説明

抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法

【課題】抗菌剤の吸着力が強固で、洗濯後でも抗菌性が高く、さらに、抗菌剤の合成繊維からの溶出が極めて少なく、より安全な抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の提供を目的とする。
【解決手段】合成繊維と、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を、密閉した加温加圧環境下で流動させることにより、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させた後、上記合成繊維を常圧に戻し、その次に、常圧下で上記合成繊維を熱処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗菌性を付与した繊維構造物は各種衣料、寝装寝具、インテリア製品などに広く利用されている。特に近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、「MRSA」という。)による院内感染が問題となっており、白衣、カーテンなどに抗菌性を付与する抗菌性繊維の使用が増大している。
【0003】
その中で近年、実使用場面に則した評価法での抗菌効力の付与、および繊維から肌への抗菌剤移動を考慮した安全性確保の問題から、工業洗濯後も菌転写法による低湿度条件下での抗菌力試験においても高い抗菌活性を有し、さらに繊維からの抗菌剤の溶出が極めて少ない繊維構造物が必要とされている。またさらに、衛生を強化するために、抗菌性だけではなく防カビ性を有する繊維も必要とされている。加えて、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス、鳥インフルエンザウイルス・人インフルエンザウイルス等、ウイルスの問題が大きくなっており、抗ウイルス性繊維が必要とされている。
【0004】
例えば、分子量200〜700、無機性値/有機性値=0.3〜1.4、平均粒径が2μm以下であるピリジン系抗菌剤を含む抗菌性繊維構造物が、工業洗濯耐久性に優れた制菌活性を有していることが、特許文献1に記載されている。
【0005】
更に、特許文献2に、ピリチオン亜鉛及びピリチオン銅をポリエステル繊維に加圧処理したものは、洗濯後でも良好な抗菌繊維となることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−8275号公報
【特許文献2】特開2000−119960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各文献においては、必要とする抗菌性や防カビ性、耐洗濯性等を兼ね備えたものは得られていない。すなわち、特許文献1に記載の方法は、無機性値/有機性値が1.4を越えると、ポリエステル等の合成繊維への抗菌剤の吸着が悪く、抗菌効力も悪いと記載されている。また、特許文献2に記載の方法で抗菌剤を付着させた合成繊維は、低湿度状態での菌転写法による抗菌力や防カビ性が十分であるとはいえなかった。また、繊維で抗ウイルス効果のあるものは、これまで知られていなかった。
【0008】
そこでこの発明は、抗菌剤の繊維への吸着力が強固で、洗濯後でも抗菌防カビ性が高く、さらに、抗菌剤の合成繊維からの溶出が極めて少なく、より安全な抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、合成繊維と、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を、密閉した加温加圧条件下で流動させることにより、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させた後、上記合成繊維を常圧に戻し、その次に、常圧下で上記合成繊維を熱処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法により上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
無機性値/有機性値が1.4を越えることで、適度な親水性を有するため、低湿度状態でも高い抗菌効果を得ることができる。一方で、無機性値/有機性値が3.3以下であり、適度な疎水性を有し、かつ、吸尽後に一度常圧に戻すことによって繊維を構成する分子鎖がゆるんだ非結晶部分が急激に収縮することにより非晶質部分に入った抗菌剤が繊維内部に閉じ込められるので、繊維からの流出を抑えることができ、さらに常圧下で熱処理することで、繊維内に吸尽された抗菌剤が表面近くに滲み出る、いわゆるブリードアウトを起こし、洗濯後も抗菌・防カビ・抗ウイルス性を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、合成繊維と、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤が微粒子の状態で分散された水性懸濁液を、密閉した加温加圧条件下で流動させることにより、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させた後、上記合成繊維を常圧に戻し、その次に、常圧下で上記合成繊維を熱処理する、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維の製造方法である。
