説明

抗菌性医療用具の製造方法

【課題】 抗菌性医療用具の使用時および製造時における安全性に優れ、かつ、製造や設備のコストが削減される抗菌性医療用具の製造方法を提供すること。
【解決手段】 抗菌性医療用具の製造方法では、抗菌剤であるリファンピンを水に溶解したリファンピン水溶液を用いた。ポリウレタンからなる医療用具の基材をリファンピン水溶液に浸漬した後、大気圧を超える圧力条件で基材を煮沸し、基材にリファンピン水溶液を包含させた。そして、基材を乾燥してリファンピン水溶液を包含した基材から水を除去して、リファンピンを包含する抗菌性医療用具を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤を包含する抗菌性医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、手術の前後や体力の消耗がいちじるしい患者、または口からの栄養摂取ができない低栄養状態にある患者を対象として行われる中心静脈栄養や、腎不全に陥った患者が尿毒症になることを防止するために行われる人工透析等を行う際には、血管内留置カテーテルが用いられる。この血管内留置カテーテルのように体内に留置される医療用具には、感染症を軽減する目的でカテーテル表面に有する抗菌効果が有用視されている。
【0003】
この抗菌効果を付与させる薬剤としては抗生物質などの抗菌剤が良く用いられる。抗菌剤を包含させたりコーティングや塗布をしたりした医療用具を体内に留置することで抗菌剤が徐放し抗菌効果を発揮する。これらの抗生物質などの抗菌剤は一般に水溶性であり、有機溶剤に溶解しにくいものが多い。
【0004】
血管内留置カテーテルのような医療用具の基材としては、生体適合性、成形加工性、安全性、耐久性、製造コスト等の面で有利なポリウレタンが良く用いられる。ポリウレタンは室温大気圧の条件下では水をほとんど吸収せず、ポリウレタンの基材からなる医療用具に抗菌剤を溶解した水溶液を室温大気圧下で塗布したり包含させたりしようとしても、ポリウレタンの基材の表面が水溶液を撥水してしまい抗菌剤を塗布したり包含させたりすることができなかった。
【0005】
そこで、抗菌剤をポリウレタンからなる医療用具に注入するために、抗菌剤として有機溶剤に溶解するものを選択し、その抗菌剤を有機溶剤に溶解して生成した抗菌剤溶液を用いてポリウレタンからなる医療用具に抗菌剤を注入する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では抗菌剤として有機溶剤に溶解するリファンピンを用い、これをアルコールからなる有機溶剤に溶解してカテーテルからなる医療用具に注入させてリファンピンを塗布し、医療用具に抗菌性を付与させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4630238号公報
【0007】
しかしながら、抗菌剤のアルコール溶液を用いて抗菌剤を注入する方法では、選択するアルコールによって患者の体内に入った場合、体内に異常を来すおそれがあるものも含まれる。このため、医療用具の患者への安全性を担保するためには医療用具の製造時にアルコールを医療用具から完全に除去するための追加処置が必要となっていた。また、仮に医療用具に溶媒が残留したとしても、体に異常を来さないものが望まれていた。さらに、有機溶剤であるアルコールを用いるため医療用具に抗菌剤溶液を注入して製造する際、製造者の安全性を確保する必要があった。このために製造現場では安全設備の追加の設備投資をしたり製造者が追加の防護具を装着して作業をしたりしなくてはならず、多額のコストを要したり作業者に過度の負担が科せられたりしていた。よって、ポリウレタンからなる医療用具の基材に対して抗菌剤を含有させるにあたり、抗菌剤を溶かす溶媒として安全性が高いもの選択して製造することで上記の課題を解決する抗菌性医療用具の製造方法が望まれていた。
【発明の概要】
