説明

抗菌・抗カビ性付与剤、繊維類加工剤及び抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法

【課題】 ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に安定して分散されて、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に繊維類に付与されるようにすると共に、繊維類を加工処理する際に使用する染料や柔軟剤等の各種の処理剤と一緒に使用する場合にも悪影響を及ぼすということがなく、繊維類に対して抗菌・抗カビ性を付与する処理が適切に行えるようにする。
【解決手段】 ピリジン系の抗菌・抗カビ剤と、水酸基を減少させた変性多糖類とを含有させた抗菌・抗カビ性付与剤を用い、この抗菌・抗カビ性付与剤を繊維類に付与した後、この繊維類を加熱処理するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗カビ性付与剤、繊維類加工剤及び抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法に関するものである。特に、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤を用いて繊維類に抗菌・抗カビ性を付与する場合等において、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に安定して分散されて、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に繊維類に付与されるようにすると共に、染料や柔軟剤等の各種の処理剤と一緒に使用して繊維類を加工処理する際に、抗菌・抗カビ性付与剤が凝集したり、発泡したりすることがなく、繊維類に対して抗菌・抗カビ性を付与する処理が、他の処理と一緒にが適切に行えるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料用繊維製品、布団カバー、カーテン、タオル、壁布(壁紙)等の各種の繊維製品に対する衛生指向が高まり、各種の繊維製品に対して抗菌・抗カビ性を付与する加工が行われており、特に、近年においては、院内感染等の問題が大きくクローズアップされ、医療現場における手術衣等をはじめ、医療施設内における各種の繊維製品に対する抗菌・抗カビ性の加工技術の研究が急がれている。
【0003】
そして、合成繊維等からなる繊維製品に対して抗菌・抗カビ性を付与するにあたっては、紡糸原液に抗菌・抗カビ剤などの薬剤を練り込み、これを紡糸して抗菌・抗カビ性を有する繊維を製造し、このような繊維を単独又は他の繊維と合わせて、抗菌・抗カビ性を有する繊維製品等の繊維類を得るようにし、或いは、繊維又は繊維製品等の繊維類に抗菌・抗カビ剤などの薬剤を後で付着させて、繊維類に抗菌・抗カビ性を付与することが行われている。
【0004】
ここで、上記のように紡糸原液に抗菌・抗カビ剤などの薬剤を練り込んで紡糸する場合、紡糸段階で口金面に抗菌剤や抗カビ剤などの薬剤が結晶として析出し、糸切れが多発するなどの製糸上の問題があった。
【0005】
一方、繊維又は繊維製品等の繊維類に抗菌・抗カビ剤などの薬剤を後で付着させて、繊維類に抗菌・抗カビ性等を付与するようにした場合、洗濯耐久性が必ずしも十分ではなく、特に、通常60〜85℃での工業洗濯を数多く繰り返して行った場合、繊維類における抗菌・抗カビ性が大きく低下するという問題があった。
【0006】
そして、近年においては、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗カビ剤として、特許文献1〜4に示されるように、ジンクピリチオン等のピリジン系の抗菌・抗カビ剤を使用することが提案されている。
【0007】
ここで、ジンクピリチオン等のピリジン系の抗菌・抗カビ剤を繊維類に付着させて、繊維類に抗菌・抗カビ性等を付与する場合、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤は水などの溶媒に殆ど溶解されないため、一般に、上記の抗菌・抗カビ剤を粉末にして水などの液中に分散させ、このように抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液の状態で繊維類に付着させるようにしている。
【0008】
そして、このようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液の状態で繊維類に付着させるにあたり、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に分散された状態で安定して維持されるようにするため、一般に、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の各種の界面活性剤を添加させるようにしている。
【0009】
また、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液を繊維類に付着させて繊維類に抗菌・抗カビ性等を付与する場合、一般に、上記の抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液と一緒に、染料や柔軟剤等の各種の処理剤を用いて、これらの処理をまとめて行うようにしている。
【0010】
ここで、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液にアニオン系の界面活性剤を添加させたものと、カチオンを含む処理剤とを一緒に使用したり、カチオン系の界面活性剤を添加させたものと、アニオンを含む処理剤とを一緒に使用したりすると、これらが反応して凝集が生じ、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤を適切に分散させることができなくなる。このため、アニオン系やカチオン系の界面活性剤を使用した場合、使用できる処理剤の種類が限定されることになり、適切な処理剤を用いた処理が行えなくなり、また抗菌・抗カビ性を付与する処理と、他の処理とを別に行うようにした場合には、処理工程数が増加して、コストが高くつくという問題があった。
【0011】
さらに、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤を分散させた分散液にアニオン系、カチオン系、ノニオン系等の各種の界面活性剤を添加させた場合、発泡が生じて、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤を繊維類に適切に付与することができなくなる等の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−8275号公報
【特許文献2】特開2001−288014号公報
【特許文献3】特開2001−288015号公報
【特許文献4】特開平11−335202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤を用いて、繊維類に抗菌・抗カビ性を付与する場合等において、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に安定して分散されて、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に繊維類に付与されるようにすると共に、染料や柔軟剤等の各種の処理剤と一緒に使用して繊維類を加工処理する際に、抗菌・抗カビ性付与剤が凝集したり、発泡したりすることがなく、繊維類に対して抗菌・抗カビ性を付与する処理が、他の処理と一緒にが適切に行えるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における抗菌・抗カビ性付与剤においては、上記のような課題を解決するため、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤と、水酸基を減少させた変性多糖類とを含有させた。