【0012】
上記の「無機性値」及び「有機性値」とは、藤田稔氏が考案した各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり[改編 化学実験学−有機化学篇−河合書房(1971)]、その後、甲田善生氏[有機概念図−基礎と応用−三共出版(1984)参照]らが体系的にまとめた値である。この「無機性値」はイオン結合性としての特性を表し、「有機性値」は共有結合性としての特性を表しており、一般的には、「無機性値」が高くなると親水性、「有機性値」が高くなると疎水性になる傾向となる。これらの値は、表1のように定められる。
【0013】
【表1】

【0014】
さらに、イオン結合性と共有結合性の中間的性質を有していると考えられるキレート化合物中の金属の無機性値は、配位の状態によって変わってくる。一般的に、銅などの重金属は共有結合性を強く帯びた結合をしているので[甲田善生著、有機概念図−基礎と応用−三共出版(1984)128ページ参照]、銅を含むキレート化合物の無機性値は、重金属の最低値400と考えられる。しかしながら、イオン結合性が増している場合も考えられるので、これをさらに上回る500という値も考えられる。ただし、一般的には無機物は、無機性値のみが特定の値をとる[上記有機概念図22ページ参照]が、重金属が化合物分子全体の有機無機バランスに影響しないと考えると、金属の無機性値が0という場合もあり得ると考えられる。この場合、キレート化合物中の金属の無機性値は、仮定上の最低値0となる。同様に、亜鉛も重金属であり、0〜500までの値が考えられる。なお、この発明において、「無機性値/有機性値」とは、上記で定められた値の「無機性値の和」と「有機性値の和」を求め、両者の比をとった値をいう。
【0015】
一般的に、抗菌剤を繊維に吸着させる場合、抗菌剤と繊維との無機性値/有機性値が近いほど親和性が良く、また、吸着性がよくなるとされる。例えば上記合成繊維として挙げられるポリエステルは0.7となっており、この値が繊維に近い抗菌剤ほど親和性が良いとされている。しかしながら、無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤を用いると、上記の一般的な傾向にもかかわらず、この発明にかかる方法によって、ポリエステル等の合成繊維への吸着吸尽が良好で、優れた抗菌・防カビ・抗ウイルス性を有する繊維を得ることが出来る。
【0016】
この発明にかかる方法に用いるピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、1.4を越え、3.3以下であることが必要である。1.4を越えるとは、例えば1.401以上であることをいう。1.46以上であり、3.25以下であると望ましく、1.8以上であり、2.9以下であるとより望ましい。
【0017】
無機性値/有機性値が1.4以下であると、例えば無機性値/有機性値が0.7であるポリエステル繊維に対し、繊維との親和性が良く、さらに疎水性が高いことから、水溶出も抑えられて、一般的には有利と考えられる。しかし、低湿度条件となる菌転写法での効力を検討すると、無機性値/有機性値が1.4以下であると疎水的になりすぎるため、効力が極端に落ちてしまう。さらに、親油性に傾きすぎるために、洗剤の影響を受けやすく、洗濯耐性が悪くなり好ましくない。したがって、無機性値/有機性値は1.4を越えることが必要であり、1.8以上であればより望ましい。一方で、無機性値/有機性値が3.3を越えると、親水性が高くなりすぎ、ポリエステル等の繊維への吸着が悪く、水で洗い流されるため洗濯耐性も落ち、更に繊維からの抗菌剤溶出も増加する方向になり、好ましくない。従って、無機性値/有機性値は3.3以下であることが必要であり、2.9以下であるとより望ましい。
【0018】
上記の条件を満たすピリジン系抗菌剤としては、例えば、下記化学式(1)のMがCuである2−ピリジンチオール銅−1−オキシド(以下、「ピリチオン銅」という。)、MがZnである2−ピリジンチオール亜鉛−1−オキシド(以下、「ピリチオン亜鉛」という。)が挙げられ、特にピリチオン亜鉛が最も望ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
上記のピリジン系抗菌剤がピリチオン亜鉛である場合、無機性値は表1より、「ピリチオンの化学式(2)に記載の結合:170×2=340」、「S結合:20×2=40」、「芳香環:15×2=30」となり、亜鉛に関しては上記のように0〜500の値をとりうる。したがって、無機性値の合計は410〜910の範囲となる。一方、有機性値は「C:20×10=200」、「S結合:40×2=80」で、合計280となる。従ってこの比をとると無機性値/有機性値=(410/280)〜(910/280)=1.46〜3.25となる。なお、亜鉛の無機性値を重金属の最低値400とすると、ピリチオン亜鉛の無機性値の合計は810となり、その際の無機性値/有機性値は2.9となる。これらの値は、上記のピリジン系抗菌剤がピリチオン銅である場合も同様である。
