説明

抗菌性ビーズ発泡成形体

【構成】 抗菌性を有する銀イオン2を吸着した非晶質リン酸カルシウム粒子1からなる抗菌性粒子7を含む抗菌性ビーズ発泡成形体。
【効果】 非晶質リン酸カルシウム粒子1を用いることによって、銀イオン2の溶出を回避できて、高い安全性および抗菌性を半永久的に維持できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、雑菌やカビ等の発生を抑制できる抗菌性ビーズ発泡成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、生鮮食品等の鮮度保持材、ドリップを生じ易い魚箱、浴槽のマット等の雑菌やカビ等が発生し易いものに、抗菌性を有する発泡成形体を用いることは広く知られている。
【0003】例えば、特開平4-142340号公報には、銀、銅および亜鉛などの抗菌性金属をリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウムおよびハイドロキシアパタイトなどの抗菌性カルシウム系セラミックスの焼成物を含有した抗菌および防カビ性を有する高分子発泡体が開示されている。
【0004】このような高分子発泡体では、抗菌性カルシウム系セラミックスを高温で焼成することにより、抗菌性カルシウム系セラミックスからの抗菌性金属イオンの溶出が抑制されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の抗菌および防カビ性を有する高分子発泡体では、発泡性樹脂との混練に際して、上記発泡性樹脂が黄色などの色に変色または着色するという問題を生じている。
【0006】さらに、高温での焼成により抗菌性金属が金属として担持されるため抗菌力が低下し、特に黄色ブドウ状球菌などへの抗菌効果は低くなりがちである。よって、充分な抗菌効果を出すために樹脂への抗菌性金属の添加量を増加させることが考えられるが、その場合、コストアップを招来するという問題を生じている。
【0007】
【課題を解決するための手段】 本発明の請求項1記載の抗菌性ビーズ発泡成形体は、以上の課題を解決するために、抗菌性金属イオンを吸着した非晶質リン酸カルシウム粒子からなる抗菌性粒子が含有されていることを特徴としている。
【0008】本発明の請求項2記載の抗菌性ビーズ発泡成形体は、以上の課題を解決するために、抗菌性金属イオンと、非晶質リン酸カルシウム粒子を含むスラリーとを混合し、造粒化した抗菌性粒子が含有されていることを特徴としている。
【0009】上記抗菌性ビーズ発泡成形体は、抗菌性粒子を含有する発泡性ビーズ樹脂を予備発泡して予備発泡粒子を得た後、上記予備発泡粒子を金型に充填し、加熱して上記予備発泡粒子を発泡・融着させて得られる。
【0010】上記発泡性ビーズ樹脂は、抗菌性粒子、発泡性樹脂、発泡剤および核剤から主としてなり、前記発泡性樹脂の総重量に対して、抗菌性粒子を0.01〜10重量%、発泡剤を5〜15重量%および核剤を 0.1〜5重量%の範囲内にて混合したものである。
【0011】上記抗菌性粒子は、非晶質リン酸カルシウムに吸着担持された抗菌性金属または抗菌性金属イオンにより、菌やカビ等の微生物の増殖を抑制するものであり、非晶質リン酸カルシウム粒子(Amorphous Calcium Phosphate :以下、ACPと略す)を含むスラリーと、抗菌性金属イオンとが混合されて得られるものである。なお、上記抗菌性粒子は、ACP粒子を含むスラリーと、抗菌性金属イオンとが混合され、造粒化されたものであってもよい。
【0012】上記ACP粒子を含むスラリーは、攪拌下の水酸化カルシウム懸濁液に、中性あるいは弱アルカリ性の水溶性高分子分散剤、例えばトリアクリル酸アンモニウム塩を 0.1〜10重量%添加し、好ましくは 0.1〜3重量%添加して混合溶液を得た後、攪拌下の上記混合溶液をリン酸水溶液の滴下によってpH10〜5に調整することにより、粒径約0.1μm以下のACP粒子を含むものである。
【0013】このような粒径約0.1μm以下のACP粒子を、それらの凝集を回避して得るためには、前記水溶性高分子分散剤の添加が必要である。
