説明

抗菌剤

【課題】 抗菌効果に優れ、食品分野で好適に利用される抗菌剤を提供すること。
【解決手段】 本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる。好ましくは粉末状である。本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩、乳酸、および乳酸ナトリウムをそれぞれ単独で用いた場合には得られない相乗的な抗菌効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品分野で利用される抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の日持ち向上を目的として、種々の化合物または材料が利用されている。例えば、特許文献1では、キトサンおよびチアミンラウリル硫酸塩が抗菌剤として用いられている。これらの抗菌剤は、水に難溶性であるため、乳酸、酢酸ナトリウム、およびエチルアルコールを加えて可溶化し、水溶液の形態として用いられている。
【0003】
一般に、抗菌剤を食品に添加する場合、より高い安全性が求められるため、使用できる種類が制限される。加えて、抗菌剤の中には、独特の味および臭いを有するために、食品への添加量が制限されることにより十分な抗菌効果が得られない場合もある。特に、上記チアミンラウリル硫酸塩は、安全性が高い食品用の日持ち向上剤であるが、独特のビタミン味およびビタミン臭を有するため、食品の味および香りに影響を与える。そのため、食品の種類によっては添加量が制限される、さらには使用自体が制限されるという問題がある。さらに、チアミンラウリル硫酸塩などの抗菌剤を可溶化させる場合は、使用される溶媒などが食品の風味に影響を与える場合がある。例えば、上述の特許文献1の組成物は、アルコール臭および酢酸臭を有すること、および溶媒のアルコールの揮発性が高いことによってチアミンラウリル硫酸塩のビタミン臭をさらに誘発してしまうことなどから、食品の風味に影響を与える。
【0004】
従来の抗菌剤以外にも、優れた抗菌効果を有し、かつ食品の味に影響を与えない食品用の抗菌剤が望まれている。
【特許文献1】特開平11−206356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食品の風味にほとんど影響を与えず、かつ抗菌効果に優れた抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、抗菌効果に優れた抗菌剤について鋭意検討した結果、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとを組み合わせることによって、それぞれ単独で用いた場合には得られない相乗的な抗菌効果を発揮することを見出した。さらにこの抗菌剤を食品に用いた場合に、食品の風味にほとんど影響を与えないことを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる。
【0008】
好ましい実施態様においては、上記抗菌剤は、粉末状である。
【0009】
好ましい実施態様においては、上記抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、粉末状の乳酸と、粉末状の乳酸ナトリウムとの混合物である。
【0010】
好ましい実施態様においては、上記抗菌剤は、液状である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のチアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩、乳酸、および乳酸ナトリウムをそれぞれ単独で用いた場合には得られない相乗的な抗菌効果を有する。本発明の抗菌剤は、食品用の抗菌剤などとして利用され、得られる食品の風味にほとんど影響を与えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる。以下、本発明に用いられる各成分、および抗菌剤について説明する。
【0013】
本発明の抗菌剤の必須成分の一つは、チアミンラウリル硫酸塩である。チアミンラウリル硫酸塩は、水に難溶な白色粉末であり、湯、アルコール、酢酸などに溶解する。酸性、中性、およびアルカリ性溶液中においても、他のビタミンB塩類に比べて非常に安定である。
【0014】
