説明

抗菌剤

【課題】抗菌力に優れた新規な抗菌剤の提供。
【解決手段】下記式(1)または下記式(2)


(式中、RおよびRは、ともに炭素数5〜9の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を示す。)で表されるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤に関し、特にプロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルであるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パラベンの皮膚刺激性が問題となっており、安全面からその配合量の軽減が望まれている。化粧品の防腐殺菌剤として用いられるパラベン、安息香酸類、サリチル酸類などの防腐殺菌剤を低減又は排除する技術として、1,2−アルカンジオールからなる防腐殺菌剤などが開示されている(特許文献1参照)。しかし、1,2−オクタンジオールなどの1,2−アルカンジオールを単独で防腐殺菌剤として用いた場合、充分な効果を得るためには高配合量を必要とする場合があり、また、1,2−アルカンジオールは特有の原料臭を有する。このため、充分な防腐殺菌効果を発揮できる防腐殺菌剤の開発が望まれている。
【0003】
また、ヒドロキシカルボン酸のエステルが抗菌作用を示すことも知られており、例えば、α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤、及び、光学活性なα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを抗菌成分として含有する化粧料が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかし、上記ヒドロキシカルボン酸エステルの構成成分であるヒドロキシカルボン酸はいずれもα位に水酸基を有するものであり、β位に水酸基を有するβ−ヒドロキシカルボン酸については開示されていない。また、水酸基1個を有する1価アルコールとのアルキルエステルであり、プロパンジオールのような多価アルコールとのモノエステルに関しては記載されていない。さらに、ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルは水酸基の数が少ないため、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコールのモノエステルに比べて水との親和性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−322591号公報
【特許文献2】特開平8−325107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、プロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルからなる、抗菌力に優れた新規な抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、プロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルがカビ、酵母などの菌に対して優れた抗菌力を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 下記式(1)または下記式(2):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、RおよびRは、ともに炭素数5〜9の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を示す。)で表されるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤、
〔2〕 RおよびRが、ともに炭素数が7〜9の非分岐の、飽和または不飽和アルキル基である、前記〔1〕に記載の抗菌剤、
〔3〕 前記〔1〕または〔2〕に記載の抗菌剤を含有する化粧品、
〔4〕 前記〔1〕または〔2〕に記載の抗菌剤を食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、口腔衛生製品、医薬部外品、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る抗菌剤は、特定のプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルからなるので、カビ、酵母などの真菌類に対して優れた抗菌力を示す。このため、該抗菌剤を例えば、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、口腔衛生製品、医薬部外品、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合することで、細菌感染や食中毒など予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試料中の残存菌数の経日変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗菌剤は上述したとおり、プロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルであるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる点に特徴を有する。
【0014】
具体的には、1,2−プロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルである、下記式(1):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは炭素数5〜9の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を示す。)で表されるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル、または1,3−プロパンジオールとβ−ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするエステルである、下記式(2):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは炭素数5〜9の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を示す。)で表されるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル、が挙げられる。
