説明

抗腫瘍化合物

本発明は、一般式(I) を有する新規な抗腫瘍化合物およびそれに対応する薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグおよび立体異性体に関する。本発明の化合物は、Theonellidae科、Theonella属、およびswinhoei種から海綿状のものを単離し、単離した化合物から誘導体を形成することによって得ることができる。上記化合物は細胞傷害活性を有し、癌の治療に用いることができる。


【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規な抗腫瘍化合物、それらを含む医薬組成物、およびそれらの抗腫瘍薬としての使用に関する。
【0002】
背景技術
数種類の対称二量体性マクロライドが、抗腫瘍、抗ウイルスおよび/または抗真菌特性を有することが示されている。具体的には、Kitagawa et al. (Chem. Pharm. Bull., 1994, 42(1), 19-26)は、沖縄産海綿動物であるTheonella swinhoeiの数種類の対称二量体性マクロライドを単離した。
【化1】

【0003】
スウィンホライド(swinholide) A(1)、B(2)およびC(3)は、L1210およびKB細胞に対して強力な細胞傷害性を有し、IC50がそれぞれ0.03、0.30および0.14μg/l(L1210)および0.04、0.04および0.05μg/ml(KB)であることを示している。しかしながら、イソスウィンホライド(isoswinholide) A(4)は、他の上記類似体より低い細胞傷害性[IC50 1.35μg/ml (L1210)および1.1μg/ml (KB)]を示すことが観察された。
【0004】
Kitagawa et al.は、スウィンホライドA (1)から誘導された数種類の二量体 :
【化2】

の細胞傷害性についても検討を行い、これらの二量体(8および9)はKB細胞における増殖阻止力が乏しいことを観察した(それぞれ、50μg/mlで51.1%阻止および10μg/mlで19.3%阻止)。
【0005】
スウィンホライドA (1)から得られた他の二量体性マクロライドは、下記のものであった。
【化3】

【0006】
これらの化合物(10-13)のL1210およびKB細胞に対する細胞傷害性は、スウィンホライドA(1)によって示された細胞傷害性より小さい。
【0007】
同時に、Kitagawa et al.は、CDF1マウスのP388白血病に対するスウィンホライドA(1)およびその異性体の抗腫瘍効果を検討した。意外なことには、スウィンホライドA(1)、イソスウィンホライドA(4)および異性体(11)は毒性を有し、有望な抗腫瘍活性を示さなかった。
【0008】
さらに、特許出願WO 88/00195号明細書には、下記の化合物(ミサキノライド(misakinolide) (14)および誘導体(15)) が記載されており、これらはTheonella属の海綿動物から抽出されたものであった。
【化4】

【0009】
上記特許出願明細書には、P388、HCT-8、A549およびMDA-MB-231癌細胞に対するミサキノライド(14)のイン・ビトロでの抗腫瘍活性が記載されている。同様に、ミサキノライドAは、強力な細胞傷害性[IC50 0.035μg/ml (L1210)]を有する上に、抗腫瘍活性も有する[P388白血病に対して0.1mg/kg (ラット)の用量でT/C 140%]ことも記載されている(Chem. Pharm. Bull., 1994, 42(1), 19-26)。
【0010】
癌は、動物種およびヒトにおける主要な死因の一つであり続けている。この疾患の患者を効果的に治療するのに必要な治療上の蓄積の増加に寄与する安全かつ有効な新規抗癌薬を見出すために、多大な努力が払われており、払われ続けている。この意味において、本発明はこの問題の解決を目指しており、癌の治療に有用な新規化合物を提供する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、一般式I を有する対称二量体性マクロライド、並びにその対応する薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグまたは立体異性体:
【化5】

