説明

抗菌医療用包帯及び、創傷及びカテーテル部位の保護

抗菌医療用包帯は、微生物から保護し、滲出液を吸収し、治癒を促す様々な濃度の抗菌薬剤の組み合わせを提供する。抗菌薬剤はエタノール、過酸化水素、及び/またはエチレンジアミン四酢酸の組成物を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年9月1日出願の米国特許出願第12/874,188号の優先権、また、2009年9月2日出願の「Antimicrobial Medical Dressings and Methods of Protecting Wounds and Catheter Sites」を名称とする、米国特許仮出願第61/239,130号の優先権を主張する。米国特許出願第12/874,188号及び米国特許仮出願第61/239,130号は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来の医療用包帯は、創傷包帯、術後の包帯、及びその他の特殊な状況といった、様々な理由のために使用される。従来の医療用包帯の機能は、創傷部位の保護、及び微生物からの防護を含むことができる。例として、従来の医療用包帯は、被害者が遠隔地にて深刻な外傷または戦争による傷を受けた場合に、使用され得る。例えば、従来の医療用包帯は、治療が可能となる前に被害者に使用され、周囲の環境からの、ごみ、汚れ、常に存在する汚染微生物を、創傷部位内に留めるといった問題を引き起こし得る。従来の医療用包帯に抗菌剤を添加する際には、別の問題が発生する。添加された抗菌剤は、効果が過度に強く、組織に損傷を与え、または効果が穏やかすぎ、広域スペクトルの微生物に対し保護しきれない傾向にある。医療用包帯における抗菌剤の使用は、課題を提示している。
【0003】
その他の例として、抗菌剤は、手術部位の準備に使用される。通常は、抗菌剤の使用は、アルコールの後、ポピドンヨードを用いて皮膚を洗浄すること、または、代替的には、アルコールの後、クロルヘキシジンを用いて皮膚を洗浄することを含む。しかし、ひとたびこの方法で準備すると、手術部位は、接触感染生物または空気感染生物による再汚染に対して脆弱となり、これにより患者の手術部位、組織、または場合によっては血流中にまでその生物の感染をもたらし得る。このように、手術前の部位周辺の細菌汚染の可能性を防ぐことは、課題を提示している。
【0004】
細菌汚染におけるさらに別の課題が、カテーテル及びドレナージチューブにおいて生じる。カテーテルは、流体のドレナージ、流体の注入、または手術器具による接続を可能にでき、ドレナージチューブは流体のドレナージを可能にする。問題は、そのカテーテルまたはドレナージチューブの長期の使用により生じ、それは挿入点(すなわち、カテーテル部位もしくはドレナージ部位)における感染に対する脆弱化を生み出す。カテーテル部位またはドレナージ部位のすぐ近くの皮膚は、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌などといった、皮膚の細菌で汚染され得る。カテーテル部位またはドレナージ部位の周辺の皮膚の細菌は、患者の血流に入ることができ、また、生命を脅かすような問題をもたらし得る。このように、カテーテル部位またはドレナージ部位周辺の、細菌による汚染の可能性を防ぐことは、別の課題を提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、医療用包帯中の感染阻害溶液及び抗菌剤を使用して、微生物から防護することについて示す。実施形態において、感染阻害溶液は、さまざまな濃度の過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸ナトリウム、またはアルコールの組成物を含む。
【0006】
別の実施形態において、医療用包帯は、底層、底層上のガス透過性膜層、ガス透過性膜層内に配置される防腐剤、及びガス透過性膜層上の吸収性物質層を含む。防腐剤は、過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸ナトリウム、またはアルコールを含む。
【0007】
さらに別の実施形態において、本開示は、カテーテル部位における、感染を阻害する方法を示す。その方法は、ガス透過性膜層内に配置された防腐剤を含む包帯を提供することを含む。防腐剤は、過酸化水素、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA二ナトリウム、またはエタノールを含む。また、方法は、包帯の中央開口部にスリットを介してカテーテルを挿入すること、及び、患者の皮膚に、包帯の前面を適用することについても示す。
【0008】
この概要は、詳細な説明において以下でさらに説明される簡略化した形で、概念の選択を導くために提供される。この概要は、特許請求の対象の重要な特徴または本質的な特徴を特定すると意図されるものではなく、また、特許請求の対象の範囲を制限するために使用されると意図されるものでもない。
【0009】
詳細な説明を付随の図面を参照して説明する。図において、符号の一番左の数字が、符号が初めて現れる図を示す。異なる図面において、同じ符号の使用は、類似または同一の項目を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】抗菌医療用包帯の例の背面図を示す。
【図2】図1に示す抗菌医療用包帯の例の断面図を示す。
【図3】抗菌医療用包帯の別の例の断面図を示す。
【図4】抗菌医療用包帯の別の例の断面図を示す。
【図5】抗菌医療用包帯のさらに別の例の断面図を示す。
【図6】図5に示す抗菌医療用包帯の例の上面図を示す。
【図7】抗菌医療用包帯のさらに別の例の断面図を示す。
【図8】カテーテル部位に配置するための、抗菌医療用包帯の例の背面図を示す。
【図9】図8に示す抗菌医療用包帯の例の断面図を示す。
【0011】
詳細な説明
概要
感染阻害溶液は実施形態に記載され、また、抗菌剤の組み合わせを伴う抗菌医療用包帯は、別の実施形態に記載される。感染阻害溶液もまた、抗菌剤を含む。溶液における抗菌剤、及び包帯における抗菌剤の組み合わせは、微生物からの防護、滲出液の吸収、及び/または治癒を促進するため、種々な濃度で使用される。感染阻害溶液及び抗菌医療用包帯で使用される抗菌剤は、過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸ナトリウム、またはアルコールを種々の濃度で含むことができる。
【0012】
感染阻害溶液及び抗菌医療用包帯の両方が、様々な目的の達成のため、微生物からの防護を提供する。例として、種々な濃度の抗菌剤が、様々な外傷の段階または治癒の段階において、微生物に対する保護を提供することができる。例として、抗菌医療用包帯は、戦争の傷、やけど、切り傷、擦り傷などといった外傷のために、最初に適用され得る。抗菌医療用包帯の抗菌剤は、様々な治癒の段階において、患者の抗菌性の必要性に応じて、段階的に減量して適用され得る。