【0014】上記スラリー中に、50重量%以下となるように抗菌性金属粉末、抗菌性金属化合物、あるいはそれらの水溶液を混合した混合物から抗菌性粒子を得る。また、造粒した抗菌性粒子を得る場合は、上記混合物を噴霧乾燥造粒法などにより造粒して抗菌性粒子を得る。
【0015】上記ACP粒子は、粉末X線回折法により、そのパターンからリン酸カルシウム〔Ca3(PO4)2 ・nH2O〕であり、また、そのパターンがブロードであることから、非晶質なリン酸カルシウムであることが確認される。その上、上記ACP粒子は、結晶水を含むことから静電気的に活性な物質であると思われ、種々の菌体やウイルスを吸着し易くなっていると想定される。
【0016】また、得られた抗菌性粒子が大きな比表面積をそなえるために、スラリーのACP粒子は、その粒径が 0.1μm以下であることが、また、加える抗菌性金属粉末および抗菌性金属化合物粉末の粒径は溶解性の点から20μm以下であることが望ましい。その上、スラリーと加える抗菌性金属粉末、抗菌性金属化合物粉末あるいは抗菌性金属水溶液とは室温中で混合することが望ましい。
【0017】一方、スラリーにおけるACP粒子が90重量%以上となると、スラリーの粘度が高くなるので、造粒に不適となる。なお、スラリーにおけるACP粒子の含量を1〜90重量%の範囲で変えることにより、造粒した際に所望の平均粒径を有する抗菌性粒子を得ることができる。
【0018】また、造粒法としては、得られる粒子が、多孔質、かつ、粒径 200μm以下の略球状で、かつ、比表面積を10m2/g以上にできるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば噴霧乾燥造粒法を用いることができ、他にフリーズドライ後に粉砕してなる造粒法、また、高速攪拌型造粒法を用いてもよい。
【0019】抗菌性金属としては、金、銀、亜鉛、銅、錫、鉛、砒素、白金、鉄、アンチモン、ニッケル、アルミニウム、バリウム、カドミウム、マンガンから少なくとも一種の金属、またはそれらの混合物、あるいはそれらの金属化合物、およびそれらの水溶液を用いることができる。
【0020】次に、上記抗菌性粒子を有する抗菌性ビーズ発泡成形体について詳細に説明すると、前記ビーズ発泡成形体を構成する樹脂素材としては、スチレンまたはメチルスチレンの単独重合体、およびスチレン−無水マレイン酸、スチレン−アクリロニトリル、スチレン−メチルアクリレート共重合体等のポリスチレン系樹脂、エチレンまたはプロピレンの単独重合体、およびエチレン−プロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、このポリオレフィン系樹脂にスチレン系単量体を重合して得られたスチレン改質樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、その他の発泡ビーズ成形可能な樹脂を用いることができる。
【0021】上記樹脂素材に抗菌性粒子を配合する方法としては、直接ロール、バンバリー、ニーダー、押出機等の混練機で溶融混練する方法、また、あらかじめヘンシェル型ミキサー等で樹脂の粉体と混合した後、前述の混練機等で溶融混練する方法、あるいは、抗菌性粒子を高濃度に含有する樹脂によるマスターバッチペレットを作り、さらに、そのマスターバッチペレットを樹脂との混練により希釈する方法など、公知の方法を使うことができる。
【0022】抗菌性粒子のマスターバッチペレット化は、上記で分かるように、発泡性樹脂の総重量に対して抗菌性粒子のパウダーを5〜20重量%、必要に応じて分散剤を0.05〜 0.1重量%を添加して混練すれば可能である。
【0023】次に、上記抗菌性粒子を有する抗菌性ビーズ発泡成形体の製造方法について述べると、上記の方法によりあらかじめ抗菌性粒子 0.1〜30重量部を含有する樹脂ペレットとしたペレット 100重量部と、発泡剤として例えばペンタン20〜30重量部と、分散剤として例えばパウダー状の第三リン酸カルシウム2重量部と、分散助剤として例えばn−パラフィンスルフォン酸ソーダ0.05重量部と、溶剤および可塑剤としての水 300重量部とを共に耐圧容器内に仕込み、1時間かけて95〜 110℃まで加熱して発泡剤を含浸したビーズ状の発泡性樹脂粒子が得られる。
