説明

抗菌性医療用具およびその製造方法

【課題】 溶媒として有機溶剤を用いるとともに抗生物質として有機溶剤に溶解可能な塩酸ミノサイクリンを用いることにより、基材を高分子材料で構成することのできる抗菌性医療用具およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 塩酸ミノサイクリン12をメタノールに溶解して得られる塩酸ミノサイクリン溶液にポリウレタンからなる基材11を浸漬して、基材11を膨潤させて塩酸ミノサイクリン12を包含させたのちに、膨潤基材11aからメタノールを除去して膨潤基材11aの膨潤を解消させることによりカテーテル10を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質が付与された抗菌性医療用具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、手術の前後や体力の消耗がいちじるしい患者、または口からの栄養摂取ができない低栄養状態にある患者を対象として行われる中心静脈栄養や、腎不全に陥った患者が尿毒症になることを防止するために行われる人工透析等を行う際には、血管内留置カテーテルが用いられる。このカテーテルのように体内に留置される医療用具としては、表面に抗生物質などの抗菌作用を備えた抗菌剤が付与された層が形成され、体内に留置されているときに継続的に抗菌剤を徐放する抗菌性医療用具が用いられる場合もある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この抗菌性医療用具(医療用具)では、抗生物質として水溶性抗生物質が用いられている。このように抗菌性を備えた抗生物質の殆どは水溶性であり、有機溶剤には殆ど溶けないため有機溶剤を溶媒として用いることは殆ど行われていない。また、抗生剤水溶液を使用した場合には、高分子材料で構成される医療用具に抗生物質を包含させることが困難である。このため、溶媒として有機溶剤を用いることにより、基材を高分子材料で構成することのできる抗菌性医療用具が望まれていた。
【発明の概要】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものでその目的は、溶媒として有機溶剤を用いるとともに抗生物質として有機溶剤に溶解可能な塩酸ミノサイクリンを用いることにより、基材を高分子材料で構成することのできる抗菌性医療用具およびその製造方法を提供することである。
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明に係る抗菌性医療用具の構成上の特徴は、塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解して得られる塩酸ミノサイクリン溶液に高分子材料からなる基材を浸漬して基材を膨潤させ、膨潤した基材に塩酸ミノサイクリンを包含させたのちに、塩酸ミノサイクリンが包含された基材から有機溶剤を除去して膨潤した基材の膨潤を解消させることにより得られることにある。この場合、有機溶剤としては、メタノールまたはジメチルホルムアミドを用い、基材を構成する材料としては、ポリウレタン、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマを用いることが好ましい。
【0006】
このように構成した抗菌性医療用具では、基材の内部に微細な塩酸ミノサイクリンが分散された状態で含まれている。したがって、抗菌性医療用具の所定部分を体内に留置したときに抗菌性医療用具の表面に塩酸ミノサイクリンが存在することで、塩酸ミノサイクリンによる抗菌作用が生じて、感染症を軽減することができる。塩酸ミノサイクリンは、有機溶剤に溶解し、特に、メタノールやジメチルホルムアミドに対しては親和性がよく好適な状態で溶解する。また、メタノールやジメチルホルムアミドは、基材を構成する材料であるポリウレタン、塩化ビニル、ポリアミドエラストマを膨潤させるために好ましいものである。
【0007】
また、溶剤として有機溶剤を用いることにより、高分子材料からなる基材を、塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解した塩酸ミノサイクリン溶液に浸漬することにより、基材に塩酸ミノサイクリンを容易に包含させることができる。このため、高分子材料からなる基材への塩酸ミノサイクリンの付与が容易になる。さらに、塩酸ミノサイクリンは、テトラサイクリン系抗生剤であり、人体に与える副作用が比較的少ないという特性も備えている。なお、本発明に係る抗菌性医療用具としては、カテーテルやチューブなど体内に留置されたり、挿入されたりするものが挙げられる。
