説明

抗菌剤

【課題】銀系ゼオライト抗菌剤の変色問題や、銀イオンによる樹脂の変色問題などの解決を目指し、経時による変色傾向がないか又は少なく、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤を提供すること。
【解決手段】本発明の抗菌剤は下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を含有することを特徴とする。粒子径が0.05〜50μmの粉粒体であり、水分が5重量%以下に調整されていることが好ましい。更に、銅含有化合物又は/及び亜鉛含有化合物を含有することも好ましい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌成分の徐放が可能な抗菌剤に関するものであり、抗菌成分としてベンゾトリアゾール銀を含有し、耐水性・耐熱性に優れ、長期に渡り抗菌効果を持続できる抗菌剤に関する。また本発明は、化粧料、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銀、銅、亜鉛等の金属のイオンは抗菌性を有することが古くから知られている。これらの抗菌性金属成分を無機物粒子に担持させたもの、特にゼオライトやリン酸ジルコニウム等にイオン交換で導入したものが抗菌剤として従来使用されている。また、層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で導入することも提案されている。
【0003】
従来、例えば、ゼオライトやシリカゲル、酸化チタンなどの粉末に抗菌性を有する金属成分を担持した抗菌性組成物(例えば、特許文献1参照。)が知られている。しかしながら、従来公知の粉末状の抗菌性組成物には、変色という大きな問題があった。このような問題に対していくつかの提案がなされてきた。
【0004】
下記特許文献2には、無機のオキソ酸の塩の金属イオンを、抗菌性を有する金属イオンでイオン交換してなる抗菌性組成物が提案されている。下記特許文献3には、アルミナゾル中の酸化アルミニウムの表面に、抗菌作用を有する金属又はその化合物が付着した抗菌性を有するアルミナゾルを含有する抗菌剤が提案されている。下記特許文献4には、抗菌性の高い銀コロイド粒子からなる抗菌剤が提案されている。下記特許文献5および下記特許文献6には、抗菌性無機酸化物コロイド溶液からなる抗菌剤が提案されている。下記特許文献7にはフェニル基あるいはナフタレン基を有する銀化合物よりなる抗菌剤が提案されている。下記特許文献8には、チオスルファト銀錯塩をシリカゲルに担持させた後、有機珪素化合物によってシリカコーティングを施す抗菌剤の製造方法が記載されている。
【0005】
一方、ベンゾトリアゾール類は樹脂の紫外線等による光劣化に起因する変色、着色の防止剤であり、銀イオンによる樹脂の変色、着色の防止にも効果があり、銀系抗菌剤とベンゾトリアゾール類を組み合わせた組成物出願は数多くある(例えば、特許文献9、10、11参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平2−225402号公報
【特許文献2】特開平3−275627号公報
【特許文献3】特開平1−258792号公報
【特許文献4】特開平4−321628号公報
【特許文献5】特開平6−80527号公報
【特許文献6】特開平7−33616号公報
【特許文献7】特開2001−192307号公報
【特許文献8】特開平6−1706号公報
【特許文献9】特開平7−207061号公報
【特許文献10】特開平6−14979号公報
【特許文献11】特開平11−209533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
種々の抗菌性金属成分のなかでも、銀成分は抗菌作用や人体に対する安全性に優れたものである。しかしながら、従来公知の粉末状の抗菌性組成物には、次のような問題点があった。即ち、銀を導入したゼオライトや層状珪酸塩は経時により、或いは光や水の作用により、次第に粉末が変色して褐色になる傾向があり、これを回避するために銀の担持量を数パーセント程度に少なくし、結果として抗菌性能が発現されないこともままある。また、担体に銀を担持させる方法は、銀の徐放性能に問題がある。純水中での徐放性能は、塩水中ではまったく異なる大量放出を起こすことが多い。このように徐放性能の点でも満足のいくものではなかった。
【0008】
特許文献2には、無機のオキソ酸の塩の金属イオンを、抗菌性を有する金属イオンでイオン交換してなる抗菌性組成物が提案されているが、前述の問題点を解決する上で必ずしも満足のいくものではなかった。特許文献3の抗菌性を有するアルミナゾルはコロイド溶液の形態であり、使用用途が塗料、コーティング材に限定されてしまう。特許文献4の銀コロイド粒子は灰褐色に着色しており、透明性に欠け、また、銀成分そのものがコロイド粒子であるため、凝集し易く安定性に欠けるという問題点を有している。特許文献5および特許文献6の抗菌性無機酸化物コロイド溶液は、粉末状の抗菌性組成物に特有な問題点を解決しているが、コロイド溶液の形態では使用用途が塗料、コーティング材に限定されてしまう。特許文献7のフェニル基あるいはナフタレン基を有する銀化合物は水溶性の錯体であり、他の固体に担持させるか塗布することになり、上記の徐放性能が問題となる。特許文献8のチオスルファト銀錯塩をシリカゲルに担持させた後、有機珪素化合物によってシリカコーティングを施す抗菌剤の製造方法は、徐放性能を付与するためにシリカゲルのような多孔体にシリカコーティングを行うという不具合な製法となっており、またその徐放性能の長期間維持には問題がある。
【0009】
特許文献9、10、11に記載の銀イオンによる樹脂の変色、着色の防止を目的とした組成物は、抗菌剤粉末の変色防止ではなく、主たる成分の樹脂の変色防止であり、本発明とは主旨が異なる。たとえ、樹脂に変色防止剤を添加することで、抗菌剤粉末の変色防止にも効果があるとしても、抗菌剤粉末だけを変色防止処理する方がずっと少ない量の変色防止剤の使用となることは明らかであり、また、ベンゾトリアゾールの変色防止の効果は、銀イオンがベンゾトリアゾールとキレートを形成して錯体になることによりおこることが知られており、本発明で使用するベンゾトリアゾール銀と、錯体とでは化合物自体が異なるものである。
【0010】
従って本発明は、前記したような、銀系ゼオライト抗菌剤の変色問題や、銀イオンによる樹脂の変色問題などの解決を目指し、経時による変色傾向がないか又は少なく、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは水溶性の銀系抗菌剤の研究のなかで、ベンゾトリアゾールと銀の錯塩の形成について試験を行い、大過剰のベンゾトリアゾールの存在下では錯体形成の可能性の知見を得た。一方、等モルに近いベンゾトリアゾールと銀の反応では、錯塩ではなく本発明のベンゾトリアゾール銀の塩が得られ、また、水不溶性であるため抗菌作用はないと考えてきたが、ベンゾトリアゾール銀が水に僅かに溶解する性質を有し、抗菌剤として充分な性能を有していることを知見した。
【0012】
本発明者等は鋭意検討した結果、抗菌成分として特定の一般式で示されるベンゾトリアゾール銀が銀の徐放性において優れた性能を有し、また、抗菌成分として特定の一般式で示されるベンゾトリアゾール銅が銅の徐放性において優れた性能を有し、抗菌性能を長期間維持することができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を含有することを特徴とする抗菌剤を提供するものである。
【0014】
【化7】