【0013】
別の例として、抗菌剤または感染阻害剤は、カテーテル及びドレナージチューブの使用中における、微生物による汚染に対する防護を提供できる。特に、抗菌医療用包帯は、留置の延長を目的とし、カテーテル部位にて、微生物に対する防護を提供するため、カテーテル部位に配置され得る。抗菌医療用包帯は、近位部位における微生物の汚染を減少させまたは排除し、また、カテーテルのポート及び管にバイオフィルムを形成する微生物を減少させまたは排除する。
【0014】
さらに別の例として、抗菌医療用包帯は、手術前及び手術中において、無菌部位を達成及び維持するために使用され得る。抗菌医療用包帯は、同時に手術部位へのアクセスを提供しながら、微生物からの防護の継続を提供することができる。他にも多くの抗菌医療用包帯の可能な使用法がある。
【0015】
記載されている技術の態様は、様々な医療用包帯及び/または組成物を任意の数で実施することが可能であるが、実施形態は、以下に例示する抗菌医療用包帯の文脈において記載される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
抗菌医療用包帯の例
抗菌医療用包帯、傷の感染を防止する方法、カテーテル部位にて感染を防止する方法、及び感染阻害溶液または感染防止溶液が、本明細書中に記載される。抗菌医療用包帯の例は、ほとんどの場合図1−9を参照して記載される。
【0017】
図1は、抗菌医療用包帯10の例の背面図を示す。抗菌医療用包帯10は、背面12を含む。抗菌医療用包帯10は、正方形として示されるが、例えば、円形、長方形、楕円形、多角形などといった代替となる形が考えられる。
【0018】
図2は、図1に示す抗菌医療用包帯10の断面図を示す。断面図は、図2の底部に沿って配置される背面12とともに、図1のライン2−2に沿って提示される。抗菌医療用包帯10は、最初に規定したように、背面12と対向する上側表面14を有する。
【0019】
抗菌医療用包帯10は、蒸気障壁及び物的障壁の層となり得る、背面層16を含む。背面層16は、酸素障壁として機能することができる。背面層16における物質の例として、ポリエチレン、アルミ箔、酸化アルミニウム、酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリプロピレン、有機シリコンベースポリマー(シリコン)ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、及びポリ塩化ビニルを含むが、これらに限定されない。さらに、吸収された、マイクロカプセル化された、またはさもなければ組み込まれた抗菌剤を含む、一般的には細かく分断されているもしくは粉末状である無機セラミック物質は、抗菌剤の放出のコントロールを提供するために利用され得る。実施形態において、防御層16は、2つまたはそれ以上のこれらの物質による二層または三層であり得る。図2に示すように、背面層16は、抗菌医療用包帯10の上側表面に、最初に提供され得る。背面層16の上側領域(穿孔ライン18の上部)は、背面層16の下側領域と、組成において異なることができ、上側及び下側の領域の物質は、例えば、上述の物質または他の物質から選択される。
【0020】
抗菌医療用包帯10はまた、背面層16の下側領域上に配置される膜20を含むが、最初に規定したように、図2に示すように、その膜20は背面層16によって完全に包み込まれている。膜20は、好ましくはポリマー物質により構成され、それは、酸素と液体の拡散を可能にする。代替的に、膜20は、ガス透過性膜層であり得る。膜20として利用され得る物質の例として、澱粉ポリマー、セルロースゲル、ポリエチレンフォーム、及びシリコンオープンセルフォームといったゲル物質を含むが、これらに限定されない。膜20は、溶液またはゲルを注入、コーティング、もしくは浸透させることができ、それにより抗菌の性質を有する。このような溶液またはゲルは、過酸化水素、過酸化カルバミド、その他の酸化剤、エタノール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAの塩、クエン酸ナトリウム、他のキレート材、界面活性剤、及び水を1つ以上含むことができる。別の実施形態において、溶液は、過酸化水素、EDTA、エタノール、及び水を、種々の濃度で含むことができる。
【0021】
図2に示すように、穿孔または切込み線は、背面層16の上側部分と下側部分の間に提供され得る。穿孔または切込み線は、図3に示すように、膜20の上側表面22を露出させるために、背面層16の上側部分の除去を可能とすることを提供する。背面層16の上側及び下側の層の接続の代替的な方法は、例えば、接着剤、ヒートシールなどといった、結合部位に沿って蒸気障壁を維持するために、2つの背面層を結合することが意図される。
【0022】
図3は、抗菌医療用包帯10の例の断面図を示す。膜20の上側表面22が示され、それは創傷部位と接するように構成される。上側表面22は、依然として微生物からの防護を提供しながら、手術部位へのアクセスを提供するため、透明、半透過的、または半透明物質を含むことができる。創傷部位に膜20の上側表面22を適用することにより、注入された感染阻害溶液または感染防止溶液は、患者または人の皮膚と接触させられ、感染阻害効果または感染防止効果を可能にする。「感染阻害溶液」という用語は、「感染防止溶液」という用語と互換可能に用いられ得、微生物からの防護、滲出液の吸収、及び/または治癒を促進する、種々の濃度の抗菌剤を含む溶液を示す。
【0023】
抗菌医療用包帯は、皮膚を断裂、穿刺、貫通した傷にも利用され得る。例示的な傷の種類として、刺し傷、やけど、切り傷、擦り傷を含むが、これらに限定されない。さらに、抗菌医療用包帯は、患者の体に装置を挿入する必要がある医療処置のために利用され得る。医療処置の種類の例として、外科的切開、針の部位、カテーテル部位(例えば、血管内または尿の透析カテーテル)、腹膜透析の部位、腹膜鏡手術アクセス部位、血管内のラインポート、ドレナージチューブ部位などを含む。さらには、抗菌医療用包帯は、医療処置が行われる予定の部位の前処置に対して利用され得る。例えば、針の部位、切開部位、またはカテーテル部位が識別され得、抗菌医療用包帯は、医療処置を行う前に適用され得る。このような部位の準備は、医療処置中に感染が発生するリスクを防ぐ、または最小限に抑えるため、抗菌感染阻害溶液による、部位の前処置を行うことができる。抗菌剤を伴う保護的包帯は、外科手術が行われるまでその場に置いておくことができる。追加の保護的包帯は、感染のリスクをさらに最小限に抑えるため、処置の後、適用され得る。さらには、膜20内の抗菌溶液におけるキレート剤の使用は、マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)活性を阻害できる。二価の補因子である亜鉛の結合は、有害な触媒された過剰な炎症反応を減少させる。
