説明

抗菌性シート状物品

【課題】優れた抗菌・殺菌効果と抗ウイルス効果を併せ持ち且つ人体に対する安全性が高く且つ低刺激性であるウェットティッシュを提供する。
【解決手段】紙又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸したことを特徴とするウェットティッシュ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットティッシュ、除菌クリーナー、抗菌お尻拭き及び抗菌化粧紙のような抗菌性シート状物品に関するものであり、詳細には、紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた抗菌性シート状物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットティッシュ、除菌クリーナー、抗菌お尻拭き及び抗菌化粧紙のような抗菌性シート状物品は、製品自体にカビや細菌が繁殖しないように、また、製品を使用した際に抗菌・殺菌効果が得られるように、殺菌剤が使用されている。
抗菌性シート状物品に使用される殺菌剤は、多様な使用に対応できるよう幅広い抗菌・殺菌効果を有することが要求されるのに加えて、人体に対する安全性が高く且つ低刺激性であることも要求される。
また、抗菌性シート状物品には、上記の幅広い抗菌・殺菌効果に加えて、抗ウイルス活性を有し得れば、そのウイルス疾患の感染の予防等の用途への使用等を含め、更にその利用を拡大できると考えられるものの、そのように、幅広い抗菌・殺菌効果と抗ウイルス活性を併せ持つ抗菌性シート状物品は、未だ開発されているとはいえない。
一方、幅広い抗菌性を有し、天然素材で安全性が高い物質としてヒノキチオールが知られている。しかし、ヒノキチオールは、水溶化が困難であり、紫外線に弱いという欠点を有しているため、溶解性が高いアルコールに混ぜて使用されるのが一般的であり、歯磨き、ヘアートニック等に使用されるに留まっている。
また、天然ヒノキチオールは食品添加物にも指定されているにも拘らず、上記の理由等により、梅干のカビの予防程度にしか使用されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ヒノキチオールを用いる、優れた抗菌・殺菌効果と抗ウイルス効果を併せ持ち且つ人体に対する安全性が高く且つ低刺激性である抗菌性シート状物品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全で幅広い抗菌性を有する天然素材であるヒノキチオール、若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール溶液を、紙又は不織布に塗布、噴霧又は含浸して湿潤させると、人体に対する安全性が高く且つ低刺激性である抗菌性シート状物品とすることが可能であること及び前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩は、優れた抗ウイルス活性を有することを見出し本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、
(1)紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させたウェットティッシュ、
(2)紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた除菌クリーナー、
(3)紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含
む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた抗菌お尻拭き、
(4)紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた抗菌化粧紙、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗菌性シート状物品は、優れた抗菌・殺菌効果と抗ウイルス効果を併せ持ち且つ人体に対する安全性が高く且つ低刺激性である。
特に、本発明の抗菌性シート状物品は、インフルエンザウイルスに対して高い抗ウイルス効果を有するため、インフルエンザの感染の予防等にも効果的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、抗菌性シート状物品は、紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させることにより製造できる。
【0008】
本発明に使用する紙、織布又は不織布は、適度な強度と柔軟性を持つものが好ましく、具体的には、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ウレタン、ポリエステル、レーヨン、綿、麻、絹、セルロース、ウール等の繊維を単独でまたは混合して作ったものを用いることができる。また本発明に使用する紙、織布又は不織布は、単独で用いてもよく、同一もしくは異なる種類の紙、織布又は不織布を複数枚積層してもよく、表面を凹凸に加工してもよく、表面に絵や模様を描いたものを用いてもよい。また、天然セルロース繊維や再生セルロース繊維等のセルロース繊維は親水性や保水性が高いため、これらを含有する紙、織布又は不織布が好ましい。尚、織布は、上述の繊維を一重織、二重織、多重織等の公知の方法を用いることにより製造することができる。また、不織布は、上述の繊維を使用し、乾式法、湿式法、ウォータージェット法、スパンボンド法、エアレイド法、ニードルパンチ法、フェルト法等の公知の方法を用いることにより製造することができる。紙は、上述の繊維を使用し、漉網式抄紙法等の公知の方法を用いることにより製造することができる。
【0009】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0010】
ヒノキチオールの金属錯体としては、ヒノキチオールと、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、スズ、コバルト、チタン、バナジウム、ビスマスなどとの金属錯体が挙げられる。ヒノキチオールと金属との割合は、特に限定されるものではないが、通常、ヒノキチオール:金属のモル比が2:1のもの、あるいは3:1のものが好ましく用いられる。
【0011】
ヒノキチオール若しくはヒノキチオールの金属錯体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;銅
塩、亜鉛塩等の遷移金属塩;ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩等のヘテロ環アミン塩、アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩等の塩基性アミン塩等の有機塩類等を挙げることができる。
