説明

抗菌性プラスチック製品の製造方法

本発明は、金属を含有する抗菌性プラスチック製品の製造方法、および該方法によって得られるプラスチック製品、特に医用プラスチック製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を含有する抗菌性プラスチック製品の製造方法、および該方法によって得られるプラスチック製品、特に医用プラスチック製品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の物品は、医学の分野においては、多種多用な目的のために非常に頻繁に使用されている。医学的な目的のためにプラスチック製品を使用する場合の問題点は、微生物のコロニーが形成されやすいことである。微生物はプラスチックの表面上に住みつき、「バイオフィルム(biofilm)」を形成する。感染症は、微生物のコロニーが形成されたプラスチック製物品を頻繁に使用する結果としてもたらされる。プラスチック製のカテーテルやカニューレを使用する場合、バクテリアの体内への移動に起因して感染症が容易にもたらされることが知られている。
【0003】
このような感染症は、特に短期、中期および長期の中枢静脈カテーテル、尿道カテーテルと尿管カテーテルがごく普通に使用されている泌尿器科の分野および室ドレン系の場合には特に重大であり、また、一般的である。このため、ドイツ連邦共和国においては、毎日約12〜15人の患者が、微生物で汚染されたカテーテルの使用に起因する感染症の結果として死亡している。
【0004】
プラスチック製物品における微生物のコロニー化とその結果もたらされる感染症を防止するために、今日まで多数の試みがなされている。国際公開公報WO87/03495号およびWO89/04682号には、医学的な器具やインプラントに抗生物質を含浸させる技術が記載されている。しかしながら、抗生物質を含浸させる場合の問題点は、耐性微生物の開発と選択である。
【0005】
プラスチック製品の使用に関連する感染症を低減させる別の試みは、金属類または金属合金類を、例えば、カテーテルに使用する技術である(独国特許DE4041721号、DE2720776号およびDE3302567号各明細書参照)。この場合、特に重要な点は銀の抗微生物性である。銀およびその塩類は、微量であっても、静菌作用と殺菌作用を示す。米国特許第4054139号明細書には、感染症を予防するために、銀を含有する微量作用物質を内部表面と外部表面に適用したカテーテルが開示されている。
しかしながら、該明細書に記載されている技術によっては、今日までのところ、いずれの観点においても、特に使用開始時におけるプラスチック製品の含浸処理による殺菌性の観点において、満足すべき結果は得られていない。
【0006】
改良された長期的特性を備えた抗菌性のプラスチック製構造体の製造方法がWO01/09229号に記載さている。
【0007】
WO01/09229号に記載されているカテーテルの臨床的試みにおいては、常套のカテーテルによって惹起される感染症に関連して、敗血性合併症の88%が減少することが観察されている。このことは、25の敗血症の症例が発生した対照カテーテルの使用に比較して、敗血症の症例が3に減少したことを意味する。従って、WO01/09229号に開示されている方法によって製造されるカテーテルの作用は、当時の従来技術を明確に改良するものである。しかしながら、WO01/09229号に開示されているカテーテルの使用によっても10%のコロニー比率が観察されている。このような場合、カテーテルの移植後の最初の数日間においては、カテーテルの導入部位で感染症が認められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、今日までのところ、医学的に使用されるプラスチック製の製品、特にカテーテルの微生物汚染を満足すべき程度まで防止することは不可能であった。
本発明が解決しようとする課題は、満足すべき抗菌活性を発揮するプラスチック製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記の課題は、下記の工程(A)〜(C)を含む抗菌性プラスチック製品の製造方法によって解決された:
(A)中間製品を形成させ、
(B)該中間製品の少なくとも1つの構成部材を抗菌性金属コロイドを用いて処理し、次いで