(式中、
R1-16は、水素、保護または未保護ヒドロキシル、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
XおよびYは、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
RaおよびRbは、水素、ハロゲン、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニル、置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環から独立して選択される基であり、
点線は、所望により二重結合が存在することを表す)
を意図するものである。
【0012】
本発明はまた、Theonellidae科、Theonella属、およびswinhoei種の海綿動物から式Iの化合物を単離し、単離した化合物から誘導体を形成することに関する。
【0013】
さらに、本発明はまた、薬物として用いるための、一般式Iの化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体に関する。
【0014】
本発明はまた、癌治療のため薬物の製造における、式Iの化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体の使用に関する。
【0015】
本発明はまた、式Iの化合物、またはその対応する薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体と、薬学上許容可能な賦形剤または希釈剤とを混合して含んでなる、医薬組成物に関する。
【発明の具体的説明】
【0016】
本発明の目的化合物は、一般式I の非対称二量体性マクロライドに対応する。
【化6】

(式中、
R1-16は、水素、保護または未保護ヒドロキシル、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
XおよびYは、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
RaおよびRbは、水素、ハロゲン、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニル、置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環から独立して選択される基であり、
点線は、所望により二重結合が存在することを表す)
【0017】
これらの化合物において、基および置換基は下記の基準に従って選択することができる。
アルキルという用語は、1〜24個の炭素原子を有する線状または分岐状炭素鎖を表す。1〜6個の炭素原子のアルキル基が好ましく、1、2、3および4個の炭素原子からなるものがより好ましい。メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二-ブチル(sec-butyl)および第三-ブチル基(tert-butyl)が、本発明の化合物におけるより好ましいアルキル基である。また、本発明で用いられるアルキルという用語は、環状基および非環状基の両方に関するものであり、環状基は環に少なくとも3個の炭素原子を含んでなることを考慮する。他の好ましいアルキル基は5〜12個の炭素原子を有するものであり、6、7、8、9および10個の炭素原子からなるものがより好ましい。ヘキシル、ヘプチル、1,3-ジメチルペンチル、オクチル、1,3-ジメチルヘキシルおよびノニル基が、本発明の化合物におけるより好ましいアルキル基である。
【0018】
アルケニルおよびアルキニルという用語は、2〜24個の炭素原子を含みかつ1個以上の不飽和を含む線状または分岐状不飽和アルキル鎖を表す。2〜6個の炭素原子を有するアルケニルおよびアルキニル基が好ましく、2、3および4個の炭素原子からなるものがより好ましい。また、本発明で用いられるアルケニルおよびアルキニルという用語は、環状基および非環状基の両方に関するものであり、環状基は環に少なくとも3個の炭素原子を含んでなることを考慮する。他の好ましいアルケニルおよびアルキニル基は5〜12個の炭素原子を有するものである。
【0019】
本発明の化合物において存在し得るアリール基の中には、分離したまたは融合したアリールまたはヘテロアリール基を有する複数の環を含む1または数個の環を含有するものがある。典型的には、アリール基は1〜3個の環および4-18個の炭素原子を(複数の)環に含む。好ましいアリール基には、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリルおよびアントラシルがあり、それらの総ては置換または未置換である。
【0020】
本発明の化合物において存在し得る複素環基の中には、ヘテロ芳香族基およびヘテロ脂環式基の両方がある。ヘテロ芳香族基は、N、OおよびSから選択される1、2または3個のヘテロ原子を含み、例えば、クマリニル、好ましくは8-クマリニル、キノリニル、好ましくは8-キノリニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニルおよびベンゾチアゾリルのような基が挙げられる。ヘテロ脂環式基は、N、OおよびSから選択される1、2または3個のヘテロ原子を含み、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ピペリジニル、モルホリンおよびピロリジニルのような基が挙げられる。複素環基は、置換および未置換のいずれであってもよい。
【0021】
