説明

抗菌性水処理剤

【課題】本発明は、銀ゼオライトの含有量が30重量%未満以上の抗菌性水処理剤を提供
すること。
【解決手段】本発明の抗菌性水処理剤は、銀ゼオライトがA型結晶構造であり、30重量
%未満以上〜60重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理
剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの
含有する結晶水の蒸発により形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンに高含有量の銀ゼオライトを含有させた抗菌性水処理剤に関し、詳細には、その抗菌性水処理剤の表面のみならず内部に含有させた銀ゼオライトから銀イオンを溶出させて、ウォーターサーバー、貯水タンク、空調機、洗濯槽、流しの排水機構、排水用配管設備、水系洗浄機等の各種の用途の水を汚染する細菌を抗菌する抗菌性水処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上記各種の用途の水を汚染する細菌の増殖を抑制するのに、銀ゼオライトは、高い安全
性を有すること、広範な抗菌スペクトルを有すること、優れた耐久性を有すること、耐性
菌の発生のないことから、他の抗菌剤と比べて機能性に優れていることが理由で最もよく利用されている。しかし、銀ゼオライトが粉末であるので水に流れて取扱いが難しいという問題があり、その解決策として樹脂に銀ゼオライトを含有させて、抗菌性水処理剤としてプラスチック粒状体にしたものが市販されている。そのプラスチック粒状体に関する特許文献として、特許文献1の抗菌性組成物が知られている。この抗菌性組成物は、銀ゼオライトとベントナイトを3〜4時間混和してペレットに成形し、焼成を510〜520℃で4.5時間行う工程を経て抗菌性組成物を得ている(特許文献1参照)。しかし、この抗菌性組成物は、その表面に存在する銀ゼオライトが抗菌作用を発揮するが、その内部に含有された銀ゼオライトは抗菌作用を発揮できないために、その抗菌性組成物の抗菌作用は1ヶ月程度の短期間しか発揮されない。銀ゼオライトの含有量を増やしても内部の銀ゼオライトは抗菌作用に関係しないので、その抗菌作用は2ヶ月程度であり、その内部の銀ゼオライトが抗菌作用を発揮できないことが問題として指摘されている。
【0003】
その問題点を解決するために、特許文献2の抗菌樹脂成型物が提案されている。この抗
菌樹脂成型物は、ポリオレフィン系樹脂に銀系無機抗菌剤(銀ゼオライト)、アルカリ金
属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩を含有させたものであり、この抗菌樹脂成型物をウ
ォーターサーバーの貯水槽に浸漬して、銀イオンをウォーターサーバーの貯留水中に徐放
することで、水棲細菌の増殖を3ヶ月にわたって抑制できたことが記載されている(特許
文献2、特に表4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−100504号公報
【特許文献2】特開2008−174576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の抗菌樹脂成型物は、銀ゼオライトとハロゲン塩の存在する位置が異なるた
めに、ハロゲン塩が溶解した後の微細な空孔は、その空孔に銀ゼオライトが存在しなけれ
ば、銀イオンを溶出する通路とならないので、多くの銀ゼオライトは水に接触できずに有
効な抗菌作用が働かないので、上記抗菌樹脂成型物の抗菌作用が働く期間は4ヶ月程度と
推測される。このように引用文献2の抗菌樹脂成型物は、樹脂中に含有する多くの銀ゼオ
ライトが抗菌作用を発揮できないために、単価の高い銀ゼオライトが有効に利用されずにいる。
【0006】
それ故に、上記従来技術の問題点に鑑み、ポリエチレンと、高い安全性等を有する抗菌剤である銀ゼオライトを用いた抗菌性水処理剤であって、上記ポリエチレンの表面のみならず内部に含有される銀ゼオライトから溶出する銀イオンを有効に利用できる抗菌性水処理剤を提供するべく、本発明者は、先に単軸押出機を使用して、ポリエチレンに銀ゼオライトが10〜30重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの含有する結晶水で形成されてなる抗菌性水処理剤を見出して、発明の名称を「抗菌性水処理剤」(特願2010−273186号)として出願した。