(C)抗菌性金属の易溶性塩または難溶性塩を添加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
驚くべきことには、抗菌性金属コロイドおよび抗菌性金属の易溶性塩または、好ましくは難溶性塩を組合せることによって、満足すべき抗菌活性がもたらされる。十分な長期作用のほかに、本発明によるプラスチック製品を用いることによって、微生物に対する明確に改善された速効作用も得られる。特に、使用開始時における抗菌活性は、従来のプラスチック製品、例えば、WO01/09229号に記載されているプラスチック製品等に比べて、実質的に改善される。従って、WO01/09229号に記載されている方法によって製造されるプラスチック製品を本発明によるプラスチック製品と直接的に比較することによって、後者の方が著しく高い抗菌活性を発揮することを示すことが可能である(後記の表1参照)。
【0011】
さらに、本発明によるプラスチック製品は、従来製品に比べて高い細胞毒性を示さない。また、本発明によるプラスチック製品を使用するときに血栓形成性を観察されないことも本発明の別の利点である。
【0012】
本発明の目的である抗菌性プラスチック製品は、微生物、特にバクテリアおよび/または真菌に対して活性を示す製品である。問題となる作用には静菌作用と殺菌作用の両方が含まれる。
【0013】
本発明による製法を利用することによって、原則的には、所望のいずれのプラスチック製品も製造することが可能であるが、医学部門において使用される製品の製造に適用するのが好ましい。このような製品としては、カテーテル、ホース、チューブ(特に気管内用チューブ)、泌尿器科において使用される物品、骨セメント(特にメチルアクリレート骨セメント)、ゴアテックス(商標)織物、歯ブラシ、シリコーンプラスチック、ポリマーフィルム、生地(例えば、作業衣類用生地)、おむつおよび/またはこれらの部材等が例示される。本発明による製法の1つの特に好ましい態様においては、カテーテルが製造される。
【0014】
本発明による抗菌性プラスチック製品を製造するための出発原料としては、医学部門において一般的に使用されている所望のいずれのポリマー化合物も利用可能である。例えば、好ましいポリマーはポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、架橋ポリシロキサン、(メタ)アクリレートに基づくポリマー、セルロースとその誘導体、ポリカーボネート、ABS、テトラフルオロエチレンポリマー、ポリエチレンテレフタレート、および対応するコポリマー等である。特に好ましいポリマーはポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレンコポリマーであり、なかでもポリウレタンが最も好ましい。
【0015】
1種もしくは複数種のポリマー材料のほかに、中間製品はさらに添加剤を含有していてもよい。添加剤は、例えば、有機もしくは無機の物質であってもよい。中間製品は、医学的に許容される不活性ないずれの有機物質または無機物質を含有していてもよく、この種の物質としては次の物質が例示される:硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ゼオライト、フッ化カルシウム(CaF)、マイカ、タルク、熱分解法シリカ、カルシウムヒドロキシルアパタイト、カオリン、ジルコニウムおよび/またはマイクロセルロース。好ましい無機物質は硫酸バリウムおよびジルコニウムであり、硫酸バリウムは、特定の用途に対してはX線造影剤としても同時に使用することができる。
【0016】
本発明による方法においては、中間製品の1もしくは複数の構成部材を金属コロイドで処理する。この場合、1もしくは複数のポリマー材料および/または1もしくは複数の有機および/または無機粒子を金属コロイドで処理することが可能である。金属コロイド用担体は中間製品中に約5〜50重量%の量で存在していてもよい。硫酸バリウムを担体として使用する場合、通常の存在量は約5〜30重量%であり、好ましくは約20重量%である。担体として二酸化ケイ素を使用する場合、その存在量は約30〜50重量%であり、好ましくは約40重量%である。
【0017】