【0021】
【化3】

【0022】
したがって、上記ピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、1.46以上であり、3.25以下であることが望ましく、2.9以下であるとより望ましい。
【0023】
これらピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値は、有機性が高いポリエステル繊維の無機性値/有機性値=0.7からはやや離れている。それにも関わらず、これらピリジン系抗菌剤を水中でポリエステル繊維に対して用いた場合、上記ピリジン系抗菌剤はポリエステル繊維にも吸着吸尽されやすい。これは、上記無機性値/有機性値が3.3以下である微粒子の状態で分散されたピリジン系抗菌剤が水中で独立して存在するよりも、ポリエステル繊維表面に吸着した方がより安定であるためと考えられる。
【0024】
また、上記のピリジン系抗菌剤の水溶解度は0.01〜30ppmと低く、例えば、上記のピリジン系抗菌剤であるピリチオン亜鉛の25℃水溶解度は8ppmであり、ピリチオン銅の場合は1ppm以下であるが、これらは好適に有機性の高い合成繊維に吸着され、さらに水等への溶出も少なく、好適に使用される。
【0025】
さらに、上記ピリジン系抗菌剤の有機溶剤溶解度は、一般にn−オクタノール/水分配係数に用いられる有機溶剤であるn−オクタノールへの25℃における溶解度として、0.01〜100ppmであり、有機溶剤にも溶解しにくく、親和性が低い。このため、洗濯時の洗剤によって抗菌剤がミセル化されにくく、洗濯後でも抗菌力を高く維持することができる。
【0026】
上記のピリジン系抗菌剤を、上記合成繊維に吸尽させる。一般に高分子からできている合成繊維は、分子の集まり方が密な部分(結晶部分)と疎な部分(非結晶部分)からなり、ガラス転移温度(以下、「Tg温度」と略す。)以上になると非結晶部分の分子鎖がゆるみ流動性が増し抗菌剤等の分子が入りやすくなる。そのため、上記ピリジン系抗菌剤と合成繊維とを密閉した加温加圧条件下で流動させながら吸尽させる際に、Tg温度以上の上記適温で行うと、上記ピリジン系抗菌剤は繊維内に効率良く吸尽され、良好な固着状態となる。その際には、上記ピリジン系抗菌剤を上記水性懸濁液にすることが必要である。なお、ここで言う水性懸濁液にするとは常温常圧下における状態がそうであるようにすることをいい、加温加圧下ではより多くのピリジン系抗菌剤が溶解する可能性がある。この発明では、常温常圧下における上記の水性懸濁液が、上記の吸尽を行う加温加圧下において全てのピリジン系抗菌剤が溶解して、懸濁状態ではなくなるものでも構わない。
【0027】
上記の水性懸濁液とは、上記ピリジン系抗菌剤を、界面活性剤等の分散剤と水との存在下で、攪拌又は粉砕することにより得られる懸濁液である。この水性懸濁液中における、上記ピリジン系抗菌剤の平均粒子径は0.1〜2μmが好ましく、0.1〜1μmであるとより好ましい。平均粒子径が2μmを超えると沈殿を起こしてしまい、処理剤として不安定になるおそれがあり、また、粒子径が大きすぎて加工処理時に繊維への吸尽が悪くなるおそれがある。そのため、粒子径が2μm以上の上記ピリジン系抗菌剤は、上記ピリジン系抗菌剤の全重量に対して5重量%以下であるとよく、3重量%以下であると好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であるとさらに好ましい。
【0028】
なお、上記の水性懸濁液中における上記ピリジン系抗菌剤の粒子の平均粒子径は、JIS R 1629に準拠したレーザー回折粒度分布測定装置を用いて測定し、累積50%に相当するメジアン径として求めたものである。
【0029】
上記分散剤としては、特に制限はなく、例えばリグニンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン系界面活性剤、4級アンモニウム塩系のカチオン系界面活性剤、PVA等が挙げられる。これらの分散剤に、必要に応じて増粘剤、凍結防止剤、消泡剤を加えてスラリー状とし、必要に応じてボールミル、セラミックスミルやパールミルを用いて懸濁液にして、上記水性懸濁液とする。
【0030】
上記水性懸濁液中の上記分散剤の重量は、上記ピリジン系抗菌剤の重量の1/50〜1/1であることが好ましく、特に好ましくは1/25〜1/2である。上記分散剤がこれより多いと、分散剤が繊維に付着して、風合いが損なわれたり、他の染色補助剤等に悪影響を及ぼしたりするため、好ましくない。一方で、少なすぎると上記ピリジン系抗菌剤が沈降し、処理剤として安定せず、問題が残るおそれがある。
【0031】
上記水性懸濁液により、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させる際には、上記水性懸濁液が50〜99.999重量%の水分を含有している水溶液であると望ましい。水分が50重量%以上あると、沈殿や凝集を起こしにくく、安定性に優れ、扱いやすくなる。
【0032】
上記水性懸濁液のpHは、4〜9であることが望ましく、5〜8であるとより望ましく、5.5〜7であるとさらに望ましい。pHが4未満であっても、9を超えても、どちらも上記ピリジン系抗菌剤の分解が起こり、抗菌・防カビ・抗ウイルス性が保持されなくなってしまうためである。
