説明

抗菌性医療器具の製造方法および抗菌性医療器具

【課題】抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持できる抗菌性医療器具の製造方法、および、それによって製造された抗菌性医療器具を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る抗菌性医療器具の製造方法は、熱硬化性樹脂と銀系粒子とを混合した材料を成形させて医療器具を作製する第1ステップと、医療器具を80〜300℃で熱処理する第2ステップとを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る抗菌性医療器具は、前記する第1ステップと第2ステップによって製造された抗菌性医療器具であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性医療器具の製造方法およびその製造方法によって製造される抗菌性医療器具に関する。特に、長期にわたって抗菌効果を発揮する抗菌性医療器具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具の1つである中心静脈カテーテルにおいては、カテーテルの皮膚刺入部あるいは内腔を介して細菌が体内に進入し、細菌感染を起こすことがある。感染が重篤であると敗血症になる可能性もある。カテーテル先端付着菌と敗血症の原因菌が一致する場合を特にカテーテル関連菌血症(CR−BSI:catheter related−bloodstream infection)といい、CR−BSIによって患者が死亡することもある。
【0003】
この様な問題を回避するにあたり、CR−BSIが疑われたり、CR−BSIと診断されたりした場合には、抗生物質の投与や新しいカテーテルへの交換などが行なわれることが一般的である。しかながら、CR−BSIは留置時の合併症であるが、前記処置は本来の治療内容から逸脱するため、医療機関にとっては医療コストを増大させる要因となる。そこで、抗菌性が高いカテーテルの開発が要望されている。
【0004】
このような抗菌性カテーテルの製造方法として、特許文献1には、基材に対して所定量の銀置換無機イオン交換体等の抗菌剤を混合することによって抗菌性を有する体内挿入用チューブ(カテーテル)を製造することが記載されている。また、特許文献2にも、基材の表面に銀化合物を導入(コーティング)することによって、具体的には、基材に対してアミノ酸誘導体、陰イオン界面活性剤、カルボキシル基またはスルホン基を有する化合物等の銀イオンと結合可能な化合物を吸収せしめた後、酢酸銀等の銀化合物水溶液に浸漬することによって抗菌性を有する導尿カテーテルを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−220216号公報(請求項1〜請求項4)
【特許文献2】特開平11−290449号公報(請求項1〜請求項5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたカテーテルの製造方法においては、銀化合物(抗菌剤)の基材に対する結合力が弱く、銀化合物(抗菌剤)の粒径も大きいため、カテーテル使用の際にカテーテル内腔を流れる薬液、体液等によって、銀化合物(抗菌剤)が短期に溶出する。そのため、製造されたカテーテルの抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持できないという問題がある。また、カテーテル以外の医療器具の製造においても、抗菌性については同様な問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持できる抗菌性医療器具の製造方法およびそれによって製造される抗菌性医療器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る抗菌性医療器具の製造方法は、熱硬化性樹脂と銀系粒子とを混合した材料を成形させて医療器具を作製する第1ステップと、前記医療器具を熱処理する第2ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
前記製造方法によれば、第1ステップにより熱硬化性樹脂と銀系粒子とを混合した材料を成形した医療器具を、第2ステップで熱処理することによって、短期の銀系粒子の溶出量を抑えた抗菌性を有する医療器具(以下、「抗菌性医療器具」という)を製造することができる。
つまり、前記製造方法によれば、短期における銀系粒子の溶出量を抑えることによって、長期にわたって銀系粒子を保持することが可能となり、抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持することが可能となる。
