説明

抗菌性ビグアニド金属錯体

【課題】本発明の目的は、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための高酸化状態の金属化合物、特に銀(III)化合物を含む組成物、ならびにこれらの化合物または組成物が組み込まれた医療デバイスを提供することであり、このような組成物は室温および室圧で安定であり、それらの強い酸化性にもかかわらず、生物学的に許容されない部分は含まないポリウレタン類など医療デバイスの基体材料に適合する。
【解決手段】金属種および生物学的に許容される配位子を含む化合物であって、生物学的に許容される配位子がビグアニド部分を含み、生物学的に許容される配位子が金属種と錯体を形成し、金属種が1+を上回る酸化状態で安定化されている化合物。この化合物を含む組成物および医療デバイス。このような化合物、組成物または医療デバイスの使用を含む、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための化合物を含む組成物、特に抗微生物性銀種と、このような化合物の一部と、これらの化合物または組成物を含む医療デバイスと、このような化合物、組成物およびデバイスを提供するためのプロセスと、このような化合物、組成物またはデバイスを用いて細菌感染を含む微生物感染を治療または予防するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
銀化合物の臨床抗微生物活性および効果はよく知られている。これらの銀化合物には、例えば、硝酸銀(I)およびスルファジアジン銀(I)が含まれる。
【0003】
酸化銀のin vitro抗微生物効果は、伝統的な銀(I)化合物の効果を超えることができるため、最近商業的関心を集めている。このin vitro抗微生物効果は、おそらく、>1である銀の酸化状態の存在に起因し、平均の銀の酸化状態が>1である銀化合物は、医療用途について特許を受けている。
【0004】
医学における銀をベースとする抗微生物療法の開拓に対する重大な障害は、それら療法の貯蔵寿命の安定性および放射線感受性が悪いことである。
【0005】
例えば、効果的な抗微生物種である銀の+1の酸化状態は、特に感光性である。電磁放射にさらすと、銀金属への還元により変色する。
【0006】
さらに、銀化合物(ハロゲン化銀、窒化銀、炭化銀または酸化銀を含む)を、優れたドナー配位子種(例えば、硫黄、窒素または酸素原子を含む配位子)が組み込まれた医療デバイスと組み合わせると、抗細菌活性を含む抗微生物活性の損失(銀金属への還元のため)または変色(写真手段による還元のため)を含む深刻な安定性の問題を招くことがある。これらの問題は、窒素リッチなポリウレタン類に特に関係し、発泡体を含むかなりの数の医療等級(medical-grade)材料がこれら窒素リッチなポリウレタン類に基づいている。
【0007】
室温および室圧で安定な銀(III)の化合物は比較的まれである。このような1つの安定な化合物は、エチレンビス(ビグアニジニウム)-硫酸銀(III)である。当技術分野で公知のこのような銀(III)の錯体は、生物学的に許容される種からは形成されない。
【0008】
さらに、酸化銀は、抗細菌性を含む抗微生物性が非常に高い銀化合物の好例であるが、それらの強い酸化性のため大部分の医療デバイスの基体材料にうまく適合しない。ポリウレタン類を酸化銀と組み合わせると、黄色から茶色の色合いからデバイスを不均一に変色させる銀「にじみ(bleeding)」プロセスがもたらされる。カルボキシメチルセルロースに基づくヒドロゲルを含む、糖または多糖ベースの材料を組み合わせると、同様のかなりの着色作用が観測される。
【0009】
ビグアニド類は、微生物膜破壊によって抗細菌活性を含む優れた抗微生物活性を示すカチオン性化合物である。この特性の商業的に成功した発現は、スイミングプールなどの水利設備を処理するために使用されるポリ(ヘキサメチレンビグアニド)(PHMB)、すなわち、ポリマービグアニドによって具体化される。PHMBの銀(I)錯体は公知である(米国特許第6264936号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6264936号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための高酸化状態の金属化合物、特に銀(III)化合物を含む組成物、ならびにこれらの化合物または組成物が組み込まれた医療デバイスを提供することであり、このような組成物は室温および室圧で安定であり、それらの強い酸化性にもかかわらず、生物学的に許容されない部分は含まないポリウレタン類など医療デバイスの基体材料に適合する。
