説明

抗菌性成形用組成物およびその成形物

【課題】 本発明により、力学強度に優れた抗菌性成形物を製造し、衣料材、医療材、日常衛生材、寝装材などの素材として使用できる各種成形物、環境負荷の低い生分解性と生体親和性を有する成形物を提供する。
【解決手段】 本発明は、α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成される抗菌性成形用組成物およびそれから得られる成形物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性に優れる成形用組成物およびそれから得られる成形物に関する。より詳しくは、α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成されるフィルム、シート、繊維、不織布、カプセル、コーティング材など、衣料分野、衛生材料分野、包装資材分野、産業資材分野、農業分野、医療材料分野などに広く利用される抗菌性成形用組成物およびそれから得られる成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから、清潔で、衛生的な生活環境作りの要望が強く、抗菌性に優れた繊維やフィルムなどの成形物に関する多くの製品が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、ゼオライトに銀、銅、亜鉛を担持させ抗菌性を付与することが提案されている。また、抗菌性を付与するためにビグアナイト誘導体、有機シリコン系第4級アンモニウム塩などの抗菌剤を繊維などに塗布する方法も提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、使用法や用途によっては、人体に対し衛生上の問題がある。そこで、近年、人体に対し毒性がなく安全性の高いキトサンまたはキトサン誘導体を用いた抗菌製品を開発しようとする試みがなされている。キトサンの抗菌性を利用した製品としては、例えば、特許文献4および5にキトサン含有フィルム及び魚網が提案されている。
【0005】
さらに、キチンの高い生体親和性を利用した吸収性縫合糸(特許文献6)の開発も行われている。また、再生セルロースにキチンを含有させ抗菌性を付与したもの(特許文献7)、およびキチンの強度特性や加工性を補うために合成繊維にキチンを塗布し、抗菌性を付与した長繊維(特許文献8)などがある。
【0006】
上記のように、キチンやキトサンの繊維やフィルムは、製品性能、特に力学強度や加工性、透明性などに劣り単独使用ではその用途範囲が限定されるため、合成プラスチックやセルロースとのブレンドや表面塗布などの方法により改良が試みられているが、市場の要求を満たす製品は得られていない。
【特許文献1】特公昭63‐54013号公報
【特許文献2】特開昭63‐175117号公報
【特許文献3】特開平1‐250413号公報
【特許文献4】特開昭62‐83875号公報
【特許文献5】特開昭63‐102623号公報
【特許文献6】特開昭59‐18116号公報
【特許文献7】特開平10‐37018号公報
【特許文献8】特開平5‐44165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、力学強度に優れた抗菌性成形物を製造し、衣料材、医療材、日常衛生材、寝装材などの素材として使用できる各種成形物を得ることができる抗菌性成形用組成物を提供しようとするものである。さらには、環境負荷の低い生分解性と生体親和性を持つ成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、プラスチックとしての強度特性に優れたα‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、抗菌性の高いキチンの脱アセチル化物とから構成される抗菌性成形用組成物を用いることによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成される抗菌性成形用組成物に関する。
【0010】
更に、本発明を好適に実施するためには、
上記α‐1,4‐グルカンの分子量が100kDa〜6,000kDaであり;
上記α‐1,4‐グルカンが酵素合成α‐1,4‐グルカンであり;
上記α‐1,4‐グルカン修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾である;ことが好ましい。
【0011】
本発明に用いられるキチンの脱アセチル化物は、脱アセチル化度が、20〜100%、分子量が、1〜3,000kDa、さらに、20〜3,000kDaであることが好ましい。
【0012】
本発明において、上記α‐1,4‐グルカンまたはその修飾物と、前記キチンの脱アセチル化物との成形物における重量比は、99.9:0.1〜20:80、より好ましくは99:1〜50:50である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗菌性成形用組成物は、加工性と強度特性に優れるα‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、抗菌性を持つキチンの脱アセチル化物から構成される抗菌性成形用組成物である。そして本発明の組成物から得られる成形物は、従来のプラスチック製品に匹敵する優れた製品物性を有する。また、生分解性を備え、環境負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、すでに、生分解性を備えたα‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物フィルムが、優れたプラスチック特性を備えることを見出している(国際公開第WO 02/06507 A1号パンフレット)。一方、キチンの脱アセチル化物は、抗菌性を有することはよく知られている。本発明者らは、このα‐1,4‐グルカンとキチンの脱アセチル化物から構成される成形物は、当該成形物当りのキチンの脱アセチル化物の含有量が低下するにもかかわらず、キチンの脱アセチル化物そのものに匹敵する優れた抗菌性を持つことを見出した。
