説明

抗菌性ガラス及び該抗菌性ガラスの製造方法

【課題】本発明は、タッチパネルディスプレイのカバーガラスとして利用可能な強度及び視認性を有する抗菌性ガラスを供給することを目的とした。
【解決手段】表層に抗菌物質を有する抗菌性ガラスであって、該抗菌性ガラスは表層において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層と、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上の圧縮層とを有し、表面圧縮応力が480MPa以上であり、前記表層において、蛍光X線分析法によって測定されたカリウムのX線強度(K)と銀のX線強度(Ag)との比(Ag/K)が0.0005〜0.5であることを特徴とすることを特徴とする抗菌性ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ガラスに関するものであり、特に化学強化処理が施された抗菌性ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、我々が生活している環境中には様々な菌が生息している。菌の存在は、病人、子供、高齢者のような抵抗力の低い人にとって問題となる場合がある。特に近年、医療施設における院内感染や、また感染力の強い菌の存在が問題となっており、この対策として抗菌剤による抗菌作用(殺菌作用や細菌の増殖抑制作用など)が注目されている。
【0003】
抗菌剤としては、例えばイミダール誘導体をはじめとする有機合成抗菌剤、わさび等の天然抗菌剤、銀や銅等の金属系抗菌剤、及び酸化チタン等の酸化物系抗菌剤等が知られており、特に前述した金属系抗菌剤に用いられる、銀、銅、亜鉛、及びこれらの金属イオンを含む商品、特に銀や銀イオンは歴史的にも実績があり、かつ地球環境に優しく、安全性が高いと言われている。前記の抗菌剤を付与させた物品及びその製造方法に関する技術は多数開示されており、例えば衣料品、台所用品、家電製品などあらゆるものが実用化されている。
【0004】
また一方で、近年、携帯電話等のモバイル機器や、券売機及び銀行のATM等に代表されるタッチパネルディスプレイ付きの表示装置等が普及し、これら機器を利用する機会が増加している。特に上記のモバイル端末やタッチパネルディスプレイ等の機器は、ディスプレイ面の傷つきを防止するためにカバーガラスを採用している。前記のカバーガラスは人の手に直接触れるものであり、屋外での使用や不特定多数が利用する等、様々な使用環境下に置かれることから衛生面での配慮が要求され、カバーガラスに抗菌性を付与することが検討されている。
【0005】
ガラス物品に抗菌性を付与する方法として、銀を含んだ溶液あるいは溶融塩中に浸漬し、イオン交換などにより銀をガラス物品表面から表層部の内部に拡散させる方法が挙げられる。例えば、ガラスに含まれるナトリウムイオンを殺菌作用を呈する銀イオンと置換した殺菌性ガラス(特許文献1)が開示されている。
【0006】
また、前述したディスプレイ等に用いられるカバーガラスとして、ガラスの傷付き等を防止する目的で化学強化処理されたガラスの利用が期待される。例えば、抗菌性ガラスに含まれるナトリウムイオンを抗菌作用を呈する銀イオン等と置換し、ガラスに化学強化処理を施した抗菌性ガラス(例えば、特許文献2、3)が開示されている。
【0007】
特許文献2は、ガラスが一般的なソーダライムガラスであるため、化学強化処理を施しても強度が不十分であり、また抗菌性物質は還元・安定化された状態の金属で存在しているため、ガラスが着色していると推測され、カバーガラスとしての実用性は不十分だった。
【0008】
また、特許文献3は、ガラスの表面圧縮応力が250MPa以上であり、抗菌性を有するものである。特許文献3によれば、表面からの深さ40μmにおける銀量が、0.2μg/cm以上となるように拡散しなければ抗菌効果が不十分であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平04−338138号公報
【特許文献2】特開平11−228186号公報
