンドの種類)
NKG2Dリガンドは、主に、NK細胞、CD8陽性T細胞、γδT細胞に発現しているNKG2D受容体のリガンドである。本発明において分析されるNKG2Dリガンドは、NKG2D受容体と結合するものであれば、特に限定されるものではなく、NKG2D受容体以外の受容体に結合できるものも含む。また、NKG2Dリガンドは、動物種によっても種類やアミノ酸配列が異なっているが、動物種によって限定されるものではない。
【0040】
ヒトのNKG2Dリガンドとしては、MHC class I chain related protein A(以下、MICAと称する)、MHC class I chain related protein B(以下、MICBと称する)、UL16 binding protein 1(以下、ULBP1と称する)、UL16 binding protein 2(以下、ULBP2と称する)、UL16 binding protein 3(以下、ULBP3と称する)、Retinoic acid early transcript 1E(以下、RAET1Eと称する)、及びRetinoic acid early transcript 1G(以下、RAET1Gと称する)の7種類をあげることができる。この7種類のNKG2Dリガンドを、細胞膜との結合の違いにより分類した場合、2種類に分類することができる(図1)。
【0041】
第1は、膜貫通領域及び細胞質内領域を有するNKG2Dリガンド(以下、膜貫通型NKG2Dリガンドと称する)であり、図1におけるMICA、MICB、RAET1E、及びRAET1Gが該当する。なお、ヒトの膜貫通型NKG2Dリガンドは、細胞外領域にα1、α2及びα3ドメインを有するMICA及びMICBのα1α2α3サブグループと、α1、及びα2ドメインを有するRAET1E、及びRAET1Gのα1α2サブグループに、更に分類することができる。
【0042】
第2は、膜アンカー領域を有するNKG2Dリガンド(以下、膜アンカー型NKG2Dリガンドと称する)であり、図1におけるULBP1、ULBP2及びULBP3が該当する。なお、ヒトの膜アンカー型NKG2Dリガンドは、細胞外領域にα1及びα2ドメインを有する。
【0043】
また、マウスのNKG2Dリガンドとしては、retinoic acid early 1α(以下、Rae1αと称する)、retinoic acid early 1β(以下、Rae1βと称する)、retinoic acid early 1γ(以下、Rae1γと称する)、retinoic acid early 1δ(以下、Rae1δと称する)、retinoic acid early 1ε(以下、Rae1εと称する)、H60、及びmurine ULBP-like transcript 1(以下、MULT1と称する)の7種を挙げることができる。
【0044】
マウスのNKG2DリガンドのそれぞれをヒトのNKG2Dリガンドと同じように、細胞膜との結合の違いにより7種のNKG2Dリガンドを分類すると、Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1εは、膜アンカー領域を有する膜アンカー型NKG2Dリガンドに分類され、H60及びMULT1は、膜貫通領域及び細胞質内領域を有する膜貫通型NKG2Dリガンドに分類される。
【0045】
マウスの膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドの細胞外領域は、いずれもα1及びα2ドメインを有する。また、マウスの膜貫通型NKG2Dリガンドには、ヒトのα1α2α3サブグループに属するα3ドメインを有するものは、報告されていない。
【0046】
なお、図1は、非特許文献1のFigure 1に記載されているヒト及びマウスのNKG2Dリガンドの構造を示したものである。また、表1にヒト及びマウスのKG2Dリガンドのアミノ酸配列及び塩基配列のアクセッション番号を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(NKG2Dリガンドの発現)
腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現の解析は、膜アンカー型NKG2Dリガンドの発現、及び膜貫通型NKG2Dリガンドの発現をグループとして、まとめて行ってもよい。また、膜アンカー型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドのそれぞれの発現、及び膜貫通型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドのそれぞれの発現を個別に解析してもよい。
【0049】
例えば、マウスの場合、膜アンカー型NKG2DリガンドであるRae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1εをグループとして、まとめて解析するようにしてもよいし、それぞれ個別に解析するようにしてもよい。また、膜貫通型NKG2DリガンドであるH60及びMULT1をグループとしてまとめて解析するようにしてもよいし、それぞれ個別に解析するようにしてもよい。但し、マウスの膜貫通型NKG2Dリガンドの1つであるMULT1は、マウスの正常組織(細胞)においても発現が観察される。従って、本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法においては、MULT1の発現の有無(又は高低)による治療効果の予測を排除するものではないが、膜貫通型NKG2Dリガンドとして、H60の発現のみを解析することが好ましい。
【0050】
ヒトの場合にも、膜アンカー型NKG2DリガンドであるULBP1、ULBP2、及びULBP3をグループとしてまとめて解析するようにしてもよいし、それぞれ個別に解析するようにしてもよい。また、膜貫通型NKG2DリガンドであるMICA、MICB、RAET1E、及びRAET1Gをグループとしてまとめて解析するようにしてもよいし、それぞれ個別に解析するようにしてもよい。更に、ヒトの膜貫通型NKG2Dリガンドは、α1α2α3サブグループであるMICA及びMICB、並びにα1α2サブグループであるRAET1E、及びRAET1Gを、それぞれまとめて解析するようにしてもよい。
【0051】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤は、他の抗癌剤と併用しない場合であっても、NKG2Dリガンドが全く発現していない腫瘍細胞に最も高い治療効果を示し、すべてのNKG2Dリガンドが発現している腫瘍細胞にはほとんど治療効果を示さない。
【0052】
従って、腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現を分析することによって、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果を予測することが可能である。治療効果の予測は、NKG2Dリガンドのすべて種類のリガンドの発現を分析することによっても可能であるし、NKG2Dリガンドの少なくとも1つのリガンドの発現を分析することによっても可能である。
【0053】