本発明の抗菌剤のもう一つの必須成分は、乳酸または乳酸ナトリウムである。乳酸は、発酵法、化学法などの当業者が通常用いる生成方法によって得られる乳酸であればよく、特に制限されない。D−乳酸、L−乳酸、およびDL−乳酸のいずれの乳酸も用いることができる。乳酸の形態についても特に制限されない。液状および粉末状のいずれの形態であってもよい。なお、粉末状である場合、粉末の安定化のために、本発明の効果を損なわない程度に当業者が通常用いる助剤が含まれ得る。このような助剤としては、例えば、乳酸カルシウム、二酸化珪素、食物繊維、およびデキストリンが挙げられる。好ましくは乳酸カルシウムである。粉末状の乳酸は、例えば、ピューラック・ジャパン株式会社などにより市販されている。
【0015】
乳酸ナトリウムは、例えば、上記乳酸を水酸化ナトリウム溶液に溶解することによって生成する。乳酸ナトリウムの形態についても特に制限されない。液状および粉末状のいずれの形態であってもよい。粉末状の場合は、粉末乳酸と同様、上記助剤が含まれ得る。好ましくは二酸化珪素である。粉末状の乳酸ナトリウムは、例えば、ピューラック・ジャパン株式会社、株式会社武蔵野化学研究所などにより市販されている。
【0016】
本発明の抗菌剤は、上記チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる。すなわち、チアミンラウリル硫酸塩と乳酸とからなるか、チアミンラウリル硫酸塩と乳酸ナトリウムとからなるか、あるいはチアミンラウリル硫酸塩と、乳酸と、乳酸ナトリウムとからなる。本発明の抗菌剤は、粉状、液状などであり得る。優れた抗菌効果を有する点および食品への味覚の影響が少ない点から、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸ナトリウムとからなる抗菌剤、あるいはチアミンラウリル硫酸塩と、乳酸と、乳酸ナトリウムとからなる抗菌剤が好適である。
【0017】
本発明の抗菌剤の各成分の割合は、抗菌剤の形態などに応じて適宜設定すればよく、特に制限されない。例えば、粉末状の抗菌剤の場合、チアミンラウリル硫酸塩1質量部に対して、乳酸および/または乳酸ナトリウムが好ましくは1質量部〜1000質量部、より好ましくは10質量部〜200質量部の割合となるように設定される。さらに、上記粉末状の抗菌剤がチアミンラウリル硫酸塩と、乳酸と、乳酸ナトリウムとからなる場合、乳酸と乳酸ナトリウムとの割合が1:1〜1:500の質量比となることが好ましい。
【0018】
本発明の抗菌剤の調製方法は、特に制限されない。例えば、チアミンラウリル硫酸塩と、粉末状の乳酸および/または粉末状の乳酸ナトリウムとをそのまま混合する、あるいはチアミンラウリル硫酸塩を、乳酸溶液および/または乳酸ナトリウム溶液に溶解させるもしくは均一に分散させることによって調製される。得られる溶液または分散液は、さらに必要に応じて、噴霧乾燥、凍結乾燥などの当業者が通常用いる乾燥方法を用いて粉末化され得る。なお、本発明の抗菌剤がチアミンラウリル硫酸塩、乳酸、および乳酸ナトリウムからなる場合、各成分の混合順序は特に制限されない。例えば、粉末状の抗菌剤を得る場合、チアミンラウリル硫酸塩に、粉末状の乳酸または粉末状の乳酸ナトリウムを順次混合してもよいし、予め粉末状の乳酸および粉末状の乳酸ナトリウムの混合物を調製し、この混合物を、チアミンラウリル硫酸塩と混合してもよい。なお、本発明の抗菌剤は、必要に応じてさらに当業者が通常用いる食品添加物と混合してもよい。
【0019】
本発明の抗菌剤は、目的に応じて、種々の食品などに使用される。このような食品などの形態は、特に制限されず、固形状、ペースト状、油状、液状などであり得る。固形状の食品としては、ハンバーグ、卵焼き、水練り製品(ちくわ、かまぼこなど)、畜肉加工製品(ハム、ソーセージなど)、麺類(うどん、そば、中華麺など)などが挙げられる。ペースト状の食品としては、カスタードクリーム、ホワイトソースなどが挙げられる。油状の食品としては、ドレッシングソースなどが挙げられる。液状の食品としては、たれ、調味液などが挙げられる。本発明の抗菌剤の添加量は、特に制限されないが、好ましくは食品中に0.1〜3質量%となるように添加される。
【0020】
本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩、乳酸、および乳酸ナトリウムをそれぞれ単独で用いた場合には得られない相乗的な抗菌効果を発揮する。この抗菌剤は、種々の微生物に対して優れた抗菌効果を発揮する。例えば、細菌(Escherichia coli、Bacillus cereusなど)、酵母(Hansenula anomala、Saccharomyces cerevisiaeなど)、およびカビ(Aspergillus niger、Penicillium chrysogenumなど)に対して特に有効である。本発明の抗菌剤は、さらに用いる食品の風味にほとんど影響を与えない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、w/w%は、質量/質量%を示す。
