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抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維及びその製造方法
説明

抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維及びその製造方法

【課題】十分な抗菌性及び十分な抗カビ性を有すると共に抗カビ性能の耐久性にも優れたポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維は、無機系抗菌剤及びポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物からなるポリエステル繊維であって、該繊維の断面の電子顕微鏡観察において、表層部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数が、中心部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数の1.3倍以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性及び抗カビ性を有すると共に抗カビ性能の耐久性にも優れたポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機系抗カビ剤を染色等の手法を用いて繊維表面に固着することによって繊維に抗カビ性を付与できることが従来より知られている。
【0003】
また、少なくとも一部が銀成分である抗菌性金属成分が担持された無機系抗菌剤をポリエステル中に含有するマスターペレットと、無機系抗菌剤を含有しないポリエステルとを溶融混練して紡糸することによって抗菌性ポリエステル繊維が得られることが公知である(特許文献1参照)。
【0004】
また、光触媒金属酸化物系抗菌剤と銀系抗菌剤とを所定割合混合してポリエステル樹脂に混練してマスターバッチを生成し、生成したマスターバッチとポリエステル樹脂とをさらに混練した紡糸原料を溶融紡糸して抗菌性ポリエステル繊維が得られることも公知である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−360091号公報
【特許文献2】特開2009−249801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機系抗カビ剤を固着せしめた繊維は、抗カビ性の耐久性が不十分であるし、安全性の面でも必ずしも望ましいものではなかった。
【0007】
また、特許文献1、2に記載のポリエステル繊維は、十分な抗カビ性が得られないし、抗カビ性能の耐久性も十分に得られない。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、十分な抗菌性及び十分な抗カビ性を有すると共に抗カビ性能の耐久性にも優れたポリエステル繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]無機系抗菌剤及び第1ポリエステル樹脂を含有するマスターバッチを作製する工程と、
前記マスターバッチと第2ポリエステル樹脂とを混合して得られた紡糸原料を溶融紡糸する工程とを含み、
前記第1ポリエステル樹脂の極限粘度を「R」とし、前記第2ポリエステル樹脂の極限粘度を「S」としたとき、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立することを特徴とする抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0011】
[2]0.05≦(S−R)≦0.15の関係式が成立する前項1に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0012】
[3]0.50≦R≦0.60であり、0.60≦S≦0.70である前項1または2に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0013】
[4]前記マスターバッチにおける無機系抗菌剤の含有率が10〜30質量%であり、前記紡糸原料におけるマスターバッチの含有率が5〜20質量%である前項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0014】
[5]前記溶融紡糸により得られた繊維を4.7倍以上の延伸倍率で延伸する工程をさらに含むことを特徴とする前項1〜4のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0015】
[6]前記無機系抗菌剤として、ゼオライト及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物に銀が担持されてなる無機系抗菌剤を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0016】
[7]前記無機系抗菌剤として、ゼオライト及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物に、銀と亜鉛の両方が担持されてなる無機系抗菌剤を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0017】
[8]前記マスターバッチは、硫酸バリウムを含有する前項1〜7のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法。
【0018】
[9]無機系抗菌剤及びポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物からなるポリエステル繊維であって、該繊維の断面の電子顕微鏡観察において、表層部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数が、中心部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数の1.3倍以上であることを特徴とするポリエステル繊維。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明では、無機系抗菌剤含有マスターバッチの構成樹脂である第1ポリエステル樹脂の極限粘度Rと、繊維の主体となる第2ポリエステル樹脂の極限粘度Sとの間に、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立するから、溶融紡糸により得られたポリエステル繊維において、無機系抗菌剤含有マスターバッチが表面や表面近傍位置により高濃度に存在するものとなり、これによりポリエステル繊維表面に無機系抗菌剤がより高濃度に存在したものとなる。従って、本製造方法で製造されたポリエステル繊維は、抗菌性に優れていると共に抗カビ性にも優れ、かつ抗カビ性能の耐久性に優れている。
