説明

抗菌性、抗真菌性、及び抗ウイルス性レーヨン繊維

本発明は、レーヨン繊維、並びに、繊維中に取り込まれた、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子から実質的になる単一の抗菌性、抗真菌性、及び抗ウイルス性の構成成分からなる、抗菌性、抗真菌性、及び抗ウイルス性のポリマー材料を提供し、ここで該繊維中の該粒子は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、銅を浸み込ませた、抗菌性、抗真菌性、及び抗ウイルス性を有するレーヨン繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗細菌性の繊維は、布、コンドーム、フィルター、おむつ、ベッドリネン、及び、細菌、真菌、若しくはウイルスを殺し、又はそれらの増殖を遅らせることが望ましい他の物品の製造に使用することができる。そのような繊維を製造するために、様々な手法が用いられてきた。例えば、PCT公報第WO98/06508号には、抗細菌性の繊維製品であって、その中の繊維が金属又は金属酸化物でめっきされたものが記載されている。米国特許第7,169,402号(この文献は参照により本明細書中に組み込まれる)には、銅酸化物の微細な粒子を含み、抗細菌性を示すポリアミド、ポリエステル及びポリプロピレンのようなポリマーが記載されている。
【0003】
ビスコースレーヨンは、人工の再生セルロース繊維であり、繊維製品(例えば衣服)、生理用品、及び内科外科用品の製造に広く使用されている。ビスコースレーヨンを製造する工程は、通常次のステップ(又は同等なもの)を含む:(1)浸漬(Steeping)、(2)破砕(Shredding)、(3)老成(Aging)、(4)キサンテーション(Xanthation)、(5)溶解(Dissolving)、(6)熟成(Ripening)、(7)紡績(Spinning)。ビスコースを製造する工程に関する様々なステップが、繊維製品の分野において公知であり(例えば、Encyclopedia of Chemical Technology Third Edition, 1982, Vol. 19, pages 855-880, John Wiley & Sonsを参照されたい、またこの文献は参照により本明細書中に組み込まれる)、またそれらのステップは以下に記載される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗細菌特性を有すると主張されたレーヨン繊維製品について既に記載されている。例えば、ダイワボウレーヨン株式会社(日本)は抗細菌特性を有すると言われている光応答性のセラミックスを含むレーヨンを市販している。米国特許第6,344,077号には、抗細菌特性を有し、かつ水溶性だと言われているキトサン、アルギン酸、又はこれらの化合物の誘導体を含むレーヨンが記載されている。しかし、安定であり、経済的であり、かつ効果的な抗菌特性、抗真菌特性及び抗ウイルス特性を有するレーヨン繊維が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
簡単な要約
一態様において、本発明は、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がその繊維中に取り込まれているレーヨン繊維を提供し、ここで該繊維中の該粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。本発明の別の態様においては、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がその製品中に取り込まれているレーヨン製品が提供され、ここで該製品中の該粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。本発明の一実施態様では、粒子は、0.5から2ミクロンの間の大きさであり、セルロース重量の0.25から10%の間の量で存在する。本発明の好ましい実施態様では、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子は、酸化第二銅の粒子、酸化第一銅の粒子、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0006】
関連する一態様では、本発明は、(i)レーヨンビコース(vicose)に銅酸化物の粒子を添加する工程、(ii)紡糸口金(spinnerette)を通してビコースを酸浴槽の中に押し出す工程、を含む、抗細菌特性、抗真菌特性、及び/又は抗ウイルス特性を有するレーヨン繊維を作製する方法を提供する。一実施態様では、酸浴槽は、硫酸を含む。一実施態様では、本発明の方法は(1)浸漬、(2)圧搾、(3)破砕、(4)老成、(5)キサンテーション、(6)ビスコースを調製するための溶解、(7)熟成、(8)ろ過、(9)脱気、(10)紡糸、及び(11)延伸、というビスコースレーヨンの製造ステップを含み、ここで銅酸化物の粉末は、ビスコースに添加される。