本発明の別の目的は、このような組成物またはデバイスで使用するためにこのような化合物の一部を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、このような化合物、組成物または機器を用いて細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、金属種および生物学的に許容される配位子を含む化合物であって、生物学的に許容される配位子がビグアニド部分を含み、生物学的に許容される配位子が金属種と錯体を形成し、金属種が1+を上回る酸化状態で安定化されている化合物が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、薬物として使用するための化合物であって、金属種および生物学的に許容される配位子を含み、生物学的に許容される配位子がビグアニド部分を含み、生物学的に許容される配位子が金属種と錯体を形成し、金属種が1+を上回る酸化状態で安定化されている化合物が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防で使用するための化合物であって、金属種および生物学的に許容される配位子を含み、生物学的に許容される配位子がビグアニド部分を含み、生物学的に許容される配位子が金属種と錯体を形成し、金属種が1+を上回る酸化状態で安定化されている化合物が提供される。
【0016】
金属種は、IA族またはIB族の金属でよい。
【0017】
金属種は、銀、銅、金および亜鉛からなる群から選択することができる。
【0018】
金属種は、銀(III)、銅(III)、金(III)および亜鉛(IV)からなる群から選択することができる。
【0019】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1、第2または第3の態様による化合物を含む組成物が提供される。
【0020】
本発明の第5の態様によれば、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物を含む医療用組成物が提供され、この組成物は、金属原子または金属イオンが、ビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。
【0021】
水分と接触すると、例えば、傷と接触すると、本発明による化合物または組成物はより高い酸化状態の抗微生物金属の供給源として働いて、細菌感染を含む微生物感染を治療または予防する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本明細書中で用語「より高い酸化状態」を使用する場合、以下を意味する。当業者には周知のとおり、一般に、IA族またはIB族の金属はいくつかの酸化状態を有することができ、本明細書中で用語「より高い酸化状態」を使用する場合には、0を上回る最も低い酸化状態以外の任意の酸化状態を意味し、銀(III)などの銀種、銅(III)を含む銅種、金(III)を含む金種、および亜鉛(IV)を含む亜鉛種を包含する。したがって、用語「より高い酸化状態」は1+を上回る酸化状態を意味する。
【0023】
本明細書中で用語「ビグアニド部分を含む配位子」を使用する場合、以下の式(I)、(II)または(III)の化合物を意味する。
【0024】
したがって、ビグアニド部分を含む配位子は、式(I)の化合物を含む。
【0025】
【化1】

【0026】
式中、R1、R2およびR3は同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは任意選択で置換されたヒドロカルビル基であり、このヒドロカルビル基は脂肪族、芳香脂肪族、芳香族でよい。但し、R1、R2およびR3の少なくとも1つは任意選択で置換されたヒドロカルビル基である。
【0027】
適切なR1、R2およびR3、任意選択で置換されたヒドロカルビル基の例には、C1〜6のアルキル、例えばメチル、C5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシルなど、直鎖および分岐鎖脂肪族ヒドロカルビル基、
ハロ、例えばクロロまたはフルオロによってフェニル基において任意選択で置換されたフェニル直鎖および分岐鎖C1〜6のアルキル、例えばフェネチル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルキル、例えばメチル、例えばトリフルオロメチル、C5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルコキシル、例えばメトキシルおよびエトキシル、例えばトリフルオロメトキシル、C5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ならびに/あるいはニトロなど、アリール基において任意選択で置換されたヘテロ芳香脂肪族ヒドロカルビル基を含む芳香脂肪族ヒドロカルビル基、