中間製品の1もしくは複数の構成部材を処理するのに使用することができる金属コロイドは、金属塩溶液の還元によって調製するのが適当である。銀を使用する場合、銀は還元剤と混合する。銀は、例えば、硝酸銀アンモニア溶液の状態で使用する。得られる金属コロイドを安定化させるためには、所望により保護物質(例えば、ゼラチン、シリカ、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール等)または錯化剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸等)を使用することができるが、保護物質を使用せずに調製処理をおこなうのが好ましい。適当な還元剤としては、アルデヒド(例えば、アセトアルデヒド等)、アルドース(例えば、グルコース等)、キノン(例えば、ヒドロキノン等)、錯化無機水素化物(例えば、ナトリウムボロネート、カリウムボロネート等)、還元性窒素化合物(例えば、ヒドラジン、ポリエチレンイミン等)、アスコルビン酸、酒石酸およびクエン酸等が例示される。
【0018】
還元剤の変更および安定剤の変更または省略によって、被覆担体の着色を調整することが可能である。
【0019】
抗菌作用を有する全ての金属が本発明による方法に適している。このような金属としては、銀、銅、金、亜鉛、ジルコニウム、ビスマス、セリウムおよびこれらの混合物が例示される。特に好ましい金属は、高い抗菌活性を有する銀である。銅も好ましい金属であり、その使用によって真菌に対する抗菌活性も得られるので有効な金属である。
【0020】
金属コロイドの有効な使用量は約0.1〜10重量%であり、好ましくは約0.5〜5重量%である。
【0021】
中間製品の1もしくは複数の構成部材への金属コロイドの適用は1段階でおこなってもよく、あるいは乾燥処理を介在させて複数段階でおこなってもよい。非常に高い金属濃度を達成するためには両方の方法を使用することができる。還元剤の変更および安定剤の変更もしくは省略によって、金属の粒径を調整することが可能である。金属コロイドとして銀を使用する場合、好ましい粒径は10〜50nmである。このような粒径を有する銀は「ナノシルバー(nanosilver)」と呼ぶ。1つの好ましい態様においては、還元剤の添加とナノシルバーの沈着後、溶液中に残存する銀をリン酸の添加によって沈殿させる。リン酸銀の形態の沈殿銀は、以下においては「発生期のリン酸銀」と呼び、該リン酸銀は抗菌活性の特に迅速な開始によって特徴づけられる。
【0022】
金属コロイドの量は、抗菌活性を得るためにプラスチック製品の表面の十分な部分が金属粒子によって構成されるように選択される。
【0023】
本発明によれば、抗菌性金属の易溶性塩もしくは難溶性塩を中間製品へ付加的に添加する。この種の塩には、好ましくは、銀塩、亜鉛塩、銅塩、カリウム塩、白金塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩および/または金塩並びにこれらの混合物が含まれる。特に好ましい塩は銀塩、就中、硫酸銀および/または発生期のリン酸銀である。原則的には、光の暴露に対して安定であると共に生理学的に許容される抗菌活性金属のいずれの易溶性塩または難溶性塩も適当である。金属塩の使用量は、中間製品の全重量に基づいて0.1〜5重量%であり、好ましくは0.5〜1重量%である。
【0024】
金属コロイドによって少なくとも部分的に処理された中間製品の構成部材を難溶性金属塩等と混合した後、得られる混合物をさらに加工することによってプラスチック製品を調製する。この加工は、例えば、押出成形法、混合法、混練法または熱加圧成形法によっておこなうことができる。好ましい造形加工法は押出成形法および射出成形法である。
【0025】
本発明は、本発明方法によって得られるプラスチック製品を提供する。このようなプラスチック製品としては、好ましくは、医学部門で使用される製品が挙げられる。特に好ましい1つの態様においては、本発明方法はカテーテルの製造に使用される。
【0026】
好ましい医療用製品としては、短期移植用の静脈用カテーテルであって、カテーテルの外側だけでなく、内腔内壁、ルアーロック(Luer lock)およびマニホルドが本発明によって得られる材料によって形成される該カテーテルが例示される。該カテーテルの表面を汚染するのに使用した接種物(微生物:10個)は9時間未満に完全に除去されることが実験によって示された。
【0027】