【0024】
キレート剤の存在は、やけどの治療に有用であり得る。メタロプロテナーゼまたはメタロプロテアーゼ(いずれかまたは両方、MMPs)の阻害効果は、MMPsレベルの増加により引き起こされるさらなる組織の破壊を、減じまたは回避することができる。やけどの場合、無制限なMMPの活性は、深さと範囲においてやけどの重傷度を増加させ得る。したがって、好ましい濃度の適切なキレート剤を含む、抗菌医療用包帯または感染阻害溶液によるやけどの治療は、MMPsにより引き起こされる潜在的な組織の破壊を、減じまたは防ぐことができる。適切なキレート剤は、クエン酸塩、EDTAまたはその塩、サリチル酸またはサリチル酸エステルといったその他の置換化合物、及び当業者によく知られている多くの他の化合物を含むが、これらに限定されない。濃度は、強度、安定性、及びその他の変数において変化するキレート剤の範囲内である傾向となる。創傷の状態もまた、かなり異なる。実際には、濃度は、治癒の進行またはその欠如の観察に基づき得る。
【0025】
抗菌剤は、多くの目的を有する。例として、殺菌剤とは、生物を殺す薬剤(例えば、殺芽胞剤、殺ウイルス剤、殺菌剤、及び殺原生動物剤)を指す。静菌剤とは、生物の成長を阻害する薬剤(例えば、静菌剤、静真菌剤、静芽胞剤)を指す。もう一つの目的は、微生物の防御メカニズムの破壊である。例えば、微生物の防御メカニズムの破壊は、創傷の感染または外科的な予防のために、全身に投与する抗菌剤を保護する。アミノグリコシド(すなわち、ゲンタマイシン、トブラマイシン、及びアミカシン)といった分子は、細菌に対して作用する薬物の治療レベルを可能とし得る。これは、強力な耐性グラム性桿菌(すなわち、シュードモナス種(亜種)、アシネトバクター亜種、及び大腸菌亜種)に対して特に重要だといえる。上述の抗菌剤は、生物の酵素(すなわち、ホスホリラーゼ、アミノアシルトランスフェラーゼ)を不活性化でき、それにより細菌に対するアミノグリコシドの活性を維持する。例えば、抗防御システムのための生化学的メカニズムのいくつかが知られており、ベータラクタム(ペニシリン様)、セファロスポリン、及びカルバパネム抗生物質である。
【0026】
図4は、抗菌医療用包帯の別の態様に従って、抗菌医療用包帯10の断面図を示す。図4に示す実施形態は、図2の実施形態の全ての要素を含み、また、その特徴は、以前の図と同様に番号が付けられている。追加の特徴には、新たな識別番号が割り当てられている。この実施形態において、膜20は、最外エッジ23を有する。図示された実施形態において、接着剤30は、膜20の最外エッジ23を越えた抗菌医療用包帯10の周辺領域において提供される。
【0027】
図5は、抗菌医療用包帯10のさらに別の例の断面図を示す。接着剤30は、最上側表面32を有し、それは、図5に示すように、背面層16の上側層の除去により露出され得る。最上側表面32は、創傷部位の外側領域において、患者の皮膚と接するように構成される。
【0028】
図6は、図5に示す抗菌医療用包帯10の例の上面図を示す。図5に示す断面図は、図6のライン5−5に沿って取られている。図6に示すように、接着剤30は抗菌医療用包帯10の境界領域全体の周囲に提供され得る。代替的に、接着剤30は、周囲に断続的に、すべての側面より少なく、周囲のコーナーにおいてのみ、といったように提供され得る(図示せず)。
【0029】
抗菌医療用包帯10のサイズは、いずれの特定のサイズにも限定されない。抗菌医療用包帯10は、様々なサイズで、接着剤ありまたはなしで提供され得る。抗菌医療用包帯10は、単一の針穿刺穴部位を覆う範囲の小ささにて、または身体の大きなやけどを覆う範囲の大きさにて提供され得る。
【0030】
図7は、抗菌医療用包帯10の別の例の断面図を示す。以前に識別された構造には、同じ識別番号が割り当てられ、また、追加の特徴には、新たな識別番号が割り当てられる。示すように、追加の層40は、膜20の上側表面22上に提供され得る物質により構成される。この態様において、最外表面42は、患者の皮膚と接するように構成される。最外表面42は、好ましくは吸収剤であり、それはスポンジ様であり、及び、フェルト様式またはセルロース系材料であり得る。そのような物質の存在は、汗、血液、または創傷滲出といった液体を吸収し、皮膚から離すのに有益であり得る。
【0031】
図8及び図9は、カテーテル部位での配置のために構成される、抗菌医療用包帯の例を示す。図8は、抗菌医療用包帯10の背面図を示す。抗菌医療用包帯10は、形状が円であるものとして示されるが、代替の形が考えられる。例えば、代替となる形は、楕円形、長方形、正方形、多角形、及び特定の身体部分に合うように設計された形状が含まれ得るが、これらに限定されない。例えば、頭の創傷、肘の創傷などを治療するため、特定の身体部分に良くフィットするものを提供するために、一般的には平面ではなく、三次元的、すなわち、凸、凹、またはそれらいくつかの組み合わせである、さらなる代替の形が考えられる。抗菌医療用包帯10は、外側エッジ50を含む。抗菌医療用包帯10を完全に通過する、中央開口部52が、中央に位置され得る。抗菌医療用包帯10の中央開口部52から外側エッジ50まで延びるスリット54が提供され得る。スリット54は、抗菌医療用包帯10の全ての層を通過する。
【0032】
図9は、図8の抗菌医療用包帯の例の断面図を示す。図9における断面図は、図8のライン9−9に沿って取られたものである。図9に示すように、中央開口部52も膜20の全ての層を通って延びる。この実施形態の抗菌医療用包帯10は、スリット54を経由し、開口部52を通ってカテーテルを設置することにより、また、患者の皮膚に対し、上側表面22を配置することにより、カテーテル部位にて適用され得る。膜20に、抗菌剤を含む溶液またはゲルを注入、浸透、またはコーティングすることができる。溶液は、1つ以上の、過酸化水素、過酸化カルバミド、その他の酸化剤、エタノール、EDTA、クエン酸ナトリウム、その他のキレート剤、界面活性剤、過酸化ベンジール、及び水を含むことができる。別の実施形態において、溶液またはゲル状の組成物は、様々な濃度で過酸化水素、EDTA、エタノール及び水を含むことができる。接着剤といった記載された任意の特徴及び任意の吸収層の何れかまたは全てが、示された特徴と組み合わせて利用され得ることに注意されたい。図8及び図9に示す抗菌医療用包帯10のサイズは、いずれの特定のサイズにも限定されないが、いくつかの実施形態は、カテーテルの適用のために抗菌医療用包帯に2から3インチの直径を利用できる。
【0033】
いくつかの実施形態において、抗菌医療用包帯は、スリット、穴、タブ、またはその他の開口部を有するよう構成され得る。開口部は、注射部位、カテーテル部位、切開部位、ドナーの皮膚移植部位などといった、装置が患者に挿入される皮膚の範囲にわたって配置され得る。抗菌医療用包帯は、開口部を通じて行われる処置を伴う医療処置中は、その場に留まり得る。医療処置中に環境にさらされる組織が最小限であることから、これにより可能な限り部位を無菌で維持することが可能である。