クロロやフルオロなどのハロによってフェニル基において任意選択で置換されたヘテロ芳香族ヒドロカルビル基、例えば、フェニル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルキル、例えばメチル、例えばトリフルオロメチル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルコキシル、例えばメトキシルまたはエトキシル、例えばトリフルオロメトキシル、ならびに/あるいはC5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ならびに/あるいはニトロを含む任意選択で置換された芳香族ヒドロカルビル基が含まれる。
【0028】
したがって、適切な生物学的に許容されるビグアニド配位子の例には、1,1-ジメチルビグアニド(メホルミン)、N-ブチルビグアニド(ブホルミン)、N-シクロヘキシルビグアニド、N-(1-フェネチル)ビグアニド(フェンホルミン)、1-(2,3-ジクロロフェニル)ビグアニド、1-(2-4-ジクロロフェニル)ビグアニド、1-(2,4-ジフルオロフェニル)ビグアニド、1-(2,5-ジクロロフェニル)ビグアニド、1-(2,5-ジフルオロ-フェニル)ビグアニド、1-(2,6-ジクロロフェニル)ビグアニド、1-(2-クロロフェニル)-ビグアニド、1-(2-フルオロフェニル)ビグアニド、1-(3,4-ジフルオロフェニル)ビグアニド、1-(3,5-ジフルオロフェニル)ビグアニド、1-(3-クロロ-4-フルオロフェニル)-ビグアニド、1-(3-クロロフェニル)ビグアニド、1-(3-フルオロフェニル)ビグアニド、1-(4-クロロフェニル)-ビグアニド、1-(4-クロロフェニル)-ビグアニド、1-(4-フルオロフェニル)-ビグアニド、1-(4-1-フェニル)ビグアニド、トリルビグアニド、1-(o-トリル)-ビグアニド、1-[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ビグアニド、1-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-ビグアニド、N1-(4-エトキシフェニル)ビグアニド、1-[4-(トリフルオロメトキシ)フェニル]-ビグアニド、および(ニトロフェニル)ビグアニドが含まれる。
【0029】
また、ビグアニド部分を含む配位子は、式(II)の化合物も含む。
【0030】
【化2】

【0031】
式中、R1、R2、R3およびR4は同一でも異なっていてもよく、各々Hまたは任意選択で置換されたヒドロカルビル基であり、このヒドロカルビル基は脂肪族、芳香脂肪族(araliphatic)、芳香族でよい。但し、R3およびR4の少なくとも一方は任意選択で置換されたヒドロカルビル基である。R5は任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基であり、このヒドロカルバジイル基は脂肪族、芳香脂肪族、芳香族でよい。
【0032】
適切なR1、R2、R3およびR4、任意選択で置換されたヒドロカルビル基の例には、式(I)の下のR1、R2およびR3向けに記載した基が含まれる。
【0033】
適切なR5、任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基の例には、C3〜9アルキレン、例えば、メチレンおよびヘキサメチレンなどのC1〜20アルキレン、C5〜8のシクロアルカジイル、例えばシクロヘキサ-1,4-ジイルなどの直鎖および分岐鎖脂肪族ヒドロカルバジイル基、
ハロ、例えばクロロまたはフルオロによってフェニレン基において任意選択で置換されたフェニレンC1〜6の直鎖および分岐鎖アルキレン、例えば1,4-フェニレンエタンジ-1,2-イルまたは1,4-ジメタンジイルベンゼン、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルキル、例えばメチル、例えばトリフルオロメチル、C5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルコキシル、例えばメトキシルおよびエトキシル、例えばトリフルオロメトキシル、C5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ならびに/あるいはニトロなど、アリーレン基において任意選択で置換されたヘテロ芳香脂肪族ヒドロカルバジイル基を含む芳香脂肪族ヒドロカルバジイル基、