【0007】
関連する一態様では、本発明は、上記のようなレーヨン繊維を含む生地(cloth)、布、編み糸(yarn)、又は糸(thread)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、銅粒子がポリマーのスラリーに添加されたあとで、繊維中に埋まり、繊維から突き出している、レーヨン繊維の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
一態様では、本発明は、抗菌性、抗真菌性、及び/又は抗ウイルス性の材料特性を有するレーヨン繊維を提供する。このレーヨン繊維は、その繊維中に取り込まれた銅酸化物の水不溶性の微細な粒子を含み、ここで該粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。
【0010】
レーヨンは、精製したセルロースをセルロースキサンテートに変換し、セルロースキサンテートを希苛性溶液に溶解して「ビスコース」と呼ばれる粘性溶液(又はより正確には、懸濁液)を製造し、次いでビスコースを紡糸口金(spinneret)を通して酸浴槽の中に押し出すことによりセルロースを再生することにより、作製される。本発明のレーヨン繊維は、銅酸化物の微細な粒子をビスコースに添加することにより作製されうる。種々の可塑剤が、ビスコース繊維の製造において使用されており、例えば液体の吸収作用や引張強度の増強のような、様々な性質を繊維に与える。これらの可塑剤は様々な段階で添加することができるが、多くの場合キサンテーション段階、溶解段階、又は紡糸段階で添加される。本発明では、酸性度の高い雰囲気の反応を避けるために、銅酸化物の粉末は、レーヨンが紡糸口金を通して押し出される(紡糸段階)直前に好ましく添加される。
【0011】
レーヨン繊維の製造
本発明の理解を助けるために、レーヨンを作り出す工程をより詳細に記載する。
【0012】
ビスコースレーヨンを製造する工程は、一連のステップを含み、それらは(1)浸漬、(2)圧搾、(3)破砕、(4)老成、(5)キサンテーション、(6)溶解、(7)熟成、(8)ろ過、(9)脱気、(10)紡糸、及び(11)延伸又は引伸ばし、として特徴付けられている。本発明によれば、銅酸化物の粒子は、紡糸ステップの前に添加される。本発明の好ましい実施態様では、銅酸化物の粉末は、「溶解」ステップで添加される。本発明の好ましい実施態様では、銅酸化物の粉末は、溶解の最終段階(混合工程を含む)で添加される。
【0013】
これらの個々のステップの列挙にかかわらず、レーヨン製造の分野において非常に多くのバリエーションが公知であることは、当業者によれば理解されるであろう。例えば、紡糸の後、繊維は通常洗浄及び切断され、またそれに続く繊維加工のために仕上げられうる。様々な薬剤(例えば、可塑剤や紡糸添加剤)が、ビスコース及び/又は酸浴槽に添加されうる。例えば、典型的には、酸浴槽は、塩(例えば硫酸ナトリウムなど)、亜鉛、アミン(例えば、ジメチルアミン)、及びポリエーテルグリオール(polyetherglyol)を含む。好ましい実施態様では、酸浴槽は、硫酸ナトリウムを含む。本発明の好ましい実施態様では、酸浴槽は、亜鉛及び硫酸ナトリウムを含む。例えば上記Encyclopedia of Chemical Technology Third Editionを参照されたい。
【0014】
1.浸漬
セルロース(例えば、セルロース−パルプシート)を苛性ソーダ(又は水酸化ナトリウム)溶液で飽和させ、苛性溶液がセルロースに浸透し、その一部が「ソーダセルロース」(セルロースのナトリウム塩)に変換されるのに十分な時間浸漬したままにする。これはセルロース鎖の制御された酸化とセルロースキサンテートを形成するためのその後の反応を促進するために必要である。レーヨンの製造のための精製されたセルロースは、通常特別に加工された木材パルプ由来である。製紙及び他の目的のために使用されるより低質のパルプからそれを区別するために、「溶解セルロース」又は「溶解パルプ」と呼ばれることもある。溶解セルロースは、高いα−セルロース含量によって特徴付けられる、すなわち、溶解セルロースは長鎖の分子からなり、リグニン及びヘミセルロース、又は他の短鎖の炭水化物を比較的含まない。
【0015】
2.圧搾
ソーダセルロースは、機械的に絞られ、余分な苛性ソーダ溶液が除去される。
【0016】
3.破砕
表面積を増加させ、セルロースを加工しやすくするために、ソーダセルロースは機械的に破砕される。また、破砕することで苛性がより均一にセルロース中に行き渡る。この破砕されたセルロースは、しばしば「ホワイトクラム(white crumb)」と呼ばれる。
【0017】
4.老成
ホワイトクラムは、周囲の空気中の酸素と接触するように放置される。ホワイトクラムの高いアルカリ性により、セルロースは部分的に酸化され、より低分子量へと分解される。紡糸溶液に扱いやすい粘性を与えるために十分なほど短く、しかし繊維製品に良好な物理的性質を与えるのに十分なほど長い鎖長にするために、この分解は注意深く制御されなければならない。
