説明

抗菌剤及び抗菌性組成物

【課題】抗破傷風菌剤、抗カビ剤及び抗ウイルス剤等の抗菌性組成物の提供。
【解決手段】有効成分としてササエキスを含有する抗菌剤であり、ササエキスを固形分で1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは4〜15質量%含有することにより、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌等以外の菌、すなわち破傷風菌等の嫌気性菌、プロピオニバクテリウムアクネスを含むプロピオニバクテリウム、カンジダ等のカビ類、あるいはヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス等のウイルス等にも顕著な抗菌効果を有し、又ササエキスにリンゴ酸等の有機酸を含有させることにより、抗菌性が顕著に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ササエキスを含有する抗菌剤に関し、さらに詳細には、ササエキスを含有する抗破傷風菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤及び抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ササエキスは古くから抗菌性を有することが知られている。例えば、創傷感染症の原因菌となる細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)に対する抗菌効果や、胃潰瘍の原因菌とされるピロリ菌(Helicobacter pylori)に対する抗菌効果が報告されている。
【0003】
しかし、創傷感染症の原因菌として、破傷風、ガス壊疽、各種化膿性感染症の原因となる有芽胞および無芽胞嫌気性菌も重要な存在であるが、これら嫌気性菌に対する抗菌作用についての検討はいまだみられない。
【0004】
抗菌力を有する物質を評価する際には、その物質の人の病原菌に対する作用とともに皮膚、粘膜に常在する有用あるいは日和見細菌に対する作用を知っておくことは、極めて重要である。
【0005】
ところで、Lactobacillus spp. は、口腔内、消化管内、膣内の常在細菌として知られている。常在細菌の生体に対する作用には二面性があることは周知のところである。Lactobacillus spp. も、血液を含む臨床材料から分離されることがあり、病原的意義も決して過少評価すべきではないが、その分離頻度は極めて低率であることから、それぞれの解剖学的部位で有用性が高い細菌種と考えられている。人に対して有用性の高い菌群と評価されているLactobacillus spp.に対して、ササエキスがどの程度の抗菌作用を有するかはきわめて興味ある点であるが、これまでその詳細な検討成績はみられない。
【0006】
ところで、皮膚の皮脂腺内に常在するPropionibacterium acnesは、嫌気性無芽胞嫌気性菌で、中等症から重症のAcne vulgaris(ざそう) において、Staphylococcus aureusや Staphylococus epidermidisなどとともにAcne vulgarisの増悪因子として知られている。現在、Acne vulgarisの治療には、これまで抗菌薬( エリスロマイシン、 テトラサイクリン、 ナジフロキサシン)のクリーム、ローションが使用されているが、それらの長期の使用によるStaphylococus spp. やP. acnesの耐性化が臨床上問題になっており、世界的にその対策について議論されているところである。ササエキスのP. acnesについての検討成績は見あたらない。
【0007】
Prevotella bivia やPigmented Prevotella spp.は、健常な女性の膣では検出限界以下の菌数でしか存在しないが、Mycoplasma genitalium (hommnis)、 Gardnerella vaginalis、Peptostreptococcus anaerobiusを中心とする嫌気性グラム陽性球菌、 Porphyromonas spp.などとともに、膣内乳酸菌の減少、膣内pHの低下、およびミルク様で悪臭(アミン臭)のある帯下を特徴とする細菌性膣症(BV)の状態で異常に増加する細菌性膣症(BV)関連微生物の範疇に入る偏性嫌気性グラム陰性桿菌で、子宮内、骨盤内感染症の原因菌としても極めて重要な細菌である。
【0008】
ササエキスには抗菌作用があることが知られているが、これまでこれらのBV関連細菌群菌種に対する抗菌作用の検討は全くみられない。
【0009】
このように、ササエキスが全ての細菌に対して有効な抗菌活性を有するかどうかは知られていないし、細菌に対して抗菌活性を有する天然抽出物がカンジダ等のカビに対しても抗菌活性を有するかどうかは一般に知られていない。
【0010】
一方、破傷風は、破傷風菌が創傷部位に感染し、そこで産生された神経毒素がおもに筋のけいれん、硬直、腱反射亢進を起す致命率の高い毒素性疾患である。破傷風菌は土、ヒト、動物の便に検出される嫌気性桿菌であり、破傷風の予防治療にはトキソイドによる自動免疫、抗毒素血清による受動免疫が有効であるとされている。しかし、ササエキスが破傷風菌に対して抗菌活性を有することは知られていない。
【0011】
また、ウイルスは自己増殖不能で動植物や微生物に寄生増殖する極微小な病原体であり、動物ウイルス、植物ウイルス、微生物ウイルスに分けられる。ウイルス性疾患の予防治療用の種々の抗ウイルス剤が開発されているが、なお、副作用のない有効な抗ウイルス活性を有する薬剤が求められている。
【0012】
また、各種の植物に含まれるタンニンが抗菌作用を有することも知られている。例えば、ササ以外の植物由来のタンニンがMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する抗菌作用を有することも知られているが、副作用が大きいために抗菌剤として使用することができないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、抗菌剤を提供することであり、さらに具体的には、抗破傷風菌剤、抗カビ剤及び抗ウイルス剤を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、抗菌性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明はササエキスを含有する以下の抗菌剤、抗菌性組成物を提供するものである。
1.ササエキスを含有する抗破傷風菌剤。
2.ササエキスを含有する抗カビ剤。
3.さらに有機酸を含有する上記2記載の抗カビ剤。
4.カビがカンジダである上記3記載の抗カビ剤。
5.ササエキスを含有する抗ウイルス剤。
6.ササタンニンを含有する抗菌剤。
7.黄色ブドウ球菌、プロピオニバクテリウム、大腸菌に対する抗菌剤である上記6記載の抗菌剤。
8.MRSAに対する抗菌剤である上記6記載の抗菌剤。
9.プロピオニバクテリウムアクネスに対する抗菌剤である上記6記載の抗菌剤。
10.ササタンニンを含有するニキビ治療剤。
11.ササエキス及び有機酸を含有する抗菌性組成物。
12.インキ、塗料、食品添加物、飲料、調味料、ペットフード、プラスチック成形品、又は接着剤である上記11記載の抗菌性組成物。
13.ササエキスを含有するガス壊疽菌に対する抗菌剤。
14.ガス壊疽菌がクロストリジウム属菌である上記13記載の抗菌剤。
15.ササエキスを含有する無芽胞嫌気性グラム陽性球菌に対する抗菌剤。
16.無芽胞嫌気性グラム陽性球菌がFinegoldia, Micromonas, Peptostreptococcus, Atopobium, 又はGemellaである上記15記載の抗菌剤。
17.ササエキスを含有する無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌に対する抗菌剤。
18.無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌がPrevotella, Porphyromonas, Bilophila, Desulfovivrio、又はFusobacteriumである上記17記載の抗菌剤。
19.ササエキスを含有する膣炎および細菌性膣症関連微生物に対する抗菌剤。20.さらに有機酸を含有する上記13〜19のいずれか1項記載の抗菌剤。
21.ササエキスを含有する調味料。
22.ササエキスを含有する食塩である上記21記載の調味料。
23.さらに有機酸を含有する上記21又は22記載の調味料。
24.ササエキスを含有する農薬。
25.さらに有機酸を含有する上記24記載の農薬。
26.ササエキスを含有する農業用殺菌剤。
27.さらに有機酸を含有する上記26記載の農業用殺菌剤。
28.ササエキスを含有する防腐剤。
29.さらに有機酸を含有する上記28記載の防腐剤。
【0016】
以下、この明細書において抗破傷風菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤、ニキビ治療剤等を総称して単に「抗菌剤」と称することもある。
【0017】
また、この明細書において「抗菌剤」とは、ヒト以外に使用される抗菌剤、防腐剤も包含するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、有効成分としてササエキスを含有する抗菌剤である。本発明の抗菌剤は、ササエキスを固形分で1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは4〜15質量%含有する。ササエキスの固形分濃度が1質量%未満では目的とする抗菌性の発現が不充分であり、一方、50質量%を超えると、刺激が強くなり過ぎて好ましくない。
【0019】
従来、ササエキスは、通常0.5〜10質量%の固形分を含有するエキスとして製造され、種々の用途に利用されてきた。この固形分濃度のものを通常は最終製品に対して1〜10質量%程度添加して使用しているため、最終製品中のササエキスの固形分濃度は通常0.05〜0.8質量%程度であり、最も高濃度のものでも1質量%未満程度であった。その理由としては、ササエキスが比較的高価であること、このような低濃度でも、ある程度の消炎効果や抗菌効果が発現していたこと、有効成分の添加量を10質量%以上とすることは常識的ではないこと等が挙げられる。しかし、このような低濃度では、抗菌効果が充分なものではない場合が多かった。
【0020】
本発明者は、ササエキスを固形分濃度で1〜10質量%、好ましくは2〜8質量%、さらに好ましくは3〜7質量%含有させることにより、従来の低濃度の場合にはほとんど認められなかったアトピー等に対する改善効果、止痒効果が顕著に発現し、また創傷治癒効果も著しく向上することを見出した(WO 02/07745)。
本発明者は、さらにササエキスの各種菌類に対する抗菌効果を探索し、ササエキスを固形分で1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは4〜15質量%含有するものが、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌等以外の菌、すなわち破傷風菌等の嫌気性菌、プロピオニバクテリウムアクネスを含むプロピオニバクテリウム、カンジダ等のカビ類、あるいはヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス等のウイルス等にも顕著な抗菌効果を有すること、ササエキスにリンゴ酸等の有機酸を含有させることにより、抗菌性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。ササエキス自体は古くから知られているにも関わらず、これを高濃度で使用するという試みがこれまでになされなかった理由は定かではないが、従来の濃度より高濃度(10倍以上)にすることにより、破傷風菌等の嫌気性菌、カンジダ等のカビ類、あるいはウイルス等にも顕著な抗菌効果を有することは全く驚くべきことである。
【0021】
本発明は皮膚軟部組織感染症にも有効である。皮膚、骨、軟部組織が外傷、虚血、手術により損傷を受けると、嫌気性菌感染症に適した環境ができる。皮膚軟部組織感染症は糞便や上気道分泌物で汚染されやすい場所におこる。例えば、腸管手術と関係する創部、褥創、人による噛傷と関連する創傷がある。嫌気性菌は、ガス産生の見られる蜂窩織炎(crepitant cellulitis),相乗的蜂窩織炎(synergistic cellulitis),壊疽(gangrene)および壊死性筋膜炎の症例で分離される。さらに、嫌気性菌は皮膚の膿瘍、直腸膿瘍、そして、腋下汗腺感染症(化膿性汗腺炎)から分離される。嫌気性菌は糖尿病患者の足潰瘍からも頻繁に分離される。
【0022】
皮膚軟部組織感染症は通常複数菌感染症である。平均すると症例あたり4.8菌種が分離されており、嫌気性菌と好気性菌の比率は3 : 2となる。分離頻度の高い細菌種は、Bacteroides spp., Peptostreptoccus spp., Enterococcus spp., Clostridium spp., Proteus spp.である。嫌気性菌がこれらの感染症に関係すると、発熱の頻度が高まり、患部に悪臭がみられるようになり、 組織内にガスが、また、足には潰瘍がみられるようになる。
【0023】
嫌気性菌と通性菌の相乗作用によっておこる壊疽(Meleneyの壊疽)は、強烈な痛み、発赤、腫脹とそれに続いておこるinduration(硬結)を特徴とする。紅斑が壊死帯を中心にして拡がる。肉芽性の潰瘍が、壊死と紅斑が外側に拡大するにつれて、中心部に形成されていく。症状は疼痛のみで、発熱は典型的な症状ではない。この感染症は、よく、S. aureusとPeptostreptococus spp.の組み合わせによっておこる。好発部位は腹部の手術創、下肢の潰瘍の周辺部である。治療は壊死組織の外科的除去と抗菌化学療法である。
【0024】
壊死性筋膜炎という急速に広がる筋膜の破壊的な疾病はA群連鎖球菌によることが多いが、PeptostreptococcusやBacteroidesのような嫌気性菌によっておこることもある。組織内にガスをみることもある。これと同様に、筋壊死も嫌気性菌と通性菌の混合感染症と関係している。Fournier壊疽は、陰嚢、会陰部、腹壁前部をおかす、複数の嫌気性菌が深部の筋膜面deep external facial planesにそって拡がっていき、広範な皮膚欠損をきたす蜂窩織炎である。
【0025】
本発明は、ササエキスを含有する皮膚軟部組織感染症に対する治療及び/又は予防剤を提供するものである。
【0026】
本発明はまた、ササエキスを含有するプロピオニバクテリウムアクネスを含むプロピオニバクテリウムに対する抗菌剤を提供するものである。
【0027】
本発明者はササエキスの有効成分について、さらに検討した結果、ササエキス中に比較的多量に含まれるタンニンが優れた抗菌作用を有することを見出し本発明を完成するに至ったものである。従来、タンニンが抗菌作用を有することは報告されているが、これらのタンニンはいずれも副作用が大きいため実用化されたものは知られていない。ササエキス自体は古くから経口摂取され、人体に対する副作用を有していないことは知られている。このようなササエキス中にタンニンが比較的多量に含まれ、それが優れた抗菌作用を有することは全く予想されなかったことである。
【0028】
本発明の抗菌剤の有効成分であるササエキスの原料として使用するササは、特に限定されず、ササ属(Sasa)に属するすべてのササが例示される。例えば、クマイザサ、クマザサ、チシマザサ、オクヤマザサ、エゾミヤマザサ、チマキザサ、ヤヒコザサ、オオバザサ、ミヤマザサ、センダイザサ、ユカワザサ、アボイザサ、オヌカザサ等が挙げられる。これらのうち、市販品の具体例としてはクマイザサ、クマザサ(チュウゴクザサ、ヒダザサ)等が挙げられる。例えば、北海道天塩山系で7〜10月に採取されたクマイザサ、クマザサの水抽出物等が好ましい。
【0029】
本発明に使用するササエキスは、ササの生葉又は乾燥葉、好ましくは乾燥葉を、100〜180℃の水で、常圧又は加圧抽出して得られるものが好ましい。
【0030】
抽出方法は特に限定されないが、例えば、特許第3212278号(特開平11−196818号公報)に記載された方法を使用することができる。さらに具体的には、加圧熱水抽出機により100〜180℃、5〜30分処理してエキスを抽出し、該エキスを水分分離器により含水固形分(含水率40〜70%)と分離し、次に飽和水蒸気加熱処理機により該含水固形分を100℃〜200℃で5分〜60分処理した後、再度加圧熱水抽出機により100℃〜180℃で5〜30分処理してエキスを抽出させ、第1回目と第2回目のエキスを合わせて使用する。また、ササ乾燥葉を例えば、60〜100℃の水で30分〜12時間程度抽出して得られるエキスも使用できる。
【0031】
ササエキスを固形分で50質量%含有する市販品としては、株式会社クロロランド・モシリ製「AHSS」、株式会社鳳凰堂の「TWEBS」がある。
【0032】
こうして得られるササエキスは硫黄成分を含有しており、その含有量は硫黄に換算して、ササエキスの固形分1gあたり約4〜10mg、通常は約6〜9mgである。硫黄成分のうち主たる成分は含硫アミノ酸と考えられる。
【0033】
本発明の抗菌剤は、ササエキス由来の硫黄成分を、硫黄に換算して100g当り、好ましくは4〜500mg、さらに好ましくは8〜250mg、最も好ましくは16〜150mg含有する。
【0034】
また、ササエキスはタンニンを含んでおりその含有量はササエキスの固形分に対して5〜15質量%程度である。
【0035】
本発明の抗菌剤は、ササタンニンを固形分濃度で好ましくは0.05〜7.5質量%、さらに好ましくは0.1〜6質量%含有することが望ましい。
【0036】
本発明の抗菌剤は、ササエキスのみを有効成分とするものであっても良いし、これに適量の有機酸を併用することにより、その抗菌効果をさらに向上させることができる。このような有機酸としては、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酢酸、安息香酸、フェニル酢酸、サリチル酸、フェノール類等が挙げられる。
【0037】
有機酸の使用量は、本発明の抗菌剤中、好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.02〜3質量%、最も好ましくは0.05〜1.5質量%である。
【0038】
本発明の抗菌剤は、ササエキスそのものでも良いし、これを他の成分、担体と混合しても良い。
【0039】
本発明はササエキス又はササエキスと有機酸の混合物を含有する食塩、砂糖、醤油、味噌、ソース、マヨネーズ、酒、味醂、ドレッシング等の調味料等を提供するものである。例えば、ササエキス又はササエキスと有機酸の混合物を食塩に添加すると、食塩による魚類、肉類等の保存期間が各段に長くなるという効果がある。食塩に対するササエキスの添加量は、固形分で好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは2〜8質量%、最も好ましくは3〜6質量%である。
【0040】
本発明の抗菌剤の剤型は、液体状、固体状、気体状いずれでも良い。本発明の抗菌剤は、経口、非経口投与いずれの投与形態で投与してもよい。経口投与形態としては錠剤、丸剤、粉剤、液剤、チューインガム、飴、チョコレート、パン、クッキー、そば、うどん、各種ドリンク剤等の食品形態が、非経口投与形態としては、注射剤、局所投与剤(クリーム、軟膏等)、座薬等が挙げられる。局所投与剤の剤型の例としては、本発明の抗菌剤を、天然繊維又は合成繊維製のガーゼ等の担体に含浸させたもの、口紅等の化粧品に含有させたもの等が挙げられる。
【0041】
本発明の抗菌剤は、ヒトはもとより、ヒト以外の哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類等用の抗菌剤としても有効である。従って本発明の抗菌剤は、これらの動物の用の抗菌剤(例えば、ペット用医薬、ペットフード等)として使用することができる。さらに本発明の抗菌剤は、動物以外に、各種植物に対する抗菌剤としても有用であり、また、防腐剤としても有用である。
【0042】
本発明の種々の剤型の抗菌剤の製造には、所定量の上記ササエキスのほか、通常の医薬組成物、化粧品、皮膚用組成物等に使用される油性成分等の基材成分、保湿剤、防腐剤等を使用することができる。
【0043】
抗菌剤に使用する水は、水道水、天然水、精製水等、特に限定されないが、一般にイオン交換水等の高純度の水が好ましい。
【0044】
油性成分としては、スクワラン、牛脂、豚脂、馬油、ラノリン、蜜蝋等の動物性油、オリーブ油、グレープシード油、パーム油、ホホバ油、胚芽油(例えば、米胚芽油)等の植物性油、流動パラフィン、高級脂肪酸エステル(例えば、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル)、シリコーン油等の合成油、半合成油が挙げられる。
【0045】
油性成分は、皮膚の保護、エモリエント性付与効果(皮膚表面を薄膜で覆い、乾燥を防ぐと共に、柔軟性、弾力性を与える効果)、さっぱり感等の要求性能に合わせて適宜組み合わせて用いられる。スクワラン、オリーブ油及びミリスチン酸オクチルドデシルの組合せは好ましい例の一つである。
【0046】
抗菌剤の硬さ、流動性を調節するために、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベヘニン酸、セタノール、ワセリン等の固体油が用いられ、好ましくはステアリン酸とセタノールが組み合わせて用いられる。
【0047】
本発明の抗菌剤をクリーム組成物として製造するためには、ササエキス、水、油性成分をクリーム状にするためのクリーム化剤が用いられる。クリーム化剤は、特に限定されないが、モノステアリン酸グリセリンと自己乳化型モノステアリン酸グリセリン(モノステアリン酸グリセリンに乳化剤を添加したもの)とを組み合わせて使用するのが一般的である。
【0048】
本発明の抗菌剤には、さらに必要に応じて安定化剤、保湿剤、創傷治癒剤、防腐剤、界面活性剤等を含有させることができる。
【0049】
安定化剤としては、カルボキシビニルポリマーと水酸化カリウムの組合せ、ジステアリン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。特に、セスキステアリン酸ポリエチレングリコール(ジステアリン酸ポリエチレングリコールとモノステアリン酸ポリエチレングリコールの1:1混合物)(ポリエチレングリコールの分子量は1000〜2万)は、安定性が高く、水と油に分離することがなく、また、クリーム組成物として皮膚に塗布する際の硬さを効果的に調節することができるので好ましい。
【0050】
保湿剤としては、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、アロエエキス(特に、木立アロエ由来のアロエエキス(2)が好ましい)、尿素、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、トレハロース、ソルビトール、アミノ酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
創傷治癒剤としては、アラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム、カンゾウエキス、ヨモギエキス等が挙げられる。
【0052】
防腐剤は、ササエキス自体に抗菌作用があるため補助的に用いられるものである。例えば、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸低級アルキルエステル(例えば、メチル、エチル、プロピル又はブチルエステル等のパラベンと称されるもの)、プロピオン酸ナトリウム、混合脂肪酸エステル(カプリン酸グリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル−2、ラウリン酸ポリグリセリル−10の混合物)、フェノキシエタノール、感光素201号(黄色色素)、1,2−ペンタンジオール等が挙げられるが、パラベン、混合脂肪酸エステル、1,2−ペンタンジオールが好ましい。
【0053】
界面活性剤としては、例えば、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0054】
さらに必要により、香り成分、例えば、オレンジオイル、レモンオイル、トウヒ油、香料等を含有させてもよい。
【0055】
以上の各成分に、水、及び必要により有機酸を加えて全体で100質量%とする。
【0056】
本発明の抗菌剤をクリーム組成物として製造する場合の各成分の好ましい配合量(質量%)を、以下の表1に示す。水分以外の各成分の配合量は水分を除いたものの質量%である。
【0057】
表1