【0034】
使用前に、図1−9から説明される抗菌医療用包帯が、外側保護パッケージ中に含まれ得る。外側保護パッケージは、滅菌した袋、さや及び/または包装紙を含み得るが、これらに限定されない。外側保護パッケージ中の抗菌医療用包帯の滅菌は、ガンマ線照射、電子線照射、気化した過酸化水素、またはその他の従来の滅菌方法により行える。
【0035】
感染阻害溶液の適用例
加えて、抗菌性包帯は負傷部位、血管内のラインポートなどの洗浄に使用される感染阻害溶液を含む。例えば、感染阻害溶液は、抗菌性包帯10の膜20において、注入され、浸透され、またはコーティングされ得る。一般に、感染阻害溶液は様々な濃度で、水、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エタノール及び過酸化水素を含む。感染阻害溶液は水(すなわちH20)、EDTAのような強力で非毒性のキレート剤、短鎖一価アルコール(例えば、分子式C25OH、実験式C26Oのエタノール)、過酸化水素(すなわちH22)のような強力で小さな分子の酸化剤を含み得る。特定の態様において、好ましくは、溶液は本質的に、水、EDTA、エタノール、及び過酸化水素からなり得る。
【0036】
抗菌剤は、溶液のような液体、またはゲルの形体であり得、いずれも少なくとも2つの化学種を含む。複数の化学種は、互いに両立し得(すなわち混合しても有害な反応は生じない)、また好ましくは、pH調整剤、すなわち過酸化水素を必要とし得ることを除けば、互いに激しく反応することはない。化学種の組み合わせは安定した懸濁液、または好ましくは安定した溶液を形成することができ得る。抗菌剤は混和性があり、または水性媒体もしくは純水に少なくとも適度に溶解し得る。また、抗菌剤の化学種は、それぞれ別々に及び集合して、様々な濃度でヒトに対して非毒性であり得、これは抗菌剤に採用され得る。加えて、溶液中の化学種は、低分子化合物を含み得、従って包帯の半透過性の膜にわたって素早い拡散を容易にする。また、少なくとも1つの化学種は、緩衝作用を有し得、それにより溶液のpHを所望の最終pHに調整することができ、包帯がその全ての機能を果たすのに十分な時間そのpHを維持する。一般的に、所望のpHは身体の生理的値のそれであり、約7.4であるが、他のpH値も特定のまたは稀な場合にはより望ましいかもしれない。さらに、抗菌剤の化学種が、親油性及び疎油性の性質を異なる度合で有することで、抗菌剤を、特定の適用の必要性に応じて、特定の溶媒特性に対して「設計」することができる。例えば、抗菌性溶液を含む候補として、ほぼ純粋な、または濃縮体のアルコールは親油性が高い。さらにアルコールはまた水中で低い濃度で存在する場合、疎油性がある。
【0037】
抗菌剤の溶液は通常、約70体積%以下のエタノールを含み、好ましくは約50体積%以下のエタノールを含む。さらに別の実施形態においては、溶液は、約5%〜約30%の範囲でエタノールを含み得る。溶液は、加えて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはNa、K、Ca、またはEDTA二ナトリウムのようなその塩を約5mg/ml〜約50mg/ml含む。溶液は約7.5体積%以下の過酸化水素を含み得る。別の実施形態では、溶液は約0.5%過酸化水素〜約5%過酸化水素を含み得る。溶液の残りの体積は水で構成される。
【0038】
いくつかの適用において、40%またはそれ以上の高い濃度のアルコールを必要とする。そのような適用において、EDTA濃度は可能な限り高くあるべきである。しかしながら、EDTAはエタノールに対しほぼ不溶性である。従って、抗菌剤の2つの非常に望ましい特徴である高いエタノール濃度及び高いEDTA濃度は、単一の安定な溶液で調製することができない。しかし、実験の間に、過酸化水素の存在下予期せぬ結果が生じた。本明細書に記載される抗菌剤において使用される高濃度エタノール溶液においてでさえ、固体のEDTAの沈殿は回避される。潜在的な抗菌剤の濃度の範囲は著しく上昇した。従って、過酸化水素の機能的価値は、抗菌特性を提供するということから、エタノール及びEDTAの両方で高い溶液を調製する手段を提供するということまで広がる。実施形態において、溶液は、約1.5%〜約6%の濃度の過酸化水素、最大約20mg/mLの濃度のEDTA、最大約70%の濃度のエタノールを含み、溶液の残りの体積は水で構成される。エタノールの添加前に添加される、溶液の過酸化水素含有量は、過酸化水素、EDTA、及び水の組み合わせを含む溶液を安定化する。EDTAは、pHが中性に近い範囲にある際、エタノール、水、及びEDTAの組み合わせで可能なものより、著しく高いレベルのまま溶液に残る。
【0039】
別の実施形態において、感染阻害溶液または抗菌性溶液は、安定でなく、過酸化水素の添加により可能な量におけるそれぞれ相互濃度のEDTA及びエタノールを含む。
【0040】
ある実施形態において、溶液は、安定しない量で、過酸化水素と共にあるそれぞれ相互濃度のEDTAとエタノールを含む。さらに別の実施形態では、溶液は、以下の作業を含む:pH電極を置き撹拌しながら、乾燥量のEDTAを容器へ添加し、約20%〜約30%の量の過酸化水素を添加し、最少量の水を添加し、約0.1〜約1.0Mの希釈量のNaOHを添加し、ここでpHが最小値になり約1分間安定を維持するまで撹拌を続ける。それから、撹拌し、pHをモニタリングしながら、所望の割合になる量のエタノールを添加し、所望のpH値になるまでさらにNaOHを添加し、そして、感染阻害溶液が所望の濃度になるようにさらに水を添加する。作業は任意の順序で、多様な抗菌剤を用いて行われ得る。
【0041】
本発明の感染阻害溶液は、針侵入部位、カテーテル部位、または切開部位を前処理するような医療行為に利用され得る。方法は、針侵入部位、カテーテル部位、または切開部位を特定すること、及び特定された部位の皮膚に感染阻害溶液を適用することを含む。溶液はさらに、術後の部位などの洗浄に利用され得る。
【0042】
感染阻害溶液はまた、多様な理由で、抗菌性包帯の防腐剤として使用され得る。それは、初期の外傷処置に使用され得、そして治癒が進むにつれ、包帯の強力な抗菌剤は、まだ必要であり得るが、微生物負荷が減少するので、よりわずかとなる。抗菌性包帯の望ましい特徴とは、現在の治癒段階で患者の抗菌性の必要性に合うように、濃度、量または組成物を調整する能力であり得る。抗菌力の段階的な減少は、濃度、量、または組成物に基づき、解放され得る。特に、治癒する組織は、治癒の段階に大きく依存する、正常な化学信号及び栄養の必要性や、成長因子などの生化学的な必要性を有している。治癒プロセスの後期段階における強力な抗菌治療は、修復の、酵素の、及び組織化学のメカニズムにより有害であり得る。従って、最初に感染阻害溶液において抗菌剤のより高い濃度を解放すること、及び治癒の各段階に基づいて抗菌力をゆっくりと段階的に減少させることは、いくつかの場合で有用である。抗菌剤の全体的な濃度を単に下げることは、いくつかの場合において、十分であり得る。他の実施形態において、他の成分は変えずに、関連する1つ以上の成分の濃度を下げることにより抗菌剤の組成物を変化させることは、より効果的であり得る。
