説明

抗菌ペプチドの産生能復元剤としてのグリチルリチン

抗菌ペプチドの産生量を向上させることができる薬剤。当該薬剤はグリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10(IL−10)及びケモカインCCL2の少なくとも一方の産生を阻害する化合物を有効成分とする。抗菌ペプチドはディフェンシン又はカセリシジンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の発症予防に有用な抗菌ペプチドの産生能復元剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の疾病に罹患している患者や外科手術後の患者は、多くの場合、病原菌に対する免疫力が低下している。そして、このような患者は、健常者ではほとんど発症することがない感染症を、容易に発症することが知られている。この場合の感染症は、発症した患者自身の生命を脅かすことはもとより、患者間での感染症の蔓延を招く院内感染の原因ともなり、大きな医療問題となっている。なかでも、近年特に問題となっているのは、黄色ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌等を病原菌とする感染症である。通常、感染症は、抗生物質の投与によって治療され、病原菌の体内でのバランスがコントロールされるが、抗生物質に対して耐性を有する耐性菌の出現によって抗生物質の使用が制限されるようになり、各種感染症における有効な治療法の選択肢が限られ、新たな治療法の確立が強く望まれている。
【0003】
例えば、火傷患者では、緑膿菌による感染症が頻繁に見られ、健常者では全く問題にならないような非常に僅かな量の緑膿菌によっても、敗血症等を発症することが知られている。
火傷患者における緑膿菌感染症の発症メカニズムについては、マウスを使用したモデルで詳細に解析されている。そして、火傷させたマウスでは、元来皮膚中に存在する抗菌ペプチドの一種であるmurine beta−defencin 1及び3(以下、それぞれMBD−1、MBD−3と略記する)の量が、火傷部位周囲の皮膚中で顕著に減少していることが知られており(例えば、Kobayashi et.al.,J.Leukoc.Biol.,(1354〜1362),2008参照)、これによる免疫力の低下が、緑膿菌感染症の発症原因であると考えられている。MBD−1及びMBD−3は、表皮ケラチノサイトで産生されるが、火傷部位に出現する未熟骨髄性細胞(Immature myeloid cells、Gr−1CD11b細胞)で産生されるインターロイキン−10(IL−10)及びケモカインCCL2の作用により、減少すると考えられている。
【0004】
このような、抗菌ペプチドの産生量減少が発症原因の一つである感染症も、その他の感染症同様に、従来は抗生物質の投与によって治療を行うのが主流となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように、抗生物質の投与は、新たな耐性菌を生む可能性があるという問題点があった。例えば、新規な薬剤耐性の獲得能が高い緑膿菌においては、特にこのような危険性が高い。そして、ほとんどの感染症に対しては、抗生物質の投与に代わる有効な治療法が無いという問題点があった。そこで、抗生物質の投与に代わる、安全性が高く且つ効果が高い、感染症の発症予防法の開発が強く望まれている。例えば、患者自身の病原菌に対する免疫力を健常者並みに回復させることができれば、有望な感染症の発症予防法になると考えられる。そして、抗菌ペプチドの産生量減少が発症原因となる感染症においては、抗菌ペプチドの産生量を健常者並みに向上させることが重要であると考えられる。しかし、このような感染症の発症予防法はこれまでに知られていない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、抗菌ペプチドの産生量を向上させることができる薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、肝臓疾患やアレルギー疾患の治療薬であり、安全性に定評のあるグリチルリチンが、全く意外にも、マウスにおいて、MBD−1及びMBD−3の産生量を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するため、
本発明の第一実施態様において、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10及びケモカインCCL2の少なくとも一方の産生を阻害する化合物を有効成分とする抗菌ペプチドの産生能復元剤が提供される。抗菌ペプチドは、ディフェンシン又はカセリシジンであることが好ましい。
【0009】