【特許文献3】特開2011−133800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した抗菌剤として銀を用いる抗菌性ガラスは、抗菌機能を発揮するために少なくともガラスの表面付近に銀を担持させる必要がある。しかし、前述したカバーガラスとして利用する為に化学強化処理を行うと、銀はその特性上ガラス内部へ拡散し易いことから、ガラス表面の銀がガラス内部へ拡散し、抗菌性を損なう問題があった。さらに、拡散する銀の量が過剰になると、銀由来のコロイド状物質を形成して着色が生じ、ディスプレイの視認性が低下してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、タッチパネルディスプレイのカバーガラスとして利用可能な強度及び視認性を有する抗菌性ガラスを供給することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表層に抗菌物質を有する抗菌性ガラスであって、該抗菌性ガラスは表層において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層と、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上の圧縮層とを有し、表面圧縮応力が480MPa以上であることを特徴とする抗菌性ガラスである。
【0013】
ここで言う「表層」とは、ガラス表面から深さ100μmまでの領域を指すものとし、該表層は前記の拡散層と圧縮層とを有する。また、該表層は、化学強化処理によって、アルカリイオンがイオン交換される領域を有するものである。
【0014】
前記の拡散層とは、銀イオンが拡散した領域であり、ガラス表面から深さ30μm以内に形成される。該拡散層では、ガラス表面に銀イオンを多く担持する方が、抗菌性を効果的に発揮させることが可能であるため好ましい。
【0015】
前記の圧縮層とは、ガラス表層に含まれるアルカリ成分を、よりイオン半径が大きいアルカリイオンによってイオン交換することにより、表面圧縮応力が生じるものであり、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上となるように形成される。本発明において、イオン交換される主なアルカリイオンはナトリウムイオンとカリウムイオンであり、ガラス表層に含まれるナトリウムイオンと化学強化処理用の強化塩浴中のカリウムイオンとが交換される。
【0016】
また本発明の抗菌性ガラスは、前記抗菌性ガラスの表層においてカリウムイオンを含み、蛍光X線分析法によって測定されたカリウムのX線強度(K)と銀のX線強度(Ag)との比(Ag/K)が0.0005〜0.5であることを特徴とする。
【0017】
ガラス表層において、前記拡散層と前記圧縮層とは少なくとも重なる領域を有し、拡散した銀イオンとイオン交換されたカリウムイオンとが少なくとも一部混在している。拡散する銀イオンが増えると、イオン交換により取り込まれるカリウムイオンの量が減少する傾向があるため、前記Ag/Kは0.0005〜0.5であることが好ましい。
【0018】
また本発明の抗菌性ガラスにおいて、前記表層を除いたガラス部は、実質的に質量%で、SiO:50〜75、Al:3〜20、B:0〜10、NaO:5〜20、KO:0〜10、MgO:0〜10、CaO:0〜10、SrO:0〜5、BaO:0〜5、ZrO:0〜5、TiO:0〜10、SnO:0〜3、からなるガラス組成物であることを特徴とする。
【0019】
また本発明の抗菌性ガラスは、その表層において、ガラス表面から深さ方向に厚み60〜95μmの圧縮層を有することを特徴とする。
【0020】
また本発明の抗菌性ガラスは、その表層において、ガラス表面から深さ方向に厚み15〜60μmの圧縮層を有することを特徴とする。
【0021】
また本発明は、抗菌性ガラスの製造方法であって、実質的に質量%で、SiO:50〜75、Al:3〜20、B:0〜10、NaO:5〜20、KO:0〜10、MgO:0〜10、CaO:0〜10、SrO:0〜5、BaO:0〜5、ZrO:0〜5、TiO:0〜10、SnO:0〜3、からなるガラス組成物を、カリウムイオンと銀イオンとを含む混合溶融塩の強化塩浴に浸漬する工程を含み、該強化塩浴が、カリウムの化合物に対して銀の化合物を0.0001〜0.5質量%で添加混合した強化塩浴であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、タッチパネルディスプレイのカバーガラスとして利用可能な強度及び視認性を有する抗菌性ガラスを得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の抗菌性ガラスの断面概略図。
【図2】ガラス表面から深さ方向への実施例6のAgプロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ガラスの強化と抗菌性の付与とを両立せしめ、さらに可視光透過率を損なわない抗菌性ガラスである。
【0025】
すなわち本発明は、図1に示すように、表層2に抗菌物質を有する抗菌性ガラス1であって、該抗菌性ガラス1は表層2において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層3と、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上の圧縮層4とを有し、表面圧縮応力が480MPa以上であることを特徴とする。