【0007】
ところで、ポリエチレンのペレットに大量のフィラー、例えば銀ゼオライトを加えて混
練したとすると、上記ペレットが半溶融状態で大量の銀ゼオライトが存在するために流動
性が急激に低下することとなり、前記押出機のスクリューに対する摩擦抵抗力がスクリューの剪断力以上に大きくなり、スクリューやねじ山等の破損を起こして、混練して圧縮するスクリューの制御が停止等を起こすことは、当業者によく知られたことである。そして、前記押出機は高額な機械であるために、押出機の破損及び停止等による、部品交換費、修繕費及び点検費の高額な損失を恐れて、製造業者は銀ゼオライトを最大でも30重量%程度までしか配合しないのが実情である。
このように、プラスチック成形技術の分野では、熱可塑性樹脂の物性等の向上を目的として、押出機で熱可塑性樹脂に大量のフィラーを配合して混練すると流動性等が急激に低下するために、熱可塑性樹脂組成物を製造することは不可能と考えられ、そのことは技術常識とされている。そのために、30重量%未満以上の銀ゼオライトを含有した抗菌性水処理剤が作製できるか不明である。
【0008】
先願の「抗菌性水処理剤」は、上記技術常識を考慮して完成したものであるが、銀ゼオライトが最大で30重量%までのものでは、スペースを取り且つ有効な銀イオン濃度を得ることができないために、ウォーターサーバー、空調機、洗濯槽、流しの排水機構等の各種の用途に応じてスペースを取らず且つ高い銀イオン濃度を得ることができる抗菌性水処理剤が希求されている。そして、先願の「抗菌性水処理剤」は、銀イオン濃度の測定方法として、硝酸を用いて銀イオンを生成してその濃度を計測している。しかし、それを水に浸漬して溶出する銀イオンの濃度は計測されていないために、上記抗菌性水処理剤が従来の抗菌性組成物(特許文献1参照)と比べてどの程度の銀イオン濃度を溶出できるかどうか不明である。
【0009】
それ故に、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、ポリエチレンに高い安全性等を有する銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤を前提とするものであって、ポリエチレンに30重量%未満以上の銀ゼオライトを含有する、銀イオン濃度が従来の抗菌性組成物と比べて高い抗菌性水処理剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般にプラスチック製造に用いられる二軸押出機を使用し、その押出機に銀ゼオライトを投入するサイドフィーダーを設置することにより、ポリエチレンに銀ゼオライトを最大60重量%まで含有させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りのものである。
請求項1に係る抗菌性水処理剤は、ポリエチレンに銀ゼオライトを含有させた抗菌性水処理剤であって、前記銀ゼオライトがA型結晶構造であり、30重量%未満以上〜60重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの含有する結晶水の蒸発により形成されてなることを特徴とする。
請求項2に係る抗菌性水処理剤は、前記ポリエチレンのメルティングフローレートが3
〜30g/10分の範囲にあり、その融点が110〜140℃の範囲にあることを特徴と
する。
請求項3に係る抗菌性水処理剤は、前記銀ゼオライトの担持する銀担持量が0.5〜5
.0重量%の範囲にあることを特徴とする。
請求項4に係る抗菌性水処理剤は、前記ポリエチレンが低密度ポリエチレン又は高密度
ポリエチレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌性水処理剤は、ポリエチレンに含有する銀ゼオライト量を30重量%未満以上〜60重量%の範囲にすることで、該銀ゼオライトの結晶水の含有量が高まり、その表面に向かって形成される連通孔がより多く形成される多孔体となり、処理剤の表面のみならず内部からも銀イオンが溶出され、銀ゼオライトの含有量、銀担持量の大きい値のものを選択することで、高い銀イオン濃度を生成することができ、その反対に銀ゼオライトの含有量、銀担持量の小さい値のものを選択することで、低い銀イオン濃度を生成することができるので、用途に応じて上記処理剤の銀ゼオライトの含有量、銀担持量を任意に選択することで、必要とする銀イオン濃度を得ることができる。それ故に、上記処理剤は、ウォーターサーバー、貯水タンク、空調機、洗濯槽、流しの排水機構、排水用配管設備、水系洗浄機等の各種用途に応じて、必要とする銀イオンの濃度を任意に決定することができる。