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、抗菌性医療用具の使用時および製造時における安全性に優れ、かつ、製造や設備のコストが削減される抗菌性医療用具の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法の構成上の特徴は、リファンピンをポリウレタンからなる医療用具の基材に包含させる抗菌性医療用具の製造方法であって、リファンピンを水に溶解して得られるリファンピン水溶液に基材を浸漬させる工程と、大気圧を超える圧力条件で基材が浸漬されたリファンピン水溶液を煮沸させ基材にリファンピン水溶液を包含させる工程と、リファンピン水溶液が包含された基材を乾燥して水を除去する工程とを備えたことにある。
【0010】
また、本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法の他の構成上の特徴は、大気圧を超える圧力条件が、大気圧に80kPaから100kPaまでの圧力を加えた範囲内の圧力条件であることにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る抗菌性医療用具の製造方法によれば、抗菌剤であるリファンピンを溶解する溶剤として水を用いているため、仮に医療用具内に溶剤が残存したとしても患者等の体内に入った場合であっても、溶剤を起因とした異常を来しにくく、安全性の高い医療用具を製造することができようになる。また、製造時に有機溶剤を使用することがないため、有機溶剤を医療用具から完全に除去するために追加処置を省略できるようになるとともに、有機溶剤から製造者の安全性を確保するための設備が不要となる。これによって、製造や設備のコストが削減できるとともに医療用具の製造者の防護具装着等の負担を減らし作業性を高めることができるようになる。
【0012】
特に、大気圧に80kPaから100kPaまでの圧力を加えた範囲内の圧力になるようにして加熱沸騰させ前記基材に前記リファンピン水溶液を包含させた抗菌性医療用具の製造方法の場合、製造された抗菌性医療用具は優れた抗菌性を示すとともに抗菌耐久性を発揮するようになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるリファンピンをポリウレタンからなる医療用具の基材に包含させる抗菌性医療用具の製造方法は、リファンピンを水に溶解して得られるリファンピン水溶液に基材を浸漬させる工程と、大気圧を超える圧力条件で基材が浸漬されたリファンピン水溶液を煮沸させ基材にリファンピン水溶液を包含させる工程と、リファンピン水溶液が包含された基材を乾燥して水を除去する工程とを備えている。
【0014】
リファンピンは、リファンピシンとも呼ばれる抗生物質の一つであり、優れた抗菌性能を有する。リファンピンは、グラム陽性菌、グラム陰性菌、マイコバクテリウム種に対して活性な抗菌剤である。経口的に体内に取り込んで用いられるのみならず、リファンピンを適用した医療用具を経皮的に導入した際に抗菌性を発揮させる方法でも用いられている。リファンピンは赤みのかかった結晶粉末であり、メタノール等のアルコールに溶解し、かつ、アルコールへの溶解性に対しては劣るものの水に溶解する。
【0015】
ポリウレタンは、イソシアネート基と水酸基を有する化合物が縮合してできるウレタン結合でモノマーを共重合させた高分子化合物であり、成形加工性、接着性や耐久性に加え、生体適合性にも優れているため医療用具に広く使用されている。ポリウレタンからなる医療用具としては、カテーテル、イントロデューサーシース、ダイレーター、医療用チューブ、ガイドワイヤー、ドレッシングなどがあげられるが、これらに限定されない。抗菌性を必要とする医療用具への適用であればいずれでも構わない。
【0016】