【0019】
上記プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルのうち、抗菌力に特に優れる点で、Rとしては炭素数が7〜9の非分岐の、飽和または不飽和アルキル基がより好ましく、R2としては、Rと同様に、炭素数が7〜9の非分岐の、飽和または不飽和アルキル基がより好ましい。具体的には、1,2−プロパンジオールを構成成分とするものとしては、Rの炭素数が7である下記式(3)で表される1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品3)、Rの炭素数が8である下記式(4)で表される1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシウンデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品2)、Rの炭素数が9である下記式(5)で表される1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシドデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品1)が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
また、1,3−プロパンジオールを構成成分とするものとしては、Rの炭素数が7である下記式(6)で表される1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品8)、Rの炭素数が8である下記式(7)で表される1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシウンデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品7)、Rの炭素数が9である下記式(8):で表される1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシドデカン酸エステル(後述する実施例における本発明品6)が挙げられる。
【0022】
【化5】

【0023】
上記エステルの構成成分であるβ−ヒドロキシカルボン酸について、RまたはRの炭素数が5〜9の非分岐の飽和アルキル基を有するものとしては、例えば、β−ヒドロキシオクタン酸、β−ヒドロキシノナン酸、β−ヒドロキシデカン酸、β−ヒドロキシウンデカン酸、β−ヒドロキシドデカン酸が挙げられる。また、RまたはRの炭素数が5〜9の非分岐の不飽和アルキル基を有するものとしては、例えば、β−ヒドロキシ−5−オクテン酸、β−ヒドロキシ−5−ノネン酸、β−ヒドロキシ−5−デセン酸、β−ヒドロキシ−5−ウンデセン酸、β−ヒドロキシ−5−ドデセン酸等が挙げられる。
【0024】
本発明の抗菌剤は、1,2−プロパンジオールまたは1,3−プロパンジオールと上述した特定のβ−ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体とを酵素反応(酵素としては、例えば、リパーゼを使用)または化学的合成法によりエステル化またはエステル交換(以下、まとめて「エステル化」という)して製造される。このエステル化に用いられるβ−ヒドロキシカルボン酸またはその誘導体は、例えば、クネベナーゲル縮合(Knoevenagel condensation)、ダルツェンス縮合(Darzens condensation)、レフォルマトスキー反応(Reformatsky reaction)等により製造することができる。上記のうちでは、収率や副産物の点でレフォルマトスキー反応が通常用いられる。
【0025】
以下では、本発明に係る抗菌剤の製造方法の一例として、レフォルマトスキー反応を用いてβ−ヒドロキシカルボン酸エステルを製造し、次いで該エステルとプロパンジオールとを、リパーゼを用いてエステル交換を経てプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルを製造する方法について具体的に説明する。
【0026】
レフォルマトスキー反応では、炭素数6〜10、好ましくは炭素数8〜10の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を有するアルデヒドとブロモ酢酸エステルとの縮合反応によりβ−ヒドロキシカルボン酸エステルが製造される。具体的には、炭素数が6〜10の非分岐の飽和アルキル基を有するアルデヒドとしては、例えば、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナールが用いられる。ブロモ酢酸エステルとしては、例えば、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸プロピル、ブロモ酢酸ブチル等が用いられる。レフォルマトスキー反応に使用される触媒としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、鉄等が挙げられる。
【0027】
次に、リパーゼを用いたエステル交換について説明する。エステル交換に用いられるリパーゼは、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。例えば、モノグリセリドリバーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ等が挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、このようなリパーゼとして、例えば、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ等が挙げられる。
【0028】
リパーゼは精製(粗精製および部分精製を含む)されたものを用いてもよい。さらに、遊離型のまま使用してもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定化して使用してもよい。
