説明

抗菌ペプチド系に対する作動薬

これまでは同じ目的では使用されなかった短鎖脂肪酸(SCFA)およびSCFAのグリセロールエステルが、生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによって動物(ヒトを含む)における微生物感染症を治療、予防または抑制するための医薬として使用するために提供される。好ましい化合物としては、フェニル置換短鎖脂肪酸(SCFA)誘導体が挙げられる。分泌促進物質有効量の本発明の化合物を含む薬品の投与による、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症を含めた微生物感染症を治療、予防または抑制するための方法および組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生得的な抗菌ペプチド系を刺激するための薬物として活性であり、かつ抗菌薬として使用することができる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性のペプチドおよびタンパク質は、生得的な生体防御において重要な役割を果たしており、宿主と外部環境との間の最初のバリアを形成する粘膜表面で特に重要であると考えられている。このようなペプチドは、結腸上皮で大量に見出される。当該ペプチドは、内在性の抗生物質と考えることができ、緊急の防御エフェクターとして自然界に広く存在する。それらは、刺激の際の活性化に備えて主に顆粒球の液胞中で貯蔵されるか、または上皮細胞によって粘膜および他の表面上へと直接分泌される。
【0003】
ヒトの抗菌ペプチドは同定されており、LL−37(好中球、上皮細胞およびリンパ球に存在する37残基ペプチドである)と呼ばれている。単離されたLL−37および化学合成されたLL−37はともにインビトロで抗菌活性を示す。
【0004】
結腸上皮におけるLL−37発現を下方制御する赤痢菌属の細菌など、特定の細菌は抗菌ペプチドバリアを乗り越えるための機構を進化させた。
【0005】
Rabbaniら(非特許文献1)は、消化管における発酵産物として生じる、天然に存在する短鎖脂肪酸(SCFA;60:30:40の比の酢酸、プロピオン酸、および酪酸)を研究した。この著者らは細菌性赤痢のウサギモデルを使用した。この著者らは、急性細菌性赤痢に罹患したウサギへと結腸への注入により与えられた当該混合物が臨床的、病理的、および細菌学的特徴を改善すると報告した。
【0006】
Haseら(非特許文献2)は、サルモネラ血清型Dublinまたは腸管組織侵入性大腸菌を用いたHCA−7細胞のインビトロでの感染がLL−37/hCAP18 mRNA発現をわずかに上方制御すると報告した。この著者らは、分化したヒトの結腸上皮はLL−37/hCAP18を生得的な防御分子のそのレパートリーの一部として発現すると結論付けた。
【0007】
Schauberら(非特許文献3)は、インビボおよびインビトロにおけるLL−37発現に対する天然に存在するSCFAの効果を研究した。この著者らは、酪酸塩、イソ酪酸塩およびプロピオン酸塩への曝露の後、LL−37 mRNAの発現はインビトロで結腸細胞において増加すると報告した。この著者らは、腸管病原性の微生物に対する粘膜の保護にとって非常に重要である共生の腸内細菌叢での増加した抗菌ペプチドの発現という可能性のある結果については慎重である。内在性の抗生物質の活性の病理的な増加はその場合は当該宿主にとっては有益ではないであろうが有害な結果をもたらすかもしれないと、この著者らは注記している。
【0008】
Raqibら(非特許文献4)は、ウサギの酪酸塩処置は、臨床上の疾病の減少および便中の細菌量の減少ならびに表面上皮におけるCAP−18(LL−37のウサギ相同体)の著しい上方制御を生じると報告した。
【0009】
他の分子も、天然のデフェンシンを刺激することにおけるその利用可能性について研究されてきた。
【0010】
特許文献1(Magainin Pharmaceuticals)は新しく単離されたアミノステロール化合物を記載しており、そのアミノステロール化合物に基づく医薬組成物が記載されている。種々の障害、例えば微生物感染症の治療のための方法もまた、記載されている。
【0011】
特許文献2(Fehlbaumら)は、デフェンシンの産生を刺激するための、イソロイシンまたはその活性な異性体もしくは類似体の使用を記載する。その請求項は、とりわけ、酪酸塩またはその活性な誘導体である1つのそのような類似体に言及していることに留意されたい。しかしながら、酪酸塩が試験されたとき、それは同様の濃度においてイソロイシンよりも活性が低いように見えた(文献の中の図7を参照)。
【0012】
特許文献3(Zasloff)は、哺乳類の身体(ヒトを含む)の胃腸管の中の病原生物を減少または排除するために、パネート細胞を刺激して、天然の抗菌剤(ペプチドを含む)を放出するためのイソロイシン化合物の使用を記載する。この場合、活性なイソロイシン化合物は分泌促進物質として利用される。「イソロイシン化合物」は、「イソロイシン酪酸塩」を含むと考えられるが、この化合物は記載されておらず、また試験もされていない。
【0013】
特許文献4(Zasloff)は、イソロイシン、その活性な異性体、およびそれらの活性な類似体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有する薬学的に許容できる組成物を、微生物をブロックする量で真核細胞表面へと付与することにより、哺乳動物において真核細胞表面への微生物の付着をブロックする方法を記載する。イソロイシンの活性な類似体は、「イソロイシン酪酸塩」を含むと考えられるが、この化合物は記載されておらず、また試験もされていない。
【0014】
特許文献5(Stahle)は、慢性潰瘍、およびアトピー性皮膚炎などのLL−37が欠乏した状態の治療のための抗菌効果を有する医薬の製造のための、hCAP18を特異的に勝つ直接的に上方制御することができるビタミンD化合物の使用を記載する。
【0015】
特許文献6(GALLO)は、遺伝子発現、およびカテリシジン、1,25(OH)ビタミンD3(1,25D3)による生得的な免疫応答を調節するための方法および組成物を記載する。その化合物は酪酸塩またはトリコスタチンAを含めた非特異的ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)と一緒に試験される。
【0016】
Hataら(非特許文献5)は、経口によるビタミンD3がアトピーの患者におけるカテリシジンの誘導の相対的欠乏を克服することができるかどうかを調べるために、14人の正常な対照および軽度から重篤のアトピー性皮膚炎に罹患した14人のアトピーの被験者が経口によるビタミンD3で処置される研究を記載した。4000 IU/日の経口ビタミンDの21日間の補給の後、AD病変皮膚は、統計的に有意なカテリシジン発現の増加を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2000/09137号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0076393号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0109582号明細書
【特許文献4】米国特許第7311925号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0038374号明細書
【特許文献6】国際公開第2008/073174号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Rabbaniら、「Short−Chain Fatty Acids Improve Clinical,Pathologic,and Microbiologic Features of Experimental Shigellosis」、The Journal of Infectious Diseases、1999年、第179巻、390−7頁
【非特許文献2】Haseら、「Cell Differentiation Is a Key Determinant of Cathelicidin LL−37/Human Cationic Antimicrobial Protein 18 Expression by Human Colon Epithelium」、INFECTION AND IMMUNITY、2002年2月、第70巻、第2号、953−963頁
【非特許文献3】Schauberら、「Expression of the cathelicidin LL−37 is modulated by short chain fatty acids in colonocytes:relevance of signalling pathways」、Gut 2003年、第52巻、735−741頁
【非特許文献4】Raqibら、「Improved outcome in shigellosis associated with butyrate induction of an endogenous peptide antibiotic」、Proc.Natl.Acad.Sci. 2006年、第103巻、9178−9183頁
【非特許文献5】Hataら、「Administration of oral vitamin D induces cathelicidin production in atopic individuals」、J ALLERGY CLIN IMMUNOL、2008年、第122巻、第4号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記の開示にもかかわらず、例えば消化管におけるこの生得的な免疫応答を高める際に使用するための化合物または化合物の組み合わせを提供することは、当該技術分野への貢献をもたらすであろうということが分かるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の議論からわかるように、当該技術分野における刊行物は、共生の腸内細菌叢に対するSCFA化合物の潜在的な可能性に起因して、ヒトの消化管における内在性の抗生物質の効果を刺激するSCFA化合物の、可能性のある有害な結果にはずっと慎重であった。加えて、例えば酪酸塩は実務上の欠点(特に、不快な臭いおよび味)を有し、これが酪酸塩を医薬品用途には不適なものにしていることが知られていた。これらの理由は、SCFAの効果はヒトにおいて当該技術分野で研究されてこず、皮膚においてビタミンDを使用することに、明らかにより大きい関心が払われてきたという事実を説明するかも知れない。
【0021】
多くの薬学的に許容できるSCFA誘導体およびプロドラッグが、ヒトの細胞株において生得的な抗菌ペプチド系を刺激するための薬物として活性であり、疾患の動物モデルにおいて予防的および治療用の抗菌薬として使用することができるということを、本発明者らは見出した。これらの薬学的に許容できるSCFA誘導体は、(臭いおよび/または味の点で)酪酸塩よりも許容できる可能性がある。これらの知見は、ヒトの疾患の治療における既存の抗生物質または他の抗菌戦略を置き換えるかまたはそれらを補う上でのこれらの化合物の使用について深い含意を有する。
【0022】
未同定の薬物が気管支の上皮細胞株VA10におけるカチオン性抗菌ペプチド(CAMP)およびヒトβ−デフェンシン1(hBD−1)遺伝子発現を刺激したということを記載する1つの要約が以前から利用可能である(「Induction of Antimicrobial Peptide Gene Expression by a approved drug in a Bronchial Epithelial Cell Line」;Jo’nas SteinmannおよびGuomundur Hrafn Guomundsson, Institute of Biology,University of Iceland,Sturlugata 7,101 Reykjavik,Iceland)。
【0023】
本願で主張される優先日の後、4−フェニル酪酸塩(PBA)が気管支の上皮細胞株におけるカテリシジン抗菌ペプチド遺伝子発現を刺激するということを初めて示すポスターが公開された(「Induction of Antimicrobial Peptide Gene Expression in a Bronchial Epithelial Cell Line」;Jonas SteinmannおよびGuomundur Hrafn Guomundsson Institute of Biology,University of Iceland,101 Reykjavik,Iceland;2008年3月15日)。
【0024】
フェニル酪酸ナトリウムは公知の医薬である。例えば、それは、Ucyclyd Pharma(米国、ハントバレー(Hunt Valley))により商標名ブフェニール(Buphenyl)で、およびSwedish Orphan International(スウェーデン)によりAmmonapsとして市販されてきた。フェニル酪酸ナトリウムは、尿素サイクル障害を治療するために使用されてきた(Batshawら (2001) J.Pediatr. 138(補遺1):S46−54;考察 S54−5)。Scandinavian Formulas,Inc.、ペンシルベニア州、セラーズビル(Sellersville)は、臨床試験用にフェニル酪酸ナトリウムを世界中に供給している。フェニル酪酸ナトリウムは、いくつかの鎌状赤血球障害の治療(Blood Products Plasma Expandersand Haemostatics)、ならびに悪性の神経膠腫および急性骨髄性白血病における潜在的な分化誘導剤としての使用についても研究中である。フェニル酪酸ナトリウムは、ΔF508−嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を細胞膜へと通過させ(traffic)、インビトロおよびインビボでCF肺細胞の細胞膜においてCFTR塩化物の機能を回復させる能力に起因して、嚢胞性線維症の病理に関しても研究されてきた(Roqueら J Pharmacol Exp Ther. 2008年9月;326(3):949−56。2008年6月23日電子出版)。その文献では、フェニル酪酸は体内でβ−酸化によってフェニル酢酸へと代謝されるプロドラッグであると考えられている。
【0025】
上記の記載にもかかわらず、本発明に先立って、PBAは、本願で特許請求される使用については公知ではなく、示唆もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】様々な本発明の薬剤を用いた処置の際の、肺上皮細胞(VA10)における(LL−37をコードする)CAMP mRNAレベルの誘導倍率。カラムcは対照(未処置の細胞)を表し、カラム3はビタミンD3(1,25−ジヒドロキシビタミンDまたは1,25(OH)2D)で処置された細胞の陽性対照を表し、カラム1は酪酸ナトリウムであり、カラム2は4−フェニル酪酸ナトリウムで処置された細胞である。細胞は4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDでの刺激の24時間後に回収され、mRNAが単離された。リアルタイム逆転写PCRの結果は、ヒトのカテリシジン遺伝子の発現が4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDにより処置によってどのように影響されるかを示す。
【図2】酪酸塩(BA)およびPBA誘導体によるCAMP mRNA発現の誘導。A)利用された化学物質である酪酸塩(BA) 4mM、4−フェニル酪酸塩(PBA) 4mM、α−メチルヒドロケイ皮酸塩(hydrocinnamate)(ST7) 4mM、および2,2−ジメチル−酪酸塩(ST20) 4mMの構造。B)示された化学物質による24時間のCAMP mRNA発現の誘導。
【図3】PBAによるCAMP遺伝子mRNA発現の誘導。A)VA10細胞は、示された濃度のPBAまたは溶媒(対照)を用いて24時間刺激された。B)VA10細胞は、4mM PBAを用いて刺激されたか、または溶媒のみで処置され、示された時間後に回収された。C)A498、HT−29およびU937細胞は、4mM PBAまたは溶媒のみを用いて刺激され、示された時間後に回収された。CAMP mRNAレベルは、リアルタイムRT−PCRによって測定された。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。この正規化されたデータは、少なくとも3つの独立の実験から得た平均+SEとしてプロットされている。
【図4】図1について上記したとおりに測定された、肺上皮VA10細胞におけるCAMP mRNA発現に対するビタミンDおよび4−フェニル酪酸ナトリウムによる刺激の組み合わせ効果。カラムは以下のとおりである:C=対照;1=4−フェニル酪酸ナトリウムのみ;2=ビタミンDのみ;3=ビタミンDと一緒に4−フェニル酪酸ナトリウムを用いた処置。
【図5】PBA(4mM)および1,25(OH)(20nM)によるCAMP mRNAおよびプロ−LL−37発現の相乗的な誘導のさらなる実証例。A)VA10細胞はPBA(4mM)、1,25(OH)(20nM)または溶媒(対照)を用いて24時間刺激された。CAMP mRNAレベルは、リアルタイムRT−PCRによって測定された。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。正規化されたデータは、3つの独立の実験から得た平均+SEとしてプロットされている。観察された差異は、有意である(P<0.05)。B)VA10細胞は、PBA(4mM)、1,25(OH)(20nM)または溶媒(対照)を用いて24時間刺激された。LL−37については全細胞可溶化物および上清がウエスタンブロットによって分析された。3つのうちの1つの代表的なブロットが示されている。
【図6】A)4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDを用いたLL−37をコードする遺伝子の誘導は、MEK/ERKキナーゼ経路を阻害する阻害剤U0126により影響を受ける。C=対照;1=4−フェニル酪酸ナトリウムのみ;2=ビタミンDのみ。白抜きのカラムは、阻害剤U0126を用いた処置を表す。黒いカラムは当該阻害剤を用いない処置を示す。これは、このシグナル伝達経路はビタミンDおよびフェニル酪酸塩によって異なって影響を受けるということを示す。B)図中に示されるMAPキナーゼ阻害剤による、PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現の阻害のさらなる実証例。VA10細胞は、20μMの示された阻害剤の存在下または不存在下で、4mM PBAで処置された。CAMP mRNAレベルは、リアルタイムRT−PCRによって測定された。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。正規化されたデータは、3つの独立の実験から得た平均+SEとしてプロットされている。*:P<0.05;**:P<0.01;***:P<0.001。
【図7】CAP−18(LL−37のウサギ相同体)が健康なウサギの表面上皮細胞に発現され、赤痢菌感染がこのペプチドの下方制御を生じ、そしてこの下方制御はトリブチリルグリセロールの経口摂取によって抑制することができるということを示す、免疫組織化学。
【図8】シクロヘキシミドによる、PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現の阻害は、翻訳が必要であるということを示す。VA10細胞は、20μg/mlのシクロヘキシミドの存在下または不存在下で、4mM PBAまたは酪酸塩(BA)で処置された。CAMP mRNAレベルは、リアルタイムRT−PCRによって測定された。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料(溶媒)中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。正規化されたデータは、少なくとも3つの独立の実験から得た平均+平均値の標準誤差としてプロットされている。*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001。
【図9】VA10細胞は、4mMのPBAまたは溶媒のみ(対照)を用いて24時間刺激された。ヒストンH3およびH4のアセチル化が、それぞれのアセチル化ヒストンに対する抗体を使用して、定量的ChIPにより分析された。結果は正常なウサギIgGおよび全入力量に対して正規化され、IgGに対する沈殿倍率としてプロットされている。正規化されたデータは、独立の実験(n=3)から得た平均+SEとしてプロットされている。ヒストンのアセチル化において、有意差は観察されなかった。
【図10】PBAによって誘導される発現には、VDRの活性化補助因子は関与しない。VA10細胞は4mMのPBAまたは溶媒のみ(対照)を用いて24時間刺激された。それぞれのVDR活性化補助因子のmRNAレベルは、リアルタイムRT−PCRによって測定された。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。データは対照に対して正規化され、3つの独立の実験から得た平均+SEとしてプロットされている。
【図11】PBAによるhBD−1 mRNA発現の誘導。VA10細胞は4mMのPBAまたは溶媒のみ(対照)を用いて24時間刺激された。hBD−1 mRNAレベルはリアルタイムRT−PCRによって測定された。CAMP誘導が比較のために示されている。個々の試料は全RNA入力量に対して正規化された。結果は、対照試料中の発現に対して正規化され、対照には1という任意の値が与えられた。データは対照に対して正規化され、少なくとも3つの独立の実験から得た平均+SEとしてプロットされている。
【図12】赤痢菌に感染した上皮におけるPBA処置の作用についての提案された機構の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
このように、第1の態様では、本発明は、生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによってヒトおよび動物における微生物感染症を治療、予防または抑制するための医薬として使用するための、式Iによって定められる化合物を提供する。
【0028】
(本発明の化合物)
第1の態様では、本発明は、生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによってヒトおよび動物における微生物感染症を治療、予防または抑制するための医薬として使用するための、式Iaによって定められる化合物
【化1】