リファンピンをポリウレタンからなる医療用具の基材に包含させる抗菌性医療用具の製造方法は次のとおりである。まず、リファンピンの粉末を蒸留水に溶解してリファンピン水溶液を調製する。リファンピン水溶液の調製は常温大気圧下にて行い、リファンピンの粉末を水に良く溶解させるためにスターラー等を用いて良く撹拌して溶解させる。リファンピン水溶液の濃度は0.01〜0.1重量%になるように調製することが好ましい。
【0017】
次に、リファンピン水溶液を密封耐圧容器に注ぐ。この際、リファンピン水溶液はポリウレタンからなる医療用具の基材(以下、「ポリウレタンからなる医療用具の基材」を単に「基材」とのみ言うことがある)をすべて浸漬できる容量が必要となる。そして、基材をリファンピン水溶液に浸漬させる。この際、基材が浮揚する場合には、浮揚しないように例えば基材が変形しない程度の錘を基材に乗せておくとよい。
【0018】
ついで、基材が浸漬したリファンピン水溶液を密封耐圧容器内で密封した後、密封耐圧容器を加熱する。この際、密封耐圧容器は密封されているためリファンピン水溶液が加熱されると気化した蒸気が密封耐圧容器内に閉じ込められた状態で増加していく。これにより密封耐圧容器内の圧力が大気圧(101kPa)より高い圧力へ上昇していく。そしてリファンピン水溶液が沸騰するまで加熱を続ける。なお、密封耐圧容器内が大気圧を超える圧力条件になるに従い、水の沸点も上昇していくため、リファンピン水溶液は密封耐圧容器内で100℃を超える温度にて沸騰する。
【0019】
密封耐圧容器は、大気圧を超える圧力が内部にかかっても気体や液体が逃げないように密封されかつ破損しない容器であればいずれでも良い。例えば、圧力鍋、圧力釜、高圧蒸気滅菌器のようなものがあげられる。また、密封耐圧容器内は容器内の圧力調整ができるような機構を備えたものが好ましく、例えば、圧力調整バルブなどを備えたものが良い。
【0020】
そして圧力調整機構にて設定した所定の大気圧を超える圧力条件でリファンピン水溶液が沸騰するようになるまで加熱する。そして沸騰後、基材を沸騰したリファンピン水溶液中で所定時間煮沸処理する。基材をリファンピン水溶液中で煮沸させる時間は沸騰後少なくとも10秒以上とすることが好ましい。ただし、過剰に基材を煮沸すると、基材のポリウレタンの劣化が生じるときがあるため、煮沸時間は60分以下としておくと良い。
【0021】
また、大気圧を超える圧力としては、大気圧(101kPa)に80〜100kPaの圧力を加えた圧力条件とすることが好ましい。これは,大気圧に80kPaに達しない圧力を加えた圧力条件で処理すると、基材が抗菌性は有するようになるものの基材の抗菌性の持続力の点においては若干劣ることになり、抗菌耐久性が小さくなるためである。
【0022】
また、大気圧に100kPaを超える圧力を加えた圧力条件で処理すると、圧力が高くなるとともにリファンピン水溶液の沸点が上昇し、過度に高い温度で基材を煮沸することになる。そうすると基材の軟化が生じることもあり、この条件では成形した基材の性能や形状を保つことができなくなるときもある。よって、この条件が最適でない場合もある。なお、大気圧(101kPa)に80〜100kPaの圧力を加えた圧力条件ではリファンピン水溶液の沸点はその圧力に応じ117℃〜120℃程度となる。
【0023】
大気圧を超える圧力条件では、基材がリファンピン水溶液中で煮沸されることで基材のポリウレタン分子の運動性が高まり、ポリウレタンの高分子鎖間内にリファンピン水溶液が入りこんでいく。基材は、室温大気圧下では水を取り込むことはほとんどなく基材表面において撥水していたが、大気圧を超える圧力下で煮沸されることにより水を取り込むことができるようにその性質が変化する。これにより基材の内部にはリファンピン水溶液が取り込まれて包含される。
【0024】
そして、基材をリファンピン水溶液中で所定時間煮沸後、加熱を止め圧力調整機構を用いて加圧した圧力を解放し、圧力を大気圧に戻す。さらにリファンピン水溶液中に浸漬している基材をリファンピン水溶液から取り出して、室温にて放置する。室温での基材の放置はポリウレタン分子の運動性を低下させるものでリファンピンをポリウレタン内に固定するために行うものであり、放置する時間としては10〜2時間程度で良い。これによって基材はリファンピン水溶液から取り出した状態においてもリファンピン水溶液を包含した状態となる。