【0012】
これらのヒノキチオール若しくはその金属錯体又はこれらの塩は、1種類だけ単独で含有されていてもよいし、2種類以上併用してもよく、2種以上の金属が使用されるのが好ましい。
【0013】
また、好ましくは、前記金属は銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である。
また、ヒノキチオール銅錯体、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物等が好ましい。
【0014】
また、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、耐光性がヒノキチオールよりも優れているので、耐候性が要求される場合には、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩を用いることが好ましい。
更に、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、ヒノキチオールよりも低い濃度(例えば、1/10程度の濃度)で同等の効果を示すことから経済的な面からも好ましい。
【0015】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩は、媒体1000gに対して、50μgないし100g、好ましくは、0.1gないし80g、より好ましくは、0.5ないし50gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水であるか又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0016】
水溶液に使用する水は、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
アルコール溶液に使用するアルコールは、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0017】
紙、織布又は不織布に塗布、噴霧又は含浸して湿潤させる水溶液又はアルコール溶液中には、更に、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を含むことができる。これらの抽出成分自体、ヒノキチオールほどではないにしても抗菌力を有するため、他の有害な菌に対する消毒効果を期待できる。また、ヒノキチオールは、一般に水に対する溶解度が0.2質量%が限界といわれているが、これらの抽出液との併用により、1質量%程度の水溶液を容易に得ることができる。従って、ヒノキチオールの含有量の高い水溶液を調製する場合は、上記抽出物を共存させることが好ましい。
【0018】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
【0019】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノ
ール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
【0020】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0021】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合
成品の混合物を用いることもできる。
【0022】
前記抽出物としては、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、より好ましくは上記4種の抽出物を全て含む。
【0023】
前記抽出物を添加する際の配合量は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩1質量部に対して、1ないし4質量部使用するのが好ましく、より好ましくは、1.2ないし3.5質量部の範囲である。
また、添加する際の各抽出物の配合量は以下の通りである。
例えば、アロエの抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし2.5gの割合で添加される。
例えば、緑茶の抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし5g、より好ましくは、0.2ないし2gの割合で添加される。
例えば、熊笹の抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
例えば、ドクダミの抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0024】
紙又は不織布に塗布、噴霧又は含浸して湿潤させる水溶液又はアルコール溶液中には、グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加することもできる。
【0025】
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル類、キラヤサポニン等が挙げられる。これらを含有することにより、ヒノキチオール濃度を10質量%にまで高めた水溶液とすることができる。
【0026】
アルコール溶液を使用する場合は、上記のような添加物を使用することなく高濃度のヒ
ノキチオール溶液とすることができる。
【0027】
前記水溶液又はアルコール溶液中には更に、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス等を含有してもよい。これらは、ヒノキチオールの殺菌力を損なうことなく、ヒノキチオールの独特の臭いを緩和することができ、また、水に対するヒノキチオールの溶解度を高めることができる。
【0028】
上記に加え、さらに必要に応じて、従来使用されている添加剤、例えば金属石鹸、動物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸等の薬効剤、色素、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を適宜配合することもできる。
【0029】
本発明のウェットティッシュに使用する紙又は不織布に塗布、噴霧又は含浸して湿潤させるための水溶液又はアルコール溶液の好ましい態様としては、以下が挙げられる。
0.5ないし5%のヒノキチオール銅錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールアルミニウム錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールビスマス錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
【0030】
