説明

抗菌剤

【課題】プロバイオティクスを利用し、腸内菌叢におけるバクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制する抗菌剤を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌からなる群から選択されるいずれかの細菌を、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌剤の有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)に対する抗菌剤に関する。また、本発明は、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物に関する。また、本発明は、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防用の飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内菌叢に存在する様々な菌のうち、バクテロイデス(Bacteroides)属に属する細菌は、日和見菌であり、宿主が健康な状態では宿主に重大な悪影響を及ぼさないとされている。一方で、宿主がスギ花粉症などのアレルギー症状を抱えている際、花粉の飛散に伴いバクテロイデス属細菌の1種であるバクテロイデス・フラギリスの菌数が増加するとの報告がある(非特許文献1)。また、腸内におけるバクテロイデス・フラギリスの菌数とアレルギー性疾患との関係も報告されている(特許文献1)。
バクテロイデス・フラギリスの菌株の多くは毒素を産生しないが、中には、メタロプロテアーゼという毒素を産生する毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)も存在する(非特許文献2)。このETBFについては、炎症性の下痢を始めとする様々な炎症性の腸疾患への関与が疑われている。近年では、動物実験でETBFが大腸癌を引き起こすこと(非特許文献3)、および結腸癌患者は健常人に比べETBF保有率が高いこと(非特許文献4)が報告されており、ETBFがヒトの大腸癌のリスク因子となっている可能性が考えられる。
【0003】
腸内菌叢に存在するバクテロイデス・フラギリスの増殖を抑制する方法としては、グラム陰性細菌が感受性を示す抗生物質を用いることが考えられる。しかしながら、近年はエリスロマイシンやテトラサイクリンなどの抗生物質に耐性を示す菌株が増えており、薬剤耐性遺伝子のプールとなることが懸念されている。
【0004】
他方、腸内菌叢において、乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる善玉菌が、バクテロイデス属細菌などのいわゆる悪玉菌の増殖を抑制することは知られている。例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)BB536には、バクテロイデス・フラギリス細菌の増加を抑制する作用があることが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−232690号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Odamakiら,アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology),74巻,21号,6814-6817頁,2008年
【非特許文献2】Sears,クリニカル・マイクロバイオロジー・レビューズ(Clinical Microbiology Reviews),22巻,2号,349-369頁,2009年
【非特許文献3】Wuら, ネイチャー・メディスン(Nature Medicine),15巻,1016-1022頁,2009年
【非特許文献4】Toprakら,クリニカル・マイクロバイオロジー・アンド・インフェクシャス・ディジーズ(Clinical Microbiology and Infectious Diseases),12巻,8号,782-786頁,2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プロバイオティクスを利用し、腸内菌叢におけるバクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制する技術を提供することを課題とする。具体的には、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌剤、及びバクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物、並びに、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防用の飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々の乳酸菌が持つ機能について鋭意探索を重ねた結果、ラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌から選ばれる細菌がバクテロイデス・フラギリスに対して強い抗菌活性を示すことを見出し、発明を完成させた。
すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
【0009】
本発明は、ラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌からなる群から選択されるいずれかの細菌を有効成分とするバクテロイデス・フラギリスに対する抗菌剤に関する。
本発明の抗菌剤は、バクテロイデス・フラギリス(毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリス(NTBF)、及び毒素を産生するバクテロイデス・フラギリス(ETBF、毒素産生バクテロイデス・フラギリス)を含む)の生育又は増殖を抑制するのに有効である。
【0010】
本発明の抗菌剤は、毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリス(NTBF)に対して有効である。NTBFとして、例えば、バクテロイデス・フラギリス ATCC 25285が挙げられる。また、本発明の抗菌剤は、毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)に対して有効である。ETBFとして、例えば、バクテロイデス・フラギリス MBFT101(JCM 17585)、バクテロイデス・フラギリス MBFT201(JCM 17586)、バクテロイデス・フラギリス MBFT301(JCM 17587)、バクテロイデス・フラギリス 2-078382-3(ATCC 43858)が挙げられる。
【0011】
本発明において、ラクトバチルス属に属する細菌としては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)が好ましく用いられる。