【0020】
[2]の発明では、0.05≦(S−R)≦0.15の関係式が成立するから、繊維表面に無機系抗菌剤がより一層高濃度に存在したポリエステル繊維を製造できる。
【0021】
[3]の発明では、0.50≦R≦0.60であるから、無機系抗菌剤を均一に分散させたマスターバッチを安定して作製することができるし、0.60≦S≦0.70であるから、ポリエステル繊維を安定して製造できる。
【0022】
[4]の発明では、マスターバッチにおける無機系抗菌剤の含有率が10〜30質量%であるから、十分な抗菌性と十分な抗カビ性が得られる。また、紡糸原料におけるマスターバッチの含有率が5〜20質量%であるから、無機系抗菌剤含有マスターバッチが表面の方により集まりやすく、これにより繊維表面に無機系抗菌剤がより一層高濃度に存在したポリエステル繊維を製造できる。
【0023】
[5]の発明では、溶融紡糸により得られた繊維を4.7倍以上の延伸倍率で延伸するので、抗菌性及び抗カビ性ともにさらに向上したポリエステル繊維を製造できる。
【0024】
[6]及び[7]の発明では、抗菌性及び抗カビ性ともにさらに向上させたポリエステル繊維を製造できる。
【0025】
[8]の発明では、マスターバッチは硫酸バリウムを含有するから、マスターバッチにおける無機系抗菌剤の分散性を向上させることができ、これにより繊維表面に無機系抗菌剤が略均一にかつより高濃度に存在したポリエステル繊維を製造できる。
【0026】
[9]の発明では、ポリエステル繊維表面に無機系抗菌剤粒子がより高濃度に(表層部で中心部の1.3倍以上)存在しているから、このポリエステル繊維は、抗菌性に優れていると共に抗カビ性にも優れ、かつ抗カビ性能の耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1のポリエステル繊維の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】比較例1のポリエステル繊維の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例1のポリエステル繊維の断面における表層部の一部の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1のポリエステル繊維の断面における中心部の一部の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法は、無機系抗菌剤及び第1ポリエステル樹脂を含有するマスターバッチを作製する工程と、前記マスターバッチと第2ポリエステル樹脂とを混合して得られた紡糸原料を溶融紡糸する工程とを含み、前記第1ポリエステル樹脂の極限粘度を「R」とし、前記第2ポリエステル樹脂の極限粘度を「S」としたとき、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立することを特徴とする。
【0029】
本製造方法によれば、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立するから、溶融紡糸により得られたポリエステル繊維において、無機系抗菌剤含有マスターバッチが表面や表面近傍位置により高濃度に存在するものとなり、これによりポリエステル繊維表面に無機系抗菌剤がより高濃度に存在したものとなる。従って、本製造方法で製造されたポリエステル繊維は、抗菌性に優れていると共に抗カビ性にも優れ、かつ抗カビ性能の耐久性に優れている。
【0030】
(S−R)<0.03の場合には、ポリエステル繊維表面への無機系抗菌剤の高濃度化が困難になって、ポリエステル繊維における抗菌性や抗カビ性が不十分なものとなる。一方、(S−R)>0.18の場合には、繊維強度が十分に得られず、紡糸の途中で糸切れを生じやすくなる(紡糸操業性が悪くなる)。
【0031】
中でも、0.05≦(S−R)≦0.15の関係式が成立するように設定するのが好ましく、さらに0.08≦(S−R)≦0.12の関係式が成立するように設定するのが特に好ましい。なお、極限粘度R、Sについては単位を使用しないのが一般的であるが、敢えて使用すれば単位は「dL/g」である(即ち上記極限粘度の数値に敢えて単位を付けるとすれば「dL/g」である)。また、前記極限粘度R、Sは、その樹脂の分子量と強い相関があり、樹脂の分子量が大きいと極限粘度は大きいという関係にある。即ち、例えば、ポリエステル樹脂の分子量等を制御することにより所望の極限粘度を有するポリエステル樹脂を得ることができる。
【0032】
以下、工程順に詳述する。
【0033】
[マスターバッチ作製工程]
無機系抗菌剤及び第1ポリエステル樹脂を含有するマスターバッチを作製する。例えば、無機系抗菌剤及び第1ポリエステル樹脂を溶融混練することによってマスターバッチを得る。
【0034】
前期第1ポリエステル樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0035】
前記第1ポリエステル樹脂としては、該第1ポリエステル樹脂の極限粘度Rと、後の溶融紡糸工程で使用する第2ポリエステル樹脂の極限粘度Sとの間に、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立するものを用いる。
【0036】
また、前記第1ポリエステル樹脂としては、その極限粘度Rが、0.50以上0.60以下の範囲にあるものを用いるのが好ましい。極限粘度Rが0.50以上であることでマスターバッチ製造時に良好なストランド(紐状溶融樹脂物)を得ることができるし、極限粘度Rが0.60以下であることで無機系抗菌剤を均一に分散させたマスターバッチを作製することができる。
【0037】