(式中、
は、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの薬学的に許容できる塩、COOR、CONH、CONR、または当該化合物のアルデヒド、イミンもしくはアセタールで保護された誘導体、またはトリグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CHOH、またはアミノ酸基CONHCRCOOHもしくはその塩を表し、
mおよびnは各々独立に0または1であり、
1a、R1b、R2a、R2b、R3aおよびR3bは、各々独立に、水素、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基を表し、かつ/または
2aは、隣接するR3aまたはR1aと一緒に、炭素−炭素π結合を表してもよく、かつ/または
2bは、隣接するR3bまたはR1bと一緒に、炭素−炭素π結合を表してもよく、
は、水素、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基であってもよく、
は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、天然に存在するアミノ酸の側鎖であるか、またはCHCHCHNHR、CHCHCHCHNHR、またはCHCHCHNHC(=NH)NHR(式中、Rは水素または3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル基である)から選択され、
かつRがカルボキシルまたはその塩である場合、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの少なくとも1つは、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基から選択される)
を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態では、当該化合物は、式Iの化合物:
【化2】

(式中、好ましくは、
はカルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの薬学的に許容できる塩、COOR、CONH、CONR、または当該化合物のアルデヒド、イミンもしくはアセタールで保護された誘導体、またはトリグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CHOH、またはアミノ酸基CONHCRCOOHもしくはその塩を表し、
2aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表すが、ただしRがカルボキシルもしくはその塩である場合、R3aは水素ではなく、
3aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
xは単結合、二重結合または三重結合を表すか、
またはx−R3aはまとめて水素を表し、その場合、Rは好ましくはCOOR、CONH、CONR、またはトリグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CHOHであり、
は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、CHCHSCH、CHCHCHNHR、CHCHCHCHNHR、CHCHCHNHC(=NH)NHR(式中、Rは水素または3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル基である)
を表す)
であってもよい。
【0030】
式Iの化合物は、R1aおよびR1bがともに水素であり、mおよびnがともに1であり、R2bおよびR3bがともに水素であるかまたは一緒に「x」の位置でπ結合を形成する式Iaの化合物である。R2aおよびR3aも一緒にπ結合を形成する場合、位置「x」は二重結合を表す。
【0031】
1a、R1bおよびR2bがすべて水素であり、mが0であり、nが1であり、かつRが水素である式Iaの化合物は、x−R3aがまとめて水素を表す式Iの化合物としても表すことができる。
【0032】
式Iの化合物では、「x」は好ましくは単結合である。
【0033】
についての好ましい選択肢
特定の好ましい実施形態では、本発明の化合物は、Rがカルボキシル基、またはその薬学的に許容できる塩を表す場合のカルボン酸である。Rがカルボキシルまたはその塩である場合、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの少なくとも1つは水素以外の他の置換基である。他の好ましい実施形態では、Rはエステルまたはアミドなどのカルボン酸誘導体である。
【0034】
式IIaによって表されるような、いくつかのそのような実施形態では、Rは、式COORのエステル基(式中、Rは、1〜10個の炭素原子、好ましくは3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または例えばフェニルもしくはベンジルなどの置換もしくは非置換のアリール基を表す)である。特に好ましいR基はメチルおよびエチルである。
【化3】

【0035】
いくつかの好ましい実施形態では、Rはトリグリセリドエステル部分またはジグリセリドエステル部分から選択されるエステルである。
【0036】
がトリグリセリド部分である場合、本発明の化合物は、以下の一般式(IIb):
【化4】

を有する。Rがジグリセリド部分である場合、本発明の化合物は以下の一般式(IIe):
【化5】

を有する。特に興味がもたれる実施形態としては、三酪酸グリセリルまたは三プロピオン酸グリセリルが挙げられる。他の好ましい実施形態は、1以上のフェニル置換脂肪酸または上述のものなどの他の短鎖脂肪酸の対応するグリセロールエステルを利用する。このようなグリセリルトリエステルとしては、例えば、酪酸エステルアシル鎖のうちの1以上がフェニルで置換されている三酪酸グリセリル、例えばブタン酸1−ブタノイルオキシ−3−(4’−フェニルブタノイルオキシ)プロパン−2−イル、ブタン酸1,3−(4’,4”−ジフェニル)−ジ(ブタノイルオキシ)プロパン−2−イル、および4−フェニルブタン酸1,3−ジ(ブタノイルオキシ)プロパン−2−イルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
カルボン酸誘導体実施形態であるさらなる実施形態としては、Rが式CONRの基(式中、Rは1〜10個の炭素原子、好ましくは3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または例えばフェニルもしくはベンジルなどの置換もしくは非置換のアリール基を表し、Rは水素、1〜10個の炭素原子、好ましくは3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または例えばフェニルもしくはベンジルなどの置換もしくは非置換のアリール基から選択される)である式(IId)のアミドが挙げられる。
【化6】

ある実施形態では、Rはアミノ酸基であり、この場合、本発明の化合物はRがアミノ酸側鎖である以下の一般式(IIe)の化合物:
【化7】

またはその塩として表されてもよい。いくつかの実施形態ではRは、天然に存在するアミノ酸の側鎖である。
【0038】
例えば、Rは、ロイシンの側鎖(CHCHCHCH)、イソロイシンの側鎖(CH(CH)CHCH)、メチオニンの側鎖(−CHCHSCH)、リジンの側鎖(−CHCHCHCHNH)、またはアルギニンの側鎖(−CHCHCHNHC(=NH)NH)の側鎖であってもよい。いくつかの実施形態では、特にR1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRがすべて水素であり、mおよびnが1である場合、Rはイソロイシン側鎖(CH(CH)CHCH)ではないことが好ましい。
【0039】
あるいは、Rは、リジン側鎖誘導体(−CHCHCHCHNHR)、アルギニン側鎖誘導体(−CHCHCHNHC(=NH)NHR)などの天然に存在するアミノ酸側鎖の誘導体または類似体、または−CHCHCHNHRなどの基(式中、Rは、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表す)であってもよい。
【0040】
有用であると見出されたある実施形態では、本発明の化合物は比較的小さいSCFA誘導体である。例えば、R2aおよびRが水素を表す式Iの化合物。これらの実施形態では、R3aは、好ましくは水素、ヒドロキシル、または置換もしくは非置換のアリール基(フェニルまたはベンジルを含む)であるが、Rがカルボキシルまたはその塩である場合にR3aに当てはまる上記の限定を伴う。置換アリールは、ヒドロキシル置換もしくはアミノ置換のフェニルまたはベンジルであってもよい。
【0041】
好ましい鎖長
いくつかの好ましい本発明の化合物では、mおよびnは各々1である。これらの化合物は、酪酸/酪酸塩誘導体として記載されてもよく、かつ一般式(IIIa):
【化8】

(式中、R、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRはこれまでに定められたとおりである)を有する。
【0042】
他の好ましい化合物では、mは1であり、nは0である。これらの化合物は、プロピオン酸/プロピオン酸塩誘導体として記載されてもよく、かつ一般式(IIIb):
【化9】

(式中、R、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRはこれまでに定められたとおりである)を有する。mが0でありかつnが1であるならば、これもプロピオン酸誘導体を与えることになるということは、理解できる。
【0043】
いくつかの実施形態では、mおよびnはともに0であってもよい。これは、一般式(IIIc)の酢酸/酢酸塩誘導体:
【化10】

として記載されてもよい化合物を与える。
【0044】
好ましい置換基
本発明の好ましい実施形態としては、一般式(IIIa)〜(IIIc)の置換された酪酸、プロピオン酸または酢酸誘導体(式中、Rは上で定められたカルボキシレートまたはその誘導体であり、かつR1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの1以上は、好ましくはアルキル基またはアリール基から選択される、水素以外の置換基である)である化合物が挙げられる。R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの1以上、好ましくは1つは、好ましくはアリール基、最も好ましくはフェニルまたは置換フェニル基である。R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの1つがアリール基である場合、他のものは水素またはアルキル基から選択されることが好ましく、このアルキル基は好ましくはメチルである。
【0045】
最も好ましくは、Rは、アリール基、好ましくはフェニルまたは置換フェニルである。これらの実施形態に係る特定の好ましい化合物は一般式(IVa):
【化11】

