説明

抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物

【課題】紫外線に対しての安定性が高い銀−アミノ酸錯体を含有する抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銀1モル部およびヒスチジンなどのアミノ酸1〜3モル部からなる銀−アミノ酸錯体と、 過酸化水素または過酸化ナトリウムなどの過酸化水素を発生させる化合物とを、 銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合で含有し、且つpHが6以上である、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物に関する。より詳細に、本発明は、安定化された銀−アミノ酸錯体を含む抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤もしくは抗菌剤として、銀−アミノ酸錯体が知られている。銀−アミノ酸錯体は、非毒性であるので、様々な工業製品や生活用品に使用されている。例えば、銀−アミノ酸錯体を水に添加して、水槽、プール、風呂などに発生しうる菌類等を殺菌できる。樹脂、塗料、接着剤、インクなどに銀−アミノ酸錯体を添加することによって抗菌性や殺菌性を付与できる。各種繊維、紙、皮革、セラミックス、ガラスなどに銀−アミノ酸錯体を塗布あるいは含浸させることによって抗菌性や殺菌性を付与できる。
【0003】
銀−アミノ酸錯体として、例えば、特許文献1には、銀−ヒスチジン水溶性錯体が開示されている。また、特許文献2には、銀等の金属塩化合物とグルタミン酸、ロイシン、アルギニンなどのアミノ酸とを混合して、約2.0以下のpHで銀−アミノ酸錯体を調製したことが開示されている。そして、銀−アミノ酸錯体に過酸化水素水または水を添加した実施例が示されている。特許文献3には、ヒスチジン銀錯体とヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する液状組成物が開示されている。
これら銀−アミノ酸錯体は、紫外線照射の影響によって銀イオンが還元等して変色することがある。また、塩化物イオンなどによって、銀イオンを含む化合物が析出したり、沈殿したりすることがある。
【0004】
非特許文献1には、銀−アミノ酸錯体のpHを高くすると、塩化物イオンに対する安定性が増加したとの報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−256365号公報
【特許文献2】特表2003−521472号公報
【特許文献3】WO2009/98850
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】梅野ら、「メチオニン銀及びヒスチジン銀錯体の抗菌性におけるpHの影響」平成21年度日本防菌防黴学会年次大会講演要旨集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、非特許文献1に従って、銀−アミノ酸錯体を含有する水溶液のpHを高くしてみたところ、塩化物イオンに対する安定性が増加した。しかしながら、紫外線に対する安定性は解決されておらず、変色を防止することができなかった。また、銀−アミノ酸錯体の安定性を向上させることができても殺菌性等の活性が低下してしまうことがあった。
そこで、本発明は、紫外線に対しての安定性が高い銀−アミノ酸錯体を含有する抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を提供することが、課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のモル比で構成される銀−アミノ酸錯体に、過酸化水素を混合させ、且つ高pHに調整した組成物は、紫外線が照射されても若しくは塩化物イオンが存在しても、着色や白濁などが生じないことを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を加えることによって、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
〔1〕 銀1モル部およびアミノ酸1〜3モル部からなる銀−アミノ酸錯体と、 過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物とを、 銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合で含有し、且つpHが6以上である、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
〔2〕 アミノ酸がヒスチジンである、上記〔1〕に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
〔3〕 過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物が過酸化ナトリウムである、上記〔1〕または〔2〕に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
〔4〕 ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
〔5〕 グルクロン酸、クエン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【0010】
〔6〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する製品。
〔7〕 樹脂と、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物とを含有する樹脂組成物。
〔8〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する塗料。
〔9〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する金属加工油。
〔10〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する接着剤。
〔11〕 銀1モル部およびアミノ酸1〜3モル部からなる銀−アミノ酸錯体に、 過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物を、 銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合で混合し、且つ pHを6以上に調整することを含む、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
〔12〕 アミノ酸がヒスチジンである、上記〔11〕に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
