説明

抗菌性塗料およびその製造方法

【課題】抗菌、消臭等の能力を向上させ、かつ塗装後の物理的・機械的強度が高く、塗装面の外観および手触り感を向上させた生物由来のカルシウム素材利用の抗菌性塗料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合した抗菌性塗料、およびその製造方法であって、粉末抗菌剤は、水酸化カルシウムと、ホウ素と、鉄を含み、ホウ素の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.05質量%以上、かつ鉄の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.8質量%未満であり、粉末抗菌剤の混合比率が抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%の範囲内にあり、塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合する際に、水分または、塗料原材料に応じた適量の有機溶剤系薄め液を加えつつ高速攪拌による混合練成を行い、該高速攪拌による混合練成によって生ずる摩擦熱を抗菌塗料全体に十分に浸透させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性塗料およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、消臭や殺菌或いは防虫等の能力が高く、かつ酸化還元電位の低い生物由来のカルシウム素材を利用した粉末抗菌剤を、塗料の原材料に配合してなる抗菌性塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今における衛生環境についての意識の高まりから、社会全般において塗料に抗菌剤を配合した、いわゆる抗菌性塗料が注目されるようになった。これに伴って、殺菌性や消臭性、或いは防虫性などの様々な特性を有する抗菌性塗料の開発が促進され、多種・多数の抗菌性塗料が広く市場に出回るようになった。
【0003】
一般に、これらの抗菌性塗料としては、有機物の抗菌剤を利用した有機系抗菌塗料、銀イオンや亜鉛イオン或いは銅イオン等の金属イオンを利用した無機系抗菌塗料、セラミックスを利用したセラミック系抗菌塗料、さらには、生物・微生物からの抽出物やキトサン類などの天然成分を利用した天然系抗菌塗料などが提案されている(特許文献1ないし5を参照のこと)。
【0004】
このような各種の抗菌性塗料の中で、有機系抗菌塗料は、その抗菌性が高いという特徴を有するが、一般に抗菌剤の溶出速度が速いため抗菌効果の持続力が低いという問題があった。さらに、物理的安全性という観点から使用する抗菌剤の選択を行うと所望の抗菌・消臭効果が得られ難いという欠点もあった。
【0005】
一方、銀イオンなどの金属イオンを利用した無機系抗菌塗料は、比較的抗菌性能が高く広範囲の細菌類に対して抗菌性を発揮することから様々な態様で広く用いられているが、抗菌剤自体が高価であり、その製造コストが高くなるという問題があった。また、セラミック系抗菌塗料は、セラミック類の還元剤としての反応が遅いため、その抗菌効果自体が疑問視されるという問題もあった。
【0006】
このような中で、近年、貝殻などの生物由来のカルシウム素材を抗菌剤として利用した抗菌性塗料が注目されるようになった。生物由来のカルシウム素材から生成された水酸化カルシウムは、産業界において充填剤や安定剤或いは乾燥剤として広く利用されているが、従来から、係る物質には所定の抗菌効果があることが知られており、その低コスト性および安全性という観点から、これを抗菌剤として利用した抗菌性塗料が着目されるようになったのである。
【0007】
【特許文献1】特開平08−048917号公報
【特許文献2】特開平08−151539号公報
【特許文献3】特開2004−137241号公報
【特許文献4】特開2008−201999号公報
【特許文献5】特願2005−504289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の生物由来のカルシウム素材を利用した抗菌性塗料は、カルシウム素材から生成された粉末抗菌剤の粒状・粒径が比較的大であり、かつその大きさが不揃いであったため、これを塗料原料に配合すると塗料原料を構成する無機物粉体との混合に不具合を生じ、塗料としての物理的・機械的強度が確保し難いという問題があった。また、係る配合によって抗菌剤本来の抗菌効果が低減されてしまうという欠点もあった。さらに、塗料塗布後の塗装面に抗菌剤の粒子による模様等が現れてしまい、塗装面の美観や手触り感に不具合が生ずるという問題もあった。
【0009】
本発明は、このような従来からの課題を解決することを目的とするものであって、より具体的には、殺菌効果、抗菌効果、消臭効果、ならびに防虫効果等を向上させ、かつ塗装後の物理的・機械的強度が高く、塗装面の外観および手触り感を向上させた生物由来のカルシウム素材利用の抗菌性塗料、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の観点による抗菌性塗料は、上記の目的を達成するため、
塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合した抗菌性塗料であって、前記粉末抗菌剤は、水酸化カルシウムと、ホウ素と、鉄を含み、前記ホウ素の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.05質量%以上であり、前記鉄の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.8質量%未満であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第二の観点による抗菌性塗料は、上記第一の観点において、
前記粉末抗菌剤の混合比率が抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%の範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第三の観点による抗菌性塗料は、上記第一または第二の観点において、
前記粉末抗菌剤の粒子径が0.5μmないし3.0μmの範囲内にあることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第四の観点による抗菌性塗料は、上記第一ないし第三の観点の少なくとも何れか一において、
前記粉末抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムは、生物由来のカルシウムを焼成・粉砕して成ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第五の観点による抗菌性塗料は、上記第一ないし第四の観点の少なくとも何れか一において、
前記塗料の原材料は合成樹脂または天然樹脂であり、その属性は水性または油性であることを特徴とする。
【0015】
一方、本発明の第六の観点による抗菌性塗料の製造方法は、上記の目的を達成するため、
塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合した抗菌性塗料の製造方法であって、前記粉末抗菌剤は、水酸化カルシウムと、ホウ素と、鉄を含み、前記ホウ素の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.05質量%以上、かつ前記鉄の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.8質量%未満であり、前記粉末抗菌剤の混合比率が抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%の範囲内にあり、前記塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合する際に、水分または、前記塗料の原材料に応じて、適量の有機溶剤系の薄め液を加えつつ高速攪拌による混合練成を行い、該高速攪拌による混合練成によって生ずる摩擦熱を抗菌塗料全体に十分に浸透させる工程を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第七の観点による抗菌性塗料の製造方法は、上記第六の観点において、
前記粉末抗菌剤の製造工程は、生物由来のカルシウムを焼成し粉砕する工程を含み、前記焼成工程は、摂氏830度ないし1,200度の高温で1時間に亘り焼成処理を行い、前記粉砕工程においては、シリカ微粉末を粉末抗菌剤の総質量に対して0.5質量%ないし5質量%配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による抗菌性塗料および抗菌性塗料の製造方法によれば、極めて高い抗菌効果を有した抗菌性塗料を実現できるので、塗装面における細菌類の繁殖を効果的に予防することが可能となり、塗料塗布後も長期間に亘り塗装面の状態を良好に保つことができる。また、抗菌剤自体の強いアルカリ還元作用の働きによって、塗料塗布後における塗装面の酸化防止が可能となり塗装面に接触する水の腐敗防止効果が得られる。それ故、花瓶等の内側に当該塗料を塗布すれば、生花などの鮮度を長期間に亘って保つことが可能となる。
【0018】
また、塗料原料に含まれる塗料粒子と抗菌剤粒子との整合性が極めて良好であるため、塗料塗布後の塗装面における物理的・機械的強度を高めることが可能であり、さらに、塗装面における外観や手触り感を飛躍的に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態である実施例について、本願の明細書に添付した各図面類を参照しつつ以下に説明を行う。
【0020】
先ず、本発明の抗菌性塗料に用いられる粉末抗菌剤、およびその製造方法について説明を行なう。本発明の粉末抗菌剤は、生物由来のカルシウムを特殊焼成した後に、これを所定の粉砕方法によって超微細粉末化したものである。ここで生物由来のカルシウムとしては、天然或いは養殖を問わず、例えば、ホタテ貝殻、ハマグリ貝殻、アサリ貝殻、或いはホッキ貝殻等の貝殻を利用することができる。但し、貝殻の組成物が均一であること、ならびに供給量が比較的に安定していること、などの点を考慮すれば養殖物のホタテ貝殻を用いることが好ましい。