【0025】
さらに、室温で放置した後のリファンピン水溶液を包含した基材を乾燥して、水を除去する。この場合、医療用具の基材を真空乾燥機にて室温下で減圧乾燥させて完全に水を除去することが好ましい。いずれの乾燥方法においても乾燥時間としては30分〜3時間程度で良い。これにより基材に包含されていたリファンピン水溶液の水のみが除去され、医療用具の基材の中には残されたリファンピンのみが閉じ込められた状態で包含されていることになる。
【0026】
これらの工程によって、基材にリファンピンが包含された抗菌性医療用具が製造される。これによって製造された抗菌性医療用具は、優れた抗菌性を発現するとともに、抗菌耐久性を有する。
【0027】
これらの工程による抗菌性医療用具の製造方法によれば、抗菌剤であるリファンピンを溶解する溶剤として有機溶剤を用いず、水を用いている。このため、仮に医療用具内に溶剤が残存したとしても患者等の体内に入った場合であっても、有機溶剤を使用した場合と異なり、溶剤を起因とした異常を来しにくく、患者等にとって安全性の高い医療用具を製造することができるようになる。
【0028】
また、抗菌性医療用具の製造時に有機溶剤を使用することがないため、有機溶剤を医療用具から完全に除去するために追加処置が省略できるようになるとともに、水を使用しているため有機溶剤から製造者の安全性を確保するための設備が不要となる。これによって製造や設備のコストが削減できるとともに医療用具の製造者における防護具装着等の負担を減らし作業性を高めることができるようになる。
【0029】
本発明における抗菌性医療用具の製造方法に、他の工程が含まれるものであってもよい。また、ポリウレタンからなる医療用具の基材にリファンピンの他の抗菌剤や他の物質が含まれても構わない。また、製造工程においてリファンピン水溶液に他の物質が含まれていても良い。本発明の特徴事項は、実施の形態で説明した内容に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で適宜変更が可能である。
【実施例】
【0030】
本発明を適用した抗菌性医療用具の製造方法およびこれに基づき製造された抗菌性医療用具の抗菌性について、以下に実施例を用いて説明する。
(実施例1)
この実施例では、ポリウレタンからなる医療用具の基材として押出成形にて製造したカテーテルを用いた。また、抗菌性試験をするために実際のカテーテルの臨床での使用の状態とは異なる形態の検体にて試験を行った。まず、室温大気圧下でリファンピン(CKD Bio社製)の粉末を蒸留水に溶かしてその濃度が0.05重量%となるようにリファンピン水溶液を調製した。この際、リファンピンが蒸留水中で良く溶解するようにスターラー装置を使用して水溶液を撹拌した。
【0031】
次に外径13.5Fr(外径約4.5mm)、肉厚0.4mmでほぼ同じ大きさの内腔からなるダブルルーメンを有する、ポリウレタン(商品名:Tecoflex、Noveon社製)からなるカテーテルの基材を全長が1cmになるように切断して検体とした。検体は後述する各試験用にそれぞれ2検体ずつ用意した。そして、密封耐圧容器である圧力鍋を準備し、これに調製した0.05重量%リファンピン水溶液300mLを注ぐとともに、各検体をリファンピン水溶液に浸漬させた。この際、各検体は特に手を加えなくても完全に水溶液中に浸漬した。
【0032】
そして、圧力鍋を密封状態に封鎖した後、各検体が浸漬されたリファンピン水溶液が沸騰するまで加熱した。リファンピン水溶液を加熱することでリファンピン水溶液の水の蒸発が始まり、次第に圧力鍋の圧力が大気圧より高い圧力になっていった。圧力は圧力鍋に設置されている圧力調整弁および圧力計を使用して圧力鍋内を大気圧(101kPa)に80kPaの圧力を加えた圧力条件である181kPaの圧力になるように調整した。圧力鍋内の圧力が181kPaになった際、リファンピン水溶液の温度は117℃であった。