【0024】次に、上記発泡性樹脂粒子を蒸気等によって加熱することにより予備発泡させて、抗菌性を有する予備発泡粒子を得る。続いて、得られた予備発泡粒子を40℃で24時間熟成した後、成形型の窩内に充填し、蒸気等の加熱媒体により加熱膨張させて融着することにより抗菌性ビーズ発泡成形体が得られる。
【0025】
【実施例】本発明の一実施例について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。抗菌性ビーズ発泡成形体は、抗菌性金属イオンを吸着した非晶質リン酸カルシウム粒子からなる抗菌性粒子が含有されているものである。最初に、非晶質リン酸カルシウム(Amorphous Calcium Phosphate :以下、ACPと略す)粒子を含むスラリーの製造方法について説明すると、攪拌下の水酸化カルシウム懸濁液に、水溶性高分子分散剤としてのトリアクリル酸アンモニウム塩を 0.5重量%添加して混合溶液を得た後、攪拌下の上記混合溶液をリン酸水溶液の滴下によってpH10に調整することにより、粒径約0.1μm以下のACP粒子を含むスラリーを得た。
【0026】上記スラリーをイオン交換水により希釈して、ACPの濃度が20重量%となるように調製したACPスラリーを得た。そのACPスラリーに、イオン交換水に溶解した無水硝酸銀を 0.1〜10.0 mol%濃度となるように混合し、攪拌モータで1時間攪拌して混合物スラリーを得た。なお、上記 mol%を、重量%の表示に変換する場合は、換算係数1.07をかけて換算した。
【0027】上記混合物スラリーは、前記の高分子分散剤の添加によってACP粒子の凝集を回避しながら、ACP粒子におけるイオン交換可能な金属イオンが、銀イオンに置換されて、銀イオンを各含有量にて吸着し、粒径約0.1μm以下となるACP粒子を含むものである。
【0028】図1に示すように、ACP粒子1および銀イオン2を含む上記混合物スラリー3を、定量ポンプ4によりスプレードライヤー(大川原化工機社製 L−8 )5に供給する。スプレードライヤー5のアトマイザー6を高速回転させて、上記混合物スラリー3を、スプレードライヤー5内の乾燥用の熱空気流中に噴霧することにより、噴霧造粒法により造粒乾燥した。
【0029】造粒乾燥により得られた銀イオン含有ACP微粉体である略球状の抗菌性粒子7は、サイクロン8によって粒径1〜100 μmのものが採取された。このとき、サイクロン8により採取しきれない超微粉体はバグフィルター(図示せず)により別に採取された。
【0030】なお、上記噴霧乾燥造粒における操作条件は次の通りであった。定量ポンプ4による原料としての混合物スラリー3の供給量は1〜3kg/hr であり、エアフィルター9を介して電気ヒーター10によって加温された熱空気の温度は、熱ガス室11の入口温度が 200〜 250℃に、サイクロン8に繋がる排出孔12における出口温度が 100℃を常に越えるように制御され、また、アトマイザー6の回転数は 10000〜37000rpmの範囲内に設定された。
【0031】また、上記スプレードライヤー5をよりスケールアップした2種のスプレードライヤー(大川原化工機社製 FOC-20,OD-25G、FOC-25,OC-25) を用いて、スラリー供給量を100kg/hrとし、他の条件は上記と同様に抗菌性粒子を調製したところ、上記スプレードライヤー5による抗菌性粒子7と同様の抗菌性粒子が得られた。このようにして得られた抗菌性粒子7は真球状であった。
【0032】ところで、従来、抗菌性カルシウム系セラミックスの焼成物からなる上記抗菌性アパタイトは、焼結後粉砕により得られたものであるため不定型となり、樹脂組成物に混合したときに、均一な分散が困難であった。しかしながら、上記抗菌性粒子7は真球状であるから、例えばビーズ発泡成形用の発泡性樹脂への混練においても、均一な分散が容易に可能となる。