また、ラクトコッカス属に属する細菌としては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)が好ましく用いられる。
また、ストレプトコッカス属に属する細菌としては、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)が好ましく用いられる。
これらの菌種は、バクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制する効果に優れる。
【0012】
中でも、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6(FERM BP−10758)、ラクトバチルス・ロイテリ JCM 1112、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス ATCC 19435、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902(FERM P−17216)が好ましく用いられる。
これらの菌株は、バクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制する効果に優れる。
【0013】
本発明は、また、本発明の抗菌剤、及び薬学的に許容される担体を含有する、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物に関する。
本発明は、また、本発明の抗菌剤を含有する、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防用の飲食品に関する。
毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされる疾患としては、アレルギー性疾患、炎症性の腸疾患、大腸癌、結腸癌が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗菌剤は、バクテロイデス・フラギリスに対し優れた抗菌効果を示す。
そして、本発明の医薬組成物をヒトや動物の腸内に投与することにより、腸内菌叢におけるバクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制し、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患を予防したり治療したりすることができる。本発明の医薬組成物は、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされ得る、アレルギー性疾患、炎症性の腸疾患、大腸癌、結腸癌などの予防や治療に有用である。
また、本発明の飲食品を摂取することにより、腸内菌叢におけるバクテロイデス・フラギリスの生育又は増殖を抑制し、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患を予防することができる。本発明の飲食品は、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされ得る、アレルギー性疾患、炎症性の腸疾患、大腸癌、結腸癌などの予防に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、百分率は、特に断りのない限り質量による表示である。
【0016】
本発明の抗菌剤の有効成分は、ラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌から選ばれる。本発明においては、これらの細菌を含む種々の試料から、これらの細菌を分離して用いることもできるし、市販菌株や寄託菌株を用いることもできる。
【0017】
ラクトバチルス属に属する細菌としては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスの菌株、及びラクトバチルス・ロイテリの菌株が好ましく用いられる。
中でも、好ましい菌株として、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6、ラクトバチルス・ロイテリ JCM 1112が挙げられる。
【0018】
また、ラクトコッカス属に属する細菌としては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスの菌株が好ましく用いられる。
中でも、好ましい菌株として、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス ATCC 19435が挙げられる。
【0019】
また、ストレプトコッカス属に属する細菌としては、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルスの菌株が好ましく用いられる。
中でも、好ましい菌株として、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902(FERM P−17216)が挙げられる。
【0020】
上述した菌株のうち、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成19年1月17日付けで受託番号FERM BP−10758にて寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6の菌学的性質は、特開2008−237198号公報に記載される通りである。
【0021】
また、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、平成11年2月17日付けで受託番号FERM P−17216にて寄託されている。ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902の菌学的性質は、特開2000−236872号公報に記載される通りである。
【0022】
上述した菌株のうち、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスATCC 19435は、American Type Culture Collection(ATCC)から、また、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112は、Japan Collection of Microorganisms(JCM、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室)から、一般に入手することが可能である。
【0023】
上記菌株のうち、特に好ましいのは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6である。これは、試験例に示す通り、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリスであるETBFに対し、極めて顕著な抗菌活性を有するためである。