【0043】
ある実施形態において、感染阻害溶液は、抗菌性包帯において、防腐剤として使用される。組成物はEDTA、エタノール、水、及び過酸化水素を含み得る。上記濃度のEDTAは過酸化水素を破壊することができる細菌酵素を不活性化することができる。細菌酵素はカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、及びグルタチオンレダクターゼを含む。EDTAは酵素活性のために金属イオン(すなわちFe+2、Zn+2)をキレートする能力を有する。EDTAは血液または血清で類似の酵素を阻害するので、皮膚及び軟組織での過酸化水素の活性を延長する。これは、抗菌及び抗バイオフィルム効果の遅延した放出を増やす。
【0044】
別の実施形態においては、外科手術の始まる前に抗菌性包帯を手術部位に適用し得、それにより、外科的侵入と可視性を同時に可能としながら、汚染されていない皮膚領域を作り、維持する。抗菌性包帯は、抗菌作用により汚染されていない部位を確立し得る。次に、これは手術前の十分な時間に適用することができ、抗菌作用がより徹底的に働くため、現在のやり方よりも効果的となり得る。切開を開始する前に、非常に強い抗菌剤を単に局所的に適用することにより可能となることよりも、抗菌性包帯を用いると皮膚や組織層へのより深い穿通が可能である。抗菌性包帯は、抗菌性包帯がその部位一面に留まり、同時に外科的アクセスを可能としながら、外科手術を続行できるような仕様で構成され得る。これらの理由から、半透過性または半透明の伸縮性のある物質で作られた皮膚に最も近い層(すなわち、患者の皮膚に近接した)を有することが有益である。また、物質は半透過性であり、図面に記載の膜のように吸収性容器からの小分子薬剤の移動を可能にし、抗菌剤を含み、抗菌性包帯の遠位部に層状となる。この移動は、部位への抗菌剤の継続的かつ制御された供給を提供する。
【0045】
さらに別の実施形態では、部位及び周囲の皮膚を保護された状態に維持しながら、部位の進行を視覚的に観察することを可能にするために、抗菌性包帯は部分的な開口部を含み得る。また、部位の視覚的観察後、抗菌性包帯は、すぐにその保護機能に戻り得、包帯の開存性を維持しながら、付随する危険を伴う包帯交換を最小限にする。好ましくは、この観察は、その後、近位の半透過性層を乱すことなく行われ得るが、最も遠位の耐久性のある保護層を可逆的に折り畳むことを必要とし、最も確実には、同時にかつ可逆的に吸収層を折り畳むことを必要とする。
【0046】
別の実施形態では、様々な適用のために、感染阻害溶液をゲル物質と組み合わせ得る。ゲル物質は、限定はしないが、ポリオールまたは他の不活性ゲル物質を含み得る。ゲルは、創傷部位を準備するための医療行為を行う前、手術後、カテーテル部位周囲、及び切開部位などに利用され得る。感染阻害溶液及びゲルの適用は、さらに綿棒または高分子発泡体の適用に利用され得る。さらに別の実施形態では、感染阻害溶液及びゲルは、ゲルまたは泡状の手の洗浄剤の用途に利用し得る。
【0047】
次は、細菌の増殖を阻害、減少、または防ぐために感染阻害溶液を適用することについての議論である。カテーテルの侵入部分(すなわち、「部位」)のすぐ近くの皮膚は、大抵一般的な皮膚の細菌で汚染されている。これら一般的な微生物の薬剤の多くは、無傷の皮膚に有害なことはまれであるが、患者の深部組織に、または血流に侵入した場合、深刻な、生命にさえかかわる問題を起こす。微生物は黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌を含み得る。微生物はまた、カテーテル口や管を含み得る、医療機器のポリマー表面のような使用可能な表面に、及びいくつかの近年発見された事例では、その創傷組織自体に、保護バイオフィルムを形成することができる。微生物は、その中の微生物をより保護し、かつ抗菌剤に対する感受性を著しく下げるバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは、主にエキソポリサッカライド並びに一般的にタンパク質、死滅した細菌からのエンドトキシン、DNA、繊維状物質及び宿主のタンパク質さえも含む多くの他の構成要素から成る耐性「スライム」層を産することにより、表面に付着し、自身を保護する微生物の集合体である。
【0048】
上述のように、本明細書に記載の抗菌剤を含む感染阻害溶液は抗菌性包帯に使用される。特に、カテーテル部位に配置される感染阻害溶液を用いた抗菌性包帯の応用がいくつかある。用語「カテーテル部位に配置される感染阻害溶液を用いた抗菌性包帯」は、用語「カテーテル部位のための抗菌性包帯」と互換可能に使用され得、カテーテル部位に配置される溶液を伴う包帯を示す。
【0049】
カテーテル部位のための抗菌性包帯は、近い部位の微生物汚染、特にバイオフィルムを形成することができる微生物汚染を減じまたは除去する。また、カテーテル部位のための抗菌性包帯は、カテーテル部位近くの皮膚に汚染されていない領域を作り出す。この領域は、抗菌性包帯の交換の必要なく、少なくとも1〜3日間は汚染されていない状態に維持され得る。さらに、カテーテル部位のための抗菌性包帯は、汚染されていない皮膚領域を維持しながら、1日に複数回カテーテルへのアクセスを提供する。
【0050】
表は異なる適用に使用され得る様々な濃度の溶液を示す。各濃度は便宜上表に示すおおよその量である。おおよその量は、ミリグラム/ミリリッター、体積、割合、及びpH7.0〜7.8の範囲を達成するために必要な希釈量で示す。
【0051】
【表1】

【0052】
バイオフィルム中の、またはプランクトン様(自由遊泳)生物としての、いずれかの微生物のシステムは、その生命過程を維持するため、生化学的反応の複雑なシステムを利用する。たとえば、バイオフィルムを形成する生物は、特にグラム陰性細菌は、クオラムセンシング化合物のような、アシルホモセリンラクトン(AHL)由来の化合物を利用する。AHLは、いくつかの脂肪酸エステル基を含む。エステルは、カルボン酸とアルコールとの反応生成物であり、アルコールから酸を分解する反応を受けやすい。
【0053】
反応は、加水分解、または代替的には、元のアルコールが新しいアルコールに置換するエステル交換反応を含み得、異なるカルボン酸エステルを生成する。模式的に:
エステルの加水分解:R−COOEt+H2O→R−COOH+EtOH
(式中、Rはカルボン酸炭素鎖を表す。)
これを特定のAHLの事例に適用し、AHLの加水分解を示すと、
AHL−COOR+H20→AHL−COOH+R−OH(新しいカルボン酸)(式1)
a.AHLのエステル交換反応:
