説明

抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤

【課題】抗菌ペプチドの発現増強剤または分泌促進剤を提供すること。
【解決手段】この発明に係る抗菌ペプチドの発現増強剤または分泌促進剤は、アルコール類と脂肪酸類とのエステル類を使用して、例えば、α−ディフェンシン、β−ディフェンシン等のディフェンシン類、カテリシジン(LL−37)、ダームシジン(dermcidin)、LEAP−1(ヘプシジン)、LEAP−2などの抗菌ペプチドの発現を増強またはその分泌を促進することができるので、それを有効成分として含有する飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤に関するものである。更に詳細には、この発明は、アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質またはその誘導体を有効成分とする抗菌ペプチドの発現誘導剤もしくは分泌促進剤またはそれを含む飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物、植物、昆虫、酵母、乳酸菌などのさまざまな生物には、外界からの病原微生物の侵入に対して自己防御するための自己生体防御機構が本来備っていて、アミノ酸が10数個〜50数個程度からなる抗菌ペプチドを生物自らが産生している。これらの抗菌ペプチドは、細菌、真菌などに対してはば広い範囲の抗菌スペクトルを有しているとともに、生物自らが産生していることから生体に対しては副作用も阻害作用も有していないという大きな特長を有している。
【0003】
かかる抗菌ペプチドのうち、ヒト由来の抗菌ペプチドとしては、例えば、ディフェンシン類(α−ディフェンシン、β−ディフェンシン等)、カテリシジン(LL−37)、ダームシジン(dermcidin)、LEAP−1(ヘプシジン)、LEAP−2などが知られている。また、ウシ好中球から単離された、トリプトファンリッチな13アミノ酸からなる広域スペクトル抗菌活性を示す抗菌ペプチドであるインドリシジンの類似体の合成カチオン性抗菌ペプチド、オミガナン
(Ominagan pentahydrochloride) が、カテーテル用局所感染予防薬として開発されている(例えば、非特許文献1参照)。さらに、乳酸菌が産生する抗菌ペプチドである、主に類縁菌に対して抗菌活性を示す数多くのバクテリオシン類の一種であるナイシンが、食品添加物としてすでに使用されている。
【0004】
このように、かかる抗菌ペプチドを人為的に発現増強または分泌促進することができればより一層大きな効果が期待できることになる。したがって、かかる抗菌ペプチドの実用化への応用開発に加えて、種々な材料や手法を使って抗菌活性を有する抗菌ペプチドを発現誘導や分泌促進させる技術の研究開発が行われている。かかる技術としては、例えば、有機酸をヒトβディフェンシンの分泌を促進剤の有効成分として使用する技術(特許文献1)、酵母由来の多糖類含有組成物によってディフェンシン遺伝子を発現誘導する技術(特許文献2)、酵母由来の不溶性画分によってディフェンシン遺伝子を発現誘導する技術(特許文献3)、酵母由来のマンナン含有成分を用いて抗菌ペプチドを発現誘導する技術(特許文献4)、イソロイシン、ロイシンまたはバリンから選ばれた分岐鎖必須アミノ酸の有効成分による抗菌ペプチドの発現誘導に関する技術(特許文献5)、ヨーグルト、甘酒の抽出物、焼酎もろみ、糠味噌濃縮物などの有効成分を使用した抗菌ペプチドの発現誘導技術(特許文献6)などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/027893
【特許文献2】特開2003−197号公報
【特許文献3】特開2003−262号公報
【特許文献4】特開2006−241023号公報
【特許文献5】特開2003−95938号公報
【特許文献6】特開2005−270117号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Selsted, et al.; J.Biol.Chem.267:4292,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、様々な化合物を用いて抗菌ペプチドの発現誘導活性ならびに分泌促進活性を調べた結果、母乳由来の脂質であるアラキドン酸グリセリンエステル類が抗菌ペプチドの発現誘導活性ならびに分泌促進活性を有していることを見出して、この発明を完成した。
【0008】
したがって、この発明は、アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を有効成分とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供することを目的としている。
【0009】
この発明は、その好ましい態様としては、その有効成分が、炭素原子数1〜20の脂肪族飽和アルコール類、脂肪族不飽和アルコール類、脂環式アルコール類または芳香族アルコール類から選ばれるアルコール類と、炭素原子数1〜30の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸から選ばれる脂肪酸とのエステル類からなる抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供することを目的としている。この発明の更に好ましい態様としては、上記エステル類が、アラキドン酸グリセリンエステル、オレイン酸エチルエステル、ベヘン酸グリセリンエステル、ステアリン酸グリセリンエステルなどである抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供することを目的としている。
【0010】
この発明の別の好ましい態様としては、上記抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤において、該抗菌ペプチドが、生体内で産生される生体防御作用を有する抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供することを目的としている。
【0011】
また、この発明の別の形態は、アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を用いて抗菌ペプチドの発現を誘導または分泌を促進することからなる抗菌ペプチドの発現誘導方法または分泌促進方法を提供することを目的としている。
【0012】
さらに、この発明は、その別の形態として、上記抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を成分として含有する飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物を提供することを目的としている。
【0013】