【0058】
以上の各成分を、攪拌翼と好ましくは乳化器を備えた加熱混合釜に投入し、70〜90℃で1〜2時間攪拌混合し、本発明の抗菌剤を得る。
【0059】
本発明の抗菌剤は、クリーム組成物の他、軟膏、液状、ジェル状、ゲル状、エアゾール、その他の形態で使用することができるが、クリーム組成物の形態が簡便で効果も大きい。また、シャンプー、ボディーソープ、洗顔フォーム等の半固体又は液体の形態としてもよい。
【0060】
本発明の抗菌剤は、患部を清潔にした後、適量、例えば、クリーム組成物として適用する場合、皮膚100cm2当たり0.1〜1g程度を、1日1〜5回、通常は1〜3回程度塗布すればよい。塗布量、塗布回数は症状や創傷の程度に合わせ適宜増減すればよい。
【0061】
本発明の抗菌剤は、経口摂取する場合、ササエキス固形分として体重1kg当たり0.01〜0.1g程度を1日1〜5回、通常は1〜3回程度摂取するのが適当である。摂取量、摂取回数は症状に合わせ適宜増減すればよい。
【0062】
本発明の抗菌剤は、注射剤等として非経口摂取する場合、ササエキス固形分として体重1kg当たり0.01〜0.1g程度を1日1〜5回、通常は1〜3回程度摂取するのが適当である。摂取量、摂取回数は症状に合わせ適宜増減すればよい。
【0063】
本発明の抗菌剤は、コンドーム等に塗布しておくことにより、性病やHIV感染等を予防し得る。
【0064】
本発明の抗菌剤の有効成分であるササエキスは笹属の抽出物であり、その1.25質量%水溶液はヒトの胎児腎臓由来の293細胞に対して毒性を示さない。
【0065】
本発明の抗菌剤は、ササエキスを固形分で1〜50質量%含有しており、破傷風菌、ガス壊疽を起すクロストリジウム属ガス壊疽菌群、カンジダ菌、白癬菌、ケカビ、クモノスカビ、アスペルギルス属菌、クリプトコッカス属菌、コクシジオイデス属菌、ヒトプラズマ属菌、MRSA等の抗生物質耐性菌、プロピオニバクテリウムアクネスを含むプロピオニバクテリウム属菌、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス等のウイルス等に対する顕著な抗菌効果を示す。
【0066】
本発明の抗菌剤の好ましい実施態様は以下のとおりである。
1.ササエキス(固形分で1〜50質量%)、水、油性成分及びクリーム化剤を含む抗菌剤。
2.油性成分が、動物性油、植物性油、合成油、及び半合成油からなる群から選ばれた少なくとも1種である上記1記載の抗菌剤。
3.油性成分が、スクワラン、牛脂、豚脂、馬油、ラノリン、蜜蝋、オリーブ油、グレープシード油、パーム油、ホホバ油、胚芽油、流動パラフィン、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、シリコーン油、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベヘニン酸、セタノール、及びワセリンからなる群から選ばれた少なくとも1種である上記1記載の抗菌剤。
4.クリーム化剤が、モノステアリン酸グリセリンと自己乳化型モノステアリン酸グリセリンとの組み合わせである上記1〜3のいずれか1項記載の抗菌剤。
5.さらに有機酸、安定化剤、保湿剤、創傷治癒剤、防腐剤及び界面活性剤からなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を含有する上記1〜4のいずれか1項記載の抗菌剤。
6.安定化剤が、カルボキシビニルポリマーと水酸化カリウムの組合せ、及びジステアリン酸ポリエチレングリコールからなる群から選ばれた少なくとも1種である上記5記載の抗菌剤。
7.保湿剤が、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、アロエエキス、尿素、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、トレハロース、ソルビトール、アミノ酸、及びピロリドンカルボン酸ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である上記5記載の抗菌剤。
8.創傷治癒剤が、アラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム、カンゾウエキス、及びヨモギエキスからなる群から選ばれた少なくとも1種である上記5記載の抗菌剤。
9.防腐剤が、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸低級アルキルエステル、プロピオン酸ナトリウム、混合脂肪酸エステル、フェノキシエタノール、1,2−ペンタンジオール及び黄色色素からなる群から選ばれた少なくとも1種である上記5記載の抗菌剤。
10.さらに、オレンジオイル、レモンオイル、トウヒ油、及び香料からなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を含有する上記5記載の抗菌剤。
11.ササエキス、水、油性成分、クリーム化剤、安定化剤、保湿剤、創傷治癒剤、防腐剤及び界面活性剤を含有する抗菌剤において、油性成分が、スクワラン、牛脂、豚脂、馬油、ラノリン、蜜蝋、オリーブ油、グレープシード油、パーム油、ホホバ油、胚芽油、流動パラフィン、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、シリコーン油、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベヘニン酸、セタノール、及びワセリンからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、クリーム化剤が、モノステアリン酸グリセリンと自己乳化型モノステアリン酸グリセリンとの組み合わせであり、安定化剤が、カルボキシビニルポリマーと水酸化カリウムの組合せ、及びジステアリン酸ポリエチレングリコールからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、保湿剤が、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、アロエエキス、尿素、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、トレハロース、ソルビトール、アミノ酸、及びピロリドンカルボン酸ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、創傷治癒剤が、アラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム、カンゾウエキス、及びヨモギエキスからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、防腐剤が、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸低級アルキルエステル、プロピオン酸ナトリウム、混合脂肪酸エステル、フェノキシタール、及び黄色色素からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、界面活性剤がN−アシル−L−グルタミン酸ナトリウムである上記抗菌剤。
12.さらに、オレンジオイル、レモンオイル、トウヒ油、及び香料からなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を含有する上記11記載の抗菌剤。
13.ササエキス、水、スクワラン、オリーブ油、モノステアリン酸グリセリン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、カルボキシビニルポリマー、水酸化カリウム、尿素、1,3−ブチレングリコール、アラントイン、パラヒドロキシ安息香酸低級アルキルエステル、ステアリン酸、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、レモンオイルを含有する上記1記載の抗菌剤。
14.ササエキス、水、スクワラン、オリーブ油、ミリスチン酸オクチルドデシル、セタノール、モノステアリン酸グリセリン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、カルボキシビニルポリマー、水酸化カリウム、尿素、1,3−ブチレングリコール、アラントイン、混合脂肪酸エステル、ステアリン酸、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、オレンジオイルを含有する上記1記載の抗菌剤。
15.セスキステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する上記1〜14のいずれか1項記載の抗菌剤。
16.有機酸が、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酢酸、安息香酸、フェニル酢酸、サリチル酸、及びフェノール類からなる群から選ばれたる少なくとも1種である上記1〜15のいずれか1項記載の抗菌剤。
【0067】
本発明はまた、ササエキス及び有機酸を含有する抗菌性組成物を提供するものである。本発明の抗菌性組成物として好ましい形態は、インキ、塗料、食品添加物、飲料、ペットフード、プラスチック成形品、及び接着剤が挙げられる。
【0068】
これらの抗菌性組成物の素材として、食品添加物、飲料(清涼飲料水、果物ジュース、野菜ジュース、酒類(日本酒、ビール、発泡酒、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ワイン、ブランデー等))等の水性素材を使用する場合は、これらの素材に、ササエキス及び有機酸を添加、混合すれば良い。添加時期は、素材の製造前、製造中、製造後のいずれの段階であっても良い。ササエキス及び有機酸を添加した後、70〜90℃で1〜2時間攪拌混合処理することにより、抗菌性をさらに向上することができる。食品添加物、飲料等の抗菌性組成物中のササエキスの含有量は、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.25〜7質量%である。
【0069】
また、これらの抗菌性組成物の素材として、インキ、塗料、プラスチック成形品、接着剤等を使用する場合、これらの素材が親水性である場合には上述のとおり、素材にササエキス及び有機酸を添加、混合すれば良い。添加時期は、素材の製造前、製造中、製造後のいずれの段階であっても良い。一方、これらの素材が疎水性(親油性)である場合には、ササエキス及び有機酸が混和しにくいことが多い。そこで、ササエキス、又はササエキスと有機酸の混合物を、界面活性剤(乳化剤)又は親水性有機溶剤(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、ピリジン、ジメチルホルムアミド等)を併用して素材との混和性を改善する、あるいは、ササエキス、又はササエキスと有機酸の混合物を、予め親油性材料を用いてマイクロカプセル化しておく等の手段を講じて、素材との混和性を改善することが望ましい。いずれの場合にもササエキス及び有機酸を添加した後、70〜90℃で1〜2時間攪拌混合処理することにより、抗菌性をさらに向上することができる。
【0070】
素材として、インキ、塗料、プラスチック成形品、接着剤等を使用した、本発明の抗菌性組成物中のササエキスの含有量は、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは3〜7質量%であり、有機酸の含有量は、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは3〜7質量%である。
【0071】
特に好ましい有機酸はリンゴ酸、コハク酸、クエン酸等である。
【0072】
本発明の抗菌性組成物は、本発明の抗菌剤を含有しないものと比較して顕著な抗菌性を示し、インキや塗料は抗菌性建材として、一般家庭はもとより、院内感染のおそれのある病院や公共建築物用の建材として極めて有用である。
【0073】
次に、参考例、実施例及び試験例を示し本発明をさらに詳細に説明する。
参考例1 ササエキスの製造
北海道天塩山系で9月に採集されたササの乾燥葉を、加圧熱水抽出タンクに入れ、125℃で10分処理し、冷却水で熱水を80℃程度まで冷却し、エキスと含水固形分をスクリュープレスで分離して、含水率を約50質量%とした。次に、約50質量%含水固形分をオートクレーブに入れ、180℃で10分、飽和水蒸気による加圧熱処理を行った。処理した含水固形分を、再度加圧熱水抽出タンクに入れて110℃で5分処理してエキスを抽出させた。第1回目と第2回目のエキスを合わせ、珪藻土濾過し、固形分50質量%となるまで減圧濃縮し、110〜130℃の流動殺菌処理をしてササエキスを得た。
【0074】
このササエキス中の硫黄含有量は3850μg/ml(7.7mg/固形分1g)であった。
参考例2
ササエキス(Bambuseae Sasa)(株式会社鳳凰堂より入手)の成分を分析したところ下記の結果が得られた。
水 59.5質量%
蛋白質 8.6
脂質 0.6
ミネラル 9.0
炭水化物 19.8
タンニン 2.5