本発明の第二実施態様において、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10及びケモカインCCL2の少なくとも一方の産生を阻害する化合物を有効成分とする日和見感染防御剤が提供される。
本発明の第三実施態様において、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10及びケモカインCCL2の少なくとも一方の産生を阻害する化合物の有効量を、抗菌ペプチドの産生能復元を必要とする被検対象に投与することを含む、被検対象における抗菌ペプチドの産生能復元方法が提供される。
本発明の第四実施態様において、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10及びケモカインCCL2の少なくとも一方の産生を阻害する化合物の有効量を、日和見感染防御を必要とする被検対象に投与することを含む、被検対象における日和見感染防御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抗菌ペプチドの産生量を向上させることができ、感染症の発症を予防できる。また、新たな耐性菌を生む危険性が低く、しかも安全性が高い感染症の発症予防法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1及び比較例1におけるマウスの生存率を示すグラフである。
【図2】参考例1〜3におけるマウスの生存率を示すグラフである。
【図3】参考例4〜6におけるマウスの生存率を示すグラフである。
【図4】実施例2及び比較例2における、マウスの血液検体中及び脾臓ホモジネート検体中の緑膿菌量を示すグラフである。
【図5】実施例3及び比較例3における、マウスの皮膚組織ホモジネート液中のMBD−1の量を示すグラフである。
【図6】実施例4、比較例4及び参考例7〜9における、マウスの表皮ケラチノサイト及び/又はGr−1CD11b細胞の培養上清中におけるMBD−1の量を示すグラフである。
【図7】実施例5、比較例5及び参考例10〜12における、マウスのLPS処理表皮ケラチノサイト及び/又はGr−1CD11b細胞の培養上清中におけるMBD−3の量を示すグラフである。
【図8】実施例6〜9、比較例6及び参考例7〜8における、マウスの表皮ケラチノサイト及びGr−1CD11b細胞の培養上清中、あるいはマウスの表皮ケラチノサイトの培養上清中におけるMBD−1の量を示すグラフである。
【図9】参考例13〜15における、マウスのGr−1CD11b細胞の培養上清中におけるIL−4、IL−13、IL−10及びCCL2の量を示すグラフである。
【図10】参考例13〜17における、マウスの表皮ケラチノサイトの培養上清中におけるMBD−1の量を示すグラフである。
【図11】参考例17及び参考例18〜20における、マウスの表皮ケラチノサイトの培養上清中におけるMBD−1の量を示すグラフである。
【図12】実施例10及び比較例7における、マウスのGr−1CD11b細胞の培養上清中におけるCCL2の量を示すグラフである。
【図13】実施例10及び比較例7における、マウスのGr−1CD11b細胞の培養上清中におけるIL−10の量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗菌ペプチドの産生能復元剤(以下、復元剤と略記する)は、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなり、インターロイキン−10(以下、IL−10と略記する)及びケモカインCCL2(以下、CCL2と略記する)の少なくとも一方の産生を阻害する化合物を有効成分とする。
本発明の復元剤は、IL−10及びCCL2の少なくとも一方を産生する細胞に作用して、これらの産生能を阻害することで、抗菌ペプチドの産生能を復元すると考えられる。
【0013】
本発明の復元剤が産生能を復元できる抗菌ペプチドは、IL−10又はCCL2により産生が阻害されるものである。なかでも、α−ディフェンシン、β−ディフェンシン等のディフェンシン及びカセリシジンが好適である。β−ディフェンシンとしては、ヒトβ−ディフェンシン−1(HBD−1)、ヒトβ−ディフェンシン−2(HBD−2)、ヒトβ−ディフェンシン−3(HBD−3)、ヒトβ−ディフェンシン−4(HBD−4)等のヒトβ−ディフェンシン(HBD)が好適である。α−ディフェンシンとしては、ヒト好中球ディフェンシン−1(HNP−1)、ヒト好中球ディフェンシン−2(HNP−2)、ヒト好中球ディフェンシン−3(HNP−3)等のヒト好中球ディフェンシン(HNP)が好適である。カセリシジンとしてはカセリシジン抗菌ペプチド−18(CAP−18)が好適である。
【0014】
グリチルリチン又はその薬学上許容される塩は、例えば、甘草から抽出することにより得られるが、市販品を使用しても良い。市販品としては、株式会社ミノファーゲン製薬製のものが好適である。
