説明

抗菌剤

【目的】トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、且つpH7.4〜8.0であることを特徴とし、ニキビ(尋常性ざ瘡)の原因菌であるアクネ菌生物型3に対して高い抗菌性を示す抗菌剤を提供する。
【構成】トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、且つpH7.4〜8.0であることを特徴とする抗菌剤は、アクネ菌生物型3に対して高い抗菌性を示した。これらの抗菌剤を含有した化粧水は、優れたニキビ予防及び症状緩和効果を示し、安全性、安定性にも優れていた。これらのことから、本発明の抗菌剤は、ニキビ予防及び症状緩和に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を配合し、pHを7.4〜8.0とすることにより、ニキビ(尋常性ざ瘡)の原因菌であるアクネ菌(Propionibacterium acnes)生物型3に対して高い抗菌性を示す抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクネ菌はニキビの発生機序に深く関与している。アクネ菌の産生するリパーゼは皮脂を分解し、それによって発生した脂肪酸が炎症を引き起こす(非特許文献1)。また近年では、アクネ菌に対するヒトの自然免疫反応がニキビの炎症に深く関与すると考えられている。さらに、アクネ菌は、表皮細胞の異常角化にも関与しており、そのために毛穴の閉塞が亢進され、ニキビが出来やすくなるとも考えられている(非特許文献2)。
【0003】
アクネ菌をターゲットとしたニキビの治療においては、抗生物質やビタミン類が内服や外用によって用いられている(非特許文献3)。ビタミン類の中では、トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩が、アクネ菌に対して特異的な高い抗菌性を示すことが知られていた(特許文献1)。
【0004】
アクネ菌は、5種類の生物型(1〜5)に分類され(非特許文献4)、ニキビの発症にはそのうちの生物型3が深く関与していると考えられている(非特許文献5、6)。アクネ菌の遺伝子型に着目した研究においても、生物型3に相当する遺伝子型3が、ニキビに最も深く関与すると報告されている(非特許文献7)。一方、アクネ菌は代表的な皮膚常在菌であり、病原菌の侵入を防ぐなど、ヒトにとって有用な働きをしている(非特許文献8)。そのため、抗菌剤などによって全てのアクネ菌を殺滅してしまうことは好ましくなく、ヒトにとって有害なアクネ菌、又はニキビの原因となるアクネ菌のみを排除することが望ましいと考えられている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−213633
【非特許文献1】Eur J Dermatol,Vol.14,PP.4−12(2004)
【非特許文献2】J Dermatol,Vol.36,PP.213−223(2009)
【非特許文献3】佐山義克,フレグランスジャーナル,昭和60年,第74号,P.21−29
【非特許文献4】Appl Microbiol,Vol.38,PP.585−589(1979)
【非特許文献5】皮膚,Vol.24,PP.19−26(1982)
【非特許文献6】医学と生物学,Vol.102,PP.121−124(1981)
【非特許文献7】日皮会誌,Vol.115,PP.2381−2388(2005)
【非特許文献8】人体常在菌−共生と病原菌排除能,皮膚常在菌の性状と病原菌排除能,医薬ジャーナル社,PP.156−170(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、アクネ菌の中でも、ニキビの原因となる生物型3に対して特に有効な抗菌剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題の解決に向け鋭意検討を行った結果、トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩の抗菌性が、pH7.4〜8.0においてアクネ菌生物型3に対してのみ著しく向上することを見出した。さらに、トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、pH7.4〜8.0である薬剤が安全で安定であり、ニキビ予防及び症状緩和効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明で用いられるトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩は、トコフェロールから常法により合成でき、特許文献2及び3も参考にできる。これらは、α、β、γ、δ型や、d、l、dl型を選択できる。
【0009】
【特許文献2】特公昭61−20583
【特許文献3】特公平3−32558
【0010】
また、本発明においては、トコフェリルリン酸エステルに加え、トコフェリルリン酸エステルの塩も使用可能であり、塩の種類は限定されないが、一般的にはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩が用いられる。
【0011】
本発明に用いられるトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩の量は、剤型や期待する効果の程度により異なるが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1〜50重量%配合するのがよい。0.001重量%未満では十分な効果は望みにくい場合があり、50重量%を超えて配合した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0012】
本発明におけるpH調整剤としては、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが用いられる。
【0013】
本発明の抗菌剤には、その効果を損なわない範囲内で、通常の抗菌剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0014】
本発明の抗菌剤は、化粧品、医薬部外品及び医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、洗口剤、液体歯磨、練歯磨等が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩は、pH7.4〜8.0において、アクネ菌生物型3に対して高い抗菌効果を示した。また、本抗菌剤を含有する化粧水は、優れたニキビ予防及び症状緩和効果を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
処方例1 化粧水
処方 配合量(部)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.2
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.リン酸二水素ナトリウム 0.064
6.リン酸水素二ナトリウム 1.35
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 0.1