上記基は、所望によりその利用可能な位置の1または数個において、OR'、=O、SR'、SOR'、SO2R'、NO2、NHR'、N(R')2、=N-R'、NHCOR'、N(COR')2、NHSO2R'、N R'C(=N-R') NHR'、CN、ハロゲン、C(=O)R'、COOR'、OC(=O)R'、CONHR'、CON(R')2、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニル、置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環のような1または数個の適当な置換基で独立して置換することができ、ここで、それぞれの基R'はH、OH、NO2、NH2、SH、CN、ハロゲン、=O、C(=O)H、C(=O)アルキル、COOH、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニル、置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環から独立して選択される。本発明の化合物において存在し得るハロゲン置換基としては、F、Cl、BrおよびIが挙げられる。置換基がまた置換されている基の場合には、対応する置換基は本明細書に記載の置換基のリストから選択することができる。
【0022】
ヒドロキシル基は、場合によっては保護することができる。多数のヒドロキシル保護基があり、それらは当業者に周知である。手引として、「保護基(Protecting groups)」, Kocienski, 2004年, 第3版を参照されたい。
【0023】
「薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグ」という用語は、任意の薬学上許容可能な塩、エステル、溶媒和物、水和物または任意の他の化合物であって、患者に投与した後に一般式Iの化合物を(直接的または間接的に)提供することができるものに関する。しかしながら、薬学上許容可能でない塩も、薬学上許容可能な塩の製造に用いることができるので本発明の範囲内にあることを考慮しなければならない。塩、プロドラッグおよび誘導体の製造は、当該技術分野で知られている方法によって行うことができる。
【0024】
例えば、本発明の化合物の薬学上許容可能な塩は、通常の化学的方法によって酸または塩基単位を有する対応する化合物から得られる。一般に上記塩は、例えば、上記化合物の対応する塩基型または遊離酸を化学量論的量の適当な塩基または酸と、水、有機溶媒または両者の混合物中で反応させることによって製造される。通常は、好ましい非水媒質はエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルである。酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩およびリン酸塩のような鉱酸付加塩、および酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩のような有機酸付加塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびアンモニウム塩のような無機塩、およびエチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミンおよび塩基性アミノ酸塩のような有機塩が挙げられる。
【0025】
本発明の化合物は、遊離化合物および溶媒和物(例えば、水和物)のいずれでも結晶形態を採ることができ、いずれの形態も本発明の範囲内に包含される。溶媒和の方法は、当該技術分野で一般に知られている。
【0026】
一般式Iの化合物のプロドラッグである任意の化合物は、本発明の範囲内に包含される。「プロドラッグ」という用語はその最も広義で用いられ、イン・ビボで本発明の化合物のいずれかに変換され得る総ての誘導体を包含する。どの誘導体を包含することができるかは当業者であれば分かるのであり、例えば、遊離ヒドロキシル基がエステル誘導体に転換され、またはエステルをエステル交換によって修飾しまたは適当なアミドを形成する化合物が挙げられる。
【0027】
一般式Iによって表される本発明の化合物は1を上回る立体中心(stereogenic center)を有しており、本発明は、形成し得る可能な鏡像異性体およびジアステレオ異性体のそれぞれおよび総てのもの、並びに二重結合が分子に含まれているときに形成し得るZおよびE立体異性体にも関する。上記化合物の純粋な異性体および異性体の混合物は、いずれも本発明の範囲内にある。
【0028】
本発明の好ましい化合物としては、R1-16が水素、保護または未保護ヒドロキシル、ORa、OCORa、=O、NRaRb、NRaCORb、ハロゲン、および置換または未置換C1-C24アルキルであって、Raが上記で定義した通りであるものから独立して選択される基であるものがある。より好ましい化合物は、R1-7およびR9-15が水素、ヒドロキシル、C1-C6アルキルおよびORaから独立して選択されものであり、それら基の中では、水素、ヒドロキシル、メチルおよびメトキシルが好ましい。また、基R8およびR16が=Oであることがさらに好ましい。
【0029】
好ましくは、XおよびYは、置換または未置換C5-C12アルキルおよび置換または未置換C5-C12アルケニルから独立して選択される基である。それらは、1または数個の適当な置換基によって独立して置換され、特に下記の置換基、すなわちOH、OR'、NHCOR'、および置換または未置換複素環であって、R'が上記で定義した通りであるものの1または数個によって置換されているのがより好ましい。さらに好ましくは、XおよびYは1または数個のヒドロキシル基および/または置換複素環によって置換されているC5-C12アルキル基から形成されている。XおよびYが
【化7】

