説明

抗菌性セルロース系不織布の製造方法

【課題】抗菌性能に優れたセルロース系不織布を、工程数を増やさずに連続工程で効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌性セルロース系不織布の製造方法は、セルロース系短繊維を用いて作製されたセルロース系不織ウェブに高圧水流処理を施すことにより、該不織ウェブの構成繊維同士を交絡させた後、高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブに、キスコーターを用いて茶葉抽出物を付与することで静菌活性値が2.0以上である抗菌性セルロース系不織布を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性セルロース系不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品に対して、防カビ、防虫または防腐などを目的として、衛生処理を施すことが一般的におこなわれている。特に、近年の病原性大腸菌のO157の問題や、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染問題の発生を契機に、繊維製品をはじめとしてプラスチック製品や紙製品などの分野において、抗菌加工が施された製品の需要が、急速に広がっている。
【0003】
一方、カテキン、フラボノイド、タンニンなどの種々の化合物の混合物である茶葉抽出物は、優れた抗菌性能を有することが知られている。この茶葉抽出物の粉末を繊維製品に付与させることで、優れた抗菌性能を有する繊維製品を得ることが様々に検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、綿、麻、絹などからなる繊維製品を、カチオン化剤を含む前処理液と接触させてカチオン化処理した後、緑茶やラフマ茶に含まれるカテキンの抽出物を含む溶液と各々接触させて反応させ、次に、種々の媒染剤を含む媒染液と接触させることで、静菌および制菌作用を有する抗菌繊維製品を得る方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、表面側シートとして茶葉抽出物が付与されたコットンスパンレース不織布が用いられた吸水性物品が記載されている。特許文献2においては、スパンレース不織布に茶葉抽出物を付与させるために、パッド部に茶葉抽出物を含有する水溶液が供給されたパッドドライヤー染色機に、コットンスパンレースを通過させることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の場合においては、繊維製品に付与される静菌性能および抗菌性能が不十分であるという問題があった。加えて、茶葉抽出物を繊維に付与させる工程が必要となるため、製造工程が2工程となり煩雑となってしまい、コストアップに繋がる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−131864号公報
【特許文献2】特許第4575639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、抗菌性能に優れたセルロース系不織布を、工程数を増やさずに連続工程で効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を要旨とするものである。
(1)セルロース系短繊維を用いて作製されたセルロース系不織ウェブに高圧水流処理を施すことにより、該不織ウェブの構成繊維同士を交絡させた後、高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブに、キスコーターを用いて茶葉抽出物を付与することで静菌活性値が2.0以上である抗菌性セルロース系不織布を得ることを特徴とする抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
(2)高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブの水分量が70〜120質量%であることを特徴とする(1)の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
(3)茶葉抽出物にビタミンCを含有させることを特徴とする(1)または(2)の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
(4)茶葉抽出物としてカテキン類を用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