例えば、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤は、他の抗癌剤と併用しない場合であっても、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドを発現していない腫瘍、又は発現が低い腫瘍に対して高い治療効果を示すが、特には膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドを発現していない腫瘍に対して顕著な治療効果を示す。すなわち、マウスにおいては、膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)及び膜貫通型NKG2Dリガンド(H60)を発現していない腫瘍、または発現が低い腫瘍に対して高い治療効果を示す。
【0054】
一方で、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドの両方を発現している腫瘍に対しては、抗腫瘍剤の単独投与では治療効果が低いが、特には膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドの発現が高い腫瘍に対して、抗腫瘍剤の単独投与の治療効果が低い。すなわち、マウスにおいては、膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)及び膜貫通型NKG2Dリガンド(H60)を発現している腫瘍に対して、抗腫瘍剤の単独投与では治療効果が低い。
【0055】
なお、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドのいずれか一方を発現していない腫瘍、又はいずれか一方の発現が低い腫瘍に対しては、中程度の治療効果を示す。特には、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドのいずれか一方を発現していない腫瘍に対しての治療効果が高い。
【0056】
また、膜アンカー型NKG2Dリガンドを発現しておらず、膜貫通型NKG2Dリガンドを発現している腫瘍、又は膜アンカー型NKG2Dリガンドの発現が低く、膜貫通型NKG2Dリガンドの発現している(又は発現が高い)腫瘍に対して、中程度の治療効果を示す。特には、膜アンカー型NKG2Dリガンドを発現しておらず、膜貫通型NKG2Dリガンドを発現している腫瘍に対して治療効果が高い。
【0057】
すなわち、マウスにおいては、膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)及び膜貫通型NKG2Dリガンド(H60)のいずれか一方を発現している腫瘍、又はいずれか一方の発現が低い腫瘍に対して、中程度の治療効果を示す。また、膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)を発現しておらず、膜貫通型NKG2Dリガンド(H60)を発現している腫瘍、又は膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)の発現が低く、膜貫通型NKG2Dリガンド(H60)を発現している(又は発現が高い)腫瘍に対して中程度の治療効果を示す。
【0058】
ここで、本明細書等において、「膜アンカー型NKG2Dリガンドが発現していない」とは、膜アンカー型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドがいずれも発現していないことを意味しており、実質的に検出限界以下であることを意味する。例えば、マウスでは、Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1εがいずれも発現していないことを意味している。同様に、ヒトでは、ULBP1、ULBP2、及びULBP3がいずれも発現していないことを意味している。また、本明細書等において、「膜アンカー型NKG2Dリガンドの発現が低い」とは、膜アンカー型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドの発現がいずれも低いことを意味している。例えば、マウスでは、Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1εの発現がいずれも低いことを意味している。同様に、ヒトでは、ULBP1、ULBP2、及びULBP3の発現がいずれも低いことを意味している。
【0059】
ここで、本明細書等において、「膜貫通型NKG2Dリガンドが発現していない」とは、膜貫通型NKG2Dリガンドがいずれも発現していないことを意味しており、実質的に検出限界以下であることを意味する。ヒトでは、MICA、MICB、RAET1E、及びRAET1Gがいずれも発現していないことを意味している。マウスでは、MULT1およびH60がいずれも発現していないことを意味するが、MULT1の発現の有無にかかわらず、H60が発現していないことを意味する場合もある。
【0060】
また、本明細書等において、「膜貫通型NKG2Dリガンドの発現が低い」とは、膜貫通型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドの発現がいずれも低いことを意味している。ヒトでは、RAET1E、及びRAET1Gの発現がいずれも低いことを意味している。マウスでは、MULT1およびH60の発現がいずれも低いことを意味するが、MULT1の発現の有無にかかわらず、H60の発現が低いことを意味することもある。
【0061】
すなわち、本明細書等において、「膜アンカー型NKG2Dリガンドが発現している」とは、膜アンカー型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドの少なくとも1つが発現していることを意味することになる。また、「膜アンカー型NKG2Dリガンドの発現が高い」とは、膜アンカー型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドの少なくとも1つの発現が高いことを意味することになる。同様に、「膜貫通型NKG2Dリガンドが発現している」とは、膜貫通型NKG2Dリガンドの少なくとも1つが発現していることを意味することになる。更に、「膜貫通型NKG2Dリガンドの発現が高い」とは、膜貫通型NKG2Dリガンドに属するNKG2Dリガンドの少なくとも1つの発現が高いことを意味することになる。
【0062】
(NKG2Dリガンドの発現を分析する手法)
本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法において、NKG2Dリガンドの発現の分析は、NKG2Dリガンドを定量的又は半定量的に決定することができるか、あるいはNKG2Dリガンドの存在の有無を判定することができる限り、特に限定されるものではない。具体的には、NKG2Dリガンドの発現は、(1)腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現、(2)腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現を分析することにより行うことができる。また、腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドには、タンパク質のプロセシングを受け、可溶性のNKG2Dリガンドタンパク質として血液中に分泌されるものがある。従って、NKG2Dリガンドの発現は、(3)患者の体液中の可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質の存在を分析することによっても行うことができる。なお、可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質の存在の分析は、体液中のプロテアーゼなどによって分解された可溶性NKG2Dリガンドの断片を分析することによっても行うことができる。
