説明

抗菌性を有する部材の製造方法

【課題】抗菌性を有する材料の微粒子を樹脂基体上に、その抗菌性を損なうことなく、かつ、樹脂基表面の、長期にわたって使用しても抗菌性が維持できる抗菌性を有する部材の製造方法を提供することにある。
【解決手段】抗菌性を有する材料の微粒子が基体の表面上に、シラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる抗菌性を有する部材の製造方法であって基体表面に抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する材料の微粒子が、基体上に固定されてなる抗菌性を有する部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙などの内装材やカーテン、絨毯などのインテリア材、コートや背広、下着などの衣類などは、カビや細菌などの微生物の繁殖により悪臭を放ったり、変色の発生原因になることから、最近ではこれらの製品にカビや細菌などの微生物の繁殖を抑制するため、抗菌性を付与することが行われている。また、病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(抗生物質耐性菌)や抗生剤投与によってメチシリン感受性黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接あるいは医療従事者または、白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきており、院内感染を防止するためには、病院内における使用物品や設備に抗菌性を付与することが求められてきている。
【0003】
抗菌性を有する材料としては、有機系、天然有機系、無機系に分類することができる。ここで、有機系の一例としては、トリクロサン、クロロヘキシジン、ジンクピリチオン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジウム、アルキルトリメチルアンモニウム塩などが知られており、また、天然有機系としては、キトサン、カテキン、ヒノキチオール、カラシ、ワサビ精油などが知られている。これら有機系や天然有機系の抗菌性を有する材料は、抗菌性が要求される基体の表面に吸着させて用いられるが、単なる吸着では基体表面への固着性に問題があり、洗濯や洗浄などにより容易に除去されてしまうことから、抗菌効果の永続的な維持は困難である。
【0004】
さらに、無機系の抗菌性を有する材料としては、銀、銅、亜鉛、錫、鉛およびこれらの化合物などが通常知られているが、特にその中でも、銀、銅、亜鉛およびそれらの化合物から選ばれる1種以上の抗菌性を有する材料は、抗菌特性や人体への安全性などの観点から様々な分野で利用されている。これらの金属およびそれらの化合物は、単体としても用いられるが、材料によっては変色したり抗菌性を付与する材料の着色の原因となることから、無機材料の微粒子に担持して使用されている。
【0005】
かかる抗菌性を有する銀、銅、亜鉛金属およびそれらの化合物と無機材料から構成された抗菌性を有する材料の微粒子による、樹脂や繊維への抗菌性付与の方法としては、様々な方法が提案されており、例えば、羊毛などの天然繊維の表面に存在する空孔や空隙に、抗菌性を有する微粒子を還元剤の作用により固定する方法(例えば、特許文献1参照。)、染め吸尽加工法やスプレー法による繊維表面への抗菌性を有する微粒子の固定(例えば、特許文献2参照。)、バインダーによる繊維表面への抗菌性を有する微粒子の固定(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)、合成樹脂に抗菌性を有する微粒子を充填する方法(例えば、特許文献5、特許文献6参照。)、繊維を芯・鞘構造となし、鞘部に抗菌性を有する微粒子含有ポリマーを配置した複合繊維(例えば、特許文献7参照。)、などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−082500号公報
【特許文献2】特開平10−280270号公報
【特許文献3】特開平09−013279号公報
【特許文献4】特開平10−110388号公報
【特許文献5】特開平02−255844号公報
【特許文献6】特開昭03−084066号公報
【特許文献7】特開平09−013225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記抗菌性を有する樹脂や繊維などでは、以下のような様々な問題がある。例えば、特開昭54−082500号公報や特開平10−280270号公報記載の技術では、抗菌性を有する微粒子は繊維表面に吸着、吸尽により固定されていることから、抗菌性に優れているものの、洗濯などにより容易に抗菌性を有する微粒子が脱離することから抗菌効果の永続的な維持は困難であり、また、材料の種類によっては抗菌性を有する微粒子を吸着・固定することも困難である。さらに、特開昭09−013279号公報や特開平10−110388号公報記載の技術では、バインダーの種類や基体樹脂の種類によっては、抗菌性を有する微粒子が分散したバインダーの剥離や繊維の風合いが損なわれるなどの問題がある。