実施例1〜4
下記の表2に示す成分を表2に示す質量比で混合し、攪拌翼と乳化器を備えた加熱混合釜に投入し、80℃で2時間攪拌混合し、本発明の抗菌剤を得た。固形分濃度8質量%のササエキス(参考例1で製造した固形分50質量%のササエキスを水で希釈したもの)の添加量は実施例1〜4においてそれぞれ、12.5、25、37.5、及び75質量%(従って、ササエキス固形分の含有量は、1、2、3、及び6質量%、硫黄含有量は、抗菌剤100g中、7.7mg、15.4mg、23.1mg及び46.2mgである)。
【0075】
表2

【0076】
比較例1
実施例1において、固形分濃度8質量%のササエキス(参考例1で製造した固形分50質量%のササエキスを水で希釈したもの)の添加量を6.2質量%(従って、ササエキス固形分の含有量は0.5質量%、硫黄含有量は、抗菌剤100g中、3.8mgである)とした他は同様にして、比較例1の抗菌剤を得た。

実施例5
下記の表3に示す成分を表3に示す質量比で混合し、実施例1〜4と同様にして、本発明の抗菌剤を得た。
【0077】
表3

この抗菌剤100g中の硫黄含有量は、46.2mgである。
【0078】
実施例6
下記の表4に示す成分を表4に示す質量比で混合し、攪拌翼と乳化器を備えた加熱混合釜に投入し、80℃で2時間攪拌混合し、本発明の抗菌剤を得た。
【0079】
表4

このクリームのpHは6.00であった。
【0080】
実施例7
下記の表5に示す成分を表5に示す質量比で混合し、攪拌翼と乳化器を備えた加熱混合釜に投入し、80℃で2時間攪拌混合し、本発明の抗菌剤クリームを得た。
【0081】
表5

このクリームのpHは4.68であった。
【0082】
実施例8〜10
実施例7において、dl−リンゴ酸を添加せず、ササエキス(固形分含有量50質量%)の量を16質量%、20質量%及び30質量%とし、精製水の量を調整した他は同様にしてササエキス固形分含有量が8質量%、10質量%及び15質量%の本発明の抗菌剤クリームを得た。

実施例11〜13
実施例7においてササエキス(固形分含有量50質量%)の量を16質量%、20質量%及び30質量%とし、精製水の量を調整した他は同様にしてササエキス固形分含有量が8質量%、10質量%及び15質量%の本発明の抗菌剤クリームを得た。

試験例1(破傷風菌に対する抗菌活性)
破傷風菌(Clostridium tetani)の26株を使用した。これらの菌株は日本の
土壌から分離されたものである。対照として大腸菌(Escherichia coli)ATCC25922とブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC25923も使用した。
【0083】
参考例1で製造したササエキス(ササエキス固形分含有量50質量%)を滅菌蒸留水で希釈してササエキス水溶液とした。
【0084】
種々の濃度のササエキス水溶液について、寒天平板希釈法により最少発育阻止濃度を測定した。最終濃度が12.5、6.25、3.13、1.56、0.78、0.39、0.19、0.10質量%となるように変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。ササエキス水溶液と2倍寒天培地を1:1で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。破傷風菌の迷走防止のため寒天濃度は3%に補正した。寒天を3%に調整した変法GAM寒天培地で24時間培養して得た被験菌株の集落を白金耳でかきとり、Anaerobe broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No. 1の濁度に調整した。その1μl(接種量
:105 cfu)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照菌株は、血液寒天培地上の集落を用い、Anaerobe broth (Difco)中に,Mc Farland No. 0.5の濁度に調整し、その1μl(接種量:105 cfu)を画線塗抹法によ
り接種した。なお、嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃18時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
【0085】
この方法により測定したササエキスの大腸菌ATCC25922とブドウ球菌ATCC25923に対する最少発育阻止濃度はいずれも3.13質量%であった。
【0086】
破傷風菌26株の最少発育阻止濃度は0.78質量%から0.19質量%に分布した。結果を表6に示す。破傷風菌使用菌株の80%又は50%の株の発育を阻止するササエキス濃度(MIC80%及びMIC50%)はそれぞれ0.78%及び0.39%であった。
【0087】
表6

【0088】
破傷風は、土壌中に存在する破傷風菌の芽胞が土壌とともに創傷部位に侵入することが契機となって発症する疾患である。発症には、芽胞が局所で発芽し、増殖して、毒素(テタノスパスミン)を産生することが必要不可欠である。汚染された創傷部位は芽胞の発芽に嫌気的環境となり易いため、破傷風の発症予防の基本は、デブリドマンと呼ばれる侵入した異物や壊死組織の除去などの適切な外科的処置を行い、創傷部位が嫌気性環境となることを阻止し、破傷風菌の増殖を防ぐことである。
【0089】
表6に記載したように、ササエキスは破傷風菌26株のすべての増殖を0.78%の低濃度で完全に抑制した。ササエキスの抗菌活性は、大腸菌やブドウ球菌に対する抗菌活性の4倍以上であることが明らかとなった。
【0090】
菌の発育がササエキスを含まない培地での発育と差のない濃度(0.19%)で得た破傷風菌の単染色の顕微鏡観察で、菌体のフィラメント化と菌体が膨れて溶菌している像が観察された。また、菌の発育がササエキスを含まない培地での発育より顕著に抑制された濃度(0.38%)では、発色性の悪い菌体が認められ、また芽胞を有する菌体を容易に認めることができた。ぶどう球菌で隔壁形成が阻害されていることを示唆する所見が電子顕微鏡レベルですでに観察されている。最少発育阻止濃度以下の濃度で見られたフィラメント化は、分裂時の毛句へ気形成が阻害される場合に見られる所見であることが抗生物質の研究から知られている。
【0091】
破傷風と類似の発症機序を有する外傷と関連する疾患であるガス壊疽を起す幾つかの嫌気性菌、すなわち、Clostridium perfringens, Clostridium septicum, Clostridium bifermentans等のガス壊疽菌群に対するササエキスの抗菌活性や、化膿性感染症を起す無芽同胞嫌気性菌に対する抗菌活性も期待される。

試験例2(カンジダ菌に対する抗菌活性)
実施例8〜13で調製したササエキス及びササエキス並びにリンゴ酸を含むクリーム組成物について、カンジダ菌(Candida albicans 臨床分離株)に対する抗菌活性を調べた。
使用培地
・NB培地:肉エキス0.2%を添加した普通ブイヨン(栄研化学)
・1/50NB培地:NB培地をリン酸緩衝液で50倍に希釈し、pH7.2±0.2に調整したもの。
・SCDLPブイヨン(栄研化学)
・SA培地:標準寒天培地(日水製薬)
菌液の調整
試験実施1日前純培養した新鮮培養菌を1/50NB培地にMc Farland(マッファーランド)0.5、約108個/mlに懸濁する。更に、1/50NB培地
で菌液を100倍(約106個/ml)に希釈する。
【0092】
クリーム組成物を60℃で10分間加熱してクリーム組成物を融解する。融解したクリーム組成物1mlをアクリル板(50mm×50mm)上に滴下し、10分間室温で放置して固める。菌液0.5mlをクリーム組成物塗布面に滴下し、この上にアクリル板(45mm×45mm)を密着させる。これを高湿度下で、36℃24時間培養する。
【0093】
滅菌シャーレに10mlのSCDLPブイヨンを入れ、この中に24時間培養後のアクリル板を移動し、アクリル板をブイヨンで洗い流す。この100μlを
とり、SA培地上に滴下し、均一に塗り拡げ、48時間培養後、菌数を測定し、アクリル板1枚当たりの菌数に換算する。結果を表7に示す。
【0094】
表7

対照:実施例7においてdl−リンゴ酸とササエキスを添加しないもの。
【0095】
ササエキスを含有するがリンゴ酸を含有しないクリーム組成物(試験No.3〜5)は、カンジダ菌に対して抗菌活性を殆ど示さないのに対して、ササエキス及びリンゴ酸を含有するクリーム組成物(試験No.6〜8)は、特にササエキス濃度10質量%以上において高い抗菌活性を示す。