さらに、下記の医療用製品が例示される:末梢静脈用カヌーレ、血液透析のために6週間以上移植するためのシェルドン(Sheldon)カテーテル、本発明によって製造される材料から形成されるカフ(cuff)を備えた長期移植用ヒックマン(Hickman)型カテーテル(少なくとも1年間にわたって抗菌活性が発揮されることが確認された)、少なくともポート室が本発明によって製造される材料によって形成されるポート(port)カテーテルおよび好適なその全ての構成部材、室ドレンカテーテル(最小活性発現期:3年)、のう(bladder)カテーテル、膀胱切開用カテーテル、腎フィステル形成用カテーテル、尿道ステント(stent)(例えば、ポリウレタンまたはシリコーンを基材とするもの;好適には全採尿系およびコネクターが該材料から形成されるもの)、胸腔ドレンと付属吸引系、気管内用チューブ、カフを備えたテンクホフ(Tenckhof)カテーテル、骨セメント(例えば、メチルアクリレートを基材とするセメント)、歯ブラシ(荒毛と把持部)、外科用縫合材料、抗菌性織物製造用フィラメント材料、抗菌性コーティング用被覆材料(例えば、換気用ホース)、抗菌性創傷被覆材料および火傷用包帯(dressing)。
【0028】
以下においては、本発明の好ましい態様について説明する。
1つの好ましい態様においては、大きさが約1mmのポリウレタンペレットをポリマー材料として使用する。中間製品の別の構成材料は、担体として機能する硫酸バリウムである。約3〜10重量%(または、所望によりこれよりも多量)のナノシルバーを硫酸バリウムに沈着させた。中間製品はさらに約0.5〜1重量%の硫酸銀またはリン酸銀(特に発生期のリン酸銀)を含有する。中間製品の構成材料を混合し、押出成形法によって加工する。
【0029】
別の好ましい態様においては、銀と銅を約2:1の割合で含む金属塩を使用する。この組合せは、真菌に対して満足すべき抗菌活性をもたらすので好適である。
【0030】
別の好ましい態様によれば、金属コロイドを、特に好ましくはナノシルバーおよびケイ酸ジルコニウムと組合せて使用する。銀とケイ酸ジルコニウムとの重量比は1:1〜10にするのが特に適当である。
【0031】
本発明を添付図と以下の実施例によってさらに説明する。
図1〜図3は、抗菌活性に関連する実験の結果を示す。微生物としては、いずれの場合もスタフィロコッカス・エピデルミジス(Staphylococcus epidermidis)ATCC14990を使用した(出発時点での微生物数:5×10CFU/ml)。
【0032】
図1に示す実験においては、0.8%のナノシルバーおよび0.5%の硫酸銀を使用した。
図2に示す実験においては、0.8%のナノシルバーおよび1.0%の硫酸銀を使用した。
図3に示す実験においては、0.8%のナノシルバーを使用し、硫酸銀は使用しなかった。
【実施例】
【0033】
比較の実施例1:WO01/09299号による市販の常套のプラスチック
A:銀コロイドの調製
AgNO p.a. 1.0g(5.88mmol)を蒸留水100mlに溶解させ、得られた溶液を25%のアンモニア水1.0ml(14.71mmol)と混合した。銀コロイドを調製するために、アセトアルデヒド258.7mg(5.88mmol;330μl)を蒸留水50mlに溶解させた溶液を上記の溶液中へ40℃において30分間かけてゆっくりと滴下した。
【0034】
B:ポリウレタンペレットの被覆
上記の実施例1に記載のようにしてゆっくりと滴下する操作の終了から10分間経過後、ポリウレタンペレット[テコタン(Tecothane)TT−1085A]約50gを添加し、該ペレットを銀コロイドで被覆するために、40℃で2時間激しく攪拌した後、さらに室温で3時間激しく攪拌した。適当な孔径を有する溝付きフィルターを用いる迅速濾過によって銀コロイドを分別させ、ペレットを濾液で洗浄し、湿潤状態で蒸発用ボート内へ移した。ポリマーに付着しなかって過剰の銀コロイドを除去した後、ペレットを70℃で10時間乾燥させた。
【0035】
実施例2:改良された抗菌活性を有するプラスチック
A:銀コロイドの硫酸バリウム上への吸着
蒸留水(50℃)360ml中へゼラチン0.6gを溶解させた後、さらにAgNO6.0gを溶解させた。得られた溶液中へ25%のアンモニア水7.8mlを添加した。50℃において激しく攪拌しながら、蒸留水120mlに無水グルコース3.18gを溶解させた溶液を上記の溶液中へゆっくりと添加した。グルコース溶液の約半分を滴下した時点で、既に形成された銀コロイド中へ激しく攪拌しながら硫酸バリウム100gを添加した後、グルコース溶液の添加を続行した。グルコース溶液の添加が終了した後、得られた懸濁液をタービンスターラーで50℃においてさらに2時間攪拌し、次いで70℃で3時間攪拌した。