【0015】
また本発明は、水と有機溶媒との混合溶媒中で下記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銀化合物との反応を行うことを特徴とする下記一般式(1)で表わされる抗菌性ベンゾトリアゾール銀化合物の製造方法を提供するものである。
【0016】
【化8】

【0017】
また本発明は、前記の抗菌剤を含有する化粧料組成物、樹脂組成物、塗料または植物用殺菌剤を提供するものである。
【0018】
更に本発明は、下記一般式(3)で表わされることを特徴とする抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物を提供するものである。
【0019】
【化9】

【0020】
更に本発明は、水と有機溶媒との混合溶媒中で下記一般式(4)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銅化合物との反応を行うことを特徴とする下記一般式(3)で表わされる抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物の製造方法を提供するものである。
【0021】
【化10】

【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐光性・耐水性に優れ、経時による変色傾向がないか又は少なく、樹脂成形製品や塗料製品等への配合に適した抗菌剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。本発明で使用するベンゾトリアゾール銀化合物は、前記一般式(1)で表されるものである。一般式(1)の式中のR1及びR2はアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1〜5のものが好ましい。アリール基はフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が好ましい。ハロゲン原子としては塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。式中のp1及びq1は同一の又は異なる0〜2の整数を示す。また、R1とR2は同一の基でも異なる基であってもよい。
【0024】
前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物の好ましい具体的な化合物としては、ベンゾトリアゾール銀(I)、4−メチルベンゾトリアゾール銀(I)、5−メチルベンゾトリアゾール銀(I)、4−エチルベンゾトリアゾール銀(I)、5−エチルベンゾトリアゾール銀(I)、4,5−ジメチルベンゾトリアゾール銀(I)、4,6−ジメチルベンゾトリアゾール銀(I)、5,6−ジメチルベンゾトリアゾール銀(I)、4,5−ジエチルベンゾトリアゾール銀(I)、4,6−ジエチルベンゾトリアゾール銀(I)、5,6−ジエチルベンゾトリアゾール銀(I)、4−フェニルベンゾトリアゾール銀(I)、5−フェニルベンゾトリアゾール銀(I)、4−クロロベンゾトリアゾール銀(I)、5−クロロベンゾトリアゾール銀(I)等が挙げられ、これらの中、特に下記構造式(1a)で示されるベンゾトリアゾール銀(I)が好ましい。
【0025】
【化11】