【0015】
また、本発明における繊維類加工剤においては、上記のような抗菌・抗カビ性付与剤を含有させた。
【0016】
また、本発明における抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法においては、上記のような抗菌・抗カビ性付与剤を繊維類に付与した後、この繊維類を加熱処理するようにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明における抗菌・抗カビ性付与剤においては、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤と、水酸基を減少させた変性多糖類とを含有させたため、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤を水などの液中に分散させた場合に、上記の水酸基を減少させた変性多糖類により、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に安定した状態で分散されるようになると共に、前記のアニオン系やカチオン系の界面活性剤を添加させた場合のように、染料や柔軟剤等の各種の処理剤にカチオンやアニオンが含まれていても、反応して凝集が生じるということがなく、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に分散された状態で維持されるようになり、さらにアニオン系、カチオン系、ノニオン系等の各種の界面活性剤を添加させた場合のように発泡が生じるということもない。
【0018】
このため、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤を液中に分散させた抗菌・抗カビ性付与剤を、繊維類にピリジン系の抗菌・抗カビ剤を適切に付与させることができるようになると共に、染料や柔軟剤等の各種の処理剤と一緒に使用して繊維類を加工処理するにあたり、処理剤にカチオンやアニオンが含まれていても、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に分散された状態で維持されると共に発泡が生じるということもなく、使用できる染料や柔軟剤等の各種の処理剤の種類が限定されるということがなくなり、上記の抗菌・抗カビ性付与剤によって繊維類に抗菌・抗カビ性を付与する処理と、その他の処理剤による処理とを一緒に適切に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態に係る抗菌・抗カビ性付与剤、繊維類加工剤及び抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法について具体的に説明する。なお、本発明に係る抗菌・抗カビ性付与剤、繊維類加工剤及び抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法は、特に下記の実施形態に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0020】
本発明の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤としては、例えば、2−クロロ−6−トリクロロメチルピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−メトキシピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−(2−フリルメトキシ)ピリジン、ジ(4−クロロフェニル)ピリジルメタノール、2,3,5−トリクロロ−4−(n−プロピルスルフォニル)ピリジン、ジンクピリチオン等のピリジン系化合物を用いることができる。特に、繊維類との親和性がよく、繊維に対して強固に付着して高い洗濯耐久性が得られると共に、繊維類が変色するということがない点から、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤として、ジンクピリチオンを用いることが好ましい。
【0021】
また、本発明の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記の水酸基を減少させた変性多糖類としては、例えば、多糖類エーテル、多糖類エステル、多糖類アミド等を用いることができる。より具体的には、ヘミセルロース、アラビアガム、トラガントガム、カラギーナン、キサンタンガム、グワーガム、タラガム、ファーセレラン、タマリンド種子多糖、カラヤガム、ペクチン、プルラン、ジェランガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(HEHPC)、スルホエチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース(DHPC)等を用いることができ、特に、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤の分散安定性を高めるためには、セルロースエーテル、セルロースエステル、セルロースアミドを用いることが好ましい。
【0022】
そして、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤と、水酸基を減少させた変性多糖類とが含有された本発明の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤を水などの液中において分散させるにあたり、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤の量が少ないと、低濃度製品の販売となり非経済的である一方、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤の量が多くなりすぎると、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤を粉砕させて分散させることが困難になる。このため、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液中におけるピリジン系の抗菌・抗カビ剤の量を5〜50重量%の範囲、好ましくは10〜40重量%の範囲になるようにする。
【0023】
また、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤を水などの液中において分散させるにあたり、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤の粒径を小さくすると、粉砕等に要する時間が多く必要になると共に、粉砕された粒子が再凝集するおそれが生じる一方、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤の粒径が大きいと、粉体の重量が重いため分散安定性が悪くなり、長期安定な分散液を得ることが困難になる。このため、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液中におけるピリジン系の抗菌・抗カビ剤の平均粒径を0.1〜1.0μmの範囲にすることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であって、2μm以上のピリジン系の抗菌・抗カビ剤の量が、全ピリジン系の抗菌・抗カビ剤の量に対して5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下になるようにする。