【0021】
因みに、生物由来のカルシウムには、殺菌力、消臭力、鮮度保持などの効果があることは昔から経験的に広く知られているが、係る効果を効率的に発揮させるためには、その焼成条件ならびに粉砕条件が極めて重要な要素となる。すなわち、生物由来のカルシウムを焼成・粉砕して製造された粉末抗菌剤のアルカリイオン還元能力は、その焼成方法ならびにその粒径によって大きく異なるものである。
【0022】
本実施例によれば、生物由来のカルシウム(具体的にはホタテ貝殻を使用)を単に焼成するだけではなく、特殊高温焼成分解炉にて摂氏830度ないし摂氏1,080度の範囲内において約1時間に亘り高温焼成を施す。因みに、係る焼成処理は、空気中で行なっても良いし、或いは窒素や炭酸ガス等の不活性ガスの雰囲気中で行うようにしても良い。このような高温焼成処理を施すことによって、生物由来のカルシウム中の不要な有機物などが熱分解により除去される。
【0023】
生物由来のカルシウムの組成は、一般的に炭酸カルシウム(CaCO)であり、これを焼成することによって酸化カルシウム(CaO)が得られる。本実施例においては、焼成中或いは焼成後に所定の加水処理を施すことにより、酸化カルシウムを水和させて水酸化カルシウム(Ca(OH))に変成させる。周知のように、水酸化カルシウムは、そのアルカリイオン還元能力が高く、そのPHは強アルカリ性を有しており、その値はPH12〜13にも及ぶものである。そして、係る強アルカリ性によって、殺菌効果、抗菌効果、食品等に対する鮮度保持効果などの各種の効果が発揮されることになる。
【0024】
本実施例では、焼成・水和後の水酸化カルシウムを粉砕して、その粒子径を0.5μm〜3μm程度に微細化することにより、そのPHは13.2程度にまで上昇し、上記の各効果がさらに高まることが確認されている。
【0025】
ところで、通常の粉砕処理による粒子の微細化においては、粉砕された微粒子の粒径が5μm以下になると粉砕中に微粒子同士の再結合が頻繁に発生し、微粒子の粒径が不揃いとなり粒子径の均一化が図れないという不具合が生ずる。そのため、本実施例では、焼成・水和後の水酸化カルシウムの粉砕処理において、微粒子同士の再結合を防止すべく、シリカ微粉末(SiO)を粉末抗菌剤の総質量に対して0.5質量%〜5質量%配合することを特徴としている。これによって、本実施例によれば、粉砕処理後の粉末抗菌剤に含まれる粒子の平均粒径を0.5μm〜3μm程度に均一化することができる。
【0026】
なお、上記の特殊高温焼成分解炉における焼成温度は、摂氏830度〜1,080度の範囲内と記述したが、実際の焼成温度は、摂氏830度〜1,200度程度の範囲内にあれば問題はなく、通常は摂氏1,100度前後の設定温度で、約1時間に亘り高温焼成を行うことが好ましい。
【0027】
一方、上述の水酸化カルシウム生成時の加水処理においては、焼成された炭酸カルシウムの総質量に対して約15質量%の水を加えることが好ましい。また、加水処理における水の配合割合は、最初に約10質量%の水を加え、その蒸発後に、さらに5質量%の水を加水することが好ましい。これによって、ホタテ貝の貝殻を焼成して得られた酸化カルシウムが水酸化カルシウムに変性され、そのアルカリ性を通常のPH12前後から、さらにPH13.2まで高めることができる。
【0028】
本実施例においては、上記の処理によって生成された水酸化カルシウムを、特殊粉砕機(例えば、ジェットミル装置)にセットして、平均粒径が0.5μm〜3μm程度の微細粉末を生成する。上述した如く、係る粉砕処理においては、生成される微粉末の総質量に対して0.5質量%〜5質量%のシリカ微粉末(SiO)を加えるのであるが、実際には、1質量%程度のシリカ微粉末(SiO)を加えることが粒子の再結合を防止する上で最も好ましい。
【0029】
これによって、粉砕処理時における微細粒子同士の再結合が最小限に抑えられ、微細粒子の平均粒径を約0.5μm〜3μm程度に均一化することができる。また、係る処理工程において、超微粒子用の粉塵集採機を用いることにより、0.5μm以下の粒径の微細粒子からなる超微粉粉末を採取することもできる。因みに、このような超微粉粉末による抗菌剤は、その殺菌効果、抗菌効果、消臭効果、食品等の鮮度保持効果、および防虫効果が極めて高く各種の幅広い用途が期待できる。
【0030】
以上の処理工程によって生成された粉末抗菌剤の組成成分の一覧を、添付図面の図(1a)に示す。言うまでもないが、係る組成成分の割合は本発明による一実施例を示すものであって、本発明の実施による粉末抗菌剤の組成割合が係る数値例のみに限定されるものではない。
【0031】
次に、本発明の抗菌性塗料およびその製造方法について説明を行なう。本発明による抗菌性塗料は、上述した粉末抗菌剤を抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%混合することによって生成される。但し、製品コストや塗料としての適性、或いは抗菌効果発揮の度合いなどの実用上の諸観点から検討を加えれば、係る混合割合は約15質量%前後であることが好ましい。