クロロやフルオロなどのハロによってフェニレン基において任意選択で置換されたヘテロ芳香族ヒドロカルバジイル基、例えばフェニレン、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルキル、例えばメチル、例えばトリフルオロメチル、ハロ、例えばクロロまたはフルオロによって任意選択で置換されたC1〜6のアルコキシル、例えばメトキシルまたはエトキシル、例えばトリフルオロメトキシル、ならびに/あるいはC5〜8のシクロアルキル、例えばシクロヘキシル、ならびに/あるいはニトロを含む任意選択で置換された芳香族ヒドロカルビル基が含まれる。
【0034】
好ましくは、R5は式(CH2)mとなる。式中、mは3〜20の範囲内にある整数、より好ましくは3〜9の範囲内にある整数である。
【0035】
したがって、適切な生物学的に許容される配位子の例には、クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]が含まれる。
【0036】
また、ビグアニド部分を含む配位子は、式(III)のポリマー化合物も含む。
【0037】
【化3】

【0038】
式中、Rは任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基であり、このヒドロカルバジイル基は脂肪族、芳香脂肪族、芳香族でよい。
【0039】
適切なR、任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基の例には、C3〜9のアルキレン、例えば、メチレンおよびヘキサメチレンなどC1〜20のアルキレン、C5〜8のシクロアルカジイル、例えば、シクロヘキサ-1,4-ジイルなど、直鎖および分岐鎖脂肪族ヒドロカルバジイル基が含まれる。
【0040】
好ましくは、Rは式(CH2)mとなる。式中、mは3〜20の範囲内にある整数、より好ましくは3〜9の範囲内にある整数である。
【0041】
したがって、適切な生物学的に許容されるビグアニド配位子の例には、ポリ[(ヘキサメチレン)ビグアニド]が含まれる。
【0042】
最も好ましいビグアニド類は、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]、メトホルミン(N', N' ジメチルビグアニド)、フェンホルミン(フェネチルビグアニド)およびブホルミン(N-ブチルビグアニド)を含む、医学的使用が許可されたビグアニド類である。
【0043】
そのように形成したビグアニド錯体の水溶性は、適切な親水性または疎水性ビグアニド配位子を選択することによって調整することができる。好ましくは、ビグアニド錯体は、傷からの浸出液、血清、血漿、全血を含む体液を含む水性流体に著しく不溶である。
【0044】
好ましくは、ビグアニド錯体は着色され、金属イオンが錯体から解離すると、最初の錯体と比べて色強度が失われる(ビグアニド類は一般に無色である)。これにより、残存容量を示す方法が提供される。
【0045】
第6の態様では、本発明は、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物を提供し、この化合物は、金属原子または金属イオンが、エチレンビス-(ビグアニジニウム)銀(III)硫酸塩を除くビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。
【0046】
本発明の第6の態様の化合物群には、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物が含まれる。この化合物は、金属原子または金属イオンが、先に定義した式(I)のビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。
【0047】
適切で好ましいR1、R2およびR3、任意選択で置換されたヒドロカルビル基ならびに生物学的に許容されるビグアニド配位子の例には、式(I)の下で記載した基および配位子が含まれる。
【0048】
本発明の第6の態様の別の化合物群には、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物が含まれる。この化合物は、金属原子または金属イオンが、先に定義した式(II)のビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。式中、R5が任意選択で置換された直鎖または分岐鎖脂肪族ヒドロカルバジイル基である場合、C3〜9のアルキレン、例えば、メチレンおよびヘキサメチレンなどC3〜20のアルキレン、あるいはC5〜8のシクロアルカジイル、例えば、シクロヘキサ-1,4-ジイルである。
【0049】
