説明

抗菌性ストランド、その製造およびその使用

【課題】抗菌性ストランド、その製造およびその使用が提供される。
【解決手段】抗菌性ストランドは、a)熱可塑性エラストマーと、b)熱可塑性エラストマーa)の融点よりも少なくとも10℃低い融点を有するポリマーと、c)ハロゲン化フェノールとを含んでなる。これらのストランドは、繰り返し洗浄に耐え得る優れた抗菌効果で有名である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌効果を備えた弾性ストランド、とりわけモノフィラメントに関する。これらは、弾性挙動に加えて無菌状態も求められる分野で使用される織物の製造に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
ストランドは、一般に、銀イオンのごとき重金属イオンでドープされることによって、または、抗菌的に活性なサイズ剤をその表面に塗布することによって、抗菌性をもつ。抗菌的に活性な物質をストランド内に導入するという試みもすでに成されているが、これは、一般に、選ばれた材料に限られており、前記活性物質は、洗浄によってストランドから比較的速く取り除かれてしまう。
ハロゲン化フェノールは、有用な抗菌剤として知られている。その一例として、トリクロサン,2−ヒドロキシ−4,2’,4’−トリクロロジフェニルエーテルが挙げられる。
抗菌性ストランドの例は、殺菌性ストランドからなる殺菌的に活性なエアフィルターが記載されているCA−A−2,551,701に見られる。トリクロサンは、記載されている抗菌剤の一例であり、ポリ塩化ビニルは、ストランド形成材料として提案されている。
【0003】
DE−T−69908910には、抗菌性ストランドまたは織物が記載されている。抗菌性は、トリクロサンまたはその誘導体をストランドまたは織物の表面に塗布することによって付与される。前記文献では、トリクロサンとストランド形成材料の共押出成形は、選ばれたポリマーでのみ可能であり、ポリエステル織物、ポリアミド織物、綿織物およびライクラ(lycra)織物ではうまくいかないと述べられている。
US−A−6,299,651には、エーテル化されたトリクロサン誘導体で仕上げられた織物が開示されている。活性物質は、ストランドまたは織物内に拡散するのに十分な温度で、ストランドまたは織物の表面に接触させることによって塗布される。
DE−T−68909268には、固体の合成ポリマーの表面に塩基性膨潤剤を接触させることによって前記表面を改質する方法が記載されている。改質された表面を利用して、活性物質を前記合成ポリマーに導入することができる。
【0004】
驚くべきことに、本発明者らは、多量のハロゲン化フェノールの導入を可能にし、かつ、これまで得られなかった性能を備えた弾性ストランドの製造を可能にする選ばれた紡糸可能なポリマーの一群を見出した。熱可塑性エラストマーをマスターバッチの形態にあるハロフェノールと一緒に紡糸することによってそのようなストランドが得られることが分かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繰り返し洗浄されても抗菌効果を維持する弾性および抗菌性ストランドおよび織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、a)熱可塑性エラストマーと、b)前記熱可塑性エラストマーの融点よりも少なくとも10℃低い融点を有するポリマーと、c)ハロゲン化フェノールとを含んでなるストランドを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願明細書における「ストランド」という用語は、有限長の繊維(短繊維)、無限長の繊維(フィラメント)およびそれでできているマルチフィラメント、または短繊維から二次的に紡糸されたヤーンを広く一般的に指すものとして理解されるべきである。好ましいのは、モノフィラメントの形態にある溶融紡糸ストランドである。
ここで言うモノフィラメントとは、個別のストランドである。それらの直径は、一般に55〜5,000μmであり、好ましくは100〜300μmである。
成分a)の熱可塑性エラストマーは、様々な種類を含んでいてもよい。そのようなポリマーは、一般に、弾性ブロック共重合体であり、当業者には周知である。
成分a)の例としては、熱可塑性および弾性ポリウレタン(TPE−Us)、熱可塑性および弾性ポリエステル(TEP−Es)、熱可塑性および弾性ポリアミド(TPE−As)、熱可塑性および弾性ポリオレフィン(TPE−Os)、および熱可塑性および弾性スチレンブロック共重合体(TPE−Ss)が挙げられる。
【0008】