なお、本明細書に使用する「飲食品組成物」という用語は、この発明に係る抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を飲食品素材と配合してまたは飲食品と共に摂取することによって、上記ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤の作用により抗菌ペプチドを生体内発現誘導または分泌促進できる組成物を意味するものであつて、飲食品を特に限定する意味で用いているのではない。また、本明細書に使用する「医薬品組成物」という用語にしても、上記「飲食品組成物」という用語と同様に、この発明に係る抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を単独の医薬成分としてまたはその他の医薬品と併用して投与(例えば、内用、外用など)することによって、上記ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤の作用により抗菌ペプチドを生体で発現誘導または分泌促進できる組成物を意味するものであつて、医薬品を特に限定する意味で用いているのではない。さらに、本明細書に使用する「化粧品組成物」という用語にしても、上記用語と同様に、この発明に係る抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を化粧品成分に配合してまたは化粧品成分と共に使用することによって、上記ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤の作用により抗菌ペプチドを生体、例えば皮膚などから発現誘導または分泌促進できる組成物を意味するものであつて、化粧品を特に限定する意味で用いているのではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、この発明は、アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を有効成分として含有する抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供する。
【0015】
この発明は、その好ましい態様として、その有効成分が、炭素原子数1〜20の脂肪族飽和アルコール類、脂肪族不飽和アルコール類、脂環式アルコール類または芳香族アルコール類から選ばれるアルコール類と、炭素原子数1〜30の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸から選ばれる脂肪酸とのエステル類からなる抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供する。
【0016】
この発明は、そのより好ましい態様として、上記抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤であって、該アルコール類がグリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコールまたはヘキシルアルコールであり、また該脂肪酸が酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの飽和脂肪酸もしくはオレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸である抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供する。
【0017】
この発明は、その更に好ましい態様として、上記エステル類が、アラキドン酸グリセリンエステル、オレイン酸エチルエステル、ベヘン酸グリセリンエステル、ステアリン酸グリセリンエステルなどである抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供する。
【0018】
この発明は、その別の好ましい態様として、上記抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤であって、該抗菌ペプチドが、生体内で産生される生体防御作用を有するペプチドである抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を提供する。
【0019】
この発明は、その別の形態として、上記アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を用いて抗菌ペプチドの発現を誘導または分泌を促進することからなる抗菌ペプチドの発現誘導方法または分泌促進方法を提供する。
【0020】
また、この発明は、その別の形態として、上記抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を含有する飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係る抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤は、脂質を用いて抗菌ペプチドの発現を誘導または分泌を促進できることから、飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物として使用できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明に係る抗菌ペプチドの発現誘導剤および/または分泌促進剤は、アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を有効成分として含んでいる。
【0023】
この発明に使用できるアルコール類としては、炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐鎖状の脂肪族飽和アルコール類、脂肪族不飽和アルコール類、脂環式アルコール類または芳香族アルコール類が挙げられる。脂肪族飽和アルコール類としては、例えば、グリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどが挙げられる。脂肪族不飽和アルコール類としては、例えば、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコールなどが挙げられる。脂環式アルコール類としては、例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。芳香族アルコール類としては、例えば、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが挙げられる。これらのうち。好ましいアルコール類としては、例えば、グリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコールなどが挙げられる。
【0024】
一方、脂肪酸としては、炭素原子数2〜30の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が使用できる。飽和脂肪酸は、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ヘプタコサン酸などが挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、プロピオール酸、ステアロール酸などが挙げられる。これらのうち、好ましい脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの飽和脂肪酸またはオレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0025】