【0033】
さらにリファンピン水溶液が沸騰後も加熱を続け、リファンピン水溶液に浸漬された各検体を2分間煮沸した。そして、加熱を止め圧力調整弁を開放して圧力を大気圧に戻した後、各検体をリファンピン水溶液から取り出して、60分間、室温にて放置した。その後、各検体を真空乾燥器(ヤマト科学社製)に入れてほぼ真空に近い圧力に減圧して1時間減圧乾燥をし、各検体より水を除去した。
【0034】
最後に、検体自体に残っている細菌を除去するために、各検体をエチレンオキサイド滅菌して、細菌が付着していない各検体を製造した。なお、本実施例においては溶媒に有機溶剤を用いておらず水のみを使用しているため、検体は安全性が高いものとなった。また、溶媒として水を用いているため、検体に各検体の製造の際、製造者は有機溶剤にて処理する際に使用するような特別の設備や防護具を使用することはなかった。
【0035】
(実施例2)
実施例2では煮沸時に圧力鍋内を大気圧(101kPa)に100kPaの圧力を加えた圧力条件である201kPaの圧力になるように調整させた以外は上記実施例1と同様にして各検体を製造した。なお、201kPaの圧力下での煮沸時のリファンピン水溶液の温度は120℃であった。
【0036】
(実施例3)
実施例3では煮沸時に圧力鍋内を大気圧(101kPa)に50kPaの圧力を加えた圧力条件である151kPaの圧力になるように調整させた以外は上記実施例1と同様にして各検体を製造した。なお、151kPaの圧力下での煮沸時のリファンピン水溶液の温度は111℃であった。
【0037】
(実施例4)
実施例4では煮沸時に圧力鍋内を大気圧(101kPa)に130kPaの圧力を加えた圧力条件である231kPaの圧力になるように調整させた以外は上記実施例1と同様にして各検体を製造した。なお、231kPaの圧力下での煮沸時のリファンピン水溶液の温度は125℃であった。
【0038】
(比較例1)
比較例1では各実施例の加圧条件下での基材の煮沸に変え、大気圧条件下で基材を煮沸した。実施例1では圧力鍋内を密封状態にして加熱したが比較例1では圧力鍋を開放した状態で加熱し、大気圧下(101kPa)にて各検体が浸漬されたリファンピン水溶液が沸騰するまで加熱した。それ以外は上記実施例1と同様にして各検体を製造した。なお、大気圧下での煮沸時のリファンピン水溶液の温度は100℃であった。
【0039】
(比較例2)
比較例2ではリファンピン水溶液を基材に対して処理しない検体を用いた。実施例1と同様に製造した各検体をそのままエチレンオキサイドガス滅菌をして細菌が付着していない各検体を製造した。つまり、比較例2では各検体をリファンピン水溶液に浸漬せず、また、加圧加熱処理を施さずに製造した。
【0040】
(抗菌性評価試験)
抗菌性評価試験では実施例1〜4および比較例1、2の各検体に対して抗菌効果を評価するために以下のような抗菌性評価試験を行った。試験では各実施例および比較例につき2検体ずつ測定した。
【0041】
抗菌性評価試験は、指標菌として黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を用い指標菌株含有寒天培地に各検体を設置して培養し、その阻止円の大きさにて抗菌性を評価する手法をとった。阻止円は指標菌株の培養が阻害される領域を示すものであり、リファンピンが基材より徐放していくリファンピンの抗菌効果により得られる。阻止円の大きさが大きいほど抗菌効果が高いといえる。
【0042】
まず、黄色ブドウ球菌をSCD寒天培地(ソイビーンカゼイン寒天培地)上で、37℃の温度で24時間培養した。そして、培養した指標菌を滅菌した生理食塩水で約107CFU/ml相当に懸濁して菌体の懸濁液とした。ついで、阻止円形成用の培地としてのSCD寒天培地を三角フラスコ中で蒸気滅菌したのちに、湯浴中で50℃まで冷却した。