【0018】
5.キサンテーション
適切に老成処理されたホワイトクラムを撹拌機、又は他の混合容器の中に入れ、ガス状の二硫化炭素で処理する。ソーダセルロースは、CSと反応し、キサンテートエステル基を形成する。二硫化炭素は、アルカリ性の媒体とも反応し、無機不純物を形成し、これはセルロース混合物に特徴的な黄色を与える―そしてこの材料は「イエロークラム(yellow crumb)」と呼ばれる。
【0019】
【化1】

【0020】
ソーダセルロースの結晶性領域では、CSへの接触可能性が大きく制限されるため、イエロークラムは、実質的にセルロースとセルロースキサンテートとのブロック共重合体である。
【0021】
6.溶解及び銅酸化物の添加
イエロークラムを、混合(例えば、撹拌)しながら苛性水溶液に溶解する。セルロース上の大きなキサンテート置換基が鎖を離れさせ、鎖間の水素結合を減少させ、そして水分子が溶媒和して鎖を分かれさせることによって、本来不溶性のセルロースが溶液となる。結晶性領域中の、キサンテーションされていないセルロースのブロックにより、この段階ではイエロークラムは完全には溶けない。セルロースキサンテート溶液(又はより正確には、懸濁液)は、粘性が非常に高いため、「ビスコース」と呼ばれている。
【0022】
もし銅酸化物が、ポリウレタン界面活性剤などの材料中に包まれていれば、そのときは銅酸化物をほとんどどの段階でも添加することができる。しかし、製造効率のため、また銅酸化物が酸性の環境にさらされることに関する問題を避けるために、銅酸化物は紡糸段階の直前に添加される。銅酸化物の粒子の大きさは紡糸口金の穴の大きさにより制限されるが、最大の大きさの粒子として1〜2ミクロンの大きさの粒子が推奨され、1ミクロンの大きさの粒子が好ましい。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、上記粒子は、最初のセルロース乾燥重量の0.25〜10%の量で含まれる。好ましい実施態様では、乾燥セルロース重量に対して0.5%〜3%の銅酸化物の粉末重量が用いられる。
【0024】
一実施態様では、銅酸化物の水不溶性の粒子は、酸化第二銅の粒子からなる。一実施態様では、銅酸化物の水不溶性の粒子は、酸化第一銅の粒子からなる。一実施態様では、銅酸化物の水不溶性の粒子は、酸化第二銅の粒子と酸化第一銅の粒子との混合物からなる。
【0025】
ある実施態様では、繊維は、銅酸化物の粒子以外の微細な粒子を実質的に含まない(すなわち、0.1%未満、好ましくは0.01%未満)。ある実施態様では、繊維は、銅酸化物以外の抗細菌性薬剤を含まない。ある実施態様では、繊維は、銅酸化物以外の抗真菌性薬剤を含まない。ある実施態様では、繊維は、銅酸化物以外の抗ウイルス性薬剤を含まない。ある実施態様では、繊維は、銅酸化物以外の金属酸化物を含まない。ある実施態様では、繊維は銅酸化物の粒子以外の微細な粒子を含まない(ここで微細な粒子とは、固形の、非セルロースの、粒子であって、大きさが0.1ミクロン〜50ミクロンの範囲、又は1ミクロン〜10ミクロンの範囲の粒子である)。
【0026】
7.熟成
ビスコースは、「熟成させる」ために一定の期間放置される。熟成の間に二つの重要なプロセスが起こる:再分布及びキサンテート基の喪失である。キサンテーション反応が可逆性であるため、キサンテート基の一部はセルロースの水酸基と遊離のCSとに戻る。次いで、この遊離のCSはそこから逃れるか又はセルロース鎖の他の部分上の他の水酸基と反応しうる。このようにして、規則正しい、又は結晶性の領域は次第に壊され、より完全な溶液となる。CSが失われることでセルロースの溶解度が減じ、フィラメントへと形成された後のセルロースの再生を促進する。
【0027】
8.ろ過
ビスコースはろ過され、紡糸工程を妨害し、又はレーヨンフィラメントに欠陥を引き起こす恐れのある溶解していない材料が除去される。
【0028】
9.脱気
ビスコース中に取り込まれた空気の泡は、押出の前に除去されなければならず、そうしないと、それらは、細いレーヨンフィラメントの中に空隙又は弱い点を生じさせる。
【0029】
10.紡糸
レーヨンビスコースの粘性のため、銅粒子は、その比較的高い比重により、マルチ(mulch)の底に沈むと予期されたが、しかし驚いたことに銅酸化物の粉末は懸濁状態のままだった。それでも、均一な分布を確実にするために、マルチを常に撹拌されている状態に保つことが推奨される。
【0030】