【0033】
上記水性懸濁液により、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させる際には、水溶液中の上記ピリジン系抗菌剤の濃度が、10〜1600重量ppmであると望ましく、50〜900重量ppmであるとより望ましく、100〜500重量ppmであるとさらに望ましい。10重量ppm以下であると、上記ピリジン系抗菌剤の上記合成繊維への吸尽が十分でなく、抗菌力が低くなりすぎてしまう。一方で、1600重量ppm以上にしても、効力の割に多量の上記ピリジン系抗菌剤を消費することになり、好ましくない。
【0034】
なお、水溶液中の上記ピリジン系抗菌剤の濃度がこの範囲になるように、上記水性懸濁液を水で希釈してから上記合成繊維に吸尽させてもよいが、通常は、濃厚な懸濁液を作製しておき、使用時にそれを希釈して使用するのが好ましい。例えば、10〜30%の原液を作っておき、使用時に好ましい濃度に希釈して使用する。このようにすることによって、液を安定に長期間保存することができ、また、使用現場への輸送コストも安く抑えることができる。
【0035】
この水性懸濁液により、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させる際に、上記水性懸濁液の重量は、上記合成繊維の4〜30倍であるのが望ましく、5〜20倍であるとより望ましく、6〜15倍であるとさらに望ましい。4倍未満であると、水分が少ないために加工ムラが多くなってしまい、品質が安定しないおそれがある。一方で、30倍を超えても、繊維に吸尽される薬剤量に限界があり、多くの薬剤が利用されずに廃棄されることになり、無駄になってしまう。
【0036】
なお、上記水性懸濁液を上記合成繊維に吸尽させる際には、その水溶液に、染色剤や染色補助剤を加えてもよい。例えば、一般に繊維に用いられている分散染料、酸性染料、カチオン染料、蛍光増白剤、撥水剤、防汚剤等である。さらに、必要に応じて、酸化亜鉛、酸化チタン等の抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、防炎剤、酸化防止剤、フィックス剤等を加えてもかまわない。
【0037】
上記の水性懸濁液を上記合成繊維とともに密閉し、加温加圧条件下で流動させることにより、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維に吸尽させる。その際のゲージ圧は0.5〜4kg/cm2(49〜392kPa)であることが望ましく、1〜3kg/cm2(98〜294kPa)であればより望ましい。また、温度は、110〜150℃であることが望ましく、120〜140℃であるとより望ましい。この条件下におくことで、上記合成繊維の非晶質である部分に上記ピリジン系抗菌剤が主に選択的に吸尽される。このような条件で吸尽を行うと、上記ピリジン系抗菌剤は50〜200ppm程度溶解しているものと考えられる。温度や圧力が上記範囲より低いと、合成繊維の非晶質部分が膨潤せず、上記ピリジン系抗菌剤が上記合成繊維に吸尽しにくくなってしまう。一方で、温度や圧力が上記範囲より高いと、加圧装置の機械的な爆発の危険性が高くなってしまう。
【0038】
上記の加温加圧条件下で流動させる時間は10〜90分間であることが望ましく、15〜80分間であるとより望ましく、20〜60分間であるとさらに望ましい。10分未満であると上記ピリジン系抗菌剤が十分に上記合成繊維に吸尽されず、抗菌・防カビ・抗ウイルス性が不十分となってしまうおそれがある。一方で、時間が長すぎると、上記ピリジン系抗菌剤の吸尽はほとんど終わってしまっているので、余計な時間がかかるだけとなってしまい、生産効率が下がることとなる。
【0039】
なお、この発明において、上記水性懸濁液と上記合成繊維を密閉する装置は、上記の温度と圧力に耐えうるものである必要がある。また、上記装置内部で上記水性懸濁液と上記合成繊維とのどちらか、又は両方を流動させる機能を有する必要がある。上記の流動させる方法としては、密閉した装置の中で上記合成繊維を回転させる方法や、上記の水溶液を循環させる方法などが挙げられる。
【0040】
さらに、流動させながら吸尽させる際、上記装置内が全て上記水性懸濁液で満たされているのではなく、上記装置内にガスが存在していることが望ましい。このガスとは、空気や窒素、アルゴンなど、上記水性懸濁液や上記合成繊維に影響を及ぼさないガスであると望ましい。上記装置内における、上記ガスと上記水性懸濁液との体積比は1/1〜1/95であることが望ましく、1/2〜1/9であるとより望ましい。上記ガスが上記の範囲の体積比で含まれていると、上記水性懸濁液と上記合成繊維との流動性が良好で、上記ピリジン系抗菌剤と上記合成繊維との接触が多くなり、吸尽効率が高くなる。また、ガスが存在すると装置の圧力緩衝材として働き、安定した操業が行われる。上記ガスと上記水性懸濁液との体積比が1/1よりも上記ガスが多いと、上記合成繊維と上記水性懸濁液との接触が少なく、吸尽効率が悪くなったり、加工ムラが出来やすくなったりする。一方で、1/95よりも上記水性懸濁液が多いと、液の流動性が悪くなり、吸尽効率が悪くなり、抗菌・防カビ・抗ウイルス性の性能が十分でなくなる。