【0024】
本発明の抗菌剤における抗菌効果は、有効成分であるラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌から選ばれる細菌を、抗菌の対象となるバクテロイデス・フラギリス(毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリス(NTBF)、又は毒素を産生するバクテロイデス・フラギリス(ETBF))とともに混合培養した際の、バクテロイデス・フラギリスの生育率で表すことが可能であり、バクテロイデス・フラギリスのみを培養した場合に比して70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましいものである。
【0025】
本発明の抗菌剤が、抗菌の対象とするバクテロイデス・フラギリスには、毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリス(NTBF)、及び毒素を産生するバクテロイデス・フラギリス(ETBF、毒素産生バクテロイデス・フラギリス)が含まれる。
毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリスの菌株としては、バクテロイデス・フラギリス ATCC 25285などが挙げられる。また、毒素産生バクテロイデス・フラギリスの菌株としては、バクテロイデス・フラギリス 2-078382-3(ATCC 43858)、バクテロイデス・フラギリス MBFT101(JCM 17585)、バクテロイデス・フラギリス MBFT201(JCM 17586)、バクテロイデス・フラギリス MBFT301(JCM 17587)などの菌株が挙げられる。これらの菌株のうちATCC 25285、ATCC 43858はATCCから、JCM 17585、JCM 17586、JCM 17587はJCMから、一般に入手することが可能である。
なお、JCM 17585、JCM 17586、JCM 17587は、本発明者らがヒト糞便中から分離した菌株である。菌株の同定は、例えば、「『微生物の分類・同定実験法−分子遺伝学・分子生物学的手法を中心に−』、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社発行、2001年9月16日発行」に記載されている方法(P.9-14, P.48-64, P.231-285等)に従って、各種菌株の16S rRNA遺伝子の全長を解析することにより行った。
【0026】
上述したラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌(以下、まとめて「乳酸菌」という場合がある)は、公知の方法により培養することができる。
【0027】
後述する試験例に示す通り、上記乳酸菌は、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性を示す。従って、上記乳酸菌を含む本発明の抗菌剤は、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物、又は該疾患の予防用の飲食品に、有効成分として含有させることができる。ここで、「予防」の概念は、疾患が発生するリスクを低減させることを含む。
非特許文献1に記載されるように、バクテロイデス・フラギリスは、宿主がスギ花粉症などのアレルギー症状を抱えている際、花粉の飛散に伴い宿主の腸内で増殖する傾向にあることが知られている。また、特許文献1に記載されるように、バクテロイデス・フラギリスの菌数とアレルギー性疾患との関係も知られている。
また、非特許文献2〜4に記載されるように、毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)は、炎症性の下痢等の炎症性の腸疾患、大腸癌、結腸癌等の疾患の原因となり得る。
【0028】
従って、上述した乳酸菌を含む本発明の抗菌剤は、例えば、アレルギー性疾患、炎症性の腸疾患、大腸癌、結腸癌などの毒素産生バイテロイデス(ETBF)によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物、又は該疾患の予防用の飲食品に、有効成分として含有させることができる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、有効成分である上記乳酸菌を、薬学的に許容される担体を用いて製剤化することにより製造できる。
この場合において、医薬組成物における上記乳酸菌の含有量は、通常0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
また、医薬組成物における上記乳酸菌の含有量は、通常1×106〜1×1012CFU/g、好ましくは1×107〜5×1011CFU/gである。
また、本発明の医薬組成物には、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。また、本発明の医薬組成物は、ビフィドバクテリウム属に属する細菌(以下「ビフィズス菌」ともいう)をさらに含んでいる形態であってもよい。後述する試験例に示す通り、ビフィズス菌もまた、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性を有するためである。
【0030】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。また、投与形態としては、上記乳酸菌が腸に到達する形態であればよく、患者の症状等に応じて経口投与及び非経口投与の何れを選択してもよい。
上記乳酸菌の投与量は、医薬組成物の剤形、患者の症状、年齢等によって異なるが、一日当たり、通常2×106CFU/kg体重以上、好ましくは2×107〜2×109CFU/kg体重を目安とすることができる。また、投与は、1日に1回又は数回に分けて行うことができ、投与期間は、数日以上継続することが好ましい。
【0031】
本発明の飲食品は、有効成分である上記乳酸菌を、通常の飲食品の原材料と共に加工することにより製造できる。本発明における飲食品の定義には、哺乳動物に供与する飼料も含まれる。
この場合において、飲食品における上記乳酸菌の含有量は、飲食品の形態に応じて決定することができる。例えば、一日当たり、通常2×106CFU/kg体重以上、好ましくは2×107〜2×109CFU/kg体重の上記乳酸菌を摂取するのに適した含有量とすることが好ましい。
例えば、飲食品に対し、0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%程度の含有量とすることができる。また、飲食品に対し、通常1×106〜1×1012CFU/g、好ましくは1×107〜5×1011CFU/g程度の含有量とすることもできる。
【0032】
本発明の飲食品は、好ましくは機能性食品として販売されるものである。