【0026】
銀イオンの拡散層3は、ガラス表面から深さ方向に銀イオンが拡散することにより形成される。銀イオンの拡散距離は、表面から30μm以下であり、20μm以下であることが好ましい。この拡散距離が30μmを超えると抗菌性に寄与しない無駄な銀イオン量が多くなることがある。
【0027】
本発明における圧縮層4は、前記のガラス組成物の表面を、カリウムイオンと銀イオンとを含む混合溶融塩に接触させ、ガラス組成物表面のナトリウムイオンと該混合溶融塩中のカリウムイオンとの間でイオン交換を生じさせることにより形成される。
【0028】
前記溶融塩浸漬後の表層2において、蛍光X線分析法によって測定されたカリウムのX線強度(K)とナトリウムのX線強度(Na)との比(K/Na)が150以上、より好ましくは200以上となるように前記圧縮層4を形成するのが好ましい。K/Naが150未満では、ガラス組成物中のナトリウムイオンと溶融塩中のカリウムイオンとのイオン交換が不十分であり、所望の強度を得ることが困難である。
【0029】
本発明の抗菌性ガラス1は、前述した化学強化処理により表面圧縮応力が480MPa以上となるものである。なお、本発明の表面圧縮応力は、表面応力計FSM−60V(東芝硝子製)を用いて光弾性法を用いて測定した数値を指すものとする。一般的に、ガラスは表面の引張り応力に対して弱く、該応力が加わることで破壊されるが、表面に圧縮応力を形成させることで、引張り応力に対する抵抗を高くすることができる。つまり、表面圧縮応力の値が高い程、機械的強度は高くなる。従って、表面圧縮応力が480MPa以上、好ましくは500MPa以上としてもよい。また、上限は特に限定する必要はないが、工業的な生産工程において、機械的強度が高いと加工し難くなることがあるため、900MPa以下が好ましいとしても差し支えない。
【0030】
本発明の好適な実施形態のひとつは、表面圧縮応力が480MPa以上で、ガラス表面から深さ方向に厚み60以上、95μm以下の圧縮層4を有する抗菌性ガラスである。なお、本発明の圧縮層の厚みは、表面応力計FSM−60V(東芝硝子製)を用いて光弾性法を用いて測定した数値を指すものとする。傷が圧縮層4を越えて深く入るとガラスが割れ易くなることから、前記圧縮層4の厚みが上記範囲である場合、加傷によるガラスの破壊強度の低下を起こり難くすることが可能となる。
【0031】
また、本発明の好適な実施形態のひとつは、表面圧縮応力が480MPa以上で、ガラス表面から深さ方向に厚み15以上、60μm未満の圧縮層4を有する抗菌性ガラスである。前述したように圧縮層4の厚みが上記範囲である場合、圧縮層4の加傷による破壊強度の低下が生じ易いが、一方で、切断等の加工を施し易くなる。例えば、携帯電話等の小型のモバイル端末に使用する際、カバー用のガラスに化学強化処理を行った後、所望の大きさに加工・切断することが容易となるため、好適に利用することが可能である。
【0032】
前記圧縮層4の厚みが15μm未満では化学強化ガラスとして必要な強度には不十分であり、ガラスの破損などを引き起こすことがある。
【0033】
本発明の抗菌性ガラスの可視光線透過率は、80%以上であるのが好ましく、85%以上がより好ましい。可視光線透過率が80%未満では、ディスプレイ等に使用するには視認性が不十分であり、輝度低下などを引き起こすことがある。
【0034】
また、前記表層2は、蛍光X線分析法によって測定されたカリウムのX線強度(K)と銀のX線強度(Ag)との比(Ag/K)が0.0005以上、0.5以下であるのが好ましく、より好ましくは0.0005以上、0.005以下としてもよい。
【0035】
本発明の抗菌性ガラスにおいて、前記表層2を除いたガラス部分は、実質的に質量%で、SiO:50〜75、Al:3〜20、B:0〜10、NaO:5〜20、KO:0〜10、MgO:0〜10、CaO:0〜10、SrO:0〜5、BaO:0〜5、ZrO:0〜5、TiO:0〜10、SnO:0〜3、からなるガラス組成物であり、歪点が400〜600℃となるように前記の組成が決定される。
【0036】
本発明の抗菌性ガラスは、上記ガラス組成物を用い、該ガラス組成物の表面を、銀イオンとカリウムイオンとを含有する混合溶融塩を含有する強化塩浴に浸漬することにより、化学強化処理を施して表層2を得るのが好ましい。また、該ガラス表層を除くガラス部は上記のガラス組成物からなる。
【0037】
前記ガラス組成物において、SiOは主成分であり、質量%において50%未満では強度が低くなる上に、ガラス組成物の化学耐久性を悪化させる。他方、75%を超えるとガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。従って50〜75%、好ましくは50〜72%含有するものとする。