〔13〕 過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物が過酸化ナトリウムである、上記〔11〕または〔12〕に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
〔14〕 ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種類以上をさらに混合する、上記〔11〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
〔15〕 グルクロン酸、クエン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種類以上をさらに混合する、上記〔11〕〜〔13〕に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、紫外線を含む光照射下等でも銀の析出等による変色や白濁を起こさず、保存安定性に優れている。さらに、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、優れた抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス効果を示す。
【0012】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、急性経口毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性などの毒性が低い。また、施用対象の素材の品質に影響を及ぼさない。さらに、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等の効果が長期間にわたり持続する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物)
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、銀−アミノ酸錯体と、過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物とを含有するものである。
【0014】
本発明に用いられる銀−アミノ酸錯体は、銀1モル部と、アミノ酸1〜3モル部、好ましくは1.5〜2.5モル部とからなる錯体である。この錯体は水溶性であることが好ましい。
【0015】
銀−アミノ酸錯体は、銀化合物とアミノ酸とを共存させ、銀イオンにアミノ酸を配位させることによって得ることができる。
【0016】
銀−アミノ酸錯体の調製に用いられる銀化合物は、特に限定されないが、酸化数1の銀化合物が特に好ましい。例えば、硝酸銀、酸化銀、塩化銀などが挙げられる。該銀化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
銀−アミノ酸錯体の調製に用いられるアミノ酸は特に限定されない。例えば、グリシン、アラニン、ロイシン、バリン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、チロシン、トリプトファン等が挙げられる。これらアミノ酸は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち塩基性アミノ酸が好ましく、ヒスチジン、リジンおよびアルギニンがより好ましく、ヒスチジンが特に好ましい。
【0018】
銀−アミノ酸錯体の調製方法は特に制限されない。例えば、硝酸銀などの水溶性銀化合物を水に溶解させ、これにアミノ酸をそのまま若しくは水に溶解させて添加混合することによって、銀−アミノ酸錯体を調製することができる。また、アミノ酸を水に溶解させ、これに酸化銀や塩化銀などの水難溶性銀化合物を添加し、撹拌することによって、銀−アミノ酸錯体を調製することができる。
【0019】
銀−アミノ酸錯体の調製においては、銀化合物中の銀1モルに対してアミノ酸が1〜3モル、好ましくは1.5〜2.5モル用いられる。3モルを超えるアミノ酸を使用しても、製造コストが高くなるだけで経済的でない。
【0020】
銀−アミノ酸錯体の調製における、銀化合物とアミノ酸との好ましい組み合わせは、酸化銀とヒスチジンとの組み合わせである。この組み合わせで調製された銀−アミノ酸錯体は保存安定性に優れている。
【0021】
本発明に用いられる過酸化水素は、酸化剤、酸素系漂白剤として周知の化合物である。また、その水溶液は単独で強い殺菌・抗ウイルス効果を有することが知られており、一般あるいは医療用の殺菌消毒に用いられている。
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物では、過酸化水素と併用してまたは過酸化水素に替えて、過酸化水素を発生させる化合物を用いることができる。
【0022】
過酸化水素を発生させる化合物としては、過酸化ナトリウムなどの水との反応で過酸化水素を発生させる化合物;過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化尿素などの過酸化水素を含む付加化合物が挙げられる。これらのうち過酸化ナトリウムが好ましい。過酸化水素を発生させる化合物は、水中では過酸化水素と同様の効果を有する。
【0023】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、銀−アミノ酸錯体と過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物とを、銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合、好ましくは0.02〜50モルとなる割合で含有している。
【0024】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、pHが6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上である。pHの上限は特に制限されないが、好ましくは12、より好ましくは11である。なお、該pHは本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を水に溶解させたときの値である。この範囲のpHに調整された抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、紫外線を含む光照射下等でも銀の析出等による変色や白濁を起こさないようになる。
【0025】
本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物のpHを調整するために、一般に使用されている公知のpH調整剤を使用してもよい。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸塩等が挙げられる。pHを8以上にする場合にはアルカリ性化合物を用いることが好ましい。該アルカリ性化合物は、特に限定されないが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましい。