「機能性食品」とは、疾患の予防効果又は疾患の発生リスクの低減効果が、直接的又は間接的に表示された食品を含む。例えば、現在、日本においては特定保健用食品、健康補助食品の態様で販売される食品が挙げられる。
【0033】
特に、飲食品の形態としては、十分量の乳酸菌が腸に到達し得るような形態が好ましい。このような形態として、例えば、発酵乳の形態が好ましく挙げられる。発酵乳は、上記乳酸菌を乳製品に添加して発酵させることにより製造することができる。
また、顆粒状、タブレット状又は液状のサプリメントとすることも、生菌数を維持し易い点、摂取者が有効成分の摂取量を把握し易い点で好ましい。
【0034】
本発明の飲食品は、「バクテロイデス・フラギリスの抑制のため」、「バクテロイデス・フラギリスを減らすため」、「バクテロイデス・フラギリスの抗菌のため」、「バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防のため」、「アレルギー性疾患の予防のため」、「花粉症の緩和のため」、「炎症性の腸疾患の予防のため」、「大腸癌又は結腸癌のリスクの低減のため」などの用途の表示が付された形態とすることが好ましい。すなわち、本発明の飲食品は、例えば、「バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防用」の用途が、直接的又は間接的に付された飲食品として販売することが好ましい。前記用途の表示としては、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性又は効果、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防に対する作用又は効果を表現する文言、該疾患の発生リスクを低減する作用又は効果に関する表現の全てを含む。
前記「表示」は、需要者に対して前記用途を知らしめる機能を有する全ての表示を含む。すなわち、前記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て前記「表示」に該当する。
また、前記「表示が付された」とは、前記表示と、飲食品(製品)を関連付けて認識させようとする表示行為が存在していることをいう。
表示行為は、需要者が前記用途を直接的に認識できるものであることが好ましい。具体的には、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装への前記用途の記載行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類(電磁気的方法により提供されるものを含む)への前記用途の記載行為が例示できる。
【0035】
一方、表示される内容(表示内容)としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。
例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等の表示を例示することができる。特に、厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができ、詳細にいえば、健康増進法施行規則(平成15年4月30日 日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、及びこれに類する表示が、典型的な例として列挙することが可能である。
【0036】
また、本発明の飲食品は、前記用途の表示に加え、前記有効成分の表示、さらには、前記用途と前記有効成分の関連性を示す表示を含むことも好ましい。
【0037】
次に、試験例を示して各種乳酸菌によるバクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性を詳細に説明する。
【0038】
[試験例1]
(1)ETBF、NTBF及び乳酸菌の前培養液の調製
ETBF(バクテロイデス・フラギリス JCM 17585、JCM 17586、JCM 17587)、NTBF(バクテロイデス・フラギリス ATCC 25285)及び表に示す乳酸菌を、グルコースを1%(w/v)添加したGAMブイヨン(日水製薬社製)培地を用いて嫌気条件で16時間培養し、各菌の前培養液を調製した。次に同じ培地に、乳酸菌、及びETBF又はNTBFの前培養液を1%(v/v)ずつ添加し、嫌気条件で8時間混合培養して試験混合液を調製した。続いて、試験混合液をNBGT寒天培地に接種し、コロニー数を測定した。検出された細菌のコロニー数から、上記の試験混合液1mL当たりのETBF生菌数又はNTBF生菌数(CFU/mL)を求めた。
対照実験として、ETBF又はNTBFの前培養液のみを1%(v/v)接種した試験液についても、同様にETBF生菌数又はNTBF生菌数を求めた。また、ETBF又はNTBFの前培養液のみを添加した試験液のETBF生菌数又はNTBF生菌数に対する、各試験混合液のETBF生菌数又はNTBF生菌数の割合を算出し、それぞれETBF生育率、NTBF生育率とした。
加えて、対照実験として、腸内菌叢を構成する菌であるビフィドバクテリウム属細菌についても、表1〜4に示す各種菌株を用いて同様に試験を行った。
【0039】
(2)試験結果
本試験の結果を表1〜4に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表1〜4に示すとおり、試験に用いた乳酸菌の全てが、ETBF、及びNTBFの生育を有効に抑制した。
特に、ETBF又はNTBFを、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902、ラクトバチルス・ロイテリ JCM 1112、又はラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス ATCC 19435と混合培養した場合には、ETBF又はNTBFを単菌培養した場合と比較して、ETBF生菌数又はNTBF生菌数を40%以下に抑制していた。
これより、これらの乳酸菌の菌株は、ETBF及びNTBFに対する抗菌活性を十分に有することが分かった。
特に、ETBF又はNTBFを、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL−6と混合培養した場合には、ETBF又はNTBFを単菌培養した場合と比較して、0.1%を大きく下回るまでETBF生菌数又はNTBF生菌数を抑制していた。この低下率は、他の乳酸菌の菌株、及びビフィドバクテリウム属菌に比べて、極めて顕著であった。
これより、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL−6は、ETBFに対する強い抗菌活性を有していることが分かった。
【実施例】
【0045】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