【0024】
また、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液中に、水酸基を減少させた変性多糖類を含有させるにあたり、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤が安定して分散されるようにするためには、上記の分散液中における上記の変性多糖類の量を0.05〜1重量%の範囲になるようにすることが好ましい。変性多糖類の量が少ないと、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が安定して分散を維持できなくなる。一方、変性多糖類の量が多くなると、粘度が高くなり過ぎるため、液状を呈さず使用が困難となる。
【0025】
また、本発明の抗菌・抗カビ性付与剤においては、分散液中におけるピリジン系の抗菌・抗カビ剤の濃度が高くなっても、このピリジン系の抗菌・抗カビ剤が安定して分散されるようにするため、湿潤剤を添加させることが好ましい。ここで、このような湿潤剤としては、上記のように染料や柔軟剤等の各種の処理剤にカチオンやアニオンが含まれていても反応しないようにするため、ポリエチレングリコール、グリコール系溶剤、グリセリン、ポリビニルアルコール、アルコール系溶剤等のノニオン系の湿潤剤を用いることが好ましい。
【0026】
そして、本発明において、上記のようにピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に分散された抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を用いて、抗菌・抗カビ性繊維類を製造するにあたっては、上記の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を繊維類に付与した後、この繊維類を加熱処理させるようにする。
【0027】
ここで、上記の繊維類としては、木綿等の天然繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の合成繊維、アセテート繊維等の半合成繊維類及びこれらを混合した繊維等を用いることができ、特に、ポリエステル繊維、ナイロン、アクリロニトリル等の合成繊維では、その高分子樹脂の中にピリジン系の抗菌・抗カビ剤が浸透・固定されることにより高い耐久性が得られることから望ましく、さらにポリエステル繊維は、その高分子樹脂の重合度が高いことからより高い耐久性が得られることから最も望ましい。
【0028】
また、繊維類の形態としては、例えば、糸、編物、織物、布、及び各種製品が挙げられ、製品としては、例えば、衣料品、寝装寝具、敷物、カーテン、屋内壁布等、特に病院等医療施設で使用される手術衣、看護衣、シーツ・カバー等の寝装寝具、間仕切りカーテン、包帯、タオル、ふきん等の製品が挙げられる。
【0029】
ここで、上記のように抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を繊維類に付与させるにあたっては、繊維類の種類やこの加工目的等に応じて、上記の分散液をそのまま或いはピリジン系の抗菌・抗カビ剤の濃度が適当な濃度になるように希釈させて用いるようにする。
【0030】
そして、上記のように抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を繊維類に付与し、この繊維類を加熱処理させるにあたっては、繊維類を上記の分散液若しくはその希釈液に浸漬させ、常圧又は加圧下において80〜160℃の温度で浴中において加熱処理させる浴中法を用いるようにし、或いは繊維類に上記の分散液若しくはその希釈液を含浸又は付着させ、次いで110〜230℃の温度で気中において加熱処理させる気中法を用いるようにすることができる。
【0031】
ここで、上記の浴中法によって繊維類に抗菌・抗カビ性を付与させる場合、例えば、耐圧密閉容器中に、処理する繊維類の重量に対してピリジン系の抗菌・抗カビ剤が0.001〜20重量%程度になるように上記の分散液若しくはその希釈液を加えて、これに上記の繊維類を浸漬させ、0〜620KPa程度の圧力下において80〜160℃の温度で加熱処理させるようにする。なお、このように浴中において加熱処理する際の圧力や温度は、繊維の種類によって条件が多少変わるが、ポリエステル繊維の場合は加圧下、100〜140℃程度の温度で、ナイロン、アセテート又はアクリル繊維の場合は常圧下、80〜100℃程度の温度で処理することが望ましい。いずれの場合も処理時間は30秒から2時間程度でよい。
【0032】
また、上記の気中法によって繊維類に抗菌・抗カビ性を付与させる場合、例えば、処理する繊維類の重量に対してピリジン系の抗菌・抗カビ剤が0.001〜20重量%程度になった上記の分散液若しくはその希釈液に上記の繊維類を浸漬させて含浸させ、或いは上記の分散液若しくはその希釈液を噴霧等により上記の繊維類に付着させ、その後、この繊維類をに取り出し、気中で乾熱若しくは湿熱により、110〜230℃の温度で加熱処理させるようにする。なお、このように気中に加熱処理する際の温度は、繊維の種類によって条件が多少変わるが、ポリエステル繊維の場合は、160〜230℃程度の温度で、ナイロン、アセテート又はアクリル繊維の場合は、70〜150℃程度の温度で処理することが望ましい。いずれの場合も処理時間は10秒〜10分程度でよい。
【0033】
また、上記のように抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を用いて繊維類に抗菌・抗カビ性を付与させるにあたり、染料や柔軟剤等の各種の処理剤に加えて、その他の処理を一緒に行う場合、上記の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤を分散させるのに水酸基を減少させた変性多糖類を用いているため、染料や柔軟剤等の各種の処理剤にカチオンやアニオンが含まれていても、アニオン系やカチオン系の界面活性剤を用いた場合のように、反応して凝集が生じるということがなく、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に分散された状態で維持されるようになる。また、水酸基を減少させた変性多糖類を用いた場合には、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の各種の界面活性剤を添加させた場合のように発泡が生じるということもない。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例に係る抗菌・抗カビ性付与剤と比較例に係る抗菌・抗カビ性付与剤とを比較し、実施例に係る抗菌・抗カビ性付与剤においては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系の処理剤と一緒に用いた場合に、凝集や発泡が生じるのが抑制されることを明らかにする。なお、実施例及び比較例の抗菌・抗カビ性付与剤においては、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤としてジンクピリチオンを用いた。
【0035】