【0036】
生成した固体を濾過または遠心分離によって液体から分離させ、該固体を、電解質が検出されなくなるまで超純水で繰返して洗浄し、次いで、70℃〜80℃で乾燥させた後、微細に粉砕した。
【0037】
B:硫酸銀の混合
乾燥後に粉砕した硫酸バリウムを2.5〜5重量%の微粉末状硫酸銀と混合し、この2成分を十分に混和させた。
【0038】
C:個々の構成成分の混合
被覆処理に付した硫酸バリウム/硫酸銀混合物20重量%をポリウレタンペレット77.6重量%および他の非被覆物(例えば、二酸化チタン)2.4重量%と十分に混合させ、得られた混合物を加工処理(例えば、押出成形)に付した。
【0039】
上記の工程Bにおいて硫酸銀2.5重量%を添加した場合には、以下の表1においてAで示すプラスチックが得られた。また、工程Bにおいて硫酸銀5重量%を添加した場合には、表1においてBで示すプラスチックが得られた。
【0040】
実施例3:改良された抗菌活性を有するプラスチック
A:銀コロイドの硫酸バリウムへの吸着
AgNO(18g)を蒸留水(50℃)1080mlに溶解させ、得られた溶液に硫酸バリウム200gを添加した。得られた懸濁液を約20分間激しく攪拌した後、25%アンモニア水溶液23.4mlと混合させた。
温度を同温に保持して攪拌を続行しながら、無水グルコースを9.6g含有する溶液をゆっくりと滴下した。グルコースの添加が終了後、上記の実施例2のAに記載の場合と同様の処理をおこなうことによって乾燥した硫酸バリウム微粉末を得た。
【0041】
B:硫酸銀の混合
硫酸銀の混合は実施例2のBに記載の場合と同様にしておこなった。
【0042】
C:個々の構成成分の混合
実施例2の場合と同様して、硫酸バリウムと硫酸銀との混合物を他の構成成分と混合した後、加工処理に付した。
【0043】
実施例4:抗菌活性の測定
本発明によるプラスチックの抗菌活性は、種々の微生物を含有するトリプカーゼ(trypcase)−大豆ブイヨン栄養溶液と共に該プラスチックの試料を37℃でインキュベートすることによって測定した。
【0044】
使用した微生物
1.スタフィロコッカス・エピデルミジス:ATCC14990。
2.スタフィロコッカス・エピデルミジス:カテーテルに関連する敗血症患者から臨床的に単離した直後のもの。
3.スタフィロコッカス・アウレウス:ATCC25923。
4.エシェリシア・コリ:カテーテルに関連する敗血症患者から臨床的に単離した直後のもの。
5.シュードモナス・アエルギノサ:カテーテルに関連する敗血症患者から臨床的に単離した直後のもの。
【0045】
微生物の数は光度計中において5×10コロニー形成単位(CFU)/ml[スタフィロコッカス菌の場合は0.30/457nmのODに相当し、また、シュードモナス・アエルギノサとエシェリシア・コリの場合には0.65/457nmのODに相当する。]または10CFU/ml[スタフィロコッカス菌の場合は0.65/475nmのODに相当し、また、シェードモナス・アエルギノサとエシェリシア・コリの場合には1.2/475nmのODに相当する。]に調整した。CFU/mlの測定は寒天プレート上での一連の希釈処理によって平行しておこない、また、測定した微生物の数は分光光度法による測定によって確認した。
【0046】
プラスチック材料
ポリウレタン[テコフレックス(Tecoflex)社製]を使用した実質上全ての移植可能な中枢静脈用カテーテルを製造した。ナノシルバー(粒径:3〜5nm)0.8〜1.3重量%および種々の濃度(0.25%、0.5%、0.75%または1.0%)の硫酸銀と共にポリウレタンを共押出加工処理に付した。外径が1.6mmの押出物を製造した。これらの押出物から長さが1mmのペレットを切り取った。10個のペレットの表面積は約1cmであり、50個のペレットの表面積は5cmであった。
【0047】
試験方法
生理的塩水中に上記の微生物を5×10CFU/mlまたは10CFU/mlの量で含有する懸濁液中へ、表面積が1cmまたは5cmのプラスチックペレットを導入した。これらの試験片を120回転/分の速度で振盪させた。各々の試験においては、試験の開始時(微生物の初期量)並びに6時間後、12時間後、18時間後、24時間後、36時間後、および48時間後に1ループの試料(2μl)を取出して寒天(ミュラー−ヒントン寒天)上に移し、37℃で24時間インキュベートした。次いで寒天上の微生物の数をコロニーの計数によって測定した。
