説明

抗菌剤及びその製造方法

【課題】 経時による変色傾向がないか又は少なく、銀成分の徐放性能に優れ、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤を提供すること。
【解決手段】抗菌成分として下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有した抗菌剤であって、前記抗菌剤は、水に対して非膨潤性の雲母粒子と水溶性銀化合物を含有する水性スラリーを調製した後、ベンゾトリアゾール化合物を加え、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を析出させることにより得ることができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌成分の徐放が可能で、変色が少ない抗菌剤に関し、更に詳しくは、抗菌成分としてベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有し、長期にわたり抗菌効果を持続でき、変色が少なく、化粧料、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤に関する。
また、本発明は、該抗菌剤に用いられるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀、銅、亜鉛等の金属のイオンは、抗菌性を有することが古くから知られている。これらの抗菌性金属成分を無機物粒子に担持させたもの、特にゼオライトやリン酸ジルコニウム等にイオン交換で導入したものが、抗菌剤として従来使用されている。また、これらの抗菌性金属成分を層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で導入することも提案されている。
【0003】
従来、例えば、ゼオライトやシリカゲル、酸化チタン等の粉末に、抗菌性を有する金属成分を担持した粉末状の抗菌性組成物(例えば、下記特許文献1参照。)が知られている。しかしながら、従来公知の粉末状の抗菌性組成物には、変色という大きな問題があった。このような問題に対していくつかの提案がなされてきた。
【0004】
下記特許文献2には、層状珪酸塩にアンミン銀のような銀錯塩をイオン交換で担持させた抗菌抗カビ性層間化合物が記載されている。
下記特許文献3には、銀などの抗菌性金属成分を合成マイカなどの鱗片状基材に担持させた抗菌性粉体が記載されている。
下記特許文献4には、抗菌性の高い銀コロイド粒子からなる抗菌剤が提案されている。
下記特許文献5及び下記特許文献6には、抗菌性無機酸化物コロイド溶液からなる抗
菌剤が提案されている。
下記特許文献7にはフェニル基あるいはナフタレン基を有する銀化合物よりなる抗菌
剤が提案されている。
下記特許文献8には、チオスルファト銀錯塩をシリカゲルに担持させた後、有機珪素
化合物によってシリカコーティングを施す抗菌剤の製造方法が記載されている。
【0005】
一方、ベンゾトリアゾール類は、樹脂の紫外線等による光劣化に起因する変色、着色の防止剤であり、銀イオンによる樹脂の変色、着色の防止にも効果があり、銀系抗菌剤とベンゾトリアゾール類を組み合わせた組成物出願は数多くある(例えば、下記特許文献9、10、11参照)。
【0006】
また、本発明者らも、変色が少ない抗菌剤として、ベンゾトリアゾール銀化合物を用いた抗菌剤を提案している(特許文献12、13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−225402号公報
【特許文献2】特開平1−221304号公報
【特許文献3】特開2008−56590号公報
【特許文献4】特開平4−321628号公報
【特許文献5】特開平6−80527号公報
【特許文献6】特開平7−33616号公報
【特許文献7】特開2001−192307号公報
【特許文献8】特開平6−1706号公報
【特許文献9】特開平7−207061号公報
【特許文献10】特開平6−14979号公報
【特許文献11】特開平11−209533号公報
【特許文献12】特開平2008−50276号公報
【特許文献13】特開平2009−84174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