(5)茶葉抽出物をキスコーターで付与するに際し、セルロース系不織布に対して茶葉抽出物含有液を20〜70質量%の割合で含浸させ、セルロース系不織布に対して茶葉抽出物を0.1〜1.0質量%の割合で付与することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、静菌活性値が2.0以上であるという抗菌性能に優れたセルロース系不織布を、連続工程で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の抗菌性セルロース系不織布の製造方法は、セルロース系短繊維を用いて作製されたセルロース系不織ウェブに高圧水流処理を施すことにより、該不織ウェブの構成繊維同士を交絡させた後、高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブにキスコーターを用いて茶葉抽出物を付与するものである。
【0013】
本発明にて用いられるセルロース系短繊維は、レーヨン、リヨセル、木綿などから構成される短繊維である。これらは一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、吸水性に優れることや、肌ざわりが良好なことから、木綿から構成されることが好ましい。
【0014】
セルロース系短繊維の平均繊維長は、カード機で開繊しうる程度であれば特に制限されず、一般に、10〜100mm程度のものを用いることができる。
【0015】
セルロース系短繊維の単糸繊度は、カード機で開繊しうる程度であれば、得られる不織布の用途等に応じて適宜選定すればよく、特に限定されないが、1〜20dtex程度がよい。
【0016】
次いで、上記のようなセルロース系短繊維を開繊してカードウェブとし、セルロース系不織ウェブを得ることができる。カード機とは、短繊維群を針布で梳くための機械である。すなわち、カード機の入り口に絡み合ったセルロース系短繊維群を投入すると、これらの短繊維群が針布で梳かれ、カード機の出口から開繊され、そして、集積されてなるセルロース系不織ウェブを得ることができる。セルロース系不織ウェブは、二層以上のウェブが積層されたものであってもよいし、または折り畳まれた状態(いわゆる、クロスレイドと呼ばれる形態である)であってもよい。
【0017】
セルロース系不織ウェブの目付けは、得られる不織布の用途等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、10〜60g/m程度でよい。
【0018】
次いで、得られたセルロース系不織ウェブに高圧水流により処理を施すことで、セルロース系不織ウェブの構成繊維である短繊維同士を交絡させて、一体化させる。高圧水流処理とは、セルロース系不織ウェブをメッシュ状支持体等の支持体に担持させ、支持体の反対側(いわゆる不織ウェブ側)から高圧の水流を噴射させる処理である。
【0019】
高圧の水流がセルロース系短繊維ウェブに衝突すると、高圧水流のエネルギーがウェブの構成繊維(つまり、セルロース系短繊維)を運動させるエネルギーとなり、セルロース系短繊維を相互に交絡させることができる。つまり、セルロース系短繊維同士の交絡により一体化させて、セルロース系不織布を得ることができる。なお、高圧の水流は、セルロース系不織ウェブに衝突した後にメッシュ状支持体を通過し排出され、その一部は繊維同士が交絡してなる不織ウェブ中に保持される。
【0020】
メッシュ状支持体としては、任意のメッシュ形態を有するものを使用することができ、例えば、織物などが挙げられる。また、メッシュ状支持体の材質は、特に制限されず、例えば、プラスチックなどの材質が挙げられる。
【0021】
高圧水流処理は、噴射装置を用いておこなわれる。噴射装置としては、通常、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔が噴射間隔0.05〜10mmで、一列または複数列で配列されているものが用いられる。高圧水流処理における圧力は、特に制限されないが、一般的に1.5〜20MPaである。
【0022】
セルロース系不織ウェブに施される高圧水流処理の回数は、特に制限されず、通常1〜10回程度である。
【0023】
メッシュ状支持体におけるメッシュサイズは、特に限定されるものではないが、5〜100メッシュ程度のものが好ましい。なお、ここでいうメッシュサイズは、例えば、メッシュ状支持体が織物である場合には、1インチあたりに存在する緯糸および経糸の数を意味するものである。例えば、100メッシュの織物とは、1インチあたり100本の緯糸および経糸が存在することを示す。