【0026】
このベンゾトリアゾール銀(I)は合成した時点での粉末の色は白色であり、光による経時変化もごく僅かであり、従来の銀系抗菌剤のように黒くはならず、クリーム色程度である。また、熱に対しても比較的な安定で170℃まで変化がない。
【0027】
本発明の抗菌剤は、前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物のみから実質的になるか、又は該化合物を含有し且つ他の成分を含有するものである。何れの場合であっても、本発明の抗菌剤は、その粒子径が0.05〜50μm、特に0.1〜10μmの粉粒体であることが、該抗菌剤を、化粧料組成物、樹脂組成物及び樹脂成形品、塗料、植物用殺菌剤などの各種用途に適用した場合に、その分散が均質となる点から好ましい。粒子径は粒子のSEM観察によって測定される。
【0028】
また抗菌剤は、その水分含有量が好ましくは5重量%以下、更に好ましくは3重量%以下に調整されている。当該範囲の水分含有量のものを使用すると樹脂に練り込んだときや、塗料に配合したときに、樹脂製品の高温成型時の脱水による発泡や、塗料における塗膜のフクレ現象を防止することができるという利点がある。
【0029】
本発明で使用する前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物は水と有機溶媒との混合溶媒中で前記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銀化合物との反応を行うことにより製造することができる。具体的には、水溶性銀化合物を水に溶解した溶液(A1液)と、前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物を有機溶媒へ溶解した溶液(B1液)を調製し、A1液にB1液を添加して反応を行うことにより製造することができる。B1液として特にベンゾトリアゾール化合物を水とアルコールの混合溶媒に溶解した溶液を使用した場合において結晶性の高い反応物が得られる点で更に好ましい。
【0030】
以下、前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物の製造方法について説明する。前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール化合物の式中のR1、R2は前記一般式(1)の式中のR1及びR2に相当する基であり、また、式中のp1及びq1は0〜2の整数を示す。一方の水溶性銀化合物としては、例えば硝酸銀、酢酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、ヘキサフルオロリン酸銀等を使用することができる。なお、これら水溶性銀化合物としては含水塩であっても無水塩であってもよい。使用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1〜5のアルコール、アセトン等が挙げられ、この中、アルコールが結晶性が良いものが得られる点で特に好ましい。
【0031】
A1液中の水溶性銀化合物の濃度は好ましくは0.1〜1.0モル/L、更に好ましくは0.3〜0.8モル/Lとする。また、A1液を水溶性銀化合物が溶解できる範囲で水と有機溶媒の混合溶媒としてもよい。この場合、水と有機溶媒の配合割合は、使用する水溶性銀化合物の種類や有機溶媒の種類によっても異なるが、多くの場合、水100重量部に対して有機溶媒を5〜50重量部、特に5〜30重量部とすることが好ましい。
【0032】
B1液中の前記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾールの濃度は0.1〜5モル/L、特に0.3〜2モル/Lとすることが好ましい。また、B1液を前記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾールが溶解できる範囲で水と有機溶媒の混合溶媒としてもよい。この場合、B1液での水と有機溶媒の配合割合は、使用するベンゾトリアゾール化合物の種類や有機溶媒の種類によっても異なるが、多くの場合、水100重量部に対して有機溶媒を5〜50重量部、特に5〜30重量部とすることが好ましい。反応系の溶媒量が少ないと、例えば水溶性銀化合物として硝酸銀を使用した場合には、反応生成物は硝酸銀を取り込んだ錯塩[ビス(ベンゾトリアゾール)銀硝酸塩]で水溶性となり、本発明の目的とする前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物は得られなくなり、一方、反応系の溶媒量が多すぎても不経済となるのでA1液とB1液の濃度を前記範囲とすることが好ましい。
【0033】
B1液のA1液への添加はB1液中のベンゾトリアゾール化合物がA1液中の水溶性銀化合物に対してベンゾトリアゾール(C653)として1.0〜2.0倍モル、特に1.0〜1.5倍モルとなるようにすることが好ましい。この理由は水溶性銀化合物に対してベンゾトリアゾールの量が2.0倍モルを超えるとベンゾトリアゾールと銀の水溶性錯化合物が生成して収率低下になり、一方、1倍モル未満では未反応のAgが反応液中に残存し、不経済になるからである。
【0034】
反応条件は反応温度が好ましくは0〜50℃、更に好ましくは10〜30℃で、反応時間は好ましくは1時間以上、更に好ましくは3〜10時間である。反応終了後、常法に従って固液分離して目的物を回収し、次いで乾燥、必要により粉砕、分級を行うことにより、本発明で使用する前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀を得ることができる。
【0035】
本発明の抗菌剤は、更に亜鉛化合物又は/及び銅化合物の抗菌性金属イオンを放出する化合物と併用することができる。この併用により(イ)抗菌スペクトルを広げる、(ロ)抗菌性の持続期間を長くする、(ハ)耐候性を改善する、(二)耐薬品性を改善するなどの効果がある。
【0036】
銀と、亜鉛又は/及び銅の組み合わせ及び配合割合は目的に応じて任意に選定でき、また、複数を組み合わせることもできる。特に亜鉛との組み合わせでは抗菌剤を白色化できる点で好ましい。
【0037】
本発明の前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物と一緒に用いる銅含有化合物としては、イオン交換で銅を担持したゼオライトやリン酸ジルコニウム等の従来使用されている抗菌剤が挙げられる。また、層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で導入した製品も使用することができる。本発明では特に、臭化銅CuBr、炭酸銅Cu2CO3、シュウ酸銅CuC24・0.5H2Oなどの溶解度の小さい化合物や、さらには、溶解度が小さく抗菌性能が優れる点で前記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物が最も好ましい。
【0038】
前記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物が水に僅かに溶解する性質を有し、抗菌剤として充分な性質を有する化合物であることは、本発明者らが初めて見出したものである。
【0039】
前記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール銅化合物の式中のR3及びR4はアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基又はカルボキシル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1〜5のものが好ましい。アリール基はフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が好ましい。ハロゲン原子は塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。式中のp2及びq2は同一の又は異なる0〜2の整数を示す。また、R3とR4は同一の基でも異なる基であってもよい。
【0040】
前記一般式(3)で表わされるベンゾトリアゾール銅化合物の好ましい具体的な化合物としては、ジベンゾトリアゾール銅(II)、ビス(4−メチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5−メチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4−エチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5−エチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4,5−ジメチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4,6−ジメチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5,6−ジメチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4,5−ジエチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4,6−ジエチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5,6−ジエチルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4−フェニルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5−フェニルベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(4−クロロベンゾトリアゾール)銅(II)、ビス(5−クロロベンゾトリアゾール)銅(II)等が挙げられ、これらの中、特に下記構造式(3a)で示されるジベンゾトリアゾール銅(II)が好ましい。
【0041】
【化12】