種々の抗菌性金属成分のなかでも、銀成分は抗菌作用や人体に対する安全性に優れたものである。しかしながら、従来公知の粉末状の抗菌性組成物には、次のような問題点があった。即ち、銀を導入したゼオライトや層状珪酸塩は、経時により、或いは光や水の作用により、次第に粉末が変色して褐色になる傾向があり、これを回避するために銀の担持量を数パーセント程度に少なくし、結果として抗菌性能が発現されないこともままある。また、担体に銀をイオン交換によって担持させる方法を採用した抗菌剤は、銀の徐放性能に問題がある。純水中での徐放性能は、塩水中とはまったく異なり、塩水中では大量放出を起こすことになる。このように徐放性能の点でも満足のいくものではなかった。
【0009】
特許文献2には、「合成マイカ」という単語も記載されているが、合成マイカにはイオン交換性能はないのでアンミン銀イオンは担持できない。
特許文献3に記載の銀などの抗菌性金属成分を合成マイカなどの鱗片状基材に担持させた抗菌性粉体は、鱗片状という形状を特色としているだけで、変色についての対策がなされていない。
特許文献4に記載の銀コロイド粒子は、灰褐色に着色しており、透明性に欠け、また、銀成分そのものがコロイド粒子であるため、凝集し易く安定性に欠けるという問題点を有している。
特許文献5及び特許文献6に記載の抗菌性無機酸化物コロイド溶液は、粉末状の抗菌性組成物に特有な問題点を解決しているが、コロイド溶液の形態であるため、使用用途が塗料、コーティング材に限定されてしまう。
特許文献7に記載のフェニル基あるいはナフタレン基を有する銀化合物は、水溶性の錯体であり、他の固体に担持させるか塗布することになり、上記の徐放性能が問題となる。
特許文献8に記載のチオスルファト銀錯塩をシリカゲルに担持させた後、有機珪素化合物によってシリカコーティングを施す抗菌剤の製造方法は、徐放性能を付与するためにシリカゲルのような多孔体にシリカコーティングを行うという不具合な製法となっており、またその徐放性能の長期間維持には問題がある。
【0010】
特許文献9、10、11に記載の銀イオンによる樹脂の変色、着色の防止を目的とした組成物は、抗菌剤粉末の変色防止ではなく、主たる成分の樹脂の変色防止を目的としたものであり、本発明とは主旨が異なる。たとえ、樹脂に変色防止剤を添加することで、樹脂中の抗菌剤粉末の変色防止にも効果があるとしても、樹脂に変色防止剤を添加する場合は相応量の添加が必要であり、抗菌剤粉末だけを変色防止処理する方がはるかに少ない量の変色防止剤の使用となるし、また、ベンゾトリアゾールの変色防止の効果は、銀イオンがベンゾトリアゾールとキレートを形成して錯体になることにより起こることが知られており、本発明で使用するベンゾトリアゾール銀化合物と、錯体とでは化合物自体が異なる。
【0011】
従って、本発明は、前記したような、銀系の粉末状抗菌剤の変色問題や徐放性能の問題、さらには銀イオンによる樹脂の変色問題等の解決を目指し、経時による変色傾向がないか又は少なく、徐放性能に優れ、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは先に上記特許文献12及び13で水溶性の銀系抗菌剤の研究のなかで、ベンゾトリアゾール化合物と銀の錯塩の形成について試験を行い、大過剰のベンゾトリアゾール化合物の存在下では錯体が形成される可能性を知見した。一方、等モルに近いベンゾトリアゾール化合物と銀の反応では、錯塩ではなく、ベンゾトリアゾール化合物の銀塩からなるベンゾトリアゾール銀化合物が得られ、また、このベンゾトリアゾール銀化合物は、水不溶性であるため抗菌作用はないと考えられてきたが、水に僅かに溶解する性質を有し、抗菌剤として充分な性能を有していることを知見した。
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、抗菌成分として特定の一般式で示されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子が、銀の徐放性において優れた性能を有し、且つ耐変色性にも優れた性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有することを特徴とする抗菌剤を提供するものである。
【0015】
【化1】