この発明で使用できる脂質を構成するアルコール類と脂肪酸とのエステル類は、天然由来のものであっても、化学合成したものであっても、特に限定されることなく使用することができる。天然由来のエステル類を使用するか、または化学合成のエステル類を使用するかは、使用目的などにより適宜選択するのがよい。上記エステル類を化学合成して調製するには、例えば、上記アルコール類と脂肪酸とを当該技術分野で慣用されているエステル化反応によって製造することができる。つまり、エステル類は、アルコール類と脂肪酸から脱水してエステル類化することにより、アルコール類と脂肪酸の酸塩化物もしくは酸無水物とを反応させてエステル類化することなどにより製造することができる。このようにして得られたエステル類は、単独でもまたはその他と組み合わせても有効成分として使用することができる。
【0026】
したがって、この発明においては、好ましい態様のエステル類としては、アラキドン酸グリセリンエステル、ギ酸メチルエステルなどが挙げられるが、特に生物由来のエステル類、例えば、アラキドン酸グリセリンエステル、オレイン酸エチルエステル、ベヘン酸グリセリンエステル、ステアリン酸グリセリンエステル、そのうちでも母乳由来のアラキドン酸グリセリンエステルなどが特に好ましい。
【0027】
上記したように、この発明に係る抗菌ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤は、脂肪酸とアルコール類とのエステル類を有効成分として含む飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物として使用することができる。
【0028】
この発明に係る飲食品組成物は、特に保健機能食品、栄養補助食品、健康食品などの飲食品として使用することができ、また、適切な飲食品素材および食品衛生上許容される各種食品添加物などを適宜添加して所望の形態に調製することができる。使用できる飲食品素材としては、特に限定されるものではなく、使用目的などに適っているものであればいずれも使用することができ、その形状にしても特に限定されるものではなく、例えば、固体状、半固体状または液状であってもよい。使用できる食品添加物としても、特に限定されるものではなく、例えば、賦形剤、着色料、甘味料、酸化防止剤、酸味料、ビタミン類などを使用することができる。したがって、この発明の飲食品組成物は、その種類、形態など特に限定されるものではなく、使用目的などに応じて適宜選択して使用することができ、例えば、固形状、液体状、ゾル状、ゲル状、粉末状、顆粒状などの種々の状態で使用することができる。また、例えば、パン、麺類、シリアル等の穀類加工品、キャンディー、クッキー、せんべい、ビスケット、グミ、ゼリー、キャラメル、ガム、トローチ等の菓子類、チーズ、ヨーグルト、乳飲料等の乳製品、各種スープ類、各種タレ、ソース、ドレッシング類、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料、茶類、栄養飲料等の飲料などとして使用することができる。
【0029】
上記飲食品組成物において、抗菌ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤の混合割合は、特に限定されるわけではないが、使用目的、有効成分の種類、対象者の年齢や性別などに応じて適宜設定するのがよく、上記飲食品組成物の重量に対して、上記抗菌ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤が、一般的には、約0.01〜10重量%程度がよく、約0.1〜5重量%が好ましい。
【0030】
上記抗菌ペプチド発現誘導剤または分泌促進剤を有効成分とする飲食品組成物として使用する場合、その有効成分の1日摂取量は、飲食品の種類や形状等、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別などに応じて適宜設定するのがよく、例えば約0.1mg以上、好ましくは約0.5〜1000mgであるのがよい。
【0031】
この発明に係る医薬品組成物は、医薬品や医薬部外品などとして使用することができる。この発明の医薬品組成物の有効成分であるエステル類は、それ自体抗菌ペプチドの発現増強または分泌促進する作用効果を示すので、それ自体で抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤として医薬品や医薬部外品などとして適用することができる。また、この発明の医薬品組成物は、適用目的などによっては、その他の医薬品や医薬部外品などと配合しても使用することもできる。さらに、配合できる医薬品や医薬部外品などは、使用目的などに応じて適宜変えることができ、その種類は特に限定されるものではない。
【0032】
この発明において、抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤を含む医薬品組成物は、上記有効成分に加えて、薬理学的に許容される基剤、担体、添加剤などを薬理学的に許容される用量で配合して、所望の製剤に調製することができる。その製剤の剤形にしても、特に限定されるものではなく、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤、トローチ、フィルム剤、シロップ剤、溶液、懸濁液、乳濁液等の液体製剤、軟膏、ゲル、クリーム、ローション、スプレー剤などが挙げられる。また、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料などの薬理学的に許容される各種添加剤を配合することができる。さらに、上記医薬品組成物中の上記抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤の配合割合については、有効成分の種類、組成物の形態、対象者の年齢や性別などに応じて、適宜設定することができるが、例えば、上記組成物の総重量に対して、上記有効成分は、総量で約0.01重量%〜99重量%、好ましくは0.05〜99重量%となる割合がよい。
【0033】
この発明の抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤を有効成分として含有する医薬品組成物は、その用途に応じて適切な形態で投与され、例えば、経口投与、または静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹膜内投与、噴霧、塗布等の非経口投与により投与することができる。また、その添加量は、使用目的、患者の年齢・体重などに応じて適宜選択できるが、通常、1回当りの投与量が該組成物換算で約0.1〜1000mg、好ましくは約1〜100mgとなるように添加することが好ましい。さらに、この発明の医薬品組成物の一日当たりの投与量としては、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、組成物の形状、投与方法などに応じて適宜変えることができるので、その有効成分の有効量は、例えば、1回当たりの投与量として、約0.1mg〜100mgを、一日当たり1回から数回程度投与するのがよい。