また、特開昭02−255844号公報や特開平03−084066号公報に記載の技術においては、樹脂や繊維に抗菌性を有する材料を充填することから、必要以上の抗菌性を有する微粒子の充填が必要になったり、充填方法や条件によっては抗菌性を有する微粒子がスキン層で覆われて十分な抗菌性を発揮しないなどの問題がある。さらに、特開平09−013225号公報に記載の技術においては、鞘部に充填された抗菌性を有する微粒子は紡糸条件によっては表面に露出しないことから、十分な抗菌性が発揮されない問題があった。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題を解決し、繊維やフィルム、布などからなる基材の風合いを損なわずに、抗菌効果に優れ、かつ、簡易で耐久性に優れた抗菌性を有する部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シラン化合物の化学結合を用いることにより、抗菌性を有する材料の微粒子を、細菌や微生物と最も効率良く接触させるために基材の表面に強固に、且つ、風合いを損ねない程度の量として結合させることを見出し、これにより上述の課題を解決できるとの知見を得るに至り、新規な抗菌性を有する部材の製造方法を創出した。
【0010】
すなわち、本発明は、抗菌性を有する材料の微粒子が基体の表面上に、シラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる抗菌性を有する部材の製造方法であって、基体表面に抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法第1の発明として提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記第1の発明において、前記基体表面に抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布した後に放射線を照射することを特徴とす抗菌性を有する部材の製造方法第2の発明として提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、上記第1の発明において、前記基体表面に放射線を照射した後に、抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布することを特徴とす抗菌性を有する部材の製造方法第3の発明として提供するものである。
【0013】
さらにまた、本発明は、上記第3の発明において、前記基体表面にシランカップリング剤を塗布し、その表面に放射線を照射してシランカップリング剤をグラフト重合させた後に、抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布することを特徴とす抗菌性を有する部材の製造方法第4の発明として提供するものである。
【0014】
さらにまた、本発明は、上記第1乃至第4のいずれかの発明において、前記基体表面を予め親水化処理を行うことを特徴とす抗菌性を有する部材の製造方法を第5の発明として提供するものである。
【0015】
さらにまた、本発明は、上記第5の発明において、前記親水化処理が、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、酸化性酸水溶液による化学的な処理の何れかを含むことを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法を第6の発明として提供するものである。
【0016】
さらにまた、本発明は、上記第1乃至第6のいずれかの発明において、前記抗菌性を有する微粒子の平均粒子径が0.005μm〜3.0μmであることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法を第7の発明として提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記第1乃至第7のいずれかの発明において、前記基体の少なくとも表面が樹脂であることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法を第8の発明として提供するものである。
【0018】
さらに、本発明は、上記第1乃至第8のいずれかの発明において、前記基体が、樹脂であることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法を第9の発明として提供するものである。
【0019】
さらにまた、本発明は、上記第1乃至第9のいずれかの発明において、前記基体が、繊維構造体であることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法を第10の発明として提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、基体の表面に対して、抗菌性を有する微粒子が、シラン化合物を介した化学結合によって、強固に結合された状態となっている。このため、基体に対する微粒子は、充分な耐久性を保持している。