全ての試験は3回繰返した。以下に示すいずれのデータも3回の対応する試験の平均値である。
【0048】
結果
以下の表1に、スタフィロコッカス・エピデルミジス(ATCC14990)を用いた試験において測定されたコロニーの数を示す。
【表1】

【0049】
対応する増殖挙動もスタフィロコッカス・エピデルミジス、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC25923)、エシェリシア・コリおよびシュードモナス・アエルギノサの野生株によって示される。硫酸銀の添加によって即時抗菌活性が著しく増加することが実験によって示された(AまたはBとCとの比較)。硫酸銀の添加に起因する活性増加は添加量によって左右されるが、硫酸銀の0.5%の添加によっても活性は観測された。本発明によるプラスチックは、ナノシルバーのみを含有するプラスチック(試験C参照)に比べて著しく改良された抗菌活性を示す。試験に供した従来のプラスチック(WO01/09229号によるもの)の場合には、5×10CFU/mlの微生物を用いて試験を開始してから48時間経過した後においてのみ滅菌効果が観測された。出発微生物の数が10CFU/mlの場合には、48時間経過後においてもなお弱い増殖が観測された。
【0050】
実施例5
ケイ酸ジルコニウム含有担体の実験
硫酸バリウム担体を、第1の一連の実験においては20重量%のケイ酸ジルコニウムと混合し、また、第2の一連の実験においては20重量%のナノシルバーおよび20重量%のケイ酸ジルコニウムと混合した。得られた混合物を種々の量の微生物と混合し、該微生物の増殖を48時間にわたって記録した。
【0051】
記録結果を以下の表2に示す。
【表2】

【0052】
実施例6
担体としての硫酸バリウム上に坦持させたケイ酸ジルコニウムのみの抗菌活性と該坦体上に共存させたケイ酸ジルコニウムおよびナノシルバーの抗菌活性との比較実験の結果を以下の表3に示す。
【表3】

【0053】
実施例7
硫酸バリウム担体上に坦持させたナノシルバーと発生期のリン酸銀を用いたときの抗菌活性試験(Ag:3.6%;リン酸銀:5%)
硫酸バリウム上へのコロイド状銀の吸着および発生期の超微細リン酸銀の調製について説明する。
硝酸銀(14.45g)を蒸留水(50℃)(360ml)に溶解させ、得られた溶液中への硫酸バリウム(100g)を激しく攪拌しながら添加した。得られた懸濁液を約20分間攪拌した後、25%アンモニア水溶液(19.3ml)を添加した。
【0054】
温度を同温に維持して攪拌を続行しながら、蒸留水(182ml)にグルコース1水和物(5.25g)を溶解させた溶液を該懸濁液中へゆっくりと添加した。グルコースの添加の終了後、50℃において攪拌をさらに2〜4時間続行し、次いで残存する非還元銀を0.1モルのリン酸で沈殿させ、得られた懸濁液のpHを約6に調整した。懸濁液が室温に冷却するまで攪拌を続行し、生成した固体を沈降、濾過または遠心分離によって分別させた。得られた固体を、電解質が検出されなくなるまで、超純水を用いて繰返して洗浄した後、乾燥室内において70℃〜80℃で乾燥させ、次いで、所望により、粉砕処理に付した。
【0055】
このようにして調製した生成物は白みをおびた灰色の固体であり、BaSO上にナノシルバーおよびリン酸銀をそれぞれ3.6%および5%含有する組成を有する。この濃度が1%または0.1%のときの微生物の数を実施例4に従って測定した。測定結果は次の通りであり:
時間(時)
1% 10 10
0.1% 10 10 10
【0056】
A:硫酸バリウム上へのコロイド状銀の吸着
硝酸銀(9g)を50℃まで加温した蒸留水(360ml)に溶解させ、得られた溶液中へ激しく攪拌しながら硫酸バリウム(100g)を添加し、攪拌を20分間続行した後、25%アンモニア溶液を添加した。
次いで、温度を同温に維持しながら、グルコース1水和物(5.25g)を蒸留水(182ml)に溶解させた溶液をゆっくりと添加した。グルコースの添加終了後、得られた懸濁液を50℃においてさらに2〜4時間攪拌し、次いで70℃で1〜3時間攪拌を続行した。
反応が完結した後、水性相から固体を分離させ、該固体を、電解質が検出されなくなるまで超純水を用いて繰返して洗浄した。洗浄した固体を乾燥室内において70℃〜80℃で乾燥させた後、一次粒径まで粉砕させた。
【0057】
B:リン酸銀の混合