肉エキス50g、酵母エキス100g、ペプトン100g、乳糖200g、リン酸水素二カリウム50g、リン酸二水素カリウム10g、シスチン4g及び水9.5Lの組成からなる培地を用い、25℃で16時間前培養して調製したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6(FERM BP−10758)のシードカルチャー500mLを、前記培地と同一組成の培地10Lに接種し、37℃で16時間培養した。更に、115℃で30分間殺菌した前記培地と同一組成の培地200Lに、前記培養液全量(10.5L)を接種し、37℃で16時間培養した。培養後の生菌数は2.9×109CFU/mLであった。
次いで、シャープレス型遠心分離機を用いて、遠心分離(15,000rpm)により菌体を集め、培地と同量の生理食塩水(90℃、30分間殺菌済)に懸濁し、前記と同様遠心分離して再度集菌した。集めた菌体を、脱脂粉乳10%、蔗糖1%、グルタミン酸ソーダ1%からなる溶液(90℃、30分間殺菌済)20Lに懸濁し、常法に従って凍結乾燥し、8.4×1010CFU/gのラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6(FERM BP−10758)を含む粉末約2.2kgを得た。
この粉末は、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性を有するため、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物や飲食品に配合することができる。
【0046】
[実施例2]
還元難消化性デキストリン14kg及びソルビトール6kgに、実施例1で得られたラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6を含む粉末20gを加えて均一に混合し、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6の菌末を含有する生菌剤約20kgを得た。
この生菌剤は、バクテロイデス・フラギリスに対する抗菌活性を有するため、バクテロイデス・フラギリス、特に毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物や飲食品として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の乳酸菌を有効成分とする抗菌剤、及びこの抗菌剤を応用した医薬組成物や飲食品は、バクテロイデス・フラギリスの抗菌手段として効果的である。また、本発明の医薬組成物や飲食品は、毒素産生バクテロイデス・フラギリス(ETBF)によって引き起こされるアレルギー性疾患、炎症性の下痢等の炎症性腸疾患、大腸癌、結腸癌等の予防及び/又は治療に用いることができる。乳酸菌は、安全で副作用が少ないことも知られているので、長期間の日常的な摂取にも適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス属に属する細菌、ラクトコッカス属に属する細菌、及びストレプトコッカス属に属する細菌からなる群から選択されるいずれかの細菌を有効成分とするバクテロイデス・フラギリスに対する抗菌剤。
【請求項2】
ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス又はラクトバチルス・ロイテリである請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス TL6(FERM BP−10758)又はラクトバチルス・ロイテリ
JCM 1112である請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
ラクトコッカス属に属する細菌が、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスである請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項5】
ラクトコッカス属に属する細菌が、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス ATCC 19435である請求項4に記載の抗菌剤。
【請求項6】
ストレプトコッカス属に属する細菌が、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルスである請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項7】
ストレプトコッカス属に属する細菌が、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス M−9902(FERM P−17216)である請求項6に記載の抗菌剤。
【請求項8】
バクテロイデス・フラギリスが、毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項9】
毒素を産生しないバクテロイデス・フラギリスが、バクテロイデス・フラギリス ATCC 25285である請求項8に記載の抗菌剤。
【請求項10】
バクテロイデス・フラギリスが、毒素産生バクテロイデス・フラギリスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗菌剤。
【請求項11】
毒素産生バクテロイデス・フラギリスが、バクテロイデス・フラギリス MBFT101(JCM 17585)、バクテロイデス・フラギリス MBFT201(JCM 17586)、バクテロイデス・フラギリス MBFT301(JCM 17587)、又はバクテロイデス・フラギリス 2-078382-3(ATCC 43858)である請求項10に記載の抗菌剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗菌剤、及び薬学的に許容される担体を含む、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が、大腸癌又は結腸癌である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記疾患が、炎症性の腸疾患である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記疾患が、アレルギー性疾患である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗菌剤を含有する、バクテロイデス・フラギリスによって引き起こされる疾患の予防用の飲食品。
【請求項17】
前記疾患が、大腸癌又は結腸癌である、請求項16に記載の飲食品。
【請求項18】
前記疾患が、炎症性の腸疾患である、請求項16に記載の飲食品。
【請求項19】
前記疾患が、アレルギー性疾患である、請求項16に記載の飲食品。

【公開番号】特開2012−180289(P2012−180289A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42182(P2011−42182)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】