【0015】
グリチルリチンの薬学上許容される塩としては、グリチルリチンと無機あるいは有機塩基とを、一定のモル比で作用させて得られるものが例示できる。好ましいものとして具体的には、グリチルリチンモノアンモニウム塩、グリチルリチンジアンモニウム塩等のアンモニウム塩;グリチルリチンモノナトリウム塩、グリチルリチンジナトリウム塩、グリチルリチンモノカリウム塩、グリチルリチンジカリウム塩等のアルカリ金属塩;グリチルリチンコリン塩;グリチルリチンカルシウム塩;グリチルリチンマグネシウム塩;グリチルリチンアルミニウム塩等が例示できる。これらの中でも、グリチルリチンモノアンモニウム塩が特に好ましい。
【0016】
グリチルリチン又はその薬学上許容される塩は、単独で使用しても良く、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調整すれば良い。
【0017】
本発明の復元剤の製剤形態は特に限定されず、目的に応じて錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤、液剤(水薬等)等の経口剤;吸入剤、坐剤、注射剤等の非経口剤等から適宜選択すれば良い。これら製剤形態の復元剤は、いずれも公知の方法で製造できる。
【0018】
経口剤等の製剤形態とする場合には、これら製剤の製造に通常使用される賦形剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、矯味剤、着色剤、香料、緩衝剤等を配合しても良い。
【0019】
前記賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、果糖、デキストリン、デンプン、食塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、無水ケイ酸、カオリン等が例示できる。
【0020】
前記滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、トウモロコシデンプン、マクロゴール等が例示できる。
【0021】
前記可塑剤としては、ポリエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、グリセリン類、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸トリエチル等が例示できる。
【0022】
前記結合剤としては、ゼラチン、アラビアゴム、セルロースエステル、ポリビニルピロリドン、水飴、甘草エキス、トラガント、単シロップ、ゼラチン等が例示できる。
前記崩壊剤としては、デンプン、カンテン、カルメロ−スカルシウム、カルメロ−ス、結晶セルロ−ス等が例示できる。
前記湿潤剤としては、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロ−ス、カルメロ−スナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロ−ス等が挙げられる。
【0023】
前記矯味剤としては、白糖、ハチミツ、サッカリンナトリウム、ハッカ、ユ−カリ油、ケイヒ油等が例示できる。
前記着色剤としては、酸化鉄、β−カロチン、クロロフィル、水溶性食用タ−ル色素等が例示できる。
前記香料としては、レモン油、オレンジ油、dl−又はl−メント−ル等が例示できる。
【0024】
吸入剤、注射剤等、非経口剤の製剤形態とする場合には、使用できる溶媒として、注射用蒸留水、無菌の非水性溶媒、懸濁剤等が例示できる。非水性の溶媒又は懸濁剤の基剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、オリーブ油、コーン油、オレイン酸エチル等が好ましいものとして例示できる。
【0025】
本発明の復元剤には、本発明の効果を妨げない範囲内で、上記成分以外の薬学上許容される任意成分を、必要に応じて適宜配合しても良い。
前記任意成分としては、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤等が例示できる。
【0026】
本発明の復元剤の投与方法は、経口投与及び非経口投与のいずれでも良い。
復元剤の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜異なるが、経口投与の場合は通常、成人一人一日あたり、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩の量として、50〜 3000mg/人であることが好ましく、300〜2500mg/人であることがより好ましい。また、非経口の場合は通常、成人一人一日あたり、グリチルリチン又はその薬学上許容される塩の量として、25〜2500mg/人であることが好ましく、150〜2000mg/人であることがより好ましい。