【0029】
反応混合液から、プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルを単離・精製する方法としては、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、膜分離等が挙げられ、これらは単独でまたは複数組み合わせて使用される。
【0030】
上述した本発明に係る抗菌剤の製造法について、オクタナールとブロモ酢酸メチルを出発原料として、レフォルマトスキー反応によりβ−ヒドロキシデカン酸メチルエステルを製造し、次いで該エステルと1,2−プロパンジオールまたは1,3−プロパンジオールとをリパーゼの存在下で反応させ、エステル交換により1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステルおよび1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステルを製造する方法を化学式で示すと下記式(9)のとおりである。
【0031】
【化6】

【0032】
本発明の抗菌剤は、酵母、黒カビ等の真菌類に対して優れた抗菌力を示す。このため、例えば、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、口腔衛生製品、医薬部外品、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に本発明の抗菌剤を配合すれば、抗菌対象物の抗菌力を高めることができる。抗菌対象物中の抗菌剤の含量は、通常0.01〜50重量%であり、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0033】
上記の抗菌対象物中に本発明の抗菌剤を配合する場合、該抗菌剤のうち1種を単独で用いてもよいが、2種以上を併用することもできる。また、本発明の抗菌剤と従来から知られている他の抗菌剤の1種または2種以上を併用することも可能である。併用できる他の抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、1,2−アルカンジオール、ポリリジン、リゾチーム、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキス等が挙げられる。さらに、本発明の抗菌剤は皮膚外用剤の一般成分と混合して使用に供することもできる。
【0034】
本発明の抗菌剤の形態は、上述した抗菌対象物に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0035】
上述した抗菌対象物に本発明の抗菌剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された種々の抗菌対象物から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0036】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0037】
<A.各種プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル等の合成例>
(1)1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル(本発明品1)の合成例
(1−1)レフォルマトスキー反応によるβ−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルの合成例
300mlの四口丸底フラスコに亜鉛6.5g、デカナール15.5g、トリメトキシボラン25mlおよび乾燥THF25mlを入れ、20℃、窒素気流下で2時間かけてブロモ酢酸メチル17.5gを滴下した。 滴下後、20℃で1時間撹拌したのち、飽和アンモニア水溶液25mlとグリセリン25mlを加えて10分撹拌した。有機層を分離し、水溶液層をジエチルエーテルで2回抽出した。その後、有機溶液を集めて脱溶媒を行い、残分を蒸留で精製してβ−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルを得た。
【0038】
(1−2)1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシドデカン酸エステルの合成例
50ml耐圧バイアル瓶に上記で得られたβ−ヒドロキシドデカン酸メチルエステル5g、1,2−プロパンジオール5g、固定化リパーゼ(製品名 Novozyme435:ノボザイムズジャパン株式会社)を0.05g添加し、50℃、10mmHgの減圧下で24時間撹拌を行った。反応後、得られた反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、純度99%の1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシドデカン酸エステル(本発明品1)を得た。
【0039】
(2)1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル(本発明品2〜5)の合成例
アルデヒドとして上記(1)で用いたデカナールに代えて、ノナナール、オクタナール、ヘプタナールおよびヘキサナールを用いたこと以外は、上記(1)と同様の方法により、それぞれ1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシウンデカン酸エステル(本発明品2)、1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル(本発明品3)、1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシノナン酸エステル(本発明品4)、1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシオクタン酸エステル(本発明品5)を得た。反応後、得られた本発明品2〜5の反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、各精製品の純度はいずれも99%であった。
【0040】
(3)1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル(本発明品6〜10)の合成例