【0063】
腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現を分析する手法としては、NKG2DリガンドのmRNA量を測定する分子生物学的分析方法(例えば、サザンブロット法、ノザンブロット法、及びPCR法)を挙げることができる。腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現を分析する手法の詳細については、下記に詳述する。
【0064】
腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現及び患者の体液中の可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在を解析する手法としては、NKG2Dリガンドに対する抗体又はその断片を用い、NKG2Dリガンドのタンパク質を測定する免疫学的分析方法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロット)を挙げることができる。
【0065】
なお、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2DリガンドをグループとしてmRNAの発現を解析する場合、そのグループに属する各NKG2Dリガンドをコードする塩基配列の共通部分に基づいてプライマー又はプローブを作製すればよい。また、膜貫通型NKG2Dリガンドのα1α2α3サブグループ、又はα1α2サブグループを、グループとしてmRNAの発現を解析する場合は、それぞれMICA及びMICBをコードする塩基配列の共通部分、又はRAET1E、及びRAET1Gをコードする塩基配列の共通部分に基づいて、プライマー又はプローブを作製すればよい。また、mRNAの発現を個別に解析する場合には、それぞれのNKG2Dリガンドをコードする塩基配列の特異的な部分に基づいて、プライマー又はプローブを作製すればよい。
【0066】
具体的には、配列番号1、3、5、7、9、11、又は13に示したヒトNKG2D受容体の塩基配列又は配列番号15、17、19、21、23、25、又は27に示したマウスNKG2D受容体の塩基配列を基に、プライマー及びプローブを作製することができる。例えば、ヒトの膜膜貫通型NKG2Dリガンドのα1α2α3サブグループのmRNAを検出するためには、配列番号1及び3の塩基配列をアラインし、一定の塩基配列の領域(例えば、18mer〜30mer)において80%以上、好ましく90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する塩基配列の領域からプライマー又はプローブを作製することにより、膜膜貫通型NKG2Dリガンドのα1α2α3サブグループのmRNAを検出することが可能である。また、プライマーとして、混合塩基を含むdegenerated プライマーを用いることも可能である。
【0067】
また、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドをグループとしてタンパク質の発現を解析する場合は、例えば、そのグループに属するすべてのNKG2Dリガンドに特異的に結合する抗体を用いることによって解析するようにすればよい。また、膜貫通型NKG2Dリガンドのα1α2α3サブグループ、又はα1α2サブグループを、グループとしてタンパク質の発現を解析する場合は、それぞれMICA及びMICBに特異的に結合する抗体、又はRAET1E及びRAET1Gに特異的に結合する抗体を用いることによって解析するようにすればよい。タンパク質の発現を個別に解析する場合は、それぞれのNKG2Dリガンドに特異的に結合する抗体を用いることによって解析するようにすればよい。
【0068】
(NKG2DリガンドのmRNA発現分析の詳細)
腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現は、試料中の遺伝子(例えばmRNA又はそれから得られたcDNAなど)と、それらのヌクレオチドにハイブリダイズすることのできるプライマーやプローブとを用いてハイブリダイズの原理を用いた方法で分析するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、サザンブロット法、ノザンブロット法、及びPCR法を挙げることができる。これらの中でもリアルタイムPCR法などのPCR法が、正確且つ簡便であり、好ましい。
【0069】
リアルタイムPCR法としては、例えば、インターカレーター法又はTaqMan法を挙げることができる。インターカレーター法は、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発する化合物であるインターカレーター(例えば、SYBR Green I)をフォワードプライマー及びリバースプライマーからなるプライマーセットを用いてPCRの反応系に加える方法である。また、TaqMan法は、プライマーセット及び5’末端をレポーター色素により修飾すると共に、3’末端をクエンチャー色素により修飾したプローブ(TaqManプローブ)をPCRの反応系に加える方法である。なお、これらのリアルタイムPCR法は市販のキット及び装置を用いて実施するようにすればよい。
【0070】
サザンブロット法、ノザンブロット法、又はPCR法に用いるプライマー及びプローブは、NKG2Dリガンドをコードするヌクレオチドの塩基配列に基づいて作製することができる。具体的には、表1に記載のNKG2Dリガンドの塩基配列から、適当な塩基配列を選択して作製すればよい。プライマーの長さは、特に限定されるものではないが、15mer〜35merであることが好ましく、16mer〜30merであることがより好ましく、19mer〜25merであることが最も好ましい。プローブの長さも、特に限定されるものではないが、12mer〜30merであることが好ましく、13mer〜29merであることがより好ましく、14mer〜18merであることが最も好ましい。
【0071】
(NKG2Dリガンドのタンパク質発現分析の詳細)
腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現、及び患者の体液中の可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在は、免疫学的分析方法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、フローサイトメトリー又はウエスタンブロット)を用いて分析することができる。これらの中でも、腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現については、免疫組織染色法、フローサイトメトリー、又はウエスタンブロットにより分析することが好ましく、患者の体液中の可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在については、サンドイッチELISA法などの酵素免疫測定法により分析することが好ましい。
【0072】