【0042】
前記一般式(3)で表わされるベンゾトリアゾール銅化合物は水と有機溶媒との混合溶媒中で前記一般式(4)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銅化合物との反応を行うことにより製造することができる。
【0043】
具体的には、水溶性銅化合物を水に溶解した溶液(A2液)と、前記一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール化合物を有機溶媒へ溶解した溶液(B2液)を調製し、A2液にB2液を添加して反応を行うことにより製造することができる。B2液として特にベンゾトリアゾール化合物を水とアルコールの混合溶媒に溶解した溶液を使用した場合において結晶性の高い反応物が得られる点で更に好ましい。
以下、前記一般式(3)で表わされるベンゾトリアゾール銅化合物の製造方法について説明する。前記一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール化合物の式中のR3、R4は前記一般式(3)の式中のR3及びR4に相当する基であり、また、式中のp2及びq2は0〜2の整数を示す。一方の水溶性銅化合物としては、例えば、硫酸銅、過塩素酸銅、塩化銅、テトラフルオロホウ酸銅、ギ酸銅、塩素酸銅、硝酸銅等を使用することができる。なお、これら水溶性銅化合物としては含水塩であっても無水塩であってもよい。使用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1〜5のアルコール、アセトン等が挙げられ、この中、アルコールが結晶性が良いものが得られる点で特に好ましい。
【0044】
A2液中の水溶性銅化合物の濃度は好ましくは0.1〜1モル/L、更に好ましくは0.3〜0.8モル/Lとする。また、A2液を水溶性銅化合物が溶解できる範囲で水と有機溶媒の混合溶媒としてもよい。この場合、水と有機溶媒の配合割合は、使用する水溶性銀化合物の種類や有機溶媒の種類によっても異なるが、多くの場合、水100重量部に対して有機溶媒を5〜50重量部、特に10〜30重量部とすることが好ましい。
【0045】
B2液中の前記一般式(4)で表わされるベンゾトリアゾールの濃度は0.1〜5モル/L、特に0.3〜2モル/Lとすることが好ましい。また、B2液を前記一般式(4)で表されるベンゾトリアゾールが溶解できる範囲で水と有機溶媒の混合溶媒としてもよい。この場合、B2液での水と有機溶媒の配合割合は、使用するベンゾトリアゾール化合物の種類や有機溶媒の種類によっても異なるが、多くの場合、水100重量部に対して有機溶媒を5〜50重量部、特に10〜30重量部とすることが好ましい。
【0046】
B2液のA2液への添加はB2液中のベンゾトリアゾール化合物がA2液中の水溶性銅化合物に対してベンゾトリアゾール(C653)として2.0〜2.5倍モル、特に2.0〜2.1倍モルとなるようにすることが好ましい。この理由は水溶性銅化合物に対してベンゾトリアゾールの量が2.5倍モルを超えるとベンゾトリアゾールと銅の水溶性錯化合物が生成して収率が低下し、一方、2倍モル未満では未反応Cuが反応液中に残存し不経済になるからである。
【0047】
反応条件は反応温度が好ましくは0〜50℃、更に好ましくは10〜30℃で、反応時間は好ましくは1時間以上、更に好ましくは3〜10時間である。反応終了後、常法に従って固液分離して目的物を回収し、次いで乾燥、必要により粉砕、分級を行うことにより、本発明で使用する前記一般式(3)で表わされるベンゾトリアゾール銅を得ることができる。
【0048】
本発明の前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物と一緒に用いる亜鉛含有化合物としては、イオン交換で亜鉛を担持したゼオライトやリン酸ジルコニウム等の従来使用されている抗菌剤が挙げられる。また、層状珪酸塩や粘土鉱物にイオン交換で導入した製品も使用することができる・本発明では特に、炭酸亜鉛ZnCO3、亜硫酸亜鉛二水和物ZnSO3・2H2O、水酸化亜鉛Zn(OH)2、オルト珪酸亜鉛Zn2SiO4、酸化亜鉛ZnO、硫化亜鉛ZnSなどの溶解度の小さい化合物が好ましい。
【0049】
本発明の抗菌剤においては、前記一般式(1)で表わされるベンゾトリアゾール銀化合物以外にキナルジン酸やキノリン−8−カルボン酸、サリチムアルドキシムの水難溶性銀錯塩を併用することができる。
【0050】
以上のように、本発明の抗菌剤は、化粧料組成物、樹脂組成物及び該組成物から成形される樹脂成形品、塗料ならびに植物用殺菌剤などに好適に使用できる。
【0051】
本発明の抗菌剤は、種々の形態で抗菌性を必要とする用途に使用できる。この抗菌剤は、その効果性能を損なわない範囲で、公知の改質剤、例えば分散剤、界面活性剤、カップリング剤、変色防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等で表面処理を行うことができる。
【0052】
分散剤としては、特に制限されないが、例えば、以下のワックス類や低融点樹脂類が使用される。
【0053】
(1)脂肪酸及びその金属塩類:
合成または天然脂肪酸及びそれらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩など。例えばステアリン酸、オレイン酸等及びそれらのナトリウム塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0054】
(2)アマイド、アミン類:
例えば、エルカ酸アミド、オレイルパルミトアマイド、ステアリルエルカミド、2−ステアロミドエチルステアレート、エチレンビス脂肪酸アマイド、N,N’−オレオイルステアリルエチレンジアミン、N,N’−ビス(2ヒドロキシエチル)アルキル(C12〜C18)アマイド、N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)ラウロアマイド、脂肪酸ジエタノールアミン等が挙げられる。
【0055】
(3)脂肪酸エステル・アルコールエステル類:
例えば、ステアリン酸n−ブチル、水添ロジンメチルエステル、セバチン酸ジブチル(n−ブチル)、セバチン酸ジオクチル(2−エチルヘキシル、n−オクチル共)、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステル、ジエチレングリコール脂肪酸ジエステル、プロピレングリコール脂肪酸ジエステル等が挙げられる。
【0056】
(4)ワックス類:
例えば、スパームアセチワックス、モンタンワックス、カルナバワックス、蜜蝋、木蝋、ラノリン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エポキシ変性ポリエチレンワックス、石油系ワックス等が挙げられる。
【0057】
(5)低融点樹脂類:
融点或いは軟化点が40〜200℃、特に70〜160℃である各種樹脂、例えば、エポキシ樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン系樹脂、クロマン−インデン樹脂、その他の石油樹脂、アルキッド樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、低融点アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、低融点コポリアミド、低融点コポリエステル等を挙げることができる。
【0058】
界面活性剤としては、(イ)第一級アミン塩、第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、ピリジン誘導体等のカチオン系のもの、(ロ)硫酸化油、石ケン、硫酸化エステル油、硫酸化アミド油、オレフィンの硫酸エステル塩類、脂肪アルコール硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸エチルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、コハク酸エステルスルホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン系のもの、(ハ)多価アルコールの部分的脂肪酸エステル、脂肪アルコールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、脂肪アミノまたは脂肪酸アミドのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールのエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの部分的脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール等の非イオン系のもの、(ニ)カルボン酸誘導体、イミダゾリン誘導体等の両性系のものが一般に使用可能である。
【0059】
カップリング剤としては、例えば次のものが使用可能である。
(1)シラン系カップリング剤:
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、などのアミノ系シラン。γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、などのメタクリロキシ系シラン。
ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、などのビニル系シラン。
β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、などのエポキシ系シラン。γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、などのメルカプト系シラン。γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、などのクロロプロピル系シラン。
【0060】
(2)チタネート系カップリング剤:
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルバイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルバイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルバイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート、ポリジイソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ポリジノルマルブチルチタネート。
【0061】
無機変色防止剤としては、例えばハイドロタルサイト類、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、含アルミニウムフィロケイ酸塩、アルカリ・アルミニウム複合水酸化物炭酸塩等が挙げられる。
【0062】
本発明の抗菌剤は、他の無機系抗菌剤と併用できる。例えば、抗菌性金属イオンがイオン交換又は担持されたゼオライト、アパタイト、リン酸ジルコニウム、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ガラス等が挙げられる。
【0063】
本発明の抗菌剤は、他の有機系抗菌剤、殺菌剤、防腐剤と併用できる。例えば、ヒノキチオール等のトロポロン類;キトサン類;パラオキシ安息香酸エステル類;安息香酸、デヒドロ酢酸等の有機酸;これら有機酸の塩類;第四級ホスホニウム塩類等を挙げることができる。
【0064】
具体的には、ヒノキチオール、キトサン、安息香酸、安息香酸塩類、イソプロピルメチルフェノール、ウンデシレン酸モノエタノールアミド、塩化セチルピリジニウム、塩化アルキルアミノエチルグリシン、塩化クロルヘキシジン、クレゾール、クロラミン、クロロキシレノール、クロロクレゾール、クロロブタノール、サリチル酸、サリチル酸塩類、臭化ドミフェン、ソルビン酸及び塩類、チモール、チラム、デヒドロ酢酸及び塩類、トリクロロカルバニリド、p−オキシ安息香酸エステル、p−クロルフェノール、ハロカルバン、フェノール、ヘキサクロロフェン、ラウロイルサルコシンナトリウム、レゾルシン、ポビドンヨード(ポリビニルピロリドン・ヨウ素錯体)及びそのシクロデキストリン包摂体、ヨウ素・アルキルポリエーテルアルコール錯体(G.S.I.)、ポリエトキシポリプロポキシポリエトキシエタノール・ヨウ素錯体(Iocline)、ノニルフェノキシポリエトキシエタノール・ヨウ素錯体、ポリオキシエチレン付加植物油・ヨウ素錯体、ポリオキシエチレン付加脂肪酸・ヨウ素錯体、ポリオキシエチレン付加脂肪アルコール・ヨウ素錯体、脂肪酸アミド・ヨウ素錯体等を挙げることができる。
【0065】
本発明の抗菌剤は、種々の樹脂(重合体)への分散性に優れており、しかも変色傾向も少ないので、各種樹脂(重合体)に配合して、抗菌性を有する樹脂組成物や樹脂成形品、例えば繊維、フィルム、シート、パイプ、パネル、容器、建材、構造材等の分野に用いることができる。また、本発明の抗菌剤を塗料等に配合して、抗菌性塗膜の分野に用いることができる。
【0066】
前記の樹脂としては特に制限はなく広範囲のものを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィンの如き塩素系樹脂、ポリアミド、ABS樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリビニールアルコール、ポリカーボネート、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン、レーヨン、キュプラ、アセテート、トリアセテート、ビニリデン、天然及び合成ゴム等の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などを挙げることが出来る。なお、これらの樹脂は、共重合体又はグラフトポリマー、または2種以上の混合樹脂であってもよい。特に、前記の樹脂のうち、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂が好ましい。
【0067】
本発明の抗菌剤を塗料に配合する場合、当該塗料の材料としては、例えばボイル油、油ワニス、油性エナメルなどの油性塗料、ニトロセルロースラッカー、アクリルラッカーなどの繊維素誘導体塗料、前記の樹脂材料に記載した熱硬化性樹脂やエラストマー重合体などを塗料タイプにした合成樹脂塗料が挙げられる。
【0068】
樹脂や塗料に配合して使用される材料についても従来使用されている材料を使用できる。例えば、油脂類、鉱油類、可塑剤、溶剤、無機質充填剤、顔料、体質顔料等を挙げることができる。 無機質充填剤としては微粉末シリカ、活性アルミナ、含アルミニウムフィロケイ酸亜鉛及びそのシリカ質複合体、フィロケイ酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、亜鉛変性ハイドロタルサイト、リチウム・アルミニウム複合水酸化物塩、タルク、クレー、ベントナイト、ドーソナイト、珪藻土、硅砂、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0069】
本発明の抗菌剤が配合された樹脂成形品や塗料としては、いかなる形状のものも含まれる。例えば織布、不織布、網布、編布等の布製品、紙、フィルム等のシート製品、散布剤、スプレー剤等の粉製品、刷毛塗り塗料、スプレー塗料、ローラー塗り塗料、接着剤、シーラント等の液体ないしペースト状製品、板、棒、箱、多孔質体などの具形成形品が挙げられる。
【0070】
本発明の抗菌剤が配合された樹脂成形品や塗料としては、例えば鮮度保持フィルムや衛生材料製品、台所浴用製品、トイレタリー、化粧品、水処理用品、医療器具製品、建材製品、魚網等を挙げることができる。またセメントモルタルに添加、あるいはセメントコンクリートの成形体に塗装して抗菌性のセメントコンクリートの製品を造ることができる。その他、抗菌を目的として種々の製品に応用することができる。
【0071】
本発明の抗菌剤が配合された樹脂組成物において、抗菌剤の樹脂への配合量は、該抗菌剤の物性、特に抗菌成分の担持量、合成樹脂の種類やその用途等によって多様に異なる。多くの場合、樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部の範囲であることが好ましい。更に好ましくは0.5〜10重量部である。尤も、マスターバッチとして構成される樹脂組成物にあっては30重量部まで配合することができる。抗菌剤の配合量が0.1重量部未満の場合、樹脂組成物の抗菌作用は実質的に得られない。また配合量の上限値は、多くの場合経済的理由から制限され、実用的範囲として設定される。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。実施例中の各測定値はそれぞれ次の方法によって求めた。
(a)組成分析:
抗菌性金属はICP(Varian製LIBERTYII型)によって定量した。ベンゾトリアゾールは、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−5000A)により炭素量を測定し、分子量に換算して定量した。
(b)粒子の形状:
SEM(日立製作所製S−4500型)により観察した。
(c)X線回折パターン(XRD):
X線回折装置(理学製RINT2400型)を用いた。
【0073】
〔実施例1〕
硝酸銀20.0gを水−エタノール(重量比10:1)混合溶媒220gに溶解し、A1液とした。硝酸銀のモル数に対して1倍当量のベンゾトリアゾール(C653;純正化学製 試薬)14.0gを水−エタノール(重量比10:1)混合溶媒220gに溶解し、B1液とした。A1液にB1液を徐々に添加し25℃で3時間反応を行った。発生した沈殿物をろ過および水洗し、50℃で10時間乾燥することによりベンゾトリアゾール銀(I)を得た。得られたベンゾトリアゾール銀(I)について元素分析を行った結果、組成はAg(C6531.10であった。また、110℃乾燥減量による水分は0.85%であった。XRDの測定結果を図1および表1に記載した。また、これのSEM写真を図4に示した。SEM写真では、粒子の形状は板状結晶であり、その粒子径は厚さが0.1〜0.2μmであり、平面が0.5〜5μmであり平均して2μmくらいである。
【0074】
【表1】

