説明

抗菌性保存液

【課題】移植用の輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などを効率よく臨床応用できる抗菌性保存液を開発する。
【解決手段】
抗菌性ペプチドであるポリリジン(ε結合を有する)単独、あるいはポリリジンと緑茶ポリフェノールの一種である(−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を添加した保存液を用いる。例えば、10〜100μg/mLのポリリジン、及び、10〜100μg/mLのEGCgを、輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS))、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの保存液に含有させることで、好気性グラム陰性菌やグラム陽性菌に対して高活性を示し、さらに嫌気性菌やマイコプラズマ等に対しても強力な抗菌力を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、添加することで、保存温度−196〜+37℃において、混入細菌の増殖速度を無菌状態に抑制することが可能となり、有効期間延長できる輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの保存液に関する。更に、当該担体を用いた雑菌やマイコプラズマ、またはウイルスに汚染された細胞培養溶液からの汚染除去方法に関する。
【背景技術】
21世紀は再生医療の時代といわれている。この再生医療とは、病気や事故により機能不全に陥った組織や臓器の機能を再生する新しい医療である。その方法としては、自己や他人の細胞を患者に投与したり、それらの細胞をin vitroで培養し組織を構築した後、患者に移植する治療法である。これまでの医療では、薬で治らない疾病には生体組織の移植や人工臓器の置換術などで治療されてきたが、移植医療と人工臓器の限界が見えてきたため、今世紀に入り再生医療への期待が大きく高まって来ている。近年、この再生医療の研究開発が急速に熱を帯びてきているが、これはあらゆる生体組織のもとになるES細胞(胚性幹細胞)やEG細胞(胚性生殖細胞)等の「万能細胞」をヒトや動物の受精卵から取り出して育てることが可能になってきたためである。また最近、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の転写因子遺伝子)を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)に似た分化万能性(pluripotency)を持たせた細胞である人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells、iPS)が開発された。これらの幹細胞を用いたこの再生医療が実現することになれば、不治の病や事故により臓器移植しか蘇生できる手立てがない重篤な患者を救うことができるため、遺伝子を手掛かりにした新薬開発と並び、大きな市場を開く可能性を秘めている。
さて、この再生医療には高度な知識と技術および時間を要するが、その初期段階として細胞工学や組織工学が再生医療の発展にとって極めて重要である。
採血などで提供された輸血用血液、臍帯血、骨髄、あるいは細胞等は約30%もマイコプラズマ等の細菌が混入していることが報告されている。これらの混入細菌のため移植には不適合で廃棄されるか、もしくは検出限界の細菌数でも保存後に増殖し移植後重篤な危険性を伴うことになる。従って、増殖を抑制することが可能になれば、血液製剤や幹細胞製剤の有効期間延長に繋がることが期待できる。
そこで本特許では、輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの−196〜+37℃保存において、抗菌性ペプチドであるポリリジン(ε結合を有する)、あるいはそれらポリリジンと緑茶ポリフェノールの一種である(−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を添加した保存液が有用であることを明らかにした。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決しようとする課題は、混入細菌やウイルスの増殖を抑制し、輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織など保存液の機能の低下を防ぐことにより保存期間の延長を計ることである。
【課題を解決するための手段】
本発明の保存剤は、ポリリジンあるいはポリフェノールの混合成分からなり、これを保存輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、あるいは造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの保存液に添加させることで、混入細菌やウイルスの増殖を抑制する。
【発明の効果】
本発明では、ポリリジンあるいは、それらポリリジンとポリフェノールを添加したの混合成分により、混入細菌やウイルスの増殖抑制と保存効果を高めることができる。つまり、保存時に混入細菌やウイルスの増殖抑制を阻害することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で用いるポリリジンは、塩基性アミノ酸であるリジンのポリマーである。そのポリマー分子構造中のアミノ基の位置によりα−ポリリジンとε−ポリリジンの二つの構造を取り得るが、ε−ポリリジンは、既存の食品添加物であり、安全性と価格の観点からε−ポリリジンを用いる方が好ましい。