適切で好ましいR1、R2、R3およびR4、任意選択で置換されたヒドロカルビル基、R5、任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基、ならびに生物学的に許容されるビグアニド配位子の例には、式(II)の下で記載した基および配位子が含まれる。
【0050】
本発明の第6の態様のさらなる化合物群には、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物が含まれる。この化合物は、金属原子または金属イオンが、先に定義した式(III)のビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。
【0051】
適切で好ましい任意選択で置換されたヒドロカルバジイル基、および生物学的に許容されるビグアニド配位子の例には、式(III)の下で記載した基および配位子が含まれる。
【0052】
本発明の第6の態様のさらなる化合物群には、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための、より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物が含まれる。この化合物は、金属原子または金属イオンが、ビグアニド部分、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]、o-トリルビグアニドおよびN',N'-ジメチルビグアニド、を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする。
【0053】
このような化合物の群には、金属原子または金属イオンが、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]、o-トリルビグアニドおよびN',N'-ジメチルビグアニドから選択されるビグアニド部分を含む少なくとも1つの生物学的に許容される配位子と錯体を形成することを特徴とする銀(III)の化合物が含まれる。
【0054】
抗細菌化合物を含むこのような抗微生物化合物は、それらの強い酸化性にもかかわらず大部分の医療デバイスの基体材料に適合し、カルボキシメチルセルロースに基づくヒドロゲルを含む、ポリウレタン類あるいは糖または多糖ベースの材料と組み合わせても適合する。
【0055】
このような銀化合物のモルベースの抗微生物効果は、銀イオンが錯体を形成する伝統的な銀(I)化合物の抗微生物効果を上回る。
【0056】
銀(III)ビグアニド単量体化合物の調製は、当業者には周知である。一般に、銀(I)塩(例えば、硝酸塩)は、ビグアニド配位子の存在下、酸化剤(例えば、過硫酸ナトリウム、ペルオキソニ硫酸カリウム)によって酸化される。そのように形成した錯体は、容易に(例えば、沈殿によって)分離することができる。
【0057】
本発明の第6の態様の化合物の調製は、少なくとも1つの生物学的に許容されるビグアニド配位子と、その最も低い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属の化合物とを用いて同様にして実現することができる。ビグアニドは、好ましくは共通溶媒に可溶である。
【0058】
より高い酸化状態にあるIA族またはIB族の金属が銀(III)である場合、錯体形成用の銀(I)源は、酢酸銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、クエン酸銀、シアン酸銀、銀シクロヘキサンブチレート、フッ化銀、ヨウ化銀、乳酸銀、メタンスルホン酸銀、硝酸銀、過塩素酸銀、過マンガン酸銀、リン酸銀、スルファジアジン銀、硫酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、チオシアン酸銀、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸銀およびトリフルオロメタンスルホン酸銀を含む任意の公知の銀源でよい。
【0059】
この銀源は、好ましくは共通溶媒に可溶である。
【0060】
銀(I)を銀(III)に変換するための酸化剤は、過硫酸ナトリウムおよびペルオキソ二硫酸カリウムを含む公知の酸化剤のいずれかでよい。
【0061】
酸化剤は、好ましくは共通溶媒に可溶である。
【0062】
ビグアニド、銀源および酸化剤の好ましい組合せは、
クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]と、硝酸銀と、過硫酸ナトリウムとの組合せ、
PHMBと、硝酸銀と、過硫酸ナトリウムとの組合せ、および
o-トリルビグアニドと、硫酸銀と、過硫酸ナトリウムとの組合せを含む。
【0063】