【0021】
したがって、本発明の製造方法によれば、抗菌性を有する微粒子が各種の基材の表面に強固に結合された耐久性に優れた抗菌性を有する部材を提供することが可能となる。また、微粒子が基材の表面に配置され、微量にて効率良く細菌や微生物と接触するので、それらの増殖を抑制でき、繊維やフィルム、布などからなる基材の風合いを損なわずに、抗菌性を有する部材を提供することが可能となる。
【0022】
なお、基体の形態としては、例えば、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることができるので、外壁材、サッシ、ドア、ブラインドなどの建装材、壁紙、カーペット、樹脂タイルなどの内装材、衣類、インナーウェア、靴下、手袋、靴等の履物、該履物用の中敷、パジャマ、マット、シーツ、枕、枕カバー、毛布、タオルケット、蒲団および蒲団カバーなどの寝装材、帽子、ハンカチ、タオル、絨毯、カーテン、フィルターまたは防虫網などの用途に好適であり、これら各種製品での細菌や微生物の付着・増殖に伴う悪臭や変色、さらには院内感染を防止できるものとして提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の抗菌性を有する部材の製造方法についてさらに詳述する。
【0024】
本発明で用いられる抗菌性を有する材料としては、抗菌効果が認められる材料であれば特に限定されない。具体的な抗菌性を示す材料としては、特開2002−60309号公報に開示されている茶ポリフェノール類やキトサンなどの天然材料、銀、銅、亜鉛などの金属およびそれらの化合物から選ばれる1種以上の抗菌性を有する材料が挙げられる。
【0025】
これらの抗菌性を有する材料は、使用する環境や材料によっては変色したり抗菌性を付与する材料の着色の原因となることから、無機材料の微粒子に担持して使用される。無機材料としては、例えばイオン交換性を有する無機材料として、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイト、エリナイトなどのゼオライト類、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類などが挙げられ、他の一般的な無機材料としては、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミナ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、リン酸ジルコニウムなどが挙げられる。そして、本発明では、抗菌性を有する材料を担持させた後の無機微粒子の平均粒子径は、0.005μmから3.0μmの間であれば良い。平均粒子径が3.0μmよりも大きくなると、これらの微粒子の固定能が低下して基材樹脂表面から脱離し易くなると共に、繊維や布の風合いを損なうので好ましくない。一方、粒子径を0.005μmよりも小さくすることは技術的困難が伴い、また製造コスト上の観点からも好ましくない。
【0026】
また、一般に市販されている抗菌性を有する材料の微粒子、例えば、東亞合成(株)製「ノバロン」、(株)シナネンゼオミック製「ゼオミック」、(株)サンギ製「アパタイザーA」、大日精化工業(株)製「ダイキラー」、松下電器産業(株)製「アメニトップ」、触媒化成工業(株)製「アトミーボール」、カネボウ化成(株)製「バクテキラー」なども、これらを単一または2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0027】
さらに、抗菌性を有する材料の微粒子とともに、光触媒機能を有する材料の微粒子や遠赤外線を放射する材料の微粒子、或いはマイナスイオンを放出する材料の微粒子などを混合して用いても良い。
【0028】
ここで、光触媒機能を発現する微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウムなどの公知の金属化合物半導体が挙げられ、これらの材料を単一または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、遠赤外線を放射する材料としては、Al、TiO、ZrO、SiO、Fe、CoO、CuO、MgOなどの金属酸化物やこれらの混合物、例えば、コージライト、βスポジューメン、チタン酸アルミニウムなどのセラミックスや、市販されている遠赤外線セラミックス、例えば、OKトレーディング製セラジット、水澤化学工業株式会社製シルトンFI−85などが挙げられ、これらは単一または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
さらに、マイナスイオンを発生させる材料としては、デービト鉱、センウラン鉱、ブランネル石、ニンギョウ石、リンカイウラン石、カルノー石、ツャムン石、メタチャムン石、フランセビル石、トール石、コフィン石、サマルスキー石、トリウム石、トロゴム石、サマルスキー石、トリウム石、トロゴム石、モナズ石、タンタル石、バデライト、イルメナイトなどの放射性希有元素を微量含有する天然放射性稀有元素鉱物や、これらの鉱物の一部を精製して得られる電融ジルコニアなどが挙げられ、さらに、安全性を考慮して天然放射性稀有元素鉱物の使用量を少なくするために、トルマリンなどの自発分極を有する材料や、BaTiO、PbZrO、Pb(Zr,Ti)O、KnbO、KtaO、K(Ta,Nb)O、LiNbOなどの強誘電体を一種以上混合して用いることができる。