【0015】
さらに、前記抗菌性成形物、例えば、得られたフィルムはα‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と同等またはそれ以上の強度特性を示し、破断伸びは、α‐1,4‐グルカンおよびキチンの脱アセチル化物、いずれの単独値をも上回るという事実を見出した。また、得られた繊維の引張強度と引張弾性率は、キチンの脱アセチル化物のブレンド比率が増加するほど上昇し、破断伸びはキチンの脱アセチル化物の単独値に近づくという優れた性能を示した。通常、2種類以上の高分子化合物を混合して成形物にすると、相分離が生じるために、強度や伸びなどの物性は単独での物性値を平均した値よりも低下することが一般的である。発明者らは、α‐1,4‐グルカンと高分子化合物との混合物について鋭意検討した結果、α‐1,4‐グルカンとキチンの脱アセチル化物との組み合わせによって、混合物の物性が特異的に向上することを見出したものである。
【0016】
用語「α‐1,4‐グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α‐1,4‐グルカンは、直鎖状の分子である。α‐1,4‐グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα‐1,4‐グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α‐1,4‐グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
【0017】
また、用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
【0018】
本発明のα‐1,4‐グルカンは、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で作製され得る。
【0019】
天然澱粉からα‐1,4‐グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα‐1,6‐グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラーゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロースを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロース/ブタノール複合体を沈殿させて分離する方法がある。
【0020】
また公知の酵素合成法を用いて、α‐1,4‐グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
【0021】
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α‐glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0022】
本発明では、酵素合成α‐1,4‐グルカンを用いるのが好ましく、グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα‐1,4‐グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α‐1,4‐グルカンは次のような特徴を有する:
(1)分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1以下);
(2)製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37,000)を有するものが得られる;
(3)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(4)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α‐1,4‐グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで生体に対して毒性がない;
(5)酸素、窒素、炭酸ガス、エチレン等の透過性が低い;
(6)皮膜中の水分が変動しても、強度等の物性が変化しにくい;
(7)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である;
(8)石油系プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等に匹敵するプラスチック特性を持つ。
【0023】
グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α‐1,4‐グルカンは、上記のような特徴を持つため、抗菌性成形物として使用した場合に、次のような利点が得られる:
(a)使用後に安全に分解、代謝される;
(b)分子量あるいは化学修飾の置換度の制御により生分解性や親水・疎水性比、溶解性のコントロールが可能である;
(c)優れた加工性と強度特性によりにより各種成形物の製造が容易である;
【0024】
上記のα‐1,4‐グルカンに修飾を施したものを用いることもできる。このような修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋が挙げられる。
【0025】
エステル化は、例えば、α‐1,4‐グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。
【0026】
エーテル化は、例えば、α‐1,4‐グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルの修飾物が得られる。
【0027】
架橋は、例えば、α‐1,4‐グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
【0028】
α‐1,4‐グルカンは、修飾を施していないものまたは修飾を施したものをそれぞれ単独で用いてもよく、またはそれらを併用して用いてもよい。また、2種以上のα‐1,4‐グルカン修飾物を併用してもよい。