【0026】
本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を水に溶解させたときに、銀−アミノ酸錯体の濃度が0.0005質量%〜20質量%であることが好ましく、0.05質量%〜10質量%であることがより好ましく、0.25質量%〜5質量%であることが特に好ましい。また、本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を水に溶解させたときに、過酸化水素の濃度が、70〜300ppmであることが好ましい。なお、ここでの濃度は、銀−アミノ酸錯体、過酸化水素、および水の合計量を基準にした値である。
【0027】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物には、さらに他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、香料、消泡剤等が挙げられる。
【0028】
界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニド等のカチオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、α−オレフィン脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0029】
有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等のグリコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、プロピレンカーボネート等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン等の極性溶剤が挙げられる。
【0030】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−t−ブチルフェノール]、アルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−セバケート)等が挙げられる。
【0031】
その他の安定化剤として、ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸またはそれらの塩が挙げられる。これらのうち、グルクロン酸、クエン酸またはそれらの塩が特に好ましい。これらの安定化剤は特に銀−アミノ酸錯体の光照射による変色を抑制する効果を有し、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の安定化に寄与する。
【0032】
また、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、その目的および用途に応じて、公知の殺菌防カビ剤、防腐剤、防藻剤等の活性成分が含有されていてもよい。
該活性成分としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート(DDAA)等の第4級アンモニウム塩系化合物、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、グルコン酸クロルへキシジン等のビグアナイド系化合物、セチルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライド等のピリジニウム系化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、3−ヨード−2−プロピニル−ブチルカーバメート等の有機ヨウ素系化合物、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン等のピリジン系化合物、ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオン等のピリチオン系化合物、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチオカーバメート系化合物、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミドおよびN−(フルオロジクロロメチルチオ)−N,N’−ジメチル−N−フェニル−スルファミド等のハロアルキルチオ系化合物、α−t−ブチル−α(p−クロロフェニルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名テブコナゾール)等のトリアゾール系化合物、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(慣用名DCMU)等のフェニルウレア系化合物、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S−トリアジン等のトリアジン系化合物等が挙げられる。
これらの活性成分は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。またこれら活性成分の配合割合は、用途に応じて任意に決定することができる。
【0033】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、その製造方法によって、特に制限されない。本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、例えば、銀化合物とアミノ酸と水とを混合して銀−アミノ酸錯体を調製し、これに過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物を添加し混合することによって、または、粉末状の銀−アミノ酸錯体と水とを混合し、これに過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物を添加し混合することによって得ることができる。抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造に使用される水としては、水道水、精製水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。これらのうち、安定性や経済性の面から、精製水またはイオン交換水が好ましい。
【0034】
抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造における、各工程は、温度10〜30℃の環境下で行うのが好ましい。該組成物を構成する各成分の混合には、公知の撹拌装置を用いることができる。上記の方法等で製造された本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は濾過等を行って異物等を取り除くことが好ましい。