本発明の復元剤は、所定量を一日に一回又は複数回に分けて投与する。
【0027】
グリチルリチン又はその薬学上許容される塩は、肝臓疾患やアレルギー疾患の治療薬として長年の使用実績があり、その安全性の高さに定評がある。本発明の復元剤は、このようなグリチルリチン又はその薬学上許容される塩からなるので、高い安全性を有する。さらに、抗菌ペプチドの産生能を復元するという、生体が本来有している機能を強化する作用を有するものであり、新たな耐性菌を生む危険性も低い。このように、本発明の復元剤は、安全性が高い感染症の発症予防法を提供するものである。
本発明の復元剤は、火傷患者への適用が好適であるが、IL−10及びCCL2の少なくとも一方の産生を阻害することで、抗菌ペプチドの産生能を復元する限り、適用対象は火傷患者に限定されるものではなく、感染症の発症予防が必要なあらゆる患者を適用対象とすることができる。
【実施例】
【0028】
以下、具体的に実施例を挙げ、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
<緑膿菌投与マウスの生存率の比較>
[実施例1]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、該火傷部位に100CFU(Colony Forming Units)量の緑膿菌を塗布した。次いで、マウスの体重1kgあたり10mg量(10mg/kg量)のグリチルリチンを、火傷させてから2時間後、24時間後及び72時間後にそれぞれ腹腔内に投与し、マウスの生死を確認した。同様の操作を10匹のマウスに対して行い、マウスの生存率を確認した。結果を図1に示す。なお、図1のグラフの横軸は、緑膿菌感染後の日数(日)を示す。
【0030】
[比較例1]
グリチルリチンに代わり生理食塩水を腹腔内投与したこと以外は、実施例1と同様に、マウスの生存率を確認した。結果を図1に示す。
【0031】
図1から明らかなように、グリチルリチンを投与したマウス(実施例1)は、7日後まで死亡した個体が無く、投与しなかったマウス(比較例1)よりも、2日後以降の生存率が顕著に高かった。
【0032】
[参考例1〜3]
正常マウスの背部に、マウス一匹あたり10CFU量(参考例1)、10CFU量(参考例2)、10CFU量(参考例3)の緑膿菌をそれぞれ感染させ、マウスの生死を確認した。同様の操作を一区分あたり10匹のマウスに対して行い、マウスの生存率を確認した。結果を図2に示す。なお、図2のグラフの横軸は、感染(緑膿菌塗布)後の日数(日)を示す。
図2から明らかなように、緑膿菌投与量が多いほど、マウスの生存率が低くなった。
【0033】
[参考例4〜6]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、該火傷部位に、マウス一匹あたり50CFU量(参考例4)、10CFU量(参考例5)、10CFU量(参考例6)の緑膿菌を、それぞれ皮内感染させ、マウスの生死を確認した。同様の操作を一区分あたり10匹のマウスに対して行い、マウスの生存率を確認した。結果を図3に示す。なお、図3のグラフの横軸は、緑膿菌感染後の時間的経過(日数)を示す。
図3から明らかなように、参考例1〜3よりも少ない緑膿菌投与量で、緑膿菌感染が多いほどマウスの生存率が低くなった。
【0034】
<緑膿菌感染マウスの検体中における緑膿菌量の比較>
[実施例2]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、該火傷部位に100CFU量の緑膿菌を感染させた。次いで、マウスの体重1kgあたり10mg量(10mg/kg量)のグリチルリチンを、緑膿菌感染から2時間後及び12時間後にそれぞれ腹腔内に投与した。次いで、緑膿菌感染から48時間後に、マウスから血液及び脾臓を採取し、血液検体中及び脾臓ホモジネート検体中の緑膿菌量をcolony−counting法で測定した。結果を図4に示す。なお、図4のグラフの縦軸は、検体1ml中の緑膿菌量(CFU量)を示す。
【0035】
[比較例2]
グリチルリチンに代わり生理食塩水を腹腔内投与したこと以外は、実施例2と同様に、血液検体中及び脾臓ホモジネート検体中の緑膿菌量を測定した。結果を図4に示す。
【0036】
図4から明らかなように、グリチルリチンを投与したマウス(実施例2)は、血液検体中及び脾臓ホモジネート検体中のいずれにおいても、投与しなかったマウス(比較例2)より緑膿菌量が顕著に少なかった。
【0037】
<皮膚組織中におけるMBD−1の量の比較>
[実施例3]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、マウスの体重1kgあたり10mg量(10mg/kg量)のグリチルリチンを、火傷させてから2時間後に腹腔内投与した。火傷させてから0.5時間後、6時間後、12時間後、18時間後及び24時間後に、それぞれ火傷部位の周囲から皮膚組織を採取し、これをホモジネートして、ホモジネート液中のMBD−1の量をELISAにより測定した。結果を図5に示す。なお、図5のグラフの横軸は、火傷後の時間(時間)を示す。