前記無機系抗菌剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属を、結晶性アルミノケイ酸塩、無定形アルミノケイ酸塩、シリカゲル、活性アルミナ、けいそう土、活性炭、リン酸ジルコニウム、ヒドロキシアパタイト、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、ガラス等に担持せしめたもの等が挙げられる。
【0038】
中でも、前記無機系抗菌剤としては、
a)ゼオライト及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物に銀が担持されてなる無機系抗菌剤
b)ゼオライト及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物に、銀と亜鉛の両方が担持されてなる無機系抗菌剤
が好適である。
【0039】
前記a)の具体的構成例としては、特に限定されるものではないが、例えば
a1)ゼオライトに銀が担持されてなる無機系抗菌剤
a2)ガラスに銀が担持されてなる無機系抗菌剤
a3)ゼオライトに銀が担持された抗菌剤とガラスに銀が担持された抗菌剤の混合物
を例示できる。
【0040】
前記b)の具体的構成例としては、特に限定されるものではないが、例えば
b1)ゼオライトに銀と亜鉛が担持されてなる無機系抗菌剤
b2)ガラスに銀と亜鉛が担持されてなる無機系抗菌剤
b3)ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物
を例示できる。
【0041】
前記マスターバッチにおける無機系抗菌剤の含有率は10〜30質量%に設定するのが好ましい。10質量%以上であることで、得られるポリエステル繊維において十分な抗菌性及び十分な抗カビ性を確保できると共に、30質量%以下であることでマスターバッチにおいて無機系抗菌剤を均一に分散させることができる。中でも、前記マスターバッチにおける無機系抗菌剤の含有率は13〜27質量%に設定するのが特に好ましい。
【0042】
前記マスターバッチは、硫酸バリウムを含有するのが好ましい。硫酸バリウムを含有することで、マスターバッチにおいて無機系抗菌剤をより一層均一に分散させることができる。前記マスターバッチにおける硫酸バリウムの含有率は1〜3質量%に設定するのが好ましい。
【0043】
また、前記硫酸バリウムとしては、平均粒子径が0.1〜8μmのものを用いるのが好ましい。平均粒子径が0.1〜8μmの硫酸バリウムは、前記無機系抗菌剤の一次粒子間に入り込みやすいので、無機系抗菌剤同士の付着(無機系抗菌剤の凝集)を十分に防止できる。中でも、前記硫酸バリウムの平均粒子径は0.8〜1.8μmであるのが特に好ましい。
【0044】
[溶融紡糸工程]
前記マスターバッチと第2ポリエステル樹脂とを混合して紡糸原料を得た後、該紡糸原料を溶融紡糸する。
【0045】
前記第2ポリエステル樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0046】
前記第2ポリエステル樹脂としては、前記第1ポリエステル樹脂の極限粘度Rと、この第2ポリエステル樹脂の極限粘度Sとの間に、0.03≦(S−R)≦0.18の関係式が成立するものを用いる。
【0047】
また、前記第2ポリエステル樹脂としては、その極限粘度Sが、0.60以上0.70以下の範囲にあるものを用いるのが好ましい。極限粘度Sが0.60以上であることで前記溶融紡糸の際に良好な紡糸性を確保できるし、極限粘度Sが0.70以下であることで良好な物性を有するポリエステル繊維を得ることができる。中でも、前記第2ポリエステル樹脂としては、その極限粘度Sが、0.63以上0.66以下の範囲にあるものを用いるのがより好ましい。
【0048】
前記第2ポリエステル樹脂としては、通常は、無機系抗菌剤を含有しないポリエステル樹脂を用いるが、本発明の効果を妨げない範囲であれば無機系抗菌剤を含有するポリエステル樹脂を用いてもよい。
【0049】
前記紡糸原料におけるマスターバッチの含有率は5〜20質量%であるのが好ましい。5質量%以上であることで、得られるポリエステル繊維において十分な抗菌性及び十分な抗カビ性を確保できると共に、20質量%以下であることで十分な繊維強度を確保できる。
【0050】
なお、得られるポリエステル繊維における無機系抗菌剤の含有率は1〜4質量%になっているのが好ましい。
【0051】
前記溶融紡糸の際の紡糸孔の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、丸孔形状であってもよいし、異形形状であってもよい。前記異形形状としては、例えば、異形度1.3以上のものが採用される。
【0052】
前記溶融紡糸の時の紡糸温度は280〜290℃に設定するのが好ましい。前記紡糸時の紡糸冷却風の風速は0.5〜1.0m/分に設定するのが好ましい。前記紡糸冷却風(空気)の温度は15〜25℃に設定するのが好ましく、前記紡糸冷却風(空気)の湿度は50〜80%に設定するのが好ましい。前記紡糸時のドラフト率は50〜150に設定するのが好ましい。
【0053】
[延伸工程]
前記溶融紡糸により得られた繊維を延伸してポリエステル繊維を得る。
【0054】
前記延伸の際の延伸倍率は4.7倍以上に設定するのが好ましい。4.7倍以上の延伸倍率で延伸した場合には、抗菌性及び抗カビ性ともにさらに向上したポリエステル繊維を製造できる。中でも、延伸倍率は4.7〜6.0倍に設定するのがより好ましく、さらには延伸倍率は4.7〜5.3倍に設定するのが特に好ましい。
【0055】
本製造方法により、通常、複数本のポリエステル繊維からなる糸条が得られるが、ポリエステル単繊維を製造するものとしてもよい。
【0056】
前記糸条の単糸繊度は2〜50dtex/fに設定するのが好ましい。また、前記糸条の総繊度は800〜4000dtexに設定するのが好ましい。
【0057】
なお、糸に捲縮性を付与する場合には、捲縮装置を通過させて糸条に嵩高性を付与するようにしてもよい。なお、この嵩高性付与工程は省略することもできる。
【0058】
本発明の製造方法により得られたポリエステル繊維は、無機系抗菌剤及びポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物からなり、該繊維の断面の電子顕微鏡観察において、表層部における抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数が、中心部における抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数の1.3倍以上になっている。中でも、1.5〜2.0倍になっているのが好ましい。