【0008】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法の構成上の特徴は、塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解して塩酸ミノサイクリン溶液を調製する溶液調製工程と、塩酸ミノサイクリン溶液に高分子材料からなる基材を浸漬して基材を膨潤させ、膨潤した基材に塩酸ミノサイクリンを包含させる膨潤包含工程と、塩酸ミノサイクリンが包含された基材から有機溶剤を除去して膨潤した基材の膨潤を解消させる有機溶剤除去工程とを備えたことにある。
【0009】
これによると、まず、塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解することにより良好な塩酸ミノサイクリン溶液を得ることができる。ついで、その塩酸ミノサイクリン溶液中に基材を浸漬することにより、基材が膨潤し、基材の膨潤した部分に塩酸ミノサイクリンが入り込む。基材は膨潤可能な高分子材料で構成されており、塩酸ミノサイクリン溶液中に浸漬されることにより高分子間の距離が広げられる。この膨潤は、塩酸ミノサイクリン溶液中の有機溶剤が基材へ吸収されることによって生じる。したがって、塩酸ミノサイクリンはこの有機溶剤によって広げられた基材の高分子間に入り込む。つぎに、膨潤し塩酸ミノサイクリンが入りこんだ基材から有機溶剤を除去することにより基材の膨潤が解消される。
【0010】
この膨潤が解消されることによる基材の復元によって、高分子間に入り込んだ塩酸ミノサイクリンが高分子間に閉じ込められた状態に維持される。そして、この高分子間に閉じ込められた塩酸ミノサイクリンは、微細な状態で分散し、基材に構造的、物理的に包含され、抗菌性医療用具の使用の際に、抗菌性医療用具の表面に存在することで抗菌作用を発揮する。なお、有機溶剤除去工程において行われる有機溶剤の除去としては、加熱による乾燥処理等種々の方法が可能である。
【0011】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法の他の構成上の特徴は、有機溶剤が、メタノールまたはジメチルホルムアミドであることにあり、さらに、基材が、ポリウレタン、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマで構成されていることがより好ましい。これによると、溶剤としてメタノールまたはジメチルホルムアミドからなる有機溶剤を用いることにより、塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に対して良好な状態で溶解することができる。そして、この塩酸ミノサイクリン溶液は、高分子材料からなる基材であるポリウレタン、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマを膨潤させることが可能なため、膨潤した基材中に塩酸ミノサイクリンを容易に包含させることができる。
【0012】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法のさらに他の構成上の特徴は、溶液調製工程に、塩酸ミノサイクリン溶液を超音波処理する工程が含まれることにある。これによると、均一な塩酸ミノサイクリン溶液を得ることができるとともに、抗菌性医療用具の抗菌作用を向上させることができる。すなわち、超音波処理を施すことによって塩酸ミノサイクリンと有機溶剤との分子がそれぞれ細かく分散されて均一に混合された塩酸ミノサイクリン溶液を得ることができ、塩酸ミノサイクリン溶液が均一になることにより、抗菌性医療用具の抗菌作用が向上する。
【0013】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法のさらに他の構成上の特徴は、有機溶剤除去工程が、塩酸ミノサイクリンが包含された基材を水中で超音波処理したのちに乾燥させる工程であることにある。これによると、塩酸ミノサイクリンは水に溶けにくいが、水中で超音波処理を行うことにより医療用具の表面に不均一に付着している塩酸ミノサイクリンを効果的かつ適切に除去することができる。また、乾燥させる工程で有機溶媒を除去し、基材の膨潤を解消させることができる。