本発明の抗菌性シート状物品は、上記で示された各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液を紙、織布又は不織布に、塗布、噴霧又は含浸して湿潤させることにより製造される。
上記塗布としては、例えば、刷毛塗り、ロールコート、スピンコート、スリットコート等の慣用の塗布方法を採用することができる。
【0031】
上記噴霧としては、紙、織布又は不織布に均一に噴霧し得る方法であれば特に限定されないが、例えば、噴霧器によるスプレー等の噴霧が挙げられ、また、マイクロミストができる噴霧器による噴霧等も含まれる。
上記噴霧器としては、アルコール溶液を安全に噴霧し得る噴霧器であれば、特に限定されないが、例えば、液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスの圧力を利用して噴霧する噴霧器が好ましい。
【0032】
上記含浸は、各種成分を含有する水溶液又はアルコール溶液中に紙又は不織布を浸漬し、必要に応じて部分的に乾燥させることにより行うことができる。
【0033】
尚、水溶液又はアルコール溶液を紙、織布又は不織布に、塗布、噴霧又は含浸する際の温度は、30ないし60℃であるのが好ましく、また、30℃ないし45℃であるのが好ましい。
【0034】
また、最終的に基材となる紙、織布又は不織布に含まれる水溶液又はアルコール溶液の量は、使用時に十分な水分又は含水アルコールが提供できるように、使用される紙、織布又は不織布の質量に基づき、50質量%ないし200質量%の範囲であるのが好ましい。
【0035】
本発明の抗菌性シート状物品は、優れた、幅広い抗菌・殺菌効果に加えて、優れた抗ウイルス効果を併せ持つ。
特に、インフルエンザウイルスに対して高い抗ウイルス効果を有するため、インフルエンザの感染の予防等に効果的に使用することができる。
そのため、本発明の抗菌性シート状物品は、ウェットティッシュ、除菌クリーナー、抗菌お尻拭き、抗菌化粧紙として好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
実施例1:ウェットティッシュの作成(レーヨン不織布)
レーヨン不織布(目付90g/m2)に以下の組成の水溶液(30℃)を基材の重量に
対して100質量%含浸させることにより、ウェットティッシュを作成した。
【表1】

【0037】
実施例2:ウェットティッシュの作成(和紙)
レーヨン不織布を和紙(秤量18g/m2)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行
ってウェットティッシュを得た。
【0038】
製造例1:ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液の製造
ヒノキチオール32.8g(0.2mol)に40℃ないし50℃でメタノール150gを滴下して溶解し、そのままの温度で1時間攪拌した。この溶液に、メタノール100gに塩化亜鉛(ZnCl2)13.6g(0.1mol)を溶解させた溶液を、30℃な
いし40℃で1.6時間かけて滴下し、40℃ないし45℃で5時間反応させた。冷却後、析出物を濾取し、濾物をメタノール30gで2回洗浄した。減圧下(133.3Pa)19ないし48℃で乾燥することにより、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物37.1gを淡黄色塊として得た。
上記で得たヒノキチオール塩化亜鉛混合物を30%エタノール水溶液に溶解して、1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液及び0.3%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液を調製した。
【0039】
実施例3
実施例1で使用した水溶液を製造例1で製造した1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液に代えた以外は実施例1と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(レーヨン不織布)。
【0040】
実施例4
実施例1で使用した水溶液を製造例1で製造した0.3%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液に代えた以外は実施例1と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(レーヨン不織布)。
【0041】
実施例5
実施例2で使用した水溶液を製造例1で製造した1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液に代えた以外は実施例2と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(和紙)。
【0042】
実施例6
実施例2で使用した水溶液を製造例1で製造した0.3%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液に代えた以外は実施例2と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(和紙)。
【0043】
製造例2:ヒノキチオールナトリウム塩溶液の製造
25%水酸化ナトリウム水溶液112g(0.7mol)を、ヒノキチオール121.1g(0.738mol)をメタノール160gに溶解した溶液に、35℃ないし40℃でゆっくり滴下した。溶液を30℃ないし40℃で2時間反応させた。減圧下で溶媒(メタノール)を留去して黄色塊を沈殿させ、該残渣をアセトン300gで再結晶し、濾過した後、減圧下(133.3Pa、7時間)で乾燥することにより、黄色のナトリウム塩(2水和物、133g)を得た。
上記で得たヒノキチオールナトリウム塩を30%エタノール水溶液に溶解して、3%ヒノキチオールナトリウム塩溶液を調製した。
【0044】
実施例7
実施例1で使用した水溶液を製造例2で製造した3%ヒノキチオールナトリウム塩溶液に代えた以外は実施例1と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(レーヨン不織布)。
【0045】
実施例8
実施例2で使用した水溶液を製造例2で製造した3%ヒノキチオールナトリウム塩溶液に代えた以外は実施例2と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(和紙)。
【0046】
製造例3:ヒノキチオール溶液(30%エタノール水溶液)の製造
ヒノキチオールを30%エタノール水溶液に溶解して、1%ヒノキチオール溶液を調製した。
【0047】
実施例9
実施例1で使用した水溶液を製造例3で製造した1%ヒノキチオール溶液に代えた以外は実施例1と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(レーヨン不織布)。
【0048】
実施例10