【0034】
この発明に係る抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤を含む化粧品組成物は、化粧品として好適に使用され、使用される化粧品としても特に限定されるものではなく、例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パックなどの基礎化粧品、洗髪用化粧品、育毛剤、石鹸、液体ボディ洗浄料、ハンドケア製品、防臭化粧品、脱色剤・除毛剤、浴用剤、歯磨類、口中清涼剤などが挙げられる。
【0035】
この発明の化粧品組成物には、化粧品としての上記有効成分に加えて、化粧品として通常配合される基剤、担体、添加物などの化粧品成分が適宜配合される。具体的には、かかる化粧品成分としては、例えば、油脂、ロウ類、高級脂肪酸、高級アルコール類、シリコーン類などの油性原料、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが使用できる。その他、ビタミン類、アミノ酸類、防腐・抗菌・殺菌剤、pH調整剤、安定化剤、保存剤、等張化剤、分散剤、吸着剤、崩壊補助剤、湿潤剤、防湿剤、着色料、香料、芳香剤、可溶化剤、溶解補助剤、発泡剤などの化粧品に通常配合される添加剤なども使用することができる。
【0036】
この発明の化粧品組成物中の上記発現増強剤または分泌促進剤の配合割合は、上記組成物の形態、有効成分の種類、対象者の年齢や性別などに応じて適宜設定することができる。一例として、上記有効成分の量は、上記組成物の総重量に対して、約0.001重量%以上、好ましくは約0.005〜99重量%程度の割合であるのがよい。
【0037】
この発明のヒトβディフェンシン分泌促進剤は、皮膚や粘膜に適用されることによって、βディフェンシン分泌促進作用を発揮することができる。当該ヒトβディフェンシン分泌促進剤を適用する量並びに回数については、有効成分の種類や濃度、使用者の年齢や性別、適用形態、期待される程度等に応じて、適宜設定される。例えば、ヒトβディフェンシン分泌促進剤の有効成分0.1mg以上、好ましくは0.5〜1000mgを、一日に1〜数回程度、皮膚や粘膜に適用すればよい。
【0038】
次に、この発明を実施例にて詳細に説明するが、この発明は以下の実施例に一切限定されるものではなく、また以下の実施例は、この発明を一切限定する意図で記載するものではなく、この発明を具体的に説明するために例示的に記載するものにすぎないと理解されるべきである。
【実施例1】
【0039】
ディフェンシンの発現誘導・分泌促進
母乳由来の2−アラキドン酸グリセリンエステルを、Caco-2細胞を含む培地に添加してから24時間後と48時間後に、Caco-2細胞外の培地中のα−ディフェンシン2の分泌量を測定した。α−ディフェンシン2の分泌量は、2−アラキドン酸グリセリンエステルを添加した時に比べて、24時間後には27倍、48時間後には43倍に増加していた。
【実施例2】
【0040】
カテリシジン(LL−37)の発現誘導・分泌促進
母乳由来の2−アラキドン酸グリセリンエステルを、Caco-2細胞を含む培地に添加してから24時間後と48時間後に、Caco-2細胞外の培地中のカテリシジン(LL−37)の分泌量を測定した。カテリシジン(LL−37)の分泌量は、2−アラキドン酸グリセリンエステルを添加した時に比べて、24時間後には11倍、48時間後には32倍に増加していた。また、カテリシジン(LL−37)は、百日咳菌(Bordetella
pertusis)の増殖を抑制することを示した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明に係る抗菌ペプチド発現増強剤または分泌促進剤は、飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物の有効成分として使用できるから、飲食品、医薬品ならびに医薬部外品、化粧品などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール類と脂肪酸とのエステル類からなる脂質を有効成分とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤であって、前記アルコール類が炭素原子数1〜20の脂肪族飽和アルコール類、脂肪族不飽和アルコール類、脂環式アルコール類または芳香族アルコール類であり、前記脂肪酸が炭素原子数1〜30の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸であることを特徴とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤。
【請求項3】
請求項1に記載の抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤であって、前記アルコール類がグリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコールまたはヘキシルアルコールであり、前記脂肪酸が酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの飽和脂肪酸もしくはオレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸であることを特徴とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発現誘導剤または分泌促進剤であって、前記エステル類は、アラキドン酸グリセリンエステル、オレイン酸エチルエステル、ベヘン酸グリセリンエステルまたはステアリン酸グリセリンエステルであることを特徴とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤。
【請求項5】
請求項1に記載の抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤であって、前記抗菌ペプチドが、生体内で産生される生体防御作用を有するペプチドであることを特徴とする抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の脂質を用いて抗菌ペプチドの発現を誘導または分泌を促進することを特徴とする抗菌ペプチドの発現誘導方法または分泌促進方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の抗菌ペプチドの発現誘導剤または分泌促進剤を含有することを特徴とする飲食品組成物、医薬品組成物または化粧品組成物。

【公開番号】特開2010−270030(P2010−270030A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121853(P2009−121853)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】