を有する。それゆえ、好ましい酪酸誘導体は一般式(IVb):
【化12】

を有する。好ましいプロピオン酸誘導体は一般式(IVc):
【化13】

を有し、好ましい酢酸誘導体は一般式(IVd):
【化14】

を有する。式(IVa)〜(IVd)では、そのフェニル環は、以下でさらに定められる1以上の置換基で任意に置換されていてもよい。好ましい置換基はアルキル、ハライド、ヒドロキシルおよびアミノである。
【0046】
当該カルボキシレート基は、上で示されたようなエステルまたはアミドとして任意に誘導体化されてもよい。これらの実施形態では、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bは、好ましくは水素または1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であり、このアルキル基は好ましくはメチルまたはエチルである。
【0047】
代替の実施形態では、Rは水素であってもよく、かつR1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bのうちの1以上、好ましくは1つは、フェニルまたは置換フェニルなどのアリール基であってもよい。
【0048】
カルボキシレートに対してαの置換基
1aおよびR1bは、好ましくは水素および1〜10個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、このアルキル基は好ましくはメチルまたはエチルである。いくつかの実施形態では、R1aおよびR1bはともにアルキルであってもよいが、R1aおよびR1bのうちの少なくとも1つは水素であることが好ましい。
【0049】
特に、以下の化合物は、本発明によれば有用である:4−フェニル酪酸、3−フェニル酪酸、2−フェニル酪酸、3−フェニルプロピオン酸、2−フェニルプロピオン酸、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸[ST7]、2−メチル−4−フェニル酪酸、または当該化合物のうちのいずれかのものの薬学的に許容できる塩、4−フェニル酪酸メチル、4−フェニル酪酸エチル、3−フェニル酪酸メチル、3−フェニル酪酸エチル、2−フェニル酪酸メチル、2−フェニル酪酸エチル、3−フェニルプロピオン酸メチル、3−フェニルプロピオン酸エチル、2−フェニルプロピオン酸メチル、2−フェニルプロピオン酸エチル、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸メチル、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸エチル、2−メチル−4−フェニル酪酸メチル、および2−メチル−4−フェニル酪酸エチル。
【0050】
これらの化合物の代謝産物も本発明において有用である場合があり、特に酢酸フェニルがそうである。
【0051】
カルボキシレートに対してβの置換基(存在する場合)
実施形態では、R2aおよびR2bのうちの1つまたは両方は、任意にヒドロキシルであってもよい。これは、本発明の化合物がβ酸化などの代謝に対して高められた抵抗性、従って原理上はより長い半減期を有することが所望される場合には、好ましい可能性がある。
【0052】
定義およびさらなる好ましい選択肢
アルキル:
本願明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、特段の記載がない限り、C1〜10アルキル基、つまり脂肪族もしくは脂環式、またはこれらの組み合わせであってよく、直鎖状もしくは分枝状であってよく、かつ飽和、部分不飽和、または完全不飽和であってよい1〜10個の炭素原子を有する炭化水素化合物から1個の水素原子を取り除くことによって得られる一価の部分を指す。特定の例では、C1〜4、C1〜5、C1〜6またはC1〜7アルキル基が好ましい場合がある。
【0053】
飽和直鎖状C1〜10アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル(アミル)およびn−ヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
飽和分枝状C1〜10アルキル基の例としては、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、およびneo−ペンチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
飽和脂環式C1〜10アルキル基(「C3〜10シクロアルキル」基と呼ばれることもある)の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルなどの基、ならびに置換された基(例えば、そのような基を含む基)(メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、ジメチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロプロピルメチルおよびシクロヘキシルメチルなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
不飽和アルキル基は、1以上の二重結合または三重結合、すなわち1以上の炭素−炭素π結合を含有する。1以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和C1〜10アルキル基(「C2〜10アルケニル」基とも呼ばれる)の例としては、エテニル(ビニル、−CH=CH)、2−プロペニル(アリル、−CH−CH=CH)、イソプロペニル(−C(CH)=CH)、ブテニル、ペンテニル、およびヘキセニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
1以上の炭素−炭素三重結合を有する不飽和C1〜10アルキル基(「C2〜10アルキニル」基とも呼ばれる)の例としては、エチニル(ethynyl)(エチニル(ethinyl))および2−プロピニル(プロパルギル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
1以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂環式(炭素環式)C1〜10アルキル基(「C3〜10シクロアルケニル」基とも呼ばれる)の例としては、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、およびシクロヘキセニルなどの非置換の基、ならびに置換された基(例えば、そのような基を含む基)(シクロプロペニルメチルおよびシクロヘキセニルメチルなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
アリール:
本願明細書で使用する場合、用語「アリール」は、特段の記載がない限り、C5〜20アリール基、つまり1つの環、または(例えば、縮合された)2以上の環を有し、かつ5〜20個の環原子を有し、かつ当該環(1つまたは複数個)のうちの少なくとも1つは芳香環であるC5〜20芳香族化合物の芳香環原子から1個の水素原子を取り除くことによって得られる一価の部分を指す。好ましくは、各環は5〜7個の環原子を有する。
【0060】
この環原子は、「カルボアリール基」におけるようにすべて炭素原子であってもよく、この場合は、当該基は簡便に「C5〜20カルボアリール」基と呼ばれることがある。
【0061】
環ヘテロ原子を有しないC5〜20アリール基(すなわちC5〜20カルボアリール基)の例としては、ベンゼンから誘導されるもの(すなわちフェニル)(C)、ナフタレンから誘導されるもの(C10)、アントラセンから誘導されるもの(C14)、フェナントレンから誘導されるもの(C14)、ナフタセンから誘導されるもの(C18)、およびピレンから誘導されるもの(C16)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
縮合環を含みかつその縮合環のうちの1つが芳香環ではないアリール基の例としては、インデンおよびフルオレンから誘導される基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
あるいは、この環原子は、「ヘテロアリール基」におけるように、1以上のヘテロ原子(酸素、窒素、および硫黄が挙げられるが、これらに限定されない)を含んでもよい。この場合、この基は簡便に「C5〜20ヘテロアリール」基と呼ばれることがあり、ここで「C5〜20」は、炭素原子であるかヘテロ原子であるかにかかわらず環原子を表す。好ましくは、各環は5〜7個の環原子を有し、そのうちの0〜4個は環ヘテロ原子である。
【0064】
5〜20ヘテロアリール基の例としては、フラン(オキソール)、チオフェン(チオール(thiole))、ピロール(アゾール)、イミダゾール(1,3−ジアゾール)、ピラゾール(1,2−ジアゾール)、トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、およびオキサトリアゾールから誘導されるCヘテロアリール基;ならびにイソオキサジン、ピリジン(アジン)、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン;例えば、シトシン、チミン、ウラシル)、ピラジン(1,4−ジアジン)、トリアジン、テトラゾール、およびオキサジアゾール(フラザン)から誘導されるCヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
縮合環を含むC5〜20ヘテロアリール基の例としては、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、プリン(例えば、アデニン、グアニン)、ベンゾチオフェン、ベンゾイミダゾールから誘導されるC複素環式基;キノリン、イソキノリン、ベンゾジアジン、ピリドピリジン、キノキサリンから誘導されるC10複素環式基;カルバゾール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフランから誘導されるC13複素環式基;アクリジン、キサンテン、フェノキサチイン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジンから誘導されるC14複素環式基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
任意の置換:
上記のアルキルおよびアリール基は、単独であろうと別の置換基の一部であろうと、それ自体、それら自身および以下に列挙するさらなる置換基から選択される1以上の基で任意に置換されていてもよい。
【0067】
ハロ:−F、−Cl、−Br、および−I。
【0068】
ヒドロキシ:−OH。
【0069】
エーテル:−OR(式中、Rはエーテル置換基、例えば、C1〜7アルキル基(C1〜7アルコキシ基とも呼ばれる。以下で論じられる)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルオキシ基とも呼ばれる)、またはC5〜20アリール基(C5〜20アリールオキシ基とも呼ばれる)、好ましくはC1〜7アルキル基である)。
【0070】
1〜7アルコキシ:−OR(式中、RはC1〜7アルキル基である)。C1〜7アルコキシ基の例としては、−OCH(メトキシ)、−OCHCH(エトキシ)および−OC(CH(tert−ブトキシ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
オキソ(ケト、−オン):=O;カルボニル(>C=O)。置換基としてオキソ基(=O)を有する環状化合物および/または基の例としては、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンなどの炭素環式基;ピロン、ピロリドン、ピラゾロン、ピラゾリノン、ピペリドン、ピペリジンジオン、ピペラジンジオン、およびイミダゾリドンなどの複素環式基;無水マレイン酸および無水コハク酸が挙げられるがこれらに限定されない環状無水物;炭酸プロピレンなどの環状カーボネート;スクシンイミドおよびマレイミドが挙げられるがこれらに限定されないイミド;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、およびε−カプロラクトンが挙げられるがこれらに限定されないラクトン(環状エステル、環の中の−O−C(=O)−);ならびにβ−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン)、δ−バレロラクタム、およびε−カプロラクタムが挙げられるがこれらに限定されないラクタム(環状アミド、環の中の−NH−C(=O)−)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
イミノ(イミン):=NR(式中、Rはイミノ置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である)。エステル基の例としては、=NH、=NMe、=NEt、および=NPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
ホルミル(カルボアルデヒド、カルボキシアルデヒド):−C(=O)H。
【0074】
アシル(ケト):−C(=O)R(式中、Rはアシル置換基、例えば、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアシルまたはC1〜7アルカノイルとも呼ばれる)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルアシルとも呼ばれる)、またはC5〜20アリール基(C5〜20アリールアシルとも呼ばれる)、好ましくはC1〜7アルキル基である)。アシル基の例としては、−C(=O)CH(アセチル)、−C(=O)CHCH(プロピオニル)、−C(=O)C(CH(ブチリル)、および−C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
カルボキシ(カルボン酸):−COOH。
【0076】
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):−C(=O)OR(式中、Rはエステル置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。エステル基の例としては、−C(=O)OCH、−C(=O)OCHCH、−C(=O)OC(CH、および−C(=O)OPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
アシルオキシ(逆エステル):−OC(=O)R(式中、Rはアシルオキシ置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。アシルオキシ基の例としては、−OC(=O)CH(アセトキシ)、−OC(=O)CHCH、−OC(=O)C(CH、−OC(=O)Ph、および−OC(=O)CHPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキシアミド):−C(=O)NRN1N2(式中、RN1およびRN2は独立に、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基である)。アミド基の例としては、−C(=O)NH、−C(=O)NHCH、−C(=O)N(CH、−C(=O)NHCHCH、および−C(=O)N(CHCH、ならびに例えばピペリジノカルボニル、モルホリノカルボニル、チオモルホリノカルボニル、およびピペラジノカルボニルにおけるように、RN1およびRN2が、それらが結合する窒素原子と一緒に、複素環式構造を形成するアミド基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
アシルアミド(アシルアミノ):−NRA1C(=O)RA2(式中、RA1はアミド置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基であり、RA2はアシル置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である)。アシルアミド基の例としては、−NHC(=O)CH、−NHC(=O)CHCH、および−NHC(=O)Phが挙げられるが、これらに限定されない。RA1およびRA2は、例えば、スクシンイミジル、マレイミジルおよびフタルイミジルにおけるように、一緒に環状構造を形成してもよい。
【化15】

【0080】
アシルウレイド:−N(RU1)C(O)NRU2C(O)RA3(式中、RU1およびRU2は、独立に、ウレイド置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である)。RA3は、アシル基について定められるとおりのアシル基である。アシルウレイド基の例としては、−NHCONHC(O)H、−NHCONMeC(O)H、−NHCONEtC(O)H、−NHCONMeC(O)Me、−NHCONEtC(O)Et、−NMeCONHC(O)Et、−NMeCONHC(O)Me、−NMeCONHC(O)Et、−NMeCONMeC(O)Me、−NMeCONEtC(O)Et、および−NMeCONHC(O)Phが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
カルバメート:−NRN1−C(O)−0RO2(式中、RN1は、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基であり、RO2は、エステル基について定められるとおりのエステル基である)。カルバメート基の例としては、−NH−C(O)−O−Me、−NMe−C(O)−O−Me、−NH−C(O)−O−Et、−NMe−C(O)−O−t−ブチル、および−NH−C(O)−O−Phが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
チオアミド(チオカルバミル):−C(=S)NRN1N2(式中、RN1およびRN2は独立に、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基である)。アミド基の例としては、−C(=S)NH、−C(=S)NHCH、−C(=S)N(CH、および−C(=S)NHCHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
テトラゾリル:4個の窒素原子および1個の炭素原子を有する5員の芳香環。
【化16】

【0084】
アミノ:−NRN1N2(式中、RN1およびRN2は、独立に、アミノ置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアミノまたはジ−C1〜7アルキルアミノとも呼ばれる)、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはHまたはC1〜7アルキル基であるか、または「環状」アミノ基の場合には、RN1およびRN2は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、4〜8個の環原子を有する複素環式環を形成する)。アミノ基の例としては、−NH、−NHCH、−NHC(CH、−N(CH、−N(CHCHs)、および−NHPhが挙げられるが、これらに限定されない。環状アミノ基の例としては、アジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノ、モルホリノ、およびチオモルホリノが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
イミノ:=NR(式中、Rは、イミノ置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはHまたはC1〜7アルキル基である)。
【0086】
アミジン:−C(=NR)NR(式中、各Rは、アミジン置換基、例えば、水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはHまたはC1〜7アルキル基である)。アミジン基の例は−C(=NH)NHである。
【0087】
カルバゾイル(ヒドラジノカルボニル):−C(O)−NN−RN1(式中、RN1は、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基である)。アジノ基の例としては、−C(O)−NN−H、−C(O)−NN−Me、−C(O)−NN−Et、−C(O)−NN−Ph、および−C(O)−NN−CH−Phが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
ニトロ:−NO
【0089】
およびニトロソ:−NO。
【0090】
アジド:−N
【0091】
シアノ(ニトリル、カルボニトリル):−CN。
【0092】
イソシアノ:−NC。
【0093】
シアナト:−OCN。
【0094】
イソシアナト:−NCO。
【0095】
チオシアノ(チオシアナト):−SCN。
【0096】
イソチオシアノ(イソチオシアナト):−NCS。
【0097】
スルフヒドリル(チオール、メルカプト):−SH。
【0098】
チオエーテル(スルフィド):−SR(式中、Rは、チオエーテル置換基、例えば、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルチオ基とも呼ばれる)、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。C1〜7アルキルチオ基の例としては、−SCHおよび−SCHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
ジスルフィド:−SS−R(式中、Rは、ジスルフィド置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基(本願明細書においてC1〜7アルキルジスルフィドとも呼ばれる)である)。C1〜7アルキルジスルフィド基の例としては、−SSCHおよび−SSCHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
スルホン(スルホニル):−S(=O)R(式中、Rは、スルホン置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホン基の例としては、−S(=O)CH(メタンスルホニル、メシル)、−S(=O)CF(トリフリル)、−S(=O)CHCH、−S(=O)(ノナフリル(nonaflyl))、−S(=O)CHCF(トレシル(tresyl))、−S(=O)Ph(フェニルスルホニル)、4−メチルフェニルスルホニル(トシル)、4−ブロモフェニルスルホニル(ブロシル)、および4−ニトロフェニル(ノシル(nosyl))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
スルフィン(スルフィニル、スルホキシド):−S(=O)R(式中、Rは、スルフィン置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルフィン基の例としては、−S(=O)CHおよび−S(=O)CHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
スルホニルオキシ:−OS(=O)R(式中、Rは、スルホニルオキシ置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホニルオキシ基の例としては、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
スルフィニルオキシ:−OS(=O)R(式中、Rは、スルフィニルオキシ置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルフィニルオキシ基の例としては、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
スルフアミノ:−NRN1S(=O)OH(式中、Rは、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基である)。スルフアミノ基の例としては、−NHS(=O)OHおよび−N(CH)S(=O)OHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
スルフィンアミノ:−NRN1S(=O)R(式中、RN1は、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基であり、Rは、スルフィンアミノ置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルフィンアミノ基の例としては、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
スルファミル:−S(=O)NRN1N2(式中、RN1およびRN2は独立に、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基である)。スルファミル基の例としては、−S(=O)NH、−S(=O)NH(CH)、−S(=O)N(CH、−S(=O)NH(CHCH)、−S(=O)N(CHCH、および−S(=O)NHPhが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
スルホンアミノ:−NRN1S(=O)R(式中、RN1は、アミノ基について定められるとおりのアミノ置換基であり、Rは、スルホンアミノ置換基、例えば、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である)。スルホンアミノ基の例としては、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)が挙げられるが、これらに限定されない。特別の種類のスルホンアミノ基はスルタムから誘導される基であり、これらの基では、RおよびRのうちの1つはC5〜20アリール基、好ましくはフェニルであり、他方、RおよびRのうちの他方は、C1〜7アルキル基から誘導される二価の基などの、このC5〜20アリール基に結合する二価の基である。そのような基の例としては、
【化17】