【0010】
請求項2に係る構成は、請求項1に記載の抗菌性医療器具の製造方法であって、前記熱処理は、80〜300℃で行うことを特徴とする。
また、請求項3に係る構成は、請求項1に記載の抗菌性医療器具の製造方法であって、前記熱処理は、220〜300℃で行うことを特徴とする。
【0011】
前記製造方法により所定の温度で熱処理を行えば、短期における銀系粒子の溶出量を効果的に抑えることができるため、さらに長期にわたって抗菌性を高いレベルに維持することが可能となる。
【0012】
請求項4に係る構成は、前記熱硬化性樹脂は、銀系粒子と錯体を形成することが可能な元素を含む材料であることを特徴とする。
また、請求項5に係る構成は、前記元素は、S、N、OおよびPから選ばれる1元素以上であることを特徴とする。
【0013】
前記構成によれば、第2ステップの熱処理によって、銀系粒子が、熱硬化性樹脂、若しくは、S、N、OおよびPから選ばれる1元素と錯体を形成するため、短期の銀系粒子の溶出量をより抑えることができる。
【0014】
また、請求項6に係る抗菌性医療器具は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されることを特徴する。
【0015】
前記する製造方法により製造される抗菌性医療器具は、短期における銀系粒子の溶出量を抑えて、長期にわたって銀系粒子を保持することが可能であって、抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗菌性を長期にわたって高いレベルに維持できる抗菌性医療器具の製造方法およびそれによって製造された抗菌性医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態における製造方法によって製造された弁体の外観図を示す図面である。
【図2】実施形態における製造方法によって製造された弁体を備えたコネクタの断面を示す図面である。
【図3】実施例と比較例との銀溶出量を示すグラフである。
【図4】実施例と比較例との浸漬時間と抗菌活性値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(抗菌性医療器具の製造方法)
次に、本発明の実施形態における抗菌性医療器具の製造方法について説明する。
実施形態における抗菌性医療器具の製造方法は、銀系粒子を含んだ医療器具を作製する第1ステップと、その医療器具を熱処理する第2ステップとの二つの工程を含んでなる。
尚、本発明における抗菌性医療器具は、抗菌性が付与された医療器具であり、例えば、ニードレス コネクタ、インジェクションポート、皮下埋込ポート、逆止弁等の弁体や体内留置カテーテル、埋込カテーテル、手術用手袋、輸液バッグの栓体が挙げられる。
【0019】
(第1ステップ)
第1ステップは、熱硬化性樹脂と銀系粒子とを混合した材料を成形させることによって医療器具を作製する工程である。
【0020】
銀系粒子は、純銀粒子または銀塩粒子であることが好ましく、ナノ銀粒子または銀塩ナノ粒子であることがさらに好ましい。また、銀系粒子は、混合後の熱処理等により、純銀粒子に変化するものであればよく、例えば、純銀粒子のみならず、溶液中において、純銀以外の硝酸銀、酢酸銀、アジ化銀、過塩素酸銀またはその混合物の銀塩粒子であっても、混合後の熱処理等により、純銀粒子に変化するものであればよい。
【0021】
また、本発明におけるナノ銀粒子または銀塩ナノ粒子とは、抗菌性を有する物質であって、直径が10−9〜10−8mの銀粒子をいう。また、熱硬化性樹脂と混合させる際、ナノ銀粒子または銀塩ナノ粒子の粉末や、ナノ銀粒子または銀塩ナノ粒子を含んだコロイド溶液であってもよい。
【0022】
一方、熱硬化性樹脂は、抗菌性物質である銀系粒子の基材となることができれば特に限定されるものではないが、成形する際に、室温で硬化可能な樹脂、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、硬化型ウレタン樹脂、天然ゴムラテックス等が好ましい。
また、熱硬化性樹脂は、銀系粒子と錯体を形成することができれば、銀系粒子の流出をより抑えることが可能となるため、銀系粒子と錯体を形成することが可能な元素を含む材料であることが好ましく、元素は、S、N、OおよびPから選ばれた1元素以上であることがより好ましい。
【0023】
また、熱硬化性樹脂における銀系粒子の配合量は、例えば、ナノ銀粒子では10〜20000ppmである。ここで、ナノ銀粒子が配合される割合が少ないと、抗菌性医療器具に保持されるナノ銀粒子が少なくなってしまい、抗菌性医療器具が十分な抗菌性を有しなくなる一方で、ナノ銀粒子が配合される割合が多いと、ナノ銀粒子の基材となる熱硬化性樹脂の物性が変化しやすくなるからである。