【0038】
Alは、SiOと同様にガラスの網目構造を形成する成分であるため、ガラス組成物の潜在的な強度を高くする。また、Alを含有するガラス組成物は、イオン交換され易く、表層2に圧縮層4および銀の拡散層3を形成させ易い。また、銀を銀イオンの状態で存在させ易くするため好適に用いられる。質量%において3%未満ではイオン交換し難くなるため化学強化処理後の強度が不十分となることがあり、他方20%を超えるとガラス融液の高温粘度が高くなる上に、失透傾向が増大するためガラス成形が困難になることがある。
【0039】
は、必須成分ではないが、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を低くする作用を有すると共に、失透傾向を小さくする作用を有するため、ガラス組成物に10質量%以下まで含有してもよい。
【0040】
NaOは、化学強化処理する上で不可欠であるため、本発明のガラス組成物に含有される。質量%において、5%未満だとイオン交換が不十分となり、他方20%を超えるとガラス組成物の化学耐久性を悪化させ、耐候性が悪くなる。従って5〜20%、好ましくは5〜18%を含有するものとする。
【0041】
Oは、NaOとともにガラス溶解時の融剤として作用する成分である。また一方で、NaOとの混合アルカリ効果によりナトリウムイオンの移動を抑制してイオン交換をし難くする。質量%で10%を超えるとイオン交換し難くなるため、ガラス組成物に10%以下で含有するのが望ましい。
【0042】
また、モル%で(NaO+KO)/Alが0.7〜10.0とすることで、ガラス組成物中のナトリウムイオンが、混合溶融塩中のカリウムイオン及び銀イオンとのイオン交換を生じ易くなり、またイオン交換後の銀イオンがイオンの状態で存在し易くなるため、抗菌性ガラスの強度向上、及び銀イオンの担持が容易となる。従って、(NaO+KO)/Alは0.7〜10.0、好ましくは1.0〜9.0、より好ましくは1.0〜8.5とする。
【0043】
MgOは、必須成分ではなく、ナトリウムイオンの移動を抑制してイオン交換をし難くするため、ガラス組成物に含有させるなら10質量%以下とするのが望ましい。
【0044】
CaOは、必須成分ではないが、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を下げる作用を有する。しかしナトリウムイオンの移動を抑制し、イオン交換をし難くするため、ガラス組成物に含有させるなら10質量%以下とするのが望ましい。
【0045】
SrOとBaOは、CaOとの共存下でガラス融液の高温粘度を下げて失透の発生を抑制する作用を有するが、ナトリウムイオンの移動を抑制してイオン交換をし難くするため、それぞれ5質量%以下の範囲でガラス組成物に含有させるのが望ましい。
【0046】
ZrOは、ガラス組成物の強度を向上させる作用を有するが、ナトリウムイオンの移動を抑制してイオン交換をし難くするため、5質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0047】
TiOは、ガラス組成物の強度を向上させ、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を低くする作用を有するが、ナトリウムイオンの移動を抑制してイオン交換をし難くするため、10質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。
【0048】
SnOは、ガラスの溶解、清澄および成形性の改善に寄与するが、過剰になるとガラス組成物が着色し、さらに抗菌性物質が還元され易くなるため、3質量%以下で含有させることが好ましい。
【0049】
本発明の好ましい態様のガラス組成物は実質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分を質量%で10%まで含有してもよい。例えば、ガラスの溶解の改善のためにLiO、ZnOあるいはPなどを10質量%まで含有してもよい。また、清澄、成形性の改善のためにSO、Cl、F、Sb、As等を1質量%まで含有してもよい。また、所望の抗菌性ガラスが着色されたものである場合、着色させるためにFe、CoO、NiOおよびCeO等を1質量%まで含有してもよい。
【0050】
本発明の抗菌性ガラスは、前記のガラス組成物をフロート法、ロールアウト法、ダウンドロー法など一般的なガラス成形方法によって成形されることが好ましく、特にダウンドロー法やロールアウト法により成形されることが好ましい。またそのガラス表面は前記成形方法で成形されたままでも、あるいは弗酸エッチングなどを用いて表面を荒らして防眩性などの機能性を付与してもよい。