ビスコースは、多くの小さな穴のあるシャワーヘッドに似た紡糸口金器具を通して押し出される。それぞれの穴が、ビスコースの細いフィラメントを作り出す。ビスコースが紡糸口金から出る時に、硫酸、硫酸ナトリウム、及び通常はZn++イオンの溶液と接触するようになる。この時点でいくつかのプロセスが起こり、それにより、セルロースが再生されて溶液から沈殿する。押し出されたビスコースから水が拡散し、フィラメント中の濃度が高まり、溶解度の限界を超える。キサンテート基は、Zn++と錯体を形成し、セルロース鎖を結び付ける。酸性の紡糸浴は、キサンテート基を不安定なキサントゲン酸基(xantheic acid groups)に変換し、それによりCSが自然に失われ、セルロースの遊離水酸基が再生する(これは、不安定な炭酸を形成してCOを失うという、カーボネート塩と酸とのよく知られた反応に類似している)。その結果、セルロースの細いフィラメント、又はレーヨンが形成される。
【0031】
本発明の驚くべき、予期しなかった態様の一つは、酸にさらされることで銅酸化物が溶液中に戻り、そのため銅粒子を取り込んだレーヨン繊維の製造は達成できないだろうと予期されたが、しかし驚いたことにこのようなことは起こらなかった、ということである。
【0032】
11.引伸ばし
レーヨンフィラメントは、セルロース鎖がまだ比較的動きやすい状態の間に延伸される。これにより鎖が伸び、繊維軸に沿って配向する。鎖がより平行になるにしたがって、鎖間の水素結合が形成され、繊維製品ファイバーとして使用されるのに必要な性質がフィラメントに与えられる。
【0033】
12.洗浄
新たに再生されたレーヨンは、多くの塩と他の水溶性不純物を含んでおり、それらは除去される必要がある。いくつかの異なる洗浄技術が使用されうる。
【0034】
13.切断
レーヨンがステープル(すなわち、目立たない長さの繊維)として使用されるのであれば、フィラメントの束(「トウ」と呼ばれる)は、回転カッターに通され、綿とほぼ同様に加工されうる繊維を提供する。
【実施例】
【0035】
レーヨン繊維
銅酸化物の粉末をビスコースに添加して作製したレーヨン繊維を図1に示す。この電子顕微鏡写真は、銅粒子が部分的に埋め込まれたレーヨン繊維を示す(すなわち、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がレーヨン繊維に取り込まれており、ここで該繊維中の個々の粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出している)。米国特許第7,169,402号の図1は、同様に形成された銅酸化物の粒子を有するナイロン繊維を示す。米国特許第7,169,402号の抗菌性材料は、例えば、ポリアミド、ポリエステル、又はポリプロピレンのようなポリマーのスラリーを調製すること、加熱混合段階で銅酸化物を添加すること、液状のスラリーを紡糸口金と呼ばれる円形の一連の金属板上の穴を通して押し出すこと、により作製される。スラリーが互いに接近した細い穴を通って押し出される場合には繊維が形成され、あるいは互いに接触する状態であればフィルム又はシースが形成される。熱い液状の繊維又はフィルムは、冷たい空気で上に押され、連続した一連の繊維又は円形シートが形成される。繊維又はシートの厚さは、穴の大きさ、スラリーが穴を押し出され、冷たい空気の流れで上に押される時の速さによって制御される。
【0036】
レーヨンの製造方法は、ポリアミド、ポリエステル、及びポリプロピレンのようなポリマーの製造とは全く異なっており、銅酸化物の粒子がその繊維中に取り込まれ、その表面から突き出しているレーヨン繊維が、本明細書中に記載されたように調製し得たことは、大きな驚きであった。特に、銅酸化物は、塩酸、硫酸、又は硝酸などの鉱酸に溶解し、対応する銅塩を与える。最後の紡糸工程に必要な酸への露出が、銅酸化物を溶解させ、溶液に戻すと予期された。
【0037】
また、キサンテーションステップは、セルロースの破壊を含み、高レベルの亜鉛(本来そこに結合している)を遊離することから、銅(亜鉛を置換して、亜鉛結合を切断することが知られている)によるセルロース中の亜鉛の予期された置換により、銅は編み糸の中に組み込まれえないと信じられていた。
【0038】
さらに、レーヨンビスコースの粘性(約1〜1.1)により、銅酸化物の粒子(ほぼ6の比重を有する)は、ビスコースの底に沈むであろうと予期された。しかし、驚いたことに銅酸化物の粉末は、懸濁状態のままであることが見出された。
【0039】
したがって、これらすべての理由により、銅の減少を引き起こすと予期された亜鉛の存在にもかかわらず、また銅酸化物を溶液に戻すと予期された酸の存在にもかかわらず、本発明の繊維が、ポリエステル又はナイロンなどの完全合成品(これらは酸にさらされていない)と全く同じ構造を示すことは驚きであった。
【0040】
生物学的活性
露出し且つ繊維の表面から突き出している、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子を有する繊維は、抗細菌特性、抗真菌特性、及び抗ウイルス特性を有することが示されている(例えば、米国特許第7,169,402号)。同様に浸み込ませたレーヨン繊維が、同様な効果を有することは明らかである。生物学的活性は、米国特許第7,169,402号に記載されたものを含む(しかしこれに限定されない)、ルーチンなアッセイを使用して示しうる。適切なアッセイとしては、AATCCテスト方法100(AATCC Test Method 100)及び前記特許に記載されているHIV増殖アッセイが挙げられる。