【0075】
〔実施例2〕
硝酸銀20.0gを水−エタノール(重量比5:1)混合溶媒240gに溶解し、A1液とした。硝酸銀のモル数に対して2倍当量のベンゾトリアゾール(C653;純正化学製 試薬)28.1gを水−エタノール(重量比5:1)混合溶媒240gに溶解し、B1液とした。A1液にB1液を徐々に添加し20℃で6時間反応を行った。発生した沈殿物をろ過および水洗し、50℃で24時間乾燥することによりベンゾトリアゾール銀(I)を得た。得られたベンゾトリアゾール銀(I)について元素分析を行った結果、組成はAg(C6531.21であった。また、110℃乾燥減量による水分は2%であった。XRDの測定結果を図2および表2に記載した。また、これのSEM写真を図5に示した。SEM写真では、粒子の形状は丸みのある立方体乃至長方体に近い形の定まらない結晶であり、その粒子径は0.1〜1.0μmであり、平均して0.3μmくらいである。
【0076】
【表2】

【0077】
〔実施例3〕
硫酸銅(II)五水和物20.0gを水−エタノール(重量比4:1)混合溶媒125gに溶解し、A2液とした。硫酸銅のモル数に対して2倍当量のベンゾトリアゾール(C653;純正化学製 試薬)19.1gを水−エタノール(重量比4:1)混合溶媒125gに溶解し、B2液とした。A2液にB2液を徐々に添加し25℃で3時間反応を行った。発生た沈殿物をろ過および水洗し、50℃で24時間乾燥することによりジベンゾトリアゾール銅を得た。得られたジベンゾトリアゾール銅(II)について元素分析を行った結果、組成はCu(C6532.00であった。XRDの測定結果を図3および表3に記載した。また、これのSEM写真を図6に示した。SEM写真では、粒子の形状は球に近いが凝集しており、棒状につながったものもある。一次粒子の粒子径は0.03〜0.3μmであり、平均して0.1μmくらいである。
【0078】
【表3】