【0014】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法のさらに他の構成上の特徴は、有機溶剤除去工程の後に、塩酸ミノサイクリンを含む基材をメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体とポリエーテルブロックアミドとの混合液に浸漬した後に、乾燥させ、アルカリ処理を施す潤滑性付与工程が含まれることにある。この潤滑性付与工程を行うことにより、抗菌性医療用具に潤滑性を加えることができ、これによって抗菌性医療用具を患者の体内に留置する際の挿入性が向上して、粘膜を損傷したり炎症を引き起こしたりすることを防止することができ、患者の苦痛を軽減することができる。なお、抗菌性医療用具における潤滑性付与工程を行う部分は先端部やその他必要な部分だけでもよい。
【0015】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法のさらに他の構成上の特徴は、最終工程として、塩酸ミノサイクリンを含む基材をエチレンオキサイドガスで滅菌する滅菌工程が含まれることにある。抗菌性医療用具をエチレンオキサイドガスで滅菌することによって、塩酸ミノサイクリンが変性することは生じ難い。さらに、この滅菌処理を選択することによって、抗菌性医療用具の滅菌処理による抗菌性の劣化が起こりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】基材に塩酸ミノサイクリンを含ませる状態を示しており、(a)は基材の正面図、(b)は膨潤した基材に塩酸ミノサイクリンを包含させた状態を示した正面図、(c)は、基材からメタノールを除去して塩酸ミノサイクリンだけを含ませた状態を示した正面図である。
【図2】抗菌効果のある検体の実験結果を示した説明図である。
【図3】抗菌効果のない検体の実験結果を示した説明図である。
【図4】各検体におけるリンス期間と阻止円の直径との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る抗菌性医療用具およびその製造方法を図1を用いて説明する。図1(c)は本発明の一実施形態に係る抗菌性医療用具としてのカテーテル10の正面(端面で断面も同じ形状)を示している。このカテーテル10は、ポリウレタンからなる長尺円筒状の基材11の内部全体に微細な塩酸ミノサイクリン12を分散させた状態で含ませて構成されている。このカテーテル10は、経皮的に体内に導入されて所定期間体内に留置されるもので、このカテーテル10を介して体外から体内に栄養剤、血液、薬液等が供給される。したがって、このカテーテル10は、体外と体内とをつないでおり細菌感染防止の観点から少なくとも表面に抗菌性が付与される必要性が大きい。
【0018】
このカテーテル10を製造する際には、まず、ポリウレタンを材料として成形することにより、正面形状(端面形状で断面形状も同じ形状)が図1(a)のようになった長尺円筒状の基材11を形成し必要なアセンブリをした後に、溶液調製工程を行う。この溶液調製工程では、塩酸ミノサイクリン12を本発明に係る有機溶剤としてのメタノールに溶解することにより塩酸ミノサイクリン溶液を調製する。その際に、超音波処理装置(図示せず)によって塩酸ミノサイクリン溶液に超音波処理を施す超音波処理工程を行う。これによって、塩酸ミノサイクリン溶液を構成する塩酸ミノサイクリン12とメタノールとは、微細に分散された状態で混合され、均一な塩酸ミノサイクリン溶液になるとともに、その分子が分散することにより処理される基材11の抗菌作用が向上する。
【0019】
ついで、膨潤包含工程を行う。膨潤包含工程では、塩酸ミノサイクリン溶液中に基材11を所定時間浸漬することにより、基材11を膨潤させて、図1(b)に示したように膨潤基材11aにするとともに、膨潤基材11aの膨潤した部分に塩酸ミノサイクリン12を包含させて、膨潤カテーテル10aを得る処理が行われる。基材11を構成するポリウレタンは膨潤可能な高分子材料であり、塩酸ミノサイクリン溶液中に浸漬されることにより高分子間の距離が広げられる。したがって、塩酸ミノサイクリン12はこの広げられた高分子間に入り込んで、図1(b)の状態になる。
【0020】