前記熱可塑性および弾性ブロック共重合体a)は、様々な異なるモノマーの組み合わせで構成されてもよい。これらの複数のブロックは、一般に、いわゆるハードセグメントおよびソフトセグメントを含んでなる。ソフトセグメントは、一般に、TPE−Us、TPE−EsおよびTPE−Asの場合にはポリアルキレングリコールエーテルから誘導される。ハードセグメントは、一般に、TPE−Us、TPE−EsおよびTPE−Asの場合には短鎖ジオールまたはジアミンから誘導される。ジオールまたはジアミンからだけでなく、前記ハードセグメントおよびソフトセグメントは、脂肪族、脂環式および/または芳香族ジカルボン酸またはジイソシアネートで構成される。
【0009】
熱可塑性ポリオレフィンの例としては、エチレン−プロピレン−ブタジエンのブロックとポリプロピレンのブロックとからなるブロック共重合体(EPDM/PP)、または、ニトリル−ブタジエンのブロックとポリプロピレンのブロックとからなるブロック共重合体(NBR/PP)が挙げられる。
特に好ましい成分a)は、熱可塑性および弾性ポリウレタン、とりわけ、熱可塑性および弾性ポリエーテルエステルである。その例としては、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートのブロックとポリアルキレングリコールテレフタレートのブロックとからなるブロック共重合体、または、芳香族および/または脂環式ジイソシアネートおよびアルキレン−および/またはアリーレンジアミンから誘導されるブロックと芳香族および/または脂環式ジイソシアネートおよびα,ω−ジアミノポリアルキレンエーテルから誘導されるブロックとからなるブロック共重合体が挙げられる。
【0010】
本願明細書における熱可塑性および弾性ポリマーは、慣用のエラストマーと同様の室温挙動を有するが、加熱時に塑性変形可能であり、故に熱可塑性挙動を示すブロック共重合体である。これらの熱可塑性および弾性ブロック共重合体は、加熱時にポリマー分子が分解することなく解ける物理的な架橋点(例えば、二次原子価力または結晶)を備えた小区域を有する。
【0011】
成分b)は、選ばれたポリマーからなる。関心があるのは、本発明のストランドの製造に使用されるマスターバッチのポリマー成分である。押出機内において十分な紡糸性および混和性を実現するために、成分b)のポリマーの融点は、成分a)のポリマーの融点よりも少なくとも10℃低くなければならない。
成分b)の好適なポリマーの例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、とりわけ、ポリオレフィンが挙げられる。
成分b)は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、成分a)以外の熱可塑性および弾性ポリエーテルエステル(TPE−Es)、ポリカーボネート、脂肪族ポリアミド、例えばナイロン−6またはナイロン−6,6、および更に、とりわけ、ハロゲン非含有ポリオレフィンが挙げられる。
成分b)として好ましく使用されるのは、融点が140〜220℃の範囲内にあるポリマーである。
特に好ましいのは、成分b)としてポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレン、および更に、とりわけ、ポリプロピレンを使用することである。
【0012】
成分c)は、ハロゲン化フェノールからなる。前記フェノールは、1種以上の環を有していてもよい。前記フェノールは、1種以上のフェノール性水酸基を有していてもよい。有用なハロゲン置換基としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。なかでも、臭素およびとりわけ塩素が特に好ましい。
極めて特に好ましいのは、ジフェニルエーテルコア構造を含んでなるフェノール、とりわけ、1種のフェノール性水酸基と2〜4種のハロゲン置換基とを有するものである。最も好ましいのは、エーテル酸素に対してオルト位にあるフェノール性水酸基を有するものである。
2−ヒドロキシ−4,2’,4’−トリクロロジフェニルエーテル(トリクロサン)は、極めて特に好ましい成分c)である。
【0013】
本発明のストランド中の成分a)、b)およびc)の量は、幅広い範囲内で選択することができる。前記ストランドは、一般に、前記ストランドの全質量に基づいて、20〜99.89重量%の成分a)、0.01〜55重量%の成分b)、および0.1〜25重量%の成分c)を含有する。
本発明のストランドを製造するのに必要な成分a)、b)およびc)は、それ自体が周知であり、一部は市販されていたり、あるいはそれ自体が周知である方法によって得られる。
本発明のストランドは、成分a)、b)およびc)に加えて、さらなる付加材料d)をさらに含んでいてもよい。
その例としては、加水分解安定剤、加工助剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、顔料、艶消し剤、粘度調整剤、結晶化促進剤、および染料が挙げられる。