【0035】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、そのままで若しくは製剤化して、抗菌剤、殺菌剤、抗カビ剤、若しくは抗ウイルス剤として用いることができる。
製剤の形態としては、粉剤、粒剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。製剤化において、例えば、クレー、タルク、シリカ、アルミナ、モンモリロナイト等に抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を吸着させることができる。
【0036】
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、抗菌性、殺菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等の効果を必要とする素材に施用することができる。該素材としては、例えば、繊維、衛生加工品、医療用成形加工品、洗剤、化粧品、食品、青果物、種子、農作物、家畜、クリーンフィルム、包装材料、殺菌性材料、水性エマルション塗料、溶剤型塗料、エマルション樹脂、切削油等の金属加工油、合板、木材、皮革、カゼイン、でんぷん糊、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、表面サイズ剤、接着剤、合成ゴムラテックス、印刷インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、プラスチック製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤などが挙げられる。また、製紙パルプ工場や冷却水循環工程で使用される各種産業用水等にも用いることができる。
施用方法は、対象となる素材に応じて、適宜選択できる。例えば、素材に混ぜ合わせる方法、素材に浸み込ませる方法、素材表面に塗布する方法などが挙げられる。
【0037】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物とを含有するものである。使用する樹脂は、耐久性、耐水性、接着性、耐熱性、耐ブロッキング性、柔軟性等を考慮して適宜選択できる。
本発明の樹脂組成物に用いられる樹脂としては水性樹脂が好ましい。水性樹脂は、水に溶解、又は乳化分散可能な樹脂である。
樹脂はゴム状高分子と樹脂状高分子とに大別される。
ゴム状高分子としては、例えば、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
樹脂状高分子としては、例えば、松脂のような天然樹脂、ポリエチレン、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0038】
(塗料)
本発明の塗料は、本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有するものである。本発明の塗料には、通常の塗料に含有されている成分が含まれている。例えば、バインダー、ワックス、顔料、有機溶剤などが挙げられる。バインダーとしては、水性樹脂、有機溶媒分散性樹脂などが挙げられる。バインダーとしてはアクリル系樹脂が好ましい。
【0039】
(金属加工油)
本発明の金属加工油は、本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有するものである。本発明の金属加工油には、通常の金属加工油に含有されている成分が含まれている。例えば、シリコンカーバイド,ダイヤモンド,アルミナ等の砥粒、防錆剤、酸化ポリエチレン,ポリカルボン酸等のワックス、鉱物油,合成炭化水素油,エステル油,植物油などの油類、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、無機塩類、極圧添加剤などが挙げられる。
【0040】
(接着剤)
本発明の接着剤は、本発明に係る抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有するものである。本発明の接着剤には、通常の接着剤に含有されている成分が含まれている。例えば、接着性樹脂、有機溶剤、性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤、導電性付与剤などが挙げられる。接着性樹脂としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0041】
(その他の製品)
本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する製品は、前記施用方法のいずれかにより本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を直接施用する方法で製造してもよいし、本発明の樹脂組成物、塗料、接着剤等を材料とする方法で製造してもよいし、また以上の両方法を組み合わせる方法で製造してもよい。例えば、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する樹脂組成物を用いて製造した塗料等の製品、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する樹脂組成物を成型して製造した製品、あるいは、前記樹脂成型品もしくはその他の素材からなる物品に本発明の塗料、接着剤等を施用して製造した製品等が含まれる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0043】
〈使用した薬品等〉
酸化銀:試薬特級 和光純薬社製
L−ヒスチジン:試薬特級 和光純薬社製
クエン酸3ナトリウム:試薬特級 和光純薬社製
クエン酸:試薬特級 和光純薬社製
過酸化水素:試薬特級 和光純薬社製
過酸化ナトリウム:試薬特級 和光純薬社製
水酸化ナトリウム:試薬特級 和光純薬社製
水酸化カリウム:試薬特級 和光純薬社製
塩化ナトリウム:試薬特級 和光純薬社製
ニュートリエントブロス:普通ブイヨン「栄研」栄研化学社製
【0044】
実施例1
ビーカーに、酸化銀1.074g、L−ヒスチジン2.88g、クエン酸3ナトリウム0.4g、クエン酸0.4gおよび水95.646gを入れ、室温で30分間以上攪拌し、ヒスチジン銀錯体2.44重量%(銀として約1.00重量%)を含有するヒスチジン銀錯体溶液(pH6.8)1体積部を得た。
この溶液に626mg/Lの過酸化水素水1体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH7.0)を得た。
【0045】
実施例2
実施例1と同じ方法によって得られたヒスチジン銀錯体溶液1体積部に、626mg/Lの過酸化ナトリウム水溶液1体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH8.0)を得た。
【0046】
実施例3
実施例1と同じ方法によって得られたヒスチジン銀錯体溶液1体積部に、320mg/Lの過酸化水素水0.5体積部および2560mg/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH9.0)を得た。