【0043】
冷却後、1/10容の菌体懸濁液をSCD寒天培地に入れて、指標菌の菌株を含有した寒天培地を作成した。つぎに、直径が8cmの複数の滅菌済みシャーレにそれぞれ指標菌株含有寒天培地を入れ、各シャーレ内でこの指標菌株含有寒天培地を固化した。
【0044】
指標菌株含有寒天培地を固化した後に、指標菌株含有寒天培地の中央に、各検体の外径と同程度の穴をシャーレにつき1つ形成し、指標菌株含有寒天培地の穴1つにつき検体を1つずつ立てた状態で挿入した。そして、さらにその上に指標菌株含有寒天培地を入れて固化した。このようにして、処理方法が異なる各検体をそれぞれはめ込んだ指標菌株含有寒天培地を作製し、温度37℃で24時間培養した。
【0045】
培養後、各検体周囲に形成される阻止円の実物の大きさを比較した。各シャーレの裏側より定規を当てて各阻止円の直径を測定した。各実施例および比較例において2検体ずつ測定した阻止円の大きさの平均値をとり、その平均値を各実施例および比較例の阻止円の大きさとした。その結果を表1に示した。
【0046】
阻止円の大きさは実施例1では39.3mm、実施例2では36.8mm、実施例3では39.5mm、実施例4では36.8mmとなり、いずれにおいてもリファンピンが基材より徐放していき、その抗菌作用で大きな阻止円が得られ、優れた抗菌効果を有することが確認された。これに対して、比較例1における阻止円の大きさは33.8mmとなり、抗菌効果は有するものの、その効果は実施例1〜4に比べ劣ることが確認された。比較例2では阻止円は発現せず、抗菌効果を有しなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
(抗菌耐久性評価試験)
抗菌耐久性評価試験では実施例1〜4の各検体に対して抗菌効果の耐久性を評価した。試験では各実施例につき2検体ずつ測定した。上述の抗菌性評価試験と同様に抗菌効果を評価したのであるが、事前に臨床における血液に見立てたウシ血清とリン酸緩衝生理食塩水の混合液に各検体を浸漬して各検体入りの混合液を浸透して各検体をリンスし、リンス後の抗菌性およびリンスしないものの抗菌性を比べ、その抗菌効果の低下の程度を測定することをもってリンス後の抗菌性の抗菌耐久性を評価する手法をとった。
【0049】
評価としてはリンスしない検体とリンス後の検体でそれぞれ阻止円の大きさを測定し、その差が小さい、すなわちリンス後の抗菌効果の低下が少なければ、抗菌耐久性が優れているということになる。つまり、長期間基材を使用しても基材における抗菌効果を維持できるということになる。
【0050】
抗菌耐久性評価試験では、まず、50:50の比率のウシ血清(ライフテクノロジーズジャパン社製)と0.01mol/Lリン酸緩衝生理食塩水とからなる溶液を準備した。そして、複数の試験管内にそれぞれ試験に必要な個数の各検体を溶液とともにそれぞれ入れて、各試験管内の各検体と溶液とを振とう機(タイテック社製)で振とうした。
【0051】
この際、各試験管は加熱オーブン内に入れて37℃の恒温状態に維持した。この振とうは振とう機における試験管を収容する部分を1分間に150回左右に往復移動させることにより行い24時間続けた。そして、各検体を各試験管より取り出した後、60分間風乾した。
【0052】
ついで、これらの方法でリンスした各検体を抗菌性評価試験と同じ方法にて抗菌性を評価した。抗菌耐久性試験と同じく各実施例において2検体ずつ測定した阻止円の大きさの平均値をとり、その平均値を各実施例の阻止円の大きさとしている。その結果を表2に示した。阻止円の大きさは実施例1では32.3mm、実施例2では30.5mm、実施例3では29.5mm、実施例4では30.0mmとなり、いずれにおいてもリファンピンの抗菌作用により阻止円が得られ、リンス後も抗菌効果を持続していることが確認された。
【0053】