また、本発明の抗菌性水処理剤は、従来のプラスチック成形体の製造方法と同様の方法で製造することができるので、安価に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】銀ゼオライト50重量%の抗菌性水処理剤の横断面の35倍電子顕微鏡写真である。
【図2】抗菌性水処理剤(試料1〜5)から溶出した銀イオン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図3】抗菌性水処理剤(試料6〜13)から溶出した銀イオン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、本発明の抗菌性水処理剤の製造方法について説明し、その後、本発明の抗菌性
水処理剤について説明する。
本発明の抗菌性水処理剤の製造方法は、以下の通りである。
【0014】
(製造装置)
本発明の抗菌性水処理剤の製造に用いる装置は、一般にプラスチック製造に用いられる二軸押出機である。この二軸押出機には主ホッパーとサイドフィーダーが設置されており、主ホッパーからポリエチレンを、サイドフィーダーから銀ゼオライトをそれぞれ二軸押出機へ投入する。
【0015】
(A型銀ゼオライト)
ゼオライトは、三次元骨格構造を有するアルミノシリケートであり、一般式としてxM2/nO・Al2O3・ySiO2・zH2Oで表示される。ここで、Mはイオン交換可能な金属を表し、nはそのイオンの価数を表し、通常は1又は2価の金属のイオンである。xは金属酸化物のモル数、yはシリカのモル数、zは結晶水のモル数を表している。最も利用されているゼオライトはA型ゼオライトである。そして、MとしてAgを含むゼオライトが銀ゼオライトである。
本発明で用いる上記銀ゼオライトは、粒径が平均粒径で0.1〜20μmであり、製造の際に110℃で乾燥されているので、押出機に投入される前に、その結晶構造中に16.8重量%の結晶水を含有している。本発明においては、用いるA型銀ゼオライトが結晶水を含有していることが重要である。押出機での加熱により蒸発したA型銀ゼオライトの結晶水が、ポリエチレンの内部から表面に向かって連通孔を形成する役割を果たすからである。なお、110℃で乾燥したA型銀ゼオライトとしては、ゼオミックAW10N((銀担持量0.5重量%)(株)シナネンゼオミックス製)、ゼオミックAJ10N((銀担持量2.2重量%)(株)シナネンゼオミックス製)、ゼオミックAK10N((銀担持量5.0重量%)(株)シナネンゼオミックス製)等が市販されている。
このA型銀ゼオライトは、Si-O-Al-O-Siの構造が三次元的に結合した結晶構造中のAl部分へ静電気的にAgが結合した構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中から銀が遊離し銀イオンとして溶出して細菌を殺菌する。
【0016】
(ポリエチレン)
A型銀ゼオライトの結晶水の蒸発によりポリエチレン(PE)に連通孔を形成するには、メルティングフローレート(MFR)が3〜30g/10分の範囲にあって、融点が110〜140℃の範囲にあることが好ましい。A型銀ゼオライトの結晶水を蒸発させてペレットの内部から表面に連通孔を形成するのに、MFRが3g/10分未満では粘性が大きく連通孔が形成し難い。MFRが30g/10分を超えるものでは流動性が大きく蒸気による孔が形成できても押出機の撹拌により孔が消滅する。本発明で用いるポリエチレンは、MFRが3〜30g/10分の範囲にあって、融点が110〜140℃の範囲にあることが重要である。
なお、ポリプロピレンを用いても抗菌性水処理剤を製造できるが、A型銀ゼオライトの結晶水を蒸発させて連通孔を形成させることは難しい。
【0017】
PEは、上記MFRの範囲にあれば低密度ポリエチレン(LDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることができる。なお、LDPEとしては、ノバテックLD LJ8041(日本ポリエチレン(株)製、MFR:23g/10分、 融点:123℃)、ペトロセン340(東ソー(株)製、MFR:7g/10分、融点:110℃)、サンファインPAKFタイプ(旭化成ケミカルズ(株)製、MFR:10g/10分、融点:125℃)、サンテックL2340E(旭化成ケミカルズ(株)製、MFR:3.8g/10分、融点:120℃)等がある。また、HDPEとしては、ニポロンハード1000(東ソー(株)製、MFR:20g/10分、融点:134℃)等がある。