が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
ホスホロアミダイト:−OP(ORP1)−NRP2(式中、RP1およびRP2は、ホスホロアミダイト置換基、例えば、−H、(任意に置換された)C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは−H、C1〜7アルキル基、またはC5〜20アリール基である)。ホスホロアミダイト基の例としては、−OP(OCHCH)−N(CH、−OP(OCHCH)−N(i−Pr)、および−OP(OCHCHCN)−N(i−Pr)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
ホスホロアミダート:−OP(=O)(ORP1)−NRP2(式中、RP1およびRP2は、ホスホロアミダート置換基、例えば、−H、(任意に置換された)C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基、またはC5〜20アリール基、好ましくは−H、C1〜7アルキル基、またはC5〜20アリール基である)。ホスホロアミダート基の例としては、−OP(=O)(OCHCH)−N(CH、−OP(=O)(OCHCH)−N(i−Pr)、および−OP(=O)(OCHCHCN)−N(i−Pr)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
多くの場合、置換基はそれ自体が置換されていてもよい。例えば、C1〜7アルコキシ基は、例えば、C1〜7アルキル(C1〜7アルキル−C1〜7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えば、シクロヘキシルメトキシ、C3〜20ヘテロシクリル基(C5〜20アリール−C1〜7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えばフタルイミドエトキシ、またはC5〜20アリール基(C5〜20アリール−C1〜7アルコキシ基とも呼ばれる)、例えばベンジルオキシで置換されていてもよい。
【0111】
アリールまたはアルキル基についての好ましい置換基としては、C1〜10アルキル基、C5〜20アリール基、ヒドロキシル、C1〜7アルコキシ基、ニトロ、アミノ、置換アミノ(上で定められたとおりの−NRN1N2)およびハライドを挙げることができる。
【0112】
異性体、塩、溶媒和物、および保護された形態
特定の化合物は、1以上の特定の幾何異性体、光学異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー形態、エピマー形態、立体異性体、互変異性体、配座異性体、またはアノマー形態(cis体およびtrans体;E体およびZ体;c−体、t−体、およびr−体;endo体およびexo体;R体、S体、およびメソ体;D体およびL体;d体およびl体;(+)および(−)体;ケト体、エノール体、およびエノレート体;syn体およびanti体;シンクリナル体およびアンチクリナル体;α体およびβ体;アキシャルおよびエカトリアル体;舟型、いす型、ツイスト型、エンベロープ型、および半いす型;およびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない)(以後、集合的に「異性体」(または「異性体形態」)と呼ばれる)で存在してもよい。
【0113】
互変異性型についての以下の議論を除いて、構造的(または構成的)異性体(即ち、単に空間における原子の位置によるものではなく、原子間の連結が異なっている異性体)は、本願明細書で使用される用語「異性体」から明確に除外されることに注意されたい。例えば、メトキシ基(−OCH)への言及は、その構造的異性体、ヒドロキシメチル基(−CHOH)への言及と解釈すべきではない。同様に、オルト−クロロフェニルへの言及は、その構造的異性体、メタ−クロロフェニルへの言及と解釈すべきではない。しかしながら、ある種の構造への言及は、その種類内に入る構造的異性体を当然に含むことができる(例えば、C1〜7アルキルはn−プロピルおよびiso−プロピルを含み;ブチルはn−、iso−、sec−およびtert−ブチルを含み;メトキシフェニルはオルト−、メタ−およびパラ−メトキシフェニルを含む)。
【0114】
上記の除外は、例えば、以下の互変異性対:ケト/エノール(下に示す)、イミン/エナミン、アミド/イミノアルコール、アミジン/アミジン、ニトロソ/オキシム、チオケトン/エンチオール、N−ニトロソ/ヒドロキシアゾおよびニトロ/aci−ニトロ、におけるような、例えば、ケト型、エノール型およびエノレート型の互変異性体には関係しない。
【化18】