【0041】
上記のようにして、上記ピリジン系抗菌剤を上記繊維に吸尽させた後、上記装置内を常圧に戻す。常圧に戻す際には、冷却しながら常圧に戻すと望ましい。より望ましくは、冷却しながら圧力を低下させていき、110℃以下になったタイミングで圧抜きして常圧とする。常圧に戻すことで、合成繊維のゆるんだ分子鎖が閉じることにより上記ピリジン系抗菌剤が上記合成繊維内に固定化される。また、冷却し常圧に戻す際も、上記の流動を継続させておくと、上記ピリジン系抗菌剤の均一さが増し、吸着吸尽ムラが低減できるのでより望ましい。
【0042】
次に、上記のようにして常圧に戻した後に上記装置から取り出した上記合成繊維を、常圧環境下で熱処理することで、上記合成繊維内部に入った上記ピリジン系抗菌剤を滲み出させ、表面近傍により多く存在させる様にすることができる。これは、合成繊維の無機性値/有機性値と上記ピリジン系抗菌剤の無機性値/有機性値とがやや離れているために、上記繊維と上記ピリジン系抗菌剤との親和性があまり良くないので、滲み出させることができるからである。この熱処理を行うことで、得られる抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維は繊維の表面近くに上記ピリジン系抗菌剤がより多く存在する様になり、抗菌・防カビ・抗ウイルス性が向上する。
【0043】
なお、上記熱処理の前に、上記合成繊維を洗浄して、不純物や余分な上記水性懸濁液、又は同時に処理した分散染料、その他助剤等を洗い落としておくと望ましい。洗浄に用いる液は、特に制限はないが、通常水又はアルカリ性液が用いられる。抗菌・防カビ・抗ウイルス性を示すのに必要な上記ピリジン系抗菌剤は上記合成繊維内に吸尽されており、洗浄しても抗菌・防カビ・抗ウイルス性は低下しない。
【0044】
上記熱処理を行う具体的な方法としては、熱風を当てたり、熱ローラーで絞ったりといった方法が挙げられるが、特にこれらの方法に限るものではない。この本処理を行う適温は、Tg温度以上であって、かつ、その合成繊維自体が分解などの不都合な変質を起こさない温度範囲であることが好ましい。なお、上記合成繊維の種類によって、上記適温と適切な処理時間とは変化する。
【0045】
上記合成繊維がポリエステル系繊維の場合は、上記適温として(Tg+40)〜(Tg+110)℃で熱処理すると、上記ピリジン系抗菌剤を上記合成繊維内部で適度に滲み出させ、かつ固定化させることができるので望ましい。具体的には、多くのポリエステル繊維のTgは70〜80℃であるので、上記適温は110〜190℃であるのがよく、好ましくは150〜180℃である。温度が110℃未満であると、上記ピリジン系抗菌剤が滲み出しにくく、表面近傍の上記ピリジン系抗菌剤濃度をさらに上げることができず、抗菌力のさらなる上昇が見られない。一方で、190℃を超えると、上記合成繊維自体を変質させてしまうおそれがあり、また、上記ピリジン系抗菌剤も変色するなどの変質を起こすおそれがある。
【0046】
上記熱処理の処理時間は、20秒〜3分が望ましく、30秒〜2分であるとより望ましい。短すぎると、上記ピリジン系抗菌剤が滲み出しにくく、表面近傍の上記ピリジン系抗菌剤の濃度をさらにあげることが出来ず、抗菌力のさらなる向上が見られない。一方で長すぎると、時間がかかるので作業効率が悪くなり、また、コストが高くなってしまう。
【0047】
さらに、上記熱処理の際に、熱処理開始時点の温度と最高熱処理の温度との温度差が20℃以上となるように、段階的に温度が上昇する複数段の熱処理工程、又は連続的に温度が上昇する熱処理工程を設けて上記合成繊維を熱処理すると望ましい。また、段として設けた熱処理工程と、連続的に温度を上昇させる熱処理工程とを併せて設けてもよい。はじめは低温で熱処理することで、加熱しながらも水分の多い状態を長引かせることができ、より効率的に上記ピリジン系抗菌剤を表面近傍に滲み出させることができ、抗菌・防カビ・抗ウイルス性を高めることが出来る。なお、上記最高熱処理となる熱処理工程の後、段階的又は連続的に上記最高熱処理よりも温度が低下した熱処理工程を設けてもよい。
【0048】
上記の複数段とは2〜10段が現実的であり、11段以上であると作業工程が煩雑になりすぎてしまう。より望ましい上記の温度差は20〜80℃であり、30〜70℃であるとさらに望ましい。上記の熱処理開始時点の温度は、110〜135℃であると望ましく、120〜130℃であるとより望ましい。また、上記の最高熱処理の温度は、150〜190℃であると望ましく、160〜185℃であるとより望ましい。複数段の熱処理工程を行う場合、その各々の段における熱処理の時間は、30秒〜3分であることが望ましく、1〜2分であるとより望ましい。なお、連続的に温度を上昇させていく場合、その昇温速度は6〜160℃/分であることが望ましい。
【0049】
上記の工程により上記ピリジン系抗菌剤を吸尽させる合成繊維としては、上記ポリエステル系繊維が、工業洗濯耐久性に優れていて望ましい。ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートのような石油由来の繊維だけでなく、ポリ乳酸のような天然材料に手を加えた繊維も含む。さらに、綿、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン等の半合成繊維を上記の合成繊維と併用したものでも良い。用いる上記合成繊維の形態としては、糸、織布、不織布など、特に限定されるものではない。