免疫組織染色法は、NKG2Dリガンドに対する抗体を用いることを除いては、公知の免疫組織染色法に従って行うことが可能である。免疫組織染色法の一例について以下に簡単に記載する。まず、癌患者の生検材料から調製した組織切片に、マウス抗NKG2Dリガンド抗体を結合させる。続いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗マウスIgG抗体を二次抗体として結合させ、3,3’−ジアミノベンジジン(3,3'-diaminobenzidine)染色する。染色後、顕微鏡により、NKG2Dリガンドの発現を確認することができるようになる。
【0073】
フローサイトメトリーは、NKG2Dリガンドに対する抗体を用いることを除いては、公知の方法に従って行うことが可能である。フローサイトメトリーの一例について、以下に間単に説明する。癌患者から得られた癌細胞に、フィコエリスリン(PE)標識したマウス抗NKG2Dリガンド抗体を4℃で結合させる。これによって、フローサイトメーターにより、NKG2Dリガンドの癌細胞表面への発現を確認することができるようになる。
【0074】
ウエスタンブロット法は、NKG2Dリガンドに対する抗体を用いることを除いては、公知のウエスタンブロット法に従って行うことが可能である。ウエスタンブロット法の一例について、以下に簡単に説明する。まず、癌患者の生検材料から調製した試料を電気泳動する。続いて、電気泳動されたタンパク質をPVDF膜などのブロット膜に転写する。ブロット膜は適当なブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミンやゼラチン等)でブロッキングする。その後、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素で標識した抗NKG2Dリガンド抗体を接触させ、NKG2Dリガンドに結合させる。最後に、ブロット膜を洗浄し、酵素に対する発色基質又は発光基質を添加し、酵素と基質を反応させることによりシグナルを検出する。
【0075】
サンドイッチELISA法の一例について、以下に簡単に説明する。まず、マイクロプレートやビーズなどの不溶性担体に、NKG2Dリガンドに結合する抗体(捕捉抗体、又は一次抗体)を固相化する。次に、捕捉抗体や不溶性担体への非特異的な吸着を防ぐために、適当なブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミンやゼラチン等)で不溶性担体をブロッキングする。捕捉抗体が固相化された不溶性担体(プレート又はビーズ等)に、NKG2Dリガンドの含まれる可能性のある被検試料を一次反応液と一緒に加えることにより、捕捉抗体とNKG2Dリガンドとを結合させる(一次反応工程)。この後、捕捉抗体に結合しなかったNKG2Dリガンドおよび夾雑物を適当な洗浄液(例えば、界面活性剤を含むリン酸緩衝液)で洗浄する。次に、捕捉されたNKG2Dリガンドに結合する抗体と、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素と、が結合した標識抗体(2次抗体)を添加することにより、捕捉された抗原に標識抗体を結合させる(二次反応工程)。この反応により、捕捉抗体−NKG2Dリガンド−標識抗体の免疫複合体が不溶性担体上に形成される。結合しなかった標識抗体を洗浄液で洗浄した後に標識抗体の酵素に対する発色基質や発光基質を添加することにより、酵素と基質を反応させたシグナルを検出する。
【0076】
なお、免疫学的分析方法に用いる抗体は、免疫抗原としてNKG2Dリガンドを用いること以外は、公知の方法によって作成することが可能である。モノクローナル抗体は、例えば、KoehlerとMilsteinの方法(Nature 256:495−497、1975)に従って作製することができる。また、ポリクローナル抗体は、例えばウサギの皮内に、NKG2Dリガンドを単独もしくはBSA、KLHなどと結合させた抗原として、フロイント完全アジュバント等のアジュバントと混合して定期的に免疫し、血中の抗体価が上昇した時点で採血してそのまま抗血清とするか、又は抗体を公知の方法で精製して使用することができる。
【0077】
また、免疫学的分析方法に用いる抗体として、NKG2Dリガンドに対する抗原結合部位を含む抗体フラグメントを用いることも可能である。抗体フラグメントとしては、例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体フラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
【0078】
ヒトのNKG2Dリガンドに特異的な抗体としては、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、RAET1E、又はRAET1Gに特異的に結合する抗体を用いることもできる。また膜アンカー型NKG2Dリガンド(ULBP1、ULBP2及びULBP3)に結合する抗体、又は膜貫通型NKG2Dリガンド(MICA、MICB、RAET1E及びRAET1G)に結合する抗体を用いてもよい。あるいは、膜貫通型NKG2Dリガンドのα1α2α3サブグループであるMICA及びMICBに結合する抗体を用いてもよいし、α1α2サブグループであるRAET1E及びRAET1Gに結合する抗体を用いてもよい。マウスのNKG2Dリガンドに特異的な抗体としては、Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、Rae1ε、H60又はMULT1に特異的に結合する抗体を用いることができる。また、膜アンカー型NKG2Dリガンド(Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1ε)に結合する抗体、又は膜貫通型NKG2Dリガンド(H60及びMULT1)に結合する抗体を用いてもよい。
【0079】
(NKG2D受容体の発現による治療効果の予測)
本発明では、対象(癌患者)の免疫細胞のNKG2D受容体の発現を分析することによっても抗腫瘍剤の治療効果を予測することができる。NKG2D受容体は、主にNK細胞、CD8陽性T細胞、及びγδT細胞に発現する活性型受容体である。NKG2Dリガンドが発現した腫瘍細胞は、対応するNKG2D受容体を発現しているNK細胞及びCD8陽性T細胞等により攻撃を受けやすい。すなわち、NKG2Dリガンドを発現している腫瘍細胞は、免疫細胞によって排除されやすい。
【0080】
一方、NK細胞及びCD8陽性T細胞等は、慢性的にNKG2Dリガンドに曝露される事により、NKG2D受容体の発現が減少するため、活性が低下する可能性がある。このように、NKG2D受容体とNKG2Dリガンドとは免疫細胞の活性化と抑制の両面に関与する。
【0081】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が高い腫瘍を有する対象(癌患者)の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現量は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果が低い腫瘍を有する対象(癌患者)の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現量より高い。
【0082】