所望量(1〜5重量%)の超純度リン酸銀を上記のAで得られた固体へ添加し、この2成分を十分に混合した。実施例4に記載のような試験をおこなったところ、実施例7に記載した結果に類似した良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】スタフィロコッカス・エピデルミジスに対する抗菌活性に関する実験結果を示す(ナノシルバー0.8%および硫酸銀0.5%を使用した)。
【図2】スタフィロコッカス・エピデルミジスに対する抗菌活性に関する実験結果を示す(ナノシルバー0.8%および硫酸銀1.0%を使用した)。
【図3】スタフィロコッカス・エピデルミジスに対する抗菌活性に関する実験結果を示す(ナノシルバー0.8%を使用し、硫酸銀は使用しなかった)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(A)〜(C)を含む抗菌性プラスチック製品の製造方法:
(A)中間製品を形成させ、
(B)中間製品の少なくとも1つの構成成分を抗菌性金属コロイドで処理し、次いで
(C)抗菌性金属の易溶性塩または難溶性塩を添加する。
【請求項2】
難溶性塩が下記の塩から成る群から選択される塩である請求項1記載の方法:銀塩、亜鉛塩、銅塩、セリウム塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩、白金塩および/または金塩。
【請求項3】
金属塩が硫酸銀および/またはリン酸銀を含有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
金属塩の含有量が、中間製品の全重量に基づいて0.1〜1.0重量%である請求項3記載の方法。
【請求項5】
金属塩を、銀/銅比が約2:1になる割合で存在させる請求項2記載の方法。
【請求項6】
中間製品が1種もしくは複数種のポリマー材料を含有する請求項1から5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
中間製品がポリウレタンを含有する請求項6記載の方法。
【請求項8】
中間製品が添加剤をさらに含有する請求項1から7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
添加剤が有機粒子または無機粒子を含有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機粒子および/または無機粒子が下記の物質から成る群から選択される物質の粒子である請求項9記載の方法:硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ゼオライト、フッ化カルシウム(CaF)、マイカ、タルク、熱分解法シリカ、カルシウムヒドロキシルアパタイト、カオリンおよび/またはマイクロセルロース。
【請求項11】
無機粒子が硫酸バリウムおよび/または熱分解法シリカを含有する請求項10記載の方法。
【請求項12】
ポリマー材料および無機粒子を金属コロイドで処理する請求項1から11いずれかに記載の方法。
【請求項13】
無機粒子を金属コロイドで処理する請求項1から11いずれかに記載の方法。
【請求項14】
金属コロイドがコロイド状銀を含有する請求項1から13いずれかに記載の方法。
【請求項15】
処理した中間製品と難溶性金属塩との混合物を押出し、射出成形、混合、混練または熱間圧縮による造形処理に付す請求項1から14いずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15いずれかに記載の方法によって得られるプラスチック製品。
【請求項17】
プラスチック製品がカテーテルである請求項16記載のプラスチック製品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(A)〜(C)を含む抗菌性プラスチック製品の製造方法:
(A)中間製品を形成させ、
(B)中間製品の少なくとも1つの構成成分を抗菌性コロイド金属で処理し、次いで
(C)抗菌性金属の易溶性塩または難溶性塩を添加する。
【請求項2】
難溶性塩が下記の塩から成る群から選択される塩である請求項1記載の方法:銀塩、亜鉛塩、銅塩、セリウム塩、ジルコニウム塩、ビスマス塩、白金塩および/または金塩。
【請求項3】
金属塩が硫酸銀および/またはリン酸銀を含有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