【0014】
加水分解安定剤の例としては、カルボジイミドが挙げられる。
加工助剤の例としては、シロキサン、ワックス、比較的長鎖のカルボン酸またはその塩、脂肪族、芳香族エステルまたはエーテルが挙げられる。
酸化防止剤の例としては、リン化合物、例えばリン酸エステル、および立体ヒンダードフェノールが挙げられる。
顔料または艶消し剤の例としては、有機染料顔料および二酸化チタンが挙げられる。
粘度調整剤の例としては、多塩基カルボン酸およびそのエステル、および多価アルコールが挙げられる。
付加材料d)の割合は、前記ストランドの全質量の20重量%以下である。
【0015】
本発明のストランドは、モノフィラメントであることが好ましい。
本発明のストランドの線密度は、幅広い範囲内で変動し得る。その例としては、30〜45,000dtex、さらに好ましくは100〜1,000dtexが挙げられる。
本発明のストランドの断面形状は自由に選択することができ、その例としては、円形、楕円形およびn角形(nは3以上である)が挙げられる。
極めて特に好ましいのは、線密度が30〜45,000dtexである円形またはn角形の断面を有するモノフィラメントである。さらに詳しくは、これらのモノフィラメントは、医学的に無菌な領域で用いられる少なくとも1種の染料を含有する。
【0016】
本発明のストランドは、それ自体が周知である方法によって得られる。
典型的な製造方法は、
i)成分a)と、成分b)およびc)を含んでなるマスターバッチとを押出機内で混ぜ合わせる工程と、
ii)成分a)、b)およびc)を含んでなる前記混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)形成されたフィラメントを回収する工程と、
iv)前記形成されたフィラメントを任意に延伸および/または弛緩させる工程と、
v)前記形成されたフィラメントを巻き取る工程と、
を含んでなる。
【0017】
本発明のストランドは、慣用の溶融紡糸法を、単一または多重延伸および、必要に応じて、得られたストランドの固定と組み合わせて用いることによって製造することができる。
本発明のストランドは、弾性と永続的な抗菌性との特に良好な組み合わせで有名である。
マスターバッチの形態にあるハロゲン化フェノールとポリマーとの組み合わせが熱可塑性エラストマーと容易に混ぜ合わさることは当業者にとって驚くべきことである。
前記マスターバッチは微細分散するため、ポリマーマトリックス中で凝集を起こすことは無い。化学的に異なるポリマーを混ぜ合わせた場合、ベースとなるポリマーのマトリックス中に、もう一方の添加されたポリマーがアイランドを形成することが多い。これは、ストランドの大きな直径変動から、または、多数の太い箇所から明らかである。これらの好ましくない現象は、驚くべきことに、本発明では見られない。
【0018】
本発明のストランドは、織物、とりわけ、織布、撚物、ループ形成型編物、ブレイズ編物またはループ引寄型編物の製造に好ましく使用される。
前記織物は、無菌状態が求められる分野で好ましく使用される。
特に注目に値する事実とは、前記マスターバッチがストランドの断面全体に均一に分散しているため製品は恒久的に抗菌性を備えるということである。この性質は、仕上げ処理を全く必要とすること無く、繰り返し洗浄に耐えることができる。
【0019】
本発明のストランドの使用の例としては、病院、高齢者の家および介護施設で好ましく使用されるマットレスへの使用、車椅子等の掛け布への使用、トレッドミルへの使用、特にフィットネス装置のフィットネスセクターおよび日光浴用イスにも使用される弾性ストラップへの使用、特に衛生用品および化粧用品用のベルトコンベヤーへの使用、特にロータリーフィルター、例えばコンパートメントフィルタープレス用のろ布への使用、および、建物または車の室内装飾用、とりわけ、自動車または飛行機の室内装飾用またはオフィスまたは学校の椅子のカバーまたはサポートとしての布への使用が挙げられる。
本発明のストランドからなる織物も、本発明のストランドと同様に、本発明の主題の一部を形成する。
【0020】
さらに本発明は、前記開示されたストランドの前記目的のための使用に関する。
【実施例】
【0021】
下記実施例は、本発明をさらに具体的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【0022】
実施例1および2および比較例
熱可塑性、弾性ポリエーテルエステル(“TPE−E”)(Heraflex、Riteflex)、および、20重量%のトリクロサンおよびポリプロピレンを含有するマスターバッチ(Sanitized MB P−96−61)を使用した。