b.AHL−COOR+EtOH→AHL−COOEt+HOH(水)
である。
【0054】
これらの反応のいずれかは、バイオフィルムの生産を刺激するその本来の機能にもはや適していない化合物を産する。従って、バイオフィルムの形成の可能性は減少する。
【0055】
細菌の構造分子である毒素、エンドトキシンについて議論する。一般的に知られている2つは、グラム陰性細菌の死滅とその細胞壁の溶解によって放出されるリポ多糖類(LPS)とリポオリゴ糖類(LOS)である。エンドトキシンは、非常に有毒であり、重度の疾患を引き起こすことが可能であり、例えばマイクログラムのレベル以下で成人の毒性ショックや死を引き起こす。エンドトキシンは、脂質(主に脂肪酸)、多糖鎖、通常いくつかのタンパク質物質で構成される。脂肪酸部分に多糖類を接続する結合は、糖部分がアルコール機能を提供するエステルである。
【0056】
通常の加水分解とエステル交換反応の両方がLPSに起こる可能性があり、いずれの場合も、生成物はほとんど、または全く毒性がなく、通常の代謝過程で単純な分子に分解される。
LPS加水分解:LPS+H20→L−H+PS−OH
脂質 多糖類
LPSエタノール分解:LPS+EtOH→L−OEt+PS−H
脂質エステル 多糖類
【0057】
これらいずれかの反応は基質を分解する。したがって、感染阻害溶液は、エンドトキシンを放出する潜在的に危険な影響を減少させるために使用される。
【0058】
感染阻害溶液におけるEDTAの効果(例えば、キレート化)は、いくつかの方法で微生物の増殖を防ぎ得る。:EDTAのキレート化自体は以下のスキームで表され得、ここでCa+2は二価のカルシウムイオンであり、EDTAはジアニオン状態、EDTA-2である:
キレート化:EDTA-2+Ca+2→EDTA−Ca(EDTA−一カルシウム複合体)
【0059】
それは表皮ブドウ球菌の細菌濃度は、EDTAにより、バンコマイシンによる量よりわずかに少なく低下され得ることを示している。他の例では、金属イオンをキレートするEDTAの能力はバイオフィルム形成を妨害し得、それによって内在する細菌を解放する。したがって、内在する細菌は感染阻害溶液中にあるエタノールと過酸化水素による殺菌に対して感受性になる。
【0060】
また、EDTAは鉄イオンをキレートすることが知られている。例えば、鉄イオン(Fe+2及びFe+3)は、細菌及び真菌の増殖のための普遍的な必要条件である。EDTAは容易に両方のイオン体をキレートする。FeをキレートするEDTAを添加すること、増殖培地からFeを除去し、さもなくば生じる細菌や真菌の増殖をも防ぐことを以下に示す。鉄のキレート化は、次の通りである。
鉄(Fe+2)イオンのキレート化:
Fe+2−クロリド+EDTA→Fe+2−EDTA複合体+クロリド-2
細菌または真菌の増殖はない。
【0061】
上述したように、細菌及び真菌微生物のいくつかの種は、生物自体を高度に保護する胞子を形成する能力を有する。しかし、胞子を形成する生物の能力は、それらが強い耐性胞子殻を形成するため、胞子を破壊する問題を大いに悪化させる。このような胞子形成物は、胞子形成過程の一環として、二価のマンガンイオン、Mn+2を必要とすることが示されている。EDTAは、二価のMn+2イオンをキレートすることができることが知られており、従って、溶液からそれを除去することで、胞子の形成を遅らせ又は完全に防ぐ。その過程は以下の通りである。
Mn+2+EDTA→Mn+2-EDTA複合体
細菌または真菌の胞子形成はない。
【0062】
また、EDTAはキレート化に関連すると推測される付加的な利点を有することが知られている。この付加的な効果は、EDTAの存在により、細菌の胞子が植物状態に転換できないことである。EDTAの存在下でのこれらの胞子の電子顕微鏡検査では、超微細構造の損傷を検出することができない。EDTAの存在下での胞子は正常な胞子とすべての点で同じに見えるが、発芽することができず、それによってそれらは生育不能となる。
【0063】
上述したように、感染阻害溶液は抗菌性包帯で使用される。特に、感染阻害溶液を用いた抗菌性包帯の応用はいくつかある。感染阻害溶液を用いた抗菌性包帯は、手術前、手術中、手術後、及び様々な段階の治癒の間に、微生物の形成を減じまたは防ぐ。さらに、感染阻害溶液を用いた抗菌性包帯は、治癒を促進するために死んだ組織または古い組織を傷から除去する。
【0064】
負傷した組織が治癒する際、緊急課題の一つは、古い、病んだ、あるいは死んだ組織さえもが除去されるべきであるということである。この課題を達成するために、治癒しつつある身体は、多くの薬剤、特に細胞の構成要素を破壊するような酵素物質を利用する。酵素、プロテアーゼのそのような類の1つが、一般に発見される。プロテアーゼの中では、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)がある。MMPは、分子の活性部の中心に、金属イオン、通常Zn+2を含む。Zn+2イオンが活性部位に保持されるが、その機能のために部分的に露出しなければならないことが明らかとなっている。MMPは治癒に不可欠と見なされているが、過剰生産されるために治癒過程に対して過剰反応することがある。EDTAは、突出したZn+2イオンの露出部分をキレートすることにより、過剰反応を制御するのに役立ち得る。
MMPにおけるZnイオンのキレート化:
【0065】
【化1】

【0066】
感染阻害溶液に指定されるような抗菌剤は、微生物の増殖を破壊または減衰させることに限定されるものではなく、創傷治癒に重要な機能を有する。生物圏のほとんどに共通の生化学的特性の普遍的な性質のため、抗菌剤はまた、創傷内に存在する化学種(すなわち、宿主の微生物的観点から)と相互作用し得る。この理由のため、感染阻害溶液に指定されるような抗菌剤はまた、生化学的作用全体のより大きな範囲を修飾する外用剤として作用し得る。たとえば、通常の創傷治癒時には、サイトカイン及び/またはケモカインは、治癒領域に持ち込まれる。しかし、サイトカイン及び/またはケモカインの過剰産生は、有害となり得る。過酸化水素とサイトカイン及び/またはケモカインの相互作用は、単独で、またはエタノール及びキレート剤との組み合わせにおいて、サイトカイン及び/またはケモカインの構造的構成を変更するよう反応し得る。例えば、サイトカイン及び/またはケモカインを不活性化することにより、それらの濃度は、より効果的なレベルまで低下する。
【0067】