すなわち、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い対象(癌患者)に対しては、他の抗がん剤との併用しない場合でも、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤は高い治療効果を示す。一方、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が低い対象(癌患者)に対しては、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の単独の投与では治療効果が低い。
【0083】
このように、腫瘍を有する対象(癌患者)の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現量を測定することによって、抗腫瘍剤の治療効果を予測することができる。
【0084】
免疫細胞は、NKG2D受容体を発現しているものであれば、限定されるものではない。免疫細胞として、例えばCD8陽性T細胞、NK細胞、γδT細胞及び活性化マクロファージ(マウスにおいて)などを挙げることができ、CD8陽性T細胞及びNK細胞が好ましい。免疫細胞において、NKG2D受容体の発現が高いとは、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の高い対象(患者)及び治療効果の低い対象(患者)を比較した場合に、統計学的に有意に高いすべての場合を含む。
【0085】
例えば、後述の実施例に示すように、CD8陽性T細胞においては、治療効果の高い対象(MethAを移植されたマウス)及び治療効果の低い対象(K−Balbを移植されたマウス)のNKG2D受容体陽性細胞の割合は、いずれも正常個体のそれよりも高い。しかしながら、治療効果の高い対象(MethAを移植されたマウス)と治療効果の低い対象(K−Balbを移植されたマウス)とでは、NKG2D受容体陽性細胞の割合に明らかな差が認められる。実際に治療効果の予測を行う場合は、例えば、NKG2D受容体陽性細胞の割合が一定以上の対象(患者)を、治療効果があると予測することが可能である。また、NKG2D受容体のmRNAの発現量が一定以上の対象(患者)を、治療効果があると予測することも可能である。
【0086】
一方、実施例には示していないが、NK細胞においては、治療効果の高い対象(MethAを移植されたマウス)及び治療効果の低い対象(K−Balbを移植されたマウス)のNKG2D受容体陽性細胞の割合は、いずれも正常個体のそれよりも低いことがある。しかしながら、治療効果の高い対象(MethAを移植されたマウス)と治療効果の低い対象(K−Balbを移植されたマウス)とでは、NKG2D陽性細胞の割合に明らかな差が認められるため、CD8陽性T細胞と同じように、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果の予測を行うことが可能である。
【0087】
(NKG2D受容体の発現を分析する手法)
本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測方法において、NKG2D受容体の発現を分析するための手法は、NKG2D受容体を定量的又は半定量的に決定することができる限り、特に限定されるものではない。具体的には、NKG2D受容体の発現は、免疫細胞におけるNKG2D受容体のmRNAの発現、又は免疫細胞におけるNKG2D受容体のタンパク質の発現を分析するようにすればよい。
【0088】
免疫細胞におけるNKG2D受容体のmRNAの発現は、NKG2D受容体のmRNA量を測定する分子生物学的分析方法(例えば、サザンブロット法、ノザンブロット法、及びPCR法)により分析することができる。また、免疫細胞におけるNKG2D受容体のタンパク質の発現は、NKG2D受容体に対する抗体又はその断片を用いてNKG2D受容体のタンパク質を測定する免疫学的分析方法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロット)により分析することができる。
【0089】
それぞれの具体的な方法は、上述の[1]抗腫瘍剤の治療効果予測方法において説明したものと同様であるため、ここではその説明を省略する。すなわち、NKG2DリガンドをNKG2D受容体に読み換えるようにすればよい。なお、mRNAの測定に用いるプローブ及びプライマーは、配列番号29に示したヒトNKG2D受容体の塩基配列又は配列番号31又は33に示したマウスNKG2D受容体の塩基配列を基に作製することができる。また、免疫学的測定方法に用いる抗体は、配列番号30に示したヒトNKG2D受容体のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号32又は34に示したマウスNKG2D受容体のアミノ酸配列を有するタンパク質を抗原として用いることにより作製することができる。なお、配列番号32で表されるアミノ酸配列からなるマウスNKG2D受容体(以下、マウスNKG2D受容体−1と称することがある)と、配列番号34で表されるアミノ酸配列からなるマウスNKG2D受容体(以下、マウスNKG2D受容体−2と称することがある)とは、スプライシングの異なるスプライシングバリアントである。また、配列番号32で表されるアミノ酸配列からなるマウスNKG2D受容体は、配列番号31で表される塩基配列にコードされており、配列番号34で表されるアミノ酸配列からなるマウスNKG2D受容体は、配列番号33で表される塩基配列にコードされている。前記マウスNKG2D受容体−2は、マウスNKG2D受容体−1のN末側に13アミノ酸が付加されたものである。従って、マウスNKG2D受容体抗体の多くは、マウスNKG2D受容体−1及びマウスNKG2D受容体−2に結合することが可能であり、マウスNKG2D受容体の検出用プライマー及びプローブの多くも、マウスNKG2D受容体−1及びマウスNKG2D受容体−2のmRNAの検出に用いることができる。
【0090】
(付記事項)
本発明の治療効果予測方法の対象となる癌(悪性腫瘍)としては、例えば、大腸癌(結腸・直腸癌)、肺癌(例えば、小細胞肺癌)、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病などを挙げることができる。これらの中でも、特に、大腸癌(結腸・直腸癌)、肺癌(例えば、小細胞肺癌)、又は胃癌を対象とすることが好ましい。
【0091】
本発明の治療効果予測方法を適用することのできる動物としては、ヒトを挙げることができる。もちろん、本発明の治療効果予測方法を適用することのできる動物は、抗腫瘍剤を適用する動物であればヒトに限定されるものではなく、非ヒト動物であってもよい。なお、本明細書等において、「非ヒト動物」とは、ヒトを除く動物全般を意味している。非ヒト動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ハムスター、フェレット、又はラットなどを挙げることができるが、もちろんこれらの動物に限定されるものではない。
【0092】
[2]抗腫瘍剤の治療効果予測キット
本発明の抗腫瘍剤の治療効果予測キット(以下、単にキットとも称する)は、前記の抗腫瘍剤の治療効果予測方法を実行するために用いるものである。
【0093】