上記(1),(2)で用いた1,2−プロパンジオールに代えて、1,3−プロパンジオールを用いたこと以外は上記(1),(2)と同様の方法により、それぞれ1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシドデカン酸エステル(本発明品6)、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシウンデカン酸エステル(本発明品7)、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル(本発明品8)、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシノナン酸エステル(本発明品9)、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシオクタン酸エステル(本発明品10)を得た。反応後、得られた本発明品6〜10の反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、各精製品の純度はいずれも99%であった。
【0041】
(4)グリセリンモノβ―ヒドロキシデカン酸エステル(比較品1)の合成例
上記(1)で用いた1,2−プロパンジオールとβ−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルに代えて、グリセリンとβ−ヒドロキシデカン酸メチルエステルを用いたこと以外は、上記(1)と同様の方法によりグリセリンモノβ―ヒドロキシデカン酸エステル(比較品1)を得た。反応後、得られた比較品1の反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行った結果、純度は99%であった。
【0042】
(5)β―ヒドロキシデカン酸カリウム(比較品2)の合成例
まず、上記(1)で用いたデカナールに代えて、オクタナールを用いたこと以外は上記(1)と同様の方法によりβ−ヒドロキシデカン酸メチルエステルを得た。次いで、50mlバイアル瓶に上記で得られたβ−ヒドロキシデカン酸メチルエステル5g、水酸化ナトリウム3g、水15ml、エタノール15mlを混合し、70℃で1時間撹拌した。その後、塩酸で酸性にし、ジエチルエーテルで抽出した。脱溶媒後、得られたβ−ヒドロキシデカン酸に当量の水酸化カリウムを含むエタノール溶液を加えて中和し、減圧下でエタノールを留去した後、乾燥してβ−ヒドロキシデカン酸カリウム(比較品2)を得た。
【0043】
<B.黒カビ、酵母に対する抗菌効果の確認試験>
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日水製薬社製、商品名「ポテトデキストロース液体培地」)0.5mlを入れ、上記(1)〜(5)で作製したプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステル(本発明品1〜10)、グリセリンモノβ―ヒドロキシデカン酸エステル(比較品1)、β―ヒドロキシデカン酸カリウム(比較品2)、皮膚外用剤の防腐補助剤として知られている1,2−オクタンジオール(比較品3)、1,2−プロパンジオール(比較品4)、1,3−プロパンジオール(比較品5)をそれぞれ添加し、培地中最終濃度で156ppm、312ppm、625ppm、1250ppm、2500ppmになるよう段階的に希釈して試料溶液を調製した。これらの試料溶液に対し、約1×106CFU/mlの黒カビ(A.niger、JCM10254)、酵母(C.albicans、NBRC1594)の各培養液を0.1ml添加し、好気条件下で30℃、4日間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして発育を阻止するために必要な最低濃度(以下、「最小発育阻止濃度」という)を測定した。表1に結果を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、本発明品1〜10は、対照とした1,2−オクタンジオール(比較品3)に比べて、黒カビ(A.niger)に対して同程度もしくはそれ以上の抗菌活性を示すことが分かった。本発明品1〜10の抗菌活性は、一方の構成成分であるβ−ヒドロキシカルボン酸の炭素数が多くなるほど大きくなる傾向にあったが、他方の構成成分であるプロパンジオールが1,2−プロパンジオールか1,3−プロパンジオールかによって有意差は認められなかった。
酵母(C.albicans)に対して、本発明品1〜4と本発明品6〜9は、対照とした1,2−オクタンジオール(比較品3)に比べて同程度以上の抗菌活性を示したが、本発明品5と本発明品10は、対照とした1,2−オクタンジオール(比較品3)に比べて抗菌活性が低いことが分かった。
また、β−ヒドロキシデカン酸誘導体である本発明品3,8と比較品1,2とを比べると、グリセリンエステル型である比較品1(グリセリンモノβ―ヒドロキシデカン酸エステル)やカリウム塩型である比較品2(β―ヒドロキシデカン酸カリウム)よりもプロパンジオール型の本発明品3(1,2−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル),本発明品8(1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル)の方が黒カビ(A.niger)や酵母(C.albicans)に対して非常に強い抗菌活性を示すことが分かった。
なお、本発明品1〜10の他方の構成成分である比較品4(1,2−プロパンジオール)と比較品5(1,3−プロパンジオール)は、黒カビ(A.niger)や酵母(C.albicans)に対して抗菌活性が低かった。
【0046】
<C.ローション中での防腐力評価試験>
表2に示す処方で、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール1000、POE(60)硬化ヒマシ油および水を含有する化粧品成分に、本発明品8(1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル)、比較品1(グリセリンモノβ―ヒドロキシデカン酸エステル)、比較品2(β―ヒドロキシデカン酸カリウム)および比較品3(1,2−オクタンジオール)のうちいずれかの抗菌成分を配合したローション(配合例1〜4)を作製し、後述するチャレンジテストにより防腐力を評価した。なお、対照として上記いずれの抗菌成分も配合しないローション(配合品5)を用いた。