好ましい反応溶媒は、エチルアルコール、メチルアルコールおよび水、あるいはこれらの溶媒の組合せである。
【0064】
好ましい反応系は、銀(I)錯体を形成するために、ビグアニド配位子のメタノール溶液を、銀塩の水溶液と共に含む。次いで、酸化剤の水溶液を添加し、それにより所望の銀(III)錯体の沈殿物が得られる。
【0065】
本発明の第7の態様によれば、本発明の第1、第2、第3または第6の態様による化合物、あるいは本発明の第4または第5の態様による組成物を含む医療デバイスが提供される。
【0066】
適切なデバイスには、外科的創傷、急性創傷および慢性創傷を含む傷ならびに火傷の処置用の局所包帯を含む包帯、人工股関節や人工ひざなどの人工関節、組織修復用の臓器および骨格ならびにステントを含むインプラント、例えば手術台を含むデバイスなどの診療器具が含まれる。
【0067】
多くの場合、本発明の第1、第2、第3または第6の態様の化合物、あるいは本発明の第4または第5の態様の組成物は、医療デバイスの表面上にコーティングとして、または医療デバイスの構成要素として存在する。
【0068】
適切な製造方法は当業者にとって公知であり、溶媒浸漬および粉末コーティングを含む。好ましくは、処理しようとする物品にビグアニド化合物またはビグアニドポリマーを含浸し、銀塩、例えば、硝酸銀(I)または硫酸銀(I)の存在下で酸化する。あるいは、銀(III)のビグアニド化合物またはポリマーを大量に製造し、接着剤による付着あるいは粉末コーティングまたは吹き付け(blasting)を含む物理的手段によって物品に塗布することができる。
【0069】
そのように製造した物品は、伝統的な無菌包装では周囲温度および周囲圧力で長期間、最大数年の間保存することができる。
【0070】
本発明の第8の態様によれば、細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のための方法が提供される。この方法は、本発明の第1、第2、第3または第6の態様による化合物、本発明の第4または第5の態様による組成物、あるいは本発明の第7の態様による医療デバイスの使用を含む。
【0071】
細菌感染を含む微生物感染の治療または予防のためのこのような方法は、外科的創傷、急性創傷および慢性創傷を含む傷、ならびに火傷の処置に特に有用である。
【0072】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。
【実施例1】
【0073】
銀(III)クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]錯体の調製
クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド](1.00g)を100mlの温かいメタノールに溶解させた。この撹拌した溶液に、5mlの蒸留水中で作製した硝酸銀(0.34g)の水溶液を滴下添加した。この後、5mlの蒸留水中で作製した過硫酸ナトリウム(0.94g)の水溶液を滴下した。この反応混合物を、橙褐色が十分に発現するまで温めた。沈殿物を真空下でブフナー(Buchner)ろ過し、温かいメタノールで3回洗浄し、周囲温度および周囲圧力で保存した。
【実施例2】
【0074】
銀(III)PHMB錯体の調製
PHMB(0.400g)を50mlのメタノールに溶解させた。この撹拌した溶液に、2mlの蒸留水中で作製した硝酸銀(0.185g)の水溶液を滴下添加した。この後、2mlの蒸留水中で作製した過硫酸ナトリウム(0.520g)の水溶液を滴下した。この反応混合物を、橙褐色が十分に発現するまで撹拌した。
【0075】
沈殿物を真空下でブフナーろ過し、温かいメタノールで3回洗浄し、周囲温度および周囲圧力で保存した。
【実施例3】
【0076】
銀(III)o-トリルビグアニド錯体の調製
o-トリルビグアニド(1.00g)を50mlのメタノールに溶解させた。この撹拌した溶液に、5mlの蒸留水中で作製した硝酸銀(0.44g)の水溶液を滴下添加した。この後、5mlの蒸留水中で作製した過硫酸ナトリウム(1.25g)の水溶液を滴下した。
【0077】
この反応混合物を、橙褐色が十分に発現するまで撹拌した。
【0078】
沈殿物を真空下でブフナーろ過し、温かいメタノールで3回洗浄し、周囲温度および周囲圧力で保存した。
【実施例4】
【0079】
銀(III)o-トリルビグアニド錯体でコーティングされた材料の調製
Profore WCL (Smith & Nephew Medical Ltd)の5cm2の見本を、o-トリルビグアニドのメタノール溶液(50mg/ml)に5秒間浸した。この見本を取り出し、熱風銃を用いて温風乾燥した。硝酸銀水溶液(10mg/ml)に10秒間見本を浸漬し、取り出し、過剰な蒸留水ですすいだ。次いで、温めた過硫酸ナトリウム水溶液(10mg/ml)に、橙色が十分に発現するまで(約15秒)見本を浸漬した。見本を取り出し、過剰な蒸留水中ですすぎ、周囲温度および周囲圧力で保存するために風乾した。