【0033】〔実施例1〕次に、0.5mol%の銀イオンを有する上記抗菌性粒子7を含有する抗菌性ビーズ発泡成形体について説明すると、まず、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)およびポリスチレン樹脂の総重量に対して20重量%の上記抗菌性粒子7をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、 240℃に加熱して溶融混合した。次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径2mm、長さ2mmの抗菌性粒子7が混練されたペレットを作成した。
【0034】続いて、上記抗菌性粒子7を希釈するために、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)75重量部、および20重量%の上記抗菌性粒子7を含有するマスターバッチペレット25重量部をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、240℃に加熱して溶融混合した。
【0035】次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径1mm,長さ2mmのペレットを作成した。上記ペレットは、熱可塑性樹脂を主原料として有し、上記抗菌性粒子7を主原料に対して5重量%となるように有している。
【0036】次に、抗菌性粒子7を5重量部含有するペレット 100重量部、発泡剤としてペンタン20〜30重量部、分散剤としてパウダー状の第三リン酸カルシウム2重量部、分散助剤としてn−パラフィンスルフォン酸ソーダ0.05重量部、並びに溶剤および可塑剤としての水 300重量部を共に耐圧容器内に仕込み、1時間かけて95〜110 ℃まで加熱して発泡剤を含浸したビーズ状の発泡性樹脂粒子が得られた。
【0037】次に、上記発泡性樹脂粒子を常圧下にて 100℃程度に蒸気等によって加熱することにより、予備発泡させて抗菌性粒子7を有する熱可塑性樹脂からなる予備発泡粒子を得た。続いて、得られた予備発泡粒子を40℃で24時間熟成した後、例えば、 300mm× 400mm×30mmのブロック金型に充填し、加熱膨張させて融着することにより抗菌性ビーズ発泡成形体が得られた。
【0038】〔比較例1〕次に、上記実施例1における抗菌性樹脂7に代えて、市販品の抗菌性溶解性ガラスを用い、他は、上記実施例1と同様にして抗菌性ビーズ発泡成形体を作製しようとしたが、予備発泡が不良となり、抗菌性ビーズ発泡成形体が得られなかった。
【0039】すなわち、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)およびポリスチレン樹脂の総重量に対して20重量%の抗菌性溶解性ガラス(市販品)をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、 240℃に加熱して溶融混合した。
【0040】次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径2mm,長さ2mmの抗菌性溶解性ガラスが混練されたペレットを作成した。
【0041】続いて、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)75重量部および20重量%の抗菌性溶解ガラスを含有するマスターバッチペレット25重量部をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、 240℃に加熱して溶融混合した。
【0042】次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径1mm,長さ2mmのペレットを作成した。上記ペレットは、熱可塑性樹脂を主原料として有し、抗菌性溶解性ガラスを5重量%有している。
【0043】次に、抗菌性溶解性ガラスを5重量部含有するペレット 100重量部、発泡剤としてペンタン20〜30重量部、分散剤としてパウダー状の第三リン酸カルシウム2重量部、分散助剤としてn−パラフィンスルフォン酸ソーダ0.05重量部、並びに溶剤および可塑剤としての水 300重量部を共に耐圧容器内に仕込み、1時間かけて95〜110 ℃まで加熱して発泡性樹脂粒子を得た。