つぎに、膨潤カテーテル10aを塩酸ミノサイクリン溶液から引き上げた後に、水中で超音波処理したのちに乾燥させる乾燥工程を行う。この水中での超音波処理によって、膨潤基材11aの表面に不均一に付着している水に溶けにくい塩酸ミノサイクリン12を効果的かつ適切に除去することができる。また、乾燥させる工程でメタノールを除去し、膨潤基材11aの膨潤を解消させることができる。これによって、図1(c)に示したカテーテル10が得られる。この膨潤の解消により膨潤基材11aは元の基材11の状態(図1(a)の状態)に戻ろうとする。この膨潤基材11aの復元によって、高分子間に入り込んだ塩酸ミノサイクリン12が高分子間に閉じ込められた状態に維持される。そして、この高分子間に閉じ込められた塩酸ミノサイクリン12は、基材11に構造的、物理的に包含される。
【0021】
ついで、潤滑性付与工程が行われる。この潤滑性付与工程では、カテーテル10の先端部分をメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体とポリエーテルブロックアミドとの混合液に浸漬した後に、乾燥させ、アルカリ溶液に浸漬する処理が行われる。この潤滑性付与工程を行うことにより、カテーテル10の先端部に潤滑性が発現して、カテーテル10を患者の体内に留置する際の挿入性が向上し、患者の苦痛を軽減することができる。なお、この潤滑性付与のための処理は、潤滑性を大きくすることが好ましいカテーテル10の先端部分だけに施してもよいが、カテーテル10の全体に施してもよい。
【0022】
つぎに、滅菌工程が行われる。ここでは、カテーテル10を包装しその状態のカテーテル10を所定の装置内に配置してその装置内にエチレンオキサイドガスを送り込むことにより行われる。これによって、カテーテル10が滅菌される。また、エチレンオキサイドガス滅菌を選択することによって、塩酸ミノサイクリン12が変性し難くなり、カテーテル10の抗菌性の劣化が起こり難くなる。このようにして得られるカテーテル10の抗菌効果およびその耐久性について、以下に実施例を用いて説明する。
【0023】
[実施例]
この実施例では、カテーテル10の製造を前述した実施形態とは若干異なる方法で行った。ここでは、まず、直径が14G(外径約2.1mm)で、全長が20cmのポリウレタン(商品名:Tecoflex、Noveon社製)からなるチューブ状の基材11を用意した。ついで、メタノール中に、塩酸ミノサイクリン(Archimica社製)を3.7重量%含む塩酸ミノサイクリン溶液を用意した。その際に、超音波処理装置によって塩酸ミノサイクリン溶液に超音波処理を行った。これによって、塩酸ミノサイクリン溶液を構成する塩酸ミノサイクリン12とメタノールとは、微細に分散された状態で混合され、均一な塩酸ミノサイクリン溶液になる。
【0024】
つぎに、基材11を塩酸ミノサイクリン溶液中に室温で1時間浸漬し、基材11を膨潤させるとともに、基材11の膨潤した部分に塩酸ミノサイクリン12を包含させた。そして、膨潤するとともに塩酸ミノサイクリン12が包含された膨潤カテーテル10aを塩酸ミノサイクリン溶液から引き上げた後に、60℃の雰囲気中で3時間加熱してメタノールを揮発させて膨潤カテーテル10aを乾燥することにより、膨潤基材11aの膨潤を解消させて塩酸ミノサイクリン12を含むカテーテル10を得た。
【0025】
そして、得られたカテーテル10に対して下記のような抗菌性試験を行った。この抗菌性試験においては、まず、実施例に係るカテーテル10から検体Aを作成した。この検体Aとしては、前述した処理によって得られた複数のカテーテル10から切り出した長さが1cmの10個のものを用いた。また、比較品として、抗菌性を備えたカテーテルからなる2種類の市販品を用意し、この2種類の市販品についても長さが1cmの検体B,Cをそれぞれ14個作成した。検体Bに付与された抗菌剤は、塩酸ミノサイクリンとリファンピンであり、検体Cに付与された抗生物質は、クロルヘキシジンとスルファジアジン銀である。
【0026】
ついで、50:50の比率の牛血清と生理食塩水とからなる溶液を準備した。そして、複数の三角フラスコ内にそれぞれ試験に必要な個数の検体A,B,Cのうちの2個ずつの検体A,B,Cと溶液とを入れて、各三角フラスコ内の検体A,B,Cと溶液とを振とう器で振とうした。この際、各三角フラスコ内は37℃の恒温状態に維持した。この振とうは振とう器における三角フラスコを収容する部分を1分間に100回左右に往復移動させることにより行い、最大28日間行った。すなわち、所定日数が経過するごとに、各三角フラスコを振とう器から取り出し、最後の三角フラスコに収容された検体A,B,Cと溶液とについては28日間振とうを行った。また、各三角フラスコ内の溶液については土日を除いて毎日交換することにより各検体A,B,Cをリンス処理した。
【0027】