【0022】
(実施例1:チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸ナトリウムとの併用による抗菌効果の検討)
(1.1)Escherichia coliに対する抗菌効果
滅菌済みの寒天培地に、チアミンラウリル硫酸塩を最終濃度がそれぞれ0、25、50、100、150、200、300、500、750、1000、または1500ppmとなるように添加して混合し、pHを塩酸で5.0に調整して試験用寒天平板培地を作成した。これとは別に、pHをそれぞれ5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、または9.0に調整したこと以外は、上記と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩を前記の種々の濃度で含む各pHの試験用寒天平板培地を種々作成した(これらをまとめて、チアミン単独培地という)。なお、pHの調整には、塩酸または水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
【0023】
上記とは別に、滅菌済みの寒天培地にさらに発酵乳酸NaパウダーS96(粉末状乳酸ナトリウム、ピューラック・ジャパン株式会社)を添加したこと以外は、上記と同様に操作して、上記チアミン単独培地中に乳酸ナトリウムとして1w/w%または3w/w%含有されるような試験用寒天平板培地を種々作成した(これらをまとめて、乳酸ナトリウム併用培地という)。
【0024】
次いで、上記各培地(チアミン単独培地および乳酸ナトリウム併用培地(1w/w%または3w/w%))に、予め液体培地で培養したEscherichia coliの培養液をE. coliが1×10cell相当量となるように塗沫して接種し、35℃にて48時間保持した。保持後、チアミン単独培地、乳酸ナトリウム併用培地(乳酸ナトリウム1w/w%)、または乳酸ナトリウム併用培地(乳酸ナトリウム3w/w%)において、各々のpHごとに、菌の生育のない培地中のチアミンラウリル硫酸塩の最低濃度を決定し、この濃度を菌の最小発育阻止濃度(MIC)とした。MICの値が低いほど、菌に対する抗菌効果は高い。結果を表1に示す。
【0025】
なお、上記培地として、発酵乳酸NaパウダーS96を、乳酸ナトリウムとして0、1、3、および5w/w%の割合で含む寒天平板培地(乳酸ナトリウム単独培地)を用いたこと、および菌の最小発育阻止濃度(MIC)を乳酸ナトリウムの最低濃度としたこと以外は、上記と同様に操作して、乳酸ナトリウム単独でのE. coliに対する抗菌効果についても評価した。結果を表2に示す。
【0026】
(1.2)〜(1.6)Bacillus cereus、Hansenula anomala、Saccharomyces cerevisiae、Aspergillus niger、またはPenicillium chrysogenumに対する抗菌効果
E. coliの代わりに、Bacillus cereusを用いたこと以外は、上記(1.1)と同様に操作して、抗菌効果を評価した(1.2)。また、Hansenula anomala(1.3)、Saccharomyces cerevisiae(1.4)、Aspergillus niger(1.5)、またはPenicillium chrysogenum(1.6)を用いたことおよび培養条件を25℃、120時間としたこと以外は、上記(1.1)と同様に操作して、抗菌効果を評価した。チアミン単独培地を用いた場合または乳酸ナトリウム併用培地を用いた場合のチアミンラウリル硫酸塩のMICを表1に、乳酸ナトリウム単独培地を用いた場合の乳酸ナトリウムのMICを表2にそれぞれ示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1に示すように、チアミン単独培地(乳酸ナトリウム0w/w%)を用いた場合は、各微生物に対するチアミンラウリル硫酸塩のMICは、pHによって異なるが、25ppm〜1500ppmであった。例えば、E. coliにおいては、pH7.5、8.0、および8.5のチアミン単独培地において、チアミンラウリル硫酸塩のMICは200ppmであった。すなわちこのpH範囲において、E. coliに対して抗菌効果を発揮するためには、チアミンラウリル硫酸塩単独で少なくとも200ppm必要であった。