【0041】
繊維製品及び他の製品
突き出している銅酸化物の粒子を有する、本発明のレーヨン繊維は、例えば、これに限定されないが、従来のレーヨン繊維(織物の形態であれ不織布の形態であれ)についてこれまでに考えられた任意の目的のために使用されうる。したがって、一態様では、本発明は、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がその繊維中に取り込まれているレーヨン繊維を含む布又は繊維製品を提供し、ここで該繊維中の該粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。一実施態様では、本発明の布は、レーヨン以外の繊維を含まない。一態様では、本発明は、銅酸化物の水不溶性の微細な粒子が繊維中に取り込まれているレーヨン繊維を含む糸又は編み糸を提供し、ここで該繊維中の該粒子の一部は露出し且つ繊維の表面から突き出しており、ここで該粒子は水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する。一実施態様では、本発明の糸又は編み糸は、レーヨン以外の繊維を含まない。さらに本発明には、不規則に分布又は分散したレーヨン繊維を有するシートなどの、不織布の形態のレーヨン繊維も含まれる。
【0042】
一般的な用法ではないが、レーヨンは、固形のシース又はシートとして形作られることもあり、その場合には銅酸化物の粒子は、その中に取り込まれ、その表面から突き出している。
【0043】
本明細書で引用された全ての刊行物及び特許文献(特許、公開された特許出願、及び未公開の特許出願)は、このような各刊行物又は文献が、参照により本明細書に組み込まれる旨、明確にかつ個別に表示されたかのように、参照により本明細書に組み込まれる。刊行物及び特許文献の引用は、このような任意の文献が関連する先行技術であると認めることを意図するものではなく、それらの内容又は日付についてのいかなる承認も構成するものではない。
【0044】
本発明が、前述の具体例の細部に限定されるものではないが、その本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形で具体化されうることは、当業者に明らかであり、それゆえ本発明の実施態様及び実施例は、前述の記載についてではなく、添付の特許請求の範囲についてなされた非制限的な、説明的な参照として、全ての点において考慮されることが望ましく、それゆえ特許請求の範囲の意味及び均等の範囲内で生じる全ての変更は、その中に包含されるものと意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がその繊維中に取り込まれているレーヨン繊維であって、該繊維中の該粒子の一部が露出し且つ繊維の表面から突き出しており、該粒子が水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する、レーヨン繊維。
【請求項2】
該粒子が、0.5から2ミクロンの間の大きさである、請求項1に記載のレーヨン繊維。
【請求項3】
該粒子が、セルロース重量の0.25から10%の間の量で存在する、請求項1に記載のレーヨン繊維。
【請求項4】
該銅酸化物の水不溶性の微細な粒子が、酸化第二銅の粒子、酸化第一銅の粒子、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のレーヨン繊維。
【請求項5】
銅酸化物の水不溶性の微細な粒子がその製品中に取り込まれているレーヨン製品であって、該製品中の該粒子の一部が露出し且つ製品の表面から突き出しており、該粒子が水又は水蒸気にさらされた時にCu++を放出する、レーヨン製品。
【請求項6】
(i)レーヨンビコースに銅酸化物の粒子を添加する工程、及び
(ii)ビコースを紡糸口金を通して酸浴槽に押し出す工程、
を含む、抗細菌特性、抗真菌特性、及び/又は抗ウイルス特性を有するレーヨン繊維を作製する方法。
【請求項7】
酸浴槽が硫酸を含む、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−522833(P2010−522833A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500428(P2010−500428)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000390
【国際公開番号】WO2008/117277
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(507145226)ザ カプロン コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】