【0032】
なお、本発明の抗菌性塗料に用いられる塗料の原料は、極めて一般的な塗料原料を用いることが可能である。したがって、塗料の原料としては、それが合成樹脂系の塗料であっても良いし或いは天然樹脂系の塗料であっても良い。また、その属性が水性塗料であっても良いし或いは油性塗料であっても良い。
【0033】
本実施例においては、塗料原料に粉末抗菌剤を上記の比率で混合し、これを高速攪拌機に投入して高速攪拌による混合練成処理を施すものである。なお、係る混合練成処理の際には、所定量の水を加えて加水練り込みによる練成を行うことが好ましい。また、塗料原料の特性に応じて、混合・練成の際に適量の有機溶剤系の薄め液を加えるようにしても良い。なお、攪拌を高速度で行うことによって塗料原料と粉末抗菌剤に少量の摩擦熱を発生させ、これを混合・練成中の抗菌性塗料の全体に浸透させることによって、抗菌性塗料の抗菌、殺菌、消臭、或いは防虫等の効果がさらに高まることが確認されている。
【0034】
(効果確認試験)
続いて、本発明による抗菌性塗料の効果確認試験の結果について以下に説明を行なう。効果確認試験においては、上述の粉末抗菌剤を、抗菌性塗料全体の総質量に対する質量%として、0%、2%、5%、10%、15%、20%、25%の比率で混合した試料7種を作成して試験を行った。なお、混合比率0%のものは、粉末抗菌剤を混合していない一般塗料のみの場合を示すものであることは言うまでもない。
【0035】
今回の試験に用いた塗料原料は、広く一般に市販されている合成樹脂塗料であり、各試料について、(1)抗菌性、(2)塗装面の物理的強度、(3)消臭性、(4)防虫性、(5)鮮度維持特性の5つの特性について評価を行った。なお、効果確認試験の結果を添付図面の図(1b)に示す。以下、同図の記載を参照しつつ各々の試験結果について説明を行なう。
【0036】
(1)抗菌性
抗菌性については、直径が約15cmの平皿を用いこれに試料を塗布してMIC値(菌株の発育阻止最低濃度値)試験を行った。その結果、混合割合が5%〜25%の試料の何れにおいても高い抗菌性能が確認された。
【0037】
(2)塗装面の物理的強度
この試験は、塗装面に対する塗料の強制剥離試験である。当該試験の結果、混合比率が2%〜5%の試料については他の試料に比較して高い強度が確認されたが、混合割合が10%超えると若干の強度の低下が確認された。但し、混合比率が20%に至るもその強度は実用上において問題のない範囲内に収まっていた。
【0038】
(3)消臭性
消臭性については、一辺が15cm程度、深さが約7cmの蓋付き合成樹脂容器の内側に各試料を塗布したものを用意し、同容器の内部に鯖の干物の破片(大きさは、約3cm四方で厚さ約0.7mm)を入れて密閉し、その後2時間おきに蓋を開けて臭いを嗅ぎ、体感による消臭効果の確認を行った。なお、試験環境は、食物が最も腐敗し易い梅雨時に相当する高温・多湿の条件下を設定した。
【0039】
その結果、混合比率が0%の試料(即ち、粉末抗菌剤を全く含まない一般塗料)においては、試験開始後2時間で異臭が発生し、4時間後においては強烈な腐敗臭が確認された。一方、混合比率が5%〜25%の試料においては、試験開始後2時間で干物自体の生臭さが減少し、さらに4時間、6時間と時間が経過する毎に臭いが減少した。言うまでもないが、これらの混合比率の試料においては腐敗臭の発生は確認されていない。
【0040】
(4)防虫性
防虫性の試験は、添付図面の図2に示すように、上記の消臭性試験において使用したものと同じ大きさの密封容器を2つ用意して、一方の容器の内面には試料を塗布し、他方の容器の内面には抗菌剤を混合しない一般塗料を塗布し、この2つの容器を直径約10cm長さ約45cmのパイプで連結した試験装置を作成して行った。なお、パイプの中間部には5cm角程度の開閉自在な蓋が設けられている。
【0041】
試験の具体的方法としては、先ず、図(2a)に示すように、パイプ中間部の蓋を開けここからアカイエ蚊の成虫20匹をパイプ内に投入し、その後、図(2b)に示すように、アカイエ蚊が両端の各容器内へ移動する状況を確認して、それぞれの容器内に滞留するアカイエ蚊の数の比をもって抗菌性塗料による防虫性の評価を行った。
【0042】
この結果、混合比率が2%、5%の試料を塗布した容器については、一般塗料を塗布した容器と比較してアカイエ蚊の移動状況に変化はなかったが、混合比率が10%を超える試料を塗布した容器については、図(1b)の表に示されるような明らかな有意差が確認された。すなわち、混合比率が10%を超える試料を塗布した容器の場合は、一般塗料を塗布した容器には平均して15匹のアカイエ蚊が移動したが、抗菌性塗料を塗布した方の容器には平均して5匹しか移動しなかった。
【0043】
(5)鮮度維持特性
鮮度維持特性試験は、花瓶の内部に各試料を塗布し、乾燥させた後これに水を入れ、同花瓶に榊を挿してその育成状況を観察することにより試験評価を行った。この結果、混合比率が0%の試料(即ち、抗菌剤を含まない一般塗料)を塗布した花瓶においては、試験開始後4日目にして花瓶の水が濁り異臭が発生し榊も枯れ始め、試験開始後7日目には榊の殆どの葉が枯れてしまった。