【0018】
(抗菌性水処理剤)
本発明の抗菌性水処理剤は、銀ゼオライトがA型結晶構造であり、PEに30重量%未満以上〜60重量%の範囲で含有されており、銀ゼオライトの骨格に16.8重量%の結晶水が含まれており、その結晶水の蒸発により上記処理剤の銀ゼオライトから抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成された多孔体である。そして、上記抗菌性水処理剤3.5gを水道水1.0Lに24時間浸漬した銀イオン濃度は、28ppb以上であり、銀イオンがその表面及び内部から溶出したものである。
上述したように、A型銀ゼオライトの骨格に結晶水である16.8重量%の水が吸蔵されており、混練後の押出工程でその結晶水がPE中の上記A型銀ゼオライトの骨格から蒸気となって気泡を発生し、ペレット状の抗菌性水処理剤の表面に向かって連通孔を形成する。その連通孔がペレット状の抗菌性水処理剤に形成されていることを確かめるために、上記銀ゼオライト50重量%を含有する抗菌性水処理剤(ペレット)を側面から垂直に切断して、その切断面を電子顕微鏡で撮影した。
図1は、A型銀ゼオライト50重量%含有の抗菌性水処理剤の切断面の35倍電子顕微鏡写真である。
図1の写真を見ると、抗菌性水処理剤の切断面に多数の孔が形成されていることが分かる。このことは、結晶水がPE中のA型銀ゼオライトの骨格から蒸気となって気泡を発生し、抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成されている多孔体であることを示している。
【0019】
それ故に、抗菌性水処理剤は、それを水に浸漬すると、水がその表面から連通孔を通って、水中の金属イオン(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)がA型銀ゼオラトに触れてイオン交換が行われ、そのA型銀ゼオライトから銀イオンが解離して連通孔を通って抗菌性水処理剤の表面から銀イオンを流出することができる構造、即ち、A型銀ゼオライトの骨格から抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成されている多孔体であることが明らかである。
そこで、A型銀ゼオライトを30重量%未満以上〜60重量%の範囲で含有する抗菌性水処理剤を調製し、その処理剤から溶出する銀イオン濃度を以下に示す高周波誘導結合プラズマ発光分析装置で測定した。
押出機は二軸押出機として、TEX44α((株)日本製鋼所製、2ホッパー及びサイドフィーダー設置型)を用い、主ホッパーよりポリエチレンを投入し、サイドフィーダーよりA型銀ゼオライトを投入した。なお、押出機の運転条件は次の通りである。
樹脂押出量:15kg/時
シリンダー温度:160〜200℃
シリンダー回転数:106rpm
ダイス温度:170〜210℃
押し出したペレットを水冷した後、カッターにて裁断して、直径3.5mm×長さ4.
0mm程度のペレットを得た。
【0020】
(銀イオン濃度の測定方法)
室温下、2.0L容ビーカーに水道水1.0Lを入れ、その後、重石の付いたポリエチレン製ネットの袋に充填した各試料3.5gを水道水中に投入した。そして、3〜5時間毎に間歇的に撹拌しながら静置した。なお、ビーカーはポリエチレンフィルムで蓋をして空気中に浮遊するゴミ等の混入を防止した。
銀イオン濃度の測定は、例えば、ウォーターサーバーを想定して、1日ごと容器内の試験水を捨て新しい水道水1.0Lを入れ替えるが、表2示すように、1日、3日、5日…と所定の経過時間後に、試験水を捨てる直前に試料水100mlを採取しICP分析に供した。
採取した試料水の銀イオン濃度の分析は、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP S−8100、(株)島津製作所製)を使用した。
【実施例】
【0021】
そこで、以下に示す表1のポリエチレン及びA型銀ゼオライトの含有量で3種類の実施例(試料1〜3)、1種類の実験例(試料4)及び1種類の比較例(試料5)の試料を作成し、各試料から溶出される銀イオン濃度を測定した。
【表1】

(実施例1(試料1))