【0031】
本発明では、抗菌性を有する材料の微粒子をシラン化合物により、樹脂基体上に化学結合と同時に架橋により固定するものである。具体的なシラン化合物としては、X−Si(OR)3の一般式で示されるシランカップリング剤が挙げられる。なお、Xは有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などであり、Rは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などである。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基などの不飽和結合などを有する官能基は、反応性が高いことが知られている。本発明は、反応性に優れたシランカップリング剤を用いることで、抗菌性を有する材料の微粒子を、化学結合およびシラン化合物の架橋により、基体表面に結合せしめたものである。
【0032】
本発明で用いられるシランカップリング剤の一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0033】
これらのシランカップリング剤は一種もしくは二種以上混合して用いられる。その使用形態としては、必要量のシランカップリング剤をメタノールやエタノールなどの溶剤に溶解し、必要に応じて加水分解に必要な水を加えて用いられる。用いられる溶剤としては、エタノール、メタノール、プロパノールやブタノールなどの低級アルコール類、蟻酸やプロピオン酸などの低級アルキルカルボン酸類、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、メチルセルソルブやエチルセルソルブなどのセロソルブ類を単独または複数組み合わせて用いても良い。さらに、シランカップリング剤を水溶液の状態で使用しても良く、水への溶解性が悪い場合では、酢酸を添加してpHを弱酸性に調整してアルコキシシランの加水分解性を促進し、水溶性を上げて用いられる。
【0034】
本発明では、前述したシランカップリング剤の溶液に、必要に応じて、Si(OR1)(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR34−n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシランなどが、添加されて用いられる。
【0035】
本発明での抗菌性を有する部材は、前述したシランカップリング剤の溶液に抗菌性を有する材料の微粒子を分散した溶液を用いて製造される。抗菌性を有する材料の微粒子の分散は、ホモミキサーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミル、サンドミル、高速回転ミル、ジェットミルなどを用いた粉砕・分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0036】
また、抗菌性を有する材料の微粒子が分散したコロイド状分散液や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランカップリング剤を加え、還流下で加熱させながら脱水縮合反応により抗菌性を有する材料の微粒子表面にシランカップリング剤を結合させて得られた分散液を用いて製造される。尚、分散液には過剰のシランカップリング剤が含まれてあっても良い。
【0037】
本発明の抗菌性を有する部材の製造方法に用いられる基体を構成する材料としては、シラン化合物による化学結合が可能なものであれば良く、このような材料としては、例えば、各種樹脂や、合成繊維、天然繊維などが挙げられる。
【0038】
本発明の抗菌性を有する部材の製造方法に用いられる基体を樹脂とする場合には、少なくとも基体表面が樹脂からなるものであれば良い。
【0039】
ここで、基体を構成する樹脂としては、合成樹脂や天然樹脂が用いられ、その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、PTFEなどの熱可塑性樹脂や、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマー、漆などの天然樹脂、などが挙げられる。
【0040】
これらの樹脂の形態は、板状、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った形状及びサイズ等であれば良く、本発明では特に問わない。また、これらの樹脂は、アルミニウムやマグネシウム、鉄などの金属材料表面や、ガラス、セラミックスなどの無機材料表面に、フィルム状で積層されたり、吹き付け塗装や浸漬塗装、静電塗装などの塗装法や、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷法により薄膜として形成されあっても良い。さらに、これらの樹脂は、顔料や染料などにより着色されてあっても良く、シリカ、アルミナ、珪藻土、マイカなどの無機材料が充填されてあっても良い。