試験例3(ヘルペスウイルスに対する治癒効果)
実施例7で製造したクリーム組成物(ササエキス固形分含有量6質量%)をヘルペスウイルス感染患者(60歳、女)の患部(口角)に1日2回適量を塗布したところ、2日間で症状が著しく緩和し、3日間で完治した。

試験例4(ニキビ患者の病巣由来株の分析)
ニキビ患者の病巣から下記の黄色ブドウ球菌44株とプロピオニバクテリウムアクネス属菌26株を分離した。
【0096】
表8

上記44株の黄色ブドウ球菌の抗生物質感受性は以下のとおりであった。
(μg/ml)
【0097】
表9

【0098】
上記26株のプロピオニバクテリウムアクネス属菌の抗生物質感受性は以下のとおりであった。(μg/ml)
【0099】
表10

【0100】
試験例5(参考例2のササエキスの抗菌性)
参考例2のササエキス(ササタンニン)と市販タンニン(Lot.02060618, Extrasynthese, Geney, France) の抗菌性(MIC(mg/ml):最小生育阻止濃度)を寒天培地上、2倍希釈法により調べた。結果を以下に示す。
【0101】
表11

( )内の数値はササタンニンとしてのMIC値
【0102】
試験例6(参考例2のササエキスの抗菌性)
試験例4のニキビ患者の病巣由来株のブドウ球菌属細菌44株(混合物)とプロピオニバクテリウムアクネス菌26株(混合物)を用いて、参考例2のササエキス(ササタンニン)と市販タンニン(Lot.02060618, Extrasynthese, Geney, France)の抗菌性 (MIC(mg/ml):最小生育阻止濃度)を寒天培地上、2倍希釈法により調べた。結果を以下に示す。ブドウ球菌属の菌はMH寒天(Mueller Hinton Agar (BBL))培地、pH7.0、空気中、37℃24時間、プロピオニバクテリウムアクネス菌はGAM培地、pH7.0、嫌気中、35℃48時間、培養した。なお、市販タンニンのMIC80はブドウ球菌属群に対して0.04mg/mlであり、プロピオニバクテリウムアクネス菌に対して0.08mg/mlであった。
【0103】
表12

【0104】
実施例14
水性インキ100質量部に参考例1で製造したササエキス6質量部及びdl−リンゴ酸10質量部を加え、80℃で2時間混合加熱処理し、抗菌性インキを得た。

実施例15
水性塗料100質量部に参考例1で製造したササエキス6質量部及びdl−リンゴ酸10質量部を加え、80℃で2時間混合加熱処理し、抗菌性塗料を得た。

実施例16
日本酒100質量部に参考例1で製造したササエキス3質量部及びdl−リンゴ酸0.25質量部を加え、80℃で3時間混合加熱処理し、抗菌性日本酒を得た。

実施例17
水性接着剤100質量部に参考例1で製造したササエキス6質量部及びdl−リンゴ酸10質量部を加え、80℃で2時間混合加熱処理し、抗菌性接着剤を得た。

試験例7(ガス壊疽菌群Clostridium perfringens 10株に対する抗菌作用)
使用菌株:C. perfringens ATCC13124の1株と臨床分離のC. perfringens 9株 (GAI-92099, GAI-92100, GAI-92101, GAI-92102, GAI-92103, GAI-92104, GAI-92105, GAI-92106, GAI-92107) の合計10株を使用した。これらの臨床分離株は感染症患者由来の臨床材料から分離され、岐阜大学医学部附属嫌気性菌実験施設(以下「当施設」という)に保存されていた株である。なお、抗菌力評価の精度管理用菌株として、E. coli ATC25922を使用した。
【0105】
ササエキス溶液の固形分濃度は50%で、水溶性タンパク・アミノ酸、ミネラル、タンニン、糖質、水溶性多糖体、カルボン酸、総クロロフィル、ケイ酸、ビタミン、脂質、精油、水分からなる。原液のpHは約5.0である。溶液の希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法に準じて最小発育阻止濃度を%で測定した。最終濃度が25%から0.2%になるようにササエキスの2倍希釈水溶液の系列を作製した。ササエキス希釈液と変法GAM寒天培地(2倍)を1:1で混合して、最終的に12.5〜0.1%の濃度のササエキス含有変法GAM寒天培地を作製した。変法GAM 寒天培地で24時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Anaerobe broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度の菌液を調整した。 その10μl(接種量:106 cfu)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照菌株E. coli については、TSA寒天培地(Difco)上の集落を用い、Anaerobe broth中にMc Farland No. 0.5の濁度に調整し、その10μl(接種量:105 cfu)を画線塗抹法により接種した。なお、嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃18時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。本方法により測定したササエキスのE. coli ATC25922に対する最小発育阻止濃度は3.13%であった。
結果
C. perfringens 10株の発育を阻止するに必要なササエキスの最小濃度(MIC)は、3.13〜6.25%に分布した。C. perfringens使用菌株の80%、あるいは50%の株の発育を阻止するササエキスの濃度は6.25%であった。
【0106】
表13 ササエキスのClostridium perfringens 10株に対する抗菌作用

【0107】
考察
ガス壊疽は、土壌中に存在するガス壊疽菌群と称される1群のClostridium spp.の芽胞が土壌とともに創部に侵入することが契機となって発症する疾患である。C. perfringens, Clostridium septicum, Clostridium bifermentansなどが原因菌として知られるが、ガス壊疽の症例の80%は、C. perfringensによるものである。ガス壊疽は、救急外科における適切な治療により十分予防できる疾患であるが、外科的処置が遅れるような状況になった場合、また、外科的処置が十分適切でなかった場合には、受傷後6時間以降に発症、急激な経過をとり、致死的となることが知られている。また、救命のために四肢など患部の切断を余儀なくされることがあり、医療上軽視できない疾患のひとつである。
【0108】
今回の試験管内で検討した成績によると、ササエキスのC. perfringensに対する抗菌作用は、試験例1で検討したC. tetaniに対する作用には及ばなかったものの、C. perfringens 10株の増殖を3.13%以上〜6.25% 以下の濃度で完全に抑制することが明らかとなった。従って、この程度の濃度のササエキスを含浸させた患部保護布等はC. perfringens の最小発育阻止濃度を上回っており、受傷後の外科医の適切な治療を受けるまでの応急処置として人体へ使用した場合、受傷部位でのC. perfringensの発芽あるいは発芽後の増殖を抑制する効果があるといえる。

試験例8(Clostridium perfringens以外のガス壊疽菌群に対する抗菌作用)
使用菌株:感染症患者由来の臨床材料から分離された、または当施設保存の参考菌株を使用した。なお、抗菌力評価の精度管理用菌株として、E. coli ATC25922、S. aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法に準じて最小発育阻止濃度を%で測定した。最終濃度が8%から0.125%になるようにササエキスを含む変法GAM寒天培地を作製した。培地pHを7.0に調整した。変法GAM 寒天培地で24時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Anaerobe broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度の菌液を調整した。 その10μl(接種量:106 cfu)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照菌株E. coli S.aureusについては、TSA寒天培地(Difco)上の集落を用い、Anaerobe broth中にMc Farland No. 0.5の濁度に調整し、その10μl(接種量:105cfu)を画線塗抹法により接種した。なお、嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃18時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。結果を表14に示す。
【0109】
表14 ササエキスのガス壊疽菌群Clostridium spp. に対する抗菌作用

【0110】
考察
ササエキスはC. novyi と C. sporogenesの発育を3%の濃度で、C. septicumの発育を3〜5%の濃度で、また、C. bifermentans, C. sordelliiの発育を5〜7%の濃度で抑制することが明らかとなった。すなわち、ガス壊疽に関係するClostridium spp.に対するササエキスの抗菌作用は、菌種により差が認められたが、7%の濃度であれば使用した全株の増殖を抑制できることが明らかとなった。創傷部位に本エキスをガス壊疽の予防を意図して使用する場合には、pH7の条件下で、7%の濃度に設定することが望ましい。

試験例9(Propionibacterium acnes 16株に対する抗菌作用)
使用菌株:P. acnes ATCC11827とP. acnes臨床分離株の15株( GAI-10341, GAI-10342, GAI-10343, GAI-10344, GAI-10345, GAI-10346, GAI-10347, GAI-10348, GAI-10349, GAI-10350, GAI-10351, GAI-10352, GAI-10353, GAI-10354, GAI-10355)の合計16株を使用した。これらの臨床分離株は皮膚科感染症患者から分離され、当施設に保存されていた株である。試験液は、試験例7と同じである。希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78%になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。ササエキス液と2倍寒天培地を1:1で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、pHの調整は、実施しなかった。
【0111】
ブルセラHK半流動培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の濃厚発育部位からの1白金耳をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、108/mlの細菌数を含む。嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
結果
P. acnes 16株の発育を完全に阻止するに必要なササエキスの最小濃度(MIC)は6.25%であった(表15)。ササエキスはP. acnesの16株中12株に対して、3.13%でササエキス不含の対照培地と比し顕著な発育の抑制を呈したが、完全な阻止には6.25%が必要であった。
【0112】
表15 ササエキスのPropionibacterium acnes 16株に対する抗菌作用

【0113】
考察
Acne vulgaris に関与するS. aureusの阻止に必要なササエキスの濃度は3.13%であるが、この試験例の検討で、P. acnesの全株を完全に阻止するのに必要なササエキス濃度は、3.13%以上から6.25%以下の範囲の濃度であった。P. acnesはS.aureusとともに重要なAcne vulgarisの増悪因子であることから、Acne vulgaris治療を目的とする場合には、P. acnesの発育を完全に阻止できる6.25%程度が適当と考えられる。
【0114】
ササエキスのこのような抗菌作用の機作については現時点では不明であるが、その由来が植物であるササエキスは、これまでの放線菌由来や真菌由来の各種抗菌薬とは異なる作用機作をもっている可能性があり、耐性発現の点からも興味深い。

試験例10(にきび由来のPropionibacterium acnes 26株に対する抗菌作用)
使用菌株: P. acnes臨床分離株の合計26株を使用した。これらの臨床分離株は、にきび患者から分離され、当施設に保存されていた株である。試験液は試験例7と同じであり、濃度は50%の酸性 (pH5.0前後) の溶液である。希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が8,7,6,5,4,3,2,1,0.5%になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。pHは7.0付近に調整した。GAM寒天培地で48時間培養して得た被験菌株の集落をAnaerobe Brothに懸濁し、所定の菌数を含む菌液を調整した。嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。
結果と考察
同時に行った成績ではないが、各種抗菌薬に対する感受性の分布を参考に示した。今回は、pH無調整で実施した前回の実験の場合と異なり、終末点の判定が困難であった。
【0115】
表16 P. acnes(26株)のササエキスおよび各種抗菌薬に対する感受性