熱硬化性樹脂とナノ銀粒子の混合は、ナノ銀粒子が基材となる熱硬化性樹脂中に均一に分配されるように行うのが好ましい。また、熱硬化性樹脂とナノ銀粒子を混合した材料の成形方法については、所望形状等に形成できれば特に限定されるものでなく、例えば、押出成形、射出成形等が挙げられる。
【0024】
尚、第1ステップにおいて、抗菌性医療器具の造影性を確保する目的で、造影剤の多層成形、若しくは、造影剤の材料への均一分散を行ってもよい。造影剤としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、タングステン等の無機化合物が用いられる。
【0025】
(第2ステップ)
第2ステップは、第1ステップにより作製された医療器具に含まれた銀系粒子の溶出を抑えるために、第1ステップで作製された医療器具を熱処理する工程である。
ここで、銀系粒子、例えば、ナノ銀粒子の溶出を抑えるための熱処理の温度条件は、80〜300℃が好ましく、さらに好ましくは、220〜300℃である。80〜300℃であれば、効果的にナノ銀粒子の溶出を抑えることができるからである。また、基材となる熱硬化性樹脂の耐熱温度が300℃以上であれば、前記熱処理の温度条件は、300℃以下に限定されるものではない。
なお、第1ステップで銀系粒子として、ナノ銀粒子以外を用いた場合、つまり、硝酸銀等の銀塩ナノ粒子が用いられた場合、この第2ステップに熱処理によって、ナノ銀粒子となる。
【0026】
また、ナノ銀粒子の溶出を抑えるための熱処理の時間条件は、熱処理の温度が80℃の場合には1〜72時間、熱処理の温度が300℃の場合には10秒〜1時間であることが好ましい。ここで、熱処理の時間が前記する時間以下であると、ナノ銀粒子の溶出を抑えることができないからである。一方、前記する時間を超えて熱処理すると、基材である熱硬化性樹脂の物性が変化するおそれがあるからである。
【0027】
(前記製造方法によって製造された抗菌性医療器具)
次に、前記する製造方法によって製造された抗菌性医療器具について説明する。
前記製造方法によって製造された抗菌性医療器具は、抗菌性医療器具に含まれた銀系粒子の溶出を抑えることができ、長期にわたって血管内に導入しても高い抗菌性を維持することが可能である。そして、このような抗菌性医療器具として、コネクタに用いられる弁体が例として挙げられ、以下、図1と図2を用いて弁体1について説明する。
なお、コネクタとは、輸液、輸血、栄養投与等に用いる液体の流路接続を必要とする医療用具においては、薬液、血液、流動食等の液体(流体)を持続的、一時的に流す際、液体の流路の接続、脱離を必要に応じて行う必要があり、このとき、回路の途中に液体の流路同士を接続するための部材である。
【0028】
図1に示す弁体1は、前記するステップ1とステップ2を経て製造されたものであって、頭部2と、頭部2の基端側に設けられた蛇腹部3とを有している。頭部2は、その形状が有底筒状をなしており、液体が通過可能な内腔部4(図2参照)と、平面状の頂面から内腔部に到達するスリット5とが形成されている。このスリット5は、その形状がほぼ一文字状をなしており、開口することが容易である。また、蛇腹部3は、蛇腹状をなした筒状体(図2参照)で構成されている。
【0029】
そして、弁体1は、図2に示すように、弁体1の蛇腹部3側を、ハウジング10内に形成された有底筒状の弁体設置部11に配置し、弁体1の頭部2側を、蓋部20の内筒内に収容するようにして、蓋部20をハウジング10に嵌合させることによって、コネクタ100が組み立てられる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の実施例について、図3と図4を用いて説明する。尚、実施例1〜4と比較例1として製造された抗菌性医療器具は、シートである。
【0031】
(実施例1〜4)
実施例1〜4におけるシートは、以下の手順で製造されたものである。
まず、ステップ1において、熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂と、ナノ銀コロイド溶液(ナノポリ株式会社製、商品名「ナノミックス」を20000ppmエタノール溶液)とを混合し、室温で硬化させて厚さ2mmのシートを作製した。ここで、シリコーン樹脂とナノ銀の混合の割合は、シリコーン樹脂:ナノ銀=100(g):0.1(g)であった。
そして、ステップ2において、ステップ1で作製したシートを80℃(実施例1)と150℃(実施例2)と220℃(実施例3)と300℃(実施例4)で0.5時間熱処理を行った。
【0032】
(比較例1)