【0041】
一方、基体を構成する合成繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリカーボネイト繊維、フッソ繊維、ポリ尿素繊維、エラストマー繊維、また、これら繊維を構成する材料と前記樹脂材料との複合繊維などを挙げることができ、天然繊維の例としては、綿、麻、絹、などが挙げられる。
【0042】
本発明に係るグラフト重合において用いられる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのには、γ線、電子線、紫外線が適している。
【0043】
また、本発明でのグラフト重合を用いた抗菌性を有する部材は、以下に記した方法により製造される。第一の方法は、前述した抗菌性を有する材料の微粒子を分散したシランカップリング剤溶液またはシランカップリング剤が結合された抗菌性を有する材料の微粒子が分散した溶液を、結合しようとする基体表面に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去した後、γ線、電子線、紫外線などの放射線を、抗菌性を有する材料の微粒子とシランカップリング剤の混合物が塗布された基体表面に照射することで、シランカップリング剤を基体表面にグラフト重合させると同時に抗菌性を有する材料の微粒子を結合させることで行われる所謂同時照射グラフト重合により製造される。
【0044】
第二の方法は、予め抗菌性を有する材料の微粒子を結合しようとする基体表面にγ線、電子線、紫外線などの放射線を照射した後、抗菌性を有する材料の微粒子が分散したシランカップリング剤溶液またはシランカップリング剤が結合された抗菌性を有する材料の微粒子が分散した溶液を塗布して、シランカップリング剤と基体とを反応させると同時に抗菌性を有する材料の微粒子を結合させる所謂前照射グラフト重合により製造される。
【0045】
第三の方法は、予め基体表面にシランカップリング剤を、γ線、電子線、紫外線などの放射線の同時照射法や前照射法によりグラフト重合した後、抗菌性を有する材料の微粒子が分散した溶液を、前記シランカップリング剤がグラフト重合された基体表面に塗布し、その後、加熱などのエネルギーを加えてグラフト重合により、基体表面に導入したシラノール基と抗菌性を有する材料の微粒子表面に存在する水酸基との脱水縮合反応により、抗菌性を有する材料の微粒子を基体表面に結合させる方法により製造される。
【0046】
また、シランカップリング剤のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるためには、予め、樹脂基体表面がコロナ放電処理やプラズマ放電処理、火炎処理、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液による化学的な処理などにより親水化処理されてあっても良い。
【0047】
本発明では、前述したように、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることができるので、外壁材、サッシ、ドア、ブラインドなどの建装材、壁紙、カーペット、樹脂タイルなどの内装材、衣類、インナーウェア、靴下、手袋、靴等の履物、該履物用の中敷、パジャマ、マット、シーツ、枕、枕カバー、毛布、タオルケット、蒲団および蒲団カバーなどの寝装材、帽子、ハンカチ、タオル、絨毯、カーテン、フィルターまたは防虫網などの用途に好適であり、これら各種製品での細菌や微生物の付着・増殖に伴う悪臭や変色、さらには院内感染を防止できるものとして提供することができる。
【0048】
また、本発明では、抗菌性を有する材料の微粒子の化学結合による固着については、紡糸後に製品形状とした後で、または、製品化の過程で行うことが可能であり、このため、抗菌性を有する材料の微粒子の存在が紡糸性に影響しない、というメリットがある。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を挙げて本発明の抗菌性を有する部材の製造方法をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
<抗菌性を有する部材の作製>
本発明での抗菌性を有する部材の作製は、電子線照射装置として岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型、CB250/15/180L、を用いて実施した。
実施例1:
コロイド状無機抗菌剤(触媒化成工業株式会社製、商品名:アトミーボール−S)にメタノールを加えてコロイド状無機抗菌剤濃度を0.2重量%に希釈し、コロイド状無機抗菌剤分散メタノール溶液にシランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を、コロイド状無機抗菌剤重量に対して1.0重量%加えた。次に、調整したコロイド状無機抗菌剤分散メタノール溶液を、冷却管を備えたフラスコに移し、その後フラスコをオイルバスで加熱し、4時間還流下で処理することによりコロイド状無機抗菌剤の表面にシランカップリング剤を結合させた。