(式中、R1、R2は同一の又は異なるアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、p1、q1は同一の又は異なる0〜2の整数を示す。)
【0016】
また、本発明は、水に対して非膨潤性の雲母粒子と水溶性銀化合物を含有する水性スラリーとを調製した後、前記水性スラリーに下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物を加え、上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を析出させることを特徴とするベンゾトリアゾール銀を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有する抗菌剤の製造方法を提供するものである。
【化2】


(式中、R1、R2、p1、q1は前記と同義。)

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性・耐水性に優れ、長期にわたり抗菌効果を持続でき、耐光性にも優れ、経時による変色傾向がないか又は少なく、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ベンゾトリアゾール銀のX線回折パターンを示した図である。
【図2】ベンゾトリアゾール銀のSEM写真である。
【図3】ベンゾトリアゾールのX線回折パターンを示した図である。
【図4】実施例2で得られたベンゾトリアゾール銀担持抗菌剤BのX線回折パターンを示した図である。
【図5】実施例2で得られたベンゾトリアゾール銀担持抗菌剤BのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の抗菌剤で使用するベンゾトリアゾール銀化合物は下記一般式(1)で表されるものである。
【化3】


前記一般式(1)の式中のR1及びR2は、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示す。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1〜5のものが好ましい。該アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が好ましい。該ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。前記一般式(1)中のp1及びq1は、同一の又は異なる0〜2の整数を示す。また、R1とR2は同一の基でも異なる基であってもよい。
【0020】
前記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物の好ましい具体的な化合物としては、ベンゾトリアゾール銀、4−メチルベンゾトリアゾール銀、5−メチルベンゾトリアゾール銀、4−エチルベンゾトリアゾール銀、5−エチルベンゾトリアゾール銀、4,5−ジメチルベンゾトリアゾール銀、4,6−ジメチルベンゾトリアゾール銀、5,6−ジメチルベンゾトリアゾール銀、4,5−ジエチルベンゾトリアゾール銀、4,6−ジエチルベンゾトリアゾール銀、5,6−ジエチルベンゾトリアゾール銀、4−フェニルベンゾトリアゾール銀、5−フェニルベンゾトリアゾール銀、4−クロロベンゾトリアゾール銀、5−クロロベンゾトリアゾール銀等が挙げられ、これらの中でも、特に下記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール銀が好ましい。
【化4】

【0021】
このベンゾトリアゾール銀化合物は、合成した時点での粉末の色は白色であり、光による経時変化もごく僅かであり、従来の銀系抗菌剤のように黒くはならず、クリーム色程度である。また、熱に対しても比較的安定で、170℃まで変化がない。従って、上記ベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子は、光による経時変化もごく僅かであり、170℃まで変化がない。
また、本発明において、上記ベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子は、X線回折において雲母由来の回折ピークのほか、面間隔d=13.2〜13.4オングストロームにベンゾトリアゾール銀化合物の回折ピークを示す。
【0022】
本発明の抗菌剤は、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有してなる。水に対して非膨潤性の雲母粒子としては、例えば、金雲母、白雲母、セリサイト、フッ素雲母、四珪素雲母等が挙げられ、これらの中、高純度のフッ素雲母が好ましく、市販品としてはコープケミカル(株)製の「ミクロマイカ」などがある。水に対して非膨潤性の雲母粒子はイオン交換性能がないため、銀の変色が起こりにくいと推測される。それに対して、水に膨潤性の雲母は膨潤することで層間のイオンがベンゾトリアゾール銀化合物の銀イオンとイオン交換する。この銀イオンが変色を起こすものと本発明者らは考えている。
【0023】
水に対して非膨潤性の雲母粒子の粒子径は、抗菌剤の使用目的に応じて適宜に選定することができるが、抗菌剤の製造時の取り扱いや、樹脂等への分散性、抗菌性能の発現度等を配慮すると、レーザー光回折散乱法により求められる平均粒子径は、0.1〜30μm、好ましくは1〜10μmであることが好ましい。
水に対して非膨潤性の雲母粒子の粒子形状は特に限定するものでなく、棒状、鱗片状、球状、繊維状或いは不特定の粒子形状であってもよい。
【0024】
水に対して非膨潤性の雲母粒子に対して、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物の含有量は1〜30重量%であることが好ましい。1重量%より少ないと抗菌効果が低くなりすぎ実用的ではなく、30重量%より多くしても相応の抗菌効果の向上は図れない。銀は比較的高価な材料であり、その価格に見合った抗菌性能を得るためには、5〜10重量%であることがより好ましい。
なお、本発明の抗菌剤において、ベンゾトリアゾール銀化合物は、水に対して非膨潤性の雲母粒子の粒子表面に均一にムラ無く担持されていることが望ましいが、抗菌効果が発揮される範囲であれば、必ずしも水に対して非膨潤性の雲母粒子の表面全体にわたって満遍なく担持されている必要はない。
【0025】
本発明の抗菌剤で使用する前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子の好ましい製造方法について以下に説明する。
水に対して非膨潤性の雲母粒子(以下、「雲母粒子」と略記することもある。)と水溶性銀化合物を含有する水性スラリーとを調製した後、下記一般式(2)
【化5】