つぎに、被験菌をSCD(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)寒天培地上で、37℃の温度で24時間培養した。そして、培養した被験菌を滅菌した生理食塩水で約107CFU/ml相当に懸濁して菌体の懸濁液とした。ついで、阻止円形成用の培地としてのSCD寒天培地を三角フラスコ中で蒸気滅菌したのちに、湯浴中で50℃まで冷却した。冷却後、1/10容の菌体懸濁液をSCD寒天培地に入れて、被験菌の菌株を含有した寒天培地を作成した。つぎに、直径が8cmの複数の滅菌済みシャーレ14(図2,3参照)にそれぞれ指標菌株含有寒天培地を入れ、各シャーレ14内でこの指標菌株含有寒天培地を固化した。
【0028】
指標菌株含有寒天培地を固化した後に、指標菌株含有寒天培地の中央に、検体A,B,Cの外径と同程度の穴をそれぞれ形成し、各穴に検体A,B,Cを立てた状態で挿入した。そして、さらに、その上に、指標菌株含有寒天培地を入れて固化した。このようにして、種類が異なるとともにリンス処理の日数が異なるそれぞれの検体A,B,Cをそれぞれはめ込んだ指標菌株含有寒天培地を作製し、温度37℃で24時間培養した。培養後、各シャーレ14の写真を記録用に撮るとともに、検体A,B,Cにより形成される阻止円15(図2参照)の実物の大きさを比較した。図2の中央に表れている円形部分が阻止円15であり、図2は抗菌効果があるものの結果を示している。また、図3には、阻止円は表れてなく、図3は抗菌効果が殆どないものの結果を示している。なお、図2は検体Aの一例を示し、図3は検体Cの一例を示している。
【0029】
このようにして、得られた各検体A,B,Cにおけるリンス処理の日数と阻止円の直径との関係を図4に示した。図4では、横軸がリンス処理の日数を示し、縦軸が阻止円の直径(mm)を示している。図4に示した試験結果から分かるように、実施例に係る検体Aにおいては、リンス処理の日数が0日のものでは、阻止円の直径は50mmに近い大きさになり、リンス処理の日数が7日のものでは、阻止円の直径は20mm程度まで小さくなった。そして、リンス処理の日数が7日〜28日の間のものでは、阻止円の直径は20mm程度に維持された。
【0030】
また、検体Bにおいては、リンス処理の日数が0日のものでは、阻止円の直径は45mm程度になり、その後、リンス処理の日数が増加したものほど阻止円の直径は徐々に小さくなった。そして、リンス処理の日数が28日のものでは、阻止円の直径は26mmか27mm程度になった。また、検体Cにおいては、リンス処理の日数が0日のものでは、阻止円の直径は30mm程度となり、リンス処理の日数が5日のものでは、阻止円の直径は10mm程度まで小さくなった。そして、リンス処理の日数が5日〜28日のものでは、阻止円の直径は徐々に小さくなっていき、リンス期間が28日のものでは、阻止円は形成されなかった。
【0031】
この結果から、検体Aでは、リンス処理の日数が7日程度のものでは、0日のものと比較して、抗菌効果が多少低下していくが、リンス処理の日数が7日以上のものでは、リンス処理の日数に関わらず適切な程度の抗菌効果を維持できることがわかる。また、検体Bでは、リンス処理の日数に関わらずある程度大きな抗菌効果が期待できるが、リンス処理の日数にしたがって抗菌効果が徐々に低下していくことがわかる。さらに、検体Cでは、リンス処理の長短に関わらずあまり大きな抗菌効果は期待できず、抗菌効果を発揮できる期間も短期間であることが推察される。
【0032】
以上の結果から、実施例によるカテーテル10は、比較例の検体Cに係るカテーテルよりも抗菌性に優れ、リンス処理の日数が少ない場合には、比較例の検体Bに係るカテーテルよりも多少抗菌性が劣るがリンス処理の日数が多くなっていくと、比較例の検体Bに係るカテーテルと同程度の抗菌効果を発揮できるといえる。すなわち、実施例によるカテーテル10は、抗生物質として、塩酸ミノサイクリンとリファンピンとを用いたカテーテルに近い抗菌効果を備えており、本実施例によって、長期間にわたって適切な抗菌効果を発揮できるカテーテル10が得られる。なお、阻止円の直径が大きいほど優れた抗菌性を有するというものでもなく、阻止円の直径が大きすぎると、その分、体に対する副作用のリスクも高くなる。この点からも、実施例によるカテーテル10は、優れたものといえる。
【0033】