【0050】
この発明にかかる製造方法によって抗菌剤を吸尽された上記合成繊維は、抗菌剤の無機性値/有機性値が3.3以下であり、水溶解度が30ppm以下と低く、かつ加温加圧条件下で流動させながら吸尽し、その後常圧に戻して熱処理することによって抗菌剤が表面近くに強く固着されているため、洗濯などの水処理をしても上記ピリジン系抗菌剤がほとんど溶出せずに、抗菌力が高く維持され、安全で優れた抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維となる。さらに、抗菌剤の無機性値/有機性値が1.4を越え、適度に親水性であるので、菌転写法での実験条件下のような低湿度の条件下でも効力が十分発揮され、抗菌効力が高い抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維となる。
【0051】
さらに、SARSウイルス、ラッサ熱ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、エイズウイルス、西ナイルウイルス、デング熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、人インフルエンザウイルス等のRNAウイルス、天然痘ウイルス、ヘルペスウイルス等のDNAウイルスにも効果を有する抗ウイルス性を有する抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維ともなる。なお、この発明にかかる製造方法で得られた繊維に、抗ウイルス効果が発揮されるのは、ウイルスの外被タンパクへの抗菌剤の変性作用によるものと考えられ、この製造方法によって得られた抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維は、洗濯後でも抗菌剤が効率的に繊維に固着されている。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。なお、以下の文中で%とは重量%を示す。まず、それぞれの試験方法と洗濯方法について説明する。
【0053】
(繊維への吸着量測定方法)
加温加圧下での吸尽の前後における、上記水性懸濁液に含まれる上記ピリジン系抗菌剤の差を測定することにより、繊維への吸着量を推定した。すなわち、吸尽処理前の上記水性懸濁液に含まれる亜鉛又は銅の量と、吸尽処理後の液中に残存している亜鉛又は銅の量を、原子吸光光度計を用いて測定し、その差より繊維内に吸着したピリジン系抗菌剤の量を算出した。
【0054】
(抗菌試験の供試菌及び評価方法)
黄色ブドウ球菌2種(Staphylococcus aureus、及びMRSA)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumocniae)を用いて抗菌性の評価を行った。評価対象としては、洗濯前及び下記洗濯後の加工布を用いた(それぞれ、表中「前」、「後」と表記する。)。
【0055】
まず、第一の評価方法として、JIS L 1902(2002)に定められる繊維製品の抗菌性試験方法記載の菌転写法(表中「菌転写法」と表記する。)を実施した。判定は、低湿度下での4時間培養後の菌数の減少を、各試験布の回収菌数によって比較し、比較対象である無処理布に比べて菌数対数値で0.5以上減少した場合を有効(○)、0.5未満の場合を無効(×)とした。
【0056】
また、第二の評価方法として、JIS L 1902(2002)に定められる菌液吸収法(表中「菌液試験」と表記する。)を実施した。判定は、各試験布の静菌活性値が2.2以上であった場合を有効(○)、2.2未満の場合を無効(×)とした。
【0057】
(抗カビ試験の供試菌及び評価方法)
真菌4種(Aspergillus niger、Penicillium citrinum、Chaetomium globosum、Myrothecium verrucaria)を用いて防カビ性の評価を行った。評価方法としては、JIS Z 2911(2000)に定められる湿式法を実施した。判定は防黴試験結果の表示方法0(試料又は試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。)を有効(○)とし、1(試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超えない。)及び2(試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超える。)を無効(×)とした。
【0058】
(抗ウイルス試験及び評価方法)
中華人民共和国疾病予防制御センターウイルス病予防制御所 ウイルス試験センターにて実施した。アフリカミドリザル腎継代細胞(VERO E6:ウイルス試験センター提供)培養系で、ウイルスCPE(cytopathogenic effect;細胞変性効果)法を用いて、工業洗濯50回後の加工布の体外におけるSARSウイルスに対する不活性化効果を観察し、ウイルス対照区と比較して、効果を判定した。