であることが、さらに好ましい。
【0030】
一般式Iにおいて点線で示された部位に二重結合が存在するのが好ましい。
下記の化合物は、本発明でさらに好ましい化合物である。
【化8】

【0031】
化合物Aは、海綿動物、特にTheonella swinhoei種(綱: Demospongiae、亜綱: Tetractinomorpha、目: Lithistida、亜目: Triaenosina、科: Theonellidae)の海綿から単離された天然物である。上記生物は、Iles Glorieuses(マダガスカルの北西)で採取された。
【0032】
この海綿動物種は西太平洋、インド洋および紅海ではよく見られるものであり、沖合48mの深さまでに見出される。標本は、
ケニア、モンバサ、シェリービーチ沖、リーフの外側斜面、水深12-16m、
ノース・ケニア・バンクス(02° 25.5'S - 40° 52.5'E、水深48 m)、
トゥレアル、イファティ地方(マダガスカル)、
アルダブラ島(マダガスカルの北西)
テルナテ、セレベス、アンボン、マニラ、フォルモサ(フィリピン)、台湾
で見出された。
【0033】
さらに、上記化合物の類似体は、当業者であれば、例えば酸または塩基加水分解、酸化、エステル化、アルドール縮合、オゾン分解、ウィッティッヒ反応、ホーナー-エモンス反応、シャープレスエポキシ化、ピクテット-スペングラー反応によって合成することができる。化合物Aおよびその類似体は、例えば、適当に保護したスウィンホライドAおよびマサキノライドAモノマー単位の報告されている合成の後に、マクロラクトン化反応を行い、化合物Aおよび類似体を取得することによって合成することができる(K-S. Yeung and I. Paterson, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4632-4653参照)。
【0034】
本発明の化合物の重要な特徴は、その生物活性、特にその細胞傷害活性である。したがって、本発明は、細胞傷害活性を有する一般式Iの化合物の新規な医薬組成物、並びに抗腫瘍薬としてのその使用を提供する。さらに、本発明はまた、本発明の化合物または薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体と、薬学上許容可能な賦形剤または希釈剤とを混合して含んでなる医薬組成物を提供する。
【0035】
医薬組成物の例としては、経口、局所または非経口投与用の任意の固形状(錠剤、丸薬、カプセル、顆粒など)または液状(溶液、懸濁液またはエマルション)組成物が挙げられる。本発明の化合物を含む医薬組成物は、リポソームまたはナノスフェア、徐放性処方物、または任意の他の通常の放出系の形態で処方することもできる。
【0036】
本発明の化合物または組成物の投与は、静脈内輸液、経口製剤および/または腹腔および静脈内投与のような通常の方法のいずれかによって行うことができる。用いる輸液時間が24時間を超過せず、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1〜6時間であるのが好ましい。輸液時間が短いことは、それによって病院で夜を過ごさなければならないという必要なしに治療を行うことができるので、より望ましい。しかしながら、12〜24時間およびそれ以上の輸液時間を、必要に応じて用いることができる。輸液は、1〜4週間のような適当な間隔を置いて行うことができる。
【0037】
化合物の正確な投薬量は、用いる処方物の種類、適用の形態、および治療を行う場所、宿主および腫瘍によって変化する。宿主の年齢、体重、性別、食餌、投与時間、排泄率、宿主の健康状態、活性成分の組合せ、反応に関する感受性、および疾患の重篤度のような他の要因も考慮しなければならない。投与は、最大許容用量内で連続的または定期的に行うことができる。
【0038】
本発明の化合物および組成物は、併用療法における他の活性成分と共に用いることができる。他の活性成分は同じ組成物の一部を形成することができ、または異なる組成物によって提供することができ、同時にまたは異なる時間に投与される。
【実施例】
【0039】
実施例1:生物および採取場所の説明
海綿動物Theonella swinhoeiの数個の試料は、2003年11月にIles Glorieuses(マダガスカルの北西、インド洋の西)で水深18mに潜水して採取した。採取位置の座標は下記の通りである: 緯度: 南緯11° 34'995''、および経度: 東経47° 16'829''。海底は岩の多い砂地であり、試料の支持層(substrate)は岩であった。
【0040】
生物の説明: 質感のある海綿動物(massive sponge)。上部表面には、数個の丸い開口部(小孔)がある。表面は滑らかであり、コンシステンシー(consistency)は堅固であるが、保存標本は脆い。生きている海綿の色は褐色であり、その内部は薄ベージュ色である。表皮膜は、均一な多孔性である。この種は、骨格成分によって容易に特定される。骨格は、表面近くに接線方向に向けられた不規則なストロンギレス(strongyles)の束と僅かに分岐した骨片(spicules:desmas)によって形成されている。コアノソーム(choanosomal)骨格は、テトラゾン骨片からなり、これは滑らかであるかまたは結節の少ないものであることができる。
【0041】
実施例2:化合物Aの単離
実施例1の海綿動物の凍結試料(604 g)を細かく切断し、H2O (3 x 500ml)で抽出した後、MeOH:CH2Cl2 (50:50、3 x 500ml)混合物で抽出した。合わせた有機抽出物を濃縮して残渣(7.48 g)を得て、これをLichroprep RP-18上でVLCを行い、H2O:MeOH〜CH2Cl2のグラディエントにて分画化した。化合物A (5.8 mg)をMeOHで溶出した画分から単離して、セミプレパラティブ(semipreparative)HPLC(SymmetryPrep C-18, 7μm, 7.8 mm x 150 mm, H2O:CH3CNグラディエント, UV検出)によって精製し、化合物Aを含む画分を得て、これを再度セミプレパラティブHPLC(SymmetryPrep C-18, 7μm, 19 mm x 150 mm, H2O:CH3CNグラディエント, UV検出)によって精製した。
【0042】
化合物A: MS (ESI) = 1362 (M+). MS (APCI)= 1345 (M+1-H2O)+1Hおよび13C NMRについては、表1を参照されたい。
【化9】