(実施例1)
実施例1においては、水に対して、ジンクピリチオン(以下、ZPTと略す。)を5重量%添加し、ガラス製ボールを使用したボールミルにより、これを粉砕させた後、水酸基を減少させた変性多糖類のカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略す。)を0.7重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0036】
(実施例2)
実施例2においては、水に対して、ZPTを10重量%、湿潤剤のポリエチレングリコール(以下、PEGと略す。)を1重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のCMCを0.7重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0037】
(実施例3)
実施例3においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを1重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のCMCを0.5重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0038】
(実施例4)
実施例4においては、水に対して、ZPTを40重量%、湿潤剤のPEGを1重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のCMCを0.3重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0039】
(実施例5)
実施例5においては、水に対して、ZPTを50重量%、湿潤剤のPEGを1重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のキサンタンガムを0.3重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0040】
(実施例6)
実施例6においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを2重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のメチルセルロース(以下、MCと略す。)を0.5重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0041】
(実施例7)
実施例7においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のグリセリンを3重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のCMCを0.3重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0042】
(実施例8)
実施例8においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のジエチレングリコールモノエチルエーテルを5重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のCMCを0.5重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0043】
(実施例9)
実施例9においては、水に対して、ZPTを40重量%、湿潤剤のポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。)を3重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のヒドロキシエチルセルロース(以下、HECと略す。)を0.5重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0044】
(実施例10)
実施例10においては、水に対して、ZPTを40重量%、湿潤剤のPVAを3重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、変性多糖類のヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと略す。)を0.3重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0045】
(比較例1)
比較例1においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを3重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、未変性の多糖類であるデキストリンを0.5重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0046】
(比較例2)
比較例2においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを5重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、カチオン系界面活性剤のアルキルアンモニウムハイドライト(日本乳化剤社製:Texnol L7)を0.2重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0047】
(比較例3)
比較例3においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを5重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、アニオン系界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸塩(日本乳化剤社製:Newcol 210)を0.2重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0048】
(比較例4)
比較例4においては、水に対して、ZPTを20重量%、湿潤剤のPEGを5重量%添加し、これを上記のボールミルにより粉砕させた後、ノニオン系界面活性剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテル(日本乳化剤社製:Newcol 2303−Y)を0.2重量%添加し、これを30分間撹拌させて、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を得た。
【0049】
そして、上記の実施例1〜10及び比較例1〜4の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を用い、カチオン,アニオン,ノニオンに対する凝集及び発泡を調べる実験を行った。
【0050】
ここで、カチオンに対する実験においては、200mlの栓付メスシリンダーに、塩化ベンザルコニウムの0.1重量%水溶液を100ml加え、10mlのパスツールピペットを用いて上記の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液をそれぞれ10滴添加した後、1分間に20回転倒の撹拌を行い、各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液における凝集を調べ、その結果を下記の表1に示した。
【0051】