【0038】
[比較例3]
グリチルリチンに代わり生理食塩水を腹腔内投与したこと以外は、実施例3と同様に、ホモジネート液中のMBD−1の量を測定した。結果を図5に示す。
【0039】
図5から明らかなように、グリチルリチンを投与したマウス(実施例3)の方が、投与しなかったマウス(比較例3)よりもMBD−1の量が多かった。
【0040】
<培養細胞ごとのMBD−1の量の比較>
[実施例4]
正常マウスの皮膚から表皮ケラチノサイト(EK)を採取し、10%非働化牛胎児血清加RPMI1640培地にて2×10細胞/mlに調整した。また、正常マウスの背部に火傷を生じさせ、12時間後に該火傷部位の周囲の皮膚組織からGr−1CD11b細胞を採取し、10%非働化牛胎児血清加RPMI1640培地にて5×10細胞/mlに調整した。10μg/ml量のグリチルリチン共存下で、前記表皮ケラチノサイト及びGr−1CD11b細胞を同一のトランスウェル内で37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるMBD−1の量をELISAにより測定した。結果を図6に示す。
【0041】
[比較例4]
グリチルリチンを共存させなかったこと以外は、実施例4と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図6に示す。
【0042】
[参考例7]
表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)のみを、グリチルリチンを共存させずに培養したこと以外は、実施例4と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図6に示す。
【0043】
[参考例8]
表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)のみを、10μg/ml量のグリチルリチン共存下で培養したこと以外は、実施例4と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図6に示す。
【0044】
[参考例9]
Gr−1CD11b細胞(5×10細胞/ml)のみを、グリチルリチンを共存させずに培養したこと以外は、実施例4と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図6に示す。
【0045】
図6から明らかなように、グリチルリチンを共存させた実施例4の方が、共存させなかった比較例4よりもMBD−1の量が多かった。一方、グリチルリチンは表皮ケラチノサイトに対して、MBD−1の産生能促進効果を有していなかった(参考例7及び8)。したがって、Gr−1CD11b細胞は、表皮ケラチノサイトに対してMBD−1の産生能阻害効果を有するが、グリチルリチンはこの阻害効果を低減する、MBD−1産生能復元剤として作用することが確認できた。
【0046】
<培養細胞ごとのMBD−3の量の比較>
[実施例5]
正常マウスの皮膚から表皮ケラチノサイト(EK)を採取し、10%非働化牛胎児血清加RPMI1640培地にて2×10細胞/mlに調整した。MBD−3を誘導するために、1μg/ml量のリポ多糖(LPS)で6時間処理した。また、正常マウスの背部に火傷を生じさせ、12時間後に該火傷部位の周囲からGr−1CD11b細胞を採取し、10%非働化牛胎児血清加RPMI1640培地にて5×10細胞/mlに調整した。10μg/ml量のグリチルリチン共存下で、前記LPS処理表皮ケラチノサイト及びGr−1CD11b細胞を同一のトランスウェル内で37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるMBD−3の量をELISAにより測定した。結果を図7に示す。
【0047】
[比較例5]
グリチルリチンを共存させなかったこと以外は、実施例5と同様に、培養上清中におけるMBD−3の量を測定した。結果を図7に示す。
【0048】
[参考例10]
LPS処理表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)のみを、グリチルリチンを共存させずに培養したこと以外は、実施例5と同様に、培養上清中におけるMBD−3の量を測定した。結果を図7に示す。
【0049】
[参考例11]
LPS処理表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)のみを、10μg/ml量のグリチルリチン共存下で培養したこと以外は、実施例5と同様に、培養上清中におけるMBD−3の量を測定した。結果を図7に示す。