本発明におけるε−ポリ−L−リジンは、具体的には、例えば、次のようにして得られらるものを用いることができる。日本特許第3525190号または日本特許第3653766号に記載の菌株であるストレプトマイセス・アルブラス・サブスピーシーズ・リジノポリメラスを用いる。そして、グルコース5重量%、酵母エキス0.5重量%、硫酸アンモニウム1重量%、リン酸水素二カリウム0.08重量%、リン酸二水素カリウム0.136重量%、硫酸マグネシウム・7水和物0.05重量%、硫酸亜鉛・7水和物0.004重量%、硫酸鉄・7水和物0.03重量%、pH6.8に調整した培地にて培養し、得られた培養物からε−ポリリジンを分離・採取する。
本発明においては、ポリリジンは遊離、又は塩の形態で用いることができる。塩の形態には、塩酸塩や硫酸塩等の無機酸塩の他、琥珀酸塩、クエン酸塩やリンゴ酸塩等の有機酸塩が用いることが出来る。
また、本発明におけるポリフェノールについては、限定されない。カテキン類、タンニン類、プロアントシアニジン又はリスベラトロールが使用され得る。特に好ましいのは、(−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、(−)−ガロカテキンガレート(GCg)、(−)−エピカテキンガレート(ECg)である。エピガロカテキンガレート(EGCg)、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレートの純度は90重量%以上が望ましく、98重量%以上がより望ましい。
またポリフェノールは、例えば、茶、ワイン、チョコレート、サボテン、海藻、野菜(たまねぎ(最外部の黄褐色の皮)、アロエ抽出物パセリの葉、白色野菜など)、柑橘類(温州みかん、だいたい、ポンカンの皮、夏みかんの皮、グレープフルーツ、レモンなど)、リンゴなどの果実類、穀物(こうりゃん、大豆、そば、小麦など)、ダリアの花などの種々の食品・植物に多く含まれているので、茶抽出物、海草抽出物、果実抽出物、サボテン抽出物又はワイン抽出物などの抽出物でも良い。例えば茶抽出物は、水、エタノール、酢酸エチルなどの溶剤を用いて茶の葉より抽出することで得られ、エピガロカテキンガレートを最も多く含むカテキン類を主成分とする。また、得られた茶抽出物あるいは市販の茶抽出物から、クロロフィルの除去、さらにカラムクロマトグラフ法による精製をすることによって、高純度のエピガロカテキンガレート(EGCg)を得ることが可能である。
本発明において、ポリリジンとポリフェノールの濃度は、0.001−1.0重量%(10〜10000ppm)が好ましい。より好ましい濃度は0.005〜0.1重量%(50〜1000ppm)である。さらに好ましくは0.005〜0.03重量%(50〜300ppm)である。また、ポリリジンとポリフェノールの混合割合は、ポリリジン/ポリフェノール=0.1−99.1/99.1−0.1で任意に用いることができる。
本発明においてポリリジンとポリフェノールを安定化させるため、L−アスコルビン酸および二亜硫酸カリウムが添加されていても良い。L−アスコルビン酸の濃度は0.0001〜0.3重量%(1〜300ppm)である。二亜硫酸カリウムの濃度は0.0001〜0.3重量%(1〜300ppm)である。
本発明の保存液には、用途に応じて抗酸化剤、安定化剤等の薬剤が適宜添加されても良い。そのような成分として、以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、ビタミンEまたはグルタチオン);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類、及び多糖類の化合物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、ポリオキシエチレン・ソルビタンエステル(Tween(商標))、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体(プルロニック(pluronic、商標))またはポリエチレングリコール);血栓溶解剤;血管拡張剤;組織賦活化剤;カテコラミン;PDEII阻害剤;カルシウム拮抗剤;βブロッカー;ステロイド剤;脂肪酸エステル;抗炎症剤;抗アレルギー剤;抗ヒスタミン剤等。
本発明の輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの保存液は、微生物に対して広範な増殖抑制効果や殺菌効果を有しており、また、それらの効果はpHに大きな影響を受けず、およそpH4〜9の範囲で使用できる。その点眼液への添加量は、保存液に対して、0.001〜10重量%であることが好ましい。本発明の保存液は、抗菌性ポリリジンを含有することから、各種微生物感染の防御に有効であり、また、天然物由来の成分であることから、安全性も高い。本発明の保存液は、特に黄色ブドウ球菌及びその耐性菌(MRSA等)、並びに緑膿菌やマイコプラズマ等に対する抗菌性に優れる。本発明の保存液は、抗菌性ポリリジンやその塩、またはポリフェノールを含有することを特徴とする。
【実施例】
以下、本発明を具体的に明らかにするために実施例を示すが、本発明は該実施例の記載により何等の制約も受けるものではない。
実施例1:抗菌試験