【0043】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

a-az 枠内の肩付き文字は、化学シフト(chemical displacements)の値が互換性を有することを意味する。
【0044】
実施例3:抗腫瘍活性のバイオアッセイ
抗腫瘍活性のアッセイにより、ヒト起源の腫瘍細胞のイン・ビトロ培養物において細胞傷害活性(細胞死)または細胞増殖抑制活性(増殖阻害)を有する抽出物または化合物を検出する。
【0045】
細胞系
名称 ATCC番号 組織 特徴
A549 CCL-185 ヒト 肺 NSCL肺癌
HT29 HTB-38 ヒト 結腸 結腸腺癌
乳腺腺癌
MDA-MB-231 HTB-26 ヒト 胸部 Her2/neu+(胸水)
【0046】
比色分析法による細胞増殖の阻止の検討
イン・ビトロでの細胞増殖の定量は、(Philip Skehan et al. 1990, J. Natl. Cancer Inst., 82:1107-1112による上記方法に従って)スルホローダミンB (SRB)の比色分析法によって行った。
【0047】
この種の分析法では、96穴の培養マイクロプレートを用いる(Mosmann, 1983, Faircloth, 1988)。用いた細胞系のほとんどはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から得て、また様々な種類のヒト腫瘍に由来するものである。
【0048】
細胞培養物を、DMEM培地(10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン 1%グルタミンを補足)中に37℃、5% CO2および98%湿度で保持する。
【0049】
分析のため、細胞をトリプシン化して、細胞系によって異なる濃度で96穴マイクロプレートに播種し、活性成分を含まない培地で24時間インキュベーションして、安定化させる。次に、培養物をキャリヤー(DMSO:DMEM, 1:1)または活性成分で処理する(最終濃度は、分析法の種類によって変化する)。活性成分に48時間暴露した後、細胞を1%グルタルアルデヒド溶液で固定し(30分間、室温(RT))、固定剤をPBSで洗浄し(3回洗浄、室温)、培養物を0.4% SRB溶液で染色し(30分間、室温)、着色料を1%酢酸溶液で洗浄し(3回洗浄、室温)、プレートを風乾し、着色料をトリス緩衝液で最終的に抽出することから基本的になる上記SRB法によって、抗腫瘍効果を測定する。この分析法の定量は、490 nmの単一波長で分光光度マイクロプレートリーダーでプレートの光学濃度を読み取ることによって行う。
【0050】
得られた光学濃度からの細胞増殖を評価するため、問題となる活性成分の非存在下および存在下での時間ゼロ(実験の開始)に対する増殖率を計算することができるアルゴリズム(NCIの抗腫瘍スクリーニングプログラムで適用したアルゴリズムと同等)を適用する。活性成分に対する細胞応答の計算パラメーターは、下記の通りである: GI50 = 50%増殖阻止を引き起こす濃度、TGI = 完全な増殖阻止を引き起こす濃度(細胞増殖抑制効果)、およびLC50 = 50%細胞死を引き起こす濃度(細胞傷害効果)。
【0051】
表2は、化合物Aの生物活性データーを示す。
【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式Iの化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体:
【化1】