【0047】
実施例4
実施例1と同じ方法によって得られたヒスチジン銀錯体溶液1体積部に、320mg/Lの過酸化水素水0.5体積部および2560mg/Lの水酸化カリウム水溶液を0.5体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH9.0)を得た。
【0048】
比較例1
ビーカーに、酸化銀1.074g、L−ヒスチジン2.88gおよび水96.046gを入れ、室温で30分間以上攪拌し、ヒスチジン銀錯体2.44重量%を含有する溶液(pH7.9)1体積部を得た。これに水1体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH7.9)を得た。
【0049】
比較例2
実施例1と同じ方法によって得られたヒスチジン銀錯体溶液1体積部に、水1体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH6.8)を得た。
【0050】
比較例3
実施例1と同じ方法によって得られたヒスチジン銀錯体溶液1体積部に、2560mg/Lの水酸化ナトリウム水溶液1体積部を加え攪拌し、ヒスチジン銀錯体1.22重量%(銀として0.5重量%)を含有する組成物(pH9.0)を得た。
【0051】
上記の実施例および比較例で得られた組成物の保存安定性と殺菌性とを以下の手順にて評価した。
【0052】
(保存安定性試験)
ガラス試験管にヒスチジン銀錯体を含有する組成物1体積部を入れ、これに精製水または塩化ナトリウム水溶液(塩化物イオンの最終濃度は1mg/L)1体積部を加えて混合し、試験管を栓で密封し、蛍光灯照射下(4000Lux)、25℃にて1週間放置した。次いで外観を観察し、以下の評価基準で評価した。各組成物の評価結果を表1に示す。
〔評価基準〕
AA:均一透明で変色なし
A :均一透明だがわずかな変色あり
B :均一微濁または変色
C :激しい変色、沈殿またはガラス器壁への付着物あり
【0053】
【表1】

【0054】
(殺菌性試験)
ニュートリエントブロス液体培地9mlに、白金耳によりかきとった大腸菌または黄色ブドウ球菌のコロニー(1白金耳)を懸濁し、31±1℃で18時間振盪による前培養を行なった。この培養液を新鮮なニュートリエントブロス培地で100倍に希釈した。該希釈液100μLを96穴のマイクロプレートに入れた。
これに、実施例1〜4および比較例2で得られた組成物を表2または表3に表示した設定濃度に精製水で希釈して得た試験液各50μLを加えた。マイクロプレートを31±1℃の環境下にて48時間置き、培養した。該培養液を寒天含有培地に接種して菌が増殖するか否かで、菌の増殖の有無を判断した。なお、表2および表3において銀濃度0mg/Lは、試験液の代わりに精製水を加えたことを意味する。
表2に大腸菌の結果を、表3に黄色ブドウ球菌の結果をそれぞれ示す。表中の「+」は菌の増殖有りを、「−」は菌の増殖無しを示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表1と表2および表3とに示した通り、本発明の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物は、紫外線や塩化物イオンに対する耐性が高く、保存安定性に優れていることがわかる。しかも、安定化処理をしても殺菌活性等の低下がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀1モル部およびアミノ酸1〜3モル部からなる銀−アミノ酸錯体と、
過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物とを、
銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合で含有し、且つpHが6以上である、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
アミノ酸がヒスチジンである、請求項1に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物が過酸化ナトリウムである、請求項1または2に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【請求項5】
グルクロン酸、クエン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する製品。
【請求項7】
樹脂と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物とを含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する塗料。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する金属加工油。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物を含有する接着剤。
【請求項11】
銀1モル部およびアミノ酸1〜3モル部からなる銀−アミノ酸錯体に、過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物を、銀1モルに対して過酸化水素が0.002〜1000モルとなる割合で混合し、且つ
pHを6以上に調整することを含む、抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項12】
アミノ酸がヒスチジンである、請求項11に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項13】
過酸化水素または過酸化水素を発生させる化合物が過酸化ナトリウムである、請求項11または12に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項14】
ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに混合する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項15】
グルクロン酸、クエン酸およびそれらの塩からなる群から選択される1種以上をさらに混合する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の抗菌、殺菌若しくは抗ウイルス性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−195582(P2011−195582A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39290(P2011−39290)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】