ε−ポリ−L−リジン(チッソ社製、分子量4000)は25%水溶液をダルベッコ改変培地(DMEM、シグマアルドリッチ製)に2、4、6、10w/w%となるように添加し、pHは7.0−8.0の範囲になるように1Nの塩酸もしくは水酸化ナトリウム水溶液で中和した。。各サンプルに、滅菌生理食塩水に浮遊させたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa PA01:)をそれぞれ混合し、最終菌濃度(理論値)が10、10、10、10CFU/ml、最終サンプル濃度が1000μg/mlになるように、シリコン処理したマイクロチューブに取った。そして、37℃で2時間反応させた後、各サンプルを最終菌濃度を10、10、CFU/mlとしたものはそのまま、10、10CFU/mlとしたものは滅菌生理食塩水でそれぞれ10倍、100倍希釈してミューラー・ヒントン寒天培地(ミューラー・ヒントン・ブロス:ベクトン・ディッキンソン製、寒天:和光純薬製)に塗抹し、更に35℃で24時間培養した後の各サンプルの菌の発育状況を調べた。
本発明の保存液は1.1×10〜2.3×10CFU/mlのMRSAに対して、ε−ポリ−L−リジン2%保存液は1.1×10〜2.8×10CFU/mlのMRSAに対して、ε−ポリ−L−リジン4%保存液は1.1×10〜1.9×10CFU/mlのMRSAに対して、100μg/mlで抗菌作用を示した。同様に、1.2×10〜6.9×10CFU/mlの緑膿菌に対しても、本発明のε−ポリ−L−リジン2、4、6、10%保存液は、100μg/mlで抗菌作用を示した。
実施例2:
マイコプラズマ(hyorhinis)の感染したKG1a(+)細胞(抗CD34抗体産生細胞)10個と10%のウシ胎児血清を含むRPMI1640培地10mlとを分取し、これにε−ポリ−L−リジンとエピガロカテキンガレート(EGCg)を添加した後、炭酸ガス培養器で3日間培養した。培地交換5回目にKG1a(+)細胞の培養後の培地について、マイコテクトキット(大日本製薬製)を用いてマイコプラズマの検査を行なった。その結果、当該培地には、hyorhinisは検出されなかった。
実施例3:
黄色ブドウ球菌の感染したS−1細胞10個と10%のウシ胎児血清を含むRPMI1640培地5mlとを分取し、これにε−ポリ−L−リジンとエピガロカテキンガレート(EGCg)を添加した後、炭酸ガス培養器で3日間培養した。培地交換3回目のNS−1細胞の培養後の培地について、ブドウ球菌の検索を行なった。その結果、当該培地からブドウ球菌の検出は出来なかった。
実施例4:
臍帯血(20mL)にポリリジンを各種濃度で添加した後、S.aureus及びB.cereusの各菌液を20cfu/mLになるように添加し4℃で保存した。添加直後、2日、5日、8日に少量の臍帯血試料をサンプリングし、適宜希釈後にトリプトソイ寒天培地のプレートに塗布し、一晩37℃にて培養し、コロニー数をカウントした。また、EGCgをポリリジンとともに添加した菌液についても同様のスパイク実験を行った。通常の100%血漿中に浮遊した臍帯血に上記いずれかの細菌を20cfu/mLで2単位血小板に添加するスパイク実験を行い、その際事前にポリリジンを各種濃度で添加後に22℃にて振盪保存し、1、2、5、8日目の生菌数を測定した。ポリリジン非添加群では、両細菌とも急速な増殖を認めた。一方、ポリリジン200μg/mL、およびポリリジン50μg/mL添加系にて、両細菌の生菌数は8日目まで0cfu/mLとなり、ポリリジンの有効性が認められた。
実施例5:ラットを用いる安全性試験
ラット(体重約300g)をエチルエーテル及びネンブタールにて麻酔した後、尾静脈よりポリリジンまたは生理食塩液を適宜投与した。投与量は、ヒト(体重50kg)にポリリジン50μg/mLを含む血小板製剤20単位(最大容量の300mL)を投与する場合の体重kg当たりのポリリジン濃度を基準として、体重kg当たりその2〜10倍量でラットにポリリジン単体を週に1〜3回静脈注射した。その後、餌摂取量、体重変化及び外観状態を調べた。その結果、餌摂取量及び体重変化においては、両群間に顕著な差異は認められず、外観状態においても特に異常は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトから採取した輸血用血液、血小板、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、あるいは人工多能性幹細胞(iPS)を分散させた保存液に、0.001−1.0重量%の濃度となるようにε−ポリ−L−リジンを添加したことを特徴とする抗菌性保存液。
【請求項2】
上記ε−ポリ−L−リジンと、緑茶ポリフェノールの一種である(−)−エピガロカテキン−3−0−ガレート(EGCg)を添加したことを特徴とする輸血用血液、臍帯血、骨髄、造血幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、あるいはそれら幹細胞から分化誘導した細胞や組織などの抗菌性保存液。

【公開番号】特開2010−124821(P2010−124821A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324697(P2008−324697)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(506224252)株式会社バイオベルデ (12)
【Fターム(参考)】