【0059】
前記「表層部」とは、ポリエステル繊維の断面における短径を「r」としたとき、繊維の表面から0.1×rの距離だけ内部に入り込んだ位置から表面までの領域を意味する。また、前記「中心部」とは、ポリエステル繊維の断面の中心位置又は重心位置を中心とする半径0.1×rの円で取り囲まれる領域を意味する。
【0060】
なお、本発明に係る抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維の製造方法は、上記例示の実施形態のものに特に限定されるものではなく、請求の範囲内であれば、その精神を逸脱するものでない限りいかなる設計的変更をも許容するものである。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得た。前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.61であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得、該紡糸原料を異形断面孔(192個の異形度3.0のトライローバル断面孔)から吐出して紡糸し、この糸条に温度17℃、湿度70%、風速0.8m/分の風を当てた後、紡糸油剤を塗布して、ローラーで360m/分の速度で引き取った。
【0063】
次に、糸条を90℃の表面温度を有する加熱ローラーに接触せしめて糸条をそのガラス転移温度よりも高い温度に加熱し、160℃の表面温度を有する加熱ローラーにて5.0倍に延伸した後、冷風を当てることにより糸条をそのガラス転移温度よりも低い温度に冷却して巻き取ることによって、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0064】
<実施例2>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.63であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0065】
<実施例3>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.65であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0066】
<実施例4>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.67であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0067】
<実施例5>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.68であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0068】
<比較例1>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.57であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0069】
<比較例2>
極限粘度が0.55であるポリエチレンテレフタレート(第1ポリエステル樹脂)80質量部、平均粒子径が2.0μmの無機系抗菌剤(ゼオライトに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤とガラスに銀及び亜鉛が担持された抗菌剤の混合物)18質量部、硫酸バリウム2質量部を溶融混練してマスターバッチを得ると共に、前記マスターバッチ10質量部、極限粘度が0.75であるポリエチレンテレフタレート(第2ポリエステル樹脂)90質量部を押出機内で280℃で溶融混練して紡糸原料を得た以外は、実施例1と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0070】
<実施例6>
5.5倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0071】
<実施例7>
5.2倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0072】
<実施例8>
4.8倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0073】
<実施例9>
4.5倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0074】
<実施例10>
4.0倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0075】
<実施例11>
3.5倍に延伸した以外は、実施例3と同様にして、192本のポリエステル長繊維より構成されるポリエステル糸(総繊度1450dtex)を得た。
【0076】
【表1】

【0077】
上記紡糸時の紡糸操業性を下記評価法に基づいて評価すると共に、得られたポリエステル繊維の抗菌性能及び抗カビ性能を下記評価法に基づいて評価した。これらの評価結果を表1に示す。
【0078】
<抗菌性能評価法>
JIS L1902−2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)に準拠して試験を行った。対象試験菌は、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌である。静菌活性値は、下記算出式により算出し、下記判定基準に基づいて評価した。
【0079】
静菌活性値=(Mb−Ma)−(Mc−Mo)
Ma:標準布の試験菌接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mb:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mc:抗菌加工試料の試験菌接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Md:抗菌加工試料の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
(判定基準)
「◎」…静菌活性値が5.0以上
「○」…静菌活性値が2.0以上5.0未満