金属塩の含有量が、中間製品の全重量に基づいて0.1〜1.0重量%である請求項3記載の方法。
【請求項5】
金属塩を、銀/銅比が約2:1になる割合で存在させる請求項2記載の方法。
【請求項6】
中間製品が1種もしくは複数種のポリマー材料を含有する請求項1から5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
中間製品がポリウレタンを含有する請求項6記載の方法。
【請求項8】
中間製品が添加剤をさらに含有する請求項1から7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
添加剤が有機粒子または無機粒子を含有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機粒子および/または無機粒子が下記の物質から成る群から選択される物質の粒子である請求項9記載の方法:硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ゼオライト、フッ化カルシウム(CaF)、マイカ、タルク、熱分解法シリカ、カルシウムヒドロキシルアパタイト、カオリン、ジルコンおよび/またはマイクロセルロース。
【請求項11】
無機粒子が硫酸バリウムおよび/または熱分解法シリカを含有する請求項10記載の方法。
【請求項12】
ポリマー材料および無機粒子をコロイド金属で処理する請求項1から11いずれかに記載の方法。
【請求項13】
無機粒子をコロイド金属で処理する請求項1から11いずれかに記載の方法。
【請求項14】
コロイド金属がコロイド銀を含有する請求項1から13いずれかに記載の方法。
【請求項15】
処理した中間製品と難溶性金属塩との混合物を押出し、射出成形、混合、混練または熱間圧縮による造形処理に付す請求項1から14いずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15いずれかに記載の方法によって得られるプラスチック製品。
【請求項17】
プラスチック製品がカテーテルである請求項16記載のプラスチック製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【誤訳訂正書】
【提出日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】0015
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【0015】
1種もしくは複数種のポリマー材料のほかに、中間製品はさらに添加剤を含有していてもよい。添加剤は、例えば、有機もしくは無機の物質であってもよい。中間製品は、医学的に許容される不活性ないずれの有機物質または無機物質を含有していてもよく、この種の物質としては次の物質が例示される:硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ゼオライト、フッ化カルシウム(CaF)、マイカ、タルク、熱分解法シリカ、カルシウムヒドロキシルアパタイト、カオリン、ジルコンおよび/またはマイクロセルロース。好ましい無機物質は硫酸バリウムおよびジルコンであり、硫酸バリウムは、特定の用途に対してはX線造影剤としても同時に使用することができる。

【公表番号】特表2006−509054(P2006−509054A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535474(P2004−535474)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010049
【国際公開番号】WO2004/024205
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(505090207)プロフェソール・ドクトル・ヨーゼフ−ペーター・グッゲンビヒラー・ドクトル・クリストフ・ヒホス・ゲゼルシャフト・ビュルガーリーヒェン・レッヒツ・アンティミクロビアル・アルゲントゥム・テヒノロギース (1)
【氏名又は名称原語表記】Prof. Dr. Josef−Peter Guggenbichler, Dr. Christoph Cichos GbR Antimicrobial Argentum Technologies
【Fターム(参考)】