【0030】
また、表2に示すように、例えば、上記と同様のpHの範囲において、乳酸ナトリウム単独でE. coliに対する抗菌効果を発揮するためには、乳酸ナトリウムが5w/w%以上必要であった。
【0031】
表1および表2の結果から、チアミンラウリル硫酸塩および乳酸ナトリウムのそれぞれを単独で用いた場合には抗菌効果が発揮されない低濃度においても、これらを併用することによって、優れた抗菌効果が得られることがわかる。例えば、表1の結果から、E. coliに対して乳酸ナトリウム併用培地を用いた場合、pH7.5〜8.5の範囲においては、乳酸ナトリウム1w/w%とチアミンラウリル硫酸塩100ppmとの併用により、E. coliの生育が抑制され、あるいは乳酸ナトリウム3w/w%とチアミンラウリル硫酸塩50ppmとの併用により、E. coliの生育が抑制されることが示された。上述のように、上記pH範囲において抗菌効果を示すためには、チアミンラウリル硫酸塩単独では200ppm、および乳酸ナトリウム単独では5w/w%以上必要であることを考慮すると、これらよりも低濃度のチアミンラウリル硫酸塩および乳酸ナトリウムを併用することによって、相乗的な抗菌効果が発揮されることがわかる。
【0032】
(実施例2:チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸との併用による抗菌効果の検討)
(2.1)〜(2.6)各微生物に対する抗菌効果
発酵乳酸NaパウダーS96(粉末状乳酸ナトリウム)の代わりに、発酵乳酸パウダー55(粉末状乳酸、ピューラック・ジャパン株式会社)を用いたこと、およびpHをそれぞれ5.0、5.5、6.0、6.5、または7.0に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用寒天平板培地(チアミン単独培地および乳酸併用培地(乳酸として1w/w%または3w/w%含有))を作成した。
【0033】
実施例1と同様に操作して、上記チアミン単独培地を用いた場合および乳酸併用培地を用いた場合のE. coli(2.1)、B. cereus(2.2)、H. anomala(2.3)、S. cerevisiae(2.4)、A. niger(2.5)、およびP. chrysogenum(2.6)に対するチアミンラウリル硫酸塩のMICを求め、各微生物に対する抗菌効果を評価した。結果を表3に示す。
【0034】
さらに、発酵乳酸パウダー55を、乳酸として0、1、3、および5w/w%含む寒天平板培地(乳酸単独培地)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作して、上記微生物に対する乳酸のMICを決定し、乳酸単独での各微生物に対する抗菌効果についても評価した。結果を表4に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表3に示すように、チアミン単独培地(乳酸0w/w%)を用いた場合は、各微生物に対するチアミンラウリル硫酸塩のMICは、pHによっても異なるが、25ppm〜1500ppmであった。例えば、E. coliにおいては、pH6.5および7.0のチアミン単独培地において、チアミンラウリル硫酸塩のMICは100ppmであった。すなわちこのpH範囲において、E. coliに対して抗菌効果を発揮するためには、チアミンラウリル硫酸塩単独で少なくとも100ppm必要であった。
【0038】
また、表4に示すように、例えば、上記と同様のpHの範囲において、乳酸単独でE. coliに対する抗菌効果を発揮するためには、乳酸が3w/w%必要であった。
【0039】
表3および表4の結果から、チアミンラウリル硫酸塩および乳酸のそれぞれを単独で用いた場合には抗菌効果が発揮されない低濃度においても、これらを併用することによって、優れた抗菌効果が得られることがわかる。例えば、表3の結果から、E. coliに対して乳酸併用培地を用いた場合、pH6.5〜7.0の範囲においては、乳酸1w/w%とチアミンラウリル硫酸塩50ppmとの併用により、E. coliの生育が抑制されることが示された。上述のように、上記pH範囲において抗菌効果を示すためには、チアミンラウリル硫酸塩単独では100ppm、および乳酸単独では3w/w%必要であることを考慮すると、これらよりも低濃度のチアミンラウリル硫酸塩および乳酸を併用することによって、相乗的な抗菌効果が発揮されることがわかる。
【0040】