【0044】次に、上記発泡性樹脂粒子を常圧下にて、 100℃程度に蒸気等によって加熱したとき、発泡性樹脂粒子が可塑化しすぎたため、予備発泡が不良となった。よって、上記の抗菌性溶解性ガラスを用いた場合、成形不良のため、抗菌性ビーズ発泡成形体が得られなかった。
【0045】〔比較例2〕次に、上記実施例1における抗菌性樹脂7に代えて、抗菌性アパタイト粒子(市販品、銀イオン含有量2重量%)を用い、他は、上記実施例1と同様にして抗菌性ビーズ発泡成形体を作製した。
【0046】すなわち、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)およびポリスチレン樹脂の総重量に対して20重量%の上記の抗菌性アパタイト粒子をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、 240℃に加熱して溶融混合した。
【0047】次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径2mm,長さ2mmの抗菌性アパタイト粒子が混練されたペレットを作成した。
【0048】続いて、ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)75重量部および20重量%の抗菌性アパタイト粒子を含有するマスターバッチペレット25重量部をタンブラーで混合し、押出機のホッパーより投入し、 240℃に加熱して溶融混合した。
【0049】次いで、前記溶融混合物をノズルより押し出し、水冷した後切断することにより、マスターバッチとしての径1mm,長さ2mmのペレットを作成した。上記ペレットは、熱可塑性樹脂を主原料として有し、前記抗菌性アパタイト粒子を5重量%有している。
【0050】次に、上記抗菌性アパタイト粒子を5重量部含有するペレット 100重量部、発泡剤としてペンタン20〜30重量部、分散剤としてパウダー状の第三リン酸カルシウム2重量部、分散助剤としてn−パラフィンスルフォン酸ソーダ0.05重量部、並びに溶剤および可塑剤としての水 300重量部を共に耐圧容器内に仕込み、1時間かけて95〜110 ℃まで加熱して発泡剤を含浸したビーズ状の発泡性樹脂粒子が得られた。
【0051】次に、上記発泡性樹脂粒子を常圧下にて、 100℃程度に蒸気等によって加熱することにより、予備発泡させて抗菌性アパタイト粒子を有する熱可塑性樹脂からなる予備発泡粒子を得た。続いて、得られた予備発泡粒子を40℃で24時間熟成した後、例えば、 300mm× 400mm×30mmのブロック金型に充填し、加熱膨張させて融着することにより抗菌性ビーズ発泡成形体が得られた。
【0052】〔比較例3〕次に、上記実施例1における抗菌性樹脂7を省いて、他は、上記実施例1と同様にしてビーズ発泡成形体を作製した。
【0053】ポリスチレン樹脂GP−PS(MI=11.0)ペレット 100重量部、発泡剤としてペンタン20〜30重量部、分散剤としてパウダー状の第三リン酸カルシウム2重量部、分散助剤としてn−パラフィンスルフォン酸ソーダ0.05重量部、並びに溶剤および可塑剤としての水 300重量部を共に耐圧容器内に仕込み、1時間かけて95〜110 ℃まで加熱して、発泡剤を含浸したビーズ状の発泡性樹脂粒子が得られた。
【0054】次に、上記発泡性樹脂粒子を常圧下にて、 100℃程度に蒸気等によって加熱することにより、予備発泡させて熱可塑性樹脂からなる予備発泡粒子を得た。続いて、得られた予備発泡粒子を40℃で24時間熟成した後、例えば、 300mm× 400mm×30mmのブロック金型に充填し、加熱膨張させて融着することにより、ポリスチレンからなるビーズ発泡成形体が得られた。
【0055】このように実施例1と比較例2とで得られた2種の抗菌性ビーズ発泡成形体を目視にて観察したところ、上記両者では共に白色原料が用いられたが、実施例1の抗菌性ビーズ発泡成形体は白色であったのに対し、比較例2の抗菌性ビーズ発泡成形体は黄色に変色していた。