【0050】
[参考例12]
Gr−1CD11b細胞(5×10細胞/ml)のみを、グリチルリチンを共存させずに培養したこと以外は、実施例5と同様に、培養上清中におけるMBD−3の量を測定した。結果を図7に示す。
【0051】
図7から明らかなように、グリチルリチンを共存させた実施例5の方が、共存させなかった比較例5よりもMBD−3の量が多かった。一方、グリチルリチンはLPS処理表皮ケラチノサイトに対して、MBD−3の産生能促進効果を有していなかった(参考例10及び11)。したがって、Gr−1CD11b細胞は、LPS処理表皮ケラチノサイトに対してMBD−3の産生能阻害効果を有するが、グリチルリチンはこの阻害効果を低減する、MBD−3産生能復元剤として作用することが確認できた。
【0052】
<MBD−1産生能復元に関するグリチルリチンの用量依存性の確認>
[実施例6〜9]
正常マウスの皮膚から表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)を採取した。また、正常マウスの背部に火傷を生じさせ、12時間後に該火傷部位の周囲からGr−1CD11b細胞(5×10細胞/ml)を採取した。そして、培地としてケラチノサイト培養用培地を使用し、グリチルリチンを1μg/ml量(実施例6)、10μg/ml量(実施例7)、100μg/ml量(実施例8)、300μg/ml量(実施例9)共存させ、前記表皮ケラチノサイト及びGr−1CD11b細胞を同一のトランスウェル内で37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるMBD−1の量をELISAにより測定した。結果を図8の片対数グラフに示す。
【0053】
[比較例6]
グリチルリチンを共存させなかったこと以外は、実施例6〜9と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図8の棒グラフに示す。なお、図8には、前記参考例7及び8の結果もあわせて示す。また、二つのグラフで、縦軸(MBD−1の量)を共通化している。
【0054】
図8から明らかなように、グリチルリチンが10μg/ml量(実施例7)、100μg/ml量(実施例8)、300μg/ml量(実施例9)の場合に、MBD−1産生能復元効果が特に優れていることが確認できた。
【0055】
<表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能阻害因子の確認(1)>
[参考例13〜15]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、12時間後に該火傷部位の周囲の皮膚組織からGr−1CD11b細胞を採取し、10%非働化牛胎児血清加RPMI1640培地にて5×10細胞/mlに調整した。培養開始から48時間後上清を回収し、上清検体中のIL−4、IL−13、IL−10及びCCL2量をELISAにより測定した。結果を図9に示す。
次いで、前記培養上清を2.5μg/ml量のCCL2中和抗体(参考例13)、IL−10中和抗体(参考例14)、CCL2中和抗体とIL−10中和抗体にて、37℃で1時間処理した。前記処理済培養上清を、最終濃度が上記培地の15体積%となるように添加した。この培地を用いて、正常マウスの皮膚組織から分離した表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)を37℃にて培養した。培養開始48時間後上清を回収し、上清検体中のMBD−1量をELISAにより測定した。結果を図10に示す。
【0056】
[参考例16]
CCL2中和抗体及びIL−10中和抗体のいずれも使用しなかったこと以外は、参考例13〜15と同様に、培養上清中におけるMBD−1の量を測定した。結果を図10に示す。
【0057】
[参考例17]
中和抗体に対するイソタイプコントロール抗体を使用して、正常マウスの皮膚から採取した表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)を37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるMBD−1の量をELISAにより測定した。結果を図10に示す。
【0058】
図10から明らかなように、CCL2中和抗体及びIL−10中和抗体を共に添加しない場合に、表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能が最も阻害されることが確認された(参考例16)。また、CCL2中和抗体及びIL−10中和抗体の少なくとも一方を添加することにより、表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能が復元することが確認された(参考例13〜15)。そして、CCL2中和抗体及びIL−10中和抗体の一方のみを添加した場合(参考例13及び14)よりも、両方を添加した場合(参考例15)の方が、MBD−1産生能の復元効果が高いことが確認された。