【実施例5】
【0080】
IntraSite Gel中で調合される銀(III)クロルヘキシジン(1,1'-ヘキサメチレンビス[5-(p-クロロフェニル)ビグアニド]錯体の調製
5mgの銀(III)クロルヘキシジン錯体(実施例1)を、3gのIntraSite Gel (Smith & Nephew Medical Ltd)に機械的に混合することによって分散させた。24時間後、安定で均一に橙色のヒドロゲルが形成された。
【実施例6】
【0081】
IntraSite Gel中で調合される銀(III)PHMB錯体の調製
5mgの銀(III)PHMB錯体(実施例2)を、3gのIntraSite Gel (Smith & Nephew Medical Ltd)に機械的に混合することによって分散させた。24時間後、安定で均一に橙色のヒドロゲルが形成された。
【実施例7】
【0082】
IntraSite Gelをベースとする銀の調合物の安定性の評価
実施例5および6で調製したゲル調合物を、同様に調製した(3gのIntraSite Gel当たり5mgの銀種)代替銀源の調合物と比較した。代替銀源は、硝酸銀、炭酸銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、酸化銀(I)(Ag2O)および酸化銀(I, III) (AgO)であった。各調合物を、24時間にわたる観察のために無菌の透明なプラスチック管(Sterilin Ltd)内に設置した。
【0083】
実施例5および6で調製した銀(III)ビグアニドを除くすべての場合において、調合物が激しく灰黒色に変色し、一部の色とりどりの変色が酸化銀調合物の酸化物粒子を取り囲んだ。
【0084】
この試験は24時間しか行わなかったが、酸素、窒素、または硫黄配位子種を含む銀を提供する他の系あるいは酸化基質(例えば、糖類または多糖類)について、数日、数週間または数カ月にわたって同じ現象を観察することができる。
【実施例8】
【0085】
実施例1〜3で調製した銀(III)ビグアニドの抗微生物活性の評価
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)NCIMB 8626および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)NCTC 10788を採取した。連続的な1:10希釈を行って、108細菌/mlの最終濃度を得た。接種数に向けて、10-8細菌/mlまでさらなる希釈を行った。1ml当たりの細菌の数(細菌/ml)は混釈平板法を用いて決定した。
【0086】
次いで、2枚の大きいアッセイプレートを設置し、これらの大きいアッセイプレートに140mlのミュラー-ヒントン寒天を均等に添加し、乾燥させた(15分)。さらに140mlの寒天を、対応する供試生物と共に播種し、先の寒天層の上に注いだ。寒天が固まったら(15分)、ふたを取り外してプレートを37℃で30分間乾燥させた。生検パンチによってプレートから8mmの栓を取り除いた。
【0087】
実施例1〜3で調製した化合物を、10mgずつ3組各栓の穴に設置し、その後滅菌水を200μl垂らした。次いで、これらのプレートを密封し、37℃で24時間インキュベートした。細菌を含む微生物が除去されたゾーンの寸法を、ノギスのゲージを用いて測定し、3点を平均した。
【0088】
【表1】

【0089】
したがって、実施例1〜3は重要な抗微生物的な挙動を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属種および生物学的に許容される配位子を含む化合物であって、前記生物学的に許容される配位子がビグアニド部分を含み、前記生物学的に許容される配位子が前記金属種と錯体を形成し、前記金属種が1+を上回る酸化状態で安定化されており、前記金属種が、銀(III)、銅(III)、金(III)および亜鉛(IV)からなる群から選択される、化合物。

【公開番号】特開2013−75901(P2013−75901A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−268392(P2012−268392)
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−518960(P2008−518960)の分割
【原出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】