【0056】そこで、上記両者について、白色度黄色度および黄変度を測定する色差測定(測定方法、JIS K-7105に準拠)を行い、それらの結果を下記の表1に示した。なお、測定に用いた装置は、積分球方式色差計(日本電色工業社製、ND-100P)であり、測定方法は、反射法を用い、投光パイプの径30mm、試料面積の径30mmを用いた。
【0057】
【表1】


【0058】上記の表1の結果から、上記比較例2に用いた抗菌性アパタイト粒子では、混練するときや、加熱成形するときの加熱によって得られた抗菌性ビーズ発泡成形体に変色や着色が生じる一方、前記実施例1に用いた抗菌性粒子7では、混練するときや、加熱成形するとき等の加熱によっても黄色等への変色がなく白色を維持できることが判った。
【0059】したがって、上記実施例1の構成は、従来用いられている抗菌性アパタイト粒子を用いたものと比べて、ビーズ発泡成形体を製造するときの混練や発泡するときの加熱による樹脂の変色および着色の発生が回避できるため、ビース発泡成形体に対する着色印刷等の加工が容易となり、変色や着色に起因する汚れの付着や雑菌の発生等といった使用者の誤認を回避できるものとなっている。
【0060】次に、上記実施例1、比較例2および比較例3の各ビーズ発泡成形体を用いて抗菌性の試験をそれぞれ行った。
【0061】抗菌試験方法1)試験菌株 Escherichia coli(大腸菌) IFO 3301 Staphylococcus aureus (黄色ブドウ状球菌) IFO 12732 2)試験菌液の調製上記各試験菌株をNutrient Broth(Difco) で37℃、18時間、振とう培養した後、滅菌水で希釈して菌数が約105 cells/mlになるように調整した。
【0062】3)試験操作上記実施例1、比較例2、3の各ビーズ発泡成形体を約5cm×5cm× 0.2cmの大きさにそれぞれ切り取り、各試験検体とした。これら試験検体を滅菌ポリエチレン袋(約 6.5cm× 6.5cm)に入れた。この中に菌液5mlを入れ、袋の口をヒートシールにて袋内には若干の空気が残るように密閉した。
【0063】振とう(25℃、振幅8cm、振とう回数約150rpm)24時間後、袋内の液を取り出して生菌数をそれぞれ測定した。生菌数の測定は普通寒天培地(日水製薬製)を用いた混釈平板培養法(36℃、2日間)により行った。なお、対照として滅菌ポリエチレン袋に菌液のみを加えて同様に試験した。
【0064】このように試験操作した結果を表2に示した。また、試験後、上記実施例1および比較例2の試料を加えた各滅菌ポリエチレン袋内の液をろ取し、そのろ液について、高周波プラズマ発光分光分析法(SEIKO 社製、ICP SPS-4000、検出限界0.005ppm)により銀イオンの存在をそれぞれ分析したところ、上記各ろ液中に銀イオンが検出されなかった。
【0065】このことから、上記実施例1および比較例2の抗菌性は、銀イオンの溶出に起因するものではないことが判った。また、この結果から、抗菌性粒子7の菌液への溶解に起因する銀イオン2の放出も回避されることから、上記抗菌性粒子7は菌液中等の水に溶解しないことが判る。
【0066】
【表2】


【0067】このように上記実施例1の構成は、ACP粒子1を用いることによって、菌を吸着することができて抗菌性を従来より向上でき、かつ、抗菌性を有する銀イオン2の溶出が回避され、また、抗菌性粒子7の水への溶解も防止されるものである。また、銀イオン2の担体としてのACP粒子1は、生体内物質であるから、極めて安全性が高いものである。
【0068】また、上記構成は、造粒化によって、発泡性樹脂内への均一な分散が容易であるため、混合したときの不均一な分散による抗菌効果の遍在化を防ぐことができる。このことから、より均一な抗菌性を発揮でき、かつ、偏在化による抗菌性粒子7の凝集部分に起因する美観の低下、上記凝集部分による汚れ等といった使用者の誤認、かつ、上記凝集部分の物性の低下を防止できる。
【0069】これらの結果、上記構成は、上記ACP粒子1を用いることによって、高い安全性と半永久的に高い抗菌性を維持することが可能となり、その上、軽量で美観に優れているから、生鮮食品等の鮮度保持材、ドリップを生じ易い魚箱、浴槽のマット等の雑菌やカビ等が発生し易いものに好適に使用することが可能となる。