【0024】
次いで、高圧水流処理により交絡一体化されたセルロース系不織ウェブは、高圧水流処理による水分を含んでおり、この水分が残存している状態で、次工程である茶葉抽出物の付与を連続して行う。茶葉抽出物を付与する際には、乾燥状態の不織ウェブの質量に対して70〜120質量%の水が含まれていることにより、茶葉抽出物が不織ウェブに均一にムラなく付与させることが可能となる。不織ウェブに含まれる水分量を制御するためには、不織ウェブをマングルロール等を用いて絞り、不織ウェブが含んでいる水分の一部を排出させるとよい。不織ウェブに含まれる水分量を70質量%以上とすることで、均一にムラなく茶葉抽出物を付与させることができる。一方、120質量%以下とすることで、搬送時において、不織ウェブより水滴が落ちることがないという利点がある。水分量は、80〜100質量%であることがより好ましい。なお、マングルロール等の絞り圧を変えることにより、不織ウェブに含まれる水分量を容易に設定できる。
【0025】
次いで、水分が残存してなるセルロース系不織ウェブに対して、キスコーターを用いて茶葉抽出物を付与させる。キスコーターとは、1本又は数本のロールを用いて不織布に塗工(コーティング)をおこなう装置であり、キスロールと不織布が接触している部分においてのみ塗工をおこなうことが可能である。つまり、茶葉抽出物を含有させた溶液(茶葉抽出物含有液)が供給されたバス中でキスロールを回転させ、該キスロールの一部に不織布を接触させて茶葉抽出物含有液を含浸させることができる。
【0026】
本発明においては、高圧水流処理を施した後、不織ウェブに含まれる水分を残存させた状態で、茶葉抽出物含有液を付与している。キスコーターを用いることによって、水分を含む不織ウェブを、茶葉抽出物に浸漬させることなく、茶葉抽出物を付与させることができるため、付与させる工程において、茶葉抽出物含有液の濃度変化が生じることなく、連続して一定量の茶葉抽出物を効率よく付与させることが可能となる。また、本発明において、均一に茶葉抽出物が付与され、斑なく抗菌性が得られる理由は、不織ウェブが水分を含んだ状態で茶葉抽出物含有液を塗工していることから、不織ウェブに付与した茶葉抽出物は、不織ウェブが含む水分と拡散との関係で、不織ウェブ内部にも均一に拡散していき、不織ウェブの表裏および内部の全体に亘って斑なく均一に茶葉抽出物が存在することとなって斑のない良好な抗菌性を発揮することが可能となると推定する。
【0027】
また、通常、高圧水流処理は構成繊維を交絡一体化させるために用いる手段であることから、交絡一体化処理後においては、不織ウェブ中に含まれる水分は余分なものであるため、乾燥等により即座に排除されるものである。しかしながら、本発明では、その水分を利用して、すなわち、高圧水流処理後に、不織ウェブ中に高圧水流処理での水分を残存させた状態で、連続工程にて、茶葉抽出物含有液を付与することにより、均一で斑なく茶葉抽出物を付与することができる。その結果、抗菌性を発揮しうる不織布を連続して効率的に得ることができ、コスト的にも非常に有利である。
【0028】
キスコーターに使用されるロールの回転速度は、特に限定されないが、茶葉抽出物のセルロース系不織布への付与量を容易に制御しうる観点から、8〜15m/分であることが好ましい。
【0029】
キスコーターに使用されるロールの表面は、茶葉抽出物をセルロース系不織布に効果的に付与させる観点から、表面が鏡面加工されたものではなく、梨地であることが好ましい。
【0030】
茶葉抽出物について以下に述べる。
茶葉抽出物のうち、本発明において好適に使用されるものは、緑茶などの茶から抽出されるカテキン類であり、ツバキ科ツバキ属のチャノキ(学名Camellia sinensis)から抽出される成分を含有するものである。茶葉抽出物としては、例えば、カテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン、ガロカテキン、フラボノイド、ポリフェノール、タンニンなどのポリフェノール系化合物などが挙げられる。茶葉抽出物は、これら単独成分であってもよいし、混合物であってもよい。
【0031】
なかでも、抗酸化作用および/または抗菌作用の観点から、茶葉抽出物は、カテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンがレート、エピカテキン、ガロカテキンガレート、ガロカテキンであることが好ましい。
【0032】