従って、NKG2Dリガンドの分析方法として免疫学的分析方法を用いる場合には、本発明に係るキットはNKG2Dリガンドに対する抗体を含む。NKG2Dリガンドの分析方法として分子生物学的分析方法を用いる場合には、本発明に係るキットはNKG2Dリガンドのヌクレオチドにハイブリダイズするプライマー及び/又はプローブを含む。また、NKG2D受容体の分析方法として免疫学的分析方法を用いる場合には、本発明に係るキットはNKG2D受容体に対する抗体を含む。
【0094】
同様に、NKG2D受容体の分析方法として分子生物学的分析方法を用いる場合には、本発明に係るキットはNKG2D受容体のヌクレオチドにハイブリダイズするプライマー及び/又はプローブを含む。
【0095】
免疫学的分析方法を用いるキットには、用いる免疫学的手法に応じて、NKG2Dリガンドに特異的に結合する抗体もしくはその断片、または、NKG2D受容体に特異的に結合する抗体もしくはその断片が、所望の形態で含まれていることが好ましい。抗体としては、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。抗体フラグメントとしては、NKG2Dリガンド又はNKG2D受容体への特異的結合能を有するもの、すなわち抗原結合部位を有するものであれば特に限定されるものではない。抗体フラグメントとしては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvを用いることができる。
【0096】
測定手法として酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、又は放射免疫測定法を用いる場合、本発明に係るキットにおける抗体は標識物質で標識した標識化抗体又は標識化抗体断片の形態で含まれていることが好ましい。酵素免疫測定法において用いる酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、又はグルコースオキシダーゼ等を挙げることができる。蛍光抗体法において用いる蛍光物質としては、フルオレセインイソチアネート又は希土類金属キレート等を挙げることができる。また、放射免疫測定法において用いる放射性同位体としては、H、14C、又は125I等を挙げることができる。なお、本発明に係るキットでは、その他の標識物質として、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質等を用いてもよい。また、本発明のキットは、酵素又は化学発光物質に対する適当な基質等を含んでいてもよい。
【0097】
分子生物学的分析方法を用いるキットには、NKG2Dリガンドをコードするヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプライマー及び/又はプローブ、またはNKG2D受容体をコードするヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプライマー及び/又はプローブが含まれていることが好ましい。本発明のキットにおいて用いられるプライマー(フォワードプライマー、リバースプライマー)及びプローブは、混合物として含まれていてもよいし、個別の試薬として含まれていてもよい。また、本発明のキットは、プライマー及びプローブに加えて、PCR法(例えば、リアルタイムPCR法)、サザンブロット法、又はノザンブロット法を行うために必要な試薬及び/又は酵素を含んでいてもよい。
【0098】
なお、本発明のキットは、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果予測用であることを明記した使用説明書を含んでいてもよい。カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の治療効果予測用である旨の記載は、キットの容器に付されていてもよい。
【0099】
[3]抗腫瘍剤
本発明の抗腫瘍剤は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分として含むものであり、上述した抗腫瘍剤の治療効果予測方法において治療効果があると判断された場合に投与されるものである。本発明の抗腫瘍剤は、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドが発現していない腫瘍、又はそれらの発現が低い腫瘍に対しては、他の抗がん剤と併用しない場合でも高い治療効果を示す。また、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドのいずれか一方が発現していない腫瘍、又はそれらの発現が低い腫瘍に対しては、中程度の治療効果を示す。
【0100】
従って、本発明の抗腫瘍剤は、膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドの少なくともいずれか一方が発現していない腫瘍、又はそれらの発現が低い腫瘍を有する対象(癌患者)に対して、抗腫瘍効果を奏する。更に、本発明の抗腫瘍剤は、NKG2Dリガンドの少なくとも1つが発現していない腫瘍、又はそれらの発現が低い腫瘍を有する対象(癌患者)に対しても、抗腫瘍効果を奏する。
【0101】
また、本発明の抗腫瘍剤は、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い対象(癌患者)に対しても他の抗がん剤との併用することなく高い治療効果を示す。すなわち、本発明の抗腫瘍剤は、免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い対象(癌患者)に対する投与も効果的である。
【0102】
本発明の抗腫瘍剤の対象となる癌(悪性腫瘍)としては、上述した癌と同様である。すなわち、例えば、大腸癌(結腸・直腸癌)、肺癌(例えば、小細胞肺癌)、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病などを挙げることができる。これらの中でも、特に、大腸癌(結腸・直腸癌)、肺癌(例えば、小細胞肺癌)、又は胃癌に対して投与することが好ましい。
【0103】
また、本発明の抗腫瘍剤は、上述した治療効果予測方法を適用することができる動物に対して適用することができる。すなわち、本発明にかかる抗腫瘍剤は、例えばヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ハムスター、フェレット、又はラットなどに利用することができる。
【0104】
本発明の抗腫瘍剤は、一般にヒトを対象とする場合、1日当り3gを1〜3回に分けて経口投与することが好ましい。もちろん投与量はこれに限定されるものではなく、症状によって適宜増減することができる。
【0105】
なお、本発明の抗腫瘍剤の好適な投与量は、年令、個人差、又は病状などに応じて適宜変化することはいうまでもない。また、本発明の抗腫瘍剤の好適な投与量は、投与対象がヒトであるかあるいはその他の動物であるかによっても変化する。
【0106】
本発明の抗腫瘍剤の投与形態としては、散剤、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁剤、スティック剤、分包包装体、又は乳剤等であることが好ましい。カプセル剤として服用する場合は、通常のゼラチンの他に、必要に応じて腸溶性のカプセルを用いることもできる。錠剤として用いる場合は、体内でもとの微小粒体に解錠されるようにすればよい。また、本発明の抗腫瘍剤は。アルミゲルやケイキサレートなどの電解質調節剤と配合した複合剤の形態で用いることもできる。
【0107】
(参考形態)
なお、本発明は、