以上より、Gr−1CD11b細胞由来のCCL2及びIL−10により、表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能が阻害されることが示された。
【0059】
<表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能阻害因子の確認(2)>
[参考例18〜20]
リコンビナントを使用し、ここに、公知の組み替えDNA技術で作製したCCL2(5ng/ml)(参考例18)、IL−10(1ng/ml)(参考例19)、CCL2(5ng/ml)及びIL−10(1ng/ml)(参考例20)の共存下で、正常マウスの皮膚から採取した表皮ケラチノサイト(2×10細胞/ml)を37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるMBD−1の量をELISAにより測定した。結果を図11に示す。なお、図11には、上記参考例17の結果もあわせて示した。
【0060】
図11から明らかなように、CCL2及びIL−10の少なくとも一方を添加することにより、表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能が阻害されることが確認された(参考例18〜20)。そして、CCL2及びIL−10の一方のみを添加した場合(参考例18及び19)よりも、両方を添加した場合(参考例20)の方が、MBD−1産生能の阻害効果が高いことが確認された。
以上より、Gr−1CD11b細胞由来のCCL2及びIL−10により、表皮ケラチノサイトのMBD−1産生能が阻害されることが示された。
【0061】
<グリチルリチンのCCL2及びIL−10産生阻害効果の確認>
[実施例10]
正常マウスの背部に火傷を生じさせ、12時間後に該火傷部位の周囲の皮膚組織からGr−1CD11b細胞(2×10細胞/ml)を採取した。そして、培地としてケラチノサイト培養培地を使用し、グリチルリチンを10μg/ml量共存させ、前記Gr−1CD11b細胞を96穴プレート内で37℃にて培養した。培養開始から48時間後の培養上清中におけるCCL2及びIL−10の量をELISAにより測定した。結果を図12及び13に示す。図12はCCL2の量、図13はIL−10の量をそれぞれ示す。
【0062】
[比較例7]
グリチルリチンを共存させなかったこと以外は、実施例10と同様に、培養上清中におけるCCL2及びIL−10の量を測定した。結果を図12及び13に示す。
【0063】
図12及び13から明らかなように、グリチルリチンは、Gr−1CD11b細胞のCCL2及びIL−10の産生能を共に阻害することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、火傷患者の感染症予防に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン又はその薬学上許容される塩を有効成分とする抗菌ペプチドの産生能復元剤。
【請求項2】
前記抗菌ペプチドがディフェンシン又はカセリシジンである請求項1に記載の抗菌ペプチドの産生能復元剤。
【請求項3】
錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤、液剤、吸入剤、坐剤及び注射剤から選択される形態である請求項1に記載の抗菌ペプチドの産生能復元剤。
【請求項4】
グリチルリチン又はその薬学上許容される塩を有効成分とする日和見感染防御剤。
【請求項5】
抗菌ペプチドの産生能復元剤の製造のためのグリチルリチン又はその薬学上許容される塩の使用。
【請求項6】
日和見感染防御剤の製造のためのグリチルリチン又はその薬学上許容される塩の使用。
【請求項7】
抗菌ペプチドの産生能復元剤への使用のためのグリチルリチン又はその薬学上許容される塩。
【請求項8】
日和見感染防御剤への使用のためのグリチルリチン又はその薬学上許容される塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−532831(P2012−532831A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501051(P2012−501051)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/JP2010/062018
【国際公開番号】WO2011/004910
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】