【0047】
【表2】

【0048】
供試菌には、黒カビ(A.niger、JCM10254)を用いた。この菌を予め前培養した培養液を、約10〜10cfu/mlに調製し、菌濁液とした。なお、菌数はコロニーカウント法により確認した。次いで、オートクレーブにより滅菌した50mlバイアル瓶に配合例1〜5のローションを20g入れ、上記菌濁液を100μl接種して、25℃で培養を行った。試料中の残存菌数については接種後1時間後、1日後、7日後に各試料を0.5gずつ抜き取り、生理食塩水で希釈したものを寒天培地に塗布して24時間培養し、試料中の菌数を算出した。結果を図1に示す。
【0049】
図1の結果より、比較品3(1,2−オクタンジオール)を配合した配合例4の処方では、黒カビが死滅するまで14日必要であるのに対して、本発明品1(1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル)を配合した配合例1の処方では、黒カビが死滅するまで7日必要であった。本結果より、黒カビに対する防腐力は、配合例1の方が配合例4よりも高いことが分かる。
また、β−ヒドロキシデカン酸誘導体を配合した配合例2,3の防腐効果についてみると、比較品1(グリセリンモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル)を配合した配合例2と比較品2(β−ヒドロキシデカン酸カリウム)を配合した配合例3は、コントロール(配合例5)と同様に生菌数がほとんど減少しなかった。
以上の結果から、配合例1〜5の中では、本発明品8を配合した配合例1の防腐効果が最も高いことが分かる。
【0050】
<D.本発明に係る抗菌剤を配合した化粧料組成物の配合特性>
(化粧水の配合処方)
グリセリン 5.00重量%
ジプロピレングリコール(DPG) 3.00
POE(60)硬化ヒマシ油 0.60
クエン酸Na 0.15
クエン酸 0.01
グリシン 0.20
アラニン 0.10
ヒアルロン酸Na 0.01
1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル
0.30
水 残部
(製法)
グリセリン、DPG、POE(60)硬化ヒマシ油、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステルを混合し、70℃に加熱溶解した(これを混合物Aとする)。一方、クエン酸Na、クエン酸、グリシン、アラニン、ヒアルロン酸Na、水をそれぞれ室温で混合した(これを混合物Bとする)。続いて、混合物Aと混合物Bを合わせて50℃で混合し、化粧水を得た。
(配合特性)
1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステルは他の成分と容易に混和した。得られた化粧水には濁りや析出は見られなかった。
【0051】
(乳液の配合処方)
セタノール 1.00重量%
スクワラン 4.00
ステアリン酸 1.00
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(25EO) 3.20
グリセリンステアリン酸モノエステル 1.00
1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステル 0.30
γ−トコフェロール 0.05
BHT(酸化防止剤) 0.01
1,3−ブタンジオール 3.00
カルボキシビニルポリマー 0.20
水酸化カリウム 0.20
精製水 残部
(製法)
セタノール、スクワラン、ステアリン酸、γ−トコフェロール、BHT、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(25EO)、グリセリンステアリン酸モノエステル、1,3−プロパンジオールモノβ−ヒドロキシデカン酸エステルをそれぞれ混合し70℃に加温溶解した(これを混合物Aとする)。一方、1,3−ブタンジオール、カルボキシビニルポリマー、水酸化カリウムをそれぞれ室温下で混合した(これを混合物Bとする)。続いて、混合物Aと混合物Bを合わせて60℃に加温し精製水中に少量ずつ添加しながら激しく攪拌し乳化して乳液を得た。
(配合特性)
本発明品は他の成分と直ちに混和した。得られた乳液には分離や析出は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る抗菌剤は幅広い菌に対し優れた抗菌力を有し、かつ配合特性にも優れるので、食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、口腔衛生製品、医薬部外品、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物の配合成分として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または下記式(2):
【化1】

(式中、RおよびRは、ともに炭素数5〜9の分岐または非分岐の、飽和または不飽和アルキル基を示す。)で表されるプロパンジオールモノβ−ヒドロキシカルボン酸エステルからなる抗菌剤。
【請求項2】
およびRが、ともに炭素数7〜9の非分岐の、飽和または不飽和アルキル基である、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗菌剤を含有する化粧品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗菌剤を食品、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、口腔衛生製品、医薬部外品、生活衛生用品、衣類、塗料およびペット衛生用品から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56893(P2012−56893A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202218(P2010−202218)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】