【0059】
具体的には以下の通りである。
<加工布とウイルスの前処理>
2株のSARSウイルス(SARS−COV−P5:コロナウイルス分離株、ウイルス資源センター提供(中華人民共和国薬品生物製品検定所検定 証号:SH200400011)、及び、SARS−COV−P11:コロナウイルス分離株、ウイルス資源センター提供(中華人民共和国薬品生物製品検定所検定 証号:SH200400017))を
ウイルス希釈濃度が100TCID50(TCID50=半数組織培養感染量)となるように純水で希釈し、このウイルス希釈液7mlを、工業洗濯50回後の加工布に注いで布に十分に浸透させた。これを、室温で、10,15,30,45分間と、1,2,3時間放置した後、無菌のピンセットで上記加工布内のウイルス希釈液を押しだし、溶液(以下、「処理液」と称する。)を得た。
【0060】
<VERO E6細胞培養系でのウイルスCPE法での不活化効果の確認>
VERO E6細胞を40万個/mlの濃度で、96穴培養プレート(北京宝芝林生物技術有限公司提供)に接種し、37℃で24〜48時間培養して細胞を単層化した。これに、各々の時間経過における上記処理液を、それぞれ4穴に100μlずつ入れた。これを5%CO2の環境下で6日間培養し、倒置顕微鏡でウイルスCPEを観察して結果を記録した。
【0061】
その際の基準は、以下の通りである。「−」はウイルス細胞CPEに変化が無く、100%ウイルスが不活性化されたことを示し、「+」は25%以下のCPE変化で75%のウイルスが不活性化、「++」は26〜50%のCPE変化で50%の不活性化、「+++」は51〜75%のCPE変化で25%の不活性化、「++++」は76〜100%のCPE変化で不活性化されなかったことを示す。
【0062】
(溶出試験方法)
洗濯前の加工布からの、水(表中(1))、20%エタノール水溶液(表中(2))、4%酢酸(表中(3))に溶出するピリジン系抗菌剤の量を測定した。具体的には、繊維1gに対し溶液20mlに40℃10日間浸漬させ、溶出液中の不純有機物は塩酸処理で分解し、残存した金属を原子吸光光度計で測定した。なお、繊維に添着したピリジン系抗菌剤の初期量は上記した繊維への吸着量測定方法にて測定した。
【0063】
(洗濯方法)
工業洗濯は(社)繊維評価技術協議会(JTETC)の定める、厚生省令第13号に準拠した洗濯方法で実施した。具体的には、JAFET標準配合洗剤を用いて80℃条件下(工業洗濯)で50回実施した。
【0064】
(水性懸濁液の製造)
次に、水性懸濁液の製造方法について説明する。
ピリジン系抗菌剤として、亜鉛及び銅の無機性値を400とした場合に無機性値/有機性値が2.9と計算されるピリチオン亜鉛(アーチケミカル社製、表中「ZPT」と略す。)と、ピリチオン銅(アーチケミカル社製、表中「CuPT」と略す。)と、ナトリウムの無機性値を500とした場合に無機性値/有機性値が5.0と計算されるピリチオンナトリウム(アーチケミカル社製、表中「NaPT」と略す。)とを用いた。それぞれの物性は以下の通りである。
(ピリチオン亜鉛物性)
・無機性値/有機性値:2.9
・水溶解度:8ppm(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):5ppm
・平均粒子径:0.5μm
・2μm以上の粒子の割合:0%
・PH:6.6
(ピリチオン銅物性)
・無機性値/有機性値:2.9
・水溶解度:0.5ppm(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):0.3ppm
・平均粒子径:0.5μm
・2μm以上の粒子の割合:0.5%
・PH:7.1
(ピリチオンナトリウム物性)
・無機性値/有機性値:5.0(値の計算は表2に記載。表中「I/O値」と略す。)
・水溶解度:53%(25℃)
・有機溶剤溶解度(オクタノール):0.1ppm
・平均粒子径:水溶性(完全溶解)
・2μm以上の粒子の割合:水溶性(完全溶解)
・pH:8.3
【0065】
【表2】

【0066】
上記それぞれのピリジン系抗菌剤を以下の成分比で混合した。
・ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅又はピリチオンナトリウム:20重量部
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(分散剤 第一工業製薬(株)製:ハイテノール08E):3重量部
・グリセリン(凍結防止剤 和光純薬工業(株)製):2重量部
・精製水:75重量部
混合したものをペースト化した後、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅についてはセラミックミルで平均粒径0.5μmの懸濁液とした。ピリチオンナトリウムは、攪拌して透明均一な液体とした。得られた水性懸濁液もしくは透明液を、それぞれのピリジン系抗菌剤が0.8%になる様に水で希釈して水性懸濁液(ピリチオンナトリウムについては水性透明液)とした。得られた水性懸濁液のpHはそれぞれ、ピリチオン亜鉛を用いたものが6.8、ピリチオン銅を用いたものが7.1、ピリチオンナトリウムを用いたものが7.4である。