【0115】
1以上の同位元素置換を有する化合物は、用語「異性体」中に明確に含まれることに留意されたい。例えば、Hは、H、H(D)および、H(T)を含むいずれかの同位元素型であることができ;Cは、12C、13Cおよび14Cを含むいずれかの同位元素型であることができ;Oは、16Oおよび18Oを含むいずれかの同位元素型であることができる、などである。
【0116】
特段の記載がない限り、特定の化合物への言及はすべてのこのような異性体形態を含み、それらの(完全または部分的)ラセミ混合物および他の混合物を含む。このような異性体形態の調製のための方法(例えば、不斉合成)および分離のための方法(例えば、分別晶出およびクロマトグラフィ手段)は、当該技術分野で公知であるか、または本願明細書に教示される方法、もしくは公知の方法を公知の様式で適合させることによって容易に得られるかのいずれかである。
【0117】
特段の記載がない限り、特定の化合物を指すときは、以下で論じられるような、例えばそのイオン形態、塩形態、溶媒和物形態、および保護された形態をも含む。
【0118】
上記活性化合物の対応する塩、例えば薬学的に許容できる塩を調製する、精製するおよび/または取り扱うことが簡便であるかまたは望ましい場合がある。薬学的に許容できる塩の例は、Bergeら、J.Pharm.Sci. 第66巻、1〜19頁(1977)で論じられている。
【0119】
例えば、当該化合物がアニオン性であるか、またはアニオン性でありうる官能基(例えば、−COOHは−COOでありうる)を有する場合、塩は適切なカチオンともに形成されてもよい。適切な無機カチオンの例としては、NaおよびKなどのアルカリ金属イオン、Ca2+およびMg2+などのアルカリ土類カチオン、およびAl3+などの他のカチオンが挙げられるが、これらに限定されない。適切な有機カチオンの例としては、アンモニウムイオン(すなわち、NH)および置換アンモニウムイオン(例えば、NH、NH、NHR、NR)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの適切な置換アンモニウムイオンの例は、エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、およびトロメタミン、ならびにアミノ酸(リジンおよびアルギニンなど)から誘導されるものである。一般的な第四級アンモニウムイオンの例はN(CHである。
【0120】
当該化合物がカチオン性であるか、またはカチオン性でありうる官能基(例えば、−NHは−NHでありうる)を有する場合、塩は適切なアニオンとともに形成されてもよい。適切な無機アニオンの例としては、以下の無機酸から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない:塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、および亜リン酸。適切な有機アニオンの例としては、以下の有機酸から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない:酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、乳酸、リンゴ酸、パモ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、フェニルスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、パントテン酸、イセチオン酸、吉草酸、ラクトビオン酸、およびグルコン酸。適切な高分子有機アニオンの例としては、以下の高分子の酸から誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない:タンニン酸、カルボキシメチルセルロース。
【0121】
当該活性化合物の対応する溶媒和物を調製する、精製するまたは取り扱うことが簡便であるかまたは望ましい場合がある。用語「溶媒和物」は、本願明細書では、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)および溶媒の複合体を指すために、従来の意味で使用される。その溶媒が水である場合、この溶媒和物は簡便に水和物、例えば、一水和物、二水和物、三水和物などと呼ばれてもよい。
【0122】
当該活性化合物を化学的に保護された形態で調製する、精製するおよび/または取り扱うことが簡便であるかまたは望ましい場合がある。用語「化学的に保護された形態」は、本願明細書で使用する場合、1以上の反応性官能基が望ましくない化学反応から保護されている、すなわち保護された基または保護基(マスクされた基もしくはマスキング基またはブロックされた(blocked)基またはブロッキング(blocking)基としても公知)の形態にある化合物に関する。反応性官能基を保護することによって、その保護された基に影響を及ぼすことなく、他の保護されていない反応性官能基が関与する反応を実施することができ、この保護基は、通常は引き続く工程で、その分子の残部に実質的に影響を及ぼすことなく取り除かれてもよい。例えば、Protective Groups in Organic Synthesis(T.GreenおよびP.Wuts、Wiley、1999)を参照。
【0123】
例えば、ヒドロキシ基は、エーテル(−OR)またはエステル(−OC(=O)R)として、例えばt−ブチルエーテル;ベンジル、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)、またはトリチル(トリフェニルメチル)エーテル;トリメチルシリルまたはt−ブチルジメチルシリルエーテル;またはアセチルエステル(−OC(=O)CH、−OAc)として保護されてもよい。
【0124】
例えば、アルデヒドまたはケトン基は、そのカルボニル基(>C=O)が、例えば第一級アルコールとの反応によりジエーテル(>C(OR))へと変換されている、それぞれアセタールまたはケタールとして保護されてもよい。このアルデヒドまたはケトン基は、酸の存在下で大過剰の水を使用する加水分解により、容易に再生される。
【0125】
例えば、アミン基は、例えばアミドまたはウレタンとして、例えばメチルアミド(−NHCO−CH);ベンジルオキシアミド(−NHCO−OCH、−NH−Cbz)として;t−ブトキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Boc);2−ビフェニル−2−プロポキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Bpoc)として、9−フルオレニルメトキシアミド(−NH−Fmoc)として、6−ニトロベラトリルオキシアミド(−NH−Nvoc)として、2−トリメチルシリルエチルオキシアミド(−NH−Teoc)として、2,2,2−トリクロロエチルオキシアミド(−NH−Troc)として、アリルオキシアミド(−NH−Alloc)として、2(−フェニルスルホニル)エチルオキシアミド(−NH−Psec)として;または適切な場合にはN−オキシド(>NO・)として保護されてもよい。
【0126】
例えば、カルボン酸基は、エステルとして、例えばC1〜7アルキルエステル(例えばメチルエステル;t−ブチルエステル);C1〜7ハロアルキルエステル(例えば、C1〜7トリハロアルキルエステル);トリC1〜7アルキルシリル−C1〜7アルキルエステル;またはC5〜20アリール−C1〜7アルキルエステル(例えばベンジルエステル;ニトロベンジルエステル)として;またはアミドとして、例えばメチルアミドとして保護されてもよい。
【0127】
例えば、チオール基は、チオエーテル(−SR)として、例えばベンジルチオエーテル;アセトアミドメチルエーテル(−S−CHNHC(=O)CH)として保護されてもよい。
【0128】
プロドラッグ
本発明の活性化合物のいくつかは、プロドラッグの形態で作用することが想定される。これは、それらは体内で活性形態へと代謝されるということを意味する。これらの化合物としては、三酪酸グリセリル、三プロピオン酸グリセリル、三(4−フェニル酪酸)グリセリルおよび4−フェニル酪酸メチルなどのエステルが挙げられる。
【0129】
(さらなる態様および実施形態)
本発明の以下の態様または実施形態では、本発明の化合物は、例えば式Iaまたは式I、またはIlIaにおけるような上で定められたいずれかのものである。
【0130】
好ましくは、当該化合物は、式IIa、IIb、IIc、IId、IIeのいずれかによって定められるもののような酸塩、エステルまたはアミドなどの酪酸/酪酸塩誘導体である。
【0131】
好ましくは、当該化合物は、式IVbのいずれかによって定められるもののように、Rにあることが好ましい少なくとも1つのアリール置換基を含む。
【0132】
本発明の特定の態様では、微生物感染症を治療、予防または抑制することを必要とする患者において、微生物感染症を治療、予防または抑制するための方法であって、有効量の本願明細書に記載される本発明の化合物をその患者に投与することによる方法が提供される。
【0133】
この有効量は、例えばカテリシジン LL−37の合成を刺激する(例えば、カテリシジン LL−37の合成を抑制解除すること、またはカテリシジン LL−37の合成の下方制御を阻害すること)によって、インビボで抗菌活性を示すのに十分な量である。刺激は、基底レベル(すなわち、感染の不存在下での正常レベル)に向かうものでもよく、基底レベルに等しいものでもよく、または基底レベルを超えるものでもよい。
【0134】
用語「抗菌活性」は、本願明細書で使用する場合、細菌、ウイルス、原虫または真菌性微生物であってよい微生物の集団の増殖を阻害するかまたは現実に死滅させる能力を意味する。従って、「抗菌活性」は、増殖阻害(microbistatic)活性および殺菌活性の両方を意味すると解釈されたい。抗菌活性は、感染症、すなわち微生物が疾病を引き起こす能力を阻害することができる化合物を包含するとも解釈されたい。
【0135】
本発明の化合物は、生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによって抗菌効果を呈する。
【0136】
一般に、本発明の使用は、(例えば消化管の中の)上皮表面上への関連するペプチドの分泌を導くようなものであろう。これは、次に、その表面における抗菌活性の向上(ひいては、そのバリア機能の改善)および微生物感染症およびそれによって引き起こされる疾患の治療につながるであろう。
【0137】
微生物の標的および本発明が標的とする疾患は、本発明から利益を受けると考えられるいずれのものであってもよいが、好ましい標的は、例えばクロストリジウム・ディフィシル性大腸炎によって引き起こされる感染性大腸炎である。
【0138】
本発明の化合物は、従来の抗生物質に対して耐性を有する菌種の感染症に対して特に有用である。とは言うものの、従来の抗生物質との併用による本願明細書に記載される化合物の使用が好ましい場合があり、それは本発明の1つの部分を形成する。
【0139】
本発明の他の併用治療としては、抗菌効果を有すると考えられる他の化合物を伴う、本願明細書に記載される化合物の使用が挙げられる。これらとしては、例えばスペルミジン、スペルミンまたは他のポリアミン(国際公開第2000/09137号パンフレットを参照)が含まれるアミノステロール型化合物;イソロイシンまたはその活性な異性体もしくは類似体(米国特許出願公開第2002/0076393号明細書または米国特許出願公開第2003/0109582号明細書または米国特許第7311925号明細書を参照);およびビタミンD型化合物(米国特許出願公開第2008/0038374号明細書または国際公開第2008/073174号パンフレットを参照)が挙げられる。これらの化合物、その定義、およびその提供に関するすべてのこれらの引用文献の開示は、相互参照により本願明細書に明確に援用したものとする。
【0140】
好ましい投薬量および剤形は、より詳細に後述される。好ましい1日の投薬量は、1日あたり(毎日)250μg〜約25g、好ましくは約5gまで、より好ましくは3g未満であってもよく、この投薬量は、例えば1日あたり1、2または3回与えられる用量へと分割されてもよい。
【0141】
当該化合物は、好ましくは、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、散剤、ペースト剤、エリキシル剤、およびシロップなど(これらに限定されない)の経口用剤形として投与される。他の投与形態も有用であり、これらとしては、局所投与形態が挙げられるがこれに限定されない。この局所投与形態は皮膚の感染症に対して特に有用であり、これらとしては、例えばクリーム、オイル、ローション剤、および軟膏剤が挙げられる。なおさらなる剤形としては、呼吸器系(肺を含む)への送達のための剤形、例えばエアロゾルおよび点鼻装置などが挙げられる。
【0142】
本発明の態様は、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症および寄生虫感染症を含めた(現在使用される抗生物質に対して耐性を有する菌種による感染症も含む)微生物感染症を治療、予防または抑制するための方法であって、分泌促進物質有効量の上で定められたとおりの少なくとも1つの本発明の化合物を含む医薬を投与することによる方法を包含する。
【0143】
なおさらなる態様では、本発明は、例えば微生物感染症(上述の種類を含む)を治療、予防または抑制するための本願明細書に記載される方法で使用するための医薬組成物であって、少なくとも1つの本発明の化合物である活性成分と、典型的には少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0144】
なおさらなる態様では、本発明は、本願明細書に記載される方法での使用のための医薬の調製における本発明の化合物の使用を提供する。
【0145】
これらの態様および実施形態のいくつかは、これよりより詳細に論じられることになろう。
【0146】
生体防御ペプチドの分泌
哺乳動物の消化管(GI管)は、絨毛突起および陰窩の中へと折り畳まれる上皮細胞の連続的なシートによって覆われている。GI管の幹細胞を見出すことができる陰窩の底内には、パネート細胞と呼ばれる特殊化した、顆粒細胞がある。腸細胞およびパネート細胞の両方とも、抗菌ペプチドを産生する。この腸細胞は、抗菌ペプチドを合成し、その抗菌ペプチドを、構成的にも、誘導によっても、消化管の管腔の中へと分泌する。腸内陰窩の底にあるパネート細胞は、α−デフェンシンを陰窩の穴(well)へと分泌して、mg/mLレベルで見積もられる濃度をもたらし、このα−デフェンシンは最終的には消化管の管腔の中へと勢いよく流れる。
【0147】
両方の系が腸の健康に寄与する。赤痢菌によって引き起こされる下痢に苦しむ小児および成人では、カテリシジン LL−37および結腸の腸細胞β−デフェンシン HBD−1の合成が顕著に抑制されている;発現は、その疾病の消散の間にやがて回復する。同様に、クリプトジン(マウスのパネート細胞のα−デフェンシン)をプロセシングするために必要とされるタンパク質分解酵素を欠くマウスは、機能性クリプトジンを欠き、経口投与されたサルモネラ菌に対する感受性の上昇を呈する。
【0148】
角膜、肺、腎臓および皮膚を含めた(これらに限定されない)哺乳動物の体の他の上皮表面もそのような生体防御分泌系を有する。
【0149】
本発明の組成物および方法を使用すると、人間および他の動物の消化管および他の上皮表面の上皮細胞およびパネート細胞を刺激して、デフェンシン、クリプトジン、LL−37、HBD1、およびHBD2などの抗菌ペプチド、およびリゾチーム、トランスフェリン、ラクトフェリン、ホスホリパーゼ、およびSLPI(分泌型白血球プロテアーゼインヒビター)などの抗菌タンパク質を含めた天然に存在する広範囲の抗菌剤を大量に分泌させるということが生じる。このパネート細胞のよって蓄えられる物質は、細菌、原虫、ウイルス、および真菌を含めた広い範囲の感染病原体に対して活性を示す。
【0150】
本発明が標的とする上皮細胞は、これらのうちのいずれであってもよい。しかしながら、好ましくは本発明は、GI管の微生物感染症の治療のために利用される。
【0151】
微生物感染症および疾患
上述のように、本発明の重要な態様は、分泌促進物質有効量の少なくとも1つの本発明の化合物を含む医薬を投与することにより、微生物感染症を治療、予防または抑制するための方法を提供する。
【0152】
有用な実施形態では、感染症および本発明に係る治療から利益を受ける他の状態は、特に、上述のもののような生体防御ペプチド分泌系を具える上皮表面を有する器官に関連する感染症または状態である。
【0153】
このような感染症、状態および疾患としては、渡航者下痢症、地方病性下痢(endemic diarrhoea)、赤痢、ウイルス性胃腸炎、寄生虫性腸炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、消化管の前癌状態、消化管の癌、憩室炎、抗生物質投与後の下痢、クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎、乳糖不耐症、鼓腸、胃炎、食道炎、胸やけ、胃潰瘍、ピロリ菌に関連する潰瘍、十二指腸潰瘍、短腸症候群、ダンピング症候群、グルテン腸症、または食物不耐性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
皮膚の感染症(おでき、癰(よう)、せつ(フルンケル)、蜂巣炎、膿瘍、膿痂疹、および丹毒が挙げられるが、これらに限定されない);眼の感染症(結膜炎、麦粒腫、眼瞼炎、蜂巣炎、角膜炎、角膜潰瘍、トラコーマ、ブドウ膜炎、涙小管炎および涙嚢炎が挙げられるが、これらに限定されない)、呼吸器系への感染症ならびに腎臓での感染症も、本発明の方法に含まれる。多剤耐性株による感染症を含めた古典的な抗生物質治療に対して耐性を有する菌種によって引き起こされる感染症も、含まれる。
【0155】
本発明にとっての好ましい標的は感染性大腸炎である。当該技術分野で周知のとおり、これを引き起こす微生物種としては、エンテロコリチカ菌、サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター、クロストリジウムおよび大腸菌が挙げられる。クロストリジウム・ディフィシルなどのいくつかの細菌は、偽膜性大腸炎の発症につながる毒性物質を産生する可能性がある。
【0156】
本発明の化合物は、従来の抗生物質に対して耐性を有する菌種の感染症に対して特に有用であり、そして本願明細書の文脈における当該化合物の分泌促進作用は、本発明に係る治療に対して菌種が耐性を獲得することができるとは予見されないということにつながる。
【0157】
添付の実施例に示すように、選択された代表的な化合物が試験され、所望の活性を呈することが見出された。
【0158】
併用治療
上述のように、従来の抗生物質との併用による本願明細書に記載される化合物の使用が好ましい場合があり、それは本発明の1つの部分を形成する。例示となる抗生物質としては、ペニシリン類、ペニシリンG、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、アモキシシリン、メトロニダゾール、セフロキシム、オーグメンチン、ピブメシリナム、アセトマイシン、シプロフロキサシンおよびエリスロマイシンが挙げられる。これらの特定の抗生物質が挙げられている場合には、一般に利用できる類似体が使用されてもよいということは分かるであろう。
【0159】
添付の実施例で実証されるとおり(実施例4〜6を参照)、本発明の化合物がビタミンDと一緒に投与される場合に、組み合わせの効果が達成されることが見出された。従って、本発明は上記の方法をも包含し、さらに、ビタミンDと1以上の本発明の化合物との同時投与を含む。同時投与されてもよい他の化合物としては、アミノステロール型化合物;イソロイシンまたはその活性異性体もしくは類似体;ビタミンD型化合物が挙げられる。
【0160】
1以上の本発明の化合物に加えて、ビタミンDまたはさらなる成分として他の上で述べられた化合物のうちの1つを含む医薬組成物も提供される。このような組成物は、上述の処方物および剤形のうちのいずれかで処方することができる。
【0161】
後述するように、経口用剤形は好ましい。
【0162】
好ましい投薬量
本発明の方法および組成物において、当該活性化合物は、この系を刺激および/または活性化するのに有効な量で投与され/存在する。そのような量は、本願明細書において「分泌促進物質有効」量とも呼ばれ、ここで用語「分泌促進物質」は、上皮表面における活性な抗菌ペプチドのレベルを上昇させる物質を指す。
【0163】
本願明細書中でこれまでに述べたように、PBAは、以前は、遺伝性の尿素サイクル障害に関連する高アンモニア血症の治療のために市販されていた。ブフェニール(Buphenyl)(錠剤または散剤)のSPCによれば、この薬物は3つの部分に分割された9.9〜13.0g/m/日で投薬される。これは、1日あたり(毎日)16〜23g、または1日あたり(毎日)3回の約5.5〜8.0gという量になる。
【0164】
別の研究において、種々の研究で使用されるPBAについての局所的な投薬量は528mg/日〜1.12g/日の範囲であった。これは、酪酸の正常な1日あたり(毎日)の結腸内産生の35〜60%に相当する。これらの研究のいずれも、有害な作用または反応をまったく報告していない。1つの研究によれば、結腸を標的とする錠剤として6週間IBD患者に与えられた4gの酪酸ナトリウムという毎日の経口用量も、安全でかつ有害な効果はまったくなく十分に耐容性があることが見出された。
【0165】
DhakaのICDDRBで実施されたウサギでの研究(以下を参照)は、約7.5〜22.5mg/kgで投薬することが細菌性赤痢における治療効果にとって十分であるということを示した。この用量を70kgのヒトへと比例拡大すると、最大720mgの1日あたり(毎日)の用量が、例えば、細菌性赤痢の治療のために有効であろうということが示唆される。
【0166】
これらの例に基づくと、治療についての実務上の上限は(尿素サイクルの治療に基づくと)20g/1日のオーダーとなるであろうし、下限は700mg未満、例えば1日あたり(毎日)600、500、400、300、200、100mgに等しいかまたはほぼ等しいと予測される可能性があるということが分かるであろう。潜在的には、さらに少量、例えば90、80、70、60、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1mgが利用されてもよい。
【0167】
とはいうものの、投与されるべき当該化合物の適切な量は、選択された特定の化合物、特定の感染の場所、ならびに治療および/または予防するべき状態に応じて変わる可能性があるということは理解されるであろう。いくつかの実施形態では、投与されるべき量は約10μg〜約25gの範囲である可能性がある。適切な剤形を、しかるべく選択および処方することができる。例えば、胃腸系内の疾患および状態の治療について、250μg〜約25gの範囲の用量が適切である可能性があり、この範囲は、約1g〜約25gの範囲、例えば約1g〜10gの範囲、例えば約1g、2g、5gまたは10gを含む。
【0168】
すべての投薬量は、例えば1日あたり1、2または3回に分割または投与されてもよい。
【0169】
投与および処方
好ましくは、当該医薬は経口投与されるが、他の投与経路は本発明の範囲内にあり、特定の状態に対してはより適している場合がある。このような他の投与経路としては、局所投与、口腔内投与、鼻内投与、非経口投与(直腸投与および膣内投与を含む)が挙げられる。
【0170】
吸入される剤形としては、エアロゾル、吸入器および定量吸入器が挙げられる。眼科用剤形としては、点眼薬(液剤または懸濁剤)、眼科用ゲル、および眼科用軟膏剤が挙げられる。耳用剤形としては点耳剤(液剤または懸濁剤)が挙げられる。直腸用剤形としては浣腸および座薬が挙げられる。膣内用剤形としては潅注浴およびペッサリー(膣座薬)および膣錠が挙げられる。
【0171】
局所的な使用のための適切な処方物の例としては、クリーム、軟膏剤、ゲル、または水系もしくは油性の液剤または水系もしくは油性の懸濁剤が挙げられる。非経口投与は、例えば当該化合物を静脈内、皮下、または筋肉内投薬用の滅菌された水系もしくは油性の液剤として、または直腸投薬用の座薬として処方することにより、成し遂げることができる。
【0172】
経口での使用のための組成物は、当該活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合されている硬ゼラチンカプセル剤の形態に、または当該活性成分が水もしくは油(落花生油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油など)と混合されている軟ゼラチンカプセル剤の形態にあってもよい。
【0173】
当該組成物は、それらが主にどの状態を目的とするかに応じて、種々の適切な形態で処方することができる。ある実施形態では、当該組成物は経口投与用である。このような組成物としては、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、散剤、ペースト剤、エリキシル剤、またはシロップが挙げられるが、これらに限定されない。
【0174】
組成物は、当該技術分野で周知のものなどの遅延放出組成物または結腸を標的とする組成物であってもよい。
【0175】
錠剤処方用の適切な薬学的に許容できる賦形剤としては、例えば、ラクトース、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウムまたは炭酸カルシウムなどの不活性希釈剤、トウモロコシデンプンまたはアルギン酸(algenic acid)などの造粒剤および崩壊剤;デンプンなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの滑沢剤;p−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸プロピルなどの防腐剤、ならびにアスコルビン酸などの抗酸化物質が挙げられる。錠剤処方物は、コーティングされていなくてもよいし、その崩壊およびその後の消化管内での当該活性成分の吸収を改変するため、またはその安定性および/または外観を改善するために、コーティングされていてもよく、いずれの場合も、当該技術分野で周知の従来のコーティング剤および手順を使用してよい。
【0176】
組成物
本発明の別の態様は、上記の状態または疾患のいずれかを治療、予防または抑制するための医薬組成物に関する。この組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤と一緒に、本願明細書に記載される化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0177】
本発明の経口用組成物は、遅延放出および/または徐放(extended release)用に処方されてもよく、かつ腸管下部で放出されるように、当業者にとっては周知である手段によって腸溶性コーティングされてもよい。
【0178】
機能性食品
特に1〜25gの範囲などの大量の活性化合物を投与することが所望される場合、本発明の化合物は(単離して、次いで)配合して機能性食品または飼料製品の中に含めることができるということも分かるであろう。このような機能性食品としては、発酵された豆製品、例えばテンペなどの大豆製品、発酵されたオート麦、発芽大麦由来の製品、および類似の製品を含めた発酵食品が挙げられるが、これらに限定されない。一般にベータグルカンを分解する微生物の発酵によって生成されるこのような製品は、本発明の化合物の効果を増強する可能性がある、天然含有量の短鎖脂肪酸を有するであろう。本発明に係る機能性食品の形態は、選ばれた食品のタイプ(クラッカー、ペストリー、スプレッド(spread)またはペースト、ピューレ、ゼリー、ヨーグルト、飲料濃縮物、または選択された活性化合物を容易に配合することができるいずれかの他の適切な食品を含む)に適したいずれかの形態であってよい。
【0179】
他の種
本発明の方法および組成物は、ヒトおよび他の動物の両方の治療における応用を有し、コンパニオンアニマル、農場にいる動物(farm animal)、および飼育場にいる動物(ranch animal))に対する獣医学的応用および動物を伴う農業(animal husbandry)での応用を含む。これらの応用例としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、シカおよび家禽(ミワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウを含む);ならびに鳥類および齧歯動物などの家庭のペットにおける疾患および状態を治療、予防または抑制することが挙げられるが、これらに限定されない。大きい動物については、適切な用量は上述の量よりも大きくなる可能性がある。
【0180】
本願明細書中のいずれの副題も便宜のためのみで含まれており、本開示を限定するとは決して解釈されるべきではない。
【0181】
本発明は、これより、以下の限定を意図しない図および実施例を参照してさらに記載される。本発明の他の実施形態は、これらを参酌すれば、当業者に思い浮かぶであろう。
【0182】
本願明細書で引用するすべての引用文献の開示は、本発明を実施するために当業者が使用する可能性がある限りにおいて、相互参照によって本願明細書に明確に援用したものとする。
【実施例】
【0183】
(実施例1:異なる薬剤で処置された肺上皮細胞におけるLL−37発現)
肺上皮細胞(VA10)を標準条件下でコンフルエントまで増殖させ、試験しようとする薬剤を示した濃度(下記を参照)で加えた。mRNAを処置から24時間後に単離し、リアルタイム逆転写PCRによって測定した。
【0184】
結果を図1に示す。図1では、カラムCは、対照(未処置の細胞)を表し、カラム3はビタミンD3(1,25−ジヒドロキシビタミンDまたは1,25(OH)2D3)(100nM)で処置した細胞の陽性対照を表し、カラム1は酪酸ナトリウム(2mM)であり、カラム2は4−フェニル酪酸ナトリウム(2mM)で処置した細胞である。
【0185】
これらの結果は、4−フェニル酪酸ナトリウムは、VA10細胞において酪酸塩またはビタミンDよりも有効な、LL−37 mRNA発現の誘導因子であるが、酪酸塩に付随する腐敗臭を有しないということを示す。本発明者らの研究の前に、臭気および味の問題がないことは言うまでもなく酪酸塩と同程度にLL−37を誘導することが知られた化合物はなかった。酪酸塩の構造からの逸脱は、芳香環を付加すること(すなわち、分子量を2倍にする)と同程度に実質的でありうるということは、特に驚くべきことである。それゆえ、本開示を参酌して、芳香族誘導体などの酪酸塩誘導体も活性であろうと結論される可能性がある。