(式中、R1、R2、p1、q1は前記と同義。)で表されるベンゾトリアゾール化合物を加え、前記水性スラリーに前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を析出させることを特徴とするベンゾトリアゾール銀を担持した雲母粒子を得る。
【0026】
雲母粒子と水溶性銀化合物を含有する水性スラリーの調製は、通常、雲母粒子を水に均一に分散させた分散液に、水溶性銀化合物を添加することにより調製される。
【0027】
前記雲母粒子の分散液は、水100重量部に対して、雲母粒子を1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部の割合で添加し、強力なせん断が作用する機械的混合手段にて雲母粒子を水に分散させて調整することが好ましい。
【0028】
前記分散液へ添加する水溶性銀化合物は、例えば硝酸銀、酢酸銀、フッ化銀、ヘキサフルオロリン酸銀等を使用することができる。また、該水溶性銀化合物は水に溶解した水溶液として分散液へ添加することが、各原料が均一に分散した水性スラリーを得る観点から好ましい。該水溶性銀化合物水溶液の濃度は、水溶性銀化合物を溶解できる濃度であれば特に制限はないが、多くの場合0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。
また、水溶性銀化合物の分散液への添加量は、前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物に対するモル比で0.5〜1.5、好ましくは0.9〜1.1である。
【0029】
水性スラリーに添加する前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物は、水に溶解した水溶液として分散液へ添加することが、雲母粒子の表面に均一にベンゾトリアゾール銀化合物を析出させることができる観点から好ましい。
前記水性銀化合物を溶解した水溶液の濃度は、ベンゾトリアゾール化合物を溶解できる濃度であれば特に制限はないが、多くの場合は0.1〜5重量%、好ましくは1〜3重量%である。なお、ベンゾトリアゾール化合物は一般に、水への溶解度が小さいので、必要によりエタノール等の水混和性溶媒を水と併用して用いることができる。
前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物の添加量は、上記雲母粒子100重量部に対して、前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物が1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部であると、良好な抗菌性及び耐変色性を有する抗菌剤が一層確実に得られる観点から好ましい。
【0030】
また、反応は強攪拌下で行うことが好ましい。反応条件は、反応温度が好ましくは0〜50℃、更に好ましくは10〜30℃であり、反応は常温で数時間ないし十数時間を要するので、反応時間が好ましくは1時間以上、更に好ましくは3〜24時間である。反応終了後、常法に従って固液分離して目的物を回収し、次いで乾燥、必要により粉砕、分級を行うことにより、本発明のベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、雲母粒子を得ることができる。
【0031】
また、本発明の抗菌剤においては、更に、抗菌性金属イオンを放出する化合物である亜鉛含有化合物及び/又は銅含有化合物を併用することができる。この併用により(イ)抗菌スペクトルを広げる、(ロ)抗菌性の持続期間を長くする、(ハ)耐候性を改善する、(二)耐薬品性を改善する等の効果がある。
また、本発明の抗菌剤に含有される銀、銅及び/又は亜鉛との配合割合も、目的に応じて任意に選定でき、特に制限されるものでもないが、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、雲母粒子を含有する抗菌剤としての効果を有効に奏する上で、抗菌剤中の銀の重量に対して、銅は100〜500重量%、亜鉛は100〜500重量%の割合で配合することがそれぞれ好ましい。
【0032】
本発明の抗菌剤において、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した雲母粒子と一緒に用いる銅含有化合物としては、イオン交換で銅を担持したゼオライトやリン酸ジルコニウム等の従来使用されている抗菌剤が挙げられる。
また、層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で銅を導入した製品、臭化銅CuBr、炭酸銅Cu2CO3、シュウ酸銅CuC24・0.5H2O等の溶解度の小さい化合物や、さらには、溶解度が小さく抗菌性能が優れる点で、特開2009−84174号公報、特開2008−50276号公報に記載の下記一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物も好ましい。
【化6】