「△」…静菌活性値が1.0以上2.0未満
「×」…静菌活性値が1.0未満。
【0080】
<抗カビ性能評価法>
JIS L1902−2008(繊維製品の抗菌性試験方法)に準拠して試験を行った。対象試験カビは、白癬菌である。減菌率は、初期植菌数に対する18時間後の菌数の減少率であり、ここで菌数とは、胞子数のことである。減菌率を算出して下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…減菌率が90%以上
「○」…減菌率が50%以上90%未満
「△」…減菌率が20%以上50%未満
「×」…減菌率が20%未満。
【0081】
<抗カビ性の耐久性評価法>
JIS L0217−1995の103号の方法に準拠して、得られたポリエステル繊維について100回洗濯を行った。洗濯の際の洗剤として繊維評価技術協議会指定の洗濯洗剤を同協議会指定の濃度で用いた。100回洗濯を行った後のポリエステル繊維について上記抗カビ性能評価法を適用して減菌率を算出し、上述した判定基準(減菌率による4段階の判定)に基づいて抗カビ性の耐久性を評価した。
【0082】
<紡糸操業性の評価法>
紡糸時の紡糸操業性を下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…糸切れ率が1%未満
「○」…糸切れ率が1%以上3%未満
「×」…糸切れ率が3%以上。
【0083】
表1から明らかなように、本発明の製造方法で製造した実施例1〜11のポリエステル繊維は、抗菌性、抗カビ性のいずれにも優れ、紡糸操業性も良好であった。
【0084】
これに対し、(S−R)の値が0.03より小さい比較例1のポリエステル繊維は、抗菌性、抗カビ性のいずれも不十分であった。また、(S−R)の値が0.18より大きい比較例2では、糸切れ率が3%以上であり紡糸操業性が悪かった。
【0085】
実施例1で得られたポリエステル繊維の電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。また、比較例1で得られたポリエステル繊維の電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。これらを対比すると、実施例1のポリエステル繊維の表面層に存在する抗菌剤粒子(図1で白く観察される粒子)の数は、比較例1のポリエステル繊維の表面層に存在する抗菌剤粒子(図2で白く観察される粒子)の数よりも多いことがわかる。
【0086】
次に、実施例1で得られたポリエステル繊維の断面における表層部の一部の電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。また、実施例1で得られたポリエステル繊維の断面における中心部の一部の電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。これらの対比により、実施例1のポリエステル繊維の断面の表層部における抗菌剤粒子(図3で白く観察される粒子)の単位断面積(10000μm2)当たりの存在個数は、同断面の中心部における抗菌剤粒子(図4で白く観察される粒子)の単位断面積(10000μm2)当たりの存在個数の1.61倍であることがわかった。
【0087】
(上記電子顕微鏡による表面EDX観察)
使用機器:JEOL社製汎用走査電子顕微鏡 JSM−6390LA
詳細説明:反射電子線像(組成像)において白い斑点が前記無機系抗菌剤粒子である。即ち、EDXによる組成分析により反射電子線像(組成像)における白い斑点が前記無機系抗菌剤粒子であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の製造方法で製造されたポリエステル繊維は、十分な抗菌性及び十分な抗カビ性を有すると共に抗カビ性能の耐久性にも優れているから、例えば、浴室や台所等の水廻り用敷物、トイレ用敷物、寝具類を製作するのに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系抗菌剤及びポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物からなるポリエステル繊維であって、該繊維の断面の電子顕微鏡観察において、表層部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数が、中心部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数の1.3倍以上であることを特徴とする抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維。
【請求項2】
前記ポリエステル繊維の断面の電子顕微鏡観察において、表層部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数が、中心部における無機系抗菌剤粒子の単位断面積当たりの存在個数の1.5〜2.0倍である請求項1に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維。
【請求項3】
前記ポリエステル繊維における前記無機系抗菌剤の含有率が1〜4質量%である請求項1または2に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、平均粒子経が0.1〜8μmの硫酸バリウムを含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維。
【請求項5】
前記樹脂組成物における硫酸バリウムの含有率は、0.05〜0.6質量%である請求項4に記載の抗菌性及び抗カビ性を有するポリエステル繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57163(P2013−57163A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−282089(P2012−282089)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2010−97242(P2010−97242)の分割
【原出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【出願人】(502332991)富士ケミカル株式会社 (20)
【Fターム(参考)】