一方で、比較例1におけるシートは、前記した実施例1〜4と同じステップ1の工程を経て作製されたシートであって、ステップ2において特に熱処理を行わずに、室温30℃で0.5時間放置したものである。
【0033】
(測定方法1)
実施例1〜4と比較例1におけるシートから、縦横幅5×5cmのサンプルを切り出して、このサンプルを黄色ブドウ球菌懸濁液中で、24時間振とう浸漬させ、銀溶出量を測定した。その測定結果を図3に示した。尚、銀の溶出量の測定は、ICP発光分析装置を用いて測定した。
【0034】
(測定方法2)
また、前記測定のほかに、実施例3と比較例1におけるシートから、全面積が5×5cmのサンプルを切り出して、このサンプルを1日、7日、14日間のそれぞれの期間、黄色ブドウ球菌懸濁液中で振とう浸漬させた。そして、それぞれのサンプルを用いて抗菌活性値の測定を行い(測定2)、その測定結果を図4に示した。尚、抗菌活性値の測定は、JIS Z 2801に定められたフィルム密着法を用いて測定を行った。なお、フィルム密着法によれば、抗菌活性値≧2の場合、抗菌効果ありと認定される。
【0035】
(測定結果1)
図3に示す測定結果によれば、未熱処理ある比較例1に比べて、熱処理温度が80℃の実施例1の方が、浸漬時間2時間当りの銀溶出量(ppm)が低いことが示されている。同様に、熱処理温度が150℃の実施例2、熱処理温度が220℃の実施例3、熱処理温度が300℃の実施例4においても、比較例1に比べて浸漬時間2時間当り銀溶出量(ppm)が低いことが示されている。従って、当該測定より、少なくとも80℃以上で熱処理することによって、銀溶出量が抑えられることが確認できた。
また、熱処理温度が220〜300℃の場合は、銀溶出量が極めて低いという優れた効果があることを確認できた。
【0036】
(測定結果2)
また、図4に示す実施例3と比較例1との抗菌活性値の経時変化によれば、未熱処理である比較例1は、浸漬時間が1日の場合、高い抗菌活性値を示したものの、浸漬時間が7日、14日の場合には、抗菌性活性値が2以下を示し、抗菌効果なしとする結果が確認できた。
一方で、220℃で熱処理された実施例3は、浸漬時間が1日と7日において、高い抗菌活性値を示した。また、14日であっても抗菌活性値が2以上を示し、抗菌効果ありという結果が確認できた。
そして、実施例3の抗菌活性値は、比較例1よりも常に高い値を示しており、熱処理を行った場合は、未熱処理の場合に比べ、長期にわたって高い抗菌活性値を示すことが確認できた。
【0037】
(まとめ)
以上の測定結果より、ナノ銀粒子を含んで作製された医療器具を、所定温度で熱処理を行うことにより、ナノ銀粒子の溶出を抑えることができ、長期にわたって高い抗菌活性値を示すことが確認できた。
【符号の説明】
【0038】
1 弁体
2 頭部
3 蛇腹部
4 内腔部
5 スリット
10 ハウジング
11 弁体設置部
20 蓋部
100 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と銀系粒子とを混合した材料を成形させて医療器具を作製する第1ステップと、
前記医療器具を熱処理する第2ステップとを含むことを特徴とする抗菌性医療器具の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理は、80〜300℃で行うことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性医療器具の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は、220〜300℃で行うことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性医療器具の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、銀系粒子と錯体を形成することが可能な元素を含む材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の抗菌性医療器具の製造方法。
【請求項5】
前記元素は、S、N、OおよびPから選ばれる1元素以上であることを特徴とする請求項4に記載の抗菌性医療器具の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されることを特徴する抗菌性医療器具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−179031(P2010−179031A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27152(P2009−27152)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】