【0186】
さらなる実験において、2つの他のPBA類似体の、CAMP遺伝子発現を誘導する能力を試験した(図2を参照)。VA10細胞を、4mMの、PBA類似体であるα−メチルヒドロケイ皮酸塩(ST7)、または酪酸塩類似体である2,2−ジメチル酪酸塩(ST20)を用いて刺激した。24時間のインキュベーション後、全RNAを上記細胞から単離し、CAMP mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した。ST7はCAMP mRNA発現を著しく増加させたが、他方、ST20による刺激は、CAMP mRNA発現レベルに対して明らかな効果はなかった。従って、少なくともこのカルボキシル基の近傍にある第四級炭素原子は、望ましくないように思われるということが分かる。逆に、アリール酪酸塩誘導体では、異なる鎖または分岐鎖を含む類似体は依然として活性であるようである。
【0187】
リアルタイムPCR
6穴プレートに、1ウェルあたり1.0×10細胞を播き、2日間増殖させた。次いで培地を交換し、異なるウェルを未処置のまま残し、2mM 酪酸ナトリウムまたは2mM 4−フェニル酪酸ナトリウムを補った。これらの細胞を48時間インキュベーションし、全RNAをRNEasyキット(キアゲン(Qiagen))を使用して調製した。全RNA濃度を、Quant−iT RiboGreen RNAアッセイキット(インビトジェン(Invitrogen))を使用して測定した。Superscript III first−strand synthesis system(インビトジェン)を使用して、製造業者の手順書に従ってランダムプライマーを使用してcDNAを合成した。LL−37をコードするCAMP遺伝子の発現を、蛍光プローブ(MGBクエンチャーを有する5’−6−FAM−TGTTATCCTTATCACAACTGAT−3’)およびCAMP cDNAに特異的な順方向プライマーおよび逆方向プライマー(それぞれ、5’−ACCCAGCAGGGCAAATCTC−3’および5’−GAAGGACGGGCTGGTGAAG−3’)を使用して、7500 Real Time PCR System(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems))上で分析した。結果を全RNA量に対して正規化し、未処置の対照細胞の相対的な誘導倍率として提示した。
【0188】
(実施例2:異なる用量の4−フェニル酪酸ナトリウムで処置した肺上皮細胞におけるLL−37発現)
図3は、増加する濃度の4−フェニル酪酸ナトリウムによる処置の際の、VA10肺上皮細胞におけるCAMP mRNA発現の用量反応を示す。CAMP mRNAのPBAによって誘導される発現の時間および用量依存性を測定するために、VA10細胞を、4mM PBAを用いて、異なる時間点にわたって、および異なる濃度を用いて24時間刺激した。全RNAを上記細胞から単離し、CAMP mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した。CAMP mRNA発現の増加は、PBA用量に依存し、経時的に増加した。
【0189】
より早期の実験では、生理的には関連のないより高い濃度(8mM)では、反応は用量依存的でなくなるようであった(結果は示さず)。
【0190】
対照を関連する時間点で測定しなかったより早期の実験では、長いインキュベーション(48時間;結果は示さず)後にはアーチファクトが見られた。それゆえ、示した実験では、対照を関連する時間点で測定し、1に正規化した。
【0191】
この実施例は、治療の成功は1日1回の投薬治療方式を用いて想起できるということを示す。
【0192】
(実施例3:他の細胞株におけるPBAによるCAMP遺伝子発現の誘導)
他の細胞株に対するPBAの効果を調べるために、HT−29(ヒト大腸腺癌(colonic adenocarcinoma)細胞株)、A497(ヒト腎臓癌細胞株)およびU937(ヒト単芽球性白血病細胞株)を、4mM PBAを用いて8、24および48時間刺激した。全RNAを上記細胞から単離し、CAMP mRNA発現レベルをリアルタイムRT−PCRによって分析した。CAMP mRNA発現は、試験したすべての細胞株において有意に増加した(図3C)。
【0193】
(実施例4:肺上皮細胞におけるLL−37発現に対する4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDの相乗効果)
さらなる試験により、4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDはCAMP mRNA発現に対して組み合わせ効果を有するということが示される。VA10肺上皮細胞をこれまでのようにして増殖させ、2mMの4−フェニル酪酸ナトリウムのみ、100nMのビタミンDのみ、およびそれぞれ2mMおよび100nMの両者で処置した。(2mMの)酪酸塩による処置を対照として含めた。異なる時間点で細胞を回収し、mRNAを単離してリアルタイム逆転写PCRを用いて分析した。この組み合わせの効果は、いずれかの化学物質単独の効果よりも6倍高いので、4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDの両方を用いた処置は、mRNA発現レベルに対する組み合わせ効果をはっきりと示す。
【0194】
図4では、カラムcは対照(未処置の細胞)におけるCAMP mRNAレベルを示し、カラム1は4−フェニル酪酸ナトリウムのみを用いた処置を表し、カラム2はビタミンDのみを用いた処置を表し、カラム4はビタミンDと一緒に4−フェニル酪酸ナトリウムを用いた処置を表す。
【0195】
これは図6Aおよび図6Bでさらに示される。VA10細胞を、低用量の20nMの1,25(OH)と4mMのPBAの両方とともに、およびそれぞれの化合物単独とともにインキュベーションした。CAMP mRNAの発現は、PBAおよび1,25(OH)の誘導倍率を加えたものよりも高いことが見いだされた。これは相乗効果を示す(図5)。
【0196】
(実施例5:4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDによる刺激は異なるシグナル伝達経路を通して作用する)
上皮肺細胞を、4−フェニル酪酸ナトリウムまたはビタミンDを用いて処置した。各薬剤について、2つの試料を、MEK1およびMEK2タンパク質キナーゼを阻害することに対して特異的なMAPキナーゼ阻害剤U0126(20μMの濃度)を用いて、ならびに用いずに処置した。
【0197】
結果を図6Aに示す。図6Aでは、カラムCは対照(未処置の細胞)を表し、カラム1は2mMの4−フェニル酪酸ナトリウムを用いた処置を示し、カラム2はビタミンD(100nM)を用いた24時間の処置を示す。白抜きのカラムはMAPキナーゼ阻害剤U0126を用いた処置を表し、他方、黒色のカラムはこの阻害剤を用いない処置を示す。
【0198】
示された結果は、異なるシグナル伝達経路が4−フェニル酪酸ナトリウムおよびビタミンDによる誘導に関与するということを示す。これによって、CAMP遺伝子の誘導に対するこれらの化学物質の組み合わせの効果が説明される可能性がある。
【0199】
PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現に対する、c−JunN末端キナーゼ(JNK)、p38キナーゼおよび細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(ERK1/2)についての阻害剤の効果も、図6Bに示すように、検討した。4mM PBAを用いた刺激の1時間前に、それぞれのキナーゼを阻害するための20μMのSP600125、SB203580またはU0126とともに、VA10細胞を前もってインキュベーションした。24時間のインキュベーション後、全RNAを単離し、CAMP mRNAについてリアルタイムRT−PCRによって分析した。ERK1/2およびJNK経路についての阻害剤は、PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現を有意に減少させた。
【0200】
(実施例6:三酪酸グリセリルを用いて処置した、赤痢菌に感染したウサギ)
CAP−18(LL−37のウサギ相同体)は健康なウサギの表面上皮細胞に発現されること(図7A)、および赤痢菌感染がペプチド産生の下方制御を生じるということ(図7B)が、免疫組織化学によって確かめられた。さらに、トリブチリルグリセロールを用いた処置後に、赤痢菌による遺伝子発現の下方制御は回復し、かつ/または妨げられた(図7C)。
【0201】
動物モデル:体重1.8〜2kgのいずれかの性の近親交配されたニュージーランドホワイト系ウサギをこの研究のために使用した。この動物を、22〜25℃に維持した部屋の中で個別に飼育した。この研究に含める前に、このウサギの健康な状態を、身体所見、便および直腸スワブ検体の培養ならびに糞便の寄生虫検査によって確定した。腸内病原体(例えばサルモネラ菌、赤痢菌、コレラ菌)も含まない健康な、コクシジウムを含まないウサギを研究した。ウサギを赤痢菌に感染させ、2つの群に分けた。1つの群を三酪酸グリセリルを用いて経口により処置し、他方を生理食塩水を用いて処置した。結腸組織および直腸組織の検体の中でのCAP−18ペプチドおよびそのプロフォーム(proform)の発現を、健康なウサギ、未処置の感染したウサギ、三酪酸グリセロールで処置した感染しかつ健康なウサギにおいて分析した。三酪酸グリセロールの毒性効果の分析のため、健康なウサギもこの化合物を用いて処置した。
【0202】
菌種および接種材料の調製:シゲラ・フレキシネリ2a株を患者の便から単離した。この菌株は、侵襲性を反映してSereny試験およびコンゴレッド結合に対して陽性である(Berkhoff,H.A.およびVinal,A.C.,1986、Avian Dis. 30、117−121))。このストックから、細菌をトリプチケースソイ寒天(TSA;ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)、メリーランド州、スパークス)プレート上で継代培養し、37℃で一晩培養した。3〜5個の滑面集落をトリプチケースソイブロスの中に接種し、37℃で振盪しながら4時間培養した。次いでこのブロスを生理食塩水の中で7000rpmで10分間洗浄し、細菌のペレットを7mL中の1×10cfuの濃度まで生理食塩水中に懸濁させ、これを上記ウサギに与えた。
【0203】
この研究では、以前に記載されたようにして、わずかの改変を加えて(Etheridge,M.E.ら、1996、Lab. Anim. Sci.46、61−66)、細菌性赤痢の非外科的なウサギモデルを使用した。手短に言うと、ウサギを36時間絶食させ、1回の経口用量の塩酸テトラサイクリン(250mg/kg;ノバルティス(Novartis)、バングラデシュ、ダッカ)懸濁剤を与えた。この後、ペントバルビタールナトリウム(33mg/kg;シグマ・ケミカル(Sigma Chemical Co.)、ミズーリ州、セントルイス)を用いてウサギを麻酔し、胃液分泌を抑制するために、耳翼辺縁静脈を介して体重1kgあたり37.5mgのG−シメチジン(Gonoshasthoya Pharmaceuticals、バングラデシュ、ダッカ)を静脈内に与えた。15分後、滅菌したプラスチックの栄養管(3.33×465mm、タイコヘルスケア・アイルランド(Tycohealthcare Ireland Ltd.)、アイルランド、タラモア)を用いて7mlの5%炭酸水素ナトリウム溶液を経口投与し、この15分後に、第2の15ml用量の5% 炭酸水素ナトリウム溶液を与え、その直後に7ml用量の菌液(7mlの生理食塩水中に10cfu(0.9% 重量/体積、pH 7.2))を与えた。この菌液の接種の20分後、腸の運動性を低下させるために、生理食塩水中のロペラミドHCl(0.02mg/kg体重)7mlを経口により導入した。この後は、ウサギに定期的な栄養物を飲食することを許容した。通常、ウサギは細菌接種の24時間以内に赤痢を発症した。細菌接種の時を0時間と考えた。赤痢の症状を発症した後、ウサギに、口から胃までの(orogastric)栄養管により12時間間隔で1日2回、3日間、三酪酸グリセリル(47μmol/kg体重、すなわち、140μmol酪酸塩当量/kg)を与えた。細菌接種の4日後、安楽死させるためにウサギに過剰用量の静脈内ペントバルビタールナトリウム(66mg/kg;シグマ(Sigma))を与えた。
【0204】
CAP−18ペプチドの存在を評価するために、CAP−18に特異的なニワトリポリクローナル抗体(インノバジェン(Innovagen))を使用して、免疫組織化学染色を実施した。手短に言うと、パラフィン切片を脱パラフィンし、水和させ、回復緩衝液(ダコ・ラボラトリーズ(Dako laboratories A/S)、デンマーク、グロストルップ(Glostrup))中で12分間マイクロ波処理し、次いでリン酸緩衝液(pH 7.2)の中で洗浄した。冷却後、内在性ペルオキシダーゼ活性をクエンチし、切片を、上記CAP−18特異的抗体(2μg/ml)とともに室温で一晩インキュベーションした。洗浄後、切片を、西洋ワサビペルオキシダーゼに接合されたロバ抗ニワトリ抗体(1:200;ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.))とともに室温で1時間インキュベーションした。このあと洗浄し、ジアミノベンジジン(DAB、茶色)を用いて発色させた。対照として、特異的抗体を無関係のアイソタイプ一致抗体(isotype−matched−antibody)で置き換えた。加えて、合成CAP−18を、10倍高い濃度でCAP−18抗体とともに4℃で一晩インキュベーションし、この混合物を免疫染色用に、上記のとおり使用した。これは、特異的染色についての対照としての役割を果たした。ヘマトキシリンおよびエオシン中での対比染色後、スライドをパラマウント(paramount)(ビディーエイチ・ケミカルズ(BDH Chemicals)、イングランド、プール)に載せた。
【0205】
ウサギの細菌性赤痢からの臨床的な回復は、便からの血液の消失、有形便の再出現、体重の正常化、体温、正常な食欲および戯れの行動の戻りによって確かめられた。
【0206】
(実施例7:シクロヘキシミドによる、PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現の阻害)
CAMP遺伝子発現のPBAおよび酪酸塩による誘導経路が直接的かどうかを評価するために、VA10細胞を、シクロヘキシミド(CHX)の存在下および不存在下でPBAまたは酪酸塩で処置した。24時間のインキュベーション後、全RNAを単離し、リアルタイムRT−PCRを使用してCAMP mRNAレベルを測定した。刺激に先立って1時間、20μg/mlのCHXでこの細胞を予めインキュベーションすることで、PBAおよび酪酸塩によって誘導されるCAMP遺伝子発現は両方とも効果的にブロックされた。
【0207】
これは、PBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現は二次的影響を通して誘導されるということを示唆する。この二次的誘導経路は、気管支上皮細胞株であるVA10において示されるように(図6Aおよび図6Bを参照)、JNKおよびERK1/2を介するMAPキナーゼシグナル伝達に依存する可能性がある。
【0208】
(実施例8:CAMP遺伝子プロモーターにおけるヒストンアセチル化に対するPBAの効果)
定量的クロマチン免疫沈降によるヒストンH3およびH4のアセチル化に対するPBAの効果を評価した。4mM PBAを用いた24時間の処置後には、CAMP遺伝子近位プロモーター(転写開始点の1000bp上流)ではヒストンアセチル化における有意な変化は観察することができなかった(図9)。
【0209】
以前は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤によるCAMP遺伝子発現の誘導は、他の転写因子の結合を促進する、ヒストンアセチル化の増加およびクロマチン構造の緩和を介して起こるということが前提とされていた。今回のデータはこの仮説と逆のことを物語る。定量的クロマチン免疫沈降を使用してCAMP近位プロモーターにおけるH3およびH4のアセチル化を評価すると、PBAを用いた処置後にアセチル化における有意な変化が検出可能であった。さらに、シクロヘキシミドを使用してタンパク質合成を阻害すると、酪酸塩およびPBAによって誘導されるCAMP遺伝子発現の両方がブロックされるということがこれまでに示された(実施例7を参照)。これらの結果は、これらの化合物によるCAMP近位プロモーターにおけるヒストンアセチル化の増加がCAMP遺伝子発現を直接促進するということ可能性を排除する。理論に結び付けられることは望まないが、ヒストンアセチル化の増加は、あとで二次的影響としてCAMP遺伝子発現を増加させる他の遺伝子の発現を容易にすると考えられる。
【0210】
(実施例9:ビタミンD活性化補助因子の発現に対するPBAの効果)
PBAと1,25(OH)との間の相乗効果はPBAによるVDR活性化補助因子遺伝子の誘導によるものであると仮定して、本発明者らは、VA10におけるいくつかの公知のVDR活性化補助因子遺伝子のmRNAレベルに対するPBAの効果を分析した。4mM PBAを用いて24時間処置した後に、有意に上方制御された遺伝子はなかった(図10を参照)。それゆえ、これらの活性化補助因子は、遺伝子発現に対するPBAによって誘導される効果には関与しない。
【0211】
(実施例10:PBAによるhBD−1 mRNA発現の誘導)
CAMPが唯一の、PBAによって誘導される抗菌性の防御遺伝子であるというわけではない。別の周知のペプチドも誘導されるが、CAMPよりも低いレベルにある(図11を参照)。これは、PBAは粘膜防御に対する一般的効果を有するということを示唆する。
【0212】
(実施例11:三酪酸グリセリルの合成)
無水ブタン酸(164ml、1.0mol)を、ピリジン(300ml)中のグリセロール(7.34ml、100mmol)へと、0℃で10分間にわたって加えた。この混合物を0℃で10分間、および室温で18時間撹拌した。水(200ml)を加え、この混合物を60℃で15分間加熱した。溶媒をエバポレーションして残渣を得て、これをジクロロメタン(DCM、400ml)とNaHCO(20%水溶液、400ml)との間で分配させた。この水層をさらにDCM(50ml)を用いて抽出した。合わせた有機抽出液を、まず飽和NaHCO水溶液(400ml)で、次いでHCl(1M 水溶液、400ml)で洗浄した。この有機層を集め、NaSOで乾燥し、次いで真空中で濃縮し、29.6g(98%)の三酪酸グリセリルを得た。H NMR(CDCl),0.95(t;J=7.4Hz;2×CH),0.96(t;J=7.4Hz;CH),1.60−1.73(m;3×CH),2.31(t;J=7.4Hz;2×CH),2.32(t;J=7.35Hz;CH),4.16(dd+AB;J=11.9,6.0Hz;2×CH),4.31(dd+AB;J=11.9,4.3Hz;2×CH),5.29(m;5.26−5.31;CH)。
【0213】
(実施例12:N−ブタノイルグリシンエチルエステルの合成)
ジクロロメタン(DCM、500ml)中のグリシンエチルエステル塩酸塩(13.96g、100mmol)およびトリエチルアミン(34.65ml、250mmol)を室温で2時間撹拌すると、微細な白色沈殿物が生じた。DCM(100ml)中の無水ブタン酸(19.63ml、120mmol)を5分間にわたって加えると、この反応混合物は透明な溶液に変わった。室温で30分後、およびその後の(真空中での)溶媒の除去後に、水(18ml、1mol)を加え、次いでピリジン(23.73g、24.26ml、300mmol)を加えた。この溶液を60℃で30分間加熱した。この混合物を、DCM(200ml)とHCl水溶液(2.4M、200ml、NaClで飽和させたもの)との間で分配させた。この水層を分離し、DCM(50ml)で抽出した。合わせた有機抽出液をHCl(水溶液、1M、250ml)で洗浄し、水層をさらに1回のDCM(50ml)で抽出した。合わせた有機抽出液をNaHCO(水溶液、4.2%、200ml)で洗浄し、DCM(50ml)を用いて水層をもう1回抽出した。合わせた有機抽出液をNaSOで乾燥し、真空中で濃縮し、16.3g(94%)のN−ブタノイルグリシンエチルエステルを得た。H NMR(CDCl),0.97(t;J=7.4Hz;CH),1.30(t;J=7.1Hz;CH),1.65−1.74(m;CH),2.23(t;J=7.5Hz;CH),4.05(d;4.9Hz;CH),4.23(q;7.2Hz;CH),5.9(ブロード;NH)。
【0214】
(実施例13:N−ブタノイルグリシンの合成)
N−ブタノイルグリシンエチルエステル(16.3g、94.16mmol)をNaOH水溶液(1M、282ml、282mmol)に溶解し、次いで室温で15時間撹拌した。HCl水溶液(12M、15.7ml、188mmol)をpH=5まで加えた。次いでこの水を(真空中で)エバポレーションし、残渣をHCl水溶液(1M、175ml)に溶解してpH 1にした。この溶液をNaClで飽和させ、テトラヒドロフラン(3×100ml)で抽出した。合わせた有機抽出液をNaSOで乾燥し、真空中でエバポレーションし、13g(95%)のN−ブタノイルグリシンを得た。H NMR(CDCl),0.97(t;J=7.4Hz;CH),1.64−1.74(m;CH),2.27(t;J=7.5Hz;CH),4.09(d;J=5.1Hz;CH),6.24(ブロード;NH),8.1(ブロード;COOH)。
【0215】
(実施例14:Nα,Nε−ジブタノイルリジンの合成)
リジン(1g、6.1mmol)を160mlテトラヒドロフラン(THF)−水(1:1)に溶解させ、このあと無水ブタン酸(2.89g、18.3mmol)を加えた。この溶液を室温で撹拌したままに保ち、1時間後に80mlのTHFを加え、一晩静置した後に炭酸ナトリウム10水和物を加えた(5.23g、18.3mmol)。この混合物を約30分間撹拌した後に、別の1回分の無水ブタン酸(2.89g、18.3mmol)を加え、この混合物を、再び一晩撹拌したままに保った。この混合物を塩化ナトリウムで飽和させ、濃HClを用いて酸性にした(約pH 1まで)。最上層を分離し、溶媒をエバポレーションした。この残渣に、400mlの0.125M NaOH(水溶液)および100mlのTHFを加えた。約15後、このTHFをエバポレーションし、この溶液を、クロロホルム(2×200ml)を用いて洗浄した。次いで水相を7mlの濃HCl(水溶液)を用いて酸性にし、クロロホルム−メタノール(4:1、2×250ml)で抽出した。この有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮した。残留するブタン酸を、減圧下での添加したギ酸−水(3:1)の反復的なエバポレーションによって除去し、1.32g(79%)の生成物を得た。H NMR(CDCl),0.92−0.98(m,6H;2×CH),1.3−1.48(m,2H;CH),1.54(qv,2H,J=6.8Hz;CH),1.62−1.70(m,4H;2×CH),1.75−1.83(m,2H;CH),1.85−1.95(m,2H;CH),2.18(t,2H,J=7.3Hz;CH),2.25(t,2H,J=6.2Hz;CH),3.17−3.22(m,1H;ε−CH2a),3.31−3.37(m,1H;ε−CH2a),4.52−4.58(m,1H;αCH),6.08(bs,1H;ε−NH),6.86(d,1H,J=7.3Hz;α−NH)。
【0216】
(実施例15:ヒトの感染性大腸炎(細菌性赤痢)における酪酸塩の種類の化合物の有効性の実証)
以下の試験は酪酸ナトリウム浣腸を用いて実施されるが、経口投与用にPBAを使用して相応じて実施されてもよい。
【0217】
集団の必要条件
酪酸ナトリウム浣腸は、潰瘍性大腸炎、便流変更性大腸炎、クローン病を含めた炎症性腸疾患に適用されてきたが、感染性大腸炎には適用されたことはなかった。
【0218】
感染性大腸炎における有効性を評価するために細菌性赤痢に罹患した成人の患者を選択したが、これは、このあと小児に対して行ってもよい。
【0219】
経口錠剤よりも酪酸塩の浣腸を選択したこと
炎症性腸疾患(IBD)に罹患した成人の患者に2〜6週間にわたって与えられた酪酸ナトリウム浣腸は明らかな副作用はなく安全であるということを示すために、多くの証左が利用できる。種々のこれまでの研究で使用された局所的な投薬量は、528mg/日〜1.12g/日の範囲の範囲に及び、この量は酪酸塩の正常な1日の結腸内産生量の35〜60%に相当する。これらの研究のいずれでも、有害な効果または反応はまったく報告されなかった。1つの研究によれば、4gの酪酸ナトリウムの1日の経口用量がIBD患者において6週間結腸を標的とした錠剤として与えられ、これも有害な効果はまったくなく安全でありかつ十分に耐容性であることが見出された。本研究では浣腸を利用した。
【0220】
研究の設計:二重盲検無作為化臨床試験および引き続く経過観察。
【0221】
研究の被験者:ICDDRBのダッカ病院(Dhaka Hospital)およびマトラブ病院(Matlab Hospital)で受診している成人の男性および女性の患者を、本研究への参加についてスクリーニングする。
【0222】
試験対象患者基準:
・年齢18〜45歳
・男性および女性
・下痢の継続期間 0〜3日間
・登録時に、培養によって確認された便中の赤痢菌の菌種(すべての赤痢菌の菌種)。
【0223】
除外基準:
・ICDDRB病院で受診する前に抗菌治療を受けた者
・他の付随する感染症の臨床症状(慢性呼吸器感染症、他の付随する胃腸感染症など)。
【0224】
無作為化
コンピューターで発生させた無作為化リストに従って、上記参加基準をすべて満たす患者を、介入群(ピブメシリナム+酪酸塩の浣腸)または対照/プラセボ群(ピブメシリナム+生理食塩水の浣腸)のいずれかへと無作為化する。
【0225】
浣腸の組成および浣腸の手順
酪酸塩浣腸は、生理食塩水(pH 7.2)中に80mmol/Lの酪酸塩を含有する。プラセボ浣腸は30mmol/L NaCl(pH 7.2)を含有する。
【0226】
患者は、ベッド(コレラ寝台)上に左側臥位で横たわるように指導される。柔らかい直腸カテーテルが看護師/医師によって導入され、このカテーテルを通して80mlの酪酸塩溶液が、50mlプラスチック製シリンジを用いてゆっくりと点滴注入される。当該患者は、投与後30分間背臥位のままいることによって、この浣腸を少なくとも半時間保持するように依頼される。しかしながら、患者がこの浣腸を30分間保持できない場合は、その患者は、排便の後すぐに2回目の浣腸を与えられる。
【0227】
症例管理
登録後、当該患者は、ICDDRBのダッカ病院およびマトラブ病院の研究病棟に入所する。標準的な臨床歴および臨床検査が、研究する医師によって実施される。すべての患者に、8時間ごとにピブメシリナム、400mgを5日間与える。介入群は12時間ごとに72時間、酪酸塩浣腸(80mlの80mM 酪酸ナトリウム)を与えられ、他方、プラセボ群は12時間ごとに72時間、80mlの生理食塩水を与えられる。すべての患者は、毎日3回(朝食、昼食および夕食)通常の病院給食が与えられる。何らかの再発の症例の同定を可能にするために、これらの患者は5日間研究病棟に留まる。
【0228】
症例数
Kabir Iら(1984)による研究(Kabir I,Rahaman MM,Ahmed SM,Akhter SQ,Butler T. Comparative efficacies of pivmecillinam and ampicillin in acute shigellosis. Antimicrob Agents Chemother. 1984年5月;25(5):643−5)で、ピブメシリナムを用いた処置の間の、細菌性赤痢に罹患した患者の下痢の継続期間が3.2±1.8(平均±SD)であることが示されている。ピブメシリナムとともに酪酸塩浣腸を用いて処置する場合、下痢の継続期間の30%短縮を予想すると、5%という有意水準および80%という検出力を考慮して、症例数は1つの群あたり55となろう。10%のドロップアウトを考慮して、各群中の症例数は61となろう。
【0229】
測定/記録した臨床パラメータ
1. 食欲
2. 腹部疝痛
3. 直腸しぶり
4. 8時間ごとの体温
5. 1日の便の頻度(排便の回数)
6. 便の排出量(グラム単位)
7. RMEによる便中のRBC、これに加えて細胞およびマクロファージの存在
8. 入院時、入院中毎日および14日後(経過観察中)の体重
9. S状結腸鏡による知見。
【0230】
他の分析
1. 4日間の細菌カウント(1日2回)のための、段階希釈法による便培養物
2. ウエスタンブロットによるLL−37の検出用の便
3. ELISAによるLL−37の判定用の便
4. 炎症の組織学的類別のための直腸生検(ダッカの患者だけから)
5. LL−37の免疫組織化学染色および画像解析用の直腸生検
6. リアルタイムPCRによる、組織中でのLL−37の転写物の評価のための直腸生検
7. 酪酸塩を測定するための血清。
【0231】
データ解析
正規分布したデータについては、群間で結果を比較するために適切なパラメトリック検定(例えばt検定)を使用することが意図されている。データが非対称である場合は、ノンパラメトリック検定が使用されることになろう。次いで、時間と処置との間の有意な交互作用を判定するための二元配置ANOVAを使用して統計解析を行うことができ、またいずれかの有意な交互作用の場合にはpost hoc Tukey手順が実施されることになろう。正規分布していないデータについては、順位によるANOVA(ANOVA on ranks)が適用されることになろう。群の内部での(日と日の間での)比較のために、一元配置ANOVAが行われることになろう。統計的計算は、統計用ソフトウェアSigmaStat(登録商標) 3.1(ジャンデル・サイエンティフィック(Jandel Scientific)、カリフォルニア州、サンラファエル)およびSPSS 13を使用して実施されることになろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによって、動物において微生物感染症を治療、抑制または予防するための医薬として使用するための式Iaの化合物
【化1】