上述の茶葉抽出物の形態は、特に限定されないが、例えば、茶の葉、茶の茎などを粉末にした後、水や含水アルコールなどの溶媒を用いて抽出して得られる茶の溶媒抽出液;該抽出液を濃縮または乾燥したものなどが挙げられる。また、茶葉抽出物としては、生葉、加工茶(不発酵茶、半発酵茶、発酵茶)、抽出エキス、抽出物パウダー、抽出後の残渣などに含有される成分なども利用することができる。
【0033】
本発明においては、抗菌性に優れたセルロース系不織布を得るために、該セルロース系不織布に対する茶葉抽出物の付与量を制御することが肝要である。セルロース系不織布への茶葉抽出物の付与量は、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。付与量を0.1質量%以上とすることで、静菌活性値を2.0以上とすることが期待でき、つまり優れた抗菌性を発現させることができる。一方、1.0質量%以下とすることで、茶抽出物による過度な着香と乾燥設備への移染を防ぐことができる。なお、セルロース系不織布に対する茶葉抽出物の付与量を上記の範囲に制御するためには、茶葉抽出物含有液中の茶葉抽出物の含有量(質量%)や、キスコートする際の不織ウェブに対する茶葉抽出物含有液の含浸量(質量%)を適宜制御することにより行なう。なお、セルロース系不織布への茶葉抽出物の付与量は、以下の式によって求められる。
セルロース系不織布への茶葉抽出物の付与量(質量%)=[(茶葉抽出物含有液中の茶葉抽出物の含有量)×(キスコートする際の不織ウェブに対する茶葉抽出物含有液の含浸量)]/100
【0034】
本発明においては、優れた抗菌性を発現させるために、茶葉抽出物のセルロース系不織布への付与量を上記の範囲とし、同時にセルロース系不織布に対する茶葉抽出物含有液の含浸量を特定の範囲に制御することが肝要である。
【0035】
セルロース系不織ウェブに対する茶葉抽出物含有液の含浸量は、20〜70質量%であることが好ましい。20質量%以上とすることにより、セルロース系不織布への茶葉抽出物の付与斑が発生しにくく、静菌活性値を2.0以上とすることができ、不織布全体において均一に抗菌性を発現させることができる。一方、70質量%以下とすることにより、その後の乾燥工程において、生産性を維持しつつ、効率よく十分に乾燥させることができる。加えて、抗菌性を十分に発現させることができる。なお、キスロールの回転速度やウェブの走行速度を適宜設定することにより、セルロース系不織布に対する茶葉抽出物含有液の含浸量を制御することができる。なお、セルロース系不織ウェブに対する茶葉抽出物含有液の含浸量は、以下の式によって求められる。
茶葉抽出物含有液の含浸量(質量%)=[(キスロール工程で茶葉抽出物含有液が付与され増加した不織ウェブの質量)/(乾燥状態での不織ウェブの質量)]×100
【0036】
茶葉抽出物含有液は、水や有機溶媒などに茶葉抽出物を溶解させたものである。茶葉抽出物含有液中の茶葉抽出物の含有量は、1.0〜5.0質量%であることが好ましく、1.0〜1.75質量%であることがより好ましい。含有量を1.0質量%以上とすることで、静菌活性値を容易に2.0以上とすることができ、つまり抗菌性を容易に発現させることができる。一方、5.0質量%以下とすることで、得られた不織布におけるカテキンの量が過剰品質となることなく、またカテキンの量が多いことに起因する匂いを問題視することなく、各種用途への展開が可能となる。加えて、1.75質量%以下とすることにより、効率よく抗菌性を発揮させることができる。
【0037】
茶葉抽出物含有液には、ビタミンCが含有されていてもよい。ビタミンCを含有させる効果について以下に述べる。
カテキンなどの茶葉抽出物は、一般的に酸化を受けやすいという性質がある。そして、酸化により茶葉抽出物において縮合や分解などの反応が起こると、フェノール性水酸基の数が減少し、抗菌性や抗酸化性が低下するという問題が発現する。一方、通常のスパンレース法などを用いた不織布の製造工程においては、使用される水などの液体の衛生性を維持する目的で塩素などが用いられるが、この塩素などは水中に残留してしまう。この残留塩素は茶葉抽出物の酸化を促進してしまうため、茶葉抽出物の抗酸化作用、抗菌性が低下してしまう場合がある。このような場合であっても、茶葉抽出物含有液にビタミンCを含有させることにより、得られる抗菌性セルロース系不織布において茶葉抽出物の酸化を防止することができる。
【0038】
茶葉抽出物含有液中のビタミンCの含有量は、0.1〜1.0質量%程度であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、静菌活性値を2.0以上とすることができない場合があり、つまり抗菌性を発現させることができない場合があり、一方、1.0質量%を超えると、ビタミンCの経時的な変色が生地の変色として顕著に表れる場合がある。