【0116】
試験例11(ササエキスのLactobacillus spp.に対する抗菌作用)
使用菌株:表17に示した施設保存の参考菌株を使用した。これらの菌株はATCC, JCMから購入し、当施設に保存されていた株である。なお、対照として、細菌性膣症の婦人の膣内や婦人科領域感染症から比較的高頻度に分離される代表的な菌種の中からPrevotella bivia ATCC29303, Porphyromonas asaccharolytica ATCC25260, Bacteroides fragilis N-1, N-2を選んだ。また、Escherichia coli ATC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も、同様の目的と感受性測定の精度管理用菌株として使用した。試験液は試験例7と同じである。
【0117】
なお、ササエキス原液を滅菌蒸留水で希釈し、しばらく放置すると、茶褐色の沈殿物が生じる場合があるが、培地との混釈時にそれをよく撹拌混合して使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0.5%になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。10%〜6%までの高濃度領域については、それぞれ20%〜12%のササエキス液と2倍寒天培地を1:1で混合して作製し(最終pH5.3〜5.5)、5%〜0.5%までの低濃度の領域については, 50%〜5%のササエキス液と1倍寒天培地を1:9で混合して(最終pH5.5〜6.0)、ササエキス含有寒天培地を作製した。
また、今回の抗菌力の検討は、酸性(pH5.3〜6.0)条件下に加え、より弱酸性〜環境下でも実施した。ササエキス添加後のpHを2NのNaOH水で、pH6.5〜7.0に、調整した培地を作製した。
接種菌液の調整:
Brucella HK 血液寒天培地で48時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Anaerobe broth MIC (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度に調整した。その10μl(接種量:106 cfu)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照菌株についても、TSA寒天培地上の集落を用い、Anaerobe broth MIC中にMc Farland #1の濁度に調整し、その10μl(接種量:106cfu)を画線塗抹法により接種した。今回、E. coli ATC25922とS. aureus ATCC25923については、Mc Farland #1/2, 1/2の10倍希釈液、1/2の100倍希釈液についても同時にMICを測定し、接種菌量のMICに与える影響を検討した。
【0118】
なお、嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃18時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
結果
pH無調整の酸性(pH5.3〜6.0)の実験条件下で測定したササエキスの最小発育阻止濃度は、表17に示した。Lactobacillus casei ss. casei, Lactobacillus. brevis ss. brevis, Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus salivariusの4菌種4株に対して7〜8%, その4菌種4株を除く5菌種5株に対して、10%以上であった。なお、同時に測定したP. bivia ATCC29303, P. asaccharolytica ATCC25260に対する最小発育阻止濃度は、いずれも0.5%で、本方法により測定したササエキスの精度管理用菌株2株、E. coli ATC25922とS. aureus ATCC25923に対する最小発育阻止濃度はともに4%であった。
【0119】
pH調整 (pH6.8〜7.1) の実験条件下で測定したササエキスの最小発育阻止濃度も表1に示した。L. brevis ss. brevis, L. acidophilus、の2菌種2株に対して7%, その2菌種2株を除く7菌種7株に対して、>=9%であった。P. bivia では1%、P. asaccharolytica では0.5%であった。また、E. coli ATCC25922およびS. aureus ATCC25923のMICは、6%であった。
【0120】
なお、pH調整下(pH6.4〜7.0)でのMICを求めるにあたり、接種菌量のMICに与える影響をE. coli ATC25922とS. aureus ATCC25923を用いて検討した。その結果、S. aureusは、Mc Farland #1〜1/2 (>108/ml)の濁度の菌液の1白金耳量を使用した場合、MICは6%, Mc Farland #1/2の10倍(107/ml)、100倍希釈液(106/ml)のそれを使用した場合には、MICは3%と読み取られた。 E. coliは、接種菌量の変化により、subMICの領域での菌の発育程度が段階的に悪化していたものの、読み取ったMIC値の変動はなく、いづれも6%と読み取られた。
考察
ササエキスが6.25 %〜3.13%以下の濃度で、いくつかの病原性細菌の発育を阻止することが明らかとなってきた。ササエキスのこれら病原性細菌に対する抗菌力の他に、非病原性細菌に対する抗菌力についての情報を集積することも極めて重要と考え、この試験例を実施した。
【0121】
Lactobacillus spp.の多くは、人の粘膜で生体防御の観点から、極めて重要な役割を演じていることがわかっている。本発明者らは、すでに29名の健康な妊婦の膣からLactobacillus spp. 91株を分離し、それらを詳細に同定した結果、Lactobacillus crispatusが48株(52.7%)と最も多く、Lactobacillus gasseriが19株(20.85)とそれに次ぐことを、そして、Lactobacillus vaginalis, Lactobacillus fermentum, Lactobacillus plantarum, L. salivarius などが分離されることを見出した。中でも、 L. crispatusはその100%が過酸化水素を産生し、その産生量も多いLactobacillus spp.の代表的な菌種であり、100%ではないが過酸化水素産生株が存在することが報告されているL. gasseriやL. vaginalisの2菌種とともに、女性の膣および子宮粘膜内の感染防御機構においてとりわけ重要な役割を果たしていると考えられている。今回の検討で、ササエキスの過酸化水素産生Lactobacillus spp.であるL. crispatusとL. gasseri に対する抗菌作用は、MICが10 %以上と、同時に実施したE. coli, S. aureusなどの代表的な病原性通性菌に対するMIC 4 %やP. bivia, P. asaccharolytica、B. fragilisなどの代表的化膿性嫌気性菌に対するMIC 0.5〜4% に比し、極めて弱いことが明らかとなった。
【0122】
また、ササエキス溶液は、膣内環境のpHに近いpHを示し、アルカリ性より中性、中性より酸性の条件下でより強い抗菌作用を発揮することが知られている。E. coliやS .aureus参考菌株に対する抗菌力が2管程度低下するpHをやや中性付近にシフトさせた弱酸性の実験条件下でも、Lactobacillus spp.のMICは大きく変化しなかった。
【0123】
さらに、本発明者らは、妊婦や新生児の腸管からL. gasseri, L.fermentum, L.paracasei, L. plantarum, L. salivarius, L. crispatusなどが比較的高率に分離されることも見出しているが、これらのLactobacillus spp.の中で、膣からの分離率が高いL. crispatus とL. gasseri 以外のLactobacillus spp.に対しても、MICは7 %以上と高い値を示していた。
【0124】
ササエキスは、膣内有用菌や消化管内有用菌であるLactobacillus spp. に対して,その抗菌力が、より病原性の強いと評価されている細菌種に対するより、本来弱いことを示唆している。このことは、同時に、婦人科膣、消化管で、ササエキスを使用するような場合、極めて本物質にとって優れた特徴となる可能性が示唆された。
【0125】
表17 ササエキスのLactobacillus spp. groupに対する抗菌作用

*接種菌量:Mc Farland #1の1白金耳量
【0126】
試験例12(Escherichia coli, Methicillin resistant Staphylococcus aureusおよびPseudomonas aeruginosa に対する抗菌作用)
本発明者らは、ササエキスが、各種化膿性感染症の原因菌として極めて重要なEscherichia coli、各種抗菌薬に多剤耐性を示すMethicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)、MRSAと同様に多くの抗菌薬に対して耐性傾向の強いPseudomonas aeruginosa などに対して抗菌作用を示すことを見出している。本発明者らは、これまでササエキスの嫌気性菌に対する抗菌作用を嫌気性菌に対して推奨されている変法GAM寒天培地を感受性測定培地とする寒天平板希釈法により測定してきた。
【0127】
この試験例では、患者から分離されたE. coli, S. aureus, P. aeruginosaの通性菌と好気性菌であるそれぞれ10株以上を使用して、ササエキスのこれらの菌種に対する抗菌作用を通性菌で推奨されているMueller Hinton Agarを測定培地とする寒天平板希釈法により検討した。
材料と方法
使用菌株:施設保存の臨床分離株であるE. coli 14株, Methicillin resistant S. aureus 14 株およびP. aeruginosa 13 株を用いた。また、E. coli ATC25922とS. aureus ATCC25923を感受性測定の精度管理用菌株として使用した。試験液は試験例7と同じである。溶液の希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:
抗菌薬の通性菌に対する抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。可能な限り、日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125, 0.063, 0.032%になるようにササエキスを含有させたMuellar Hinton 寒天平板 (Difco) を作製した。7%〜6%の高濃度領域については、それぞれ14%〜12%のササエキス液と2倍濃度のMueller Hinton寒天培地を1:1で混合して作製し、5%〜0.032%までの低濃度の領域については, 50%〜0.32%のササエキス液と1倍濃度のMueller Hinton寒天培地を1:9で混合して、ササエキス含有寒天培地を作製した。2NのNaOH水で、培地pH6.5〜7.3に調整した。
なお、Mueller Hinton 寒天培地の代わりに、変法GAM寒天培地〔日水製薬〕を用いてササエキス含有寒天培地を作成し、同一の接種菌液を用いて、E.coliとMRSAを接種し、一夜嫌気性培養を実施し、MICを求めた。なお、この場合もpHは2NNaOHを用いて、6.7〜7.3に調整した。
接種菌液の調整と判定:
TSA寒天培地で24〜48時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Mueller Hinton broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度の菌液を調整した。 その10μlをMueller Hinton broth 1 mlに浮遊させ、その5μl をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。
35℃20時間好気環境下で培養後、発育の有無を肉眼で観察した。嫌気培養した平板については、一夜培養後の判定後、さらに大気環境下で一夜放置して、再増殖の有無の判定を行った。
結果
pH調整 (pH6.5〜7.3) の実験条件下で測定したササエキスのE. coli に対する最小発育阻止濃度(MIC)は、2〜3%に分布し、MIC50%は2%であった。また、MRSAに対するMICは、0.25〜0.5%に分布し、MIC50%は、0.5%であった。また、P. aeruginosaに対するMICは、全株1%であった。
【0128】
また、精度管理用菌株であるE. coli ATCC25922に対するMueller Hinton培地での中性環境、好気性培養という今回の実験条件下でのMICは2%、S. aureus ATCC25923に対するMICは、0.5%であった。
変法GAM寒天培地を用いて、嫌気性環境下で測定したササエキスのE. coli臨床分離株14株に対するMIC50%は8%で、S. aureus臨床分離株14株に対するMIC50%は3 %であった。精度管理用菌株に対する変法GAM寒天培地での中性環境、嫌気性環境でのMICは、E. coli ATCC25922に対して8%、S. aureus ATCC25923に対して3%であった。
考察
この試験例において、日本化学療法学会MIC測定標準法に可能な限り近づけたササエキスのMIC測定結果から、ササエキスはMRSAやP. aeruginosaに対して、ほぼ中性の環境で、いずれも1%以下のMICを示し、極めて強い抗菌作用があることを確認した。
【0129】
ある薬物の細菌に対するMICは、測定に使用する培地の成分やpH、血液など添加物の有無、接種菌量、培養環境など種々の実験条件で変動することは、よく知られている。本発明者らは、栄養学的に複雑な成分を必要とし、かつ遊離酸素の存在しない嫌気性環境でしか発育しない嫌気性菌である、Clostridium tetani, Clostridium perfringens, Propionibacterium acnes, Bacteroides fragilisなどを対象として、ササエキスのMICを検討してきた。これらの測定の際には、精度管理用菌株として、E. coli ATCC25922 とS. aureus ATCC25923を使用してきたが、ササエキスのこれらの精度管理用菌株に対する嫌気性環境下でのMICと、通性菌に対して本来使用される測定環境でのMICを同時に比較したことはなかった。今回その点を検討し、その差を明確にした。変法GAM寒天培地を感受性測定培地の基礎培地として、嫌気性環境で測定したササエキスのMICは、E. coli ATCC25922 に対して7%以上となり、Mueller Hinton培地で好気性培養した場合の2%に比較し、耐性側への大きなシフトが観察された。また、S. aureus ATCC25923に対しても嫌気性環境で測定したササエキスのMICは3%となり、Mueller Hinton培地で好気性培養した場合の0.5%から耐性側への大きなシフトが見られた。MRSA14株対するササエキスの嫌気性菌と同様の測定環境でのMIC90%は3%であった。嫌気培養でのS. aureusの増殖は、発育が抑制された露滴状の集落となることから、エンドポイントの判定が困難な場合があった。一度判定した平板をさらに一夜好気環境で放置し、露滴状の集落が再増殖するかどうかを確認する操作を行ったところ、発育陽性と判定したポイントで一夜培養しても再増殖が認められなかった例を3例経験したことから、ササエキスの嫌気性培養での抗菌力の測定の場合で, S. aureus ATCC 25923を精度管理用として露滴状集落が見られた場合には、再増殖能の有無を確認しておくなど、MICの決定の仕方についても、再考が必要であると考える。以上のことから、嫌気性菌と同様の条件で測定した通性菌のMICは6〜8倍耐性側にシフトすることが明らかとなった。この原因がMuller Hinton agarと変法GAM寒天の培地成分の相違によるものか、抗菌薬であるアミノ配糖体でみられるような嫌気培養と好気培養の相違によるものかは興味ある点であるが、Mueller Hinton agarを用いた好気培養と嫌気培養のMICの比較検討から、E. coli ATCC25922では、Mueller Hinton agarを用いた嫌気培養でのMICは、好気培養でのMICと同一であったが、S.aureus ATCC25923では、E. coli ATCC25922と同一実験条件であるにもかかわらず、嫌気培養でのMICが好気培養でのMICより4倍高いなど、菌種により異なる現象を確認した。この現象には、種々の要素が複合して関係しているものと考えられる。
【0130】
表18 ササエキスのEscherichia coli, Pseudomonas aeruginosa, Staphylococcus aureusに対するMIC分布

* 好気性:Mueller Hinton Agar、好気性培養
嫌気性:変法GAM寒天培地、嫌気性培養
P. aeruginosa の嫌気性培養は未実施
参考:
【0131】
表19 Mueller Hinton Agarを感受性測定用培地として日本化学療法学会標準法に準拠して測定したササエキスの Escherichia coli, Pseudomonas aeruginosa, Staphylococcus aureus 参考菌株3株に対するMICの比較

High: Mc Farland No.1の10μl,
Low: Mc Farland No1の100倍希釈液の10μl ,
(1): 嫌気培養では測定不能であったが、さらに好気性培養を継続して判定すると1%になる,
NT: 試験未実施
【0132】
表20 培地pHのMICに及ぼす影響

【0133】
表21変法GAM寒天培地、嫌気性培養, 24時間培養

変法GAM寒天培地、好気性培養, 24時間培養
【0134】
試験例13(細菌性膣症関連微生物に対する抗菌作用)
1.Prevotella bivia およびpigmented Prevotella spp. 株について
BV関連細菌に分類される細菌の中で、まずP. biviaおよびPigmented Prevotella spp.に対するササエキスの抗菌作用を検討した。
使用菌株:P. biviaの合計14株とPigmented Prevotella spp.(Prevotella intermedia、 Prevotella melaninogenica)9株を使用した。P. biviaは、1990年代前半に女性膣内から分離され、また、Pigmented Prevotella spp.は、2002年に各種臨床材料から分離され、当施設に保存されていた株である。MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。濃度は50(w/v) %の酸性 (pH5.0前後) の溶液である。希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。最終濃度が4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125 %になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。ササエキス液と寒天培地を1:9で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお2NNaOH水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH 7.0〜7.3) を実施した。
【0135】
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、10倍希釈の後、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、約104の細菌を含む。嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
【0136】
なお、本実験条件下で測定したササエキスのE. coli ATCC25922とS. aureus ATCC25923に対するMICは、ともに>5%であった。
結果
ササエキスは、0.5%で P. biviaの発育を、1%でpigmented Prevotella sppの発育を完全に阻止した。ササエキスのP. bivia 14株に対するMIC50%およびPigmented Prevotella spp.に対するMIC50%は、いずれも0.5%であった。
【0137】
表22 ササエキスのPrevotella bivia 14株およびpigmented Prevotella spp. 9株に対する抗菌作用