(式中、R3、R4はアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、カルボキシル基を示し、p2、q2は0〜2の整数を示す。)
【0033】
また、本発明の抗菌剤において、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子と一緒に用いる亜鉛含有化合物としては、イオン交換で亜鉛を担持したゼオライトやリン酸ジルコニウム等の従来使用されている抗菌剤が挙げられる。
また、層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で亜鉛を導入した製品、炭酸亜鉛ZnCO3、亜硫酸亜鉛二水和物ZnSO3・2H2O、水酸化亜鉛Zn(OH)2、オルト珪酸亜鉛
Zn2SiO4、酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnS等の溶解度の小さい化合物も好ましい。
さらには、溶解度が小さく抗菌性能が優れる点で、特開2009−84174号公報に記載の下記一般式(5)で表されるベンゾトリアゾール亜鉛化合物も好ましい。
【化7】


(式中、R5、R6はアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、カルボキシル基を示し、p3、q3は0〜2の整数を示す。)
【0034】
上記一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物及び上記一般式(5)で表されるベンゾトリアゾール亜鉛化合物は、前述の好ましい製造方法において、水溶性銀化合物と、水溶性銅化合物及び/又は水溶性亜鉛化合物を併用して水性スラリーに添加し、前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物と共に析出させることができる。この場合、雲母粒子に対して、上記構造式(4)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物の量は1〜30重量%となるようにすることが好ましく、上記構造式(5)で表されるベンゾトリアゾール亜鉛化合物の量は1〜30重量%となるようにすることが好ましい。
【0035】
本発明の抗菌剤は、種々の形態で抗菌性を必要とする用途に使用できる。この抗菌剤は、その効果性能を損なわない範囲で、公知の改質剤、例えば分散剤、界面活性剤、カップリング剤、変色防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等で表面処理を行うことができる。
【0036】
本発明の抗菌剤は、化粧料組成物、樹脂組成物及び該樹脂組成物から成形される樹脂成形品、塗料並びに植物用殺菌剤等に好適に使用できる。
【0037】
本発明の抗菌剤は、種々の樹脂(重合体)への分散性に優れており、しかも変色傾向も少ないので、各種樹脂(重合体)に配合して、抗菌性を有する樹脂組成物や樹脂成形品、例えば、繊維、フィルム、シート、パイプ、パネル、容器、建材、構造材等の分野に用いることができる。また、本発明の抗菌剤を塗料等に配合して、抗菌性塗膜の分野に用いることができる。
【0038】
本発明の抗菌剤が配合された樹脂組成物から成形される樹脂成形品には、いかなる形状のものも含まれる。例えば、織布、不織布、網布、編布等の布製品、紙、フィルム等のシート製品、板、棒、箱、多孔質体等の具形成形品が挙げられる。また、本発明の抗菌剤が配合された塗料には、いかなる性状のものも含まれる。例えば、散布剤、スプレー剤等の粉製品、刷毛塗り塗料、スプレー塗料、ローラー塗り塗料、接着剤、シーラント等の液体ないしペースト状製品が挙げられる。
【0039】
本発明の抗菌剤が配合された樹脂組成物から成形される樹脂成形品や本発明の抗菌剤が配合された塗料を用いた物品としては、例えば、鮮度保持フィルムや衛生材料製品、台所浴用製品、トイレタリー、化粧用品、水処理用品、医療器具製品、建材製品、魚網等を挙げることができる。また、本発明の抗菌剤が配合された塗料を、セメントモルタルに添加、あるいはセメントコンクリートの成形体に塗装して、抗菌性のセメントコンクリートの製品を造ることができる。本発明の抗菌剤が配合された樹脂組成物及び塗料は、その他、抗菌を目的として種々の製品に応用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。実施例中の各測定値はそれぞれ次の方法によって求めた。
(a)組成分析:
抗菌性金属は、ICP(Varian製LIBERTYII型)によって定量した。ベンゾトリアゾールは、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−5000A)により炭素量を測定し、分子量に換算して定量した。
(b)粒子の形状:
SEM(日立製作所製S−4500型)により観察した。