【0039】
セルロース系不織布へのビタミンCの付与量は、0.05〜2.0質量%であることが好ましい。付与量が0.05質量%未満であると、静菌活性値を2.0以上とすることができない場合があり、つまり抗菌性を発現させることができない場合があり、一方、2.0質量%を超えると、ビタミンCの経時的な変色が生地の変色として顕著に表れる場合がある。なお、セルロース系不織布へのビタミンCの付与量を上記の範囲に制御するためには、茶葉抽出物含有液へのビタミンCの配合量と、セルロース系不織ウェブに対する茶葉抽出物含有液の含浸量を調整することが好ましい。
【0040】
セルロース系不織布に、茶葉抽出物を含有させた溶液(茶葉抽出物含有液)を含浸させて、茶葉抽出物を付与させた後、公知の手段により該不織布を乾燥させて、本発明の抗菌性セルロース系不織布を得ることができる。
【0041】
本発明の製造方法にて得られた抗菌性セルロース系不織布は、優れた抗菌性能を有するものである。具体的には、静菌活性値を2.0以上とすることができる。なお、静菌活性値の求め方は、実施例において詳述する。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。なお、実施例における物性評価は以下の通りである。
【0043】
(1)不織ウェブの目付け(g/m
試料を10cm×10cmのサイズに裁断し、標準状態にて、天秤にて秤量した。1mあたりの質量に換算し目付けとした。なお、測定は同一の試料について10回行い、その平均値を採用した。
【0044】
(2)静菌活性値
JIS L 1902の菌液吸収法に従って測定した。供試菌として、黄色ブドウ球菌および大腸菌を用いて測定した。本発明においては、静菌活性値が2.0以上であるため、優れた抗菌性能を発揮することができる。
【0045】
(3)均一な付着性
実施例および比較例にて得られた不織布への茶葉抽出物による着色箇所を観察することにより、茶葉抽出物の浸透面積比率を測定し、均一な付着性の評価を行った。具体的には、「SONICデジタルマイクロスコープと画像解析ソフトBSD8000」を用いて、不織布表面をランダムに10箇所(直径1.2cm)を選択し、それぞれの箇所における浸透面積比率(観察箇所における茶葉抽出物付着により着色された領域が占める比率)を求め、10箇所の平均値を算出し、以下の基準で評価した。
○:不織布表面全体の90%以上の領域に茶葉抽出物が浸透し、ほぼ白場(浸透していない部分)が無い状態であった。
△:不織布表面全体の50%以上90%未満の領域に茶葉抽出物が浸透し、やや白場が目立つものであった。
×:不織布表面全体の50%未満の領域に茶葉抽出物が浸透し、白場が非常に目立つものであった。
【0046】
(4)変色性
白地不織布原反(茶葉抽出物を付着させなかったもの)と実施例および比較例にて得られた不織布の色の比較を、JIS L 0804 変退色用グレースケールを用いておこなった。すなわち、実施例および比較例にて得られた不織布の茶葉抽出物による着色状態を観察し、以下の基準で評価した。
○:4級〜5級であった。
△:3級〜3−4級であった。
×:2−3級以下であった。
【0047】
(実施例1)
セルロース系繊維として、単糸繊度1.7dtex、平均繊維長25mmの木綿繊維を準備し、これをランダムカードにて開繊し、約30g/mのセルロース系不織ウェブを得た。得られた不織ウェブを、移動式のプラスチック製織物からなるメッシュ状支持体(100メッシュ、プラスチック製織物)に載置し、不織ウェブに対して噴射装置(噴射孔のノズル孔径:0.13mm、噴射孔の間隔:0.6mm)を用い、5.5MPaの噴射圧で高圧水流処理を3回おこなった。ついで、メッシュ状支持体ごと不織ウェブを反転させ、メッシュ支持体の反対面より5.5MPの圧力で高圧水流処理を3回おこない、三次元的に交絡してなるセルロース系不織ウェブを得た。
【0048】
次に、緑茶から抽出されたカテキン(株式会社伊藤園製、商品名「テアフラン 30A」)の含有量が1.25質量%、ビタミンCの含有量が0.5質量%である茶葉抽出物含有液Aを用意した。そして、前記高圧水流処理が施され、その水分を含んでなるセルロース系不織ウェブを、マングルロールで絞り、不織ウェブに含まれる水分量を、乾燥状態の不織ウェブに対して90質量%とし、そのまま連続工程にて、茶葉抽出物含有液Aをその含浸量が40%となるようにキスコーターでセルロース系不織布へ付与させた。なお、キスコーターのキスロール(表面梨地加工)の回転速度は13.0m/分に調整されていた。次いで、130℃で乾燥させ、カテキンの付与量が0.5質量%であり、ビタミンCの付与量が0.2質量%である抗菌性セルロース系不織布を得た。得られた抗菌性セルロース系不織布の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例2)