感染阻害溶液に指定されるような抗菌剤、過酸化水素は、微生物の増殖を破壊または減じるものに限定されてない付加的な機能を有する。多くの生化学的な結合は、還元状態、すなわち最小限の酸素が含まれる状態で、原子により形成される。過酸化水素または過酸化水素由来の化学基は、還元分子に酸素原子を付加することがあり、それによりそれらの化学構造と化学的性質が変化する。多くの事例において、酸化分子は通常の機能を果たすことはできず、細菌の死が生じる。多くのタンパク質分子は複合3次元形状を有し、(−SS−)基の存在により安定化される。システインアミノ酸残基から生じる個々のS原子は互いに離れているタンパク質のアミノ酸鎖の場所に配置されるが、鎖の折り畳み、ねじれやその他の歪みがそれらを近接させるため、互いに結合することができる。−SS−基となるようにS同士を結合させることは、タンパク質の構造的な3D形状における折り畳みまたはねじれ特性を保存する。その際、特定の形状は、一般的に、その酵素(触媒)機能を行うことを可能にするタンパク質分子の絶対的な特性である。過酸化水素による少量の酸化は、本質的な3D形状において主要な変化を齎し、酵素を非機能的な状態にする。これを模式的に、化学結合により結合したアミノ酸鎖として、記号ABC及びDEFを用いて図示する(結合は垂直または水平な短い線で表す)。
−S−S−結合の酸化:
【0068】
【化2】

【0069】
いくつかの事例において、より単純な形状は、さらに−SOHまたは−SO2Hのような硫黄の高酸化状態に変更され得る。重要な形状を失ったことで、酵素はもはや、その反応を触媒することができなくなり、細菌の死が生じる可能性がある。
【0070】
過酸化水素はまた、蒸気の形体で滅菌剤として作用することが知られており、一般的に多くの市販の滅菌装置に利用されている。滅菌装置で使用される過酸化水素は、上述のものに限定しないがそれらを含む様々な機構によって、微生物の体への優れた貫通力及び殺傷力を有する。また、液体過酸化水素が、7.5%以上のより高い濃度で強力な抗菌作用を有することが知られている。しかし、7.5%以上では、露出した皮膚に焼灼性刺激を起こし得るため、これらの濃度はヒトへの使用には適していない。より高い濃度は、抗菌溶液中で他の化合物を不安定にする傾向があり、安定化は溶液が強い酸性であることを必要とするため、通常、pHが3.0以下、むしろ2.0に近くになる。
【0071】
感染阻害溶液は、生理的pH、例えば約pH7.4またはそれに近い安定溶液を提供する。実施形態において、pHは約6.8〜約7.8の範囲である。皮膚への適用及び頚部、膣、肛門、及び口腔組織を含む上皮組織への適用でさえ、効果的となる。
【0072】
多くの事例では、分子構造は、化学的に「弱い結合」、すなわち分子が抗菌剤混合物中の薬剤による溶解を受ける部分(官能基)を提供する官能基を含む。しばしば、これらの官能基がその単純な構成要素に分離している場合、新しく放出された構成要素は、元の結合を再構築する可能性があり、従って、元の分子及びその特性を再産生する。これは、治癒過程全体としては逆効果である。例えば、加水分解によるエステルの開裂は、2つの小分子、アルコール、カルボン酸を産する。これらはいくつかの状況で逆行により再び結合してエステルにすることが可能である:
エステルの加水分解:R−COOEt+H20→R−C02H+EtOH

再エステル化:R−C02H+EtOH→R−COOEt+H20 (式2)
【0073】
より具体的な実施例は、式1に示すように、R基が長鎖脂肪酸であり、アルコールが一般的に糖分子であるAHLである。糖は、いくつかの酸素系官能基、またいくつかの事例においては酸化され得る他の基を含む。加水分解生成物が逆行する式2のように上記に示す逆反応を防ぐことが望ましい。逆反応は機能的AHLを再構築し、クオラムセンシングとバイオフィルム形成を進行させる。過酸化水素はいくつかの経路を介して分子内酸化部位の構造を変更し得る。例えば、糖における−OH基の付加により、構造上の特徴が許せば、ケトンまたはアルデヒド基となり得る。いずれの場合も、過酸化水素は元の反応生成物の変更により反応可逆性(式2)を防ぎ得る。従って、再エステル化が生じた場合でも、その反応生成物は、通常のAHLではなく、それゆえ、バイオフィルム信号を伝送するために機能することができない。
【0074】
ケトン生成物への糖の酸化(SuA及びSuB=糖部分)を以下に示す:

SuA−CH(OH)−SuB+H22→SuA−CO−SuB+H20→AHLなし

ケトン糖誘導体

アルデヒド生成物への糖の酸化:

SuA−CH2OH+H22 →SuA−CHO+H20→AHLなし

アルデヒド糖誘導体
【0075】
組織低酸素は、創傷治癒時に非常に望ましくない。嫌気性細菌またはウェルシュ菌を含み得るいくつかの傷の病原体は低酸素分圧の環境でのみ増殖し得る。虚血及び組織低酸素症の結果として、深刻な、あるいは致命的でさえあるガス壊疽が四肢の喪失または死を齎す。感染阻害溶液は、主に過酸化水素成分により、非常に酸化する。その小さな分子の性質、水性媒体におけるその特定の分子溶解性、及びエタノールの扶助による細胞障壁を横断する能力を理由として、過酸化水素は創傷領域内に高酸素の環境を作る。湿式または乾式の条件のいずれかにおけるこのような酸素環境では、一般的に創傷治癒を刺激することに積極的であり、虚血の負の影響を回避する。
【0076】
組織低酸素は、また宿主白血球の貪食機能障害を生じる。過酸化水素は宿主白血球の正常な貪食機能の回復を促進し、また食細胞の正常な殺菌作用を増加させる、酸素が豊富な環境を作成する。
【0077】
結論
本主題は、言語的に特定の構造的特徴及び/または組成物で記載されているが、添付の特許請求の範囲に定義されている本主題は、必ずしも記載された特定の特徴または組成物に限定されないことを理解されたい。むしろ、特定の特徴及び組成物は、特許請求の範囲を実施するための例示的な形態として開示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気障壁を含み、少なくとも1つ以上のアルミ箔、酸化アルミニウム、または酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリエチレン、またはポリプロピレンを含む下層と、
前記下層一面にあり、ヒトの皮膚と接触するよう構成される上側表面を有するガス透過性膜層と、
前記ガス透過性膜層内に配置され、少なくとも1つ以上の過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸塩、またはアルコールを含む防腐剤と、
を含む医療用包帯。
【請求項2】
少なくとも1つ以上のアルミ箔、酸化アルミニウム、酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシリコン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンまたはマイラを含む蒸気障壁を含む着脱可能な上層をさらに含む請求項1に記載の医療用包帯。
【請求項3】
前記着脱可能な上層及び前記下層が同一物質で形成される請求項2に記載の医療用包帯。
【請求項4】
前記着脱可能な上層が前記下層に着脱可能に接続され、前記着脱可能な上層が前記下層と前記着脱可能な上層との間の穿孔線で裂けることにより着脱するよう構成される請求項2に記載の医療用包帯。
【請求項5】
前記上層の周囲に粘着性物質領域をさらに含む請求項2に記載の医療用包帯。