実施例1として、LDPEであるペトロセン340(東ソー(株)製)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミックス製、銀担持量2.2重量%)を用いた。
上記LDPEは、そのMFRが7g/10分で、その融点が110℃であり、その含有量が40重量%である。したがって、A型銀ゼオライトの含有量は60重量%となる。二軸押出機((株)日本製鋼所製、主ホッパー及びサイドフィーダー設置型)を用い、上記LDPEのペレット10.0kgを主ホッパーから、銀ゼオライト15.0kgをサイドフィーダーから、それぞれ二軸押出機に投入した。その後、約140℃に加熱された二軸押出機の加熱・冷却装置で上記LDPEのペレットと銀ゼオライトが溶融されながら混練されて、最後に押し出されカットされることにより抗菌性水処理剤が形成される。このようにして本発明の抗菌性水処理剤を製造した。
上記16.8重量%の結晶水を含有するA型銀ゼオライトが約140℃の温度で加熱されるため、混練され押し出されるLDPE中のA型銀ゼオライトから蒸気が発生し連通孔が形成され、多孔体の抗菌性水処理剤が得られた。
【0022】
(実施例2及び3(試料2及び3))
実施例2及び3は、ポリエチレン及びA型銀ゼオライトを実施例1と同じものを各々含有量を変えて用いた。抗菌性水処理剤の製造方法も実施例1と同じ方法で行った。
(実験例1(試料4))
実験例1は、銀ゼオライトの配合量が30重量%であり、その銀イオン濃度を計測するために実験例1として示した。ポリエチレン及びA型銀ゼオライトを実施例1と同じものを用いた。抗菌性水処理剤の製造方法も実施例1と同じ方法で行った。
(比較例1(試料5))
比較例1は、ゼオミックAJ10Nを大気中で250℃・3時間処理した銀担持量:2.5重量%、結晶水量:3.0重量%の銀ゼオライトを用いており、銀ゼオライトの配合量を30重量%とし、実施例1と同様にして抗菌性水処理剤を製造した。この比較例1は、250℃以上の温度環境で結晶水を放出させている従来の抗菌性水処理剤である。
【0023】
試験結果の銀イオン濃度(ppb)を表2に示す。また、抗菌性水処理剤から溶出した銀イオン濃度の1〜60日の経時的変化を図2に示す。
図2の◇印は試料1を、□印は試料2を、Δ印は試料3を、x印は試料4を、*印は試料5を示し、グラフは上から試料1、試料2、試料3、試料4及び試料5の結果を示している。
なお、表2に示す実施例、実験例及び比較例の銀イオン濃度の値は、試料数をN=3としてその算術平均で求めた。また、以下の表4に示す値は、表2に示す試料数と同様に試料数をN=3としてその算術平均で求めたものである。
【表2】

【0024】
図2によると、本発明の抗菌性水処理剤の実施例1〜3(試料1〜3)及び実験例1(試料4)は、初日に大量の銀イオンが溶出(43〜100ppb)しているが、比較例1は銀イオン濃度が24ppbであることが分かった。その後、徐々に銀イオンの溶出量は減少し、そして、20日を過ぎた頃からそれはほぼ一定となる傾向を示している。60日では、銀イオン濃度は、銀ゼオライトの含有量が30重量%の比較例1で9ppb、実験例1で16ppbであり、それが35重量%の実施例3で20ppbであり、それが50重量%の実施例2で41ppbであり、それが60重量%の実施例1で49ppbであることが分かった。そして、上記銀イオン濃度に関して、坂上等の「銀化合物の抗菌効果検証に関する基礎研究」(防菌防黴、Vol.37、No.7、499頁参照)によれば、黄色ブドウ球菌の場合には、Nutrient Brothの添加条件下では、銀イオン濃度が10ppbで2Log以上の菌数低下が確認されたことが報告されている。即ち細菌用培地に培養された黄色ブドウ球菌は、銀イオン濃度が10ppbであれば抗菌効果があることを意味しているので、実施例1〜3及び実験例1は抗菌効果があることはいうまでもない。
ところで、実施例、実験例及び比較例の各試料は同じ3.5gであるから、比較例1の銀イオン濃度が10ppb未満であるのに対して、実施例3及び実験例1はそれが約1.5〜2倍であり、実施例1及び2はそれが約4.5〜5.5倍である。このことは、抗菌性水処理剤を用いる用途に応じて、それを設置する場所が小さい場合には、実施例1の抗菌性水処理剤を用いれば、比較例1の1/5のスペースと重量で同じ抗菌効果を奏することが判る。
【0025】