【0051】
前記の成形方法により成形されたガラス組成物において、ディスプレイ用として用いる場合、板状に成形されるのが望ましい。また、板状に成形されたガラス組成物に曲げ等の変形を加えても差し支えない。
【0052】
ガラス組成物を化学強化処理する際、該ガラス組成物を混合溶融塩を含有する強化塩浴に浸漬させる。この時混合溶融塩は、カリウムの化合物に対して銀の化合物を0.0001〜0.5質量%、好ましくは0.0001〜0.1質量%、より好ましくは0.0001〜0.05質量%で混合したものを用いるのが望ましい。0.0001質量%未満ではその抗菌性が不十分となり、他方0.5質量%以上では浸漬後にコロイド発色しやすくなる。
【0053】
また上記の強化塩浴に浸漬する際、浸漬温度がガラスの歪点×0.7の温度〜ガラスの歪点×1.1の温度とするのが好ましく、また浸漬時間は0.5〜10時間が好ましい。浸漬温度が上記範囲から外れると、混合溶融塩内の無機塩に悪影響を与えたり、イオン交換が不十分になることがあり、一方で浸漬時間が10時間を超えると、圧縮層4に生じた圧縮応力が熱により緩和し、結果として圧縮応力を損なって抗菌性ガラスの強度が低下してしまうことがある。また、浸漬時間が0.5時間未満だと、イオン交換が不十分となる。
【0054】
前記のカリウムの化合物は、例えば硝酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられるが、この中でも硝酸カリウムが好適に使用される。またカリウム以外にもイオン交換を阻害しない程度であれば、その他アルカリ(リチウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム)化合物を10質量%以下の範囲で強化塩浴中に混合しても差し支えない。
【0055】
前記の銀の化合物は、例えば例えば硝酸銀、塩化銀等が挙げられるが、硝酸銀銀が好適に使用される。また、銀以外の抗菌性物質として、銅、亜鉛等が挙げられ、銀及びカリウムのイオン交換を阻害しない程度であれば、硝酸銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等を強化塩浴中に含んでいても差し支えない。
【0056】
ガラス組成物中のナトリウムイオンと、混合溶融塩中のカリウムイオン及び銀とイオン交換し易くするため、又は強化塩浴内での熱割れ等を防止するために、強化塩浴に浸漬する前にガラス組成物を電気炉などによって予熱するのが好ましい。また、強化塩浴浸漬後、該強化塩浴から取り出す工程において、急冷による熱割れ等を防止するために徐冷炉などによって徐冷することが望ましい。
【0057】
以下、具体的に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
本発明の実施例と比較例を以下に記載する。また、各ガラス組成物の組成を表1、評価結果を表2にそれぞれ示す。実施例及び比較例に用いた各サンプルを次のように作製した。
【0059】
SiO2源として二酸化珪素を、Al源として酸化アルミニウムを、B源としてホウ酸を、NaO源として炭酸ナトリウムを、KO源として炭酸カリウムを、MgO源として酸化マグネシウムを、CaO源として炭酸カルシウムを、SrO源として炭酸ストロンチウムを、BaO源として炭酸バリウムを、ZrO源として酸化ジルコニウムを、TiO源として酸化チタンを、SnO源として酸化錫をそれぞれ使用し、これらを表1の組成となるべく調合したうえで、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1300〜1650℃、約6時間加熱溶融し、溶融ガラスを得た。得られた溶融ガラスを鋳型に流し込んでブロック状とし、ガラス転移点以上に保持した電気炉内に移入して徐冷してガラス組成物を得た。
【表1】

【0060】
得られたガラス組成物のブロックを切断・加工により、50mm×50mm×3mmのガラス板とし、表2に記載した条件で化学強化を行った。強化塩浴の混合溶融塩として硝酸カリウムと硝酸銀を用いた。表2に記載した浸漬温度、浸漬時間により化学強化処理を施した後、取り出して流水により水洗し、室温で乾燥させサンプルを得た。
【表2】

【0061】
得られたサンプルについて、表面Na濃度、K濃度とAg濃度、可視光線透過率、表面圧縮応力、抗菌効果をそれぞれ調べた。
【0062】
Na、K、Agの各表面濃度は蛍光X線分析装置ZSX PrimuxII(RIGAKU製)を用いて測定した。50kV−60mAで、Na(測定線Kα、ターゲットRh、スリットS4)、K(測定線Kα、ターゲットRh、スリットS4)、Ag(測定線Lα、ターゲットRh、スリットS2)でそれぞれのX線強度を測定し、各X線強度比(Ag/K、K/Na)を算出した。なお、Naは表面からの深さ5μm程度、Kは50μm程度、Agは5μm程度の濃度をそれぞれ測定した。