また、アニオンに対する実験においては、200mlの栓付メスシリンダーに、ドデシルベンゼンスルホン酸塩の0.1重量%水溶液を100ml加え、10mlのパスツールピペットを用いて上記の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液をそれぞれ10滴添加した後、1分間に20回転倒の撹拌を行い、各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液における凝集を調べ、その結果を下記の表1に示した。
【0052】
また、ノニオンに対する実験においては、200mlの栓付メスシリンダーに、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの0.1重量%水溶液を100ml加え、10mlのパスツールピペットを用いて上記の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液をそれぞれ10滴添加した後、1分間に20回転倒の撹拌を行い、各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液における凝集を調べ、その結果を下記の表1に示した。
【0053】
また、発泡性に対する実験は、200mlの栓付メスシリンダーに、イオン交換水を100ml加え、10mlのパスツールピペットを用いて上記の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液をそれぞれ10滴添加した後、1分間に20回転倒の撹拌を行い、各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液における発泡を調べ、その結果を下記の表1に示した。
【0054】
ここで、上記の各実験における凝集に関しては、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液に凝集が生じなかった場合を○、抗菌・抗カビ性付与剤の分散液に凝集が生じた場合を×として評価した。また、発泡に関しては、上記の20回転倒の撹拌直後における泡の高さが5cm以下で、かつ10分後における泡の高さが3cm以下の条件を満たす場合を○、上記の条件を満たさない場合を×として評価した。
【0055】
また、上記の実施例1〜10及び比較例1〜4の各抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を用いて、ZPT量が0.2重量%となる希釈液にポリエステル繊維(色染社:ポリエステルトロピカル)を浸漬し、100%絞りしたポリエステル繊維を気中において190℃で1分間加熱処理して得た抗菌・抗カビ繊維をJIS−L1902に準拠した抗菌試験を行い、抗菌・抗カビ性が有効であると認められた場合を○、有効であると認められない場合を×で評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
この結果、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤であるジンクピリチオンに対して、水酸基を減少させた変性多糖類を添加させた実施例1〜10の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、カチオン,アニオン,ノニオンの何れに対しても凝集及び発泡が生じるということがなかった。このため、実施例の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液を用いた場合、染料や柔軟剤等の各種の処理剤にカチオンやアニオンが含まれていても、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤が適切に分散された状態で維持されると共に発泡が生じるということもなく、使用できる染料や柔軟剤等の各種の処理剤の種類が限定されるということがなくなり、繊維類に抗菌・抗カビ性を付与する処理と、その他の処理剤による処理とが一緒に適切に行えるようになることが分かる。
【0058】
これに対して、ピリジン系の抗菌・抗カビ剤であるジンクピリチオンに対して、未変性の多糖類であるデキストリンを添加させた比較例1の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、カチオンに対して凝集が生じ、またカチオン系界面活性剤を添加させた比較例2の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、アニオンに対して凝集が生じると共に発泡が生じ、またアニオン系界面活性剤を添加させた比較例2の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、カチオンに対して凝集が生じると共に発泡が生じ、またノニオン系界面活性剤を添加させた比較例3の抗菌・抗カビ性付与剤の分散液においては、凝集は生じなかったが、発泡が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジン系の抗菌・抗カビ剤と、水酸基を減少させた変性多糖類とが含有されていることを特徴とする抗菌・抗カビ性付与剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤が液中に分散されていることを特徴とする抗菌・抗カビ性付与剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記のピリジン系の抗菌・抗カビ剤がジンクピリチオンであることを特徴とする抗菌・抗カビ性付与剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の抗菌・抗カビ性付与剤において、上記の水酸基を減少させた変性多糖類が、多糖類エステル、多糖類エーテル及び多糖類アミドから選択される少なくとも1種であることを特徴とする抗菌・抗カビ性付与剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の抗菌・抗カビ性付与剤において、湿潤剤が含有されていることを特徴とする抗菌・抗カビ性付与剤。
【請求項6】
繊維類を加工処理する繊維類加工剤において、請求項1〜5の何れか1項に記載の抗菌・抗カビ性付与剤が含有されていることを特徴とする繊維類加工剤。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の抗菌・抗カビ性付与剤を繊維類に付与した後、この繊維類を加熱処理することを特徴とする抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法において、前記の抗菌・抗カビ性付与剤中に繊維類を浸漬させた後、この繊維類を常圧又は加圧下において80〜160℃の温度の浴中で加熱処理することを特徴とする抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法において、前記の抗菌・抗カビ性付与剤を繊維類に含浸又は付着させた後、この繊維類を110〜230℃の温度の気流中で加熱処理することを特徴とする抗菌・抗カビ性繊維類の製造方法。

【公開番号】特開2013−87082(P2013−87082A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228897(P2011−228897)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000205432)大阪化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】