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜6及び11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。調製時のpHは8.0。
【0018】
比較例1 従来の化粧水1
処方例1において、成分5を0.822部、成分6を0.447部に置き換えたものを従来の化粧水1とした。調製時のpHは6.5。
【0019】
比較例2 従来の化粧水2
処方例1において、成分1を精製水0.2部に置き換えたものを従来の化粧水2とした。
【0020】
処方例2 クリーム
処方 配合量(部)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.5
2.スクワラン 6.0
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.水酸化ナトリウム 0.17
15.リン酸二水素カリウム 0.68
16.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合した後、成分1を加えて70℃に保ち油相とする。成分11〜16を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。調製時のpHは7.6。
【0021】
処方例3 乳液
処方 配合量(部)
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 0.5
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.ホウ酸ナトリウム十水和物 1.0
14.塩酸 0.17
15.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び10〜15を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。調製時のpHは7.6。
【0022】
処方例4 ゲル剤
処方 配合量(部)
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 0.1
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.80
12.塩酸 0.12
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜5と、成分6〜13をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。調製時のpHは7.8。
【0023】
処方例5 パック
処方 配合量(部)
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.2
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 0.1
10.リン酸二水素カリウム 0.09
11.リン酸水素二ナトリウム 0.09
12.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜12を均一に溶解し製品とする。調製時のpHは7.8。
【実施例2】
【0024】
実験例1 抗菌性試験
日本化学療法学会標準法のカンテン平板希釈法に準じて、pH6.2、6.8、7.4及び8.0におけるアクネ菌生物型1〜5に対するdl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムの最小発育阻止濃度(MIC、単位:μg/mL)を検討した。すなわち、変法GAM寒天培地(日水製薬)を各種pHに調整した60mMリン酸緩衝液に溶解し、115℃にて20分間高圧蒸気滅菌した後、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムを4000〜63μg/mLとなるように添加し、試験培地とした。試験菌液は、各種生物型のアクネ菌をGAM培地(日水製薬)、37℃にて2日間嫌気培養し、GAM培地にて10倍希釈して調製した。試験培地に一白金耳量の試験菌液を塗抹した後、37℃にて7日間嫌気培養し、菌の生育を肉眼にて判定した。
【0025】
結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
上記の表1から、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムの抗菌性は、pH7.4〜8.0において、アクネ菌生物型3に対して高くなることが明らかである。
【0028】
実験例2 使用試験
処方例1、比較例1及び2の化粧水を用いて、顔面にニキビを有する成人30名(男性15名、女性15名)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、アンケート調査によりニキビの改善について判定した。その結果、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムを含有し、且つpH7.4〜8.0であることを特徴とする抗菌剤は優れたニキビ症状の改善効果を示した(表2)。なお、試験期間中皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0029】
【表2】

【0030】
処方例2〜5で得られた化粧品、医薬品についても同様に使用試験を行った結果、いずれもニキビの予防改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のトコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、且つpH7.4〜8.0であることを特徴とする抗菌剤は、各種微生物に対する抗菌を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。特にニキビの予防及び治療を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェリルリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、且つpH7.4〜8.0であることを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
ニキビ(尋常性ざ瘡)の原因菌であるアクネ菌(Propionibacterium acnes)生物型3に対して抗菌性を示す請求項1記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項記載の抗菌剤を含有することを特徴とするニキビ治療用皮膚外用剤。
【請求項4】
次の成分(A)及び(B)を配合することを特徴とするニキビ治療用皮膚外用剤。
(A)請求項1又は2のいずれか一項記載の抗菌剤
(B)リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンから選ばれる化合物



【公開番号】特開2011−207808(P2011−207808A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77118(P2010−77118)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】