腫瘍の治療方法であって、
腫瘍の患者から腫瘍の試料を採取する工程と、
前記試料中のNKG2Dリガンドの発現を測定する工程と、
膜アンカー型NKG2Dリガンド及び膜貫通型NKG2Dリガンドの両方、又はいずれか一方が発現していない場合にカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤をその患者に投与する工程と、を含む腫瘍の治療方法を含む。
【0108】
また、本発明は、
腫瘍の治療方法であって、
腫瘍の患者から免疫細胞を含む試料を採取する工程と、
前記試料中のNKG2D受容体の発現を測定する工程と、
NKG2D受容体の発現が高い場合にカワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤をその患者に投与する工程と、を含む腫瘍の治療方法を含む。
【0109】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる態様についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0111】
《実施例1:腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現》
マウスの腫瘍細胞7種類について、NKG2DリガンドであるRae−1及びH60の発現を調べた。細胞としては、MethA細胞(マウス肉腫由来)、B16F10細胞(マウスメラノーマ由来)、4T1細胞(マウス乳癌由来)、K−Balb細胞(マウス肉腫由来)、S180細胞(マウス肉腫由来)、ISOS−1細胞(マウス肉腫由来)、CT26細胞(マウス大腸癌由来)を用いた。抗体としては、Rae1α、Rae1β、Rae1γ、Rae1δ、及びRae1εのすべてのRae−1 familyに結合するPE標識抗Rae−1抗体(R&D systems社)及びH60に結合するPE標識抗H60抗体を用いた。陰性コントロールとしては、アイソタイプコントロール抗体を用いた。
【0112】
なお、Rae−1 familyは、膜アンカー型NKG2Dリガンドであり、H60は、膜貫通型NKG2Dリガンドである。
【0113】
約1x10個の腫瘍細胞にそれぞれの抗体を加え、氷上にて、約1時間反応させた後、フローサイトメトリー(FacsCalibur:BECON DICKINSON社製)により、Rae−1 family及びH60の発現を分析した。結果を、図2に示す。破線が、PE標識抗Rae−1抗体又はPE標識抗H60抗体を用いた、Rae−1又はH60の発現を示しており、実線がコントロールのIgGの結果である。
【0114】
図2に示すように、7つの腫瘍細胞は、Rae−1 family及びH60を、両方とも発現していないMethA細胞、S180細胞、及びB16F10細胞のグループ(以下、グループ(1)と称する)、H60を発現しているが、Rae−1 familyを発現していない4T1細胞、CT26細胞のグループ(以下、グループ(2)と称する)、及びRae−1 family及びH60を両方とも発現しているK−Balb細胞、及びISOS−1細胞のグループ(以下、グループ(3)と称する)の3グループに分かれた。
【0115】
《実施例2:腫瘍移植マウスでのPSKの治療効果の検討》
(A)6週齢のメスのBALB/cマウスにマウス肉腫細胞のMethA細胞、K−Balb細胞、又は4TI細胞を1×10cells皮下移植し、翌日よりPSK(50mg/kg)又は生理食塩水を100μL、週3回腹腔内投与(i.p.)した。PSK投与後、MethA細胞移植群は23日、K−Balb細胞移植群は14日まで、4TI細胞移植群は18日まで、腫瘍の体積を測定した。結果を図3に示す。腫瘍体積は、黒四角がPSKが投与された群を示し、黒菱形が生理食塩水を投与された群を示す。
【0116】
(B)6週齢のメスのBALB/cマウスにマウス肉腫細胞のMethA細胞、K−Balb細胞、4T1細胞、ISOS−1細胞、又はCT26細胞を1×10cells皮下移植した。6週齢のメスのC57BL/6マウスにB16F10細胞を1×10cells皮下移植した。また、6週齢のメスのICRマウスにS180細胞を1×10cells皮下移植した。移植の翌日よりPSK(50mg/kg)又は生理食塩水を100μL、週3回腹腔内投与(i.p.)した。PSK投与後、それぞれの腫瘍の体積を測定し、PSKの治療効果を判定した。結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
表2及び図3より明らかなように、Rae−1 family及びH60を発現していないグループ(1)の腫瘍細胞(MethA細胞、S180細胞、及びB16F10細胞)に対して、PSKによる顕著な抗腫瘍効果が認められた。Rae−1 familyは発現していないが、H60を発現している、グループ(2)の腫瘍細胞(4T1細胞、及びCT26細胞)に対して、中程度の抗腫瘍効果が認められた。一方、Rae−1 family及びH60が発現しているK−Balb細胞、及びISOS−1細胞のグループ(3)の腫瘍細胞(K−Balb細胞、及びISOS−1細胞においては、PSKの抗腫瘍効果は認められなかった。
【0119】
このように、NKG2Dリガンドの発現の有無とPSKの抗腫瘍効果とは相関しており、腫瘍組織および血清中のNKG2Dリガンドの発現が、PSKの治療に対する感受性又は非感受性の予測因子として用いることができることが示された。
【0120】
《実施例3:CD8陽性T細胞上のNKG2D受容体の発現と細胞内IFN−γの産生》
本実施例では、腫瘍移植マウスにおけるCD8陽性細胞のNKG2D受容体の発現及び細胞内IFN−γの産生を検討した。
【0121】
(1)腫瘍細胞の移植
6週齢のメスのBALB/cマウス、それぞれ8匹にマウス肉腫細胞のMethA細胞、又はK−Balb細胞を1×10cells皮下移植した。移植後2〜4週間目に、マウスをジエチルエーテル麻酔により屠殺し、クリーンベンチ内にて下大静脈より血液採取及び脾臓摘出を行った。
【0122】
(2)血液細胞におけるNKG2D受容体の発現解析
血液は1mLシリンジ(テルモ)を用いてEDTA含有採血管(BD)に回収し混和した後、400uLを15mLチューブに移した。血液に1×PharmLyse(BD社製)を加え、攪拌し、室温にて15分反応させ赤血球を溶血させた。遠心及び洗浄した細胞を、細胞計数板を用いて計数した。得られた血液細胞に、FcBlockを添加後、PerCP−CD8抗体及びPE−control/NKG2D受容体抗体を加え、4℃で反応させ、フローサイトメトリー(FacsCalibur:BECON DICKINSON社製)により解析した。
【0123】
(3)脾臓細胞における細胞内IFN−γの産生の解析
脾臓は金属メッシュ上でつぶした後、100μmのファルコンフィルタを通して50mLチューブに濾過し、1000rpmで5分間遠心した。ペレットをRPMI1640で懸濁し、細胞計数板を用いて、細胞数を計数した。脾臓細胞に1×PharmLyse(BD社製)を加え、攪拌し、室温にて15分反応させ赤血球を溶血させた。更に、遠心及び洗浄した細胞を、細胞計数板を用いて計数した。得られた脾細胞2×10cellsを15mL round tubeに移し、刺激群は、Brefeldin A(10μg/mL:BD社製)、PMA(5ng/mL)(SIGMA)及びA23187(250ng/mL)(SIGMA)を添加後37℃、CO5%条件下で5時間培養した。コントロールの無刺激群は、Brefeldin Aのみを加えて、同じ操作を行った。それぞれの細胞を洗浄後、FcBlockを添加後、標識抗体(APC−CD8)を加え、氷上で反応させ、更に固定/透過液で処理した後、無刺激群、及び刺激群を各々2本のチューブに分注し、標識抗体(FITC−IFN−γ/control)を加えて反応後、フローサイトメトリー(FacsCalibur:BECON DICKINSON社製)により解析した。