【0067】
(合成繊維)
合成繊維としては、ポリエステル繊維(色染社試験用繊維トロピカル:東レ(株)製 150デニール×48フィラメント 表中「PET」と略す。)を用いた。
【0068】
参考例1)
ピリチオン亜鉛による上記水性懸濁液を、ピリチオン亜鉛濃度が400ppmになるように水で希釈して水溶液を得た。この水溶液150mlに対してポリエステル繊維が10gとなる比率で、内容積が180mlの密閉容器に入れ、ガスとして空気を、ガス/液比が2/15となる状態で高温高圧機に入れて密閉した。この密閉容器を高温高圧機内で回転させ、内部を流動させながら、温度130℃、ゲージ圧1.9kg/cm2(186kPa)で、1時間高温高圧処理を行った。その後、密閉状態でこの流動を継続させたまま冷却しつつ減圧し、内部温度が100℃以下になり、内圧がゲージ圧で0kg/cm2(0kPa)になったことを確認して流動を停止し、ポリエステル繊維を取り出した。取り出した繊維を水洗した後、130℃で1分間、その後170℃で1分間、常圧乾熱機によって熱処理し、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての溶出、及び工業洗濯前後における抗菌・防カビ性の評価結果を表3に示す。なお、加工ムラが出ることがあるため、サンプリング箇所を変えて同条件の下で三回評価を行った。また、表中で無機性値/有機性値を「I/O値」と表記し、ポリエステル繊維へのピリジン系抗菌剤の繊維に対する吸着濃度のうち、使用したピリジン系抗菌剤が100%吸着されたと仮定した時の吸着濃度を「期待吸着濃度」、吸着量測定方法により実測したピリジン系抗菌剤の吸着濃度を「実測濃度」と表記する。
【0069】
【表3】

【0070】
参考例2)
参考例1のピリチオン亜鉛の代わりにピリチオン銅を用いた以外は同様の方法で抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0071】
参考例3)
参考例1の130℃で1分間の熱処理を行わない以外は同様の方法で抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0072】
(比較例1)
参考例1のピリチオン亜鉛の代わりにピリチオンナトリウムを用いた以外は同様の方法で加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0073】
(比較例2)
参考例1の加温加圧時に、内部を流動させない以外は同様の方法で加工布を得た。この加工布についての評価結果を表3に示す。
【0074】
(結果)
無機性値/有機性値が1.4を越え、3.3以下であるピリジン系抗菌剤を用い、加温加圧条件下で流動させて製造した抗菌性繊維は、安定した抗菌効果を示し、また、溶出も起こさなかった。一方で、無機性値/有機性値が3.3を超えたピリジン系抗菌剤を用いたものや、加温加圧中に流動させなかったものは、抗菌効果が安定せず、溶出を起こしてしまった。
【0075】
(実施例
参考例1において、ピリチオン亜鉛濃度が267ppmになるように水で希釈した水溶液を用いた以外は、参考例1と同じ方法で、抗菌・防カビ・抗ウイルス性繊維である加工布を得た。そのときの期待吸着濃度は0.4%で、実測濃度は0.38%であった。また、工業洗濯も同様に、80℃で50回実施した。この加工布を用いて、抗ウイルス試験を行った。その結果を表4に示す。1時間以上でウイルスに対する不活化効果が現れ、3時間で100%の不活化効果が得られた。
(比較例3:対照区)
加工布による処理を行っていない上記ウイルス希釈液を用いて、抗ウイルス試験を行った。その結果を表4に示す。
【0076】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される、2−ピリジンチオール亜鉛−1−オキシド、2−ピリジンチオール銅−1−オキシド、又はこれらの両方を含む抗ウイルス剤。
【化1】

【請求項2】
SARSウイルス、ラッサ熱ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、エイズウイルス、西ナイルウイルス、デング熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、人インフルエンザウイルス、天然痘ウイルス、及びヘルペスウイルスのうち少なくとも一つに対して抗ウイルス効果を有する請求項1に記載の抗ウイルス剤。


【公開番号】特開2009−7736(P2009−7736A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250050(P2008−250050)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【分割の表示】特願2004−151507(P2004−151507)の分割
【原出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(000205432)大阪化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】