【0044】
一方、混合比率が5%〜25%の試料を塗布した花瓶では、試験開始後4日目においても水の濁りや異臭等は殆ど確認されず、榊の状態も実験開始時とほぼ同一の状態を保っていた。そして、試験開始後7日目においても、一部の葉は落ちたものの榊の育成状況は極めて良好であった。但し、混合比率が25%の試料を塗布した花瓶においては、葉の落ち具合が他の試料に比べて早かったが、これは塗布された試料のアルカリ性が強すぎたためと考えられる。
【0045】
以上に説明したように、本発明によれば、抗菌性、殺菌性、防虫性、鮮度維持特性等に関する効果が極めて高く、かつ、塗装面の物理的強度が高い抗菌性塗料を低コストで実現することが可能となる。
【0046】
なお、本発明の実施形態は、以上に説明した実施例に限定されるものではなく、例えば、各々の実施例を構成する各部位の形状や配置、或いはその素材などは、本発明の趣旨を逸脱することなく、現実の実施態様に即して適宜変更ができるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上に説明した本発明の構成ならびに方法は、生物由来のカルシウム素材を利用した抗菌性塗料ならびに抗菌性塗料の製造方法の分野において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による粉末抗菌剤の組成成分、ならびに本発明による抗菌性塗料の効果試験の結果を示す図表である。
【図2】本発明による抗菌性塗料の防虫性試験の様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
10 … 両端容器
20 … 連結パイプ
30 … パイプ中間部蓋



【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合した抗菌性塗料であって、
前記粉末抗菌剤は、水酸化カルシウムと、ホウ素と、鉄を含み、
前記ホウ素の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.05質量%以上であり、
前記鉄の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.8質量%未満であることを特徴とする抗菌性塗料。
【請求項2】
前記粉末抗菌剤の混合比率が抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性塗料。
【請求項3】
前記粉末抗菌剤の粒子径が0.5μmないし3.0μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌性塗料。
【請求項4】
前記粉末抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムは、生物由来のカルシウムを焼成・粉砕して成ることを特徴とする請求項1ないし3の少なくとも何れか一項に記載の抗菌性塗料。
【請求項5】
前記塗料の原材料は合成樹脂または天然樹脂であり、その属性は水性または油性であることを特徴とする請求項1ないし4の少なくとも何れか一項に記載の抗菌性塗料。
【請求項6】
塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合した抗菌性塗料の製造方法であって、
前記粉末抗菌剤は、水酸化カルシウムと、ホウ素と、鉄を含み、前記ホウ素の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.05質量%以上、かつ前記鉄の含有量が粉末抗菌剤の総質量に対して0.8質量%未満であり、
前記粉末抗菌剤の混合比率が抗菌性塗料の総質量に対して10質量%ないし25質量%の範囲内にあり、
前記塗料の原材料と粉末抗菌剤とを混合する際に、水分または、前記塗料の原材料に応じて、適量の有機溶剤系の薄め液を加えつつ高速攪拌による混合練成を行い、該高速攪拌による混合練成によって生ずる摩擦熱を抗菌塗料全体に十分に浸透させる工程を含むことを特徴とする抗菌性塗料の製造方法。
【請求項7】
前記粉末抗菌剤の製造工程は、生物由来のカルシウムを焼成し粉砕する工程を含み、
前記焼成工程においては、摂氏830度ないし1,200度の高温で1時間に亘り焼成処理を行い、前記粉砕工程においては、シリカ微粉末を粉末抗菌剤の総質量に対して0.5質量%ないし5質量%配合することを特徴とする請求項6に記載の抗菌性塗料の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17401(P2012−17401A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155309(P2010−155309)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(507169956)昭和技研株式会社 (1)
【出願人】(508245035)
【Fターム(参考)】