実施例2で使用した水溶液を製造例3で製造した1%ヒノキチオール溶液に代えた以外は実施例2と同様の操作を行ってウェットティッシュを得た(和紙)。
【0049】
試験例1:黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対するウェットティッシュの効果試験
大腸菌(Escherichia coli)IFO 12529株及び黄色ブドウ球
菌(IFO 12732株)を、それぞれ普通ブイヨン培地で37℃にて18時間培養した後、培養液10μLを3mLの普通ブイヨン培地に添加後、37℃にて6時間振とう培養した。この培養液を生理食塩水(0.85%食塩水)にて10段階希釈し、105倍ま
で希釈したものを添加細菌液(大腸菌、黄色ブドウ球菌)とした。
滅菌ガラス板(50mm×50mm)を直径90mm×高さ20mmの滅菌シャーレに入れ、滅菌ガラス板表面に添加細菌液(大腸菌、黄色ブドウ球菌)の各1mLを塗布した。滅菌ガラス板表面を、ウェットティッシュ(実施例1ないし10)で拭取った後、滅菌ガラス板表面の残存菌を洗い出すため、滅菌生理食塩水(pH7.4)を直ちに10mL
添加してよく攪拌した。得られた試験菌抽出液1mL中の生菌数を標準寒天培地法により測定した。
結果を表2に示した。実施例1ないし10のウェットティッシュは、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して、共に優れた拭取り効果を示すことが確認された。
【表2】

【0050】
試験例2:ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する抗ウイルス効果
1.検体
製造例1で得た1%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液及び0.3%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液、製造例2で得た3%ヒノキチオールナトリウム塩溶液及び製造例3で得た1%ヒノキチオール溶液を被検溶液とした。
2.試験目的
上記で調製した検体のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する不活性化試験を行う。
3.試験概要
検体にインフルエンザウイルス液を添加・混合して作用液とした。室温で60分間転倒混和を行い、作用後に作用液のウイルス感染価を測定した。尚、対照として30%エタノール水溶液及びリン酸緩衝液(PBS)を用いた。
4.試験方法
1)試験ウイルス
インフルエンザウイルス(PR−8株)(Infuluenz virus PR8 strain)(発育鶏卵に接種、2日後に回収したもの HA:2048)
2)使用細胞
MDCK細胞(理研バイオリソースセンター)
3)使用培地
(1)細胞増殖培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)及びウシ胎児血清(10%)を加えたものを使用した。
(2)細胞維持培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)、トリプシン及びBSA(0.1%)を加えたものを使用した。
4)ウイルス浮遊液
試験ウイルス液をPBSにて100倍に希釈して用いた。
5)試験操作
検体0.5mLにウイルス浮遊液0.5mLを添加・混合し、作用液とした。室温で60分間転倒混和により作用させた後、作用液を0.1%BSA/PBSにて10倍段階希釈した。
6)ウイルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、使用細胞をマイクロプレート(96穴)に単層培養した後、細胞増殖培地を除き、MEMにて2回洗浄した後に、作用液の各希釈液0.1mLを4穴づつに接種し、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて1時間反応後、希釈液を取り除き、0.1mLの細胞維持培地を各穴に加え、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて5日間培養した。培養後、倒立顕微鏡にて細胞変性の有無を観察及び培養液のHAの有無をニワトリ赤血球を用いて確認し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出した。
結果を表3に纏めた。
【表3】

【0051】
上記の成績から、ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩を用いた場合、ヒトインフルエンザウイルスは検出されず、これにより、ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を有することが確認された。以上のことから、ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩を含む実施例1ないし10のウェットティッシュも同様に、抗ウイルス効果を奏し得ると考えられる。
【0052】
試験例3:肌荒れ性試験
(肌荒れ性試験方法及び試験結果)
実施例1ないし10のウェットティッシュを30mm×30mmの大きさに切り出してパネラー各人の下腕部内側に5分間接触させたのち、風乾した。この操作を1日あたり3回
の割合で2週間繰り返し肌の状態を自己申告させた。パネラーは男性10名、女性10名の計20名とし、肌の違和感、不具合については複数回答可とした。
この試験を実施例1ないし10のウェットティッシュについて実施した。
実施例1ないし10のウェットティッシュは、何れも、肌荒れ、不快な冷感、及び皮膚刺激性が非常に少ないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させたウェットティッシュ。
【請求項2】
紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた除菌クリーナー。
【請求項3】
紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた抗菌お尻拭き。
【請求項4】
紙、織布又は不織布に、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を塗布、噴霧又は含浸して湿潤させた抗菌化粧紙。

【公開番号】特開2009−268698(P2009−268698A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121629(P2008−121629)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000222141)東洋アルミエコープロダクツ株式会社 (106)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【Fターム(参考)】