茶葉抽出物含有液Aに代えて、緑茶から抽出されたカテキン(株式会社伊藤園製、商品名「テアフラン 30A」)の含有量が1.75質量%、ビタミンCの含有量が0.5質量%である茶葉抽出物含有液Bを用い、キスコーターのキスロールの回転速度を13.0m/分に調整した以外は、実施例1と同様にして、カテキンの付与量が0.7質量%であり、ビタミンCの付与量が0.2質量%である抗菌性セルロース系不織布を得た。得られた抗菌性セルロース系不織布の評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
茶葉抽出物含有液Aに代えて、緑茶から抽出されたカテキン(株式会社伊藤園製、商品名「テアフラン 30A」)の含有量が5.0質量%である茶葉抽出物含有液Cを用い、キスコーターのキスロールの回転速度を8.2m/分に調整し、かつ茶葉抽出物含有液の含浸量を20質量%とした以外は、実施例1と同様にして、カテキンの付与量が1.0質量%であるセルロース系不織布を得た。得られたセルロース系不織布の評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
茶葉抽出物含有液Aに代えて、緑茶から抽出されたカテキン(株式会社伊藤園製、商品名「テアフラン 30A」)の含有量が2.5質量%である茶葉抽出物含有液Dを用い、キスコーターのキスロールの回転速度を9.8m/分に調整し、かつ不織ウェブに含まれる水分量を、乾燥状態の不織ウェブに対して40質量%とした以外は、実施例3と同様にして、カテキンの付与量が0.5質量%である抗菌性セルロース系不織布を得た。得られた抗菌性セルロース系不織布の評価結果を表1に示す。なお、比較例1においては、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性が確認されなかったため、大腸菌を用いた抗菌性評価をおこなわなかった。
【0053】
実施例1〜3においては、簡易な工程で(つまり、工程数が少ない連続工程で)、静菌活性値が2.0以上の抗菌性セルロース系不織布を効率よく得ることができた。また、該不織布には茶葉抽出物がムラなく付着されており、加工による変色も抑制されていた。
【0054】
比較例1においては、茶葉抽出物を付与する前における不織ウェブに含まれる水分量が、本発明の好ましい範囲より過少であったため、抗菌性が顕著に劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系短繊維を用いて作製されたセルロース系不織ウェブに高圧水流処理を施すことにより、該不織ウェブの構成繊維同士を交絡させた後、高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブに、キスコーターを用いて茶葉抽出物を付与することで静菌活性値が2.0以上である抗菌性セルロース系不織布を得ることを特徴とする抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
【請求項2】
高圧水流処理による水分が残存している状態の不織ウェブの水分量が70〜120質量%であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
【請求項3】
茶葉抽出物にビタミンCを含有させることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
【請求項4】
茶葉抽出物としてカテキン類を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。
【請求項5】
茶葉抽出物をキスコーターで付与するに際し、セルロース系不織布に対して茶葉抽出物含有液を20〜70質量%の割合で含浸させ、セルロース系不織布に対して茶葉抽出物を0.1〜1.0質量%の割合で付与することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌性セルロース系不織布の製造方法。

【公開番号】特開2012−233275(P2012−233275A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101757(P2011−101757)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】