(c)X線回折パターン(XRD):
X線回折装置(理学製RINT2400型)を用いた。
【0041】
〔実施例1〕
抗菌剤Aの作製
水に対して非膨潤性の合成雲母粒子として、コープケミカル(株)製の「ミクロマイカ MK−200」を使用した。「ミクロマイカ MK−200」は、平均粒子径7ミクロンの板状結晶でアスペクト比は20〜30であり、構造中にカリウムを有するが非膨潤性のためイオン交換傾向はない。
純水80gに硝酸銀1.90gを溶解して硝酸銀水溶液を作成した。この硝酸銀水溶液に8.0gの前記ミクロマイカを加え攪拌して分散させミクロマイカスラリーを作成した。別途、純水80gにベンゾトリアゾール(1,2,3−C653;純正化学製 試薬)1.3gを溶解して、ベンゾトリアゾール水溶液を作成した。攪拌下、室温(25℃)でミクロマイカスラリーにベンゾトリアゾール水溶液を滴下し、そのまま室温(25℃)で18時間攪拌を続け反応を行った。反応後のスラリーを濾過して、濾過ケーキをリパルプ水洗し、再度濾過を行い濾過ケーキを得た。濾過ケーキを100℃の乾燥機中で24時間乾燥し、ベンゾトリアゾール銀を担持した雲母粒子を得た。以下これを抗菌剤Aと記載する。
抗菌剤Aの銀成分はAgとして11.2重量%であり、ベンゾトリアゾールとして11.6重量%であった。
【0042】
〔実施例2〕
抗菌剤Bの作製
純水100gに硝酸銀0.51gを溶解して硝酸銀水溶液を作成した。この硝酸銀水溶液に10.0gの前記ミクロマイカを加え攪拌して分散させミクロマイカスラリーを作成した。別途、純水100gにベンゾトリアゾール0.35gを溶解して、ベンゾトリアゾール水溶液を作成した。攪拌下、室温でミクロマイカスラリーにベンゾトリアゾール水溶液を滴下し、そのまま室温(25℃)で18時間攪拌を続け反応を行った。反応後のスラリーを濾過して、濾過ケーキをリパルプ水洗し、再度濾過を行い濾過ケーキを得た。濾過ケーキを100℃の乾燥機中で24時間乾燥し、ベンゾトリアゾール銀を担持した雲母粒子を得た。以下これを抗菌剤Bと記載する。
抗菌剤Bの銀成分はAgとして2.9重量%であり、ベンゾトリアゾールとして2.9重量%であった。抗菌剤BのX線回折結果を表1に示した。また、参考としてベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール銀及び抗菌剤BのX線回折パターン及びSEM写真を図1から図5に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
〔比較例1〕
比較抗菌剤Cの作製
水に対して非膨潤性の合成雲母粒子に替えて、水に対して膨潤性の合成雲母粒子を使用した以外は、実施例1と同じ方法で、ベンゾトリアゾール銀を担持した水に対して膨潤性の合成雲母粒子を作成した。水に対して膨潤性の合成雲母粒子として、コープケミカル(株)製の「ソマシフ ME−100」を使用した。「ソマシフ ME−100」は、平均粒子径7ミクロンの板状結晶であり、構造中にナトリウムを有し水に膨潤性がありイオン交換能は120meq/100gである。ベンゾトリアゾール銀を担持した、水に対して膨潤性の合成雲母粒子を比較抗菌剤Cと記載する。
比較抗菌剤Cの銀成分はAgとして10.9重量%であり、ベンゾトリアゾールとして9.9重量%であった。
【0045】
〔評価例1〕抗菌剤の徐放性評価
本評価例では、抗菌成分の徐放性の確認を行った。実施例1及び2で得られた抗菌剤A、抗菌剤B及び比較例1で得られた比較抗菌剤Cのそれぞれ5gを、純水200gに投入し0.5時間攪拌を続けた後、ろ過分離して粒子を取り除き、水を回収した(溶出試験)。回収した水を化学分析したところ、水中の銀の濃度はA、B及びCのいずれも0.02ppmであった。ろ過により分離した粒子を用いて、さらに溶出試験を10回繰り返し、各回での溶出試験で回収した水について、水中の銀の濃度を測定した。各回での水中銀濃度はA、B及びCのいずれも0.02〜0.04ppmであり、良好な徐放性を確認することができた。
【0046】
〔評価例2〕抗菌剤の抗菌性評価
3M社製細菌数測定用プレート「ペトリフィルム(Petrifilm)TM」を使用して抗菌性評価を行った。以下これをフィルムと記載する。フィルムは2種類あり、生菌測定にはペトリフィルムACプレートTM、カビ・酵母測定にはペトリフィルムYMプレートTMを使用した。
実施例1及び2で得られた抗菌剤A、抗菌剤B及び比較例1で得られた比較抗菌剤Cのそれぞれ10mgをビーカーに量り取り、河川水100gに投入し0.5時間攪拌を続けた後、フィルムの中央に1mLを滴下しフィルム全体に広げた。フィルムは35℃で48時間静置し細菌の培養を行った。なお、ブランクとして無添加の河川水でも同じ方法で細菌の培養を行った。
培養後、フィルム上に発生した細菌のコロニーの個数を目視で計数し、その個数を表2に記載した。ブランクに比較して、抗菌剤A、抗菌剤B及び比較抗菌剤Cは優れた抗菌性を示した。
【0047】
【表2】