【0029】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物は、重合度約620〜37,000(分子量100kDa〜6,000kDa)であるのが好ましく、さらには約1,240〜12,400(分子量200kDa〜2,000kDa)であるのが好ましい。重合度が620より低い場合は、α‐1,4‐グルカン層の強度および柔軟性が劣る恐れがある。また、重合度が37,000を超える場合は、α‐1,4‐グルカンの合成における収率が低くなる恐れがある。また粘度が高くなるために成形が困難となる恐れがある。但し、種々の重合度を有するα‐1,4‐グルカンを併用する場合は、上記重合度の範囲に限られるものではない。種々の重合度のα‐1,4‐グルカンを併用することによって、各性質のバランスを調整することができる。
【0030】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物は、分子量10〜100kDaの範囲において、高結晶性の硬い粒子を形成するので、歯磨き粉のような粉末用途に利用できる。また、分子量1,00kDa以上のα‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物とブレンドすることによりゲル化を促進し、加工成形時間が短縮できる。
【0031】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物の分子量分布Mw/Mnは、1.2以下であるのが好ましく、1.1以下であるのがより好ましい。分子量分布Mw/Mnが1.2を超える場合は、分子量分布が広くなり、成形物の物性が低下する恐れがあり、α‐1,4‐グルカンの優れた特徴が発揮されない恐れがある。
【0032】
本発明のキチンの脱アセチル化物は、通常の方法により製造することができる。すなわち、キチンを約40%濃度の苛性ソーダで、95℃以上の高温で2時間以上処理し得ることができる。
【0033】
本発明のキチンの脱アセチル化物の脱アセチル化度は、通常30%以上であることが好ましい。さらに高い溶解性や溶液の透明性、抗菌性には、60%以上が好ましいが、その程度は製品に要求される抗菌度に応じて選択される。
【0034】
本発明のキチンの脱アセチル化物の分子量は、数千から数万の比較的低分子量のものでも効果を発揮するが、高い抗菌性には、50〜3,000kDaの範囲が好ましい。
【0035】
上記α‐1,4‐グルカンまたはその修飾物と、キチンの脱アセチル化物とから構成される組成物から得られる成形物における抗菌効果は、キチンの脱アセチル化物2.5%のような低添加率でも、無添加に比較して顕著な抗菌効果を示し、キチンの脱アセチル化物の含有量の増加と共に、さらに上昇する。一方、強度特性は、フィルムの場合、引張強度や引張弾性率、破断伸びいずれも上昇する。しかし、キトサン価格と性能のバランスを考慮した商品設計からは、通常、α‐1,4‐グルカン、またはその修飾物とキチンの脱アセチル化物の重量比は好ましくは99.9:0.1〜20:80が、さらに好ましくは、99:1〜50:50の範囲である。
【0036】
本発明の抗菌性成形用組成物には、カプセルや繊維などの用途においては、ゲル化剤が含まれることがある。ゲル化剤の例としては、多糖類、例えば、カラギーナン、ジェランガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、トラガント、寒天、キサンタン、アラビアゴム、グアガム、タマリンドガム等、およびゼラチンが挙げられる。これらを単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明の抗菌性成形用組成物は、必要に応じてゲル化補助剤を含んでいてもよい。ゲル化補助剤の例としては、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン等を含む物質が挙げられる。これらのイオンを含む物質を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の抗菌性成形用組成物は、柔軟化剤を含んでいてもよい。柔軟化剤の例としては、グリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。このような柔軟化剤を含めることによって、得られるフィルムや繊維の物性を改良することができる。
【0039】
本発明の抗菌性成形用組成物は、界面活性剤などの滑沢剤を含んでいてもよい。滑沢剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ソルビタン、レシチン、カルナウバロウ、セラック等が挙げられる。このような滑沢剤を用いることによって、フィルムなどの成形性を向上させたり、べたつきを改善したりすることができる。
【0040】
本発明の抗菌性成形用組成物は、識別性や遮光性の付与を目的として、着色剤や顔料を含んでいてもよい。着色剤および顔料の例としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィン、酸化チタン等が挙げられる。
【0041】
本発明の抗菌性成形物は、α‐1,4‐グルカン、好ましくは、酵素合成α‐1,4‐グルカンを主構成成分とするため、通常の熱可塑生プラスチックと同様、各種成形物、たとえばフィルム、シート、繊維、不織布、カプセルなどのほか、糊や軟膏、コーティング材、粉末などの素材としても利用できる。
【0042】
本発明の抗菌性成形物は、α‐1,4‐グルカン、好ましくは、酵素合成α‐1,4‐グルカンを主構成成分とするため、酸素や窒素、エチレンなどのガス遮断性に優れている。従って、食品用包材、(例えば、新鮮肉類や魚介類、冷蔵食品、冷凍食品、乳製品、飲料、果物や野菜類、スナック食品、乾物、麺類、米飯類、味噌、漬物など)、トイレタリー用材料、薬品用包材(シームレスカプセル、ハードカプセルなど)や医用材料(火傷、創傷の被覆材料)等の用途に好適である。
【0043】
本発明の抗菌性成形物は、高い抗菌性から、衣料分野(肌着、靴下など)、衛生材料分野(生理用品、歯磨き粉など)、包装資材分野、産業資材分野、農業分野に適用できる。さらに生分解性や生体親和性から、医薬分野(例えば、カプセルや徐放性医薬など)や医療分野(カテーテル、縫合糸、綿、粉など)などに好適に利用することができる。