上記実施例及び実験例では、実施例1〜3(試料1〜3)及び実験例1(試料4)として銀担持量2.2重量%のゼオミックAJ10Nを用いたが、A型銀ゼオライトとしては、銀担持量0.5重量%のゼオミックAW10N、銀担持量2.2重量%のゼオミックAJ10N、銀担持量5.0重量%のゼオミックAK10N等が市販されていることは記述のとおりである。
そこで、次に、銀担持量の異なる上記3種類のA型銀ゼオライトを用いて、表3に示す配合量及び含有量の実施例4〜6(試料6〜8)及び実験例2〜5(試料9〜12)から溶出される銀イオン濃度と、比較例2(試料13)から溶出される銀イオン濃度を測定して、その結果を表4に示した。この比較例2は無水の銀ゼオライトを用いた抗菌性水処理剤である。
また、抗菌性水処理剤から溶出した銀イオン濃度の1〜60日の経時的変化を図3に示す。
図3の◇印は試料6を、□印は試料7を、Δ印は試料8を、x印は試料9を、*印は試料10を、O印は試料11を、+印は試料12を、-印は試料13を示し、各試料のグラフは図面に示している。
【0026】
【表3】

【表4】

【0027】
図3によると、本発明の抗菌性水処理剤の実施例4〜6(試料6〜8)は、銀ゼオライト含有量が30重量%未満以上〜60重量%であって、初日に大量の銀イオンが溶出(36〜85ppb)しており、また、実験例2〜5(試料9〜12)の抗菌性水処理剤は、初日に大量の銀イオンが溶出(28〜85ppb)しているが、比較例2(試料13)は銀イオン濃度が24ppbであることが分かった。その後、徐々に銀イオンの溶出量は減少し、そして、20日を過ぎた頃からそれはほぼ一定となる傾向を示している。60日では、銀イオン濃度は、比較例2で9ppbであり、それが実施例4〜6及び実験例2〜5で13〜41ppbであることが分かった。上述したように、銀イオン濃度が10ppb以上であれば抗菌効果があるので、実施例4〜6及び実験例2〜5は抗菌効果があることはいうまでもない。
【0028】
図3が示す比較例と実施例の初日の銀イオン濃度を比較して、比較例の銀イオン濃度24ppbは、抗菌性水処理剤の表面からの銀イオンの溶出であるのに対して、実施例及び実験例の銀イオン濃度28〜85ppbは、その表面及び内部からの銀イオンの溶出であることを示している。
ところで、表3に示す試料6は、銀担持量0.5重量%のA型銀ゼオライト含有量60重量%で、その60日経過後の銀イオン濃度が16ppbであり、同量の銀担持量のA型銀ゼオライト含有量30重量%の試料10は、その銀イオン濃度が14ppbであることからみて、抗菌効果のある10ppb以上の銀イオン濃度を得るためには、同量の銀担持量のA型銀ゼオライトを10重量%以上配合する必要がある。一方、A型銀ゼオライトをPEに60重量%を超えて配合してペレットを作製するとすると、MFRが低くなり押出機が損傷する恐れが生じるので、本発明で用いるA型銀ゼオライトは、30〜60重量%の範囲にあることが重要である。
【0029】
(ガラスビーズ)
本発明の多孔体である抗菌性水処理剤は、ウォーターサーバーの貯水槽、水タンク等の水槽にそれを浸漬しようとすると、多孔体であるために水に浮上して浮上した部分から銀イオンが水中に溶出し難くなるので、水に沈降させて銀イオンを溶出させることが好ましい。そのためには、錘の付いたネットに包んで沈ませるか、抗菌性水処理剤自体にガラスビーズを含有させて比重を重くして沈ませる必要がある。ガラスビーズは、水に溶出分のないEガラスを用いて、PEに10〜30重量%を含有させることで、抗菌性水処理剤を水に沈ませることができる。平均粒径10〜20μmの中実の球状体で比重2.6のEガラスビーズとしてEA−150(日東紡績(株)製)がある。例えば、PEにガラスビーズを20重量%配合して見かけの比重を1.24とすることができる。ガラスビーズの配合により水に沈む抗菌性水処理剤の比重を調整することができる。30重量%を超えての配合は比重調節としてオーバースペックとなり、10重量%未満では比重調節が不充分となる。
【0030】
次の実施例として、PEに銀担持量2.2重量%のA型銀ゼオライト及びガラスビーズを含有させた抗菌性水処理剤の実施例7〜9(試料20〜22)を以下に説明する。
(実施例7(試料20))
実施例7として、LDPEであるノバテックLD LJ18041(日本ポリエチレン(株)製)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミックス製、銀担持量2.2%)及びEガラスビーズEA−150(日東紡績(株)製)を用いた。