(実施例3:チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および乳酸ナトリウムとの併用による抗菌効果の検討)
(3.1)〜(3.6)各微生物に対する抗菌効果
発酵乳酸NaパウダーS96(粉末状乳酸ナトリウム)の代わりに、発酵乳酸NaパウダーS96と発酵乳酸パウダー55とを、乳酸ナトリウムと乳酸との質量比が1:1の割合となるように混合した混合物(以下、乳酸混合物という)を用いたこと、およびpHをそれぞれ5.0、5.5、6.0、6.5、または7.0に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、試験用寒天平板培地(チアミン単独培地、乳酸混合物併用培地(乳酸および乳酸ナトリウムを合計量で1w/w%または3w/w%含有))を作成した。
【0041】
実施例1と同様に操作して、チアミン単独培地を用いた場合および乳酸混合物併用培地を用いた場合(チアミンラウリル硫酸塩および乳酸混合物を併用した場合)のE. coli(3.1)、B. cereus(3.2)、H. anomala(3.3)、S. cerevisiae(3.4)、A. niger(3.5)、およびP. chrysogenum(3.6)に対するチアミンラウリル硫酸塩のMICを求め、各微生物に対する抗菌効果を評価した。結果を表5に示す。
【0042】
さらに、乳酸混合物を、乳酸および乳酸ナトリウムとして0、1、3、および5w/w%含む寒天平板培地(乳酸混合物単独培地)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作して、上記微生物に対する乳酸混合物のMICを決定し、乳酸混合物単独での各微生物に対する抗菌効果についても評価した。結果を表6に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
表5に示すように、チアミン単独培地(乳酸および乳酸ナトリウム0w/w%)を用いた場合は、各微生物に対するチアミンラウリル硫酸塩のMICは、pHによって異なるが、25ppm〜1500ppmであった。例えば、E. coliにおいては、pH6.5および7.0のチアミン単独培地において、チアミンラウリル硫酸塩のMICは100ppmであった。すなわちこのpH範囲において、E. coliに対して抗菌効果を発揮するためには、チアミンラウリル硫酸塩単独で少なくとも100ppm必要であった。
【0046】
また、表6に示すように、例えば、上記と同様のpHの範囲において、乳酸混合物単独でE. coliに対する抗菌効果を発揮するためには、乳酸および乳酸ナトリウムの合計量が少なくとも5w/w%以上必要であった。
【0047】
表5および表6の結果から、チアミンラウリル硫酸塩および乳酸混合物のそれぞれを単独で用いた場合には抗菌効果が発揮されない低濃度においても、これらを併用することによって、優れた抗菌効果が得られることがわかる。例えば、表5の結果から、E. coliに対して乳酸混合物併用培地を用いた場合、pH6.5〜7.0の範囲においては、乳酸および乳酸ナトリウムの合計量1w/w%とチアミンラウリル硫酸塩50ppmとの併用により、E. coliの生育が抑制されることが示された。上述のように、上記pH範囲において抗菌効果を示すためには、チアミンラウリル硫酸塩単独では100ppm、あるいは乳酸および乳酸ナトリウムのみでは5w/w%以上必要であることを考慮すると、これらよりも低濃度のチアミンラウリル硫酸塩と乳酸および乳酸ナトリウムとを併用することによって、相乗的な抗菌効果が発揮されることがわかる。
【0048】
(実施例4:抗菌剤の食品中における抗菌効果)
チアミンラウリル硫酸塩と発酵乳酸NaパウダーS96とを、チアミンラウリル硫酸塩と乳酸ナトリウムとの質量比が1:50となるように混合して、抗菌剤を調製した(抗菌剤1とする)。この抗菌剤1を用いて、ハンバーグを以下のようにして調理し、抗菌剤の味への影響および抗菌効果を以下のようにして評価した(試験例1とする)。
【0049】
まず、食塩60質量部、砂糖20質量部、および胡椒15質量部を混合して調味料を準備した。次いで、合挽肉100質量部に、上記調味料1質量部を添加して混合し、さらに炒め玉葱25質量部、乾燥パン粉8.8質量部、牛乳15質量部、および全卵液12.2質量部を加えてよく混練した。この混練物に、抗菌剤1を、混練物中のチアミンラウリル硫酸塩が0.02w/w%となるように添加して、さらによく混練した。なお、混練物中のチアミンラウリル硫酸塩および乳酸ナトリウムの含有量は、実施例1で相乗的な抗菌効果を示した培地中の含有量(チアミンラウリル硫酸塩約200ppmおよび乳酸ナトリウム約1w/w%)に相当する。この抗菌剤含有混練物60gを成形して180℃にて8分間焼成して、ハンバーグを得た。