(式中、
は、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの薬学的に許容できる塩、COOR、CONH、CONR、または前記化合物のアルデヒド、イミンもしくはアセタールで保護された誘導体、またはトリグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCHCH(OOCR)CHOH、またはアミノ酸基CONHCRCOOHもしくはその塩を表し、
mおよびnは、各々独立に、0または1であり、
1a、R1b、R2a、R2b、R3aおよびR3bは、各々独立に、水素、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基を表し、かつ/または
2aは、隣接するR3aまたはR1aと一緒に、炭素−炭素π結合を表してもよく、かつ/または
2bは、隣接するR3bまたはR1bと一緒に、炭素−炭素π結合を表してもよく、
は、水素、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基であってもよく、
は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、かつ
は、天然に存在するアミノ酸の側鎖であるか、またはCHCHCHNHR、CHCHCHCHNHR、またはCHCHCHNHC(=NH)NHR(式中、Rは水素または3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル基である)から選択され、
かつRがカルボキシルまたはその塩である場合、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの少なくとも1つは、ハライド、アミノ、ヒドロキシル、カルボニル、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または置換もしくは非置換のアリール基から選択される)。
【請求項2】
1aおよびR1bはともに水素であり、
mおよびnはともに1であり、かつ
2bおよびR3bはともに水素であるか、または一緒に「x」の位置でπ結合を形成するかのいずれかであり、これにより、R2aおよびR3aも一緒にπ結合を形成する場合、位置「x」は二重結合を表すか、
または、R1a、R1bおよびR2bはすべて水素であり、
mは0であり、nは1であり、かつRは水素であり、
その結果、前記化合物は式I
【化2】