【0070】ところで、従来、雑菌やカビ等が発生し易いものに使用される物として、例えば特開昭63-160657 号公報には、有機系抗菌剤としてN(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミドを含有する発泡体が開示され、特開平5-9344号公報には、他の有機系抗菌剤としてジンク2−ピリジンチオール−1−オキサイド系の抗菌剤をポリオレフィン系樹脂と高吸水性樹脂との混合系に配合した樹脂組成物の発泡体が開示されている。
【0071】ところが、有機系抗菌剤を用いた場合には、一般に高温状態で揮発や劣化を起こしやすく抗菌効果を失う恐れがあるため、樹脂との混練など加熱工程が必要な加工には向かない。例えば、上記抗菌剤のうち、ジンク2−ピリジンチオール−1−オキサイドの場合では、分解温度が 240℃であるため樹脂との混練において分解することが容易に予想できる。
【0072】それを避けるために、樹脂との混練を抗菌剤が分解しないような低温で行うことが考えられるが、その場合には、充分に混練するためにより多くの時間が必要となり、生産効率を低下させる原因となる。
【0073】その上、樹脂表面または内部に含有した場合に、溶出および揮発により、その抗菌効果に持続性がないばかりでなく、安全性にも問題がある。最近では、合成樹脂製品に混入された、抗菌防カビ剤として知られるチアベンダゾール(TBZ)が、製品として使用されている段階で、使い方により溶出して安全性に問題があると報じられている(1993.6.30 付け、日本経済新聞夕刊)。
【0074】しかしながら、上記実施例の構成は、ACP粒子1を用いることによって、加熱温度1000℃程度まで耐えることができ、また、銀イオン2の溶出を防止でき、その上、菌吸着能を有し、かつ、生体内物質であるACPを用いることにより、高い安全性と半永久的に高い抗菌性を維持することが可能となっている。
【0075】さらに、従来、抗菌性のゼオライトを含有した発泡成形体が知られており、例えば、特開昭62-241932 号公報では、殺菌作用を有する抗菌性粒子を合成樹脂等に混合し発泡成形することにより、安全に長期間にわたって抗菌性を有する樹脂発泡体が開示されている。上記抗菌性粒子は、銀等の金属およびその金属塩をゼオライトなどの生理的に不活性な無機担体に吸着担持させたものである。
【0076】同様な抗菌性ゼオライトを含有した熱可塑性樹脂発泡体としては、特開昭63-317538 号公報、特開平1-306473号公報にそれぞれ開示されている。いずれも抗菌性金属イオンを含有したゼオライトの耐熱性を有効に利用し、上記ゼオライトと樹脂とを混練しても抗菌性を有している。また、抗菌性金属を含有するゼオライトは長期にわたって安定した抗菌効果を発揮するものである。
【0077】ところが、抗菌性金属イオンを含有する抗菌性ゼオライトを抗菌剤として用いた場合、溶融した合成樹脂に混練する際の加熱により、ゼオライト本体の相変化などにより安定した抗菌性が得られないという問題を有している。
【0078】また、ゼオライトは水分やCO2 ガス等の極性分子を容易に吸着する性質を有するため、ゼオライトの含水量が多い時には樹脂混練および成形の際の加熱により、蒸発水分による気泡が生じるために、均一な混練が困難であり成形体の性状を損なうという問題がある。
【0079】それを防ぐためには、乾燥工程によりゼオライトを充分脱水することが考えられるが、それには一般に 250〜500 ℃の加熱または 150〜350 ℃の減圧加熱脱水が必要であるため、上記の高分子発泡体の製造工程において煩雑な工程を加えることになる。さらに脱水後も、二次凝集を生じないよう十分に分散させる必要がある。
【0080】さらに、ゼオライトはアルミン酸基を交換基とするものであり、物理的に不安定で、CO2 ガスなどを強く吸着することが認められている。一方、発泡体は、発泡剤の添加で発生するガスにより発泡させるものであるから、これらのガス発生が妨害されず、均質に発泡が行われなければならない。