【0051】
また、ポリエステル不織布(旭化成株式会社製、エルタスE01040)の表面を大気中でコロナ放電処理した後、シランカップリング剤が固定されたコロイド状無機抗菌剤を含むメタノール溶液をスプレーにて塗布した。110℃、3分間乾燥した後、メタノール溶液を塗布したポリエステル不織布に電子線を200kVの加速電圧で10Mrad照射することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる抗菌性を有する部材(以下、検体とも言う。)を得た。
【0052】
実施例2:
実施例1で基体に用いたポリエステル不織布をコロナ放電処理後、電子線を200kVの加速電圧で10Mrad照射した後、その表面に、実施例1で調整したシランカップリング剤が固定されたコロイド状無機抗菌剤を含むメタノール溶液をスプレーで塗布した。次に、3分間放置後、過剰のコロイド状無機抗菌剤を含むメタノール溶液を水洗により除去することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0053】
実施例3:
実施例1で用いたシランカップリング剤をイソプロピルアルコールに1.0重量%溶解した。実施例1で用いた不織布に電子線を200kVの加速電圧で15Mrad照射した後、シランカップリング剤を溶解したイソプロピルアルコールをスプレーにて塗布し、3分間放置することでシランカップリング剤を不織布の表面にグラフト重合した。次に、余分のシランカップリング剤を水洗により除去した後、シランカップリング剤がグラフト重合された不織布の表面にコロイド状無機抗菌剤を1.0重量%含む水溶液をスプレーにて塗布した後、120℃、10分間加熱処理した。その後、結合していない過剰のコロイド状無機抗菌剤を水洗にて洗浄除去することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0054】
実施例4:
実施例1で用いたコロイド状無機抗菌剤にイソプロピルアルコールを加えてコロイド状無機抗菌剤の濃度を0.1重量%に希釈した後、γ−アクリロシキプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−5103)をコロイド状無機抗菌剤重量に対して3.0重量%加え1時間撹拌することで、シランカップリング剤の一部を加水分解すると共に、シランカップリング剤をコロイド状無機抗菌剤の表面に吸着させた。
【0055】
また、125μmのポリエステルフィルム(パナック株式会社製、ルミラー)の表面に、前記シランカップリング剤を固定したコロイド状無機抗菌剤が分散されたイソプロピルアルコール溶液をスプレーにて塗布し、120℃、3分間乾燥した。次に、イソプロピルアルコール溶液を塗布したポリエステルフィルムに電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0056】
実施例5:
綿で織られた布に電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射した後、その表面に、実施例4で調整したシランカップリング剤を固定したコロイド状無機抗菌剤が分散されたイソプロピルアルコール溶液をスプレーにて塗布し、120℃、3分間乾燥した。その後、結合していない過剰のシランカップリング剤が固定されたコロイド状無機抗菌剤を水洗により除去することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤で綿製布上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0057】
実施例6:
粉末状の抗菌性を有する微粒子(触媒化成工業株式会社製、商品名:アトミーボール−UA)をイソプロピルアルコールに5.0重量%加えた後、ビーズミルにて3時間処理することにより平均粒子径0.05μmに粉砕した。得られた抗菌性を有する微粒子が分散したイソプロピルアルコール溶液にN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチルー3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−575)を、抗菌性を有する微粒子の固形分に対して1.0重量%加えた。次に、抗菌性を有する微粒子が分散したイソプロピルアルコール溶液を、冷却管を備えたフラスコに移し、その後フラスコをオイルバスで加熱し、4時間還流下で処理することにより抗菌性を有する微粒子の表面にシランカップリング剤を結合させた。
【0058】
また、55μmのポリエステルフィラメントで作製した200メッシュのメッシュクロスに電子線を200kVの加速電圧で10Mrad照射した後、前記シランカップリング剤を固定した抗菌性を有する微粒子のイソプロピルアルコール分散溶液に、電子線を照射したメッシュクロスを3分間浸漬した。その後、流水中で水洗して過剰の抗菌性微粒子のイソプロピルアルコール分散溶液を除去することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤でポリエステルメッシュクロス上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0059】