(式中、
は、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの薬学的に許容できる塩、COOR、CONH、CONR、または前記化合物のアルデヒド、イミンもしくはアセタールで保護された誘導体、またはトリグリセリド部分COOCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCH(OOCR)CHOH、またはアミノ酸基CONHCRCOOHもしくはその塩を表し、
2aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
3aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表すが、ただしRがカルボキシルもしくはその塩である場合、R3aは水素ではなく、
は、水素、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
xは単結合、二重結合または三重結合を表すか、
またはx−R3aはまとめて水素を表し、その場合、RはCOOR、CONH、CONR、またはトリグリセリド部分COOCH(OOCR)CH(OOCR)もしくはジグリセリド部分COOCH(OOCR)CHOHであり、
は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、CHCHSCH、CHCHCHNHR、CHCHCHCHNHR、CHCHCHCNHC(=NH)NHR(式中、Rは水素または3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル基である)を表す)
を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
生得的な抗菌ペプチド防御系を刺激することによって、動物(ヒトを含む)において微生物感染症を治療、抑制または予防するための医薬として使用するための式Iの化合物
【化3】

(式中、
は、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの薬学的に許容できる塩、COOR、CONH、CONR、または前記化合物のアルデヒド、イミンもしくはアセタールで保護された誘導体、またはトリグリセリド部分COOCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCH(OOCR)CHOH、またはアミノ酸基CONHCRCOOHもしくはその塩を表し、
2aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
3aは、水素、ヒドロキシル、カルボニル、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表すが、ただしRがカルボキシルもしくはその塩である場合、R3aは水素ではなく、
は、水素、または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
xは単結合、二重結合または三重結合を表すか、
またはx−R3aはまとめて水素を表し、その場合、RはCOOR、CONH、CONR、またはトリグリセリド部分COOCH(OOCR)CH(OOCR)またはジグリセリド部分COOCH(OOCR)CHOHであり、
は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、水素、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状の置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和のアルキル基または置換もしくは非置換のアリール基を表し、
は、CHCHSCH、CHCHCHNHR、CHCHCHCHNHR、CHCHCHCNHC(=NH)NHR(式中、Rは水素または3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル基である)を表す)。
【請求項4】
はカルボキシル基またはその薬学的に許容できる塩を表す、請求項2または請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
は式COORのエステル基を表す、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
2aおよびRは水素を表す、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
3aは置換もしくは非置換のアリール基を表す、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
およびRは、独立に、3〜5個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアシル鎖を表す、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
mおよびnのうちの少なくとも1つは1であり、Rはカルボキシル基またはその薬学的に許容できる塩を表し、かつR1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの少なくとも1つは水素以外の置換基であるか、またはRがエステル、アミドから選択されるカルボン酸誘導体である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
は、トリグリセリドエステル部分またはジグリセリドエステル部分から選択されるエステルである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
はアミノ酸基のアミドであり、その結果、前記化合物は、一般式(IIIe):
【化4】

またはその塩(式中、Rは天然に存在するアミノ酸側鎖である)を有する、請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの1つはアリール基であり、かつ他のものは水素またはアルキル基から選択される、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
2a、R2b、R3a、R3bおよびRのうちの1つはアリール基であり、かつ他のものは水素またはアルキル基から選択される、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
1aおよびR1bのうちの少なくとも1つは水素である、請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
およびRは、存在する場合、独立にプロパノイル、n−ブタノイル、またはiso−ブタノイルを表す、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
が、存在する場合、プロパノイル、n−ブタノイル、またはiso−ブタノイルを表す、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
4−フェニル酪酸、3−フェニル酪酸、2−フェニル酪酸、3−フェニルプロピオン酸、2−フェニルプロピオン酸、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸[ST7]、2−メチル−4−フェニル酪酸、または前記化合物のうちのいずれかのものの薬学的に許容できる塩、4−フェニル酪酸メチル、4−フェニル酪酸エチル、3−フェニル酪酸メチル、3−フェニル酪酸エチル、2−フェニル酪酸メチル、2−フェニル酪酸エチル、3−フェニルプロピオン酸メチル、3−フェニルプロピオン酸エチル、2−フェニルプロピオン酸メチル、2−フェニルプロピオン酸エチル、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸メチル、2−メチル−3−フェニルプロピオン酸エチル、2−メチル−4−フェニル酪酸メチル、および2−メチル−4−フェニル酪酸エチルからなる群から選択される、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項18】
前記微生物感染症は、細菌感染症、ウイルス感染症、原虫感染症および真菌感染症からなる群から選択される、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項19】
前記微生物感染症はエンテロコリチカ菌、サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター、クロストリジウムおよび大腸菌から選択される微生物種によって引き起こされる、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
前記微生物感染症は、渡航者下痢症、地方病性下痢、赤痢、ウイルス性胃腸炎、寄生虫性腸炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、消化管の前癌状態、消化管の癌、憩室炎、抗生物質投与後の下痢、クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎、乳糖不耐症、鼓腸、胃炎、食道炎、胸やけ、胃潰瘍、ピロリ菌に関連する潰瘍、十二指腸潰瘍、短腸症候群、ダンピング症候群、グルテン腸症および食物不耐性からなる一覧から選択される胃腸障害;結膜炎、麦粒腫、眼瞼炎、蜂巣炎、角膜炎、角膜潰瘍、トラコーマ、ブドウ膜炎、涙小管炎および涙嚢炎から任意に選択される眼の感染症;腎盂腎炎、膀胱炎、淋病および尿道炎から任意に選択される尿路および生殖器の感染症;気管支炎、肺炎、鼻副鼻腔炎、副鼻腔炎、咽頭炎/扁桃炎、喉頭炎およびインフルエンザから任意に選択される呼吸器系の感染症;おでき、癰、せつ(フルンケル)、蜂巣炎、膿瘍、膿痂疹、および丹毒から任意に選択される皮膚の感染症;古典的な抗生物質治療に対して耐性を有する菌種によって引き起こされる感染症を生じる、請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項21】
前記動物における前記微生物感染症が前記生得的な抗菌ペプチド防御系の下方制御をもたらし、これにより、基底レベルに向かうまたは基底レベルを超える前記生得的な抗菌ペプチド防御系の刺激が、任意に消化管の中に存在する上皮表面上への関連するペプチドの分泌をもたらして、その抗菌活性を高める、請求項1から請求項20のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項22】
抗生物質、アミノステロール型化合物、イソロイシンまたはその活性な異性体もしくは類似体、ビタミンD型化合物のうちのいずれか1つ以上と組み合わせて使用される、動物における微生物感染症を治療、抑制または予防するための併用治療において使用するための請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項23】
微生物感染症を治療、予防または抑制するための医薬組成物であって、活性成分としての請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物と、少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項24】
経口用剤形として処方される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記経口用剤形は、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、散剤、ペースト剤、エリキシル剤、シロップから選択される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記組成物の単位用量が約10〜1000mgの範囲の前記活性成分を含む、請求項23から請求項25のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
抗生物質、アミノステロール型化合物、イソロイシンまたはその活性な異性体もしくは類似体、ビタミンD型化合物のうちのいずれか1つ以上をさらに含む、請求項23から請求項26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
ある量の、請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含む機能性食品または飼料製品であって、前記量は、前記食品または飼料を与えられる動物において細菌感染症を治療、抑制または予防するために有効な量である、機能性食品または飼料製品。
【請求項29】
食品1gあたり約0.1〜20mgの範囲の前記活性成分を含む、請求項28に記載の機能性食品または飼料製品。
【請求項30】
動物において微生物感染症を治療、予防または抑制するための方法であって、前記微生物感染症の効果は、生得的な抗菌ペプチド系の上方制御によって減少または低減され、前記方法は、分泌促進物質有効量の、請求項1から請求項22のいずれか1項で定められる少なくとも1つの式Iの化合物を含む医薬を投与することを含む、方法。
【請求項31】
経口用剤形として前記医薬を投与することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
1日あたりの投薬量が250μg〜約25gであり、前記投薬量は、1日あたり1、2または3回与えられる用量へと任意に分割されてもよい、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記動物はヒトである、請求項1から請求項32のいずれか1項に記載の化合物、組成物、食品、または方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2011−509253(P2011−509253A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541111(P2010−541111)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003709
【国際公開番号】WO2009/087474
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510187336)アクセリア ファーマシューティカルズ (1)
【Fターム(参考)】