なお、本発明は、前述した実施形態に限らず変更実施が可能である。例えば、有機溶剤としては、メタノールの他、ジメチルホルムアミドを用いることができ、基材11を構成する材料としては、ポリウレタンの他、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマを用いることができる。これによっても良好な抗菌性医療用具を得ることができる。また、塩酸ミノサイクリン溶液を超音波処理する工程、潤滑性付与工程および滅菌工程は、必要に応じて行えばよく、場合によっては省略してもよい。さらに、有機溶剤除去工程としては、前述した膨潤基材11aを水中で超音波処理したのちに乾燥させる工程以外の方法で行ってもよい。また、カテーテル10における膨潤させる部分は、カテーテル10の一部であっても全部であってもよい。さらに、抗菌性医療用具としては、カテーテルに限らず、体内に留置して使用されるものであればその他の医療用具であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…カテーテル、10a…膨潤カテーテル、11…基材、11a…膨潤基材、12…塩酸ミノサイクリン。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開2008−86604号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解して得られる塩酸ミノサイクリン溶液に高分子材料からなる基材を浸漬して前記基材を膨潤させ、膨潤した基材に前記塩酸ミノサイクリンを包含させたのちに、前記塩酸ミノサイクリンが包含された基材から前記有機溶剤を除去して前記膨潤した基材の膨潤を解消させることにより得られることを特徴とする抗菌性医療用具。
【請求項2】
前記有機溶剤が、メタノールまたはジメチルホルムアミドである請求項1に記載の抗菌性医療用具。
【請求項3】
前記基材が、ポリウレタン、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマで構成されている請求項2に記載の抗菌性医療用具。
【請求項4】
塩酸ミノサイクリンを有機溶剤に溶解して塩酸ミノサイクリン溶液を調製する溶液調製工程と、
前記塩酸ミノサイクリン溶液に高分子材料からなる基材を浸漬して前記基材を膨潤させ、膨潤した基材に前記塩酸ミノサイクリンを包含させる膨潤包含工程と、
前記塩酸ミノサイクリンが包含された基材から前記有機溶剤を除去して前記膨潤した基材の膨潤を解消させる有機溶剤除去工程と
を備えたことを特徴とする抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤が、メタノールまたはジメチルホルムアミドである請求項4に記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項6】
前記基材が、ポリウレタン、塩化ビニルまたはポリアミドエラストマで構成されている請求項5に記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項7】
前記溶液調製工程に、前記塩酸ミノサイクリン溶液を超音波処理する工程が含まれる請求項4ないし6のうちのいずれか一つに記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶剤除去工程が、前記塩酸ミノサイクリンが包含された基材を水中で超音波処理したのちに乾燥させる工程である請求項4ないし7のうちのいずれか一つに記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶剤除去工程の後に、前記塩酸ミノサイクリンを含む基材をメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体とポリエーテルブロックアミドとの混合液に浸漬した後に、乾燥させ、アルカリ処理を施す潤滑性付与工程が含まれる請求項4ないし8のうちのいずれか一つに記載の抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項10】
最終工程として、前記塩酸ミノサイクリンを含む基材をエチレンオキサイドガスで滅菌する滅菌工程が含まれる請求項4ないし9のうちのいずれか一つに記載の抗菌性医療用具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−187910(P2010−187910A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35338(P2009−35338)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】