【0079】
〔実施例4〕
本実施例では、抗菌成分の徐放性の確認を行った。実施例1で得られたベンゾトリアゾール銀粉末5gを、純水45gに投入し24時間攪拌を続けた。その後、ろ過分離して粉末を取り除き、水を回収した。水を化学分析したところ水中の銀の濃度は5ppmであった。さらに、溶出試験を35回繰り返し、35回目の溶出試験液についても水中の銀の濃度を測定した。35回目の水中銀濃度は0.16ppmであった。
【0080】
〔参考例1〕
ガラスビーカーを用いて、エタノール40重量部に23.8重量部のベンゾトリアゾール(C653;純正化学製 試薬)を加え、10分間攪拌を行って溶解した。次に17重量部の硝酸銀と160重量部の純水を加えた。硝酸銀の溶解と白色沈殿の生成が同時に進行し、硝酸銀は3時間で溶解し、その後も16時間攪拌を続けた、白色沈殿をろ過、水洗して50℃で24時間乾燥した。こうして白色の結晶を得た。この結晶はXRDではベンゾトリアゾールおよびAgNO3の存在は認められず、組成分析及びTG/DTA測定によりビス(ベンゾトリアゾール)銀硝酸([Ag(C6532+NO3-]の結晶であることを確認した。
【0081】
次いで実施例4と同様にして抗菌成分の徐放性の確認を行った。得られたビス(ベンゾトリアゾール)銀硝酸粉末5gを、純水45gに投入し24時間攪拌を続けた。その後、ろ過分離して粉末を取り除き、水を回収した。水を化学分析したところ水中の銀の濃度は800ppmであった。さらに、溶出試験を35回繰り返し、35回目の溶出試験液についても水中の銀の濃度を測定した。35回目の水中銀濃度は0.1ppm以下であり、銀の溶出がほとんどなく抗菌成分が既に溶出しなくなっていることがわかる。
【0082】
〔実施例5〕
実施例1で得られた抗菌剤(A)、実施例2で得られた抗菌剤(B)、および実施例3で得られた抗菌剤と実施例1の抗菌剤を同量混合した抗菌剤(C)について、抗菌性試験を行った。試験結果を以下の表4に示す。試験方法は以下の通りである。
【0083】
A)試験菌
(1)Escherichia coli NBRC 3301 (大腸菌)
(2)Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275 (緑膿菌)
(3)Aspergillus niger IFO 6341 (クロコウジカビ)
(4)Penicillium citrinum IFO 6352 (アオカビ)
【0084】
B)試験用培地
NA培地:普通寒天培地[栄研化学株式会社]
NB培地:肉エキスを0.2%添加した普通ブイヨン培地[栄研化学株式会社]
PDA培地:ポテトデキストロース寒天培地[栄研化学株式会社]
SDA培地:サブロー寒天培地[栄研化学株式会社]
【0085】
C)菌液の調製
a)試験菌(1)及び(2)
NA培地で37℃±1℃、24〜48時間培養した試験菌をNB培地に接種し、37℃±1℃、22〜26時間培養した。この培養液をNB培地を用いて1ml当たりの菌数が106〜107となるように調整し、菌液とした。
b)試験菌(3)及び(4)
PDA培地で25℃±1℃、7日間培養後、形成された胞子を0.05%ポリソルベート80添加生理食塩水に懸濁させ、1ml当たりの胞子数が106〜107となるように調整し、菌液とした。
【0086】
D)試験用平板培地の作成
試験菌(1)及び(2)はNA培地、試験菌(3)及び(4)はSDA培地150mlに菌液10mlをそれぞれ添加、混合し、これらをシャーレに15ml分注して固化させた。さらに、シャーレを室温で30分間放置して培地表面を乾燥させた後、乾熱滅菌(180℃、30分間)した円筒ガラス(直径:12mm)で穴を開け、これを試験用平板培地とした。
【0087】
E)試験操作
検体を試料とした。試験用平板培地中央の穴全体に試料を充填し、試験菌(1)及び(2)は37℃±1℃、24時間、試験菌(3)及び(4)は25℃±1℃、7日間培養後、試料の周囲のハローの有無を肉眼観察により判定した。なお、菌液の生菌数を試験菌(1)及び(2)はNA培地を用いた混釈平板培養法(37℃±1℃、2日間培養)、試験菌(3)及び(4)はSDA培地を用いた混釈平板培養法(25℃±1℃、7日間培養)により測定し、試験用平板培地1mlあたりの菌濃度に換算した。
【0088】
【表4】