そして、先述した抗菌性評価試験で測定した阻止円の大きさと抗菌耐久性試験で測定した阻止円の大きさの差を同じく表2に示した。その結果、阻止円の大きさの差は実施例1では7.0mm、実施例2では6.3mm、実施例4では6.8mmとなり、阻止円の大きさの差は比較的小さかった。これより、実施例1,2,4では基材より抗菌剤が適切な程度で徐放していることが確認された。
【0054】
これに対して、実施例3では10.0mmとなり、他の実施例に比べ阻止円の大きさの差が大きくなった。これより、実施例3の条件下ではリンス中に過剰に抗菌剤が徐放されてしまい、他の実施例に比べリンス後の抗菌効果の低下が大きくみられた。実施例3の条件では、抗菌効果の耐久性が若干低いことが確認された。
【0055】
これより、煮沸する際の圧力条件として、大気圧(101kPa)に50kPaの圧力を加えた圧力条件である151kPaの圧力での煮沸は抗菌剤の基材からの徐放の程度が適切になりにくく、抗菌性を長く維持する点においては若干効果が劣ることを推察することができた。よって、煮沸条件としては抗菌剤の基材からの徐放の程度を適切にし、抗菌耐久性を高めるうえで実施例1の条件下である大気圧(101kPa)に80kPaの圧力を加えた圧力条件である181kPaの圧力以上での煮沸とすることが好ましいことが確認された。
【0056】
【表2】

【0057】
(柔軟性評価試験)
製造した実施例1〜4の検体について、加圧加熱処理によりその柔軟性に変化が生じていないか評価した。評価は製造した実施例1〜4の各検体と加圧加熱処理を施していない比較例2の検体とをその手触り感で柔軟性を比較して行った。試験では各実施例および比較例につき2検体ずつ測定した。その結果を表3に示す。
【0058】
実施例1〜3は、比較例2とその手触り感は変わらず、加圧加熱処理によりその柔軟性の状態に変化が生じていなかった。これに対して、実施例4においては比較例2に比べ柔らかい手触り感が得られ、加圧加熱処理により柔軟になっていた。これよりカテーテル等の医療用具の基材の形状や材料性能を維持する上では、実施例4の条件下、すなわち大気圧(101kPa)に130kPaの圧力を加えた圧力条件である231kPaの圧力での煮沸ではその性能が若干劣ることが推察された。
【0059】
以上より、カテーテル等の医療用具の基材の形状や材料性能を維持するための圧力条件として、大気圧(101kPa)に100kPaの圧力を加えた圧力条件である201kPaの圧力以下での煮沸とすることが好ましいことが確認された。
【0060】
【表3】

【0061】
以上の結果から、実施例1〜4による検体は優れた抗菌性を発揮し、さらに実施例1,2については抗菌耐久性および材料性能維持の観点でより優れていた。これより、本発明による抗菌性医療用具の製造方法にて製造した医療用具は優れた抗菌性を発揮することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リファンピンをポリウレタンからなる医療用具の基材に包含させる抗菌性医療用具の製造方法であって、
前記リファンピンを水に溶解して得られるリファンピン水溶液に前記基材を浸漬させる工程と、
大気圧を超える圧力条件で前記基材が浸漬された前記リファンピン水溶液を煮沸させ前記基材に前記リファンピン水溶液を包含させる工程と、
前記リファンピン水溶液が包含された基材を乾燥して水を除去する工程と
を備えたことを特徴とする抗菌性医療用具の製造方法。
【請求項2】
前記大気圧を超える圧力条件が、大気圧に80kPaから100kPaまでの圧力を加えた範囲内の圧力条件である請求項1に記載の抗菌性医療用具の製造方法。

【公開番号】特開2013−48737(P2013−48737A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188603(P2011−188603)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】