【0081】したがって、発生ガスに作用する添加物の使用は避けるべきである。このことから、発泡体にゼオライトを使用すると、発泡剤の種類によっては、均質な発泡体が得られにくい可能性があり、添加する抗菌性ゼオライトの添加量が制約される可能性がある。
【0082】しかしながら、上記実施例1の構成では、発泡剤の添加による発生するガスの吸着能は認められないから、上記ゼオライトのようなガスの吸着に起因する問題を回避できる。また、上記構成では、ACPを用いることによって、混練時の温度条件や発泡性樹脂の種類、分散剤などの添加剤等に起因する変色や着色を回避でき、変色や着色を防止するために上記温度条件等の各要因を考慮する手間を省くことができる。
【0083】さらに、有機系抗菌剤と抗菌性ゼオライトとを含有する発泡成形体も知られており、例えば、特開平5-32812 号公報には、防カビ剤として有機系物質であるメチルベンズイミダゾール−2−イルカルバメートを、抗菌剤としては無機系物質である銀イオンおよび亜鉛イオンが担持されたゼオライトをそれぞれ使用した防カビ・抗菌性ポリオレフィン発泡体とその製造方法が開示されている。ところが、上記防カビ・抗菌性ポリオレフィン発泡体についても、前記の有機系抗菌剤や抗菌性ゼオライトを用いた構成と同様な欠点を有したものとなっている。
【0084】
【発明の効果】本発明の請求項1記載の抗菌性ビーズ発泡成形体は、抗菌性金属イオンを吸着した非晶質リン酸カルシウム粒子からなる抗菌性粒子が含有されている構成である。
【0085】それゆえ、上記構成は、菌吸着能を有し、かつ、生体内物質である非晶質リン酸カルシウム粒子を用いることによって、高い安全性と半永久的に高い抗菌性を維持できることから、生鮮食品等の食品等の鮮度保持材や、ドリップを生じ易い魚箱等に好適に使用することができるという効果を奏する。
【0086】また、上記構成は、非晶質リン酸カルシウム粒子を用いることによって、例えば樹脂との混練および発泡時の加熱による抗菌性の低下や、得られた発泡成形体の変色および着色の発生を回避できるため、得られた抗菌性ビーズ発泡成形体に対する着色印刷等の加工が容易となるという効果も奏する。
【0087】本発明の請求項2記載の抗菌性ビーズ発泡成形体は、抗菌性金属イオンと、非晶質リン酸カルシウム粒子を含むスラリーとを混合し、造粒化した抗菌性粒子が含有されている構成である。
【0088】それゆえ、上記構成は、さらに、造粒化した抗菌性粒子を用いることにより均一な分散が容易であるため、例えば、樹脂に混練したときに、不均一な分散による抗菌効果の遍在化や、抗菌性粒子の凝集部分の美観並びに物性の低下を防ぐことができる。
【0089】これにより、上記構成は、さらに、凝集部分が汚れ等の付着と使用者により誤認され易い生鮮食品等の食品等の鮮度保持材や、ドリップを生じ易い魚箱等に好適に使用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の抗菌性ビーズ発泡成形体に用いた抗菌性粒子の作製に用いるスプレードライヤーの概略構成図である。
【符号の説明】
1 ACP粒子(非晶質リン酸カルシウム粒子)
2 銀イオン(抗菌性金属イオン)
7 抗菌性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】抗菌性金属イオンを吸着した非晶質リン酸カルシウム粒子からなる抗菌性粒子が含有されていることを特徴とする抗菌性ビーズ発泡成形体。
【請求項2】抗菌性金属イオンと、非晶質リン酸カルシウム粒子を含むスラリーとを混合し、造粒化した抗菌性粒子が含有されていることを特徴とする抗菌性ビーズ発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開平7−165971
【公開日】平成7年(1995)6月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−314959
【出願日】平成5年(1993)12月15日
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)