【0044】
本発明の抗菌性成形物を作製する方法としては、押出し成形、射出成形、キャスティング又は薄膜のゲルを乾燥させる、乾式及び湿式の紡糸など、通常使用される製造装置を用いて作製することができる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0046】
製造例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α‐1,4‐グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002‐345458号公報の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0047】
アセチル化α‐1,4‐グルカンの置換度は、「澱粉・関連糖質実験法」(中村ら、1986年、学会出版センター)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料1gを300mLの三角フラスコに精秤し、75%のエタノール50mLを加え分散した。これに0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を40mL加え、密栓して48時間室温で振盪した。過剰のアルカリを0.5Nの塩酸で滴定し、ブランクとの差から置換度(DS)を求めた。置換度(DS)は無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数である。
【0048】
キチンの分子量は、「高分子の分子量」(高分子学会編、1992年、共立出版)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料の0.2M酢酸‐0.1M酢酸ナトリウム水溶液(pH4.3)を調製し、5種の試料濃度溶液の粘度をウベローデ希釈型粘度計を用いて30℃でおこない、濃度0に外挿して得られた固有粘度、[η]を、以下のキトサンに対する桜田‐Mark‐Houwink式に導入して粘度平均分子量を算出した。
[η](cm/g)=1.81×10−3Mv0.93
【0049】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成されるフィルム、シート、繊維、不織布、カプセル、コーティング材などの抗菌性の測定は抗菌製品技術協議会が制定した「測定・試験法」(同協議会ホームページ参照)に基づいて行った。例えばフィルムの場合、以下の「フィルム密着法」が推奨される。抗菌加工試験片を50mm(厚さ10mm以内)の正方形に切断して滅菌シャーレに入れ、その試験面に接種用菌液0.4mL(1.0〜5.0×10の菌を含む)を接種し、その上に被覆フィルムを被せて蓋をした後、温度35±1℃、相対湿度90%以上の条件下で24時間保存する。その後、試験片と被覆フィルムに付着した菌をSCDLP培地(10mL)を用いて充分に洗い出し、この洗い出した液1mLの中の生菌数を、SA培地を使用した寒天平板培養法により測定する。同時に無加工試験片と対照区についても同じ操作をしてそれぞれの生菌数を数える。
【0050】
脱アセチル化度は、CFCOOD/DO(50/50 in vol%)を溶媒として、500MHzのH‐NMR(Bruker ARX X 500)のスペクトルによって求めた。
【0051】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成されるフィルムの力学特性は、JIS K7161「プラスチック‐引張特性の試験方法」に従って測定した。製造例のα‐1,4‐グルカン(平均分子量が1,000kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03)とキチンの脱アセチル化物(脱アセチル化度:44%、分子量:1,400kDa)の混合溶液を、基板上に流延し、60℃に保った乾燥機で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。混合比率を変えたフィルムについて23℃、相対湿度50%の雰囲気で、引張試験機を用いて、力学特性を測定した。フィルムを10mm×60mmの短冊状に切断し、標線間距離20mmの引張試験機のつかみ具に取り付けた。引張試験機を用いて一定の試験速度6mm/分を保つように試験片に荷重をかけ、試験片が破断した標線間距離と荷重を測定した。得られた標線間距離の変位と荷重から、試験片の寸法(幅と厚み)を用いて換算し、応力‐ひずみ曲線を求めた。試験片が示す応力‐ひずみ曲線の初期勾配から引張弾性率、最大応力から引張強度、破断時のひずみから破断伸びが求められる。
【0052】
繊維の力学的性質は引張試験により評価した。繊維長は20mmとし、引張速度50mm/分で室温で測定した。引張強度は繊維が破壊した際の応力として求めた。引張弾性率は引張変形初期の変形率(応力/ひずみ)として求めた。また、破断伸びは繊維が破断した際のひずみ(%)として求めた。
【0053】
製造例1:α‐1,4‐グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/mL)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/mL)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα‐1,4‐グルカンの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1,000kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα‐1,4‐グルカンを得た。
【0054】
製造例2:アセチル化α‐1,4‐グルカンの合成