実施例7:
厚さ1.0mmのアルミニウム板を公知の方法で脱脂し、15重量%硫酸水溶液中に浸漬し、1.5A/dmの電流密度で30分間、陽極酸化することによりアルミニウム板表面に15μmの酸化皮膜を形成した。さらに、このアルミニウム板を水洗して乾燥後、熱硬化型アクリル系塗料(関西ペイント株式会社製、MG1000)をスプレーにて塗布した後180℃、30分間乾燥することで、厚さ15μmの厚さの塗膜が形成された塗膜被覆アルミニウム板を得た。次に、実施例6で調整したシランカップリング剤を固定した抗菌性を有する微粒子のイソプロピルアルコール分散溶液をスプレーにて塗布し、130℃、3分間乾燥した後、電子線を240kVの加速電圧で20Mrad照射することで、抗菌性を有する材料の微粒子がシランカップリング剤で塗膜被覆アルミニウム板上に結合されてなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0060】
比較例1:
実施例1で用いたコロイド状無機抗菌剤(触媒化成工業株式会社製、商品名:アトミーボール−S)にメタノールを加えてコロイド状無機抗菌剤濃度を0.2重量%に調整し、コロナ放電処理したポリエステル不織布(旭化成株式会社製、エルタスE01040)の表面にスプレーにより塗布し、120℃、20分間加熱処理することで、抗菌性を有する材料の微粒子が付着した抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0061】
比較例2:
ポリエステル樹脂(日本ユニペット株式会社製)に、実施例6で用いた粉末状の抗菌性を有する微粒子を2軸混練機により0.1重量%充填してペレットを作製した。次に、得られたペレットを用いて溶融紡糸装置によりポリエステルフィラメントを紡糸し、さらに延伸加工することで、径が80μmのポリエステルフィラメントを得た。得られたポリエステルフィラメントを用い、200メッシュの抗菌性を有する材料の微粒子が充填されたメッシュクロスからなる抗菌性を有する部材(検体)を得た。
【0062】
<抗菌性の試験及び評価>
本発明者らは、上述の製法にて得られた各実施例1〜7及び比較例1,2の各部材(検体)に対して、JIS L 1902に基づく抗菌性についての試験及び評価を行った。尚、試験対象菌種としては、黄色ぶどう球菌Staphylococcus aureus ATCC 6538Pと、大腸菌Escherichia coli NBRC 3301を用いた。また、抗菌性の指標としては、殺菌活性値と静菌活性値を求めた。ここで、殺菌活性値および静菌活性値は、植菌時の菌体数をAとし、抗菌性を施していない検体での植菌18時間後の菌体数をB、抗菌性を施している検体での植菌18時間後の菌体数をCとして、以下に示した式により求めた。
殺菌活性値=logA−logC
静菌活性値=logB−logC
【0063】
<微粒子の固着性の試験及び評価>
また、本発明者らは、上述の製法にて得られた各実施例1〜7及び比較例1,2の各部材(検体)に対して、抗菌性を有する材料の微粒子の固着性についての試験及び評価を以下のように行った。すなわち、各検体につき、試験対象菌種として上記の大腸菌Escherichia coli NBRC 3301を用い、蒸留水中で超音波洗浄処理を10分間行うとともに、蒸留水を新たに交換して、同様に超音波洗浄処理を合計20回繰り返し行った後に、検体の大腸菌についての殺菌活性値を上記式により求めて評価した。これら各試験結果を表1に示す。
【0064】
【表1】


表1の結果から分かるように、本発明の実施例1〜7における放射線グラフト重合で得られた抗菌性を有する部材(検体)では、大腸菌および黄色ぶどう球菌での殺菌活性値がいずれも2.5以上と高い値を示した。ここで、殺菌活性値が2.5以上であることは植菌した微生物の99.5%以上が殺菌されたことを示すものであり、これにより各実施例における抗菌性を有する部材は優れた殺菌性を有することが確認された。また、各実施例1〜7の検体では、静菌活性値についても5.5以上と高い値を示しており、微生物の増殖を抑制する能力に優れていることが確認された。これらの結果より、本発明の抗菌性を有する部材は、抗菌活性に優れた部材であることが実証された。
【0065】
さらに、表1の結果に示されるように、各実施例1〜7の検体では、超音波洗浄後の殺菌活性値は超音波洗浄前と比較してほとんど変化していないことから、本発明の抗菌性を有する部材では、基体表面に対する抗菌性材料の微粒子の固着性が優れていることが確認された。これより、本発明の抗菌性を有する部材は、洗濯などの耐久性に優れていることも示唆された。
【0066】