(式中、
R1-16は、水素、保護または未保護ヒドロキシル、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
XおよびYは、置換または未置換C1-C24アルキル、置換または未置換C2-C24アルケニル、置換または未置換C2-C24アルキニル、=O、ORa、OCORa、NRaRb、NRaCORb、CONRaRb、CORa、COORaおよびハロゲンから独立して選択される基であり、
RaおよびRbは、水素、ハロゲン、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニル、置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環から独立して選択される基であり、
点線は、所望により二重結合が存在することを表す) 。
【請求項2】
R1-16が、水素、保護または未保護ヒドロキシル、ORa、OCORa、=O、NRaRb、NRaCORb、ハロゲンおよび置換または未置換C1-C24アルキルから独立して選択される基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1-7およびR9-15が、水素、ヒドロキシル、C1-C6アルキルおよびORaから独立して選択される基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
R8およびR16が=Oである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
XおよびYが、置換または未置換C5-C12アルキルおよび置換または未置換C5-C12アルケニルから独立して選択される基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
XおよびYが、C5-C12アルキルおよびC5-C12アルケニルであって、1または数個の置換基:OH、OR'、NHCOR'および置換または未置換複素環で置換されているものから独立して選択される基であり、R'がH、OH、NO2、NH2、SH、CN、ハロゲン、=O、C(=O)H、C(=O)アルキル、COOH、置換または未置換C1-C12アルキル、置換または未置換C2-C12アルケニル、置換または未置換C2-C12アルキニルおよび置換または未置換アリールおよび置換または未置換複素環から選択されるものである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
XおよびYが、C5-C12アルキル基であって、1または数個のヒドロキシル基および/または置換複素環によって置換されたものである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
下記式を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【化2】

【請求項9】
Theonella swinhoei種の生物からの抽出および単離を含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物を得る方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体と、薬学上許容可能な賦形剤または希釈剤とを混合して含んでなる、医薬組成物。
【請求項11】
薬物として用いるための、一般式Iの化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体。
【請求項12】
癌治療のための薬物の製造における、一般式Iの化合物、またはその薬学上許容可能な塩、誘導体、プロドラッグもしくは立体異性体の使用。

【公表番号】特表2009−519301(P2009−519301A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545023(P2008−545023)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000687
【国際公開番号】WO2007/068776
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(505404208)ファルマ、マール、ソシエダード、アノニマ (6)
【氏名又は名称原語表記】PHARMA MRS,S.A.
【Fターム(参考)】