【0138】
考察
健常な女性の膣は嫌気性菌と好気性菌の宝庫である。女性産道の正常細菌叢には、膣内の清浄度を保つのに重要な役割を演じているLactobacillus spp. が最優勢に存在している。しかしながら、一方では日和見病原体として知られるPeptostreptococus anaerobius などの嫌気性グラム陽性球菌やPrevotella spp. (Prevotella melaninogenica、 Prevotella intermediaなど)、Bacteroides spp.などの嫌気性グラム陰性桿菌も低菌量で存在し、細菌性膣症とよばれる状況で異常に増殖することがわかっていて、Bacterial Vaginosis(細菌性膣症)関連微生物と称されている。細菌性膣症は、ミルク様で悪臭のある帯下を生じる疾患であり、STDに対する易感染性、早産、前期破水など周産期に見られる各種異常との関係、骨盤内炎症性疾患PIDへの進展との関係で論じられている。
【0139】
P. bivia およびpigmented Prevotella spp.は、細菌性膣症関連微生物の中でも、重症度あるいは難治性と関連する極めて重要な細菌種であることが知られている。
【0140】
今回の検討から、ササエキスは、これらのP. biviaおよびpigmented Prevotella spp. に対して、きわめて良好な抗菌作用を示すことが明らかになった。
【0141】
表23 産婦人科領域感染症の原因となる病原体一覧(疾患名、学名、通俗名)

* 嫌気性菌
【0142】
試験例14(細菌性膣症関連微生物に対する抗菌作用)
2.Gardnerella vaginalis 株について
Gardnerella vaginalisは健常な女性の膣からも検出されるが、その菌数は少ない。 G. vaginalis は Mycoplasma homminis、Peptostreptococcus anaerobius、Pigmented Prevotella spp.、Non-pigmented Prevotella spp.、Porphyromonas spp.などとともに、細菌性膣症の状態で異常に増殖するいわゆるBV関連微生物の範疇に入る細菌の一つである。しかも、産道感染症の原因菌としても極めて重要である。この試験では、G. vaginalisについて検討した。
材料と方法
使用菌株:G. vaginalisの合計11株を使用した。これらはNCTCまたはATCCから購入した菌株2株と臨床分離株9株からなる。臨床分離株は、1990年代前半に、本発明者らが女性膣内から分離し、当施設に保存していた株である。また、MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は、試験例7と同じである。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が8,7,6,5, 4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125 %になるようにササエキスを含有させたBrucella HK 血液寒天培地(極東製薬)を作製した。ササエキス液とBrucella HK 血液寒天培地を1:1または、1:9の割合で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、2N NaOH水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH 7.0〜7.3) を実施した。
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照培地での発育が塗抹部位全体に一様に見られるように設定した。
嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
なお、本実験条件下で測定したササエキスのE. coli ATCC25922とS. aureus ATCC25923に対するMICは、それぞれ、>8%、8%であった。
結果
ササエキスのG. vaginalis 11株に対するMICの範囲は6%から4%に分布し、MIC50%は6%であった。
【0143】
表24 ササエキスのGardnerella vaginalis 11株に対する抗菌作用

【0144】
考察
今回の検討から、ササエキスは、細菌性膣症関連微生物のひとつとして重要な通性嫌気性菌のG. vaginalisに対しては、6%の濃度で完全に発育を阻止することが明らかになった。BV関連微生物の嫌気性菌であるNon-pigmented Prevotella であるP. bivia やpigmented PrevotellaであるPrevotella melaninogenicaより抗菌力は弱いことが明らかとなった。本エキスは、8%の濃度でもLactobacillus spp.の多くの菌株の発育を阻止しないことが知られており、生体での使用に際しての濃度の設定に重要な成績が得られたと考えられる。
なお、一連の検討において、参考菌株であるE. coli やS. aureus のMICに実験条件により変動があることが明らかになっている。MICは、使用する感受性測定用培地の種類、接種菌量、培養条件などの因子により影響を受けるが、今回は初めて感受性測定培地としてBrucella HK 血液寒天培地を使用した。本培地でのMICは、変法GAM培地でのMICより酸性側にシフトする印象であった。

試験例15(細菌性膣症関連微生物に対する抗菌作用)
3.Finegoldia, Micromonas, Peptostreptococusについて
嫌気性球菌であるFinegoldia magna、Micromonas micros、Peptostreptococcus spp.は、Prevotella bivia、Pigmented Prevotella spp.、Porphyromonas spp.、Mycoplasma genitalium (hommnis)、Gardnerella vaginalisなどとともに、膣内乳酸菌の減少、膣内pHの低下、およびミルク様かつ悪臭(アミン臭)のある帯下を特徴とする細菌性膣症(BV)の状態で異常に増加する細菌性膣症関連微生物の仲間である。この試験例では、細菌性膣症関連細菌に分類される細菌のひとつである嫌気性球菌に対するササエキスの抗菌作用を検討した。
材料と方法
使用菌株:Peptostreptococcus anaerobius(5株)、 Peptostreptococcus asacccharolyticus(3株)、Finegoldia magna(7株)、 Micromonas micros(6株)の合計21株を使用した。MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。最終濃度が5,4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125 %になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。ササエキス液と寒天培地を1:9で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、2N NaOH水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH 7.0〜7.3) を実施した。
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、約106の細菌を含む。
嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、24時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
なお、本実験条件下で測定したササエキスのE. coli ATCC25922とS. aureus ATCC25923に対するMICは、ともに>=5%であった。
結果
ササエキスは、3%の濃度で M. micros, F. magna, P. anaerobius, P. asaccharolyticusの嫌気性球菌群21株の発育を完全に阻止した。ササエキスの嫌気性球菌に対するMIC50%は0.5%であった。
【0145】
表25 ササエキスの嫌気性球菌群に対する抗菌作用

【0146】
考察
細菌性膣症は、ミルク様で悪臭のある帯下を生じる疾患であり、性感染症(STD)に対する易感染性、早産、前期破水など周産期に見られる各種異常との関係、骨盤内炎症性疾患(PID)への進展との関係で論じられている。細菌性膣症では、健康時には膣内の清浄度を保つのに重要な役割を演じているLactobacillus spp. が著しく減少し、Prevotella spp. (P. melaninogenica、P. intermediaなど)、Bacteroides spp.などの嫌気性グラム陰性桿菌やP. anaerobius などの嫌気性グラム陽性球菌、さらにはG. vaginalisやMycoplasmaなどの微生物が異常に増殖することがわかっている。これらの細菌群は細菌性膣症関連微生物と称されている。
【0147】
先に、ササエキスが細菌性膣症関連微生物であるPrevotella spp. (P. bivia、 P. melaninogenica、 P. intermediaなど)の発育を2%という低い濃度で、Bacteroides fragilis groupやG. vaginalisの発育を、6%の濃度で阻止することを述べた。今回の検討から、ササエキスは嫌気性球菌群 に対しても、2%の濃度で全株の発育を阻止することが明らかとなった。

試験例16(細菌性膣症関連微生物に対する抗菌作用)
Mobiluncus spp. について
嫌気性グラム陽性桿菌であるMobiluncus spp.は、嫌気性無芽胞グラム陽性嫌気性桿菌で、Prevotella bivia 、Pigmented Prevotella spp.、Porphyromonas spp.、Mycoplasma genitalium (hommnis)、 Gardnerella vaginalisなどとともに、膣内乳酸菌の減少、膣内pHの低下、およびミルク様で悪臭(アミン臭)のある帯下を特徴とする細菌性膣症の状態で異常に増加する細菌性膣症関連微生物の仲間である。この試験例では、Mobiluncus spp. 対するササエキスの抗菌作用を検討した。
材料と方法
使用菌株:Mobiluncus spp.の12株を使用した。この中には、M. curtisii subsp. curtisii ATCC35242、M. curtisii subsp. holmessii ATCC25241、M.mullielis ATCC35240、ATCC35243 を含む。また、MIC精度管理用菌株として、Staphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。最終濃度が8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125 %になるようにササエキスを含有させたBrucella HK 血液寒天平板を作製した。血液は、凍結融解により溶血させた羊脱繊血(日生材)を使用し、培地に5%の割合で添加した。ササエキス液と寒天培地を1:1で混合し、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、2N NaOH水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH 7.0±0.3) を実施した。
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で72時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、約106の細菌を含む。
嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
【0148】
なお、pH7.0での本実験条件下で測定したササエキスのS. aureus ATCC25923に対するMICは8%であった。(対照培地での発育と比較し、著しく発育が阻止される濃度を観察すると4%であった。)
結果
表26に成績を示した。ササエキスは、4%で Mobiluncus spp. の発育を完全に阻止した。ササエキスのMobiluncus spp.に対するMIC50%は4%であった。
考察
細菌性膣症は、ミルク様で悪臭のある帯下を生じる疾患であり、STDに対する易感染性、早産、前期破水など周産期に見られる各種異常との関係、骨盤内炎症性疾患PIDへの進展との関係で論じられている。細菌性膣症では、健康時には膣内の清浄度を保つのに重要な役割を演じているLactobacillus spp. が著しく減少し、Prevotella spp. (P. melaninogenica、 P. intermediaなど)、Bacteroides spp.などの嫌気性グラム陰性桿菌や嫌気性グラム陽性桿菌であるMobiluncus spp. 、P. anaerobius などの嫌気性グラム陽性球菌、さらにはG. vaginalisやMycoplasmaなどの微生物が異常に増殖することがわかっている。これらの細菌群は細菌性膣症関連微生物と称されている。細菌性膣症関連微生物の中で、Mobiluncus spp.は、BV scoreが高い値をとる状態で検出率が高くなる菌種が、本発明者らの研究でも確認されている。
【0149】
先に、ササエキスが細菌性膣症関連微生物であるPrevotella spp. (P. bivia, P. melaninogenica、 P. intermediaなど)の発育を2%という低い濃度で、Bacteroides fragilis groupやG. vaginalisの発育を、6%の濃度で、さらには嫌気性球菌群 に対しても、全株を2%で発育を阻止することを述べた。この試験例では、Mobiluncus spp. について検討した。その結果、ササエキスは、4%の濃度で、これらの発育を阻止することが明らかとなった。
【0150】
表26 ササエキスのMobiluncus spp.に対する抗菌作用

【0151】
試験例17(ササエキスのBacteroides fragilis株に対する抗菌作用)
Bacteroides fragilisは人糞便中から分離される無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌で、褥創や肛門周囲膿瘍などを含む各種皮膚や皮下軟部組織感染症において、黄色ブドウ球菌(MRSA)、多薬剤耐性緑膿菌ととともに臨床上極めて重要な菌種である。この試験例では、ササエキスのB. fragilisについての抗菌作用を検討した。
使用菌株:B. fragilisの合計12株を使用した。これらの臨床分離は、2002年1月から7月までに各種化膿性感染症患者から分離され、当施設に保存されていた株である。MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1 %になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。10〜6 %までは、ササエキス液と2倍寒天培地を1:1で混合して、5〜1 %までは、ササエキス液と寒天培地を1:9で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、2N NaOH水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH6.6〜7.1) を実施した。
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、106cfu/mlの細菌数を含む。
【0152】
嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、1、2日間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
【0153】
なお、本実験条件下で測定したササエキスのE. coli ATCC25922とS. aureus ATCC25923に対するMICは、ともに6%であった。
結果:ササエキスのB. fragilis 12株に対するMICは4〜6%に分布した。MIC90%は、5%であった。
【0154】
表27 ササエキスのBacteroides fragilis group 12株に対する抗菌作用

【0155】
考察
Bacteroides fragilis group (特に、B. fragilis) は、嫌気性無芽胞グラム陰性嫌気性桿菌で、人の下部消化管粘膜に常在している。本菌群は、粘膜の破綻の際に、通常無菌の組織や臓器に侵入し、感染症を惹起する。各種化膿性感染症、特に横隔膜から下部の化膿性感染症から、最も高頻度に分離される嫌気性菌である。本菌は、 感染部位で、大腸菌などの通性桿菌、ぶどう球菌、腸球菌、Streptococcus milleri groupなどの通性、微好気性球菌やBacteroides以外の無芽胞嫌気性菌嫌気性菌などとともに存在している。すなわち複数菌感染症の構成菌として重要である。また、B. fragilisは、他の一部の通性菌と同様に、多くの抗菌薬に対し自然耐性であり、本菌種に抗菌力のある抗菌薬は、クリンダマイシン、セファマイシン、カルバペネムなどと比較的限られている。しかし、それらの数少ない抗菌薬に対しても獲得耐性化傾向にあり問題となっている。従って、B. fragilisが関与する感染症の治療には、より広域の抗菌薬が、または複数種の抗菌薬が長期にわたり使用される傾向がある。ところが、その使用方法によっては、本菌種はもとより、本菌種以外の細菌種の抗菌薬耐性化を増長する可能性があり、感染症治療上、極めて厄介な菌種ともいえる菌である。
【0156】
今回の検討から、ササエキスには、化膿性複数菌感染症の原因菌としてS. aureus, P. aeruginosa, E. coliとともに重要な無芽胞嫌気性菌嫌気性菌の代表的な菌群であるB. fragilis groupの細菌種に対しても、嫌気性条件下でのS. aureusやE. coli参考菌株に対する作用と少なくとも同程度の抗菌作用があることが明らかになった。