【0048】
〔評価例3〕抗菌剤の耐変色性評価
実施例1及び2で得られた抗菌剤A、抗菌剤B及び比較例1で得られた比較抗菌剤Cのそれぞれ5gをシャーレに量り取り、平らに均し、直射日光の当たる場所に放置し、一定期間毎に写真を撮り、経時変化を観察した。比較抗菌剤Cは1日後には変色して褐色気味となったが、抗菌剤A及び抗菌剤Bは50日後でも変色は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有することを特徴とする抗菌剤。
【化1】


(式中、R1、R2は同一の又は異なるアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示し、p1、q1は同一の又は異なる0〜2の整数を示す。)
【請求項2】
水に対して非膨潤性の雲母粒子に対して、上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物の含有量が、1〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
ベンゾトリアゾール銀化合物がベンゾトリアゾール銀であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗菌剤。
【請求項4】
水に対して非膨潤性の雲母粒子と水溶性銀化合物を含有する水性スラリーとを調製した後、前記水性スラリーに下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物を加え、上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を析出させることを特徴とするベンゾトリアゾール銀を担持した、水に対して非膨潤性の雲母粒子を含有する抗菌剤の製造方法。
【化2】

(式中、R1、R2、p1、q1は前記と同義。)



【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136482(P2012−136482A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290870(P2010−290870)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】