【0124】
結果を図4に示す。MethA細胞移植マウスでは、K−Balb細胞移植マウスと比較して、CD8陽性T細胞におけるNKG2D受容体の発現が高かった。また、MethA細胞移植マウスと比較して、K−Balb移植マウスの脾臓細胞中のCD8陽性T細胞において細胞内IFN−γの産生が減少していた。
【0125】
これらの結果と、実施例2のMethA細胞及びK−Balb細胞移植マウスにおけるPSKの治療効果とから、治療対象(癌患者)の免疫細胞においてNKG2D受容体の発現が高い場合、その治療対象の腫瘍に対して、PSKの治療効果が高いことが示された。したがって、対象(癌患者)のCD8陽性T細胞におけるNKG2D受容体の発現を調べることによって、PSKの治療効果を予測することが可能である。
【0126】
《実施例4:末梢における免疫細胞の細胞内IFN−γの産生に対するPSKの影響》
本実施例では、腫瘍移植マウスにおけるCD8陽性細胞の細胞内IFN−γの産生に対するPSK投与の影響を検討した。6週齢のメスのBALB/cマウスに、MethA細胞、又はK−Balb細胞を1×10cells皮下移植し、腫瘍体積が500mm〜700mmに達した段階で群分けを行い、PSK(50mg/kg)又は生理食塩水を100μL、週3回腹腔内投与(i.p.)した。PSK投与開始後に、3回投与後マウスをジエチルエーテル麻酔により屠殺し、クリーンベンチ内にて脾臓摘出を行った。得られた脾臓を用いて、実施例3の(3)の操作を繰り返した。結果を図5に示す。MethA細胞移植マウスでは、PSK投与によりCD8陽性細胞における細胞内IFN−γの産生が上昇していた。一方、K−Balb細胞移植マウスでは、PSK投与による細胞内IFN−γの産生増加は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係る抗腫瘍剤の治療効果予測方法は、カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の使用を選択する際の指標として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の腫瘍に対する治療効果を予測する抗腫瘍剤の治療効果予測方法であって、対象となる腫瘍のNKG2Dリガンドの発現を分析するリガンド発現分析工程を含むことを特徴とする、抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項2】
前記リガンド発現分析工程は、
前記対象となる腫瘍細胞におけるNKG2DリガンドのmRNAの発現、
前記対象となる腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現、及び
患者の体液中における可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在の少なくとも1つを分析する工程である、請求項1に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項3】
前記腫瘍が、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、乳癌、子宮癌、前立腺癌、肉腫、メラノーマ、又は白血病である、請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項4】
前記リガンド発現分析工程において発現を分析するNKG2Dリガンドは、膜アンカー型NKG2Dリガンド、及び膜貫通型NKG2Dリガンドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項5】
前記膜アンカー型NKG2Dリガンドが、ULBP1、ULBP2、及びULBP3であり、前記膜貫通型NKG2Dリガンドが、RAET1E、RAET1G、MICA、及びMICBである、請求項4に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項6】
前記リガンド発現分析工程におけるNKG2Dリガンドのタンパク質の発現、及び可溶性NKG2Dリガンドのタンパク質又はその断片の存在は、ULBP1、ULBP2、及びULBP3に結合する抗体、並びにRAET1E、RAET1G、MICA、及びMICBに結合する抗体を用いて分析する、請求項4又は5に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項7】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を含む抗腫瘍剤の腫瘍に対する治療効果を予測する抗腫瘍剤の治療効果予測方法であって、治療対象の免疫細胞におけるNKG2D受容体発現を分析する受容体発現分析工程を含むことを特徴とする、抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項8】
前記受容体発現分析工程は、
免疫細胞におけるNKG2D受容体のmRNAの発現、及び
免疫細胞におけるNKG2D受容体のタンパク質の発現
の少なくとも1つを分析する工程である、請求項7に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤の治療効果予測方法に用いる抗腫瘍剤の治療効果予測キットであって、
NKG2Dリガンドのヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマー、
NKG2Dリガンドに結合する抗体、
NKG2D受容体のヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及び/又はプライマー、及び
NKG2D受容体に結合する抗体、
からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、抗腫瘍剤の治療効果予測キット。
【請求項10】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分として含む抗腫瘍剤であって、対象となる腫瘍細胞が膜アンカー型NKG2Dリガンド、及び膜貫通型NKG2Dリガンドの少なくとも一方を発現していない場合に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤。
【請求項11】
カワラタケ由来の蛋白多糖体を有効成分として含む抗腫瘍剤であって、治療対象の免疫細胞におけるNKG2D受容体の発現が高い場合に投与することを特徴とする、抗腫瘍剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21795(P2012−21795A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157728(P2010−157728)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】