【請求項6】
蒸気障壁を含み、少なくとも1つ以上のアルミ箔、酸化アルミニウム、酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシリコン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、またはマイラを含む下層と、
前記下層一面にあるガス透過性膜層と、
前記ガス透過性膜層内に配置され、少なくとも1つ以上の過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸塩、アルコールを含む防腐剤と、
前記ガス透過性膜層一面にあり、ヒトの皮膚と接触するように構成される上側表面を有する吸収物質層と、
を含む医療用包帯。
【請求項7】
前記医療用包帯が、前記医療用包帯を貫通する中央開口部及び前記中央開口部から前記医療用包帯の外縁を通り伸長するスリットを有する請求項6に記載の医療用包帯。
【請求項8】
前記医療用包帯の周囲に粘着物質領域をさらに含む請求項6に記載の医療用包帯。
【請求項9】
前記上側表面が少なくとも透明物質、半透過性物質、または半透明物質の一つを含む請求項6に記載の医療用包帯。
【請求項10】
前記医療用包帯がヒトの皮膚上の部位の進行を視覚的に観察することを可能にする部分的な開口部を含む請求項6に記載の医療用包帯。
【請求項11】
創傷部位を特定することと、
抗菌包帯を前記創傷部位に適用することを含む方法であって、
前記抗菌包帯が、
蒸気障壁を含み、少なくとも1つ以上のアルミ箔、酸化アルミニウム、酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシリコン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、またはマイラを含む下層と、
前記下層一面にあるガス透過性膜層と、
前記ガス透過性膜層内に配置され、少なくとも1つ以上の過酸化水素、過酸化カルバミド、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA塩、クエン酸塩、またはアルコールを含む防腐剤と、
前記ガス透過性膜層一面にあり、ヒトの皮膚と接触するように構成される上側表面を有する吸収物質層と、
を含む創傷感染を阻害する方法。
【請求項12】
前記創傷部位が、切開される部位またはカテーテルが配置されるための部位であり、
前記特定することと前記適用することが、前記創傷部位の前処置のために、切開またはカテーテルの配置よりも前に実行される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
微生物に対する保護を提供しつつ、外科手術を実行するために、前記創傷部位を介して抗菌包帯を通じてアクセスすることをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ガス透過性膜層内に配置され、少なくとも1つ以上の過酸化水素、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA二ナトリウム、水またはエタノールを含む防腐剤を含む包帯を提供すること、
前記包帯の中央開口部内のスリットを通してカテーテルを挿入すること、
前記包帯の前面を患者の皮膚に適用すること、
とを含むカテーテル部位の感染を阻害するための方法。
【請求項15】
前記包帯が、
蒸気障壁を含み、少なくとも1つ以上のアルミ箔、アルミ箔、酸化アルミニウム、酸化シリコンコーティングされたポリマーフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシリコン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、またはマイラを含む下層と、
前記下層一面にあるガス透過性膜層と、
前記ガス透過性膜層一面にあり、ヒトの皮膚と接触するように構成される前面を有する吸収物質層と、
を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記包帯が前記ガス透過性膜層内に配置される前記防腐剤にキレート剤を追加することをさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記包帯が前記ガス透過性膜層内に配置される前記防腐剤に過酸化ベンジールを追加することをさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項18】
約5〜約50mg/mlのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、
約70体積%以下のエタノール、
約7.5体積%以下の過酸化水素、及び

を含む感染阻害溶液。
【請求項19】
約3体積%以下の過酸化水素を含む請求項18に記載の溶液。
【請求項20】
医療用包帯、綿棒、高分子発砲体、または手洗浄剤のうち少なくとも1つにおける適用を含む請求項18に記載の溶液。
【請求項21】
過酸化水素の存在により可能となる安定でない量の各々相互濃度のEDTA及びエタノールを含む請求項18に記載の溶液。
【請求項22】
乾燥量のEDTAを容器に添加すること、
約20%〜約30%量の過酸化水素を添加すること、
最小量の水を添加すること、
希釈量が約0.1〜約1.0MのNaOHをpH電極存在下で撹拌しながら添加することであって、ここで、前記撹拌はpHが最小値に達し、約一分間安定するまで継続されること、
撹拌及びpHをモニタリングしながら、所望の割合に達するような量のエタノールを添加すること、
所望のpH値に達するようNaOHをさらに添加すること、
感染阻害溶液を所望の濃度にするようさらに水を添加すること、
とをさらに含む請求項18に記載の溶液。
【請求項23】
針導入部位またはカテーテル部位を準備する方法であって、前記方法は、
前記針導入部位または前記カテーテル部位を特定すること、
医療用包帯の感染阻害溶液を、患者の皮膚の前記特定された部位に適用すること、
とを含み、前記感染阻害溶液が、
水、
エタノール、
エチレンジアミン四酢酸、及び
過酸化水素
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−503713(P2013−503713A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528071(P2012−528071)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047756
【国際公開番号】WO2011/028965
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(507119249)ハイプロテック、 インク. (6)
【Fターム(参考)】