ジメチルスルホキシド80gに、製造例1で得られたα‐1,4‐グルカンの濃度が5重量%となるように溶解し、炭酸ナトリウム2gを添加後、酢酸ビニル5gを加えて、40℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、濾過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α‐1,4‐グルカンの置換度は0.24であった。
【0055】
実施例1(抗菌性試験:フィルム密着法)
上記製造例1で得られたα‐1,4‐グルカン(平均分子量が1,000kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03)とキチンの脱アセチル化物(焼津水産化学工業(株)製、水溶性キチンD:脱アセチル化度44.1%、試料の酢酸‐酢酸ナトリウム溶液の固有粘度値から算出した粘度平均分子量、1,400kD)の混合溶液を、基板上に流延し、30℃に保った乾燥機で乾燥させて、厚さ約30μmのフィルムを得た。混合比率を変えたフィルムついてフィルム密着法による抗菌性試験を行った。
【0056】
表1に示すように、α‐1,4‐グルカンに水溶性キチンを2.5%ブレンドしたフィルムでは、生菌比率が3.3%であるのに対し、5%と10%ではそれぞれ0.8、0.3%と低くなり、抗菌性が認められた。
【0057】
【表1】

グルカン:α‐1,4‐グルカンフィルム、
DAキチン:脱アセチル化キチン
【0058】
実施例2(アセチル化α‐1,4‐グルカン)
製造例2で得られたアセチル化α‐1,4‐グルカン(置換度は0.24)を用いて実施例1と同様にして得られた結果は、表2に示すように十分な抗菌性を示した。
【0059】
【表2】

Acグルカン:アセチル化α‐1,4‐グルカンフィルム、
DAキチン:キチンの脱アセチル化物
【0060】
実施例3(フィルム強度試験)
実施例1で得られたフィルムの強度試験結果。
表3に示すように、α‐1,4‐グルカンフィルムはポリプロピレンに匹敵する大きい引張弾性率と引張強度を示すが、これらの物性値は少量のキチンの脱アセチル化物添加によりいずれも増加している。中でも破断伸び(試料が切れるまでの伸び)の増加が顕著である。これらのことから、キチンの脱アセチル化物添加にともない、より硬くて粘り強くなることが判る。また、キチンの脱アセチル化物が脆くて切れやすい(表4)ことを考えると、グルカンとキチンの脱アセチル化物との相溶性が大きいことを示唆している。
【0061】
【表3】

測定条件:相対湿度50%、温度23℃、引張速度6mm/分
【0062】
実施例4(繊維紡糸)
実施例1と同様のα‐1,4‐グルカンを蒸留水に溶解し、8重量%の溶液とした。キチンの脱アセチル化物は分子量の異なる2種類の試料(M87:分子量87kDa、脱アセチル化度:81%、とM250:分子量250kDa、脱アセチル化度:79%)を用いた。キチンの脱アセチル化物粉末は蒸留水中に分散させ、さらに酢酸を添加する事により溶解し、8重量%の溶液とした。これらの溶液を混合し、α−1,4−グルカン/キチンの脱アセチル化物=90/10、80/20、75/25(wt%/wt%)の混合溶液とした。
【0063】
調整した溶液を長さ約5mmに切断した注射針を取り付けた10mLのポリプロピレン製注射器に入れた。溶液を古江サイエンス製、JP‐G9型のマイクロフィーダーポンプに取り付け一定速度で押し出した。押出物はメタノールバス(1m)を通過した後ローラ上に巻き取った。得られた繊維の直径は約50μmであった。
【0064】
実施例5(繊維の力学的性質)
表4に示すように、ブレンド繊維の強度、弾性率はキチンの脱アセチル化物濃度とともに上昇している。分子量の異なる2種類のキチンの脱アセチル化物を用いた結果、強度、弾性率の上昇率は分子量の高いキチンの脱アセチル化物を用いた場合により顕著となった。また、破断伸びはα−1,4−グルカンのみの繊維では約2倍に伸びているが、キチンの脱アセチル化物をブレンドすることにより徐々に低下し、25重量%のキチンの脱アセチル化物をブレンドした繊維では半分程度の伸びとなった。しかし、キチンの脱アセチル化物だけでは、脆く紡糸ができないのに比較し、両者の混合繊維は、いずれも、優れた性能を示した。
【0065】
【表4】

【0066】
実施例6(ガス遮断性)
実施例1と同様にして得られたα‐1,4‐グルカンとキチンの脱アセチル化物から構成されるフィルムのガス透過性は表5に示すように、水溶性キチンを混合することにより、ガス透過性はやや上昇しているが、包装材などの用途においては十分な遮断性を示した。
【0067】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α‐1,4‐グルカンおよび/又はその修飾物と、キチンの脱アセチル化物から構成される抗菌性成形用組成物。
【請求項2】
α‐1,4‐グルカンの分子量が100kDa〜6,000kDaである、請求項1に記載の抗菌性成形用組成物。
【請求項3】
α‐1,4‐グルカンが酵素合成α‐1,4‐グルカンである、請求項1または2に記載の抗菌性成形用組成物。
【請求項4】
前記α‐1,4‐グルカン修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾である、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗菌性成形用組成物。
【請求項5】
フィルム、シート、繊維、不織布、カプセル、コーティング材またはその他の成形物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物から得られる成形物。
【請求項6】
生分解性および生体適合性を備えた請求項5記載の抗菌性成形物。

【公開番号】特開2006−273912(P2006−273912A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91357(P2005−91357)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本農芸化学会2005年度(平成17年度)大会講演要旨集P326
【出願人】(504173600)有限会社 IPE (12)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】