【0050】
得られたハンバーグと、抗菌剤1を用いないこと以外は上記と同様に調理したハンバーグ(対照)とを比較試食し、抗菌剤1の味への影響を官能評価した。結果を表7に示す。
【0051】
さらに、ハンバーグを常温まで冷却した後、25℃にて保存した。保存後0時間、24時間、および48時間経過時の菌数を、標準寒天培地を用いた希釈法にて計測した。結果を表7に示す。
【0052】
上記とは別に、チアミンラウリル硫酸塩と発酵乳酸NaパウダーS96とを、チアミンラウリル硫酸塩と乳酸ナトリウムとの質量比が1:20となるように混合した抗菌剤(抗菌剤2とする)、およびチアミンラウリル硫酸塩と乳酸ナトリウムと乳酸との質量比が1:50:0.5となるように混合した抗菌剤(抗菌剤3とする)をそれぞれ調製した。上記の抗菌剤1を用いた場合と同様にして、抗菌剤2を含有する混練物(チアミンラウリル硫酸塩の含有量が約500ppm、乳酸ナトリウムの含有量が約1w/w%に相当する)および抗菌剤3を含有する混練物(チアミンラウリル硫酸塩の含有量が約200ppm、乳酸ナトリウムの含有量が約1w/w%、および乳酸の含有量が約0.01w/w%に相当する)を調製し、これらの混練物からハンバーグを得、各抗菌剤の味への影響および抗菌効果を評価した(これらをそれぞれ試験例2および3とする)。結果を表7に示す。
【0053】
他方、チアミンラウリル硫酸塩のみ、あるいは乳酸ナトリウムおよび/または乳酸のみを含む表7に記載の抗菌剤を種々調製した(これらをそれぞれ比較抗菌剤1〜5とする)。比較抗菌剤1〜5を用いたこと、あるいは抗菌剤を用いないこと以外は、上記の抗菌剤1を用いた場合と同様にして、ハンバーグを得、各抗菌剤の味への影響および抗菌効果を評価した(これらをそれぞれ比較試験例1〜5とする)。結果を表7に示す。
【0054】
【表7】

【0055】
表7に示すように、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸ナトリウムおよび/または乳酸とを含む抗菌剤1〜3を用いた場合は、48時間後においても、菌数が少なく、抗菌効果を有していた。特にチアミンラウリル硫酸塩と、乳酸ナトリウムおよび乳酸とを含む抗菌剤3は、抗菌効果に優れていた。さらに抗菌剤1および2は僅かに甘味を有し、抗菌剤3は僅かに酸味を有するが、許容範囲であった。このように本発明の抗菌剤は、優れた抗菌効果を有し、かつ得られる食品の味に影響をほとんど与えないことがわかる。
【0056】
これに対して、チアミンラウリル硫酸塩のみ、あるいは乳酸ナトリウムおよび/または乳酸のみを含む比較抗菌剤1〜5を用いた場合は、所望の抗菌効果が得られない、あるいは食品の風味に影響を与え、実用性がなかった。すなわちチアミンラウリル硫酸塩、乳酸ナトリウム、および乳酸をいずれか単独で含む比較抗菌剤1〜4では、48時間後において所望の抗菌効果が得られなかった。乳酸ナトリウムおよび乳酸を含む比較抗菌剤5では、酸味が顕著であり、実用性に乏しかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる。この抗菌剤は、チアミンラウリル硫酸塩、乳酸、および乳酸ナトリウムをそれぞれ単独で用いた場合には得られない相乗的な抗菌効果を有する。本発明の抗菌剤は、食品などに利用され、得られる食品の風味にほとんど影響を与えないため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンラウリル硫酸塩と、乳酸および/または乳酸ナトリウムとからなる、抗菌剤。
【請求項2】
前記抗菌剤が、粉末状である、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記抗菌剤が、チアミンラウリル硫酸塩と、粉末状の乳酸と、粉末状の乳酸ナトリウムとの混合物である、請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記抗菌剤が、液状である、請求項1に記載の抗菌剤。

【公開番号】特開2007−63149(P2007−63149A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247805(P2005−247805)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】