【0063】
銀イオンの拡散距離は、EPMA JXA-8600(JEOL製)を用いて得られたガラス表面から深さ方向へのAgプロファイル(例えば図2)より求めた。なお、化学強化処理前のガラス板のAgプロファイルをノイズとして、得られたAgプロファイルより差し引いた値を用いた。
【0064】
可視光線透過率は、自記分光光度計U4000型(日立製作所製)を用いて、JIS R3106とJIS Z8729に準拠して測定を行った。
【0065】
表面圧縮応力及び圧縮層の厚みは、表面応力計FSM−60V(東芝硝子製)を用いて光弾性法を用いて測定した。
【0066】
抗菌効果は、JIS Z2801を参考に、菌種は大腸菌を用いて評価した。ガラス表層に銀イオンを拡散させていないガラスの24時間後の生菌数Aと、銀イオンを拡散させた24時間後の生菌数Bについて、対数log(A/B)が2.0より大きい場合に抗菌効果があるとした。
【0067】
以上、実施例及び比較例より、本発明は抗菌性を損なうことなく、500MPa以上の表面圧縮応力と85%以上の可視光透過率とを達成する抗菌性ガラスであることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0068】
1 抗菌性ガラス
2 表層
3 拡散層
4 圧縮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に抗菌物質を有する抗菌性ガラスであって、該抗菌性ガラスは表層において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層と、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上の圧縮層とを有し、表面圧縮応力が480MPa以上であることを特徴とする抗菌性ガラス。
【請求項2】
前記抗菌性ガラスの表層において、該表層はカリウムイオンを含み、蛍光X線分析法によって測定されたカリウムのX線強度(K)と銀のX線強度(Ag)との比(Ag/K)が0.0005〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性ガラス。
【請求項3】
前記抗菌性ガラスにおいて、前記表層を除いたガラス部が、実質的に質量%で、
SiO:50〜75、
Al:3〜20、
:0〜10、
NaO:5〜20、
O:0〜10、
MgO:0〜10、
CaO:0〜10、
SrO:0〜5、
BaO:0〜5、
ZrO:0〜5、
TiO:0〜10、
SnO:0〜3、
からなるガラス組成物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗菌性ガラス。
【請求項4】
前記抗菌性ガラスの表層において、ガラス表面から深さ方向に厚み60〜95μmの圧縮層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかの1項に記載の抗菌性ガラス。
【請求項5】
前記抗菌性ガラスの表層において、ガラス表面から深さ方向に厚み15〜60μmの圧縮層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかの1項に記載の抗菌性ガラス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の抗菌性ガラスの製造方法であって、実質的に質量%で、
SiO:50〜75、
Al:3〜20、
:0〜10、
NaO:5〜20、
O:0〜10、
MgO:0〜10、
CaO:0〜10、
SrO:0〜5、
BaO:0〜5、
ZrO:0〜5、
TiO:0〜10、
SnO:0〜3、
からなるガラス組成物を、カリウムイオンと銀イオンとを含む混合溶融塩の強化塩浴に浸漬する工程を含み、該強化塩浴が、カリウムの化合物に対して銀の化合物を0.0001〜0.5質量%で添加混合した強化塩浴であることを特徴とする抗菌性ガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の抗菌性ガラスを用いることを特徴とするディスプレイ用カバーガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71878(P2013−71878A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213766(P2011−213766)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】