これらの結果に対し、シラン化合物の化学結合を用いなかった各比較例の抗菌性を有する部材(検体)では、殺菌活性値および静菌活性値共に実施例と比較して低い値を示しており、抗菌活性に関して劣っていることが分かる。さらに、微粒子の固着性の試験結果では、超音波洗浄後の殺菌活性値につき、比較例2の検体については超音波洗浄前の値と比較して変化が少なかったが、比較例1の検体については大幅に値が低下していることから、固着法によっては抗菌耐久性に乏しいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明の製造方法を適用した、シラン化合物のグラフト重合により抗菌性を有する材料の微粒子を樹脂基体表面へ結合させた抗菌性を有する部材は、シラン化合物のアルコキシ基の加水分解により生成したシラノール基が、抗菌性を有する微粒子の表面に脱水縮合反応で強固に化学的に結合し、さらに、シラン化合物のビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基などが、放射線の照射により生成したラジカルによるグラフト重合で樹脂基体表面に化学的に結合することによってなされている。よって、抗菌性を有する微粒子は樹脂基体表面にシラン化合物により化学的な結合で強固に結合されていることから、本発明の製造方法による抗菌性を有する部材は、様々な環境で使用しても抗菌性を有する材料の微粒子の脱離などが起こり難い耐久性に優れたものである。また、本発明の製造方法によれば、抗菌性を有する材料の微粒子が繊維や樹脂フィルムの表面にシラン化合物によって固定されていることから、細菌や微生物と効率良く接触し、抗菌効果に優れたものであり、さらに、抗菌性を有する材料の微粒子が基体上に島状乃至薄膜の形態で形成されていることから、繊維やそれらからなる構造体の風合いを損なうことが無いなど、様々な分野に応用できる実用性に優れた極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有する部材の微粒子が基体の表面上に、シラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる抗菌性を有する部材の製造方法であって、
基体表面に抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、
微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、
シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項2】
前記基体表面に抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布した後に放射線を照射することを特徴とする請求項1記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項3】
前記基体表面に放射線を照射した後に、抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布することを特徴とする請求項1記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項4】
前記基体表面にシランカップリング剤を塗布し、その表面に放射線を照射してシランカップリング剤をグラフト重合させた後に、抗菌性を有する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布することを特徴とする請求項3記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項5】
前記基体表面を予め親水化処理を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項6】
前記親水化処理が、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、酸化性酸水溶液による化学的な処理の何れかを含むことを特徴とする請求項5記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項7】
前記抗菌性を有する微粒子の平均粒子径が0.005μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項8】
前記基体の少なくとも表面が樹脂であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項9】
前記基体が、樹脂であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の抗菌性を有する部材の製造方法
【請求項10】
前記基体が、繊維構造体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の抗菌性を有する部材の製造方法

【公開番号】特開2010−65372(P2010−65372A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244235(P2009−244235)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2003−312730(P2003−312730)の分割
【原出願日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】