試験例18(骨盤内感染症)
健常な女性の膣は嫌気性菌と好気性菌の宝庫の一つである。女性産道の正常細菌叢には、嫌気性菌が好気性菌の10倍以上多く存在している。嫌気性グラム陽性球菌とBacteroides spp.(現在の分類ではPrevotella spp.とBacteroides spp.)である。嫌気性菌はSTD病原体が関係しない産道感染症のほとんどの患者から分離される。主要な嫌気性病原体は、Bacteroides fragilis, Prevotella bivia, Prevotella disiens, Prevotella melaninogenica, 嫌気性球菌、そしてClostridium spp.である。嫌気性菌は、卵管卵巣膿瘍、敗血症性流産、骨盤内膿瘍、子宮内膜炎、術後創部感染症、特に帝王切開術後創部感染症、などに関係している。これらの感染症は嫌気性菌と腸内細菌科の細菌との複数菌感染症であることが多いが、腸内細菌科の細菌やその他の通性菌が分離されない嫌気性菌だけによる感染症は腹腔内感染症の場合よりも多くみられる。また、子宮から悪臭ある膿汁や血液の排出があること、子宮のある下腹部全体のあるいは骨盤内の局所的な圧痛、持続する発熱や悪寒が特徴である。骨盤静脈の化膿性血栓性静脈炎が合併することがあり、反復性の敗血症性肺栓塞のエピソードを起こす原因となる。
【0157】
嫌気性菌は細菌性膣症(Bacterial Vaginosis)の病因に関係する因子であると考えられている。原因がいまだ明らかではない症候群は、あふれるような悪臭のある分泌物と膣内のGardnerella vaginalis、Prevotella spp.、Mobiluncus spp.、Peptostreptococcus spp.そしてmycoplasmasなどの細菌の異常な増加を特徴とする。嫌気性菌は骨盤内炎症性疾患(PID)の病因において重要な役割を演じていると考えられており、何人かの専門家は細菌性膣症とPIDへの進展との間の関係を示してきた。
【0158】
Actinomyces spp.が原因となる骨盤内感染症は、子宮内避妊道具の使用と関係がある感染症である。

試験例19(ササエキスのBifidobacterium spp.に対する抗菌作用)
抗菌力を有する物質の評価の際には、人の病原菌に対する作用とともに皮膚、粘膜に常在する有用あるいは日和見細菌に対する作用を知っておくことが極めて重要である。
【0159】
Bifidobacterium spp.は、Lactobacillus spp. と同様に、消化管内、膣内の常在細菌として知られ、呼吸器病原性があることが知られているBifidobacterium dentiumを除き、病原的意義が指摘されている菌種がない有用菌として知られている細菌である。そこで、Bifidobacterium spp. に対して、ササエキスがどの程度の抗菌作用を有するか、Bifidobacterium spp. の参考菌株を用いて検討を行った。
材料と方法
使用菌株:表28に示した施設保存の参考菌株を使用した。これらの菌株はATCC, JCMから購入し、当施設に保存されていた株である。なお、対照として、婦人科領域感染症および消化器感染症からもっとも高頻度に分離される嫌気性菌菌種の中からPrevotella bivia ATCC29303, Porphyromonas asaccharolytica ATCC25260, Bacteroides fragilis N-1を選んだ。 また、Escherichia coli ATC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も、同様の目的と感受性測定の精度管理用菌株として使用した。試験液は試験例7と同じである。溶液の希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:
抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 0.5%になるようにササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。10%〜6%までの高濃度領域については、それぞれ20%〜12%のササエキス液と2倍寒天培地を1:1で混合して作製し(最終pH5.3〜5.5)、5%〜0.5%までの低濃度の領域については, 50%〜5%のササエキス液と1倍寒天培地を1:9で混合して(最終pH5.5〜6.0)、ササエキス含有寒天培地を作製した。
接種菌液の調整:
Brucella HK 血液寒天培地で48時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Anaerobe broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度に調整した。 その10μl(接種量:106 cfu)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。対照菌株についても、TSA寒天培地上の集落を用い、Anaerobe broth中にMc Farland #1の濁度に調整し、その10μl(接種量:106 cfu)を画線塗抹法により接種した。なお、嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃18時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。

結果
pH無調整の酸性(pH5.3〜6.0)の実験条件下で測定したササエキスの最小発育阻止濃度は、表28に示した。Bifidobacterium spp. の5菌種5株に対しても、MICが4%であったB. bifidumの1株を除き、すべて7%以上の最小発育阻止濃度であった。なお、同時に測定したP. bivia ATCC29303、P. asaccharolytica ATCC25260に対する最小発育阻止濃度は、いずれも0.5%で、本方法により測定したAHSSの精度管理用菌株2株、E. coli ATC25922とS. aureus ATCC25923に対する最小発育阻止濃度ともに4%であった。
考察
ササエキスが6.25 %以下(多くは4 %程度) の濃度で、いくつかの病原性細菌の発育を阻止することが明らかとなってきた。ササエキスのこれら病原性細菌に対する抗菌力の他に、非病原性細菌に対する抗菌力についての情報を集積することも極めて重要と考え、今回の検討を実施した。
【0160】
Lactobacillus spp.やBifidobacterium sppの多くは、人の粘膜で生体防御の観点から、極めて重要な役割を演じている。本発明者らはすでに、ササエキスの過酸化水素産生Lactobacillus spp.であるL. crispatusとL. gasseri に対する抗菌作用は、MICが10 %以上と、同時に実施したE. coli、S. aureusなどの代表的な病原性通性菌に対するMIC 4 %やP. bivia, P. asaccharolytica、B. fragilisなどの代表的化膿性嫌気性菌に対するMIC 0.5〜4% に比し、極めて弱いことを報告した。
【0161】
今回、ササエキスは、消化管常在のBifidobacterium spp. の5菌種5株に対しても、Lactobacillus spp.に対すると同様に弱い抗菌力しか示さないことが明らかとなった。
【0162】
ササエキスは、膣内有用菌や消化管内有用菌に対して抗菌力が、日和見病原細菌より相対的に弱いことを強く示唆している。
【0163】
表28 ササエキスのBifidobacterium spp. groupに対する抗菌作用

*接種菌量:Mc Farland #1の濁度の菌液の1白金耳量を1cm画線塗抹
【0164】
試験例20(Candida albicans およびCandida glabrataに対する抗真菌作用)
この試験例では、“鵞口瘡”や女性の膣炎・外陰炎の原因となるCandida albicansおよびCandida glabrataに対する抗真菌作用を検討した。
使用菌株:Candida albicansおよびCandida glabrataの合計13株を使用した。これらは、2002年に各種臨床材料から分離され、当施設に保存されていた株である。MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922、Staphylococcus aureus ATCC25923およびPseudomonas aeruginosa ATCC27853を使用した。
試験液は試験例7と同じである。希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。最終濃度が8,7,6,5,4, 3,2,1%となるようにササエキスを含有させたMH寒天平板(Difco)を使用した。ササエキス液と寒天培地を1:9で混合して、所定の濃度のササエキス含有寒天培地を作製した。なお、2N NaOH水溶液または10%塩化水素水溶液を使用して、培地pHの調整 (pH 7.0前後とpH5.0前後の2種類)を実施した。
マイコセル寒天培地(BD)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、MH broth (Difco) 中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、その1白金耳(10μl)をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、約106の細菌を含む。
35℃で、24時間培養後、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。
なお、本実験条件下で測定したササエキスのE. coli ATCC25922とS. aureus ATCC25923およびP. aeruginosa ATCC27853 に対する1日後でのMICは、pH7で、それぞれ2、<=1、 2 であり、pH5では、すべて<=1であった。また、さらに3日室温後でのMICは、pH7で、それぞれ3、<=1、3 であり、pH5では、2、<=1、<=1であった。
結果
表にpH5とpH7の環境で、1日後、および3日後に判定したササエキスのCandida spp.に対するMICの分布を示した。pH5で、24時間判定で、ササエキス5%の濃度で、C. albicans 8株とC. glabrata4株のすべての発育を阻止した。3日後の判定では、全株の発育阻止には8%が必要であった。
pH7で、24時間判定で、ササエキス5%の濃度で、C. albicans全株の発育阻止を示した。C. glabrataに対するMICは判定不能であった。3日後の判定では、C. glabrataを含め全株の発育阻止には8%以上が必要であった。
考察
女性の膣炎には、原虫によるトリコモナス膣炎、真菌によるCandida性膣炎もの、および細菌による細菌性膣症(=非特異性膣炎)が知られている。膣炎をおこすCandida spp.は、外陰炎の原因ともなる。Candida性膣炎は、他の膣炎と異なり、チーズ状の帯下が特徴で、きわめて掻痒感の強い疾患である。治療には抗真菌薬が投与される。
今回の検討から、ササエキスは酵母状真菌に対して発育阻止効果があることが確認された。酸性下で1日後に測定したMICは、5%から3%に分布した。また、pH調整後中性下で測定したMICは、5%から4%に分布した。しかしながら、さらに3日間の室温放置後に再度MICを判定したところ、ササエキスのCandida spp.に対するpH5.0でのMICは、8%の1株を除き12株が5〜3%の範囲から7〜4%の範囲と耐性側にシフトし、pH7.0でのMICは、13株の全株が5〜4%の範囲から8%以上にシフトした。このことから、1日後に決定したMICあるいはそれ以上の濃度でのササエキス真菌に対する作用が静菌的であることを示しており、殺菌にはより高濃度が必要であることを示唆した。また、C.glabrataは、中性環境で37℃で1日培養後には充分な発育が認められなかったが、その後3日室温に放置した時、充分な発育が認められ、MICの判定が可能となった。酸性に調整したMueller Hinton培地では、37℃1日でも充分な発育が見られ、MICの判定が可能であった。
Mueller Hinton培地を感受性測定用培地として用いた本実験では、ササエキスのCandida spp.に対するMICは7〜4%の濃度にあり、抗真菌作用を示すことが明らかとなった。そのMICは、中性環境で、酸性環境より1管程度低い値を示した。さらに、中性条件で1日後で発育を阻止していたかなり高い濃度でも、その後の室温放置によりCandida spp.の発育が観察され、その作用は静菌的であることが知られた。酸性条件下でも、1日後で発育を阻止していた濃度で、その後Candida spp.の発育が観察されたが、その程度は中性環境で観察されたより軽度であった。すなわち、本エキスは、酸性条件下で、Candida spp.に対して、中性環境下より、強い殺菌作用を示すことが明らかとなった。ササエキスを臨床応用する場合の濃度の設定には、本エキスの毒性に関する情報に加え、この点も充分考慮して、使用濃度と使用回数を設定する必要があると考えられた。
以上のことから、抗菌作用に加え、抗真菌作用を有するササエキスはCandida膣炎および外陰炎およびその他のCandida sppが関与する病態の治療薬として、充分使用できることが強く示唆された。
【0165】
また、本エキスがPrevotella spp.、Gardnerella vaginalisなど細菌性膣症に関係する細菌に強いあるいは中等度の抗菌作用を示すことや、その他の細菌学的な特性があることを本発明者らが確認していることから、細菌性膣症の治療薬としての有用性が高いと考えられるが、その場合、抗真菌作用を合わせもつ本エキスは、当然ながら、現在細菌性膣症に使用されるクロラムフェニコールのように抗真菌作用を全く示さない抗菌薬の使用後に副現象として生じることが報告されているCandida spp.による菌交代現象あるいは交代症の発生を防止できる特性を有していることが容易に予想される。
【0166】
表29 ササエキスのCandida albicans およびCandida glaburataに対する抗真菌作用
感受性測定用培地のpH(5.0、7.0) および判定日数(1日、3日)の影響

* 培地pH
** 判定日数
*エキス不含培地(pH7.0)での発育が悪いため判定を保留
【0167】
試験例21(Acne vulgaris患者病巣由来のStaphylococcus spp.に対する抗菌作用)
ササエキスは、にきび(Acne vulgaris)の病因の一つとして重要なPropionibacterium acnesを6.25%の濃度で、完全に発育を抑制する。また、ササエキスは、化膿性球菌として重要なStaphylococcus aureus(MRSA) に対しても、1%以下の濃度で完全に発育を抑制をすることが明らかとなった。本発明者らは、にきびの患者の病巣から分離されたにきびの増悪因子として重要なStaphylococcus epidermidis 13株とStaphylococcus cohnii 1株のStaphylococcus spp. 合計14株を使用して、ササエキスの抗菌作用を寒天平板希釈法により検討した。
材料と方法
使用菌株:Staphylococcus epidermidis 13株とStaphylococcus cohnii 1株の合計14株を用いた。また、Escherichia coli ATCC25922, S. aureus ATCC25923を感受性測定の精度管理用菌株として使用した。表30に使用した菌株の菌種と抗菌薬感受性パターンを示した。
【0168】
表30 にきび病巣由来のStaphylococus spp.の抗菌薬耐性パターン

【0169】
試験液は試験例7と同じである。溶液の希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:
抗菌薬の通性菌に対する抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。可能な限り、日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が 5, 4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125%になるようにササエキスを含有させたMuellar Hinton 寒天平板 (Difco) を作製した。50%〜1.25%のササエキス液と1倍濃度のMueller Hinton寒天培地を1:9で混合して、ササエキス含有寒天培地を作製した。2NのNaOH水で培地pH6.1〜7.1に調整した。S. aureus ATCC 25922 およびE. coli ATCC25922に対するMICは2%であった。
接種菌液の調整と判定:
TSA寒天培地で24〜48時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Mueller Hinton broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度の菌液を調整した。その10μlをMueller Hinton broth 1 mlに浮遊させ、その10μl をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。35℃20時間好気環境下で培養後、発育の有無を肉眼で観察した。
結果
Staphylococcus epidermidis 13株とStaphylococcus cohnii 1株のStaphylococcus spp. 合計14株を使用して、ササエキスの抗菌作用を寒天平板希釈法により検討した。その結果、ササエキスは、1%の濃度で、これらの発育を完全に抑制した。14株については、抗菌薬3薬剤(テトラサイクリン、クリンダマシシン、オフロキサシン)についての感受性が試験されており、テトラサイクリン1剤耐性の菌株が2株、クリンダマイシン1剤耐性株が1株、テトラサイクリンとクリンダマイシンの2剤耐性の菌株が2株、オフロキサシン1剤耐性株が1株含まれていたが、これらの耐性菌をササエキスは、一様に1%以下で発育を阻止した。
【0170】
表31 ササエキスのStaphylococcus spp. 14株に対する抗菌作用