TPE−Eを、押出成形機の取入帯の直前で、1.0重量%(実施例1)または1.5重量%(実施例2)のマスターバッチと混ぜ合わせた。押出成形後、ポリマーを紡糸ヘッドを通して溶融紡糸し、個々のフィラメントを水浴で急冷した後、三段階(いずれの段階も加熱可能)で多重延伸し、熱固定し、仕上げ処理を施し、個別に巻き取った。得られたモノフィラメントについての処理データおよび得られた織物値を下記表に示す。
比較用として、マスターバッチを添加していないモノフィラメントも紡糸した。
得られたサンプルを、SN 195 920 Staphylococcus aureus ATCC 6538という方法に従ってSanitized AG研究室で試験した。処理をしなかった標準品とは異なり、サンプル1でさえ細菌は増殖せず、良好な作用を示すことが分かった。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)熱可塑性エラストマーと、
b)前記熱可塑性エラストマーの融点よりも少なくとも10℃低い融点を有するポリマーと、
c)ハロゲン化フェノールと、
を含んでなるストランド。
【請求項2】
成分a)は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性スチレンブロック共重合体、またはこれらの2種以上の組み合わせである、請求項1に記載のストランド。
【請求項3】
成分b)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドまたはポリオレフィンである、請求項1または2に記載のストランド。
【請求項4】
成分b)は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、成分a)以外の熱可塑性および弾性ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、脂肪族ポリアミドおよびハロゲン非含有ポリオレフィンである、請求項3に記載のストランド。
【請求項5】
前記ハロゲン非含有ポリオレフィンは、ポリプロピレンである、請求項4に記載のストランド。
【請求項6】
前記ハロゲン化フェノールは、ハロ−オルト−ヒドロキシジフェニルエーテルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のストランド。
【請求項7】
前記ハロ−オルト−ヒドロキシジフェニルエーテルは、2−ヒドロキシ−4,2’,4’−トリクロロジフェニルエーテルである、請求項6に記載のストランド。
【請求項8】
モノフィラメントである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のストランド。
【請求項9】
前記モノフィラメントは、円形またはn角形の断面および0.5〜25,000dtexの線密度を有する、請求項8に記載のストランド。
【請求項10】
前記モノフィラメントは、医学的に無菌な領域で用いられる少なくとも1種の染料を含有する、請求項9に記載のストランド。
【請求項11】
前記ストランドの全質量に基づいて、20〜99.89重量%の成分a)、0.01〜55重量%の成分b)および0.1〜25重量%の成分c)を含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のストランド。
【請求項12】
請求項1に記載のストランドを製造する方法であって、
i)成分a)と、成分b)およびc)を含んでなるマスターバッチとを押出機内で混ぜ合わせる工程と、
ii)成分a)、b)およびc)を含んでなる前記混合物を紡糸口金から押し出す工程と、
iii)形成されたフィラメントを回収する工程と、
iv)前記形成されたフィラメントを任意に延伸および/または弛緩させる工程と、
v)前記形成されたフィラメントを巻き取る工程と、
を含んでなる前記方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のストランドを含んでなる織物。
【請求項14】
織布、ニット編物、ブレイズ編物、または撚物を含んでなる、請求項13に記載の織物。
【請求項15】
マットレス、家具用カバー、弾性ストラップ、トレッドミル、ベルトコンベヤー、ろ布、または建物または車の室内装飾用の布への、請求項1〜11のいずれか一項に記載のストランドの使用。

【公開番号】特開2008−214848(P2008−214848A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49891(P2008−49891)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(501078281)テイジン モノフィラメント ジャーマニイ ゲー・エム・ベー・ハー (11)
【Fターム(参考)】