【0089】
〔実施例6及び参考例2、比較例1、比較例2〕
本実施例及び比較例では塩化ビニル製シートを製造した。実施例6では、抗菌剤として、実施例1で作成したベンゾトリアゾール銀(I)を2重量部配合した。参考例2では、参考例1で得られたビス(ベンゾトリアゾール)銀硝酸を2重量部配合した。比較例1では、抗菌剤は配合しなかった。比較例2では、市販の抗菌剤である銀イオン交換ゼオライトを2重量部配合した。
【0090】
塩化ビニル製シートは次の方法で製造した。以下の表5に示す配合に係る樹脂組成物をポリ袋中で激しく振騰して混合した。得られた組成物を、表面温度150℃に調節した二本ロールで5分間溶融混練後、シート状に成形し、厚さ1mmで5cm角の塩化ビニルシート試験片を製造した。
【0091】
【表5】

【0092】
前記の塩化ビニルシートについて、以下の方法で耐変色性試験及び抗菌性試験を行った。その結果を表6に示す。
【0093】
〔耐変色性試験〕
塩化ビニルシートの試験片を蛍光灯(60W×2本)の直下1mの位置に置き、30日間暴露後の変色度を下記の評点で評価した。
○:変色しない。
△:やや変色した。
×:激しく変色した。
【0094】
〔抗菌性試験〕
抗菌製品の抗菌力評価試験法(抗菌製品技術協議会)で制定された方法に準拠して評価した。
試験方法:フィルム密着法
評価菌種:大腸菌、黄色ブドウ球菌
菌液接種時間:24時間
評価:抗菌剤添加樹脂成形品に菌液を接種して、フィルムでカバーして24時間後の菌数を測定し、以下の基準で評価する。
○:接種菌液からの減少率が1/100以上。
△:接種菌液からの減少率が1/10以上、1/100未満。
×:接種菌液からの減少率が1/10未満。
【0095】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1で得られたベンゾトリアゾール銀(I)のX線回折図。
【図2】実施例2で得られたベンゾトリアゾール銀(I)のX線回折図。
【図3】実施例3で得られたジベンゾトリアゾール銅(II)のX線回折図。
【図4】実施例1で得られたベンゾトリアゾール銀(I)の粒子形状を示すSEM写真。
【図5】実施例2で得られたベンゾトリアゾール銀(I)の粒子形状を示すSEM写真。
【図6】実施例3で得られたジベンゾトリアゾール)銅(II)の粒子形状を示すSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール銀化合物を含有することを特徴とする抗菌剤。
【化1】

【請求項2】
ベンゾトリアゾール銀化合物が水と有機溶媒との混合溶媒中で下記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銀化合物との反応を行って生成されたものであることを特徴とする請求項1記載の抗菌剤。
【化2】

【請求項3】
ベンゾトリアゾール銀化合物がベンゾトリアゾール銀であることを特徴とする請求項1記載の抗菌剤。
【請求項4】
粒子径が0.05〜50μmの粉粒体であり、水分が5重量%以下に調整されていることを特徴とする請求項1記載の抗菌剤。
【請求項5】
更に、銅含有化合物又は/及び亜鉛含有化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の抗菌剤。
【請求項6】
銅含有化合物が下記一般式(3)で表わされることを特徴とする請求項5記載の抗菌剤。
【化3】

【請求項7】
水と有機溶媒との混合溶媒中で下記一般式(2)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銀化合物との反応を行うことを特徴とする下記一般式(1)で表わされる抗菌性ベンゾトリアゾール銀化合物の製造方法。
【化4】

【請求項8】
有機溶媒がアルコールである請求項7記載の抗菌性ベンゾトリアゾール銀化合物の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(3)で表わされることを特徴とする抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物。
【化5】

【請求項10】
水と有機溶媒との混合溶媒中で下記一般式(4)で表わされるベンゾトリアゾール化合物と水溶性銅化合物との反応を行うことを特徴とする下記一般式(3)で表わされる抗菌性ベンゾトリアゾール銅化合物の製造方法。
【化6】

【請求項11】
請求項1ないし6の何れかに記載の抗菌剤を含有する化粧料組成物。
【請求項12】
請求項1ないし6の何れかに記載の抗菌剤を含有する樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1ないし6の何れかに記載の抗菌剤を含有する塗料。
【請求項14】
請求項1ないし6の何れかに記載の抗菌剤を含有する植物用殺菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−50276(P2008−50276A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225816(P2006−225816)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】