【0171】
考察
本発明者らは、にきびの患者から分離された、にきびの増悪因子として重要なStaphylococcus epidermidis 13株とStaphylococcus cohnii 1株のStaphylococcus spp. 合計14株のササエキスに対する感受性を寒天平板希釈法により検討した。その結果、ササエキスは、2%の濃度で、これらの発育を完全に抑制した。抗菌薬3薬剤(テトラサイクリン、クリンダマシシン、オフロキサシン)についての感受性が試験されたこれら14株には、テトラサイクリン1剤耐性の菌株が2株、クリンダマイシン1剤耐性株が1株、テトラサイクリンとクリンダマイシンの2剤耐性の菌株が2株、オフロキサシン1剤耐性株が1株含まれていたが、ササエキスは、これらの耐性菌を一様に、2%以下の濃度で発育阻止した。
【0172】
以上の事実は、ササエキスP.acnesの発育を抑制できる6.25%の濃度であれば、増悪因子のStaphylococcus spp.に対しても充分な効果があり、にきびの治療薬として、極めて有用であることを示唆する。

試験例22(Acne vulgaris患者病巣由来のStaphylococcus spp.に対する抗菌作用)
この試験例では、にきびの患者の病巣から分離されたStaphylococcus epidermidis spp. 合計44株を使用して、ササエキスの抗菌作用を寒天平板希釈法により検討した。
使用菌株:Staphylococcus合計44株を用いた。また、Escherichia coli ATCC25922, S. aureus ATCC25923を感受性測定の精度管理用菌株として使用した。試験液は試験例7と同じである。溶液の希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:
抗菌薬の通性菌に対する抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。可能な限り、日本化学療法学会標準法に準じた。最終濃度が 5, 4, 3, 2, 1, 0.5, 0.25, 0.125%になるようにササエキスを含有させたMuellar Hinton 寒天平板 (Difco) を作製した。2NのNaOH水で、培地pH6.1~7.1に調整した。S. aureus ATCC 25922 およびE. coli ATCC25922に対するMICは2%であった。
接種菌液の調整と判定:
TSA寒天培地で24~48時間培養して得た被験菌株の集落を滅菌綿棒でかきとり、Mueller Hinton broth (Difco)中に浮遊させ、Mc Farland No 1の濁度の菌液を調整した。 その10μlをMueller Hinton broth 1 mlに浮遊させ、その10μl をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。35℃20時間好気環境下で培養後、発育の有無を肉眼で観察した。
結果を表32にまとめた。
【0173】
表32 Staphylococcus spp.(44株)のササエキスおよび各種抗菌薬に対する感受性

1) Staphylococcus epidermidis 34, S.capitis 2, S.aureus 2, S.cohnii 1, S.hominis 1, S.haemolyticus 1, Staphylococcus sp. 3
【0174】
試験例23(膣炎および細菌性膣症関連微生物に対する抗菌作用)
試験液は試験例7と同じである。50(w/v)%の茶褐色で、芳香を有するやや粘性のある酸性の液体である。
抗菌力の試験法:嫌気性菌の抗菌薬の抗菌力測定法にならい、変法GAM寒天培地またはBrucella HK寒天培地を測定用基礎培地として、最小発育阻止濃度(MIC)を%で求めた。
供試菌株:Candida spp.とPrevotella bivia (14株)、Pigmened Prevotella spp.(9株)、Finegoldia, Micromonas, Peptostreptococcusの嫌気性球菌群(21株)、Mobiluncus spp.(12株)、Gardnerella vaginalis(11株) を用いた。
成績とまとめ
BV関連微生物の通性嫌気性菌と嫌気性菌およびCandida spp.に対するササエキスの抗菌力の程度、が明らかとなった。Candida spp.を3〜5%で、G. vaginalisの発育を6%の濃度で、Mobiluncus spp.を4%の濃度で、嫌気性球菌群を3%の濃度で、Prevotella spp.を1%の濃度で抑制した。

試験例24(ササエキスの偏性嫌気性菌に対する抗菌スペクトル)
嫌気性菌参考菌株を用いたpH6.0とpH7.0での検討
この試験例では、ササエキスの抗菌スペクトルを明らかにする目的で、一部の気難しい微好気性菌、通性菌(Streptococcus, Lactobacillus, Actinomyces, Sutterella)を含む教室保存の偏性嫌気性菌の多数株を使用して、ササエキスの抗菌作用を中性(pH7.0)と弱酸性(pH6.0)付近で検討した。
使用菌株:当施設に保存されていた参考菌株を用いた〔表33〜36〕。MIC精度管理用菌株として、Escherichia coli ATCC25922とStaphylococcus aureus ATCC25923も使用した。試験液は試験例7と同じである。希釈には滅菌蒸留水を使用した。
抗菌試験:抗菌薬の抗菌力測定法に用いられる寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度を測定した。最終濃度が6.4, 3.2, 1.6. 0.8, 0.4, 0.2, 0.1%ササエキスを含有させた変法GAM寒天平板(日水製薬)を作製した。なお、2N水酸化ナトリウム水溶液と10%塩酸水を使用して、培地pHの調整を実施し、その目標をpH6.0とpH7.0とした。
Brucella HK血液寒天培地(極東製薬)で48時間培養して得た被験菌株の集落を使用して、Anaerobe Broth MIC (Difco)中にMcFarland#1の濁度の菌液を調整し、10倍希釈の後、その1白金耳をササエキス含有平板系列に画線塗抹法により接種した。本実験条件下では、1白金耳には、約104の細菌を含む。
嫌気ワークステーション(グンゼ産業)中で、35℃で、2日間培養後(Clostridiumでは、1日培養後)、発育の有無を肉眼で観察した。発育が認められた場合(+)と判定した。結果を表33〜36に示す。
【0175】
表33 1)嫌気性球菌(Peptostreptococcus, Staphylococcus, Finegoldia, Micromonas, Atopobium, Gemella)と微好気性菌(Streptococcus)および嫌気性グラム陽性桿菌(Actinomyces, Eubacterium, Propionibacterium, Bifidobacterium)に対する抗菌力

接種菌量:108/ml 培養時間:48時間判定
備考:
Peptostreptococcus anaerobius ATCC27337, Peptostreptococcus asacchrolyticus WAL3218, Peptostreptococccus indolicus GAI0915, Peptostreptococcus prevotii ATCC9321, Micromonas micros VPI-5464-1, Finegoldia magna ATCC29328, Staphylococcus saccharolyticus ATCC14953, Atopobium parvulum VPI0546, Bifidobacterium bifidum JCM1255 は、pH6.0に発育せず。
【0176】
表34 乳酸桿菌(Lactobacillus)および嫌気性グラム陰性桿菌(Bacteroides)に対する抗菌作用

接種菌量:107/ml 培養時間:35℃48時間判定
【0177】
表35 嫌気性グラム陰性桿菌(Bacteroides, Prevotella, Porphyromonas, Fusobacterium, Bilophila, Desulfovibrio)、微好気性菌(Campylobacter, Sutterella, Capnocytophaga)、および 嫌気性グラム陰性球菌(Veillonella)に対する抗菌作用

接種菌量:107/ml 培養時間:35℃48時間
備考:
Prevotella heparinolytica ATCC35895, Porphyromonas asaccharolytica ATCC25260, Porphyromonas gingivalis ATCC33277, Bilophila wadsworthia WAL7959, Desulfovibrio piger DSM749は、pH6.0のエキス不含の対照培地で発育しなかった。
【0178】
表36 有芽胞嫌気性菌(Clostridium)に対する抗菌力

* Clostridium septicum, Clostridium sordellii, Clostridium perfringensは、ガス壊疽菌群の仲間に属する。
接種菌量:107/ml 培養:35℃24時間判定
まとめ
ササエキスの嫌気性菌群に対する抗菌スペクトルの概要が明らかになった。ササエキスに対するMICが3%以下の場合に強い抗菌力、4%〜6%の場合に、中等度の抗菌力、そして7%以上の場合に弱い抗菌力を示すと仮定した場合には、以下のように記述できる。
【0179】
ササエキスは、無芽胞嫌気性グラム陽性球菌(Finegoldia, Micromonas, Peptostreptococcus, Atopobium, Gemella)に強い抗菌力を示した。しかしながら、微好気性菌の anginosus groupには弱い抗菌力しか示さなかった。
【0180】
無芽胞グラム陽性嫌気性菌には、Propionibacterium には中等度の、Actinomyces, Bifidobacterum, Lactobacillusには弱い抗菌力を示した。無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌には、Prevotella, Porphyromonas, Bilophila, Desulfovivrio、Fusobacteriumには強い抗菌作用を、Bacteroides, Sutterellaには、中等度の抗菌作用を示した。嫌気性グラム陰性球菌(Veillonella)には強い抗菌作用を示した。Clostridiumには、中等度の抗菌作用を示したC. sordelliiを除くすべてに強い抗菌作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の抗菌剤は、破傷風菌、カンジダ菌(例えば、Candida albicans、Candida glabrata)、プロピオニバクテリウムアクネス属菌、ガス壊疽菌、各種耐性菌(例えば、Methicillin resistant Staphylococcus aureus)、膣炎および細菌性膣症関連微生物(例えば、Finegoldia, Micromonas, Peptostreptococus)等には強い抗菌作用を、Actinomyces, Bifidobacterum, Lactobacillus等には弱い抗菌作用を示し、また、ヘルペスウイルス等のウイルスに対する抗ウイルス作用を示し、抗菌性インキ、抗菌性塗料、抗菌性日本酒、抗菌性接着剤、抗菌性飲料、抗菌性食品、抗菌性調味料、動植物用抗菌剤、防腐剤、農業用殺菌剤、農薬等として有用である。特にササエキスに加え、有機酸(例えば、リンゴ酸)を含有する本発明の抗菌剤の抗菌作用は特に顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ササエキスを含有する抗破傷風菌剤。
【請求項2】
ササエキスを含有する抗カビ剤。
【請求項3】
さらに有機酸を含有する請求項2記載の抗カビ剤。
【請求項4】
カビがカンジダである請求項3記載の抗カビ剤。
【請求項5】
ササエキスを含有する抗ウイルス剤。
【請求項6】
ササタンニンを含有する抗菌剤。
【請求項7】
黄色ブドウ球菌、プロピオニバクテリウム、大腸菌に対する抗菌剤である請求項6記載の抗菌剤。
【請求項8】
MRSAに対する抗菌剤である請求項6記載の抗菌剤。
【請求項9】
プロピオニバクテリウムアクネスに対する抗菌剤である請求項6記載の抗菌剤。
【請求項10】
ササタンニンを含有するニキビ治療剤。
【請求項11】
ササエキス及び有機酸を含有する抗菌性組成物。
【請求項12】
インキ、塗料、食品添加物、飲料、調味料、ペットフード、プラスチック成形品、又は接着剤である請求項11記載の抗菌性組成物。
【請求項13】
ササエキスを含有するガス壊疽菌に対する抗菌剤。
【請求項14】
ガス壊疽菌がクロストリジウム属菌である請求項13記載の抗菌剤。
【請求項15】
ササエキスを含有する無芽胞嫌気性グラム陽性球菌に対する抗菌剤。
【請求項16】
無芽胞嫌気性グラム陽性球菌がFinegoldia, Micromonas, Peptostreptococcus, Atopobium, 又はGemellaである請求項15記載の抗菌剤。
【請求項17】
ササエキスを含有する無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌に対する抗菌剤。
【請求項18】
無芽胞嫌気性グラム陰性桿菌がPrevotella, Porphyromonas, Bilophila, Desulfovivrio、又はFusobacteriumである請求項17記載の抗菌剤。
【請求項19】
ササエキスを含有する膣炎および細菌性膣症関連微生物に対する抗菌剤。
【請求項20】
さらに有機酸を含有する請求項13〜19のいずれか1項記載の抗菌剤。
【請求項21】
ササエキスを含有する調味料。
【請求項22】
ササエキスを含有する食塩である請求項21記載の調味料。
【請求項23】
さらに有機酸を含有する請求項21又は22記載の調味料。
【請求項24】
ササエキスを含有する農薬。
【請求項25】
さらに有機酸を含有する請求項24記載の農薬。
【請求項26】
ササエキスを含有する農業用殺菌剤。
【請求項27】
さらに有機酸を含有する請求項26記載の農業用殺菌剤。
【請求項28】
ササエキスを含有する防腐剤。
【請求項29】
さらに有機酸を含有する請求項28記載の防腐剤。

【公開番号】特開2010−209066(P2010−209066A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49140(P2010−49140)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2004−512779(P2004−512779)の分割
【原出願日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【出願人】(503021250)株式会社鳳凰堂 (7)
【Fターム(参考)】