上記LDPEは、そのMFRが23g/10分で、その融点が123℃であり、その配合量は30重量%である。A型銀ゼオライトの配合量は60重量%、Eガラスビーズの配合量は10重量%である。
二軸押出機((株)日本製鋼所製、主ホッパー及びサイドフィーダー設置型)を用い、上記LDPEのペレット7.5kgを主ホッパーから、銀ゼオライト15.0kg及びEガラスビーズ2.5kgをサイドフィーダーから、それぞれ二軸押出機に投入した。その後、約140℃に加熱された二軸押出機の加熱・冷却装置で上記LDPEのペレットと銀ゼオライト及びEガラスビーズが溶融されながら混練されて、最後に押し出されカットされることによりガラスビーズ含有の抗菌性水処理剤が形成される。このようにして本発明の抗菌性水処理剤を製造した。
上記16.8重量%の結晶水を含有するA型銀ゼオライトが約140℃の温度で加熱されるため、混練され押し出されるLDPE中のA型銀ゼオライトから蒸気を発生して連通孔が形成され、多孔体の抗菌性水処理剤が得られた。
【0031】
(実施例8(試料21))
実施例8として、LDPEであるノバテックLD LJ18041(日本ポリエチレン(株)製)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミックス製、銀担持量2.2%)及びEガラスビーズEA−150(日東紡績(株)製)を用いた。
上記LDPEは、実施例7と同様のMFR、融点及び配合量である。一方、A型銀ゼオライトの配合量は50重量%、Eガラスビーズの配合量は20重量%である。また、抗菌性水処理剤の製造方法は実施例4と同様であるから、説明を省略する。
【0032】
(実施例9(試料22))
実施例9として、LDPEであるノバテックLD LJ18041(日本ポリエチレン(株)製)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミックス製、銀担持量2.2%)及びEガラスビーズEA−150(日東紡績(株)製)を用いた。
上記LDPEは、試料7及び8と同様のMFR、融点であり配合量は35重量%である。一方、A型銀ゼオライトの配合量は35重量%、Eガラスビーズの配合量は30重量%である。また、抗菌性水処理剤の製造方法は実施例7及び8と同様であるから、説明を省略する。
【0033】
実施例7〜9の抗菌性水処理剤について、経日変化による銀イオン濃度の値を測定してその結果を表5に示す。なお、銀イオン濃度の測定方法は試料1〜13と同様に行った。
【表5】

【0034】
ガラスビーズの配合量が増加するにつれて、溶出する銀イオン濃度が増加する。この理由は、押出機ダイヘッドより吐出する溶融した樹脂組成物が冷却槽の水中で急冷される際に、ガラスビーズと樹脂の収縮率が異なるために相互の表面に隙間が生じ、相対的に樹脂の表面積が増大し、それに応じて樹脂相互の表面に露出する銀ゼオライト粒子も増加すると推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンに銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤であって、
前記銀ゼオライトがA型結晶構造であり、30重量%未満以上〜60重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの含有する結晶水の蒸発により形成されてなることを特徴とする抗菌性水処理剤。
【請求項2】
前記ポリエチレンのメルティングフローレートが3〜30g/10分の範囲にあり、その融点が110〜140℃の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性水処理剤。
【請求項3】
前記銀ゼオライトの担時する銀担持量が0.5〜5.0重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌性水処理剤。
【請求項4】
前記ポリエチレンが低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌性水処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79223(P2013−79223A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266452(P2011−266452)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】